判例検索β > 平成18年(ネ)第905号
保険金等請求控訴事件
事件番号平成18(ネ)905
事件名保険金等請求控訴事件
裁判年月日平成20年1月29日
裁判所名・部福岡高等裁判所  第3民事部
結果破棄自判
原審裁判所名福岡地方裁判所  小倉支部
原審事件番号平成17(ワ)367
原審結果棄却
裁判日:西暦2008-01-29
情報公開日2017-10-17 20:45:16
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主文1
X1の控訴を棄却する。

2
X2及びX3の関係で,原判決を次のとおり変更する。
(1)

Yは,X2に対し50万8140円,X3に対し94万065

4円,及びこれらに対するいずれも平成16年9月7日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
(2)

上記X両名のその余の請求をいずれも棄却する。

3
X1の控訴費用は同Xの負担とする。

4
YとX2及びX3との間に生じた訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その7を上記Xらの負担とし,その余をYの負担とする。

5
この判決は,主文第2項の(1)に限り,仮に執行することができる。事実及び理由

第1

控訴の趣旨

1
原判決を取り消す。

2
Yは,X1に対し128万6501円,X2に対し127万3503円,X3に対し346万5610円,及びこれらに対するいずれも平成16年9月7日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,Xらにおいて,X1が,X2所有の普通乗用自動車(以下本件自動車という。)にX3を乗せて運転中に,同車を道路左側の運動公園の防護
柵(以下本件防護柵という。
)及び左前方の電柱(以下本件電柱とい
う。
)に衝突させる自損事故(以下本件事故という。
)を発生させ,同車
が破損するとともに,X1及びX3が負傷したとして,X2がYとの間で締結していた保険契約(以下本件保険契約という。
)に基づき,Yに対し,保
険金等を請求した事案である。
原審が,本件事故は,X1が故意に起こした事故であるからYは免責されるとして,Xらの請求を棄却したため,Xらが控訴した。
1
前提事実(争いがない,甲4の1・2,甲9∼甲16(枝番を含む),乙2
7,弁論の全趣旨)
(1)

X1(昭和○○年○○月○○日生)とX2(昭和○○年○○月○○日生)
は夫婦,X3(昭和○○年○○月○○日生)はその子であり,Xらは肩書住所地において同居している。
(2)

X2は,平成16年7月1日,Yとの間で,以下の内容の本件保険契約
を締結した。

保険の種類

家庭用総合自動車保険


被保険自動車

本件自動車(トヨタセルシオ,初度登録年月・平成9年
4月)


保険期間

平成16年7月1日午後4時から平成17年7月1日午

後4時まで

保険金額

車両保険金額・255万円,対人賠償・無制限,対物賠

償・無制限,人身傷害・1名につき5000万円,自損事
傷害・1名につき最高2000万円,搭乗者傷害・1名
につき1000万円
(3)

X1は,平成16年9月6日午後10時過ぎころ,本件自動車の助手席
にX3を乗せて同車を運転中,F県G郡H町I○丁目○番○号先路上において,本件自動車を道路左側前方の本件電柱に衝突させるという自損事故(本件事故)を起こした。
(4)

本件事故により,X2は,本件自動車を牽引するための費用として3万
6750円を支払い,X1は,頚椎・腰椎捻挫,胸腹部打撲,右膝打撲,腹腔内損傷(疑)
,外傷性後頚部交感神経症候群の傷病名で,平成16年9月
6日から同年12月9日までの間(入院2日,通院実日数69日)X3は,,
左肋骨骨折,頚椎・腰椎捻挫,胸腹部打撲,腹腔内損傷(疑)
,外傷性後頚
部交感神経症候群で,同年9月6日から同年12月30日までの間(入院36日,通院実日数68日)
,いずれもJ病院において治療を受けた。
(5)

本件保険契約にかかる約款第4章一般条項の15条(事故発生時

の義務違反)4項(以下本件条項という。
)には,
保険契約者または被保険者が,前条第3号(事故内容の通知),第4号(盗難の届出)もしくは第9号(書類の提出等)の書類に故意に不実の記載をし,またはその書類もしくは証拠を偽造もしくは変造した場合には,当会社は,保険金を支払いません。と規定されている。2
争点
(1)

