判例検索β > 平成16年(わ)第337号
殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人未遂
事件番号平成16(わ)337
事件名殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人未遂
裁判年月日平成20年1月21日
裁判所名・部前橋地方裁判所  刑事部
裁判日:西暦2008-01-21
情報公開日2017-10-13 01:37:57
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主文
被告人を死刑に処する
理由
(犯罪事実)
被告人は,指定暴力団A1会A2一家A3会行動副隊長であるが,第1

元指定暴力団B1会B2一家B3組組長C(当時55歳)を殺害することを企て,
前記A3会会長D,同A3会行動隊長分離前相被告人E,同A3会A4組組長代行分離前相被告人F及び同A3会A5組組員Gと共謀の上,
1
法定の除外事由がないのに,平成14年10月14日午後4時35分ころ,不特定
又は多数の者の用に供される場所である群馬県利根郡a村大字b字cd番地e付近路上において,殺意をもって,普通乗用自動車を運転中の前記Cに対し,自動装てん式けん銃及び回転弾倉式けん銃で弾丸合計6発を発射したが,うち1発を同人の右肩部に命中させ,よって,同人に対し,加療約1か月間を要する右肩銃創の傷害を負わせたにとどまり,同人を殺害するに至らなかった。
2
前記D,同E,同F及び同Gと共謀の上,法定の除外事由がないのに,前記日時場
所において,自動装てん式けん銃1丁及び回転弾倉式けん銃1丁を,それぞれこれらに適合する実包各数個とともに携帯して所持した。
第2

前記Cらを殺害することを企て,前記D及び前記A3会行動副隊長Hと共謀の上,
いずれも法定の除外事由がないのに,
1
平成15年1月25日午後11時25分ころ,不特定又は多数の者の用に供される
場所である前橋市f町g丁目h番地i所在の飲食店I前路上において,殺意をもって,元前記B3組組員J1に対し,
前記Hが,
所携の自動装てん式けん銃で弾丸2発を発射し,
いずれも前記J1の腹部に命中させ,よって,同月26日午前3時41分ころ,同市j町k丁目l番m号所在のK病院において,同人を腹部射創による胃,すい臓及び小腸の損傷に起因する失血のため死亡させて殺害した。
2
平成15年1月25日午後11時25分ころ,不特定又は多数の者の用に供される
場所である前記I店内において,いずれも殺意をもって,飲食客J2(当時53歳)に対し被告人が,飲食客J3(当時50歳)に対し前記Hが,飲食客J4
(当時55

歳)及び前記C(当時55歳)に対し被告人又は前記Hが,また,死ぬかもしれないことを認識しながら,

飲食客J5(当時66歳)に対し被告人又は前記Hが,所携の自動
装てん式けん銃で弾丸合計十数発を発射し,そのうち,弾丸5発を前記J2の頭部等に,同1発を前記J5の頭部に,同1発を前記J3の上胸部に,同数発を前記J4の身体に,同1発を前記Cの左手中指にそれぞれ命中させ,よって,即時同所において,前記J2を頭部貫通射創による脳挫滅等のため,前記J5を頭部貫通射創による脳挫滅等のため,前記J3を上胸部貫通射創による動脈破裂に起因する失血等のため,それぞれ死亡させて殺害したが,前記J4に対し,加療約6か月間を要するすい臓断裂,左腎破裂及び胃貫通等の傷害を,前記Cに対し,加療約3週間を要する左中指基節骨等粉砕骨折の傷害をそれぞれ負わせたにとどまり,前記J4及びCを殺害するに至らなかった。3
前記1,2記載の日時ころ,前記I前路上及び同店内において,自動装てん式
けん銃3丁及び回転弾倉式けん銃1丁を,それぞれこれらに適合する実包各数個とともに
携帯して所持した。
(事実認定の補足説明)
弁護人は,判示第2の事実につき,一見して堅気と分かる女性であるJ5や,J3に対する発砲行為はHによるものであり,これらは本来の計画にはなかったのであって,D及び被告人との共謀を超えた行動であるなどとして,被告人にはJ2に対する殺人罪とJ4に対する傷害罪が成立するにとどまる旨主張し,被告人も,Hとの間でCを殺害することしか話し合っておらず,Hが店内のC以外の一般客や,店外のJ1に向けて発砲するとは思っていなかった旨供述するとともに,自身の発砲行為により死傷させたのはJ2及びJ4のみであって,特にJ5に対して発砲した事実はない旨供述し,さらに,Dが判示各犯行に関与したか否かについて黙秘している。
そこで,以上の諸点について検討する。
第1
1
証拠上容易に認定できる事実
事件関係人(肩書きは当時のもの。

被告人は,

A1会A2一家A3会行動副隊長である。

Dは,前記A3会会長である。
Eは,前記A3会行動隊長である。
Hは

,Dの直属の部下で,前記A3会行動副隊長である。

Gは,前記A3会A5組組員であり,平成14年8月ころから,Dの運転手をしていた


L1は,前記A3会L2組組長(A3会本部長)である。
Mは,A5組組員である。
Nは,前記A3会本部長である。
Fは,A1会A2一家A4組組長代行である。

2
O事件及び同事件に対する報復行為等
平成13年8月18日,東京都内のOにおいて,B1会B2一家組員により,A1
会A1一家向後睦会会長及び同一家A6七代目総長が射殺される事件が起こった以下O(
事件という。。

その後,O事件に関し,B1会とA1会の上層部の間において,前記B2一家の解散及び同一家総長Pの絶縁処分等を内容とするいわゆる手打ちが行われたが,暴力団社会においては,絶縁された者を襲撃しても手打ちを破ることにはならないこともあって,A1会の中には,なおもPに報復する動きがあった。
H,N,M,F及びL1は,Dの関与のもと,ウージー1丁,スミスアンドウェッソン2丁,タウルス1丁,手りゅう弾,発煙筒及び火炎びん等を用意した上,平成14年3月1日,P邸にガソリンを噴射して火炎びんや手りゅう弾を投げ込んだり,けん銃を発砲するなどした(以下P邸襲撃事件という。

3
判示第1の1,2の各犯行(以下x村事件という。
)等について
HやDらの間では,P邸襲撃事件後,O事件の現場にCがいて,同人の指示により
同事件が敢行されたという話が出たこともあって,Pに代えてCを報復の対象とすることとなった。
H,D,G,E及び被告人は,平成14年3月1日から同年10月5日までの間,
群馬県内に数回下見に行き,Q,前橋市n町o丁目p番地q所在のI,キャバクラ,群馬県北群馬郡r町大字st番地u所在のR等を下見し,Q周辺では,Cを襲撃する場所や車を燃やす場所を探した
Hは,当初,x村事件に参加する予定であったが,平成14年10月5日,交通事故に遭ったため,同事件には参加しないこととなった
Gは,同月ころまでに,Dから,襲撃に使用するボルボやトランシーバー等を用意するよう指示されたり,襲撃した際,一緒に堅気の車があったときそのガラスを割る。()
と言われた。
同事件に使用するけん銃として,コルトの45口径1丁,マカロフ2丁及び38口径の回転弾倉式けん銃1丁が用意され,Dが,Eにけん銃でCを殺害する役割,Fに発砲役,被告人にCを確認してEとFにトランシーバーで発砲を指示する役をそれぞれ割り振り,この際,DはEに対しCを確実に殺害するよう指示した。
その後,x村事件における役割等が変更され,パジェロをCの乗るベンツに衝突させて停車させた上で,E,F及び被告人がけん銃を発射してCを殺害する計画になった。Dは,
Cの乗るベンツにパジェロを衝突させることでベンツが谷に転落した場合は,

