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勧告取消等請求事件(差戻前の1審・富山地方裁判所平成10年(行ウ)第3号、同控訴審・名古屋高等裁判所金沢支部平成13年(行コ)第18号、同上告審・最高裁判所平成14年(行ヒ)第207号)
事件番号平成17(行ウ)5
事件名勧告取消等請求事件(差戻前の1審・富山地方裁判所平成10年(行ウ)第3号,同控訴審・名古屋高等裁判所金沢支部平成13年(行コ)第18号,同上告審・最高裁判所平成14年(行ヒ)第207号)
裁判年月日平成19年8月29日
法廷名富山地方裁判所
判示事項医療法(平成9年法律第125号による改正前)30条の7に基づき,県知事が病院の開設を申請した者に対してした病院開設中止の勧告の取消請求が,認容された事例
裁判要旨医療法(平成9年法律第125号による改正前)30条の7に基づき,県知事が病院の開設を申請した者に対してした病院開設中止の勧告の取消請求につき,前記病院の開設の許可申請に対し,行政手続法7条に違反する申請書の返戻行為ないし不公平,不公正な取扱いがあった場合に,その後された処分等が常に取り消され得るとすることは相当ではないが,前記勧告の手続的瑕疵がその結果に影響を及ぼすときには,取消原因に当たると解すべきであるとした上,申請書の記載に不備があること,医師会の意見書の添付や事前協議がないことなどを理由に,申請書を受理せずに返戻する行為は,行政手続法7条に反し違法である上,このような返戻行為を6回にわたり行い,申請に対する審査,応答義務を怠りながら,他の病院開設等予定者との間で,事前協議等により病床配分を決め,前記申請者には病床配分をしないこととするなどの前記勧告に至るまでの経緯にかんがみると,県知事が前記申請者を公平,公正に取り扱っていたものとはいえず,前記勧告にはその手続において瑕疵があったというべきであって,前記申請に対し,行政手続法7条に従って遅滞なく審査,応答がされていれば,同申請に対して中止勧告がされることはなく,当該手続的瑕疵が結果に影響を及ぼすときに当たるから,同手続的瑕疵は前記勧告の取消原因となるとして,前記請求を認容した事例
裁判日:西暦2007-08-29
情報公開日2017-10-19 19:14:25
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主1文
被告が原告に対して平成9年10月1日付けでした病院開設の中止勧告を取り消す。

2
訴訟の総費用は被告の負担とする。

第1

実及び理由
請求
主文同旨

第2
1
事案の概要
本件は,原告が,富山県高岡市内に病院の開設を計画し,被告に対し,平成9年3月6日付けで病院開設に係る医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの。以下同じ。)7条1項の許可の申請(以下本件申請という。)をしたところ,被告が,原告に対し,同年10月1日付けで,同法30条の7の規定に基づき,本件申請に係る病院開設を中止するよう勧告(以下本件勧告という。)をし,また,同年12月16日付けで,本件申請について許可する旨の処分(以下本件許可処分という。)をするとともに,同日付けで,富山県厚生部長名で,同中止勧告に従わない同病院の保険医療機関の指定申請の拒否を通告する旨の記載(以下本件通告部分という。)がされた文書が送付されたが,原告が,被告に対し,本件勧告は医療法30条の7に反するもので違法であり,また,本件許可処分が負担付許可であると主張して,行政事件訴訟法に基づき,本件勧告又は本件通告部分の取消しを求めた事案である。
差戻前の1審(富山地方裁判所平成10年(行ウ)第3号)及び控訴審(名古屋高等裁判所金沢支部平成13年(行コ)第18号)は,本件勧告及び本件通告部分は,いずれも行政処分に当たる行為に当たらないとして,訴えを却下したところ,上告審(最高裁判所平成14年(行ヒ)第207号)は,本件通告部分の取消しを求める訴えは却下すべきとしたが,本件勧告は,行政処分性が認められるとして,本件勧告の取消請求に関する部分を破棄し,当庁に差し戻した。したがって,本件審理の対象は,本件勧告の取消しである。2
前提となる事実
(1)

当事者等(争いのない事実)
原告は,医師であり,富山県高岡市α610番地において病院(仮称・A病院。以下本件病院という。)の開設を計画し,平成9年12月16日,医療法7条に基づく病院開設の許可を受けた者である。


被告は,地方自治法(平成11年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)148条2項別表第3,1(31)に基づき,医療法の定めるところにより病院開設の許可事務を行うべき職務上の義務を有する行政庁であり,また,医療法30条の3の規定に従い地域医療計画を策定すべき地方公共団体の代表者である。

(2)

病院開設許可,医療計画と保険医療機関の指定との関係等
医療法においては,病院を開設しようとするときは,開設地の都道府県知事の許可を受けなければならないとされ(同法7条1項),都道府県知事は,開設許可申請があった場合において,その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が,法定の要件に適合するときは,開設の許可を与えなければならないとされている(同条3項)。


医療計画
(ア)

医療法は,高齢化社会が進展する中で国民に対し適正な医療を確保
していくため,医療資源の効率的活用に配慮しつつ,医療供給体制のシステム化を図ることを目的として,都道府県が当該都道府県における医療を提供する体制の確保に関する計画(以下医療計画という。)を定めるものとし(同法30条の3第1項),医療計画には,その対象となる区域(以下医療圏という。)の設定及び必要病床数(現在は基準病床数)に関する事項を定めるほか,病院の機能を考慮した整備の目標に関する事項,へき地の医療及び救急医療の確保に関する事項,医療に関する施設の相互の機能及び業務の連係に関する事項,医療従事者の確保に関する事項そのほか医療を提供する体制の確保に関し必要な事項を定めることができるとされていた(同条2項)(乙1)。
被告は,医療法30条の3に基づき,平成元年3月に富山県地域医療計画を策定し,平成6年8月にこれを改定した(以下,改定後の富山県地域医療計画を本件医療計画という。甲25,26,乙10)。本件医療計画では,一般の医療需要に対応するために設定する医療圏で,高度・特殊な医療を除き,医療活動がおおむね充足できる区域を2次医療圏と呼び,新川,富山,高岡及び砺波の4つの2次医療圏が設定されている(甲26,乙10)。
(イ)

