判例検索β > 平成17年(ワ)第420号
事件番号平成17(ワ)420
裁判年月日平成20年3月3日
裁判所名・部大分地方裁判所  民事第2部
裁判日:西暦2008-03-03
情報公開日2017-10-17 20:44:32
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主1文
被告C株式会社,同D及び同Eは,原告Aに対し,各自100万4000円及びこれに対する被告C株式会社は平成17年10月12日から,同Dは同年5月24日から,同Eは同月21日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告C株式会社,同D,同E及び同Fは,原告Bに対し,各自1487万3700円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
訴訟費用は,甲事件につき被告C株式会社,同D及び同Eの負担とし,乙事件につき被告C株式会社,同D,同E及び同Fの負担とする。
4
この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。事
第1
1実及び理由
請求
甲事件
主文第1項と同旨

2
乙事件
主文第2項と同旨

第2

事案の概要
本件は,東京証券取引所マザーズ(以下東証マザーズという。)に株式を上場していた被告C株式会社(以下被告C社という。)が,平成16年10月,同社に粉飾決算の疑惑があることを公表し,それを契機として同社の株価が下落したことについて,同社の個人株主であった原告A及び同Bが,被告らは粉飾決算に基づき虚偽の業績を公表した上で,原告らに株式を取得させ,その取得価額あるいは上記疑惑公表前の株式の取引価額と,最終売却価額との差額分の損害を被らせたと主張して,原告Aは,被告D及び同Eに対して,民法709条及び平成17年法律第87号による改正前の商法(以下,単に商法という。)266条の3第1項,2項に基づき,被告C社に対して,商法261条3項,78条2項,民法44条1項に基づき,その損害賠償金及び訴状送達日の翌日からの遅延損害金の支払を求め(甲事件),原告Bは,被告Dに対して,民法709条,商法266条の3第2項,平成18年法律第65号による改正前の証券取引法(以下証取法という。)24条の4,同条の5第4項,22条に基づき,同E及び同Fに対して,商法266条の3第1項,2項,証取法24条の4,同条の5第4項,22条に基づき,被告C社に対して,商法261条3項,78条2項,民法44条1項に基づき,その損害賠償金及び訴状送達日の翌日からの遅延損害金の支払を求めている(乙事件)事案である。
1
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1)

当事者
被告C社(旧商号はc株式会社)は,平成6年9月30日に設立された,コンピュータのソフトウェア設計,プログラム開発及び技術提供並びに保守に関する業務等を行う株式会社であり,平成15年6月30日付けで東証マザーズに上場していた(甲B7,乙A7)。


被告Dは,被告C社の設立当初から,同社の代表取締役社長の地位にあり,その経営全般を統轄していた者である(乙A7)。


被告Eは,平成12年2月から被告C社の営業統轄取締役となり,平成14年4月からは取締役副社長として,主として同社の営業活動を統轄していた者である(乙B3)。


被告Fは,被告C社の株式上場前である平成15年3月,同社の財務部門の強化のために財務部長として入社し,同年10月の定時株主総会において取締役に就任し,同社の経理,財務全般を掌理していた者である(甲
23,乙A7,乙C1)。

原告Aは,平成16年7月2日,被告C社の株式1株を167万円で取得して同社の株主となり,同月27日の株式分割により持ち株数が5株となり,同日,そのうち1株を25万6000円で売却し,残りの4株を後記(5)アの売却時まで保有していた(甲B2ないし4,8,乙A12)。

原告Bは,平成16年6月29日,被告C社の株式10株を1株157万円で取得して同社の株主となり,同年7月2日,1株166万円で7株を売却したが,同月5日,1株163万円で再度7株取得し,同月27日の株式分割により持ち株数が50株となった状態で,後記(5)イの売却時まで保有していた(甲14ないし16)。

(2)

財務状況に関する情報開示
被告C社は,平成16年2月24日付けのプレスリリースにより,同年7月期の業績予想を上方修正することを公表した。修正の内容は,売上高9億6500万円(前回予想6億7800万円),経常利益1億1200万円(前回予想1億0800万円),当期純利益6200万円(前回予想6100万円)とするものであった(甲9)。


被告C社は,同年3月29日付けの中間決算短信において,同年1月中間期の業績として,売上高9億6600万円(前年同期5億0300万円),営業利益1億1100万円(前年同期8600万円),経常利益1億1300万円(前年同期8100万円),中間純利益6400万円(前年同期4600万円)であることを公表した(甲10)。


被告C社は,同年6月14日付けで,同年7月期第3四半期の業績として,売上高17億3900万円(前年同期8億6300万円),営業利益1億6600万円(前年同期1億6200万円),経常利益1億7000万円(前年同期1億5200万円),第3四半期純利益9500万円(前年同期8700万円)であることを公表した。なお,この四半期業績状況
の公表には,四半期損益計算書及び四半期貸借対照表が添付されていた(甲11)。

被告C社は,同年7月29日付けのプレスリリースにより,同年7月期の業績予想を上方修正することを公表した。修正の内容は,売上高22億4000万円(前回予想20億2500万円),経常利益2億6000万円(前回予想2億6000万円),当期純利益1億4600万円(前回予想1億4600万円)とするものであった(甲12)。


被告C社は,同年9月29日付けで,同年7月期の個別財務諸表の概要を公表した。これによると,平成16年7月期の業績は,売上高22億5900万円(前年同期11億7900万円),営業利益2億6600万円(前年同期2億2500万円),経常利益2億6900万円(前年同期1億8800万円),当期純利益1億5100万円(前年同期1億0700万円)とされており,その時点における貸借対照表及び損益計算書等が添付されていた(甲13)。

(3)

上場廃止に至る経緯
被告C社は,平成16年10月21日付けのプレスリリースにより,同年7月期の決算に重大な疑義(利益の過大計上)があり調査中であること,被告Dが当該粉飾決算に関与していたため代表取締役を辞任し,被告E及び同Fも役付を辞任したこと,既に発表されていた連結損益計算書の当期純利益が約1億7000万円程度減少する見込みであることなどを公表した(甲3)。


