判例検索β > 平成16年(ワ)第7957号
地位確認等請求事件
事件番号平成16(ワ)7957
事件名地位確認等請求事件
裁判年月日平成20年1月23日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第5民事部
判示事項の要旨市民的及び政治的権利に関する国際規約27条等は外国籍の子どもらに対するマイノリティの教育権を具体的権利として保障したものではなく,また,市が外国籍の子どもらを対象にした教育事業を継続的に行ってきたことにより上記教育権が具体的な権利として確立していたとは認められないとされた事例
裁判日:西暦2008-01-23
情報公開日2017-10-17 20:45:24
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1
1
当事者の求めた裁判
原告ら

(1)被告高槻市は,原告A及び原告Bを除くその余の原告らに対し,それぞれ10万円及びこれに対する平成16年8月25日から支払済みまで年5%の割合による各金員を支払え。
(2)被告らは,原告Aに対し,各自100万円及びこれに対する平成16年8月25日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(3)原告Bと被告高槻市との間で,原告Bが高槻市多文化共生・国際理解教育事業専門指導員たる地位を有することを確認する。
(4)被告高槻市は,原告Bに対し,平成16年4月から毎月末日限り,13万1957円を支払え。
(5)被告高槻市は,原告Bに対し,100万円及びこれに対する平成16年3月31日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(6)訴訟費用は,被告らの負担とする。
(7)(1),(2),(4)及び(5)について,仮執行宣言
2
被告ら

(1)(本案前の答弁)
原告Aの被告C,被告D,被告Eに対する請求をいずれも却下する。(2)(本案の答弁)
原告らの請求をいずれも棄却する。

(3)訴訟費用は,原告らの負担とする。
第2

事案の概要
本件は,①原告A及び原告Bを除く原告ら(以下原告子どもらという。
)が,被告高槻市による多文化共生・国際理解教育事業(当初,在日韓国・朝鮮人教育事業であったものを名称変更等したもの。以下本件事業ということがある。
)の縮小・廃止によりマイノリティーとしての教育を受
ける権利を侵害され,精神的損害を被ったとして,被告高槻市に対し,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ10万円の慰謝料の支払いを求め,②原告Aが,被告らによる虚偽告訴と不当な配転命令により精神的苦痛を被ったとして,被告高槻市に対して国家賠償法1条1項に基づき,被告C,被告D及び被告Eに対して民法719条及び710条に基づき,連帯して100万円の慰謝料の支払いを求め,③原告Bが,被告高槻市による雇止めは不当な目的に基づく無効なものであるとして,同市に対し,地位確認と雇止め以降の賃金毎月13万1957円及び国家賠償法1条1項に基づく慰謝料100万円の各支払いを求めた事案である。

1
前提となる事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)

(1)当事者

被告高槻市は,同市における教育事業を担う組織として高槻市教育委員会(以下市教委という。
)を設置している。
被告Cは高槻市長,被告Dは市教委の教育長,被告Eは平成16年3月末日まで市教委社会教育部青少年課主幹の地位にあり,その後,市教委社会教育部次長を経て,市教委事務局理事兼教育政策室長の地位にある者である(乙24)



原告子どもらは,日本,韓国,中国,ブラジル,ベトナム,フィリピン,米国等の国籍,又はこれらの二重国籍を有し,民族的出自も一方の親が日本以外にある者,
両親ともに日本以外である者など多様であるが,

いずれも本人又は親の国籍が日本以外,あるいは民族的出自が日本以外の者である(弁論の全趣旨)

なお,原告子どもらのうち数名は,本件訴訟係属中に成年に達している(いずれもそれぞれの本国法による。。


原告Aは,平成4年4月1日,市教委の正職員として採用され,本件事業に従事していたが,平成15年4月1日の人事異動により,a図書館業務等に従事している者である(弁論の全趣旨)



原告Bは,平成12年4月1日,市教委から地方公務員法3条3項3号の非常勤職員として1年間の委嘱を受け,その後,平成13年4月1日,平成14年4月1日,平成15年4月1日にそれぞれ1年間の委嘱期間の更新を受け,平成16年3月31日まで,多文化共生・国際理解教育事業専門指導員として勤務していた者である(弁論の全趣旨)。

(2)本件事業の発足とその後の経緯

被告高槻市の在日外国人教育は,
昭和42年,
高槻市立第6中学校以

下高槻6中という。
)で,厳しい差別や生活実態のために生じてい
る生活の荒れと低学力を克服する取り組みとして始まった。
学校内に,
在日韓国・朝鮮人子ども会以下学校子ども会」

という。)が設置され,その活動を通して,在日韓国・朝鮮人生徒の民族的自覚と誇りを高めるとともに,日本人生徒が共に学ぶことを通して偏見や差別意識をなくし,豊かな人権意識を育てる取り組みが行われた。(以上,甲6)イ昭和47年,高槻6中を卒業した在日韓国・朝鮮人青年たちの手によって,高槻むくげの会が設立された。高槻むくげの会は,在日韓国・朝鮮人が多数居住する地域で地域子ども会,高校生の会,日本語識字教室を実施し,各種啓発活動に取り組んできた。(以上,甲6,弁論の全趣旨)ウ昭和57年,市教委は,在日韓国・朝鮮人問題取り組みについての教育基本方針(以下「本件基本方針という。)を制定した。
本件基本方針では,

在日韓国・朝鮮人の生活と権利の保障については,国の抜本的な施策を求めるとともに,市の施策等と相まって在日韓国・朝鮮人の教育課題の解決に一層努めなければならない。

との基本認識が示された。
そして,学校教育分野では,重点目標として,
①在日韓国・朝鮮人児童・生徒の在籍数が比較的多い学校においては,学校に在日韓国・朝鮮人子ども会を設置し,その活動を学校教育課程外特別活動として位置づけ,その保障に努める,②子ども会の推進には,基本的に同胞の指導員の配置と援助が必要である,③在日韓国・朝鮮人の教育を充実させ,効果的に推進するには,教職員の指導力の向上をはかる必要がある。等が掲げられた。また,社会教育分野では,
①在日韓国・朝鮮人問題に対する正しい認識がはかれるよう,地域社会や市民に対して啓発に努める,②在日韓国・朝鮮人の社会生活を向上させるため,子ども・青年,婦人等,各々に適応した学習機会の提供や活動の助成を行う。とされた。(以上,甲5)


昭和60年8月1日,市教委は,在日韓国・朝鮮人教育事業を発足させ,市教委内の社会教育事業部青少年課を担当部署として,それまで高槻むくげの会が取り組んでいた地域子ども会,日本語識字教室,高校生の会などの事業及び既に実施されていた学校子ども会を市教委の直営事業とした。
市教委が実施した在日韓国・朝鮮人教育事業の概要は,次のとおりであり,その後,実施内容に若干の変化はあったものの,平成13年度ま
では概ねこの概要に沿って事業が進められた。
在日韓国・朝鮮人教育事業発足時(昭和60年8月)の概要

事業

事業実施日

時間

場所

指導体制

学校子ど毎週火曜日学校が指1中,2中,6中,8中の4校正職と非常勤が対応も会

定する時で実施

(中学校)

(4人)


学校子ど毎週金曜日学校が指磐手小,高槻小,芥川小の3校正職と非常勤が対応も会

定する時で実施

(小学校)

(3人)


日本語識毎週月,木午後0時青少年課分室

報償費対象指導員5名

字中央教

から3時

が対応


まで

日本語識毎週火,,午後7時成合北の町自治会館

報償費対象指導員2名

字成合教土

から9時

が対応


まで

地域子ど毎週月,,午後4時中央地区,別所地区,成合地区正職,非常勤,及び報水
も会


から9時

償費対象指導員の6名

まで

が対応

学校長期休暇期間は月曜から土曜まで,午前9時から正職,非常勤,及び報午後1時まで実施

償費対象指導員の9名
が対応

日曜日等に特別活動の実施

正職,非常勤,及び報
償費対象指導員の9名
が対応

高校生の毎週火,金午後7時

青少年課分室

から9時

報償費対象指導員1名
が対応

まで
(報償費対象指導員とは単価1000円/時間の報償費を得て指導に当たる指導員のこと)

平成4年,被告高槻市と市教委は,在日韓国・朝鮮人教育事業の改革についての論議を始めた。
この改革論議は,
当初,
在日韓国・朝鮮人教育事業の社会教育分野地

域子ども会,日本語識字教室,高校生の会など)の改革を目的としていたが,その後,在日韓国・朝鮮人教育事業を日本社会の国際化による外国人市民の教育にも対応できるよう改革する必要があるとして,本件基本方針を改訂する方向で進められた。
平成10年,在日韓国・朝鮮人教育事業運営委員会に,在日韓国・朝鮮人教育改革推進会議提言が提出され,平成11年,市教委は,高槻市在日外国人教育にかかわる教育基本方針策定委員会(以下基本方針策定委員会という。)を発足させた。


他方,市教委内部では,
人権教育のための国連10年高槻市行動計画に基づき,高槻市人権基本方針の策定が論議されており,平成10年9月には,人権教育基本方針が決定された。
さらに,市教委は,人権教育基本方針だけでは具体性に欠けることから,具体的な施策となる人権教育推進プランの策定を目指していた。

そこで,基本方針策定委員会は,平成12年4月,それまでの在日韓国・朝鮮人教育事業改革論議の成果を反映させる形で,人権教育推進プランを完成させた。


人権教育推進プランは,
在日外国人教育の推進の項で,

在日外国人教育を推進していくため,これまでの手法と実績を活かし,在日韓国・朝鮮人教育事業を,多文化共生教育の視点に立って,21世紀に対応できる在日外国人教育事業として発展させるよう努めます。

と述べている。
そして,学校教育分野では,
①教育を受ける権利の保障,②在日韓国・朝鮮人教育の推進,③渡日外国人児童生徒や複数の文化を受け継いでいる児童生徒の教育の推進,④多文化共生教育の推進を課題として掲げ,社会教育分野では,
①多文化共生社会づくりの推進,②児童生徒の活動への支援,③啓発活動の推進を課題として掲げている。
(以上,甲6)

人権教育推進プランの策定とほぼ同時に,在日韓国・朝鮮人教育事業は,多文化共生・国際理解教育事業へと発展的に解消された。
なお,平成14年度の多文化共生・国際理解教育事業の内容は,次のとおりであった。
平成14年度の多文化共生・国際理解教育事業の概要

事業

事業実施日

時間

場所

指導体制

学校子ど毎週火曜日学校が指1中,2中,6中,8中,芝谷正職と非常勤,及び報も会
(中学校)

定する時中の5校で実施

償費対象指導員の5名


が対応

学校子ど毎週金曜日学校が指磐手小,北日吉台小,日吉台小正職と非常勤が対応も会
(小学校)

定する時の北部3校で実施

(3人)


日本語識毎週月,木午後0時青少年課分室

報償費対象指導員5名

字教室

が対応

から3時
まで

地域子ど毎週月,水午後4時中央地区,北部地区,柱本地区正職,非常勤,及び報も会

から9時(水曜日)
,牧田地区(月曜日償費対象指導員の6名
まで

の4時から6時まで)


が対応

毎週土曜日に合同子ども会,民族文化講座を中央地区正職,非常勤,及び報で実施(午前10時から午後3時まで)

償費対象指導員の6名
が対応

土曜日,学校長期休暇日に特別活動を実施

正職,非常勤,及び報
償費対象指導員の9名
が対応

高校生の毎週火曜日午後7時

青少年課分室

から9時

報償費対象指導員1名
が対応

まで
(報償費対象指導員とは単価1200円/時間の報償費を得て指導に当たる指導員のこと)

