判例検索β > 平成19年(わ)第102号
収賄、贈賄
事件番号平成19(わ)102
事件名収賄、贈賄
裁判年月日平成20年3月25日
裁判所名・部山形地方裁判所  刑事部
判示事項の要旨市役所職員である被告人Aが,情報処理関係の会社の社員である被告人Bらより,賄賂としてノートパソコン等を収受したとの公訴事実につき,その賄賂性を否定する被告人らの弁解を排斥した上,上記賄賂性を認める共犯者の供述及び種々の間接事実などから上記パソコン等の賄賂性を認定した事例。
裁判日:西暦2008-03-25
情報公開日2017-10-13 01:37:44
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平成20年3月25日宣告
平成19年(わ)第102号
主文
被告人Xを懲役1年6月に,被告人Yを懲役1年2月に処する
被告人Xに対し,未決勾留日数中80日をその刑に算入する。
被告人両名に対し,この裁判が確定した日から3年間,それぞれその刑の執行を猶予する。
被告人Xから,山形地方検察庁で保管中のノート型パーソナルコンピュータ1式(平成19年領第281号符号1)及び同保管中の電磁的記録媒体1枚(平成19年領第281号符号2-1)を没収する。
被告人Xから金2万2000円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人Xは,平成11年4月1日から平成16年3月31日までの間,山形県甲市企画調整課情報管理係長として,同年4月1日から平成17年3月31日までの間,同課情報管理主査として,同市における情報ネットワーク等に関する事務を担当し,同ネットワークシステム等の構築,企画立案,発注,保守等に関する職務に従事し,かつ,同年4月1日から同市税務課固定資産税主査に異動後も,上記事務等に関連する職務を兼務していた者,分離前の相被告人Zは,情報化推進に関するコンサルタント業務,情報処理機器及び情報通信機器の販売,賃貸等を目的とする乙株式会社の代表取締役をしていた者,被告人Yは,同社の営業主任として,主に同市役所等の官公庁に対する営業等を担当していた者であるが,
第1

被告人Xは,平成17年5月12日ころ,同市bc番d号所在の同市役所に
おいて,上記Z及び被告人Yから,かねて同市が発注した情報ネットワークシステム等に関連する事業に関し,同社に受注させるなど,同社が有利かつ便宜な取り計らいを受けたことの謝礼及び今後も同様の計らいを受けたいとの趣旨のもとに供与
されるものであることを知りながら,ノート型パーソナルコンピュータ1台及びソフトウェア2点(時価合計33万3000円相当)の供与を受け,もって自己の職務に関し賄賂を収受し,
第2

被告人Yは,上記Zと共謀の上,前記第1記載の日時,場所において,被告
人Xに対し,前同様の趣旨のもとに,前記ノート型パーソナルコンピュータ1台及びソフトウェア2点(時価合計33万3000円相当)を供与し,もって被告人Xの職務に関し賄賂を供与した。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
第1

被告人両名は,判示ノート型パーソナルコンピュータ1台(以下本件パソコンという。)及びソフトウェア2点(以下本件ソフトといい,両者を併せて本件パソコン等という。)は,判示乙株式会社(以下乙という。)から甲市に売り渡されて納入され,その代金が支払われたものであって,被告人Xに対して賄賂の趣旨で受供与された物品ではない旨弁解し,被告人両名の弁護人も本件の賄賂性を争い,さらに,被告人Xは,税務課に異動後は企画調整課の職務を兼務していたものではなく事務の引継ぎにとどまる旨弁解しているところ,もとより,本件においては,被告人Xが,権限を異にする税務課の職務に転じた後に企画調整課の職務に関して本件賄賂の供与を受けたとしても,公務員である以上,贈賄罪が成立し,被告人Xの職務性自体は否定されないものの,被告人Xの弁護人は職務権限のうちの一部の評価としてこれを争っているので,以下,この点に関する裁判所の判断を示す。
第2

まず,本件においては,被告人Yが判示のころ,判示場所で,被告人Xに本
件パソコン等を手渡し,その後,被告人Xが本件パソコンに本件ソフトをインストールして,税務課の執務室の机上や自宅で使用していたことは,関係証拠上優に認められ,被告人両名もこれを争っていないところ,被告人両名は,本件パソコン等
の代金は,甲市と乙との間の平成16年度のO特別保守契約(以下特別保守契約という。)の業務委託料の一部として,いわゆる費目替えの形で支払われており,本件パソコン等は,甲市が購入し,これを公用物として使用する被告人Xが受け取ったに過ぎない旨供述している。しかしながら,以下のとおり,本件パソコン等の代金が,特別保守契約の業務契約の一部として費目替えで支払われているとして,本件パソコン等が賄賂として被告人Xに供与されたものであることに合理的な疑いを生じさせるまでの事情は存しない。
1
(1)

特別保守契約の決裁について

甲市役所では,消耗品費等の余剰予算費目で必要な物品を購入するいわ
ゆる費目替えが事実上許容されていたが,その決裁方法についての具体的な定めはないことから,費目替えにより物品が購入された事実を,決裁書類上だけでは判別できないことになる。なお,パソコンは,本来,備品として購入し,事前に購入支出の必要性について,決裁権者の決裁を受けなければならないものである。
また,被告人らが,費目替えに用いたとする特別保守契約は,平成16年度中に乙の実施した保守業務のうち,定期保守以外の業務(ソフトのバージョンアップ,緊急時の障害の対応,新しいシステムの導入等)分を,同年度末に事後的にまとめて清算する契約である。

(2)

そして,平成17年3月まで企画調整課長,同年4月以降は税務課長
の職にあったA及び同年3月まで企画調整課補佐,同年4月以降は同課課長の職にあったBの各証言によれば,①企画調整課において,パソコンを費目替えで購入する際には,両名が決裁権者として事前に説明を受け,それが必要だと判断した場合に,やむを得ず,その価格に見合う別費目を調整して支出することを許可しており,②本件と同時期の平成17年3月末か4月初めころにも,AがBから企画調整課に配属される職員のパソコンが不足するので購入したい
という相談を受け,年度内に実施できなかったシンポジウム等の費用の一部や会場,機材の借上料が見込みより少なくて済み,支出が残った分の費目替えにより,乙からパソコン2台を合計27万2088円で購入するなどしていたものの,③本件の特別保守契約として98万7000円を支出する契約を締結し,その後同額を支出することについて,補佐ないしは課長の立場で決裁をしたBは,この中に本件パソコン等の購入費が入っている旨の説明を被告人Xから受けておらず,Aも,また,被告人Xから,通常の保守以外に特別保守をしなければならないとの説明を受けたが,その前後においても,その中に本件パソコン等の購入費が入っているとの説明を受けておらず,また,④Aは,被告人Xから,庁内のネットワークを作った際,管理職に配付したパソコンの更新機として2台程度パソコンが必要であり,費目替えで買いたい旨の相談を受けていたが,実現しなかったところ,本件パソコン等については,そのような相談等も一切受けていないのであって,そうすると,平成17年3月以後の被告人Xの上司である両名は,本件パソコン等を費目替えで購入する旨の相談を受けず,決裁もしていないことは明らかであるばかりか,その他,両名とも,本件パソコン等が甲市の購入した公有物である旨を認識し得る事情すら一切把握していなかったものと認められる。
(3)