上記公表を受けて,東京証券取引所は,監理ポスト及び整理ポストに関する規則第7条第1号a(j)(マザーズの上場会社が株券上場廃止基準第2条の2第1項第5号の規定により同基準第2条第1項第11号a前段に該当すると認められる相当の事由があると当取引所が認める場合)該当のためとの理由により,同日から被告C社の株式の取引を監理ポスト
に割り当てる措置を取った。なお,同基準第2条第1項第11号a前段は,上場会社が財務諸表等又は中間財務諸表等に虚偽記載を行い,かつ,その影響が重大であると当取引所が認めた場合をいう(甲B1)。ウ
上記公表前日の被告C社の株価は,終値12万4000円であったが,公表後最初の取引となった同月28日の終値は3万6000円になった(甲B8)。


被告C社は,同月29日付けのプレスリリースにより,東京証券取引所が監理ポスト割り当ての措置を取ったこと,平成16年7月期の決算書の作成作業に取り組んでいること,事実関係解明のために調査委員会を設置したこと,経営体制を一新することなどを発表した(甲4)。


さらに,被告C社は,同年11月11日付けのプレスリリースにより,上場廃止の見込みであること,平成14年7月期以前には粉飾行為が行われていないこと,法定開示書類のうち,平成15年7月期有価証券報告書,平成16年1月期半期報告書,有価証券届出書及び有価証券届出書の訂正届出書を,また,適時開示書類のうち,平成15年7月期中間決算短信(連結)及びその添付書類,決算短信(連結),平成16年7月期中間決算短信(連結)及びその添付書類,決算短信(連結)及びその添付書類を訂正する予定であること,不祥事に関与した取締役全員が辞任する予定であることなどを発表した(甲5)。


東京証券取引所の上場廃止基準2条1項10号では,監査報告書を添付した有価証券報告書が,決算期末から3か月の期間に加え,猶予期間1か月が経過しても提出されない場合を上場廃止事由としているところ,被告C社は,上記の粉飾決算の疑惑のため,同年10月28日に予定されていた定時株主総会を延期しており,同年7月期決算に関して監査報告書を添付した有価証券報告書を,上記上場廃止基準の期限となる同年12月1日までに提出することができなかった(甲B1)。


そこで,東京証券取引所は,同年12月2日から同月30日まで,被告C社の株式を整理ポストに割り当て,平成17年1月2日,上場廃止の措置を取った(甲B1)。

(4)

調査委員会が粉飾決算を認定した経緯(甲21,23,24)
被告C社では,平成16年10月に公表した粉飾決算の疑惑に関し,弁護士1名及び公認会計士1名を調査委員とする調査委員会に対し,その事実関係と法的問題点の調査を依頼した。


調査委員会では,同月29日から同年12月25日までの間に,平成13年7月期から平成16年7月期までの決算について,被告C社の取締役会,株主総会等の各議事録,監査法人等の報告書のレビュー,帳簿類・伝票類,関係者(被告C社の全役員及び関係従業員並びに取引先等)からのヒアリングなどの調査・確認を行った。


調査委員会は,上記調査の結果,次のような取引及び会計処理に着目した。
(ア)

平成14年8月26日,被告C社の口座に,取引先のG株式会社

(以下G社という。)から,合計6861万7000円が振り込まれた。
(イ)

他方,同日中に,被告C社からH株式会社(以下H社とい

う。)に対して,6510万円が支払われた(以下,このH社に対する支払を8月26日の支払といい,同日のG社からの振込入金と合わせて8月26日の取引という。)。
(ウ)

8月26日の支払は,同月15日付けの納品書及び請求書によれば,
品名コールセンター構築コンサルティング(実施期間:7月1日-8月15日)に対する支払とされていたが,その後,この納品書及び請求書の品名がコールセンター構築コンサルティングフェーズ1の

5250万円と,コールセンター構築コンサルティングフェーズ2の1260万円に分けられた。さらに,その後,上記5250万円分がコールセンターWEB開発コンサルティングの4242万円と,コールセンター構築コンサルティングフェーズ1の1008万円

に分けられた上,上記4242万円分については同月20日付けの別の請求書が作成された(甲21)。
(エ)

被告C社では,平成15年1月期の中間決算において,8月26日
の支払のうち,4242万円(コールセンターWEB開発コンサルティングの分)を前渡金として資産計上した(甲23)。エ
そして,調査委員会は,8月26日の取引がいわゆるスルー取引(丸投げ外注の取引)か架空取引かは確定できないが,スルー取引であれば,実現した収益に対応する費用は同じ事業年度に計上しなければならないという会計上の原則(費用収益対応の原則)に照らすと,被告C社がH社と協議した上で納品書及び請求書を2度にわたり作り替えさせ,支払済みの外注費を前渡金として資産計上したことは,費用の繰り延べによる利益の過大計上(粉飾決算)に当たると判断した。また,調査委員会は,被告C社が,8月26日の取引後も同様の方法で過大な利益を計上していたことを認定した。
なお,被告C社が,こうした不適切な会計処理をするようになった目的について,調査委員会は,関係者からのヒアリングなどから,株式上場を実現し,継続するためであったと推測している。


さらに,調査委員会は,被告C社が九州財務局長に対し平成15年5月29日に提出した同年1月期中間決算の有価証券届出書,同年10月30日に提出した同年7月期決算の有価証券報告書,平成16年4月26日に提出した同年1月期の半期報告書には,いずれも粉飾行為に基づく決算を基礎として虚偽の記載がなされていること,同年7月期決算については,最終的な決算承認はなされていないものの,決算書類が一旦作成され,同
年9月29日に決算短信として公表されていることを認めた。
(5)

