判例検索β > 平成19年(行コ)第131号
退去強制令書発付処分取消等、難民の認定をしない処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成16年(行ウ)第462号(第1事件)、平成17年(行ウ)第344号(第2事件))
事件番号平成19(行コ)131
事件名退去強制令書発付処分取消等,難民の認定をしない処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成16年(行ウ)第462号(第1事件),平成17年(行ウ)第344号(第2事件))
裁判年月日平成19年9月12日
法廷名東京高等裁判所
判示事項1 ミャンマー連邦の国籍を有する者が,平成16年法律第73号による改正前の出入国管理及び難民認定法に基づく難民の認定をしない旨の処分を受けて提起した同処分の取消訴訟において,同改正法の施行後に口頭弁論が終結した場合,改正により削除された同法61条の2第2項の要件具備を,審理判断の対象とすることの要否
2 ミャンマー連邦の国籍を有する者が,平成16年法律第73号による改正前の出入国管理及び難民認定法に基づき難民の認定をしない旨の処分を受け,さらに,これに対する異議の申出には理由がない旨の決定を受けたことから,前記処分の取消しの訴え及び前記決定の取消しの訴えを併合提起した場合において,前記決定の取消しの訴えが,却下された事例
裁判要旨1 ミャンマー連邦の国籍を有する者が,平成16年法律第73号による改正前の出入国管理及び難民認定法に基づく難民の認定をしない旨の処分を受けて提起した同処分の取消訴訟において,同改正法の施行後に口頭弁論が終結した場合につき,抗告訴訟における行政処分の違法性判断の基準時は処分時であり,処分後の法令の改廃は司法審査に当たり考慮しないとされているが,その理由は,そのような処分後の法令に基づく新しい要件については行政庁の第1次判断権が行使されていないという点にあるところ,前記改正の内容は,60日以内の申請を義務付けていた前記改正前の出入国管理及び難民認定法61条の2第2項という手続的要件を削除したにすぎないのであるから,(1)裁判所が同項の要件具備について判断を示さずに,前記改正後の同条1項の要件具備の点に絞って当該処分の司法審査をしたとしても,既に行政庁は同項の要件の点について判断しているから,行政庁の第1次判断権の侵害の問題は生じないし,その判断によって当該処分を取り消した場合,行政庁は改めて処分を義務付けられることになるが,その場合に行政庁がよるべき法律は改正後の法であるから,改正前の同条2項の要件具備の判断は当然に不要になり,行政庁に法律に反する処分を強いることにはならず,(2)また,仮に同条1項の要件は具備されているが2項の要件が具備されていないという理由で当該処分が維持されると,改正後の法の下では難民と認定されるべきものが,認定されないという状態が生じ,改めて難民認定の申請をせざるを得ないことになり,この再度の申請においては,改正後の法が基準となるから,前記改正前の同法61条の2第2項の要件具備はもはや問題とならない一方,棄却判決には拘束力が認められないから,改めて同条1項の要件具備を一から立証しなければならず,難民であると主張する側に無用の負担とリスクを負わせることになることなどを考慮すると,前記取消訴訟において,口頭弁論終結時には削除されていた前記改正前の同法61条の2第2項の要件具備の点について審理判断する必要はない。
2 ミャンマー連邦の国籍を有する者が,平成16年法律第73号による改正前の出入国管理及び難民認定法に基づき難民の認定をしない旨の処分を受け,さらに,これに対する異議の申出には理由がない旨の決定を受けたことから,前記処分の取消しの訴え及び前記決定の取消しの訴えを併合提起した場合につき,原処分の取消しを求める訴えとこれに対する裁決の取消しを求める訴えが併合提起されている場合には,裁決が原処分に対する不服申立てに関する判断であることからすれば,原処分が取り消されれば,裁決の取消しを求める法的利益はなくなるから,裁決の取消しを求める訴えは却下されるべきものであるところ,原処分である前記処分は違法であり取り消されるべきものであるから,その裁決である前記決定の取消しを求める訴えの利益はないとして,前記決定の取消しの訴えを却下した事例
裁判日:西暦2007-09-12
情報公開日2017-10-19 19:13:50
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主文1
本件各控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由

第1
1
当事者の求めた裁判
控訴の趣旨
(1)
(2)

被控訴人の各請求をいずれも棄却する。

(3)
2
原判決を取り消す。

訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨。

第2

事案の概要
本件は,(1)

第1事件は,ミャンマー連邦(以下ミャンマーという。)

の国籍を有する男性である被控訴人が,東京入国管理局(以下東京入管という。)入国審査官から平成16年法律第73号による改正前の出入国管理及び難民認定法(以下入管法という。)24条4号ロ(不法残留)に該当する旨の認定を受け,次いで,東京入管特別審理官から同認定に誤りがない旨の判定を受け,さらに,控訴人法務大臣から入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決(以下本件裁決という。)を受け,控訴人東京入管主任審査官から退去強制令書(以下本件令書という。)の発付を受けた(以下,この処分を本件退令処分という。)ため,被控訴人が難民に該当するにもかかわらず被控訴人に在留特別許可を認めなかった本件裁決には,控訴人法務大臣が裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用した違法があり,本件裁決を前提としてされた本件退令処分も違法である旨主張して,控訴人法務大臣に対しては本件裁決の取消しを求め,控訴人主任審査官に対しては本件退令処分の取消しを求めた事案であり,(2)

第2事件は,被控訴人が,入管法61条の2第1項に基づき難民
の認定を申請した(以下本件難民認定申請という。)ところ,控訴人法務大臣から難民の認定をしない旨の処分(以下本件不認定処分という。)を受け,さらに,入管法61条の2の4に基づく異議の申出(以下本件異議手続という。)についても,控訴人法務大臣から理由がない旨の決定(以下本件決定という。)を受けたため,被控訴人が難民に該当するのにこれを認めなかった本件不認定処分及び本件決定はいずれも違法である旨主張して,控訴人国に対し,本件不認定処分及び本件決定の各取消しを求めた事案である。原審は,(1)

入管法にいう難民は,人種,宗教,国籍若しくは特定の社

会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないものをいい,上記の迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するというためには,当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要であると解するのが相当であるとした上,被控訴人は,本件不認定処分がされた平成16年7月13日及び本件裁決がされた同月27日当時,①


A(以下Aという。)という特定の社会的集団の構成員であること,
ミャンマー国内,同国とタイとの国境付近,タイ及び日本において民主化運
動を進めるという政治的意見を理由に,ミャンマー政府から迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有しているために,国籍国であるミャンマーの外にいる者であると認めることができ,本件不認定処分及び本件裁決当時,入管法に規定する難民に該当していた,そして,(2)