なお,関係証拠上,甲市と乙との間で,本件以前にも,平成14年度
Oセキュリティ対策業務の作業費(金額25万2000円)が支出された際,それと同額のソフトやスキャナーの部品等のリストが作成され,納入された事実が認められる。
2
(1)

特別保守契約の内訳について
関係証拠上,①被告人Xからの被告人Yに対する指示に基づき,被告人Y
から,平成17年3月24日,特別保守契約の見積金額が税込み105万円である旨のメールが被告人X宛てに送信され,②その後,特別保守の契約額が税込み98
万7000円に変更されるとともに,被告人Yは,税抜き59万100円分の乙に対する未払い金(被告人らは未精算金と称しているので,以下未精算金という。)の支払いを特別保守契約の中で賄うことを前提とした未精算リストを作成し,③被告人Xは,税込み98万7000円で特別保守契約を締結する旨の決裁書面を起案して,上司の決裁を受け,その後,乙との間で同内容の契約書を交わし,④被告人Xは,同年4月上旬ころ,企画調整課情報管理係で被告人Xの部下職員
として勤務していたCに対し,前記未精算金を企画調整課の予算,会計の中から支出できる可能性について相談し,Cがその処理の可能な一部につき,支出する手続を執った事実が認められる。
(2)

そして,これらの事実を前提にすると,前記未精算リストに被告人X及び被
告人Yがそれぞれ手書き部分を加えて作成され,被告人Yのデスクから押収されたとされるメモ(以下本件メモという。)の記載内容からは,被告人両名間で,その表面において,①上記未精算リストの内訳書の金額から,企画調整課から支
払われることとなった分を控除すると,未精算金が40万7100円に減額されることを確認し,②本来の特別保守契約の金額を21万円とすることとし,③これらの合計金額61万7000円を本件保守契約金額98万7000円から差し引くと37万円が余ることを確認し,その裏面において,④この37万円の金額の範囲内に,本件パソコン,ソフト,肘掛け椅子等を個数を減らして調整するなどしながら割り当てる旨の協議をしたものと推認するのが合理的である。
3
従って,以上の事実は,被告人Xと被告人Yとが,既に金額については被告
人Xが上司の決裁を受けていた特別保守契約から支出される98万7000円の中に,本件パソコン等の代金を含ませ,上司等の決裁を経ることなく,費目替えの処理をしようとしていた事実の存在を一応窺わせるといえる。
しかしながら,他方で,本件においては,手書きで内容の訂正変更等が試みられ
た本件メモ以外に,本来の特別保守金額及び費目替え品目,金額のリスト等が最終的に作成されておらず,当初作成された,本件パソコン等を含まない費目替えのみにより説明可能な書面のみが作成されたままであり,前記のとおり,決裁書類のみでは購入物品を決裁者も確認できないという費目替えの特殊性に鑑みると,被告人両名の行為は,本件パソコン等が費目替えにより購入された事実を,事後的にも決裁権者が確認することを不可能にする異例なものといえる。とりわけ,本件で費目替えに用いたと主張する特別保守費は,企画調整課で同時期にパソコンを費目替えで購入した際に用いた費目と比較すれば明らかなように,予算の手当があり計画されていたが実施されなかったり,見込みより少額で済んだことによる余剰費目ではなく,本来は実施済みの業務を事後的に清算する費目であるから,余剰分をやむを得ず利用できる関係にはなく,仮にこれを費目替えに用いるとすれば,決裁者によるその可否の判断がより強く求められるにもかかわらず,金額のみの決裁を受けていること,同種費目が全額費目替えに用いられるという本来の費目替えの実態とは整合性の低い物品購入が行われたと窺われる前記認定に係る例でも,同額の物品リストが作成されていることを考慮すれば,本件を費目替えとしては異例の処理とみなければならないのはより明らかである。

さらに,乙による本件パソコン等の仕入れ状況をみると,関係証拠上,被告人Yは,平成17年4月28日,株式会社丙(以下丙という。)の担当社員に対し,インターネットメールで,全部で税込み370,000円以内であればいいのですがと付記して,本件パソコン等及び肘掛け椅子を発注するとともに,そのころ,同人に対し,電話によりそのパソコン等の品名を何とかの調整費とか設置費等にしてもらいたいとし,その納入先が甲市であることを告げて依頼し,丙は,平成17年5月の連休明けころ,上記物品を,税込み36万1200円で納入し,内訳について,サーバー設定費と偽った請求書,納品書及び物品受領書を作成し,乙に送付した事実及び乙の振替伝票においては,甲市に対する売掛金98万7000円の摘要を企画課H16O特別保守とし,上記丙に対する買掛金36万
1200円の摘要を丙サーバー設定費とする処理がなされている事実が認められ,本件パソコン等と特別保守契約金との関係を不分明にする取り扱いがなされている。

そもそも,本来,費目替えの処理にともない売上げ名目のみならず仕入れ名目まで偽ることは,費目替え処理としては必要性がなく,乙がこれまで費目替えで納品したパソコンの大多数の費目替えでも行われてはいなかった上,弁護人が主張するところの,本件以外に仕入れ名目を人件費等として偽っていたと認められる帳簿の処理をみても,丙企画課ウィルスソフト設定(☆☆☆)などという,人件費名目で仕入れを偽りつつ,仕入れ商品名も併記する帳簿の記載がなされているのであって,この処理の理由や経緯は後述するとして,いずれにせよ,本件のような外形で仕入れ名目を偽った処理がなされている事実は,通常の費目替えによるパソコンの納入と同視できず,なお,パソコンを費目替えで納入した事実を糊塗するための処理と見ざるを得ない。
4
そうすると,本件メモの詳細な作成経緯や協議内容如何にかかわらず,被告
人Xのみならず被告人Yにおいても,甲市との関係で,本件パソコン等については,これらを費目替えとして処理することを意図していなかったものと推認されるところ,以下のとおり,前記メモの作成経緯や協議内容自体においても,合理的とは解し難い点が存する。
(1)

