判例検索β > 平成17年(わ)第745号
死体遺棄、銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人、窃盗、火薬類取締法違反
事件番号平成17(わ)745
事件名死体遺棄,銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人,窃盗,火薬類取締法違反
裁判年月日平成20年2月4日
裁判所名・部前橋地方裁判所  刑事部
判示事項の要旨暴力団組長であった被告人が,いずれもその活動に関連して,それぞれ別の機会に,組織的に,3名の被害者をけん銃で殺害した殺人等及び組織銃として,複数箇所に多数のけん銃等を所持していた銃砲刀剣類所持等取締法違反等の事案につき,2名に対する殺人等につき被告人と実行犯の共謀を認定するとともに,被告人自ら殺害行為を行った1名に対する殺人について正当防衛の主張を排斥し,被告人に死刑を言い渡した事例
裁判日:西暦2008-02-04
情報公開日2017-10-13 01:37:55
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平成20年2月4日宣告
平成17年第745号,第834号,平成18年第74号,第121号,第157号,第216号,第357号,第819号
死体遺棄,銃砲刀剣類所持等取締法違反,殺人,窃盗,火薬類取締法違反被告事件主文
被告人を死刑に処する
理由
(犯罪事実)※各事実末尾の(

)内は起訴状等の日付及び公訴事実の番号を示す。

被告人は,指定暴力団6代目A1組4代目A2組5代目A3会A4会A5総業組長(肩書きは当時のもの。以下同じ。
)であるが,
第1

A5総業組長代行B,A5総業相談役C,A5総業組長舎弟D及びA5総業幹部E
らと共謀の上,かつて被告人やCらがFらを被害者役とした交通事故を仮装して保険金を詐取したことに関連して,同総業組員が次々と逮捕された件につき,Fが被告人らに断りなく保険会社に保険金の支払を請求したことが判明するや,Fの行動が端緒となって保険金詐欺の事実が警察に発覚したものと考え,被告人らの同事件への関与が警察に発覚するのを免れるためにFを殺害しようと企て,B及びDが,平成13年11月25日ころ,Fを群馬県碓氷郡a町大字b字c林班d小班e支線上(当時)まで連れ出し,Dが,同所において,殺意をもって,F(当時60歳)に対し,回転弾倉式けん銃で至近距離から弾丸1発を発射して同人の右眼窩部に命中させ,よって,そのころ,同所において,同人を頭部の盲管射創に基づく脳挫滅のため死亡させて殺害した。
(平成18年12月11日付け第1)
第2

B,C,D及びEらと共謀の上,法定の除外事由がないのに,平成13年11月2
5日ころ,前記場所において,前記回転弾倉式けん銃1丁及びこれに適合するけん銃実包1個を共に保管して所持した。
(平成18年12月11日付け第2)
第3

A4会の元組員であるGから,同人が逮捕されるよう計画したなどと疑われたので
憤慨して同人を殺害しようと企て,H及びA5総業若頭Iと共謀の上,平成17年4月3日午前3時30分ころ,群馬県安中市fg番地h所在のA5総業事務所において,同所に押し掛けて来たG(当時35歳)に対し,殺意をもって,被告人が回転弾倉式けん銃で弾丸1発を発射し,その胸部にこれを命中させ,さらに,Hが回転弾倉式けん銃で弾丸1発を発射し,その頭部にこれを命中させ,よって,そのころ,同所において,前記Gを心臓貫通射創に基づく失血のため死亡させて殺害した。
(平成18年4月28日付け第1)
第4

平成17年4月3日午前3時30分ころ,前記A5総業事務所において,G所有ま
たは管理に係る自動装てん式けん銃1丁,回転弾倉式けん銃1丁及び現金3万円を窃取した。
(平成18年4月28日付け第2)
第5

I,A5総業事務局長J及びA5総業組長秘書Kらと共謀の上,Gの死体を遺棄し
ようと企て,
平成17年4月3日午前3時40分ころ,
前記A5総業事務所付近において,
同死体を普通乗用自動車の後部トランクに積載し,群馬県碓氷郡i町大字j字kl番m所
在の保安林まで運搬した上,同日午前4時ころから同日午前5時30分ころまでの間,同所において,同死体を土中に埋め,もって死体を遺棄した。
(平成18年3月28日付け)
第6

A5総業と指定暴力団L1会L2一家との間に対立が生じていたところ,L2一家
L3組組長Mが,被告人の舎弟になることなどを拒絶したことから,M組長を殺害しようと企て,A5総業渉外委員長Nと共謀の上,同人が,平成17年9月4日午後11時27分ころ,法定の除外事由がないのに,不特定または多数の者の用に供される場所である群馬県安中市no丁目p番q号所在の飲食店スナックO1西側路上において,殺意をもって,M組長(当時61歳)に向け,いきなり回転弾倉式けん銃で弾丸2発を発射し,その腹部及び右顔面に命中させ,よって,そのころ,同所において,同人を右顔面から左上肢に至る貫通射創に基づく左鎖骨下動脈破断による失血のため死亡させて殺害した。(平成18年3月7日付け)
第7

Nと共謀の上,法定の除外事由がないのに,平成17年9月4日午後11時20分
ころから同日午後11時27分ころまでの間,前記スナックO1店内及び同店西側路上において,前記回転弾倉式けん銃1丁及びこれに適合するけん銃実包2個を共に携帯して所持した。
(平成18年2月14日付け,平成19年1月24日付け訴因変更請求書)第8

N,I,A5総業特別相談役P,A5総業組員Q及びA5総業関係者Rらと共謀の
上,M組長の死体を遺棄しようと企て,平成17年9月4日午後11時30分ころ,前記スナックO1西側路上において,同死体を普通乗用自動車の後部トランクに積載し,群馬県安中市rs番地t所在の廃棄物処理場まで運搬した上,同月5日午前1時ころ,同死体を同所に掘られた穴に埋め,もって死体を遺棄した。
(平成17年12月7日付け)
第9

I,K,J,Q及びA5総業組員Sらと共謀の上,M組長の死体を遺棄しようと企
て,平成17年9月6日午前零時30分ころ,前記廃棄物処理場において,穴に埋められた同死体を掘り起こして普通乗用自動車に積載し,群馬県高崎市u町v番地w所在の飲食店O2駐車場まで運搬した上,同日午前3時30分ころ,同所において,同死体を前記車両から降ろして放置し,もって死体を遺棄した。
(平成17年12月28日付け)
第10

I,K及びQと共謀の上,法定の除外事由がないのに,平成16年3月ころから
平成18年2月22日までの間,茨城県鉾田市xy番地z等において,回転弾倉式けん銃1丁及びこれに適合するけん銃実包7個を共に保管して所持した。(平成18年6月16日付け第1)
第11

Kと共謀の上,法定の除外事由がないのに,平成18年2月25日,群馬県安中
市ab番地c所在のO3総業資材置場において,回転弾倉式けん銃2丁,自動装てん式けん銃1丁及びこれらに適合するけん銃実包194個を共に保管して所持し,かつ,けん銃実包18個を所持した。
(平成18年6月16日第2)
第12

I,K及びSらと共謀の上,法定の除外事由がないのに,平成16年3月ころか
ら平成18年3月8日までの間,群馬県高崎市d町e番地f所在のT1方等において,回
転弾倉式けん銃1丁及び散弾銃1丁並びに火薬類である散弾実包129個を保管して所持した。
(平成18年6月16日付け第3)
第13

I,B,A5総業組員T2及びA5総業組員Vらと共謀の上,法定の除外事由が
ないのに,平成16年3月ころから平成18年4月4日までの間,群馬県藤岡市gh番地所在の04敷地内に駐車中の軽四輪貨物自動車内等において,回転弾倉式けん銃2丁及びこれらに適合するけん銃実包12個を共に保管して所持した。
(平成18年6月16日付け第4)
(事実認定の補足説明)
第1

本件の争点
被告人は,判示第5,第8,第9の各死体遺棄の事実を認めているが,それ以外の
犯行については以下のとおり供述しておおむね否認している。
判示第1,第2の殺人,けん銃加重所持の各犯行について,実行犯に殺害等を指示したことを否認し,
実行犯らは被害者をいずれかに逃亡させるものと思っていた旨供述し,弁護人はこの供述を受けていずれの犯行についても被告人が共謀した事実はなく,無罪であると主張する。
また,判示第3の殺人について,自己がけん銃を発射したことを含む殺害の実行行為そのものは認めつつも,被害者がけん銃の入ったポケットに手を入れたのを見て,やられると思いけん銃を発射した旨供述するとともに,被害者を殺害後にその遺品を窃取した判示第4の窃盗についても,自己は関与していない旨供述しており,弁護人においても,これらの供述を援用して,殺人につき正当防衛ないし誤想防衛が成立し,窃盗につき実行行為も不法領得の意思もないとしていずれも無罪であると主張している。判示第6,7の殺人等についても,実行犯にけん銃を渡すなどして殺害を指示した事実を否認し,弁護人は,実行犯が独断で犯行に及んだもので,被告人との間に何ら共謀など存在せず無罪である旨主張している。
判示第10ないし13のけん銃等の所持についても,組員に指示すればけん銃が手に入ることは分かっていた旨認めつつも,具体的に,どこに,誰が,どのけん銃等を隠匿管理していたのかは分からなかった旨供述している。
当裁判所は,判示のとおり,被告人が否認するものも含め,すべての公訴事実について被告人が有罪であると認定したものであるが,以下その理由について説明する。第2

事件関係者(肩書きは事件当時のもの。

被告人は,A5総業組長である。
Bは,同総業組長代行である。
Eは同総業幹部である。
Iは,同総業若頭である。
Rは,
A5総業関係者である一方で,
Mと渡世上の兄弟分の関係にもある者である。
Jは,同総業事務局長である。
Pは,同総業特別相談役である。
Cは,同総業相談役である。
Nは,同総業の渉外委員長である。

Kは,同総業組長秘書である。
Qは,同総業組員であり,平成17年5月ころから被告人の運転手をしていた。Sは,同総業組員である。
T3は,平成17年6月ころ,同総業の組員となった者である。
Dは,被告人の舎弟である。
Hは,被告人の舎弟分である。
U1及びU2は,いずれも被告人の子である。
Mは,L2一家L3組組長であり,Rとは渡世上の兄弟分である。第3

F殺人事件等(判示第1,第2)

1
容易に認められる事実


I及びA5総業組員T4らは,平成12年7月20日,Fらの乗車した2台の車
両に,T5が運転する加害車両を故意に追突させて偶然な交通事故の発生を装い,その後同事故に関して約1300万円の保険金を詐取する事件以下保険金詐欺事件」(
という。)を起こした。Fは,Cが保険金詐欺事件の被害者役として集めた者であり,被告人はFと会ったことはない。なお,B及びDはこの事件に関与していない。保険金詐欺事件の約1か月前,被告人,C及びIは,高崎市所在のO5でT5らと会っていた。Fは,平成12年7月28日,Cらに無断で,保険会社に対し,当面の生活にも事欠くとして保険金詐欺事件の保険金の一部支払を請求した。その後,保険金詐欺事件に関する捜査が開始され,平成13年11月ころには,J,T4を含むA5総業組員が次々と逮捕され,同月16日にはIも逮捕されるに至った。C及びEは,平成13年11月24日ころ,新潟県内で稼働していたFに対し,保険金詐欺事件が警察に発覚したのでかくまう旨言って車両に乗車させ,途中,高速道路のサービスエリアで食事を取るなどしながら,群馬県安中市内のD方まで連行した。なお,被告人は,そのサービスエリアにいたEから電話を受け,新潟から連れて来た者(Fのこと)と一緒にいる旨伝えられた。Cは,FをD方に連れて行き,同所でFと飲酒するなどして1泊した。被告人は,同月25日ころ,群馬県安中市ij所在のA5総業事務所(以下,単に「事務所という。)において,D,B及びT6と会った。
被告人は,同日,A6会会長の誕生会等に出席するため,神戸に向かった。

同日の夕方ころ,Cは,Fに対し,

これから駅まで送っていく,がんばって行ってくるんだぞ。

などと言って,B及びDの乗る車に乗車させた。このころ,Dは,Bからけん銃の入ったセカンドバッグを受領し,秋間山中の人気のない山道まで前記の車を運転して行き同所で停車し,車外において,Fの顔面に座布団様のものを押し当てた上,けん銃で弾丸1発を発射して同人を殺害した。

D及びBは,Fの遺体を車のトランクに積み込んで運搬した。
Bは,被告人の幼なじみであり建設業を営むT7に電話を架けて,遺体を埋める
穴を掘るよう依頼し,その翌日か翌々日ころ,Fの衣服や所持品を取り去った上で同人の遺体を穴に埋めて遺棄した。
Bは,犯行後,F殺害に使用したけん銃をEに渡し,被告人は,Eから同けん銃
を預かってO6に投棄した。
2
本件に関するD,B,C,I及び被告人の各供述


Dの供述
私は,当時,A5総業に入って4か月ほどであった。
私は,Fとは,同人を殺害する前日初めて会ったのであり,私にはFを殺害する
個人的な理由はなかった。
Fを殺害した当日,Bに呼ばれて事務所に行くと,被告人,B及びT6がおり,被告人と世間話をしていると,Bから,事務所の外に呼ばれ,そこで,やつ(Fのこと)

は裏切りもんだからやんなきゃいけねえ。,

何人かパクられた。,

これからもパクられるかもしんないから手伝え。

と言われた。
この際,被告人との間では世間話を

した程度であり,Fを殺害する指示を受けたことはなく,この件はCが計画したものだと思う。この日,Bから,Fを殺害することにつき,

兄貴(被告人のこと)も知っていることだから。

と言われた。(これらの点につき,
検察官調書では,
被告人からD,

代行の手伝いをしてやれ。


と言われた旨,Bから相談役(Cのこと)が連れて来たやつを殺さなければならない,兄貴も知っていることだからなどと言われた旨,被告人が,DとBの2人にFの殺害を命じていることを理解した旨供述している。
また,
自己が被告人となった際の被告人質問では,
その弁護人から

本件で事務所に行った際)あなたは誰に何を言われましたか。(

と問われて,組長の被告人から,代行の手伝いをしてやれと言われたと供述し,さらにBから事務所外に呼ばれ,また誰かが捕まるかもしれないから相談役が連れて来たやつをやらなきゃいけないなどと言われたとも供述し,反対尋問では,

被告人が手伝えと言ったのは間違いないんだ。

と問われて

間違いないです。

と供述している。)
この日の夕方,
B方に行くと,
Bからおまえも一緒の仲間だから,

組のためだから,いいな。,

おまえのこれからの人生もかかってるから。,

全部段取りもこっちでするから,道具も用意するから。,

手伝いだけでもやれ。

と言われ,Fを殺害することにした。
私は,Bに対し,Fをどこかへ逃がすことを提案したが,Bからは,Fがどこかで逮捕されたら自白されてしまうから,言うとおりにしろと言われた。私は,その日の夜,Bから連絡を受けて,自宅に帰ると,BとCが自宅に来てけん銃の入ったバッグを渡され,これを車両の座席の下に隠した。
私は,Fを殺害した後,Cに対し,Fの遺品を入れたビニール袋を渡し,

おめえのおかげでこんなことさせられて,おめえのだから自分で片づけてくれ。

と言うと,Cから申し訳ない旨言われた。


Bの供述
被告人は,DもいたA5総業事務所内において,私に対し,

Cを助けてやれ。



と言い,私は,その

助けてやれ。

という被告人の言葉から判断して,Fを殺害した。被告人から,Cを助けなければならない理由は聞いていない。
私は,被告人から,

CとEが保険詐欺の共犯の男を新潟から連れてきてDの家に置いている。,

この男が保険屋に金を要求したりしたから警察に事件がばれてしまった。

と聞いた。
堅気のFを殺害するのは嫌だったし,自分は保険金詐欺事件に関

与していないので,被告人に対し,

Cにやらせればいい。

と言った。る」内容については,想像に任せる。

その

や(これらの点につき,検察官調書では,事務所内で,被告人から,「B,CとEが連れてきた男を始末しろ。

と言われたと供述している。

被告人から,

Cは歳で撃ち損じるからBがやれ。

とは言われていない。被告人は,A6会会長の誕生会に出席するため神戸に出発する際,私に対し,

事務所の代行だから頼むなあ。

とは言ったが,

始末しておけ頼んだぞ。

とは言っていない。被告人がDに何を言ったかは分からない。
(これに対し,検察官調書では,被告人から,

Cは,歳で撃ち損じてしまった。Cは,歳だから,もう無理だろう。だから,BがやってCを助けてやれ。

と言われた,その後被告人はDに対して

Bを手伝ってやれ。

と命じた旨,被告人がBに対し,

おれがA6会長の誕生会に行っている間に始末しておけ。おれは誕生会に行くから,後は頼んだぞ。

と言った旨,その後,Bは,Dに対し,相談役が連れてきたやつが保険屋に金を要求したことから,みんな警察にパクられてしまった。おれとおまえの2人で,その男をどこかに連れて行き,始末しなければならない。おれがやるから,おまえは車の運転を頼む。と言った旨供述している。)
Fを殺害することは,私とDの2人で決めたことである。
私は,F殺害に使用したけん銃をどう入手したのかは知らない。
私は,犯行後,F殺害に使用したけん銃をEに渡した。
T7から穴を掘ることを断られた後,被告人に電話したことはない。
(こ