原告らの株式売却
原告Aは,保有していた被告C社の株式4株を,監理ポスト割当期間中の同年11月27日,1株5000円で相対取引により売却した(甲B5,6)。


原告Bは,保有していた被告C社の株式50株のうち1株を,同年10月28日に3万6000円で売却し,残り49株を同年11月4日に1株2万4700円で売却した(甲17,18)。

2
争点及びこれに対する当事者の主張
(1)

決算の粉飾性の有無

(原告Aの主張)
平成16年10月13日,被告C社の当時の代表取締役であった被告Dは,会社の経理について粉飾決算をしていたことを明らかにした。そして,その後の社内調査の結果,平成15年1月期の中間決算の時点から粉飾決算が始まり,平成16年7月期の決算まで粉飾決算がなされたことが判明した。(原告Bの主張)
被告C社では,平成15年7月期の決算において,売上高11億7900万円,経常利益1億8800万円としていたが,実態は,売上高5億3400万円,経常損失2300万円というものであり,平成16年7月期の決算においても,売上高22億5900万円,経常利益2億6900万円,当期純利益1億5100万円としていたが,実態は,売上高11億8200万円,経常利益5100万円,当期純利益はマイナスで,1億8300万円の損失を計上しており,これらはいずれも粉飾決算によるものであることが判明している。
その手法は,外注費を前渡金として計上した上で,これに見合う取引を受注するという手法で営業活動を展開し,売上と外注費の認識時期を切り離し
た上で,取引内容を意図的に分断し,また,売上げや外注費の認識時期を操作することにより,利益の金額を意図的に操作したというものである。また,売上げの計上についても,被告C社が取引先から受注し,それを外注先に回す取引において,金の流れのみ存在し,取引実態が解明できないスルー取引が多数存在していた。(被告Dの主張)
本件で粉飾性が疑われている取引は,いずれもG社との取引である。その発端となった8月26日の取引は,G社から受注した第3回世界水フォーラムの代金の支払が,国の予算執行上の制約から遅滞していたところ,G社の社内事情により別名目で支払があり,そこで支払われた金員を,G社からの要請に応じて,外注事実のないH社に支払ったというものであるが,G社との間では,H社に対する当該支払額に応じた新たな発注の約束があったから,被告C社がこれを前渡金として処理することは,取引実態を正確に反映した経理処理である。その後のG社との取引に関して,前渡金として処理された支払について,同社との協議等は,すべて被告Eに委任していたので,どのような経緯で出金されたのか,被告Dは把握していないが,前渡金としての処理は,G社からの依頼により,外注事実のない会社に金員を支払うものと考えていたので,同社からそれに見合う注文を受ければ解消できると考えていた。このように,問題とされている前渡金の処理は,G社との関係での取引の実態を反映して行われた経理処理であって,利益を過大に見せかける目的で行ったものではないから,粉飾決算ではない。
原告らは,G社とのスルー取引の売上げに対応する原価(外注費)を翌期以降に繰り延べる(前渡金として計上する。)ことにより粉飾決算が行われていたと主張するが,一般的に外注費の繰り延べによる粉飾をするのであれば,前渡金として計上する必要まではないのに,前渡金として計上していることは不自然である。

(2)

原告らが被った損害は直接損害といえるか

(原告Aの主張)
本件は,被告D及び同Eらが粉飾決算をしたため,それを前提とした株価が形成され,粉飾決算をしているとは知らない原告Aが株式を取得し,その後,粉飾決算が判明して株価が下落した事案である。
したがって,原告Aの損害は直接損害である。
(原告Bの主張)
本件は,被告C社の会社財産の減少によって損害がもたらされたわけではなく,粉飾決算が原因で株式の上場廃止という事態を招来し,株式市場における評価が決定的に下落したために,株式を取得していた原告Bが損害を被ったのである。
したがって,その損害の性質は,間接損害ではなく,直接損害である。(被告E及び同Dの主張)
商法266条の3は,株主の間接損害については適用されない。そして,本件において原告らが損害として主張するのは,株式の価値の下落という間接損害である。
(被告C社及び同Dの主張)
本件は,被告C社の元取締役らの任務懈怠によって,同社の計算上の財産が減少するという損害が生じ,その結果,株価が変動したために,原告らのように株価が下落する前に株式を購入した株主に株価の下落という損害が生じているものである。そして,取締役に対する責任追及の場面における直接損害とは,取締役の悪意,重過失により,会社に損害がなく,直接第三者が損害を被る場合をいうのであるから,株価の下落という損害はこれに該当しない。
このように,原告らの損害は,会社が損害を被ったことによって発生した間接損害であるから,商法266条の3は適用されず,株主代表訴訟によっ
て損害が回復されるところ,商法1条により民法44条1項よりも株主代表訴訟の規定が優先的に適用されるので,本件には民法44条1項は適用されない。
また,株主は会社の実質的所有者であるから,株主は民法44条1項の他人に該当しない。
(3)