60日条項(入管法61

条の2第2項)は,口頭弁論終結時には廃止されており,本件不認定処分の適否の司法審査に当たり,入管法61条の2第2項の要件具備の点を審査判断の対象とする必要はないから,本件不認定処分は違法であり,(3)
本件裁決は,被控

訴人が入管法上の難民に該当するという当然に考慮すべき極めて重要な要素を一切考慮せずに行われたものであって,控訴人法務大臣の裁量権の範囲を逸脱する違法な処分であるから,取消しを免れない,また,(4)

退去強制令書発付処分

の前提となる裁決が違法である場合には,これに従ってされた退去強制令書発付処分も違法であるところ,本件裁決は違法であり,したがって本件退令処分も,違法であり,取消しを免れない,(5)

ただし,本件では原処分である本件不認

定処分とその裁決である本件決定の各取消しを求める訴えが併合提起されており,本件不認定処分は違法であるとして取り消されるから,その裁決である本件決定の取消しを求める訴えの利益はないとして,本件決定の取消しを求める訴えを不適法として却下し,その余の被控訴人の請求をいずれも認容したので,控訴人が原判決に対して不服を申し立てた。
そのほかの事案の概要は,次のとおり付加するほかは,原判決の事実及び理由欄の第21事案の概要に記載のとおりであるから,これをここに引用する。
原判決10頁14行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。ア控訴人らの補充主張(ア)難民該当性は,当該人の政治活動等を前提として,通常人が当該人の立場に置かれた場合に,迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在しているかどうかで判断すべきであり,その客観的事情の有無は,本国政府にとって不快かどうかなどといった主観的基準で判断すべきものではなく,当該活動の内容,活動の場,所属している団体の有無,その団体の性質,本国や外国において活動している団体等との関係,当該関係の強弱等を本国の国情,特に判明している迫害の現状等の証拠に照らして客観的に判断すべきものである。原判決は,一方で客観的事情が必要であると述べておきながら,これを具体的に当てはめる場面では,ミャンマー政府にとって『不快なものかどうか』を問題としており,原判決自身が自ら述べた『客観的事情』が,当てはめの場面で,ミャンマー政府の主観的事情にすり替えている。しかも,その後に引き続き被控訴人の推測という被控訴人自身の主観的事情を問題とし,その推測につき,『合理的理由がある』としている。すなわち,原判決は,『ミャンマー政府が不快に感じる』ものであれば『迫害の恐怖を抱く』事情に該当するかのような極めて緩やかな判断を示した上,難民認定申請者が合理的な理由によって『政府が自分の活動に注目する蓋然性が高く,かつ,これを不快に感じていると合理的な理由から推測していた』と認められれば難民であるとするなど,主観面のみを重視して難民該当性を判断することにほかならないのであって,その判断手法は極めて不当である。このような判断手法では,難民と認められる客観的事情など全く存しない者が,自己を難民と誤信した場合でそのように誤信することにつき不合理とはいえない場合にまで難民該当性を肯定することになりかねない。原判決の判断基準は,それ自体あいまいなものであり,かつ,自らが掲げた基準と当てはめが合致しない,極めて不明瞭なものというほかなく,何ら合理的根拠なく独自の判断基準をもって,難民該当性を判断したものといわざるを得ないものである。(イ)被控訴人が武器を調達するなどのためにカヤー州の州都であるロイコーに向かったという点に関する関係者の供述は信用し難く,被控訴人が,武器を調達するためにロイコーに向かったという点は事実として認め難い。被控訴人のロイコーでの活動等に関して,証人B(以下「Bという。)はロイコーで被控訴人とC(以下Cという。)のリーダーを引き合わせるなどした旨供述するものの,被控訴人がロイコーに来た理由については,学生の動きを統一できるよう歩調を合わせて活動するため,ヤンゴンの学生運動の状況を説明するためとしか供述していないから,証人Bの供述を前提としても,そもそも,被控訴人が武器調達のためにロイコーに赴いたという事情はなかったものというべきである。また,被控訴人の供述,陳述は変遷し,証人Bの供述ともそごするもので,被控訴人のロイコーで行ったとする活動に関する供述は全く信用できず,被控訴人がロイコーに行ったということがあったにしても,被控訴人がいうほどの重大な任務を帯びていたわけでなく,『Dの代表』などといった大げさなものではなかったというべきである。
(ウ)

次に,被控訴人がEの小隊長として戦闘に加わった点に関しても,
その認定は証人B及び被控訴人本人の各供述に基づくものであるが,被控訴人は平成2年2月8日にヤンゴンの旅券事務所で被控訴人名義の真正旅券(以下本件旅券という。)の発給を受け,その後,ミャンマー,タイ,シンガポール間を出入国していることからすると,被控訴人が後方支援活動をしていたと供述する平成元年3月ころから平成2年11月ころの間は,少なくともヤンゴンにいたことをうかがわせるものであるし,本件旅券の発給を受けた時点では,被控訴人はヤンゴンに所在したことになるから,被控訴人が平成元年3月以降も継続的にAで後方支援活動等に従事していたとする供述は信用できないというべきである。被控訴人は,旅券取得にかかわったブローカーが,旅券の特定の箇所を削ったなどと供述しているが,旅券の特定のページを削ったような痕跡はなく,その供述は,客観的状況と全く整合しないものである。また,被控訴人は,旅券の写真は,姉の写真から自己の写真に貼り替えられたなどと供述しているが,これも旅券上,旅券の写真に係る証印部分を偽造しているような状況も認められないのであるから,この点に関する被控訴人の供述も客観的状況と整合しないものである。
被控訴人の供述は,当初,本件旅券の取得に当たっての姉の関与を全く供述していなかった点,それにもかかわらず,その後,姉の関与につき詳細に供述している点が不自然である。
また,被控訴人は,陳述書及び本人尋問では,旅券には当初姉の写真が貼付されていたが,ブローカーがその後自己の写真と貼り替えた旨供述するが,審査調書(2回目)では本件旅券を真正なものであると述べていたものであるし,本件旅券を真正なものであると供述した理由も合理的ではない。
原判決は,『本件旅券は,ミャンマー政府が被控訴人のために発給した真正な旅券であると認められる』とする一方で,被控訴人の姉が,『被控訴人になりすまして,ヤンゴンにおいて旅券を発給する事務所に赴いて,被控訴人の氏名及び生年月日が記載され,被控訴人の一番目の姉の写真が貼られた本件旅券に署名し』たとも判示しており,原判決が,本件旅券の写真が貼り替えられたものであると認めたのかどうかは明らかではない。
以上のとおり,被控訴人は,当初,姉の関与を供述せず,真正な旅券と述べた点について,合理的な説明をしておらず,その供述内容は,信用性が低い。
原判決は,本件旅券上,被控訴人の署名が『○○○』になっているところ,本来,被控訴人の頭文字は『○○○』であり,本人であれば誤るはずがないとしていることにつき,それならば姉が誤る理由も不明であるし,本人も旅券に『○○○』と記載したというのであるから,この点を根拠とするのは誤りである。
原判決は,本件旅券に押された出入国に関する証印の押印の経緯に関する被控訴人の供述が変遷しているということができるが,その変遷をもって被控訴人の供述は信用性が欠けるとまではいえないとしているが,その理由は,その変遷の程度が小さいとするのか,不自然なものではないとするのか,全く不明である。
以上のとおり,被控訴人が,Aの前線を離れた後もタイ国境で後方支援活動に従事していたという供述に信用性は認められないというべきである。
(エ)