れに対し,検察官調書では,被告人に対し,T7が穴を掘ってくれない旨伝えて,被告人から直接依頼する旨言われたと供述している。



Cの供述(同人死亡のため,検察官調書のみである。

保険金詐欺事件は,T8が被告人に持ちかけた話であり,私は,同事件の約1か
月前に,I及び被告人とともに高崎市所在のO5でT8と会い,同事件の計画を聞いた。私は,O5での打合せの一,二週間後,Iから被害者役の人間を手配するよう依頼され,Fらを集めた。
保険金詐欺事件の日から一,二か月経ったころ,誰かから,Fが勝手に保険屋に行って保険金を請求して5万円くらい受領した旨聞き,偽装事故であることが発覚することを懸念し,Fを強く怒鳴りつけたことがあった。
私も保険金詐欺事件に関して警察から呼び出され,そのことを被告人に話したところ,

なんでこの件が警察にばれたんだ,おまえは逮捕されないのか,大丈夫か。

とすごい剣幕で言われた。
私としては,Fが勝手に保険金を請求したことなどが契機となって保険会社から不審を抱かれたことが原因であると考え,その旨被告人に伝えたところ,被告人は激怒して,私に,

そいつは今どこにいるんだ。,

そいつが警察に捕まる前に居場所を探せ。

と命じてきた。
私は,Fが新潟県内で稼働していることを突き止めて被告人に伝えたところ,被告人から,

あいつを連れてこい,殺さなきゃしょうがねぇだんべ,Cはそいつを連れてくるだけでいいから,殺すのは他のやつにやらせる。

と,Fを連れて来るよう命じられた。

私は,Fが殺害される前日ころ,Eとともに,車でFを連れ戻しに行き,Fに警戒心を抱かれないために,偽装事故が警察に発覚したので別の場所に送って行く旨嘘を言ってFをだまし,この車に乗せた。
私がFをD方に連れて行くと,Dは,同方の2階は使わないように言って外出した。
私は,
Fに計画を気付かれないために,
Fと一緒にD方に泊まり込んで飲酒した。
翌日の夕方ころ,B及びDがD方にやってきた。私は,Fに対し,

これから駅まで送って行く,がんばって行ってくるんだぞ。

などと言った。その後,Bから,T7方の所在地を教えるように電話で言われた。私は,その翌日か翌々日ころ,Dから,血の付いた下着類等を渡されて処分するよう言われた。
私は,当時,手の震えが止まらないなど生活にも支障があった。


Iの供述
私が保険金詐欺事件に関与したのは,被告人に誘われたからである。私は,保険金詐欺事件の約1か月ないし2か月前,被告人に呼ばれて高崎市所在
のO5に行き,そこで,C,被告人及びT5らと会い,同所でT5を紹介された上,O5から帰る車中で,被告人から,T5を加害者役として故意に衝突事故を発生させ,保険会社から休業損害等をだまし取る計画を聞いた。
私は,被告人に言われて,騙し取った保険金の中から,被告人に300万円(被害車両1台につき150万円で,その2台分)を渡すことになった。私,C,T4及びJは,偽装事故に使用する車両や被害者役となる人物を集め,私が被告人に車両と被害者役の人間がそろったことを報告したところ,被告人から偽装事故を起こす日にちと場所を指示された。
私は,被告人に,車両1台分として割り振られた150万円を渡した。もう1台分の150万円を渡す話もT4に伝わっている。
私は,平成13年11月16日,保険金詐欺事件に関して高崎警察署に出頭し,被告人の関与を供述することなく主犯は自分であるということにして,同事件の捜査の収束を図った。


被告人供述
私は,T8から,借金を返済したい旨言われ,高崎のO5で,C,Iとともに,
T8,T5と会った。
私は,その際,T8からT5を紹介された後,T8と話をしており,その隣の席でT5とIが話をしていたのには加わっていないし,その後,T5とIが連絡をとる仲介をしたこともない。
Iが中心となって保険金詐欺事件を起こしたことは知っているが,同事件の具体的内容を決めたのはI及びT5だと思う。
私は,保険金詐欺事件後,Iから,組員を動員したので組に金を納める旨言われたので,同人と相談して,その金額を車両1台当たり150万円と決め,結局,この件に関して,250万円を事務所経費として受領した。
保険金詐欺事件でIが逮捕されたころ,被告人方に来たCから,土下座をされて

親分,指を取ってください。

と言われ,Iらが逮捕されたのは自分の連れてきた人間のせいである旨言われた。
私は,Cに対し,もうIたちは逮捕されてしまったのだから指をつめる必要はない旨言ったが,Cから繰り返し指を取るよう言われたので,誰かに言われたことなのか問いつめると,Bから,Cの連れてきた人間が警察に話したことが原因でIらが逮捕された旨言われたとのことであった。
私は,Bに電話を架け,Cの指を取っても仕方がない旨言い,途中でCに電話を替わると,同人がBに怒鳴られている様子であった。
私は,Eから電話を受け,Bに言われて新潟で人捜しをしている旨,サービスエリアにおいて,C,E及び1名(Fのことであるが,当時具体的には聞いていない。)で
食事をとっている旨伝えられた。
CとEとともにいるという人物については,以前にCが言っていた者かもしれないとは思ったが,殺すことは一切考えもしなかった。
Fを連れてきた翌日ころ,Bから呼ばれて,D方に行くと,Bから,2階にCとFがいるが会わない方がいいと言われ,

あのやろう,どうしますか。

と相談されたが,私は,

Cが連れて来たんだから,Cの好きにさせればいいんじゃないのか。

と言ったところ,
Bから,
Cがひと晩一緒に寝てビールを飲んだりなんかしていろいろ話をして,

逃がしてやる。

と言っていた旨聞き,

Cが逃がしてやると言うんだからそれでいいんじゃないか。,

逃がしてやればいい。

と言った。私は,CとBが話して決めると言ったことに関して意見を言ったりはしていないし,Bからは,

兄貴には関係ないことなんで。

と言われたのでそのまま帰った。(なお,被告人は,別の公判期日において,Bから関係ないと言われたことに関しては,自分が,Bに対して,Fを神戸に連れて行くと提案した際に言われたことである旨供述している。

神戸に行く前,事務所に立ち寄るとB,T6がおり,後から来たDと,神戸へ事務所当番に行くのが嫌だというような話をした。
この際,Bに対して,Fの件を帰ってくるまでにけりをつけておくように言ったことはない。
私は,平成13年11月25日には神戸に行っており,神戸にいた間に,BやDからFに関する報告を受けたことはない。
私は,T7に電話を架けて穴を掘るよう依頼したこともない。
私が神戸から戻って来て1週間後ころ,Dが被告人方に来て,実はFをバットで殺害した旨聞かされたが,私としては半信半疑であった。
その数日後,その件を確かめるため,事務所にいたBに尋ねると,

兄貴には関係ねえことだから聞かないでください。

と言われた。Eは,電話で,私に対し,Bからけん銃を預かった旨言ってきた。私は,EからFの殺害に使用したけん銃を預かってO6に投棄した。3
検討


C供述の信用性
Cは,
保険金詐欺事件の経緯について,
T8が被告人に持ちかけた話であること,

Fが保険会社に対して保険金を請求したことを被告人に伝えたところ,激怒した被告人に,

そいつは今どこにいるんだ。,

そいつが警察に捕まる前に居場所を探せ。

と命じられ,居場所が分かった旨被告人に告げると,

あいつを連れてこい,殺さなきゃしょうがねぇだんべ,Cはそいつを連れてくるだけでいいから,殺すのは他のやつにやらせる。

と,Fを連れて来るよう命じられた旨供述している。
保険金詐欺事件に当初から被告人が関与していたとするC供述は,同事件が,A5総業の相談役であるCも含め,
同総業の組員が複数関与して敢行された犯行であること,
この件に関し,車両1台当たり150万円をA5総業に入れることになっており,現に被告人自身250万円を受け取った旨自認していること,Iが,O5から帰る車中で,被告人から,T5を加害者役として故意に衝突事故を発生させ,保険会社から休業損害等をだまし取る計画を聞いたと供述していることなどとよく符合し,信用性が高い。また,Cが,激怒した被告人からFを連れて来るよう命じられ,同人の殺害計画を告げられたと供述する内容も,Bが,捜査段階及び公判供述を通じて一貫して,被告人から,CとEが保険金詐欺の共犯の男を新潟から連れて来てD方に置いていると聞いた旨供述していることと矛盾せず,自然である。
弁護人は,C供述の信用性に関し,被告人を本件に引っ張り
込むことによって自己の罪責を軽減することができるのであって,引っ張り込みの危険が強いなどと主張する。しかし,Cは,A5総業の相談役として活動していたのであり,怨恨等の目的で殊更虚偽の事実を述べて組長である被告人を陥れる理由も見い出せない上,自身は殺人の実行行為には関与していないことからすると,自己の刑責を免れるつもりであれば,Fを殺害する計画があったことを知らなかった旨弁解することも可能であったにもかかわらず,被告人との間でFを殺害する話が出たことを供述し,また,自分が保険金詐欺事件の被害者役としてFを手配したことや,自分が被告人にFの行状を報告したことが契機となって,口封じのためにFを殺害することになったことなど,Fを殺害するに至る経緯について自己が深く関与しているという,量刑上相当不利な事実も率直に供述しているのであり,自己の罪責を軽減するために被告人を敢えて陥れる危険も少ない。Cの供述は検察官調書のみであり,その信用性は十分検討する必要があるが,以上からすると基本的には信用することができる。


D供述の信用性

Dは,当公判廷において,被告人から,

代行の手伝いをしてやれ。

と言わ
れたことを特に否定している。
しかしながら,本件に関して自己が被告人となった際の被告人質問では,その弁護人から

あなたは誰に何を言われましたか。

と問われて,

組長の被告人から,代行の手伝いをしてやれ。と言われたと,誘導によらずして供述し,反対尋問で,再び「被

告人が手伝えと言ったのは間違いないんだ。
」と確認されて

間違いないです。

と明確に供述したほか,Bから事務所外に呼ばれ,また誰かが捕まるかもしれないからCが連れてきた者を殺さなければならない旨言われたと供述している。
Dは,
当公判廷における証人尋問に先立って行われた前記被告人質問において,被告人の公判で同人の関与を供述するのには抵抗がある旨述べていたところ,それに沿うように,当公判廷では,被告人から

代行の手伝いをしてやれ。

と言われたことを否定
するに至ったのであり,加えて,当公判廷で,名古屋で組といざこざを起こした私を拾ってくれた被告人には恩義を感じている旨,被告人のことを尊敬している旨,被告人の面前で供述することについて,

正直言って,やっぱ,話しづらいには話しづらいです。

と述べていることも考慮すると,同じ公開の法廷でかくも矛盾した供述をしているのは,被告人の面前であるか否かに影響されているものと考えるのが合理的である。イ
他方,Dは,その検察官調書作成時の状況について,自分の裁判において問題
となるであろうBとの関係について,事実と異なる点を警察官に指摘したり弁護人と相談するのに精一杯であり,被告人から

代行を助けてやれ。

と言われたかどうかについては注意が向いていなかったとか,捜査官から被告人に命令されたのではないかと何回も言われたので,疲れてきたのと頭に来たので,実際はそうではないのに,手伝えと言われたかもしれない旨答えた旨も述べているが,前記のとおり,その後のDの被告人質問をみれば,自らの言葉で被告人から言われた内容を自発的に供述しているのであり,注意散漫が原因で被告人の関与を供述するに至ったとは到底受け取れないし,その供述態度からすると,捜査官から執拗に問われて真実と異なることを述べたとする点も不自然である。被告人から見捨てられたと思う気持ちもあるとも供述している点についても,前記の被告人に対する心情を考慮すれば,被告人を陥れる理由とはならない。Dは,自分がBの家に,Fを殺害する件を断りに行ったことを調書にとってもらえなかったとか,警察では,旧刑法が適用されることから,私自身の刑がそんなに重くなることはない旨言われたなどと当公判廷で供述しているが,そもそもいずれについても被告人の関与を供述することとは直接関わらない事情であるから,その真否を問うまでもなく,前記検察官調書の信用性を否定する事情たり得ない。

弁護人は,Dの検察官調書中,被告人との共謀を裏付け得るのは,被告人から
Bを手伝ってやってくれと言われたとする点のみで,Dは,後のBらの説明によってその具体的内容を知ったものであるところ,その手伝う内容が殺人なのか,それともFを逃がすことなのか不明であるにもかかわらず,検察官調書では殺人を手伝うことが当然の前提となっており,捜査機関の思い込みにより作成されたものである旨主張している。しかしながら,前記調書において,Dは,被告人から手伝いを命じられた際,

何か不穏な動きがあることは分かっていたため,B代行が被告人の命令で何か事件になるようなことをやることになり,私がその手伝いをするよう命令されているのだということが分かりました。

としか供述しておらず,殺人の手伝いであることを当然の前提にした体裁にはなっていない。その他の事情を考慮しても捜査機関の思い込みによりDの検察官調書が作成されたことをうかがわせる具体的事情はない。

以上からすれば,Dの供述は,おおむね,捜査段階における内容の方が信用で
きるといえる。


B供述の信用性

Bは,検察官調書において,事務所内で,被告人から,

B,CとEが連れてきた男を始末しろ。

と言われたと供述していたが,当公判廷において,この点を否定しつつ,事務所内で被告人から

Cを助けてやれ。

と言われたことや,堅気のFを殺害するのは嫌だったから,被告人に対し,

Cにやらせればいい。

と言ったこと,助けてやれという被告人の言葉から判断して,Fを殺害したことは認めている。イ
Bは,当公判廷において,前記のとおり被告人から「始末しろ。」と言われた
ことを否定しつつも,自身が(その件を)

Cにやらせればいい。

と言った,そのやる内容については,想像に任せる旨供述するなど,被告人がFの殺害を指示した直接的な状況について殊更に供述を避け,あるいは否定する態度が明らかである上,被告人から直接的な殺害の指示を受けていないと供述する一方で,被告人に殺害の実行行為を

Cにやらせればいい。

と言った旨供述しているのであり,被告人の関与に関する事情について自家撞着に陥っている。
Bは,平成18年6月27日,けん銃所持罪等被告事件につき懲役4年6月の判決を言い渡され,その直後,本件犯行への関与を隠し通すことも可能であったのに捜査官に供述を始めたこと,平成19年5月24日,本件等につき懲役20年の判決を言い渡されて,当公判廷で証言した当時服役中であったことからしても,自身の刑責を軽減するために敢えて虚偽の供述をする理由はないといえる。
加えてBは,当公判廷で,

U3さん(捜査官)はいい刑事だから,はっきり全部言った。

と述べ,捜査段階で,捜査官から威迫や利益誘導をされたことはない旨,調書は読んだ上で指印した旨供述している上,被告人の刑を軽くしてやりたいという気持ちがあるかと問われて,

それはありますよ,身内じゃねえですか。あったって助からねえんだからしょうがねんじゃねえですか。

と述べていることからしても,当公判廷で,捜査段階では認めていた被告人の前記発言を否定している理由は,A5総業組長の立場にあって親しく交際していた被告人の刑責を軽減しようとした点にあると考えるほかはない。

また,Dも,当公判廷において,Fを殺害した当日,Bに呼ばれて事務所に行
き,被告人と世間話をしていると,Bから事務所の外に呼ばれ,そこで,

やつは裏切りもんだからやんなきゃいけねえ,何人かパクられた。

などと言われたことは当公判廷で認めているところであって,その供述を前提としても,被告人が事務所内にいた際にわざわざ外に出て,BからA5総業組員が逮捕される事態を回避するためにFを殺害する計画を持ちかけられたというのであるところ,被告人は,当時保険金詐欺事件を知っており,被告人にそれに関わるFの殺害計画を知られてはならないような事情も特に認められない以上,A5総業の存続にも関わるFの殺害計画について,事務所内にいた被告人が何も知らないというのは不自然である。
Dは,当公判廷でも,Bから

