判例検索β > 平成15年(ワ)第10018号
損害賠償請求事件
事件番号平成15(ワ)10018
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成20年4月15日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第20民事部
判示事項の要旨証券取引所の副理事長であった者が,同取引所の開設する証券取引市場における取引高をかさ上げするために,取引需要に基づかない取引を自ら指示して設立させた会社に実行させ,また,同取引に係る注文を受発注する証券会社の設立を主導し,そのために必要な資金を自らが代表取締役に就任している同取引所の100%子会社から出捐させたことは,同取引所に対する善管注意義務違反となるとされた事例
裁判日:西暦2008-04-15
情報公開日2017-10-17 20:43:48
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主1文
被告Y1は,原告に対し,2億9735万1491円及びこれに対する平成15年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
被告Y2は,原告に対し,1億2859万3137円及びこれに対する平成15年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
原告のその余の請求を棄却する。

4
訴訟費用は,原告に生じた費用の5分の2,被告Y1に生じた費用の5分の2及び被告Y2に生じた費用の4分の3を原告の負担とし,原告に生じた費用の5分の2及び被告Y1に生じた費用の5分の3を同Yの負担とし,原告に生じた費用の5分の1及び被告Y2に生じた費用の4分の1を同Yの負担とする。
5
この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1
1
請求
被告らは,原告に対し,連帯して,5億2024万5306円及びこれに対する被告Y1については平成15年10月17日から,被告Y2については同月16日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
訴訟費用は被告らの負担とする。

3
仮執行宣言

第2

事案の概要
本件は,原告が,Ⅰ被告Y1については,被告Y1が,i原告の専務理事又は副理事長であった平成9年7月から平成12年3月までの間,その地位に基づき又はその地位を利用して,原告の職員等に指示をして,A社に原告の資金を提供し,A社をして原告の開設する有価証券市場(以下X市場という。
)において証券取引法が禁止する仮装取引等を行わせ,その取引によってA社に生じた経済的損失を原告に負担させたこと,ii平成10年法律第107号による改正(以下平成10年改正という。
)前の証券取引法86条2項,平成12年法律第96号による改正(以下平成12年改正という。)
前の証券取引法106条の2(以下,これらの規定を挙げるときは,上記各改正前のものをいう。
)及び原告の定款2条に規定する証券取引所の業務範囲や
運営目的に反して,仮装取引等の違法取引を行わせるために原告の関連会社としてB証券会社の設立を主導して行ったことは,被告Y1が専務理事又は副理事長として原告に対して負う善管注意義務に違反するなどと主張し,Ⅱ被告Y2については,原告の理事長であった被告Y2が,被告Y1の上記Ⅰⅰの行為について監視監督を怠り,また,上記ⅠiiのB証券会社の設立を承認したことは,被告Y2が理事長として原告に対して負う善管注意義務に違反するなどと主張し,被告Y1及び被告Y2に対し,善管注意義務違反を理由とする損害賠償請求として,①上記損失負担による損害,②B証券会社の設立に関して生じた損害並びに③上記Ⅰi及びⅠiiの各行為によってX市場の公正さが著しく害され,投資家及び国民の原告に対する信頼の失墜を招き,原告の名誉及び社会的信用が著しく毀損されたことによる損害の合計5億2024万5306円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
1
前提事実(当事者間に争いのない事実又は証拠により容易に認定される事実。認定に用いた証拠等は,項目の表題部の後の[]内に記載する。

(1)

当事者
原告は,内閣総理大臣の免許を受けて,取引所有価証券市場を開設している資本金47億2326万円の株式会社である。なお,原告は,昭和24年4月1日に設立されてから平成13年4月1日に平成12年改正後の証券取引法101条に基づいて株式会社に組織変更するまでの間は,証券会社を会員として構成された会員組織の特殊法人であった。


被告Y1は,平成5年6月に原告の専務理事に就任し,平成11年6月に原告の副理事長に就任し,平成12年6月に同職を退任した者である。ウ
被告Y2は,平成6年6月に原告の理事長に就任し,平成12年6月に同職を退任した者である。

(2)

本件に関係する会社の概要
C社[甲6,59,弁論の全趣旨]
C社は,平成8年4月3日,原告におけるコンピュータシステムに係る経費の削減と業務の効率化を図ることに伴い,原告におけるコンピュータ関連業務を行うことを目的として,原告の全額出資により,原告の100%子会社として設立された株式会社である。
C社の代表取締役には,被告Y1が就任し(就任期間は設立時から平成12年6月29日まで)
,取締役には,原告の理事であったa及びbが就
任し(就任期間はいずれも設立時から平成12年6月29日まで),総務
部長には,当初は原告の元職員であるcが就任し(就任期間は設立時から平成11年3月まで)
,次いで原告の元職員であるdが就任した(就任期
間は同年4月から平成13年2月まで)
。C社の本店事務所は,原告の主
たる事務所の所在地に置かれた。
C社の登記簿上の目的は,①コンピュータ等各種動産の賃貸,②コンピュータシステムの開発受託,③コンピュータシステムによる計算事務並びにパーソナルコンピュータ,ワープロによる文書及び図表の作成事務の受託,④コンピュータシステムによる各種情報の提供,⑤電気通信事業法に基づく電気通信事業,⑥前各号に付帯する一切の業務である。

D社[甲1,58,弁論の全趣旨]
D社は,平成9年6月5日,コンピュータ等各種動産の賃貸,電気通信事業法に基づく電気通信事業等を行うことを目的とし,Eという名称の法人格なき社団が950万円,被告Y1が50万円を出資して設立された株式会社である。代表取締役には原告の元理事であり,C社の取締役であったbが,取締役には原告の元職員でありC社の総務部長であったc及び大蔵省出身のeが就任した。なお,Eは,C社と被告Y1ほか3名の個人会員で構成され,被告Y1が会長であった。上記出資金950万円のうち930万円はC社が拠出し,残り20万円は個人会員が各5万円ずつ拠出した。その後,上記C社の出資金930万円に係る株式は,そのうち880万円分がF社に,残り50万円分が被告Y1に譲渡された。さらに,平成12年4月,D社の株式は,その全部がC社に譲渡され,D社はC社の100%子会社となった。
D社には,上記役員以外に従業員はおらず,その本店は,登記簿上,原告の千里山電算センターの所在地に置かれていた。
D社の登記簿上の目的は,①コンピュータ等各種動産の賃貸,②コンピュータ,パーソナルコンピュータ,ワープロ及びこれらの周辺機器並びにプリンター用紙,トナー等の消耗品の販売,③コンピュータシステムの開発受託,④コンピュータシステムによる計算事務並びにパーソナルコンピュータ,ワープロによる文書及び図表の作成事務の受託,⑤コンピュータシステムによる各種情報の提供,⑥電気通信事業法に基づく電気通信事業,⑦コンピュータ,パーソナルコンピュータ及びワープロの維持管理・保守業務,⑧前各号に付帯する一切の業務である。ウ
A社[甲46の1∼3,弁論の全趣旨]
A社は,平成9年7月4日,有価証券等の運用及び売買等を目的とし,出資口数60口のうち59口をD社が,1口をbがそれぞれ出資して設立された資本金300万円の有限会社である。その後,平成11年3月にD社の出資持分が,平成12年4月にbの出資持分が,それぞれG社に譲渡され,その結果,A社は,G社の100%子会社となった。
A社には,取締役社長以外に役員はおらず,従業員もいなかった。A社の取締役社長には,当初,cが就任し(就任期間は平成9年7月から平成10年11月まで)
,次いで,bが就任した(就任期間は同月から平成12年5月まで)。
A社の本店事務所は,C社の東京事務所の一角に置かれていた。

H社[甲1,23,弁論の全趣旨]
H社は,平成9年12月12日,C社及びI社(I協会の100%子会社)が各1000万円ずつ出資して設立された株式会社である。設立時の代表取締役にはcが就任した。


B証券会社[甲67,85,弁論の全趣旨]
B証券会社は,平成10年11月16日,持株会社であるJ社が全額出資して設立され,同月27日に平成10年改正前の証券取引法28条の規定に基づく証券業免許を取得し,同年12月21日,原告への会員加入手続を完了して業務を開始した証券会社である。設立時の代表者には,原告の常務理事であったfが就任した。

(3)

X市場において行われた取引
平成9年7月18日,原告において株券オプション取引が開始され,別紙Fの約定日欄記載の日に,
銘柄欄記載のオプションについて,
約定価格オプションの付与オプションの取得の各欄記載の


内容の株券オプション取引(このうち,同別紙(その1の1)及び(その1の2)に記載のものを本件株券オプション取引といい,これと同別紙(その2)に記載のものを併せて本件株券オプション全取引という。
)が行われた。


平成10年6月15日,原告において業種別株価指数先物取引(日経平均株価等の総合指数では把握できない業種独自の動きを的確に表す業種別株価指数として,ハイテク指数,フィナンシャル指数,コンシューマー指数を算出し,これらの指数を対象とする先物・オプション取引)が開始され,別紙Dの約定日欄記載の日に,
指数欄記載の指数について,
限月約定価格売方(顧客名,会員名,数量,新規/決済),,,買方(顧客名,会員名,数量,新規/決済)の各欄記載の内容の業種別株価指数先物取引(以下本件業種別株価指数先物取引という。
)が
行われた。

X市場において,①別紙Aの約定日欄記載の日に,銘柄欄記
載の株券について,
約定価格売方(顧客名,会員名,数量),,買方(顧客名,会員名,数量)の各欄記載の内容の株券売買取引(以下本件株券売買取引という。,②別紙Cの約定日欄記載の日に,)
銘柄欄記載の先物について,
限月約定価格売方(顧客名,,,会員名,数量,新規/決済),買方(顧客名,会員名,数量,新規/決済)の各欄記載の内容の日経225先物取引(以下本件日経225先物取引という。)及び③別紙Eの約定日欄記載の日に,
銘柄欄
記載のオプションについて,
約定価格オプションの付与状況(顧客,名,会員名,数量,新規/決済),オプションの取得状況(顧客名,会員名,数量,新規/決済)の各欄記載の内容の日経225オプション取引(以下本件日経225オプション取引といい,これと本件日経225先物取引を併せて本件日経225取引という。
)が行われた。


平成11年1月25日,原告においてJ-NET取引(原告,会員証券会社及び投資家の三者を結ぶコンピュータネットワーク上で電子的に証券取引が行われるもの)が開始され,別紙Bの約定日欄記載の日に,銘柄欄記載の株券について,
約定価格売方(顧客名,会員名,,数量),買方(顧客名,会員名,数量)の各欄記載の内容の取引(以下本件J-NET取引という。
)が行われた(以下,上記ア∼ウ及び
本項記載の各取引(ただし,別紙F(その2)に記載の株券オプション取引を除く。
)を総称して本件各取引といい,このうち本件J-NET
取引を除く取引を総称して本件株券オプション取引等という。。


2
主要な争点及び当事者の主張本件の主要な争点は,①本件各取引に関する被告らの善管注意義務違反の有無,②B証券会社の設立に関する被告らの善管注意義務違反の有無,③原告の損害の有無及びその額であり,以上の各争点についての当事者の主張は以下のとおりである。
(1)

争点①(本件各取引に関する被告らの善管注意義務違反の有無)
【原告の主張】

本件株券オプション取引等
(ア)

被告Y1は,X市場における株券オプション取引の開始に先立つ平
成9年6月,東京証券取引所(以下東証という。
)における株券オ
プション取引との競争を意識して,原告の元職員であり,C社の総務部長であったcに対し,X市場において株券オプション取引の発注を行う主体となる会社の設立を命じ,同年7月4日,上記1の前提事実(以下,単に前提事実という。
)の(2)ウに記載のA社が設立された。
(イ)

被告Y1は,原告の職員等に対し,A社を通じ又はA社名義で株券
オプション等の注文をするよう指示して,本件株券オプション取引等を行わせた。その具体的態様は,以下のとおりである。

本件株券オプション全取引(別紙F関係)
(a)平成9年7月から平成10年12月までの間の取引
被告Y1は,原告において株券オプション取引が開始された平成
9年7月18日の翌取引日である同月22日,C社の総務部長であり,かつ,A社の代表取締役であったcに対し,株券オプション取引の出来高をかさ上げする目的で,株券オプションの銘柄,価格,数量,売りと買いの別を指定した上で,同指定のとおり証券会社を介して株券オプションを発注するよう指示した。cは,同日,同指示に基づき,甲証券会社及び乙証券会社を介して,A社名義で株券オプションの注文をし,その結果,別紙F(その1の1)のNO.1∼NO.26記載の各取引が成約した。被告Y1は,同月23日以降も,cに対し,上記と同様の発注指
示を行い,cは,同指示に基づき,上記各証券会社を介して,A社名義で株券オプションの注文をした。
被告Y1は,同月下旬ころから,原告のシステム総務部システム
総務課の職員らをして,cに対して発注指示を行わせた。また,被告Y1は,その後,C社の取締役であったbに対し,cとともに,上記職員らの発注指示に基づき,上記各証券会社を介して,A社名義で株券オプション取引の注文をさせた。
被告Y1は,同年8月初旬ころ,原告の総合企画部付部長であっ
たgに対し,c又はbに上記と同様の発注指示をするよう指示した。その後,被告Y1は,上記総務課職員らを本来の原告における業務に戻し,同年9月中旬以降は,専らgに発注指示を行わせた。
その後,gは,平成10年6月ころ,先物・オプション部長に異
動したが,同年12月まで,c又はbに対して発注指示をし,これを受けたc又はbは,上記各証券会社を介して,A社名義で株券オプションの注文をした。
(b)平成10年12月から平成11年3月までの間の取引
被告Y1は,平成10年12月,後記(2)【原告の主張】アの経緯で設立されたB証券会社の代表取締役であり,かつ,原告の元常務理事であったfに対し,A社名義でB証券会社を介して発注される株券オプションの売付け又は買付けの注文について,B証券会社が自己勘定で取引を成約させることを指示するとともに,gに対し,B証券会社に上記(a)と同様の発注指示をするよう指示した。
同月以降,gからbに対し,株券オプションの銘柄等の発注指示
がされ,bからB証券会社を介してA社名義で同指示どおりの注文がされた。これについて,B証券会社は,自己勘定で同注文に対当する注文をして取引を成約させた。この取引が始まったことにより,平成11年1月下旬以降,甲証券会社及び乙証券会社を介したA社名義の株券オプションの注文はなくなった。
gは,bを通して株券オプションを発注することが迂遠であった
ことから,平成11年1月以降,bを通さないで,直接B証券会社に対してA社名義で株券オプションを注文するようになった。
被告Y1は,そのころ,gに対し,以上の発注形式による取引に
加えて,B証券会社に対し,A社名義による同一の銘柄の株券オプションについて同時期に同価格で買付けと売付けの注文を行うよう指示し,gは,B証券会社を介して指示された方法で注文をし,同注文に係る取引が成約した。
(c)平成11年4月から同年10月までの間の取引
gは,同年4月,原告の先物・オプション部長から異動し,同職
の後任にhが就任した。被告Y1は,上記発注指示の担当者をgからhに変更し,以後,同人に対し,原告における株券オプション取引の出来高が東証のそれを下回っている場合に,その下回っている出来高(以下不足出来高という。
)をB証券会社に伝え,B証
券会社に株券オプションの銘柄等の選定を一任し,B証券会社の自己勘定で売付けと買付けの注文を同時に行って不足出来高に見合う取引を行わせることを指示した。同指示を受けたhは,その部下であるiに対し,同指示と同じ内容の指示をし,iは,同指示に基づき,B証券会社に不足出来高を伝え,これを受けたB証券会社は,不足出来高に見合う株券オプションを注文して取引を成約させた
(以下,この形態による株券オプション取引をB証券会社自己取引という。。)(d)平成11年10月から平成12年3月までの間の取引
被告Y1は,平成11年10月下旬,B証券会社自己取引を行う
形態による株券オプションの注文がされなくなったため,原告の総合企画部企画課職員であったjに対し,A社名義で株券オプションを注文し,B証券会社において自己勘定で同注文に対当する注文をして取引を成約させる方法を再開することを指示し,jは,同指示に基づき,B証券会社を介してA社名義で株券オプションを注文し,同注文に係る取引が成約した。
上記発注指示の担当者は,平成11年11月中旬以降,jから再
度gに変わった。
(e)以上(a)∼(d)の個々の取引内容は,別紙Fに記載のとおりである。b
本件株券売買取引(別紙A関係)
(a)株券オプション取引では,オプションの権利者が権利行使期日までに反対取引をして決済をせず,権利行使期日に権利行使をする場合,株券を引き渡さなければならない。被告Y1は,上記aの株券オプション取引を行うのに伴い,同取引の対象となる株式の現物株を保有するため,gに対し,A社名義で株券オプション取引に係る現物株を買い付けることを指示した。同指示を受けたgは,平成9年8月1日から平成10年5月12日までの間,A社名義で別紙AのN0.1∼N0.13の注文を行い,それらの銘柄の現物株を買い付けた。
(b)被告Y1は,同年12月30日,jに対し,原告及び東証が行っている株券オプション取引の対象銘柄が共通する7銘柄(以下共通7銘柄という。)の現物株について,X市場で取引が全く成約
していない状態を解消するいわゆるスダレ防止の目的で,A社名義で原告における売買取引をB証券会社を介して実行するよう指示した。同指示を受けたjは,原告の元株式売買監理課長でB証券会社の取締役であったkと打ち合わせを行い,jから,B証券会社に対し,銘柄,数量を指示してA社名義の注文をし,B証券会社において,同注文に対当する注文をして現物株の売買取引を成約させるという方法(以下,上記目的による取引をスダレ防止取引とい
う。
)による株券売買取引を実行した。
スダレ防止取引に係る注文については,jのほか,平成11年1
月から同年3月までの間は原告の総合企画部長のdが,同年5月からは同部の職員であるlが,同年11月中旬ころから平成12年3月24日までの間はgがかかわった。
(c)スダレ防止取引に係る注文の対象とされた株式には,平成11年4月ころ以降,共通7銘柄以外に,その時点でX市場で一度も取引が成約していない銘柄の株式や,X市場への上場を廃止する旨の申請を申し出た会社の株式なども含むようになった。
(d)以上の株券売買は,平成12年3月まで行われた。それらの個々の取引内容は,別紙Aに記載のとおりである。

本件業種別株価指数先物取引(別紙D関係)
(a)原告において平成10年6月15日から開始された業種別株価指数先物取引は,取引がほとんど成約しない状況にあった。被告Y1は,同年11月,gに対し,X市場で業種別株価指数先物取引に係るスダレ防止取引を行うよう指示した。gは,同月5日から,同指示に従い,c又はbに対し,銘柄及び指数を連絡して発注指示を行い,これを受けたc又はbから,当初は甲証券会社を介して,同年12月21日以降は主としてB証券会社を介して,それぞれA社名義でスダレ防止のための注文がされ,同注文に係るスダレ防止取引が成約した。(b)被告Y1は,平成11年4月,gが原告の先物・オプション部長から異動し,同職の後任にhが就任したことから,hに対し,上記発注指示を行うよう指示した。同指示を受けたhは,原告の先物・オプション部のm課長を通じて,同部で先物担当をしていたnに対し,上記のスダレ防止取引を行うよう指示した。nは,それ以後,同指示に基づき,gが行っていたのと同様の手法で,業種別株価指数先物取引に係るスダレ防止取引の発注指示をした。
(c)上記注文に係る取引のうち甲証券会社を介したものは,A社が売方及び買方となって取引を成約させ,後日,反対売買(転売及び買戻し)を行って決済するという取引(別紙Dの行為類型欄に
仮装と記載したもの)である。
上記注文に係る取引のうちB証券会社を介したものは,B証券会
社と打ち合わせをして,A社が買いの注文をし,これについてB証券会社が自己勘定で売りの注文をして取引を成約させ,後日,A社が転売し,B証券会社が自己勘定で買い戻して決済するという取引(別紙Dの行為類型欄に馴れ合いと記載したもの)である。
(d)以上の業種別株価指数先物取引は,平成12年3月まで行われた。それらの個々の取引内容は,別紙Dに記載のとおりである。

本件日経225取引(別紙C,E関係)
(a)gは,被告Y1の指示に基づき又は承諾を得て,A社名義で行われていた株券売買取引等のリスクヘッジをする目的で,B証券会社を介して,A社名義で,平成11年3月5日から日経225オプション取引を,同月16日から日経225先物取引をそれぞれ始めた。(b)上記の各取引は,平成12年3月まで行われた。それらの個々の取引内容は,本件日経225オプション取引については別紙Eに,本件日経225先物取引については別紙Cに記載のとおりである。(ウ)a
本件株券オプション取引等に必要な費用等の原資
本件株券オプション取引等に必要な取引証拠金,決済金
本件株券オプション取引等に必要な取引証拠金,決済金には,被告Y1の指示により,C社に預け金等として移動した原告の資金が,C社からD社に預け金等として移動され,さらに,これがD社からA社に交付されて充てられた。すなわち,A社は,原告又はC社の資金を使用して,本件株券オプション取引等を行った。


本件株券オプション取引等によりA社に生じた手数料,有価証券取引税,売買損
被告Y1は,本件株券オプション取引等においてA社が必要とする又は負担した上記手数料等の費用相当額をA社に支払って補てんさせる目的で,C社からD社に対し,東京アクセスポイント利用料名目及び電子計算機レンタル料名目で上記手数料等の費用相当額の金員を支払わせ,さらに,D社からA社に対し,上記の利用料名目及びレンタル料名目で受領した金員をもって,A社(受託者)との間の調査研究の委託に関する契約等における調査研究委託費名目で上記手数料等の費用相当額の金員を支払わせた。A社は,これにより本件株券オプション取引等における上記手数料等の費用を補てんした。

(エ)

本券株券オプション取引等は,以下のとおり違法なものである。
原告が自らX市場で取引主体となって本件株券オプション取引等を行うことは,

有価証券市場は,有価証券の売買取引等を公正かつ円滑ならしめ,かつ,投資者の保護に資するよう運営されなければならない。

と定める証券取引法106条の2及び

本所の開設する取引所有価証券市場は,公益及び投資者の保護に資するため,有価証券の売買が公正,円滑に行われることを旨として運営されるものとする。

と定める原告の定款2条2項に反し,また,不公正な取引が行われないように市場を監視,監督し,公正な市場を実現すべき立場にある市場開設者としての責務にも違反する。

本件株券オプション取引等は,被告Y1が,X市場で大量,活発な取引が行われているように見せかける目的又は取引が一切ない状態を解消する目的(スダレ防止目的)で行わせたものであり,証券取引法が禁止する同法159条1項3号所定の仮装取引(有価証券の実質的な権利帰属主体の間に権利の移転を目的としないで行われる取引)及び同項8号(ただし,平成10年改正前は同項7号。以下同じ。
)所
定のなれ合い取引(自己のする売付け(又は買付け)と同時期に,それと同価格において,他人が当該有価証券を買い付ける(又は売り付ける)ことをあらかじめその者と通謀の上,当該売付け(又は買付け)をする取引)に該当する。


本件J-NET取引(別紙B関係)
(ア)

J-NET取引には,最低売買単位から取引ができる単一銘柄取引
と,15銘柄以上で売買代金合計1億円以上を一括して同時に取引するバスケット取引がある。被告Y1は,X市場でバスケット取引が全く成立していなかったことから,平成11年1月25日,原告の総合企画部企画課職員であったjに対し,X市場でバスケット取引を行うよう指示した。
(イ)

jは,同日から同年2月22日にかけて,上記指示に基づき,原告
の元株式売買管理課長でB証券会社の取締役であったkと打ち合わせを行い,銘柄,数量,約定価格の決定をB証券会社に一任して,A社の名義を用いて,バスケット取引としてある銘柄,数量,単価の株券の買付けの注文を出し,B証券会社が同注文に対して売り向かうことで売買を成約させ,その翌日,A社の名義を用いて,前日と同じ銘柄,数量,単価の株券の売付けの注文を出し,B証券会社が同注文に対して買い向かうことで売買を成約させるという手法で,別紙B記載のとおり,現物株について延べ366銘柄,取引数量2億7144万8000株に上る本件J-NET取引を行った。本件J-NET取引における証券会社に対する手数料(消費税を含む。
)及び有価証券取引税の合計額は,962
7万4045円であった。
被告Y1は,上記の内容で本件J-NET取引が行われていることを認識していた。
(ウ)

原告において,同年3月29日,J-NETシステム開発費用及び
維持費用として11億7927万9000円をC社に支払うことが承認された。同金額のうち9627万4000円は,ソフト導入一時費用の名目で計上されていた。
原告は,同月30日,C社に対し,上記9627万4000円を含む上記の開発,維持費用を支払い,C社は,同日,そのうちの9627万4045円を新市場開拓金名目で受領した上,D社に同金額を支払い,さらに,D社は,A社に同金額を支払った。
以上のA社に対する資金供与は,本件J-NET取引における上記(イ)の手数料等を補てんするために行われたものであり,被告Y1は,上記資金供与を計画し,原告にこれを実行させた。
(エ)

本件J-NET取引は,以下のとおり違法なものである。
原告は,有価証券の売買取引等を行うために必要な市場を開設することを目的として設立された証券取引所であり(平成10年改正前の証券取引法2条11項。以下,同項を挙げるときは,同改正前のものをいう。,原告の定款2条1項は,

本所は,有価証券の売買,有価証券指数等先物取引又は有価証券オプション取引を行うために必要な取引所有価証券市場を開設することを目的とする。

と定めている。したがって,原告は,有価証券の売買取引等を行うために必要な場所及び人的・物的施設を提供し,これを管理することの範囲内においてのみ権利能力を有するものであり,原告が自ら証券取引所市場における取引の主体となることは許されない。
本件J-NET取引は,①被告Y1から指示を受けた原告の職員がA社名義を用いてB証券会社に対して注文をし,②取引に係る費用は,原告からC社に,C社からD社に,D社からA社に,A社からB証券会社に順次支払う方法で,原告が負担することにより行われたものであり,上記の法令,定款が目的の範囲外の行為として禁止していることを潜脱するための脱法行為として行われたものである。

本件J-NET取引は,A社とB証券会社が,それぞれ売主及び買主となって,ある株券について売買した後,同一銘柄,同一数量の株券を同一価格で反対売買するという形態の取引である。したがって,この取引は,支払手数料,消費税及び有価証券取引税という費用の負担は別として,売買による利益や損失は生じることがないから,経済的利益を追求するものではなく,投資家に対してJ-NET市場におけるバスケット取引が実際以上に繁盛して行われているように見せかけ,その出来高をかさ上げする目的で行われたものである。原告がこのような行為を行うことは,上記ア(エ)aの各規定内容の証券取引法106条の2及び原告の定款2条2項に違反するものであり,また,不公正な取引が行われないように市場を監視,監督し,公正な市場を実現すべき立場にある市場開設者たる証券取引所としての責務にも違反する。


本件J-NET取引は,上記(ア),(イ)及び上記bのとおり,A社における経済的利益の追求を目的としたものではなく,被告Y1が,原告において大量,活発な取引が行われているように見せかける目的で行わせたものであり,あらかじめ原告の職員とB証券会社との間で打ち合わせを行い,ある銘柄,単価,数量の株券について同時に売りと買いの注文をしたというものである。したがって,本件J-NET取引は,証券取引法が禁止する平成12年改正前の同法159条1項4号又は5号(以下,同条項の規定を挙げるときは,同改正前のものをいう。
)所定のなれ合い取引にも該当する。