そこまで行ってとどめを刺せ。

と言い,ベンツ等に堅気の人間が乗車していた場合の対応について,

基本的には,堅気だったら手を出すな。,

じゃまするようならやっても構わない。

と言った。被告人は,同月14日,判示第1記載の場所付近において,Qから帰る途中のCを襲撃するためE及びFとともに実行犯として待機していたところ,犯行直前ころ,Cの車がゴルフ場方面から下りてくるのを見張っていたGから,Cの乗車するベンツともう1台の車が通過したこと,Cは後続車両に乗車していること等をトランシーバーで知らされ襲撃を開始した。しかし,前記ベンツに衝突させるはずであったパジェロが先頭を走行して来たグロリアに正面衝突し,同車両は停車させたものの,後方にあって危険を察知したCがベンツを急発進させてグロリアの脇をすり抜けて逃走を図ったたため,被告人らは,Cほか1名が乗車し,村道を走行していた前記ベンツに向けて,数メートルの距離から少なくとも合計6発の弾丸を発射したが,Cの右肩部に弾丸1発を命中させるに止まり,同人を殺害するには至らなかった。
犯行後,Eが計画の失敗をDに謝罪していた。
4
判示第2の犯行(以下y事件という。
)の準備状況等
Dは,平成14年11月ころ,Cがいわゆるキャバクラにいるところを襲撃し,E
においてマシンガンでCを殺害することを計画したが,同人がキャバクラに現れなかったため,計画は実現しなかった。
Mがけん銃4丁をA3会又はDのものとして保管していたところ,Hは,Mに電話し,バイク及び同人保管のけん銃4丁を受け取りに行く旨伝え,平成15年1月21日ころ,埼玉県さいたま市所在のバイク屋Tに,L1及びEを伴って赴き,Mからけん銃4丁(マカロフ2丁,スミスアンドウェッソンの外形をしたけん銃〔以下単にスミスアンドウェッソンという。〕1丁及びコルト・ガバメント1丁)とバイクを受領した。


お,マカロフ2丁のうち1丁は,銃身にねじが切ってありサイレンサーの装着が可能であるのに対し,他方の1丁はサイレンサーの装着できないタイプであった。
Hは,Eとともに,平成15年1月20日前後ころ,Rに到着し,けん銃4丁,バイク及びヘルメット等をRに持ち込んだ。
この時点で,
コルト・ガバメントには8発,
マカロフ2丁には各8発ないし各9発,
スミスアンドウェッソンには6発の実包がそれぞれ装てんされていた。HとEは,このころ,日産マーチに乗車してI周辺の下見に行くなどして,犯行現場であるIまでの移動方法について打ち合わせ,同車でバイクを駐車させた前橋市v町w番地先畑内(以下バイク置き場という。
)まで行き,そこからバイクに乗り換えてI
に向かい,Iでの犯行後はバイクで前記マーチの停めてある場所まで戻り,そこから同車でRに帰ることを内容とする経路や,
犯行後,
桃の木川にけん銃を投棄することを決めた。
さらに両名は,バイク置き場に犯行の際用いるバイクを隠したり,
y事件の役割

分担として,EがCを射殺し,その間,HがEをバックアップすることを決めたりした。同月23日ころ,HとEとの間にいさかいが生じ,Eが実行犯から外れることとなった。この際,Hは各けん銃の弾倉から弾丸をいったん抜いた。なお,その後,y事件の犯行までに,Hと被告人は,各自が使用するけん銃に弾丸を装てんし直した。Gは,Dの指示を受けて,Dとともに,HとEに食料品等を数回差し入れたが,その帰りの車中で,Dから

Eがだめだな。,

Hが参っている。

と言われた。被告人は,同月25日の二,三日前,何者からかの指示で,

Rに行った。そこ

に向かう車中では,群馬にHがいるので同人の指示に従うよう言われていた。被告人がRに到着すると,EがRから退去した。被告人は,Hから,Eにけん銃を向けられたという話をされたり,

Cが外を出歩くようになったことや,Cとスナック

のママの2人でいるところをやるから今回は楽だという話を聞いたりした。
また,H

は,被告人に対して,Cの殺害役を依頼し,自分は何かあったら対処する旨言って,かねてからEとの間で決めてあった犯行時の役割分担を説明したり

,IでCが座る席は,

出入口から入って右側の席であると教えたりもした。
Hは,けん銃4丁(自動式けん銃マカロフ2丁,回転弾倉式けん銃スミスアンドウェッソン1丁,自動式けん銃コルト・ガバメント1丁)を取り出して,自身はマカロフ1丁とスミスアンドウェッソンを持つこととし,被告人にコルト・ガバメントとマカロフ1丁を渡し,

ガバメントでCをやってくれ,マカロフは予備だ。

と言った。5
y事件当日(平成15年1月25日)の状況


Gは,Dとともに,Hと被告人に食料品や衣類等を差し入れた。
Hは,電話で何者かと話した後の午後11時ころ,被告人に対し,Cが今店
に入ったのでIに行く旨伝え,被告人はマカロフとコルト・ガバメントを,Hはマカロフとスミスアンドウェッソンをそれぞれ携帯するなどして準備を整え,Rを出発した。このとき両名は,Cが1人でIに入った旨の情報を得ていた。
Hは,被告人ととも前記マーチに乗車し,当初の計画どおりバイク置き場に赴いたが,
同所にあるはずのバイクがなくなっていたため,
その旨電話で何者かに報告した上,
そのまま同車でI付近の浄水場前まで行き,
そこに同車を駐車して徒歩でIへと向かった。
被告人及びHは,I付近から同店の様子をうかがったところ,同店店外に,Cのボディガードが乗車していると思われるベンツが駐車してあり,同車に男性2人が乗車し
ている様子が確認できたことから,Hは,Cが1人でIに入っている旨聞いていたのと状況が異なると考えた。
被告人及びHは,

中に人が乗っているね。仲間かもね。

などと話し合い,Hが

車は自分が引き付けておくから,その間に中に入って被告人がやってくれ。

と言った。
この際,被告人は,Cが,警戒してけん銃を持ち歩いているだろうし,襲撃の際同人からの反撃に遭って自分が撃たれる可能性もあると思っていた。Hが,Iに近付いたところ,前記ベンツからCのボディガードであったJ1が降車して

どこ行くんだよ。

と声を掛けてきたため,Hは,J1の腹部に向けてマカロフで弾丸2発を発射し,同人に,臍部上方に銃創1,臍部下方に銃創1を生じさせた。前記けん銃発射行為による発射音がしたころ,被告人はI店内に入った。Hは,未だ1名(U)が乗車していた前記ベンツの後部窓ガラスに向けて,マカロフで弾丸2発を発射し,そのころ,店内から複数のけん銃の発射音を聞いた。

I店内での犯行状況等

Iは,前橋市内の住宅街の一角にある,市道に沿って建てられた4軒長屋の端
に位置しており,東西約3.28メートル,南北約9.3メートルの広さで,北側入口から入ると,右手にカウンター席が10席,左手にボックス席が設けられていた。イ
被告人がI店内(以下,単に店内という。
)に入店した当時,同店には,

出入口に近い順から,J2,J4,C,J5,Y,J3,V及びWの合計8名がカウンター席に座り,カウンター内には,同店の経営者(ママ)のXがいた。被告人は,フルフェイスのヘルメットを装着したままIに入店したところ,まず,J2とJ4が目に入り,Cが座ると聞いていた席にいたJ2の横顔をその斜め後ろから確認し,事前に情報を得ていたCの人相風体と似ていると考え,その後,いったん周囲を見渡して他にも飲食客がいることを認識してから,Cと判断したJ2に向けコルト・ガバメントで弾丸2発を発射したが,3発目を発射しようとしたところ,その引き金を引くことができなくなった。
被告人は,カウンター席の中央付近に女性がいることや奥の方に3人の男性が立って動いているのを確認し,カウンター内にいたXが店の奥へ逃げようとしたころ,携帯していたマカロフを取り出し,J2に向けて弾丸3発を発射した。このころ,Hが店内に入ってきて,被告人とともに,それぞれのマカロフで弾丸各数発を発射した。その際,両名ともに,少なくともカウンター席の中央付近からボックス席の方向へ移動した者に向けての発射行為を行っている