また,仮に被控訴人がタイ国境で後方支援活動をしていたとしても,
あくまでも後方支援にとどまるものであって,しかも,被控訴人の供述によると,組織には何の貢献もできなかった(乙11)のであり,当時,10万人とも20万人とも言われたAのメンバーの1人であり,国境の前線を離れ,本来のAとしての活動ができない被控訴人に対し,十有余年も経過した後もなおミャンマー政府が反政府活動家として関心を持ち続けているとは考え難い。
(オ)

被控訴人は,来日してから警察官に逮捕されるまでの13年間とい
う長きにわたり,日本で生活していたものであり,その間,本国における活動はもとより,日本においても目立った政治活動はしておらず,原判決も述べるように,それ自体ミャンマー政府から注目を浴びることのない資金援助といった程度のものであり,A等関連の活動についても十数年にわたり被控訴人を迫害の対象としておく程度のものではなかったことからすれば,ミャンマー政府が被控訴人に対する注目を継続しているとみるべき事情はない。
(カ)

被控訴人は,平成16年6月4日に行われた違反調査において,稼
働目的で来日したものであり,『今は警察に捕まったので,ミャンマーに帰ります。』旨供述したが,この供述は,被控訴人の当時の本心の表明であるとしか認定しようのないものであり,このことからすれば,被控訴人がミャンマー政府を恐れていなかったことは明らかであり,被控訴人の活動内容は,本国から迫害を受けることはないと自ら認識していた程度にすぎないから,被控訴人のこの言動は,その難民該当性を否定する大きな事情であるといわなければならない。
被控訴人において,帰国したとき,本国政府から迫害を受けるおそれがあるとは認められず,被控訴人が難民条約上の『難民』であると認められないことは明らかである。
(キ)

したがって,本件不認定処分は適法である。

被控訴人の反論
(ア)

難民事件の特徴として証拠収集の困難性が挙げられているが,本件
においては,他の難民事件と異なり,被控訴人の経歴について,被控訴人の供述以外に極めて豊富な証拠によって支えられている。
また,控訴人ら自身も認めるとおり,被控訴人の供述は一貫しており,被控訴人の供述だけをとっても信用性が高い。
そして,被控訴人の供述とそれを支える証拠,ミャンマーの情勢や被控訴人が所属しているAに関する情報などからみて,被控訴人が帰国すれば迫害のおそれがあって帰国できないことが明らかである。
(イ)

控訴人らは,難民該当性についての原判決の判断手法が極めて不明
瞭で恣意的な判断を許す不当な判断手法であると主張するが,原判決の判断手法は何ら不当なものではなく,控訴人らは,原判決の判断手法を曲解あるいは誤解して論難しているにすぎない。
本判決が採用した判断枠組みは,既に確定した複数の難民不認定処分取消訴訟において用いられているものと同一のものであって,原判決独自の基準などではない。
また,原判決は,『本国政府が不快に感じると思われる客観的事実』があれば,特にミャンマーの情勢に照らし,『通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情』が認められると考えているのであって,その当てはめ(認定)は何ら自らが掲げた基準と当てはめが合致しない,極めて不明瞭なものなどではなく,原判決には,実質的にも何ら不当なところはない。すなわち,原判決は,『迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する』か否かの判断に際して,当該人が迫害の恐怖を感じたという主観的事情の有無と,通常人をして迫害の恐怖を感じさせる客観的事情の有無の2点を考慮し,その上で,被控訴人がAという特定の社会的集団の構成員であること,及び,被控訴人のミャンマー国内,同国とタイとの国境付近,タイ及び日本における民主化運動が,迫害の恐怖を抱かせる客観的事情として十分かについて検討しているものであって,原判決の判断は何ら客観的事情に基づかない判断ではない。
(ウ)

控訴人らは,被控訴人が武器を調達するためにロイコーに向かった
という点は事実に反すると主張するが,証人B及び被控訴人本人の供述とも,被控訴人がロイコーに向かった目的が武器調達とともに学生グループと連絡を取ることにもあったという原判決の認定と何ら矛盾するものではない。
証人Bは,ロイコーにおける学生グループのリーダーとして,学生グループと連絡を取るという点を中心に供述したものであり,また,ロイコーで被控訴人とCのリーダーを引き合わせるなどしたことも供述しているのであって,武器の調達をも目的としていたという原判決の認定に何ら反するものではなく,むしろこれを支えるものとなっている。また,控訴人らは,被控訴人の供述が変遷しているとも主張するが,何をもって変遷とするのか判然としない。
被控訴人のロイコーにおける活動については,被控訴人の供述のほかに,証人Bの証言,推薦状(甲23),手紙(甲49),報告書(甲50),証人Bがオーストラリアから持参した写真(甲57),F(以下Fという。)の推薦状(甲22),報告書(甲31),Gの推薦状(甲25)など多数の証拠があり,しかもその内容は,すべて相互に矛盾もなく,具体的なものであって,原判決の判断はこれらの豊富な証拠に基づいてされている。
控訴人らは,原判決を曲解した上で被控訴人の供述や他の証拠との間に『そご』,『変遷』があるとする独自の評価を行い,これらの証拠をすべて無視して,被控訴人のロイコーで行ったとする活動に関する供述は全く信用できず,被控訴人がロイコーに行ったことがあったにしても,被控訴人がいうほどの重大な任務を帯びていたわけではなく,『Dの代表』などといった大げさなものではなかったというべきであると主張するが,証拠の正当な評価に基づかない主張であって無理がある。
(エ)