兄貴も知っていることだから。

と言われたことを認め,検察官調書では被告人から

代行を助けてやれ。

と言われた旨供述していたのであって,Dの供述は,詳細な状況はともかく,被告人がBにFの殺害計画を指示したという限度でBの供述と整合するものと評価できるから,Bの供述の信用性を補強している。

前記のとおり,Bが,被告人から,CとEが保険金詐欺の共犯の男を新潟から
連れてきてDの家に置いていると聞いた旨供述している点についても,Fを新潟から群馬県内に連れ出すに当たって,Eから被告人にその報告がされていること,Cが,激怒した被告人からFを連れて来るよう命じられ,同人の殺害計画を告げられたと供述している点とも整合的である。
本件は,実行役,現場指揮役及びFの連行役,その後の遺体遺棄役までもが,A5総業の複数の構成員にそれぞれ分担されて組織的に殺害を遂げたもので,A5総業の組織力を活用した計画性の高い犯行であること,被告人自身も,犯行後,F殺害に使用したけん銃を自ら投棄していること,C以外の構成員は,F殺害につき利害関係を有していないのに本件に加担しており,Cも独断で他の共犯者を統率する立場にあったとは認めがたいことなどからして,A5総業において最も地位の高かった被告人の関与があったものと推認されるところ,C及びBの供述からうかがわれる,本件が,主にCらA5総業組員の逮捕を免れるための口封じとして敢行されたとする経緯は,本件がそのような組織的犯行であることとの関係でも自然かつ合理的な内容である。

弁護人は,Bの検察官調書における供述について,被告人から

Cは歳で撃ち損じてしまった。

旨言われたとしているが,そうであるならBは,Cにおいて実際にけん銃を発射したが失敗したと理解したはずであるにもかかわらず,現実にはFを連れ出した際,これから送って行く旨申し向ける詐術的方法によりFをして自発的に車両に乗り込ませているのであって,前記供述は,明らかに虚偽である旨主張する。確かに,被告人の供述したとする内容を文字通り受け取ると,不自然な面がないではないが,Bは,Cがけん銃を発射したものの失敗に終わったという場面を,被告人から具体的に説明された旨供述しているわけでもなく,

Cは撃ち損じてしまった。


の一語のみから,直ちに実際に,Cが,
Fに気付かれる形でけん銃を発射したあるい
は発射しようとしたが失敗に終わったものと理解したとまでは認められない。弁護人の指摘する点はいわば言葉尻の問題にすぎず,当該供述時点における記憶の減退により実際の文言とそごが生じることは十分あり得るのであって,Bの供述の信用性を否定するほどの事情ではない。

したがって,被告人がBに対しFの殺害を指示したことを内容とするBの検察
官調書は信用することができる。


被告人供述及び弁護人の主張について

弁護人は,Cの検察官調書について,違法な取調べによる違法収集証拠である
として,Bの検察官調書については,捜査段階の供述が特に信用すべき状況の下でされたとは考えられず,刑訴法321条1項2号後段の要件を満たさないとして,いずれも証拠排除を申し立てているが,既に検討したところも併せみれば,いずれも理由がない。また,Dの検察官調書についても,刑訴法321条1項2号後段の要件を満たさないとして証拠排除を申し立てているところ,確かに捜査段階で一定の圧迫があったこともうかがわれないではないが,前記のとおり,公判廷で被告人の面前であることにより真実を供述しづらかったことの影響の方が大きいとみるべきであり,相対的特信状況が認められるから,やはり弁護人の主張には理由がない。

弁護人は,
被告人が被害者役であるFと一度も会ったことがないことを指摘し,
Fが逮捕されることによる不利益は全くないとして,被告人にFを殺害する動機がない旨主張し,被告人も自身が保険金詐欺事件に関与したことはない旨供述するが,前記のとおり,被告人自身が保険金詐欺事件に関与していたことが認められる上,当時,同事件に関して自己の配下組員が次々に逮捕されていた状況にあったのであるから,被告人にFを殺害する動機がないとはいえない。

弁護人は,被告人以外に,A5総業組員に対する指示を出せる者があれば,犯行を計画し実行に移すことができるとして,Bが独断で組員に指示して本件犯行を決定した可能性を示唆し,被告人は,この点に関連して,Fが連れてこられた翌日ころ,BがFの行動について憤っていたこと,BからFの処遇について相談を受けた際,同人を逃がしてやればよいと伝えたことを供述している。
しかし,CやBはそのような場面を全く供述していない。被告人の供述は,Bから呼ばれて相談を受けたというのに,同人から

兄貴には関係ないことなんで。

と言われたというもので,被告人が別期日においてその点を更に釈明していることを考慮しても,供述自体不自然である。前記のとおり被告人の関与をうかがわせる事情が多々認められ,他方で,そもそもBが保険金詐欺事件には関与しておらず,またBはFが新潟から連れてこられて初めてその存在を知ったものといえ,それまで本件殺人とは何ら関係がなかったこと,F殺害前に被告人と接触したりしていたことからすると,Bが独断で敢行したと見る余地はないといわざるを得ない。

弁護人は,Fをわざわざ群馬県内にまで連行し,D方に一泊させてから殺害す
るよりも,新潟県内で殺害した方が捜査機関に発覚する危険性は少ないとして,当初から殺害するつもりで連行して来たとは考えられない旨主張するが,むしろ犯行を隠蔽するため,A5総業の活動の拠点であり,土地勘もある群馬県内にFを連行した上で殺害しようと被告人が考えたとしても全く不自然ではない。
4
結論
以上のとおり,信用できるBの供述によれば,被告人が,Bに対し,CではFを射
殺できない旨を告げた上でFの殺害を指示したことが認められ,Bらがその犯行にけん銃を用いることも未必的に認識していたと推認されるので,被告人には,殺人罪及びけん銃加重所持罪が成立する。
第4

G殺人・窃盗事件(判示第3,第4)
本件について,弁護人は,被告人がGを殺害した行為につき,被告人及びその場に
居合わせたA5総業組員の生命,身体を防衛するためにやむなく防衛行為に及んだものであって正当防衛が成立する旨,しからずとしても,被告人はその旨誤信して殺害行為に及んだので誤想防衛が成立して故意が阻却され無罪である旨,また,窃盗に関しては実行行為を行っておらず,Gのポケットから自動装てん式けん銃1丁を取り出したことが占有侵害に当たるとしても,不法領得の意思はないから無罪である旨主張する。1
容易に認められる事実


被告人は,平成10年ころ,当時所属していたA2組A6会においてGと知り合
った。
被告人は,平成15年2月ころ同会から絶縁処分を受けたが,Gからその絶縁処分を解く手助けをしてもらったため同人に恩義を感じていた。Gは,平成16年ころ,関西方面で殺人の嫌疑を受けるなどして被告人を頼ってきて,A5総業に出入りするようになった。
被告人は,Gが殺人事件の嫌疑を受けて指名手配されていたことや,常に実包の装てんされた2丁のけん銃を携帯していることを知っており,このことはA5総業組員の多くも知っていた。
Gは,当時,覚せい剤を常用し,
A5総業組員を殴るなどの暴行を加えた

り,Iに対しても殺してやると言ったりし,Gから責め立てられた同総業組員の中には,それが原因で同総業を脱退する者もいた。


Gは,平成17年3月中旬から同月16日ころまで,T9をホテルやG方に連行
して監禁した。
Gは,同年4月1日ころの夜,Qに対し,T9が前記監禁事件を警察に申告して捜査が開始されている旨伝えるとともにQを呼び出して同人とホテルで1泊したが,翌朝になると,Qに対し,同人らA5総業組員が警察と内通しているとの疑いをかけ,Qに対しけん銃を突き付けて真実を話すよう迫った。
Gは,その後,長野方面に逃走することにし,けん銃を突き付けながらQに車を運転させて妙義山中に赴き,

人気のない山中において,手錠を用いてQをガードレ

ールにつないで立ち去り,同人を,同月3日午前3時30分ころから,同日午後零時近くまでの間放置した。


被告人は,
平成17年4月2日,
事務所でNと飲酒した後,
同日午後11時ころ,

同人及びU2を伴ってH方に赴いた。
Gは,H方にいたNや被告人に電話を架け,ものすごい勢いで

おまえら,グルんなってわしをはめようと思って,ただじゃすまさんぞ,こら。,

T10(A5総業組員)の女が警察にチンコロした,おまえらがみんなグルになってチンコロしたんだろう。,

おまえら,みんなぶち殺してやる。

と言い,T9が警察へ被害申告したことに,A5総業が組ぐるみで関与したことを疑った。
それを聞いた被告人は,Gに対し,兄弟そりゃあないだろう,こんだけわしが世話しとんのに何言っているんだなどと言って怒った。
Gは,続いてIにも電話を架け,

おまえもそうだろう。,

どこにいるんだ,今からそっちに行く。

と言い,すごい剣幕で怒っていた。Iは,下手をしたら殺されると感じたが,結局GはI方には来なかった。Iは,
被告人に電話を架け,
Gからの電話内容を報告したところ,
被告人からは,
Gが来ても手を出さないよう指示されるとともに,KとJを呼ぶよう言われたことから,同月3日午前2時ころ,電話でJとKを呼び出し,安中駅付近のコンビニエンスストアで同人らと合流した。
被告人は,Hに対し,GはHに一目置いているから一緒に来てくれという旨言って同行を求め,H,N及びU2を伴ってH方を発ち,車両でI方に向かった。その移動中にも,
被告人は,
Gから,
電話でおまえら絶対勘弁せえへんからな。,

おまえら全員ぶち殺してやるからな,待っとれ。と言われ,これに対して,被告人は,

頭にきたため,Gに対し,

ふざけるな,このやろう,おまえこそぶち殺してやるぞ。

と言った。
被告人がHに電話を代わると,Gはいったん電話を切り,再び被告人に電話を架けてきて

おまえは汚いやつやな,Hさんは関係ないやろう。

と言った。被告人は,このころまでには,Gに対し,A5総業事務所に行くことを伝え,同人からも同所に行く旨言われた。
I,
K及びJは,
合流した後I方まで移動し,
しばらく同所で待っていたところ,
同所に,被告人,H,N,U2が車で到着した。
このころ被告人は,Iに電話を架けて,Gが事務所に向かっていることを伝えるとともに,けん銃2丁を準備して事務所に持参するよう指示した。

被告人が,H,N及びU2を伴い,既にBのいた事務所に到着すると,その後を
追って,同日午前3時ころ,I,K及びJが,I方から持ち出したけん銃2丁を携帯して事務所に到着し,この段階で,事務所には被告人,N,H,I,J,K及びBが集合した。U2もその場にいた。
Bは,被告人から預かった当時2歳のU2を連れて,被告人らがいた事務所内の部屋とは別の部屋に行った。
被告人は,Iらが机の上に置いたけん銃2丁のうち,銀色のけん銃を手にとって実包が装てんされているのを確認した上,Bから借りたジャンパーのポケットに同けん銃を入れた。
Hは,前記2丁のけん銃のうち,Iが触っていたけん銃1丁を取り,これに実包が装てんされていることを確認した上,事務机上に置いた。被告人は,かようにHがけん銃を手に取ってから机に置いたことを認識していた




被告人らは,事務所に設置されたモニターを通して,Gが事務所に到着したこと
が分かった。
IとJが事務所の門扉を開けに行くと,Gは,Iらに対し

何だおまえら。

と言いながら,1人で事務所に入った。
Gは,事務所に入って来た当時,甲97号証の写真3号のけん銃(以下Gの黒色小型けん銃という。)を上着のポケットに,甲98号証の写真1号(以下Gの銀色けん銃という。)のけん銃をセカンドバッグ内に,いずれも実包が装てんされた状態で携帯していた。
Gは,事務所入り口付近にいたNに対して怒鳴りつけた。
Gは,下から被告人を見上げるようにしてふて腐れた態度をとりながら,すいませんねえなどと言いつつ,被告人の前まで行ったところ,被告人は,Gの胸部に向けてけん銃で弾丸1発を発射した。
続いてHも,その場に崩れ落ちたGの頭部に,けん銃で弾丸1発を発射し,このころGは,心臓貫通射創に基づく失血により死亡した。


Nらは,Gの遺体をベンツの後部トランク付近まで運び,I,J,Kとともに,
同遺体を同ベンツに積み込んだ。
被告人らがGの遺体を遺棄する判示第5の犯行に及んだ上,
再び事務所に戻ると,
事務所内のテーブルの上にGの所持品が広げられており,そこには,Gの銀色けん銃,Gの黒色小型けん銃,バッグ,現金が少なくとも3万円入っていたルイ・ヴィトン製の黄色い長財布,覚せい剤様の物が入った注射器,株券及び時計等があった。

Kは,Gの黒色小型けん銃を,群馬県安中市kl番地m所在のO3総業資材置場
(以下O3総業資材置場という。
)に隠匿し,平成18年2月25日,同人の指示説
明のもと,同所にあったT字型水道管の中から,前記けん銃等が発見された。2
正当防衛ないし誤想防衛の成否
前記認定したところによれば,被告人は,Gが常に実包の装てんされた2丁のけん
銃を携帯していると知っていたこと,同人との間で殺すという趣旨の言葉を激しく言い合うほどに深刻な対立が生じていた状況にあって,Iに命じて,実包の装てんされたけん銃2丁を事務所に持参させたこと,Gと会うのを避けようとすることも全くなく,自らの意思でGと事務所で落ち合うことにしたこと,被告人の配下組員等であるN及びHを事務所に同行させ,同じく配下組員であるI,J及びKを事務所に集結させたこと,Gが事務所に到着するまでに,前記けん銃のうち1丁を,実包が装てんされているのを確認した上自身で携帯したこと,他方のけん銃1丁をHが持ってから机に置いたのを認識したこと,Gが事務所に来た際も,話合いで解決できそうな態度であるのかなど,同人の様子を確認したり,事務所内に立てこもって追い返すこともせずに同所に入れていること,Gとの間で話合いによる解決を図る趣旨の会話をすることもなく,被告人の前に来たGに対し,即座に,しかも至近距離(被告人の弁解を前提にしても銃口からGまでの距離は約2メートルである)から,枢要部である胸部に向けてけん銃を発射して殺害するという致命的な実行行為を行っていること,Gが明らかに攻撃する態度をみせる前にけん銃を発射していること(被告人の弁解を前提にしても,ポケットに手を入れただけである。,Gに発砲した)
後に同人に救命措置を講じていないことが認められる。
以上の事実からすると,容易に認められる事実のみからしても,被告人は,遅くともIにけん銃の手配を命じたころまでには,Gがけん銃を用いるかもしれないことを予期し,そのような素振りを少しでも見せれば,即座に同人に向けてけん銃を発射するという積極的な加害行為に及ぼうとする意思を持っていたと優に認めることができ,仮に殺害直前にGによる侵害行為が間近に迫っていたとしても,その侵害行為には,正当防衛の要件である急迫性が欠ける。
したがって,G殺害につき被告人に正当防衛は成立しない。

また,そのような

被告人の意思内容からすれば,誤想防衛も成立しない。
3
正当防衛等に関する被告人の供述及び弁護人の主張の検討


被告人は,本件につき,当公判廷において,以下のように供述する。私は,当時,Iに指示すればけん銃が手に入ることは分かっていた。私は,Iと電話した後,Hから同行した方がよいか聞かれたので,同人にも同行
してもらうことにした。
私は,頭にきたため,売り言葉に買い言葉で,Gに対し,

ふざけるな,このやろう,おまえこそぶち殺してやるぞ。

と言った。私は,Gからどこにいるのかを聞かれた際,GがI方に行くのを避けるため,事務所に向かっていると答えると,Gからも,事務所に行く旨言われた。私は,Gが来たらすぐ撃たれると感じたので,身を守るためにけん銃を用意させた。
私は,I方に到着する前ころ,NからGに電話を架けさせ,Gの勘違いなので私に謝罪するよう伝えさせた。
Hは,このやりとりの中,自分がいるのでGは事務所には来ない旨言っていた。私は,もしGが発砲してきた際に巻き添えになるとかわいそうなので,当時2歳のU2をBに預けて別室に行かせた。
Hは,事務所において,Gが事務所に来ることはない旨言っていた。Gは,事務所に入ると,Nをバッグで殴打し,胸ぐらをつかみ,先の電話での対応に文句を言ったが,その際,被告人はGのジャンパーのポケットが垂れ下がっているのを見て,そこにけん銃を入れているのが分かった。
私は,Gに対してやめるよう言ったところ,同人が自分のところに前屈みの姿勢で歩いて来たため,謝罪ではなくけんかをしに来ているのだと思った。Gは,私の方に歩きながら,居直った態度で,下からにらみ上げるように,

