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損害賠償請求事件
事件番号平成12(ワ)544
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成19年12月20日
裁判所名・部千葉地方裁判所  民事第5部
判示事項の要旨児童福祉法(平成9年法律第74号による改正前のもの)27条1項3号の措置に基づき社会福祉法人の設置する養護施設に入所した児童に対し,同養護施設の長が行った暴行等が,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内とはいえず,不法行為を構成し,同養護施設の長の養育監護行為が県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為であるとして,その不法行為につき県に国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を認めた事例
裁判日:西暦2007-12-20
情報公開日2017-10-17 20:45:39
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平成19年12月20日判決言渡
平成12年(ワ)第544号
口頭弁論終結日

損害賠償請求事件

平成19年7月5日
判主1決文
被告千葉県は,原告Aに対し,40万円及びこれに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告千葉県は,原告Bに対し,80万円及びこれに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告千葉県は,原告Cに対し,40万円及びこれに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4
被告千葉県は,原告Dに対し,10万円及びこれに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5
被告千葉県は,原告Eに対し,10万円及びこれに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

6
被告千葉県は,原告Fに対し,30万円及びこれに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7
被告千葉県は,原告Gに対し,80万円及びこれに対する平成12年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

8
原告A,原告B,原告C,原告D,原告E,原告F及び原告Gの被告千葉県に対するその余の請求並びに被告Z及び被告社会福祉法人恩寵園に対する請求をいずれも棄却する。

9
原告H,原告I,原告J及び原告Kの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用中,原告A,原告B,原告C,原告D,原告E,原告F及び原告Gと被告千葉県との間に生じたものはこれを20分し,その1を被告千葉県の負担とし,その余を原告A,原告B,原告C,原告D,原告E,原告F及び原告
Gの負担とし,原告H,原告I,原告J及び原告Kと被告千葉県との間に生じたものは,すべて原告H,原告I,原告J及び原告Kの負担とし,原告らと被告Z及び被告社会福祉法人恩寵園との間に生じたものは,すべて原告らの負担とする。
この判決は,第1項ないし第7項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告千葉県が,原告Aのために30万円,原告Bのために60万円,原告Cのために30万円,原告Dのために10万円,原告Eのために10万円,原告Fのために20万円及び原告Gのために60万円の各担保を供するときには,それぞれその仮執行を免れることができる。

第1

実及び理由
請求
被告らは,連帯して,原告らに対し,それぞれ1000万円及びこれに対する,
被告Z及び被告社会福祉法人恩寵園については平成12年5月21日から,被告千葉県については同月23日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要
本件は,児童福祉法(但し,以下ことわりなき限り,平成12年5月24日法律第82号による改正前のもの。以下単に法という場合がある。)27
条1項3号に基づき,被告千葉県(以下被告県という。
)又は訴外千葉市
により,養護施設(児童福祉法7条1項。平成9年6月11日法律第74号による改正後の児童養護施設。以下単に養護施設という。である恩寵園(以)
下,養護施設恩寵園を,単に恩寵園ないし園という場合もある。
)に
入所措置されていた原告らが,その入所期間中,園の副園長ないし施設長の職にあった被告Zにより,体罰・虐待の不法行為を受けたと主張して,被告Zに対し,民法709条に基づく損害賠償として,養護施設恩寵園の設置者である被告社会福祉法人恩寵園(以下被告恩寵園という。
)に対し,被告Zの使

用者として,被告Zの上記不法行為につき,民法715条1項に基づく損害賠償として,さらに,被告県に対し,被告Zが被告県の公権力の行使に当る公務員であるとしたうえで同被告に上記不法行為がある旨主張し,また,被告県の公務員である千葉県知事(以下県知事という。
)において,被告恩寵園に
対して有する監督権限の行使を過失により怠った不法行為があると主張し,国家賠償法(以下国賠法という。
)1条1項に基づく損害賠償として,原告
らそれぞれにつき,1000万円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。
なお,被告Zは,原告A,同C,同D及び同Eについて,同原告らが本件訴訟の提起及び追行を弁護士らに委任した当時,同原告らは未成年であって,本件訴訟に関する訴訟能力を有していなかったのであり,訴訟能力のない者からの委任による訴えは,その者が成年に達した場合においても,訴訟能力の欠缺は治癒されないから,同原告らの訴えは却下されるべきである旨本案前の申立をしていたが,この申立については,平成14年4月1日に言い渡された中間判決により,原告A及び同川村についてはいずれも成人後に同原告らが追認したことにより,原告D及び同松尾についてはいずれも同原告らの法定代理人が追認したことにより,それぞれ民事訴訟法34条2項により,訴訟能力の欠缺が補正されたものとして,同原告らの訴えは適法であると判断されている。1
前提事実(当事者間に争いがないか,各項末尾掲記の証拠により容易に認定できる事実)
(1)

当事者
被告恩寵園及び養護施設恩寵園

(ア)

被告恩寵園は,昭和27年5月20日,厚生大臣の認可により設

立された社会福祉法人であり,法35条4項に基づき,被告県の認可を得て,養護施設恩寵園を設置しているものである。

(イ)

養護施設とは,乳児を除き,保護者のない児童,虐待されている

児童その他環境上養護を要する児童を入所させて,これを養護すること等を目的とする児童福祉施設である(法41条)


被告Z
(ア)

被告Zは,昭和50年7月,被告恩寵園に雇用され,園の副園長

として勤務し,昭和59年12月1日,施設長に就任し,平成12年2月10日に園を退職するまで,施設長として勤務していたものである。(イ)

また,被告Zは,昭和59年12月1日,被告恩寵園の理事に,

昭和60年4月,理事長に就任し,平成7年5月23日に理事長を退任するまでの間,被告恩寵園の役員を務めていた。

被告県
被告県は,法35条4項(但し昭和60年7月12日法律第90号による改正前の3項または2項。以下本条項につき同じ。
)に基づき,被告恩
寵園に対し,養護施設恩寵園の設置を認可し,法32条1項に基づき県知事が県の各児童相談所(以下児相という。
)長に法27条1項の措置
を採る権限を委任したうえで,法27条1項3号に基づき,原告Dを除くその余の原告らにつき,
養護施設恩寵園への入所措置を行ったものである。
なお,県知事及び被告県の具体的権限については,下記(2)及び(3)のとおりである。


原告ら
原告らは,法27条1項3号の措置として,原告Dについては千葉市長の委任を受けた千葉児相所長により,その余の原告らについては県知事の委任を受けた各児相所長により,養護施設恩寵園に入所措置されたものである。なお,各原告に関する具体的措置等は下記(4)のとおりである。
(2)

県知事の権限
社会福祉事業法上の権限

県知事は,原告らが被告Zの不法行為があったと主張する昭和59年1月から平成10年4月までの間,被告恩寵園に対し,社会福祉事業法(平成12年6月7日法律第111号により社会福祉法に改題。
)54条
に基づき,
法令,法令に基づいてする行政庁の処分及び定款が遵守されているかどうかを確かめるため必要があると認めるときは,社会福祉法人からその業務又は会計の状況に関し,報告を徴し,又は当該職員に,社会福祉法人の業務及び財産の状況を検査させることができる。(同条1項)という権限,
社会福祉法人が法令,法令に基づいてする行政庁の処分若しくは定款に違反し,又はその運営が著しく適正を欠くと認めるときは,当該社会福祉法人に対し,期限を定めて,必要な措置を採るべき旨を命ずることができる。(同条2項)という権限,

社会福祉法人が前項の命令に従わないときは,…当該社会福祉法人に対し,期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命じ,又は役員の解職を勧告することができる。

(同条3項)という権限及び社会福祉法人が,法令,法令に基づいてする行政庁の処分若しくは定款に違反した場合であって他の方法により監督の目的を達することができないとき,又は正当の事由がないのに一年以上にわたってその目的とする事業を行わないときは,解散を命ずることができる。(同条4項)という権限を有していた。(但し,上記2項ないし4
項の権限は昭和61年12月26日法律第109号の施行以降認められるに至ったものである。


児童福祉法上の権限
(ア)

児童福祉法は,45条1項において,厚生大臣は,児童福祉施設

の設備及び運営について,最低基準を定めなければならない旨定め,同条2項において,児童福祉施設の設置者は,上記最低基準を遵守しなければならない旨定める。
県知事は,上記昭和59年1月から平成10年4月までの間,法46
条に基づき,
前条の最低基準を維持するため,児童福祉施設の長…に対して,必要な報告を求め,児童の福祉に関する事務に従事する職員に,関係者に対して質問させ,若しくはその施設に立ち入り,設備,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。(同条1項。但し平成2年6月29日法律第58号による改正前は職員に以降につき

官吏又は吏員に,実地につき監督させることができる。

と定める。)とい
う権限,
児童福祉施設の設備又は運営が前条の最低基準に達しないときは,その施設の設置者に対し,必要な改善を勧告し,又はその施設の設置者がその勧告に従わず,かつ,児童福祉に有害であると認められるときは,必要な改善を命ずることができる。(同条3項。但し上記改正前は同条2項)という権限及び児童福祉施設の設備又は運営が前条の最低基準に達せず,かつ,児童福祉に著しく有害であると認められるときは,…その施設の設置者に対し,その事業の停止を命ずることができる。(同条4項。但し上記改正前は同条3項)という権限を有していた。
(イ)

また県知事は,昭和59年1月から平成10年4月までの間,法

58条に基づき,

第35条第4項の規定により設置した児童福祉施設が,この法律若しくはこの法律に基づいて発する命令又はこれらに基づいてなす処分に違反したときは,…同項の認可を取り消すことができる。

という権限を有していた。(3)

児相の設置義務及び養護施設への入所措置に関する被告県等の権限被告県について

(ア)

法15条は,

都道府県は,児童相談所を設置しなければならない。

と規定し,被告県は,かかる規定に基づき,市川児相,柏児相及び銚子児相ほかの児相を設置している。
(イ)

法27条1項は,保護者のない児童又は保護者に監護させること

が不適当であると認められる児童のうち,県知事において,県の措置を要すると認める旨の児相所長による報告又は少年法18条2項の規定に基づく家庭裁判所からの送致を受けた児童につき,県が法27条1項各号のいずれかの措置を採らなければならない旨規定するが,このうち同条項3号は,かかる措置のうちの1つとして,養護施設に入所させることを定めている以下,

同条項3号に基づく措置を3号措置」

という。。)(ウ)a法32条1項は,「都道府県知事は,第27条第1項…の措置をとる権限の全部又は一部を児童相談所長に委任することができる。

と定めている。

県知事は,同条項に基づき,同法27条の措置に関する事務を処理する権限を,千葉県事務委任規則により,児相所長に委任している。

千葉市について
(ア)

地方自治法(但し平成11年7月16日法律第87号による改正

前のもの。以下同じ。
)252条の19第1項1号は,いわゆる政令指
定都市又は政令指定都市の市長若しくは政令指定都市の委員会その他の機関は,児童福祉に関する事務のうち都道府県又は都道府県知事若しくは都道府県の委員会その他の機関が法律又は政令の定めるところにより処理し又は管理し及び執行することとされているものの全部又は一部で政令で定めるものを,政令で定めるところにより,処理し又は管理し及び執行することができる旨定め,これを受け,法59条の4第1項は,児童福祉法中都道府県が処理することとされている事務又は都道府県知事その他の都道府県の機関若しくは職員の権限に属するものとされている事務で政令で定めるものは,政令の定めるところにより,指定都市が処理し,又は指定都市の長若しくはその他の機関若しくは職員が行うものとする旨定める。
そして上記委任政令たる児童福祉法施行令(但し平成14年7月12
日政令第256号による改正前のもの。以下同じ。
)18条の3の規定
するところにより,地方自治法施行令は,174条の26において,児童福祉に関し,政令指定都市等が処理し又は管理し及び執行する事務を定めている。
(イ)

千葉市は,平成4年4月1日,政令指定都市に指定された。

(ウ)

千葉市は,地方自治法施行令(但し平成11年10月14日政令

第324号による改正前のもの。以下同じ。
)174条の26第1項及
び法15条の定めるところにより,千葉市児相を設置している。
(エ)

また,千葉市は,地方自治法施行令174条の26第1項の定め

るところにより,法27条の措置を採る権限を有するが,千葉市長は,地方自治法施行令の上記条項,地方自治法153条1項及び法32条1項の定めるところにより,千葉市児童相談所長委任規則により,上記権限を児相所長に委任している。
(4)

各原告について
原告Aについて

(ア)

原告Aは,昭和56年6月2日生まれの女子である。

(イ)

市川児相所長は,原告Aにつき,昭和57年2月4日,同原告の

父の承諾を得たうえで,
同月5日付けで,
養護に欠けるためとの理由で,
法27条1項3号に基づき,国府台聖愛乳児園への入所措置を開始する旨の決定をし,昭和58年7月13日付けで,上記入所措置を解除する旨の決定をした後,同月27日付けで,上記理由と同様の理由で,同条項に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨の決定をした。
(ウ)

市川児相所長は,平成10年3月27日付けで,家庭引取りを理

由として,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)

上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Aは,2歳から1

6歳まで(幼児期から高校1年生まで)
,恩寵園に入所していた。


原告Bについて
(ア)

原告Bは,昭和57年9月2日生まれの男子である。

(イ)

市川児相所長は,原告Bにつき,平成2年,同原告の母の承諾を

得たうえで,同年2月1日付けで,家庭での養育困難を理由として,法27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨の決定をした。
(ウ)

市川児相所長は,平成8年10月1日付けで,措置変更を理由と

して,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)

上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Bは,7歳から1

4歳まで(小学校1年生から中学校2年生まで)
,恩寵園に入所してい
た。

原告Cについて
(ア)

原告Cは,昭和57年1月18日生まれの女子である。

(イ)

柏児相所長は,原告Cにつき,昭和61年6月6日,同原告の父

の承諾を得たうえで,同年7月11日付けで,家庭養育困難及び養護に欠けるとの理由で,法27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨の決定をした。
(ウ)

柏児相所長は,平成9年3月31日付けで,就職を理由として,

上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)

上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Cは,4歳から1

5歳まで(幼児期から中学校3年生まで)
,恩寵園に入所していた。

原告Eについて
(ア)

原告Eは,昭和57年4月9日生まれの女子である。

(イ)

市川児相所長は,原告Eにつき,昭和61年12月9日,同原告

の父の承諾を得たうえで,同月19日付けで,家庭での養育困難を理由として,法27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨
の決定をした。
(ウ)

市川児相所長は,平成10年3月13日付けで,家庭引取り後,

就職をするためとの理由で,上記入所措置を解除する旨の決定をした。(エ)

上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Eは,4歳から1

5歳まで(幼児期から中学校3年生まで)
,恩寵園に入所していた。

原告Fについて
(ア)

原告Fは,昭和54年9月20日生まれの女子である。

(イ)

銚子児相所長は,原告Fにつき,平成元年6月19日,同原告の

母の承諾を得たうえで,同年7月31日付けで,家庭での養育指導困難を理由として,法27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨の決定をした。
(ウ)

銚子児相所長は,平成9年7月10日付けで,措置変更を理由と

して,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)

上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Fは,9歳から1

7歳まで(小学校4年生から高校3年生まで)恩寵園に入所していた。,

原告Gについて
(ア)

原告Gは,昭和53年10月19日生まれの男子である。

(イ)

市川児相所長は,原告Gにつき,平成2年,同原告の母の承諾を

得たうえで,同年2月1日付けで,家庭での養育困難を理由として,法27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨の決定をした。
(ウ)市川児相所長は,平成6年3月20日付けで,就職を理由として,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)

上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Gは,11歳から

15歳まで(小学校5年生から中学校3年生まで)
,恩寵園に入所して
いた。

原告K,同J,同I及び同Hについて
(ア)

原告Kは,昭和52年2月20日生まれの女子,同Jは,昭和5

5年5月24日生まれの女子,同Iは,昭和56年11月12日生まれの女子,同Hは,昭和57年10月31日生まれの男子であって,上記原告らは4人姉弟である(以下原告Hらという。。

(イ)

原告Hらの両親は,昭和62年10月28日に,母Lを親権者と

定めて,離婚している。
(ウ)

市川児相所長は,原告Hらにつき,平成元年2月1日,Lの承諾

を得たうえで,同日付で,家庭での養育困難を理由として,法27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する旨の決定をした。(エ)

市川児相所長は,原告Kにつき,平成2年5月31日付けで,家

庭復帰を理由として,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(オ)

市川児相所長は,原告Jにつき,平成6年6月14日付けで,家

庭引取りを理由として,上記入所措置を解除する旨の決定をした。(カ)

市川児相所長は,原告I及び同Hにつき,平成8年5月24日付

けで,家庭引取りを理由として,上記入所措置をそれぞれ解除する旨の決定をした。
(キ)

上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Kは11歳から1

3歳まで(小学校6年生から中学校2年生まで)
,同Jは8歳から14
歳まで(小学校2年生から中学校2年生まで)
,同Iは7歳から14歳
まで(小学校1年生から中学校3年生まで)
,同Hは6歳から13歳ま
で(幼児期から中学校2年生まで)
,恩寵園に入所していた。