控訴人らは,被控訴人名義の本件旅券の記載上,被控訴人がヤンゴ
ンにいたとされる期間はヤンゴンにいるはずであるから,その当時Aの活動に継続的にかかわっていたとはいえないと主張するが,何ら新しい証拠を伴っておらず,原審における主張の繰り返しに過ぎない。
本件旅券につき,特定の頁を削った跡があることは,被控訴人訴訟代理人村上一也作成の写真撮影報告書(甲72)において立証済みであり,本件旅券には特定の箇所の四角い枠及びその内部を削った痕があることが明らかである。
また,控訴人らは,証印部分を偽造しているような状況も認められないと主張するが,遂に偽造がないとの確認もされておらず,控訴人らは,当該旅券が偽造,変造等されていないものであることの確認が取れている場合には,その鑑定結果を証拠に出しているが,本件ではかかる証拠提出がないことからすると,実際には控訴人らは本件旅券につき偽造,変造等されていないとの鑑定結果が得られなかったものと思われる。なお,旅券の発行は純粋に国家機関が行うものであるから,被控訴人が,本件旅券が偽造,変造にかかるものであることを鑑定によって立証することは不可能である。
本件旅券の取得方法に関する被控訴人本人の供述は,重要な客観的証拠との整合性がみられ,また,変遷はなく,単により詳細になっているというにすぎない。
控訴人らは,原判決が本件旅券につき,被控訴人の供述に変遷があるとしながら信用性が欠けるとまではいえないとする理由が不明であるとも主張するが,被控訴人には主要な点で一貫性や他の証言等との符合性が認められるから,信用性があるのは当然である。
控訴人らは,原判決が本件旅券をミャンマー政府が被控訴人のために発給した真正な旅券であると認められるとする一方で,被控訴人の一番目の姉が被控訴人になりすまして,ヤンゴンにおいて旅券を発給する事務所に赴いて,被控訴人の氏名及び生年月日が記載され,同姉の写真が貼られた本件旅券に署名したことについて,原判決が本件旅券の写真が貼り替えられたものであると認めたのかどうかが明らかでないとも主張するが,原判決は,『真正な旅券』の意味を,『ミャンマー政府が被控訴人のために発行した被控訴人の身分事項が記載された旅券』と捉えていること,本件旅券はかかる旅券に該当するものの,写真が貼り替えられているとしていることが明らかであり,原判決に何ら不明な点はない。控訴人らは,原判決が,本件旅券上,被控訴人の署名が『○○○』になっているところ,本来,被控訴人の頭文字は『○○○』であり,本人であれば誤るはずがないとしていることにつき,それならば姉が誤る理由も不明であるし,本人も旅券に『○○○』と記載したというのであるから,この点を根拠とするのは誤りであるとも主張するが,ビルマ文字でなく,英語表記上,『○○○』の『○』を単に『○』と記載するのか,『○○』と記載するのかということであって,ヤンゴン大学というミャンマーの最高学府において高等教育を受けた被控訴人が自らの英語の綴りを誤ることが考えられないのに対し,被控訴人以外の姉が,被控訴人の名前の微妙な綴りの誤りを犯す可能性とは格段の違いがあり,また,被控訴人本人が『○○○』と記載したのは,そもそも旅券ではなく,出入国記録であるが,その理由は,旅券とは別の署名をすると,それについていろいろ聞かれると思ったとして,理由を明確に述べており,その理由も極めて説得的であるから,控訴人らの上記主張は誤りである。(オ)

控訴人らは,被控訴人のAの活動が後方支援であったこと,当時1
0万とも20万とも言われたAメンバーの一人であり,国境の前線から離れてから十有余年も経過していることからすればミャンマー政府が反政府活動家として関心を持ち続けているとはいい難いなどと主張するが,被控訴人の活動が後方支援となる前は,小隊長,情報担当として,他の者を率いる立場にあったから,控訴人らの上記主張は著しく正確性を欠き,また,Aの当時の人数については,誤りである可能性もあり,被控訴人は上記のように重要な役職を担っていたものであり,被控訴人の軍籍がミャンマー政府に知られているとの証人Bの供述を考えると,被控訴人に危険がないということはできない。ミャンマーの軍事政権は,Aについて強い敵視政策を続けており,このような中で,Aのメンバーであると掌握している被控訴人に注目しなくなるという証拠もない。(カ)

控訴人らは,被控訴人が現行犯逮捕の翌日の違反調査手続において
『ミャンマーに帰ります』という趣旨のことを述べたとことを殊更重要視しているが,違反調査手続の目的は,退去強制事由該当が疑われる者を収容するにあたり,誤って退去強制該当事由の存在しない者を収容することのないよう,退去強制事由の存在を確認することにあり,在留特別許可事由の存否の判断はその主な目的ではなく,仮に被控訴人において在留特別許可事由の存在を主張してもしなくても,その結果は何ら異なることはないのであるから,原判決が,この点に関する被控訴人の供述を判断を左右するに足りる決定的な事実であるということはできないとしたのは当然である。」
2
原判決10頁16行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。ア控訴人らの補充主張原判決は,いわゆる60日要件について,改正法で求められなくなったことから,審査判断の対象とする必要はない旨判示したが,抗告訴訟における行政処分の違法性判断の基準時は処分時であり,処分後の法令の改廃は司法審査に当たり考慮しない(最高裁判所昭和27年1月25日第二小法廷判決・民集6巻1号22頁)ものであり,また,行政処分の取消し又は変更を求める訴えにおいて,裁判所が行政処分を取り消すのは,行政処分が違法であることを確認してその効力を失わせるためであって,弁論終結時において,裁判所が行政庁の立場に立って,いかなる処分が正当であるかを判断するものではない(最高裁判所昭和34年7月15日第二小法廷判決・民集13巻7号1062頁)ところ,原審に対して求められた判断は,改正前法62条の2第2項のいわゆる60日要件が存在し,この要件に従って難民認定手続をするよう義務付けられていた当時の行政庁の処分の違法性の有無であり,その違法性の有無は,処分時における法律に基づいて判断されなければならないことは明らかであるから,原判決の上記判断は,最高裁判所の判例に反する独自のものであり,到底容認できるものではない。イ被控訴人の反論控訴人らは,いわゆる60日要件について,審査は不要であるとの原判決の判断が最高裁判所の判例に反する独自のものであり,到底容認できるものではないと主張するが,原判決の判断は,東京高等裁判所平成18年8月30日判決と同様の判断をしているものである。そして,上記判決は,本件と同じく,難民不認定処分時には存在し,口頭弁論終結時までに削除された改正前法61条の2第2項に規定されていた60日条項の適用の有無が問題になったものであり,同判決は,控訴人らが上告等することなく確定したものである。また,原判決は,控訴人らも指摘する抗告訴訟における行政処分の違法性判断の基準時は処分時であるという原則を踏まえつつ,なおいわゆる60日要件については,『例外的に』裁判所は,口頭弁論終結時に改正後入管法の定める要件に従って処分の適否を審査判断すれば足りるとしたものであって,控訴人らの批判は当たらない。第3
1
当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人の各請求は原判決主文第1ないし第3項記載の限度で理由があるから,これを認容すべきものと判断する(したがって,本件決定の取消しを求める訴えも原判決主文第4項のとおり却下すべき筋合いのものである。)。その理由は,次のとおり訂正し,又は付加するほかは,原判決の事実及び理由欄の第3争点に対する判断に記載のとおりであるから,これを
ここに引用する。
(1)