すいませんでしたねえ。

と言い,私の真正面に来ると,

好きにしてくださいよ。

と言って左側のポケットに手を入れたので,私は,約2メートルの距離から,Gに向けけん銃を発射した。やられると思ったから撃った。
私は,けん銃を撃った後,Gのところに駆け寄ってその左ポケットを探ると,小型のけん銃が入っていた。


被告人供述の検討

被告人は,Gが事務所に入って来た際Gのジャンパーのポケットが垂れ下がっ
ているのを見て,そこにけん銃を入れているのが分かったと供述した上,Gが被告人の真正面に来た際,
左側のポケットに手を入れた旨供述し,
弁護人はこれらの供述を援用して,
急迫不正の侵害があった旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,これらの事実の有無にかかわらず,被告人には積極的加害意思が認められ,急迫性が否定される。なお

,撃たれる直前のGの動

静について,Iは,Gがけん銃を撃とうとする様子はなく,犯行後に被告人からGに撃たれそうになったという話を聞いたこともない旨供述し,他の各証言においても被告人がそのような話をした旨の供述は一切ないこと,激怒したGが事務所に入ってきた当時は,そこにいた全員がGの動静を注視していたと推認されるにもかかわらず,被告人以外誰も,撃たれる直前Gが左手をポケットに入れるところを見たとは供述していないなお,(
Nは,

右手をポケットに入れながら真っ直ぐ被告人の前まで行った。

旨証言している。)こ
とからすれば,

Gが殺害される直前にその左手をポケットに入れたことはなかっ

たと認められる。

被告人は,I方に到着する前ころ,NからGに電話を架け

させ,Gの勘違いなので被告人に謝罪するよう伝えさせた旨供述するが,同行していたHや当のN自身すら,そもそもGに電話を架けたかどうか自体分からないと供述しており,被告人の供述を採用することはできない。


弁護人の主張

被告人は,Gと事務所で会うことになった際,同人がいつ事務所に到着するの
か認識していなかったにもかかわらず,いったんI方に立ち寄って同人と会った後に,けん銃を受け取ることなく,徒手空拳の状態で事務所に向かったことからすれば,被告人が事務所に向かう際の認識は,けん銃はあるに越したことはないが,なくてもかまわないという認識であった旨弁護人は主張する。
確かに,事務所にGを呼んだ時点においては,未だけん銃の手配を指示したにすぎず,Iがけん銃を持参するのに先立ってGが事務所に来る客観的可能性自体は否定できない。
しかしながら,当時被告人は,Gとの間で互いに

ぶち殺してやる。

などと激しく言い合ったりしており,相当激昂していたことが認められるところ,かように激昂した感情の赴くまま,Gがけん銃を用いるような素振りを少しでも見せれば,即座に同人に向けてけん銃を発射しようという意思でIにけん銃の用意を命じ,
その用意を

する間すらもどかしく思い,先行して事務所に向かったとしても別に不自然ではない。また,

弁護人の主張は,被告人が,Iにけん銃を持ってくるよう命じた時点におい
て,Iより先にGが事務所に着くという可能性を認識していたことが前提となるものであるが

,同主張にもあるとおり,被告人自身,当時Iに言えばけん銃を持ってくる
ことは分かっていたからIに命じたが,そのための所要時間等までは考えていなかった(そこまで考えていない。)旨明言している一方,間に合わなくてもいいから所要時間
等を気にしなかったなどとは全く述べていないのであって,当時前記前提となる認識自体有していなかったことが明白であり,同主張は前提を欠くといわざるを得ないさらに,



被告人自身,Gが事務所に来たらすぐ撃たれると感じたので,

身を守るためにけん銃を用意させた旨弁護人からの質問に際して供述し,それを裏付けるように,U2を別室へ行かせたのは巻き添えを避けるためであったと自認していることも併せみれば,弁護人の前記主張内容を踏まえても,Iに対してけん銃2丁の手配を命じた時点においては,被告人に積極的加害意思を優に認めることができることに全く変わりはない。

弁護人は,
被告人が事務所に向かう際には武器を持っていなかったこと,

Gが一目置いていたHに同行してもらっていること,Gが来た際に,事務所の奥にいて,そこから話合いをするために別室に行ける状況であったことを指摘し,被告人は一貫してGと話合いで解決する途を模索していたのであり,けん銃を準備したのも,あくまで護身用であるとも主張する。
しかしながら,アのとおり認定できることに加え,被告人がけん銃を2丁準備させたこと自体から話合いによる解決を意図していなかったことが推認されること,Hを同行させているとはいえ,Gが事務所に到着するまでに,Hに仲裁を依頼した事実を認めることはできないこと,前に指摘したとおり,被告人自身,Gが来たらすぐ撃たれると感じたので,身を守るためにけん銃を用意させた旨供述しており,話合いによる解決とは全く相容れない想定をしていたこと,現に,Gが到着してからも,同人との間で話合いの途を探るような会話は全くないことからすると,被告人が話合いで解決する途を模索していたなどとは到底認めることができない。

さらに,弁護人は,日頃から2丁のけん銃を携帯した凶暴な性格のGに対し,
被告人が防衛状況を作り出すために自己の命をかけて防衛状況が生じるまで待っていたというのは不自然である旨主張するが,
そもそも積極的加害意思を認めた前記判断に際して,
被告人がそのように合理的かつ周到に正当防衛の成立を企図したなどと認定しているわけではなく,弁護人の主張は前提を欠く。その他弁護人は,被告人がGを敢えて,住宅街に所在する事務所に呼んでいることや,手配したけん銃は2丁のみであることを指摘して,被告人が専らGを殺害する意図でなかった旨など,
るる主張するが,
いずれも採用できず,
以上の弁護人の主張等を検討しても,被告人に,急迫の侵害がなかったとした前記判断を左右しない。
4
窃盗の成否


H,N,K,Iの各証言の検討

Hの公判供述
被告人は,Gの殺害後,同人が着ていたコートを探り,

やっぱり持ってやがった。

と言って小さい黒色けん銃を取り出し,

これはいい道具や。,

持っているのにちょうどええや。

という旨言った。被告人は,遺体を遺棄して事務所に戻って来ると,事務所のテーブル上にあった株券を見て,Gに金を貸しているけどこれでは金銭にならないという旨言った。
テーブル上の財布には1万円札が4枚から8枚ほど在中しており,被告人は,私に対し,酒の飲み代にするようにと,1万円札2枚を渡した。
被告人は,Gには三百とか四百とか貸してあって,これではどうにもならないという旨言った。

Nの公判供述
被告人らが事務所に戻って来た後,
私は,
被告人から,使えよ。


と言われ,現金の入っていない黄色い長財布や時計等をもらった。同財布には,もともと現金が3万円から5万円が入っており,これを被告人とHが分けていた。

Kの公判供述
死体を遺棄した後事務所に戻ると,事務所のテーブルにGの所持品が広げられ
ており,そのうち現金は,Hが少し取り,残りを被告人が取っていた。Gが携帯していた2丁のけん銃がその直後にどうなったのかは分からないが,平成17年4月3日以降同年9月4日までの間に,被告人に

おれのとこへ入れとけ。

と言われて,Gの黒色小型けん銃を,O3総業資材置場に隠した。エ
Iの公判供述

被告人は,事務所内で,Gの黒色小型けん銃を手にとり,

ほらあった。


言ったほか,これは護身用にいいな,という旨言った。
私は,おそらく被告人から,Gの殺害に使用した2丁のけん銃とともに,Gの銀色けん銃を一緒に保管するように言われて持たされた。
被告人は,Gに今までお金をたくさん貸しているという旨を言いながら現金を取り,その中からHにいくらかを渡していた。
なお,弁護人は,Iの公判供述について,同人に対し不当な取調べがされたとして,いわゆる毒樹の果実による証拠排除を主張するが,そのような事情は全く見当たらず,失当である。


窃盗の成否
前記のとおり,
被告人らがGを殺害したこと,
その後事務所内のテーブルの上に,

Gの所持品である,Gの銀色けん銃,Gの黒色小型けん銃,バッグ,現金が少なくとも3万円入っていたルイ・ヴィトン製の黄色い長財布,覚せい剤様の物が入った注射器,株券及び時計等があったことは,容易に認められる。

現金3万円の窃盗について
現金が少なくとも3万円入っていたGの財布から,被告人が,Hにいくらかを分け与えて残金を取得したという限度で,,,
HNK及びIの供述は相互に合致している。
さらに,Nが,被告人から「使えよ。」と言われて,現金の入っていない黄色い長財布をもらった旨供述していることからしても,Hらの供述する前記内容は経緯として自然である上,同人らはいずれも被告人の配下組員であって被告人を罪に陥れる理由もないから,この内容の事実があったものと認められる。
したがって,被告人は,Gが生前有した占有を侵害したものといえ,不法領得の意思も認められるから,現金3万円の窃盗罪が成立する。
なお,被告人は,Gの遺体を遺棄して事務所に戻ると,テーブル上に現金が4万円あり,そのうち2万円をHが持って行き,残りの2万円はJが食事代にするとして持っていった旨供述し,弁護人はこの供述を援用して被告人には窃取行為も不法領得の意思もない旨主張するが,HやJが組長である被告人に断りなく現金を持ち去ったという点で不自然であり,H,K及びIの供述の信用性を減殺せず,前記判断を左右しない。イ
Gの黒色小型けん銃の窃盗について
前記認定のとおり,被告人らがGを殺害した後,その後事務所内のテーブルの
上にGの黒色小型けん銃があり,本件犯行後,Kが同けん銃をO3総業資材置場に隠匿したことや,被告人が,Gの殺害後,同けん銃が護身用に適していると言った旨I及びHが一致して供述していることからすると,Kが,犯行のしばらく後,被告人に

おれのとこへ入れとけ。と言われて同けん銃を隠した旨供述している点は,信用することができる。

これに加えて,けん銃が容易には入手できるものでなく,暴力団抗争に必要な場合もあること等も考慮すると,A5総業組長の立場にあってGの主要な所持品の処分に関する決定権を有していたと考えられる被告人が,Gの殺害後ころ,同けん銃の占有を取得したと推認できる。
したがって,被告人に,同けん銃の窃盗罪が成立する。

Gの銀色けん銃の窃盗について
Iは,Gの殺害に使用した2丁のけん銃とともに,Gの銀色けん銃を一緒に保
管するよう,おそらく被告人から言われて持たされたと供述する。組長であった被告人が,容易には入手できないけん銃を,配下のIに命じて管理させたという経緯は自然であること,前記のとおり,被告人がGの黒色小型けん銃や3万円を窃取していること,後記(第5

M組長殺人事件等の項)

のとおり,本件

犯行後,Gの銀色けん銃が,M組長の殺害に先立ってIから被告人の手に渡り,被告人からNの手に渡ってM組長の殺害に使用されたと認められることからすると,前記Iの供述を信用することができる。
したがって,被告人が同けん銃を窃取したと認められる。
第5

M組長殺人事件等(判示第6,第7)

1
容易に認められる事実
関係各証拠によれば,以下の事実を特段の争いなく認めることができる。

A5総業組員T3は,平成17年8月8日,何者かに金属バットで襲撃されて左
前腕を骨折する傷害を負い(以下T3襲撃事件という。,A5総業内では,同事件)
がL2一家関係者による犯行であるとの話が出ていた。被告人は,同年9月4日当時T3襲撃事件自体は知っていたが,その犯人を特定するには至っていなかった。Rは,平成17年8月ころ,M組長に対し,L2一家組員の住所録を渡すよう迫り,これに応じないのであれば,Mの次女U4が経営しているパブO7の建物から立ち退くよう要求した。


A5総業では,平成17年8月当時,月に1回程度,組長以外の組員により,同
総業の運営等を決定するための幹部会(以下単に幹部会という。
)を開催しており,
同会には,N,I,B,T3,K,J,R及びPらが出席していた。T3襲撃事件後には,幹部会は月1回以上の頻度で開催され,同事件に対する報復を話し合い,殺害対象として,L2一家代表U5,同一家L4組組長U6,同一家本部長U7の名が挙がったほか,それらの者以外であればL2一家傘下の組長以上の者を標的とする話が出た。
Iは,幹部会で出た事項を被告人に報告しており,その事項を被告人が最終的に決定していた。


被告人は,T3襲撃事件に対する報復行為を遂げるために,その犯人を調査する
よう指示し,同年9月4日の幹部会においても被告人がそのように言っている旨が話題に挙がったが,内偵不足もあって具体的な報復行為の内容はまとまらず,Iがその旨被告人に報告した。
被告人は,同日,ジャージ様の服にベストと,ウエスト周りがゴムで,ヒモで縛れるスエットを着用していた。
Nは,同日,A5総業の幹部会に出席した後,安中市内の居酒屋で焼酎ボトルの3分の1程度とビール1杯を飲んだ。
Nが1人この居酒屋で飲酒していた際,被告人,R及びCと飲酒していたPから電話が架かって来て誘われたことから,寄り道することなく,
O8に向かい,同店に
入った。
Nは,同日午後7時50分ころ,U4に電話を架け,
O7に5名分の客席を
予約するとともに,同店に被告人も連れて行くことを言い添えた。Nは,その後,再びU4に電話を架け,Mも連れて行くので合計6名で店に行く旨伝えた。Rは,同日午後8時すぎころから同日午後8時15分ころにかけて,Mに二度電話を架けて同人を飲酒に誘った。
同日午後9時ころ,被告人,N,C,R及びPは,2台の車(以下クレスタとセンチュリーという。
)に分乗してM方玄関まで同人を迎えに行った。
Mは,Nらから,車に乗るよう促されて後部席に乗り込もうとした際,車内に人がいるのが目に留まった様子を見せ,

なに,さらいに来たんかい。

と言って同車に乗り込み,同車は出発した。
同日午後9時30分ころ,MとRが先にO7店内に入り,その二,三分後,被告人,P及びCの3名が,更に二,三分遅れてNが同店に入った。同店で飲酒した後,同店を出ることになり,Nは,
O7での飲食代金を支払
うために財布を取り出したが,U4はMに言われていたため,代金を受け取らなかった。O7を出発するに際しては,センチュリーには,Rがその運転席,CがRの後部席に,センチュリーの助手席の後部席にMが乗り,Pが助手席に乗車し,クレスタには,運転席にNが,助手席に被告人が乗車し,同日午後10時ころ,クレスタを先頭に,センチュリーが続いて出発した。


Nは,助手席に被告人を乗せたクレスタを運転し,群馬県安中市no丁目p番q
号所在のスナックO1
(以下O1という。
)に先に到着して,被告人とともに店
内に入った。これに遅れてセンチュリーも到着して,同車に乗車していたCも店内に入った。
Nは,
自身のオーストリッチのバッグと,
被告人の手提げバッグを持ってO1」

に入店し,オーストリッチのバッグは自分の手元に置き,被告人のバッグは被告人の方に持って行った。「O1

の店内に入った被告人らは,被告人,C,知人のT11が座卓を囲む座敷席に着いて,R,P及びMの入店を待たずに飲酒を始め,Nは,同座卓に寄せた隣の座卓の席に着いてメールを打ったり,カラオケを歌ったりしていた。一方,Rは,Mに対し,

ちょっと話がある。

と言うとともに,Pに対してもセンチュリーの車内に残るよう言い,R,P及びMが同車内に残った。Rは,センチュリーの車内において,Mに対し,T3を襲撃した事件を実行した犯人を教えるよう求めたが,Mからは

それだけはできねえ。

と断られたため,

そんなんだったらもう兄弟としての付き合いはできねえ。

などと言っていら立ち,

じゃあ,被告人の舎弟になる話はどうなんだ。早くどっちか決めてくれよ。

などと言って被告人の舎弟になるよう求めたが,これについてもMから

それもできねえ。

と言われた。そのようなやりとりが,
O1に到着してから約30分間程度続いた。店内にいたNは,

N,電話してみろ。

と被告人から催促するよう指示されたことから,午後11時20分ころ,Pのもとに

まだですか。

と電話で催促したところ,

まだ話つかねえんだ。


と言われた。


被告人は,Pに前記の電話を架けたNからの報告を受けた後,

N,ちょっと来い。

と言ってNを自分の席のそばに呼び寄せ,同人に何ごとか(少なくとも,Mらを早く連れて来いという趣旨の発言をした限度では容易に認定できる。)を耳打ちした。
その直後,Nは,けん銃を携帯した上,
O1店外に出て,センチュリーに乗
り込んだ。そのころ,Mは,センチュリーの車内において,P及びRに対し,