各取締役の責任の有無
被告Dについて
(原告Aの主張)
被告C社における粉飾決算は,被告Dの直接指示によってなされていたものである。
したがって,被告Dは,原告Aに対し,民法709条及び商法266条の3第1項,2項に基づく責任を負う。
(原告Bの主張)
被告Dは,意図的な粉飾決算を行うことによって,被告C社の株式流通市場における評価を不当に高め,一般投資家に対して,被告C社の株式への投資を誘ったのである。このような被告Dの行為は,市場に流通する投資対象たる商品の価値を偽る行為であって,明白な詐欺行為であり,これによって損害を被った原告らとの関係で不法行為を構成する。また,このような被告Dの行為につき,代表取締役としての注意義務違反があることは明白である。
したがって,被告Dは,原告Bに対し,民法709条,商法266条の3第2項,証取法24条の4,同条の5第4項,22条に基づく責任を負う。
(被告Dの主張)
前記のとおり,原告らが指摘する会計処理は,取引の実態を正確に反映したものであるから,粉飾決算には当たらず,有価証券報告書の虚偽記載
にも当たらない。したがって,被告Dは,粉飾決算や虚偽記載を行ったことを前提とする損害賠償責任を負うことはない。
また,平成14年8月26日の取引で,G社からの支払を正確な名目とは異なる名目で受けたことは,そうしなければ,被告C社の資金繰りが逼迫する可能性があったのであるから,被告Dの判断は合理的であり,代表取締役としての注意義務に反するものではない。そして,その後の前渡金の計上は,被告Dが直接関与して行われたものではなく,被告Eと経理担当者にすべて任せていたものであり,個々の取引や経理処理について,被告Dが詳細な指示をすべき注意義務まではないから,仮にそれが不適切な経理処理と判断されたとしても,被告Dに故意・重過失は存在しない。イ
被告Eについて
(原告Aの主張)
被告Eは,財務部長及び管理部長に対し,粉飾決算についての具体的指示を行っていた。
したがって,被告Eは,原告Aに対し,民法709条及び商法266条の3第1項,2項に基づく責任を負う。
(原告Bの主張)
被告Eは,粉飾決算当時,取締役として,代表取締役の被告Dを監督すべき地位にあった。しかるに,被告Eは,その責務を怠り,被告Dによる粉飾行為を放置又は幇助したのであるから,故意又は重大な過失がある。また,被告Cが提出した平成15年7月期有価証券報告書及び平成16年1月期半期報告書には虚偽記載がある。
したがって,被告Eは,原告Bに対し,商法266条の3第1項,2項,証取法24条の4,同条の5第4項,22条に基づく責任を負う。(被告Eの主張)
被告Eは,決算報告書の作成には関与していない。また,被告C社の決
算報告書は監査法人の監査を受けており,これを承認することに問題はないと判断していたものである。さらに,被告Eは,有価証券報告書の作成にも関与しておらず,インターネットによる会社の業績等の公告にも関与していない。
したがって,被告Eは,粉飾決算や有価証券報告書の虚偽記載に一切関知していなかったのであり,証取法24条の4,同条の5第4項,22条による責任は負わず,虚偽記載に関して注意義務を怠ったということもないから,民法709条及び商法266条の3による責任も負わない。ウ
被告Fについて
(原告Bの主張)
被告Fは,粉飾決算当時,取締役として,代表取締役の被告Dを監督すべき地位にあった。しかるに,被告Fは,その責務を怠り,被告Dによる粉飾行為を放置又は幇助したのであるから,故意又は重大な過失がある。また,被告Cが提出した平成15年7月期有価証券報告書及び平成16年1月期半期報告書には虚偽記載がある。
したがって,被告Fは,原告Bに対し,商法266条の3第1項,2項,証取法24条の4,同条の5第4項,22条に基づく責任を負う。(被告Fの主張)
被告Fは,平成15年10月の定時株主総会で取締役に就任したものであり,平成15年7月期の決算や有価証券報告書の作成・提出に取締役として関与していなかった。また,平成16年1月期半期報告書は,証取法24条の4,同条の5第4項,22条にいう有価証券報告書には該当しない。したがって,被告Fは,証取法上の損害賠償責任を負わない。また,被告Fは,取締役就任後,会計処理の正常化を図ることを被告D及び同Eに対し求め,たびたび経費の繰り延べによる利益操作や粉飾決算をやめるように進言していたのであり,取締役としての注意義務を尽くし
ているから,商法266条の3による賠償責任を負うこともない。(4)

損害との因果関係及び損害額の算定

(原告Aの主張)
被告C社における粉飾決算は,原告Aが株主となる前から継続してなされており,それによって株価は概ね順調に上昇を続けていたものである。そして,原告Aは,株価が同社の正当な決算により株価が形成されたものと信じて株式を買い受けたのであるから,その損害と粉飾決算との間には因果関係がある。
そして,原告Aは,粉飾決算発覚前の平成16年7月27日,1株を25万6000円で売却し,その後粉飾決算発覚まで4株を保有していたのであるから,損害額を算定するには,上記売却価格を基準とすべきであり,4株の合計額は102万4000円となる。ここから,原告Aが最終的に売却によって得た金額2万円を控除し,100万4000円が損害額となる。(原告Bの主張)
原告Bは,直接的にはインターネットを通じて得た情報に基づいて被告C社の株式取得を決意したのであるが,これらの情報は,被告C社が提出した平成15年7月期有価証券報告書及び平成16年1月期半期報告書に依拠するものであり,これらの報告書に虚偽記載がなければ,インターネット上に虚偽の情報が発信されることもなかった。そして,上場株式が上場廃止になるという事態は一般投資家にとって株式の価値を事実上無価値ならしめる事態であるところ,被告C社の株式が上場廃止になったのは粉飾決算に基因するものである。
したがって,被告C社の粉飾決算と原告Bの損害との間には因果関係を認めることができる。
そして,原告Bが被った損害は,株式取得のための投下資金合計1612万円から,最終的な売却によって得た金額124万6300円を控除した金
額であり,1487万3700円となる。
(被告Dの主張)
原告らが被告C社の株式を購入した当時は,いわゆるITバブルのただ中で株価は軒並み高騰しており,企業の中身ではなく需給要因で株価が上昇し,分割比率の高い株式ほど買われていた。被告C社においても,平成16年6月14日付けプレスリリースにて株式を5分割するとの公表をした直後から株価は高騰しており,原告らもそのような時期に株式を取得している。したがって,被告会社が粉飾決算をしていなければ,原告らが株式を購入しなかったといえるのかは甚だ疑問である。
また,株価の形成には極めて多様な要因が関わるものであるから,粉飾決算が明らかになったことと取得価格と処分価格との差額が生じたこととの間には相当因果関係がない。
したがって,原告らが購入した時の株価と売却処分した時にたまたま形成されていた株価との差額を損害額と認めることには合理性がない。(被告Eの主張)
市場における株価は,様々な要素により上下動を繰り返すものであって,株価の上昇要因,下落要因を特定することは困難である。また,市場における株価は,投資家の思惑により現実の株式の価値以上に高騰,下落を繰り返す場合があり,必ずしも株式の本来的価値を反映しているものではない。したがって,株式の取得価額と売却価額の差額を損害額とすることには合理性がない。また,株式の取得価額と売却価額との差額が損害額であるとするならば,株式売却に至るまでの株価の変動を全く無視して,投資家は常に初期投資金額を回収できることになり,この点においても原告らの主張には理由がない。
(被告C社の主張)
企業の不祥事があった場合,株価は当然下落するが,この価格下落局面で
株式を売却した者について,取得価格と売却価格の差額を損害として認定した場合,株主となる投資家は,少なくとも取得時点の価格が保証される結果をもたらすことになる。
また,市場における株価は,様々な要因により上下動を繰り返すものであって,投資家の売買の手法によっても変動するものであるから,市場価格は必ずしも株式の本来的価値を反映しているものではない。したがって,株式の取得価格と売却価格の差額を損害額とすることは合理性がない。第3
1
当裁判所の判断
決算の粉飾性の有無(争点(1))について
(1)