原告Dについて
(ア)

原告Dは,昭和57年8月15日生まれの女子である。

(イ)

千葉市児相所長は,原告Dにつき,平成5年8月18日ころ,家

庭での養育困難を理由として,法27条1項3号に基づき,恩寵園への入所措置を開始する決定をした。
(ウ)

千葉市児相所長は,平成9年3月31日付けで,祖母引取りを理

由として,上記入所措置を解除する旨の決定をした。
(エ)

上記入所措置及び解除の各決定に基づき,原告Dは,11歳から

14歳まで(小学校5年生から中学校2年生まで)
,恩寵園に入所して
いた。
(5)

被告らによる時効援用の意思表示
被告Zは,平成14年1月24日の本件第6回口頭弁論期日において,
原告Kの本訴請求につき,また,平成15年6月26日の本件第13回口頭弁論期日において他の原告ら全員の各本訴請求につき,民法724条前段の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

被告恩寵園は,平成18年12月21日の本件第32回口頭弁論期日において,原告ら全員の各本訴請求につき,民法724条前段の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。


被告県は,平成18年12月21日の本件第32回口頭弁論期日において,原告Hらの各本訴請求につき,民法724条前段の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

2
争点
(1)

争点1


被告Zの原告らに対する不法行為が認められるか。


上記の不法行為による損害の発生及び損害額。

(2)

争点2

被告県に,被告Zが被告県の公権力の行使に当る公務員であるとの理由から,国賠法上の損害賠償責任が認められるか。
(3)

争点3

被告県に,県知事の監督権限不行使を不法行為とする,国賠法上の損害賠償責任が認められるか。
(4)

争点4

被告恩寵園に,上記(1)の被告Zの不法行為につき,民法715条1項に基づく損害賠償責任が認められるか。
(5)

争点5

原告らの本件各損害賠償請求権が時効(民法724条前段)により消滅したか。
3
争点についての当事者の主張
(1)

争点1(被告Zによる不法行為の有無及び損害)について

【原告らの主張】

各原告の不法行為の主張
被告Zは,原告らが恩寵園に入所している期間中(以下在園中という。
)の昭和59年1月から平成10年4月までの間に,原告らに対し,以下のような行為を行った。これらはいずれも,各原告に対する不法行為に当たる。
(ア)

原告A
被告Zは,原告Aの幼児期(昭和59年から昭和62年ころ)
,同

原告が廊下を走った等のささいなことで立腹し,
しばしば5回以上)

同原告を米用の麻袋の中に閉じこめ,その麻袋を近くの道路に接する小学校のフェンス等に吊るし,同原告が中でもがいて出ようとすると押さえつけるなどして,3時間もの間,同原告を上記麻袋から出さなかった。

被告Zは,原告Aが幼児期から小学校低学年だったころ(昭和59年から平成3年)同原告が廊下を走った等のささいなことで立腹し,,
同原告の体を膝の上に押さえつけ,同原告の尻を50回以上も叩くことがしばしばあった。そのため,同原告の尻には,青あざが絶えなかった。

被告Zは,原告Aが幼児期から小学校低学年だったころ(昭和59年から平成3年)同原告を園内の乾燥機がおいてある部屋(以下乾,燥機部屋という。に監禁し,電気をつけずに真っ暗にしておいて,)
故意に外から同室のドアをドンドンと叩いて同原告を脅かし,同原告があまりの恐怖に

出して,出して。

と泣き叫んで失神寸前になるまで,これを放置した。


被告Zは,原告Aが幼児期から小学校低学年だったころ(昭和59年から平成3年)
,同原告を熱い風呂に入れ,100秒浸かっていろ
と命じ,
同原告がくらくらになっても,
なお出ることを許さなかった。


被告Zは,原告Aが幼児期から小学校低学年だったころ(昭和59年から平成3年)同原告に対し,何時間も正座していることを命じ,,
食事もさせないことがしばしばあった。


被告Zは,原告Aが小学校4年生だったころ(平成3年4月から平成4年3月)
,同原告の洋服の袖が園の規則に反して手首より長いと
立腹し,同原告の洋服の袖をはさみで切った。


被告Zは,原告Aが小学校4年生だったころ(平成3年4月から平成4年3月)同原告が気に入った服を毎日のように着ていたところ,,

お前は乞食か。と言って立腹し,同原告の服を全部没収したうえ,

同原告を1日中裸で立たせ,学校にも行かせなかった。

被告Zは,原告Aが小学生だったころ(昭和63年4月から平成6年3月の間)同原告が友達の女児に手を引っ張られたために骨折し,,
痛くてたまらず,同被告に対し,何度もその痛みが普通でないことを訴えたにもかかわらず,容易に病院に連れて行こうとしなかった。

被告Zは,原告Aが小学生から中学生だったころ(昭和63年4月から平成9年3月の間)
,同原告が学校の通知表を見せに行くと,同
被告が気に入るような見せ方(通知表を見て下さい。
と挨拶した
上で,通知表が同被告に対し正面になるように開いて両手で差し出す見せ方)をしなかったという理由で,通知表を床に捨てたり,成績が悪いという理由で,そろばんで同原告の頭をガリガリとこすったり,長時間立たせたりした。

被告Zは,原告Aが高校1年生だったころ(平成9年4月から平成10年3月)
,同原告が幼児の面倒を見るために幼児用の部屋(以下

幼児部屋という。にいたところ,出て行け。と怒鳴りながら,


同原告の尻を蹴飛ばした。

被告Zは,原告Aが高校1年生だったころ(平成9年4月から平成10年3月)
,同原告の友人が園に来た際,その友人らに「帰れ。」と命じ,これを見送ろうとした同原告に対し,

外へ出たら,高校をやめさせるからな。

と脅した。

被告Zは,原告Aが高校1年生だったころ(平成9年4月から平成10年3月)
,同原告が使ってはいけない電話機を使ったと立腹し,
いきなり同原告の頭を殴った。


被告Zが,原告Aの在園中,上記aないしlのような虐待を行い,他の園児らにも日常的な虐待を行って,原告Aに常に同被告をおびえながら生活させることを余儀なくさせたため,同原告は,思春期に,精神状態が不安定になると自分の手首や腕をガラス等で切り,血が出ると落ち着くという異常な性癖が身に付いてしまった。

n(a)

被告Zが,原告Aの在園中,上記aないしlのような虐待を

行い,
他の園児らにも日常的な虐待行っていたため,
これを体験し,
また見聞してきた原告Aは,
中学校3年生から高校1年生にかけて,
自暴自棄となり,反抗的になった。
被告Zは,上記のような原告Aの心情を理解できず,一方で,こ
れに先立ち虐待の事実が外部に明らかになり,外聞を慮って暴力をふるうことができなくなったために,上記のような状態の原告Aを事実上支配できなくなった。
(b)

そこで被告Zは,養育能力のない同原告の父親に同原告を引

き取らせることとし,平成10年4月の早朝,原告Aに対し,

お前は恩寵園を出ることになった。30分後に出るから用意しろ。

と告げ,同原告を退園させた。
(c)

その後同原告は,児相で,

違う施設に行くか,親のところに行くか決めろ。

と迫られた末,1度も一緒に暮らしたことがなく,在園中もめったに面会にこなかった父親に引き渡され,その父親は,同原告を,1晩だけ自分が女性と同棲していた都内の家に泊めたものの,翌日には長く空き家になっていて生活のすべもない千葉県船橋市内にある原告Aの母の所有であった家に連れて行き,こ

こで1人で暮らせ。

と言って立ち去り,以後同原告に生活費も渡さなかった。
その結果として,原告Aは,高校にも通学できず,定職にも就け
ないまま,17歳で社会に放置され,貧困と心身の危険にさらされながら,犯罪,薬物及び売春と隣り合わせで暮らしていかなければならなくなったのであり,被告Zは,原告Aの成長発達を支援する使命を負うにもかかわらず,その虐待により自暴自棄になっている原告Aを見捨て,命の危険のただ中に放擲したものである。
(イ)

原告H
被告Zは,原告Hが小学校1,2年生だったころ(平成元年4月か
ら平成3年3月)
,3時間から5時間もの間,同原告を正座させた。

被告Zは,原告Hが小学校3,4年生だったころ(平成3年4月から平成5年3月)
,食事の際,同原告の班のテーブルを拭く係の園児
がテーブルを拭くのを忘れたことに立腹し,同原告の班のテーブルクロスを取り上げ,連帯責任として,同原告を含め,その班全員の園児らに食事をさせなかった。

被告Zは,原告Hが小学校3,4年生だったころ(平成3年4月から平成5年3月)
,同原告と数人の園児らが,夜の自由時間に室内で
遊んでいたところ,同室内に突然入ってきて

うるさい。と怒鳴り,

同原告を正座させた。この時以外にも被告Zは,同原告を頻繁に正座させ,正座をさせている間は食事もさせなかった。


被告Zは,原告Hが小学校3,4年生だったころ(平成3年4月から平成5年3月)
,同原告が学校の通知表を見せに行き,押印を頼ん
でも理由なく押印せず,そのため同原告は,決まった日に学校に通知表を持って行くことができなかった。


被告Zは,原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平成7年3月)
,学校の担任の先生が,分数のかけ算・割り算がと
ても良くできるようになったと書いてくれた通知表を,同原告が同被告に見せたところ,

なんだ,これしかできないみたいじゃないか。

と言って,同原告の子供心を著しく傷つけた。


被告Zは,原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平成7年3月)同原告がプロミスリングをしていることに立腹し,,
放送で園児らを食堂に呼び集めたうえ,他の園児らの見ている前で,同原告の足をテーブルの上に上げさせ,包丁で足を切断するまねをして,実際に同原告の足を切り,出血させた。かつ,その後何らの治療もさせなかった。


被告Zは,原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平成7年3月)
,同原告以外の男児を畳に横たえ,その性器にはさ
みを当てて切り,出血させた。これを見ていた同原告と別の園児が,恐怖のあまり声を上げてしまったところ,
同被告は,お前達も来い。

と言って,同原告の性器にもはさみを当て,今にも切り落としそうにして脅した。

原告Hが,小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平成7年3月)
,鶏が飛べると思い,ジャングルジムの上から鶏を放ったと
ころ,同鶏が地面に体を打ち付けて死んでしまった。被告Zは,これに立腹し,同原告に対し,

死んだ鶏を抱いて寝ろ。

と命じ,これに従わないとどんな罰を科されるか分からないと思った同原告が,同鶏の死骸を新聞紙にくるんで抱いて寝ていたところ,被告Zは,

お前,本当に抱いて寝ているのか。馬鹿じゃないか。

と言った。また,翌日,同鶏の死骸を焼却炉で焼く際,被告Zは,同原告に対し,

お前も一緒に(焼却炉に)入れ。

と言った。

原告Hが,小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平成7年3月)
,他の10数名の園児らと風呂の中で潜ったりして遊んでい
たところ,被告Zがそこへ来て「うるさい。」と怒鳴り,真冬の極寒の日であったにもかかわらず,全裸の状態の同原告及び上記園児らに対して井戸水を浴びせかけたうえ,外に立たせた。
その後,あまりの寒さに全員震え,上記園児らのうちの1人が

おしっこしたい。

と言ったところ,被告Zは,その園児に対し,

Hにかけろ。

と命じ,その園児はやむなく原告Hに尿をかけた。

被告Zは,原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平成7年3月)
,同原告及び他の2人の園児らに,24時間正座す
ることを命じ,その間食事させず,トイレにも行かせないと言った。またその翌日は,園児らの遠足の日であったが,同原告及び上記園児らは行かせてもらえなかった。


被告Zは,原告Hが中学校1,2年生だったころ(平成7年4月から平成8年5月)
,同原告に対し,木刀や竹刀で尻や体部を殴りつけ
る,手の甲で思い切り殴りつける(いわゆるウラケン)等の暴力をしばしばふるった。そのため同原告の体には,青あざができたが,被告Zはそれを見ても平然としていた。
(ウ)

原告B
被告Zは,原告Bが小学校6年生のとき(平成6年)
,マッチを擦

って畳に捨て,そこに同原告の手のひらを押しつけて,同原告にやけどを負わせた。

被告Zは,原告Bが小学校6年生のとき(平成6年)
,同原告に対
し,1週間夜も寝ず,食事もとらずに正座をすることを命じた。実際には,深夜被告Zがいなくなった後に,園の職員が内緒で食物を運んでくれ,保母室に寝かせてくれた日もあったが,上記1週間のうち3日間は,何の食物も与えられなかった。


被告Zは,原告Bが小学校6年生のとき(平成6年)
,調理用ラッ
プの芯で同原告の顔を2,3回突き,下顎に現在でも傷跡が残っているほどの傷害を負わせた。


被告Zは,原告Bが小学校6年生のとき(平成6年)
,同原告に対
し,1日中手を挙げたまま立っているように命じ,同原告は,同被告がいなくなるまで,その姿勢を続けた。また,被告Zは,同原告の手を真横に上げさせ,服の袖に竹刀を入れて,そのまま立っているように命じた。


被告Zは,原告Bが小学校5,6年生のころ(平成5年4月から平成7年3月)
,同原告を戸外に立たせ,12月ころの寒い時期だった
にもかかわらず,全裸にしたうえ,水をかけた。


被告Zは,原告Bが中学生のころ(平成7年4月から平成8年)

しばしば同原告の腕や体部を金属バットで殴った。

被告Zは,原告Bの在園中,日常的に,食事をさせない,寝させない,トイレに行かせない,ずっと勉強をすることを命じて遊ばせない等し,また,しばしば,同原告が学校の通知表に保護者としての押印を求めても,押印しなかった。

(エ)

原告C
被告Zは,原告Cが小学校低学年のころ(昭和63年から平成2年
ころ)
,同原告が廊下を走ったことの罰として,同原告を麻袋に入れ
て,高いところに吊るした。

被告Zは,原告Cが小学校高学年から中学生のころ(平成3年ころから平成9年3月まで)
,しばしば同原告に24時間正座するよう命
じ,食事をとることも禁じた。


被告Zは,原告Cが中学生のころ(平成6年4月から平成9年3月まで)同原告に対し,しばしば手の甲で思い切り殴る暴力(いわゆるウラケン)を加え,これによって同原告は,体ごと吹き飛ばされた。

被告Zは,原告Cが中学生のころ(平成6年4月から平成9年3月まで)
,しばしば,朝の時間帯にささいなことで同原告を叱り,同原
告が学校に行く時間だと言っても意に介さず叱り続け,そのため同原告は,学校に行けなかったり,遅刻したりする結果となった。


被告Zは,原告Cが中学生のころ(平成6年4月から平成9年3月まで)
,毎年行われる園の部屋替えの際,同原告が自分の荷物を本来
入れるべき箱とは違う箱に入れたと立腹し,同原告の荷物を,すべて箱から放り出した。


被告Zは,原告Cが中学生のころ(平成6年4月から平成9年3月まで)
,同原告が学校の始業式の日に持参するために,学校から前学
期に受け取った通知表への保護者としての押印を求めても,しばしば押印しなかった。
(オ)

原告D
被告Zは,原告Dが小学校6年生の時(平成6年)
,同原告及び他

の4,5人の園児らが,園の指導員であったPから勉強を教わっていたところ,同人が席を外した間にだらけていたと立腹し,同原告及び上記他の園児らを,夜7時から廊下に正座させ,寝ることも禁じた。b
被告Zは,原告Dが中学校1年生の時(平成7年)
,同原告が同室
の園児とけんかをしたからという理由で,同原告に対し,翌日のピクニックに行くことを禁じ,その結果同原告は上記ピクニックに行けなかった。

(カ)

原告I
被告Zは,原告Iが小学校5年生の時(平成4年4月から平成5年
3月)同原告に対し,24時間食事もとらずに正座するように命じ,,
保母に見張りを言いつけた。その結果,同原告は,昼食及び夕食をとらないまま正座を続け,夜の時間帯に,被告Zがいなくなってから,保母によって,被告Zに内緒で食事を与えられた。

被告Zは,原告Iが中学校1年生の時(平成6年4月から平成7年3月まで)
,同原告が食事の時テーブルを拭かなかったと立腹し,テ
ーブルクロスを取り上げ,同原告に対し,

飯を食うな。

と命じた。


被告Zは,原告Iが中学校1年生の時(平成6年4月から平成7年3月まで)
,同原告が通知表を見せに行った際,そろばんの珠で同原
告の頭をがりがりと擦った。

(キ)

原告E
被告Zは,原告Eの幼児期(昭和60年から昭和63年の間)
,さ

さいなことで立腹し,同原告に対し,他の2人の小学校1,2年生の園児らとともに,園庭にある池(深さ約1メートル)に裸で入れと命じ,寒い季節で水が冷たかったにもかかわらず,