また,医療法は,国及び地方公共団体は,医療計画の達成を推進す
るため,病院又は診療所の不足している地域における病院又は診療所の整備その他必要な措置を講ずるように努めるものとし(同法30条の5第1項),都道府県知事は,医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合には,病院を開設しようとする者等に対し,都道府県医療審議会の意見を聴いて,病院の開設又は病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更に関して勧告することができるとしていた(同法30条の7)。そして,昭和61年8月30日付け健政発第563号厚生省健康政策局長通知(以下昭和61年健康政策局長通知という。)により,都道府県は,各医療圏ごとに関係行政機関,医療関係団体等との協議の場を設ける等,医療計画の推進のための体制づくりに努めるものとされているところ(乙1),被告は,富山県地域医療推進対策協議会設置要綱及び同協議会運営要領に基づき,富山県地域医療推進対策協議会及び各2次医療圏ごとの地域医療推進対策協議会を設置した。富山県地域医療推進対策協議会は,学識経験者,医療機関関係者,医療を受ける立場にある者を委員として,地域医療計画の策定や変更その他地域医療の推進に関し必要な事項について協議するものとされ,地域医療推進対策協議会は,保健医療福祉関係者,保健医療福祉を受ける立場にある者,関係行政機関の職員を委員とし,主に当該医療圏における地域保険医療計画の策定・計画の推進や保健・医療・福祉の有機的連携の確保・充実等について協議するとされていた(乙3,4)。
また,昭和61年健康政策局長通知は,都道府県知事に対し,医療計画作成後はその趣旨,内容の周知徹底を図り,病院等を開設する者等に対しては,当該開設等に係る病院等の機能,規模,所在地等が医療計画に適合したものとなるように助言すること等により,その達成の推進に遺憾なきを期されたいとした上,医療法30条の7の医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合とは,原則として同法7条の2第1項に掲げる者以外の者が,病院開設の申請等をした場合において,その病床の種別に応じ,その病院の所在地を含む2次医療圏又は都道府県の区域における病院の病床数が,医療計画に定める当該区域の必要病床数に既に達している場合又はその病院の開設等によって当該必要病床数を超えることとなる場合をいうとし,病院の開設又は病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更に関して勧告するとは,病院の開設又は病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更それぞれの行為の中止又はそれぞれの行為に係る申請病床数の削減を勧告することをいうとし,医療法30条の7の規定に基づく勧告は,同法7条の許可又は不許可の処分が行われるまでの間に行う旨指示していた(甲55,乙1)。ウ
医療法30条の7に基づく勧告と保険医療機関の指定との関係
健康保険法(平成10年法律第109号による改正前のもの。以下同じ。)によれば,開設許可を受けた病院が保険診療を行うためには,都道府県知事に対して保険医療機関の指定の申請をしてその指定を受けなければならないが(同法43条の3第1項),都道府県知事は,同申請があった場合でも,当該病院が健康医療機関として著シク不適当ト認ムルモノナルトキはその指定を拒むことができるとされていた(同条第2項)。後記昭和62年保険局長通知は,医療法30条の7の規定に基づき,都道府県知事が医療計画達成の推進のため特に必要があるものとして勧告を行ったにもかかわらず,病院開設が行われ,当該病院から保険医療機関の指定申請があった場合にあっては,健康保険法43条ノ3第2項に規定する著シク不適当ト認ムルモノナルトキに該当するものとして,地方社会保険医療協議会に対し,指定拒否の諮問を行う旨指示していた(弁論の全趣旨)。エ
被告における病院開設等許可に関する指導方針
被告は,平成元年8月31日,病床不足地域における病院の新設・増床の許可指導方針を定め,病院の新規開設の申請に当たっては,おおむね100床を限度とし,かつ開設地の市町村及び郡市医師会の意見書を添えるものとした(甲90)。

(3)

本件申請に至るまでの経緯(争いのない事実)
原告は,平成8年2月2日,本件病院開設の許可申請書(病床数100床)を経由機関である高岡保健所長宛に郵送した(1回目)が,高岡保健所長は同申請書を原告に返戻した。


原告は,同年3月4日,本件病院開設の許可申請書(病床数100床)を高岡保健所長宛に郵送した(2回目)が,高岡保健所長は,同申請書を原告に返戻した。


原告は,同年4月5日,本件病院開設の許可申請書(病床数100床)を高岡保健所長宛に郵送した(3回目)が,高岡保健所長は,同申請書を原告に返戻した。


原告は,同年5月,本件病院開設の許可申請書(病床数100床)を高岡保健所長宛に郵送した(4回目)。同月30日に高岡地域医療推進対策協議会が開催され,同協議会において,原告に病床を配分しないものとされた。
富山県厚生部医務課長B(以下Bという。)は,同申請書を原告に返戻した。

原告は,同年6月19日,本件病院開設の許可申請書(病床数100床)を高岡保健所長宛に郵送した(5回目)が,高岡保健所長は,同申請書を原告に返戻した。

(4)

本件申請及び本件勧告(争いのない事実)
本件の原告訴訟代理人である濱秀和弁護士及び宇佐見方宏弁護士(以下,両名を濱弁護士らという。)は,原告の代理人として,平成9年3月6日付けで病床数を400床とする本件病院開設の許可申請書を被告宛に郵送し,同申請書は,同月7日に到達した(6回目,本件申請)が,被告の補助機関(富山県厚生部医務課(以下,単に厚生部医務課という。))は,同申請書を原告の代理人宛に返戻した。


被告は,原告に対し,平成9年10月1日付けで,医療法30条の7の規定に基づき,高岡医療圏における病院の病床数が,富山県地域医療計画に定める当該医療圏の必要病床数に達しているためという理由で,本件申請に係る病院の開設を中止するよう勧告した(本件勧告)。
原告は,被告に対し,同月3日付けで,本件勧告を拒否するとともに,速やかに本件申請に対する許可をするよう求める文書を送付した。

被告は,平成9年12月16日付けで,本件申請について許可した。また,同日付けで,富山県厚生部長名で,原告に対し,富山県地域医療計画の達成の推進に協力することなどの遵守事項とともに,中止勧告にもかかわらず病院を開設した場合には,厚生省通知(昭和62年9月21日付け保発第69号厚生省保険局長通知。なお,現在は厚生労働省。)において,保険医療機関の指定の拒否をすることとされているので,念のため申し添える。と記載された文書が送付された(以下,同保険局長通知を昭和62年保険局長通知という。)。3
争点
本件における争点は,本件勧告の違法性の有無であり,具体的には,以下のとおりとなる。
(1)
(2)

医療計画の運用の合理性(争点2)

(3)

2次医療圏の設定の合理性(争点3)

(4)
4
医療計画の合理性(争点1)

手続的違法性(争点4)

争点に対する当事者の主張
(1)

医療計画の合理性(争点1)について
被告の主張
(ア)

医療計画は,都道府県が地域の需要に応じた医療を提供できる区域
(医療圏)を設定することで医療資源が地域的に偏在することを回避するとともに,当該医療圏内の医療施設が相互に連携することによって,国民がどのような地域に住んでいたとしても適正な医療を受けられるようにするものである。
(イ)

具体的には,地理等の自然的条件と日常生活の需要,交通事情等の
社会的条件を考慮して医療圏を設定し,当該医療圏の性別及び年齢ごとの人口に年齢階層に応じた疾病発症率を乗じて導き出された当該地域の必要病床数を基準とすることで当該地域において必要な医療が足りているかどうかを把握し,医療資源の地域的偏在を解消しようとしている。(ウ)