まず,本件費目替えの枠を作るための前提となる特別保守の業務委託料の
金額が21万円とされている点についてみると,まず,平成9年4月から乙で技
術を担当する社員として稼働しているDの証言によれば,年度末に特別保守として計上する際,被告人Yと年度内に行った特別保守に該当するような作業項目などをピックアップして,それを基に見積書を作成して甲市に提出し,当初の金額が105万円とされているところ,捜査段階では秘匿していた事情として,公判廷においては,合計3.3人日ほど作業工数を違法に水増ししたこと
を認めた上で,86万8000円の金額が正しいとの認識を述べているのであるから,これと整合しないことは明らかである。
これに対し,被告人Yは,公判廷において,弁護人の質問に対し,21万円は,年度末のボーナスみたいな形で頂けるものというふうに思っていた。特別保守契約の作業はすべて定期保守の中ですべて作業的には行い,毎月の契約料を受領しており,保守の中で二重に請求してるという負い目があり,もらえたらいいなというレベルのものであって,今回の未精算リストの利益が出れば十分だと思っていた。と述べて,一方で請求行為の違法性を自認してまでも,本件パソコン等については費目替えで処理したことの合理性を強調したものの,検察官の質問に対しては,

二重請求になるというのは私の勝手な考え方で,契約上はやったものは頂ける契約であり,言葉が足りなかった。

と訂正しつつ,その後,同じ時間の中で二つの作業を同時にやるので,金額的には一緒でいいかなという個人的な思いがあった,毎年の純粋な業務委託料は,費目替えをした残りというような格好になるとも述べるなど,その前提自体において妥当性に欠けるとともに,一貫性にも欠ける場当たり的な供述であって俄に信用し難いものである。
また,被告人Xは,この21万円の金額が合理的な金額であり,特別保守の業務委託料は,当初から20万をちょっと超えるかどうかぐらいの金額であり,かつ,21万円でも少し多めであると認識していたとし,その理由として,ざっと見て工数が大きく,暗算でも費用的にはちょっと大きいと見受けられ,例えば,一見しただけで,ソフトアップデートサービスの公開系サーバーと内部系サーバーは実験として行ったものなので60万はなくなるとか,そのほかの項目もそれぞれの工数が非常に大きくなっているのが明らかだったからであるとする。しかし,他方で,被告人Xは,このような計算を前提とした説明を被告人Yに一切しないままに,費目替えに関する細かい計算の説明や費目替え物
品の調整に終始する言動を採ったとしている点で整合せず,俄に信用し難い供述であるといわざるを得ない。
そうすると,他方で,別部が,丁サーバー導入分(合計60万円)については,テストケースなので,もらえればいい,逆に言えば,もらえなくても仕方ない旨の認識も述べていることや,前記のとおり,乙に対する未精算金をこれに含ませて特別保守の金額が34万9900円に減額された経緯等が認められるのであるから,上記Dの証言に係る上限金額の厳密さに疑念を生ずる余地があるが,この減額の経緯自体,被告人Xと被告人Yとの間のみの折衝により決せられたものにほかならず,被告人両名が公判廷において述べるように,これらの点についての両者間での一切の説明や交渉なしに,本件パソコン等の費目替えの処理をする前提として,21万円の金額が算出されたとする経緯を合理的なものとみることはできない。
そもそも,前記のような被告人両名の供述は,乙の通常保守以外の作業について,一方で,被告人Xは,発注者側の力関係を背景として,費目替えの受け皿として要求すれば圧縮可能で自由に使える費目として利用し,他方で,被告人Yは,被告人Xには二重請求の実態にあることを告げぬままに,被告人Xの要求に対応しているとの外形を維持しつつ,乙の利益をあげようとしていたことを意味し,いわば,公費を私物化し得る両者の癒着関係やこれを意に介さないという本件贈収賄行為の背景事情を端的に現しこそすれ,本件において,被告人Xが私有物としてのパソコンを手に入れようとする要求行為が認められ,かつ,被告人Yがこれに応じようとするのであれば,従前どおりの費目替えの処理によってはこれが実現しない関係にある以上,被告人両名の供述する従前の事情をもって,被告人らが本件贈収賄行為に及ぶ必要性がないなどとして,本件賄賂性の認定に合理的な疑いを生じさせるものとはならないというべきである。

(2)

次に,37万円を枠とする費目替えの協議をしたとの点についてみて
も,本件パソコンとオフィススタンダードのソフトとの合計金額自体が,その記載上も未確定のままに,さらに,上記21万円の根拠も不明なままに,その他の品物を抹消したり,個数を減らして調整することに特段の合理的な理由を見いだすことはできない。
なお,この点に関する被告人Xの公判廷における供述は,上記のような未確定な金額を前提に,さらに粗利まで見込みながら話し合ったという不可解なものであり,確かに,本件においては,結果的には仕入れ額との関係で粗利率が約2.4%程度あったとはいうものの,そもそも,被告人Yは,前記のとおり,仕入先に対してメールで,全部で37万円以内であればいいのですが・・と基本的には利益を度外視した内容の依頼をしているのであって,結果的な粗利の存在を重視することはできない。
4
さらに,各被告人に個別の事情をみると,まず,被告人Xについては,本件
パソコンの機種の選択及び被告人Xが本件パソコン等を受領した後の使用,保管態様をみると,以下のとおり,被告人Xが,本件パソコン等を費目替えによる購入として処理し,公有物として保管使用しようとしていたこととは明らかに整合しない以下の事情が認められる。
(1)

被告人Xは,本件パソコンを入手する以前は,私有物のノートパソコン
(P製戊。以下単に戊ともいう。)を市役所における業務(以下公務という。)に用いており,これは小型で持ち運びに便利な機種であったところ,戊より画面が大きいが薄型で持ち運びに便利な機種である本件パソコンを入手後は,従前の私物パソコンを自宅に置き,本件パソコンを公務に用いていた。なお,甲市役所では,多くの職員が,私有物のパソコンを業務に用いていた
が,セキュリティ対策基準により,Oにつないでいるパソコンである以上,公有物でも私有物でも庁外に持ち出す際には許可が必要と定められるなどの制限を受けていた。

(2)