ごめんなさい。ごめんなさい。

と泣き叫んで許しを懇願する同原告及び上記他の園児らをうるさそうににらんで,

いいから入っていろ。

と命じ,約10分間,同原告及び上記他の園児らを裸のまま上記池の冷水の中に放置した。

被告Zは,原告Eが小学生だったころ(平成元年4月から平成5年の間)
,同原告がよく理解できないような理由で立腹し,同原告を含
む5,6人の園児らに,

立っていろ。

と命じた。同原告を含む上記園児らは,約1時間立っていても被告Zに許されなかったため,各人ごとに同被告に謝りに行くこととし,同原告が謝りに行くと,同被告は,同原告に対し,

このまま立っているのがいいか,それとも今ここで別の罰を受けるのがいいか,どっちか決めろ。

と言った。これに対し,同原告は,実際にはどちらも嫌だと思いながらも,少しでも早く罰から解放されたいとの思いから,

今ここで罰を受ける方がいい。

と答えた。すると被告Zは,同原告に対し,

お腹を出せ。


と命じて,同原告に服をまくり上げさせて裸の腹を出させ,その腹の肉を思い切り強くつねった。これにより同原告は,飛び上がりそうなほどの痛みを覚え,同原告の腹には,容易に消えない紫色のあざができた。

(ク)

原告F

a(a)

被告Zは,原告Fが中学校3年生だった年のゴールデンウィ

ーク中(平成6年4月末から5月初め)
,ある園児を,他の園児の
居室に保母らの許可なしに入ったとして叱っていたが,その近くにいた原告Fほか数名の園児らに,お前達もやったことがあるの
か。」と聞いた。
これに対し,園児らは,日頃から,保母らの許可を得ずに,他の
園児らの居室に入っていたため,だまってうなずくほかなかった。すると,被告Zは,園児全員に食堂に集まるように指示し,食堂
で園児らを叱り始め,その内容は,何を言いたいのか,園児らに何をさせたいのか,園児らには理解できないものであったが,そのような説教が続く中で,被告Zは,原告Fに,何らかの質問をした。しかし,原告Fは,上記質問の意味が分からなかったため,

園長先生が何を言っているのか分かりません。

と言った。その際,原告Jも原告Fのそばにいて,原告Fに同調した。すると,被告Zは,

そんなに話が分からないなら,これからはお前達は幼児として扱う。

と言った。(b)その日の午後,上記説教の内容に関し,園児らで話し合って,一人一人被告Zのところに謝りに行くことになり,原告Fが,謝罪するつもりで,被告Zに,
園長先生。」と呼びかけたところ,被
告Zは,

お前は幼児だから,幼児と話す必要はない。

と言いながら,いきなり平手で,原告Fのほほを叩いた。
それ以降,被告Zは,原告F及び原告Jに対し,

お前らは幼児なんだから,幼児の生活をするんだぞ。

と言って,寝室もトイレも幼児用のものを使わせ,同原告らの自室にも許可がない限り入れさせず,宿直室の一部をアコーディオンカーテンで仕切った幼児用の空き室に寝泊まりさせた。
b(a)

原告Fは,中学生のころ,在園しながら高校に進学すること

を希望しており,中学校では,中学校3年生(平成6年)の4月ころから,担任の教諭との間で,進路の話が出はじめていた。
園においては,在園しながら高校進学をする園児はごく少なく,
ほとんどの園児らが,中学校卒業時に園を出て就職するか,せいぜい住込みのできる就職先を見つけて定時制高校に行くのみだったので,原告Fは,恐る恐る,被告Zに,

高校に行かせてほしいんですけど。

と言って,在園しながら高校に進学させてもらえるかを打診した。
これに対し,被告Zは,

なんだ,お前,銚子に帰るんじゃなかったのか。

と言った。銚子には,原告Fの自宅があったが,この当時,原告Fの家庭は,同原告を引き取れる状況でなく,被告Zは,それを知っていた。したがって,上記発言は,銚子に帰って高校に行くというならまだしも,まさかこの園から高校に行けると勝手に思っているんじゃあるまいな,という意味でなされたものであり,同原告は,かかる発言に,ショックを受けた。
(b)

その後、上記aの事件が発生して以来,原告Fは,何かにつ

けて,被告Zににらまれるようになり,ますます高校進学のことを言い出しにくくなったが,
中学校への報告の必要もあったことから,
平成6年夏ころ,もう一度被告Zに,高校に進学させてもらえるよう,頼んだ。
これに対し,被告Zは,6名の園職員の名前を挙げ,この6名と
被告Zが全員そろった会議を開かなければ,同原告の進学の問題は決められないと言った。
当時園においては,進学問題に関し,そのような会議を開かなけ
ればならないという規則はなく,また,昼夜交替制で働いている上記7名の園職員が一堂に会せる機会は有り得なかったため,被告Zの上記発言は,原告Fにとって,絶対実現不可能な条件を出して同原告の進学を不可能にしようとしているものと解さざるを得ないものであった。
(c)

その後,推薦入学の願書を提出したり,受験する高校を決定

したりする時期になっても,被告Zが原告Fの高校進学を許可しなかったため,同原告は,中学校には志望校を伝えつつ,被告Zからは進学の許可が得られないという苦しい状況の中で受験勉強を続けた。
(d)

平成7年1月,中学校で,高校受験の願書が配布され,そこ

に保護者の署名押印を得たうえで,中学校に提出しなければならなくなった。
園児らの在園中は,被告Zが,園児らの保護者の立場にあったた
め,原告Fは,願書に自ら必要事項を記入して,被告Zのところへ持参し,必死の思いで被告Zに保護者として署名押印をしてくれるよう頼んだ。
これに対し,被告Zは,

お前,ここから通うことに決まってんのか。

と言いながら,近くにあったごみ箱に,上記願書を放り捨てた。
原告Fは,大変な悔しさと悲しさを感じたが,ここで押印をもら
わない限り,高校進学ができないと考え,立っている被告Zの前に正座し,頭を床にこすりつけるようにして土下座し,

お願いします。

と懇願した。
これに対し,被告Zは,そのときの時間帯が夜であり,同被告の
印鑑は,同被告の妻が管理していたために,こんな時間に来ても,

はんこなんてあるわけないだろ。

等と言い,その場では押印しなかった。
(ケ)

原告J
被告Zは,原告Jが中学校1年生の時(平成5年4月から平成6年
3月まで)
,同原告が,食事の時にテーブルクロスを拭かなかったと
立腹し,テーブルクロスを取り上げ,同原告に対し,

飯を食うな。


と命じた。

被告Zは,原告Jが中学校1年生の時(平成5年4月から平成6年3月)
,ささいなことに立腹し,しばしば,同原告に対し,1日中正
座しているように命じ,その間食事もとらせず,学校にも行かせなかった。

被告Zは,原告Jが中学校2年生の時(平成6年4月から5月ま
で)
,幼児部屋に入ったとの理由で立腹し,同原告及び原告Fの2人
に対し,

これからは幼児扱いをする。

と言い,寝室,食事及びトイレのすべてについて幼児用としたうえ,

お前は幼児だから,パンパースを持ってこい。俺がはかせてやる。

と言った。原告Jは仕方なくパンパースを取りに行ったが,その結果,保母であるOに,

何考えてんの。

と言われ,往復ビンタをされた。

被告Zは,同原告の在園中(昭和63年2月から平成6年5月ま
で)
,同原告の通知表に,しばしば,保護者としての押印をしなかっ
た。

(コ)

原告K
被告Zは,原告Kが小学校6年生時から(昭和63年4月から)平
成2年4月までの間,しばしば,同原告に対し,お尻100回叩き」と称して,尻を100回程度叩く,顔面を平手打ちする,拳で頭頂部を殴る等の暴力を振るった。b被告Zは,原告Kが中学校1年生のとき(平成元年4月から平成2年3月まで),同原告が何で叱られているのか理解できないようなささいな理由で立腹し,金属バットで同原告の顔面を殴打し,同原告の顔面に,長く消えないあざができる程度の傷害を負わせた。被告Zは,同原告の在園中,このほかに,少なくとも1回は,同原告を金属バットで殴った。c被告Zは,原告Kの在園中(昭和63年2月から平成2年4月まで),しばしば,同原告が食事を取るのが遅いとの理由で立腹し,同原告に1人で食堂に残ることを命じて,1時間から3時間,食堂を出ることを許さなかった。d被告Zは,平成2年4月末ころ,同原告が何で怒られているのか理解できないようなささいな理由で,同原告に対して怒りだした。これに対し,原告Kは,日頃から被告Zにいつ殴られるか分からないという恐怖心を持っていたため,このままゴールデンウィークに入り,学校に行かずに毎日園にいるようになれば,徹底的に暴力を振るわれると思い,恐ろしくなった。そのため,原告Kは,学校の同級生に相談して,同級生の家に行き,そこで親元に帰るよう勧められ,所持金もない状態で,上記同級生宅のある千葉県船橋市aから東京都内の母の家まで,走って逃げた。(サ)a原告G被告Zは,原告Gが中学校1年生のとき(平成3年4月),原告Gに対し,何かの罰として,新聞紙に印刷されている漢字の書取りを命じ,翌年の4月,園児らの部屋替えのときに,上記漢字の書取りが終了していないとの理由で,居室を与えず,その後約1か月間,園の廊下で布団もなしに寝ることを強要した。b(a)被告Zは,原告Gが中学校1年生だった平成3年5月から平成4年3月ころ,同原告が,上記漢字の書取りを終了していないとの理由で,夕食を取ることを禁じ,約1年間にわたって,この禁を解かなかった。この間,原告Gは,深夜,被告Zが園からいなくなった後に,職員らから被告Zに隠れて食物を与えてもらい,飢えをしのいだ。(b)しかし,3日間何の食物も与えられなかったことがあり,原告Gは,4日目に倒れてしまった。c(a)原告Gは,中学校1年生の1学期末(平成3年夏),学校で高いところから落ち,肩を地面に強く打ち付けた。そのころ,児童養護施設の子供達によるソフトボール大会を控え,園においてもそのための練習が行われていたが,原告Gは,肩を打って以来肘から上の腕が上がらなくなっていたため,被告Zにその旨伝え,上記練習の一環である腕立て伏せを免除してくれるよう,申し出た。(b)これに対し,被告Zは,片腕だけでも腕立て伏せをやるよう,原告Gに言い,練習を続けることを強要したうえ,同原告が練習免除を申し出たことに怒り,同原告の顔面に,ボールを打ち付けた。(c)その翌日,原告Gは,園職員に病院に連れて行ってもらい,診察を受けたところ,骨折していたことが判明したが,被告Zは,上記(b)の行為について,謝罪しなかった。d原告Gが中学校2年生のとき(平成4年),上記c(a)と同様のソフトボールの練習が行われたが,同原告は,上記c(c)の骨折の後遺症か,肘のあたりが安定せず,ボールが上手に投げられなかった。これに対し,被告Zは,同原告が上手に投球できないことへの制裁として,同原告をキャッチャー役にし,他の園児ら約20名をピッチャー役にして投球させ,それを原告Gがうまく捕球して投げ返し,そのボールをピッチャー役の園児がうまく取れるまで,同じピッチャー役の園児との練習を続けることを強要した。そのため,他の園児らも幾度となく投球させられることとなり,あとで原告Gが他の園児らに責められる結果となった。e(a)原告Gが,中学校3年生のとき(平成5年),園内の居室において,小学生の園児とくすぐりあって遊んでいたところ,被告Zは,中学校3年生なのに,小学生と遊んでいたとの理由で同原告を叱り,同原告の両腕を二段ベッドの柱に後ろ手に縛り付け,その状態で,同原告の顔や腹部を拳で約10回殴った。その最中,被告Zは,実際は殴らないのに,殴ろうとする素振りを見せて,同原告が怖がるのを楽しんだりもした。(b)そして同原告は,被告Zの拳をよけようとしてもがき,縛られていた手首にも傷害を負い出血した。イ被告Zの主張に対する反論(ア)a児童福祉施設の長に体罰が許容されている旨の主張について被告Zは,平成9年6月11日法律第74号による改正後の児童福祉法が施行された平成10年4月1日までは,児童福祉施設の長において,体罰を行うことは,懲戒権の行使として容認されてきたといえ,上記改正後も,児童福祉施設最低基準に9条の2(但し平成16年厚生労働省令第178号による改正前の児童福祉施設最低基準のもの。以下同基準9条の2については同じ。)が追加されたことによって,虐待の禁止が明示されたに止まり,体罰が完全に禁止されたということはできない旨主張する。しかし,児童福祉法1条ないし3条のとおり,すべての児童は心身ともに健やかに生まれ,かつ育成される権利を有しているのであり,児童福祉法に基づいて児童福祉施設の長が懲戒権を行使する場合も,上記権利が尊重されるべきなのは当然であって,上記基準9条の2も,このことを明示したにすぎない。bまた,被告Zは,学校教育法11条と異なり,児童福祉法上体罰禁止規定がないことから,児童福祉施設の長において体罰が容認されているかのような主張をする。しかし,平成9年5月の衆議院厚生委員会において,当時の厚生省児童家庭局長が2度にわたり答弁しているとおり,学校教育法11条における体罰禁止規定は,学校の教諭等の懲戒権が同法によって創設されたものであるから,その限界を規定したものであり,これに対し児童福祉施設の長の懲戒権は,児童福祉の向上のため必要な措置として認められているのであるから,そこに体罰が含まれないのは当然であり,禁止規定を設ける必要がないために,児童福祉法には,体罰禁止規定がないにすぎないのである。また,上記基準9条の2については,当時の厚生大臣による衆議院厚生委員会における答弁及び厚生省児童家庭局家庭福祉課による解説にあるとおり,本来児童福祉施設であり得るはずもない体罰が,現実には後を絶たないため,規定が創設されたものである。c(a)なお,児童福祉施設の長の懲戒権は,施設に入所させられた児童の精神的負担を十分認識し,配慮したうえで行使されるべきところ,被告Zの行為においては,かかる前提を欠いている。また,懲戒は,児童の監護教育の目的で,児童を善導するため行われるべきところ,請求原因記載の被告Zによる行為は,感情にまかせて行われたものであって,同被告に,上記目的ないし意思があったとは認められず,むしろ同被告の心理的加虐性を示すものとすらいえる。したがって,被告Zの行為は,懲戒権の行使とは到底評価し得ないものである。(b)また,上記基準の改正と同時に厚生省児童家庭局企画課長等から発せられた「懲戒に係る権限の濫用禁止についてと題する通知には,
児童福祉施設の長に対しては,児童福祉法第47条により懲戒に係る権限が与えられているが,これは,児童を心身ともに健やかに育成することを目的として設けられているものであるから,懲戒に係る行為の方法及び程度が,この目的を達成するために必要な範囲を超える場合には懲戒に係る権限の濫用に当たるとの記載があり,また,
懲戒に係る権限の濫用に当たる具体的な例としては,例えば,殴る,蹴る等直接児童の身体に侵害を与える行為のほか,合理的な範囲を超えて長時間一定の姿勢をとるよう求めること,食事を与えないこと,児童の年齢及び健康状態からみて必要と考えられる睡眠時間を与えないこと,適切な休息時間を与えずに長時間作業を継続させること,施設を退所させる旨脅かすこと,性的な嫌がらせをすること,当該児童を無視すること等の行為があげられるとしている。本件請求原因にかかる被告Zの各行為は,上記通知で禁じられた
具体的行為に属するものであって,
違法であることは明らかである。

(イ)

体罰と虐待区別等について

被告Zは,虐待にわたらない体罰は違法でない旨主張するが,本件における問題は,被告Zが原告ら不法行為を行ったかであり,それを体罰と言うか,虐待と言うかは,二次的な問題に過ぎない。
また,被告Zは,児童虐待調査委員会が1983年時点で挙げる具体例に依拠して,同被告の行為が虐待に当たらない旨主張するが,請求原因にかかる被告Zの行為が,打撲,傷害等を列挙する上記具体例に含まれるものであることは明らかであるし,上記時点で相当とされた行為でも平成12年に成立した児童虐待の防止等に関する法律(以下児童虐待防止法という。)2条の定義によれば虐待に含まれるものもあるの
であって,虐待ないし体罰の定義を用いて自己の行為を正当化することは許されない。
(ウ)

最高裁平成19年1月25日第一小法廷判決の判断について

最高裁平成17年(受)第2335号,第2336号同19年1月25日第一小法廷判決・民集61巻1号1頁(以下平成19年最高裁判決ということがある。)は,児童福祉施設の職員の不法行為につき,
地方公共団体の国賠法上の責任を認めたうえで,傍論において,当該施設職員の責任を否定している。
しかし,上記最高裁判決は,児童養護施設の入所児童が他の児童に傷害を負わせた事故につき施設職員が十分な注意を怠った過失を前提とする事案で,施設職員の配置不足など,地方公共団体の責務に属する事情が事故の背景にあるのに対し,本件は,施設長が,入所児童に対し,故意かつ確信犯的に加えた不法行為につき,施設長自身の責任が問われ,かつその不法行為を容認してきた施設設置者たる法人の責任が問われている事案であって,両者は事案を異にするのであって,本件のような場合には,当該施設の職員個人も損害賠償責任を負担すると解すべきである。また,被告Z及び被告恩寵園だけが被告とされた場合には,被告Z及び被告恩寵園は損害賠償責任を免れないところ,被告千葉県を共同被告とした場合に,責任が免除されるのは,不合理である。
したがって,本件においては,上記最高裁判決の判断は妥当せず,被告Zは,損害賠償責任を免れない。