必要病床数は上記のとおり疾病発症率を乗じて算定されているから,
入院を必要とするすべての疾病に応じたものとなっており,個々の診療科目も包括して考慮されている。
(エ)

以上のような医療計画制度には合理性があり,このような制度に基づく本件勧告も適法である。イ
原告の主張
争う。

(2)

医療計画の運用の合理性(争点2)について
被告の主張
医療法7条の2第1項に掲げる者以外の者が,病院の開設の申請又は病床数の増加若しくは病床の種別の変更の許可申請をした場合,その病床の種別に応じ,その病院の所在地を含む2次医療圏における病院の病床数が,医療計画に定める当該区域の必要病床数に既に達している場合又はその病院の開設等によって当該病床数を超えることとなる場合には,都道府県知事が医療法30条の7の勧告を行う。これは,医師等の限られた医療資源を必要病床数に沿って配分することで,都道府県が国民に対し,良質かつ適切な医療を提供するために行われるものである。したがって,このような運用は,前記医療計画の目的に沿って行われるものであって,医療計画を病床抑制計画,統制計画として運用するものではないから,これに基づく本件勧告が違法となるものではない。


原告の主張
争う。

(3)

2次医療圏設定の合理性(争点3)について
被告の主張
富山県の2次医療圏は,①県民の受療動向等の医療に関する諸条件,②地理等の自然条件,③交通,人口,通勤・通学動向,買物動向等の社会的条件,④広域市町村圏等の既存圏域等を総合的に勘案するとともに,医療圏の将来展望等も踏まえながら,一体の地域として医療を提供することが適当であると考えられる地域を単位として設定した。したがって,このことに違法性はない。イ

原告の主張
争う。

(4)

手続的違法性(争点4)について
被告の主張
(ア)

申請書の返戻について
被告が原告の病院開設許可申請書を6回にわたって返戻したのは以下
のような経緯による。
a
被告においては,病院の開設許可等の手続に際し,医療計画との整合性を図り,申請手続を円滑に進めるため,従来からすべての申請者に対して病院開設等の許可申請に先立つ事前協議を求め,不備事項の指摘,病床調整のための協議あるいは計画取下げの指導等を行っていた。ところが,原告は事前協議を経ずに病院開設許可申請書を提出した。

b
原告が提出した申請書には,空欄部分があるなどの不備があり,補正を求める必要があった。2回目以降に提出された申請書も,指摘した事項が補正されていなかったため,更に補正を求める必要があった。
c
また,原告の申請時点で既に医療計画で定めた必要病床数を超える増床等の計画があり,病床調整のための協議を行う必要があった。4回目以降の申請書提出の際には,後記のとおりの病床配分が行われて原告に病床を配分しないこととなっていたため,計画取下げの指導を行う必要があった。

d
そのため,被告は,行政指導として,いずれの申請書についても原告に返戻した。

e
被告においては,地域医療の円滑な推進を図る見地から,医療機関相互の連携状況を把握するため,病院の開設又は増床申請の際に,開設地の市町村及び郡市医師会の意見書の添付を求めていたところ,原告の申請にはそれが添付されていなかったので,上記不備事項の指摘と併せて医師会の意見書を添付するよう行政指導を行った。医師会の意見書を添付していないことのみを理由に申請書の返戻を行ったわけではない。
f
これに対し,原告は,病床調整に従う,医師会と話し合いたいと述べたり,取下げ指導について検討するとして申請書を持ち帰るなど,被告の行政指導に応じる意向を示していた。

g
申請書の返戻が合計6回になったのは,原告が事前協議を経ることなく,不備のある申請書の提出を繰り返したためである。

(イ)
a
病床配分について
病床配分の手続,要件については,法令上明文の規定がないことから,都道府県知事の裁量判断に委ねられており,必要病床数を超えることとなる申請が競合した場合は,地域において必要な医療を確保するという観点から,医療圏内における均衡ある整備の促進,不足している診療機能の充実といった諸事情,公益性や地域的バランス,必要性等を考慮して競合する病院に対する病床配分を決定する。

b
平成8年5月30日の病床調整
同日の高岡地域医療推進対策協議会(以下第1回協議会という。
)の病床配分においては,病床開設の必要性が高い療養型病床群,救急医療について認めるとしたほか,地域における病院の有無を考慮した。その結果,原告の計画に対しては,地元市町村及び郡市医師会の意見書の添付がなく,地域の保健,福祉部門との連携に不安があること等から,病床を配分しないこととなった。

c
平成9年9月11日の病床調整
同日の高岡地域医療推進対策協議会(以下第2回協議会という。
)の病床配分は,地域において必要性が高いと認められる療養型病床群,透析医療及び整形外科について病床を配分した。原告の計画に対しては,不足病床数の半分である50床程度であれば配分できることを打診したが,原告がこれを拒否したため,仮に原告に50床の病床を配分しても,その病床配分に従って病院が開設されるとは考えられなかったため,病床を配分しなかった。
第2回協議会によって病床配分を受けたC病院,D病院,E病院は,いずれも第1回協議会後に増床計画についての相談,要望(事前協議)を受けたが,高岡医療圏の実質的な不足病床数がほとんどない状態であったため,申請を自粛してもらっていた。このような事情があったため,公平な病床配分を行う見地から,現に申請を行っている原告だけでなく,これらの3病院を含めて病床配分の調整をした。
(ウ)

以上によれば,本件勧告の前提となる手続において,被告が原告を
不公平,不公正に扱った事実はなく,被告は本件勧告の実体的要件を意図的に作出しておらず,本件勧告に違法性はない。

原告の主張
(ア)

複数の病院開設又は増床許可申請があって,いずれも許可要件を満
たしている場合,被告は,各申請者を公平に扱わなければならない。そのためには,必要病床数の範囲内で,その申請した病床数に応じて按分して病床を割り当てる必要がある。
ところが,被告は,公平,公正な病床調整を行うどころか,当初から原告に病床配分をしない意図のもと,医師会の同意書がない場合は病床配分のときに不利になるなどと不利益な取扱いを示唆して行政指導に従うことを強要しつつ,法律上何ら必要とされない医師会の同意書の添付を欠くことを理由に6回にわたって申請書の返戻を行って病院開設許可までの時間を引き延ばし,その間に病床調整において医師会の同意書がないことを理由に原告を劣後したものと取り扱って原告以外の病院に病床を配分し,これらの病院に病院開設あるいは増床の申請を行わせてこれを許可することにより,必要病床数を満たして中止勧告の実体的要件(医療法30条の7)を作出して本件勧告を行った。このような本件勧告に至る手続は,原告を不公平,不公正に扱うものであって,中止勧告における公平・公正な取扱いを予定する医療法30条の7に反し違法である。
(イ)