本件の最大の争点は,本件事故に基づくYの保険金支払義務が免責され
るか否かである。

この点について,原審で専ら争われたのは,本件事故がX1により故意に引き起こされたものかどうか(本件事故の故意性)であるところ,この点についての当事者双方の主張は,原判決4頁14行目原告X2は,の次に本件車両の購入価格が126万6500円でありながら車両保険の付保険額をその倍額以上の300万円としている上,本件事故の4か月前である平成16年5月10日には,契約期間中であるにもかかわらず搭乗者傷害保険の保険金額を500万円から1000万円に増額し,他の2台の所有車両に比べ6∼8倍もの高額な年間保険料を支払っている。また,を加えるほかは,原判決の第2事案の概要欄の第2項(当事
者の主張)(2)及び(3)記載のとおりであるから,これ(原判決3頁15行目から6頁13行目まで)を引用する。

当審におけるYの追加主張によるもの
(ア)

本件事故についての虚偽申告

(Y)
Xらの本件事故に関する虚偽の申告は,本件条項に該当するので,YはXらの請求にかかる保険金全額について免責される。
すなわち,Xらが申告する本件事故状況は,本件防護柵に衝突したなどとする点において重大な虚偽を含んでいる。しかも,X1は自動車保険金請求書(乙10)中でもその旨記載し,また,Xらは,調査会
社による調査(乙4)やその内容確認においても同様に虚偽の事実を述べ(乙12)
,さらに本件訴訟においても,訴状,準備書面等の中で,
事故状況,損害の内容等について虚偽の記載をしている。
(Xら)

免責という効果の重大性に照らして,不実の申告があった場合の全てにつき保険会社が免責されるというのは妥当でない。事故発生の日時,
場所,
事故の状況等のうち,
保険会社の保険金の支払義務の有無,
範囲を調査し確定する上で必要とされる主要事実に限られ,また,これが故意によるというためには,通知人が真実と異なることを認識していたというに止まらず,これにより保険会社が事故原因及び損害填補責任の有無の調査をするにつき,その妨げとなることの認識をも必要とすると解すべきである。


これを本件について見るに,本件事故については,事故発生後間もなく警察官が現場に臨場して見分がなされ,平成16年9月17日には実況見分が実施されている。また,本件防護柵及び支柱,本件電柱の衝突痕,
本件自動車等は事故発生時のままの状態で保存されており,
同月11日にはYにおいて,これらについて写真撮影をしている。さらに,Yは平成17年6月28日には本件自動車について専門家による修理見積書を作成させてもいる。


以上のとおり,Xらの申告に不実の点があったとしても,Yがこれにより不利益を被るおそれは全くない。そうであれば,本件条項によりYが免責されることにはならない。
(イ)

信義則違反

(Y)
Xらが一貫して虚偽の事故状況等を主張していることは,保険制度の根幹たる誠実・信頼の原則に悖る行為であり,信義則に照らし,その請求を認めることはできない。
(2)

本件事故によるXらの損害(=請求にかかる保険金額の当否)
原判決の第2事案の概要欄の第2項(当事者の主張)(1)記載のと
おりである。
第3
1
当裁判所の判断
争点(1)アについて
(1)

X1及びX3の各供述等によれば,本件事故前後の状況は概ね次のとお
りであるとされる。
すなわち,Xら方では,毎日出るゴミを,週に5回は近所に住む義兄のところに持って行って処理してもらっていたが,本件事故当夜も,ゴミが3,4袋あり,雨も降っていたので,X1が本件自動車を運転し,X3を同乗させて,義兄宅にゴミを持って行った。その帰路,下り坂を時速30∼40キロメートルで進行して右カーブにさしかかった際,突然,前から無灯火の単車が上がってきたので,咄嗟に左にハンドルを切ったところ,本件自動車の左前角部分が本件防護柵の支柱(以下本件支柱という。
)に衝突し,さ
らにハンドルを右に戻したところ,本件防護柵と車体が平行になり,そのまま本件電柱にぶつかって停止した。
もっとも,X1は,本件防護柵の支柱を次々になぎ倒して行ったとするのに対し,本件自動車の助手席に乗っていたとされるX3は,そのような供述をしていない。
(2)

証拠(甲5の2∼19,6の1∼21,乙1∼3,15)によれば,以下の事実が認められる。

本件防護柵の支柱は,直径0.7∼0.8センチメートルの鉄筋に周囲をコンクリートで固めた構造(ただし中心部は空洞である。
)となってい
て,地中に埋め込まれたコンクリート製の土台に差し込まれている。支柱と支柱の間には,強化プラスチックの横木が2本ずつ組み込まれている。