被告人のことを尊敬しているけど,今はこういう状態だから(舎弟になることは)無理だ。

と言っていた。
Nは,Mに対し,

どっちかにしてくださいよ。

と言ったが,同人が何も言ってこなかったため,
ブラジル製の口径0.
38インチのタウルス回転弾倉式けん銃以下,

本項では本件けん銃という。
)を出してその撃鉄を起こし,脅すつもりでMに向けた
ところ,

弾くなら弾いてみろ。

と言われたため,Mとともに車から降り,同車の右斜め後ろ付近において,午後11時27分ころ,左手に持った本件けん銃で,Mの腹部に弾丸1発を発射して腹部に命中させたのに引き続き,同人の顔面に向けて弾丸1発を発射して右顔面に命中させた。
P,R及びNは,Mの身体を持ち上げてセンチュリー後部まで移動させた上,クレスタのトランクに積み込み,
このころまでにはMは息をせずぐったりした状態になった。


被告人は,
Iに電話を架けて,
Nと連絡を取ってMの遺体を埋めるよう指示した。
Nは,本件けん銃を持ってIと合流し,同人の運転するベンツの先導で,Qがクレスタを運転し,Nはクレスタの助手席に乗車して秋間山中に向かった。Nは,Qと一緒に,トランクからMの遺体を出して穴の中に落とし,Qがスコップで遺体に土をかけるなどし,判示第8の犯行に及んだ。Q,N,Iは,山を下りた後,血の付着したシートや衣類を付近の河川に投棄するとともに,クレスタを洗車してO9団地の駐車場に駐車した。Iは,K及びJとともに,平成17年9月5日,O9団地に駐車していたクレスタを藤岡市所在の04に移動させ,その後,Qとともに,同車を目立たないようにするため中古パーツ店の展示場に移動させ,その数日後,同車のナンバーを外した。Nは,同日午前4時前ころ,事務所付近の駐車場に駐車したベンツの車内で,Iに対し,
頭,これ。」と言いながら,タオルに包まれた本件けん銃を差し出した。その後Qは本件けん銃を受け取り,同日午前4時前ころ,本件けん銃を,同駐車場北側冷蔵庫置場の床下にある塩ビパイプに隠した。
その後,Qは,Iから,

あれ,あそこじゃまじいな。

と言われたため,同月6日午後7時ころ,Sとともに前記駐車場の隠匿場所まで本件けん銃を取りに行き,その指紋をふき取った上,タオルで梱包するなどして道祖神付近の土中に埋めた。被告人は,平成17年9月4日の二,三日後,A5総業の上位団体であるA4会の幹部に対し,M殺害はT3襲撃事件に対する報復である旨報告した。被告人は,知り合いに相談した上,対立組織との手打ちの条件になるため,Iらに対し,判示第8の犯行により埋めたMの遺体を掘り出して,O2に移動させる判示第9の犯行を指示した。
被告人,N,P及びU2は,同年9月5日から同月8日にかけて,r町所在の日帰り温泉施設や,老神温泉等の宿を転々としており,途中からRも行動を共にした。R,P及びNは,本件けん銃について,Mから奪ったことにすること等を内容とする口裏合わせをした。
被告人は,N,P及びRを警察に出頭させるに際し,同人らに,各100万円を渡した。
2
Nの公判供述


私は,
当時A5総業の渉外委員長であったが,
それ以前は行動隊長の立場にあり,

暴力団組織の抗争で先頭を切って行動する役回りに誇りを感じていたし,被告人には,何

かあったらいつでも行きます。

と伝えていた。平成17年7月ころから1週間程度の間,被告人に言われて,T3のボディーガードにつくことになった。この際けん銃を携帯してはいなかったが,日本刀を携帯していた。
当時私が自由に使用できるけん銃はなく,
抗争に使用するけん銃はIが管理していた。
被告人の息子であるU1の居住する市営住宅O10団地のアパートに回転式けん銃があり,被告人からは,同年3月ころ,同けん銃については,何かあったらここに道具があるから使っていいと言われていた。
被告人は,同年8月8日,飲酒しに行く際,A5総業事務所付近の駐車場において,私やQらのいる前で,空に向けてけん銃で弾丸1発を発射した。私は,同年9月3日に東京都所在のA4会本部の事務所当番に行ったが,その際にけん銃を携帯していたことはない。


同月4日,
O7に到着後,私や被告人らは和気あいあいとカラオケを歌って
いた。

同日,オーストリッチのバッグと,被告人のかばん(横約20センチメート
ル,縦約10センチメートル,厚さ約5センチメートル程度の大きさ)を持っていった。O1に入るまでは持っていたが,入店後,被告人のかばんを被告人の方に置いて,オーストリッチのバッグは自分で持って席に着いた。

私は,捜査段階において,この

オーストリッチのバッグを,普段飲酒しに行った時にもけん銃を入れて携帯していた旨供述していたが,これは嘘である。
同日午後11時20分ころ,Pに電話を架けると,

まだ話つかねえんだ。


言われ,
これを被告人に報告すると,
被告人はいらついた様子であった。

被告人は,

その後,手招きをする動作をしながら,いらついた様子で目を細め

N,ちょっと来い。

と言った。

被告人の席のそばに移動し,被告人と向かい合う位置に行って正座に近
い姿勢を取ったところ,被告人から

脅してでも連れて来い。あとは分かってんな。

と耳打ちされ,被告人のズボンの前側に差していた本件けん銃を受け取った。かに,被告人からこのとき何を言われたかは覚えていない。

そのほ

その時に受け取った本

件けん銃は,かつてGが持っていたタウルス(Gの銀色けん銃)である。私は,被告人の言葉が,M,R,Pを連れて来いこいという意味であり,Mを殺害するつもりであると理解し,

分かりました。

と答えた。

被告人から,本件け

ん銃を使うなという指示は受けていない。
私は,Mについて,腰が低くていい組長であるという印象を持っており,個人的なトラブルもなかった。同人を殺害するよう指示を受けたことで,もうパニクった感じであり,何も恨みもない相手を殺すのは嫌だったが,一番信頼していた被告人の指示だったから引き受けた。
私は,被告人から本件けん銃を受け取ると,店内の席に座ることなく,そのまま店外へ出て

,センチュリーの車内に乗り込んだ。そこでMに対し,

どっちかにしてくださいよ。

と言ったが,何も言ってこなかったため,本件けん銃を出して撃鉄を引き(起こし」の意味)

,脅すつもりでMに向けたところ,「弾くなら弾いてみろ。

と言われたため,R,P,Mとともに車両から降り,左手に本件けん銃を持ってMの腹部に弾丸1発を発射し,引き続き,同人の顔面に向けて弾丸1発を発射した。私は,足もとがふらつくほどに酔っていたわけではない。
殺害後,店内にいた被告人が出てきて,電話を架けた相手に「血を流せ。」と言っていた。

私は,被告人から,Iと連絡を取って遺体を埋めるよう言われ,分かり
ましたと答えたほか,

自分,ムショ行きますから。

と言った。この後,
O1のママやホステスと連絡を取り,
証人として出廷しないでくれとか,
被告人が店外に出なかったことにしてくれと依頼した。


同月5日,被告人らとともにs町にある日帰り温泉施設に赴いた。同日ころ,被
告人に対し,殺害場所が不適切であったことを謝罪したところ,被告人からは,

しょうがねえよな。

と言われたが,特に怒ってはいなかった。私は,犯行後,被告人から,よくやったと言われ,現金100万円をもらったほか,Mを殺害したことについて,いずれ誰かがやらなければならなかったという趣旨のことを言われた。

私は,被告人に言われて,警察に出頭することにし,R,P

及び被告人との間で,出頭後は,Mが取り出したけん銃をつかんだところ1発が暴発し,2発目は私が無我夢中で撃ったことにすることとした。
また,
遺体を運んだ者らとの間で,
けん銃を発射した当時Mは即死しておらずクレスタの後部座席に載せて病院に運ぼうとしたとする口裏合わせをした。
同月11日に九州から戻ると,A5総業による宴会が催され,上座である被告人の隣に座り,被告人から

がんばって行ってこい。

と言われ,その後被告人の出捐した金銭で風俗嬢を呼んだ。
私は,同月12日,高崎警察署に出頭した。
3
Nの供述の信用性の検討


容易に認められる事実との合致
前記容易に認められる事実からすれば,①犯行直前まで飲酒するなどしていたN
が,組長である被告人から近くに呼ばれて何ごとかを耳打ちされた直後に,けん銃を持ってO1店外へと出て,対立組織の組長であるMに向け2発の弾丸を発射したことが認められ,このことのみからしても,被告人が何らかの発言をしてMの殺害を指示したことがうかがわれるところ,Nの供述は,まさにこの点について,被告人から

脅してでも連れて来い。あとは分かってんな。

と耳打ちされるとともにズボンの前側に差していた本件けん銃を受け取ったというものであって,被告人との共謀をうかがわせる前記事実と決定的に符合し,かつ自然である。
加えて,②M組長の殺害に先立って,対立するL2一家によるものと思われるT3襲撃事件が起こり,A5総業としては,同事件に対する報復を遂げる必要があったと認められる上,③平成17年9月4日に開催されたA5総業の幹部会でも,T3襲撃事件に対する報復行為が話題となり,被告人が,当時,A5総業組員に対し,同事件への早期の報復を遂げるために犯人を調べるよう指示していたことが認められ,④L2一家に属するL3組組長であったMもその報復の対象となり得る立場であったこと,⑤犯行後においても,被告人の指示により,多くのA5総業組員が関与した罪証隠滅行為や土中に死体を遺棄する行為がされていること,⑥被告人が,暴力団組織の上位団体に対し,本件を暴力団組織の抗争事件として報告したこと,⑦被告人が,犯行後,本件で出頭するNらに各現金100万円を交付したことが認められるのであり,被告人からMの殺害を指示された旨のNの供述は,そのような抗争状況や報復を企図していた被告人の思惑,犯行後の行動と合致し,経緯としても自然である。
また,NがRやPとの間で行った口裏合わせの内容は,Nがけん銃を発砲した事実を捜査機関に明らかにする一方で,犯行に使用したけん銃について,真実に反し,Mから奪ったことにするというものであり,本件けん銃の入手先を秘匿しようとする意図がうかがわれるところ,このことと,真実は被告人から本件けん銃を受領したとの内容のNの供述は整合的である。


具体性・迫真性
Nは,被告人からけん銃を渡されてMの殺害を指示されたとする場面について,
前記のとおり供述しており,被告人からけん銃を渡されたのか,ズボンからN自身がけん銃を取ったのかはっきりしない,被告人から

脅してでも連れて来い。あとは分かってんな

と耳打ちされたがそのほかに,このとき何を言われたかは覚えていないなど,指示を受けた場面の具体的な状況についてはやや曖昧な点もないではないが,当時いきなり本件けん銃を渡されてMの殺害を指示されたことで驚愕するなどしたため,けん銃授受の場面に関する記憶に多少混乱が生じているとしても特に不自然ではない。他方,被告人から犯行の指示を受けた際の心境については,Mを殺害するよう指示を受けたことで,もうパニクった感じであり,何も恨みもない相手を殺すのは嫌だったが,一番信頼していた被告人の指示だったから引き受けたなどと供述しており,迫真性がある。

一貫性
Nは,捜査段階において被告人の関与を否認し,今回の事件に使用したけん銃は
スミスアンドウェッソン社製で木製の銃把のものである旨,自身が事件に先立って飲食店に行った際にも,
グレーのオーストリッチのバッグにそのけん銃を入れて携帯していた旨,本件当日,O1店内において,Cに

バッグを取ってください。

と言うと同人が被告人の札入れのバッグを取ろうとしたので,それは違う旨言って,けん銃の入ったバッグを取ってもらった旨供述していたのであり,公判供述の内容は,捜査段階から大きく変遷している。
しかしながら,NがG殺害に使用した本件けん銃は,ブラジル製の口径0.38インチのタウルス回転弾倉式けん銃であり,
捜査段階における前記供述はこれと矛盾する。
また,Nは,捜査段階で前記内容の供述をした理由について,被告人を守るためであった旨公判廷で供述しているところ,前記認定事実のとおり,Nが,A5総業組員として組長である被告人をかばうべき立場にあったこと,前記のとおりR及びPと本件犯行に関する口裏合わせを行い,しかもその内容が,Nの発砲行為については捜査機関に明らかにする一方で,けん銃をMから奪ったとすることで被告人の関与しない犯行の経緯を装ったものと理解できること,逮捕後には,けん銃について当初から自分で持っていたとの内容に変遷し,事件に使用したけん銃はスミスアンドウェッソンであると供述したことについて,スミスアンドウェッソン社製けん銃がA5総業にあったからである旨,警察の取調べを受けるまで事件に使用したけん銃が本件けん銃(タウルス)であることを知らなかった旨,被告人をかばうためにけん銃の入手先について嘘の供述をしていた旨供述していること等を併せ考えると,Nの供述が変遷している理由は,捜査機関に事実が明らかになるにつれて自己の供述するところとの矛盾点を説明できなくなり,最終的には被告人の関与を供述するに至ったからであるとみるべきであって,不自然な変遷であるとはいえない。また,Nの公判供述は,反対尋問でも動揺していない。


虚偽供述の動機等について


弁護人は,
Nは,
自己の裁判において量刑上有利に斟酌されることを狙ったり,

チンコロ(警察への密告者)呼ばわりされ,差入れを十分行ってもらえなかったことが不満であったりしたことなどから,被告人の指示によりやむなく行ったものであるとの虚偽を供述する危険が大きい旨主張する。


しかし,Nは,自己の刑責については,警察に出頭した当初から一貫して認め
ており,東京高等裁判所においてM組長殺人事件等について無期懲役刑の言渡しを受け,平成19年8月29日に上告が棄却され,
証言をした当時受刑中であったことからしても,
自己の刑責を軽減するために,真実に反して被告人から犯行を指示された旨供述する動機はない。


次に,Nは,逮捕後,A5総業からの差入れや面会について不満があった旨供述しており,被告人に対する悪感情が全くないというわけではなさそうである。しかし,Nにとって被告人はかつての組長という上位者であり,被告人を前にして同人に不利な内容を供述することには一般的に相当の心理的抵抗があることに加え,Nは,法廷で被告人に挨拶した上,被告人の手前でチンコロ呼ばわりされたとして,被告人の主任弁護人に食ってかかり,被告人から本件けん銃を渡された状況を供述するに際しては,そのような供述をすることについて忸怩たる思いを吐露し,本件けん銃と車が捜査機関に提出されていれば自分は嘘をつき通せたかもしれない旨,それができずに事実を話したことについて被告人に申し訳ないと思っている旨供述しており,本件に関する尋問の場面ではないが,被告人がけん銃を発砲する状況に質問が及ぶと,涙声で前みたいな親父(被告人)に戻ってほしかったなどと答えたり,別の場面でも,

勘弁してくださいよちょっと。,

何回も親父のことをどうしたこうしたとかって聞くから。

と述べるなど,被告人を慕い,かばう気持ちはうかがえても,同人に罪を着せようとする態度は全く見受けられない。
また,仮に,Nが被告人を罪に陥れるために,被告人から本件けん銃を受領した旨の虚偽供述をするのであれば,敢えてその目撃証言が問題となり得るCらの面前で受け取ったと供述する必要は特にない。



以上からすると,Nには,虚偽供述をする動機を認めがたい。
他の証言等との合致


Cの検察官調書


Cは,検察官調書において以下のように供述した。
私は,本件当日,被告人及びNとO1店内に入ったが,被告人は,Mが
いつまで経っても来ないことにいらいらし始め,Nに電話を架けさせていた。その後,被告人は,Nをそばに呼んで何かを耳打ちし,その際,腹の辺りから銀色の回転弾倉式けん銃を取り出し,Nに手渡した。
被告人は,けん銃の銃身の先か,グリップを手で持ち,Nが銃身かグリップを手で持って受け取っていた。


Cは,捜査段階の当初,Nが被告人に近付いて話をしたり物を受け取ったり
したかどうか見ていない旨供述しており,当初の供述と前記供述との間には変遷が見られる。
しかしながら,Cは,供述を変遷させた後,その理由について,私がこのことを話してしまえば,まだ罪を認めていない被告人を警察に売ることになり,長年やくざをやってきた私としては,それだけはしたくなかったので,これまで嘘をついていた旨説明しており,A5総業内における被告人及びCの立場を考えれば,変遷理由は不自然ではない。また,Cの供述は,被告人からNにけん銃が渡った点で一致しており,Nの供述と相互にその信用性を補強している。


なお,弁護人は,けん銃の受け渡し場面におけるNとCの各供述は,被告人
がけん銃を握っている場面の存否についてそごがあり,相互に信用性を減殺する旨主張するが,この場面におけるNの供述がやや曖昧であるというにすぎず,明白な食い違いがあるわけではない。