損害の発生及び損害額
原告らは,前記アのような,被告Zの日常的かつ長期間にわたる常軌を逸した体罰・虐待という故意による不法行為によって,楽しかるべき子供時代を奪われ,あたかも収容所のような生活を強いられ,生命身体の自由と人格権を著しく侵害された。そのうえ原告らは,子供時代に受けた被告Zによる前記アのような虐待により,今も心的外傷(トラウマ)を抱えて苦しみ,また高校進学の機会も奪われて十分な受け入れ環境もないままに社会に放り出された結果,社会的経済的に多大な苦難を強いられ,将来もこれを背負って生きていかなければならない。
このような原告らの損害を慰謝するに足る慰謝料は,原告1人当たり,1000万円を下らない。
【被告Zの主張】

各原告が主張する不法行為について
(ア)

原告Aについて
原告Aの上記主張のうち,aないしmは,いずれも否認する。

(a)

このうち,aについては,子供は吊されておとなしくしてい

ないから,人通りのある公道に面したフェンスにつるすことなどあり得ない。
(b)

同じくbについては,保母から園児らに対するお仕置きとし

て尻を叩くことがあったかもしれないが,虐待ではない。
(c)

同じくcについては,心優しい大人のお仕置きであって,虐

待ではない。
(d)

同じくdについては,幼児及び小学校低学年の園児らは,保

母らと入浴しており,
被告Zが浴室に入っていくことはあり得ない。
(e)

同じくfについては,一般論として,手首より長い袖につい

ては,安全性の面から保母らを介して何度も注意をしており,それでも言うことを聞かなければ,本人の安全を優先すれば,切るという選択肢もあるのであって,虐待には当たらない。
(f)

同じくjについては,園においては,職員の許可なく幼児用

の居室に入ることを禁じているにもかかわらず,原告Aが無断で入り,注意しても退室しなかったところ,被告Zの手を幼児が握っていたために,脚のすねで押し出すように退室を促したものであり,蹴ったものではない。
(g)

同じくkについては,夕食後の遅い時間に原告Aの友人ら数

名が同原告を訪れ,被告Zが帰るように言って問答になった末,帰りかけたところ,同原告が送ってくると言い出したため,園児らは夜間の外出が禁じられていること及び当時の同原告が,外出するといつ帰るか不明な状況だったことから,外出して補導されるようなことがあれば退学になるよ,外出するなと言ったことはある。
(h)

同じくlについては,夜間,原告Aが,職員室の電話を無許

可で長時間使用しており,業務に支障を来すので,早く終わらせるよう促すために,
頭をとんとんとしたもので,
殴ったものではない。

原告Aの上記主張nのうち,同原告が父親に引き渡された以降のことは知らず,それ以外は否認する。
退園については,
学校及び園での生活状況につき,
市川児相と相談,
協議したものであるし,決定権は市川児相にある。
また,退園を事前に同原告に通告すると,行方不明になるおそれがあるので,退園の日の朝に通告したものであるし,市川児相からも正式に通告された。
父親による引取りについては,市川児相が決定したものである。


原告Aには,幼児期または小学校時代から,嘘をつく等の特質があり,高校生になってからも園における生活習慣からの逸脱行為があった。退園に至る経緯も,これら同原告の問題点を検討のうえで,児相の指導のもとになされたものである。

(イ)

原告Hについて
原告Hの上記主張は,いずれも否認する。

(a)

このうち,bについては,自分達のテーブルは自分達で拭く

ように決めており,数回注意しても拭かない場合には,拭くことに気付かせるために,
テーブルクロスをたたんだり,
寄せたりしたが,
その後に拭けば配膳させるし,テーブルクロスなしで職員が配膳したこともある。
食事の時間が他の園児よりも遅れたことはあっても,
食事をさせないことはなかった。
(b)

同じくcについては,夜の自由時間は夕食後なので,食事を
抜かれるということはないが,就寝までは学習の時間を含んでいるので,大騒ぎをしていると,気持ちを静めさせるために,正座をさせたことはある。
(c)

同じくeについては,さらにできるよう,もっと頑張れよと

励ましたつもりが,正しく受け止められなかったものである。
(d)

同じくfについては,出血しておらず,したがって治療をさ

せなかったということもない。
(e)

同じくgについては,はさみで切っちゃうぞと言ったことは

あるが,切ったことはない。
(f)

同じくiについては,入浴中にふざけると事故を起こしかね

ないものである。また,女子に見られる可能性があることから外に裸で出るはずがなく,浴室で水を掛け合っていたことを,外で掛けられたと称しているものである。
(g)

同じくjについては,気持ちを静めるために正座をさせるこ

とはあるが,24時間食事もトイレも禁じて正座をさせることはあり得ない。

原告Hの園における生活状況を保母らが記録した生活指導票にあるとおり,園での指導は,保母による声掛けや園児らとの話し合いで行われており,日常的に体罰及び虐待があれば,上記生活指導票に記載されないはずがないところ,かかる記載はないのであるから,原告Hの請求原因にかかる主張は事実無根であり,他の原告らついても同様である。

(ウ)

原告Bについて
原告Bの上記主張については,いずれも否認する。

(a)

このうち,aについては記憶がなく,園児らに火遊びの危険

性を認識させるために,危険のない範囲内で火の熱さを体験させることはあるが,やけどをさせることはあり得ない。
(b)

同じくbについては,否認するが,同原告は,小学校6年生

のころ,無断外泊をしたり,目に余る暴力を振るったりしていたため,本人の気持ちを落ち着かせ,他の園児らへの悪影響を絶ち,または再び脱走したりしないように,宿直室で数時間寝泊まりさせつつ,職員らが交代で説得活動を行ったことがあったと考えられる。被告Zも,同原告の説得に当たった際,自分の非を認めない同原
告に対し,

ずっとそこに座っていなさい。

等と言ったことがあるかもしれないが,同原告がそのまま受け取るわけではなく,同被告が午後5時に帰宅した後は,睡眠も取ったはずであるし,食事については,説得活動が長引く中で,時間が遅れたことはあっても,食事をさせないという体罰が行われたことは,園内で一度もない。むしろ,問題を起こした園児らが,食事を取れば園に負けるとの気持ちから食べないことがあった。
(c)

同じくcについては,記憶がなく,どのような経緯にせよ,

原告Bに傷害を与えるような行為をしたとの点は否認する。
(d)

同じくeについては,原告Hが同原告の上記主張iにおいて

主張するのと同じ時のことと思われるが,この点については,同項への反論として述べたとおりである。
(e)

原告Bの上記主張gのうち,食事及び睡眠については,bに

関して言及したのと同じである。ずっと勉強をすることを命じて遊ばせないとの点については,原告Bが宿題をごまかしてやらなかったり,分からないところを教えているのに真剣に取り組まなかったために,できるまでやるように指導したことを悪意に集約したものである。通知表に押印をしなかったことはない。

原告Bは,小学校4年生ころから,ずるく人の言葉を受け入れない傾向が見られ,小学校5年生ころから,上記の傾向に加え,年下の園児ら弱者へ暴力を振るう傾向が次第に強まり,小学校6年生から中学生のころにかけて,喫煙,窃盗等,非行化ともいうべき問題行動を起こすに至ったが,注意を受けても自分の非を認めず,嘘をついて反省をしなかった。
このような原告Bの非行を止めるため,園を挙げて取組みを行ったのであり,同原告の主張する被告Zの虐待の時期は,同原告の非行化が進んだ時期と一致している。
同原告は,非行化の原因も被告Zの虐待にあったとの嘘の主張をすることで,社会の同情を集め,自己の行為を正当化しようとしたものと考えられる。
(エ)

原告Cについて

原告Cの上記主張は,いずれも否認する。

このうち,bについては,気持ちを静めさせるために正座をさせることはあっても,原告C主張のような正座を命じることはない。


同じくdについては,当日までに持参しなければならないものを,前日になっても処理せず,当日の朝になって言い出し,注意を受けて処理していたために遅れたこともあったと思われる。


同じくeについては,自分のものが決められており,他人のものや共有物を使用すると,
迷惑になるので,
入れ替えを命じることがある。


同じくfについては,担当保母が成績を記録するため,原告Cが前学期終了時に通知表を提出していれば,
主張のようなことはあり得ず,
同原告自身が被告Zに通知表を提出しないまま,新学期の始業式を迎えてしまったものと思われる。

(オ)

原告Dについて
原告Dの上記主張は,いずれも否認する。
このうち,aについては,騒ぎすぎて廊下に出されたものと思われるが,女子の居室がある園の新館は,午後8時に施錠されるので,女子が遅くまで本館に原告D主張のような状態でいることはあり得ない。

原告Dは,家庭における養育事情から,良好な対人関係を作ることが不得手であるという傾向があり,同原告の主張もかかる傾向に基礎づけられるものである。

(カ)

原告Iについて
原告Iの上記主張は,いずれも否認する。

(a)

このうち,aについては,このようなことを命じることは常

識的に言ってあり得ず,虚偽の主張である。
(b)

同じくbについては,食事はテーブルクロスを敷いて行うこ

とになっており,テーブルクロスの準備ができなかった班のテーブルクロスを取り上げたことはあったが,食事をさせなかったことはない。

原告Iは,整理整頓等に関して保母らから注意を受けることが多いのが特徴で,重大な非行を犯したりすることはなく,体罰を受けるような園児ではなかった。

(キ)

原告Eについて


原告Eの上記主張は,いずれも否認する。


原告Eは,在園中,万引きや喫煙等の問題行動があり,虚言癖もあったいえるので,
同原告の主張も,
こうした人格に基づくものである。

(ク)

原告Fについて
原告Fの上記主張は、いずれも否認する。

(a)

このうち,aについては,原告Fを宿直室の一部に寝泊まり

させたことはあるが,これは指導上のものであり,不法行為や虐待といえるものではない。同原告は,多くの児童の前で注意されて殊更反抗的になり,

注意の意味が分からない。

等と言い張って聞き入れなかったため,
意味が分からないのは幼児と同じだと言って,
部屋の一時的な移動を行ったものである。
移動した部屋は,特に幼児用の空室ということではなく,宿直室
とはいえ昼間は職員が出入りしており,
トイレも幼児用もののほか,
通常の便座が用意されているので,特段不便なものでなかった。
(b)

同じくbについては,まず,園の進学率は殊更低いものでは

ない。また,原告Fは,中学校3年生のときに,保母らから自分の希望及び意見を話すよう,毎日のように声掛けされ,何度も協議の機会が設けられたのにもかかわらず,容易に進路に関する意思決定ができず,意見の表明もなかったために,成果を上げずに時間が過ぎていき,結果として願書提出の日を迎えてしまったものである。なお,同項(b)については,職員にも,同原告が高校在学中の
3年間在園することについて,引き受ける気持ちを持たせるため,必要なことであった。また,同項(d)については,同原告が,進学についての希望を直前まで伝えず,事前に協議をしないまま突然願書を持ってきたため,突然願書を持ってこられても押印できない旨申し向けながら,願書を返却する仕草をしたところ,同原告が受け取らなかったため,タイミングがずれて同願書が床に落ちたものである。

そもそも,原告Fの請求原因のうち,体罰虐待に関係するものとしては,ほほを平手で叩かれたという部分のみであり,また,この点についての訴状の記載も,後に述べる虐待の法的な定義である児童の身体に外傷が生じ,又は生じるおそれのある暴行を加えることに該当するものとはいえない。したがって,原告Fについては,外形的に不法行為に該当する事実の主張すらなされていない。
(ケ)

原告Jについて
原告Jの上記主張は,いずれも否認する。

(a)

このうちaについては,テーブルクロスをしないで食事をさ

せたことはあるが,食事をさせなかったことはない。
(b)

同じくbについては,同原告主張のような正座をさせること

は,常識的に見て考えられないことである。
(c)

同じくcについては,まったくの虚偽である。

(d)

同じくdについては,印鑑を押さなかったことはない。


原告Jは,同原告の児童記録票からすると,特別な問題を抱えた園児ではなく,強い指導をすることは考えられない。

(コ)

原告Kについて

原告Kの上記主張は,いずれも否認する。
このうちdについては,原告Kが園に無断で外出したことはあるが,同原告主張のような事実はない。同原告の母は,同原告の在園中,しばしば園に面会に訪れたり,電話をかけてきたりしていたのであるから,同原告の上記主張のような事実があれば,母親に話しているはずであるところ,
母親から上記主張のような訴えは,
今日まで一切されていない。
(サ)

原告Gについて
原告Gの請求原因は,いずれも否認する。

(a)

このうち,a及びbの漢字の書取りについては,学力が平均

して高くない原告Gに,せめて学習の習慣と,基礎学力としての漢字の書取りを学ばせようと,
被告Zや担当保母が努めた結果である。
これができないからといって,廊下に寝かせたり,夕食を与えなかったりしたことはない。
(b)

同じくc及びdに関しては,原告Gの児童記録票に,骨折で
ソフトボールでは球拾いしかできなかったが,それを明るくやっていた旨の記載があり,同原告主張のような事実は考えられない。
(c)

同じくeについては,上記児童記録票によると,原告Gが年

少児に対し暴力を振るうことが再三あり,その際に注意を受けたことがあったはずであり,同原告がそれを,小学生と遊んでいたことで注意を受けたという理解をしたものと思われる。

原告Gの児童記録票によると,同原告の性格は,他人に責任を押しつけたり,自分の悪い行動を認めないというものであるため,本件における主張も,そのような性質のものである。


民訴法133条2項違反
(ア)

原告らの主張する請求原因は,その時期と行為の特定において,

極めて不完全なものか,もしくは特定性の全くないもののいずれかである。
原告らは,各請求原因につき,不法行為が行われた年月日及び時間,各行為の詳細と前後関係並びに各行為の結果原告らが傷害を負った部位及び程度等につき,明確に主張すべきところ,かかる主張はされていない。
このように,特定性を欠く請求原因は,民訴法133条2項2号及び同規則53条1項に違反するものであるから,これを理由として,本訴請求は棄却されるべきである。
(イ)

仮に各不法行為の事実の主張が特定に欠けるとは直ちにいえない

としても,
その前後関係の主張及び立証がされていないものについては,
被告に正当な反論の機会が保障されていないのであるから,不法行為に基づく損害賠償請求をするに足りる主張及び立証がされているとはいえず,本訴請求は棄却されるべきである。

原告ら主張にかかる行為の外形について
そもそも原告らが請求原因で挙げる被告Zの行為は,以下のとおり,行為の外形からして,不法行為に当たらない。
(ア)

麻袋に入れてつるす行為について

かかる行為が行われたとしても,大人が幼児を麻袋に入れて,ブランコのように揺すってあげているような情景である可能性が高く,その行為の外形からして,そもそも不法行為に当たらない。
(イ)

尻を50回以上叩く行為について

これは,保母から幼児への,力を抜いた可愛らしく優しいお仕置きの類であり,その行為の外形からして,そもそも不法行為に当たらない。(ウ)

乾燥機部屋に入れて脅す行為

これは,押入れに閉じこめるという類の,大人が誰でも子供のころ経験した罰を大げさに述べているものであり,行為の外形からして不法行為とはいえない。
(エ)

熱い風呂に浸からせる行為について

これは,寒い時期に,湯冷めしないように,幼児にとっては熱いと感じる湯に保母が一緒に入って入浴させたものであると考えられ,外形から不法行為に当たらない。
(オ)

長時間の正座について

正座は,日本人の基本的座法であり,正座をすることは,日本人の美徳かつ文化であり,正座をする習慣を身に付けさせることは,養護施設における生活習慣の教育方法として不可欠なものである。また,たしかに被告Zが園児らに対する懲戒として園児らを正座を命じることがなかったわけではないが,仮にそれが長時間であっても,監視がないときには足を崩す等の抜け道があるのであり,被告Zとしてもかかる抜け道を前提として懲戒を与えていた。したがって,正座は行為の外形から不法行為に当たらない。
(カ)

服の袖を切る行為について

服の袖を手首より長い状態にしておくことについて,再三指導しても従わない園児について,安全を優先して袖先を切ることは,指導の選択肢としてあり得ることであり,不法行為に当たらない。
(キ)

なお,原告Fの主張する請求原因事実が,およそ不法行為の外形

的事実に当たらないものであることは,原告Fの主張に対する反論部分で述べたとおりである。

懲戒権の行使について
(ア)