。この間,J4が,

前記カウンター席側からボックス席側に移動している。
被告人は店内から出たが,Hは,店の奥の方にいたJ3に向けてマカロフで弾丸2発を発射し殺害した



Hは,店外に出た際,ヘルメットのシールドに被弾した。
被告人は,I店外に出た後,前記ベンツが走り出したことから,同車に向けマ
カロフで少なくとも弾丸2発を発射した。

店内における被害者の負傷状況
J2は,店内の出入口付近の座席に座っていて弾丸を身体に受け,座席付近の
床上で倒れており,その遺体には頭部貫通射創1個,背部から射入した貫通射創3個,左鼠径部から射入した盲管射創1個,左内側前腕部擦過射創1個がある。なお,その左内側前腕部擦過射創については背部から射入して貫通した弾丸によって生じていることも考えられるので,J2の身体には5発又は6発の弾丸が命中した可能性がある。J4は,黒色のダウンジャケットをチャックを閉めた状態で着用し,J2の左隣の座席に座っていて弾丸を身体に受け,その後店内東側のソファに逃れたものの,更に身体に弾丸を受け,その場で倒れており(同1229丁)
,その身体には,受けた傷の関
係だけからみれば3発ないし5発の弾丸が命中した可能性が認められる。Cは,J4の左隣の座席に座っていて,弾丸を身体に受け,その左手中指に1個の貫通痕がある。
J5は,当時,紺色のカーディガンを着用し,Cの座席から左側2つ目の座席に座っていて弾丸を受け,座席付近の床上で倒れたが,その遺体頭部に貫通射創1個がある。
J3は,J5の左側2つ目の座席に座っていたが,店内南側奥の裏出入口付近で倒れており,その遺体上胸部には右上肢から射入した貫通射創1個がある。

犯行後の状況
上記犯行後,I前路上には,Hの使用したマカロフ1丁がスライドの後退した状
態(装てんされていた実包を撃ち尽くした状態)で落ちていた。
被告人及びHは,
前記マーチに乗車して,
前橋市z先所在の桃の木川付近に行き,
犯行に用いたマカロフ1丁,コルト・ガバメント1丁,ヘルメット及び目出し帽等を投棄した。
6
その後の状況

平成15年1月26日午前零時ころ,Gは,Dから電話で群馬に行ってHに連絡するよう指示を受け,

その際教えられた電話番号に電話を架けたところ,その電話を受

けたHから,高速道路の渋川伊香保インターチェンジ付近まで迎えに来てほしい旨言われて,同所まで車で迎えに行った。
被告人とHが,Gの運転する車に乗り込んだ後,その車中で,GがDに電話を架けてH及び被告人と合流できたことを報告したり,Hが,店内に人が一杯いるじゃないかとか,一般人もいるじゃないかという趣旨のことを言ったり



Dと電話で話したり

した。
被告人及びHは,Gの運転する車で新潟等を経由して東京都内に到着した。なお,Mは,y事件後にHから弾丸を返還されたことはない。
第2

x村事件に関するDとの共謀の成否
被告人は,当公判廷において,x村事件を指示した者につき,人のことは言いたく
ないとして黙秘しているが,Dが同事件に関与したことを否定する供述をするわけでもないところ,前記認定のとおり,Dが,実行犯である被告人らとともに犯行前Q等へ下見に赴いたこと,Gに対し,襲撃に使用するボルボやトランシーバー等を用意するよう指示したこと,実行犯である被告人らに対し,けん銃でCを殺害することを含めた役割を指示した上,Eに対してはCを確実に殺害するよう指示したこと,犯行後,Eから計画の失敗につき謝罪を受けていたこと等が認められるのであるから,Dが,公共の場である公道にお
いてけん銃を発射してCを殺害することを共謀したと認定することができる。第3

y事件についてのDの関与について
1
H供述の内容
y
Hは,事件に関するDの指示ないし行動等に関し,
以下のような供述をしている。



私は,平成15年1月23日ころ,Eからコルト・ガ

バメントを突き付けられたため,自分を実行犯から外すようDに頼んだが,Dから,Eの代わりに被告人を実行犯とする旨告げられ,その日のうちに被告人がRにやってきた。

私は,同月25日,Dから電話を受けて,

Cが1人で店に入った。向かえ。


と言われ,
同日午後11時ころ,
被告人とともにRを出て,
バイク置き場に行ったところ,
バイクがなかった。
そのことについてDに電話で報告すると,
そのまま向かうよう言われ,
これに従って

I付近に行った。すると,その店外にベンツが駐車してあって,同車
内にCのボディガードと思われる人物が2名いたので,被告人との間で

ボディガードがいるよ。

という話をしてから
,Dに電話を架けて,犯行の中止を進言した。しか

し,その後Dから架かってきた電話で,同人から

店の中にいるのは三,四人だ。堅気のお客さんはいない。みんなCの仲間だから,やらなきゃやられるぞ。,

ゲームだから深刻に考えちゃあだめだよ。という趣旨のことを言われ,被告人にもその旨伝えたところ,

参ったね。」と言っていた。


私は,同月26日午前零時前後ころ,Rにおいて電話で,被告人から撃
たれて怪我をしたことをDに報告すると,同人からGを迎えにやる旨言われた。それから私と電話を替わった被告人が,Dにy事件の顛末を説明していた。
その後私は,電

話でGと合流場所を打ち合わせ,
被告人とともに関越自動車道の渋川インター付近に赴き,
Gの運転する車両に乗車して東京都内に入った。
2
検討


Dがy事件を直接指示した旨のHの前記供述内容は,前記認定のとおり,A1会
とB1会の組織的対立の結果,いずれもDの関与ないし指示によるP邸襲撃事件及びx村事件等が敢行された後にy事件が敢行されたこと,犯行に使用されたけん銃4丁は,MがA3会ないしDのものとして保管していたものであること,HとEないし被告人がRに潜伏していた際,DとGが食料品等を差し入れに来たり,HとEとの間にいさかいが生じるや,Dが,

Eがだめだな。,

Hが参っている。

と言い,直後にEから被告人へと実行犯が変更されていること,犯行後にDの指示を受けたGが渋川伊香保インターチェンジ付近においてHと被告人を迎えに行き,両名と合流できたことをDに報告したことなどの事実関係と符合しており,前記1,記載の同事件当日のHの電話の相手である何者かがDであるとの供述は

,Hが,電話で何者かと話した後,被告人に

対し,Cが今店に入ったのでIに行く旨述べて,被告人とともに出発したり,バイク置き場付近において,やはり電話で何者かにバイクがなくなっていることを報告したりしたという限度では,被告人との供述と一致しており,その電話の相手がDであるとして何ら不自然ではない。


加えて,被告人は,y事件がDの指示によるものであるとは供述していないもの
の,Rで待機していた時にHの携帯電話に連絡があったこと,バイクがなくなっているのが分かった際,Hが何者かに電話で

バイクがありません。なくなってます。

と言った
こと,Iに着く前にHが,やはり何者かに対して電話で

もうすぐ着きます。行ってきます。

と言ったこと(同1437丁)など,上位者の指示があったことは認めつつも,要するに,人のことは答えたくないとしてその上位者の名を供述しないにすぎないのであって(同1420丁,同27回1563丁参照)
,Dが本件に関与しているとする点につい
て,Hの供述が真実と異なるから供述しないという趣旨とは受け取れない。