被告の6回に及ぶ申請書の返戻行為は,行政手続法7条の審査応答
義務に違反する。申請書に不備があれば,補正を求め,補正ができないときは却下すべきであって,申請書の不備を理由に返戻することは認められない。
(ウ)

必要病床数が満たされたのは平成9年9月30日であり,原告の6
回目の申請ですらその約7か月前である同年3月6日に行われているのであるから,被告が,原告の6回の申請について,公平・公正に取り扱っていれば,あるいは,審査応答義務を尽くしていれば,5回目以前の申請はもちろん6回目の申請についても,必要病床数を超えるという医療法30条の7の勧告の要件に該当することはなかった。本件勧告に至る手続の違法が結論に影響を与えるものであり,本件勧告は取り消されるべきである。
第3
1
争点に対する判断
まず,当事者間で最も強く争われている手続的違法性(争点4)について検討する。
(1)

前提となる事実のほかに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
が認められる。

被告の病院開設等許可申請の取扱い(甲14の2,15の1,乙12,弁論の全趣旨)
富山県においては,医療法7条に基づく病院の開設許可等の手続に際し,従来から,すべての病院開設等申請予定者に対し,その許可申請に先立つ事前協議を求めていた。事前協議においては,病院開設等許可事務を担当する厚生部医務課が,病院開設等申請予定者と計画内容について協議し,その計画が法令や富山県の指導方針に沿ったものか確認を行い,不備があればこれを指摘して訂正させていた。また,富山県の病院の新設・増床の許可指導方針(平成元年8月31日作成)によれば,病院の新規開設の場合の病床数をおおむね100床とし,開設地の市町村及び郡市医師会の意見書を添付することとしていた。そして,最終的に要件等に問題がないことが確認された段階で,不備事項のない許可申請書を提出させてこれを受理し,同許可申請書のとおりに申請を許可することが行われていた。そして,病院開設許可申請に対する標準処理期間を15日間と定めていた。イ
原告による病院開設許可申請までの経緯
(ア)

富山県は,平成6年8月,富山県医療計画において高岡医療圏(2
次医療圏)における必要病床数を3808床と定めた(甲26)。なお,平成7年3月31日時点の高岡医療圏における既存病床数は3351床であり,不足病床数は457床であった(甲27)。
(イ)

特定医療法人F(以下Fという。)は,かねてから本件病院開

設予定地に病院開設を計画し,平成7年8月,進行計画を明らかにしたところ,G医師会は,同月23日,Fの進出反対を決議して,

F病院進行を阻止するために適切な対応を要望する。

との富山県や高岡市に対する要望書を提出するなどして,Fの進出を阻止する行動に出た。また,H医師会も,同年9月,Fの病院の設立反対の要望書を被告に提出した(争いのない事実)。
他方,地元住民らは,病院進出を望んでおり,同年11月7日,被告に対し,1万5700人余の署名簿を添えて,病院建設促進を進める要望書を提出した(甲23,60,61,64,65)。Fは,同年9月22日,被告の補助機関である厚生部医務課の担当者と面談したが,同担当者から

県は,許可する上で,地元市町村,医師会の意見を必ず聞いている。

地元市町村,医師会の同意なくして(医療)審議会に諮ることはできない。

などと明言されたため,病院開設を断念した(甲17,67,91)
(ウ)

そこで,Fの理事である原告は,個人として本件病院を開設するこ
とを計画した(甲17,19,67,69)。

平成8年2月2日の申請書の提出(1回目の申請書提出)
(ア)

申請書の提出と返戻(争いのない事実,甲74,100)
原告は,平成8年2月2日,病院開設許可申請書(病床数を100床
とするもの。以下1回目申請書という。)を経由機関である高岡保健所長に持参して提出したが,同保健所の担当者が同申請書の受付を拒んだことから,同申請書を同保健所長に郵送した。
これに対し,高岡保健所長は,同月9日付けで,次のような文書を添付して,同申請書を原告に返戻した。上記添付文書には,

申請書については、下記のとおり不備な点がありますので返却します。なお、病院開設許可申請にかかる事前協議を行いたいので、予め日程を調整のうえ、関係書類を持参してください。

と記載され,1記載事項の不備
として,申請書について,

医師、歯科医師等従業員の見込数の記載がない。

管理者の住所氏名の記載がない。

病室の構造概要の記載がない。

,添付書類について,

医師等医療従事者の住所の記載がない。

医師等医療従事者の免許証の原本証明を行っていない。

平面図中、病室のベッドの配置が明らかにされていない。

点が指摘され,2県の指導方針との相違として,

1室あたり4床以内での整備を求めているが、計画上6床室が多く見られる。

地元自治体及び郡市医師会の意見書を添付するように求めているが、添付されていない。

と記載され,3病床規模として,

高岡医療圏の一般病床については、病院開設・増床計画が競合しているため、必要な調整を行う場合がある。

と記載されていた。なお,同日時点では,本件医療計画に定める高岡医療圏の必要病床数3808床のうち既存病床数が3415床で,不足病床数が393床であった。
(イ)

厚生部医務課との面談(争いのない事実,甲94)
原告は,本件病院開設事務をFの病院開設事務の担当者であったI(
以下Iという。)に依頼することとし,同人を同道して同年2月15日,厚生部医務課に赴き,厚生部医務課長であったBらと面談した。その際,厚生部医務課側から,Fとの関係について質問があり,原告側は,Fは病院開設を断念し,原告個人が本件病院を開設する趣旨である旨及び地元の医師会と話をしていきたい旨回答した。また,厚生部医務課側は,

地域医療計画と齟齬しない,地元の医師会・自治体の了解を得る,という前提ならば,相談に応じたい。

事前協議など県の行政指導に法的根拠がないというが,地域医療にとけ込むためにも,ルールには従ってもらいたい。

などと述べ,原告側が

医師会・市の意見書は,だめだという意見書でいいのか。

と質問したところ,厚生部医務課側は,

そういうやり方でやられるのは構わないが,反対意見で許可した事例はない。病床配分のときは不利になるだろう。

と回答した。

平成8年3月4日の申請書の提出(2回目の申請書提出)
(ア)

申請書の提出と返戻(争いのない事実,甲75)
原告の使者であるIは,平成8年3月1日,高岡保健所において,持
参した原告の医師免許証の原本の照合を受けた後,同保健所担当者に病院開設許可申請書(病床数を100床とするもの。以下2回目申請書という。)を提出したが,同保健所担当者は同申請書の受取を拒否したため,原告は,同申請書を高岡郵便局から郵送し,同申請書は同月4日,同保健所に到着した。
これに対し,高岡保健所長は,同月14日付けで,次のような文書を添付して,同申請書を原告に返戻した。上記添付文書には,申請書に不備があるので返却する旨,前回同様事前協議を要望し,事前協議に当たっては,地元自治体及び郡市医師会と十分話し合うよう求める旨記載され,1記載事項の不備等として,