本件各取引に係る被告Y1の善管注意義務違反
被告Y1は,本件各取引が行われた当時,原告の専務理事又は副理事長として,その事務の遂行上,原告に対して善管注意義務を負っていたところ,被告Y1が原告の費用負担において原告の職員をして上記ア及びイのとおり本件各取引を行わせたことは,善管注意義務に含まれる法令・定款を遵守して職務を遂行すべき義務に違反する。なお,gが関与して行われた別紙A,C及びEの各取引について,被告Y1が具体的な指示をしていなかったとしても,これらの取引はいずれも,gにおいて,本件株券オプション取引に付随して必要である,又は本件株券オプション取引によって生じたポジションのリスクヘッジのために必要であると判断して行ったものであり,被告Y1の意向に沿ったものであって,被告Y1において予見することが可能であったから,これらの取引についても,上記の善管注意義務違反の問題が生じる。


本件各取引に係る被告Y2の善管注意義務違反
(ア)

原告の理事長である被告Y2は,原告の業務を総理する立場にあり,
原告に対して負う善管注意義務の一つとして被告Y1の行為を監視監督すべき義務があった。しかしながら,被告Y2は,同義務を怠り,被告Y1が本件各取引を行うこと及び本件各取引に要した手数料等の費用を原告が負担することを認識し又は認識することができたにもかかわらず,これを阻止しなかったのであるから,善管注意義務違反がある。
(イ)

被告Y2は,平成9年7月14日に行われた原告からC社への5億円の貸付けについて,A社名義で行う本件株券オプション取引等に充てる資金であると認識し,又は,仮に使途の認識まで有していなかったとしても,被告Y2は,貸付けの決裁者として貸付金の使途や必要性等を厳格に検討し確認すべき注意義務を有しているのであるから,この注意義務を尽くすことで,上記のような認識をすることができたにもかかわらず,上記貸付けをすることを了承した。また,被告Y2は,平成10年9月30日,被告Y1からB証券会社の設立について資料に基づいた経過報告と説明を受け,同資料には,B証券会社がX市場で株券オプション取引等を行い,これに要する委託手数料を実質的に原告が負担する旨記載されていた。したがって,被告Y2は,上記のいずれかの時点において,A社がB証券会社を介して本件株券オプション取引等を行うこと及びその取引の費用等を実質的に原告が負担することを認識し,又は容易に認識することができたというべきである。
よって,被告Y2は,遅くとも,B証券会社を介したA社名義の注文に係る取引が行われるようになった平成11年2月1日以降の期間である同年5月1日から平成12年4月30日までの平成11年度決算期中に行われた本件株券オプション取引等(同取引に係る売買損及びB証券会社に支払われた手数料の合計は1億1846万9949円)について,善管注意義務違反がある。
【被告Y1の認否,主張】

認否
【原告の主張】アについては,(ア)は争う。(イ)は,別紙A,C∼F記載の取引が行われたことは認め,その余は争う。(ウ)及び(エ)は争う。同イについては,(ア)は,第1文は認め,第2文は争う。(イ)は,別紙B記載の取引が行われたことは認め,その余は争う。(ウ)及び(エ)は争う。同ウは争う。イ

主張
(ア)

本件株券オプション取引等について


本件株券オプション取引等は,いずれも原告とは別個独立の法人であるA社及びB証券会社が行ったものである。原告の職員が,A社に対し,被告Y1の指示に従って本件株券オプション取引等についての助言をしたことはあるが,取引を行うことを決定し,その取引主体となったのは,原告とは別個独立の上記2社であり,被告Y1が原告の職員等に指示して上記2社の名義を用いて本件株券オプション取引等を行わせたという事実はない。


別紙A記載の本件株券売買取引は,原告において扱う主要銘柄株の値付け取引(スダレ防止取引)であり,特定の株式の価格を不当に操縦するという目的で行われたものではない。X市場では,昭和52年10月18日開催の原告の理事会の了承を経て,値付け率の向上,ひいてはX市場の振興のために,会員証券会社に協力を要請して値付け取引が行われてきたが,本件株券売買取引は,それまでの会員証券会社が行っていた値付け取引と同様の趣旨でA社によって行われたものにすぎない。


別紙F記載の本件株券オプション取引は,証券取引法の要請する

市場取引の円滑化という目的に資するべく,マーケットメイクと
して行われたものであり,特定の株式の価格を不当に操縦する目的で行われたものではない。

別紙C記載の本件日経225先物取引,別紙E記載の本件日経225オプション取引及び別紙D記載の本件業種別株価指数先物取引は,いずれも特定の個別銘柄の価格操縦を行う目的でされたものではない。また,被告Y1は,本訴が提起されるまで,上記各取引が行われていたことを知らなかった。(イ)

本件J-NET取引について
本件J-NET取引は,原告とは別個独立の法人であるA社が行った
取引である。すなわち,被告Y1は,J-NETによる取引システムを納入したC社に対し,X市場でJ-NETによるマーケティング取引を実行することを依頼し,次いでC社がD社に同取引の実行を再依頼し,さらにD社がA社に同取引の実行を再々依頼し,A社がマーケティング取引として本件J-NET取引を行ったのである。原告の職員であるjが,A社に対し,被告Y1の指示に従って本件J-NET取引についての助言をしたことはあるが,本件J-NET取引を行うことを決定し,その取引主体となったのは,原告とは別個独立のA社であり,被告Y1が原告の職員に指示してA社名義を用いて本件J-NET取引を行わせたという事実はない。したがって,原告とは別個独立の法人であるA社によってされた本件J-NET取引について,被告Y1の原告に対する善管注意義務違反が問題とされる余地はなく,原告の主張は失当である。また,本件J-NET取引は,特定の株式の価格を不当に操縦するという目的でされたものではなく,適法に認可を受けて原告において新たに開始されるJ-NET取引の内容や利便性,安全性を会員証券会社に正しく理解してもらい,J-NET取引を軌道に乗せて定着させるために,いわばデモンストレーションとして行われたものであり,J-NET取引の円滑化に資するという証券取引法の目的に即して行われたものである。
さらに,J-NET取引は,相対交渉方式により株券売買を行う取引であり,本件J-NET取引は,値段及び数量について原告が定める値段(代金)に従い,相手方と交渉を行い,合意に至った場合に当該合意内容で売買取引が成約したものである。したがって,本件J-NET取引は,証券取引法の禁止するなれ合い取引に該当するものではない。なお,本件J-NET取引に要した費用は,原告が開始するJ-NET取引の定着を図るために原告が委託したマーケティング取引に関する費用であるから,原告が負担すべきものである。そして,原告は,適正な内部決裁手続を経て,同費用をC社に支払った。したがって,被告Y1が独断で同費用の支出を決定したものではない。
(ウ)

以上のとおり,本件各取引は,いずれも,原告とは別個独立の法人
でるA社及びB証券会社が行ったものであり,被告Y1の原告に対する善管注意義務違反が問題とされる余地はない。
また,証券取引法159条は,詐欺的行為を包括的に禁止する同法157条の規定を受けて,詐欺的行為のうち特に証券取引市場における相場操縦という具体的な形をとるものを対象として禁止している規定であり,取引が相場を変動させるべき取引に該当するか否かによって禁止される取引かそうでない取引かが区別されるものと解される。そうすると,同法159条1項にいう取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的についても,相場操縦すなわち人為的な価格操縦を行うという目的を伴うものであることを必要とすると解される。したがって,同項が規制する仮装取引やなれ合い取引とは,人為的な価格操縦を行うという目的を伴ったものをいい,同目的を伴わない取引は,同項による規制の対象とはならないものである。本件各取引は,原告における有価証券の売買取引等の円滑化や取引の流動性を高めるために行われたものであって,価格操縦を行う目的で行われたものではないから,上記の同条の立法趣旨等からすれば,同条1項所定の仮装取引又はなれ合い取引に該当するものではない。
【被告Y2の認否,主張】

認否【原告の主張】のうち,事実に関する主張は不知,法的主張は争う。イ
主張
(ア)

被告Y1に原告主張の善管注意義務違反がないことについての被告
Y1の主張を援用する。したがって,被告Y1に善管注意義務違反が認められない以上,被告Y2に監視監督義務違反が生じる余地はない。(イ)

被告Y2は,以下のとおり,原告の主張する被告Y1による違法取
引や違法な収益の付け替えを全く認識していなかったし,認識することもできなかった。したがって,被告Y2には,原告主張の善管注意義務違反はない。

被告Y2は,そもそもA社の存在すら知らなかった。


被告Y2は,原告からC社へ5億円が貸し付けられたという事実自体を知らない。仮にそのような貸付けがされた事実があったとしても,それについては,稟議対象とされていなかったから,決裁者として貸付金の使途や必要性等を厳格に検討し確認すべき注意義務を負
うことはない。


被告Y2は,平成10年9月30日に被告Y1から資料に基づく説明を受けたことによって,原告が主張するような違法取引や違法な収益の付け替えを認識したことはないし,また認識することもできなかった。

(2)

争点②(B証券会社の設立に関する被告らの善管注意義務違反の有無)
【原告の主張】

B証券会社の設立経緯
(ア)

被告Y1は,平成9年10月ころ,X市場で有価証券の売買取引等
が頻繁に行われていると見せかけることや値付け(スダレ防止)のための取引を行わせることを目的として,このような取引を行う証券会社としてB証券会社を設立することを企図し,被告Y1及び原告の総合企画部長のdが出資関係等を検討し,同部企画課の職員が設立事務手続を担当した。
当初の構想では,H社が発起人になることが予定されていた。すなわち,平成10年5月ころに作成されたB証券会社㈱の概要と題する内部資料では,C社とI社が各50%ずつ出資してH社を設立し,同社の全額出資によりB証券会社を設立するものとされており,業務内容等に関して,下記a∼dの事項が挙げられている。

電子取引による取引
ディーリング,トレーディング,マーケットメイキング,北浜振興取引を行う。


具体的には,現物株についての北浜振興取引(スダレ防止)並びに株券オプションについての北浜振興取引(スダレ防止)及びマーケットメイキング取引(流動性向上)を行う。


北浜振興取引及びマーケットメイキング取引は,X市場の維持,振興のため行う取引であるので,原告自らの負担において行うべきものである。


しかしながら,原告は,自ら取引の当事者となることができないので,必要な経費を負担しつつ,取引を他の取引主体に委託し,北浜振興取引及びマーケットメイキング取引を実現しようとするものである。
(イ)

B証券会社の証券業免許申請に関して,同年3月27日,予備審査
申請書案が証券会社の監督等を担当する大蔵省証券局証券業務課(以下証券業務課という。
)に提出された。
上記申請書案の審査において,有価証券市場の監督等を担当する大蔵省証券局証券市場課(以下証券市場課という。
)の担当官から,原
告が,B証券会社と資本関係を有し,B証券会社に対して実質的な経営支配が可能となることは,証券取引所市場の公正さを損なうとの指摘を受け,原告との資本関係を希薄化することなどを指導された。被告Y1は,同指導等への対応策として,最終的に,B証券会社の持株会社としてJ社を設立し,B証券会社の設立資金9億8000万円は,H社が10億円を銀行から借り入れ,これを更にJ社に貸し付け,J社の出資によりB証券会社を設立することとし,その旨,証券市場課に説明した。しかし,上記9億8000万円の設立資金は,実際には,原告から原告の100%子会社であるC社に対して平成10年10月1日に10億円が貸し付けられ,C社がこの10億円を更にD社に貸し付け,D社においてこの10億円を用いて国債を購入し,H社が同国債を担保として丙銀行から10億円を借り入れ,H社がそのうちの9億8000万円をJ社に貸し付けることにより工面された。
被告Y1及びdは,B証券会社の証券業免許申請に係る証券業務課及び同課の業務の移管を受けた金融監督庁証券監督課(以下証券監督課という。)の担当者との折衝において,原告からの出捐金によって
購入された国債を銀行借入れの担保とすることを秘匿し,丙銀行からの融資の担保としてはB証券会社の株式とJ社の社長であるcの個人保証だけであり,原告とB証券会社との間に資本関係がない旨の虚偽の説明をするなどして,対応した。
(ウ)

J社は,同月22日,内閣総理大臣宛てにB証券会社の証券業免許
に係る予備審査申請書を提出した。B証券会社は,同年11月16日に設立登記をし,同月27日に証券業免許を受けた。

被告Y1の善管注意義務違反
(ア)

B証券会社の設立意図は上記ア(ア)のとおりであるところ,このよ
うな意図の実行を担うB証券会社の設立に原告が関与することは,証券取引所の業務をその目的を達成するために必要なものに限定した証券取引法86条2項及び有価証券市場を開設することを原告の目的とする旨定めた原告の定款2条1項に違反し,また,証券取引所市場の公正を著しく阻害するものとして同法106条の2及び原告の定款2条2項に違反する。
被告Y1は,原告の専務理事として,原告に対して善管注意義務を負っていたところ,上記の設立意図でB証券会社を設立することに原告がかかわることは上記の法令及び定款に違反するものであることを認識しながら,その設立を主導し,実質的にB証券会社の設立出資金を原告に負担させたものであるから,善管注意義務に含まれる法令,定款を遵守して職務を遂行すべき注意義務に違反する。
(イ)

被告Y1は,上記ア(イ)の流れでB証券会社の設立資金を工面する
ために,C社に対する10億円の貸付けを主導した。この資金の流れからすると,原告が上記貸付金を回収することができるかどうかは,B証券会社の株式を売却処分するか,B証券会社を清算して残余財産の分配を受けるかのどちらかになるところ,被告Y1は,B証券会社の実態にかんがみ,上記貸付金を回収できる可能性は極めて低いことを認識し,又は認識することができた。したがって,被告Y1のC社に対する10億円の貸付けを主導した行為も,善管注意義務に違反する。

被告Y2の善管注意義務違反
(ア)

被告Y2は,B証券会社の証券業免許取得がほぼ確実となった平成
10年9月30日,被告Y1から,B証券会社の設立について,資料に基づいて経過報告と説明を受け,最終的にB証券会社の設立を了承した。(イ)

被告Y2は,上記資料及び被告Y1の説明から,①B証券会社は,
原告の意向を汲んで証券取引を行う証券会社として設立されるものであること,②B証券会社が行う業務には,マーケットメイク取引や現物株の値付け目的の取引が含まれていること,③J社がB証券会社の設立資金を借り入れるについて,原告の資金を使って担保を提供すること,④約2億円と見積もられるB証券会社の年間運営コストを原告が関連会社を通じて負担すること,以上の事実関係を認識し,又は認識することが可能であった。また,被告Y2は,上記資料及び被告Y1の説明により,被告Y1がB証券会社の設立について上記ア(ア)の設立意図を有してB証券会社を設立することは,証券市場の公正を著しく阻害するものであることを認識し,又は認識することができた。したがって,被告Y2がB証券会社の設立を了承したことは,証券取引法86条及び原告の定款2条1項並びに同法106条の2及び原告の定款2条2項に違反する原告によるB証券会社設立又はそれへの関与を承認したものであり,被告Y2には,被告Y1と同様に,善管注意義務に含まれる法令,定款を遵守して職務を遂行すべき注意義務の違反がある。
【被告Y1の認否,主張】

認否
【原告の主張】アについては,(ア)は,B証券会社設立の設立意図が原告主張のものであることは否認し,その余は認める。(イ)は,第3,第4段落は否認し,その余は認める。(ウ)は認める。
同イは争う。


主張
(ア)

原告は,平成9年当時,原告の会員証券会社の取引コストを軽減し,
原告における有価証券の売買取引等の利便性を向上する必要性から,市場内媒介制度の廃止等を含む改革を進めた。K社は,原告における有価証券の売買取引等の市場内媒介を主たる業務としていた証券会社であるが,上記改革の一環として解散することとなり,その従業員の雇用を確保するための受け皿会社が必要となった。また,原告は,原告における有価証券の売買取引等の流動性の向上を目的とするマーケットメイクを行う証券会社が必要であると考えた。以上の必要性からB証券会社の設立が計画された。後者の必要性に関しては,B証券会社の設立に当たって提出された証券業免許の予備審査申請書において,
マーケット・メイクについては,原告上場株式,株券オプション取引等の流動性供給を目的として,各銘柄において売注文及び買注文を提示すると明確に記載されているとおり,B証券会社は,その設立手続の段階から,X市場の振興を図るためのマーケットメイク業務を行う証券会社として設立が予定されていたのであり,そのことは大蔵省に対しても明示的に説明されていた。
被告Y1は,B証券会社の上記設立意図からすると,原告の100%子会社であるC社か,C社が50%,I協会が50%という資本構成であるH社によってB証券会社を設立するのが相当であると考え,この考えに沿って設立準備を進めた。しかし,B証券会社の証券業免許申請に係る事前折衝において,証券業務課から,証券取引所である原告が資本関係を通じて証券会社を支配し得る関係に置くことは認められないので,①原告の資本関係を希薄化すること,②原告の意思がB証券会社の経営に影響を及ぼすような申請書類の文言,表現を改めることなどの指導,助言を受けた。これを受けて,被告Y1は,上記の考えを改め,原告と資本関係のないJ社がB証券会社の100%株主になる案を提示した。この案について,証券業務課から,J社による出資が確実に履行される状態になっていることを確認する必要があるとの指導等があり,J社は,証券業務課に対して銀行の融資証明書を提出するなどの同指導等への対応を行い,その全額出資によりB証券会社を設立した。そして,B証券会社は,大蔵省及び金融監督庁の厳正な審査手続を経て,証券業免許が付与された。
被告Y1は,B証券会社の設立準備の最初の段階で関与した経緯から,補助者としての立場でその設立手続を手伝った。しかし,B証券会社は,J社によって設立されたものであり,被告Y1がその設立を主導したとか,原告自身が設立したという事実関係はない。
以上のとおり,B証券会社の設立及び証券業免許の取得は,監督官庁の指導,助言を受け,また,厳正な審査手続を経ているものであり,原告の主張するような事実の秘匿はされていない。
(イ)

被告Y1は,B証券会社の設立意図の一つを,有価証券の売買取引
等の円滑化や値付けと考えていたのであり,違法な取引を行うことは全く考えていなかった。なお,証券会社が証券取引所市場における取引の流動性を高めるために自ら行う取引は,ディーリング業務として適法なものである。
(ウ)

原告のC社に対する10億円の貸付金は,J社のB証券会社の設立
資金を工面するためにD社が担保に入れた国債の購入資金の原資となった金員ではない。
D社の国債の購入資金の原資は,C社から借り入れた10億円であるが,その10億円は,C社が平成10年10月30日に丙銀行から借り入れた8億円と,平成9年8月29日に丙銀行から借り入れていた5億円のうち残存していた3億円のうちの2億円を合わせたものである。この10億円は,D社が,平成12年8月に国債を9億3574万円で売却し,C社に対し,同月22日,そのうち8億8000万円を上記10億円の借受金の一部返済として支払い,次いで,同年9月26日,国債売却代金の残余金5574万円に自己資金6426万円を加えた1億2000万円を上記10億円の借受残金全部の返済として支払ったことにより,C社に全額返還されている。
他方,原告のC社に対する上記10億円の貸付金は,C社がD社から電子計算機2台(以下本件各電算機という。
)を購入する売買代金
及びD社に対する運転資金目的の貸付金に使用されたものである。また,大蔵省は,B証券会社の収支見込み及びJ社による借入金返済計画の内容を確認した上で,B証券会社に証券業免許を付与していることに照らすと,J社において,B証券会社に対する出資金を回収する可能性がなかったとはいえない。
【被告Y2の認否,主張】

認否
【原告の主張】アについては,(ア)及び(イ)は不知,(ウ)は認める。同イは争う。
同ウについては,(ア)のうち,被告Y2が,平成10年9月30日,被告Y1からB証券会社の設立について資料に基づいて経過報告と説明を受け,その設立手続を進めることを了承したことは認め,その余は争う。(イ)は,被告Y2が①の点を認識していたことは認め,その余は争う。

主張
(ア)

被告Y2は,被告Y1の説明を受けて,B証券会社が資本的に原告
と無関係になったものと認識し,B証券会社の設立を中止すべき特段の理由がなかったため,その設立手続を進めることを了承した。
被告Y2は,被告Y1から説明を受けた【原告の主張】ウ(イ)①の点について,B証券会社が原告と十分協議した上で自らの判断により業務を行うことは,X市場の発展に繋がり,ひいてはB証券会社の利益に繋がるというように理解した。他方,被告Y2は,B証券会社の設立意図の中に,X市場における取引が繁盛に行われていると見せかけるための取引や値付けのための取引を行うことが含まれているなどということは知らなかった。
(イ)

そもそも,B証券会社の設立手続に原告の役職員が関与することは,
それ自体がB証券会社の独立性を失わせるものでも,証券取引法86条,原告の定款2条1項に抵触するものでもない。この点は,原告の専務理事であった被告Y1がB証券会社の証券業免許の申請手続に直接関与していることを知っていた証券業務課においても,何ら問題視しておらず,むしろ被告Y1は,B証券会社の設立に関して証券業務課から積極的な指導,助言を受けていた。そして,B証券会社は,同法に基づく厳正な審査を経て証券業免許を取得している。これらのことから,被告Y2は,B証券会社は適法に設立された会社であると認識していた。
(ウ)

被告Y2は,B証券会社の設立資金について,当初は原告が出捐す
る構想があったこと,しかし,その後同構想が中止になり,原告との資本関係をなくし,設立申請者がB証券会社の株券を担保として銀行から融資を受けて工面することになったものと認識していた。これによると,銀行から融資を受けることが困難であればB証券会社は設立できなくなるが,被告Y2は,それもやむを得ないと考えていた。被告Y2は,被告Y1から,B証券会社の設立出資者となるJ社が出資金を調達する方法として,H社が丙銀行から10億円の融資を受け,J社がその中から9億8000万円を借り受けて出資金とするとの説明を受けたが,10億円の国債がH社の丙銀行に対する10億円の債務の担保とされること,同国債の調達方法,その調達資金の出所等については一切知らなかった。(エ)

被告Y2は,原告と資本関係のないB証券会社の運営コストについ
て,原告が関連会社を通じて負担するという考えは全く持っていなかった。被告Y2は,被告Y1から,B証券会社の営業努力等によって十分収益を確保することができる旨の説明を受けており,そのように考えていた。また,被告Y2は,B証券会社の設立手続を担当し,設立後にはその代表者に就任する予定であったfからも,被告Y1同席の場で,設立から約3年経過後の時点で黒字となることは十分可能である旨の説明を受けていた。
(3)

争点③(原告の損害の有無及びその額)【原告の主張】ア
本件各取引による損害

2億6389万3306円

A社が本件各取引を行った結果,A社には次の損失が発生した。
(ア)

本件株券オプション取引等による損害

1億6761万9261円

A社は,本件株券オプション取引等において,売買損5700万7948円が生じ,また,証券会社に対する支払手数料1億1061万1313円を支払っている(なお,被告Y2の関係では,平成11年5月1日から平成12年4月30日までの間に負担した売買損及び証券会社に対する支払手数料の合計1億1846万9949円を損害額とする。。以上の損失及び支払手数料は,外形上は取引の注文者で)
あるA社に発生したものであるが,A社は,これらを負担する収益,資産がなく,売買損の補てん及び手数料等の支払は,D社から調査研究委託契約や市場開拓調査業務委託契約に基づく委託費の名目で受領した金員を充てている。しかし,D社とA社との間の上記各契約は実体のない架空のものである。そして,D社がA社に支払った上記金員は,原告に帰属すべき下記(a)及び(b)の事業における収益が被告Y1の指示に基づいてD社に移動されたものを原資としたものであるから,A社が上記の損失等の支払に充てた金員は,原告が出捐した金員又は原告に帰属すべき収益が原資となっているものである。したがって,上記損失等の負担者は原告というべきであり,原告は上記損失等相当額の損害を被った。
(a)NTTの回線提供業務に係る事業関係
東京に本社を有する原告の会員証券会社に対する東京・大阪間の
NTTの専用回線の提供業務(以下,この業務に係る事業を東京アクセスポイント事業という。)に関して,D社は,原告の会員
証券会社が支払う利用料を収受していた。しかし,東京アクセスポイント事業は,原告のシステム部において,立案,NTTとの間における同事業に必要な設備に関する協議,会員証券会社に対する同事業開始の通知等の同事業の開始に伴う一切の事務手続を行い,原告の100%子会社であるC社において,平成9年4月30日に同事業を行うために必要な電気通信事業の届出をし,D社が設立された同年6月5日より前の同年5月19日から開始されたものである。そして,同事業の開始後は,原告のシステム部が会員証券会社に利用料を請求し,会員証券会社は,利用料を原告の口座に振込入金し,その後,当該利用料は原告からC社に支払われた。
他方,D社は,同年6月5日に設立されたが,東京アクセスポイ
ント事業を行うのに必要な電気通信事業の届出を行ったのは,同事業が開始されてから約10か月経過した後の平成10年3月16日である。
被告Y1は,東京アクセスポイント事業の収益をD社に付け替え
ることとし,D社が電気通信事業の届出をした同年3月の前月である同年2月までに生じた利用料については,D社において未収金として計上する一方,C社において未払金として処理し,同年3月以降の利用料は,いったん原告の口座に入金された後,原告からC社に支払われ,さらに,C社からD社に支払われるようになった。
以上のことからすると,東京アクセスポイント事業は,実質的に
は原告の事業として実施されていたというべきであり,その収益は原告に帰属すべきものである。
(b)電子計算機レンタル事業関係
丁社は,平成9年4月と同年11月に,原告の指数オプション取
引管理システム用の電子計算機各1台(本件各電算機)を原告の電算センターに搬入した。原告は,システムが正常に作動することが確認された後,C社において本件各電算機を賃借又は購入することを予定していた。しかるに,被告Y1は,D社の収入を捻出するため,D社が本件各電算機を丁社から無償で借り受ける一方,C社との間でD社が設立される前の期間を加えて本件各電算機を賃貸することとした。そして,D社は,平成10年2月17日付けで,丁社に対して本件各電算機の使用貸借に関する書面を交付し,同年3月1日付けで,C社との間で本件各電算機についての賃貸借契約書を交わし,C社は,本件各電算機をD社から購入する同年9月まで,D社に対し,同契約所定の賃料額の支払をした。
しかし,本件各電算機は,C社が丁社から直接賃借又は購入する
予定のものであったのであり,本来,C社はD社に対して上記賃料を支払う必要はなかったのである。なお,本件各電算機は,同年3月31日付けで丁社からD社に対して8億円で売却され,同年9月30日付けでD社からC社に7億5948万4000円で売却されている。

原告が出捐した金員又は原告に帰属すべき収益と主張しているものが,仮にC社が出捐した金員又はC社に帰属すべき収益であるとしても,原告は,C社の全株式を所有して,C社の財産を直接的に把握,支配しているから,C社が損害を被ったことによりC社の資産価値が減少すると,C社の株式の価値も同額分減少することになり,結局,原告も同額の損害を被ることになる。また,以上によれば,C社に帰属すべき収益は,原告に帰属する収益とみなすことができる。したがって,A社が負担した上記売買損及び支払手数料等がC社に帰属すべき収益を原資として補てんされたとしても,それは原告が負担したことに帰するから,被告らによる違法な本件株券オプション取引等により原告が被った損害となる。(イ)

本件J-NET取引による損害


証券会社に対する支払手数料


消費税


9627万4045円
6718万4577円

有価証券取引税

335万9016円
2573万0452円

A社は,本件J-NET取引において,上記a∼cの合計9627万4045円の費用等を支払った。この費用等は,原告が,
ソフトウェア導入一時費用名目の9627万4000円を含むJ-NETシステムの開発費用及び維持費用としての8億6750万8623円をC社に支払い,C社が,このうちの9627万4045円を新市場開拓金名目で受け入れた上で同額をD社に支払い,D社が,
新市場開拓金
名目で同額を受け入れた上でA社に支払うことにより補てんされている。このように,原告の上記金員の支出は,A社における本件J-NET取引に要した上記費用等の支払に充てるために行われ,上記金員は上記費用等に充てられている。したがって,上記費用等の負担者は原告であり,原告は上記費用等相当額の損害を被った。