平成13年9月,市教委は,在日外国人教育の今後の在り方について(提言)
(以下平成13年の提言という。
)を作成した。
この提言は,21世紀を迎えた現在,在日外国人にかかわる施策は,今までの在日韓国・朝鮮人のみを対象とした取り組みから,広く日本人の内なる国際化に向けた施策や,新たに渡日してきた在日外国人をも対象にした施策に転換していくことが求められている。こうした時代と社会のニーズに対応すべく,教育事業の見直しを行い,多文化共生の社会づくりを進める事が大切である。と述べている。そして,今後の方向性として,
学校教育全般を通した取り組みを展開し,全ての小中学校で多文化共生・国際理解教育を実施していくことが求められており,現在のような8校に限定した学校子ども会活動への行政的支援は廃止することが望ましい。「地域子ども会や高校生の会
の活動に参加している児童・生徒の減少により活動そのものが成立しにくい実態が出てきている上,在日韓国・朝鮮人生徒については一定の成果をあげてきたことから,今後は多文化共生の社会作りにむけた新たな事業展開に移行していくことが求められており,地域子ども会活動等への行政的支援は廃止することが望ましい。
」としている。
また,
在日韓国・朝鮮人一世を対象にしてきた日本語識字教室も,現在では受講生の高齢化が進み,当初の文字を修得するといった目的から,受講生とボランティアとの交流の場になっていたり,受講生にとっての憩いの場になっている面もあり,行政的支援の役割を終えていくことが望ましい。としている。(以上,甲7)

市教委は,平成14年度の多文化共生・国際理解教育事業に対する予算を大幅に削減し,平成15年3月31日には,学校子ども会,高校生の会を全廃し,多文化共生・国際理解教育事業に関わる正職員を2名から1名に減員し,非常勤職員を2名から1名に減員した。

(3)報償費に関する刑事告訴

平成14年12月27日,
被告高槻市の市長は,
市教委が多文化共生・
国際理解教育事業の一環として実施していた日本語識字教室の運営において,日本語指導員に対して支払っていた報償費約32万円が騙し取られたとして,高槻警察署に対し,被疑者不詳のまま,刑事告訴を行った(以下本件告訴という。。



本件告訴に伴い,報償費の支払事務を担当していた原告Aは,高槻警察署から,被疑者として事情聴取され,家宅捜索を受けた(甲200の1)


(4)原告Aの配置転換
原告Aは,平成4年4月1日,市教委の正職員として採用され,社会教
育部青少年課にて本件事業に従事していたが,平成15年4月1日,a図書館への異動を命ぜられた弁論の全趣旨。本件配転命令

以下
という。。

(5)原告Bの雇止め

原告Bは,平成5年4月1日から,被告高槻市の行う在日韓国・朝鮮人教育事業にアルバイト職員として関わってきた。


その後,原告Bは,非常勤職員採用試験を受験し,平成12年4月1日,次の条件で,市教委に非常勤職員として採用され,その後,平成13年4月1日,平成14年4月1日,平成15年4月1日から,それぞれ1年間ずつ委嘱期間は更新された。
職務内容
委嘱期間

1年

勤務時間

多文化共生・国際理解教育事業専門指導員

週29時間

市教委は,原告Bに対し,平成16年3月31日以後は契約を更新しない旨を通知した(以下本件雇止めという。。


2
争点

(1)原告子どもらの請求について

権利侵害の有無

‥‥‥争点1


原告子どもらの損害

‥‥‥争点2

(2)原告Aの請求について

被告C,被告D及び被告Eに対する請求の可否

‥‥‥争点3


本件告訴の違法性

‥‥‥争点4


本件配転命令の違法性

‥‥‥争点5


原告Aの損害

‥‥‥争点6

(3)原告Bの請求について

本件雇止めの違法性


‥‥‥争点7

原告Bの損害

‥‥‥争点8

第3
1
争点に関する当事者の主張
原告子どもらの請求について

(1)争点1(原告子どもらに対する権利侵害の有無)について
【原告子どもらの主張】

マイノリティの教育権

(ア)原告子どもらはマイノリティであること
日本社会における多数者(マジョリティ)は,国籍が日本でありかつ両親及びその祖父母のルーツもすべて日本に持つ者である。
これに対して,原告子どもらは,国籍が外国籍であったり,両親やその祖父母のルーツが外国にあるなどして,日本社会のマジョリティとは異なった言語や文化などを享有するマイノリティである。
国際規約をはじめ以下の条約及び法律によって,マイノリティたる原告子どもらには,
以下のとおり,
公の費用負担のもと,
マイノリティ
としての教育を受け,マイノリティの言語を用い,マイノリティの文化について積極的に学ぶ環境を享受できる権利(以下マイノリティの教育権という。)が保障されている。
(イ)自由権規約27条
a
日本において昭和54年8月4日に発効した市民的及び政治的権
利に関する国際規約(以下自由権規約という。
)27条は,
種族的,宗教的又は言語的少数民族(マイノリティ)が存在する国において,当該少数民族に属する者(マイノリティ)は,その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し,自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されないと定めている。

b
平成4年12月18日に国連総会において採択された民族的,宗教的,言語的マイノリティに属する人々の権利に関する宣言以(

下マイノリティ権利宣言という。
)は,自由権規約27条の規
定を具体化したものであり,同宣言の条項の解釈を示したコメンタリーは,自由権規約の重要な解釈指針となるものであるところ,マイノリティ権利宣言2条は,自由権規約27条の否定されない
というネガティブな表現を,
権利を有するというポジティブな
表現に変え,国家の義務を以下のとおり定めている。
(a)マイノリティ権利宣言1条は,1項で,国家は,マイノリティ

の存在とその民族的,文化的,宗教的,言語的アイデンティティを保護し,そのアイデンティティを促進するための条件を助長しなければならない。

とし,2項で,

これらの目的を達成するために適当な立法その他の措置をとらなければならない。

と定めるところ,コメンタリー30項は,上記2項がいう適当な立法その他の措置に関して,

何が適当な措置を構成するかについて,国家がマイノリティの意見をきくことが重要不可欠である。異なるマイノリティは異なるニーズを持つ可能性があり,それらのニーズは考慮に入れなければならない。

としている。(b)マイノリティ権利宣言4条1項は,

国家は,あらゆる人権と基本的自由を,法の前においてまったく平等に,十分かつ効果的に行使できるよう確保するための措置をとらなければならない。

と規定し,コメンタリー55項は,時限的な優遇措置(アファー

マティブ・アクション)をとる必要がある。

としている。(c)マイノリティ権利宣言4条2項は,

国家は,マイノリティに属する人びとがその特性を表し,自らの文化,言語,宗教,伝統,習慣を発展させ得る有利な条件を創るための措置をとらなければならない。

と規定し,コメンタリー56項は,

マジョリティの文化や言語の発展のために資金提供するのと同様に,国家はマイノリティの同じような活動に対して資源を提供しなければならない。

としている。(d)マイノリティ権利宣言4条3項は,

国家は,マイノリティに属する人びとが自らの母語を学んだり,母語で教育を受ける十分な機会を得られるように適切な措置をとる。

と規定し,コメンタリー63項は,

国家は,マイノリティ言語の教授を保証できる教育機関の存在を保証し,資金を提供することを要請されるであろう。

としている。(e)マイノリティ権利宣言4条4項は,
国家は,マイノリティの歴史,伝統,言語,文化の知識を助長するための措置をとるものと規定し,コメンタリー66,67項は,

多文化教育と異文化間の教育の両方が必要である。「マイノリティの歴史,伝統,

文化に関する知識を社会全体が持つことを奨励することで,異文
化間教育を要請している。
」としている。
(f)マイノリティ権利宣言5条は,

国家の政策と計画は,マイノリティに属する人びとの正当な利益に妥当な考慮を払って立案され,実施されなければならない。

としている。c
平成6年4月6日に自由権規約委員会で採択された一般的意見2
3(50)6.1(以下一般的意見23という。
)も,
自由権規約27条では否定的表現が用いられているが,同条は,『権利』の存在を認め,この権利が否定されないことを要求している。したがって,締約国は,この権利の存在及び行使が否定又は侵害されないよう保護されることを確保する義務を負う。このため,立法,司法又は行政のいずれの当局によるかを問わず,締約国自身の行為に対してだけではなく,締約国内の他の者の行為に対しても,積極的な保護措置が必要とされる。として,締約国の義務が消極的な不
作為義務に止まらず,権利の享有を妨げ又は損なう諸条件を是正するために必要な措置を採る積極的作為義務を伴うことを明らかにしている。
d
そして,自由権規約は,特段の立法を待つまでもなく,国内法と
しての効力を有しており,
日本の裁判所における裁判規範性がある。

(ウ)社会権規約13条
日本において昭和54年9月21日に発効した経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下社会権規約という。
)13条
1項は,すべての者に教育を受ける権利を認め,(教育によって)諸国民の間及び人種的,種族的又は宗教的集団の間の理解,寛容及び友好を促進することを締約国の義務として定めている。(エ)児童の権利条約30条
日本において平成6年5月16日に発効した児童の権利に関する条約(以下児童の権利条約という。
)は,28条で教育についての
権利,29条で教育の目的を定め,30条で種族的,宗教的若しくは言語的少数民族又は原住民である者(マイノリティ)が存在する国において,当該少数民族に属し又は原住民(マイノリティ)である児童は,その集団の他の構成員とともに自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。と規定している。(オ)人種差別撤廃条約5条
日本において平成8年1月14日に発効したあらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約(以下人種差別撤廃条約という。
)は,
すべての人権の分野において人種及びこれに類似する事由による差別の撤廃を目的とし,5条において,

特に次の権利の享有に当たり,人種,皮膚の色,又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに,すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する。

と定め,教育及び訓練を受ける権利を列挙している。
(カ)憲法26条
憲法26条1項は,

すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じてひとしく教育を受ける権利を有する。

と定めている。
この憲法の規定を受け,平成18年法律第120号による全部改正前の教育基本法(以下旧教育基本法という。
)3条1項は,

すべて国民は,ひとしく,その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって,人種,信条,性別,社会的身分,経済的地位又は門地によって,教育上差別されない。

と規定し,教育の機会均等を定めている。
これらの規定は,国民とくに子どもたちが教育を受けることにより自己を発達させるために学習をする権利(学習権)を保障した規定である。
国内法的効力がある自由権規約27条,社会権規約13条,児童の権利条約28条ないし30条,人種差別撤廃条約5条においてマイノリティの教育権が定められていることからすれば,憲法26条1項が保障する子どもの学習権には,マイノリティの子どもたちがマイノリティとしての教育を受ける権利が含まれているというべきである。(キ)人権教育及び人権啓発の推進に関する法律
人権教育及び人権啓発の推進に関する法律5条は,地方公共団体の責務として,

地方公共団体は,基本理念にのっとり,国との連携を図りつつ,その地域の実情を踏まえ,人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し,及び実施する責務を有する。

と定めている。ここでいう人権教育とは,
人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動をいい(同法2条)
,当然,マイノリティがその人権を

尊重され,自らのアイデンティティに誇りを持つことのできる教育を含んでいるものと解される。

被告高槻市におけるマイノリティの教育権の確立と侵害

(ア)教育権の確立
前記アのとおり,原告子どもらには,自由権規約27条,社会権規約13条,児童の権利条約30条,人種差別撤廃条約5条,憲法26条1項,人権教育及び人権啓発の推進に関する法律5条により,マイノリティの教育権が保障されている。人権教育及び人権啓発の推進に関する法律5条によれば,地方公共団体には,地域の実情を踏まえ,人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し,実施する責務が存するところ,被告高槻市において,マイノリティの教育権は,昭和57年の本件基本方針の制定,昭和60年以来の在日韓国・朝鮮人教育事業の実施,平成10年の人権教育基本方針の制定,平成12年の人権教育推進プランの策定と多文化共生・国際理解教育事業の実施(具体的には,学校子ども会や地域子ども会等の実施)により,具体的な権利として確立されていた。
(イ)教育権の侵害
しかるに市教委は,平成13年の提言に基づき,平成15年3月31日をもって本件事業の廃止・縮小を強行した。
具体的には,学校子ども会,高校生の会は全廃,地域子ども会の事業は概ね週3回の活動を週1回に縮小した。また,外国人児童・生徒らは市内全域に広範囲に散在することから,地域子ども会への参加を保障するためには,
活動場所までの送迎態勢を確保する必要があるが,
市教委は子どもたちの送迎を禁止して,子どもたちの活動参加を意図的に抑制した。さらに,本件事業にかかわる職員を正職員2名から1名に減員し,非常勤職員も2名から1名に減員した。予算規模で言う
と,約1174万円から約624万円へとほぼ半減した。なお,縮小にとどまった部分も,将来的には廃止するとした。
しかし,平成13年の提言は,市教委の審議・決裁を受けず,小中学校校長会,小中学校教頭会,学校子ども会設置校代表者,教育関係機関代表者,在日外国人の当事者団体代表者,教育委員会,市長部局関係部署の代表者といった関係諸団体代表者や有識者との協議も経ずに作成されたものであって,何ら法的拘束力を持つものではない。また,社会権規約委員会は,締約国の条約履行義務に関して発表した一般的意見3(以下一般的意見3という。
)において,締約国
は規約の実現のために行動をとる義務があり,立法その他の措置を講じる義務自体,
締約国に課せられる即時的義務であると明言しており,
条約に基づく義務を履行するために実施した措置については,それを打ち切ったり,縮小するなど,後退的な措置をとることは許されないというべきである。
したがって,市教委による本件事業の廃止・縮小は,原告子どもらに保障されたマイノリティの教育権を侵害し,一般的意見3にいう後退的措置の禁止に触れるものであって,違法である。
(ウ)債務不履行
また,本件事業は,原告子どもらにマイノリティの教育権を保障するものであるところ,原告子どもらと被告高槻市とは本件事業を通じて公法上の契約関係に入ったというべきであり,被告高槻市には本件事業によって提供されていた行政措置を継続的に提供する義務があるというべきである。
それにもかかわらず,一方的に本件事業を廃止・縮小する行為は,被告高槻市による債務不履行である。
少なくとも,被告高槻市は,本件事業を廃止・縮小する必要性がな
いのに,代償措置を取ることもないまま,市教委の決定による人権教育基本方針・人権教育推進プランを事務方レベルの協議のみで,本件事業を利用していた外国人生徒・児童ないしその親権者ら及びその他の利害関係者に対する説明もなく一方的に廃止・縮小した点で,本件事業について変更を行う際に負担すべき注意義務に違反している。【被告高槻市の主張】