(1)載がない。(2)正副の図面が一致していない。(3)致していない。(4)載,「2施設の用途別状況の記名簿と免許証が一医師勤務表に住所が記載されていない。

との記
県の指導方針との相違」として,

地元自治体及び郡市医師会の意見書が添付されていない。

との記載,3病床規模につい
て,

高岡医療圏の一般病床については、病院開設・増床計画が競合しているため、必要な調整を行う場合がある。

との記載がされていた。(イ)

G医師会との話合い(甲69,95)
原告は,平成8年3月28日,G医師会長Jらと面談し,本件病院開
設の計画を説明して,その理解を求めようとしたが,同会長らは絶対反対というだけであった。
(ウ)

厚生部医務課との面談(甲95)
原告は,同日,上記G医師会との話合いを終えた後,Iと同じく本件
病院開設事務を担当させていたK(以下Kという。)を同道して,厚生部医務課に赴き,Bに対し,G医師会と話合いをしたことを報告した。
その際,Bが,

高岡医療圏は要望がかなりあり,残された病床の調整が必要である。0から100の間であり,理解していただきたい。

調整するにしても同意書がないと優先順位は当然下になる。

と述べたのに対し,原告は,

理解している。

と回答し,場合によっては配分が0になるということに対しても,原告は「従います。」と回答している。また,原告は,今後も医師会や自治体と話合いを続けていきたい旨述べている。

平成8年4月8日の申請書の提出(3回目の申請書提出)
(ア)

申請書の提出と返戻(争いのない事実,甲76,乙8)
原告は,平成8年4月5日,記載事項の不備については訂正し,医師
会及び地方自治体の意見書については,引き続き話合いを重ねて努力していきたい旨記載がされた文書を添付して,病院開設許可申請書(病床数を100床とするもの。以下3回目申請書という。)を高岡保健所長宛に郵送し,同申請書は,同月8日,同保健所長に到達した。Bは,同日,原告に対し,

もう郵送しないでもらいたい。書類の問題ではなく事前協議をしてもらいたい。

旨を電話で通知した。そして,高岡保健所長は,同月16日付けで,次のような事項が記載された文書を添付して,上記申請書を原告に返戻した。前記添付文書には,申請書に不備があるので返却する旨,前回同様,事前協議を重ねて要請し,事前協議に当たっては,地元自治体及び郡市医師会と十分話し合うよう求める旨記載され,不備事項の指摘については,1として,

(1)い。(2)記載事項の不備等施設の用途別状況について各部屋の面積の記載がな用途が特定されていない部屋がある。(3)致していない。

との記載,2名簿と免許証が一県の指導方針との相違として,

地元自治体及び郡市医師会の意見書が添付されていない。

との記載,3病床規模として,

高岡医療圏の一般病床については、病院開設・増床計画が競合しているため、必要な調整を行う場合がある。

との記載がされていた。
(イ)

G医師会との話合い(甲67)原告は,平成8年4月25日,改めてG医師会長Jらと面談して,その理解を求めようとしたが,同会長らは,絶対反対という態度を変えず,話合いにならなかった。
(ウ)

厚生部医務課との面談(甲96)
Kは,平成8年5月9日,厚生部医務課に赴き,同課係長Lらと面談
した。その際,Kは,申請書の書類上の不備として指摘された事項について,確認し,厚生部医務課側から説明を受けた。また,厚生部医務課側は,

高岡医療圏における必要病床数と既存病床数との差がわずかなところに,計画が多数出ているため,調整の必要があることを理解していただきたい。

従来の県の指導方針から,市医師会や自治体との協議についても重視せざるを得ない。今の段階で,そのような協議の整っていないA病院については,優先順位が低くならざるを得ない。

と述べ,これに対し,Kは,

医師会や自治体とは,できるだけ協力してもらえるよう努力していきたい。5月28日に医師会と協議することになっており,その結果については医務課にお知らせする。

と返答した。(エ)

高岡地域医療推進対策協議会における病床配分協議(争いのない事
実,甲92)
平成8年5月30日,高岡地域医療推進対策協議会が開催された(第1回協議会)。なお,同協議会会長は,G医師会長Jであった。
当時,高岡医療圏における不足病床数は371床であったが,厚生部医務課は,既に事前協議済みのM病院の100床を控除した271床が実質的な不足病床数であるとして,次のとおり配分するとの病床配分案を作成して提案した。
病院名

増床計画数

病床配分数

N病院

100床

100床

O病院

100床

50床
P病院

19床

19床

E病院

200床

0床

Q病院

100床

100床

R病院

100床

0床

本件病院

100床

0床

719床

269床

合計

なお,同病床配分案の理由欄には,病床を配分し,あるいは配分しない理由として重視していることを示すため,次の箇所に波線が付されていた。すなわち,N病院については療養型病床群,O病院については高岡市南部地区の救急医療,P病院については救命救急センター,E病院については平成8年4月1日開院(99床),Q病院については

現在、βに一般病床無

,R病院については意欲薄い,本件病院については

地元、医師会同意無

の各記載の下に波線が付されていた。
第1回協議会は,上記病床配分案のとおり了承した。

平成8年6月10日の申請書の提出(4回目の申請書提出)
(ア)

申請書の提出
原告は,同月8日付け病院開設許可申請書(病床数を100床とする
もの。以下4回目申請書という。)を高岡保健所長宛に郵送し,同申請書は,同月10日,高岡保健所長に到達した(甲89,乙13)。(イ)

厚生部医務課との面談及び申請書の返戻(争いのない事実,甲97

原告は,平成8年6月14日,厚生部医務課に赴き,Bらと面談した。その際,厚生部医務課側は,原告に対し,第1回協議会の結果を説明した上,

行政指導という視点から,この計画については,おりてほしいと思っている。

今までの流れ,状況から見て,保健・医療・福祉の連携に不安があるので,先生のところの計画はやめてほしいとお願い申し上げたい。

などと述べるとともに,電話した矢先に,申請書を送付してきたということは不愉快な話である。配達証明で保健所に送りつけるというのは憤慨である。本当に,富山の医療を支えるという気ならば,何回も何十回でも話合いをするべきで,申請書を送りつけてくるのは,道義上,納得できない。今後はやめてほしい。今回の申請書は持ち帰ってほしい。などと述べ,また,原告が,

事前協議というのは,どの時期を指すのか。

医師会には何度も行っている。医師会の同意が前提と言われてきている。事前協議のテーブルにつかせてくれないのか。

医師会の同意は前提条件か,並行してやっていいのか。

などと尋ねたところ,厚生部医務課側は,

今日の,この場は,広い意味で考えれば事前の打合せとも言える。これまで,公文書で事前協議をしてほしいと言っている。許認可庁として事前協議をしたいと言ってきている。

,事前協議と並行して同意書を取ってもらってもよい。最終的に同意書が取れればよい。ただし,これは重要なポイントである。病院の計画を持ってくる時には,事前に市町村や医師会に行って,感触をみるのが普通だろう。と回答した。さらに,原告が