本件支柱とその西隣の支柱の間の横木は2本とも外れており,本件支柱とその東隣の支柱の間,同支柱とその東隣の支柱の間,同支柱とさらにその東隣の支柱の間の横木は,
いずれも上の横木が外れている。
本件支柱は,
中心の鉄筋がねじ曲がって露出し,その周囲のコンクリート部分は飛散している。同支柱の土台の一部は地表に露出し,その上に土が乗り,草が生えている。本件支柱の東隣の支柱とそのさらに東隣の支柱は,いずれも土台から傾斜し,土台の一部が地表に露出してその上に土が乗っている。

本件電柱の一部には樹脂製カバーが巻かれていて,そのカバーに擦過痕がある。


本件自動車には,フロントバンパーに円柱状のへこみと擦過傷,左フロントフェンダーに軽微なへこみと擦過傷,左前輪の損傷(パンク)やホイールの擦過傷,
ヘッドランプやターンシグナル部分の損傷等がみられるが,
本件自動車の左側面のボディ部分には,本件事故に起因すると認められる損傷はない。

(3)

上記(2)でみたところに照らせば,上記(1)のX1らの供述中,本件自動
車が本件支柱に衝突したとする部分は,客観的状況に符合せず,信用することができない。特に,本件防護柵の支柱を次々となぎ倒して行ったとするX1の供述については全く信用することができない。
(4)

ところで,Yは,上記のとおり,X1らの本件事故状況に関する供述が
信用できないとするほか,①本件事故当夜は雨が降っていたのに,X1及びX3が,わざわざX1の義兄宅に3,4袋のごみを捨てに行く必要があるとは考えられない,②本件自動車が融資のために度々担保に供されていることからすれば,Xらの経済状況は逼迫していたと推認される,③X2は,過剰な車両保険を掛けたり,本件事故の4か月前に搭乗者傷害保険の保険金額を増額しており,さらに,本件自動車の修理費用を過大に見積もって,実際に修理した費用との差額を利得しようとしている,④X1及びX3の受傷内容には本件事故に起因するとは考えられないものが含まれるなど,Xらが保険金により不法に利得を得ようとしたことが推認される,⑤X1には過去に5回も保険金受領歴があり,保険金請求に絡む詐欺の前科まであるなどと指摘した上で,本件事故が保険金目的で故意に起こされたものである旨主張しており,原審も,上記③のうち過剰な車両保険や保険金額の増額を主張する部分及び⑤を除いて,ほぼYの主張のとおりの理由で,本件事故がX1により故意に起こされたものであるという結論を導いている。
(5)ア

しかしながら,本件事故が,X1らが供述するように,本件防護柵の
支柱に衝突し,次いで本件電柱に衝突したというような事故態様のものであるとは認められないものの,少なくとも本件自動車の左前部ないし左前輪が本件防護柵ないしその土台部分に接触し,さらに,同車前部が本件電柱に衝突したこと自体は否定することができないから,そのような態様における本件事故が発生したことは認められる。
そして,上記①については,証拠(乙5,X1,X2)によれば,Xらには毎日のようにゴミを義兄のもとに持って行くという生活習慣があるものと認められるから,本件事故当夜の行動が必ずしも不自然であるとは決め付けられない。また,③のうち,車両保険の付保険額を300万円としたことについては,X2が保険代理店からの勧めに従ったまでのことと見てよいし,搭乗者傷害保険の保険金額を増額したのは,従前掛けていた保険金額と同額にするためであったというX2の言も,あながち不合理なこととは思われない。さらに,同③の修理費用の件や④にしても,偶々本件事故が発生したことを奇貨として,より多額の保険金を得るためにしたことと見る余地がある。そうであれば,これらをもって上記結論を導くことはできない。

これに対し,上記②及び⑤は上記結論とより親和性が強いことが明らかであるところ,証拠(甲29の1,乙6,7,X1)によれば,本件自動車が融資のために度々担保に供されていること及び⑤の事実がそのとおり認められる。
(ア)

もっとも,
X1に保険金請求に絡む詐欺の前科があるということは,

同Xがそのような事件さえ敢行しかねない人物であることを物語るとともに,反面,再び刑事責任を問われる危険性を冒してまで,本件事故を作出するであろうかという疑問をも喚起しないではおかないのであって,
この点をまともに取り上げるのはいささか躊躇されるものがある原(
審も,同様の考えであったものと思われる。。

(イ)

最後に残るのは,Xらの経済的逼迫の度合い,換言すれば,保険金
取得の必要性であるが,確かに,本件自動車が度々金融の担保に供されているということは,Xらの生活が決して楽ではなかったことを示すものと見ることができ,しかも,Xら(特にX1及びX3)が自らの収入を裏付ける資料を提出しないことはその疑念を深めるものである。しかし,そのような負債がその都度解消されて,本件自動車がX2名義のまま確保されているうえ,Xら方では本件自動車のほかに2台の自動車を保有・維持しているなどの事情からすれば,Xらの生活が立ち行かないような状態にあるとまでは認め難いのであり,他に保険金取得を企図するような経済的状況を窺うことはできない。そうであればこの点もまた本件事故の故意性を結論付けるまでに決定的なものではないといわざるを得ない。
(6)