B証券会社設立に係る損害
(ア)

2億0635万2000円

設立資金の回収不能による損害

1億1000万0000円

上記(2)【原告の主張】ア(イ)のとおり,原告が出捐した10億円が,C社,D社,H社を経てJ社に渡り,J社はこれをB証券会社の設立資金9億8000万円に充て,B証券会社の全株式9800株を取得した。D社は,その当時,純資産が3371万円の会社であり,上記10億円を返済する資力はなかった。H社も,その当時,純資産が1998万5000円の会社であり,上記10億円を返済する資力はなかった。J社も,その当時,純資産が717万6000円の会社であり,上記10億円を返済する資力はなかった。B証券会社も,設立資金に見合う資産価値を有する会社ではなかった。このように,原告が出捐した10億円の回収可能性は低いものであった。その後,J社は,保有していたB証券会社の株式9800株全部を8億7000万円でしか売却できなかったので,設立資金9億8000万円のうち1億1000万円が回収不能額として確定した。
J社は,その当時,実体のない会社であり,上記損失の確定は,H社のJ社に対する貸付金9億8000万円のうち1億1000万円が回収不能になったことを意味し,H社は同額の損害を被った。H社は,上記B証券会社の株式売却当時,C社の100%子会社であったから,C社はH社の上記回収不能額に相当する損害を被ったことになり,さらに,原告の100%子会社であるC社の上記損害は原告の損害となる。以上のとおり,原告は,B証券会社の設立資金に充てられた10億円の出捐に関して,1億1000万円の損害を被った。
(イ)

借入金の利息支払による損害

3184万2000円

被告らは,B証券会社の設立に際し,原告のB証券会社に対する支配関係を隠蔽するため,H社をして丙銀行から10億円を借り入れさせ,同資金をJ社に再融資させるという複雑な資金取引を行った。この結果,H社は丙銀行に対して3184万2000円の利息債務が生じ,J社はH社に対して3222万2000円の利息債務が生じた。H社は,丙銀行に対する利息を,J社から支払われたH社に対する利息をもって支払ったから,上記H社の利息債務は,実質的にはJ社が負担したことになる。
J社は,原告がC社に月額1000万円の委託料で委託していた売買システムに係るシステムエンジニアリングサポートサービス業務(以下SESS業務という。
)について,C社から月額1250万円の委
託料で再委託を受け,さらに,J社が丁社に月額1000万円の委託料で同業務を再々委託をするという取引関係を形成し,J社がC社から支払われる委託料とJ社が丁社に支払う委託料との差額収入によりC社に対する利息を支払った。
上記取引関係は,H社の丙銀行に対する利息債務を原告が負担するために被告Y1の指示により形成されたものであり,原告の100%子会社であるC社による上記差額の出捐は,原告に帰属する負担となるものである。
原告の上記3184万2000円の利息相当額の負担は,違法なB証券会社の設立に伴って生じたものであるから,被告らの上記善管注意義務違反行為と相当因果関係のある損害である。
(ウ)

国債の売却による損害

6451万0000円

D社は,B証券会社の設立に関して10億円の国債を購入し,これをH社が丙銀行から10億円の借入れをする際の担保として提供した。D社は,同国債を購入する際に証券会社に対して25万円の手数料を支払った。D社は,平成12年8月18日,同国債を売却処分したものの,9億3574万円でしか売却できず,6426万円の損失が生じた。以上の手数料の支払及び損失はD社に生じたものであるが,D社は実体のない会社であり,上記国債の購入資金は原告に帰属すべき収益が原資となっているから,D社に生じた上記国債の購入手数料の支出及び売却損は,原告に帰属すべき収益がその分減少したことになる。したがって,上記手数料支出及び売却損の負担者は原告である。また,C社は,平成12年4月にD社の株式全部を取得し,D社はC社の100%子会社となっていたから,D社の損害はC社の損害となり,原告の100%子会社であるC社の同損害は原告の損害となるものである。
上記国債の売却による損失6451万円は,違法なB証券会社設立に伴って生じたものであり,上記国債の購入に際して支払った手数料も,違法なB証券会社設立に伴う費用として原告の負担において支出したものであるから,これらは被告らの上記善管注意義務違反行為と相当因果関係のある損害である。

原告の名誉及び社会的信用の毀損に係る損害

5000万0000円

被告らは,善管注意義務に反して,証券取引法等に反するB証券会社の設立を主導し,又は関与し,違法な本件各取引を反復継続させた。これにより,原告が開設するX市場の公正さが著しく害され,投資家及び国民の原告に対する信用の失墜を招いたほか,被告らによる上記行為は,被告らの原告における地位との関係で原告自身の行為と見られたことから,原告は,証券取引等監視委員会から,内閣総理大臣及び金融庁長官に対する金融庁設置法20条1項の規定に基づく勧告を受け,また,金融庁から,平成15年法律第54号による改正前の証券取引法155条に基づき,行政処分として業務停止命令,業務改善命令を受け,これらが報道された。その結果,公正円滑な証券取引を確保する自主規制機関の立場にある原告の名誉及び社会的信用が著しく毀損された。
被告らの上記善管注意義務違反行為より原告が被った名誉及び社会的信用の毀損による損害は,5000万円を下らない。

被告らの損益相殺の主張について
被告ら主張の金員が原告の損害との関係で損益相殺の対象となるものであることは争う。
証券会社は,原告の正会員として加入を申請し,原告が加入を承認したときは,原告の定款の規定に基づき,先物取引等特別負担金,特別会費及び入会金を支払わなければならない。B証券会社も,原告に対し,上記負担金等を支払っているが,同支払は,他の証券会社と同様に,原告が定款に定めた正会員の義務の履行として行ったのであって,原告の正会員になることに対する対価の性質を持つものである。したがって,同支払による原告の利得は,被告らの行為により原告が損害を被ったのと同一の原因によって利益を受けた場合に当たるものではなく,本件における原告の損害との間で損益相殺の対象となるものではない。
【被告Y1の認否,主張】

認否
争う。


主張
(ア)

本件各取引による損害について
本件株券オプション取引等について
(a)原告が主張する本件株券オプション取引等に係る損失は,すべて,取引の当事者であるA社に生じた売買損又は取引手数料等の費用である。A社は,資本関係上も人的関係上も原告とは直接の関係がない別個独立の法人であり,独自の業務目的を持った企業体である。したがって,A社に生じた損失や費用を原告の損害と評価することはできないし,本件株券オプション取引等と原告の主張する各損害との間に相当因果関係はない。
(b)D社は,東京アクセスポイント事業という電気通信事業を行うことを予定して設立されたものであり,D社が電気通信事業の届出を行うまでの間,C社が同事業を代行していた。D社は,設立後,同事業に必要な通信回線を自己の負担において敷設するなど,X市場参加者のための通信インフラストラクチャーを提供し,独自に東京アクセスポイント事業及び電子計算機レンタル事業を行って収益を得ていた。
原告は,東京アクセスポイント事業は原告の事業として実施され
ていたと主張するが,同事業を行うには電気通信事業者としての届出を始めとして,電気通信設備に関する投資等を行う必要があるが,原告がそれらの行為を行った事実はない。なお,原告は,東京アクセスポイント事業における利用料の徴収
等を行っていたが,これは,単にD社の業務を代行していたにすぎない。また,D社及びC社は,マーケットメイクを事業目的に掲げるA社に対して市場開拓調査等を委託し,A社は,委託された業務を行った。原告が主張するC社及びD社とA社間の金員の支払関係は,いずれも,それぞれの間における実際の業務委託取引に基づく正当な対価の授受である。
(c)原告とC社との間の金員の授受はすべて短期貸付けであり,これらはすべてC社から原告に返還されているから,同金員に関して原告に損害は発生していない。

本件J-NET取引について
本件J-NET取引は,適法に認可を受けて原告において新たに開始されるJ-NET取引の内容を広く正しく理解してもらうために,A社によりデモンストレーションとして行われたものであり,その結果,証券取引法の目的とするJ-NET取引の円滑化のために十分な効果を上げた。本件J-NET取引が上記のようなものであり,それに要した費用は,原告におけるJ-NET取引の定着を図るための費用であって,原告が委託したマーケティング取引に関する費用であるから,原告が負担すべきものである。そして,同費用の支出は,原告の適正な内部決裁手続を経てされており,それが原告の損害となるものではない。

(イ)

B証券会社の設立に係る損害について
はじめに
原告がB証券会社の設立に関連して原告に生じたと主張する損害は,いずれも原告とは全く別個独立の法人に生じた損失等にほかならず,原告の損害になるものではない。また,B証券会社は,その事業計画によれば,長期事業として収益を確保できる事業を予定していたところ,経常収支が黒字になる前の設立後2年も経たない時期に,原告の意向により,B証券会社の株式及び国債を処分することになったことから,J社やD社に原告の主張する損失が発生したのである。これらの損失は,B証券会社が営業を継続していれば生じなかったものであり,B証券会社の設立行為と原告主張の損害との間に相当因果関係はない。

出資金の回収不能による損害(1億1000万円)について
(a)原告は,J社が支出したB証券会社の設立資金9億8000万円は,実質的に原告が支出したものであると主張するが,J社の上記支出は,H社が丙銀行から借り入れた10億円の中からJ社が更に借り入れた金員で行ったのであり,形式的にも実質的にも原告が支出し,又は負担したものではない。
(b)また,B証券会社は,大蔵省の指導,助言の下に永続的な会社として設立されたものであるから,J社が出資した時点で,J社のB証券会社に対する設立資金の全額が回収できる可能性が極めて低かったなどという事情はなかった。
(c)J社は,形式的にも実質的にも原告とは別個独立の法人であり,原告との間に何らの資本関係もないから,仮に同社に1億1000万円の損失が生じたとしても,それを原告の損害と評価することはできない。


借入金の利息支払による損害(3184万2000円)について
J社のH社に対する借入利息の支払は,原告とは別個独立した法人であるJ社自身の収入によって行われたものであって,原告が負担したものではない上,B証券会社の株式を長期的に保有していれば,J社が負担する支払利息はB証券会社の配当等ですべて賄うことができた。

国債の売却による損害(6451万円)について
国債の売却損は,長期に保有することを前提に取得した国債を償還期限前に処分した結果,D社に生じたものであり,原告に生じたものではない。
国債は,償還期限まで保有していれば,少なくとも元本が保証されるものである。D社は,その償還期限前に売却することを予定して国債を購入したわけではなかったが,売却当時の原告の理事長らの意向により,国債を償還期限前に売却させられたため,売却代金が元本割れの価格となった。したがって,国債の売却による損害の発生は,国債購入後の事情によるものであるから,B証券会社の設立の違法とは無関係であり,また,専ら原告の判断により行われたものであるから,被告らの責任に帰せられるものでもない。

(ウ)

名誉及び社会的信用の毀損に係る損害について
原告主張の名誉,信用の毀損は,原告自らが,事実に反して,
違法取引等をねつ造して行政当局に説明し,マスコミ等に喧伝するという行為をしたことによってもたらされたものであり,被告らの行為との間に相当因果関係はない。
(エ)

損益相殺について
原告は,本件各取引に関して,その取引を行った会員証券会社から定率会費(市場執行定率負担金)として138万3815円を得た。同収入は,本件各取引により生じたものであるから,本件各取引により生じた原告の損害額を算定する際に損益相殺の対象とすべきである。

原告は,B証券会社から,B証券会社が原告の正会員権を取得するために支払った先物取引等特別負担金1億0035万円,特別会費5141万円及び入会金60万円,以上合計1億5236万円を収納して利得している。同収入は,原告の損害額を算定する際に損益相殺の対象とすべきである。

原告は,B証券会社から定額会費として毎月25万円を徴収しており,B証券会社が原告の会員となった平成11年12月から平成18年8月までの81か月間に2025万円の収入を得た。これはB証券会社が設立されて原告の会員証券会社となったことにより生じたものであるから,原告の損害額を算定する際に損益相殺の対象とすべきである。

【被告Y2の認否,主張】

認否
争う。


主張
(ア)

本件各取引に係る損害について
原告の主張する本件各取引に係る損失等は,すべて,取引の当事者であるA社に生じたものである。A社は,原告とは別個独立の法人であり,しかも原告とは直接の資本関係もないから,A社に生じた損失等を原告の損害と評価することはできない。


また,本件各取引と原告の主張する各損害との間には,相当因果関係がない。


損益相殺
上記【被告Y1の認否,主張】イ(エ)aと同じ。

(イ)

B証券会社の設立に係る損害について
出資金の回収不能による損害(1億1000万円)について
上記【被告Y1の認否,主張】イ(イ)bと同じ。


借入金の利息支払による損害(3184万2000円)について原告の主張するB証券会社の違法な設立行為とJ社のH社に対する借入金の利息支払による損害との間には,相当因果関係がない。

国債の売却による損害(6451万円)について
上記【被告Y1の認否,主張】イ(イ)dと同じ。


損益相殺
上記【被告Y1の認否,主張】イ(エ)bと同じ。

(ウ)

名誉及び社会的信用の毀損に係る損害について
仮に,原告の主張するように,B証券会社の設立や本件各取引が違法
であったとしても,上記(ア)及び(イ)のとおり,これによって原告には何らの財産的損害も発生していないのであるから,このような状況において原告に無形の損害が発生するとの主張は失当である。
また,本件各取引に関して原告に社会的信用が下落した事実があるとしても,それは,原告自らが,被告らの正当な弁明を聞かないまま,違法な設立や違法取引をねつ造して行政当局に説明し,マスコ
ミ等に喧伝するという行為をしたことによってもたらされたものであり,被告らの行為との間に相当因果関係はない。
第3
1
当裁判所の判断
事実認定
前提事実並びに項目下の[]内に記載する証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)

本件各取引関係
本件各取引が開始される前の状況等
[甲60の1・2・4,61,62の1,乙21,弁論の全趣旨](ア)

原告は,昭和63年に開始した日経225先物取引において成功を
収めるなど,
デリバティブ(派生証券)のXと呼ばれ,先物取引に
関しては他の証券取引所に対して優位な取引状況に立っていたが,いわゆるバブル経済崩壊後の平成4年ころから,先物取引に対して各種の規制が課せられるようになり,先物取引の出来高が減少してきた。また,現物株取引に関しては,その出来高において東証に大きく劣後するなど,低調な状態が続いていた。このような状況の中,原告は,平成8年ころ,日経225先物取引に代わる収益の柱となる商品として,株式を対象とするオプション取引の開始を考えていたところ,東証も同様の考えを持っていたことから,当時の大蔵省を交えた協議の結果,原告と東証が同時に株券オプション取引を開始することとなった。上場する株式は,原告及び東証とも20銘柄ずつであり,そのうちの7銘柄は共通のもの(共通7銘柄)であった。
被告Y1は,そのころ,原告の業務全体を取りまとめる総轄及び総合企画担当の専務理事であり,その後,システム部門も担当し,実質的に原告の運営に関する事項の企画,決定をしていた。被告Y1は,以上の経緯で株券オプション取引が開始されるに当たり,その出来高において,原告が東証を上回らなければならないと考えていた。
(イ)

被告Y1は,平成9年6月20日ころ,原告の元職員であり,C社
の総務部長であったcに対し,株券オプション取引において東証に負けるわけにはいかないこと,そのために会社を設立してマーケットメイクをしようと考えていること,cに設立会社の社長に就任してもらい,設立会社において行うマーケットメイクを担当してほしいことなどを伝え,A社を設立するよう指示した。その際,cは,マーケットメイクについてよく分からないので引き受けられない旨の返事をしたが,被告Y1から,言われたとおりにA社名義で注文すればよいなどの話がされた。cは,上記指示を承諾し,A社の設立手続を行い,同年7月4日,A社が設立された。A社の出資者,役員,従業員,本店所在地等は,前提事実の(2)ウのとおりである。なお,A社の本店事務所には,電話の取次及び留守番役をするためのパートタイマーが1人いた。イ
本件株券オプション取引に関する事実関係
(ア)

株券オプション取引の仕組み

[甲57,60の2,68,69]
オプションとは,特定の商品を定められた期日に定められた価格で買い付ける又は売り付ける権利のことであり,このうち現物株を対象としたものが株券オプションである。この買い付ける権利をコールオプション,売り付ける権利をプットオプションという。
株券オプション取引においては,現物株取引の売りに相当するものをオプションの付与,買いに相当するものをオプションの取得という。(イ)

本件株券オプション取引の状況等
平成9年7月からB証券会社が業務を開始する日(平成10年12月21日)の前日まで
[甲60の4・5,62の1・2,63の1・2,87,乙21,証人o]
(a)被告Y1は,株券オプション取引が開始された平成9年7月18日,原告の職員であるp及びqに対し,株券オプション取引について,A社を通じてマーケットメイクをすること,東証に負けないように出来高を作ることなどを伝えた。
同日における株券オプション取引の出来高は,原告が5524単
位,東証が4989単位であったが,共通7銘柄については,原告が1166単位,東証が3570単位であり,共通7銘柄のうち被告Y1が重視していたソニー株については,原告が975単位,東証が2428単位であった。被告Y1は,上記出来高に関する報告を受けていた。なお,同日には,A社からの株券オプション取引の注文はなかった。(b)被告Y1は,翌取引日である同月22日,上記p及び原告の職員であるrに原告及び東証の各株券オプション取引の各出来高を報告させて東証の出来高を確認し,A社名義で注文する株券オプションの銘柄,数量,価格を決定した。被告Y1は,p及びrをしてcに連絡させ,当該銘柄,数量,価格による株券オプション取引の発注指示をした。cは,同指示を受けて,乙証券会社又は甲証券会社を介して,A社名義で同指示に係る注文をした。A社が上記の方法で同日に注文し,成約した株券オプション取引は,別紙F(その1の1)のNO.1∼NO.26に記載のとおりであり,そのうちのNO.7,NO.8及びNO.14の取引は,A社が,特定の銘柄のオプションを一定数量付与(売付け)し,これと同時期に,同一銘柄のオプションを同数量取得(買付け)するいわゆる自己両建ての株券オプション取引である(以下,この形態の取引を自己両建て取引という。。同日に成約した株券オプション取引は,A社と他)
の投資家との間における取引の出来高が自己両建て取引の出来高を上回った。
(c)被告Y1は,同月24日以降,rら原告の職員に対し,これからは同人らがA社に対する発注指示を行うこと,その際に,売注文に対しては買い向かい,買注文に対しては売り向かうこと,できるだけ狭いスプレッドで気配を出すこと,仕入れのために自己両建て取引をしてもよいこと,自己両建て取引で仕入れた建玉については別々に売り崩すこと,建玉を長期にわたって保有しないこと,損益を気にしないこと,株券オプション取引に係る原告と東証との出来高の差が大きく開く場合は,被告Y1に知らせることなどを伝え,A社に対する発注指示を行うよう命じた。同日以降,rら原告の職員がA社に対して発注指示を行うようになったが,被告Y1が直接発注指示を行うこともあった。被告Y1は,rら原告の職員にA社に対する株券オプション取引
の発注指示を任せるようになった後も,原告の先物取引部が作成した株券オプション取引X・東証取引高比較と題する書面(甲6
0の4の資料1)及び株券オプション取引高速報と題する書面
(甲60の4の資料8)により,原告及び東証の各株券オプション取引の出来高の報告を受け,また,rら原告の職員に対し,立会時間終了後,A社の建玉の残数を報告させ,その際に,同人らに対し,翌日午前の寄付で発注する株券オプションの銘柄,数量,価格などの指示をすることがあった。
また,被告Y1は,同月下旬ころから,bに対し,cと1週間交
代でA社名義による株券オプションの注文をするよう指示した。bは,cから,株券オプションの注文の仕方について説明を受け,そのころから,cと同様に,原告の職員らからの発注指示を受けて,A社名義で乙証券会社及び甲証券会社を介して株券オプションの注文を行った。bは,その当時,C社の取締役であり,A社の役員でも従業員でもなかった。
(d)同月23日から同月31日までの間に成約したA社名義による株券オプション取引は,別紙F(その1の1)のNO.27∼NO.261に記載のとおりである。
(e)被告Y1は,同年8月ころ,原告の総合企画部付部長であったgに対し,A社に対する株券オプション取引の発注指示を行うよう命じた。被告Y1は,同月下旬ころ,前記rら原告の職員を本来の業務に戻し,同月以降,gに上記発注指示をさせた。gは,被告Y1に対し,A社の発注状況,原告及び東証における株券オプション取引の出来高並びにA社の建玉の残数等を報告した。(f)bは,同月1日,甲証券会社の職員から,A社名義で注文されていた株券オプション取引に関して,自己両建て取引をすると同時に同取引による建玉と対当する内容の自己両建て取引で埋め戻す取引や,自己両建て取引をすると同時にこれを転売し又は買い戻す取引は仮装取引に当たる疑いがあるとして,注文を受けることができないとの指摘を受けた。bは発注指示を担当していた原告の職員らに対し,cは被告Y1に対し,それぞれ同指摘を伝えた。しかし,その後も,上記原告の職員らからの自己両建て取引を行うことを内容とする発注指示が続いた。
(g)gは,平成10年1月ころ,被告Y1に対し,株券オプション取引に関して,専らクロスを振っている(自己両建て取引を行っているという意味である。旨報告した。これに対し,被告Y1は,

レッグを立てるという表現を用いて,両建ての建玉はそれぞれ
独立して処理するよう指示する一方,損を出してもかまわないのでもっと流動性を出すようにしろなどと指示した。
gは,同年6月中旬ころ,原告の先物・オプション部長に異動し
たが,それ以降も,c又はbに対し,A社名義による株券オプション取引の発注指示をした。
(h)cは,同年8月18日,乙証券会社の職員から,A社名義で注文されていた株券オプション取引につき,A社の投資意図がわからない,将来第三者の検査が入ったときに問題として指摘されるおそれがあるなどの指摘を受けた。cは,被告Y1に対し,同指摘があったことを書面で報告した。被告Y1は,cに対し,A社名義による乙証券会社への注文を打ち切るよう指示し,cは,同月19日を最後に,乙証券会社を介した株券オプションの注文を打ち切った。
(i)平成9年8月1日から平成10年12月20日までに成約したA社名義による本件株券オプション取引は,別紙F(その1の1)のNO.262∼NO.1494及び別紙F(その1の2)のNO.1∼NO.28に記載のとおりである。

B証券会社の業務開始日(平成10年12月21日)から平成12年3月まで
[甲60の8・9,62の1・2,63の1・2,64∼67,68の1∼5,86,87,乙21,証人o,証人j]
(a)原告の職員であったoは,被告Y1から,マーケットメイク制度に関する研究を命じられ,平成10年3月30日ころ,被告Y1に対し,
マーケットメークに関する検討と題する書面(甲60の
8の資料1,甲87の資料1)を提出した。oが上記書面において想定していた一般的なマーケットメイク制度とは,証券市場を開設する主体が,規則を制定した上で,証券会社からマーケットメーカーを募り,マーケットメーカーとなる証券会社に対し,マーケットメイク対象銘柄の独占的取扱い,会費の割戻し等のメリットを与える一方,市場に流動性を供給する義務を課すものであり,ここでいう流動性の供給とは,マーケットメーカーに常に一定の売り気配
(注文)及び買い気配(注文)を提示させ,いつでも投資家が売買を成約させることのできる状況を作り出すというものである。
被告Y1は,同年秋ころ,oに対し,上記書面に記載の内容のマ
ーケットメイクでは即効性が期待できないこと,設立予定のB証券会社(その設立経緯は,後記(2)のとおり。
)と投資会社を使えば
確実に取引が増やせること,これらの会社には原告のOBがいて被告Y1の言うことを聞くことなどを伝えた上で,原告が司令塔となり,原告における株券オプション取引の出来高をかさ上げするために,投資会社とB証券会社との間で,一方が売り方,他方が買い方となり,同一の内容の銘柄等で対当する注文をさせて取引を行うという方法を記載した書面を作成するよう指示した。
oは,同年11月16日,上記指示に基づき,
マーケットコンストラクションに係る整理と題する書面(甲60の8の資料2,甲87の資料2)を作成して,被告Y1に提出した。oが同書面の表題をマーケットコンストラクションとしたのは,同書面にま
とめた被告Y1の提唱する上記方法が一般的なマーケットメイクとは異なる内容のものであり,その点を明確にする趣旨からであった。(b)被告Y1は,同年12月ころ,o及び原告の先物総務課の職員に対し,上記(a)のマーケットコンストラクションに係る整理と
題する書面に記載の司令塔の役割をするよう指示したが,oらは同指示を断った。
(c)被告Y1は,同月ころ,gに対し,B証券会社を介したA社名義による株券オプション取引の発注指示をするよう指示し,bに対し,同発注指示に従ってB証券会社を介した注文をするよう指示し,B証券会社の代表取締役であったf及び取締役であったkに対し,A社からB証券会社を介して株券オプションの注文をするので,B証券会社が同注文に対して自己勘定で対当する注文をして取引を成約させるよう指示した。
bは,平成11年1月ころ,dからも,B証券会社を介してA社
名義による株券オプションの注文をするよう指示を受けた。
甲証券会社を介したA社名義による株券オプションの注文は,同
月26日を最後に打ち切られた。B証券会社が業務を開始した日以後における甲証券会社を介したA社名義による株券オプション取引は,別紙F(その1の2)のNO.29,NO.32,NO.33,NO.37∼NO.41,NO.43∼NO.45,NO.54,NO.60,NO.66に記載のとおりである。(d)bは,同年始めころまで,原告の職員から発注指示を受けた株券オプション取引について,A社名義で注文していた。bが行ったB証券会社を介した株券オプションの注文は,銘柄,価格,数量,売り買いの別,新規又は転売若しくは買戻しの別を具体的に指定して行われた。これに対し,B証券会社は,同注文に対当する注文を自己勘定で行い,取引を成約させた。
bは,その間の平成10年12月上旬ころ,cから,A社の代表
取締役社長に就任することを依頼され,そのころ,同職に就任した。なお,登記簿上,bの同職就任日は,同年11月16日となっている。
(e)gは,平成11年1月ころ,bに対し,今後B証券会社にはgが直接発注すると伝え,このことは,bを介してkに伝えられた。
(f)被告Y1は,同年4月1日,gを先物・オプション部長から総合企画部付部長に異動させ,後任に先物取引管理課長であったhを当てた,被告Y1は,その際,hに対し,株券オプション取引の出来高について,後場において原告が東証に負けているようなら,東証を上回るだけの出来高量をB証券会社に伝えるよう指示し,そうすれば,B証券会社が出来高を作ってくれるはずであるとの話をした。hは,同指示に基づき,B証券会社に対し,株券オプション取引
の出来高で原告が東証に勝つために必要な出来高数を連絡するので,B証券会社において銘柄を選定して値段を決め,自己両建て取引をするよう指示し,原告の先物取引管理課の職員であるm課長及びiをして,上記の連絡をさせた。
fは,そのころ,kから,B証券会社自身が対当する売り買い両
方の注文をして,原告の発注指示の担当者から連絡を受けた上記出来高数に見合う株券オプション取引(B証券会社自己取引)を成約させている旨の報告を受けるとともに,同取引は,不審な取引と見られるほか,手間がかかるのに手数料が入らないというものであったことから,実行しないものもあるとの報告を受けた。そのころ,B証券会社では,1日当たり1000単位という枠を設け,それ以上の数の上記取引を行わない方針が立てられた。
(g)被告Y1は,同年6月ころ,原告における株券オプション取引の出来高が東証より少ない日が目立ったことから,同年7月ころ,hに対し,上記(f)の指示内容による取引の実施を徹底するよう申し向け,また,fに対し,上記出来高が東証より少ないときには積極的にB証券会社において出来高を増やし,東証に負けないようにするよう申し向けた。
被告Y1は,同年10月ころ,hから,B証券会社から自己取引
を断われた旨の報告を受け,同月下旬ころ,hを株券オプション取引の発注指示の担当からはずし,後任に原告の総合企画部企画課の職員であったjを充てた。
同年11月以降,株券オプション取引に関して,原告の職員から
直接B証券会社に対する発注指示はなくなった。
(h)被告Y1は,同年12月中旬ころ,jを株券オプション取引の発注指示の担当からはずし,同月17日ころ,再度,gに株券オプション取引の発注指示を担当させた。被告Y1は,その際,gに対し,出来高が東証に負けているとき,勝てるだけの分をA社からB証券会社を介して注文し,B証券会社が自己勘定で受けてくれることになっている旨の説明をした。
(i)被告Y1は,平成12年3月ころ,原告において,前提事実の(2)の本件に関係する各会社の設立及び原告との関係が問題視されるようになったことに伴い,gに指示して株券オプション取引を終了させた。
(j)B証券会社の業務開始日(平成10年12月21日)から平成12年3月までに成約した上記(d)の形態によるB証券会社を介したA社名義の株券オプション取引は,別紙F(その1の2)のNO
.30,NO.31,NO.34∼NO.36,NO.42,NO.46∼NO.53,NO.55∼NO.59,NO.61∼NO.65,NO.67∼NO.433に記載のとおりであり,同じく上記期間において成約した上記(f)の形態によるB証券会社の自己取引は,別紙F(その2)に記載のとおりである。