マイノリティの教育権について

(ア)自由権規約27条
a
自由権規約の国内法的効力については,
国際連合の人権委員会が,
各締約国が,その選択により,(1)裁判所または行政機関において直接援用,適用しうるセルフ・エクセキューティングなものとするか,または,(2)あらためて国内法を制定しなければ裁判所または行政機関において直接援用,適用できない,つまり,セルフ・エクセキューティングなものでないとするか決定することが可能である。との態度をとり,また憲法98条2項が

日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする。

と定めるものの,条約の直接適用,自力執行について定めた規定がないこと,更には国際人権規約に対する国会審議において政府が自由権規約をセルフ・エクセキューティングな条約であると確認した事実がないことなどからして,自由権規約はセルフ・エクセキューティングな条約でないと解するのが正しい。

b
また,自由権規約27条が,(種族的,宗教的又は言語的少数
民族に属する者は,自己の文化を享有し,自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する)権利を否定されないと規定していることや,6条から26条までの他の権利と規定の仕方が異なることを考えると,同条に,国家に対し教育を受けることを求める
マイノリティの教育権なるものが含まれているとするのは無理な解釈である。
c
原告子どもらは,マイノリティ権利宣言を自由権規約27条の解
釈指針であると主張するが,国連総会では全会一致制を採用していないところ,仮に,国連総会の決議が,加盟国に対して法的拘束力を有するとすれば,これに反対する加盟国との関係で国家主権の制約の問題が生じることとなる。そのため,国連総会の決議については,加盟国に対する法的拘束力を有するものではないとするのが一般的な解釈である。
マイノリティ権利宣言は,国連総会の決議にすぎず,日本国に対
して法的拘束力を有するものではない。

d
原告子どもらは,一般的意見23が日本国内における自由権規約
27条の解釈について拘束力を有するかのように主張するが,一般的意見は,人権委員会が締約国の報告を検討した結果を一般的な性格を有する意見として作成したものにすぎないこと(自由権規約40条4項)
,締約国はそれに対し見解を提示することができること
(同条5項)からして,締約国内における自由権規約の解釈について拘束力を有するものではない。
なお,一般的意見23がいう積極的な保護措置とは,国内の
私人又は少数者集団以外の集団による自由権規約27条に規定する権利の否定又は侵害を防止することであって,原告子どもらが主張するような積極的な作為を意味するものではない。

(イ)社会権規約13条
社会権規約13条1項では,
権利を認めるとの文言が用いられ
ているが,これは締約国において,教育を受ける権利が国の政策により保護されるに値する権利であることを確認し,その権利の実現に向
けて積極的に政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的な権利を付与すべきことを定めたものでない。
(ウ)児童の権利条約30条
児童の権利条約30条についても,

権利を否定されない。

との
文言からして,その意味するところについては自由権規約27条に関する解釈と同様である。
(エ)人種差別撤廃条約5条
人種差別撤廃条約5条も,
約束する。」という文言からして,そ
の規定する権利の実現方法や手続等に関する定め方については各締約国に委ねられているのであって,同条を根拠として,マイノリティの教育権が具体的に保障されているとはいえない。
(オ)憲法26条
憲法26条1項及びこれに基づく旧教育基本法3条1項は,
すべて国民はという文言からも明らかなとおり,日本国民に対して教育を受ける権利を保障したものであって,日本国籍を有しない者に対してその教育を受ける権利を保障したものではない。
また,原告子どもらが主張するような具体的な権利を保障したものでもない。
(カ)人権教育及び人権啓発の推進に関する法律
人権教育及び人権啓発の推進に関する法律5条は,基本理念にのっとり,国との連携を図りつつ,その地域の実情を踏まえという抽象的かつ包括的な文言からして,原告子どもらが主張するような具体的な権利を保障したものではなく,地方公共団体に対して努力目標を定めたにとどまり,この規定をもって,原告子どもらがマイノリティの教育権を地方公共団体に対し具体的権利として求めうる根拠法令と解
することはできない。
(キ)以上のとおり,原告子どもらが具体的権利として主張するマイノリティの教育権の根拠となる条約,法令はいずれも存しない。

被告高槻市におけるマイノリティの教育権の確立と侵害について

(ア)原告子どもらの主張イ(イ)(教育権の侵害)について
原告子どもらが主張するようなマイノリティの教育権が,具体的な法的権利として保障されていないことはさて措き,仮に,従来在日韓国・朝鮮人教育事業として実施されていたものが保護に値するものであるとの前提に立ったとしても,被告高槻市が本件事業を不当に廃止し,縮小したことはない。
すなわち,市教委は,戦後半世紀以上を経過し,祖国とのつながりがなくなっている家庭や新たに渡日した家庭,日本人との結婚で複数の文化をもつものなど,
置かれている立場や意識,
考え方が多様化し,
社会が国際化していること等を踏まえ,従来の在日韓国・朝鮮人教育事業を多文化共生・国際理解教育事業として再構築し,発展的に見直しているのであって,
本件事業を単純に廃止・縮小したわけではない。
具体的な事業内容の変更は次のとおりである。これによると,従来の在日韓国・朝鮮人教育事業は,多文化共生・国際理解教育事業として再構築され,多民族社会を想定した新たな時代認識と発想の転換の上に立って見直されており,今日ではこの発展的な見直しによって,国籍が多岐にわたる原告子どもらの現状を的確に反映したものとなっており,何ら違法・不当な点はない。
a
学校子ども会
学校子ども会は,高槻市内の小中学校8校において週1回,各小
中学校の教職員が主体となって実施されていたが,
現在のような8校に限定した学校子ども会活動への行政的支援は廃止することが望ましいとの平成13年の提言を受け,さらには平成14年4月以降,学習指導要領の改訂に伴い,各学校において総合的な学習の時間に国際理解などの課題について学習活動を行うものとされたこともあって,平成15年3月31日をもって学校子ども会への指導員の派遣(社会教育所管の事業)はなくなったが,学校子ども会自体は,引き続き学校教育部所管の事業として,高槻市立の5中学校及び3小学校に設置されており(ただし,うち1中学校は,外国人生徒が在籍しなくなったため,平成16年度から活動は休止している。,これまでのように学習活動及び文化,体育並びにレクリエー)
ション活動の促進及び指導等の取り組みが行われている。
b
地域子ども会
地域子ども会は,平成13年度までは中央,別所,成合の3地域
においてそれぞれ週1回開催されていたところ,平成14年度に別所子ども会と成合子ども会は北部子ども会に統合され,平成15年度からは,渡日児童・生徒のために柱本子ども会を新設し,開催回数を週2回に増やすことになったが,参加者数が少なかったため,同年度中に週1回の実施になったものであり,その活動自体は現在まで存続している。
地域子ども会の統合・新設,開催回数の増減は,参加している児
童・生徒の減少により活動そのものが成立しにくい実態が出てきていることや,渡日外国人が増加していることに対応した合理的なものである。

c
高校生の会
高校生の会は,平成15年4月以降,学校子ども会の場合と同様
に,指導員の派遣が廃止されているが,これは在日・渡日の高校生の生徒数の減少に対応した合理的なものである。

d
日本語識字教室
日本語識字教室は,在日韓国・朝鮮人一世に対する日本語の読み
書きなどの指導を行う活動であり,青少年課の分室で週2回開催されており,その活動は社会教育部の所管のもとで現在に至るまで継続している。

(イ)原告子どもらの主張イ(ウ)(債務不履行)について
争う。
(2)争点2(原告子どもらの損害)について
【原告子どもらの主張】
本件事業を廃止するという市教委の施策によって,原告子どもらは,学校子ども会等に通って,自己の文化や言語などに親しむことが出来なくなったばかりか,日本人児童・生徒や地域社会において,在日韓国・朝鮮人児童・生徒及び近年渡日してきた在日外国人の児童・生徒に対する外国人差別を拡大させた。
本件事業の廃止は,単に行政の一施策の廃止に止まらず,在日外国人児童・生徒のアイデンティティの育成を目指した学校機能の廃止に等しい。本件事業の廃止により原告こどもらが受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,各人10万円を下らない。
【被告高槻市の主張】
争う。
2
原告Aの請求について

(1)争点3(被告C,被告D及び被告Eに対する請求の可否)について【被告C,被告D及び被告Eの主張】
公権力の行使に当たる地方公共団体の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,地方公共団体がその被害者に対し賠償の責めを負うのであって,公務員個人がその
責めを負うものではない。
したがって,原告Aの被告C,被告D,被告Eに対する訴えは,本案の審理をするまでもなく失当である。
【原告Aの主張】

一般に,
公務員個人が違法行為の責任を負わないと解されているのは,
①国家賠償制度は損害の填補を目的とするものであって,加害者個人に対する制裁等を目的とするものではないところ,公務員個人への責任を問わないと解しても,
被害者の救済に欠けることはないという点,

公務員個人への責任追及を認めると,公務員の職務行為に萎縮効果を及ぼすことになりかねず,公務員において適法な職務行為まで遂行しなくなる,あるいは出来なくなる可能性があるという点などが主な趣旨である。
しかし,法形式的には,私人は民法上個人責任を負うのであり,公務員を私人以上に保護すべき理由はない。少なくとも,明白に違法な公務で,かつ,行為時に行為者自身がその違法性を認識していたような場合には,公務員が個人責任を負うとすべきである。このように解しても,個人責任が認められる場面は限定されていることから,損害賠償義務の発生を恐れるがゆえに公務員が公務の執行を躊躇するといったような弊害は何ら発生するおそれがないことは言うまでもなく,かえって,将来の違法な公務執行の抑制の見地からは望ましい効果が生じることさえ期待できる。


本件における被告C,被告D及び被告Eの責任は,市教委自身が本件事業に携わる非常勤職員に対し報償費を支払うことを指示し,これを長年承認し,原告Aは市教委の指示のもと支払いの事務処理を担当していたにすぎないことを十分認識しながら,共謀して,原告Aに対する本件告訴を行ったことである。

このように,報償費を詐取したという客観的な事実も,詐取を疑ってしかるべき事情も何ら見あたらないにもかかわらず,詐欺として刑事告訴を行うというのは,公務としての特段の保護を何ら必要としないほど明白に違法な公務である。
しかも,被告C,被告D及び被告Eは,原告Aが詐欺を行っていないことを知りながら,本件告訴を行ったものであり,同被告らは,自らの行為の違法性を十分に認識していた。
したがって,同被告ら個人も賠償責任を免れない。
(2)争点4(本件告訴の違法性)について
【原告Aの主張】