以上からすると,HとEとの前記いさかいの具体的内容や,Dが,犯行直前,電
話でHと会話し,その際C以外の一般人を殺傷することも厭わないかのような発言をしたのかの点は措くとして,少なくとも,Iの店内においてけん銃を発射してCを殺害するというy事件をDが指示したというHの供述は信用することができ,Dが,被告人らの上位者としてy事件に関与していることは明らかである。
第4

被告人(及びD)が,Hとの間で,J1及びI店内の飲食客らも殺害することにつ
いて共謀していたと認められるか否か
1
前記のとおり,H及び被告人が,Dの指示のもとCを殺害するためにy事件を実行
したことが認められる。しかるに,被告人は,Hが店内のC以外の一般客や,店外のJ1に向けて発砲するとは思っていなかった旨供述するなどして,これらの者に対する殺意を否定し,弁護人も,被告人は,
カタギもボディガード等もいない,まさにC1人との
認識でIに向かっており

,同店内で発砲した際にも,当初の計画どおりC(実際には

J2)を殺害し,J4に対して発砲した後すぐに店外に出ているのであってはC以外の者に被害が発生することを認容していなかった
2
,被告人

旨主張する。

しかしながら,前記のとおり,被告人及びHは,Dの指示のもと,y事件の実行に
用いる凶器として,6発ないし9発の弾丸が装てんされた合計4丁のけん銃(各自2丁)を携帯していたのであり,このこと自体から,被告人,H及びDは,IでC自身の反撃(被告人は当時の認識としてこの点を強調しているところである。
)ないし同人のボディガー
ドによる応戦を受けてC殺害が妨害される事態を想定し,同人殺害実行のためこれらの妨害を排除する必要が生じることも念頭に置いていたと推認される。被告人は,このような考慮のもとに用意された2丁のけん銃を携帯し,I店内に入ろうとしたところで,店外に駐車されたベンツにボディガードらしき人物が乗車していたのを自身の目で確認し,Hから,自分が前記ベンツをを引き付けておくから,その間に店に入ってC殺害を実行するよう言われている。当時被告人は,まさにCをけん銃で殺害するためにIへ入店しようとしていたのであり,
その後店内でCの殺害を遂行しようとする,
あるいは遂行すれば,これを知った同人のボディガードと思われる者から強烈
な反撃

を受けるおそれのあることが容易に想像できる状況であった。このような状況下で,被告人同様前記のような考慮のもとに用意された2丁のけん銃を携帯するHの言った,C殺害の間前記ベンツを引き付ける旨の言葉が,場合によってはそのけん銃でボディガードを殺害することをも含む趣旨であることは明らかであり,被告人もそのことを十分理解していたものといわざるを得ない。
以上に加えて,被告人自身I店外に出た後,前記ベンツに少なくとも弾丸を2発発射していることも併せ見れば,被告人は,D及びHとの間で,Cのボディガードに対する殺害を共謀し,この共謀に基づいてHは,Iに入ろうとする同人に声を掛けてきたJ1を
殺害したものと認められる。これに反する被告人の供述は採用できない。3
次に,I店内における殺害行為について検討する

う時点において,同店にCが1人で入った旨の情

に,被告人及びHは,Iに向か

報を得ている

が,

他方前記

のとおりI店外に至った段階で,店外にボディガードらしき人物がいるなど,実際には,事前の情報とは異なる状況であるらしいことを既に認識していたものといえる。さらに,店内に入った被告人は,そこに多数の飲食客がいることを十分認識した上で,C本人であると判断した相手(J2)に向けてコルト・ガバメントで2発,マカロフで3発の弾丸を発射したのに引き続き,
少なくとも,
C本人であると判断した相手J2)

以外の人物であるJ4に向け,マカロフで弾丸を発射していることが認められる。

えて,被告人は,このJ4に対する発射行為の際,Hが同様にJ4に向けて弾丸を発射するのを制止したりもしていない。なお,HはさらにJ3に向けて弾丸を意図的に発射しているがHの認識としては,店の奥に人がいるのが見え,その人が動いたので危ないと思って撃ったというのであって,無抵抗の相手と分かりつつ無差別に発砲したなどと認められるような証拠はない。
このような被告人及びHの行動からすれば,被告人は,遅くとも,店内に入ってC及びX以外の者が多数いることを認識した時点までには,本来の目的であるCの殺害のみならず,C以外の者が抵抗するそぶりをみせるなどC殺害の障害となるような場合にはその者をも殺害することを意図し,Hとの間で暗黙のうちにそのような認識を共有するに至ったというべきである。
しかも,前記のとおり店内は狭隘である上にC及びX並びにその他の飲食客ら計9名が密集しており,被告人は,そのような状況を十分認識した上で,前記のとおりC殺害の障害となる者をもけん銃で殺害することの共謀を遂げたのであって,そのような状況で弾丸を発射すれば,跳弾や流れ弾に当たって,明確に狙った者以外の店内にいる者をも死亡させるかもしれないことを認識していたといえる。
したがって,被告人が,Hとの間で,C(及びCと間違われたJ2)殺害のみならず,犯行の際立って動いたり,場所を移動したりしたJ4及びJ3の殺害をも共謀し,そのような事情も認められず,後記第5のとおり,被告人とHのうちいずれかが敢えて狙ったものとも断定できないJ5については死ぬかもしれないという未必的な殺意の限度で共謀し,前記のとおりの認識のもとy事件を指示したDとも,これらの内容の共謀を遂げたものと認めることができる。
上記弁護人の主張及び被告人の供述は採用できない。
4
Dの認識の範囲について付言するに,Dは,被告人及びHがけん銃合計4丁を携帯
していたことや,Iが,前橋市内の住宅街の一角にある4軒長屋の端に位置する決して広くはない店舗であること,同店内に,Cのほかに少なくとも同店のママであるXがいることをいずれも分かっていたものである。さらに,犯行時IにC以外の飲食客もいたことにかんがみると,犯行前に店内にC1人で入った旨の情報を得ていたとしても,その他の店内における飲食客等の有無までは事前に確認していなかったものと推認されるところであり,犯行当時である午後11時ころであれば,C及びそのボディガードやXのみならず他の飲食客が同店内にいるかもしれないことも認識していたといえる


したがって,Dは,被告人及びHがけん銃合計4丁を用いてI店内でCを殺害すべ
く襲撃すれば,その障害となる相手も殺害することになることのみならず,その場に居合わせたXや,居合わせるかもしれない他の飲食客が巻き添えになって死亡する可能性があることをも十分認識していたことは明らかである。
第5

被告人が射殺した被害者について
冒頭に掲げたとおり,被告人は,自分が発射した弾丸が命中したことによって死傷
したのはJ2及びJ4のみであり,他にはいない旨供述し,弁護人も,被告人の刑事責任の範囲は,J2に対する殺人及びJ4に対する傷害の限度である旨主張する。前記認定のとおり,被告人は,D及びHとの間で,I店内においてCを殺害する際障害となる者の殺害の共謀及びそれ以外の同店内に居合わせた者に対する未必の殺意の限度での共謀を遂げたと認められるから,
弁護人の主張は理由がないのであるが,
以下では,
被告人自身の行為によって死傷させた被害者は誰かについて検討する(なお,被告人は,J4に向けてマカロフを発射しているところ,それが特に狙いを外したわけでもなく,1発ではなく複数発(被告人自身は3発と供述している。
)発射していることからすれば,
確定的殺意に基づくものであると認められる。。

1
関係証拠によれば,同事件に使用された4丁のけん銃及び弾丸等につき,以下の事
実が認められる。


自動式けん銃マカロフ1丁(桃の木川で発見されたもの)
同けん銃は,被告人が使用したサイレンサーの装着できるタイプのマカロフ(真
性けん銃)であり,その弾倉容量は8発である(ただし,自動式けん銃では,弾倉に加えて薬室にも実包1発を装てんすることが可能である。。