本件株券売買取引に関する事実関係
[甲60の8,62の1・2,63の2,67,68の1,86,乙21,証人j,被告Y1本人]
(ア)

被告Y1は,平成9年8月1日,A社のcに対し,X市場において,
A社名義で日本興業銀行株等の買入れ注文をするよう指示した。上記指示に基づき,別紙AのNO.1∼NO.13記載の現物株の売買取引が行われた。
(イ)

被告Y1は,平成10年12月,B証券会社のf及びkに対し,A
社からB証券会社を介して現物株につきスダレ防止のための注文をするので,同注文に対当する注文をB証券会社が自己勘定で行って売買を成約させるよう指示した。
なお,
スダレという表現は,上場株式の売買が成約していない場
合,新聞の株式市況欄中の当該株式の価格欄は-という表示になり,この表示が増えるとスダレのように見えることから使われているものであり,市場において売買が成約していない株式の銘柄が多くある状態を表現するものである。(ウ)

被告Y1は,同月30日,jに対し,dの下で共通7銘柄の株券オ
プションのマーケットメイクを担当してもらうが,予行演習として,共通7銘柄の現物株について値付けをすること,B証券会社にその取引をさせることなどを指示した。
jは,取引のやり方についてkと協議を行い,jにおいて現物株の銘柄を決めてB証券会社に発注指示をし,B証券会社が自己勘定で取引の相手方となること,取引量は1単位とすること,約定価格の決定はB証券会社に任せることなどを決めた。
jは,上記取決めに従い,B証券会社に対し,共通7銘柄の現物株の買付けを指示し,B証券会社は,上記指示に従い,共通7銘柄の株式について,A社からの注文として買付け注文をするのと同時に,自己勘定で同買付け注文に対当する売付け注文をして,売買を成約させた。また,dも,同日ころから,bに対し,A社名義による現物株の売買取引の発注指示をした。
(エ)

jは,平成11年1月7日,被告Y1の指示により現物株の売買取
引の発注指示をいったん止め,J-NET取引に係る業務に専念した。dは,同年3月25日,被告Y1の指示により現物株の売買取引の発注指示をいったん止めた。
(オ)

被告Y1は,同月下旬ころ,jに対し,再度,上記(ウ)の形態によ
る現物株の売買取引をするよう指示した。jは,同年4月19日から同年12月16日ころまで,同指示に基づき,B証券会社に対する発注指示をした。jは,B証券会社に対し,現物株の銘柄,売り買いの別のみを伝え,B証券会社が価格を決定していた。
(カ)

平成12年3月ころ,原告において,前提事実の(2)の本件に関係
する各会社の設立及び原告との関係が問題視されるようになったことに伴い,本件株券売買取引は終了した。(キ)

上記(ウ)∼(オ)の経過で成約した本件株券売買取引は,別紙AのN
O.14∼NO.7307に記載のとおりである。

本件J-NET取引に関する事実関係
(ア)

J-NET取引について

[甲61,86,乙18の1・2,21,証人j]

J-NETとは,原告の電子情報による売買システムをいう。J-NET取引とは,J-NETを用いた相対交渉方式によって行う有価証券の売買をいい,単一銘柄取引とバスケット取引の二種類の取引形態がある。
バスケット取引とは,銘柄数が15以上の内国株券又は転換社債券を同時に売り付ける取引又は買い付ける取引であって,当該売付け又は買付けに係る代金の合計が1億円以上である取引をいう。


原告の会員証券会社が単一銘柄取引又はバスケット取引を行おうとするときは,その値段(バスケット取引については代金。以下同
じ。
)及び数量(転換社債券については額面金額)について,原告が
定める値段により,相手方と交渉を行う。また,原告の会員証券会社は,原告が定める値段により,売付けの申込みと当該売付けの申込みに対当させるための買付けの申込みを原告に同時に行うことができる。取引についての交渉が合意に至った場合には,当該合意内容をもって売買が成約する。単一銘柄取引又はバスケット取引について,同一会員証券会社が,売付けの申込みと当該売付けの申込みに対当させるための買付けの申込みを同時に行った場合には,当該申込み内容をもって売買が成約する。

(イ)

本件J-NET取引の状況等

[甲86,88,乙21,証人j,被告Y1本人]

被告Y1は,原告においてJ-NET取引が開始された平成11年1月25日,バスケット取引が行われていなかったことから,jに対し,バスケット取引を行うよう指示した。

jは,同日,B証券会社のkと相談し,銘柄の決定はkが担当し,B証券会社が相手方となってバスケット取引を行うことになった。同日以降,jからB証券会社に対して買い注文を指示すると,B証券会社が,A社名義で同注文を出すと同時に,自己勘定でこれに対当する売り注文を出し,これらの注文が行われた翌日,jからB証券会社に対して前日の注文に対当する売り注文を指示すると,B証券会社が,A社名義で同注文を出すと同時に,自己勘定でこれに対当する買い注文を出すという方法でバスケット取引が行われた。成約した取引における銘柄,数量及び価格は,ファクシミリによりB証券会社からjに報告された。


平成11年1月25日から同年2月22日までの間に上記bの方法で行われて成約したバスケット取引(本件J-NET取引)は,別紙Bに記載のとおりである。
上記の方法によるバスケット取引は,同年2月22日まで行われた。

本件各取引に係る費用等に関する事実関係
(ア)

本件各取引に必要なA社の取引証拠金関係
[甲25]
A社と本件各取引においてA社が注文の委託をした甲証券会社,乙証
券会社及びB証券会社との間の金員の授受を示す資料としてA社の総勘定元帳(普通預金)がある。同元帳によれば,平成9年7月17日から平成12年3月29日までの間において,A社から甲証券会社,乙証券会社及びB証券会社に対して支出した預け金の金額の累計は,169億9774万8077円である。また,同期間において,A社が上記証券会社3社から預け金の返還を受けた金額の累計は,167億2645万3448円である。(イ)

本件株券オプション取引等に係るA社の費用等関係
[甲46の1∼3,88]


A社の平成9年5月1日から平成10年4月30日までの事業年度(以下,この期間の事業年度を平成10年4月期という。
)の損
益計算書には,売上高の計上はなく,営業外損益の部に,営業外収益として有価証券売却益5897万6000円,雑収入として3047万7985円が,営業外費用として支払手数料(外費)1976万2971円及び有価証券売却損5954万5021円がそれぞれ計上されている。


A社の同年5月1日から平成11年4月30日までの事業年度(以下,この期間の事業年度を平成11年4月期という。
)の損益計
算書には,売上高として業務受託料1000万円のみが,営業外損益の部に,営業外収益として有価証券売却益8302万0624円,雑収入として2458万9598円が,営業外費用として支払手数料(外費)1418万0527円及び有価証券売却損9765万7417円がそれぞれ計上されている。


A社の同年5月1日から平成12年4月30日までの事業年度(以下,この期間の事業年度を平成12年4月期という。
)の損益計
算書には,売上高として市場開拓調査業務受託9600万円のみが,営業外損益の部に,営業外収益として有価証券売却益1億1860万6170円,雑収入として2205万8003円が,営業外費用として支払手数料(外費)4980万6559円,支払手数料(売)2686万1256円及び有価証券売却損1億6040万8304円がそれぞれ計上されている。

(ウ)

本件J-NET取引に係るA社の費用等関係[甲15,25,27の3・4,33の1・2,35の1・2,36,88,乙21,被告Y1本人,被告Y2本人]
平成11年1月25日から同年2月22日までの間に行われた本件J-NET取引に係るA社に生じた手数料,消費税,有価証券取引税の内訳は,別紙Gのとおりであり,手数料の合計は6718万4577円,消費税の合計は335万9016円,有価証券取引税の合計は2573万0452円,以上の総合計は9627万4045円である。
原告のシステム部システム総務課は,同年3月29日,J-NETシステムの開発費用及び維持費用として合計8億6750万8623円をC社に支払うことについて,被告Y1及び被告Y2の承認を得た。上記費用の中には,
ソフト導入一時費用として,9627万4000円
の金員が計上されていた。
被告Y1は,本件J-NET取引はJ-NET取引を定着させるためのマーケティング取引ないしデモンストレーションであるとの趣旨から,本件J-NET取引に係る手数料等の費用は原告が負担すべきものと考えており,同金員が本件J-NET取引によりA社に生じた費用等であることを認識して上記承認をした。被告Y2は,上記承認をした際,同金員がJ-NET取引により投資家に生じた取引手数料及び税金であると認識していた。
原告は,同月30日,上記承認に基づき,C社に対し,8億6750万8623円を支払い,C社は,上記金銭のうち9627万4045円を新市場開拓金として受け入れた。C社は,同日,D社に対し,新市場開拓金として同額の金員を支払い,D社は,同日,A社に対し,新市場開拓金として同額の金員を支払った。
A社は,上記の本件J-NET取引に係る手数料,消費税及び有価証券取引税を一括して立替金で処理しているため,当該手数料,消費税及び有価証券取引税は,A社の平成11年4月期の決算報告書中の営業外損益の部に計上されていない。

D社に関する事実関係
(ア)

D社の実態等
[甲1,26,37,62の1,70の1∼3,106の1・2,弁論の全趣旨]


D社は,平成9年6月5日,法人格なき社団であるEが950万円,被告Y1が50万円を出資して設立された。D社には,代表取締役のb(原告の元理事であり,C社の取締役)
,取締役のc(原告の元職
員であり,C社の総務部長)及び同e,監査役のsの役員のほかには,従業員は1人もいなかった。eは,取締役就任の条件として,被告Y1から,取締役会及び株主総会に原則として出席しなくてもよいことを伝えられていた。
上記cは,D社について,実質的にはC社のコンピュータ部門であり,名前だけの会社であると供述している。


Eは,同年4月25日にC社と被告Y1ほか3名の個人会員で組織された団体であり,被告Y1が会長であった。


D社の平成10年4月期における損益計算書には,営業損益の部の売上高として,受取レンタル料9831万3600円,受取SESS業務料1億2000万円,受取プログラムプロダクト料(以下受取PP料という。)104万円,受取保守料1352万1500円,
受取東京アクセスポイント利用料(以下受取TAP料という。

8696万4000円,同部の売上原価として,回線料4955万1416円,支払東京AP料367万5303円,支払SESS業務料1億2000万円,支払プログラムプロダクト料(以下支払PP料という。)104万円,支払保守料1356万2200円,減価償却費8105万1008円,同部の販売費等として,販売費・一般管理費1526万0618円,営業外損益の部の収益として,受取利息7万4356円,雑収入4666万6704円,同部の費用として,支払利息17万3629円,雑損失3600万円と記載されている。上記の受取レンタル料,受取SESS業務料,受取PP料,受取保守料及び受取東京アクセスポイント料は,いずれもC社から受領したものであり,このうち受取SESS業務料,受取PP料及び受取保守料は,いずれもD社がC社からそれらに係る業務を受託したものに係るものである。
上記の回線料はNTTに,支払SESS業務料,支払PP料及び支払保守料は丁社又はその系列会社にそれぞれ支払ったものであり,このうち支払SESS業務料,支払PP料及び支払保守料は,いずれもD社がC社から受託した上記業務をそのまま丁社又はその系列会社に再委託したものに係るものである。
上記の雑収入は,G社から受領した平成9年7月分から平成10年4月分までの役員派遣料(月額466万6667円)である。

D社の平成11年4月期における損益計算書には,営業損益の部の売上高として,受取レンタル料8192万8000円,受取SESS業務料9000万円,受取PP料6171万2000万円,受取保守料1億5325万8600円,受取TAP料2億4967万2000円,同部の売上原価として,回線料8075万3070円,回線管理料722万3586円,支払SESS業務料1億1160万円,支払PP料6171万2000円,支払保守料1億5340万1000円,保険料61万8740円,減価償却費8537万1268円,同部の販売費等として,販売費・一般管理費1675万4827円,営業外損益の部の収益として,受取利息10万0880円,雑収入1226万6681円,同部の費用として,支払利息349万5889円,雑損失3600万円と記載されている。
上記の受取レンタル料,受取SESS業務料,受取PP料,受取保守料及び受取TAP料の受領先,その内容等並びに上記の回線料,支払SESS業務料,支払PP料及び支払保守料の支払先,その内容等は,上記cの認定と同じである。回線管理料は,NTTに支払ったものである。
C社,D社及びJ社の間で,平成10年12月16日,C社とD社との間の受取SESS業務料に係る契約(SESS業務料は月額1000万円)について,平成11年1月1日をもってJ社がD社の地位を包括的に承継すること(ただし,SESS業務料は月額1250万円)が合意されている。
上記事業年度において,平成10年5月分から平成11年3月分までG社から役員派遣料月額466万6667円(合計5133万3337円)を受領している旨の総勘定元帳(普通預金)があるが,この収入の一部は損益計算書に反映されていない。

D社の平成12年4月期における損益計算書には,営業損益の部の売上高として,受取PP料3253万円,受取保守料2億0597万7000円,受取TAP料3億2405万2000円,同部の売上原価として,回線料9140万0472円,回線管理料1162万3633円,支払SESS業務料2880万円,支払PP料3253万円,支払保守料2億0647万円,保険料13万5535円,公租公課257万2900円,減価償却費4781万0868円,同部の販売費等として,販売費・一般管理費1443万4227円,営業外損益の部の収益として,受取利息989万2946円,雑収入315万3757円,同部の費用として,支払利息1094万5205円,雑損失1億2922万円と記載されている。上記の受取PP料,受取保守料及び受取TAP料の受領先,その内容等並びに上記の回線料,回線管理料,支払SESS業務料,支払PP料及び支払保守料の支払先,その内容等は,上記c及びdの認定と同じである。
(イ)

東京アクセスポイント事業の内容等
[甲1,8∼10,26,27の6,53の1・2,54,55の1∼3,56の1∼6,71の1∼4,72,74,88,乙15,21,被告Y1本人]


東京アクセスポイント事業とは,原告のコンピュータシステムと接続されるNTTの回線を利用し,回線多重化装置及び専用ケーブル等の電気通信設備を用いることにより,NTT茅場兜局をアクセスポイントとして,原告の会員証券会社が東京地区に設置するコンピュータ端末機と原告のコンピュータシステムとの間の通信を媒介する役務を,1回線当たり月額3万円の利用料で提供するものである。原告の会員証券会社のコンピュータ端末機とアクセスポイントであるNTT茅場兜局との間は,上記回線とは別に専用回線で接続することになる。

原告における原告の会員証券会社との間のコンピュータシステムを通じた有価証券の売買取引等の注文は,コンピュータシステムを東証の技術を導入して構築したなどの経緯から,原告の会員証券会社が原告のコンピュータシステムに接続する端末機を大阪地区の店舗に設置しなければならないという制約があった。しかし,この状況は,東京地区にディーラー室を置く会員証券会社がX市場で取引をするについて効率的でなく,当該会員証券会社にとっては端末機を東京地区に設置する必要があった。この問題を解消すること及び平成9年7月に原告において株券オプション取引が開始されることを踏まえて,原告独自のコンピュータシステムを構築することが考えられ,C社において,同年3月ころ,先物取引システムを開発し,これにより,会員証券会社の端末機の東京展開が可能となった。しかし,その場合,東京と大阪をつなぐ専用ケーブルが端末機1台につき1本必要であり,NTTの専用ケーブルを借りる場合,その使用料が高額であるという問題があった。そこで,原告のシステム部システム管理第1課は,NTTからの示唆も受けて,上記仕組みの東京アクセスポイント事業の検討を行った。

原告のシステム部システム第1課は,同年4月9日,東京アクセスポイントが同年5月19日以降利用できることになったことから,既設の端末装置の移設の取扱い等を会員証券会社に通知することの決裁文書を起案し,同年4月11日,原告において決裁がされた。また,同課は,同年5月15日,東京アクセスポイント事業が稼働した後の利用料等の取扱いについての決裁文書を起案し,同月16日,原告において決裁がされた。
原告の会員証券会社が東京アクセスポイントを使用するために提出する東京アクセスポイント利用正会員端末装置移設届出書
(甲5
5の1)X売買システム(株式・先物・株券オプション)正会員,端末装置配置平面図及び屋内配線系統図(甲55の2)及び東京アクセスポイント利用(NTT茅場兜局-端末設置場所間)NTT専用回線請求書送付先宛先届出書(甲55の3)の宛先はいずれ

も原告のシステム部システム管理第1課とされている。

C社は,同年4月17日,近畿電気通信監理局に対し,一般第二種電気通信事業の届出をし,同届出は,同月30日,受理された。


東京アクセスポイント事業は,同年5月19日から利用が開始された。f

D社は,平成10年3月16日,近畿電気通信監理局に対し,一般第二種電気通信事業の届出をし,同届出は,同日,受理された。


NTTが平成9年3月18日から平成12年1月21日までに提出した東京アクセスポイント事業に係る設備の見積書の宛先は,いずれも原告のシステム部であった。これらの見積書に係る設備の料金の支払は,以下のとおりであった。
(a)平成9年3月18日付け延伸端末回線設備料金についてと題する見積書(甲56の1)のうち無停電電源装置及び工事費用合計1130万円は,同年7月31日にC社からNTTに仮払金として支払われ,平成10年3月30日にD社からC社に同額が支払われた。同見積書のうち回線多重化装置等に係る料金合計1億3100万円は,平成9年10月6日にC社からNTTに支払われ,同月31日にD社からC社に同額が支払われた。同見積書のうち回線工事費等合計452万3400円は,そのうち245万円について,同月6日にC社からNTTに支払われ,同月31日にD社からC社に同額が支払われた。
(b)平成9年11月14日付け延伸端末回線設備料金についてと題する見積書(甲56の2)のうち無停電電源装置及び工事費用600万円は,平成10年3月30日にD社からC社に支払われ,同月31日にC社からNTTに同額が立替金として支払われた。同見積書のうち回線多重化装置等に係る料金4900万円は,同年4月10日にC社からNTTに立替金として支払われ,同年8月10日にD社からC社に同額が支払われた。同見積書のうち回線工事費及び局内設備工事費330万6000円のうち156万5000円は,同年4月10日にC社からNTTに立替金として支払われ,同年8月10日にD社からC社に同額が支払われた。(c)平成10年3月27日付け延伸端末回線設備料金について(1.5Mから3M対応へ変更分)と題する見積書(甲56の3)に係る料金3877万4000円(消費税を含まない。
)のうち38
60万円は,同年10月29日にD社からNTTに支払われた。
(d)その後の東京アクセスポイント事業の回線の増設に係る費用は,D社からNTTに支払われた。

原告の会員証券会社は,東京アクセスポイント利用料を,原告の口座に振り込んで支払った。原告は,平成9年6月以降,各月の振込利用料相当額を当該月の末日ころに,仮払金(東京アクセスポイント利用料)としてC社に支払い,C社は,これを仮受金(東京アクセスポイント利用料)として受領した。
C社は,D社に対し,平成10年3月30日,平成9年6月分から平成10年3月分までの上記仮受金(東京アクセスポイント利用料)の合計6261万9900円を一括して未払金(東京アクセスポイント利用料)として支払い,同年4月分以降の上記仮受金(東京アクセスポイント利用料)については,それぞれの仮受金を受領した日に同額を未払金(東京アクセスポイント利用料)として支払った。

(ウ)

電子計算機レンタル事業の内容等

[甲26,39の1∼3,40の1・2,41の1・2,42,43,44の1・2,73,77の3,79,乙15,21,被告Y1本人]

丁社は,平成9年4月及び同年11月,原告の指数オプション取引管理システム用の電子計算機各1台を原告の千里山電算センターに搬入した。


丁社は,平成10年2月17日,D社に対し,本件各電算機につき,使用期間を平成9年4月に搬入された1台は同月30日から平成10年3月31日まで,平成9年11月に搬入された1台は同月30日から平成10年3月31日までとし,D社が当該電子計算機の全部又は一部について,丁社との間で賃貸借契約又は売買契約を締結し,当該電子計算機の引渡しを受けるまでの期間,当該電子計算機を使用することを目的として,無償で貸し渡した。

D社は,同月1日,C社に対し,本件各電算機につき,賃貸期間を平成9年4月に搬入された1台は同年7月1日から平成10年3月31日まで,平成9年11月に搬入された1台は平成10年3月1日から同月31日まで(ただし,C社とD社との合意により期間を延長することができる。
)とし,賃料を平成9年7月分から平成10年2月
分までは月額819万2800円,同年3月分は1638万5600円として賃貸した。


丁社は,同年3月31日,D社に対し,上記装置2台を,代金合計8億4000万円で売却した。


原告は,同年4月28日,C社に対し,8億円を貸し付けた。C社は,同日,D社に対し,上記dの売買代金の支払に充てるための8億円を貸し付けた。


D社は,同年9月30日,C社に対し,本件各電算機のうち1台を代金3億5783万円(消費税1789万1500円)で売却した。なお,実際に支払われた売買代金は,3億2530万円(消費税1626万5000円)であった。
D社は,同日,C社に対し,本件各電算機のうち他の1台を代金4億0165万4000円(消費税2008万2700円)で売却した。なお,実際に支払われた売買代金は,3億6514万円(消費税1825万7000円)であった。


C社は,D社に対し,平成10年3月30日から同年9月30日までに,本件各電算機の賃料として上記cの約定に基づき合計1億8024万1600円を支払った。このうち平成9年7月分から平成10年3月分までの賃料合計8192万8000円は,同月30日に一括して支払われた

被告Y1は,平成12年6月2日に行われたX関連会社に関する調査委員会(以下調査委員会という。
)の調査において,出席委員
から,D社が8億円で本件各電算機を購入したこと,D社がC社から本件各電算機の賃料として合計1億8000万円の収入を得たこと,その間の減価償却が1億1000万円であるから7000万円の利益が計上されていること,D社がC社に本件各電算機を売却して6900万円の売却益を計上していること,以上によれば,D社は,C社との間における本件各電算機の取引に関して,1年3か月の間に合計1億3900万円の利益を得たことを指摘され,なぜ,本件各電算機をC社ではなく,D社が購入したのか,また,上記取引は誰の指示によって行われたのかなどの質問を受けたのに対し,事実は否定しないと回答した上,D社はA社にマーケットメイクの委託料を支払っており,この支払のための金銭がどうしても必要であるので,充当したいと当時考えたかもしれないと述べた。
被告Y1は,
GS-8600-30関連の質問に対する回答
(平成12年6月8日付け)と題する書面(甲79)を作成した。同書面には,D社のC社に対する本件各電算機のレンタル料合計が1億8024万1600円であること,D社は,上記レンタルにより合計8706万8160円の利益を得たことになること,C社における当該8706万8160円の負担は,原告に転嫁されていないこと,C社からD社に利益がシフトしているが,同利益は市場振興のための調査研究委託費に充当されたと考えること,D社は,A社及びC社に対し,調査研究委託費を支出しているが,その金額は平成10年4月期が3600万円,平成11年4月期が3600万円となっており,利益8706万8160円のほとんど(7200万円)は市場振興のために支出されていることなどと記載されている。
(エ)

D社とA社との間の取引に関する事実関係
[甲12の1∼5,13の1・2,14の1・2,25,26,27の2,31,32の1・2,88,乙15,被告Y1本人]


D社とA社は,平成9年7月1日,D社がA社に対し,①取引所
取引において,市場管理者がより適正な市場管理,運営を行うためにはいかなる方策が考えられるか,②取引所取引の参加者が,市場からより利便性の高いサービスを得るにはいかなる方策が考えられるかなどについて,実証的かつ総合的な研究を行うことを委託し,A社は,受託から約1年後を目処として,調査研究の結果をとりまとめ,D社に報告することを内容とする契約(以下本件調査契約1とい
う。
)を締結した。
D社とA社は,本件調査契約1に係る調査研究委託費の額について,①その契約締結のころ,同年7月分からとりあえず同年9月分まで月額500万円とする旨の書面を,②同年11月1日,同年10月分は300万円,同年11月分から平成10年3月分まで月額200万円とする旨の覚書を,③同年4月1日,同月分から平成11年3月分までにつき2400万円(月額200万円×12か月)とする旨の覚書を,④同年4月1日,同月分から平成12年3月分までにつき2400万円(月額200万円×12か月)とする旨の覚書をそれぞれ交わした。
D社は,A社に対し,上記各覚書等に基づく調査研究委託費として,合計7600万円を支払った。このうち,上記①の調査研究委託費の合計1500万円は,平成10年1月9日に未払金として一括して支払われ,A社は,同日,これを預かり金として受け入れ,同年3月30日,雑収入に振り替えた。また,上記②の調査研究委託費の合計1300万円は,同年3月30日に雑損失として一括して支払われ,A社は,同日,これを雑収入として受け入れた。

C社とA社は,平成11年4月1日,C社がA社に対し,契約期間を同日から平成12年3月31日までとして,①市場参加者のX市場に対するニーズに関するマーケットリサーチ,②①のニーズに対応した市場の構築及び開拓に関する調査研究,③具体的取引手法の調査,研究開発とその試験的実施などについて,実証的かつ総合的な調査研究を行うことを委託し,A社は,C社の指示するところにより調査研究の結果をとりまとめ,C社に報告することを内容とする契約を締結した。
C社とA社は,上記契約に係る調査研究委託費の額について,平成11年4月1日,同月分から平成12年3月分まで月額1050万円(消費税を含む。
)とする旨の覚書を交わした。
C社は,A社に対し,上記覚書に基づく調査研究委託費として,総額1億2600万円(消費税を含む。
)を支払った。


C社,A社及びD社は,同月30日,C社とA社間の上記bの契約に基づく業務について,①同業務の委託者をD社,受託者をA社とし,②その調査研究委託費は当該2社の間で覚書により定め,③C社は,A社の資金繰りを考慮して,当面,仮払いにより毎月1000万円の資金を提供し,④平成11年4月中にC社が支払った同業務に係る費用は,D社が負担することとし,D社はA社に対して当該費用相当額を支払うとの協定書を交わした(以下,この協定書による契約を本件調査契約2という。。
)D社とA社は,平成12年3月30日,本件調査契約2における上記②の事項について,D社がA社に対し,平成11年5月分から平成12年4月分までにつき9600万円(月額800万円×12か月)を同年3月までに支払い,上記③の事項について,金額を1000万円とする旨の覚書を交わした。
A社は,同月30日,C社に対し,本件調査契約2を受けて,C社から支払を受けた上記bの1億2600万円を一括して返還する一方,D社は,A社に対し,上記覚書に基づき,同日に9600万円,同年4月14日に1000万円をそれぞれ支払い,A社は,9600万円について市場開拓調査業務受託費として,1000万円について立替金返戻として受け入れた(なお,A社では,この1000万円を平成11年の営業収入(業務受託料)として計上処理している。。