市教委からの報償費に関する指示
市教委と高槻むくげの会は,市教委が高槻むくげの会の行ってきた事業を引き継ぎ,在日韓国・朝鮮人教育事業を実施するに当たり,非常勤職員とアルバイト職員(以下非常勤職員らという。
)の待遇につい
て協議を続けてきた。
その中で,当時の社会教育部長Uと同和対策部長Vから,報償費を非常勤職員らの待遇の改善に活用する方法,即ち,他人の名義を借りて,その他人に報償費を支出し,それを非常勤職員らの給料に加算することで待遇問題を解決する方法の提示を受け,高槻むくげの会はこれを了解した(以下報償費に関する指示という。。

その内容は,実際には在日韓国・朝鮮人教育事業に従事していない指導員の名義を借用し,同事業に従事したことにして報償費を請求し,こうして得た報償費を非常勤職員らの給与の補填に充てるというものであった。
在日韓国・朝鮮人教育事業の正職員は,昭和60年8月1日に在日韓国・朝鮮人教育事業が発足して以降,市教委が詐欺事件発覚と騒ぎ出す
平成15年10月までの約20年間,この報償費に関する指示に沿って報償費の事務処理を行ってきた。

前任者からの引継ぎ
原告Aは,平成5年4月ころ,前任者から在日韓国・朝鮮人教育事業の事務を引き継いだ。
その内容は,要旨,
在日韓国・朝鮮人教育事業の非常勤職員は,高校生の会や日本語識字教室の指導に従事しているが,実態通りの事務処理をしていては非常勤職員の勤務時間が正職員並になり,そうなると非常勤職員の正職員化の問題が起こってくるので,事務処理上は指導に従事していないことにしている。また,在日韓国・朝鮮人教育事業に関わっているアルバイト指導員の中にも正職員並に勤務している人がいる。こうした人々に勤務実態に見合う身分保障ができないので,その分,待遇,即ち,給与の上乗せをしてきた。在日韓国・朝鮮人教育事業に予算化されている報償費の執行については,年間を通して報償費予算が余りそうな分を計算しながら,名義借用の了解が得られた人の名前を使って,実際に指導に従事したことにして報償費を請求し,そうして支出したお金と高槻むくげの会からの寄付金でもって,非常勤職員やアルバイト職員の待遇の上乗せをする。このことは市教委と高槻むくげの会との了解事項である。もちろん市教委の上司もこれらの事情を知っている。というものであった。
実務的には,報償費が支払われる仕事に従事していないけれども従事したとする書類(業務日誌や指導従事簿など)を原告Aら市教委の在日韓国・朝鮮人教育事業の担当正職員が作成し,正規の会計から報償費を受け取り,それを別途の会計に移して,そこから在日韓国・朝鮮人教育事業で正職員並に勤務する非常勤職員らの給料の上乗せ分として支払うという方法が取られていた。

原告Aは,市教委の前任者から引き継いだ事務を市教委の職務と思い処理していたにすぎない。

本件告訴の違法性
被告高槻市は,自らが,本件事業の遂行のため,報償費に関する指示を行い,原告Aら本件事業の担当事務正職員に,前述したとおりの事務処理を行わせ,これによる報償費の拠出を行ってきたにもかかわらず,原告Aに

原告Aが巧妙に指導員の出勤簿等をねつ造し,不正に報償費を取得していた。

との濡れ衣を着せ,本件告訴を行った。なお,被告高槻市は被疑者不詳として本件告訴を行っているが,担当職員は原告A以外に存在しないのであるから,原告Aを名指しで告訴したに等しい。本件告訴は,本件事業を廃止・縮小したいと考えていた被告Cと,その指示に従った被告D及び被告Eが共謀して行った虚偽告訴である。その証拠に,本件告訴に対しては,平成16年12月28日,嫌疑不十分を理由として不起訴処分がなされている。

【被告らの主張】

本件告訴の対象
そもそも本件告訴は,被告訴人を不詳として行われたものであり,被告高槻市が原告Aを告訴した事実はない。
原告Aは,名指しせずとも支出事務担当者である原告Aを告訴したのと同様である旨主張するが,指導員の虚偽申告の可能性や,支出事務担当者以外の職員の関与や,
共謀の有無などが想定されることを考えれば,
被告訴人を不詳として告訴することには相当な理由があり,原告Aの主張は正鵠を射たものでない。


本件告訴に至る経緯

(ア)被告高槻市では,平成元年ころから,給与等の支払いについて,事務手続の安全化・簡素化のため現金払い制から口座振替制への移行が
推進され,社会教育部青少年課が所管する多文化共生・国際理解教育事業におけるアルバイト職員の報償費についても,この口座振替制が導入されることになっていた。
平成14年10月4日,多文化共生・国際理解教育事業に携わっていたアルバイト職員Oから当時市教委青少年課主幹であった被告Eに対し,市教委が支払っている報償費について,日本語識字教室の指導に従事しないで一部支払いを受けていることに問題はないかとの相談があった。
この相談を受け,被告Eが関係者から聞き取りを実施したところ,勤務実績と異なる報償費の請求がなされていたり,日本語識字教室の指導に従事した者に高槻むくげの会から報償費が振り込まれているといった事実が判明した。
そこで,被告高槻市の公金を管理する高槻市長は,平成14年12月26日,高槻警察署に対し,実際は多文化共生・国際理解教育事業の日本語識字教室の指導に従事していないにもかかわらず,複数人が関与して,事実と異なる内容の指導従事簿を作成し,同簿を基にした虚偽の支出命令書を作成し,高槻市長に対し報償費を請求し,もって同市長をして報償費を詐取したとして,被告訴人を氏名不詳にて
本件告訴を行った。
(イ)このように,本件告訴にかかる被疑事実は,被告高槻市における事務手続の簡素化を目的とした報償費の支払手続の変更を契機として発覚したものであり,多文化共生・国際理解教育事業の実施過程における報償費の不正受給という看過しがたい事実に対し,厳正なる処罰を求めるため司直に委ねるべく本件告訴を行ったものである。
原告Aが主張するように,多文化共生・国際理解教育事業の縮小・廃止を目的として告訴したものでも,原告Aを特定して告訴したもの
でもない。
(ウ)また,原告Aが主張するような報償費に関する指示を市教委が行った事実はなく,報償費の支払いについて原告Aが行っていたような事務処理を市教委が容認しなければならない理由も根拠も存しない。(3)争点5(本件配転命令の違法性)について
【原告Aの主張】

職種限定契約
被告高槻市では,正職員を毎年秋に実施される北摂7市共同で行われる試験を経て採用しているが,原告Aの採用試験は同試験とは別個に実施されたものであった。
すなわち,被告高槻市では,平成4年3月末に在日韓国・朝鮮人教育事業専門員2名のうち1名が退職することになり,定員2名のところに1名の欠員ができることになった。そこで,同月中に在日韓国・朝鮮人教育事業専門員を採用する試験が実施されることになり,その公募は被告高槻市の発行する広報高槻にだけ掲載され,対象者は在日韓国・朝鮮人教育に豊かな識見と熱意ある者とされた。
原告Aは,この在日韓国・朝鮮人教育事業専門員を採用するための試験に合格して,同専門員として採用され,被告高槻市の教育委員会社会教育部青少年課在日韓国・朝鮮人教育事業の職に就いたものである。そして,原告Aは,平成4年4月から平成15年3月まで12年の長きにわたって,地域子ども会,学校子ども会の指導,教育事業に関する企画運営,庶務などの事務を担当してきた。
上記の勤務期間を通して,原告Aは,将来,配置転換があり得るとの説明を受けたことがなく,在日韓国・朝鮮人教育事業が多文化共生・国際理解教育事業に変更されるときも,これからは配置転換があり得るといった説明はなかったし,実際,これまで,被告高槻市において,在日
韓国・朝鮮人教育事業専門員として採用された者が,それ以外の業務に従事するよう配転されたことはない。
このような採用の経緯及び採用後の就労状況に照らせば,原告Aの職種は,本件事業に限定されていたものというべきであるから,原告Aの承諾なしに,一方的にa図書館へと職種変更を命じた本件配転命令は無効である。

配転命令権の濫用
仮に,原告Aの職種が限定されていなかったとしても,本件配転命令は権利の濫用というべきであって無効である。
すなわち,被告高槻市は,原告Aが,本件事業の縮小・廃止に反対する意思を表明するなどしていることに対し,
市に反対するものは職員としていらないなどと嫌悪感を露わにしていた。そして,被告高槻市は,原告Aを詐欺罪で虚偽告訴し,次いで本件配転命令を行ったのである。
原告Aが配転を命じられた平成15年度のa図書館の正職員の定員は12名であり,同年4月,同図書館には既に定員一杯の12名の正職員がいたが,原告Aは定員外の13人目として加配された。定員過剰のため,配転から半年くらいの間,原告Aがすべき仕事はなく,返却された本を書架に戻すだけという仕事とはいえないような作業をするに過ぎなかった。
このように,本件配転命令は,被告高槻市の業務上の必要からでたものではなく,本件事業の縮小・廃止に反対する原告Aに対する報復としてなされたことは明白である。
このように不当な本件配転命令は権利濫用であって無効である。

【被告らの主張】

職種を限定した採用ではないこと

被告高槻市では市教委を含め,
職階制が採用されておらず,
在日韓国・
朝鮮人教育事業専門員なる職は存せず,原告は事務吏員として採用された者である。
在日韓国・朝鮮人教育事業専門員というのは,呼称あるいは採用に当たって従事する仕事の内容を指称するものとして用いられているにすぎず,原告Aが職種限定で採用されたわけではない。
また,原告Aのような市教委プロパーの職員については各市とも別個に採用される場合があるし,採用試験でも,専ら一般教養を問われただけで,特に在日韓国・朝鮮人問題に関する知識を問うための試験に合格した訳でもない。

本件配転命令が濫用にあたるものではないこと
本件配転命令は,平成15年3月31日をもって学校子ども会への指導員の派遣が廃止されたことに伴い,平成14年度までは正職員2名,非常勤職員2名であった人員配置が,平成15年度からは正職員1名,非常勤職員1名に半減された結果によるものである。
しかも本件配転命令によって原告Aの勤務条件について特段の不利益が生じた訳ではない。すなわち,原告Aが市教委社会教育部の所属職員であり,事務吏員であることに変わりはなく,勤務場所が青少年課からa図書館になっただけである。勤務時間については,本件配転命令の前後を問わず,高槻市教育委員会の職員で特別の勤務に従事するものの勤務時間等の特例に関する規則平成2年高槻市教育委員会規則第20号)(
の適用を受け,給与についても,一般職の給与に関する条例(昭和32年高槻市条例第357号)及び同施行規則(昭和33年高槻市規則第142号)の適用を受けることに変わりはない。
このように,本件配転命令は,本件事業に関する事務量の減少に伴う人員配置数の削減の結果として行われたいわゆる水平移動であり,過員
を理由とする分限免職(地方公務員法28条1項4号)の回避と適材適所を旨とした措置であって,何ら違法,不当な点はない。
(4)争点6(原告Aの損害)について
【原告Aの主張】
前記(2),(3)のとおり,原告Aは,いわれなき刑事告訴を受け,不当な強制配転がされたことにより,多大な精神的苦痛を受けた。
上記精神的苦痛に対する慰謝料は100万円を下らない。
【被告らの主張】
争う。
3
原告Bの請求について

(1)争点7(本件雇止めの違法性)について
【原告Bの主張】

公法上の法律関係においても権利濫用ないし権限濫用の禁止に関する法理は妥当すること
そもそも権利濫用ないし権限濫用の禁止に関する法理は,解雇に限らず一般的に妥当する法理であって,公法上の法律関係においても適用の余地のある普遍的法原理である。
そして,任期付きで任用された公務員の任用関係が公法的規律に服する公法上の法律関係であるとしても,
特段の事情が認められる場合には,
権利濫用・権限濫用の禁止に関する法理ないし信義則の法理が妥当することがあり得ると考えるのが相当である。
すなわち,①任命権者が,非常勤職員に対して,任用予定期間満了後も任用を続けることを確約ないし保障するなど,期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものと見られる行為をしたというような特別な事情があるにもかかわらず,任用更新をしない理由に合理性を欠く場合,②任命権者が不当・違法な目的をもって任用更新を
拒絶するなど,
その裁量権の範囲を越え,
またはその濫用があった場合,
③その他,任期付きで任用された公務員に対する任用更新の拒絶が著しく正義に反し社会通念上是認し得ない場合など,特段の事情が認められる場合には,権利濫用・権限濫用の禁止に関する法理ないし信義則の法理により,任命権者は当該非常勤職員に対する任用更新を拒絶できないというべきである。