そして,被告人Xは,本件パソコン等を受領後,①本件パソコンに,甲市
のO使用のメールソフトとは別のメールソフトをインストールし,そのメールのアカウントを,個人的に契約したインターネットサービス(プロバイダ)を利用するための設定(乙のドメインのインターネットのメールの設定)にしてこれを利
用し,②本件パソコン入手後,最初に,自宅へ持ち帰ってセットアップ作業をし,その際,戊の設定やマイドキュメントのデータを移行して引き継ぎ,その後も,何度も自宅に持ち帰って再セットアップを繰り返し,その際,データの未整理により重複して保存されるなどしたものも含めて,本件パソコンの容量約7割を占める(容量にして23・1ギガバイト)私的な画像データ等を本件パソコンに保存し,また,一部の家族の写真等のデータについては,戊には保存せずに本件パソコンにのみ保存するなどし,③本件ソフトのCDについても,1枚を同僚職員に公有物だと告げずに渡してインストールさせ,その後同人に長期間保管を任せ,もう1枚は,自宅に保管していたほか,④本件パソコンの機種の選定及び購入の経緯を一切上司にも説明していないにもかかわらず,本件パソコン等が費目替えで購入した公有物であることを,本件パソコン等受領後,本件で検挙されるまでの約2年間,企画調整課長又は税務課長ばかりではなく,予算担当職員その他の職員に対しても,その旨の報告や事情説明等を一切しないままに,管理使用していた事実が認められる。(3)

そうすると,このような被告人Xのパソコンの使用,管理状況は,被告人X
が,従前公務に用いていた私有物パソコンの情報や使い勝手を本件パソコンに引き継ぎ,持ち運びの便利なパソコンとして,公務にも私用にも利用するという,いわば,従前の私有物パソコンの代替機として,本件パソコンの機種を独自の判断で選定し使用するものに他ならず,かつ,本件パソコンが従前の機種とは異なり公用物であることを意識した配慮を一切窺わせないものであって,結局,本件パソコン等が公有物であるとの疑念を持たれることなく,私有物とし管理使用できる状況を企図しているものと評せざるを得ない。

(4)

以上の事実からすると,一方で,被告人Xが,本件パソコン等を費目替えで
購入したことを前提とする行動とは整合しないとともに,仮に,費目替えで購入されて代金が支払われているとすれば,被告人Xの独断で機種選定,パソコン購入の必要性を判断し,被告人Yから直接受領し,事後的な報告もしないという特異なものであるにもかかわらず,被告人Xは,その後も私有物として管理使用できる対応に終始しているのであるから,費目替えで購入した事実を隠匿する行動を採っていたものとみるほかはない。
なお,この点,被告人は,異動期の繁忙や私的なデータバックアップの必要性等を強調するところ,確かに,前記認定のとおり,乙に対する未精算金の費目替え処理自体も事前には説明していないこと,データの移行も,一定の仕事上の使い勝手や情報を引き継ぐための簡易なコピー方法を採った結果であること,従前私有物のパソコンを公務に用いていたことから,公用物としての厳格な処理の必要性に対する鈍磨の生ずる可能性があり得ることなどに鑑みて,被告人の説明は,一定限度ではあり得ないとはいえない事情ではある。
しかしながら,関係証拠によれば,甲市において,公費による備品の購入,とりわけ,パソコンの購入に関しては,課長以上の管理職員が,購入の必要性を判断し,かつ,購入後の課内の台数等を把握する必要があり,特に,費目替えによる購入の場合には,私有物パソコンを公務に用いている職員が多数存する中で,当該パソコンが公有物であることを明確に把握する必要性が高いとされている。そして,このことは,被告人Xも当然知悉していたものと認められるところ,被告人Xは,真に費目替えの処理を意図していたのであれば,本来その機種選定においても事前に決裁を得る必要性が高いと評されるモバイル型ノートパソコンを独断で選定し,独断で費目替えの枠を作り,かつ,その事実を,事後的にも報告や事情説明等を一切しないままに,前記のとおり私有物パソコンの代替機としての状況を作ることを全く意に介さない態度を採っていることを到底合理化できるとは考えられない。すなわち,その理由について,被告人Xは公判廷において,まず,一度費目替えをした
後に再度費目替えをするという訳の分かりにくい内容だったので,1回目に話ができなかったことがあって,2回目に話をできなかったとした上で,さらに,話しにくかった理由として,費目替えで物品を購入するということ自体本来的には適切ではなく,すべきではないとの思いを持ちつつ,どうしても必要な物品であったことから,苦しい思いをしながら費目替えという方法で買うことにしたからであるなどと説明するが,そもそも,その述べるところによっても,特別保守業務委託料による過大な見積り申請を認めた上で,1回目の費目替えを躊躇なく行い,さらに,その枠を拡大させてまで2回目の費目替えを行っている態度と到底整合する説明とはいえない。また,さらに,その理由として,1回目の費目替えのときは,異動期の直後であったので決裁の話をするタイミングが得られず,そのままずるずるになって言えなかったので,2回目以降についてはなおさら言う機会を失ったとも補足して説明するが,他方で,判示Zに対しては本件の処理の確認を取るように直ちに被告人Yに指示をしたとし,かつ,本件メモに基づく被告人Yとの協議終了後に上司の決裁を採るためにも必要と思われる一覧リスト等も存在せず,その指示をした形跡も窺えないのであるから,事後的にも決裁を経なかった理由を合理的に説明できているとはいえないばかりか,むしろ,このような態度は,本件パソコン等の購入の事実を殊更に隠匿する行動と解される。5
次に,被告人Yについては,何よりも,本件贈賄を共謀したとされている
当時の乙の代表取締役であったZが,被告人Yから,本件パソコン等を費目替えで甲市から購入する旨の説明は一切受けず,むしろ,本件パソコンを買ってもらえるものではないとの明確な説明を受けたと証言するとともに,その証言に係る状況は,本件メモが作成された直後であるにもかかわらず,費目替えの内容や特別保守金額の圧縮等についての説明がなされた可能性を一切窺わせないものであって,そうすると,このZの証言に信用性が認められるとすれば,被告人Yが被告人Xとの間で本件パソコンを費目替えにより販売する旨の協議をなしていたこととは全く整
合しないことになる。そして,以下のとおり,Zの証言には高い信用性が認められる。
(1)