医師会については了解をとれるものと思っている。

と述べたので,厚生部医務課側は,

本当にそう思っているのか。的を外れているのではないか。

などと指摘したところ,原告は,

現在はそうかもしれないが努力していく。

と述べ,また,厚生部医務課側からの取下げ指導に対しては,

おっしゃることはわかった。調べるべきことは調べ,検討する。

と応答した。
そして,上記面談後,4回目申請書がBから原告に返戻されたため,原告はこれを受け取って持ち帰った。

平成8年6月19日の申請書の提出(5回目の申請書提出)(ア)
申請書の提出(争いのない事実,甲89)
原告は,平成8年6月18日,病院開設許可申請書(病床数を100
床とするもの。以下5回目申請書という。)を高岡保健所長宛に郵送し,同申請書は同月19日に同保健所長に到達した。なお,同申請書提出の際,弁護士Sは,原告の代理人として,被告に対し,書面で,医療法上不備のない4回目申請書を返戻されたので,5回目申請書について,速やかに審査をし,不許可ならば理由を明記して文書で回答するよう申し入れた。
(イ)

申請書の返戻(争いのない事実,甲77)
これに対し,被告からの応答はなく,かえって,高岡保健所長は,同
年7月3日付けで,5回目申請書には以下のような不備があるので返却する旨記載された文書とともに,同申請書を原告に返戻した。不備として指摘されているのは,1記載事項の不備等として,(1)階の概要と図面の内容の不一致,(2)致,(3)各病室一覧表と図面の内容の不一4階及び5階の用途が不明確であることであり,2県の指導方針との相違として,地元自治体及び郡市医師会の意見書が添付されていないことである。これとともに,必要病床数を上回る病院開設・増床計画が出され,病床の調整が必要となったことから,第1回協議会を開催したところ,同協議会は,地元市町村及び郡市医師会の意見書の添付がなく,地域の保健,福祉部門との連携に不安があること等から,原告の病院開設計画を認めるべきでないとの意見であり,これを踏まえて富山県としては原告に対して計画取下げの指導・調整を行うこととしたなどのこれまでの経緯を説明した上,このような富山県の指導・調整に従うよう要望する旨の記載がされていた。

本件申請(6回目の申請書提出)
(ア)

申請書の提出(争いのない事実,甲78,79の1・2)濱弁護士らは,原告の代理人として,次の内容の書面を添付し,平成9年3月6日付け病院開設許可申請書(病床数を400床とするもの。以下6回目申請書という。)を被告宛に郵送し,同申請書等は,同月7日に到達した。上記添付書面には,行政手続法に従い,同申請書受領後,直ちに審査を開始すべきこと,同申請書に補正を要する事項があれば,同法7条に従った補正命令を代理人宛にすべきこと,これまでの申請書の返戻行為及び行政指導は違法であること並びに合理的な行政指導には協力すること等が記載されていた。なお,6回目申請書において病床数を400床としたのは,これまで新設病床はおおむね100床とする富山県の許可指針に従って100床としていたが,上記基準に法的根拠がないことを濱弁護士らから教示されたためである。
(イ)

申請書の返戻(争いのない事実,甲80,100)
厚生部医務課は,同年4月9日,厚生部医務課長名で,6回目申請書
を原告宛に郵送して返戻しようとしたが,原告がその受領を拒否したため,やむなく濱弁護士ら宛に郵送して同申請書を返戻した。
その際,添付されていた原告宛平成9年3月28日付け書面には,6回目申請書の記載事項の不備として,1診療科名のうち『理学診療科』については、平成8年8月の医療法施行令の改正に伴い削除された診療科名であり、標榜できない。2誤りがある。3医師、看護婦の法定人員の算出に薬剤師の法定人員の算出根拠が不明である。4病室一覧表の4・5階部分の記載がない。と記載され,また,病院開設許可申請書は,富山県医療法施行細則により管轄保健所長を経由しなければならない旨が指摘され,さらに,前回と同様,第1回協議会の意見も聴いて,原告の計画については取下げの方向で指導,調整を行うこととなったとの経緯を説明した上,このような富山県の指導,調整に従うよう要望する旨が記載されていた。当時,本件医療計画に定める高岡医療圏の必要病床数3808床のうち,既存病床数は3556床で,不足病床数は252床であった。ケ
不作為違法確認請求訴訟の提起(争いのない事実,甲14の1,81,82,乙15)
原告は,平成9年4月11日,当庁に対し,被告が6回目申請書による申請(本件申請)に対して処分をしないことが違法であるとの確認を求める訴訟を提起した(以下別件違法確認訴訟という。)。
厚生部医務課は,厚生部医務課長名で,原告に対し6回目申請書を返戻したのは,補正を求めるためであって,審査を拒否したものではない旨記載した書面を送付した。濱弁護士らが,原告に対して申請書の補正を求めるためであれば処分庁ですべきである旨申し入れたところ,同年5月16日,被告名で,原告に対し,行政手続法7条に基づき補正を求める書面が送付された。
原告は,同年6月2日,上記補正事項についての補正を完了した。

厚生部医務課による審査の経緯
(ア)

確認事項についての照会と回答及び第1回ヒヤリング(争いのない
事実)
被告は,平成9年6月17日付けで,厚生部医務課長名で,原告に対し,病院開設許可申請に係る確認事項についてと題する書面を送付し,病院開設の主体・設立の目的・資金計画・土地の確保等についての照会をしたが,同照会は平成5年2月3日付け厚生省健康政策局総務・指導課長連名の通知医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認についてに基づくものであった。原告は,同照会に対して,平成9年7月2日到達の書面で回答し,同月7日,厚生部医務課において,T医務係長(以下Tという。)からヒヤリングを受けた。(イ)

書類提出要請と第2回ヒヤリング(争いのない事実,甲14の2)厚生部医務課長は,原告に対し,平成9年7月28日付け病院開設許可申請に係る確認事項についてと題する書面で,原告の銀行残高証明書,融資証明書及び開設当初2か月間の資金計画書を,同年8月8日までに提出するよう要請した。なお,これらの書類は,上記厚生省健康政策局総務・指導課長連名通知に確認すべき書類として記載されているものであった。
宇佐見方宏弁護士(以下宇佐見弁護士という。)とIは,原告代
理人として,同月18日,厚生部医務課において,上記書類を提出し,また,Tからヒヤリングを受けた。その際,Tは,宇佐見弁護士らに対し,