A社は,本件調査契約1及び本件調査契約2に基づく業務として,本件株券オプション取引等を行った。しかし,A社は,D社に対し,上記の業務についての調査研究の結果のとりまとめ及びその報告をしていない。

(2)

B証券会社の設立に関する事実関係

[甲16∼24,27の6,47の1・2,48,49の1・2,50,51の1・2,52,60の7,61,62の2,64,68の1,71の2,85,89,96,97の1∼3,98∼100,乙15,21,22,丙1,証人l,証人f,被告Y1本人,被告Y2本人]

証券取引所が開設する市場における取引は,従来,取引所の立会場において,会員証券会社から派遣された場立ち職員の間で行われる売買注文を,立会場における仲立媒介を業とする証券会社の従業員である仲立ち職員が媒介する形で行われる立会場取引であった。X市場において仲立媒介を行っていた証券会社は,原告が27%の株式を所有していたK社であった。イ
原告は,市場内媒介制度の見直しを進め,立会場取引からコンピュータシステムによる取引への移行を行い,平成9年12月に立会場取引を廃止した。被告Y1は,このような状況の中で,同年春ころから,K社が解散する場合の従業員の受け皿の一つとして新たに証券会社を設立することを構想し,同月ころ,原告の総合企画部長であったdに対し,原告において新たにB証券会社という商号の証券会社を設立することを伝えた。dは,総合企画部企画課の職員であったlにB証券会社の設立手続及び証券業の免許申請に関する事務手続を担当させることとし,dとlは,平成10年2月終わり又は同年3月初めころから,同各手続に着手した。


d及びlは,B証券会社の設立に関して,同月から同年4月にかけて近畿財務局の担当者と面談し,同月23日からは証券業務課の担当者との間で面談,交渉をした。
被告Y1は,上記のころ,被告Y2に対し,原告の身近な存在としてシステム化された証券会社を設立する必要があることや,原告と協力,協栄的な立場に立ってX市場の振興に寄与する証券会社を設立することが原告にとって重要であることなどを伝えた。被告Y2は,被告Y1の上記構想自体については異存なかった。


同年5月ころ,原告において,
B証券会社㈱の概要と題する内部資
料(甲16)が作成された。同書面には,以下の記載がされている。1設立母体H社の100%出資会社(出資関係図省略)2資本金4億9000万円(3省略)4役員取締役社長f(X常務理事)常務取締役t(X会員部長)資本準備金4億9000万円取締役k(X株式債権部株式管理課長)監査役c(H社取締役社長)同b(H社取締役)(5省略)6業務概要(1)電子取引による取引aディーリングbトレーディングcマーケット・メイキングd北浜振興取引を行う。(2)具体的には,現物株についての北浜振興取引(スダレ防止)並びに株券オプションについての北浜振興取引(スダレ防止)及びマーケット・メイキング取引(流動性向上)を行う。(3)北浜振興取引及びマーケット・メイキング取引は,X市場の維持・振興のために行う取引であるので,X自らの負担において行うべきものである。(4)しかしながら,X自身は取引の当事者となることができないので必要な経費を負担しつつ,それを他の取引主体に委託し,北浜振興取引及びマーケット・メイキング取引を実現しようとするものである。(5)現物株のスダレ防止取引の実施要領・値付対象銘柄(約30銘柄)について毎日の前場寄付と後場終値の値付を行う。※前場寄付:新聞夕刊相場欄に掲載可能とするため後場終値:終値取引のためのX自前の基準値段の形成・値付方法他の取引主体からの注文に対して当社が自己で向かって取引を成立させる。※現物の手当を必要とするときは信用・貸借取引を利用システム化の可能性を研究・(6)値付対象銘柄別紙参照株券オプションのスダレ防止取引及びマーケット・メイキング取引の実施要領・スダレ防止取引については基本的に現物株と同じ※・全銘柄の直近限月・アットザマネーを中心マーケット・メイキング取引についてはシステム化を含め有効な方法を研究オ
被告Y1は,同月21日又は22日ころ,原告の常務理事であったfに対し,B証券会社を設立することを伝え,同社の社長に就任するよう要請した。しかし,fは,同要請を断った。
被告Y1は,同月終わりころ,fに対し,改めて上記と同内容の要請をし,X市場活性化のため,現物株のスダレ防止のための値付けや株券オプション取引の出来高作りを行ってほしい,別の会社から注文を出させて手数料を入れるようにするから,それと同時に自己勘定で対当する取引注文をしてほしいなどの話をした。fは,最終的に,被告Y1の上記要請を引き受けた。


被告Y1は,原告のために活動する証券会社としてB証券会社の設立を構想したことから,当初,設立出資金は原告が負担すべきものと考え,原告の100%子会社であるC社の全額出資によりB証券会社を設立することを予定していた。
しかし,被告Y1は,同月28日,証券市場課の担当者から,原告が実質的にB証券会社を設立することは証券取引法上問題があると指摘された。そこで,被告Y1及びdは,同年6月11日,証券市場課の担当者と面談し,同担当者からB証券会社と原告との資本関係の希薄化を考えるよう指摘を受け,これに対し,原告の孫会社であるH社が全額出資する予定であることなどを説明した。
これに対し,証券市場課の担当者は,同月12日,被告Y1に対し,個人的メモ
(甲47の2)をFAX送信した。同メモには,①B証券会社は,原告の100%子会社であるC社が50%を支配するH社の出資によるものであり,商法上は原告と親子関係にないが,原告が,H社において完全な拒否権を有することから,実質的な経営支配が可能との批判が生じ得る,②この場合,B証券会社の業務内容によっては,原告がB証券会社を用いて,取引所市場に不当な関与をさせようとしているとの疑念が生じかねないことから,資本関係の希薄化を図ることが適当であるとの考えが示されていた。また,以上に続けて,③仮にB証券会社と原告との資本関係が一切ないのであれば,以下の問題は生じないとした上で,iB証券会社の目的は自己の利益の実現であり,原告や取引所市場のために活動するといったような記述や対外説明を行うことがないよう不適当な箇所は改めるとともに,今後不適当な対外説明は行わない旨を明らかにする必要がある,iiB証券会社が行うとするマーケットメイク業務の内容が不明であるが,その業務内容が,通常の証券会社と異なり,原告から一定の役割を負わされていたり,特別な地位を利用しているものではないことを明らかにする必要がある,iii上記のマーケットメイク業務の内容が,通常の証券会社が行い得ることを実施するだけとの説明であるとすれば,常識的には他の証券会社が経済的にみて儲からないと判断して実施していない業務と考えられ,この場合,仮にB証券会社が原告から特別の地位を与えられていることにより経営が成り立つものと考え得る内容であれば,X市場の公正性に疑念を生じさせるものではない旨を明らかにする必要がある,ivマーケットメイク業務に関し,その業務内容が,市場類似施設に当たるものではないことを確認する必要があるとの考えが示されていた。キ
被告Y1は,同日,証券市場課に対し,同課からの上記指摘等に対する改善案として,H社の出資割合を33.25%に縮小する考えを示した。しかし,証券市場課の担当者は,上記改善案について,被告Y1に対し,資本関係に関して原告の実質的な支配力が低下したものの,依然大株主の1人であること,マーケットメイク業務の内容が依然不明であることから,疑念を招かないようにB証券会社の業務内容又は設立目的等において,B証券会社が自己の利益のためではなく,原告や取引所市場のために活動するといったような記述がないことや,対外的な説明を行うことがない点を確認する必要があることなどの指摘をした。
そこで,被告Y1は,同日,証券市場課に対し,上記指摘に対する改善案2として,B証券会社を設立するための準備会社(J社)を設立すること,J社がB証券会社の設立に当たり全額出資することなどを内容とする考えを示した。
証券市場課は,同月15日,上記改善案2を了承した。


被告Y1は,そのころ,cに対し,原告とB証券会社との資本関係をなくすため,J社という会社を設立して,同社が全額出資してB証券会社を設立することを説明し,J社の設立手続に取りかかるよう依頼した。

dらは,同月16日,証券業務課の担当者から,原告がB証券会社の設立に関する銀行融資に関与しているのであれば,証券市場課が証券業免許の付与を承認しないとの連絡を受けた。
lは,同日,証券市場課に対し,被告Y1が作成したB証券会社に関する資料(甲18)をFAXで送付した。同資料には,
B証券会社の資本関係図として,H社が銀行から10億円を借り入れ,このうち9億8000万円をJ社に貸し付け,J社が同金員をB証券会社の設立出資金等とすることを示す図が記載されている。また,同資料には,被告Y1が作成したB証券会社の設立に関する想定問答を記載した書類が添付されており,その内容は,大要,以下のとおりである。
(ア)

原告が融資に関与しないかとの質問に対する回答は,①B証券会
社に投資するのはJ社であって,その設立者は原告のOBであるが,それ以上の関係はない,②証券会社設立のための資金をどのような形で調達するかは出資者の自由であり,自己資金である場合もあるし,借入金による場合もある,③J社は借入金によることとしているが,その借入れの成否は貸付者の判断によるものであり,この貸付けについて原告はいかなる保証も付していない,④以上のことからB証券会社は,資本関係において原告と関係なく設立されるといえる,というものである。
(イ)

貸付けの条件についての質問に対する回答は,①H社は銀行から,
3年据置,7年分割払,利率2.5%で貸付けを受ける,②H社のJ社に対する貸付けの条件は,3年据置,7年分割払,利率3%,年利3,000万円である,③以上により,H社は,2.5%の資金コストで3%の運用ができ,利鞘0.5%を確実に稼ぐことができる,というものである。
(ウ)

銀行のH社に対する貸付けについての質問に対する回答は,①銀
行がなぜH社に貸付けをするのかは,銀行に聞いてみないと分からない,②銀行は,最終的に資金を必要とするB証券会社の経営について納得していること,B証券会社と関係を持つことは,B証券会社の発展に伴い銀行取引の拡大につながると判断したこと,直接J社に融資するのではないのでリスクが小さいことなどを総合的に判断して融資するものと考えている,というものである。コ

証券業務課の担当者は,同月17日,被告Y1に対し,B証券会社の設立出資金が原告から出されたものでないことが証券業免許付与の条件であること,しかし,原告が担保を提供しないで金銭を貸してくれる金融機関があるとは考えていないこと,金融機関が原告の関与のないところで融資することを確認できる書類の提出があれば審査が進むことなどを伝えた。他方,被告Y1は,同日,原告の財務部長に指示をして,原告からH社の普通預金口座に10億円を振り込ませていたが,翌18日,同振込金は,被告Y1の指示により,同口座から全額引き出されて原告に戻された。

同月19日,J社が設立され,代表取締役にはcが就任した。J社には,役員以外に従業員はいない。


被告Y1は,同年7月ころ,H社の取締役社長であったcに対し,H社が銀行から10億円の融資を受けるに当たり,10億円の国債を担保として提供するからcに迷惑をかけないと述べて,cが同融資に係る保証人になることを依頼し,cは同依頼を了承した。


d及びlは,同月10日,証券業の免許申請に関する事務が大蔵省証券局(証券業務課)から金融監督庁(証券監督課)に移管されたことに伴い,同日以降,証券監督課の担当者と面談,交渉をした。


丙銀行は,同月27日,H社がJ社へB証券会社の株式の払込み資金用に転貸する目的の10億円を丙銀行がH社に融資することが可能であることを証明する旨の融資証明書(甲20)を発行した。dは,同月30日,証券監督課に対し,同証明書を提出した。


被告Y1,d及びlは,同年9月25日,B証券会社の設立に関する最終検討を行い,d及びlは設立断念の意見を述べたが,被告Y1は設立実行の意見を述べたため,被告Y2の判断を仰ぐこととなった。


被告Y1は,それまでに,以下の記載がされている同日付けのB証券会社の設立についてと題する資料(甲23。以下B証券会社設立資料という。)を作成していた。
1形式的問題点(1)B証券会社の設立認可は,次の条件が満たされれば認可される見込み。(条件)①B証券会社の監査役に予定しているc氏が,J社の社長であることは子会社の独立性の確保に問題がある。従って,J社のc氏に代えて,○○○○氏にすること。これが満たされれば認可は下りる。②原案では資本の出資者はXの子会社H社50%,I協会の子会社,I社50%となっており,業務課ではこれで認可するということになっていた。(参考図1)ところが,証券市場課からのクレームが入り,曲折を経てXの資本関係のない形で設立することとなりその最後の調整が上記(1)である。2実質的問題点(1)B証券会社の意義(設立の評価)①当初は,K社の社員の受皿にならないかと考えていたが,この考え方は採用しないこととした。②ビッグバンを迎え,取引所も変化していくが,そのためにはXの意向を汲んで行動してくれる証券会社あるいは中立的と思われる証券会社があることはなにかにつけて便利で役に立つとの考え方に立った設立。③Xへの寄与としては次のことが期待できる。(i)マーケット・メイク機能(イ)現物株のスダレ防止(ロ)流動性向上(内容省略)(ハ)個別株オプションのマーケット・メイク流動性増加(内容省略)(ニ)その他新商品のマーケット・メイク(ii)J-NETのサポート機能(内容省略)(iii)PTS(内容省略)(iv)市場外取引対応(内容省略)(v)X非上場銘柄への対応(内容省略)等未知数のことも含めて設立の意義は大きい。(2)上記のような効果が期待される一方,出資に絡む借入金の元利返済及びB証券会社の維持運営が健全に行えるため収入の関係が実質的な問題となる。3借入と借入金の元利返済問題(1)①借入の条件必要資金(約10億円)は,丙銀行からH社が借り入れることとなり,J社経由で9億8000万円の出資を行う。②担保は,B証券会社の株券であるが,この株券の担保能力には,実質的な期待がかけられないので,c(H社社長)の個人保証が求められている。③cが個人保証をすることについては,一応承諾しているが,その場合,実質的に個人に負担が来ないことの保証があることが条件となっている。(④省略)(2)支払原資・負担者(①省略)②利払原資金利の支払は,本来的には,株主(J社)が得る配当によることとなるが,その場合少なくとも3%∼5%の配当を受け取る必要がある。5%の配当を行うためには少なくとも年間1億円の利益を上げる業績を残さなければならない。しかし,当面は無理かもしれないので誰かが肩代わりする必要がある。(③省略)(3)①現実的な対応の方法借入金の返済(10億円)借入金の返済は,もともとC社(またはその子会社)が株主になることを前提に進めていた計画であるから,返済資金は,C社が出し,それに見合う株式を取得する(直接であるか間接であるかは別として)ことにより解決できる。②借入金の利子・負担(1億5千万円)10年間1億5千万円のコストということは,孫利子のことを考えなければ,年1,500万円のコスト負担である。この程度のコスト負担であれば,関連会社の利益を充当することはそれほど困難ではない。③証券会社の年々の収入の確保(年2億円)現在,スタート時に予定している11名態勢を考える時,運営経費は,約2億円と予想される。これを下回らない収入が確保されなければ,赤字が累積することになるので,Xの関連会社でこの金額に見合う業務委託手数料等を負担する取引を行うこととしなければならない。また,B証券会社設立資料に添付された年々の収入の確保についてと題する書面には,以下の記載がされている。
1収入とその業務(1)2億円の委託手数料が期待できるマーケット・メイク等の取引内容(内容省略)(3)このような業務は違法ではないか。マーケット・メイクは現行法では,行えないこととなっているが,改正法では条件を提示して,メーカーを募ることができる。従って,Xがマーケット・メーカー制を制定し,B証券会社がこれに応ずればよい。(4)どのようにして,2億円の資金を調達するか。①B証券会社のメーキング業務はXのために行うのであるから実質的にXで負担する。しかし,これをダイレクトに行うと目立ち問題となる可能性があるので,関連会社のマージンをこれに充当する。②マージンの出し方基本的にはXとC社の努力により利益を捻出するのであるがこの利益が出るような取引を認める。(③省略)「4
対処方策
最終的判断を下す最後のチャンスであるので,今一度検討する。
一案

Xによる2億円の手数料収入を保証できないときは,証券会社の設立を見送る。この場合,今までの経緯の後始末をする必要があるが,累
損を抱えての処理に比べれば,今,退却しておくことは,先
見の明といえないこともない。
二案

証券会社を設立するのであれば,手数料収入のための財源
の確保について工夫する必要があるが,その場合


業務委託費



関連会社(C社等)のマージンの確保

等により捻出することとするが,この実行を決意する。
以上の2つの方向が考えられるが第二案で行きたい。



被告Y1は,同月30日,被告Y2に対し,B証券会社設立資料を示しながら,B証券会社の設立に関する説明と経過報告を行った。その際,被告Y1は,B証券会社の業務に関して,現物株のスダレ防止については,会員証券会社が引き受けてくれなかった値付け率向上運動を行うという説明をしたが,A社を使って値付け取引を行うなどの具体的なスダレ防止の方法は話さず,マーケットメイクについては,現行法上可能な範囲で行う旨の説明をしたにとどまった。被告Y2は,B証券会社設立資料に目を通し,B証券会社を設立することについては異論がないと述べ,B証券会社の設立手続を進めることを承諾した。また,被告Y2は,fと一度話合いを持つという考えを述べた。


被告Y2は,同年10月7日,fから,B証券会社が行う予定の業務について説明を受けた。fの説明は,大要,業務内容については,一般顧客の獲得,原告の会員でない証券会社のために取引を仲介して手数料を得るつなぎ取引及びディーリング(自己勘定取引)業務を行うこと,収支の見通しについては,設立後3年以内における黒字化の達成が十分可能であるというものであった。テ

lらは,同月22日,J社の名義でB証券会社の証券業免許に係る予備審査申請書(乙22)を提出した。


D社は,同年11月13日,証券会社から,利付き国債207-11
(数量50万,単価10万0050円)及び利付国債207-2(数量50万,単価10万円。以下,これらを併せて本件国債という。
)を代
金10億0025万円で購入し,同月19日,その代金を支払った。D社とcは,同月20日,D社がcに対して本件国債を無償で貸与し,cは,H社と丙銀行との間の同日付け金銭消費貸借契約に基づくH社の貸付金返還債務の担保として,本件国債を丙銀行に差し入れることを承諾した。ナ
丙銀行は,同月13日,H社との間で,貸付金10億円の金銭消費貸借契約を締結し,cは,同日,丙銀行に対し,H社の上記貸付金債務を連帯して保証し,平成11年1月13日,本件国債を担保として差し入れた。丙銀行は,平成10年11月13日,H社に対し,上記貸付金額から手数料等を控除した9億9980万円を支払った。H社は,同日,J社に対し,9億8000万円を貸し付けた。


J社は,同月16日,B証券会社の設立出資金等として9億8000万円を入金し,同日,B証券会社の設立登記がされた。B証券会社は,同金員のうち4億9000万円を資本金に,その余を資本準備金に充て,J社は,B証券会社が発行する9800株全株の株主となった。


B証券会社は,同月27日,証券業免許を付与され,同年12月21日,原告の会員加入手続が完了し,業務を開始した。
B証券会社は,その設立後,本件各取引に関与したほか,平成11年4月から8月にかけて5社とつなぎ取引を行う契約を交わし,また,同月には有能なディーラーを雇用してディーリング取引を行っていた。

2
被告Y2及び被告Y1と原告との法律関係
原告は,平成13年3月まで会員組織の証券取引所であり,被告Y2は,平成6年6月から平成12年6月まで原告の理事長であった者であり,被告Y1は,平成5年6月から平成11年6月まで原告の専務理事であり,次いで同月から平成12年6月まで原告の副理事長であった者である(前提事実の1(1))
。被告らの以上の職の在任期間中における証券取引法及び原告の定款の定めは,以下のとおりである。
平成12年改正前の証券取引法101条は,役員の職務権限を定めており,1項では,証券取引所の理事長は,証券取引所を代表し,その事務を総理すると規定し,2項では,理事は,定款の定めるところにより,証券取引所を代表し,理事長を補佐して証券取引所の事務を掌理し,理事長に事故があるときはその職務を代理し,理事長が欠員のときはその職務を行うと規定している。そして,原告の定款(甲83,乙17)は,①理事長の職務について,理事長は,原告を代表しかつ原告の業務を総理すること,ただし,同定款に定めがある事項及び原告の運営の基本方針については,理事会決議によるものとすると規定し(70条1項)
,②副理事長職が置かれる平成11年6月以前の専務理事の職務について,専務理事は,理事長を補佐して原告の業務を掌理し,理事長が欠けたときはその職務を行ない,理事長に事故があるときはその職務を代理すると規定し(副理事長職を置く旨の改正をする前の71条1項),③
副理事長の職務について,副理事長は,理事長を補佐して原告の業務を掌理し,理事長が欠けたときはその職務を行ない,理事長に事故があるときはその職務を代理すると規定していた(上記改正後の71条1項)

以上の証券取引法及び原告の定款の各規定によれば,原告の理事長は,原告の最高の執行機関であってその業務を統一管理する職務権限を,原告の専務理事又は副理事長は,理事長を補佐して原告の業務執行を担当する職務権限を,それぞれ委ねられた者である。以上の職務権限に照らすと,理事長,副理事長及び専務理事は,法人たる原告の機関としてその業務を執行する者であって,他人の事務を処理する者であることにほかならないから,原告とこれらの者との間には,株式会社とその代表取締役又は取締役と同様の委任又はこれに準ずる関係があり,委任に関する民法の規定が準用されるものと解するのが相当である。そうすると,被告らは,原告との関係において,善良な管理者の注意をもってその職務を遂行すべき義務を負うものと解される(民法644条参照)。
そして,原告は,証券取引所の業務に関して証券取引法,原告の定款等の規定を遵守すべきことは当然であるところ,原告の理事長,副理事長及び専務理事は,原告の業務執行を決定し,その執行に当たる立場にある者であることからすれば,その職務遂行に際して,原告の業務及び業務に関連する行為が上記規定に違反することのないようにするため自らも上記規定を遵守することは,それらの者の原告に対する上記義務に属するというべきである。
そうすると,被告Y2及び被告Y1は,原告の理事長又は専務理事ないし副理事長の職務を執行する上で,故意又は過失により上記義務に違反し,原告に損害を生じさせたときは,原告に対して当該損害を賠償する責任を負うというべきである。
3
争点①(本件各取引に関する被告らの善管注意義務違反の有無)について(1)

本件各取引の適否について
本件株券オプション取引
(ア)

上記1の認定事実(以下前記認定事実という。
)の(1)イの事

実関係によれば,A社は,被告Y1の指示により,原告及び東証で同時に開始される株券オプション取引の出来高において原告が東証に負けないようにするためにX市場で株券オプション取引を行うことを予定して設立された会社であること,そして,A社は,被告Y1又は同Yから指示を受けた原告の職員から株券オプション取引の発注指示を受け,同発注指示に基づき,証券会社を介して,別紙F(その1の1)及び(その1の2)のうち売り方及び買方顧客の各欄にA社と記載さ
れているものについてそれぞれの内容の株券オプションを注文したこと,同別紙のうち会員欄に日本電子売り方欄にA社買,,方顧客欄に自己と記載されているもの及び売り方欄に自己買方顧客欄にA社と記載されているものは,被告Y1が,,
B証券会社設立後,上記発注指示を担当していた原告の職員,A社の役員であるc及びb,B証券会社の役員であるf及びkに対し,A社からB証券会社を介した株券オプションの注文をし,同注文に対当する注文をB証券会社の自己勘定取引として行うよう説明又は指示して行われたものであること,被告Y1又は同Yの指示を受けた原告の職員が行った発注指示は,株券オプションの銘柄,取引数量,価格を具体的に指定して行っていたものであることが認められる。以上の注文について,A社及びB証券会社が自らの営業上の判断で注文をしたことをうかがわせる事実関係を認めるに足りる証拠はなく,また,原告の職員の発注指示に係るものには,当該職員が株券オプションの銘柄等の決定を専権的に行ったものがあるが,それらについて,被告Y1が問題にしたり,発注指示をすることを禁じたりしたことをうかがわせる事情はない。
以上によれば,別紙F(その1の1)及び(その1の2)に記載の本件株券オプション取引は,いずれも,A社及びB証券会社の取引需要とは無関係に,被告Y1の指示に基づいて,原告における株券オプション取引の出来高作りのために行われたものであると認めることができる。(イ)

本件株券オプション取引のうち別紙F(その1の1)及び(その1
の2)の行為類型欄に仮装と記載されているもの(以下i取引という。)は,平成9年7月22日以降に被告Y1又は同Yの指示
を受けた原告の職員の発注指示に基づいて証券会社を介して行われたA社名義の自己両建て取引である。これらの取引は,同一人が同じ銘柄の株券に対する買いと売りのオプションを同時期に同価格で取得するという取引であり,当該取引の前後を通じてオプションの取得状況に変動を生じさせないものであることからすると,オプションの付与又は取得を目的としない仮装の取引に当たるというべきである。
また,本件株券オプション取引のうち別紙F(その1の2)の行為類型欄に馴れ合いと記載されているもの(以下ii取引という。
)は,上記(ア)のとおり,A社がB証券会社を介して株券オプションの注文をし,これに対してB証券会社が同注文に対当する注文を自己勘定取引として行うことについて,事前に被告Y1からA社及びB証券会社に対して指示がされていたものであり,その上で,A社及びB証券会社が,原告の職員から出された発注指示に基づき,同じ銘柄の株券について,一方が買いのオプション,他方がそれに対当する売りのオプションを同時期に同価格で取得したという取引である。以上によれば,ii取引は,株券オプションに係る取引の申込みと同時期に当該取引の対価と同一の対価の額において他人が当該取引の相手方となることをあらかじめ通謀した上で当該取引の申込みをするという内容の取引であると認めることができる。
以上の各取引は,上記(ア)のとおり,原告における株券オプション取引の出来高作りの目的で行われたものであるから,その出来高を操作するものにほかならず,i取引は証券取引法159条1項3号の仮装取引に,ii取引は同項8号のなれ合い取引に当たる違法なものである。(ウ)a

被告Y1は,上記(ア)の点に関し,被告Y1又は同Yから指示を
受けた原告の職員がA社に対して行っていたのは,株券オプション取引の発注指示ではなく,助言であると主張し,被告Y1の陳述書(乙21)及び本人尋問の結果中には,同主張に沿う陳述部分及び供述部分がある。
しかし,被告Y1の上記陳述部分及び供述部分は,上記1(1)イで挙げた各証拠に照らして信用し難く,同主張は,前記認定事実の(1)イ(イ)の事実関係に照らし,採用することができない。b
また,被告Y1は,上記(イ)の点に関し,本件株券オプション取引は証券取引法の要請する市場取引の円滑化という目的に資するマ
ーケットメイクとして行われたものであり,特定の個別銘柄の価格を不当に操縦する目的で行われたものではないから,証券取引法159条1項3号又は8号に違反する取引には当たらないと主張する。
しかし,同主張にいうマーケットメイクがいかなるものであるのかは明らかではなく,また,被告Y1の陳述書(乙21)で説明されているマーケットメイクは,市場参加者による市場の流動性を能動的に高めることであるというものであるが,本件株券オプション取引は,上記(ア)で説示したとおり,A社及びB証券会社が自らの営業上の判断に基づいて行ったものではなく,被告Y1又は同Yの指示を受けた原告の職員から出された発注指示をそのまま実行したものであるから,上記陳述書で説明されているマーケットメイクにも当たらないものである。そして,本件株券オプション取引のうちi取引及びii取引に当たるものは,上記(イ)で説示したとおり,原告における株券オプション取引の出来高作りの目的で行われたものであって,それらの取引に係る銘柄の株券オプション取引の出来高を操作するものにほかならず,このような目的も同項柱書きにいう取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的に当たるものと解するのが相当であるから,特定の銘柄の株券オプションの価格を不当に操縦するという目的の有無は,i取引及びii取引の同項3号又は8号該当性の判断を左右するものではない(最高裁平成19年7月12日第一小法廷判決・裁判所時報1439号9頁参照)
。したがって,被告Y1の上記主張は採用することができない。