Zの証言の要旨は,被告人Yから,パソコンを欲しいとXさんから言われていると聞き,甲市若しくはX個人が買ってくれるんだったら良かったじゃないか,ありがたいなという趣旨の発言をしたところ,被告人Yが,そうではなくて,都合してくれということである旨説明したので,このパソコンが被告人X個人のものとして渡った場合には賄賂として法的な責任を執らざるを得なくなるんじゃないか,大変なことになった,非常に困ったことになったと思ったとした上で,被告人Xには,いろいろ社員等が指導してもらっており,バックに甲市が付いているという意識が常にあったので,これを断れないという思いや,断ると何か不利益があり得るかという思いから,これを了承したというものである。
(2)

このZの証言は,本件パソコンを甲市若しくは被告人Xが購入するのでは
なく,被告人Xにあげることを確認した上で,これが賄賂に当たると考えたことを明言し,その結果,自らの行為が贈賄罪に該当することを認める供述であって,まさに,被告人Xとの直接の交渉の一切ないZとしては,本件パソコンが費目替えであれ,甲市に販売納入するものでないことに関する確信のみを根拠として,自らの贈賄の犯罪事実を認めるものである。
そして,Zは,被告人X及び同Yが,本件パソコンは甲市が購入したものであるとして贈収賄罪に該当しない旨を主張し無罪である旨争っているのを知った上で,なお,本件パソコンは販売したものではないことを明確に前提として,自らの刑事責任を認めて有罪判決を受けた経緯の中で,これと同趣旨の証言を貫いていることに鑑みれば,この供述部分に関して,Zが,殊更に虚偽を述べたり,曖昧な記憶のままに供述に及ぶ可能性は到底窺われず,後述するとおり,被告人両名の弁護人の主張等を踏まえて検討しても,その信用性に疑念はないというべきである。

まず,被告人Xの弁護人は,本件において,Zが,費目替えによる購入申入
れがなされた経緯を被告人Yから何も聞くことなく,ただ都合してくれと言われたと聞いて,それに応ずることが場合によっては賄賂になるかもしれないと不安に思いつつも,深く考えることなく簡単に決裁してしまったとみるべき余地がある旨主張する。しかしながら,前記のとおり,Zの証言は,買ってくれるのだったらありがたいと話したのに対して,そうではなく都合してくれと言われたというのであり,Zが勝手に誤解したと解する余地の乏しい証言内容であり,また,弁護人が主張するように安易に決裁してしまった者が,贈収賄共犯者両名の否認供述にも何ら影響されずに,責任を認める供述を貫くものとは考え難い。さらに,被告人Yの供述は,Zに対し,未精算金額や本件パソコンを費目替え
で納めるという話をしたこと,それに対し,Zは,特段変わった様子はなく,パソコンを誰が使うのか尋ねてきたので,役所に納めるので役所の人でしょう,選定されたのはXさんなのでXさんかもしれないですねというような話はしたと思うが,それに対してZは,ああ,そう,というような返答だけだったとした上で,Xさんからパソコンを都合してくれと言われたなどとZに話してはいないとの具体的な会話内容を前提にしているのであるから,明確にZの証言と矛盾する内容と言わざるを得ず,そうすると,この供述からは,Zが一人勝手な思い違いをしていると考える余地はさらに乏しく,むしろ,Z証言と被告人Yの供述との信用性如何の問題に帰着すると考えざるを得ないのであって,この点において,Zの買ってくれるのではなくてあげる旨の説明の存在に関する証言部分に高度の信用性が付与されることは前述したとおりである。

次に,被告人Xの弁護人は,Zが,被告人Xのパソコンの使い方が気掛
かりだった旨述べており,これは,賄賂となるのか確信を持っていなかったからであって,その証言の信用性に疑問を抱かせる事情である旨主張するが,この証言部分は,弁護人が

あなたはこのパソコンというものをXさんの方ではどのように使うんだろうというふうに思っておられましたか。

と質問されたことから,

特にどうということは思っておりませんでした。

と断った上で,

ただ,個人的に使われるとまずいのではないかというふうには思っておりましたが。

と答えた後,

業務で使うのか,あるいは個人的に使うのか,その辺はちょっと気掛かりではありました。

と付け足したが,結局,実際にどのように使うだろうかというようなことは特に考えておらず,飽くまでもその個人に対して渡したので,それを業務で使ってもやっぱり個人のものだとは思う旨説明しているのであって,Zが,個人的に使われるとまずいと当時考えていたのかどうかは明確ではなく,むしろ,以下のとおり,賄賂の話が消えてくれればよいと思っていたとの心情と同趣旨の心情を意味する証言部分と考えられるのであって,弁護人の主張は採用の限りではない。
すなわち,Zは,前記のとおり被告人Xから賄賂として本件パソコンを要求されていると理解し,まずいというふうに言ったが,被告人Yは黙ったままだったので,この話がつぶれてくれればいいという思いもあり,パソコンを仕入れて,パソコン名目で売上げが立たないと,帳簿上品物がないのにパソコンがあることになると,これはまずいと言ったところ,被告人Yが,別費目で別の項目で処理するから大丈夫である旨説明したが,さらに,別の項目でパソコンを卸してくれる会社があるとは思わなかったとして,どこから買うにしても,ほかの会社でも別名目でパソコンを卸してくれるところなんかないだろうと,それをやるとその会社も困るはずだと,そんなことはしないだろうと言うと,被告人Yは,

当時取引のありました丙のEさんと相談すると大丈夫だと思います。

ということだったので,じゃ,それでお願いしますと言って承諾したというのである。
また,被告人Xの弁護人は,Zが,上記のとおり,被告人Yに何ら詳細を確認することなく,仕入れ処理の方法だけを心配し,別費用で処理すると説明されて賄賂
の供与を承諾しているというのは不自然であるともする。しかしながら,Zは,
通常,パソコン1台の納品,売却についていちいち相談などしない被告人Yが敢えてこれを報告してきたのにちょっと引っ掛かりを感じたことを契機に確認すると,購入の話ではないことが分かり,これはまずいと言っても,被告人Yが黙ったままであったので,上記のとおり,この話がつぶれてくれればいいという思いもあり,いろいろ問題を吹っかけたとその当時の心情に触れつつ,賄賂の供与を承諾するに至った事情を説明しているのであって,何ら不自然なものではない。

さらに,被告人Yの弁護人は,本件パソコン等の仕入れ原価に関する認
識の矛盾点や会計担当職員がZの仕入れに関する会計処理の指示を受け入れたことの不自然性を指摘するとともに,問題に感じた仕入れを全く確認せず,事後的な指示もしないことが不自然である旨主張するが,Zは,経理処理には詳しくなく興味もないことを前提として,本件の仕入れ処理についても,前記のとおり,いろいろ問題を吹っかけるためのものであったと説明しているのであるから,現実の経理処理との矛盾や事後的な確認をしていないことは何ら被告人Yから本件贈賄の説明を受けたとの供述部分の信用性を揺るがす事情とはいえない。