原判決24頁18行目から同19行目にかけての本件旅券は,ミャンマー政府が原告のために発給した真正な旅券であると認められるところ,を本件旅券は,ミャンマー政府が発行した被控訴人の身分事項が記載された旅券であると認められるところ,に改める。(2)

原判決27頁6行目から同7行目にかけてのその変遷をもって原告の供述は信用性に欠けるとまではいえないこと,をこれら以外の主要な部分については供述の一貫性があり,これらの出入国に関する証印の押印についての供述の変遷をもって被控訴人の供述は信用性に欠けるとまではいえないこと,に改める。(3)

原判決27頁18行目の十分な信用性があるということができることの次に(控訴人らは,被控訴人の姉が被控訴人の頭文字『○○○』を『○○○』と誤る理由も不明であるし,本人も本件旅券(乙1)に『○○○』と記載したというのであるから,被控訴人が本件旅券の署名欄の署名をしたと考え難いとはいえないと主張するが,ヤンゴン大学で高等教育を受けた被控訴人が自らの英語の綴りを誤ることが考えられないこと,被控訴人の氏名のうち『○○○』は英語で『○○○○』と表記され,その頭文字の綴りの表記は微妙な点があるから,本人以外の者であれば,たとえ実姉であっても,母国語のビルマ文字でない英語表記について誤りを犯す可能性がないとはいえないこと,また,被控訴人本人は出入国記録(控訴人らが主張する『旅券』ではない。)に『○○○』と記載したことを自認しているが,その理由として,『パスポートの所有者欄にサインしてあるものと別のサインをしてしまえば,それについていろいろ聞かれるだろうと思ったからです。』としてあえて誤った記載をした旨供述しており,その内容にも合理性がないとはいえないことに照らし,控訴人らの上記主張は理由がない。),また,本件旅券(乙1の4枚目)には,本人を識別するための特徴として,被控訴人にはなく被控訴人の一番目の姉にはある左前腕のほくろが記載されていること(甲55,56,弁論の全趣旨)からみても(なお,本件旅券には,被控訴人の目の色が黒と記載されているが,このことが事実に反するかどうかは証拠上判然としない。),上記③の被控訴人の供述の信用性が裏付けられていることを加える。(4)
原判決28頁7行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。控訴人らは,被控訴人において,本件旅券取得にかかわったブローカーが旅券の特定の箇所を削ったなどと供述しているものの,本件旅券の特定のページを削ったような痕跡はなく,また,被控訴人は,本件旅券の写真が証印部分を偽造しているような状況も認められないと主張するが,被控訴人訴訟代理人村上一也作成の報告書(甲72)によれば,本件旅券の47頁には削った跡があることが認められ(これに反する証拠はない。),また,証印部分の偽造の有無は本件旅券の写し(乙1)からは必ずしも確定できないものであって,控訴人らの上記主張も的確な裏付けがあるとはいい難いことに照らして,採用することはできない。また,控訴人らは,原判決が本件旅券をミャンマー政府が被控訴人のために発給した真正な旅券であると認められるとする一方で,被控訴人の一番目の姉が被控訴人になりすまして,ヤンゴンにおいて旅券を発給する事務所に赴いて,被控訴人の氏名及び生年月日が記載され,同姉の写真が貼られた本件旅券に署名したことについて,原判決が本件旅券の写真が貼り替えられたものであると認めたのかどうかが明らかでないとも主張するが,前記のとおり,本件旅券は,ミャンマー政府が発行した被控訴人の身分事項が記載された旅券と認められるものの,本件旅券における本人を識別するための特徴が被控訴人ではなく,被控訴人の一番目の姉の特徴と一致すること,被控訴人の氏名の頭文字の表記も被控訴人本人がしたものとは考えにくいものであることからみて,被控訴人の一番目の姉の写真が貼付されて取得されたものであり,その後写真が被控訴人のものと貼り替えられたものと認められるから,控訴人らの上記主張も理由がない。(5)