認定事実
前提事実及び証拠(甲11,13,21,23,乙A1ないし9(枝番号
も含む。),乙B1ないし3,乙C1,被告D,同E及び同F)並びに弁論の全趣旨によれば,8月26日の取引の経緯とその後の会計処理に関して,次の事実が認められる。

G社は,CRM(顧客情報管理システム)のコンサルティング等を行う会社であり,平成14年ころは被告C社の売上高の7割前後を占める大口取引先であった。


被告C社は,平成12年ころから,平成15年3月に開催予定の第3回世界水フォーラム(以下WWF3という。)のシステム開発業務をG社から受注し,システム開発を進めていた。なお,WWF3の取引に関するG社の担当者は,当時同社の副社長であったI(以下I副社長という。)であり,被告C社の担当者は,東京事務所の責任者であったJであった(Jは,平成14年9月30日付けで被告C社を退職している。)。


平成13年ころ,被告Dは,I副社長から,WWF3のシステム開発の発注元である国土交通省からの入金が滞っており,被告C社に対しても,
WWF3関連費用として支払を続けることは社内的に処理できず難しいが,支払名目をWWF3関連費用ではなく,別案件に関するものにすれば支払は可能であるとの説明を受けた。

被告Dは,I副社長の上記申し出を了承し,それ以降,G社から支払われるWWF3関連費用は,別案件名でなされることとなった。こうした処理がなされることを受けて,Jは,被告C社が行ったWWF3関連の業務内容及び売上額と,G社からの支払名目及び支払額を対応させて管理するために,精算金一覧表を作成し,G社から別案件名での入金がある都度,WWF3関連の業務の売上げに充当し,余剰が生じた場合には,G社に対する運用費やホームページ更新費の売上げに充当するという扱いをしていた。


平成14年春ころ,G社から,WWF3関連費用として合計6535万円(税込6861万7000円)がクイックキャンペーンパッケージカスタマイズ一式,LG介護情報管理システム開発等の名目で支払われることとなり,Jは,同年7月4日付けで,そのための精算金一覧表を作成した。
このころ(同年6月から),被告Eが東京事務所に赴任し,同年9月に退職したJが担当していた顧客を引き継ぐことになったため,G社との取引も担当することとなった。


同年8月に入ると,被告Dは,I副社長から,上記6535万円(税
抜)の支払と同時に,H社に対して6200万円(税抜)を支払ってほしいとの依頼を受けた。なお,当時,被告C社とH社との間には何らの取引もなかった。

そして,同年8月23日,I副社長から,被告Dと同Eに対して,次のような架空取引に基づく6200万円(税抜)のH社に対する支払依頼のメールが送付された。

今般お願いしています件は,B.I.社のK社長と確認して次のような内容でご処理頂けることになりましたので宜しくお願いいたします。(1)7月1日∼8月15日の期間でAT社からの受託でB.I.社はコールセンター構築のコンサルテーションを提供しました。価格は6200万円(税抜)です。対象顧客はAT社がWebシステム関連で長年取引がある東京の会社ですが,今回コールセンタの構築ということでB.I.社にコンサルを委託したものです。(2)6月20日付の見積書,8月15日付の納品書と請求書をB.I.社からAT社に発行します。(3)6月24日付の注文書,8月16日付の受領書をAT社からB.I.社に発行します。(4)8月28日付でAT社からB.I.社に6510万円(税込)が振り込まれます。B.I.社は貴社H社です。AT社はC株式会社です。つきましては,H社のL様宛,E様よりコンタクトして当件の書類の確認をして頂きたくお願いいたします。ク
さらに,H社のL取締役経営企画室室長から,被告D及び同Eに対して,同月24日,次のようなメールが送付された。
今回の件ですが,事は急を要しますので,取り急ぎ弊社が準備すべき書類を一式送ります。内容をご確認の上,問題なければその旨,問題あるようでしたらそれらの点を返信メールにてご回答ください。ご回答いただき次第,最終版を準備し,押印後,まずはFAXで,同時に最速の方法でオリジナルの書類をお届けしますので,FAX番号及び送付先住所と電話番号もあわせてお知らせください。

こうしたやり取りを経て,I副社長から,同日,被告Dに対して,次の
ようなメールが送付された。

先般お話いたしました買掛金6,535万円(税込68,617,500円)は26日(月)にお振込みさせて頂きますのでご確認ください。よろしくお願いします。


被告Dは,同月26日,被告Eに対して,H社からの請求書を管理部に渡し,同社に対する支払を指示するようメールで指示した。
これに対して,被告Eから,同日,被告Dに対して,

了解しました。I副社長とは新規受注として処理と調整しました。

との回答がなされた。

8月26日の取引後,Jは,平成14年7月4日付けの精算金一覧表(前記オ)に,手書きで,8月26日にG社から6535万円(税抜)が支払われ,そのうち6200万円(税抜)をH社に入金したこと,残額335万円は運用費に充填することを記載した。