加えて,被告人YがZにこのような贈賄の共謀の契機となるような説明をす
ることになった経緯については,被告人両名が公判廷で述べるところによっても,被告人Xは,一回契約したものを変更する形になることから,決裁者に確認を
取って欲しいという気持ちから被告人Yに依頼したとし,被告人Yは,被告人Xから費目替えが増えた部分を説明して欲しいと依頼され,自らは原価処理の了解を取って欲しいとの意味合いであると理解し,前記のとおりZに対して費目替え購入の説明をしたというのであって,本件において,Zが前記のとおり,本件パソコンが費目替えによる販売でないことを認識した事情を被告人Yから
聞く契機のあったことには何ら疑念はないとともに,被告人両名の説明するような意図でZに対する説明がなされたこととZの証言との間には,何らかの誤解によりZが前記のような証言をしたことを窺わせる事情は見当たらない。(3)

なお,この点に関する被告人Yの公判供述は,前記のとおり,Zの証
言と両立する余地のないものである上,その内容においても,単なる費目替えに関する報告に対して,Zから誰が使うとの質問が出るのが不自然な感も否めないなど,上記信用性の高いZの証言の信用性を揺るがすものとはいえない。
しかも,被告人Yは,その後の本件パソコンの仕入れに関する会計処理についても,公判廷において,Fさんに,本件パソコン等を仕入れをする段階で,売上げの原価が特別保守なんだけども,費目替えをしたいというようなことで相談をしました。自分で迷うようなものについては全部聞いていた。支払い自体が消耗品であれば,物が物に化ける形だけですので,特別意識をしてなかったが,消耗品という形でない場合には相談するようにしていた。そのときに,Fさんの方から,品物をパソコンとして仕入れたのに売上げが上がらないと在庫として帳簿上残ってしまうので,監査とか,税務署に対する弁解に困るということで,人件費で仕入れたらいいんじゃないかと言われた。と説明し,自らの積極的な操作ではないとの点を強調する。しかし,Fの証言によれば,最初に被告人Yから,納品書,物品請求書,物品受領書のコード欄にサーバー設定費,消費税とあるものを渡されたので,売上げの詳細を確認すると,さらに,丙からの一覧表に基づいて説明されたが,特別保守の原価の請求明細が変わるという必要性は感じていなかったとして,Fが説明を受けた段階で,既に仕入れ科目も偽られていたことに間違いはない旨証言する。
そして,同人の証言は,その前提として,私,大変恥ずかしいんですけど,Oでこういったものを買えないということすらも知らない,契約内容を全く知らなかったので,このときは何も不思議に思わずに,ですから,当然費目替えということも全く頭にはありませんでした。とまで述べ,また,本件と同様に甲市に対してパソコンを費目替えの形で販売した場合の元帳の処理の仕方についても,私の場合は,科目替えをしてうんぬんという認識よりは,目の前にある伝票とかに書いてあるものを単純に入力するときに分からなくならないように,記載されている名目,品目等をなるべく入力して,原証票と照らし合わせができるようにしているだけなので,費目替えを認識した上で会計処理をしているのとはちょっと違っている。

それは誰からの指示ではなく,情報として分かるだけのものは入力するということでやってます。実際はこれなんだけれども,この名目で伝票が届いたとか伝票を発行したとかが分かるように入力してます。

と説明しているのであって,本件の説明が具体的である上に,同人の当時の会計処理の仕方や専門的な情報量の点からみても,むしろ,矛盾がなく自然なものといえ,その信用性は高いといえる。
加えて,前記認定に係る被告人Yと丙の担当社員との間のメール内容やその経緯は,上記Fの証言内容と整合するとともに,Z証言において,被告人Yが,別
名目でパソコンを卸してくれるところなんかないだろうとのZの問いかけに対して,当時取引のあった丙のEさんと相談すると大丈夫だと思いますと上記Eの名前を出して答えたとしている点ともよく整合する。
そうすると,被告人Yの公判供述は,信用性の高い各証人の証言と矛盾する形で,本件が,通常と変わらない費目替えで処理されていることを殊更に強調しようとするものとみざるを得ない。
なお,前記のとおり,本件以外に仕入れ名目を人件費等として偽っていたと認められる帳簿の処理に関しては,Fの証言によれば,人件費名目で仕入れを偽りつつ,仕入れ商品名も併記する帳簿の記載がなされているのは,Fが,伝票等の記載を入力する際,原証票との照合のために資すると思われる名目,品目等を可能な限りに書き込むようにしていた単純作業の結果であるというのであるから,むしろ,本件においては,このような照合の困難な請求書,納品書及び物品受領書に基づいた処理がなされ,かつ,被告人Yがこれを積極的に指示していたことを併せ考慮すると,本件において上記のとおり,仕入れ名目を偽ろうとした被告人Yの行為は,必ずしも,通常の費目替えによるパソコンの納入とは同視し難いものというべきである。(4)被告人Yの弁護人は,本件後に,被告人Yから被告人Xに宛てたメール中に,本件パソコンに関して「ご購入時期からしてと表現していることが,被告人Yに賄賂性についての認識がなかったことの重要な証左である旨主張する。しかしながら,被告人Yとしては,被告人Xが枠内に入れる処理を強要したことをもって,購入の形式として偽る意図を察知し,これに合わせることも十分考えられる上,メール中にあたかも贈賄行為を示すような購入とは異なる表現を取ることに対する抵抗感が生ずるとの心理も十分理解できるところであって,これが,同弁護人が主張するような趣旨での重要な証左であるとは評価できない。第3

以上からすると,本件パソコン等が費目替えにより乙から甲市に販売され
たものであるとして,賄賂による供与であることに合理的な疑いを生じさせる事情までは認めることができず,反面,以下のとおりの被告人Xの乙に対する違法性の明らかなものを含む便宜の存在が認められ,かつ,被告人Xが,税務課に異動後,企画調整課の事務の引継ぎをしていたにはとどまらずその職務を兼務し,かつ,乙に対する有利な取り計らいも続けていたものと認められるところ,これらの事情は,被告人両名が本件贈収賄行為に及んだことと強く整合するのであって,これらを併せ考慮すると,本件においては,本件パソコン等が賄賂の趣旨で供与されたことが合理的な疑いを超えて認定できるものといえる。
1
(1)