(エ)

以上によれば,本件株券オプション取引は,A社及びB証券会社自身の営業上の判断に基づいて行われたものではなく,X市場における株券オプション取引の出来高をかさ上げするという被告Y1の目的を実現するために,被告Y1の指示に基づき行われた株券オプション取引であると認めることができる。そして,本件株券オプション取引のうちi取引は証券取引法159条1項3号に,ii取引は同項8号に違反する違法なものでもある。

本件株券売買取引
(ア)

前記認定事実の(1)ウの事実関係によれば,被告Y1は,A社のc
に対し,A社名義で現物株取引の注文を出すよう指示をし,A社は,同指示を受けて別紙AのNO.1∼NO.13の現物株取引の注文をしたこと,その後,被告Y1は,B証券会社のf及びkに対し,A社がB証券会社を介してX市場における現物株のスダレ防止のための注文をするので,B証券会社が同注文に対当する注文をその自己勘定取引として行うよう指示したこと,被告Y1は,原告の職員に対し,B証券会社をして現物株の値付け取引をさせることなどを指示し,原告の職員は,同指示に基づき,B証券会社に対し,現物株取引の発注指示をしたこと,B証券会社は,同発注指示どおりにA社名義の現物株取引の注文を行い,同注文に対当する注文を自己勘定で行ったこと,別紙Aの行為類型欄にスダレ防止と記載されているものが,この形態により成約した現物株の売買取引(以下iii取引という。
)であることが認められる。
以上の注文について,A社及びB証券会社が自らの営業上の判断で行ったことをうかがわせる事実関係を認めるに足りる証拠はなく,また,原告の職員の発注指示に係るものには,当該職員が現物株の銘柄等の決定を専権的に行ったものがあるが,それらについて,被告Y1が問題にしたり,発注指示をすることを禁じたりしたことをうかがわせる事情はない。以上によれば,別紙Aに記載の本件株券売買取引は,いずれも,A社及びB証券会社の取引需要とは無関係に,被告Y1の指示に基づいて,現物株に係るスダレ防止のための値付けをするために行われたものであると認めることができる。
(イ)

本件株券売買取引のうちiii取引は,上記(ア)のとおり,A社がB
証券会社を介して現物株取引の注文をし,B証券会社が同注文に対当する注文を自己勘定取引として行うことについて,事前に被告Y1からA社及びB証券会社に対して指示がされていたものであり,その上で,A社及びB証券会社が,原告の職員からされた発注指示に基づいて,同じ銘柄の現物株について同時期に同価格で売りと買いの注文をして売買が成約した取引である。以上によれば,iii取引は,現物株の売付け(買付け)と同時期にそれと同価格において他人が当該現物株を買い付ける(売り付ける)ことをあらかじめ通謀した上で当該取引の注文をするという内容の取引であると認めることができる。
スダレ防止のための値付けというのは,特定の現物株につき実際の取引需要がないために売買が成約しない状態を意図的に解消するという意味において,当該現物株取引の出来高を操作するものであるといえる。iii取引は,ロイトファクスとB証券会社との間のみで行われた実際の需要に基づかないものであって,出来高に関し他人に誤解を生じさせるものであり,この取引には,出来高に関して他人に誤解を生じさせる目的が包含されているものといえる。そうすると,iii取引は,証券取引法159条1項4号又は同項5号のなれ合い取引に当たる違法なものである。
(ウ)a

被告Y1は,上記(イ)の点に関し,本件株券売買取引は,原告に
おいて扱う主要銘柄の現物株の値付け取引(スダレ防止取引)であり,特定の現物株の価格を不当に操縦するという目的で行われたものではないと主張する。しかし,上記ア(ウ)bで説示したとおり,価格の不当操縦目的の有無は証券取引法159条1項所定のなれ合い取引該当性の判断に影響しないから,上記主張は採用することができない。

また,被告Y1は,本件株券売買取引は,原告の理事会の了承を得て昭和52年以来X市場で行われてきた値付け率向上のための会員証券会社に対する協力要請に基づく会員証券会社による値付け取引と同趣旨のものであると主張する。
しかし,本件株券売買取引は,上記(ア)で説示したとおり,A社及びB証券会社自身の営業上の判断による取引ではなく,被告Y1から指示を受けて,原告の職員が出した発注指示どおりの値付けをするという取引であるから,上記主張にある会員証券会社による自主的な値付け取引と同視することはできない。したがって,被告Y1の上記主張は採用することができない。

(エ)

以上によれば,本件株券売買取引は,A社及びB証券会社自身の営
業上の判断に基づいて行われたものではなく,X市場で取引が成約していない現物株の取引実績を作り出し,その出来高をかさ上げするという被告Y1の目的を実現するために,被告Y1の指示に基づき行われた株券売買取引であると認めることができる。そして,本件株券売買取引のうちiii取引は,証券取引法159条1項4号又は同項5号に違反する違法なものでもある。

本件業種別株価指数先物取引
(ア)

前提事実の(3)イの事実関係によれば,A社は,平成10年11月
5日から平成12年3月28日まで,別紙D記載のとおり本件業種別株価指数先物取引を行っていることが認められるところ,本件業種別株価指数先物取引が被告Y1又は同Yの指示を受けた原告の職員らの発注指示に基づいて行われたことを直接示す証拠は見当たらない。しかし,本件業種別株価指数先物取引は,A社がX市場において行った証券会社を介して行った注文に係る取引若しくは自己両建て取引又はA社が特定の指数先物取引を申し込み,これに対してB証券会社が同時期に同申込みに対当する指数先物取引を申し込む内容のB証券会社との間の対当取引であって,本件株券オプション取引及び本件株券売買取引と同じ取引形態のものであること,その取引期間は本件株券オプション取引及び本件株券売買取引が行われた期間とほぼ同じであること,A社において,本件株券オプション取引及び本件株券売買取引と異なり,自らの営業上の判断で業種別株価指数先物取引を行う状況にあったことをうかがわせる事情もないことからすると,本件業種別株価指数先物取引も,本件株券オプション取引及び本件株券売買取引と同様に,原告における業種別株価指数先物取引の取引実績を作り出すという被告Y1の目的を実現するために,被告Y1の指示に基づき,A社及びB証券会社をして,被告Y1又は同Yから指示を受けた原告の職員が出した発注指示に従って行われた取引であると推認することができる。
そして,本件業種別株価指数先物取引のうち別紙Dの行為類型欄
に仮装と記載されているもの(以下iv取引という。
)は,上記
i取引と同じ態様の自己両建て取引であり,金銭の授受を目的としない仮装の取引に当たるというべきである。
また,本件業種別株価指数先物取引のうち別紙Dの行為類型欄に
馴れ合いと記載されているもの(以下v取引という。
)は,上
記ii取引及びiii取引と同じ態様の取引である。
(イ)

以上によれば,本件業種別株価指数先物取引も,A社及びB証券会
社自身の営業上の判断に基づいて行われた取引ではなく,原告における業種別株価指数先物取引の実績を作り出し,その出来高をかさ上げするという被告Y1の目的を実現するために,被告Y1の指示に基づき行われた業種別株価指数先物取引であると認めることができる。そして,本件業種別株価指数先物取引のうちiv取引は証券取引法159条1項2号に,v取引は同項6号に違反する違法なものでもある。

本件日経225取引
前提事実の(3)ウの事実関係によれば,A社は,平成11年3月16日から平成12年3月24日まで,別紙C記載のとおり本件日経225先物取引を行っていること,平成11年3月5日から平成12年3月22日まで,別紙E記載のとおり本件日経225オプション取引を行っていることが認められるところ,本件日経225取引が被告Y1又は同Yの指示を受けた原告の職員らの発注指示に基づいて行われたことを直接示す証拠は見当たらない。しかし,本件日経225取引は,いずれもA社がB証券会社を介して行った取引であること,その取引期間は本件株券オプション取引及び本件株券売買取引が行われた期間と重なること,A社において,本件株券オプション取引及び本件株券売買取引と異なり,自らの営業上の判断で本件日経225取引を行う状況にあったことをうかがわせる事情もないことからすると,本件日経225取引も,本件株券オプション取引及び本件株券売買取引と同様に,原告における日経225先物取引及び日経225オプションの取引実績を作り出し,それらの出来高をかさ上げするという被告Y1の目的を実現するために,被告Y1の指示に基づき,A社及びB証券会社をして,被告Y1又は同Yから指示を受けた原告の職員が出した発注指示に従って行われた取引であると推認することができる。

本件J-NET取引
(ア)

前記認定事実の(1)エ(イ)の事実関係によれば,被告Y1は,原告
の職員であったjに対し,原告において取引実績のないバスケット取引を執行するよう指示し,jは,同指示に基づいて,B証券会社のkと相談の上,バスケット取引の発注方法等を決めたこと,jは,B証券会社に対してバスケット取引を中心とした発注指示を行い,これを受けたB証券会社において,A社名義の注文及び自己勘定によりこれに対当する注文をして,本件J-NET取引を成約させたことが認められる。そして,被告Y1が,j又はkに対し,本件J-NET取引に関して,その取引の手法,内容について問題にしたり,同取引を禁じたことをうかがわせる事情はない。
以上によれば,本件J-NET取引は,いずれも,A社及びB証券会社の取引需要とは無関係に,被告Y1の指示に基づいて,原告におけるJ-NET取引の出来高作りのために行われたものであると認めることができる。
(イ)

上記(ア)のとおり,本件J-NET取引は,取引の出来高をかさ上
げする目的で行われたものであり,本件J-NET取引の形態は,被告Y1から指示を受けた原告の職員jとB証券会社のkとが相談して決めたものである。そして,本件J-NET取引の内容は,前記認定事実の(1)エ(イ)bで認定のとおり,B証券会社が,A社名義で注文を出すと同時に,これと対当する注文を自己勘定で出し,これらの注文が行われた翌日,jからB証券会社に対して前日の注文に対当する売り注文を指示すると,B証券会社が,A社名義で同注文を出すと同時に,これと対当する注文を自己勘定で出すというものである。以上の取引行為は,有価証券の売付け(買付け)の申込みと同時期に,当該申込みに係る価格と同価格において,他人が当該有価証券を買い付ける(売り付ける)ことをあらかじめその者と通謀の上,当該売買の申込みをする内容の取引であると認めることができる。そうすると,本件J-NET取引は,証券取引法159条1項4号又は同項5号のなれ合い取引に当たる違法なものでもある。(ウ)a

被告Y1は,上記(ア)の点に関し,本件J-NET取引はX市場
でJ-NETによるマーケティング取引をC社に委託し,C社がD社に再委託し,D社がA社に再々委託して実施されたものであると主張し,被告Y1の陳述書(乙21)には,同主張に沿う陳述に加えて,上記の委託関係によるマーケティング取引を行ったことから,本件J-NET取引におけるA社の費用を最終的に原告が負担した旨の陳述部分がある。
確かに,前記認定事実の(1)オ(ウ)の事実関係によれば,本件J-NET取引におけるA社名義の注文についての費用の合計9627万4045円が,原告からC社,D社を経てA社に支払われていることが認められるが,本件J-NET取引の実態は,上記(イ)のとおり,被告Y1が,X市場における本件各取引に係る有価証券等の取引の出来高をかさ上げするために,原告の職員に指示してB証券会社に直接発注指示をさせ,これを受けたB証券会社が,対当する内容でA社とB証券会社双方の注文をして取引を成約させたというものであり,C社及びD社が本件J-NET取引の実行に関して何らかのかかわりをもったことをうかがわせる事情はない。したがって,本件J-NET取引が原告の上記主張及び陳述部分にあるような原告→C社→D社→A社という順次の委託関係を基礎として行われたとは,到底認めることができない。

次に,被告Y1は,上記(イ)の点に関し,J-NET取引は相対交渉方式により有価証券の売買を行うものであり,本件J-NET取引は,値段及び数量について原告が定める値段(代金)に従い,相手方と交渉を行い,合意に至った場合に当該合意内容で売買契約が成約したものであるから,証券取引法の禁止するなれ合い取引に該当するものではないと主張する。しかし,本件J-NET取引の実態は,上述のとおりであり,被告Y1が主張する取引態様で成約したものではない。したがって,被告Y1の上記主張も採用することができない。

さらに,被告Y1は,上記(イ)の点に関し,本件J-NET取引は,特定の株式の価格を不当に操縦するという目的でされたものではなく,適法に認可を受けて原告において新たに開始されるJ-NET取引の内容を広く正しく理解してもらうために,いわばデモンストレーションとして行われたものであり,J-NET取引の円滑化に資するという証券取引法の目的に即して行われたものであると主張し,証人fの証言中には同旨の証言部分がある。
しかし,本件J-NET取引は,A社とB証券会社との間のみで行われた取引需要に基づかない取引であり,J-NET取引の出来高作りの目的で行われたものであることは,上記(ア)で説示したとおりである。このような取引である本件J-NET取引が被告Y1の主張するデモンストレーションに当たるものとは,到底いうことができない。そして,上記目的が証券取引法159条1項柱書きにいう取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的に当たると解されることは,上記ア(ウ)bで説示したとおりである。仮に被告Y1が,その内心において,デモンストレーションを行う趣旨も含んで本件J-NET取引を実施する意図があったとしても,本件J-NET取引が同項4号又は同5号に該当するとの上記(イ)の判断を左右するものではない。
したがって,被告Y1の上記主張及び証人fの上記証言部分は,いずれも採用することができない。


最後に,被告Y1は,上記(イ)の点に関し,本件J-NET取引は,特定の株式の価格を不当に操縦するという目的でされたものではないから,証券取引法159条1項に違反する取引には当たらないと主張する。
しかし,上記主張が採用できないことは,上記ア(ウ)b及び上記cで説示したとおりである。
(エ)

以上によれば,本件J-NET取引は,A社及びB証券会社自身の
営業上の判断に基づいて行われたものではなく,原告におけるJ-NET取引の出来高をかさ上げするという被告Y1の目的を実現するために,被告Y1の指示に基づき行われたものであると認めることができる。そして,本件J-NET取引は,いずれも証券取引法159条1項4号又は同項5号に該当する違法なものでもある。
(2)

本件各取引とこれに要する費用等の負担
A社が証券会社を介して本件各取引を行う場合,取引代金,差損金の支払
のほか,証券会社に対する証拠金の差入れ,取引手数料の支払等が必要であり,本件各取引の取引量に照らすと,これらの金額は相当多額になると考えられる。前記認定事実の(1)オ(ア)の事実関係によれば,本件各取引が行われた期間中にA社が注文を委託したB証券会社ほか2社の証券会社に対して累計で169億円を超える預け金が支払われ,逆に上記証券会社3社からA社に対して累計で167億円を超える預け金の返還がされていることが認められるところ,以上の金員の授受は証拠金の差入れと返還であると推認されるものである。
ところで,前提事実の(2)ウ及び前記認定事実の(1)ア∼エの事実関係並びに上記(1)で説示したことによれば,A社は,原告における本件各取引に係る各種類の取引の出来高をかさ上げするために,被告Y1又は同Yの指示を受けた原告の職員が出した発注指示に基づき本件各取引に係る注文をする主体となる会社として設立されたものであるところ,資本金が300万円で,役員以外には電話番等をするパートタイマーが1人しかいないという有限会社であることからすると,上記の費用等を自ら用意することができる財産的基盤を持つ会社でなかったことは明らかである。他方,甲1,25(A社の総勘定元帳・普通預金)及び26(D社の総勘定元帳・普通預金)によれば,上記預け金の授受に関して,A社がその支払をした日又はそれ以前の日に支払った預け金の額を賄うことができる額の金員がD社からA社に預け金として入金され,その入金の日又はそれ以前の日に同入金を賄うことができる額の金員がC社からD社に預け金として入金されていること,その中には同入金額と同額又はそれを賄うことができる額の金員が原告からC社に貸付金等として入金されているものがあること,また,A社が証券会社から預け金の返還を受けた日又はそれ以後の日に返還を受けた金員に相当する額又はそれを超える額がA社からD社に預け金の返還として支払われており,その返還日にその返還額と同額の金員がD社からC社,次いでC社から原告に順次返還されているものがあることが認められる。以上の点と,前記認定事実の(1)オ(ウ)のとおり,被告Y1は原告においてA社に生じる本件J-NET取引における費用等を負担すべきものと考えていたこと及び後記4(1)イで説示するとおり,被告Y1は,B証券会社が関与した本件各取引について,実質的にその資金を原告で負担することを前提としていたことにかんがみると,被告Y1は,本件J-NET取引のみならず,本件株券オプション取引等についても,それに必要なA社の上記費用等を原告又は被告Y1が代表取締役を務めるC社において負担することを前提としていたものと認めるのが相当である。
なお,上記の事実関係によれば,原告が上記費用等の全部を負担したものではなく,C社の負担に係るものがあることがうかがわれるが,C社は原告の100%子会社であり,被告Y1は原告の専務理事ないし副理事長であると同時にC社の代表取締役でもあったから,C社がその負担をすることについても,原告の専務理事ないし副理事長である被告Y1の指図に基づくものと解することができる。(3)

本件各取引に関する被告Y1の善管注意義務違反の有無
証券取引法106条の2は,有価証券市場の開設者であり,同市場における有価証券の売買取引等の公正を確保するための自主規制機関である証券取引所に対する指導理念として,

有価証券市場は,有価証券の売買取引等を公正かつ円滑ならしめ,かつ,投資者の保護に資するよう運営されなければならない。

と規定し,さらに,同規定を受けて,原告の定款2条2項は,

本所の開設する取引所有価証券市場は,公益及び投資者の保護に資するため,有価証券の売買が公正,円滑に行われることを旨として運営されるものとする。

と規定している。原告は,X市場の開設者として,上記各規定を遵守し,X市場における有価証券の売買取引等の公正を確保すべき立場にある者であるから,原告がX市場において自ら不公正な有価証券の売買取引等を行うことはもとより,市場参加者に指示して不公正な有価証券の売買取引等を行わせ,又は市場参加者の不公正な有価証券の売買取引等を知りながらこれを黙認することは,上記各規定に反するものとして許されないものというべきである。
そして,被告Y1は,証券取引所の業務執行を決定し,その執行に当たる権限を有する原告の専務理事又は副理事長の地位にあった者であるから,原告が業務を遂行するについて上記各規定を含む法令に違反しないようにするため,その職務遂行に際して原告を名宛人とする法令の規定を遵守することもまた,原告に対する職務上の義務であり,善管注意義務に属するものであることは,上記2で述べたとおりである。


本件各取引は,上記(1)及び(2)のとおり,いずれもA社又はB証券会社自身の営業上の判断に基づく取引として行われたものではなく,それらの取引に要する費用等を原告において負担することを前提として,原告におけるそれらの取引の出来高をかさ上げするために,原告の専務理事ないし副理事長であった被告Y1が自ら又は原告の職員らに指示して行った発注指示の内容どおりにA社及びB証券会社がそれぞれの名義で行ったものであり,証券取引法106条の2,原告の定款2条2項に反する不公正な有価証券の売買取引等に当たるものということができる。そして,そのうちの上記ⅰ∼ⅴ取引及び本件J-NET取引は,同法159条1項において禁止されている取引に当たる違法なものでもある。
以上によれば,被告Y1は,証券取引法及び原告の定款に違反する本件各取引を主導した者であり,これについて善管注意義務違反があるというべきである。そして,本件各取引における被告Y1の上記関与内容等に照らすと,被告Y1には,同義務違反について少なくとも過失があることは明らかである。そうすると,被告Y1は,同義務違反に基づき,本件各取引により原告が被った損害を賠償する責任がある。
(4)

本件各取引に関する被告Y2の善管注意義務違反の有無について
本件株券オプション取引等関係
(ア)

原告は,被告Y2は,原告の理事長として被告Y1の行為を監視監
督すべき義務があったところ,被告Y1が本件株券オプション取引等を行うこと及び本件株券オプション取引等に要した手数料等の費用を原告が負担することを認識し又は認識することができたにもかかわらず,これを阻止しなかったのであるから,善管注意義務違反があると主張する。しかし,前記認定事実によっては,被告Y2において,上記認定の態様及び内容によって本件株券オプション取引等が行われていたことを認識し又は認識することができたものと認めることはできず,他にこの点を認めるに足りる証拠はない。
(イ)a

原告は,上記(ア)の点について,被告Y2は,平成9年7月14
日に行われた原告からC社への5億円の貸付けについて,A社名義で行う本件株券オプション取引等の費用等に充てる資金であると認識し,又は,仮に使途の認識まで有していなかったとしても,被告Y2は,貸付けの決裁を行う者として貸付金の使途や必要性等を厳格に検討し確認すべき注意義務があったから,同義務を尽くすことで,上記(ア)の原告主張事実を認識することができたと主張する。
しかし,甲1及び78によれば,上記貸付けは,被告Y1の指示に基づいて実行されたものであること,C社名義の資金借入のお願いについてと題する書面が作成されているが,その内容は運転資金の借入れを求めるというものであり,短期に解消されるものと考えられたことから,上記貸付けについてりん議手続が執られなかったことが認められる。そして,被告Y2が上記書面を見たことをうかがわせる事情もない。以上の事実関係に照らすと,被告Y2が上記貸付けの事実を知る機会があったものと認めることはできず,他に同事実を知り得たことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

また,原告は,被告Y2は,平成10年9月30日,被告Y1から,B証券会社の設立について資料に基づいた経過報告と説明を受け,同資料には,B証券会社がX市場において株券オプション取引等を行い,これに要する委託手数料を実質的に原告が負担する旨記載されていたから,被告Y2において上記aの原告主張事実を認識することができたと主張する。
しかし,上記資料の内容は,前記認定事実の(2)タのとおりであるところ,そのうちマーケットメイクの内容に関する部分の記載は,

マーケット・メイクは現行法では,行えないこととなっているが,改正法では条件を提示して,メーカーを募ることができる。,

従って,Xがマーケット・メーカー制を制定し,B証券会社がこれに応ずればよい。

というものである。この記載のみから,B証券会社がその設立後直ちに上記認定の態様及び内容の本件株券オプション取引等を行うものと認識することができたとはいい難いし,それらの取引に要する費用等を実質的に原告が負担することを読みとることも困難である。そして,その際の被告Y1の口頭による説明も,前記認定事実の(2)チで認定した程度の内容のものであったことからすると,被告Y2が上記aの原告主張事実を認識することができたと認めるには至らない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

本件J-NET取引関係
前記認定事実の(1)オ(ウ)の事実関係によれば,被告Y2は,平成11年3月29日,J-NETシステムの開発費用及び維持費用の合計8億6750万8623円をC社に支払うことについて承認をした際,そのうちのソフト導入一時費用名目の9627万4000円がJ-NET取引により投資家に生じた取引手数料等であることを認識していたことが認められる。被告Y2が当該認識を持って原告が上記金員を支払うことを承認したということは,投資家に生じた取引費用等を原告が負担することを承認したことになるということができる。そうすると,被告Y2において,A社がJ-NET取引を行っていたことを知らず,また,その取引の具体的な内容に関する認識に欠けるところがあったとしても,上記承認の際に,原告が支出しようとする上記金員がいかなる取引のいかなる投資家に関するものであるかを確認する必要があったというべきであり,その点を確認すべき注意義務があったというべきである。しかし,被告Y2は,上記確認を怠って被告Y1と共に上記承認をし,その結果,上記(3)で説示したとおり,原告が証券取引法106条の2及び原告の定款2条2項に違反する本件J-NET取引に係るA社の費用等を負担するに至ったのである。したがって,被告Y2の上記承認は,同費用等の負担に関して,原告に対する善管注意義務違反を構成するものというべきである。ウ
以上によれば,本件株券オプション取引等に関して被告Y2の原告に対する善管注意義務違反があるとの原告の主張は,採用することができない。したがって,被告Y2の本件株券オプション取引等に関する善管注意義務違反を理由とする損害賠償請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がない。
しかし,本件J-NET取引に関しては,上記イの費用等の負担について善管注意義務違反がある。そして,被告Y2が同義務違反を問われる金員の支出の承認に関する上記事実関係に照らすと,被告Y2には,同義務違反について少なくとも過失があるというべきである。そうすると,被告Y2は,同義務違反に基づき,本件J-NET取引により原告が被った損害を賠償する責任がある。

4
争点②(B証券会社の設立に関する被告らの善管注意義務違反の有無について)
(1)

B証券会社の設立に関する被告Y1の善管注意義務違反の有無について前記認定事実の(2)の事実関係によれば,被告Y1は,当初,原告における市場内媒介制度の見直しに伴いK社が解散した場合の従業員の受け皿作りのために新たな証券会社の設立を構想し,原告の職員をしてその設立手続に取り掛からせたが,その後,設立の理由を,原告と協力,協栄的な立場に立ち,原告のために活動し,X市場の振興に寄与する証券会社を設立することに変更してその設立手続を進めたこと,被告Y1は,上記理由でB証券会社を設立することにしたことから,その設立出資金は原告が負担すべきものと考え,具体的には,原告の100%子会社であるC社が50%の株式を有するH社の全額出資によりB証券会社を設立することを予定していたこと,しかし,証券市場課から,原告と新たに設立する証券会社との間に資本関係が存在することは問題である旨の指摘を受け,最終的に,B証券会社は,別に設立するJ社が全額出資して設立することになったこと,この方法は被告Y1の考案によるものであること,変更されたB証券会社の設立方法は,被告Y1から証券市場課に対して説明がされたこと,J社の設立手続を行い,その代表取締役に就任したcは,被告Y1から同手続及び同職への就任を要請されたこと,B証券会社の代表取締役に就任したfは,被告Y1から同職への就任を要請されたこと,B証券会社の証券業免許の申請手続は,被告Y1が原告の職員であるd及びlをして行わせたものであること,以上の事実が認められる。以上の事実関係に照らすと,B証券会社の設立手続及び証券業免許の申請手続は,被告Y1の主導により行われたものと認められる。

前記認定事実の(2)エ,タの事実関係によれば,①原告の内部資料として作成されたB証券会社㈱の概要では,設立段階において考えられていたB証券会社が行う業務として,スダレ防止及び流動性向上のための取引を挙げ,それらは,X市場の維持,振興のために行う取引であり,原告の負担において行うべきものであるところ,原告自身が取引の当事者となることができないから,原告が必要な経費を負担しつつ,それを他の取引主体に委託して行うこと,スダレ防止取引を行う場合の値付けの方法として,他の取引主体からの注文に対してB証券会社が自己勘定により対当する注文をして取引を成約させるものとしていること,②被告Y1が作成したB証券会社設立資料では,B証券会社は,原告の意向を酌んで行動する証券会社として設立するものとされており,現物株,株券オプション,その他新商品についてスダレ防止及び流動性向上のためのマーケットメイクを行うことを想定し,B証券会社の運営経費として予想される約2億円を下回らない収入を確保するために,原告の関連会社で同金額に見合う業務委託手数料等を負担する取引を行うこととしなければならないとしていること,③同資料に添付された年々の収入の確保についてと題する書面では,B証券会社が行うマーケットメイク業務は原告のために行うのであるから,実質的にその資金を原告で負担するが,原告がこの負担を直接に行うと目立って問題となる可能性があるので,関連会社の利益を充当するものとし,その利益の出し方として,基本的には原告及びC社の努力により利益を捻出するが,この利益が出るような取引を認めるものとしていることが認められる。そして,B証券会社は,その設立後,証券業免許を得て,前提事実の(3)及び前記認定事実の(1)イ∼エのとおり,本件各取引のうち別紙A∼Fのうち会員名欄に日本電子と記載されている
ものについて関与し又は自己勘定取引としての取引を実行している。以上によれば,被告Y1は,低迷しているX市場の振興を図るための方法として,原告が実質的に運営経費を負担することを前提として,原告の意向を酌んでX市場で有価証券の売買取引等を行うB証券会社の設立を構想し,その設立を主導したものと認められる。そして,上記3(1)で説示したとおり,本件各取引のうちB証券会社が関与した取引はいずれも,原告における取引の出来高をかさ上げするために行われたものであり,そのうちのⅰ∼v取引及び本件J-NET取引は,証券取引法159条1項に違反する違法な取引である。