本件犯行後,同けん銃の打ち殻薬きょう8個(店内6個,店外2個)及び発射弾丸5個(店外1個,J2の体内及び衣服内から3個,店舗内1個)が発見されたが,被告人の供述を前提とすると,
店内で発射したマカロフの弾丸のうち2個が発見されていない。


自動式けん銃マカロフ1丁(I前の路上で発見されたもの)
同けん銃は,Hが使用したサイレンサーの装着できないタイプのマカロフ(真正
けん銃)であり,その弾倉容量は8発である(ただし,前記のとおり)。
本件犯行後,同けん銃の打ち殻薬きょう7個(店内4個,店外3個)及び発射弾丸7個(店内3個,J3の衣服内から1個,ドラッグストア前路上に1個,J1の体内から2個)が発見された。
なお,店舗中央付近から発見されたこのマカロフによる弾丸2個のうち,1個には,微量の人血及びJ4が着用していたセーターのものと同種の布片が付着しており,他方の1個に血痕の付着は認められなかった。


回転弾倉式けん銃スミスアンドウェッソン1丁
同けん銃は,y事件においてHが使用したものである。
本件犯行後,同けん銃による発射弾丸1個(店内1個)が発見された。


自動式けん銃コルト・ガバメント1丁
同けん銃は,被告人が使用した真正けん銃であり,その弾倉容量は7発である。本件犯行後,同けん銃の打ち殻薬きょう2個(店内2個)
,発射弾丸2個(店内

2個)及び適合実包6個(店外1個,事件後に桃の木川に投棄されたコルト・ガバメントの薬室に1個,同弾倉内に4個)が発見された。
なお,同けん銃による前記発射弾丸のうち1個には,本件犯行後,J2が着用していた衣服と同種の布片が付着していた。
2
容易に認定できる事実
Hによるけん銃の発射状況については,前記認定のとおり,I前路上において,J
1に向けてマカロフで弾丸2発を発射し,引き続き,同所に駐車していたベンツの後部窓ガラスに向けて,マカロフで弾丸2発を発射したこと,店内に入ってから,カウンター席の中央付近からボックス席の方向へ飛び込んだ人物に向け,
マカロフで弾丸数発を発射し,
その後,店の奥にいたJ3に向けてマカロフで弾丸2発を発射したことが認められる。他方,被告人によるけん銃発射状況については,店内において,J2に向けコルト・ガバメントで弾丸2発を発射したこと,この時,同けん銃が弾詰まりを起こしたことから,
携帯していたマカロフを取り出し,
同けん銃でJ2に向けて弾丸3発を発射したこと,
Hが店内に入ってきたころ,カウンター席の中央付近からボックス席の方向へ飛び込んだ人物の方に向け,マカロフで弾丸数発を発射したこと,I店外に出た後,ベンツに向けマカロフで弾丸2発ないし3発を発射したことが認められる。
3
店内の発射行為に関する供述


Hの供述
犯行当時,コルト・ガバメントには7発,マカロフには各8発,スミスアンドウ
ェッソンには6発の実包が装てんされていた。
自動式けん銃には弾倉以外に薬室にも1発の実包を装てんすることができるが,犯行当時,上記けん銃のうち自動装てん式けん銃の薬室に弾丸が装てんされていたか否かは分からない。
私は,店内に入り,その時点で出入口とカウンターの間に1人と店内中央付近に1人が倒れていたことや,店内中央付近においてボックス席の方に飛び込む人を確認し,店の出入口に近い方のボックス席付近に立っていた白っぽい服を着た人物に向けてマカロフで弾丸2発を発射し,被告人が店外へ出た後も,店の奥の方にいた人物に向けてマカロフで弾丸2発を発射した。
被告人は,私が店内に入った後も,けん銃で一,二発弾丸を発射していた。

被告人の供述
犯行当時,自動式けん銃3丁には,薬室にも実包各1発を装てんしてあり,マカ
ロフには各9発の実包が,コルト・ガバメントには8発の実包が装てんされていた。私は,コルト・ガバメントが弾詰まりを起こした後,マカロフでJ2に3発,カウンターの真ん中あたりで体をひねりながら飛び込んだJ4に向けマカロフで弾丸3発を発射した。
私が,Hが店内に入る前の時点で,J5に対して発砲した事実はない。私は,Iの店外に出て,ベンツに向けてけん銃(マカロフ)で弾丸3発を発射した。
4
検討


前記のとおり,HがJ1及びJ3を殺害したことと,被告人がJ2を殺害したこ
とは容易に認められるので,以下,J5を殺害した者並びにC及びJ4に傷害を与えた者について検討する。
Hは店内に入った際にJ5が既に倒れていた旨供述するが,これを的確に裏付ける証拠はなく,被告人は,同供述に反し,J5にけん銃を発射したことを明確に否定していることからすると,Hの上記供述を直ちに採用することはできない。そして,当時J5がJ4の近くのカウンター席に座っており,発射された弾丸を受けてその近くに倒れていたことからすれば,被告人がカウンター席側からボックス席側へ移動するJ4に向けてけん銃を発射した際,
J5が巻き添えとなった可能性がある一方,
Hが,白っぽい服を着た人物に向けてマカロフで弾丸2発を発射したと供述しているところ,その人物がJ5である可能性もないではなく,そうでないとしても,Hが前記人物に向けてけん銃を発射した際にJ5も巻き添えになった可能性が残されている。さらに,Mは,y事件の後,Hから,同事件に使用されたけん銃の弾丸の返却を受けたことはないところ,本件に使用されたけん銃に装てんされた実包の数について,y事件の前に,Hに対し,38(スミスアンドウェッソン)は6発の弾丸を装てんした状態で,コルト・ガバメントは弾倉に7発及び薬室に1発を装てんした状態で,マカロフは,弾倉に確か8発,薬室にも1発を装てんした状態で渡した旨供述する。
この供述の

うち,コルト・ガバメントの装てん実包数については,y事件後に,同けん銃の打ち殻薬きょう2個,発射弾丸2個及び適合実包6個が発見されていることと整合する上,自動式けん銃3丁の薬室にも各1発の実包が装てんされていたとする被告人の供述とも合致する。それに対し,この点に関するHの供述は

自動装てん式けん銃の薬室に弾丸が装てんされていたか否かは分からない。

というなどあいまいである。そして,前記認定のとおり,押収品を検討しても,被告人ないしHが使用したマカロフに薬室も含め合計9発の実包が装てんされていたことに相応するだけの実包等は発見されていないのではあるが,Iの壁に食い込むなどして未発見のままの弾丸が存在する上,可能性が低いとはいえ,撃発されながら発見に至らない薬きょうの存在も否定しきれないことからすれば,マカロフ2丁に各9発の弾丸が装てんされていた可能性を否定できないというべきである。
このことからすると,Hが白っぽい服を着た人物に向けて発射したと供述するマカロフによる弾丸2発のほかにも,同人が店内で弾丸1発を発射した可能性も一応残るというべきである。


以上の事情を考慮すると,本件での証拠関係によれば,被害者に命中した各弾丸
について,J3への1発はHのマカロフ,J2への5発又は6発は被告人のマカロフ及びコルト・ガバメント,J4への3発又は4発は被告人又はHのマカロフによるものと認めるのが相当であるが,J5への1発及びCへの1発は,Hないし被告人のいずれのけん銃による発砲行為によるものか認定することはできない。また,その命中が意図的なものであるのか流れ弾や跳弾等によるものかの特定もできない。
したがって,発砲行為については前記判示のとおり認定した。
(累犯前科)
1
被告人は,平成12年12月25日東京地方裁判所において,脅迫,証人威迫及び強
要の各罪により懲役2年に処せられ,
平成14年1月20日その刑の執行を受け終わった。
2
証拠は,前科調書(乙5)である。