以上の次第であるから,本件事故がX1の故意により引き起こされたものと断ずることはできず,したがって,本件事故の故意性を理由にYが免責されるということにはならない。この点についてのYの主張は採用することができない。
2
争点(1)イ(ア)について
(1)

Yは,X1が虚偽の事故状況を自動車保険金請求書
(乙10)に記

載し,或いはXらが調査会社による調査やその内容確認においても同様に虚偽の事実を述べ(乙4,12)
,さらには,本件訴訟の訴状,準備書面等の
中でも同様に虚偽の記載をした行為は,
本件条項の故意に不実の記載をし」
た場合に該当し,Xらの請求する保険金全額について免責されると主張する。ア本件事故について,X1の故意性まで認めることはできないことは上記1のとおりであるが,他方で,事故の態様が,同Xの主張するようなものとは認め難いことも疑問の余地がない。イもっとも,本件事故は,夜間,降雨の中で発生したものであるため,事故状況を正確に把握することが困難であったところに,本件事故後,本件防護柵が倒れていることが現認されたこと,本件自動車の左側部には本件防護柵との接触と矛盾しない痕跡があったことなどからして,同Xにおいて,本件防護柵の支柱を次々となぎ倒していったものと誤って思い込んでしまったと考える余地も全くないわけではない。しかし,X1は,Yの担当者であるKから,同X主張の本件事故状況の不自然・不合理さを指摘されているのであり(乙12),特に「本件防護柵の支柱を次々となぎ倒していったとすれば,本件自動車の左側部の損傷がこの程度で済む筈はないから,およそそのような事故状況ではあり得ない。したがって,同Xが,仮に,一時的に上記のとおり誤って思い込んだとしても,冷静に事故当時の状況を振り返り,検討するならば,Kに指摘されるまでもなく,上記のような思い込みを訂正することは容易であったものというべきである。それにもかかわらず,同Xは,本件事故現場付近に居住する住民が本件事故以前に本件防護柵が大きく傾いていたことはない旨述べている(甲21,乙4)ことを聞き及ぶや,上記のような主張をしてやまなかったものである。
これは,単なる誇張にとどまらない虚偽の事実の主張(申告)であるものといわざるを得ないのであり,要するに,同Xは,虚偽の事実を本件請求書に記載し,或いは,その旨を調査担当者等に述べて,それを報告書等に記載させたものであるといわなければならない。

ところで,保険契約者や被保険者は,事故が発生したときは,保険会社に対して,できる限り速やかに,かつ正確に,書面をもって,事故の状況等を通知しなければならないものであり本件約款の第4章

一般条項

の第14条)本件条項も保険契約者らの上記義務に依拠するものである。,
X1が上記のような主張に拘泥した理由は定かでないが,少なくとも事故態様を誇張して,より多額の保険金を取得しようという意図に出たものと見られても致し方ないところである。また,その結果,本件事故の故意性までも疑われるような事態にまで立ち至ったのであって,同Xの虚偽の申告の影響は決して小さくはなかったものである。そうであれば,X1の虚偽申告の事実を軽視することはできず,同Xについては本件条項の趣旨に照らして保険金請求をすることはできないものとすべきである。エ
そうすると,X1については,その余の点(争点(1)イ(イ)及び(2))を検討するまでもなく,その請求は理由がないことになり,本件控訴も理由がないことに帰する。


これに対し,X3及びX2については,直ちにこれと同様に考えることはできない。
(ア)

X3は,本件事故時にX1の運転する本件自動車に同乗していたも
のであるから,事故状況についてのX3の認識はX1のそれに劣らず重要なものであるところ,X3は,本件防護柵との衝突に関しては,X1の主張に引きずられることなく,これとはかなり趣の異なる供述等に終始していることが認められる(上記1(1))

(イ)

また,X2は本件自動車の所有者であり,本件保険契約の保険契約
者ではあるが,本件事故時には本件自動車に乗車しておらず,したがって,本件事故状況についても運転者であるX1の主張に追随せざるを得なかったとしてもやむを得ない面があるものというべきであるから,そのことの故に,X2に対するYの保険金支払義務が免責されるとするのは相当でない。
(2)