また,被告Dは,同Eからの上記コ記載のメールによって,8月26日にH社に支払った金額(税抜6510万円)については,後にG社からそれに相当する新規発注がなされるものと認識し,同年9月10日,被告Eに対して,メールで

G社の6500万の売上げの処理(受注管理など)お願いします。

と指示していた。これに対し,被告Eからは,同日,メールで

I副社長とつめます。社内の見積もり原稿の処理は今日行います。

との回答があり,さらに,同年10月3日,次のようなメールが送付された。
G社I副社長よりサルですが9月上げス8月前回6500万で仮受注しているCTIコン5000万で受注3000万∼4000万で受注9月1ヶ月作業で売り上げ10月1ヶ月作業で売りでお願いしたいとの話になってきています。
被告Dは,8月26日の支払を経理上どのように処理するかについて,被告C社の管理部長であったM(以下M管理部長という。)に委ね
ていたところ,その後,同部長から,当初は仮払扱いしていたが最終的に前渡金として処理し,この前渡金については新規受注案件の費用として振り替えていくとの説明を受けた。

そして,G社から,同年9月に5050万円の新規案件が,同年10月に3870万円の新規案件がそれぞれ発注された(したがって,上記ス記載のM管理部長の説明によれば,8月26日の支払の前渡金は,これらの新規案件の費用として振り替えられる予定であった。)。


ところが,M管理部長は,平成15年1月20日,被告Eに対し,次のように,損益計算書を修正するためにH社との間の平成14年8月26日の架空取引に関する納品書及び請求書を分割する必要がある旨のメールを送付した。
PL修正のための必要な作業を記します。お手数ですが,宜しくお願します。①BIからの納品書および請求書の訂正が必要です。平成14年8月15日付現状請求書番号1500-07-02を50,000K―コールセンター構築コンサルティングフェーズ112,000K―をコールセンター構築コンサルティングフェーズ116,100K―※コールセンター構築コンサルティングフェーズ1修正コールセンター構築コンサルティングフェーズ112,000K―コールセンターWEB開発フェーズ1(0302)12,600K―※コールセンターWEB開発フェーズ2(0303)11,800K―※コールセンターWEB開発フェーズ2(0304)9,500K―※※の合計が50,000K―です。に訂正していただき,それぞれ開発フェーズの売上を0302∼0304で立てる。タ
M管理部長の上記依頼に基づき,被告C社とH社との間で,8月26日
の支払に関する請求書及び納品書が,前提事実(4)ウ(ウ)のとおりに作り替えられ(なお,実際に作り替えられた請求書等は,上記メールの内容とは,項目及び金額の点で多少の違いがある。),被告C社では,平成15年1月期中間決算の決算書類を作成するに当たり,係る請求書等を利用して,8月26日の支払の前渡金全額を外注費に振り替えるのではなく,そのうち2160万円(税込2268万円)だけを新規案件の外注費として振り替え(平成14年9月の5050万円の新規案件に対応するものとして960万円(税込1008万円)を,同年10月の3870万円の新規案件に対応するものとして1200万円(税込1260万円)を外注費として振り替えた。),残額の4040万円(税込4242万円)については前渡金のまま資産計上するという処理を行った。
なお,同前渡金4040万円(税込4242万円)は,平成15年5月に,平成14年9月の5050万円の新規案件に対応するものとして外注費に振り替えられることにより償却処理された。

ところで,被告C社では,8月26日の取引をきっかけとして,その後もG社から,架空取引に基づく他社への支払を依頼されるようになり,M管理部長は,こうした支払について,前渡金管理表を作成して管理し,被告Dや同Eに報告していた。
そして,被告Fが被告C社に入社して会計処理を担当するようになった後は,被告FがM管理部長から前渡金管理表を引き継ぎ,被告Eから交付される書類(個別の取引について売上げと原価が対応する形で記載されたもの)に基づいて会計処理をしていたが,こうした処理とは別に,月末になると,被告Eから他社への支払を指示されることがあり,被告Fは,係る支払額をいったん前渡金管理表に記載し,その後,被告Eから指示があればそれを外注費に振り替えるという処理を行っていた。


ところが,経費に振り替えられず前渡金のまま計上される金額は次第に
増加し,平成15年7月期には1億7314万円に上っていた。

被告Fは,会計処理を行う中で,経費に振り替えられず前渡金のまま計上される金額が増額していくことにより,経理上のスルー取引における売上げと原価の対応関係に不自然さが生じており,同スルー取引における被告C社の利益率が異常に高くなることや,前渡金の額の大きさなどに疑念を持ち,M管理部長や被告Eにそのことを質問したことがあったが,明確な回答は得られなかった。


また,被告F,同E及びM管理部長は,株式公開後の平成15年9月ころ,被告Dに対し,前渡金の増加が問題であることに加え,利益目標を達成するにはさらに前渡金が増加することになると訴えたが,同被告は,次回決算までは前渡金の計上を続けるが,その後は受注の拡大により前渡金を処理できる見込みがあると説明し,被告Fらの申し出を退け,被告Fらはこれに従った。


さらに,被告Fが,監査の状況を報告するために,平成16年9月7日に被告Dに送付したメールには,前渡金に関して次のような記載があり,これに対して,被告Dは

状況把握できました。課題については,今後ひとつひとつ解決していきましょう。

と返信していた(甲21添付B)。○前渡金・仕掛処理についてどうにかつじつまを合わせていますが限界が近いようです。計上時にはどの案件の原価に付くのか先の受注も確定しなければならない為,無理が生じている。今後必然的に金額が益々大きくなるので,つじつまを合わせるのが困難な状況になってきている。
(2)