本件事業における専門指導員に関する取り決め
本件事業においては,非常勤職員が正職員同様に勤務し,その更新が繰り返されることが予め取り決められていた。
すなわち,市教委と高槻むくげの会は,昭和60年,高槻むくげの会の行ってきた地域子ども会,日本語識字教室,高校生の会などの事業を被告高槻市が引き継ぎ,新たに在日韓国・朝鮮人教育事業を実施するにあたり,指導員の身分,人数,非常勤職員らの待遇等について次のような協議を行っている。
まず,
当時の市教委の実務担当者であった社会教育部主幹Fから,在
日韓国・朝鮮人教育事業は本来ならば正式職員で対応すべきだが,行財政改革で職員減らしが課題になっている時期に,在日韓国・朝鮮人教育事業職員が3名も新規採用されてはこの事業そのものが市民的合意を得られず潰される。正式職員2名,非常勤職員2名と若干のアルバイトでこの事業を進めたい。という趣旨の説明がなされた。これに対し,高槻むくげの会は,
非常勤は正職員と同じ仕事をするのに,これでは待遇にばらつきが出るし,非常勤職員とアルバイト職員といった不安定な地位や勤務実態に見合わない給与しか支給されないのでは,在日韓国・朝鮮人教育事業に安定して関わってゆくことが難しくなる。と指摘した。また,主幹Fからは,
非常勤職員には週29時間という勤務時間上の制約があり,非常勤職員が在日韓国・朝鮮人教育事業の日本語識字教室の指導に従事すると制約時間を超えてしまい,また正職員化問題が起こる。非常勤職員は日本語識字教室に従事しても,書類上は従事していないことにしたい。との考えが示された。これに対し,高槻むくげの会は,あくまで非常勤職員やアルバイト職員の正職員化を希望したが,
非常勤職員は日本語識字教室の指導運営に責任を持つが,書類上は関わっていないことにするとの市教委の意向を最終的に了解した。
このように,本件事業における非常勤職員は,当初から正職員同様の勤務時間,勤務内容,更新の反復継続が予定されていた。

原告Bの採用にあたって取られた措置
原告Bは,被告高槻市に,平成5年4月1日,在日韓国・朝鮮人教育事業のスタッフとしてアルバイト待遇で雇用され,平成12年4月1日には,多文化共生・国際理解教育事業の専門指導員として,1年有期の非常勤職員に採用された。
在日韓国・朝鮮人教育事業専門指導員は,原告Bが採用される平成12年4月1日以前には,高槻市内在住の在日韓国・朝鮮人に限られ,①
②採用時に満30歳未満の者のみで,③更新も4年が限度とされていたが,原告Bの採用と同時に,①高槻市内に在住の者であれば国籍を問われなくなり,②採用時の年齢制限は廃止され,③更新は回数制限でなく満60歳未満までとの制限に変更された。
このような制限の変遷は,原告Bの採用を可能とし,かつ正職員同様60歳に達するまで被告高槻市で働けるようにするために取られた措置であった。


正職員と変わらない就業実態
原告Bは,アルバイト時代から,正職員である専門員や非常勤職員で
ある専門指導員が担当すべき学校子ども会(高槻6中)を担当していたほか,市教委が実施する教育事業会議への出席を命ぜられており,平成12年4月1日に非常勤職員として専門指導員に採用された後もアルバイトのときの担当をそのまま引き継いだ。
具体的には,市教委から日本語識字教室の校長を任され,現場の一番の責任者として従事し,家庭訪問,啓発雑誌の作成,中学生合宿や在日外国人子ども祭などの特別行事の実施のための業務に従事した。
さらに,
小中学校で差別発言や差別落書などの差別事象があった場合には,当該学校と高槻市内の全小中学校各1名ずつの教師が構成員となっている高槻市外国人教育研究協議会と連携して,差別事象の解決に取り組むといった業務にも従事していた。
非常勤職員である専門指導員の勤務時間は週29時間と制限されており,原告Bも書類上はこの制限内でしか勤務していないこととなっていたが,実際には,1日8時間を超えて被告高槻市の業務に従事していたのであり,その勤務内容及び形態は正職員と何ら異なるものではなく,これは前述の被告高槻市との取り決めで予め定められたことであった。このように,原告Bは,アルバイトとして採用されたときから通算すれば,本件事業のスタッフとして11年間,正職員と変わることない実態で勤務してきた。

更新手続
原告Bは,募集,筆記試験,面接の過程を経て,平成12年4月1日,被告高槻市に採用され,採用の際には委嘱状を受理している。
原告Bは,平成13年,平成14年,平成15年の毎年4月1日に更新を受け,その都度,被告高槻市から委嘱状を交付されてきたが,更新にあたって筆記試験や面接は実施されず,委嘱状が交付されるだけであった。


他に雇止め事例がないこと
原告Bのほかに,本件事業に従事する専門指導員が雇い止めされた事例は1例もない。


本件雇止めに事業上の必要性がないこと
平成15年度において,多文化共生・国際理解教育事業には専門員1名,専門指導員1名,アルバイト2名が配置されていたが,平成16年1月にはアルバイト1名が辞職し,さらに原告Bを欠いては事業の運営に支障が出るものと予想されていた。そのため,被告高槻市は,平成16年3月31日,原告Bを雇い止めにした後,同年4月1日には新規にアルバイト1名を多文化共生・国際理解教育事業に雇用している。このように本件雇い止めは事業上の必要からなされたものではなかった。


地方公務員法の趣旨
そもそも地方公務員法は,地方公務員の任用について期限を定めないことを原則とし,例外的に期限付き任用を認めている。これは,繁忙期における業務の一時的な増大など,任期の定めをする特段の事情がある場合に限り,これに対処するための例外を許容する趣旨である。
ところが,上記のとおり,原告Bは,当初から,恒常的な業務である本件事業について,正職員の不足を補うために任用されたものである。このような任用は地方公務員法の予定していないものであって,採用それ自体が違法な運用と言わざるを得ない。
被告高槻市は,自ら違法に採用し,常勤職員同様に取り扱っておきながら,契約終了の段になって非常勤職員であるからと,法の規定を振りかざすことは許されないというべきである。


不当な目的
被告高槻市は,原告Bが多文化共生・国際理解教育事業の縮小・廃止
に反対する意思を表明するなどしていることに対し,
市に反対するものは職員としていらないなどと嫌悪感を露わにし,本件訴訟の準備が行われていることを知るや,
上記意思表明の報復として,
原告Bに対し,
本件雇止めを行ったものである。

以上のとおり,原告Bの就労は期限の定めのないものと実質的に異なるところがないと評価すべきであるし,原告Bが満60歳に達するまで就労が継続されるものと期待していたことは合理的であり,この合理的期待を安易に裏切ってはならないことは当然といわなければならない。また,各更新において筆記試験や面接が行われることなく,ただ委嘱状が交付されるだけであったことは,日常の就労の場で被告高槻市が原告Bの能力の実証
(地方公務員法15条)を実質的に行い,原告Bが
これをクリアしていたものと言うべきである。
これに対し,本件雇止めは,不当な目的をもってなされ,裁量権の範囲を逸脱又は濫用したもの,あるいは著しく正義に反し社会通念上是認し得ないものというべきであって,前記特段の事情が認められる。したがって,本件雇止めは,権利濫用・権限濫用の禁止に関する法理ないし信義則の法理により許されないというべきである。

【被告高槻市の主張】

公法上の任用関係であること
原告Bと被告高槻市(市教委)との間の勤務関係は,公法上の任用関係であり,私法上の労働契約関係を前提とする原告Bの主張はそれ自体失当である。
また,公法上の任用関係においては,その任用の条件や勤務条件は,条例,要綱等で定められているのであって,当事者の個別的事情や恣意的解釈によって規律されることはなく,解雇権濫用法理の類推適用を論ずる余地もない。


本件雇止めの必要性
原告Bは,市教委によって地方公務員法3条3項3号の非常勤職員として1年間の委嘱を受け,その後,平成13年度,14年度,15年度にも同様の委嘱を受けて,勤務に従事していたものであるが,通算5年を超えないとの高槻市非常勤職員就業要綱の適用,多文化共生・国際教育事業の見直しに伴う職員の適正配置の状況の下,平成16年3月31日の委嘱期間の満了とともに,その身分を失ったものである。
すなわち,平成15年度は非常勤職員である原告Bと正職員1名及びアルバイト2名で,日本語識字教室及び地域子ども会の実施を担当していたが,日本語識字教室及び地域子ども会とも,それまでの参加者の減少傾向に歯止めがかからず,各地域子ども会では,週2回の実施予定であったところ,週1回の実施を維持するのが精一杯の状況となったこともあって,正職員とアルバイトで対応できるとの判断のもと,非常勤職員の指導員を廃止することとなった。
これに伴い,市教委は,原告Bに対し,平成16年2月25日付通知書をもって委嘱の更新を行わないことを事前通告し(原告Bはこの通知に対し全く異議の申立をしていない。,同年3月31日の委嘱期間の)
満了をもって,本件雇止めを行ったのであり,本件雇止めに違法な点はない。


原告Bの採用経緯
そもそも原告Bは専門指導員の採用試験の結果,補欠として合格したものであるところ,正式採用となったのは,前任者が産休を取得したことにより勤務できなくなるという特殊事情による。
また,高槻市非常勤職員就業要綱4条では,非常勤職員の委嘱期間が1年以内で,委嘱期間の更新については,通算5年を超えない範囲であることが定められており,実際にも,在日韓国・朝鮮人教育事業の非常
勤職員であった者で,5年を超えてその職に就いていたものは存在しない。
採用担当者が,原告Bに対して委嘱期間の定めに関わりなく同人の終身雇用が保障されているかのようなことを述べたこともない。
したがって,原告Bが勤務の継続について合理的な期待を抱いても無理からぬ事情が存したとは到底言えない。

原告Bの就労状況
平成12年度第1回高槻市在日韓国・朝鮮人教育事業運営委員会(会議次第)添付の〈一般事業計画〉
1.定例事業の表(甲23の3枚
目)によれば,原告Bの担当事業及び時間数は,学校子ども会2時間,地域子ども会12時間,日本語識字教室6時間であって,1週当たりの合計時間は20時間に過ぎず,1週29時間を原則とするという専門指導員就業要綱(甲18)7条2項の定めの範囲内にある。
また,原告Bに対し,29時間を超過する勤務を命じた事実も存しない。
加えて,原告Bは,非常勤職員として採用される以前から,高槻むくげの会の会員ないしそのアルバイト職員としての立場で子ども会活動に関わっており,非常勤職員として採用された後も,高槻むくげの会の会員の立場において,日本語識字教室の活動に関わっていたとみるのが自然である。原告Bは,非常勤職員としての職務内容と高槻むくげの会の会員としての活動の両者を区別することなく,同人が本件事業に関して行ったすべての活動を非常勤職員の職務であると強弁するものであって失当である。


以上のとおり,原告Bの非常勤職員としての地位は,その嘱託期間の満了により既に終了しており,しかも,同人が任用更新を期待しても無理からぬ特段の合理的な理由も存しないことは明らかであり,本件雇止
めには何ら違法・不当な点は存しない。
(2)争点8(原告Bの損害)について
【原告Bの主張】
前記(1)のとおり,原告Bは,不当な雇止めにより,多大な精神的苦痛を受けた。
上記精神的苦痛に対する慰謝料は100万円を下らない。
【被告高槻市の主張】
争う。
第4
1
当裁判所の判断
争点1(原告子どもらに対する権利侵害の有無)について

(1)マイノリティの教育権の具体的権利性

原告子どもらは,マイノリティの教育権を,公の費用負担のもと,マイノリティとしての教育を受け,マイノリティの言語を用い,マイノリティの文化について積極的に学ぶ環境を享受できる権利と定義し,これが国際人権規約やその他の条約等により保障されているとして,本件事業の廃止・縮小は,この権利を侵害するものであって,違法であると主張する。
そこでまず,このようなマイノリティの教育権が法的保護に値する具体的権利といえるかについて検討する。