(法令の適用)
該当罰条
判示第1の1の行為のうち
殺人未遂の点

刑法60条,203条,平成16年法律第15

6号による改正前の刑法199条(刑法6条,10条により,有期懲役刑の長期は軽い平成16年法律第156号による改正前の刑法12条
1項によるから,有期懲役刑の長期及び短期のいずれも軽い行為時法の刑による。)
けん銃発射の点

包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法

31条1項,3条の13(刑法6条,10条により有期懲役刑の長期は軽い平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項のそれによる。

判示第1の2及び第2の3の各行為

いずれも包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持

等取締法31条の3第2項,1項,3条1項(刑法6条,10条により,銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第1項については平成19年法律第120号による改正前のそれを指し,また,刑の長期については軽い平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項のそれによる。

判示第2の1の行為のうち
殺人の点

刑法60条,平成16年法律第156号による

改正前の刑法199条(刑法6条,10条により,有期懲役刑の長期は軽い平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項によるから,有期懲役刑の長期及び短期のいずれも軽い行為時法の刑による。

けん銃発射の点

包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法

31条1項,3条の13(刑法6条,10条により有期懲役刑の長期は軽い平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項のそれによる。

判示第2の2の行為のうち
各殺人の点

各被害者ごとにいずれも刑法60条,平成16

年法律第156号

による改正前の刑法199条

(刑法6条,10条により,有期懲役刑の長期は軽い平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項によるから,有期懲役刑の長期及び短期のいずれも軽い行為時法の刑による。

各殺人未遂の点

各被害者ごとにいずれも刑法60条,
203条,

平成16年法律第156号による改正前の刑法199条(刑法6条,10条により,有期懲役刑の長期は軽い平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項によるから,有期懲役刑の長期及び短期のいずれも軽い行為時法の刑による。)
けん銃発射の点

包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法

31条1項,3条の13(刑法6条,10条により有期懲役刑の長期は軽い平成16年(
法律第156号による改正前の刑法12条1項のそれによる。

科刑上一罪の処理
判示第1の1の殺人未遂とけん銃発射につき
刑法54条1項前段,10条(重い殺人未遂罪
の刑で1罪として処断する。

判示第2の1の殺人とけん銃発射につき
刑法54条1項前段,10条(重い殺人罪の刑
で1罪処断として処断する。

判示第2の2の各殺人と各殺人未遂とけん銃発射につき
刑法54条1項前段,10条(けん銃の発射と
各殺人及び各殺人未遂とは,1個の行為が6個の罪名に触れる場合であるから,結局以上を1罪として,被告人自身が殺害行為を行った点で刑及び犯情の最も重い被害者J2に対する殺人罪の刑で処断する。

刑種の選択
判示第1の1の罪

有期懲役刑

判示第2の1の罪

有期懲役刑

判示第2の2の罪

死刑

累犯加重
判示第1の1,2,第2の1及び3につき
それぞれ刑法56条1項,57条,平成16年
法律第156号による改正前の刑法14条の制限内(刑法6条,10条により軽い行為時法の制限による。
)で再犯の加重
併合罪加重

刑法45条前段,46条1項本文(判示第2の2の罪に

ついて死刑に処し,他の刑を科さない。

訴訟費用の不負担

刑訴法181条1項ただし書

(量刑の理由)
1
事案の概要
本件は,被告人らが,A1会A2一家に所属する暴力団組員として,A1会A2一家
A3会会長であるDの指示等の下,O事件の報復のために行った一連の事件のうち最大の殺戮事案を含む2件であり,

ゴルフ場付近の路上においてCを待ち伏せ,同人の運転す

る車両に向けて弾丸6発を発射したが,同人に加療約1か月間を要する右肩銃創の傷害を負わせるにとどまった殺人未遂と,その際,けん銃2丁を適合実包と共に所持した事案(x村事件)
,さらにCを襲撃するために,前橋市内のスナック店舗内外で発砲してたまたま居合わせた客を含む4人を殺害し,Cら2人を負傷させ,その際にけん銃4丁をその適合実包と共に所持した事案(y事件)である。
2
y事件について


事案の概要等
y事件は,被告人らが,Dの指示の下,Cを殺害することを企て,Cの立ち寄った
スナックにおいて,けん銃を発砲し,CのボディガードであるJ1のほか,たまたま居合わせた一般人の飲食客であるJ2,J5及びJ3を射殺し,Cとその連れであったJ4に傷害を負わせた事案である。
被告人は,A1会A2一家A3会行動副隊長として,O事件の報復等のためにCを殺害するようDらに命じられたことから,スナック店舗内に居合わせた一般の客を巻き添えにするかもしれないことを認識しながら犯行に及んでおり,本件は,暴力団特有の反規範的かつ人命軽視の論理に基づく極めて反社会的な犯行である。


犯行態様等
本件は,Dらにおいて,あらかじめ,実行犯がC殺害のために待機するRを用意したり,内通者等を通じてCの立ち回り先などを確認してその襲撃場所を決めた上,実行犯である被告人及びHにおいて,

Dの指示を受け,襲撃のためのけん銃4丁を用意

したり,
襲撃場所であるスナックなどを下見して,
スナックまでの交通手段を確保したり,
逃走経路や最寄りの警察署からスナックまでの所要時間等を確認するなどしたほか,あらかじめ相互の役割を分担して,犯行当日は,Cがスナックに入ったから向かえとのDからの指示を受けて実行され

,犯行後は速やかに逃走援助役により被告人らを群馬県内か

ら離脱させているなど,その犯行は極めて高度に計画的かつ組織的である。Hは,Cをスナック店内で襲撃する被告人の犯行を容易にするため,ベンツから降りてきたJ1に,

どこ行くんだよ。

などと声を掛けられると,ためらいなく,至近距離から2発の弾丸を発射して丸腰のJ1を殺害し,スナック店内では,被告人が,射殺しようとしている相手がCであることの確認も不十分なまま,人違いにより至近距離からJ2に2発の銃弾を浴びせ,そのけん銃が弾詰まりを起こすと,なおも同人にとどめを刺すべく別のけん銃で3発の銃弾を浴びせた上,店内に入ったHとともに,引き続きけん銃を乱射してJ4及びCを負傷させた。次に,Hが,店の奥で動いたJ3を狙って,更に2発の弾丸を発射してその上胸部を撃ち抜き殺害している。そしてこの犯行の間に,J5も頭部に弾丸1発を受けて死亡している。このように,被告人は,C又はスナックに居合わせた者らを狙って,店内にいた者に対して,至近距離から少なくとも合計8発の弾丸を発射し,
J2には少なくとも5発もの弾丸を命中させて同人を殺害するとともに,Hとともに,
J4とCを負傷させ,Hも,J1やスナックに居合わせた者を狙って至近距離から少なくとも6発の弾丸を発射してJ1とJ3の2人を殺害し,J4には被告人とともに弾丸を浴びせているのであって,その態様は,未必の限度に止まるJ5に対するものを除き,強固な確定的殺意に基づく極めて残虐なものである。