原告は,国民経済の適切な運営及び投資者の保護に資するため,有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ,かつ,有価証券の流通を円滑ならしめるとする証券取引法の目的を達成するため,有価証券市場を開設,運営するという公共性の高い業務を行うものであり,そのために直接必要な業務の外,これを営むことができないものである(証券取引法86条2項。なお,同項は,平成10年改正により削除されたが,その後,同項と同旨の規定として,平成12年改正後の同法87条の2が定められているところ,同法の目的及び証券取引所が有価証券市場を開設,運営するという公共性の高い業務を行うものであることは平成10年改正の前後において何ら変わるものでないことからすると,平成10年改正による上記86条2項の削除後平成12年改正による上記87条の2の新設までの間においても,証券取引所は有価証券市場を開設するという目的を達成するために直接必要な業務でない業務を営むことができないと解するのが相当である。前記認定事実の(2)カ,キ,ケ及びコで認定した証券市場課及び証券業務課が,B証券会社の証券業免許の事前折衝において,原告がB証券会社と資本関係を持つことやその設立資金とするための銀行融資に原告が関与することを問題視し,その解消を求めたのも,上記の趣旨を含むものと解される。。証券取引所である原告が,上記イで説示した意図で)
B証券会社を設立することは,同法86条2項に違反するというべきである。
また,被告Y1がB証券会社をしてX市場で行わせようとした有価証券の売買取引等は,上記イで説示したとおり,原告の意向に従って需要に基づかない有価証券の売買取引等を行わせようとするものであり,現に本件各取引のうちB証券会社が関与したものはいずれも,取引の出来高をかさ上げする不公正な有価証券の売買取引等に当たるものであることからすると,原告が上記の設立意図によるB証券会社の設立にかかわることは,証券取引法106条の2及び原告の定款2条2項に違反するというべきである。
そして,被告Y1は,上記アのとおり,以上の法令等に違反するB証券会社の設立を主導したものである。

以上の点に対し,被告Y1は,B証券会社の設立及び証券業免許の取得は,監督官庁の指導,助言を受けながら行われ,通常行われる厳正な審査手続を経ているものであるところ,B証券会社がX市場の振興を図るためのマーケットメイク業務を行う証券会社として設立が予定されていることは,大蔵省に対しても明示的に説明されていたと主張する。しかし,証券市場課及び証券業務課が被告Y1に対して行った指摘等は,その内容(前記認定事実の(2)カ,キ,ケ及びコ)に照らすと,設立されるB証券会社と原告とが資本面及び資金面で繋がりがないことが証券取引所における有価証券の売買取引等の公正の確保等のために必須であることから行われたものと解され,その点は被告Y1も十分認識し得たものと考えられる。しかしながら,被告Y1が,J社におけるB証券会社の設立資金の確保に関して重要な事情であるというべき前記認定事実の(2)ト及びナの事実関係を,上記各課に説明したことを認めるに足りる証拠はない。また,J社が提出した証券業免許に係る予備審査申請書(乙22)によれば,
証券会社の基本方針として,
Xの先物取引及びオプション取引を中心としたディーリング,X市場振興を目的としたマーケット・メイク,ブローキングの補完的な位置づけとしてのセリング業務に取り組むものとするマーケット・メイクについては,X上場株式・株券オプション,取引等の流動性向上を目的として,各銘柄において売注文及び買注文を提示し,値付き率の向上を目指すものとする。ディーリング及びマーケット・メイクに関する手法については主要業務の取り組み方針において詳述する。と記載されており,マーケット・メイク業務の方針として,」
「1売買注文の提示(取引開始時)については,

前日の終値を基準値段として,上下数%の幅を持たせて,売注文と買注文を提示する。

と,2注文の訂正(約定が成立しない場合)については,

基準値段からの幅を縮めて再提示する。

と,3反対売買注文のみ提示については,

売注文(買注文)が成立した場合は,そのまま買注文(売注文)のみを提示し様子を見て,約定価格まで提示値段を上げ(下げ)ていく。

と,4成行注文に切り替えについては,

一定時間待った後,成行注文に切り替える。それでも約定が成立しない場合は,翌日以降に再度3から繰り返す。

と記載されており,証券業務課に対しては,マーケットメイクとして上記の内容のものを行うとの説明がされたことが認められる。しかし,この説明におけるマーケットメイクの態様は,上記イで認定した被告Y1が実際にB証券会社に行わせようとした取引の態様と異なるものであり,被告Y1が上記各課に対して実際に行おうとした当該取引の内容を説明したことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,証券業務課においてB証券会社に証券業免許を付与するかどうかの判断をするに当たって重要な事実であると考えられるJ社におけるB証券会社の設立資金の確保の経緯及び被告Y1が実際にB証券会社に行わせようとした取引の内容について,被告Y1は証券業務課に説明していないとみざるを得ず,そのような状況の下でB証券会社は証券業免許の付与を受けているのである。そうすると,同免許は,上記の点を考慮せずに付与されたというほかなく,B証券会社が設立され,証券業免許が付与されたという事実から直ちに,上記設立意図によるB証券会社の設立が証券取引法86条2項,106条の2,原告の定款2条2項との関係で問題のないものということはできない。
したがって,被告Y1の上記主張は採用することができない。

以上によれば,被告Y1は,証券取引法86条2項,106条の2,原告の定款2条2項に違反する内容の設立意図をもってB証券会社の設立を主導したものであるから,これについて善管注意義務違反があるというべきである。そして,設立手続における被告Y1の関与内容に照らすと,同義務違反について少なくとも過失があることは明らかである。そうすると,被告Y1は,同義務違反に基づき,B証券会社の設立に関して原告が被った損害を賠償する責任がある。

(2)

B証券会社の設立に関する被告Y2の善管注意義務違反の有無について前記認定事実の(2)チの事実関係によれば,被告Y2は,被告Y1からB証券会社設立資料を見せられ,同資料に基づいて説明を受けたものであることが認められるところ,同資料には,B証券会社の意義(設立の評価)として,原告の意向を酌んで行動してくれる証券会社があることは便利で役に立つとの考え方に立った設立構想であること,B証券会社が現物株,株券オプション,その他新商品についてスダレ防止及び流動性向上のためのマーケットメイクを行うことで原告に寄与することが期待できること,設立の必要資金(約10億円)は,H社が丙銀行から借り入れ,J社経由で9億8000万円の出資を行うこと,上記借入金元本の返済資金はC社が拠出すること,上記借入金の利子の支払には関連会社の利益を充当すること,予想されるB証券会社の年間運営経費約2億円は,原告の関連会社でこの金額に見合う業務委託手数料等を負担する取引を行うこととしなければならないことなどの記載がされていた。また,同資料に添付された年々の収入の確保についてと題する書面には,B証券会社のメーキング業務は原告のために行うものであるから,上記2億円の資金は実質的に原告の負担で調達すること,これを原告が直接行うと目立ち問題となる可能性があるので,関連会社のマージンをもって充当すること,基本的には原告及びC社の努力により利益を捻出するのであるが,利益が出るような取引を認めることなどの記載がされており,その最後の部分には,原告による2億円の手数料収入の確保が保証できないときは証券会社の設立を見送るとする案と,業務委託費,関連会社(C社等)のマージンの確保等により手数料収入のための財源を捻出することを決意して証券会社を設立するとする案の2つの案が示され,後者を採用したい旨の被告Y1の意見が示されていた。
以上の事実関係によれば,被告Y2は,被告Y1の上記説明により,少なくとも,被告Y1は,①日本電子証券が原告のためにマーケットメイク等を行うことで原告に寄与することを期待してその設立を考えていること,②日本電子証券の運営経費は実質的に原告が負担することを前提としてその設立を考えていることを認識し得たものと認められる。原告の理事長である被告Y2は,上記①及び②の点を認識した場合,それが証券取引法86条2項,106条の2,原告の定款2条2項に違反することを認識し得たというべきである。しかしながら,被告Y2は,被告Y1の上記説明の際に,被告Y1に対し,B証券会社設立資料に記載のマーケット・メイクの具体的な内容について確認したり,B証券会社の設立に伴って予想される運営経費を原告が負担することを問い質すなどの対応をした事実はうかがわれず,かえって,被告Y2は,B証券会社の設立手続を進めることを了承し,被告Y1のB証券会社設立構想を承認する対応をしたのである。その結果,上記のとおり,被告Y1はB証券会社の設立手続を進め,B証券会社が設立されるに至った。

以上の点に対し,被告Y2は,B証券会社の設立意図の中にX市場において取引が繁盛に行われていると見せかけるための取引を行うことが含まれていることは知らなかったと主張する。しかし,上記アで説示した事実関係に照らし,被告Y2の上記主張は採用することができない。
次に,被告Y2は,B証券会社が証券業務課から厳正な審査を経て証券業免許を取得していることから,B証券会社は適法に設立された会社であると認識していたとも主張する。しかし,この点は,上記(1)エ及び上記アの説示のとおりである。被告Y2の上記主張は採用することができない。さらに,被告Y2は,B証券会社の設立資金の調達に関する事実関係を知らなかったと主張するが,この事実関係の知不知は,上記アの判断を左右するものではない。
最後に,被告Y2は,B証券会社の運営経費の負担関係について,原告が関連会社を通じて負担するという考えは全く持っていなかったと主張する。しかし,被告Y2が被告Y1からB証券会社の設立に関する説明を受けた際に目を通したB証券会社設立資料には,上記アで説示したとおり,原告がその関連会社を通じてB証券会社の運営経費を負担することが明記されていることに照らすと,被告Y2の上記主張は採用することができない。

以上によれば,被告Y2がB証券会社の設立手続を進めることを了承した行為は,理事長として被告Y1の原告に対する善管注意義務違反行為の監視監督を怠ったものであり,それは原告に対する善管注意義務違反となるものである。そして,上記アで挙げた事実関係に照らすと,同義務違反について少なくとも過失があるというべきである。そうすると,被告Y2は,同義務違反に基づき,B証券会社の設立に関して原告が被った損害を賠償する責任がある。

5
争点③(原告の損害の有無及びその額)について
(1)

本件各取引関係の損害の有無について
本件各取引におけるA社の損失について
(ア)

前記認定事実の(1)オ(イ),(ウ)の事実関係及びA社は,その平成
10年4月期から平成12年4月期までの3事業年度の間,本件各取引以外の有価証券の売買取引等をしたことをうかがわせる証拠がないことからすると,A社の平成11年4月期の損益計算書に記載の有価証券売却益,支払手数料及び有価証券売却損の各金額には,本件J-NET取引に係るものが含まれておらず,上記3事業年度における各損益計算書に記載の有価証券売却益,支払手数料及び有価証券売却損の各金額は,本件株券オプション取引等に係るものであると認めることができる。以上によれば,A社は,本件J-NET取引において取引費用として9627万4045円を支払ったこと,本件株券オプション取引等において,損失の発生及び取引費用として合計1億6761万9261円(内訳は,平成10年4月期は2033万1992円(有価証券売却損から有価証券売却益を控除した56万9021円の損失及び1976万2971円の支払手数料の合計),平成11年4月期は2881万73
20円(有価証券売却損から有価証券売却益を控除した1463万6793円の損失及び1418万0527円の支払手数料の合計)
,平成1
2年4月期は1億1846万9949円(有価証券売却損から有価証券売却益を控除した4180万2134円の損失及び7666万7815円の支払手数料の合計)である。
)を負担したことが認められる。
(イ)

前記認定事実の(1)オ(イ),(ウ)及び同カ(エ)の事実関係によれば,
A社の上記3事業年度の間における各事業年度の雑収入の額と本件調査契約1に基づく調査研究委託費の受領額とは,平成10年4月期の雑収入が3047万7985円,調査研究委託費が3000万円,平成11年4月期の雑収入が2458万9598円,調査研究委託費が2400万円,平成12年4月の雑収入が2205万8003円,調査研究委託費が2200万円というように対応していること,上記各事業年度におけるA社の売上高と本件調査契約2に基づく調査研究委託費の受領額とは,平成11年4月期の売上高が1000万円,調査研究委託費が1000万円,平成12年4月期の売上高が9600万円,調査研究委託費が9600万円というように対応していること,以上の調査研究委託費の受領額の合計1億8200万円と上記(ア)のA社における本件株券オプション取引等に係る損失及び取引費用の合計1億6761万9261円とがほぼ対応していること,A社には,上記3事業年度の間,本件各取引における有価証券売却益並びに本件調査契約1及び本件調査契約2に基づく調査研究委託費以外の収入源があることをうかがわせる証拠がないことからすると,A社における本件株券オプション取引等に係る損失及び取引費用の支払は,D社から支払を受けた本件調査契約1及び本件調査契約2に基づく調査研究委託費が充てられたものと推認することができる。イ

本件株券オプション取引等による原告の損害の有無について
(ア)

原告は,本件株券オプション取引等に係るA社の損失等の合計1億
6761万9261円は,D社からA社に支払われた本件調査契約1及び本件調査契約2に基づく調査研究委託費名目で支払われた金員でもって支払われているところ,上記各契約はいずれも実体のない架空のものであり,D社が支払った上記金員は,被告Y1の指示に基づいて,原告に帰属すべき東京アクセスポイント事業及び電子計算機レンタル事業における収益がD社に移動されたものが原資となったものであるから,上記損失等の負担者は原告であると主張するので,以下検討する。
(イ)

まず,前記認定事実の(1)カ(エ)によれば,A社は,D社との間で
本件調査契約1及び本件調査契約2を締結し,それらに係る調査研究委託費の支払を受けているが,A社が上記各契約に関して行った具体的行為は,被告Y1又は同Yから指示を受けた原告の職員が出した発注指示に基づいて本件株券オプション取引等を行ったことのみであり,上記各契約において受託事務とされている調査や研究としての活動を行った形跡も,それらに係る調査結果報告書を提出した事実も全くうかがえない。そして,上記調査研究委託費は,本件株券オプション取引等において発生した費用等に充てられているのである。以上のことからすると,A社が支払を受けた上記調査研究委託費は,上記各契約における調査研究の対価ではなく,本件株券オプション取引等に係る費用に充てるために支払われたものと認めるのが相当である。そして,前提事実の(2)ウ及び前記認定事実の(1)ア(イ)の事実関係によれば,A社は,c又はbが時期を異にして代表取締役に就任していた以外に,他の役員及び従業員はおらず,電話番等をするだけのパートタイマーが1人いただけであり,A社には,独自の収入を得る組織実体も,業務態勢も認められないのである。そうすると,上記調査研究委託費は,専らA社が本件株券オプション取引等を行うために必要な費用等として支払われたものであって,上記各契約は,外形上その支払の原因を作るために交わされた実体を伴わないものと認めるのが相当である。
なお,被告Y1は,上記の点に関して,その陳述書(乙21)及び本人尋問において,上記各契約は実体を伴ったものである旨の陳述及び供述をするが,具体的事実に基づくものではなく,採用することができない。
(ウ)

前記認定事実の(1)オ(イ)及び同カ(ア)の事実関係によれば,A社
の平成10年4月期から平成12年4月期までの3事業年度に対応するD社の3事業年度の収入は,SESS業務料,PP料,保守料,TAP料,電子計算機レンタル料,利息収入及び雑収入から成っていること,そのうち利息収入及び雑収入を除くものは,いずれもC社から支払を受けたものであることが認められる。このうち,SESS業務料,PP料,保守料については,それぞれのC社からの収入額とNTT及び丁社又はその関連会社へのそれぞれの支出額とが同額であるか又は支出額の方が多いこと(具体的金額は,前記認定事実の(1)カ(ア)c∼eのとおり。
)からすると,これらの収入額は上記調査研究委託費の支払の原資となっていないものと推認される。
(エ)

D社における東京アクセスポイント事業収入


前記認定事実の(1)カ(ア),(イ)の事実関係によれば,東京アクセ
スポイント事業は平成9年5月19日から利用が開始されたが,その時点において同事業を行うために必要な一般第二種電気通信事業の届出をし,その受理がされていたのはC社であったこと,D社の設立は,東京アクセスポイント事業が開始された後の同年6月5日であり,D社が同事業を行うために必要な一般第二種電気通信事業の届出が受理されたのは,その設立から9か月後の平成10年3月16日であること,会員証券会社が支払う東京アクセスポイント事業の利用料は,一貫して,会員証券会社から原告の口座に振り込まれ,次いで原告からC社に支払われ,さらにC社からD社に支払われるという流れでD社が収受していること,D社が上記届出をする前の平成9年6月分から平成10年3月分までの同事業の利用料については,上記届出直後の同月30日に一括してC社からD社に支払われていることが認められる。
以上によると,東京アクセスポイント事業の利用が開始された時点では,D社は設立前であり,同事業の運営主体にはなり得なかったから,その運営主体はC社であったといわざるを得ない。他方,D社がその後同事業の運営主体となることに支障はないと考えられるが,C社が既に行っている同事業をD社がC社に代わって運営するのが相当であると認め得る事情はうかがえない上,その間に事業の譲渡がされたなどの事業移転の原因を認め得る証拠はない。また,前記認定事実の(1)カ(ア)のとおり,D社には役員以外には従業員がおらず,業務執行に関係する役員については,代表取締役のbはC社の取締役でもあった者であり,取締役のcはC社の総務部長かつA社の代表取締役でもあった者であり,同eは取締役会及び株主総会に原則として出席しなくてもよいとされていた名目的役員であり,いずれの者も同事業の業務に専念できる態勢にあったとは認め難い上,これらの者が同事業に関して具体的な業務に従事したことをうかがわせる証拠はない。かえって,c自身,D社は名前だけの会社であると供述していたり(甲62の1)
,調査委員会の調査報告書(甲1)には,同事業の業
務は原告のシステム部において行っていた旨の報告があり,この点は,前記認定事実の(1)カ(イ)gの事実関係とも整合するものであることからすると,D社は,自ら同事業を運営できる組織実体を備えた会社ではなかったものと推認される。そうすると,D社は,東京アクセスポイント事業の利用料を収受しているのであるが,D社が設立される以前及び同事業を行うための電子通信事業の届出をしていない期間はもちろんのこと,同届出をした後の期間を含めて,同利用料に係る収益がD社に帰属する実体上の理由を見いだすことができない。
なお,前記認定事実の(1)カ(イ)gの事実関係によれば,同事業に供する設備及びその工事費用等について,平成10年3月より前にNTTから見積書が出されたものについては,C社がNTTに支払っているが,いずれもその後にD社がC社に同額を補てんしており,同月下旬以降にNTTから見積書が出されたものについては,D社が直接NTTに支払っていることが認められるが,これらのD社の支払は,前記認定事実の(1)カ(イ)hの事実関係及びD社が上記各支払を行った時期に照らすと,C社から収受した同事業の利用料をもって支払ったものと認められる。そうすると,D社が上記支払をした事実は,同事業の運営主体に関する上記判断を左右するものではない。

被告Y1は,D社は東京アクセスポイント事業を行うことを予定して設立されたものであり,D社が電気通信事業の届出を行うまでの間,C社が東京アクセスポイント事業を代行していた旨主張し,被告Y1の陳述書(乙21)及び本人尋問の結果中には,同旨の陳述部分及び供述部分がある。しかし,上記aで述べたD社が同事業を運営し得る組織実体を備えた会社ではなかったことからすると,C社が同事業を代行していたことについて述べる上記陳述部分及び供述部分は採用することができない。
他方,上記陳述部分及び供述部分は,同事業の利用料の帰属者とするためにD社を設立したという趣旨のことを述べるものであり,また,D社の設立は被告Y1の考えによるものであるということも述べているところ,この点は,前記認定事実の(1)カ(ア)a,bのD社の設立経過と合致するものである。この点と上記aで述べた事情を併せ考えると,同事業の利用料が同事業の運営実体を有しないD社の収入となっているのは,被告Y1の意向によるものであると推認することができる。

以上によれば,東京アクセスポイント事業の利用料収入は,本来,その運営主体であるC社に帰属すべきものであるところ,被告Y1の意思に基づきD社に移転されていることが認められる。

(オ)

電子計算機レンタル事業収入とD社の関係について
前記認定事実の(1)カ(ア)c,d及び同カ(ウ)の事実関係によれば,
D社は,丁社から無償で借り受けた本件各電算機について,C社との間で賃貸借契約を締結し,その賃料として,C社から,平成10年4月期に9831万3600円,平成11年4月期に8192万8000円の支払を受けたことが認められる。
ところで,上記事実関係によれば,本件各電算機は,丁社が原告の千里山電算センターに搬入した原告の指数オプション取引管理システム用の電子計算機であることが認められる。前提事実の(2)アによれば,C社は原告におけるコンピュータシステム関連事業を行うために設立された会社であるから,C社が原告の使用に供するために本件各電算機を購入又は賃借することになるが,その場合,その製造販売を行う丁社と直接取引を行うのが経済的にみて合理的な取引形態であり,特段の事情のない限り,C社が本件各電算機を購入又は賃借するに当たり,D社を介在させる必要性及び経済的合理性は考え難い。そして,D社は,上記(エ)aで説示したとおり,事業を運営し得る組織実体を備えた会社ではなかったことからすると,D社を介在させることの妥当性もないといわざるを得ない。以上の点と,前記認定事実の(1)カ(ウ)hの事実関係にあるとおり,被告Y1において,D社はA社に支払う調査研究委託費のための金銭が必要であると考えたことを否定しない説明を調査委員会にしていることを併せ考えると,C社が本件各電算機に関してD社との間で必要性も経済的合理性も認められない賃貸借契約を締結し,その賃料をD社に支払うのは,当該賃料収入をD社に帰属させるためであったと考えるのが相当である。そして,D社は被告Y1の意向で設立された会社であり,C社の代表取締役は被告Y1であることからすると,上記の東京アクセスポイント事業の利用料と同様に,上記賃料収入をC社に支払わせ,これをD社が取得することになったのは,被告Y1の意思に基づくものと認めるのが相当である。
以上によれば,C社は,本件各電算機についてD社と賃貸借契約を締結する必要はなく,したがって,その賃料を支払う必要もなかったというべきところ,被告Y1の意思に基づき,上記の平成10年4月期及び平成11年4月期において,本件各電算機の賃料名目で上記の各金額を出捐させられたものと認められる。
(カ)

上記(ウ)∼(オ)によれば,D社は,C社の出捐に係る東京アクセス
ポイント事業及び電子計算機レンタル事業の収入をA社に支払う調査研究委託費に充てることができたことが認められる。
他方,前記認定事実の(1)カ(ア)c∼eの事実関係によれば,D社には,上記の収入以外に支出に充てることのできる収入として,平成10年4月期には雑収入4666万6704円が,平成11年4月期には雑収入1226万6681円が,平成12年4月期には雑収入315万3757円があることが認められる(なお,その他の収入は,いずれもそれぞれに対応する支出の額の方が多い。。以上の雑収入のうち平成1)
0年4月期及び平成11年4月期のものは,前記認定事実の(1)カ(ア)c∼eの事実関係によれば,G社からの役員派遣に係る収入であると認められるが,それがC社の出捐に係るものであることについては,原告からの主張,立証がない。平成12年4月期のものは,その具体的内容もそれがC社の出捐に係るものであることについても,原告からの主張,立証がない。
そうすると,D社が上記3事業年度中にA社に支払った調査研究委託費の原資となり得るのは,東京アクセスポイント事業及び電子計算機レンタル事業の収益のほかに上記雑収入があることになるが,上記調査研究委託費として支出された金員の中にこれらの雑収入が入っているかどうかを検討する必要がある。

平成10年4月期
前記認定事実の(1)カ(ア)cの事実関係によれば,同事業年度中にD社がA社に支出した本件調査契約1に係る調査研究委託費3000万円は,同事業年度の雑損失3600万円に含まれていると考えられるところ,同金額は,同事業年度における雑収入4666万6704円ですべて支払うことができるから,上記雑損失の支出の中の調査研究委託費の中に東京アクセスポイント事業及び電子計算機レンタル事業の収益が含まれていない可能性がある。
しかし,前記認定事実の(1)カ(ウ)hの事実関係によれば,被告Y1は,調査委員会に対し,
GS-8600-30関連の質問に対する回答と題する書面を提出し,同書面において,D社は電子計算機レンタル事業に関して少なくとも8706万8160円の利益を上げた旨,当該利益は平成10年4月期及び平成11年4月期におけるA社に対する調査研究委託費の支払に充てられている旨の説明をしていることが認められ,この説明内容を否定する証拠は見あたらないことからすると,A社に支払った上記各事業年度における調査研究委託費は,電子計算機レンタル事業の収入によって賄われたものと推認することができる。

平成11年4月期
前記認定事実の(1)カ(ア)dの事実関係によれば,同事業年度中にD社がA社に支出した本件調査契約1及び本件調査契約2に係る調査研究委託費の合計3400万円は,同事業年度の雑損失3600万円に含まれていると考えられるところ,同事業年度の雑収入1226万6681円が上記3400万円の支払に充てられている可能性があり得る。
しかし,上記aで説示したとおり,被告Y1の説明内容によれば,同事業年度におけるA社に支払った調査研究委託費も,電子計算機レンタル事業の収入によって賄われたものと推認することができる。

平成12年4月期
前記認定事実の(1)カ(ア)eの事実関係によれば,同事業年度にD社がA社に支出した本件調査契約1及び本件調査契約2に係る調査研究委託費の合計1億1800万円は,同事業年度の雑損失1億2922万円に含まれていると考えられるところ,同事業年度の雑収入315万3757円が上記1億1800万円の支払に充てられている可能性があり得る。そして,この可能性を否定する証拠はない。そうすると,上記1億1800万円から同事業年度における雑収入315万3757円を控除した1億1484万6243円を超える部分については,東京アクセスポイント事業の収益が充てられたものと認めるには足りない。
他方,前記認定事実の(1)カ(ア)eで認定したD社の同事業年度における損益計算書に基づくと,同事業を含む売上高の金額(合計5億6255万9000円)から売上原価(3億7353万2540円。ただし,実際の金員の支出を伴わない減価償却費を除いたもの。)及
び販売費・一般管理費(合計1443万4227円)を控除した現金収支上の損益は,1億7459万2233円の黒字であるところ,営業損益の部における同事業以外の事業に係るPP料及び保守料の各売上原価の合計額がそれらの売上高の合計額を超えていることから,これらの事業からは利益が上がっていないことになる。そうすると,上記の黒字額は,すべて東京アクセスポイント事業によるものであると認められ,その額は上記1億1484万6243円を超えるから,同金額の支払には同事業の収益が充てられたものと認められる。なお,営業外損益として,受取利息と支払利息があるが,支払利息の額が受取利息の額を超えているので,受取利息による収入が調査研究委託費に充てられたとは考えられない。
(キ)

上記(カ)によれば,A社がD社から受領した調査研究委託費名目の
金員のうち,平成10年4月期の3000万円及び平成11年4月期の3400万円は,C社が支払う必要のなかった本件各電算機に係る賃料が,平成12年4月期の1億1800万円のうち1億1484万6243円は,C社に帰属すべき東京アクセスポイント事業の利用料が,それぞれ原資であったということができる。そして,以上の合計は1億7884万6243円となるところ,A社は,本件株券オプション取引等において負担した支払手数料等の合計1億6761万9261円について,D社から支払われた調査研究委託費名目の金員で補てんしたというのであるから,C社には,上記支払手数料等相当額1億6761万9261円の損害が発生したものと認められる。
(ク)