自由権規約27条

(ア)自由権規約27条は,
種族的,宗教的又は言語的少数民族が存在する国において,当該少数民族に属する者は,その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し,自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。と規定する。自由権規約は,条文の文言自体,その主語を締約国ではなく個人としており,個人に対して権利を付与する形式で定められていること,
憲法98条2項が日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,

これを誠実に遵守することを必要とする。

と定めていること,昭和55年10月24日に日本国政府が自由権規約委員会に提出した第1回政府報告書及びその翌年の自由権規約委員会第12会期での審査の際の政府代表の回答において,規約の国内法律に対する優位を認めるとともに,規約の自力執行性をも認める回答をしていることなどの事情が認められ,これらを併せ考慮すると,自由権規約の規定には自力執行力があるとする考えも成り立つ(乙9)

しかし,自由権規約27条は,その文言から,締約国に対し,本条の定める権利を侵害しない義務を課したものと解され,それ以上に,国家による積極的な保護措置を講ずべき義務まで認めたものとは解しがたい(乙10)

(イ)これに対し,原告子どもらは,マイノリティ権利宣言(甲153)やそのコメンタリー(甲154)及び一般的意見23(甲155)が,自由権規約27条の定める権利につき,締約国に積極的な保護措置を講ずる義務を定めていることを根拠に,自由権規約27条は締約国に前記不作為義務だけでなく,積極的な作為義務を課したものであると主張し,証拠(甲152,257の1,乙10)中にはこれに沿うものもある。
しかし,国連総会決議であるマイノリティ権利宣言は,条約とは異なり,一方的な行為にすぎないから,我が国に対して法的拘束力を持つものではないし,そのコメンタリーも,国連内部に設置された人権教育促進擁護小委員会が活動の一環として作成したものにすぎず,これに法的拘束力を認めることはできない。
また,一般的意見23は,自由権規約の締約国の履行状況に関する報告を検討する機関である自由権規約委員会により策定されたもので
あること,その目的は,規約の実施の促進,締約国への注意喚起などであって,自由権規約の実施に当たって参考とされることが求められているにすぎないことに照らしてみれば,一般的意見自体が我が国に対して法的拘束力を有するものではないと解される甲257の1)(

なお,一般的意見23は,6(1)で

締約国は当該権利の存在と行使を,その否定と侵害から保護することを確保する義務を負う。

とし,(2)でマイノリティのアイデンティティを保護し,またその構成員が,その集団の他の構成員とともに,自己の文化や言語を享受しかつ発展させ,自己の宗教を実践する権利を保護するための,締約国による積極的措置も必要である。と定め,前者を締約国の義務とする一方で,後者は必要性を確認するにとどめており,後者に属する積極的措置を締約国の義務として認めたものでもない(甲152)

(ウ)したがって,自由権規約27条が,国家に積極的な作為を求めるマイノリティの教育権を保障するものであり,国内法としての効力を有することを前提とする原告子どもらの主張は採用できない。

社会権規約13条
社会権規約13条1項は,

この規約の締約国は,教育についてのすべての者の権利を認める。「締約国は,教育が,すべての者に対し,

‥‥(中略)‥‥諸国民の間及び人種的,種族的又は宗教的集団の間の理解,寛容及び友好を促進すること‥‥(中略)‥‥を可能にすべきことに同意する。
」と規定する。
しかし,この条項は,締約国において,すべての者の教育に関する権利が,
国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,締約国がこの権利の実現に向けて積極的に政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない。このことは,同規約2条1項が締
約国において立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成することを求めていることからも明らかである。
したがって,社会権規約13条から直ちに,原告子どもらが主張するマイノリティの教育権という具体的な権利が保障されていると認めることはできない。

児童の権利条約30条
児童の権利条約30条は,
種族的,宗教的若しくは言語的少数民族又は原住民である者が存在する国において,当該少数民族に属し又は原住民である児童は,その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し,自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。と規定する。この条項の文言は,自由権規約27条と同様のものであって,国家に積極的な作為を求める権利を保障するものではない。


人種差別撤廃条約5条
人種差別撤廃条約は,2条2項で,
締約国は,状況により正当とされる場合には,特定の人種の集団又はこれに属する個人に対し人権及び基本的自由の十分かつ平等な享有を保障するため,社会的,経済的,文化的その他の分野において,当該人種の集団又は個人の適切な発展及び保護を確保するための特別かつ具体的な措置をとる。と規定し,5条で,

締約国は,特に次の権利(教育及び訓練についての権利)の享有に当たり,人種,皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに,すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する。

と規定する。人種差別撤廃条約2条2項は,その規定の仕方からして,締約国が当該権利の実現に向けた積極的施策を推進すべき政治的責任を負うことを
定めたにすぎず,この規定から直ちに,マイノリティの教育権という具体的な権利が保障されていると認めることはできない。

憲法26条
憲法26条1項は,教育を受ける権利を保障しており,これに基づく旧教育基本法3条1項は,

すべて国民は,ひとしく,その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって,人種,信条,性別,社会的身分,経済的地位又は門地によって,教育上差別されない。

と規定する。これにより,国は,国民の教育を受ける権利が現実に保障されるよう教育制度を維持し,
教育条件を整備すべき法的義務を負うものであるが,
これらの規定が,直ちに原告子どもらの主張するようなマイノリティとしての教育を受ける権利までを想定して規定しているとはいえず,また,
憲法26条1項及び旧教育基本法3条1項は,国の責務について,いずれも理念を掲げるにすぎず,これらの規定が,原告子どもらが主張するようなマイノリティの教育権という具体的な権利を直接保障していると認めることも困難である。


人権教育及び人権啓発の推進に関する法律5条
人権教育及び人権啓発の推進に関する法律5条は,地方公共団体は,

基本理念にのっとり,国との連携を図りつつ,その地域の実情を踏まえ,人権教育及び人権啓発に関する施策を策定し,及び実施する責務を負う。

と規定する。同法は,人権教育及び人権啓発に関する施策の推進について,国,地方公共団体及び公民の責務を明らかにするとともに,
必要な措置を定め,
もって人権の擁護に資することを目的として(同法1条)
,地方公共団
体の責務を抽象的に定めたにすぎず,この規定から直ちに原告子どもらが主張するようなマイノリティの教育権という具体的な権利が保障され
ていると認めることは困難である。

以上のとおり,原告子どもらがマイノリティの教育権の根拠として主張するところは採用できず,ほかに我が国において法的拘束力がある条約及び法律でマイノリティの教育権という具体的権利として保障したものはない。
このようにマイノリティの教育権に具体的権利性が認められない以上,本件事業の廃止・縮小による権利侵害を観念できず,本件事業の廃止・縮小の違法をいう原告子どもらの主張には理由がない。

(2)被告高槻市におけるマイノリティの教育権の確立と侵害

マイノリティの教育権の確立

(ア)原告子どもらは,被告高槻市が,人権教育及び人権啓発の推進に関する法律5条に基づき,昭和57年に本件基本方針,平成10年に人権教育基本方針,
平成12年に人権教育推進プランをそれぞれ策定し,
昭和60年以来,本件事業として学校子ども会や地域子ども会等を実施してきたから,原告子どもらが,学校子ども会や地域子ども会等に参加して,マイノリティとしての教育を受ける具体的権利が確立されたと主張する。
(イ)なるほど,証拠(甲5,6,159∼197,証人G,証人H,原告I法定代理人J)によると,被告高槻市における上記(ア)のような本件事業の実施が,これらの活動に参加してきた原告子どもらを含む外国人子弟にとって,
自己の文化や言語に親しみ,
自らのアイデンティ
ティに誇りを持つことができ,偏見や差別に立ち向かう契機となったことが認められる。
しかし,前記(1)で検討したとおり,マイノリティの教育権が具体的権利といえない以上,上記の施策は,特定の子どもらの具体的権利に対応して実施されたものとはいえず,また,証拠(甲159∼19
7)によれば,原告子どもらにしても,専ら任意の時期に,任意の会に参加しているにすぎないことが認められる。そうすると,被告高槻市が実施した本件事業により原告子どもらが得た利益は,事実上の利益に過ぎないというべきであり,
本件事業の実施により,
マイノリティ
の教育権という具体的な権利が新たに確立され,これが個々の原告ら子どもらに帰属するに至ったということはできない。

マイノリティの教育権の侵害あるいは債務不履行

(ア)原告子どもらは,本件事業を廃止・縮小することは,本件事業の実施によって確立された具体的権利を侵害するものであって違法であると主張する。
前提となる事実(2)及び証拠(乙2,証人K,被告E)によれば,平成13年の提言を受けて,平成15年4月1日以降,市教委は,本件事業として行ってきた学校子ども会,地域子ども会,高校生の会及び日本語識字教室(以下学校子ども会等という。
)のうち,学校
子ども会及び高校生の会を,社会教育部青少年課から学校教育部に所管替えし,市教委からの指導員の派遣を廃止したこと,一部の地域子ども会を統合したこと(もっとも,その後1か所増設されている),
これに伴い本件事業に関わる正職員と非常勤職員をそれぞれ1名ずつ減員し,本件事業全体に対する予算を半減させたことが認められ,被告高槻市は本件事業の内容を見直し,人的・物的支援を縮小したといえる。
しかし,被告高槻市が,本件事業を実施したからといって,事業の具体的な内容や実施の方法等については,被告高槻市の広範な裁量に委ねられており,地域の実情を踏まえながら,変動する政治・経済・社会情勢に照らし,決定,変更することができるところであって,その裁量権の範囲を超え,又は濫用する場合にのみ違法になるというべ
きである。
ところで,前述したとおり(前記ア(イ))
,被告高槻市が実施した
本件事業の実施により,原告子どもらが様々な利益を受けることができたことは否定できず,そのため,原告子どもらが,本件事業について,従来どおりの継続を強く希望しているとしても,個々の原告子どもらがマイノリティの教育権という具体的な権利を得たとはいえない以上,被告高槻市における行政施策の変更に伴い,原告子どもらが上記利益を十分に享受できなくなったからといって,
そのことをもって,
被告高槻市が原告子どもらの権利を違法に侵害したということはできない。
また,上記の事情に加え,本件事業の変更の経緯や内容,縮小の規模に照らすと,本件事業の変更,縮小が,裁量権の範囲を超え,又は濫用するものであると評価することも困難である。
(イ)また,原告子どもらは,本件事業を通じて,原告子どもらと被告高槻市とは公法上の契約関係に入ったから,被告高槻市が一方的に本件事業を廃止・縮小する行為は,債務不履行にあたると主張する。
しかし,前記ア(イ)のとおり,本件事業の実施によって,原告子どもらがマイノリティの教育権という具体的な権利を得たとはいえず,被告高槻市が,原告子どもらに対し,公法上の法律関係に基づく何らかの債務を負うことにはならないというべきである。
(ウ)原告子どもらは,平成13年の提言は,市教委によって策定された人権教育基本方針及び人権教育推進プランに反するものとして無効であるし,この提言に基づき本件事業を廃止・縮小することは違法であり,社会権規約委員会が発表した一般的意見3が,条約に基づく義務を履行するために実施した措置について後退的な措置をとることは許されないと規定していることにも反すると主張する。