50床程度であれば削減勧告に従うか。

と尋ねて,原告の意向を確認した。これに対し,宇佐見弁護士が,現在病床数が幾ら残っているかと質問したところ,Tの回答が

100床プラスαである。αとは1から9までの間である。

とのことであったため,宇佐見弁護士は,

100床であれば考慮しないでもないが,50床であれば足りない。

と応答するとともに,別件違法確認訴訟における次回口頭弁論期日の平成9年9月10日までに本件申請に対する処分をしてほしい旨申し入れ,これに対し,Tは努力する旨答えた。
上記ヒヤリングをもって,厚生部医務課による本件申請に対する審査は終了した。

高岡地域医療推進対策協議会における病床配分協議(争いのない事実)厚生部医務課は,平成9年9月11日に開催された高岡地域医療推進対策協議会(第2回協議会)において,不足病床数103床について,C病院に30床,D病院に23床,E病院に50床を割り当て,本件病院には病床を配分しないという内容の病床配分案を提出した。同協議会は,同病床配分案をそのまま了承した。シ

富山県医療審議会の答申と本件勧告(争いのない事実,甲34の1・2)被告は,平成9年9月22日,富山県医療審議会に対し,本件申請について医療法30条の7に基づく中止勧告をすることにつき諮問したところ,同月26日開催された同審議会は,全員一致で,本件病院について病院開設の中止を勧告するのが適当であるとの結論に達し,被告に対し,その旨の答申をした。
被告は,原告に対し,平成9年10月1日付けで,医療法30条の7の規定に基づき,高岡医療圏における病院の病床数が,富山県地域医療計画に定める当該医療圏の必要病床数に達しているためという理由で,本件申請に係る病院の開設を中止するよう勧告した(本件勧告)。


原告による本件勧告の拒否(争いのない事実)
原告は,被告に対し,同月3日付けで,本件勧告を拒否するとともに,速やかに本件申請に対する許可をするよう求める文書を送付した。

原告に対する病院開設許可と原告による別件違法確認訴訟の取下げ(争いのない事実)
被告は,平成9年12月16日付けで,本件申請について許可した。また,同日付けで,富山県厚生部長名で,原告に対し,富山県地域医療計画の達成の推進に協力することなどの遵守事項とともに,

中止勧告にもかかわらず病院を開設した場合には,厚生省通知(昭和62年9月21日付け保発第69号厚生省保険局長通知)において,保険医療機関の指定の拒否をすることとされているので,念のため申し添える。

と記載された文書が送付された。
原告は,平成9年12月17日,別件違法確認訴訟の訴えを取り下げた。

原告以外の病院開設許可等申請に対する厚生部医務課の対応等
(ア)

原告以外の病院開設許可等申請について,以下のとおり事前協議が
開始され,被告は医療法7条に基づく許可をした(争いのない事実,甲86)。なお,後記開設等許可年月日にそれぞれ開設等許可がされ,既存病床数が増加した結果,その時点での必要病床数から既存病床数を控除した数(不足病床数)については以下の不足病床数欄のとおりである(甲100)。
事前協議開始時期

許可申請年月日

開設等許可年月日

不足病床数

N病院

平成7年5月9日

平成8年7月3日

平成8年8月1日

271床

P病院

平成6年6月21日

平成8年10月2日

平成8年10月14日

252床

M病院

平成6年11月2日

平成9年7月3日

平成9年7月9日

153床

O病院

平成7年10月

平成9年7月10日

平成9年7月29日

103床

Q病院

平成8年2月21日

C病院

平成9年4月18日

平成9年9月16日

平成9年9月30日

D病院

平成8年7月6日

平成9年9月16日

平成9年9月30日

E病院

平成6年3月10日

平成9年9月17日

平成9年9月30日

病院名

(イ)

(計画取りやめ)

0床

C病院,D病院,E病院に対する各許可までの経緯(争いのない事
実,甲86)
厚生部医務課は,平成9年6月17日,第1回協議で100床の病床配分が了承されたQ病院開設計画の断念を確認した。
厚生部医務課は,同年7月30日,C病院,D病院,E病院に対し,不足病床が生じたことを伝え,次いで,同年9月1日になって,上記3病院に対し病院開設等計画書の提出を求めたところ,上記3病院から,同月4日,同計画書が厚生部医務課に提出された。
そして,同月11日開催の第2回協議会において,上記サのとおり病床配分案が了承され,上記3病院は,同病床配分案に従って上記各許可申請をし,申請どおりの許可を受けた。

返戻された1回目ないし6回目申請書には,いずれにも受付印が押されていない(甲14の3,乙11,13,14)。(2)

事前協議,医師会の意見書添付及び病床調整の法的性質(甲15の1,
乙12,弁論の全趣旨)
医療法7条所定の許可申請に際し,厚生部医務課との間で申請前の事前協議を経ることや開設地の市町村及び郡市医師会の意見書の添付を要するとの法律上の定めはなく,厚生部医務課の原告に対する本件申請に関する事前協議の要請並びに開設地の市町村及び郡市医師会の意見書の添付の要請は,いずれも厚生部医務課による原告に対する行政指導として行われたものである。また,必要病床数を超える病院開設・増床計画が競合した場合に地域医療推進対策協議会を開催して病床調整を行うとの法律上の定めはなく,本件で高岡地域医療推進対策協議会を開催して行った2回の病床調整,病床配分についても,いずれも厚生部医務課による原告に対する行政指導として行われたものである。
(3)

本件勧告の手続における違法の有無
申請書の返戻行為に関する行政手続法違反の有無
(ア)

行政手続法7条は,行政庁は,申請が行政庁の事務所に到達したと
きは,遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず,法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については,速やかに,申請者に対し補正を求めるか,又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない旨定めている。
そして,同条は,同法制定前の行政実務において,許認可等に係る申請が許認可の権限を有する行政庁に提出されても,行政庁がこれを適法あるいは適式なものと認めて受理しない限り審査義務が生じないものとの理解に立って,当該申請書を返戻することにより審査を拒否するなどの恣意的な行政運営がされていたことを踏まえ,このような行政運営を否定し,到達した申請書に係る申請に対する行政庁の審査,応答義務を明確にするために設けられた規定である。したがって,行政庁は,申請書が行政庁の事務所に到達したときには,そのときから当該申請書による申請について審査し,応答する義務を負うのであって,申請者の同意がないにもかかわらず,これを申請として取り扱わず,当該申請書を返戻することは同条に違反し許されない。
(イ)