本件けん銃に関するI及びQ証言との合致


Iは,当公判廷において,以下のように供述する。
私は,Gの殺害に使用した2丁のけん銃とともに,Gの銀色けん銃を,おそ
らく被告人から,一緒に保管するように言われ,以後組織のものとして保管していた。私は,平成17年夏ころ,夜中に被告人から電話を受け,けん銃を持って安中に来いと指示を受けたため,O9団地の駐車場に置いた車両のトランク内に隠しておいた3丁のうち,Gの銀色けん銃を持ち出して被告人に渡した。
私は,同年9月5日深夜,神社でNと落ち合った。その際,Nが,撃鉄部分の光っているけん銃を所持しており,これはGの銀色けん銃だと思った。この時までの間,同けん銃を被告人から受け取ったことはない。


Q供述
本件犯行後にNから受け取ったけん銃は,平成17年の4月ころにGが携帯
していた回転式けん銃(シルバーのタウルスでグリップが木製のもの)に似ていた。

前記容易に認定できる事実によれば,Qは,平成17年9月5日,本件けん
銃を受け取り,同駐車場北側冷蔵庫置場の床下にある塩ビパイプに隠し,同月6日,Sとともに前記駐車場の隠匿場所まで本件けん銃を取りに行き,タオルで梱包するなどして,道祖神付近の土中に埋めたことが認められるところ,これとQ及びIの証言によれば,本件けん銃は,Gの銀色けん銃であり,被告人が,本件犯行以前に本件けん銃を所持していたことが推認される。
このことは,
被告人から本件けん銃を受領した旨のNの供述を裏付けている。


以上検討したところによれば,被告人から犯行を指示された旨のNの供述は,同
人が,被告人から耳打ちされた直後に店外へ出て本件けん銃でM殺害を敢行したという被告人との共謀をうかがわせる事実と決定的に符合するのみならず,被告人が本件犯行以前に本件けん銃を所持していたと推認されること,L2一家とA5総業との間の抗争状況,同一家に対して報復を企図していた被告人の思惑,組員に指示してMの遺体を遺棄させたり,本件を抗争事件として上位団体に報告したり,実行犯であるNらに各100万円を交付したりするなどした

犯行後における被告人の行動等の事実関係とよく符合してい

る上,被告人がNにけん銃を渡していた旨のCの供述と合致し,捜査段階から供述が変遷した点についても合理的な説明がされている。Nが敢えて虚偽供述をして被告人を陥れる動機も見い出しがたい。したがって,Nの供述は信用することができる。4
被告人の供述及び弁護人の主張について


被告人は,当公判廷において,以下のように供述する。

私自身で保管していたけん銃は,シルバーの回転弾倉式けん銃タウルス1丁で
あり,これは,Iから預かり,平成17年6月ころから,自分の護身用として,O10団地所在のU1方に保管していた。同年7月ころ,U1方でNと飲酒し,この際,前記けん銃がU1方にあることを話した。同年8月中旬ころ,同人方の玄関において,Nに対し,前記けん銃を渡した。これは,Nから,九州から兄弟分が来るので格好をつけるためにけん銃を持ちたいと言われたため,絶対発砲しないという約束をして渡したもので,Nは,前記けん銃をオーストリッチのバッグに入れて持ち帰った。確認していないが,実包は装てんされていたと思う。同年9月4日までの間,前記けん銃を渡したことは忘れており,返還を催促したことはない。Mの殺害には,前記けん銃が使用されたのだと思う。このオーストリッチのバッグは,縦約27センチメートルで横20センチメートル程度(被告人の目測による寸法)の大きさであった。

T3襲撃事件の犯人が判明していなかったので,私は,報復をするために,I
やBに対し,犯人探しを命じていた。
私は,Rから,Mを通じてL2一家の当番表を入手したと聞き,Mには感謝していた。Mを被告人の舎弟にする話があったことは,事件後にRから聞いたことであり,事件前には知らなかった。

平成17年9月4日,覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕状が出ていたCを励ま
すために飲酒することになり,最初は,居酒屋O8で,私,R,P及びCの4名で飲酒していたが,Nが飲酒に誘ってくれと言っていたので誘ってやろうというRの提案があったため,Nを呼び出し,同人も遅れてO8にやって来た。
O7に移動する際に,Mを呼んだが,同人を呼び出すことについては,Rが言い出したことであり,私は,Cに関する飲み会なので呼ばなくてよいと言ったが,Rから,害にならないので一度会ってくれと言われ,呼ぶことになった。O7では和気あいあいと飲酒し,同店の勘定はMが持ってくれたので,次の店ではMにおごることにして,
O1に行くことにした。
私がNとともにO1に入店してしばらくすると,Cから,

あとの人間は話があるんでちょっと遅れる。

と言われたため,同店にたまたまいたT11を交えて飲酒を始めた。グラスやつまみを6名分注文し,店内で20分間程度待っていたが,他の者がなかなか入店しなかっので,私は,Nに対し,Pに電話して確認するよう伝え,電話を架けたNから,もう少し時間が掛かるとか,もう少し経ったら来る旨報告を受けた。他の者があまりに遅いので,私は,

Nちょっと来い。

と言ってNを呼び,私の右側に来たNに対し,

何をこんな長く話をしているんだ,あまり人を待たせるな,早く呼んでこい。

と言った。これは,客人でおごられる立場にあるMをなぜ長く待たせるんだという意味を含めて言ったことである。
Nは,出て行く前に,Cに対して

バッグを取れ。

と言ってごそごそとバッグを触った後,ホステスに

おめえは関係ねえんだから向こう向いてろ。などと言って,

店外へと出て行った。私は,この場面でNにけん銃を渡してはいないし,

あとは分かってるな。

とも言っていない。エ
平成17年9月5日,Nは,Mの遺体を埋めて事務所に戻ってきた際,P,J
及びPの養子がいる前で,私に対し,こんなことをしてすいません,やるならやってみろと言われたんでやっちゃいましたなどと言って土下座した。
私は,本件につき,A5総業の上位団体に電話して,T3襲撃事件の報復としてしたことであるという理由をつけて報告したが,実際には,T3襲撃事件と本件は何の関係もないことである。当時,A1組では,繁華街で飲酒の上けんかをしたりしたら破門等の処分が下されることになっており,本件で飲みに行ったなどという話が出るくらいなら,抗争を起こしたと報告する方が処分は重くならないだろうと考えたのである。

前記供述及び弁護人の主張に対する判断

被告人は,本件当時Nに対してけん銃を渡しておらず,いつまでもMを待たせ
るわけにもいかなかったことから,

早く呼んでこい。

とは言ったものの,

あとは分かっているな。

などとは言っていない旨供述するが,信用できるNの供述に反しており,同人が,組長である被告人から耳打ちされた直後に,それまで身につけていなかった本件けん銃を携帯した上で店外に出て,このけん銃で対立組織の組長であるMの殺害を敢行したという容易に認定できる事実と全く符合しないことからしても

,到底信用でき

ない。

被告人は,本件けん銃について,被告人が平成17年8月中旬ころ,O10団
地所在のU1方玄関先で,Nから,兄弟分に格好をつけるため貸してくれと頼まれ,絶対に発砲しないと約束させた上で貸したものであり,本件当時に被告人が所持していたものではない旨供述し,弁護人も同旨の主張をする。
しかしながら,信用できるNの供述に反する上,そもそもけん銃の使用を厳に禁じておきながら,
実包は装てんされていたと思いつつ,
確認すらしなかったという点や,
本件当日に至る約1か月間,当時自分自身で唯一保管していた本件けん銃を渡したこと自体忘れていて返還を催促したこともないなどとしている点で,供述内容それ自体が不自然かつ不合理であり,やはり到底信用できない。

被告人は,Nの挙動について,
O1を出て行く前に,Cに対してバッグを

取れなどと言って,ごそごそとバッグを触った後,ホステスに対して関係ないから向こう向いてろなどと言って,店外へと出て行った旨供述し,弁護人は同供述を援用し,この時にNがけん銃を持ち出したことが推認される旨主張する。
しかしながら,Nは,公判廷において,Cにかばんを取らせたことを否定している上,相談役としてNからみれば組における上位者であるはずのCに対してバッグを取れなどと言ったということ自体不自然である。なお,Nは,捜査段階において,Cに

バッグを取ってください。

と言った旨供述したりもしていた
ものであるが,

前記のとおり被告人をかばうためにけん銃の入手方法についてMから奪った旨,その後は当初から自己が携帯していた旨,いずれも虚偽の供述をしていた経緯も考慮すると,これは,被告人をかばう便法として自己のかばんを取らせた旨供述したにすぎないとみるのが自然である。よって,弁護人の前記主張は採用できない。

被告人は,Nから事件後に土下座されて,Mを射殺したことについて謝罪され
た旨供述し,この点Pも公判において同様の供述をしている。また,上位団体から重い処分を受けないよう,本件について,Nが酔った挙げ句突発的に引き起こしたものであるという真実ではなく,T3襲撃事件の報復であるという虚偽を報告した旨供述する。弁護人は,これらの供述を受けて,酒に酔ったNが,Mの態度に立腹して突発的に同人を殺害したと考えるのが自然かつ合理的であると主張する。


しかし,そもそもNは,本件当日それまで特にMに敵対的態度を示したりし
ておらず,
O1店内にあってはMに接してすらいない。そのNが,Mに対して突然殺意を抱き,独断でけん銃を持ち出して殺害行為に及ぶなどということ自体が相当に不自然である。他方,前記のとおり,Nが,
O1店内において組長である被告人に耳打ちさ
れた直後に,それまで身につけていなかったけん銃を携帯して店外へ出た上,直後に対立組織の組長であるMの殺害を遂げたこと自体から,被告人との共謀がうかがわれるところである。
Nは,本件当時酩酊状態ではなかった旨供述しているところ,同人は組長である被告人を助手席に乗せてO1まで車両を運転したりもしているのであって,この供述は信用でき,Nが,飲酒の影響で,M組長に突発的に殺意を抱き犯行に及んだとも考えにくい。加えて,Nは,Mとの間に個人的トラブルもなく,むしろ良い印象を持っていた旨供述している。現にこのようなトラブル等の存在が疑われる事情も特に見当たらないことや,Mの殺害後Qの運転する車にNが乗っていた際,同人が,Pと電話で話した直後に

何でもおれかよ。,

何でもおれにかぶせるんかよ。

と言ったり,車内で何度も何度も

やつ(M)が撃てと言うから撃った。

と,同じことを繰り返して言ったりしていたというQの供述で認められるNの犯行直後における動揺ぶりからしても,同人の前記供述に疑いを入れる余地はない。


また,被告人同様,Nが事件後被告人に土下座した旨供述するPは,証人と
して入廷すると被告人に一礼して親しげに会話を交わし,尋問終了後には被告人と握手するなどしており(当裁判所に顕著)
,本件で出頭するに当たり被告人を交えてRらと口裏
合わせを行ったことを捜査段階では認めていたにもかかわらず,公判では調書の内容を思い出せないなどと言いつつその点を否定するなど,被告人に有利な供述をしようとする態度が明らかであって,その供述の信用性には多大な疑問を持たざるを得ない。加えて,被告人が,Nに対して現金100万円を交付していることなどからすると,Nから射殺したこと自体について土下座して謝罪された旨の被告人の供述は到底信用しがたい。

さらに,酔ったNが突発的に引き起こしたと言うよりは,本件を抗争事件と
して報告した方が処分が軽くて済むと考え,敢えて虚偽の報告をしたという被告人の供述に至っては,それ自体到底信じがたいとしか言いようがない。


以上からすれば,NがMの態度に立腹して独断でMを殺害したとする弁護人
の主張を採用する余地はない。

弁護人は,本件当日ジャージやスエットを着用していた被告人がけん銃をズボ
ンに挟んでいたとすればズボン自体が落ちてくるのであり,犯行時刻までの数時間にわたりそのような不安定な状態を保持していたとは到底考えられず,被告人がズボンにけん銃を挟んでいたとするNの供述は不自然,不合理であると主張する。そもそもNも,Cも,本件犯行直前に,被告人のズボンないし腹の辺りにあった本件けん銃をNが受け取るというやりとりがあったとしか供述しておらず,数時間にわたり被告人がこのけん銃をズボンに挟んでいたなどと述べているわけではない。被告人が,
Nにけん銃を渡すまでの間に本件けん銃を持ち出してズボンに挟む機会が全くなかったというのであればともかく,そうではないのであるから,弁護人の主張を考慮しても,Nの供述の信用性を何ら左右しない。

弁護人は,本件当日の時点においては,未だT3襲撃事件の犯人は特定されて
いなかったのであり,仮に,後でL2一家が同事件と無関係であることが判明した場合にはA5総業の存立の危機に立たされるのであるから,被告人がそのような危険を冒してまでNに指示してT3襲撃事件の報復に及ぶはずはない旨,A5総業は,Rを通じてMからL2一家の名簿,当番表を入手していたのであるから,そのような協力者の立場にあったMを,単にL2一家に属する組長であるという理由で殺害することは不利益が大きい旨各主張する。
しかし,前者については,本件当日までに,T3襲撃事件の犯人がL2一家であることの目安はついていた上,被告人が報復行為に出ることを前提に犯人探しの指示をしていたことからすると採用できないし,後者についても,L2一家に属する組長の立場にある者は報復の対象となり得たといえる上,未だT3襲撃事件の犯人の特定に至っていなかった状況の下では,次善の策としてMを殺害して報復行為を誇示することが不自然ではないこと,本件当日における殺害前のやりとりにおいて,MがT3襲撃事件の犯人を教示することや,被告人の舎弟になることを断わって反抗するなど,被告人の意に沿わないと思われる行動に出ていたのであって,A5総業にとってMが全面的な協力者というわけではなく,A5総業として同人を殺害することによる利益はあったといえることから,やはり採用できない。

その他,弁護人は,犯行が容易に発覚する路上で殺人を敢行するのは不自然で
あるなどるる主張するが,いずれも前記認定を左右しない。

5
結論
信用できるNの供述によれば,被告人が,
O1店内において,Nに対し,

脅してでも連れて来い。あとは分かってんな。

と耳打ちし,ズボンの前側に差していた本件けん銃を渡した事実が認められるから,Mに対する殺人,けん銃発射及びけん銃加重所持を共謀したと認められる。
第6

けん銃等の共同所持(判示第10ないし第13)

1
判示第10の事実について(鉾田の別荘・甲144添付の写真2号のけん銃)

容易に認められる事実
平成16年ころ,A4会本部とA5総業との間でけん銃を交換し,黒色タウルス
回転弾倉式けん銃1丁(甲144添付の写真2号のけん銃。以下本項では本件けん銃という。
)がA5総業のものとなった。
Iは,平成16年ころ,Kから,抗争に用いたけん銃の代わりのけん銃であると説明を受け,本件けん銃を預かった。
Qは,平成17年9月末ころ,被告人のいた長野県上田市に本件けん銃と実包を携帯して行き,被告人と合流後,茨城県内の別荘に行って,その下水道の下に同けん銃を置いた。
平成17年10月16日にQが逮捕され,Kは,本件けん銃等を別荘の前にある貸別荘の縁の下へと移した。
保健所の職員が前記貸別荘の軒下をのぞき込んだりしていたため,Kは,
さらに,
本件けん銃の隠匿場所を,別荘の浴槽の下に変えた。
平成18年2月22日,
茨城県鉾田市tu番地v所在の別荘以下鉾田の別荘」

という。)にある樹脂製浴槽の下から,本件けん銃及びその適合実包7個が発見された。Qの公判供述鉾田市の別荘に隠匿したけん銃は,黒色のブラジル製タウルスであり,甲144添付の写真2号のものである。平成17年5月か6月ころ,Iから,T2の車両に3つ入ってるから預かってくれと言われて,本件けん銃及び実包を預かり自宅に持って行った。当初けん銃が3丁あり,本件けん銃はそのうちの1丁である。ほかの2丁は,甲144添付の写真8号,9号のけん銃であると思う。平成17年9月末ころ,被告人から,「持ってこいよ。と指示されて,本件けん銃1丁と実包を被告人のいた長野県上田市に携帯して行き,被告人と合流後,茨城県内の別荘に行って,その下水道の下に本件けん銃を置いた。

Kには下水道下に隠匿し

たことを教えたことがあるが,被告人には報告していない。
私は,平成17年10月16日に逮捕され,以後同けん銃は,隠匿場所を知っているKが管理することになると思った。


Kの公判供述
本件けん銃は,Qが鉾田の別荘内に持ち込んだ。
平成17年10月16日より以前,鉾田の別荘で,Qがけん銃を磨いているのを
見た際,被告人もその様子を見ていた。
Qが平成17年10月16日に死体遺棄罪の疑いで逮捕されることとなり,私は,
被告人から,Qが捕まったから一応動かしておけという旨言われて,別荘内にあったけん銃等を,別荘の前にある貸別荘の縁の下へと移した。