しかし,人権教育基本方針や人権教育推進プラン(甲6)は,被告高槻市の教育分野における人権教育の基本方針を定めた行政指針にすぎず,法的拘束力を有するものではない上,一般的意見3が我が国に対して法的拘束力を有するものでないことは,一般的意見23について先に述べたところと同様であるから,これらに反することを理由に本件事業の廃止・縮小の違法無効をいう原告子どもらの主張は採用の限りでない。
(エ)以上のとおり,学校子ども会等に参加してマイノリティとしての教育を受ける利益の侵害や債務不履行をいう原告子どもらの主張には理由がない。
2
争点3(被告C,被告D及び被告Eに対する請求の可否)について
(1)公権力の行使にあたる国又は公共団体の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合には,その公務員が属する国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって,公務員個人はその責を負わないものと解すべきである(最高裁昭和30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁等参照)。
このことは,国家賠償法1条が,1項において,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えたときは,国又は公共団体が,その公務員に故意,過失のいずれがある場合でも,これを賠償する責に任ずるものとしながら,2項において,公務員に故意又は重大な過失があったときは,国又は公共団体は,その公務員に対して求償権を有する旨を規定しているのみで,公務員に故意又は重大な過失があったときのその公務員個人の他人に対する損害賠償責任について,何ら規定していないことからも明らかというべきである。
(2)これに対し,原告Aは,明白に違法な公務で,かつ,行為時に行為者自
身がその違法性を認識していたような場合には,公務員も個人責任を負うというべきである旨主張する。
しかし,国家賠償制度は,不法行為制度の一環として,損害の填補を目的とするものであって,加害者個人に対する制裁等を目的とするものではないところ,国家賠償法1条を前記のように解しても,何ら被害者の救済に欠けることとなるものではない。
したがって,原告Aの主張は独自の見解であって,採用の限りでない。(3)以上により,原告Aの被告C,被告D及び被告Eに対する請求は,その余について判断するまでもなく,理由がない。
なお,
被告らは,
原告Aの上記請求にかかる訴えの却下を求めているが,
上述したとおり,上記請求は理由がないというだけで,同請求にかかる訴え自体が不適法となるわけではない。
3
争点4(本件告訴の違法性)について

(1)本件告訴に至る経緯等
後掲の証拠によれば,被告高槻市が本件告訴に至った経緯と本件告訴の内容等について,以下の事実が認められる。

報償費の扱い

(ア)被告高槻市では,本件事業に従事し,指導に当たったアルバイト職員に対し,
その指導に対する謝礼を,
報償費の費目で支出している甲

148∼150〔各枝番号を含む。,乙24)


なお,報償費の額は,平成14年当時で1時間あたり1200円であった(甲147の1∼7)

(イ)原告Aは,
平成4年4月1日,
被告高槻市の正職員として採用され,
社会教育部青少年課にて本件事業に従事していた。
当時,本件事業に従事する正職員は,原告AとWの2人であり,報償費の支払事務は,専らWが行っていたが,平成15年4月,Wが産
休に入ったため,原告Aがその事務を引き継いだ。
(以上,乙14,原告A)
(ウ)原告Aは,次のようにして,報償費の支払事務を行っていた(甲200の2,乙14,原告A)

a
まず,原告Aは,毎月末に,当月の日本語識字教室の実施状況に
つき,実施日,時間,指導に当たった者の氏名,参加者数,指導内容を,担当指導員Lから聞き取り,高槻市多文化共生・国際理解教育事業報告書(以下事業報告書という。甲140の1∼6)を
作成する。その際,原告Aは,実際には本件事業の指導に当たっていないアルバイト職員の氏名を書き加えていた。
こうしてできた事業報告書に基づき,原告Aは,アルバイト職員
ごとに,指導にあたった事業名,従事日,従事時間を記載した高槻市多文化共生・国際理解教育事業指導従事簿(以下指導従事簿
という。甲141∼147〔各枝番を含む〕)を作成する。

なお,指導従事簿には,日本語識字教室に限らず本件事業すべて
につき,当該アルバイト職員が関与した時間の合計が記載されており,当該アルバイト職員が当月分として受け取るべき報償費の額が算定されている。

b
翌月初旬,原告Aは,事業報告書及び指導従事簿を,M係長に回
し,順次,被告E主幹,N課長の決裁を受ける。
その後,原告Aは,支払命令書(甲148の1∼13)を作成し,これについても,青少年課の係長(主査)
,課長補佐(副主幹)

課長(主幹)の各決裁と,収入役の決裁を受ける。
原告Aは,すべての決裁を受けた支払命令書を出納係に持参し,
出納係の指示により高槻市庁内にある銀行から支払われる報償費を受領する。

c
原告Aは,こうして受け取った報償費を,アルバイト職員に支払
い,領収書(甲149の1∼6)を作成し,これを添付した精算書
(甲150の1∼6)
について,
青少年課と収入役の決裁を受ける。
もっとも,実際には本件事業の指導に当たっていないアルバイト
職員の分として受け取った報償費については,原告Aが,自ら現金で管理するか,高槻むくげの会名義の銀行口座に入れて管理し,これを本件事業に従事する非常勤職員やアルバイト職員の給与に上乗せして支払うなどして,費消した。
なお,上記領収書は,原告Aが,予めアルバイト職員から預かっ
た印鑑を用いて作成していた。

発覚の経緯(甲27,乙24,証人L,被告E)

(ア)被告高槻市では,平成元年ころから,職員の給与等の支払いについて,事務手続の安全化・簡素化のため,現金払い制から口座振替制への移行が順次,進められていた。
平成14年9月ころ,
当時市教委の青少年課主幹であった被告Eは,
原告Aに対し,本件事業における報償費についても,現金での手渡しから,対象者本人の銀行口座への振込みに変更するよう指示した。(イ)平成14年10月2日,被告Eは,高校生の会に携わっていたアルバイト職員Oから,

原告Aから,『新しく銀行通帳を作って,その通帳を預けてほしい。』と言われているが,納得できない。どうしたものか。

という相談を受けた。職員Oは,高校生の会に携わっているが,日本語識字教室には従事していないと述べ,さらに,受け取っている報償費は,
時給650円で1日2時間
1か月5200円ぐらいであり,

原告Aから金額を記載した,1枚ものの宛先は書いていない領収書を渡され,それに押印している。

と話した。
(ウ)被告Eは,原告Aの職員Oに対する申し出が非常に不自然であり,職員Oは日本語識字教室の指導従事簿に指導者として記載されていたこと,どのアルバイト職員にも1か月数万円単位での支払いがあること,決裁している領収書(甲149の1∼6)は指導員の連名で市教委あてのものであることに照らして,報償費の支払いにも不審な点があることから,報償費対象者全員に対し,支払実績と聞き取り調査を実施した。
その結果,日本語識字教室の指導を行っていないのに,行ったものとして報償費が請求されていること(甲27)
,報償費が高槻むくげ
の会からアルバイト職員名義の口座に振り込まれていること,時給が高槻市の定める額とは異なることが判明した。
(エ)他方,被告Eは,原告Aからも聞き取り調査を実施した。
原告Aの説明は,
職員Oに通帳を預けるように言ったことはないし,
職員Oは実際に日本語識字教室の指導にあたっており,時給で1200円を支払っているというものであった。
被告Eは,原告Aの同僚であるPからも事情を聴取したところ,原告Aと同様の回答であった。

本件告訴(甲28,乙12,24,被告E)

(ア)被告Eは,報償費対象者と支払事務担当者の言い分が全く異なっていることに加え,更なる調査を行うに当たり,高槻むくげの会の協力が得られず,かえって人権団体や市議会議員から調査の打ち切りを求められるなどしたため,行政としてこれ以上の調査を行うことは困難であると判断し,事案の解明を警察に委ねることとした(乙24,被告E)

(イ)被告高槻市は,報償費について不正受給あるいは架空申請の疑いがあるものの,それが誰の判断によるものか,またその使途についての
確証が得られなかったため,被告訴人を氏名不詳としたまま,平成14年12月27日,高槻警察署に対し,本件事業の一環として実施していた日本語識字教室の指導者に支払っていた報償費が騙し取られた旨の本件告訴を行った(乙12,24)

(ウ)高槻警察署及び大阪地方検察庁は,本件告訴を受けて捜査を行い,原告Aに対する詐欺被疑事件を立件したものの,平成16年12月28日,この件についての不起訴処分を行った(甲28)

(2)本件告訴の違法性について

原告Aは,市教委は自ら報償費に関する指示を行いながら,あたかも原告Aが1人で報償費の不正受給を計画し,実行したかのように述べて本件告訴を行っており,本件告訴はその内容が虚偽であるばかりか,本件事業の廃止・縮小のために原告Aを陥れようとする不当な目的をもってなされた点においても違法であると主張し,証拠(甲199,200の2,乙14,27,原告Q及び原告R法定代理人S,原告A)中にはこれに沿う部分がある。


市教委の指示等について
前記(1)アに認定した報償費の扱いは,実際には本件事業の指導に当たっていないアルバイト職員に支給したことにして,別の者に支給しているのであって,架空申請と不正受給を含む違法な処理というべきであり,市教委による指示に基づく処理であるからとか,前任者の事務を引き継いだだけであるからといって,適法となるわけではない。
しかも,証拠(乙24,被告E)によれば,被告Eによる事情聴取の際,原告AやSから,報償費の扱いは市教委の指示に基づくものであるといった説明は一切なく,かえって原告Aは,報償費の処理に不正はないと強弁していたこと,市教委から報償費に関する指示があった旨の説明は本件告訴後,高槻警察署に対して初めて行われたものであったこと
が認められ,これらの事実に照らしてみれば,市教委から報償費に関する指示があったとする原告A及びSの供述は,にわかに信用できない。なお,原告Aは,報償費の扱い,とりわけ指導従事簿の記載については上司の決裁を得ており,上司の中には自ら日本語識字教室で指導にあたっていた者もいたから,指導従事簿に指導にあたっていない者の氏名があることを承知していたはずであるとも主張する。
しかし,このような事情は,上司の監督責任を問うべき理由にはなっても,上記報償費の処理が適法となるわけではない。

告訴内容の虚偽について
本件では,告訴状に記載された告訴事実の詳細な内容が不明であるため,
本件告訴の内容が虚偽であるか否かの判断は困難である。
もっとも,
本件告訴の内容の概要は,
前記(1)ウのとおりであったと認められるが,
前記(1)アの処理を前提とする限り,報償費の架空申請や不正受給があったというべきであり,本件告訴の内容が虚偽であるということにはならない。
また,
報償費の処理が市教委からの指示によるものであったとすれば,
当然,共犯者の有無が問題になるところ,本件告訴も,原告Aだけを対象として行われたものではないことになる。


本件告訴の目的について
原告Aは,本件告訴の目的が,本件事業を廃止・縮小することにあったと主張するが,先に認定した本件告訴に至る経緯に鑑みれば,本件告訴の目的が公金処理の不正を正すことにあることは否定できず,その目的の不当性をいうことはできない。


以上のとおり,本件告訴の違法をいう原告Aの主張には理由がない。なお,被告高槻市が原告Aによる報償費の架空申請と不正受給を疑ったことに相当な理由があり,本件告訴を行うことに正当な理由が認めら
れる以上,その後,原告Aに対して不起訴処分がされたことは,先の判断に何ら消長を来すものではない。
4
争点5(本件配転命令の違法性)について

(1)本件配転命令に至る経緯
後掲の証拠等によれば,被告高槻市における原告Aの採用経緯とその後の就労状況等について,以下の事実が認められる。

採用経緯(甲200の1,原告A)

(ア)原告Aは,昭和63年7月から,被告高槻市のアルバイト職員として,在日韓国・朝鮮人教育事業に従事するようになった。
(イ)その後,
原告Aは,
被告高槻市の非常勤職員として採用され,
以来,
在日韓国・朝鮮人教育専門指導員として,学校子ども会,地域子ども会,日本語識字教室を担当していた。
(ウ)平成4年3月,在日韓国・朝鮮人教育事業専門員として従事していた正職員2名のうち1名が同月末で退職することとなり,急遽,新たに正職員の採用試験が行われることとなった。
(エ)原告Aは,この試験に合格し,平成4年4月1日,市教委の正職員として採用され,以来,在日韓国・朝鮮人教育事業専門員として,学校子ども会や地域子ども会の指導,教育事業に関する企画運営,庶務などの事務を担当していた。

本件事業の変遷(前記1(2)ウで認定した事実,乙24,被告E)市教委は,昭和60年以来,本件事業として,学校子ども会,地域子ども会,高校生の会及び日本語識字教室を実施し,それぞれに市教委から指導員を派遣してきたが,平成15年4月1日から,これまで行ってきた学校子ども会及び高校生の会への指導員の派遣を廃止することとなった。
これに伴い,本件事業の担当者を,それまでの正職員2名と非常勤職
員2名から,正職員1名と非常勤職員1名に削減することになった。ウ
本件配転命令(甲200の1,乙24,被告E)
被告高槻市は,本件事業を担当していた正職員2名のうち,原告Aに対し,平成15年4月1日付けでa図書館への異動を命じる旨の本件配転命令を行った。
本件配転命令により,原告Aは,被告高槻市の教育委員会社会教育部青少年課多文化共生・国際理解教育事業から,同部a図書館に異動となった。