原判決30頁16行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。
エ控訴人らは,被控訴人が武器を調達するなどのためにロイコーに向かったという点に関する関係者の供述は信用し難く,被控訴人が,武器を調達するためにロイコーに向かったという点は事実として認め難いと主張する。しかしながら,証人Bは,被控訴人がヤンゴンの大学生たちの代表として同証人たちの会議にも参加したと供述するとともに,ロイコーで被控訴人とCのリーダーであるHを引き合わせたとも供述していること,そして,被控訴人は,前記のとおり,Hと会って武器の調達について交渉するなどしていたことに照らし,同証人の供述が,被控訴人がロイコーに向かった目的が武器調達とともに学生グループと連絡を取ることにもあったとの認定と矛盾するものということはできない。また,被控訴人のロイコーにおける活動については,被控訴人は,平成16年6月3日,警視庁月島警察署警察官により逮捕されたが,同月8日付け審査調書(乙8)では,ミャンマーでAのメンバーとなり,武器を持って現軍事政権と戦ったと供述し,同月22日付け口頭審理調書(乙11)では,ミャンマーでは非合法組織であるAのメンバーであり,兵士としてミャンマー政府と戦った,大学の先輩であるFのいたロイコーに武器の調達に行った,今でもIの隊長であるBのもとで任務を持っているとして,早い段階からAとのかかわり及びそのメンバーについて具体的に特定して供述していることが認められる。そして,前記のとおり,Fの平成16年7月2日付け推薦状(甲22)には,同人はAの共同第二事務局長であるところ,被控訴人がFのいたロイコーに来たときに知り合い,Aの党員となった被控訴人と行動を共にしたこと,Bの同年8月4日付け推薦状(甲23)には,同人はAのキャンプにおける議長であったが,現在はオーストラリアに居住しているところ,ロイコーに来た被控訴人と行動を共にしていたが,被控訴人はAの歩兵隊長であったことが記載されており,被控訴人の上記供述と対応した内容となっていることが認められ,さらに,Aの関係者であるとするJの同年7月2日付け推薦状(甲21),Kの同年8月4日付け推薦状(甲24)及びGの同年9月7日付け推薦状(甲25)にも同様の記載があり,証拠(甲26ないし29,57)によれば,これらの者がAの関係者であることを示す写真が存在することが認められる(写真撮影報告書(甲30)は被控訴人代理人弁護士が被控訴人に平成16年10月22日に着せたものである(乙45)から,上記認定に資するものはない。)。このように被控訴人の逮捕及びその後の身柄拘束がされた早期の段階で,被控訴人と詳しい口裏合わせをすることが困難と思われる状況において,Aの関係者によって被控訴人の供述と大筋において合致する内容の詳細な陳述がされていること,及び,前記証人Bの供述に照らすと,被控訴人がミャンマーでは非合法組織であるAに加入していたとの供述は信用性があるものというべきであるから,控訴人らの上記主張は採用することができない。オ控訴人らは,被控訴人は平成2年2月8日にヤンゴンの旅券事務所で被控訴人名義の真正旅券の発給を受けているからこの時期にはヤンゴンにいたことになるし,その後,ミャンマー,タイ,シンガポール間を出入国していることからすると,被控訴人が後方支援活動をしていたと供述する平成元年3月ころから同2年11月ころの間は,少なくともヤンゴンにいたことをうかがわせるものであるから,被控訴人が平成元年3月以降も継続的にAで後方支援活動等に従事していたとする供述は信用できないと主張する。しかしながら,前記のとおり,本件旅券は,外見上男性であった被控訴人の1番目の姉が,被控訴人になりすまして,ヤンゴンにおいて旅券を発給する事務所に赴いて,被控訴人の氏名及び生年月日が記載され,被控訴人の1番目の姉の写真がはられた本件旅券に署名して,上記姉が本件旅券を受け取ったものであって,被控訴人が本件旅券の発給日である平成2年2月8日にヤンゴンにいたと認定することができないことはもとより,本件旅券が上記の方法により発給されたとすれば,ブローカーが,被控訴人が3か月の滞在期間内に出入国を繰り返したように見せ掛けるために,本件旅券に出入国の証印を偽造し,本件旅券による韓国への入国を可能にするために本件旅券にその期限の延長及び渡航可能国が拡大した旨の証印を偽造するなどすることも十分にあり得ることに照らすと,本件旅券に記載のとおりにミャンマーからの出国及び同国への入国を繰り返していたことも認定することができないから,控訴人らの上記主張はその前提に誤りがあるというほかない。また,前記のとおり,被控訴人の上記期間における活動については,Aの関係者によって被控訴人の供述と合致する内容の詳細な陳述がされていることをも勘案すると,控訴人らの上記主張も採用することはできない。(6)