仮に被告Zが,体罰と呼べる有形力の行使を行ったと認められる

としても,それは,児童福祉施設の長に法的に認められた懲戒権の行使の範囲内のものであり,違法性がない。
(イ)a

すなわち,民法822条1項は,
親権者は必要な範囲内で自らその子を懲戒することができる旨定めているところ,ここでいう懲戒とは,親権者が子の非行,過誤を矯正・善導するために実力を子に与える一種の私的懲罰手段,すなわち体罰と解される。
そして,法47条2項は,児童福祉施設の長は,入所中の児童で親権者がある者についても,

監護,教育及び懲戒に関し,その児童の福祉のため必要な措置をとることができる。

と定めているが,ここにいう懲戒は,民法822条を受けたものと解すべきである。

ところで,学校教育法11条は,

校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,学生,生徒及び児童に懲戒を加えることができる。

旨定めるものの,但書きにおいて,殊更に,

ただし,体罰を加えることはできない。

と規定するが,児童福祉法47条は,このような体罰禁止については全く触れていないものである。


なお,法45条1項は,厚生大臣は,児童福祉施設の設備及び運営等について最低基準を定めなければならないとしており,これを
受けて厚生省令によって児童福祉施設最低基準が定められていた
ところ,
平成9年6月11日法律第74号による児童福祉法の改正平

成10年4月1日施行)に伴い,平成10年2月18日に,同基準に9条の2が追加され,児童福祉施設の長は,入所中の児童に対して,法第47条第1項本文の規定により親権を行う場合であって懲戒をするとき又は同条第2項の規定により懲戒に関してその児童の福祉のために必要な措置を採るときは,身体的苦痛を与え,人格を辱める等その権限を濫用してはならない。と定められ,またこれに関連して,同日,
懲戒に係る権限の濫用禁止についてと題する通知も厚生省
児童家庭局企画課長等から出されたが,上記改正によっても法47条2項において体罰禁止が明示されるには至らず,単に上記最低基準において,懲戒に係る権限の濫用を禁じた9条の2を追加するに止まったうえ,同条項及び上記通知においても,体罰禁止の文言は一切明記されるには至らなかったことに照らせば,上記最低基準9条の2において,虐待というべき事例を挙げたうえでかかる行為を禁じたものに止まり,体罰一般を禁じたものではないと解すべきである。

これらを総合すると,上記平成10年4月1日までは,児童福祉施設の長において,体罰を行うことは懲戒権の行使として容認されてきたといえ,上記改正においても,上記最低基準の追加によって,虐待を行うことを禁じたに止まり,体罰を完全に禁止したということはできない。


有形力行使の程度について
(ア)

前記のとおり,児童福祉施設の長が行う懲戒権の行使としての体

罰であっても,虐待にわたるものは禁じられているところ,平成12年に成立した児童虐待防止法における虐待の定義及び程度に該当しない有形力の行使は,虐待に該当せず,違法性はない。
仮に被告Zによる有形力の行使が,懲戒権行使の一環として行われたものと認められないとしても,それらの有形力の行使は,虐待に該当せず,違法性はない。
(イ)a

すなわち,児童虐待防止法は,同法が児童の保護者に禁じる虐待の定義として,第2条に,以下のとおり定める。①

児童の身体に外傷が生じ,又は生じるおそれのある暴行を加えること。(同条1号)

児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。(同条2号)

③児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または長時間の放置その他保護者としての監護を著しく怠ること。,

(同条3号)

児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。(同条

4号)

また,上記虐待の程度は,児童虐待調査委員会が,1983年
時点で挙げていた具体例を参考にすると,傷害罪等の刑法犯を構成するようなもの,相当期間継続して放置するもの及び極端に心理的外傷を与えたと思われるもの等,相当程度極端なものと理解されるべきであり,体罰一般や心理的虐待一般が児童虐待に当たるものではない。

原告らが不法行為として主張する被告Zの行為は,これらの定義及び程度に該当しないもので,違法性がない。


平成19年最高裁判決について
平成19年最高裁判決は,民営の児童養護施設の職員等は,都道府県の公権力の行使に当たる公務員に該当すると判示したものであって,これによれば,本件において,被告Zは,被告県の公権力の行使に当たる公務員に該当することとなる。そして,国賠法1条1項に基づき,地方公共団体が賠償責任を負う場合には,その公権力の行使に当たる公務員に直接損害賠償請求できないことは自明の法理である。
したがって,本件において被告Zは損害賠償責任を負わない。

損害の発生及び損害額について
原告らの主張は争う。

【被告恩寵園の主張】

原告らの,
被告Zの不法行為に関する主張は,
いずれも不知ないし争う。
原告らによる被告Zの不法行為に関する主張は,いずれも体罰の原因及び時期が特定されておらず,民訴法上要求される請求原因の特定を欠くものとして,主張自体失当である。また,被告恩寵園は,被用者たる被告Zの不法行為に関し,上記【被告Zの主張】エの被告Zの主張を援用する

損害の発生及び損害額について
原告らの主張は争う。

【被告県の主張】

原告らによる被告Zの不法行為の主張に対する認否は,以下のとおり。(ア)

原告Aの主張について

原告Aの上記主張eのうち,被告Zが原告Aに正座を命じたこと,同gのうち,
被告Zが原告Aを学校に行かせなかったこと及び同fは認め,
同n(c)のうち,児相が原告Aに対し,

違う施設に行くか,親のところに行くか決めろ。

と迫ったことは否認し,その余は不知。(イ)

原告Hの主張について

原告Hの上記主張hのうち,第1文及び第2文,同jのうち,被告Zが原告Hに正座を命じたこと並びに同a及び同cは認め,
その余は不知。
(ウ)

原告Bの主張について

原告Bの上記主張bのうち,被告Zが原告Bに正座を命じたことは認め,その余不知。
(エ)

原告Cの主張について

原告Cの上記主張bのうち,被告Zが原告Cに正座を命じたこと及び同dは認め,その余は不知。
(オ)

原告Dの主張について

原告Dの上記主張は,いずれも不知。
(カ)

原告Iの主張について

原告Iの上記主張aのうち,被告Zが原告Iに正座を命じたことは認め,その余は不知。
(キ)

原告Eの主張について

原告Eの上記主張は,いずれも不知。
(ク)

原告Fの主張について

原告Fの上記主張は,いずれも不知。
(ケ)

原告Jの主張について

原告Jの上記主張は,いずれも不知。
(コ)

原告Kの主張について

原告Kの上記主張は,いずれも不知。
(サ)

原告Gの主張について

原告Gの上記主張は,いずれも不知。

損害の発生及び損害額について
原告らの主張は争う。

(2)

争点2(被告Zを公務員とみなした被告県の国賠責任)について

【原告らの主張】

平成19年最高裁判決は,都道府県による3号措置に基づき社会福祉法人の設置運営する児童養護施設に入所した児童に対する当該施設の職員等による養育監護行為につき,国賠法1条1項の,都道府県の公権力の行使に当る公務員の職務行為と解するのが相当である旨判示している。本件各行為時に,被告Zは,被告社会福祉法人恩寵園の設置運営する養護施設恩寵園の職員であり,
本件の原告らのうち,
原告Dを除く原告らは,
被告県による3号措置に基づき養護施設に入所したものであるから,本件各行為は,被告県の公権力の行使に当る公務員の職務行為に該当する。イ
原告Dについて
原告Dにつき園への入所措置を行ったのは,千葉市の児相であるが,以下の理由から,被告Zは,同原告に対する関係でも,被告県の公権力の行使に当る公務員に該当する。
すなわち,要保護児童の養育は,国及び地方公共団体が重畳的に果たすべき高度の公的義務であるところ,恩寵園が,被告県によって設立を認可され,その監督を受けていたことからすると,各児童の措置主体いかんにかかわらず,恩寵園に入所した児童の養育を保障すべき監督権限ないし義務を負うのは被告県であるから,原告Dに対する関係でも,被告Zは,被告県の公権力の行使に当る公務員というべきであり,またそれで足りる。そもそも上記最高裁判決は,入所措置のみを根拠に施設職員の公務員性を認めたわけではない。むしろ,要保護児童に対して都道府県が有する権限及び責務を具体的に定める法の規定及び趣旨に照らし,施設の養育監護は本来都道府県が行うべき事務である旨判示していることから,法の規定と趣旨,それから見た施設における養育監護の公務性を根拠とするものである。また,上記最高裁判決は,職務行為の対象となる児童らがいずれも同一の地方自治体の措置によって入所している事案であるから,入所措置の主体が異なる場合の国賠法上の責任が,上記最高裁判決から直ちに導けるものではない。


被告県の主張に対する反論
(ア)

被告県は,法27条4項が,3号措置は親権者等の意に反して採
ることができない旨規定していること等から,入所後の養育監護は親権者等の依頼に基づき当該施設において行われるものであり,都道府県は入所をあっせんするものに過ぎない旨主張して上記最高裁判決を批判する。
しかし,養護施設への入所は,法27条1項3号による場合も28条による場合も,都道府県の措置という行政処分によってなされ,多くの場合,親権者等が積極的に希望してくるのではなく,第三者の通告(法25条)によって,児相が要保護児童を一時保護(法33条)し,入所の必要性を認めれば親権者に説明のうえ同意を得て3号措置を採るという運用がなされ,同意が得られない場合でも,必要があれば法28条に基づき家庭裁判所の許可を得て入所措置を行うことになる。他方,親権者自身が児童を入所させるよう申し出てきた場合にも,都道府県が要保護児童と認め,
入所の必要性を認めてはじめて入所可能となるのである。
したがって,児童の児童福祉施設への入所措置は,親権者等の意向とは別の観点である児童福祉の観点から,行政処分として行われるものであり,単なる入所のあっせんということはできない。
また,被告県は,児童福祉施設の自主性及び独立性を理由に上記最高裁判決を批判するが,
法35条1項及び2項によれば,
児童養護施設は,
本来国または都道府県が設置するのが原則であり,社会福祉法人は,都道府県の認可を得てはじめて設置できるものである。また,社会福祉事業法5条1項1号(平成12年6月7日法律第111号による改正後の社会福祉法61条1項1号)も,国及び地方公共団体は,法律により帰せられたその責任を他の社会福祉事業を経営する者に転嫁してはならない旨定めている。したがって,被告県は,児童養護施設の自主性及び独立性を強調して自己の責任を回避することはできない。
(イ)

さらに被告県は,本件各行為は職務を行うについて
(国賠法
1条1項)に該当しない旨主張するが,
職務を行うについてとは,
職務の内容と密接に関連し,職務行為に付随して行われる行為も含むところ,本件各行為は,職務行為と関連し,または職務行為に付随してなされたものである。また最高裁昭和29年(オ)第774号同31年11月30日第二小法廷判決・民集10巻11号1502頁は,客観的に職務行為の外形をそなえる行為をしてこれによって他人に損害を加えた場合も職務を行うについてに含むとしていることからも,本件各行為は職務を行うについてに該当する。

被告Z及び被告恩寵園の責任について
平成19年最高裁判決は,施設職員に公務員性を認めた場合の,施設設置主体たる法人の責任を否定し,傍論で施設職員の責任も否定している。しかし,上記最高裁判決の事案は,不法行為につき,施設職員の配置不足など,地方公共団体の責務に属する事情が存するのに対し,本件は,児童の養育監護につき直接責任を負うべき施設長が故意に行った行為の責任が問われているのであって,事案を異にする。また,被告Z及び被告恩寵園のみが被告となっている場合には,両者は損害賠償責任を免れないのに,被告県を共同被告にした場合に責任を免れるのは不合理である。
したがって,本件では,被告Zの各行為が被告県の公権力の行使に当る公務員の職務行為該当することを前提としても,被告Z及び被告恩寵園も不法行為責任を免れない。

【被告県の主張】

そもそも,平成19年最高裁判決の判断は,以下の理由から首肯できない。
まず,法は,児童の養育監護について,国または地方公共団体が後見的な責任を負うことを前提としており(法2条)
,都道府県は原則として児
童の親権者等の意思に反して児童養護施設への入所措置を採ることができない旨規定しており(法27条4項)
,一旦入所措置が採られた後でも,
親権者等の反対の意思が表明された場合には,入所措置を解除せざるを得ないのであって,児童に児童養護施設で養育監護を受けさせるか否かは,終局的には親権者等の判断に委ねられている。したがって,入所後の施設における養育監護は,親権者等の依頼に基づき当該施設で行われるものと解されるのであって,都道府県の入所措置は,児童福祉のために積極的にこれに介入して入所をあっせんするものに過ぎない。
それにもかかわらず,
平成19年最高裁判決は,上記法の規定にあえて触れずに,入所後の施設における養育監護は本来都道府県が行うべき事務であると判示している。また,
児童福祉施設を経営する事業は,
第一種社会福祉事業であるが社

会福祉事業法2条1項)社会福祉事業法4条,5条1項2号及び3号(平,
成12年6月7日法律第111号による改正後の社会福祉法60条,61条1項2号及び3号)において,社会福祉法人を経営する者の独立性が強く保障されていることからすると,児童養護施設においては,経営主体たる社会福祉法人が,地方公共団体から独立した事業者として自らの責任と判断において社会福祉事業(児童の養育監護等)を行っているものといわなければならない。
さらに,国賠法1条1項の適用上,私人が公共団体の公権力を行使しているというためには,当該公共団体が当該業務の主体といえる程度に私人の業務に関与していることを要するというべきである。
また,平成19年最高裁判決は,入所措置の主体によって責任を負う主体が決まる旨判示しているところ,1個の児童養護施設には,様々な地方公共団体から入所措置がなされていることも多いのであって,上記最高裁判決に従えば,入所の際の手続により,同じ施設で同等の養育監護を受けている児童に対する責任の主体が異なるというまったく不合理な事態となりうる。
したがって,児童養護施設の職員等による養育監護行為を,入所措置を行った都道府県の公権力の行使に当る公務員の職務行為ということはできない。

仮に,平成19年最高裁判決に従うとしても,以下の理由から本件に当てはめることはできない。
(ア)

まず,
職務を行うについて
(国賠法1条1項)とは,職務行

為自体またはこれと関連して一体不可分の関係にある行為及び客観的・外形的にみて社会通念上職務の範囲に属するとみられる行為を広く指すものと解されているが,仮に被告Zの行為が原告らの主張どおりのものであったとすれば,それらはいずれもおよそ入所児童に対する養育監護の一環であるなどとは到底言えない行為であるから,本件各行為が職務を行うについてなされたものであると解される余地はない。(イ)

また,平成19年最高裁判決は,入所措置の主体によって責任を

負う主体が決まる旨判示したものであるから,平成19年最高裁判決に従えば,原告Dとの関係では,被告Zは千葉市の公務員ということになり,本訴において原告ら間で統一的な結論を採り得ない。すなわち,平成19年最高裁判決は,単独の地方公共団体から入所措置が行われた児童に係る事案のものであり,賠償主体の相違について問疑する余地がなかったので,施設職員等による養育監護行為を,入所措置を行った都道府県の公権力の行使に当る公務員の職務行為と判示したものと思われ,本件のように複数の地方公共団体から入所措置が行われた複数の児童に係る事案に,
平成19年最高裁判決の判断を当てはめることはできない。

原告Dについて
上記最高裁判決は,前述のとおり,入所措置の主体によって責任を負う主体が決まる旨判示したものであるが,これによれば,原告Dは,千葉市の児相によって入所措置されたものであるから,同原告との関係では,被告Zは,千葉市の公務員とみなされることになり,被告県は責任を負わない。
(3)

争点3(監督義務違反を理由とした被告県の国賠法責任)について
【原告らの主張】

県知事の監督義務違反
(ア)

県知事の監督義務違反の内容

県知事は,被告Zが原告らに対し体罰及び精神的虐待行為を行った昭和59年1月から平成10年4月までの間においても,社会福祉事業法54条並びに児童福祉法46条及び58条に基づき,被告恩寵園に対する強い監督権限及び監督責任を有していたところ,県知事は,被告Zの原告らに対する体罰及び精神的虐待行為を認識していたのであるから,これらを防止・阻止すべく,上記公権力を行使すべき義務があったものであるが,県知事は,これを怠った。
ことに,
本件集団駆込みが発生した平成8年4月5日前後の時点では,
被告恩寵園に対し,施設長たる被告Zの解職を含む,児童福祉法46条3項に基づく改善勧告を行う義務があったにもかかわらず,県知事は,上記改善勧告を行わなかった。
(イ)

県知事の予見可能性及び結果回避義務違反
昭和59年1月から平成2年5月まで
被告県は,そもそも昭和59年以前から,養護施設につき,児相に
よる定期的な訪問,施設からの報告の聴取等を通じて入所児童の処遇を確認するとともに,問題が生じる都度処遇に関する指導を行ってきたうえ,被告恩寵園については,県知事において,昭和59年以前から,社会福祉法人監査要項に基づく書面監査及び実地監査をとしているところ,同要項に基づき,昭和58年4月1日に施行された社会福祉法人監査要領では,監査項目に,体罰等懲戒権濫用にかかる事項が挙げられているのであるから,県知事において,被告Zの体罰・虐待につき,十二分に予見可能性があったというべきであり,それにもかかわらず被告Zの体罰・虐待を認識し得なかったとしたら,それ自体予見義務違反であり,当然に結果回避義務違反があったというべきである。