Yは,Xらが本件訴訟において提出した訴状や準備書面等においても事
故状況や損害について不実の記載をしているとし,これもまた本件条項の免責事由となる旨主張するが,訴状等が本件条項にいう書類に該当するかは大いに疑問があるのみならず,Yは平成16年12月上旬にはXらに対して正式な支払謝絶通知をしているのであるから(乙12)
,その後に提出さ
れた訴状等によって,Yの事故調査に支障を来すとか,契約当事者間の信頼関係を破壊するなどということは考え難いのであって,いずれにしても,これらをもって免責事由とすることはできない。また,損害主張については,多分に専門家(人身損害については医師,物損については修理会社等)の評価が介在するものであるから,
これを事故状況等と同視することはできない。
3
争点(1)イ(イ)について
Yは,Xらが一貫して虚偽の事故状況等を主張していることは信義則に反する旨主張するが,上記2で判断したとおりであるから,X1に対する関係においてはもはやこの点について検討するまでもないし,
その余のXらについては,
信義則違反を理由としてもYの免責を認めることはできない。
そうすると,上記Yの主張を採用することはできない。

4
争点(2)について
(1)

X1については,上記のとおりこの点を判断するまでもない。(2)
X2
同Xは,見積書(甲7)を根拠に本件自動車の修理代金(123万675
3円)を請求しているが,証拠(乙15,16)に照らせば,同見積書には,損傷の認められない部品の取替え,従前よりも高額の部品を用いたもの,過剰な工賃等が計上されている疑いがあり,上記見積書を採用することはできない。そこで,Yが認める修理代金(47万1390円。乙15)の限度でこれを認容するのが相当である。
また,X2は,前提事実(4)のとおり,本件自動車の牽引代3万6750円を負担しているから,Yは,X2に対し,約款第3章第1節車両条項第1条1項に基づき,前記修理代金と牽引代との合計額50万8140円の支払義務を負う。
(3)

X3
同Xは,平成16年9月6日から同年10月11日まで36日入院している。しかし,入院中の診療録(乙13)には,医師が記載した部分はほとんどなく,
主訴である胸部及び腰部痛に対する治療も点滴,
消炎鎮痛剤,
外用処方が行われた程度で,L医師の意見書(乙8)に照らしても,36日もの入院の必要性があったとは認められず,せいぜい事故直後の経過観察のために2日程度の入院の必要性が認められるに止まるというべきである。
また,同Xは,退院後,主に頚部痛及び腰部痛を訴えて平成16年10月12日から同年12月30日までの80日間に68日も通院しているが,入院期間中にほとんど見られなかった頚部痛を訴えているのは不自然な感を否めないし,同Xの診療録(乙14)には医師による記載がほとんどなく,上記意見書に照らし,高頻度での通院を要するような症状等も認められないことからして,現に入院していた同年10月11日までに限って通院として認めるのが相当である。イ

以上によれば,
YがX3に対し,
約款第2章第1節人身障害補償条項」
第1条1項及び同第2節「搭乗者傷害条項第1項に基づいて支払うべき保険金は次のとおりである(なお,精神的損害及び搭乗者傷害に係る保険金の日額については,甲2及び弁論の全趣旨により認められる。。)
(ア)

治療費
41万1054円

診療報酬明細書(甲13の2,14の2)によれば,前記入院期間に係る治療費は41万1054円と認められる。なお,入院治療に要する治療費と通院治療に要する治療費とを同列に論ずることには問題がないわけではないが,その峻別をすることは証拠上困難である(その旨の的確な主張立証もない。
)から,上記期間の治療費全額(合計125万5
700円)から入院の必要性を肯定できない34日分の入院料等(合計84万4646円)
を控除した残額を上記期間に係る治療費と認定した。
(イ)

精神的損害

15万9600円

入院
通院
(ウ)

8400円×2日=1万6800円
4200円×34日=14万2800円

搭乗者傷害

37万0000円

入院
通院
(エ)
5
1万5000円×2日=3万円
1万円×34日=34万円

合計
94万0654円

以上によれば,Xらの請求は,X2に対し50万8140円,X3に対し94万0654円,及びこれらに対するいずれも平成16年9月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから,その範囲でこれらを認容すべきである。したがって,原審がX1の請求を棄却した点は結論において相当であるから,同Xの控訴は棄却すべきであるが,その余のXらの請求をも全部棄却したことは不当であって,この点において原判決は変更を免れない。X2及びX3の控訴はその限りで理由がある。よって,主文のとおり判決する。福岡高等裁判所第3民事部

裁判長裁判官

西
裁判官

鈴木博
裁判官

堂薗
幹一郎

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