前記認定事実及び証拠(甲14及び15の各1ないし3,甲16な
いし19,67ないし69,乙12,15)によれば,被告は,病院開設等許可申請書に係る計画の内容等に関して事前協議を経るべきであり,その協議の結果,要件の整えられたものを正式な申請書として取り扱うとの従前の考え方から,原告から1回目ないし6回目の各申請書が提出されたにもかかわらず,これを正規の病院開設許可申請として取り扱わず,原告の承諾を得ることもなく,また,5回目及び6回目申請書については原告の明示の意思に反して,これらを高岡保健所長又は厚生部医務課から原告に返戻させたと認められる。
この点,被告は,各申請書を返戻したのは,原告が事前協議を経ることなく,不備のある申請書の提出を繰り返したためであると主張する。しかしながら,病院開設許可申請をするに当たり,事前協議を経ることは,法律上の手続的要件となっておらず,これを経ていないことをもって上記申請を拒否することはできず,申請書の記載に不備等がある場合には,申請書を受理した後に補正を促せば足りるのであるから,申請書を返戻する正当な理由とはなり得ない。また,前記認定のとおり,被告の補助機関である高岡保健所長及び厚生部医務課は,各申請書を返戻する際に,開設地の市町村及び郡市医師会の意見書を添付するよう要請しているが,意見書の添付についても,前記したとおり行政指導にすぎず,この添付がないことも申請書を返戻する正当な理由とはなり得ず,被告の上記主張は,被告による申請拒否を正当化できるものではなく,採用できない。また,Bは,厚生部医務課は,1回目ないし6回目申請書を受け付けて審査を行っていた旨を陳述する(甲15の3)が,上記認定の申請書返戻の経緯,被告が正式な申請書として受け取った場合には当然押捺されるはずの受付印が押されていないことなどに照らすと,Bの上記陳述部分は,採用できない。
そうすると,たとえ不備の是正を求めるためであっても,また,医師会の意見書の添付や事前協議といった行政指導の必要があったとしても,被告の申請書の各返戻行為はいずれも行政手続法7条に違反するものであって,行政手続法上違法であり,被告は,原告から1回目申請書が提出された時点から,申請について審査し,応答すべき義務があったといえる。

本件勧告に至る手続における不公平・不公正な取扱い
本件勧告は,前記認定のとおり,平成9年10月3日にされたもので,当時の高岡医療圏における不足病床数は0床であり,被告が医療法30条の7に基づき病院開設の中止勧告(本件勧告)をするに必要な要件を一応具備しているものといえる。
しかしながら,前記認定のとおり,被告は,原告の申請書を行政手続法7条に違反して6回にわたり返戻して,申請に対する審査,応答すべき義務を怠りながら,他方,その間に,他の病院開設等予定者との間で,いまだ開設許可等の正式な申請がされていないにもかかわらず,事前協議あるいは高岡地域医療推進対策協議会において病床配分を決め,原告に対しては,原告の意見聴取等の機会もなく,平成8年5月30日に開催された上記協議会(第1回協議会)において病床配分をしないこととし,以降,病院開設申請の取下げを勧告してきたものであり,本件勧告の前提となった平成9年9月11日に開催された上記協議会(第2回協議会)においても,厚生部医務課の担当者が原告以外の他の病院開設等予定者に連絡して計画書の提出を促し,これらの者から正式な申請がされていないにもかかわらず,病床配分を決定し,原告に対しては,原告の意見聴取等の機会もなく,病床配分をしないこととしたものであって,本件勧告に至るまでの上記の経緯にかんがみると,被告は,本件勧告を行うに当たり,原告を公平・公正に取り扱っていたものといえず,本件勧告にはその手続において瑕疵があったものというべきである。
(4)

本件勧告の手続的瑕疵と本件勧告の取消
次に,上記のような手続的瑕疵があった場合に,それが本件勧告の取消原因となるかについて検討する。
本件のような行政手続法7条に違反する申請書の返戻行為ないし不公平・不公正な取扱いがあった場合に,その後,行政庁が当該申請に応じて審査を開始し,当該申請により求められた許認可又はこれを拒否する処分等を行ったとしても,常にその処分が同条違反を理由に取り消され得るとすることは相当でないが,本件勧告の上記手続的瑕疵がその結果に影響を及ぼす場合には,上記手続的瑕疵は本件勧告の取消原因に当たると解すべきである。


前記認定のとおり,富山県は病院開設許可申請に対する標準処理期間を15日間と定めている(もっとも,事前協議の運用を前提とする取扱いと考えられる。)ところ,上記許可申請に対し,事前協議が行われていない場合には,申請書の不備等を補正させ,審査するためにある程度の期間を要することはやむを得ないところであるが,原告の6回目申請書の提出に係る本件申請についての厚生部医務課による審査は,平成9年4月から同年8月までの約4か月間で完了していたのであるから,被告が行政手続法7条に従って遅滞なく審査,応答していれば,原告の病院開設許可申請に対する許可について申請書の提出から遅くとも4か月の期間で行うことができたといえる。そして,本件申請について見ても,前記認定のとおり,高岡医療圏の既存病床数が必要病床数に達し,不足病床数が0床となったのは,平成9年9月30日であり(平成9年9月11日に開催された第2回協議会において,103床についての病床配分が決められたが,いまだ原告以外の病床開設等予定者は許可申請をしておらず,これらの申請が行われ,これに対する被告の開設等許可が同月30日付けでされた結果,不足病床数が0床となったものである。),同年8月(本件申請に対する審査が完了した時期)には103床の不足病床数があったのであるから,病床を400床とする本件申請に対し,その時点では申請病床数の削減を勧告されることはあっても,病院開設の中止を勧告されることはなかったものといえる。そして,医療法30条の7の規定に基づく勧告は,同法7条の許可又は不許可の処分が行われるまでの間に行われるものであるから(前提となる事実),同年8月の時点で病院開設の許可等がされていれば,その後に不足病床数が0床となっても病院開設の中止勧告がされることはなかった。また,前記認定事実によれば,1回目申請書の提出から約4か月後の平成8年6月,2回目申請書の提出から約4か月後の同年7月の時点では371床の不足病床数が,3回目申請書の提出から約4か月後の同年8月の時点では271床の不足病床数が,4回目申請書の提出及び5回目申請書の提出から約4か月後の同年10月の時点では252床の不足病床数があった。
そうすると,1回目ないし5回目申請書(いずれも病床を100床とするもの。)の提出に対し,被告が行政手続法7条に従って遅滞なく審査,応答していれば,それぞれその時点で本件病院の開設によって既存病床数が必要病床数を超えることはなく,医療法30条の7の医療計画の達成の推進のため特に必要があるとの要件を欠くので,同条の規定に基づく勧告がされることはなかったものといえる。なお,前記に認定・説示したとおり,高岡地域医療推進対策協議会を開催して行った病床調整,病床配分は飽くまで行政指導にすぎないから,同協議会において既に病床配分が行われていたとしても,そのことが医療法30条の7の規定に基づく勧告の要件に影響を与えるものではない。したがって,被告が行政手続法7条に従って遅滞なく審査,応答していれば,原告の本件申請に対して中止勧告がされることはなく,このような手続的瑕疵が結果に影響を及ぼす場合に当たるから,同手続的瑕疵は本件勧告の取消原因となる。
2
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件勧告は違法な処分として取消しを免れないというべきである。

第4

結論
よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
富山地方裁判所民事部

裁判長裁判官

佐藤真弘
裁判官

大野博隆
裁判官

松本武

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