原判決38頁9行目冒頭から同40頁5行目末尾までを次のとおり改め
る。
しかし,他方で,上記認定事実によれば,ミャンマー政府は,Aを暴力的な活動に従事する団体であり,非合法組織であると位置付けて,これを敵視しているところ,被控訴人がDに参加した後に武器を調達するためにロイコーに行ってからAに参加するまでの被控訴人の活動は,いわばDを代表してロイコーに派遣された者の行動であるということができ,民主化運動が高揚していた昭和63年9月18日以前における当時の状況の下においては,ミャンマー政府にとってみれば,学生を主体とする民主化運動の高揚ないし進展を防ぐという観点から見て容認し難いものであり,ミャンマー政府が注目するものであったと推認することができる。また,上記認定事実によれば,被控訴人がAに参加した同年11月1日からマラリアの治療のためにタイに移った平成2年11月までの間にミャンマーとタイとの国境付近においてAのメンバーとして行っていた活動は,ミャンマー政府に公然と敵対する行動であり,ミャンマー政府にとってみればこれまた容認し難いものであったと推認することができる。そして,前記認定事実によれば,Eの隊長であったBは,平成2,3年ころ,タイ国軍からAがタイ国内において自由に行動する保障を受けるために,Aの全体の構成,大隊の構成,大隊に所属する者1人1人の氏名及び役職,大隊,中隊及び小隊の所在地等を記載したメンバーリストをタイ国軍に渡していたこと,タイ国軍は,タイとミャンマーとの国境付近においてタイ国軍と対じしていたミャンマー国軍に上記メンバーリストを渡していたこと(上記メンバーリストの交付を巡る事実については,これに反する証拠はない。),このため,ミャンマー国軍は,同年ころ当時にEに所属していたミャンマー人の学生がだれであるかを掌握していたことが認められる。したがって,ミャンマー政府にとって,被控訴人がDに参加した後に武器を調達するためにロイコーに行ってからAに参加し,その後平成2年11月までミャンマーとタイとの国境付近においてAのメンバーとして行っていた被控訴人の活動について把握することは,上記メンバーリストによって十分可能であったと認めることができる。そうすると,被控訴人は,このままミャンマーに送還されれば,ミャンマーにおいてAのメンバーとして取調べを受ける可能性も十分にあり,その取調べにおいて,被控訴人が本件難民認定申請の手続及び退去強制手続において昭和63年11月1日にAが結成されてから現在に至るまでAのメンバーとしてミャンマー国内,ミャンマーとタイとの国境付近,タイ及び日本において活動してきた旨主張していたことが現実にミャンマー政府の知るところとなれば,前記のとおり,ミャンマー政府が被控訴人に対して拷問などの身体的虐待等の方法を用いたり,被控訴人を裁判に掛けて有罪であるとして刑務所に収監したりすることは十分に考えられるところである。さらに,前記のとおり,現に被控訴人の次兄は,反政府デモに参加したことなどを理由に,昭和63年末に○の刑を宣告されて刑務所に収監され,出所後である平成7年に再び○の刑を宣告されて刑務所に収監されたことがあることをも勘案すると,被控訴人が,ミャンマーに送還されれば,ミャンマー政府が被控訴人のAのメンバーとしてのこれまでの活動を理由に迫害を受けることに対する不安を有するに至ることについては,十分な根拠があるというべきである。(7)
原判決40頁18行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。控訴人らは,難民該当性は,当該人の政治活動等を前提として,通常人が当該人の立場に置かれた場合に,迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在しているかどうかで判断すべきであるところ,原判決は,一方で客観的事情が必要であると述べておきながら,これを具体的に当てはめる場面では,ミャンマー政府にとって『不快なものかどうか』を問題としており,原判決自身が自ら述べた『客観的事情』が,当てはめの場面で,ミャンマー政府の主観的事情にすり替えており,しかも,その後に引き続き被控訴人の推測という被控訴人自身の主観的事情を問題とし,その推測につき,『合理的理由がある』としているから,原判決の判断手法は極めて不当であると主張する。しかしながら,前記のとおり,入管法にいう『難民』は,人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないものをいい,上記の『迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する』というためには,当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要であると解するのが相当である。そして,本件においては,前記のとおり,ミャンマー政府は,Aを暴力的な活動に従事する団体であり,非合法組織であると位置付けて,これを敵視しており,そのメンバーが暴力的な活動に従事したことなどを理由に当該メンバーを逮捕して有罪を宣告して刑務所に収監し,当該メンバーが単に反政府的な政治活動をしていたに過ぎない場合であっても,それがミャンマー政府にとって容認することができないものである場合には,ミャンマー政府は,暴力的な活動に従事したことなどを理由に当該メンバーを逮捕して有罪を宣告して刑務所に収監することがあるという状況下において,被控訴人がDに参加した後に武器を調達するためにロイコーに行ってからAに参加するまでに行った活動及び被控訴人がAに参加した同年11月1日からマラリアの治療のためにタイに移った平成2年11月までの間にミャンマーとタイとの国境付近においてAのメンバーとして行った活動については,上記のような状況にあるミャンマー政府にとっては,敵対する行動などとして容認し難いものと推認することができるものであって,被控訴人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のみならず,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していたものと認められるから,控訴人らの上記主張は理由がない。なお,控訴人らは,L大学法科大学院教授M作成の平成18年4月24日付け陳述書(乙50)を提出し,現在のミャンマーにおいて,政治的意見を理由に迫害を受けるという個別,具体的な事情が認められるためには,単にその者が何らかの反政府的活動を行っているというだけでは足りないのであって,積極的な反政府活動を行う団体をその中心的な構成員として組織している人物であれば格別,高い政治意識をもって積極的な反政府活動を行っているとは認められない者,例えば,日本でミャンマー人の民主化団体に所属するものの,その団体の基本的運営方針を決する上で重要な役割を担っているわけではなく,あるいは政府を批判する政治的デモに参加はするものの,大勢の参加者の一人として参加するにすぎないなど,いわば『その他大勢の活動家』にすぎない者については,ミャンマー政府から迫害の対象とされるという客観的,具体的な危険性は認められず,その政治的意見を理由に迫害を受けるという個別,具体的な事情は認められないというべきであると主張する。確かに,上記M教授の陳述書(乙50)にはその旨の記載があり,同教授は我が国を代表する国際人権法学者の一人であり,平成4年から平成8年までの4年にわたり,国連人権委員会ミャンマー担当特別報告者に任命され,ミャンマーの人権状況の調査に従事したものであって,その調査過程において,ミャンマーの人権侵害に関する大量の情報に接したほか,ミャンマーにも出張して政府高官やNのアウンサン・スーチー氏といった反政府活動家などと協議するなどの実情調査を実施した上で,ミャンマーの人権状況に関する報告書を作成した経験を有することに照らし,その陳述内容は傾聴に値するものであるといえる。しかしながら,同教授も,ミャンマー国内における人権状況が相当深刻な状況にあることを前提とした上で,上記のとおり,例えば,日本でミャンマー人の民主化団体に所属するものの,その団体の基本的運営方針を決する上で重要な役割を担っているわけではなく,あるいは政府を批判する政治的デモに参加はするものの,大勢の参加者の一人として参加するにすぎないなど,いわば『その他大勢の活動家』にすぎない者については,ミャンマー政府から迫害の対象とされるという客観的,具体的な危険性は認められず,その政治的意見を理由に迫害を受けるという個別,具体的な事情は認められないとしているものであって,本国ではさしたる政治的活動をしておらず,単に日本国内で他の多くの人と同様に反政府活動をしている程度では迫害のおそれはないといえる余地があるとしても,被控訴人の難民該当性の判断に当たっては,前記のとおり,日本における政治活動ではなく,被控訴人のミャンマー国内及びその国境近辺における活動,しかも武装闘争に参加したりしたことが中心であるから,その前提が異なっている面がある上,被控訴人の本件旅券の取得については,前記のとおり,被控訴人の一番目の姉が不正受給に協力していたことや被控訴人の前記のような活動状況についてミャンマー政府がその発給をした平成2年2月8日の時点で具体的に把握していたとまでいえるかは明らかでないことに照らし,被控訴人が本件旅券を取得したことをもって迫害のおそれがないということもできない。そして,控訴人らは,上記陳述書の記載内容等に照らしても,本件における被控訴人の状況について同教授の陳述書の記載内容が当てはまるかどうかを個別具体的な検討をしたともいい難い面があることからみて,ミャンマー政府が,同教授が評するごとく冷静で賢い政府であるとしても,被控訴人の上記のような状況を具体的に把握した場合には,ミャンマーに帰国した被控訴人に対して迫害するおそれは否定できないところであって,上記陳述書の記載をもって被控訴人の難民該当性を否定することは困難というほかない。控訴人らは,M教授の陳述内容は,日本のミャンマー人民主化団体の幹部らの供述によっても裏付けられているとして,O(乙51),P(乙52)及びQ(乙53)の陳述書(ただし,これらもその記載内容からして被控訴人の上記のような状況を念頭に置いたものでないと思われる。)を提出しているが,その主張の理由がないことは上記のとおりである。(8)