その後保健所の職員が前記貸

別荘の軒下をのぞき込んだりしていたため,私は,さらに,けん銃の隠匿場所を,同所から別荘の浴槽の下に移した。この移動についても,被告人から「動かせ。」と言われていた。

被告人には風呂の近くに隠す旨伝えているが,
詳細な場所までは伝えていない。


Iの公判供述
私は,平成16年2月か3月ころ,当時けん銃等を管理していたKから,被告人
の指示であるとして,バッグに入ったけん銃を引き継ぐよう言われた。
バッグの中

には,散弾銃(甲144添付の写真7号)
,壊れた(錆びて使用できない)38口径のけ
ん銃(甲144添付の写真6号)
,銀色けん銃2丁(甲144添付の写真8号,9号)

実包等が入っている旨説明を受けて受領した。

その少し後,Kから,抗争に用いた

けん銃の代わりのけん銃であると説明を受け,HがGを殺害するのに使用した黒色回転式けん銃(本件けん銃。甲144添付の写真2号)を預かった。

合計5丁のけん銃の

うち,1丁は使用できないが,他の4丁は使用可能であった。
私は,本件けん銃と銀色のけん銃2丁は実包とともに各1丁ずつバッグに入れ,壊れたけん銃と散弾銃等は1つのバッグに入れて,これらを,動かない車両のトランク,後部座席,空き部屋,前妻の経営していた店舗跡等に隠匿して管理していた。
これ

らは,A5総業の組織で使用するものなので,すべて被告人のものとして保管していたのであり,被告人の許可がなければ使用できないものである。
私は,保険金詐欺事件の服役を終えて出所後,けん銃を持って相手方と交渉したことがあるが,その際もけん銃を持ち出すことは被告人に連絡してある。平成17年ころ,Qから,M組長殺害事件が発覚して逃走していた被告人を護衛するために必要だと聞かされて,Qに対し,当時T2のウインダムの車内に保管していた黒色回転式けん銃を持っていくよう指示し,Qは,本件けん銃を携帯して長野にいた被告人と合流した。


検討
Qが平成17年ころに被告人の指示を受けてけん銃を携帯して被告人のもとに行
った点についてI及びQの供述は一致し,引き続きQが鉾田の別荘内にけん銃を持ち込んだことについても,KとQの供述は一致している。以上によればけん銃が引き継がれた経緯も連続しているのであり,前記3名の供述は相互にその信用性を補強し,不自然な点もない。
したがって,被告人は,平成17年9月末ころ,Qに対し本件けん銃を持参するよう指示し,実際にQが本件けん銃を携帯していたことを認識していたと認めることができるから,被告人に本件けん銃等の所持を共謀したと認めることができる。なお,被告人は,けん銃が必要な場合,A5総業組員に指示すればけん銃が手に入ることは分かっていた旨認めつつも,他方で,Qと長野県で合流した際,同人がけん銃を携帯していたかどうかは分からない旨,
Qが鉾田の別荘にけん銃を持ち込んだかどうか,
その後同所にけん銃を隠したかどうか,Kがその隠し場所を移したかどうかも分からない旨供述するが,

Qが別荘に本件けん銃等を持ち込んだか分からないとしている点は,
Q及びKの供述に反し信用することはできず,また,被告人が,最終的なけん銃の所在や保管者を認識していたかどうかは本罪の成立に影響しない。
2
判示第11の事実について(O3総業・甲144添付の写真3号,4号,5号のけ
ん銃)


容易に認められる事実
Iは,
Kが,
Gの所持していた黒色小型けん銃をO3総業資材置場に隠匿した際,
K及びJを車両に乗せて同所に行った。
平成18年2月25日,Kの指示説明のもと,O3総業資材置場のT字型水道管の中から,回転弾倉式けん銃2丁,自動装てん式けん銃1丁及びこれらに適合する実包194個並びにけん銃実包18個が発見された。


Kの公判供述
被告人と私は,平成14年11月ころ,被告人方の工事中にあった水道の塩ビ管
がけん銃を隠匿するのに適していると考え,これを用いてO3総業資材置場にけん銃を隠匿することとした。
私と被告人は,同所に回転弾倉式けん銃2丁等を隠匿し,その後隠匿場所は変更していない。

同所にけん銃が隠匿されていることは,被告人,私,I及びJが知っ
ている。
私は,被告人から言われて,平成17年4月3日以降に,I及びJとともに,甲144添付の写真5号のけん銃をO3総業資材置場に隠匿した。
同所に隠匿していたけん銃は,甲144添付の写真3号ないし5号のけん銃であり,うち,3号はF組長の形見のけん銃,4号はたまに被告人が持っていたけん銃,5号はGが持っていた黒色小型けん銃である。


検討
前記(第4

G殺人・窃盗事件の項)

のとおり,被告人に言われてO3総業

資材置場にGの黒色小型けん銃を隠した旨のKの供述は信用できる


他のけ

ん銃等の隠匿に関する供述も,被告人方の工事材料を用いてけん銃を隠匿したという被告人の関与を強くうかがわせる事情に関して,現実に塩ビ管内からけん銃等が発見された客観的事実で裏付けられており,内容も具体的であって,十分信用できる。

たがって,被告人は,前記3丁のけん銃及びその適合実包をKらが保管していることを知っていたと認められるから,その所持を共謀したと認めることができる。なお,被告人は,O3総業資材置場にけん銃を隠していたことは知らなかった旨供述するが,信用できない。
3
判示第12の事実について(T1方・甲144添付の写真6号,7号のけん銃等)

容易に認められる事実
Sは,平成17年4月3日ころ,Iから指示されて,Q方の隣家に置かれていた
スポーツバッグに入った回転弾倉式けん銃1丁,散弾銃1丁及び散弾銃の弾を持ち出し,群馬県高崎市w町x番地y所在のT1方に隠匿した。
Sは,Iから,38口径の実包を持参するよう指示されて,そのスポーツバッグを持ち出したり,けん銃の手入れをするよう言われてレオパレスの部屋に持ち込むなどしたが,Iらが逮捕されたため,スポーツバッグを再びT1方に隠匿した。平成18年3月8日,T1方から,密造散弾銃1丁,撃針の折れた回転弾倉式けん銃1丁(甲144添付の写真6号,7号のもの。以下本項において本件けん銃という。
)及び散弾実包129個が発見された。
なお,撃針が折れたけん銃については,その鑑定時に,直径2ミリメートルのピンを加工したものを撃鉄に接着剤で固定する修理を施した上で撃発したところ,人畜を殺傷する程度の威力のある金属製弾丸が発射可能であった。


Kの供述
当初,私,E及び名前の言えない人の3人で,平成14年夏ころから,シルバー
のスミスアンドウェッソン2丁,散弾銃及び本件けん銃(甲144添付の写真6,7,8及び9号のもの)を,使えない車両のトランクに隠匿して管理していたが,その後私1人で管理するようになり,車両内に隠匿したり,知人に預けたりした。私は,保管していたけん銃等を被告人の許可なくA5総業組員に渡したことはない。
私は,平成16年ころ,被告人に言われて,当時管理していた前記散弾銃1丁及び3丁のけん銃等をIに渡して引き継いだ。


Iの供述(I供述は,1も参照)
私は,平成17年4月3日より前ころ,Qに対し,散弾銃等が入ったスポ
ーツバッグをQに預けた。
Qが逮捕された平成17年4月3日ころ,Sに対し,警察の捜索を避けるため,Q方の隣家に隠してある散弾銃等の入ったバッグを別の場所に隠すよう指示した。この際,
被告人がQのところに捜索が入るかもしれないという話をしたのだと思うが,はっきりとはわからない。
被告人から,自宅には絶対保管するなという注意をされていたにもかかわらず,Q方の隣家に散弾銃等を保管していたことが知れて,被告人から怒られたことがある。T3が殺害されたころ,被告人から38口径の実包がもっとあるはずだと言われたため,その数を確認するため,Sに対し,38口径の弾丸を持ってくるよう指示したことがある。


Qの供述
私は,平成17年3月ころ,Iから呼び出されて安中市所在のO11団地におい
て,ボストンバッグに入ったけん銃等を預かり,自宅の離れに保管していた。
それ

は,甲144添付の写真6号のけん銃と,7号の散弾銃だったと思う。私は,平成17年4月3日,警察に逮捕され,その後Iから,これらをSに預けて隠匿場所を変更した旨聞いた。


検討
KがIに本件けん銃等を預けたことについてK及びIの供述は合致し,その後,
IがQに本件けん銃等を預けたことに関してもI及びQの供述は合致し,その後SがIから指示されて,Q方の隣家に置かれていた本件けん銃等を引き継いだ事実とも整合するから,けん銃が引き継がれた経緯について,K,I,Qの供述は一連のものとして符合し,不自然な点もみられない。
Iは,
本件けん銃等について,
すべて被告人のものとして保管していたのであり,
被告人の許可がなければ使用できないものであると供述した上,その根拠として,T3が殺害されたころ,
被告人から38口径の実包がもっとあるはずだと言われたこと,
自分が,
保険金詐欺事件の服役を終えて出所した後,けん銃を持って相手方と交渉するに際してけん銃を持ち出すことを被告人に連絡したこと,被告人から本件けん銃等の隠匿場所に関して注意を受けた旨など,被告人が本件けん銃等を実質的に支配していたことに関する具体的な体験を数多く供述している上,同供述は,Kが,自身が保管していた本件けん銃等を被告人の許可なく組員に渡したことはない旨供述していることとも合致し,信用することができる。
したがって,被告人は,Iら本件けん銃等を保管していることを知っており,本件けん銃等を支配していたと認められるから,本件けん銃等の所持を共謀したと認めることができる。
4
判示第13の事実について(04・甲144の写真8号,9号のけん銃)

容易に認められる事実
Bは,平成17年10月14日ころ,Iからスミスアンドウェッソン社製けん銃
を模した密造の回転弾倉式けん銃2丁(甲144添付の写真8号,9号のけん銃。以下,本項において本件けん銃という。
)と実包の入ったバッグを預かり,その後,Iが逮
捕されたことから,T2に命じてT7方前の倉庫にこれを隠匿させた。T2は,同年12月中旬ころ,Vとともに,本件けん銃及び実包を持ち出してO11団地z号室に運び込むなどした上,平成18年2月ころ,Vがバッグを預かることになった。
Vは,本件けん銃等をビニール袋に入れ,藤岡市所在自動車販売店04に駐車してあった軽四トラックの運転席の座席の下に隠した。
平成18年4月4日,群馬県藤岡市ab番所在の04敷地内に駐車中の軽四輪貨物自動車ダイハツハイゼット内から,本件けん銃及びこれらに適合する実包12個が押収された。


Kの公判供述(3のK供述を参照)


Iの公判供述(1のI供述も参照)
私は,平成17年10月14日ころ,安中市所在のO12の駐車場
で,Bに対し,本件けん銃等を渡した。


検討
Kは,平成16年ころ,被告人の指示に基づき,当時管理していた甲144添付
の写真6号,7号の各銃及び本件けん銃等をIに渡して引き継いだと供述し,この点について,Iも,平成16年2月か3月ころ,当時けん銃等を管理していたKから,被告人の指示であるとして,バッグに入ったけん銃(甲144添付の写真6号,7号,8号,9号)等を引き継ぐよう言われた旨供述しており,被告人の指示で本件けん銃等の管理者を変更した点に関し,相互に合致して信用性を補強している。
両名の供述に特に不自然な点はない上,Iの供述は,BがIから平成17年10月14日ころ,本件けん銃等の入ったバッグを預かったこととも経緯が符合し,また,その後前記のとおり,I及びKが,保管していたけん銃を被告人の許可なしに組員に渡すことはなかった旨一致して供述している点とも整合的であることからすると,I及びKの供述は信用することができ,被告人は,本件けん銃等をKないしIが管理していたことを知っており,本件けん銃等に対する支配を及ぼしていたと認められるから,その所持を共謀したと認められる。
なお,被告人は,今回警察に押収されたけん銃及び適合実包について,どこに,誰が保管しているのかは分からなかった旨供述するが,この点は前記のとおり所持罪の成立に影響しない。
5
なお,弁護人は,すべての供述調書が違法収集証拠であるとしてその証拠排除を申
し立てているが,そのような事情は全く認められず理由がなく,失当である。6
以上のとおり,判示第10ないし第13の各事実についても,主として組員らの供
述により,被告人に各所持の共謀が成立すると認められる。
(累犯前科)
1
被告人は,平成11年6月2日前橋地方裁判所高崎支部において,傷害罪により懲役
11月に処せられ,平成12年3月27日その刑の執行を受け終わった。2
証拠は,前科調書(乙6)である。

(法令の適用)
該当罰条
判示第1の行為

刑法60条,平成16年法律第156号による

改正前の刑法199条(刑法6条,10条により,有期懲役刑の長期は軽い平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項によるから,有期懲役刑の長期及び短期のいずれも軽い行為時法の刑による。

判示第2の行為のうち
けん銃加重所持の点

刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の

3第2項,1項前段,3条1項(刑の長期は,刑法6条,10条により軽い平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項による。

けん銃実包所持の点

刑法60条,平成19年法律第120号による

改正前の銃砲刀剣類所持等取締法31条の8,3条の3第1項(刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。

判示第3の行為

刑法60条,199条

判示第4の行為

刑法235条(行為時においては平成18年法

律第36号による改正前の刑法235条に該当するが,刑法6条,10条により軽い裁判時法の刑による。

判示第5,第8及び第9の各行為

いずれも刑法60条,190条

判示第6の行為のうち
殺人の点

刑法60条,199条

けん銃発射の点

刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条1

項,3条の13
判示第7及び第10の各行為のうち
各けん銃加重所持の点

いずれも刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法

31条の3第2項,1項前段,3条1項
各けん銃実包所持の点

いずれも刑法60条,平成19年法律第120

号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法31条の8,3条の3第1項(刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。

判示第11及び第13の各行為のうち
各けん銃加重所持の点

いずれも包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持

等取締法31条の3第2項,1項(刑法6条,10条により,平成19年法律第120号による改正前のそれを指す。,3条1項

各けん銃実包所持の点

いずれも刑法60条,平成19年法律第120

号による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法31条の8,3条の3第1項(刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。

判示第12の行為のうち
けん銃所持の点

刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の

3第1項前段,3条1項
銃砲所持の点

刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の

16第1項1号,3条1項
火薬類所持の点

刑法60条,火薬類取締法59条2号,21条

科刑上一罪の処理
判示第2,第7,第10,第11及び第13につき
いずれも刑法54条1項前段,10条(いずれ
も重いけん銃加重所持罪の刑で1罪処断)
判示第6につき

刑法54条1項前段,10条(重い殺人罪の刑

で1罪処断)
判示第12につき

刑法54条1項前段,10条(最も重いけん銃

所持罪の刑で1罪処断)
刑種の選択
判示第1につき

無期懲役刑

判示第3につき

有期懲役刑
判示第4につき

懲役刑

判示第6につき

死刑

累犯加重
判示第2につき

刑法56条1項,57条(平成16年法律第1

56号による改正前の刑法14条の制限内で再犯の加重)
併合罪加重

刑法45条前段,46条1項本文(判示第6の罪につい

て死刑に処し,他の刑を科さない。

訴訟費用の不負担

刑訴法181条1項ただし書

(量刑の理由)
1
事案の概要
本件は,6代目A1組4代目A2組5代目A3会A4会A5総業組長であった被告人
が,いずれもその活動に関連して,組織的に次々と3名を殺害した事実を中心とする極めて凶悪な事案であり,①自己も関与した保険金詐欺事件に関する口封じのため,配下組員に命じ,同事件に関与したFをけん銃で射殺した殺人,けん銃加重所持,実包所持の事実(判示第1,第2)Gから同人が警察に逮捕されるよう計画したなどと疑われたため,,
A5総業事務所において同人に自らけん銃を発射して殺害するなどした殺人,死体遺棄,Gの所持品の窃盗の事実(判示第3ないし第5)
,対立組織であるL2一家の組長であ
ったMから,自己の舎弟になることを拒まれたことなどから,配下組員に命じ,安中市内のスナック前路上において,Mをけん銃で殺害するなどした殺人,けん銃発射,けん銃加重所持,実包所持,死体遺棄の事実(判示第6ないし第9)
,④A5総業の配下組員に命
じ,他の暴力団組織との間の抗争等に用いるために,回転弾倉式けん銃6丁,自動装てん式けん銃1丁及び散弾銃1丁並びにこれらに適合する実包等を保管ないし隠匿させた,けん銃加重所持,けん銃所持,銃砲所持,火薬類所持の事実(判示第10ないし第13)から成る事案である。
2
M組長殺人事件等(判示第6ないし第9)について