当裁判所の判断
前提事実(4)エ記載のとおり,調査委員会は,8月26日の取引を,架空取引でなければスルー取引であると認定した上,スルー取引では費用収
益対応の原則が適用されることを前提として,その売上げ(G社からの入金)に対応する原価(H社に対する支払)の一部を前渡金として資産計上し,その分利益を過大に計上したことが粉飾決算に当たると判断している。しかしながら,前記認定のとおり,平成14年8月26日のG社からの入金は,被告Dの主張どおり,実質的にはWWF3関連の売上金に対する支払であり,他方,H社に対する支払は,G社のI副社長がH社と協議して取り決めた実体のない架空取引に関するものであるから,H社に対する支払は,G社からの入金とは取引上何ら関係のないものといわざるを得ない。
そうすると,8月26日の取引を1つのスルー取引と認定することはできず,同日の入金と支払に対して費用収益対応の原則を適用することもできないから,これらを同一事業年度に計上しなかったことが,直ちに利益の過大計上として粉飾決算に当たるとは評価できない。
したがって,この限りにおいては,被告Dの主張には理由がある。イ
もっとも,前記認定事実によれば,被告C社は,8月26日の支払の見返りにG社から新規発注を受けることになったところ,その後,実際に,G社から,9月に5050万円,10月に3870万円の新規発注がなされている。
そうすると,被告C社における会計処理としては,8月26日の取引後の新規案件の中で,H社に対する支払分全額を外注費に振り替えることにより,当該事業年度内で前渡金を償却することができたはずであり,実現した収益(9月の5050万円と10月の3870万円)に対応する費用(8月26日の支払)を同じ事業年度に計上しなければならないという会計上の原則(費用収益対応の原則)の趣旨に鑑みても,そのような処理をしなければならなかったというべきである。
ところが,前記認定事実によれば,平成15年1月期の中間決算におい
て外注費として振り替えたのは,6200万円(税込6510万円)のうち2160万円(税込2268万円)のみであり,残額4040万円(税込4242万円)は前渡金として計上し,その振り替えを翌期に繰り延べている。
そうすると,被告C社では,8月26日の支払(前渡金)を外注費に振り替えなければならない新規受注案件において,本来同一時期に行うべき外注費への振り替えを,一部翌期に繰り延べていたことになるが,繰り延べた前渡金は経費処理を先送りした金額にすぎないから全く資産性のないものであり,外注費への振り替えを翌期に繰り延べることにより,その分当期の利益を過大に計上していたことになる。
また,経費に振り替えられず前渡金のまま計上される金額が次第に増加していき,平成15年7月期には1億7000万円を超える巨大な額になったこと,そして,被告Fが,経理上のスルー取引における被告C社の利益率が異常に高くなると感じていたこと,利益目標を達成するには前渡金がさらに増加することになると考えており,被告Dに対するメールで,つじつまを合わせるのが困難な状況になってきていると報告していたことに照らすと,8月26日の取引後になされたG社との間の同様の取引(すなわち,同社から架空取引に基づく他社への支払を依頼され,その後に支払分に充当するため新規発注の形態が取られるという取引)においても,被告C社では,他社への支払後にG社から発注される新規案件において前渡金を外注費に振り替える際,本来であれば,いったん前渡金扱いとした他社への支払分全額を同一時期に外注費に振り替えなければならないのに,これを分割して,一部を先送りすることで,当該案件における利益を過大に計上し,他方で資産性のない前渡金も増加させていったものと推認することができる。

すなわち,被告C社で行われていた不適切な会計処理の実態は,架空取
引に基づく他社への支払に端を発し,前渡金扱いとした当該支払を外注費に振り替えなければならない新規案件において,適切な金額の振り替えがなされないことにより,利益が過大に計上されるとともに,資産性のない前渡金が積み残されていったというものであり,こうした会計処理は客観的には粉飾決算に当たるというべきである。そして,前記認定事実の経過に照らすと,粉飾決算がなされた時期は,平成15年1月期中間決算以降であり,これが平成16年10月21日の公表まで続いたと認められるから,平成15年1月期中間決算における決算書類及び有価証券届出書,同年7月期決算における決算書類及び有価証券報告書,平成16年1月期中間決算における決算書類及び半期報告書並びに前提事実(2)記載の財務状況に関する開示には虚偽の記載があったものと認められる。
なお,各期における粉飾額(過大に計上された利益の額)については,正確に算定する資料がないが,上記の粉飾の態様に照らすと,少なくとも前渡金として資産計上された金額のうちのかなりの部分は粉飾されたものであると考えられる。
したがって,被告C社では粉飾決算がなされていないという被告Dの主張は採用できない。
2
原告らが被った損害は直接損害といえるか(争点(2))について被告らは,原告らが損害とする株価の下落は,会社に損害が生じたことによって発生したいわゆる間接損害であり,商法266条の3は株主の間接損害には適用されないから,被告E及び同Dは同条に基づく責任を負わず,被告C社も商法261条3項,78条2項,民法44条1項に基づく責任を負うことはない旨主張する。
しかしながら,本件は,原告らが株主であった時期に取締役の行為によって会社に損害が生じた結果株主である原告らに損害が生じたものではなく,被告C社の粉飾決算を知らない第三者の原告らが被告C社の株式を購入したために
損害を被ったという事案であるから,その損害は第三者に発生した直接損害というべきであり,被告らの主張は採用できない。
3
被告Dの責任(争点(3)ア)及び被告C社の責任について
まず,被告Dの不法行為(民法709条)の成否について検討するに,前記認定事実によれば,被告C社は,原告Bが株式を購入した平成16年6月29日や原告Aが株式を購入した同年7月2日以前の平成15年1月期の中間決算から粉飾決算を行い始め,それに基づく財務情報の情報開示を行っていたところ,M管理部長は前渡金管理表を作成してこれを被告Dに報告していたし,被告Fは被告Eの指示に基づき前渡金を外注費に振り替えていたものの,平成15年には,被告Fらから前渡金の増加が問題であること及び利益目標を達成するにはさらに前渡金が増加することになると訴えられたことに対し,被告Dが,次回決算までは前渡金の計上を続けるが,その後は前渡金を処理できる見込みがあると説明して,これを退けており,平成16年9月7日の被告F・被告D間のメールのやりとりの内容に照らせば,被告Dは,被告Eが供述しているように,当初から前記認定の粉飾決算を行うことを被告Eを介して指示していたか,少なくとも同粉飾決算が行われていることを知りながらこれを容認する姿勢を示していたことが認められる。
そうすると,粉飾決算が行われた場合には,後にそれが発覚し,本件のような経過を辿って株価が下落し,監理ポスト割り当ての措置を取られ,さらには上場廃止となることにより,それを知らずに株式を購入した者に対して損害を与える可能性があることは十分予見し得るというべきであるから,これを止めずに,かえって粉飾決算を行うことを指示していたか,あるいはこれを容認していた被告Dには,少なくとも過失があると認められる。
したがって,被告Dは,粉飾決算がなされていることを知らずに被告C社の株式を購入したことにより発生した原告らの損害を賠償すべき不法行為責任を負うというべきである。