平成2年5月から平成6年まで
市川児相は,平成2年5月2日に,原告Kから,被告Zの暴力,正座の指示等に関する訴えを聞き,また,その際には,同原告の通う中学校の教諭からも,同中学校でも園での処遇を問題視している旨伝えられており,平成5年8月及び同年9月にも,原告H及び同Jの母から被告Zから同原告らが暴行等を受けた旨の訴えを受けており,加えて,平成3年ないし5年に,当時園で実習をしていた者を通じ,被告Zの体罰につき通告を受けていたのであり,これらは,児童記録票等からも明らかであるから,県知事は,この間,被告Zの体罰・虐待を認識していたというべきである。
そうである以上,県知事において上記各公権力を行使すべきであったのにこれを行わず,被告県の対応として,平成6年9月20日の児相所長協議会において上記各訴えの報告が行われ,児相所長協議会として園を訪問し,被告Zに体罰をしないよう申し入れただけなのであるから,結果回避義務違反は明らかである。


平成7年から平成8年3月まで
市川児相は,平成7年8月23日に,被告Zの園児らに対する体罰・虐待を内容とする匿名電話(以下本件匿名電話という。
)を受
け,また,これを受けて不十分ながら実施された児相所長らによる調査に基づき,被告県は,被告Zが体罰を行っていたと結論づける,同年10月4日付け恩寵園児童処遇に関する調査結果報告書を作成
したのであるから,これらにより,県知事は,この間,被告Zの日常的かつ広範な体罰・虐待を認識していたというべきである。
そうである以上,県知事において上記各公権力を行使すべきであったのにこれを行わず,被告県の対応として,上記児相所長らによる不十分な調査を行ったほか,ケース検討会によって保母らへの指導を行い,被告Zに対しては,被告県社会部児童家庭課(以下児童家庭課という。
)長が面接して顛末書を書かせ,新たな施設建物の建設計画
の凍結及び入所措置停止を伝えたことのほか,園児らの直接処遇をしないように指導したのみであり,当時園で必要であった,経験豊富な職員を採用する旨の指導すらしなかったのであるから,結果回避義務違反は明らかである。

平成8年4月当時
平成8年4月3日から5日にかけて,原告ら6名を含む13名の園児らが,被告Zの体罰・虐待を理由に園から脱走し,県内の4か所の児相に駆け込んだ(以下本件集団駆込みという)
。上記各児相で
は,上記各園児らから,被告Zによる体罰・虐待についての訴えを聞いており,これらは児童記録票等から明らかであるうえ,被告県が同月15日付けで提出を受けた被告Zの顛末書においても,本件集団駆け込みの原因が同被告の体罰にあったことが露呈されているのであるから,県知事は,この当時,被告Zの体罰・虐待を認識していたというべきである。
そうである以上,県知事において上記各公権力を行使すべきであったのにこれを行わず,被告県の対応として,本件集団駆込みの原因を被告Zと他の職員らとのトラブルにすり替えて,無理に事態を収束させようとし,後日行われた被告県の職員らと被告Zないし園職員らとの話合い及び上記顛末書提出の後も,被告Zの体罰・虐待につき,何らの措置も行わなかったのであるから,結果回避義務違反は明らかである。

本件集団駆込み後から平成10年4月まで
県知事は,平成8年5月1日付けで,園児ら9名から,被告Zの体罰・虐待が継続している事実が記載され,
助けを求める手紙以下本

件知事への手紙という。
)を受け取り,また,被告県の児童家庭課
は,同月6日,園児らとの話合いにおいて,被告Zが本件集団駆込み後も反省していないとの訴えを受けた。また,被告Zの直接処遇が復活したことによる無力感等から,平成9年3月末に,保母ら2人を除く園職員全員が退職した。これらの事実から,県知事は,この間,被告Zにより体罰・虐待が行われていることを認識していたというべきである。
そうである以上,県知事において上記各公権力を行使すべきであったのにこれを行わず,本件知事への手紙に対しては,被告Zの体罰には一言も触れない同一文面の返事を全員に送り,上記話合い後も何ら具体的対応を行わず,平成8年6月に園に対して行われた監査においても,何ら被告県が採るべき改善策を提示しなかったのであるから,結果回避違反は明らかである。

(ウ)

小括

以上のとおり,県知事は,その過失により上記各公権力を行使しなかったのであり,県知事によるかかる公権力行使の懈怠は,被告県の公務員の違法行為に当たる。そして,これにより原告らは,前記(1)【原
告らの主張】ウの損害を被ったのであるから,被告県は国賠法1条1項に基づき,原告らに対し,上記損害を賠償をする責任を負う。

被告県の主張に対する反論
(ア)

被告県は,上記各公権力の行使を裁量権の行使としたうえで,そ
の不行使の違法性を否認している。
しかし,児童福祉施設の職員による入所児童への体罰等が発生するたびに,厚生省(現厚生労働省)が都道府県知事に監督を促していること,及び,上記各公権力の行使を裁量権であるとすると,法26条ないし27条の各措置は,要保護児童をより弱者の立場に陥れるものとなりかねないことからすると,少なくとも被告Zの解職を含む改善勧告に至らない権限行使は,裁量ではなく,行使が義務付けられているものである。(イ)

また,被告県は,独立した社会福祉法人への監督権行使は抑制的

にあらざるを得ず,必要最低限の権限行使が求められる旨主張する。しかし,かかる主張は,社会福祉事業法5条1項2号の定めるところの社会福祉法人の自主性尊重や不当な関与禁止の範囲内では正しいものであるが,それ以上に謙抑的な監督権限行使を主張している点については,以下のとおり,誤りである。
すなわち,被告県は,児童福祉法35条の定めにもかかわらず,県立の養護施設を1つしか設置せずに,原告らを,その意思とは無関係に,県立の養護施設ではなく恩寵園に入所措置したのである。それにもかかわらず,被告県が,被告恩寵園の独立性を強調して抑制的監督権限行使を主張するのは,県立の養護施設に措置された児童と同等の処遇を受けるという,原告らの憲法14条に基づく権利をないがしろにするものである。
また,被告県は,虐待されている児童等の要保護児童については,児童福祉法27条ないし28条に基づき,その保護者と分離する等の措置を採る義務があるところ,被告Zもその保護者に当たるのであるから,同被告を入所児童から分離すべく,被告恩寵園に対して被告Zの解職を指導,勧告すべき義務があったというべきである。

児童の権利に関する条約について
さらに,
日本国が批准した児童の権利に関する条約は,
19条において,
児童を虐待等から保護するため,締結国はすべての適当な措置を採る旨定めているところ,地方公共団体たる被告県も,当然にかかる措置を採る法的責任を負っているのであり,社会福祉法人に対する監督権限も,この法的責任を果たすために行使されなければならなかったものである。【被告県の主張】

県知事の監督権限が裁量権であること
本件において,県知事が有する監督権限は,法46条,58条及び社会福祉事業法54条に基づく権限であるが,これらはいずれも裁量権であって,行使が義務づけられているものではない。
このような権限の不行使が国賠法上違法となるのは,①国民の生命,身体に対する差し迫った危険が存在し,②その危険が切迫していることを行政庁が知り,または容易に知りうべき状況にあり,③その危険回避に有効適切な権限の行使が可能である状況にあり,④被害者が自分では当該危険を回避できず,行政庁の権限行使に頼らざるを得ない状況にあるという,各要件を具備した場合であり,その場合においても,上記危険の度合,権限行使の影響及び将来的展望等,諸般の事情を考慮したうえで決せられるものであるところ,以下に述べる点から,本件における県知事の権限不行使に,違法はない。


被告県による実態把握及び対応について
(ア)

被告県による実態把握

県知事は,昭和59年以前から,法46条,社会福祉事業法54条及び65条に基づき,
毎年定期的に被告恩寵園及び養護施設恩寵園に対し,
監査を実施し,運営状況等を把握してきたが,これによっては,被告Zの園児らに対する体罰等は確認されなかった。
一方児相は,毎年度の定期的な施設訪問に加え,何らかの情報ないし問題を把握する都度,入所施設訪問を行うことで,児童の生活実態を把握して相応の指導を行い,
特に記録を要すると判断した事項については,
各児童の児童記録票に記載している。また,入所施設からも児童の養育に関する報告を徴して児童の生活実態の把握に努めている。
これらを通じ,恩寵園における体罰等につき,被告県が把握した内容及びそれに対する被告県の対応は,以下のとおりであり,本件におけるいずれの時点においても,県知事の権限不行使が違法とされる余地はない。
(イ)

昭和59年から平成2年5月まで

上記(ア)の各手段によっても,この期間中,恩寵園における原告らに対する体罰が問題となったことを,
被告県が了知したことはなかった。
よって,この期間の県知事による権限不行使に違法はない。
(ウ)

平成2年5月から平成6年まで

市川児相は,平成2年5月,平成5年8月,同年9月及び平成6年5月に,それぞれ被告Zの原告K,同将及び同Jに対する暴力等の情報を把握したため,その都度,状況確認ないし原告K及び同Jの措置解除という対応を行った。
そして,上記各情報から,事態の背景に被告Zの厳しい指導があると窺われたため,平成6年10月には,児相所長協議会において,園を訪問のうえ,被告Zに対し,入所児童の処遇につき,厳しく指導を行った。したがって,被告県は,この間状況に応じた適切な対応を行っているのであり,この間の県知事の権限不行使に違法はない。
(エ)

平成7年度
児相の取組み
平成7年9月,児相所長協議会は,本件匿名電話を受け,臨時所長
協議会を開催したうえ,2度にわたり,被告Z,園職員及び園児らに対し,聞取調査を行った。
上記各聞取調査の結果,児相所長協議会は,園において体罰があったのではないかと考え,まず,同年10月には臨時所長協議会を開催し,被告Z及び主任保母Oとの話合いを行った。また,園における体罰をなくし,入所児童の処遇向上を図るため,ケースカンファレンスを行うこととし,同度中に6回行ったほか,平成8年3月には,被告Zに対し,今後の対応の聴取を行った。

児童家庭課長の指導
さらに,平成7年10月,当時の被告県児童家庭課長は,被告Zに対し,同年12月18日,被告Zに対し,体罰の禁止を厳しく指導するとともに,被告Zにおいて直接処遇をしないこと及び顛末書を提出すること,並びに園施設の改築計画の凍結及び新規入所措置の停止を申し渡した。また,上記児童家庭課長は,同月26日,再度被告Zと面談し,
指導を行うとともに,
新規入所の停止を更に3か月延長して,
改善状況を見る旨申し渡す等した。


小括
ケースカンファレンス及び児童家庭課長による上記各指導により,被告Zによる原告らへの体罰はなくなったのであって,被告県が,この間状況に応じた適切な対応を行ったことは明らかであり,この間の県知事の権限不行使に違法はない。

(オ)

平成8年4月以降(本件集団駆込み時以降)
本件集団駆込みの原因及び被告県の対応
児相は,平成8年4月の本件集団駆込みに際し,駆込みを行った園
児ら全員を一時保護し,その後,被告Z及び主任保母Oと善後策等につき協議を行った。
また,当時の児童家庭課次長及び児相職員は,本件集団駆込みを受けて,被告Z及び園職員から事情聴取を行ったり,被告Zに

体罰はしない。

等の約束をさせたりした。そのうえで,児相としては,上記園児らを,その意思に応じ,逐次帰園させたのである。
なお,上記園児らの話及び上記事情聴取の内容からすると,本件集団駆込みの原因は,被告Zと園職員らとのトラブルが主なものであったといえる。

本件集団駆込み後の園の状況
被告県は,同年4月,被告Zから,体罰を絶滅する旨記載された顛末書の提出を受けた。また,同年5月,本件知事への手紙を受けて,当時の児童家庭課長が状況確認を行ったが,その当時体罰が行われていることは確認できなかった。
その後も被告県は,ケースカンファレンスや,前記(ア)の監査等を継続して行ったが,これらによっても,被告Zの原告らに対する体罰が継続していることは,確認できなかった。


小括
以上のとおり,被告県は,平成8年4月以降も,状況に応じて適切な対応を行ったものであるが,そもそもこの時期には,被告Zの原告らに対する体罰が継続していた事実は確認できなかったのであって,この時期の県知事による権限不行使に違法はない。

(4)

争点4(被告恩寵園の使用者責任)について

【原告らの主張】

被告恩寵園は,その事業である養護施設恩寵園の運営のために,被告Zを使用していたところ,同被告が,被告恩寵園の事業の執行に関して,前記(1)原告らの主張】アのとおり,原告らに不法行為を行い,前記(1)【
【原告らの主張】ウの損害を与えたのであるから,民法715条1項に基づき,被告Zと連帯して賠償責任を負う。

なお,
平成19年最高裁判決は,
児童福祉施設の職員の不法行為につき,
地方公共団体の国賠法上の責任を認めたうえで,施設設置者たる法人の責任を否定している。
しかし,上記最高裁判決は,児童養護施設の入所児童が他の児童に傷害を負わせた事故につき施設職員が十分な注意を怠った過失を前提とする事案で,施設職員の配置不足など,地方公共団体の責務に属する事情が事故の背景にあるのに対し,本件は,施設長が,入所児童に対し,故意かつ確信犯的に加えた不法行為につき,施設長自身の責任が問われ,かつその不法行為を容認してきた施設設置者たる法人の責任が問われている事案であって,両者は事案を異にするというべきであるうえ,実質的にみても,被告Z及び被告恩寵園だけが被告とされた場合には,被告Z及び被告恩寵園は損害賠償責任を免れないところ,被告千葉県を共同被告とした場合に,責任が免除されるのは,不合理である。
したがって,
本件においては,
平成19年最高裁判決の判断は妥当せず,
被告恩寵園は,損害賠償責任を免れない。

【被告恩寵園の主張】

被告恩寵園が,その事業である養護施設恩寵園の運営のために,被告Zを使用していた事実は認めるが,同被告の不法行為については,そもそも原告らの主張自体が民訴法上要求される請求原因の特定を欠き主張自体失当であるうえ,仮に同被告について有形力の行使があったとしても,これは懲戒権の行使にすぎず,同被告に不法行為が存しないから,被告恩寵園が民法715条の責任を負うことはない。


また,平成19年最高裁判決の判断に照らせば,被告Zは,被告県の公権力の行使に当たる公務員と解されるため,仮に被告Zが,園における養育監護に際して,故意又は過失により,原告らに損害を与えたとしても,その賠償責任は,被告県が国賠法1条1項に基づき負うものであり,この場合,被告恩寵園は民法715条の責任を負わない。
(5)

争点5(消滅時効)について

【被告Zの主張】

原告ら全員について
(ア)

未成年者が受けた損害については,成人後に時効期間が進行する

とされるが,不法行為時から著しく期間が経過した請求については,反証等が困難である。したがって,時効制度の趣旨からして,このような請求,特に本件のように不法行為の特定が不完全なものについては,不法行為があったと主張される時点からのみ3年の時効期間が進行すると解すべきである。
(イ)

もしくは,原告らは,満15歳になれば訴訟委任について法定代

理人の同意が不要と主張している以上,満15歳になったときから時効期間が進行すると解すべきである。
(ウ)

したがって,原告らの本訴請求は,すべて消滅時効が完成してい

るから,いずれも時効を援用する。

原告Hらの親権者の知情に基づく時効完成について
(ア)

原告Hら全員について

原告Hらの親権者たるLは,原告Hらが恩寵園に在園していた当時から本件請求原因等を知り,児相にも訴えているところ,原告Kが,平成2年5月2日に,恩寵園から無断外出してLの元に帰ったことからすると,Lは,平成2年5月2日には原告Hらの本件請求原因にかかる損害及び加害者を確定的に知ったというべきであり,それゆえ,原告Hらの本件損害賠償請求権は,同日から3年を経過した平成5年5月2日には消滅時効が完成しているのであるから,被告Zは上記時効を援用する。(イ)

原告J,同I及び同Hについて
また,Lは,平成6年5月2日に,恩寵園から無断外出してきた原告Jから,本件請求原因事実を聞いているのであり,それゆえ,原告J,同I及び同Hらの本件損害賠償請求権は,同日から3年を経過した平成9年5月2日には消滅時効が完成しているのであるから,被告Zは上記時効を援用する。
(ウ)

原告Jについて

さらにLは,平成6年6月8日に,原告Jの入所措置が解除されていることからすると,遅くとも同日には原告Jの本件請求原因にかかる損害及び加害者を知ったというべきであり,それゆえ,同日から3年を経過した平成9年6月8日には消滅時効が完成しているのであるから,被告Zは,上記消滅時効を援用する。
(エ)

原告I及び同Hについて

同様に,Lは,平成8年5月23日に,原告I及び同Hの入所措置が解除されていることからすると,遅くとも同日には原告I及び同Hの本件請求原因にかかる損害及び加害者を知ったというべきであり,それゆえ,同日から3年を経過した平成11年5月23日には消滅時効が完成しているのであるから,被告Zは,上記消滅時効を援用する。