動機及び経緯
A5総業では,被告人の舎弟であるT3が襲撃される事件が起こったことから,こ
れに対する報復の機運が高まり,被告人においても配下組員に命じるなどして,同総業を挙げて同事件の犯人を探索させていたところ,T3襲撃事件がL2一家関係者によってなされた疑いが濃厚となった。
そのような折り,
被告人らは,
L2一家のM組長を酒席に誘い,
配下組員を通じて,
T3襲撃事件の犯人の教示や,家業上被告人の舎弟になることを求めさせたが,Mがその説得に応じなかったことからいら立ちを募らせ,配下組員であるNに対し,回転弾倉式けん銃を渡してMの殺害を命じたと考えられるのであって,本件は,暴力団抗争において自己の関係者が襲撃されたことに対する報復感情を満足させると同時に,報復行為を誇示することでA5総業の権勢を保持しようとする組織的な動機に基づく上,L2一家幹部であれば誰でも構わず殺害するという無差別的な殺人行為であって,生命軽視の態度が甚だしい。


犯行態様等
殺害を命じられたNは,自動車内においてMにけん銃を突き付けた上,要求に屈しない同人を路上に立たせ,同人の腹部に至近から1発の弾丸を浴びせたにとどまらず,顔面にまで1発の弾丸を浴びせ,その場で同人を殺害したのであって,強固な確定的殺意に基づく犯行である。
しかも,その犯行は,日曜日の午後11時30分ころ,住宅や店舗が建ち並び,車両の通行もそれなりにある交差点付近の路上において,けん銃で弾丸2発を発射して殺害するというもので,流れ弾や跳弾等により,無関係の者をも死傷させる危険もある態様で敢行されており,周辺住民や地域社会に相当の恐怖感や不安感を与えたと推認される上,事件が広く報道されたことによる社会的影響も大きい。
さらに,その後2回にわたり行われた死体遺棄は,共犯者を速やかに集めて死体を廃棄物処理場に埋めた上,その2日後には,掘り出した死体を飲食店駐車場に裸の状態で遺棄したのであり,組織的である上に,死者に対する畏敬の念が微塵も感じられない悪質な態様である。
被告人は,殺人の犯行後,Nらとの間で,けん銃入手先等について口裏合わせを行い,共犯者の中には,逮捕当初,そのような口裏合わせに沿った供述をしていた者もいるのであって,組織的かつ周到に自己の関与を隠蔽する工作を遂げたのであり,犯行後の犯情も悪質といえる。


結果等
犯行の結果,当時61歳であったMの生命が奪われた。
Mは,弾丸による肉体的苦痛を受けながら,妻子や孫を遺したまま路上で命を奪わ
れたのであり,さぞかし無念な最期であったと思われる。
Mは,暴力団組長として活動していた者であるが,被告人らに殺害されなければならないような理由はなく,また,家族にとっては良き夫であり良き父であったのであり,その遺族は,殺害された上に遺体を遺棄されたという衝撃的な事件によって,未だ癒えぬ深い悲しみに苦しめ続けられている。
Mの妻U8は,意見陳述において,

2年前の9月4日,あんな見るも無惨な姿にされたこと,1日たりとも忘れたことはありません。,

生前,おまえにも苦労かけたし,おれももう年なのでこの家業はそろそろ引退したいと思う。老後はのんびりしような。と言ってくれてた矢先だったのに,残念でなりません。,

孫は,みんなおじいちゃん子で,いつもおじいちゃんの取り合いで,こんなことになってしまってすごく悲しい思いをしています。私もこの先どう生きて行ったらよいか考えこんでしまう毎日です。主人があんな無惨に殺されてしまった現実,残された私たち遺族の悲しみ,辛さはこの先ずっと消し去ることはできません。と述べており,
また,Mが失踪してから遺体で発見

されるまで,寝食もできぬ時間を過ごした不安な心情も吐露し,ほとんど裸の状態で遺体を遺棄されたことをについて,殺した後までむちゃくちゃにしたのか,と本当に悔しい気持ちになったと述べている。

U8は,夫や孫に囲まれた老後を過ごせるものと考えて

いた最中,突如として被告人らにより伴侶を奪われ,今もなお,事件による精神的衝撃を忘れられずに苦しんでいるのであり,その心情は察するに余りある。Mの長女も,

私たち家族は,この事件にかかわった人を1人も許すことはできません。,

私は,まだお父さんに話したいこといろいろありました。でも,もうできません。被告人が死刑になってこの私たち家族の苦しみを償ってほしいです。それだけのことをしたことを分かってほしいです。,

私たち家族は,本当にお父さんを必要としていたし,幸せな日々を送っていたのに,被告人たちがそれを奪ってしまったことを分かってください。,という旨を,Mの次女も,

父がどんな思いで死んでいったのかちゃんと考えてください。,

もっともっと一緒にいれたはずなのに。私たちの時間を奪った被告人たちを絶対に許しません。,という旨を,それぞれ意見陳述で述べ,悲痛な心情を吐露し

ている。


被告人の役割
被告人は,A5総業組長の立場にあって殺人の犯行を首謀し,一方的に配下組員で
あるNにけん銃を渡して殺害を命じ,自己の手を汚すことなく殺害を遂げさせているのであり,本件に対する責任は,実行犯であるNを凌駕する。
3
F殺人事件等について(判示第1,第2)


動機及び経緯
A5総業の関係者は,かつて,偽装人身事故による保険金詐欺の犯行に及んだが,
その際,Cにより被害者役として集められた者の1人であったFが,前記偽装事故の後,保険会社に赴き被告人らに無断で保険金の一部支払を要求した。
その後,前記保険金詐欺の犯行が発覚し,A5総業組員らが逮捕されるなどしたため,Fが勝手に保険会社に保険金の支払を請求した事実を知った被告人は,それが端緒となって組員らが逮捕されることになったものと考え,もし被害者が警察に逮捕されれば,自身あるいはCらの前記保険金詐欺事件への関与も警察に発覚するとの不安を抱いたことから,口封じのため,Fを殺害することを決意し,BらにFの殺害を命じた。そして,最終的にB及びDがFを山中に連れ出し,Dにおいて,Fを射殺した。このように,本件は組織ぐるみで犯した犯罪に関し,さらなる逮捕者の増加を防ぐためなされた口封じ目的の殺人であり,極端に人命を軽視した,暴力団特有の極めて身勝手,反社会的な行動原理に基づく犯行であ

り,犯行の経緯,動機に酌量の余地は皆無

である。


犯行態様
本件は,Fを,偽装事故が発覚したから別の場所に逃がしてやる旨甘言を弄して山
中に連れ出し,いきなりその右眼窩部に向けDがけん銃の弾丸を発射して殺害したものであって,強固な殺意に基づく冷酷かつ残虐な犯行である。
また,A5総業の組織力を活用して,被害者を稼働先から呼び出す役,その後,被害者に気付かれずに身柄を確保しておく役,実行役等を分担して手際よく実行されたものであり,犯行後には重機を手配して遺体を山中に埋めるなど,組織的かつ計画的な犯行である。


結果
Fは,殺害された当時,建設工事に従事する生活を送っていたのであり,被告人ら
に無断で保険金を請求したとはいえ,
それも被告人らに敵対する意図でしたものではなく,
被告人らによって生命を奪われなければならない理由など全くないのに,弁解の余地もなく,いきなり顔面にけん銃実包を撃ち込まれて60年の生涯を閉じさせられ,さらに,死体を山中に埋められて遺棄されたものであって,理不尽に殺害されることとなった無念さは察するに余りある。

また,けん銃という殺人用の凶器が用いられた犯行であり,遺体

が発見された際には新聞報道がされて広く社会にも影響も与えたのであり,結果は重大である。
Fの実兄は,殺害されて命を落としたことの喪失感にさいなま
れるとともに,突然連絡も疎遠となり身を崩していった弟を救えなかった後悔に煩悶して苦しみ,被告人らに対しては,仮にいくら謝罪の言葉を述べられても,絶対に許すことはできない,絶対に死刑にしてもらいたいと思う旨峻烈な処罰感情を吐露しているが,遺族として当然の感情である。
また,Fには,別れた妻及び子もおり,両名に与えたであろう精神的衝撃も大きいと思われる。


被告人の役割
被告人は,A5総業組長として,本件犯行を首謀し,保険金詐欺事件には無関係な
B及びDに犯行を指示して組織的に犯行を遂行させたのであり,被告人なくして本件犯行はありえなかったといえ,その責任は全共犯者中で最も重い。
4
G殺人事件等(判示第3ないし第5)について


動機
被告人は,Gが殺人の嫌疑を受けてA5総業を頼ってきたのを受け入れて世話をし
ていたにもかかわらず,Gから,同人が女性を監禁したことについて,被告人らがGを警察に逮捕されるよう計画しているなどと疑われて怒声を浴びせられたことに憤激し,自己の意に反する者の行動を封殺するためには,たとえ知己であっても殺害をも厭わないという冷酷かつ危険な発想に基づき,Gをけん銃で殺害したものであるところ,それは法治国家において到底容認しえない暴力団組織の論理に基づく私的制裁による殺害行為にほかならず,その動機に酌量の余地はない。


犯行態様
被告人は,Gが事務所にやって来る旨予想すると,同人がけん銃を用いるような素
振りを少しでも見せれば,機先を制して返り討ちにしようとIにけん銃2丁を準備させるとともに,6名のA5総業組関係者をそろえて優位な状況を作るなど組織的に犯行の準備行為を行った上,準備したけん銃のうち1丁を自身で隠し持ちつつ,Gを待ちかまえた。そして,Gが目の前に立つや,弁明の機会を与えることもなく,自ら所携のけん銃で,少なくとも2メートルの至近距離からGの胸部に向け弾丸1発を発射し,HにおいてもGの頭部に弾丸1発を発射し,Gをその場で殺害したのであり,確定的殺意に基づく極めて凶悪な犯行である。
被告人は,殺人の犯行後も,配下組員とともにGの遺体を山中に遺棄して半ば白骨化するまで放置して遺族感情を害するとともに,Gの所持品をも窃取するなど,遺体及び死者の財産に対しても冒涜の限りを尽くしている。


結果
本件により,当時35歳のGの命が失われた。Gが2発の弾丸を受けた際の肉体的
苦痛,死を前にした精神的苦痛,短い生涯を終えなければならなかった無念さは,いずれも相当のものであったと思われる。
確かに,Gは,暴力団員として活動して犯罪に手を染め,傍若無人な振る舞いを繰り返していたようではあるが,被告人らが私的制裁によって殺害することまでをも正当化するものではない。
当初,Gの実母及びその夫は,いずれもGを奪われた悲痛な心情を供述し,被告人らに対する厳罰を求めていたものであるが,
Gがいかに悪辣な人生を歩んでいたとはいえ,
遺族としては当然の思いであったといえる。


被告人の役割
被告人は,A5総業組長の立場にあって,組員にけん銃を手配させたり事務所へ集
合させた上,Gに対し,弁解の余地を与えることもなく,突然至近距離からけん銃を発射するという極めて残虐かつ危険な実行行為を行ったのであり,その準備行為の指示から実行に至るまでの全般にわたって,犯行に必要不可欠の役割を果たしていることからして,その責任は全共犯者中で最も重い。
5
被告人は,3名の殺人事件について,A5総業組長としての立場から組員に殺害を指
示し,あるいは自らけん銃を発射する行為に及んでいる上,いずれの犯行も,被告人がA5総業の組織力を活用して敢行したものであって,被告人がその責任を最も問われる立場にあることは明らかである。それも,一度の機会に偶然の事情も相まって複数人を殺害することとなったのとは全く異なり,それぞれ別の場面・別の事情でそれぞれの被害者の殺害を企て,確定的殺意をもって次々と3名もの生命を奪ったのであり,3名の生命を奪ったという取返しのつかない結果の重大性はもちろん,人命を軽視する反規範的態度も極に達している。
いずれの殺害においても,けん銃という凶悪極まりない凶器を用い,なかでも,M組長を殺害するに当たっては,住宅街の路上で発砲するという極めて危険かつ治安を脅かす態様で殺害行為が行われている。
被告人は,以上の3名に対する殺人等のほかにも,組員らを通じて,回転弾倉式けん銃6丁,自動装てん式けん銃1丁及び散弾銃1丁並びにこれらに適合する実包等多数を隠匿していた銃砲刀剣類所持等取締法違反等の犯行(判示第10ないし第13)にも関与している。それらけん銃の中には,前記殺人に用いたものもあり,けん銃の脅威を現実化させていることからしても,それらのけん銃等が殺人等の暴力団抗争に用いられるために準備されたものであることは明白といえる。このように多数のけん銃や実包等が暴力団組織に管理されていたこと自体が,社会に脅威を与える極めて危険な行為であって,これらの犯行の危険性・悪質性も到底軽視することができない。
被告人は,19歳のころからA7会A8一家組員として活動を開始して以来,移籍したり絶縁処分を受けながらも暴力団組織に身を置いて活動を継続し,犯行時までには,A5総業組長の立場にまで上りつめ,相当の数になるけん銃等を背景に,組員に命じて次々と凶悪な犯行を行わせる反社会的集団を統括していた上,少年時から暴行,傷害罪の前歴があり,その後も,傷害,銃砲刀剣類所持等取締法違反などの数々の犯罪に手を染め,数度にわたり更生の機会を与えられたにもかかわらず,現在までに前科9犯を数え,挙げ句の果てに本件各犯行にまで及んだことからすると,その暴力的思考や反規範的人格は相当に根深いものがあるといえる。
6
他方,被告人には,以下のような酌むべき事情も認められる。
まず,M組長殺人等に関し,判示第9の死体遺棄の目的は,最終的に遺族に遺体を引き渡すことにあったし,被告人は,Iに対し,遺体に下着等を着けて返すよう指示する限度で遺族等に配慮をしていたこと,犯行後,A5総業の上位団体から,いわゆる手打ちの条件としてMの遺族に2000万円が支払われていること,次に,Gの殺人等に関して,Gは,生前,自らやくざ社会に身を置き,一般社会に対し悪行の限りを尽くしてきただけでなく,A5総業組員に対しても傍若無人な振る舞いをしており,本件当日も,けん銃2丁を所持した状態で尋常でないほどに憤激して事務所に押し掛けて来るなど,被告人・弁護人において正当防衛を主張したくなるのも無理からぬ事情はあること,Gの遺族に対し500万円を支払い,謝罪文を書くなどして反省の態度を示し,当初峻烈な処罰感情を抱いていたGの遺族は,

奥様や子供に罪はないし,本人も反省している様子はみてとれるので,罪は罪として,Gのことは許すつもりです。

との上申書を提出していること,Fの殺人事件に関して,遺族に100万円を支払ったことなどが認められる。加えて,被告人は,死体遺棄については罪を認めた上,暴力団組織から脱退し,A5総業を解散した上で自身は仏門に入りたい旨述べているほか,,
妻障害を背負った長男や,
幼い子供たちがいる。
7
結論
本件において,検察官は,被告人に死刑を求刑している。
ところで,
死刑は,
人間の生命そのものを永遠に奪い去る究極の峻厳な刑罰であって,
その適用は特に慎重でなければならない。このため,
死刑制度を存置する現行法制の下では,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものといわなければならない。とされているところである(最二小判昭和58年7月8日・刑集37巻6号609頁参照)

そして,前記のとおり,3名に対する殺人事件がいずれも,A1組系A5総業における,暴力団抗争,犯行の隠蔽,内部対立のためにされた暴力団組織にかかわる組織的犯行であり,いずれもけん銃が用いられていることに加え,特にF及びMの殺害についてはその経緯及び動機に全く酌むべき点がなく,またMの殺害が,路上でけん銃を発射するという極めて公共の危険を脅かす態様でされているなど犯行態様は極めて残虐かつ危険であること,3名の命を奪った結果は取返しのつかない極めて重大なものであること,その遺族の被害感情も峻烈な内容が多く,被害者2名の遺族が極刑を求めていること,社会的にも大きな影響を与え,一般市民に対していつけん銃の被害に遭うかも分からない不安感を与えていることに加え,いずれも被告人において犯行を計画し,あるいは実行したものであり,被告人なくしては実行され得ないものであるなど,被告人は,3名の死に対して最も責任を問われるべき立場にあること,その他の事案の犯情も悪質であること等によれば,被告人のために酌むべき前記の事情を最大限考慮し,死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における究極の刑罰であって,その適用には特に慎重を期すべきことに思いを致してもなお,被告人については罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑が真にやむを得ないと認められる。したがって,被告人には求刑どおり死刑をもって臨むほかはない。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

死刑)

(公判出席

検察官石井寛也,同二瓶祐司

私選弁護人板東利国[主任]
,同荒木和男,

同髙井重憲)
平成20年2月4日
前橋地方裁判所刑事部
裁判長裁判官

久我泰博

裁判官

結城剛行

裁判官

武村重樹
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