また,上記認定事実によれば,被告Dはその職務を行うについて上記不法行為を行ったものであるから,被告C社も,商法261条3項,78条2項,民法44条1項に基づき,原告らに対し不法行為責任を負うことになる。4
被告Eの責任(争点(3)イ)について
まず,商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任の成否について検討するに,株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にあるから,取締役会を構成する取締役は,会社に対し,取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず,代表取締役の業務執行一般につき,これを監視し,必要があれば,取締役会を自ら招集し,あるいは招集することを求め,取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有するものと解すべきである(最高裁昭和48年5月22日第三小法廷判決・民集27巻5号655頁参照)。
そうすると,前記認定事実によれば,被告Eは,最初に前渡金を資産計上することになった8月26日の取引に関する請求書及び納品書の作り替えを依頼するM管理部長からのメールを受け取っており,また,被告Fに対し,前渡金として処理する支払及び前渡金を外注費に振り替える指示を行っていたし,被告Fから前渡金の問題について疑問を投げかけられていたこともあり,被告FやM管理部長とともに,被告Dに対して,前渡金の増加が問題であり,利益目標達成のためには前渡金がさらに増加することになると訴えていたのであるから,前渡金の増加が粉飾決算になるとの認識を持っていたか,少なくともそのおそれがあるとの認識を持っていたと認められる。
そうすると,被告Eが供述するように,それが被告Dの指示によるものであったとしても,被告Eは取締役としての代表取締役の業務執行を監視・監督する職務を懈怠して,前渡金増加に伴う決算上の問題点を取締役会に諮り,それを是正するなどの措置を取ることなく,被告Dの指示に従い,故意に,そうでなくとも上記認定事実によれば重大な過失に基づき,被告Fに対し,前渡金増
加(粉飾決算)となる外注費振り替え時期の指示を行っていたのであるから,原告らに対して,商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任を負うといわざるを得ない。
5
被告Fの責任(争点(3)ウ)について
被告Fが取締役に就任したのは平成15年10月であるから,平成16年1月期中間決算における決算書類及び半期報告書並びに前提事実(2)記載の財務状況に関する情報開示について,被告Fが商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任を負うか否かについて検討するに,前記認定事実によれば,被告Fは,経費に振り替えられず前渡金のまま計上される金額が増額していくことにより,経理上のスルー取引における売上げと原価の対応関係について不自然な状態が生じており,同スルー取引における被告C社の利益率が異常に高くなることや前渡金の額の大きさなどに疑念を持ち,M管理部長や被告Eに対し,そのことについて説明を求めていたし,被告Dに対し,前渡金の増加が問題であって,利益目標達成のためにはさらに前渡金が増加することになると訴えていたのであり,平成16年9月7日の被告F・被告D間のメールのやりとりの内容に照らせば,被告Fは,前渡金の増加が粉飾決算になるとの認識を持っていたと認められる。
そうすると,被告Fは,粉飾決算をやめるよう進言していたものの,取締役としての代表取締役の業務執行を監視・監督する職務を懈怠して,粉飾決算を止めるために,取締役会に諮りそれを是正するなどの措置を取ることなく,被告D及び同Eの指示に従って,故意に粉飾決算の会計処理を行っていたのであるから,原告Bに対して,商法266条の3第1項に基づく損害賠償責任を負うといわざるを得ない。

6
損害との因果関係及び損害額の算定(争点(4))について
前記認定事実によれば,それが後に発覚すれば株価が下落して監理ポスト割り当ての措置を取られ,ときには上場廃止となって,それを知らずに株式を購
入した者が損害を被ることとなる粉飾決算に関わる前記認定の被告らの行為が存在したために,被告C社に前記認定の粉飾決算がなされ,それを知らない原告らが被告C社の株式を購入したところ,後に粉飾決算が発覚して,株価が下落し,監理ポスト割り当ての措置を取られたため,原告らが前記認定のとおり上記株式を売却せざるを得なくなって,株式取得価格と売却によって得た金額との差額相当の損害を被ったものであるし,前記認定事実によれば,原告らの上記購入及び売却の経過は通常の経過を辿っているといえるので,原告らに発生した損害は,被告らの粉飾決算に関わる前記認定の各行為によって通常発生する損害であり,その間に相当因果関係があるといえる。
したがって,原告らの損害額は,各自の株式取得価額から最終的な売却処分によって得た金額を控除する方法により算定するのが相当であるから,原告らの損害額は,その主張するとおり,原告Aについて100万4000円,原告Bについて1487万3700円と認められる(なお,原告Aは,取得時の株価ではなく,一部売却時の株価を基礎として損害額を算定しているが,後者の方が低額となるため,主張どおりの金額を損害額として認定する。)。7
結論
以上のとおり,原告らの請求はいずれも理由があるからこれらを全部認容することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,65条1項本文を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。大分地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官

一志泰滋
裁判官

神野泰一
裁判官

矢崎豊
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