(2)本件配転命令の違法性について

原告Aは職種を限定して採用された者か

(ア)原告Aは,在日韓国・朝鮮人教育事業専門員採用試験に合格し,同専門員として採用され,本件事業に従事してきたから,一方的に職種変更を命じる本件配転命令は無効であると主張する。
(イ)検討
a
証拠(乙15,被告E)によれば,被告高槻市において,職員は,事務吏員,技術吏員,技能吏員,嘱託に分けられており,原告Aは事務吏員として採用された者であること,在日韓国・朝鮮人教育事業専門員というのは職務内容を明らかにするための呼称にすぎないことが認められる。

b
そして,弁論の全趣旨によれば,毎年実施される正職員採用試験
とは別に,対象者を在日韓国・朝鮮人の実態認識に立ち,子ども会活動の指導に識見と熱意のある人とする採用試験が実施されたことが窺われるものの,それは,在日韓国・朝鮮人教育事業専門員が年度途中で退職することになり,急遽後任を採用する必要に迫られていたからにすぎない。
現に,証拠(原告A)によれば,採用試験にあたり,在日韓国・

朝鮮人問題についての専門的な知識が問われることはなかったことが認められ,一般に,在日韓国・朝鮮人教育事業専門員が,特別な技能や資格,あるいは専門知識を要する職であるとも解されない。c
なお,原告Aは,これまで配置転換があり得るとの説明を受けた
ことがなく,実際に在日韓国・朝鮮人教育事業専門員であった者がそれ以外の職に異動を命じられたこともなかった旨供述するが,それはこれまで異動の必要がなかったからにすぎず,原告Aが職種を限定して採用されたことを裏付ける事情とはならない。

(ウ)したがって,職種限定契約であることを理由に本件配転命令の違法をいう原告Aの主張は,採用できない。

配転命令権の濫用について

(ア)原告Aは,職種限定契約でなかったとしても,本件配転命令は,業務上の必要がないのに,本件事業の縮小・廃止に反対する原告Aへの報復を目的として行われたものであって,配転命令権の濫用として無効であると主張する。
(イ)しかし,先に認定したとおり,本件配転命令は,平成15年4月1日から学校子ども会及び高校生の会への指導員の派遣が廃止されることに伴い,担当職員の業務量の減少が見込まれ,人員削減と人材の適正配置が要請されたことに基づくものであって,業務上の必要性がないとはいえない。
(ウ)また,証拠(乙24,被告E)によれば,本件事業を担当していた正職員2名のうち,原告Aの方が,他方の職員よりも,長らく同じ業務を担当していたこと,また原告Aは,平成14年8月に公費で,社会教育主事資格を取得しており,広く社会教育分野での活躍が期待できることが認められ,配転対象の選択にも合理性があるということができる。

(エ)さらに,証拠(乙3∼5,被告E)によれば,本件配転命令の前と後とで,
給与や勤務時間等の勤務条件に変更はないことが認められる。
(オ)以上を総合してみれば,本件配転命令権の濫用をいう原告Aの主張は,採用できない。

したがって,本件配転命令の違法をいう原告Aの主張は,いずれも理由がない。

5
争点7(本件雇止めの違法性)について

(1)本件雇止めに至る経緯
後掲の証拠等によれば,本件雇止めに至る経緯について,以下の事実が認められる。

採用経緯(前提となる事実(5),証人T)

(ア)原告Bは,平成5年4月1日から,アルバイト職員として,在日韓国・朝鮮人教育事業に従事し,以来,学校子ども会,地域子ども会,日本語識字教室を担当していた。
(イ)その後,原告Bは,市教委の非常勤職員採用試験に補欠合格し,前任者が産休のため,
平成12年4月1日,
正式採用となり,
在日韓国・
朝鮮人教育事業専門指導員として,引き続き学校子ども会,地域子ども会,日本語識字教室を担当することとなった。

更新状況(前提となる事実(5),甲18,19,乙6)

(ア)被告高槻市は,在日韓国・朝鮮人教育事業専門指導員(後に多文化共生・国際理解教育事業専門指導員)を,地方公務員法3条3項3号に規定する非常勤の嘱託員と定め,委嘱期間につき,高槻市非常勤職員就業要綱(乙6)並びにこの特別規定である平成12年4月1日制定の専門指導員就業要綱(甲18)及び平成14年4月1日制定の専門指導員就業要綱(甲19)の中で,次のとおり定めている。
a
非常勤職員就業要綱(乙6)第4条

委嘱期間は1年以内とする。ただし,年度途中で委嘱された者の
委嘱期間は,当該年度の末日までを限度とする。
任命権者は,通算5年を超えない範囲で委嘱期間を更新すること
ができる。
b
専門指導員就業要綱(甲18,19)第4条
指導員の委嘱期間は,委嘱した日からその属する年度の末日(特
に必要があるときは,所属長が別に定める月の末日)までとする。ただし,委嘱期間は,満60歳を超えて更新することはできない。
(イ)市教委は,原告Bとの間の契約を,平成13年4月1日,平成14年4月1日,平成15年4月1日から,それぞれ1年間ずつ更新してきた。

本件雇止め(前提となる事実(5),前記4(1)イで認定した事実,乙7,23,24添付の表,証人K,証人L)

(ア)市教委は,昭和60年以来,本件事業として,学校子ども会,地域子ども会,高校生の会及び日本語識字教室を実施し,それぞれに市教委から職員を派遣してきたが,
平成15年4月1日から,
これまで行っ
てきた学校子ども会及び高校生の会への指導員の派遣を廃止することとなった。
これに伴い,平成15年度は,本件事業の担当者を,それまでの正職員2名と非常勤職員2名から,正職員1名と非常勤職員1名に削減することになり,当時非常勤職員であったLと原告Bのうち,Lを平成15年3月31日で雇止めとした(乙24添付の表,証人L)

(イ)さらに,平成15年度は,地域子ども会について,4か所で週2回実施する予定にしていたところ,参加者が集まらず,実施回数を週1回に改めることとなり,それに伴い正職員1名とアルバイト職員2名で対応することが可能となり,そうすることが財政負担も低額にとど
めることができるとの判断から,平成16年4月1日より非常勤職員に代えてアルバイト職員を雇うこととなった(乙23)

(ウ)これに伴い,市教委は,原告Bに対し,平成16年2月25日,同年4月1日以降の更新は行わない旨を通知し,同年3月31日をもって本件雇止めを行った(乙7)

(2)本件雇止めの違法性について

地位確認及び賃金請求について
先に認定したとおり,原告Bは,非常勤の嘱託員(地方公務員法3条3項3号)であり,就業要綱で委嘱期間を1年と定め,委嘱期間が経過したときは任期満了により当然に退職する職員として任用されたものである。
このように被告高槻市における原告Bの地位が,公法上の任用関係に基づくものである以上,その内容は任用行為によって決定され,それ以外の事情によって,その地位が決定されたり,変更されたりすることはない。
原告Bは,公法上の法律関係においても権利濫用ないし権限濫用の禁止に関する法理が適用され,原告Bに対する任用更新は拒絶できない旨主張するが,非常勤職員に新たな任用を求める行政処分を要求する権利を認めた法規はないし,権利ないし権限の濫用として非常勤職員の地位を認めるとすれば,法に何ら規定がないにもかかわらず,行政処分としての任用行為を要求する権利を付与することになるのみならず,任命権者の任用行為が存在しないのに実質的に雇用期間の定めのない非常勤職員を生み出す結果をもたらし,相当といい難い。
そして,原告Bは,平成15年4月1日に,委嘱期間を1年間として任用更新され,平成16年3月31日に委嘱期間の経過による任期満了によって退職したのであるから,原告Bが,任期満了後に再び任用され
る権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできない。
したがって,原告Bを再び任用しなかったとしても,その権利ないし法的利益が侵害されたものと解する余地はなく,原告Bの請求のうち,平成16年4月1日以降も非常勤職員としての地位にあることの確認を求め,同日以降の賃金の支払いを求める部分については,理由がない。イ
慰謝料請求について(その1)
任命権者が,期間の定めのある非常勤職員に対して,任期満了後も任用を続けることを確約ないし保障するなど,任期満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたというような特別の事情がある場合には,職員がそのような誤った期待を抱いたことによる損害につき,国家賠償法に基づく賠償を認める余地がある(最高裁平成6年7月14日第一小法廷判決・裁判集民事172号819頁参照)

そこで,このような特別の事情が認められるかについて,以下検討する。

(ア)原告Bは,本件事業発足当時,市教委と高槻むくげの会との間で,本件事業における非常勤職員の地位は正職員と実質的に同等とする旨の取り決めが行われ,当初から非常勤職員の任用は継続的に更新されることが予定されていたと主張し,
証拠甲199,

245∼248)
中にはこれに沿う部分がある。
しかし,原告Bが主張する取り決めがあったとしても,そのことによって,非常勤職員について任期満了後も任用を続けることを確約ないし保障することまでをも意味する取り決めであったとは解しがたい。
また,原告Bが,本件事業発足当時(昭和60年)のやりとりを信
用して非常勤職員になったとは考え難く,証拠上もそのような事情は窺えない。
(イ)次に,
原告Bは,
市教委は原告Bを採用するために採用条件を緩め,
更新回数の制限も撤廃するなどしており,原告Bが60歳まで働けるものと期待したことには理由がある旨主張し,証拠(甲210,原告B)中にはこれに沿う部分がある。
しかし,証拠(証人T)によれば,採用条件の変更は,他の職種と機を同じくして行われたものにすぎず,原告Bの採用を目的としたものではない。このことは原告Bが補欠合格であったことによっても裏付けられる。
また,証拠(乙6,23)によれば,原告Bが採用された後も,更新については通算5年を超えないとの制限があり,更新回数の制限が撤廃されたという事実もない。
かえって,証拠(甲210,原告B)によれば,更新の都度,原告Bは市教委から委嘱状の交付を受けており,委嘱期間が1年であることを認識していたはずであり,その際に,次年度以降の更新が確約されたとか保障されたといった事情は証拠上何ら窺えない。
(ウ)さらに,原告Bは,専門指導員としての業務は恒常的なものであって,勤務時間も実質的に正職員と同様であったから,期限の定めがないものと期待して然るべきであったと主張し,証拠(甲210,原告B)中にはこれに沿う部分がある。
しかし,当該職場の事務量を正職員によって処理することが客観的にみて困難である場合に,非常勤職員を採用して特別の習熟,知識,技術又は経験を必要としない事務を担当させることが,地方公務員法上およそ許されないものとは解されない。
また,証拠(原告B)によれば,原告Bは,専門指導員になった後
も,高槻むくげの会に所属し,その会員としての活動も並行して行っていたことが認められ,原告Bが本件業務の内容や時間について述べるところは,専門指導員として業務命令に基づき行うものと,高槻むくげの会の会員としてボランティアで行うものとの区別が必ずしも明確でなく,にわかに採用しがたい。
(エ)ほかに,市教委が,原告Bに対し,任期満了後も任用を継続されると期待させるような行為をしたという特別の事情を認めるに足る証拠はなく,任用継続に対する期待が侵害されたとして賠償を求める原告Bの請求には理由がない。

慰謝料請求について(その2)
なお,原告Bは,報復的な意図をもってなされた本件雇止め行為自体違法であり,これによる精神的損害を賠償すべきであるとも主張する。しかし,先に認定したとおり,本件雇止めは,平成15年度中に当初週2回予定していた地域子ども会が週1回に改められたことに伴い,人員の削減と財政負担の軽減が要請されたことに基づくものである(前記(1)参照)

また,これに先立つ平成15年度の人員削減時に,原告Bは対象とされていないことも併せ考慮すれば,本件雇止めが原告B個人に対する報復等の不当な目的をもってなされたものとは解されない。
したがって,この点についての原告Bの主張には理由がなく,他に原告Bが被告高槻市に対して国家賠償を求め得る理由はない。

6
まとめ
以上判示してきたところによれば,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日平成19年9月3日)

大阪地方裁判所第5民事部

裁判長裁判官

山田陽三
裁判官

中山誠一
裁判官

上田賀代
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