便宜の存在について
関係証拠によれば,被告人Xは,平成11年4月,企画調整課情報管理係
の係長又は主査であり,その職務は,甲市役所の情報ネットワーク等の構築,企画立案,発注,保守等であったところ,以下のとおり,乙を優遇していた事実が認められる。

平成12年3月発注に係る地域インターネット促進事業につき,当時の乙の
社長からの依頼で,乙に受注させることとし,平成11年11月ころ,当時の乙の甲市営業担当社員に対し,予算要求が通りやすい金額にするよう見積書の内訳等をチェックして乙に受注させる意向である旨告げ,さらに,事実上予定価格を教示するなどした結果,乙が受注した。

平成15年度内発注に係る情報セキュリティ対策関連業務12件につき,乙
に受注させることとし,


平成14年11月ころ,被告人Yにその旨伝えた上で,被告人Yらを集めて,
予算要求のための資料作りに関与させ,


機器,ソフト納入各1件を指名競争入札方式で発注するに際し,平成15年
4月ころ,被告人Yに乙以外の指名業者を選定させ,


指名競争入札方式で発注された物品購入3件につき,平成15年7月ころ,
被告人Yから,予定価格決定のための見積りを取り,改めて乙に受注させる意向であることを伝え,


物品購入4件について,乙の単独見積りで随意契約をできるようにするなど
し,
それぞれ,乙に受注させた結果,乙は,平成15年度内に発注された情報セキュリティ対策関連業務12件のうち11件を受注した。

平成16年3月発注に係るQ事業につき,乙に受注させることとし,


平成14年11月ころ,被告人Yにその旨を伝え,他社提出に係る予算要求
のための見積りを乙に転送し,他社社員に乙を窓口にするよう伝え,②

平成16年2月ころ,被告人Yに対し,同業務の予算額を伝えて,事実上予
定価格を教示し,発注方式も,乙が受注しやすいよう随意契約とし,相見積業者も
被告人Yの要請に従って選定するなどし,これらの結果,乙が実質的に受注した。
(2)

なお,被告人Xの弁護人は,甲市では,平成9年ころから,乙の経営再建
が重要な行政課題の一つであり続け,被告人Xもその課題に向けて職務上努力を傾注していたという事情が便宜の背景にあり,被告人Xが自己の私的利益から乙を優遇した事実は認められない旨主張し,また,被告人Yは,乙が前記受注をできたのは営業努力によるものである旨弁解するが,そもそも,上記のとおり,事実上予定価格を教示するなどの違法性の明らかな優遇行為に及んでいることを前提にすれば,私的利益の強さの程度や営業努力の有無等により,本件便宜の存在に関する前記認定が何ら左右されるものではないのも明らかである。
2
職務権限について

被告人Xは,平成17年4月1日付けで,税務課に異動してからも,以下のとおり,企画調整課情報管理係の職務を兼務し,かつ,乙に対する有利な取り計らいを継続していたものと認められる。
すなわち,被告人Xの弁護人は,被告人Xの職務態様が,後任者であるGといへの引継ぎや助言にとどまり,乙の平成18年3月の業務受注に関しても,Gに受注させるように指示してはいないと主張するが,関係証拠によれば,被告人Xは,平成17年4月以降も,甲市の行政組織規則に基づき,後任者に対する助言,指導,
協力をするように指示され,かつ,被告人Xの取り扱う業務内容についても,上記の範囲内では特段限定されない状態で,その後も情報管理係の業務を行い,残業代も企画調整課から支出され,後任者らが出席せず,かつ,把握もしていないRシステムに関する会合や被告人Yとの打合せに出席し続けて,提案書の添削,相見積業者選定の内報等乙に有利に取り計らい,乙が同導入業務を実質的に受注したところ,A,B及び上記後任者のいずれもが,このような被告人Xの行為が,被告人Xの職務の範囲内である旨認識していたものと認められるのであるから,被告人
Xが,平成17年4月1日以降も企画調整課情報管理係の職務を兼務していたことは明らかである。
第4

以上のとおり,本件パソコン等が,賄賂の趣旨で被告人Y及びZから,被告
人Xに対して交付されたものであることは,被告人両名の捜査段階における自白調書に依拠することなく,合理的な疑いを越えてこれを認定することができるところ,被告人両名の各自白部分の供述調書についても,以下のとおり,その任意性,信用性に特段の疑念はない。
1
まず,被告人両名は,捜査段階ではいずれも費目替えに関する弁解主張をし
ていなかったものと認められる。
この点,被告人Xについては,取調べ捜査官も公判廷で明言しており,また,捜査段階当初の供述調書において借りたものである旨の弁解がなされているところ,これと費目替えの主張を当初からなしていたこととの整合性が認められないことからも明らかであり,また,被告人Yについては,平成18年11月時点で費目替えの主張をしたとする公判供述は,その後の費目替えに関する捜査状況と整合しない上,取調べ捜査官に対してのみ弁解したが,弁護人,勾留質問担当裁判官,取調べ検察官のいずれに対しても一切この弁解を説明しなかったとする供述は極めて不自然であって,信用性に乏しいというべきである。
そうすると,被告人らの自白の任意性,信用性に関する主張は,いずれも,後付で主張し始めた費目替えの主張と整合させるためのものに他ならず,基本的に信用性に乏しいといえる。
2
次に,被告人Xの任意性に関する供述は,その供述調書において,詳細な訂
正を申し出て,これが調書に反映されていることと整合しない心理状態を前提としている点や,職務権限に関する弁解をなしていること整合しないなど俄には信用し難いものであって,その供述の変遷理由及び捜査官から供述を強要されたとする説明部分が,矛盾に満ち,不自然かつ不合理なものである。
そして,その自白調書の内容をみると,まず,被告人Yとの間で前記のとおり,
費目替えによる購入によるとも評し得る外形を整えたメモが作成された経緯について,パソコンが20万円以上することから,被告人Yの独断で費用を捻出できるとは思えず,Zに相談して決めると思い,Zを納得させられるだけの理屈が必要であると考え,被告人Yに対し,

平成15年度のセキュリティ対策で保守等での未了分や実験をしたこともあった。C係長から清算してもらえる分もある。それらをバーターすれば,特別保守は21万でいいだろう