子会社に損害が発生し,これと同額の資産の減少が生じた場合,特
段の事情がない限り,当該子会社の全株式を有するいわゆる100%親会社にも,同額の資産の減少を来たし,これと同額の損害が発生すると解されるところ,本件においては,C社に上記(キ)で認定した1億6761万9261円の損害が発生し,これと同額の資産の減少が生じているから,C社の全株式を有するいわゆる100%親会社である原告にも,特段の事情のない限り,同額の資産の減少を来たし,これと同額の損害が発生していると認められる。そして,本件において上記特段の事情とみるべき事情はうかがえない。
以上によれば,原告は,本件株券オプション取引等に関して,1億6761万9261円の損害を被ったことが認められる。

本件J-NET取引による原告の損害の有無について
前記認定事実の(1)オ(ウ)の事実関係によれば,A社には,本件J-NET取引により,証券会社に対する支払手数料6718万4577円,消費税335万9016円及び有価証券取引税2573万0452円の合計9627万4045円の費用が発生したところ,被告Y1は,本件J-NET取引によりA社に生じた費用であると認識した上で,J-NETシステムの開発費用及び維持費用の合計8億6750万8623円の一部としてソフト導入一時費用9627万4000円をC社に支払うことについて承認をし,原告は,同月30日,同承認に基づき,C社に対し,8億6750万8623円を支払い,C社は,そのうち9627万4045円を新市場開拓金として受け入れ,この金員は,同日,C社からD社に,さらにD社からA社にそれぞれ新市場開拓金として順次支払われたというのである。以上の事実関係によれば,A社は,原告が出捐した金員により上記9627万4045円の費用が補てんされたことが認められる。
以上によれば,原告は本件J-NET取引に関して上記9627万4045円の出捐をしたことにより同額の損害を被ったものと認めることができる。


損益相殺の主張について被告らは,上記イ及びウの損害との関係で,原告は,本件各取引において,取引を行った会員証券会社から定率会費(市場執行定率負担金)として138万3815円の収入を得ているから,同収入は本件各取引により生じた原告の損害額を算定する際に損益相殺の対象とすべきであると主張する。
証拠(甲83,乙17)によれば,原告の定款14条は,原告の会員証券会社は定率会費を納入しなければならないこと(1項)
,定率会費の額
は,原告の会員証券会社がX市場において有価証券の売買取引等を行う場合,取引の種類ごとに定める定率会費の算定の基準である取引代金,取引数量等に取引の種類ごとに定める徴収標準率を乗じて算出した額の総額を支払うものであること(3項)を規定していることが認められる。これによると,原告の会員証券会社は,X市場で有価証券の売買取引等を行う場合,その取引代金や取引数量等を基準として取引の種類ごとに原告が定める率により算定される定率会費を原告に支払わなければならないことが認められる。
損益相殺は,損害賠償請求をする者が損害発生の原因事実によって利益を受ける場合に,これを損害額から控除するものである。原告に生じた上記イ及びウの損害は,いずれもX市場において原告の会員証券会社を介して行われた本件各取引に係るものであるから,これらの取引において原告が当該会員証券会社から支払を受けた定率会費は,原告の上記損害発生の原因事実によって受けた利益に当たるというべきである。
本件各取引において原告に支払われた定率会費の総額が138万3815円であることは,弁論の全趣旨により認めることができる。そうすると,同金額は本件各取引に係る原告の損害額から控除すべきものであるところ,被告Y1の上記3(3)の賠償責任は,本件各取引に係る損害全部に及ぶものであるから,同損害額から上記定率会費の全部を控除することになる。他方,被告Y2の上記3(4)の賠償責任は,本件各取引に係る損害のうち本件J-NET取引に係るものに限られるから,上記定率会費のうち本件J-NET取引に係る部分のみを控除することになる。ところで,上記定率会費のうち本件J-NET取引に係る部分の金額を直接認定することができる証拠はないのであるが,そうであるからといって全く控除を認めないとするのは相当でなく,本件に現われた事実関係を基に当該金額を算定すべきである。前記認定事実の(1)オ(イ),(ウ)では本件株券オプション取引等に係る支払手数料の額と本件J-NET取引に係る支払手数料の額が認定されているところ,上記のとおり取引代金や取引数量等が定率会費の算定の基準となっており,この取引代金や取引数量等は支払手数料の額に比例すると考えられることからすると,上記支払手数料の額を基に上記定率会費のうちの本件J-NET取引に係る部分の額を推計するのが相当である。そして,その場合の計算式は,定率会費のうちの本件J-NET取引に係る部分の額=定率会費の額×{本件J-NET取引に係る支払手数料の額÷(本件J-NET取引に係る支払手数料の額+本件株券オプション取引等に係る支払手数料の額)
}となる。この計算式に上記認定の定
率会費の額138万3815円及び前記認定事実の(1)オ(イ),(ウ)で認定された本件J-NET取引に係る支払手数料の額である6718万4577円,本件株券オプション取引等に係る支払手数料の額である1億1061万1313円(平成10年4月期の1976万2971円,平成11年4月期が1418万0527円,平成12年4月期の7666万7815円の合計額)を算入すると,定率会費のうちの本件J-NET取引に係る部分の額は52万2908円(ただし,円未満切り捨て)となる。オ
まとめ
本件各取引に係る原告の損害額は,①本件株券オプション取引等関係のものが1億6761万9261円,②本件J-NET取引関係のものが9627万4045円であり,被告Y1については,①と②の合計額から138万3815円を損益相殺として控除することになり,被告Y2については,②の額から52万2908円を控除することになる。(2)

B証券会社設立関係の損害の有無について
事実認定
前提事実及び前記認定事実の(2)並びに項目下の[]内に記載する証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア)

B証券会社の出資金に関する事実関係

[甲1,89,101∼104,110,111,112の1・2,113,114,115の1・2,乙13,弁論の全趣旨]

平成10年6月16日の時点で被告Y1が作成していたB証券会社に関する資料(甲18)中のB証券会社の資本関係図には,H社
が銀行から10億円を借り入れ,このうち9億8000万円をJ社に貸し付け,J社が同金員をB証券会社の設立出資金等とすることが記載されており,B証券会社の設立出資金等の額が9億8000万円であることが示されている。


被告Y1は,同月17日,原告の財務部長に指示をして,原告からH社の普通預金口座に10億円を振り込ませていたが,証券業務課の担当者から,B証券会社の設立出資金が原告から出されたものでないことが証券業免許付与の条件であるなどの指導を受けたことから,同振込金は,翌18日,被告Y1の指示により,同口座から全額引き出されて原告に戻された。


原告は,同月17日付けでC社に仮払金として10億円を支払い,C社は,同月18日,これを借受金として受領した。C社は,同年9月30日,借受金の返還として10億円を原告に支払った。原告は,同年10月1日,再度,仮払金として10億円をC社に支払い,C社は,これを借受金として受領し,平成11年3月1日,これを長期貸付金に振り替えた。

C社は,平成10年11月18日,長期預け金として10億円をD社に支払った。C社において,平成11年3月31日,同金員を長期貸付金に訂正した。


平成10年11月13日のD社による本件国債の購入から同月16日のJ社によるB証券会社設立出資金等の支払までの経緯は,前記認定事実の(2)ト∼ニのとおりであるが,金銭の流れに関する部分の概略は,次のとおりである。


D社は,同月13日,証券会社から本件国債を代金10億002
5万円で購入し,同月19日,同代金を支払った。



丙銀行は,同月13日,H社と10億円の消費貸借契約を締結し,手数料等を控除した9億9980万円をH社に貸し付けた。cは,同日,丙銀行に対し,H社の上記貸金債務を連帯保証した。



H社は,同日,J社に対し,9億8000万円を貸し付けた。



J社は,同月16日,B証券会社の設立出資金等として9億80
00万円を支払った。



D社とcは,同月20日,D社がcに本件国債を無償で貸与し,
cは本件国債を上記②のH社の貸金債務の担保として差し入れることを合意した。



cは,平成11年1月13日,丙銀行に対し,本件国債を上記②のH社の貸金債務の担保として差し入れた。


J社は,平成12年8月10日,戊社に対し,J社が所有するB証券会社の全株式(9800株)を代金8億7000万円で売却し,同日,その代金の支払を受けた。


J社は,同月14日,H社に対し,上記e③の貸金債務の弁済として,8億7000万円を支払った。h
J社は,同月18日,H社に対し,上記e③の貸金債務の残元金及び平成12年2月25日から同年8月14日までの利息の弁済として,合計1億2139万3136円を支払った。


H社は,同月18日,丙銀行に対し,上記e②の貸金債務の元金及び利息の弁済として,合計10億1112万6712円を支払った。丙銀行は,cに本件国債を返却し,次いで,cは,D社に本件国債を返却した。


D社は,本件国債の償還期限より前の日である同日,己証券会社を介して本件国債を売却し,その代金及び発生利子の合計9億3574万円を受け取った。


D社は,C社に対し,上記dの預け金の返済として,同月22日に8億8000万円を,同年9月26日に1億2000万円をそれぞれ支払った。

(イ)

J社に関する事実関係

[甲89,103,105の1・2,106の1,107,108,109の1・2,110,乙15,弁論の全趣旨]

J社は,H社に対し,上記(ア)e③の金銭消費貸借の利息として,下記表のA欄のとおり支払い,H社は,丙銀行に対し,上前記(ア)e②の金銭消費貸借の利息として,下記表のB欄のとおり支払った。
A(J社)

B(H社)

年月日

金額(円)

年月日

金額(円)

H11.2.18

7,260,054

H11.2.26

7,260,273

H11.8.24

12,635,287

H11.8.31

12,739,726

H12.2.24

12,227,178

H12.2.29

11,842,465
(合計)


32,122,519

(合計)

31,842,464

C社,D社及びJ社は,平成10年12月16日,C社(委託者)とD社(受託者)間のSESS業務契約に関して,平成11年1月1日をもって受託者の地位をD社からJ社に包括的に承継させること及びその報酬を月額1250万円(消費税別)
,納付開始を同月20日
から毎月20日とする旨の合意をし,C社とJ社は,同年10月19日,契約期間を同年4月1日∼平成12年3月31日とする合意をした。
また,以上に併せて,D社,J社及び丁社は,平成11年1月4日,上記SESS業務契約におけるD社の業務を丁社に再委託する契約に関して,委託者の地位をD社からJ社に包括的に承継させることを合意し,J社と丁社は,同年9月30日,同契約に係る報酬を月額1000万円(消費税別)
,契約期間を同年4月1日∼平成12年3月3
1日とする合意をした。


C社は,J社に対し,平成11年1月から平成12年9月にかけて,上記bの変更後のSESS業務契約に基づき,報酬として月額1250万円を支払った。


D社は,平成12年8月18日,J社に対し,弁済期を定めずに,J社の借入金の弁済資金として6000万円を貸し付けた。
D社は,同年9月20日,J社に対し,弁済期を定めずに,債務支払の資金として3700万円を貸し付けた。
D社は,同年11月2日,D社のJ社に対する上記の合計9700万円の貸金債務を免除するとの意思表示をした。


J社の平成10年6月19日から平成11年3月31日までの事業年度における損益計算書によれば,営業収入は,受取SESS業務料3750万円だけであり,営業費用は,支払SESS業務料3000万円,それ以外が287万9065円であり,営業外収益は合計で2万0206円,営業外費用は,支払利息が726万0054円,その他が14万6000円であった。

J社の平成11年4月1日から平成12年3月31日までの事業年度における損益計算書によれば,営業収入は,受取SESS業務料1億5000万円だけであり,営業費用は,支払SESS業務料1億2000万円,一般管理費82万9850円であり,営業外収入は合計で63万7238円,営業外費用は,支払利息が2496万5727円,その他が58万2000円であった。


判断
(ア)

設立資金の回収不能による損害の有無について
原告は,①原告が出捐した10億円が,C社,D社,H社を経てJ
社に渡り,J社はこれをB証券会社の設立出資金等9億8000万円に充て,B証券会社の全株式9800株を取得したが,②J社は,保有していた当該9800株全部を8億7000万円でしか売却できなかったので,設立出資金等9億8000万円のうち1億1000万円が回収不能額として確定し,これは,H社のJ社に対する貸付金9億8000万円のうち1億1000万円が回収不能になったことを意味し,H社は同額の損害を被った,③H社はC社の100%子会社であるから,C社は,H社の上記回収不能額に相当する損害を被ったことになり,さらに,原告の100%子会社であるC社の同損害は,原告の損害となると主張する。
しかし,上記ア(ア)の認定事実によれば,J社がB証券会社の設立出資金等として支払った9億8000万円は,H社が平成10年11月13日に丙銀行から借り入れた10億円のうちの9億8000万円をJ社がH社から転借したものであること,J社は,平成12年8月18日までに,保有していたB証券会社の株式の売却金等により上記借入金を元利合わせて返済したこと,H社は,同日,丙銀行に対し,上記10億円の借入金債務を元利合わせて返済したことが認められる。
そうすると,まず,上記①の点は,認定事実と異なる事実関係に基づく主張であることになる。次に,上記②の点は,仮にH社からJ社に対する9億8000万円の出捐自体をH社の損害と解するとしても,同損害は,上記のとおり全額弁済され,補てんされていることが認められる。そうすると,上記③の点について判断するまでもなく,原告の上記主張は採用することができない。
なお,上記ア(ア)dの認定事実によれば,J社がH社に支払った返済金には,D社から貸り受けた合計9700万円が含まれている可能性があるが,同貸付金が,H社由来のものであることをうかがわせる事情はなく,また,D社由来のものであることから損害となるなどの主張もないから,同貸付金が返済金の一部を構成することは,上記判断を左右するものではない。
以上によれば,原告の上記損害に関する主張は採用することができない。
(イ)

借入金の利息支払による損害について
上記ア(イ)の認定事実によれば,J社の収入は,実質的にはC社から支払われるSESS業務料だけであり,同業務料とJ社が丁社に再委託しているSESS業務料との差額である月額で250万円(消費税別)
,年額で3000万円が唯一の収益源であったと認められる。
他方,証拠[甲1,89]によれば,SESS業務は,原告で使われているコンピュータシステムの維持等に関するものであり,元はC社と丁社との間で直接契約がされていたものであること,平成9年4月,その間にD社が介在し,C社からD社がSESS業務を受託し,D社が丁社にSESS業務を再委託するという契約関係となったこと,その後,平成10年12月16日,上記ア(イ)bの認定事実のとおり,上記の契約関係におけるD社の地位をJ社が包括的に承継したこと,以上のD社及びJ社がSESS業務へ介在することになったのは,いずれもC社の代表取締役であった被告Y1の指示によるものであることが認められる。
前記認定事実の(1)カ(ア)a,b,同(2)サの事実関係のとおり,D社もJ社も役員以外に従業員はおらず,事業を運営できる組織実体を備えた会社ではないから,このような会社が自らSESS業務を行うことができないことは明らかである。そうであるにもかかわらず,D社及びJ社を上記の契約関係に介在させた被告Y1の意図は,C社から支払われるSESS業務料と再委託した丁社に支払うSESS業務料との差額をその中間に介在するD社ないしJ社の収益として収受させることにあった解するのが相当であり,これ以外に上記契約関係を作り出す合理的理由はうかがえない。そうすると,C社は,丁社との直接取引をするのと比べて,上記差額分相当額を余計に支出しているものというべきである。
上記ア(イ)の認定事実によれば,J社は,H社に対し,平成11年2月18日から平成12年2月24日までの間に,9億8000万円の金銭消費貸借の利息として合計3212万2519円を支払ったこと,H社は,丙銀行に対し,平成11年2月26日から平成12年2月29日までの間に,10億円の金銭消費貸借の利息として3184万2464円を支払ったことが認められる。上記の各支払のうちJ社の支払に係るものは,上述した差額収入が充てられたものとみることができる。以上の事実関係によると,J社が支払った上記借入金に対する利息金は,C社が支払った上記SESS業務料の差額相当額が充てられたものであり,その実質的負担者はC社であるということができるところ,上記借入金利息が発生する原因を成す,H社が丙銀行から10億円を借り入れ,このうち9億8000万円をJ社に転貸し,J社がこれをもってB証券会社の設立出資金等に充てるという方法でB証券会社を設立するという方法は,被告Y1の考案によるものであること,上記差額相当額は本来C社において支払う必要のなかったものであると認められることからすると,C社が支払った上記差額相当額によって支払われた原告主張の3184万2000円は,B証券会社設立に関してC社に生じた損害に当たるというべきである。

子会社に損害が発生し,これと同額の資産の減少が生じた場合,特段の事情がない限り,当該子会社の全株式を有するいわゆる100%親会社にも,同額の資産の減少を来たし,これと同額の損害が発生すると解されるところ,本件においては,C社に上記3184万2000円の損害が発生し,これと同額の資産の減少が生じているから,C社の全株式を有するいわゆる100%親会社である原告にも,特段の事情のない限り,同額の資産の減少を来たし,これと同額の損害が発生していると認められる。そして,本件において上記特段の事情とみるべき事情はうかがえない。
以上によれば,原告は,B証券会社の設立に関して,3184万2000円の損害を被ったことが認められる。

(ウ)

国債の売却による損害について
原告は,D社がB証券会社の設立に関して,代金10億円を支払って
本件国債を購入し,その後,本件国債を売却処分したものの,9億3574万円でしか売却できず,6426万円の損失が生じ,また,D社は,本件国債購入の際,証券会社に25万円の手数料を支払ったとして,①以上の損失及び手数料の支出はD社に生じたものであるが,D社は実体のない会社であり,本件国債の購入資金は原告に帰属すべき収益が原資となっているから,本件国債の売却に関してD社に生じた損失及び支出は,原告に帰属すべき収益がその分減少したことになるので,当該損失及び支出の負担者は原告である,②C社は,平成12年4月にD社の株式全部を取得し,D社はC社の100%子会社となっていたから,D社の損害はC社の損害となり,原告の100%子会社であるC社の同損害は原告の損害となると主張する。
本件国債は,元本(額面金額)の合計が10億円のものであり,D社が本件国債を売却して受け取った代金等が9億3574万円であり,回収額は元本割れとなっている。しかし,本件国債は,その償還期限後であれば少なくとも元本の10億円は償還されるものであるところ,本件国債の売却が償還期限より前にされたために,上記元本割れが生じたものである。ところで,前提事実の(1)イ,ウ及び証拠[甲1,2]によれば,同年6月20日に,原告において組織した調査委員会の調査結果としてD社を含む前提事実の(2)の本件に関係する会社を整理すべき旨の意見が記載された報告書が出されていたこと,同月28日の日本経済新聞に,原告は現在存続している上記関連会社を清算,売却する方針を明らかにした旨の報道がされていること,本件国債の売却は,被告らが原告の理事長又は副理事長を退任した後にされていることが認められ,以上の事実に照らすと,本件国債の売却をしたのは,その当時におけるD社又は同社の100%親会社であったC社又は同社の100%親会社であった原告の経営陣の判断に基づくものと推認される。そうすると,上記本件国債の売却に係る元本割れによる損失は,B証券会社の設立に関して通常生じ得るものということはできず,また,被告Y1及び被告Y2において予見することができたものということもできない。以上によれば,本件国債の売却による元本割れの損失は,前記4で説示したB証券会社の設立に関する被告らの善管注意義務違反との間に相当因果関係がある原告の損害と認めることはできないから,原告の上記主張は採用することができない。

損益相殺の主張について
被告らは,①原告は,B証券会社から,B証券会社が原告の開設する取引所の正会員権を取得するために,i先物取引等特別負担金1億0035万円,ii特別会費5141万円,iii入会金60万円,以上合計1億5236万円を収納して利得している,被告Y1は,②原告は,B証券会社から,B証券会社が原告の会員証券会社となった平成11年12月から平成18年8月までの81か月間に定額会費として毎月25万円,合計で2025万円の収入を得ているから,上記各収入は,原告の損害額を算定する際に損益相殺の対象とすべきであると主張する。
証拠[甲83,乙17]によれば,上記①iの先物取引等特別負担金は,原告の会員証券会社が,原告の定款15条の2に基づき,株券先物取引,株価指数先物取引及び株価指数オプション取引の安全を図るために設ける先物取引等違約損失補償準備金の積立てに充てるために納入するものであること,上記①iiの特別会費は,原告の会員証券会社が,原告の定款15条に基づき,原告における有価証券の売買の安全を図るために設ける違約損失補償準備金の積立てに充てるために納入するものであること,上記①iiiの入会金は,原告の定款39条2項に基づき,原告の会員証券会社になろうとする者が一律に納付するものであること,上記②の定額会費は,原告の定款14条1項に基づき,原告の会員証券会社が会員であることについて一律に支払うものであること,以上の事実が認められる。
前記認定事実の(2)によれば,B証券会社は,その設立後,組織実体のある証券会社として,証券業免許及び原告の正会員資格を得て,本件各取引の一部に関与したほか,自らの判断に基づきディーリング取引を行っていることが認められる。そうすると,B証券会社が,以上のとおり証券会社として存在し,証券業を行っていたこと自体を否定することはできない。そして,B証券会社は,その設立後,原告の会員証券会社となり,証券業を行うについて,原告の定款において支払義務を負わされている上記各金員を支払ったものと認められるから,上記の各金員は,B証券会社の設立に関して原告が得たものということはできない。
したがって,被告らの上記損益相殺に関する主張は採用することができない。

まとめ
以上によれば,B証券会社の設立に関する原告の損害額は3184万2000円である。

(3)

原告の名誉及び社会的信用の毀損に係る損害の有無について
事実認定
前提事実及び証拠[甲1∼5,57,76の1・2,77の1∼3,91,92の1・2,93,乙20]によれば,以下の事実が認められる。(ア)

平成12年3月14日に開催された原告の財務委員会において,原
告の平成13年3月期収支予算(案)が承認されるに当たり,C社,H社,D社,A社,B証券会社等の11社(以下,これらの会社を併せて関連会社という。
)の実態並びに原告の貸付金の内容が問題となっ
た。被告Y2及び被告Y1は,平成12年3月21日及び同月30日に開催された理事会において,上記の問題に関して説明をしたが,原告の理事の理解を得られず,同日に開催された理事会において,調査委員会を設置することが決議された。
調査委員会は,被告Y1らから聴取するなどして,同年6月20日,X関連会社に関する調査報告書(甲1)を作成した。
(イ)

同年4月19日,調査委員会による調査の中間報告の内容として上
記(ア)の問題が新聞報道された。それ以後,同年6月7日,同月12日,同月28日及び同年8月3日の各日に,同問題に関する続報として,被告Y1が独断で関連会社を設立したことについて,原告の理事会が内規違反に問う報告書をまとめた,関連会社に関連して原告において不明朗な会計処理がされていることなどが新聞報道された。
(ウ)

原告は,平成14年3月29日,被告Y1について,関連会社の設
立に関して背任被疑事件で告訴し,原告の子会社との関係で商法違反被疑事件で告発した。同月30日,上記告訴等について新聞報道された。(エ)

検察官は,平成15年7月25日,被告Y1について,上記商法違
反,背任被疑事件については公訴を提起しない処分をしたが,本件株券オプション取引の一部が証券取引法に違反するとして,同違反行為につき公訴を提起した。同月26日,この公訴提起の事実が新聞報道された。(オ)

大阪地裁は,平成17年2月17日,上記公訴事件につき,被告Y
1を無罪とする判決を言い渡した。同判決は控訴され,大阪高裁は,平成18年10月6日,上記1審判決を破棄し,被告Y1を懲役1年に処し,その刑の執行を3年間猶予する判決を言い渡した。同月7日,同判決の事実が新聞報道された。同判決は上告され,最高裁は,平成19年7月12日,被告Y1の上告を棄却する決定をし,同判決は確定した。同月14日,同決定の事実が新聞報道された。
(カ)

金融庁は,平成15年8月12日,原告に対し,①証券取引等監
視委員会による犯則事件の調査及び原告に対する検査の結果,本件株券オプション取引に関して証券取引法違反等の事実が認められたことから,行政処分を求める勧告が行われた(平成15年8月5日付け)こと,②金融庁検査局が実施した検査において,i被告Y1が,B証券会社の設立に際して,その設立が証券取引法86条違反となることを回避するため,原告の資金を関連会社に迂回させる一連のスキームを立案し,実行させた,ii日本電子証券の設立については,被告Y2が了承していたことが判明しており,実質的に原告がB証券会社を設立したことが認められる,iiiこのように証券取引所の目的と関係のない証券会社を原告が設立し,運営することは,証券取引法86条に違反する行為と認められるなどとして,以上のことから,同月13日から同年11月12日までの間,原告の発行する株券のX市場への上場に係る業務を停止することなどを内容とする業務停止命令及び再発防止策の策定等を内容とする業務改善命令を行った。

判断
上記アの認定事実によれば,調査委員会による調査をきっかけとして,原告の理事会に諮らないで多数の関連会社が設立されたことや被告Y1が関与してX市場で証券取引法違反の株券オプション取引が行われたことについて新聞報道がされたこと,原告は,上記の被告Y1が関与してX市場で証券取引法違反の株券オプション取引が行われたこと及びB証券会社の設立に関して,行政処分としての業務停止命令及び業務改善命令を受けたこと,原告の副理事長であった被告Y1が証券取引法違反で起訴されたことが新聞報道されたことが認められる。
原告は,国民経済の適切な運営及び投資者の保護に資するため,有価証券の発行及び売買その他の取引を公正ならしめ,かつ,有価証券の流通を円滑ならしめるとの証券取引法の目的を達成するため,有価証券市場を開設,運営するという公共性の高い業務を行う証券取引所であるから,上記のような内容の新聞報道をされること及び原告が上記の行政処分を受ける事態になったということは,原告の社会的評価を下げ,その信頼性を失わせるものであるということができ,これにより,上記(1)及び(2)で認められる損害の補てんだけでは補てんされない無形の損害が生じたものであるといわざるを得ない。
この無形の損害に対する賠償額は,被告Y1の善管注意義務違反の内容,被告Y2の善管注意義務違反の内容,上記アの認定事実及びその他本件に現れた一切の事情を考慮して,被告Y1につき300万円,被告Y2につき100万円と認めるのが相当である。
6
結語
以上によれば,①被告Y1は,本件株券オプション取引等に係る損害1億6761万9261円,本件J-NET取引に係る損害9627万4045円,B証券会社の設立に係る損害3184万2000円及び名誉信用の毀損に係る損害300万円の合計2億9873万5306円から,損益相殺すべき138万3815円を控除した,2億9735万1491円を賠償する義務があり,②被告Y2は,本件J-NET取引に係る損害9627万4045円,B証券会社の設立に係る損害3184万2000円及び名誉信用の毀損に係る損害100万円の合計1億2911万6045円から,損益相殺すべき52万2908円を控除した,1億2859万3137円を賠償する責任がある(被告らの上記各賠償額のうち被告Y2の負担する賠償額までの部分は同一の損害に係るものであるから,その賠償額の限度で不真正連帯の関係にあると解される。。

上記の債務不履行に基づく損害賠償債務は,期限の定めのない債務であるから,民法412条3項により,履行の請求を受けたから遅滞に陥るところ,原告が被告らに対して本訴状によって上記損害の賠償を請求するより前にその請求をしたことについては主張も立証もないから,遅延損害金の起算日は,本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな被告Y2については平成15年10月16日であり,被告Y1については同月17日である。

第4

結論よって,原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条,65条1項ただし書を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第20民事部

裁判長裁判官

青野洋士
裁判官

下澤良太
裁判官

高山慎
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