原判決41頁9行目のしかし,上記①及び②は,から同13行目末
尾までを次のとおり改める。
しかしながら,上記①の事実は,被控訴人の次兄が現に反政府デモに参加したことなどを理由にミャンマー政府により再度にわたり投獄されていることは被控訴人の身内に危険が現実化しているという事情であり,上記②の事実は,被控訴人が正規の手続では旅券の発給を受け難い事情の存在を認識していたことを示す事実であると評価することも十分可能である。また,上記③の事実は,被控訴人が前記Eの活動資金を稼ぐ目的と符合し,むしろ被控訴人の武装闘争の一貫としてとらえることもできるといえる。さらに,上記④の事実は,確かに控訴人らの主張するとおり,被控訴人がミャンマー政府から迫害を受けるおそれを有していなかったとも理解できるが,逮捕直後のことでもあり,前記のとおり,その直後に反政府活動に関与していることを供述し始めていることからすると,上記帰国の意思表明は被控訴人が迫害を受けるおそれを懐いていなかったとまで断定することは相当でないというべきである。最後に,上記⑤の事実は,確かに難民性を否定する方向に働く事情と理解されるのが通例であるといえるが,被控訴人の場合には,上記Eの活動資金を稼ぐ目的で日本に入国し,現にAに送金していることから,この⑤の事実も難民性を否定する方向に働くとはいえず,むしろこれを裏付ける事実ということができる。控訴人らは,被控訴人が,来日してから警察官に逮捕されるまでの13年間という長きにわたり,日本で生活していたものであり,その間,本国における活動はもとより,日本においても目立った政治活動はしておらず,それ自体ミャンマー政府から注目を浴びることのない資金援助といった程度のものであり,A等関連の活動についても十数年にわたり被控訴人を迫害の対象としておく程度のものではなかったことからすれば,ミャンマー政府が被控訴人に対する注目を継続しているとみるべき事情はないと主張する。しかしながら,前記のとおり,被控訴人はAに加入し,小隊長としてミャンマー政府に敵対する活動も行っていたこと,後方支援に回ってからも武器の調達というミャンマー政府にとって看過し難い活動も行っていたこと,特に,被控訴人においては,その次兄が反政府デモ等を理由に再度にわたり投獄され,被控訴人の姉も被控訴人の旅券の発給につき発覚すれば投獄される危険性のある不正な手段まで用いて被控訴人に協力をしていることなどに照らすと,被控訴人が国外にいる間はともかく,被控訴人がこのままミャンマーに送還されれば,ミャンマーにおいてAのメンバーとして取調べを受けることが予想され,被控訴人が本件難民認定申請の手続及び退去強制手続において昭和63年11月1日にAが結成されてから現在に至るまでAのメンバーとしてミャンマー国内,ミャンマーとタイとの国境付近,タイ及び日本において活動してきた旨主張していたことからみても,再度以前のような反政府活動を行う危険性もあると懸念されることも含め,Aについて強い敵視政策を続け,被控訴人をAのメンバーであると掌握しているミャンマー政府によって,被控訴人が暴力的な活動に従事したことなどを理由に逮捕され,有罪を宣告されて刑務所に収監されることもあり得るものというべきであるから,控訴人らの上記主張も採用するとはできない。なお,被控訴人が日本に入国した平成3年6月16日から現行犯逮捕された直後である平成16年6月8日まで約13年間にわたり難民認定申請をしていなかったことが認められるが,この点は,被控訴人がAのメンバーとして資金援助を行っていたこと,難民認定申請をした場合でも,容易に難民として認定されないことをおそれていたことなどの理由を述べており,これらの理由にも一定の合理性があることに照らすと,このことのみをもって被控訴人の難民認定申請について不利益に扱うことは相当とはいえない。さらに,上記控訴人らの主張⑤の点に関して補足する。確かに,違反調査書(乙6)によれば,被控訴人は,警視庁月島警察署警察官により逮捕された翌日の平成16年6月4日,東京入管入国警備官の違反調査手続において,『今は警察に捕まったので,ミャンマーに帰ります。』と供述していたことが認められ,被控訴人もこのような言動をしたことは認めているが,被控訴人本人は,その理由として,『私が入管に身柄を移されたときに,たくさんの人がそうした審査を受けていました。ずらっと並んでいるような状態でした。その調べ方も,かなり,こういう表現がよろしければ使いたいのですが,非常に差別的な,一方的な言い方での調べでした。そして次々に当該の外国人を同じように聞いて,同じように片付けているというような状況がありました。私自身は,最終的には私自身の判断で国に帰る,帰らないというのは決断ができるというふうに考えていましたから,その場は時間も掛かることですから,それでいいやというふうに考えて,言ったものです。』として,本心ではなかった旨の供述をしており,それなりに合理性がないわけではないこと,また,そもそも違反調査手続の目的は,退去強制事由該当が疑われる者を収容するに当たり,誤って退去強制該当事由の存在しない者を収容することがないよう退去強制事由の存在を確認することにあり,在留特別許可事由の存否の判断はその主な目的ではないこと,上記の『今は警察に捕まったので,ミャンマーに帰ります。』との供述自体は簡単な内容であり,ここから難民認定申請をする意思がないことまで確定的に述べたものとまではうかがえないこと,被控訴人は,前記のとおり,上記違反調査の直後の平成16年6月8日,控訴人法務大臣に対し,本件難民認定申請をし,その後一貫してミャンマーに帰る意思がないことを供述していることなどに照らすと,上記違反調査書における『今は警察に捕まったので,ミャンマーに帰ります。』との供述をもって被控訴人の当時の冷静な本心の表明であって,被控訴人がミャンマー政府を恐れていなかったということは困難であるというほかないものであって,控訴人らの上記主張は理由がない。(9)
原判決44頁10行目末尾の次に行を改めて,次のとおり加える。控訴人らは,抗告訴訟における行政処分の違法性判断の基準時は処分時であり,処分後の法令の改廃は司法審査に当たり考慮しないとの前記最高裁判所昭和27年1月25日第二小法廷判決,行政処分の取消し又は変更を求める訴えにおいて,裁判所が行政処分を取り消すのは,行政処分が違法であることを確認してその効力を失わせるためであって,弁論終結時において,裁判所が行政庁の立場に立って,いかなる処分が正当であるかを判断するものではないとの前記最高裁判所昭和34年7月15日第二小法廷判決を各引用した上で,原審に対して求められた判断は,改正前法62条の2第2項のいわゆる60日要件が存在し,この要件に従って難民認定手続をするよう義務付けられていた当時の行政庁の処分の違法性の有無であり,その違法性の有無は,処分時における法律に基づいて判断されなければならないことは明らかであると主張する。確かに,抗告訴訟における行政処分の違法性判断の基準時は処分時であり,行政処分の取消し又は変更を求める訴えにおいて,裁判所が行政処分を取り消すのは,行政処分が違法であることを確認してその効力を失わせるためであって,弁論終結時において,裁判所が行政庁の立場に立って,いかなる処分が正当であるかを判断するものではないことはいうまでもないが,上記のとおり,平成16年法律第73号による入管法の改正により削除されたいわゆる60日条項(入管法61条の2第2項)は,手続的要件に関するものであり,行政庁の第1次判断権の侵害の問題は生じないこと,また,1項の要件は具備されているが,2項の要件が具備されていないという理由で難民不認定処分が維持された場合に生じる不都合もあることなどに照らし,上記内容の法改正の場合には,例外的に,裁判所が,口頭弁論終結時に改正後入管法の定める要件(本件ではいわゆる60日条項が削除されたこと。)の趣旨をしんしゃくして処分の適否を審査判断することも許されると解され,上記判断は,上記各最高裁判所の判例にてい触ないし違反するものではないから,控訴人らの上記主張は理由がない。2
以上のとおりであって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件各控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第20民事部

裁判長裁判官

宮崎公男
裁判官

山本
裁判官

今泉博秀和
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