原告Kの成人に基づく時効完成について
原告Kは,平成9年2月20日に成人に達していたところ,同原告自身がその時点で,本件請求原因にかかる損害及び加害者を知っていたのは明らかであり,それゆえ,同原告の本件損害賠償請求権は,同日から3年を経過した平成12年2月20日には,消滅時効が完成しているのであるから,被告Zは上記時効を援用する。

【被告恩寵園の主張】

原告ら全員について
上記【被告Zの主張】ア(ア)の主張を援用し,被告恩寵園は,かかる時効を援用する。

原告Hらの親権者の知情に基づく時効完成について
上記【被告Zの主張】イ(ア)(ウ)及び(エ)の主張と同旨であり,,
被告恩寵園は,かかる時効を援用する。
ただし,原告Jに関し,措置解除日及び時効完成日は,原告Jに関しては,それぞれ平成6年6月14日及び平成9年6月14日であり,原告I及び同Hに関しては,それぞれ平成8年5月24日及び平成11年5月24日である。


原告Kの成人に基づく時効完成について
上記【被告Zの主張】ウの主張を援用し,被告恩寵園はかかる時効を援用する。

【被告県の主張】

行政庁の規制権限不行使を違法として損害賠償を請求する場合の消滅時効の起算点は,
当該規制権限の作為義務が発生した時点と解されている東

京地裁昭和36年(ワ)第8085号同41年6月27日判決・下級裁判所民事裁判例集17巻5,6号505頁)ところ,本件各不法行為が行われた昭和59年から平成10年までのすべての期間において県知事の作為義務が発生していたとする原告らの主張を前提とすると,本件における被告県に対する請求の消滅時効の起算点は,本件各不法行為が行われた時点と解される。そこで,被告県は,原告らが本件各不法行為時に未成年者であったことを踏まえ,以下のイないしエの消滅時効を援用する。
なお,被告県において,恩寵園ないし被告Zに対する監督権限を適切に行使せずに,原告らに対する人権侵害を放置し,本件損害賠償請求権を行使する原告らの能力が涵養されるのを妨げたことなどなく,また原告K及び同原告の親権者たるLが本件損害賠償請求権を行使できなかった事由などは何ら存しないのであるから,被告県による消滅時効の援用は権利濫用とはならない。

原告Kについて
(ア)

原告Kの請求原因にかかる不法行為は,昭和63年2月から平成

2年4月までの間に関するものであるところ,Lは,同原告が在園中から,本件請求原因等について同原告から聞かされたうえ,同原告は,平成2年5月31日に入所措置が解除され,家庭引取りとなったのであるから,Lは,遅くとも平成2年5月31日の直後に原告Kの本件請求原因にかかる損害及び加害者を知ったといえるから,同原告の本件損害賠償請求権は,同日から3年を経過した平成5年5月31日には,時効により消滅している。
(イ)

仮に平成5年5月31日に消滅時効が完成していないとしても,

原告Kは,平成9年2月20日に成人に達しているのであるから,同原告の本件損害賠償請求権は,同日から3年を経過した平成12年2月20日には,時効により消滅している。

原告Jについて
原告Jの請求原因にかかる不法行為は,昭和63年2月から平成6年5月までの間に関するものであるところ,Lは,面会等に際して,本件請求原因等につき,同原告及び原告Kから聞かされたうえ,原告Jが,平成6年5月9日に恩寵園から無断外出してLの元に帰ったことからすると,Lは,遅くとも平成6年5月9日ころには原告Jの本件請求原因にかかる損害及び加害者を知ったといえるから,同原告の本件損害賠償請求権は,同日から3年を経過した平成9年5月9日ころには,時効により消滅している。


原告I及び同Hについて
原告I及び同Hの請求原因にかかる不法行為は,平成4年4月から平成7年3月までの間に関するものであり,原告Hの請求原因にかかる不法行為にかかる不法行為は,平成元年4月から平成8年5月までの間に関するものであるところ,Lは,同原告らが在園中から,本件請求原因等について同原告ら及び原告Kないし同Jから聞かされたうえ,
原告I及び同Hは,
平成8年5月24日に入所措置が解除され,家庭引取りとなったのであるから,Lは,遅くとも平成8年5月24日ころには同原告らの本件請求原因にかかる損害及び加害者を知ったといえるから,同原告らの本件損害賠償請求権は,同日から3年を経過した平成11年5月24日ころには,時効により消滅している。
【原告らの主張】

以下の理由から,原告らの本件損害賠償請求権の消滅時効は,平成12年1月27日から進行し,仮にそれ以前に進行を開始したとしても,平成11年5月13日ころを遡ることはない。
(ア)

原告ら全員について
すなわち,民法724条前段の消滅時効が進行するためには,加害
者の行為が違法なものであること及びそれによって損害が発生したことの双方を被害者が知らなければならないと解されるところ,原告らにとって恩寵園は家庭の場であり,他の子が虐待を受けるのを見聞きして育ったこと等から,他の処遇があるとは想像できず,また,恩寵園での生活は,被告Zにより権利意識及び人格的誇りを持たせられないものであったこと,児相等に虐待を訴えたにもかかわらず,いずれの公的機関の大人からも助けを得られなかったこと等から,原告らには被告Zによる虐待行為が違法行為であると認識するすべがなかった。

また,同条の『加害者ヲ知リタル時』
(ただし平成16年12月1
日法律第147号による改正前のもの。上記改正後の同条加害者を知った時)の解釈につき,最高裁昭和45年(オ)第628号同。
48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁は,
加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な状況のもとに,その可能な程度にこれを知ったときを意味するのが相当である旨判示し,また被害者の職業・地位・教育等から権利を行使することを期待ないし要求することができるときと解する有力学説及び下級審裁判例もある。そうすると,消滅時効の起算点は,当該被害者が損害賠償請求訴訟を現実に提起することの困難な状況にあるかどうかを踏まえて決するべきであるところ,児童養護施設という閉鎖的な場所で,父親代わりの施設長から日常的に体罰等を繰り返され,かつ児相職員に虐待の事実を訴えても何ら対応してもらえなかった原告らには,被告Zを訴える方法があるとは考えも及ばなかった。

さらに原告らは,今日まで被告Zに対し強い恐怖心を抱いており,原告らがかかる恐怖心を克服して訴訟を提起するのは,裁判所によって被告Zの行為の違法性が認められて初めて可能になったというべきである。


以上からすると,原告らは,千葉県知事を被告とした住民訴訟(千葉地裁平成9年(行ウ)第71号)において,被告Zの行為の違法性を認定した判決が言い渡された平成12年1月27日になって初めて確定的に損害賠償請求ができる旨認識できたというべきであり,原告らの本件損害賠償請求権の消滅時効は,同日から進行すると解すべきである。仮にそれ以前に進行が開始するとしても,原告らは,平成11年5月13日に,上記住民訴訟において原告らのうちの1人が証人尋問されたことを契機として,自分達が被告Zから受けてきた行為を批判的に話し合えるようになり,これによってその行為の違法性を漫然と認識するに至ったのであるから,上記消滅時効の起算点が同日より遡ることはない。
(イ)

原告Kについて

原告Kについても,確かに本訴提起は同原告が成人に達した時から3年経過後であるが,上記(ア)のとおり,同原告の請求原因にかかる被告Zの各行為が違法である旨の認識を持ち得ない生活を強いられてきたことにより,措置解除後及び成人後も上記違法性の認識を持ち得なかったのであるから,同原告の本訴請求権の消滅時効起算点も他の原告らと同様である。
(ウ)

Lについて

また,原告Hらの親権者たるLは,子の養育能力に著しく欠け,そのために原告Hらを児童養護施設に措置するよう行政機関が働きかけたような人物であり,法が予定するような親権者としての権利行使を期待できる人物ではない。また,Lが被告Zの暴力を児相に訴えても,児相は被告Zの行為を問題としなかったこと,児童養護施設に子を預けている親としても引け目があったことから,被告Zの本件各行為につき損害賠償請求が可能とは考えていなかった。したがって,原告Hらが上記(ア)のとおり損害賠償の可能性を認識するまで,Lの法定代理人としての権利行使についても,消滅時効は進行しないというべきである。

時効援用権の濫用等
(ア)

被告Z及び被告恩寵園の消滅時効の主張に対し

原告らは,
在園中に被告Zから虐待を受け,
また児相に助けを求めても,
被告恩寵園及び被告県から適切な対応が採られず,措置変更ないし措置解除の処遇を受けただけであったため,本件各行為につき,誰に何を訴えても何も解決されず,自分たちが施設から追い出されるだけであるとの思いを持たざるを得なかった。
また,原告らは社会的弱者であって,かつ自己の権利を主張する能力を涵養されなかったが,これは被告Z及び被告恩寵園における処遇によって殊更に上記能力の涵養を阻害されたためである。
したがって,原告らが本訴提起まで本件損害賠償請求権を行使しなかったのは,もっぱら被告らの側の責めに帰すべき事由によるものであり,本訴各請求債権を時効によって消滅させることは,著しく正義,公平及び条理に反すると認められる特段の事情があるのであって,本件における被告Z及び被告恩寵園の時効援用権の行使は権利の濫用として許されず,時効理論援用の主張も認められるべきでない。
(イ)

被告県の消滅時効の主張に対し

原告Kは,上記(ア)に述べた事由により,成人後も本訴請求にかかる権利行使をなしえなかったものであるが,加えて,被告県は,以下のとおり,成人後の原告K及びLによる権利行使を著しく困難にさせた。すなわち,公的機関である県に対する権利行使は通常の成人にとってさえ困難であるところ,被告県は,本件各行為を含む被告Zの体罰等を認識していたにもかかわらず,恩寵園全体の問題として対処せず,被告Zの退職勧告についても,それによって被告Zが恩寵園の廃園を言い出すことを警戒して行わなかった等,必要な監督権限を発動せずに放置したことで,被告Zの体罰等を継続させ,原告K及びLに権利救済の希望を失わせ,権利行使能力涵養を阻害した。
したがって,被告県の本件における消滅時効の援用は,権利の濫用として許されない。
なお,被告県による消滅時効の主張は,最終準備書面で追加されたものであるから,時機に遅れた主張である。
第3
1
当裁判所の判断
争点1(被告Zによる不法行為の有無及び損害)について
(1)

原告A
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。
(ア)

主として在園時の事実

a(a)

原告らの在園中,園には,深さ約112センチメートル,幅

約73センチメートル程度の麻袋が数枚あり,廃棄物の収集や運動会の競技等に使われていたが,本来米を入れるような丈夫なものであった。
(b)

原告らの在園中,園庭には大人の身長を超えるような高さの

木が多数生えており,また,園の道路を挟んで反対側には,小学校があったところ,その小学校のフェンスと,園の外柵とは,上記道路を挟んで向かい合っており,上記外柵周辺にも,上記のような木が複数生えていた。
(c)

被告Zは,原告Aが6歳くらいで,小学校に上がる前くらい

のころ(昭和62年6月ころから昭和63年3月ころ)
,同原告が
廊下を走った等の理由から,
同原告を上記麻袋に入れ,
その麻袋を,
園庭の木や,上記小学校のフェンスに面した外柵周辺につるしたことが複数回あった。なお,このころの原告Aの身長は約112センチメートル,体重は約17キログラムであった。

被告Zは,原告Aの幼児期から小学校低学年ころまでの間(昭和59年ころから平成2年3月ころまでの間)
,園内の廊下を走った等の
理由で,同原告を膝の上に押さえつけ,同原告の尻を叩いた。

c(a)

原告らの在園中,園内には,大型乾燥機が設置されている部

屋があったが,その部屋は,電気を点けずに出入口のドアを閉めると,光が入らず,真っ暗になった。
(b)被告Zは,原告Aの幼児期から小学校低学年ころまでの間昭(
和59年ころから平成2年3月ころまでの間)
,同原告を乾燥機部
屋に入れ,電気を点けずに出入口のドアを閉め,外から上記ドアをどんどんと叩き,同原告が

出して,出して。

等と言って泣き叫んだにもかかわらず,同原告が失神しそうに感じるまで,上記行為を止めなかった。

被告Zは,原告Aが小学校低学年のころ(昭和63年4月から平成2年3月ころ)
,同原告に対し,正座をするよう指示し,数時間その
指示を解かず,その間,食事の時間が来ても,食事をすることを許さなかった。

e(a)

原告らの在園中,園においては,上半身の着衣の袖は手首よ

りも上になければならないとの決まりがあった。
(b)ⅰ

原告Aが小学校5年生のころ(平成4年4月から平成5年

3月ころ)
,食事の後に,着衣の袖が手首より下にくる状態とな
ったことがあった。

これを見た被告Zは,同原告を園長室に呼ぶと,上記着衣を脱
ぐか,袖を切るかいずれか選ぶよう申し向け,同原告がどうすべ
きか迷っていたところ,上記着衣の袖を刃物で切った。


同原告は,被告Zが袖を切り出したため,あわてて上記着衣を
脱いで被告Zに渡し,上半身は下着だけ着けた状態で自己の居室
まで戻ったが,上記着衣はその後着用できないものとなった。


原告Aが小学校4年生のころ平成3年4月から平成4年3月ころ)(
の朝方,気に入った服を3日間くらい続けて着ていたところ,被告Zがこれに立腹し,

お前は乞食か。

等と言って,その着衣を取り上げたうえ,他の服も没収した。
そのため,
同原告はその日学校に行くことができず,
その日の夕方,
保母によって服が同原告の下に戻されるまでの間,下着のみを着けた状態で過ごすこととなった。
g(a)

原告Aが小学校2年生だった平成元年4月,園の風呂場で同

原告と別の女児が遊んでおり,その中で別の女児が同原告の手を引っ張った。
これによって,
同原告は左腕に非常に大きな痛みを感じ,
被告Zにその痛みを何度か訴えたにもかかわらず,被告Zは,同原告を病院に連れて行かなかった。
(b)

翌日になっても上記痛みが消えず,同原告が痛がっていたと

ころ,他の園児が保母にそれを告げたこと等から,同原告はようやく病院に連れて行ってもらい,病院において添え木等の処置を施された。
h(a)

原告らの在園中,少なくとも平成7年12月までの間,園児

らは,学校から学期末に受け取った通知表を,終業式の日に被告Zのところへ持参し,見せることとなっていた。
(b)

園児らが通知表を被告Zに見せる際,通知表を開き,文字が

被告Zから読める方向に向けて被告Zに差し出さなければならないとされていた。
しかるに,原告Aが,小学校1年生の1学期末から中学校2年生
の2学期末までの間(昭和63年7月から平成7年12月までの
間)
,通知表を見せる際,方向等を間違えて被告Zに差し出したと
ころ,被告Zは,同原告の通知表を取り,床に放ったことがあった。
(c)

また,同原告が小学校1年生の1学期末から中学校2年生の

1学期末までの間(昭和63年7月から平成7年7月までの間)

通知表を被告Zに見せた際,成績が悪いとの理由で,同原告の頭にそろばんを押しつけ,
そろばんの珠を数回こすりつけたことがあり,
また同じ理由で長時間同原告を立たせておくこともあった。
i(a)

原告Aが,平成9年4月4日,当時園においては,幼児の面

倒を見るために幼児の居室に入ることは許されていたため,幼児の居室で幼児の面倒をみていたところ,被告Zは,

部屋から出て行け。

等と言って,原告Aの腰周辺を足で押し出すように蹴った。(b)

これに対し,同原告が,幼児の面倒を見る人がいないから見

ていた旨述べると,被告Zは,同原告に対し,

そんなに幼児の部屋にいたいのなら,幼児の部屋になれ。

等と言った。j(a)

平成9年4月のある日,午後7時ころに原告Aの友人ら数名

が,原告Aを訪ねて園に来たが,被告Zが,上記友人らに,帰れ。
と言ったため,上記友人らは帰ろうとした。その後被告Zが原告Aに対し,上記友人らとの交友関係につき説教をしていたところ,上記友人らが戻ってきて,自分たちが勝手に来たのだから怒らないよう言うなどし,被告Zとの間で言い合いとなったため,原告Aは,上記友人らに,帰るよう促した。
(b)

そして原告Aが,被告Zに,上記友人らを送ってくる旨告げ

たところ,被告Zは,同原告に対し,
外へ出たら高校を辞めさせると言った。
それでも原告Aは,上記友人らを送り,その後園に戻ってきた。
k(a)

原告Aは,高校生になって以降,園の電話機で30分程度の

話をすることがあり,電話機を使用する回数は,他の園児らよりも多かった。
(b)

平成9年4月17日,原告Aが,園の保母室の電話機で友人

と話をしていている最中に,他の園児あてにキャッチホンが入ったため,上記保母室の電話をその園児に譲り,自分は,別室に設置されていた他の電話機を使用した。
(c)

上記別室の電話機は,緊急用に設置されていたもので,通常
園児らの使用は禁止されているところ,原告Aは,通話が重なった場合には上記電話機を使用してもよいとの認識のもと,上記電話機を使用したものであるが,これに対し,被告Zは,