犯行の結果等
本件犯行により,地球よりも重いとすら言われる人命が,一般市民3人を含め一度
に4つも失われ,しかもそのほかに1人がすい臓断裂,腎破裂等の重傷を負い,もう1人も相当の傷害を負っているのであって,その結果はそれ自体極めて重大である。J2は,昭和*年*月*日に出生し,昭和*年ころ結婚して,家庭では無口な夫又は父親として,
一男一女を育て上げる一方,
職場では真面目な仕事ぶりを評価されており,
本件当時は,職場で責任ある地位を務めるとともに,離婚した元妻との関係を考え直そうとしたり,自らの職場の取引先に就職した長男と仕事の話をしたり,会話の少なかった長女の将来を心配したりしていた。
J5は,昭和*年*月*日に出生し,職場で知り合った夫と昭和*年に結婚し,良き妻又は優しい母親として,一男一女を育て上げ,子供が手を離れた後復職した職場では年長者として職場をまとめたりしていたが,職場を退職した本件当時は,優しい祖母として5人の孫をかわいがるとともに,夫や母親らと共に旅行やカラオケを楽しむ毎日を過ごしていた。
J3は,昭和*年*月*日に出生し,離婚した元妻との間に二男四女をもうけ,離婚した後も,調理師をしながら,優しい父親として,四女を除く5人の子供を引き取って育て上げ,本件当時は,自らの手元に引き取った子供らが皆その手を離れたことから,機械工を務めるかたわら,孫をかわいがったり,これから生まれてくる孫の誕生を楽しみにしたり,カラオケをするなどしてその人生を楽しもうとしていた矢先であった。このように,J2,J5及びJ3は,それぞれその職場において責任ある立場を務めるとともに,家庭においては良き父親又は母親として,子供たちを育て上げ,本件当時も,職場で責任ある地位を務めたり,孫をかわいがったり,旅行やカラオケに出掛けるなど人生を楽しんで平穏に暮らしていた一般市民であったのに,本件当日,スナックでCとたまたま同席していただけで,被告人らのC殺害計画に巻き込まれて,事情もよく分からないまま,突然非業の死を遂げるに至ったものであり,J3は被告人及びHが発砲したことを認識し極度の恐怖を感じる中で前記のように残虐な方法で殺害されたものと思われるのであって,それぞれの無念さは察するに余りある。
また,J1は,昭和*年*月*日に出生し,幼くして両親と別れ施設で幼少時代を過ごした後,
B3組の組員となったが,
平成*年に結婚し,
2人の娘をもうけるとともに,
B3組が解散となったことから堅気になろうとしていたほか,自らの経験を顧みて自分の子供には親がいない思いをさせたくないと考え,子供の面倒をよく見ていた子煩悩な父親であった。J1は,Cが狙われるようになったことから,Cのボディガードを務めるようになり,本件当時もCのボディガードとして現場にいた者であって,この点でJ2らとは異なるものの,J1は丸腰で,フルフェイスのヘルメットをかぶってスナックに近付こうとする不審なHに声を掛けただけであって,
やはり殺害されなければならない理由はない。
また,J1は,Hに声を掛けるや,突如,けん銃を発射され,2人の娘を遺して非業の死を遂げなければならなかったものであって,その無念さも察するに余りある。次に,J4は,Cに誘われてスナックに行き,突如,本件被害に遭って,その身体を蜂の巣のように銃撃されながら,九死に一生を得たものであって,加療約6か月間を要する重傷を負ったほか,料理人にとって重要な右手親指が被害前のようには動かないという後遺症まで抱えることになったもので,その被った身体的苦痛及び恐怖等の精神的苦痛は極めて大きい。
また,Cが負った傷害も加療約3週間を要する左手中指骨折であって到底軽微とはいえない。
このほか,当時,スナックには,その経営者を含め4人の一般市民が居合わせており,これらの者も,突如として乱入したフルフェイスヘルメットの男らから,間近でけん銃を多数発射される被害を受け,その生命,身体等の危険にさらされたのであって,それまでそばで談笑していた客らが相次いで射殺されるのを目の当たりにしたその恐怖感等の精神的苦痛は極めて大きい。また,スナックの経営者には,本件により店舗の休業を余儀なくされるなど,約1000万円の経済的損害が発生している。これらの点も本件の犯情として見逃すことができない。


遺族らの被害感情
本件で殺害された4人の被害者の遺族らは,いずれも,突然,父若しくは母又は妻
若しくは夫を奪われ,その被害感情は多くが峻烈を極めている。
J2の長男は,司法解剖を終えて戻ってきた父の姿を見て,最初に頭を撃たれていてほしい,せめてその最期は痛みや苦しみを感じることのないものであってほしいと願うほかなかった,被告人が最後まで上位者をかばう供述をしていることについて,遺族の心情を無視するものであると供述し,妹とともに,被告人に対し極刑を求めている。た,


J5の夫は,
妻がけん銃で撃たれたとの連絡を受けたが,
にわかには信じられず,

病院で頭に包帯を巻かれている妻を見るとともに即死であったと聞き,妻が痛みや苦しみを感じることなく死んだことを望んだと述べている。このように最愛の父親又は妻のために最後に願ったことが

,苦痛の少ない部位を撃たれ,苦痛を感じずに最期を迎えたこ

とであるということ自体,肉親の情として誠に痛ましい限りであるといわなければならない。
J3の長男らは,司法解剖の前には父に対面できず,司法解剖が終わってから,ようやく父と対面し,

目を覚ませよ。

と言いながらその頬を触ったがぬくもりもなく,悲しくて,悔しくて,言いようもない気持ちであり,きょうだいとともにその棺にすがりついて号泣したことを供述し,被告人らに極刑を求めている。

J3の遺族は,その父

親の最期の姿から,父親の激しい苦痛や恐怖を想像せざるを得なかったものであり,その悲しみや怒りが極めて大きくかつ深いものであることは誠にやむを得ないところである。J3の長女は,

悔しい。あの心豊かな父が,優しい父が,こんなやつらに殺されてしまうなんて。どうして私たち家族が暴力団の抗争などの犠牲にならなければならないのでしょうか。,

時間が経過するごとに,許せないという気持ちは増すばかりです。,

私たち遺族にとって悲しみ,憎しみの癒える日は未だに訪れません。

と,現在も癒えぬ悲痛な思いを供述し,被告人らに極刑を求めている。
J1の妻は,夫が撃たれたと聞かされてK病院に向かい,病院の救急治療室で夫が撃たれて瀕死の状態であるのを目にして衝撃を受けたことや,何とかして助けてもらいたいとの思いも虚しく息を引き取ったこと,夫を奪われ,悔しさや怒りで心が引き裂かれんばかりであり,2人の子供を抱えてこれからどうやって暮らしていこうという思いなどを供述し,できることであれば自分の手で犯人たちを殺してやりたい,それが許されないのであれば判決で犯人たちを死刑にしてほしいと述べている。


社会的影響
本件は,住宅街のスナックで,一般市民3人が暴力団抗争の巻き添えとなって殺害
されたという前例のない痛ましい事件

としてマスコミ等によって大々的に報道されて

おり,本件が地域住民及び地域社会に与えた不安や衝撃はもとより,社会全体に及ぼした影響も極めて大きい。


被告人の役割
被告人は,Eが実行犯から外れた後の計画段階から,Cを殺害する実行役を担うこ
ととなっていた。
被告人は,Hとの間で相互の役割分担につき謀議を遂げた上,Hを通じて犯行実行の指示を受け,同人と共に現場に行き,スナック店外にベンツに乗ったボディガードを発見するなど不測の事態に直面すると,Hと協議した上,同人がボディガードを殺害するかもしれないことを認識しながら,その対処をHに委ねた。
被告人は,スナック店内に入るや,殺害しようとする相手がC本人であることを慎重に確かめることもなく,誤って一般客を殺害することとなる可能性を残したままに,Cと見誤ったJ2に対して至近距離から立て続けに2発の弾丸を発射し,とにかくC殺害のみを優先した結果,無関係のJ2の生命を奪うという取り返しのつかない結果を引き起こすとともに,それまで談笑の場であったスナックを一瞬のうちに凶行の場へと変えた。被告人は,Cの殺害を確実なものとするため,抵抗もできないJ2に対してさらに弾丸3発を浴びせたのであって,その殺害態様たるや,極めて残忍かつ執拗であり,Cに対して執念ともいうべき確定的殺意を抱いていたことは明らかである。被告人が,かように軽率なけん銃発射行為に及ぶことがなければ,人違いなどという到底承服できない理由でJ2が殺害されることはなく,また,立て続けのけん銃発射行為によって店内が恐慌状態に陥らなれば,せめて,その後も一般客を巻き込んだ殺戮の場と化すことは避けられたかもしれず,被告人自身の行為によってJ3が殺害されたわけではなく,またJ5が殺害されたとまでは断定できないにしても,両名までもが命を落とすような店内の混乱状態を自らの行為で招来したといえる点で,被告人は,一般客をも巻き込んだ凄惨な犯行態様につき,多大な責任を負っている。
その後も被告人は,Cの殺害という目的を完遂したと思っていたにもかかわらず,危険から逃れようとして動いたJ4に,ためらいなくけん銃を発射して傷害を負わせている。
このように被告人は,実際に犯行に及んで自ら1人を殺害するとともに少なくとも1人に重傷を負わせ,本件犯行に不可欠な役割を果たし,さらに,一般客をも巻き込むような事態に至る原因を自ら作出したといえる。