などとして特別保守金額の減額を納得させ,37万円の余剰金額を前提に,パソコンなどの購入代金が捻出できたように言いこめて承伏させることができると思ったこと,その上で,金額的にこの方法で承伏させることの困難な要求備品についてはこれを断念する形でメモの削除部分が記載され,パソコンとソフトに関する正確な金額は未確定であることを示す表示を付した上で,なおそのままで承伏をさせたこと,最後に被告人Yに社長にこれでいいか確認してと確認を求めたことが説明されており,本件メモの存在に基づき,賄賂の要求行為と矛盾しない経緯について,被告人でなければ説明できない事情を交えて説明されている上,客観的事実とも整合している。
また,被告人Xは,平成11年12月以降14年12月まで,乙の前社長から,交通費名目での現金を受領しており,これが賄賂にほかならないことを認めた上で,平成14年6月にZに代表取締役が交代してからは,これまで賄賂をもらっていたことに引け目を感じていたことから,もらわないようにしようと決意したとして,本来であれば,本件のような賄賂の要求行為には及ぶはずのない経緯を説明した上で,本件時においては,購入後2年経過した私有物のパソコンを買い替えたいが,小遣いが月四,五万円しかなく困難であったこと,時期的に,今後とも企画調整課の業務に携わるとはいえ,税務課に異動する以上,だんだんと乙に関わることも少なくなるので,このタイミングしかないと思い要求したこと,収賄が発覚した場合には大変な事態になるのではと思い悩みながらも決断したことなど,その当時の犯罪に及ぼうとした心情を被告人でなければ説明できない言葉で語っている。3
さらに,被告人Yについても,捜査段階の供述の任意性を争いつつ,その供
述調書の内容には,虚偽の事実を自ら作り上げて語った部分はなく,真実と反する部分については,捜査官が作り上げたものであるとするところ,その供述内容は,既に正規に算出済みであった105万円の特別保守の委託料を100万円以下にした上で,その中で約50万円の未精算分を精算してくれるように依頼され,無茶苦茶な話だが,乙としては泣く泣く従うしかないと考えたものの,Zにも相談できないまま日にちだけが過ぎたこと,さらに,被告人Xが特別保守委託料を独断で21万円にしろと言ったのは,全くの言いがかりに過ぎず,納得できかねるものがあったが,賄賂としての要求であると理解して承諾したが,Zと相談する必要があると思っていたことなど本件の客観的な経緯と概ね整合し,かつ,前記推認とも整合する被告人Y固有の心情を明かすものであって,捜査官が勝手に捏造できる余地の乏しいものであるから,その任意性,信用性にも疑念がないというべきである。
なお,このように,被告人Xからの賄賂の要求を理解し承諾したとしつつ,なお,Zとの相談が必要であると感じていたとする複雑で贈賄の意思に関する不確定さを伴う心情は,本件メモの裏面の記載から窺われるところの,被告人Yが,本件パソコン等を含む被告人Xからの物品要求について,一定の金額の枠内での調整行為にも及んでいたという,一見すると,被告人Yの本件パソコン等に関する贈賄の意思の存在と整合しない行動をよく説明できるものでもあって,このような点においても,その信用性が高いというべきである。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
被告人Xは,甲市の企画調整課情報管理係長,同課情報管理主査として,同市における情報ネットワーク等に関する事務を担当し,かつ,異動後も同事務等に関連する職務を兼務しており,また,乙は,平成5年に甲市が第三セクター方式により設立させ,情報系ネットワークシステムの構築等を業務内容とする株式会社であっ
た。
そして,被告人Xは,平成12年ころから,同市発注に係る地域インターネット促進事業につき,当時の乙の代表者から,同社が受注できるような便宜を依頼され,同社の担当社員に対して,指名競争入札方式での発注に際して事実上予定価格を教示などするようになり,平成14年1月に同社に入社した被告人Yに対しても,同様に事実上予定価格を教示したり,被告人Yの意向に沿って相見積業者を選定するなどし,また,発注方式についても,乙の単独見積で随意契約をできるようにして同社の便宜を図り,平成12年以降,毎年二,三回にわたり,乙から旅費交通費名目で現金を各5万円ないし6万円をもらい受けていたものの,Zが,乙の代表者に就任した際の引継ぎに基づき,平成14年6月ころ,現金を供与しようとした際には,これを拒否するなどしていた。
本件は,このような経緯の中で,被告人Xが企画調整課から異動となり,乙との関わりが減少に転じることから,このタイミングしかないと考え,私有物のパソコンの代替機を賄賂として被告人Yに要求し,被告人YがこれをZに伝え,両名が共謀の上これに応じた事案である。
そうすると,本件は,地域インターネット促進事業等の公共事業について,その発注の仕組みを利権化,私物化させていた状況やこれにより公費の公正な支出が阻害されていた状況を前提に,被告人Xの物欲や被告人Yらの営利目的から,公務の廉潔性を損なわせることを意に介さない悪質な犯行ということができる。加えて,実際に,本件後の平成18年3月に乙が甲市から受注した,企画調整課の所管するRシステム導入業務の受注についても,相見積業者の選定等において従前同様の便宜が図られたとの点もその量刑上看過できない上,本件が一因となって,甲市政に対する信頼が失墜したとも窺えるのであって,本件のもたらした結果は大きい。それにも拘わらず,被告人両名は,公判廷において,不合理な弁解に終始しており,その反省の情はなお十分なものとはいい難い。
以上からすれば,本件の犯情はよくなく,被告人両名の刑事責任を軽視すること
はできず,とりわけ,発注者としての権力を背景にして,積極的な賄賂の要求行為に及んだ被告人Xの刑責が最も重く,また,被告人Yについても,被告人Xの意を酌み取ってZに伝えて承諾させ,仕入れ科目を偽る指示をするなどしており,その刑責の重さは決裁権者である共犯者Zより重いとはいえても軽くはないというべきである。
しかしながら,他方で,本件の賄賂物品額は,同種事案の中で多額なものとまでは位置付けられないこと,被告人Yの贈賄については,収賄者側である被告人Xからの要求に基づく事案であること,被告人両名は前科前歴を有しないところ,本件により初めて身柄を拘束され,相応の社会的制裁を受けたものと評し得ること,とりわけ,被告人Xについては,本件によりその職を失するものと見込まれること,その他被告人両名のために斟酌すべき諸事情も存する。
そこで,当裁判所は,以上の諸事情を総合考慮の上,被告人両名については懲役刑を選択した上,直ちに実刑に処するのが不可欠とまではいえず,その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した(求刑

被告人X・懲役1年6月,ノート型パ

ーソナルコンピュータ1式及び電磁的記録媒体1枚没収,追徴2万2000円,被告人Y・懲役1年2月)
平成20年3月25日
山形地方裁判所刑事部

裁判官

金子武志
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