このような,y事件の罪質,動機の反社会性,高度の計画性・組織性,態様の
残虐性,結果の重大性ことに死亡した被害者の数,遺族らの被害感情,社会に及ぼした影響,被告人の果たした役割等を併せ考えると,被告人の刑事責任は余りにも重大である。3
x村事件について
x村事件も,被告人が,A1会A2一家A3会の一員として,Dの指示の下,O事件
の報復などのため行った殺人未遂事件であって,犯行の経緯・動機に酌量の余地がないことは当然である。
被告人らは,Cを殺害するために,事前にCが訪れるとされていたゴルフ場や犯行に関わる場所を下見し,けん銃,共犯者間の連絡用トランシーバーや,襲撃用車両を準備するなどして入念な準備を整えており,本件も,高度に計画的かつ組織的犯行である。犯行態様は,Cがゴルフ場から帰るのを待ち受け,Cが乗車するベンツの前を走行してきたグロリアに車両を衝突させた後,危険を察したCが発進させたベンツに向けて,数メートルの距離から複数のけん銃で少なくとも6発の弾丸を撃ち込むという危険極まりないものであり,しかもこのような犯行を白昼堂々と公道で行った点でも法秩序を無視すること甚だしい。
加えて,前記グロリアやベンツの助手席にはC以外の第三者も乗車しており,とりわけ,ベンツの助手席に乗り合わせた者に対しては巻き添えとなって銃弾が命中する可能性が十分にあったのであり,C殺害という目的のためには,暴力団同士の対立抗争と無縁の一般人を殺害するも厭わない極めて危険な犯行といえる。
本件犯行により,Cに銃弾1発を命中させて加療約1か月間を要する右肩銃創の傷害を負わせたのをはじめとして,その同乗者にも多大な精神的衝撃を与えた。被告人自身は,犯行に先立って共犯者とともにゴルフ場等の下見をしたほか,犯行時には,GからCの車両が走行してくる旨の連絡を受けて,同車両に向けて弾丸を撃ち込む行為に及んでおり,犯行に不可欠な役割を果たしている。
4
被告人は,兵庫県尼崎市で出生してすぐに鹿児島県の沖永良部島へ転居し,物心がつ
いた時には母と異父きょうだいとで生活するようになっており,中学校を卒業した後,高等学校に進学し,同校ではボクシング部に入部して,ライト級で鹿児島チャンピオン,九州で2位の成績を修め,
複数の大学等からスカウトされるなどしたが,
同高校を卒業後は,
中学校時代の先輩から誘われて東京でとび職をしていた。被告人は,このまま一生とびを続けるのか迷いを抱えていたところ,暴力団A7組の者と知り合い,組長に惹かれるなどして同組に所属するようになり,同組の代行の立場に就くなどしていた。被告人はこのようにして暴力団組員としての活動を続ける中で,暴行等による罰金前科4犯及び脅迫,証人威迫,強要の各罪による懲役実刑前科1犯を経て本件の各犯行に関与するに至ったものである上,x村事件については多くを語らず,y事件についても本件の真相究明を望む遺族の思いを前にしてもなお,他の暴力団関係者の関与について全てを供述するには至っていないなど,暴力団的思考様式や環境に馴染んでいることが認められる。
5
被告人のために酌むべき事情
他方,被告人のために酌むべき事情も認められる。
被告人は,
本来y事件の実行犯となるべき立場にあったEに不都合が生じたことから,
上位者からの指名を受けてCを殺害する立場になったものに過ぎず,犯行計画の策定や準備段階で中心的役割を果たしたDや,同人に準ずる立場にあったHと比較すると,犯行計画や準備行為についての関与の度合いは低く,x村事件についても上位者の指示を受けて行ったものである。
y事件の実行に際しても,
被告人が積極的に殺害を意欲していた相手はCのみであり,
他の一般客の殺害までも望んでいたわけではなく,また,前記認定のとおり,被告人自身の発砲行為によってJ1及びJ3を殺害したわけではなく,また,J5を殺害したとまでは断定できない。
被告人は,当初本件について黙秘をしていたが,最終的には自己の関与した行為の限度で供述をするに至り,自らの手で命を奪ったJ2のことを思うと焼け火箸で心臓をかきむしられる思いであるなど,自己の行為を悔いて謝罪する内容の手紙を書き,法廷においても被害者や遺族に謝罪の言葉を述べているなど,被害者の無念や遺族の悲しみを思い深く反省している態度を見て取ることができる。
また,J5の遺族及びJ4並びにスナックに居合わせたX,Y及びWに対しては,合計数千万円が支払われてy事件に関する和解が成立し,Z,J4,X,Y,W及びJ2の内妻が,被告人につき

死刑に処せられることを希望しない。,

宥恕する。」旨の合意書に署名押印したことが認められる。
6
結論


本件において,検察官は,被告人に死刑を求刑している。



ところで,死刑は,人間の生命そのものを永遠に奪い去る究極の峻厳な刑罰であっ
て,その適用は特に慎重でなければならない。このため,
死刑制度を存置する現行法制の下では,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものといわなければならない。とされているところである(最二小判昭和58年7月8日・刑集37巻6号609頁参照)



そして,前記のとおり,y事件が,A1会系暴力団による元B1会系暴力団幹部に
対する一連の報復等としてけん銃等を用いてなされた犯行であってその罪質及び動機が極めて悪質であること,その計画性・組織性も極めて高度であること,その犯行が,住宅街に位置するスナックの店舗外で,
報復の標的とした者のボディガード1人を射殺したほか,
店舗内で,報復の標的とした者とたまたま居合わせただけの一般人3人を射殺し,報復の標的とした者に傷害を負わせ,その連れの者に重傷を負わせたというもので,その犯行態様は前記のとおり極めて残虐であり,その結果も一度に4人の尊い命が失われるなど極めて重大であること,現在でもなお極めて峻烈な被害感情を示す遺族が多数存在し,社会にも極めて大きな影響を与えていること,被告人自身の果たした役割も極めて重要な必要不可欠のものであること等に加え,x村事件の犯情も極めて悪質であること等によれば,被告人のために酌むべき前記の事情を最大限考慮し,死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における究極の刑罰であって,その適用には特に慎重を期すべきことに思いを致してもなお,被告人については罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑が真にやむを得ないと認められる。したがって,被告人には求刑どおり死刑をもって臨むほかはない。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

死刑)

(公判出席

検察官石井寛也

私選弁護人緒方道夫[主任]
,同小山三代治[副主任]


同遠藤雄司)
平成20年1月21日
前橋地方裁判所刑事部
裁判長裁判官

久我泰博
裁判官

結城剛行
裁判官

武村重

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