何で使った。


と怒鳴り,同原告の頭を平手で叩いた。
(d)

原告Aは,上記(c)の被告Zの行為に立腹しつつ,自己の

居室に戻った。

原告Aは,在園中の小学校3年生ころ(平成2年ころ)から,刃物を持つと,自分の手を切りたくなる衝動に駆られるようになり,実際に切ったこともあって,そのときには,切って血が出ると安心するという心理状態となり,このような習癖は,同原告が高校1年生のころ(平成9年ころ)まで続いた。

(イ)

退園時ないし退園後の状況
平成8年4月3日から5日にかけて,原告ら6名を含む,13名の
園児らが,園から脱走し,県内の4か所の児相に駆け込んだ(本件集団駆込み)
。このうち原告ら6名については,同月3日に,原告C,
同H及び同Bが市川児相へ,同月4日に,原告Iが柏児相,原告Fが銚子児相へ,同月5日に,原告D及が千葉市児相に駆け込み,その後,原告Cは柏児相へ,原告Iは市川児相へ移動したが,それぞれ各児相に保護された。

本件集団駆込みを契機として,同月11日に,被告Zが,

体罰はしない。との条項を含む職員と子供たちへ次のことを約束します。


と題する書面を作成したこと,園における園児らの処遇等に関し,児相職員及び被告県児童家庭課職員による協議及び指導が行われたこと,これを受けて,被告Zが,
指導上における体罰等の根絶を今
後の対策の1つとして掲げた同月30日付顛末書を県社会部に提出したこと,本件集団駆込み及び園児らによる被告Zの言動に関する話等がマスコミに取り上げられたことなどもあり,被告Zが,園児らに対し,直接肉体的苦痛を伴う懲罰等を加えることは減った。

他方,原告Aは,本件集団駆け込みの当時,中学校3年生になっていたが,同原告は,中学校時代,学校のバスケットボール部で,レギュラーとして試合に出る等,熱心に部活動に打ち込んでいたところ,その間,被告Zは,同原告を叱る際,上記部活動をやめさせる等と言うことがあった。同原告は,部活動を生き甲斐のように考えていたため,被告Zに部活動をやめさせられないようにということを意識して行動していたが,中学校3年生の秋以降部活動を引退してからは,被告Zに部活動をやめさせれられるということを心配する必要はなくなった。
このことに加え,上記bのとおり,本件集団駆込み後に,被告Zが,直接肉体的苦痛を伴う懲罰等を加えることが減ったことや,翌平成9年4月には,原告A自身高校生になったこともあって,同原告は,これまで被告Z等の目が怖くて遊べなかった分,高校1年生の間は遊びたいと思うようになった。そして,同年の5月ころから,原告Aは,繰り返し無断外出,無断外泊ををしたり,園外の友人を園の居室に入れたりするようになり,また外出時の帰園時刻も午後7時ないし8時過ぎと遅くなり,外出中に万引きをすることもあった。

d(a)

園においては,原告Aによる上記c記載のような問題行動等

に対し,適切な指導方法を見いだせず,平成9年5月以降,児相に相談したり,同年7月には,児相で一時保護させるべく同原告を市川児相に連れて行ったりしていたが,同年8月15日,原告Aは,万引きで補導されたことを契機に,市川児相で一時保護されることとなった。
(b)

上記一時保護中の同月25日,市川児相においてケースワー
カーとの面接が行われ,その際,原告Aは,上記ケースワーカーより,今は園の決まりに従って生活するか,父親と暮らすしかない旨告げられた。これに対し,同原告が,里親を探して引き取ってもらいたい,父親はすぐ暴力をふるう等と答えたところ,上記ケースワーカーは,同原告に対し,里親引取りは困難であり,父親と暮らすのが嫌だと言っても園でやっていけなければそれしか方法はなく,よく考えるように等と告げた。
(c)

他方,園においても,上記一時保護終了後に再び原告Aの受

入れを継続するかにつき,確定的な意思を決しかねている状態であった。
また,このころ園においては,原告Aに対する指導につき,外部
にどのように伝わるかを気づかって躊躇するところもあり,同年9月5日に,市川児相職員と被告Z外3名の園職員との間で,同原告への指導方針等につき話合いが持たれた際にも,園側は,児相の提言ないし処遇方針を受け入れる余裕のない状況であった。
e(a)

結局同年9月8日,上記一時保護は終了し,原告Aは園に戻

ったが,帰園後も,無断外出をする,消灯時刻後も電話をする等,園における生活習慣の枠組みから外れる行動があり,これらに対し園職員が注意を与えるも,上記のような行動がなくならなかった。そのため,平成10年1月15日の園職員らによるグループ会議
では,原告Aの行動が年下の園児に与える影響等の観点からも,同原告を園で受け入れ続けるのは困難であり,児相に相談のうえ,同原告が高校2年生になる同年4月までに,措置解除を含めた最終的な措置に関する園としての意思を決定しなければならないとの議論がなされた。
(b)

その後,同月23日,市川児相の職員らが園を訪問し,原告
Aと面接した際,上記職員らは,同原告が施設を出ようか迷っている旨述べたのに対し,園の規則に従うことなく自由に生活したければ施設を出るしかないので,
1か月後までに結論を出すよう伝えた。
また同日,上記職員らが園の職員らと面接した際,被告Zは,同原告の無断外出等に対し厳しく指導すれば,また自分たちが外部から攻撃されるので,指導の限界である等述べたり,園として,上記1か月後では期間が長すぎるためその間児相で一時保護するよう要請したりした。これに対し,児相側は,園として同原告に対し何ができるかを検討するよう申し向けるとともに,その具体策が出てこない場合には指導困難との施設長意見を出せば受け付ける旨伝えた。(c)

それから1か月後の同年2月24日,原告A及び園職員らが

市川児相を訪問した際,
同原告は,
同児相の職員との面接において,
園に残ることにする旨述べた。これに対し,上記児相職員らは,同原告に対し,自分で決めたから残れるものではなく,園でやっていくには今まで以上の努力が必要であり,これが最後のチャンスである旨伝え,また園職員らに対しては,同原告の上記決意を伝えた。これに対し,園側は,これが最後であるとの条件で同原告の希望
を受け入れるが,指導困難と判断した場合には,直ちに施設長意見を提出する旨述べた。
f(a)

上記のような経緯の後,平成10年3月23日,被告Zは,

原告Aにつき,措置解除の意見書を市川児相に提出し,同原告は,平成10年3月27日付けで,措置解除となった。
なお,上記意見書には,本児,非社会的・反社会的行動が多く,

処遇計画策定について貴所に指導を受けていたところですが,今後についても反省し,改善していく意欲に乏しく,また本園における本児の行動が年下児に与える悪影響が強いため,本児の措置解除をお願い致します。

との記載がある。(b)

原告Aは,同日市川児相に一時保護のため入所したが,退園

する約30分前まで措置解除の事実や同日退園する事実を知らされておらず,その前日に,保母から,今後も園で生活することを前提とした励ましを受け,同原告もそれに応えるべく決意を話したりしていたために,突然上記事実等を知らされたことに納得できなかった。
g(a)同日,市川児相の職員が,原告Aに対し,今後の処遇につき,自立援助ホームに行くこと,自立支援寮に行くこと及び家庭引取りの3つの方法があることを説明したところ,同原告は,家に帰ること以外は考えていない旨述べた。
(b)

原告Aの母親は,同原告が生まれてまもなく死亡したため,

家庭引取りとなった場合,同原告を引き取るのは父親のみであったが,同原告の父は,園の所在地と同じ市内に,同原告の母親名義の一戸建家屋を自宅として有していたものの,この当時の収入は公的年金のみであり,自身は知人宅に同居させてもらい,上記家屋にはほとんど帰らずに,上記知人に生活の面倒を見てもらっている状態であった。同原告の父は,同原告を引き取る意思はあるものの,上記のような生活状況及び自身の体調不良等の理由から,同原告を引き取ることに必ずしも積極的ではなく,同原告の姉も,同原告を父親と生活させることに必ずしも賛成していなかった。
また,同原告の父は,同原告の在園中,同原告へ面会に来ること
も他の園児らの親に比べると少なく,同原告は,児相の職員に,父親は他人である旨話すこともあった。
(c)

児相としては,上記父親の観護指導能力や,同原告が父親と

の生活に順応できるかにつき不安があったため,同原告に対し,自立支援寮の見学だけでもするように説得した。
これに対し,
同原告は,
県内の自立支援寮の見学に行ったものの,
家庭復帰の意思は変わらず,平成10年4月3日付けで家庭引取りとなった。
h(a)

同日,原告Aの父は,同原告を市川児相に迎えに行った後,

前記知人宅に連れて行き,翌日,前記家屋に連れて行ったが,生活費を置いて立ち去り,その後同原告と同居することはなく,同原告とともに上記家屋に泊まることは一度もなかった。
同原告が入居した時点で,上記家屋は,玄関の引き戸が壊れそう
で,内部は床板が剥がれ,壁が落ちており,ガスは使えずに湯が沸かせない状態であった。同原告の友人らや上記父の知人等が掃除をしたり生活用品を揃えたりして,生活できるよう助力をしたが,1週間後に児相職員が様子を見に行ったときには,同原告は生活が辛そうな様子で,家庭引取り後は,高校にも1日しか登校していなかった。
(b)

その後,同原告が1人暮らしの状態となったために,上記家

屋には,同原告の友人を始め,不特定多数の人物が昼夜を問わず出入りするようになった。その中には,上記家屋に覚せい剤やシンナーを持ち込む者もおり,同原告がそれを使用する状況となったこともあった。そして平成10年8月ころには,玄関の戸が壊れ,鍵がかからなくなり,父親がそれを放置したこともあって,同年9月末ころには,不穏な人物が出入りするとの理由で同原告自身上記家屋にいることを恐れるような状態となり,高校の先生や友人宅に泊まらせてもらうよう頼んだり,同年10月には,身柄の安全確保を理由に,児相へ一時保護を要請したりする状況となった。
また,家計も不安定で,同原告は,同原告の父が時々渡す生活費
では生活を賄うことができず,高校の先生が上記家屋を訪問した際に,
同原告が,
トイレットぺーパーが買えないと言ったこともあり,
父親の口座から同原告の高校で必要な積立金が引き落とせないこともあった。このような家計の状態から,同原告は,居酒屋でのアルバイトを始めたが,いわゆる援助交際によって金銭を得ることもあった。
(c)ⅰ

同原告は,上記(b)のような劣悪な環境的・経済的状況

に置かれたうえ,2歳から生活していた園において,通常の生活
を営むために必要な知識及び能力が培われなかったために,安定
的な家庭生活をすることができなかった。このように,家庭での
生活状況が不安定だったことに加え,園に比べ,上記家屋が高校
から遠く,通学に時間がかかるようになったこともあって,家庭
引取りとなった同年4月以降,ほとんど高校へ登校しなくなり,
平成10年9月下旬には,出席日数不足を理由に,留年が確定的
となった。
このような状況から,高校としても同原告に,退学して就職す
ることを勧め,同原告もかかる意思を固めていき,同年10月1
3日付けで,高校を退学し,その後就職活動を行った。

それまでの間,児相職員及び高校の教諭において,同原告の父
に対し,同原告の監護につき注意を与え,就職活動にも協力する
よう要請してきたが,同原告の父は,同原告の生活及び将来を心
配する様子もなかった。そして,その後も,同原告の父が,ガス
料金の支払を滞納したため,同年11月には上記家屋へのガスの
供給が止まったり,同年12月には,上記家屋の玄関のガラスが
割れ,木枠も朽ちて戸締まりができず,同原告が恐くて寝ていら
れない状態であったため,児相から父親に修繕するよう言うも,
父親が放置したため,上記家屋内が荒らされたりした。

原告Aは,就職も容易に決まらず,その後も上記家屋に居住していたが,
市民グループ等の支援もあり,
その後自立援助ホーム等に移り,
定職にも就いて,自立援助ホーム等を退所後は,自活するようになった。


事実認定の補足説明
(ア)

被告Zは,上記ア(ア)aの認定事実に関し,請求原因事実を否

認し,本人尋問及び陳述書においてもこれに沿う供述及び記載をする。a
被告Zが,麻袋に原告らを入れてつるしたとの事実は,原告Cの請求原因事実にもなっているところ,被告Zは,原告Cとの関係でも,上記事実を否認し,本人尋問において,園児らを麻袋に入れてつるしたことはない旨の供述をするため,まず被告Zが,園児らを麻袋に入れて,いずれかの場所につるしたことがあったかにつき,ここで検討する。
(a)

証拠によれば,原告らの在園中,園児らが,麻袋に入れられ

て,
木などにつるされていたことが複数回あった事実が認められる。
この点,甲58の(5)の(2)には,誰にやられたか分からな
い旨の記載があり,上記事実が殊更に被告Zに不利な事実としては記載されていないことからしても,同書証の記載内容は信用できるところ,原告E本人の供述も同旨のものであるし,また,証人Mは麻袋に入れられていた園児の名前等につき,覚えていることとそうでないことを明確に区別して証言していること,原告I本人は,目撃したときの状況等の供述が具体的であること等から,これらの証言及び供述も信用できる。
(b)

上記(a)の認定事実に加え,証拠によれば,被告Zが,園

児らを麻袋に入れて,木などにつるしたことがあった事実が認められる。
ことに丁32の(2)によれば,原告Hが,平成8年4月12日,市川児相において,被告Zに対し,麻袋に入れたりするのはやめてほしい旨訴え,これに対し被告Zが反論していない事実が認められることからすると,被告Z自身が園児らを麻袋に入れて,園内のいずれかの場所につるしたことがあった事実は明らかといえる。
なお,
被告Zは,本人尋問において,上記市川児相におけるやりとり全般につき,後ろ向きにされて質問を受けていたので反論できなかった旨供述するが,そもそも被告Zが園児らを麻袋に入れてつるしていなければ,原告Hにおいてかかる訴えをすること自体考えられないのであるから,かかる反論は採用できない。
(c)

以上のとおり,被告Zが園児らを麻袋に入れて,木などにつ

るしたことがあった事実は明らかであり,この認定に反する証拠は採用できない。

次に被告Zは,本人尋問及び陳述書において,本項の請求原因事実を否認する旨の供述及び記載をするのに加え,原告Aが,訴状において,つるされた場所につき,
近くの道路に接する小学校のフェンス等と記載していることに関し,子供はつるされておとなしくしていないのに,小学校のフェンスという外部の人の目に付くところにつるすことはありえない旨主張及び反証するため,原告Aがつるされたとする場所につき検討する。
(a)

まず,原告Aは,本人尋問及び陳述書において,小学校のフ

ェンスになっているところの塀につるされた旨供述ないし記載す
る。
この点,上記供述及び記載からは,具体的に何につるされたか明
確でなく,乙46から認められる小学校の場所及びフェンスの形状からすると,上記小学校のフェンス自体に麻袋をつるすことは困難と思える。しかし一方で,同証拠によれば,そのフェンス近くの園内の柵ないしその周辺の木に麻袋をつるすことは可能と認められ
る。加えて,甲58の(5)の(2)には,園児が麻袋に入れられ,小学校のフェンスにつるされていたのを目撃した旨の,他のもと園児による記載があるところ,同書証は,中に入れられていた園児及び誰がつるしたかは分からない旨の記載もあることから,殊更に被告Zに不利な記載をしようとしたものではなく,信用できる。
そうすると,原告Aが,本人尋問において,どのようにつるされ
たかは自分は麻袋の中であるから分からない旨供述するように,具体的に,何に,どのようにつるされたかは分からなくても,幼児期の記憶として,何かの出来事の際目に映った周囲の景色等から,その出来事が起こった場所を印象として覚えているということがままあることに鑑みても,少なくとも小学校のフェンス側の園外柵周辺につるされたという限度では同原告の上記供述及び陳述書の記載は信用するに足りるというべきである。
また,原告C及び原告Hが本人尋問で供述するとおり,子供が麻
袋に入れられ,つるされても,動くと落ちそうで怖い,他の罰よりましである等の理由から,おとなしくしていることも十分考えられるのであるから,被告Zの上記反論は採用できない。
(b)

また原告Aは,本人尋問及び陳述書において,庭の木につる

された旨供述ないし記載するが,証拠によれば,原告Aが,平成8年5月6日に行われた被告県児童家庭課の職員との面接において,被告Zに木につるされた旨訴えた事実,及び原告Aに限らず,少なくとも園の中庭の木に麻袋に入れてつるされていた園児がいた事実が認められることからも,原告Aの上記供述及び陳述書の記載は信用できる。

上記a及びbに照らせば,上記ア(ア)aの認定に反する被告Zの供述及び陳述書の記載は信用できず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

(イ)

原告Aは,請求原因事実として,被告Zにしばしば尻を50回以

上たたかれ,そのために同原告の尻には青あざが絶えなかった旨主張する。
しかし,証拠によれば,保母らが原告Aを含めた園児らの尻を数十回ないし100回程度たたくことがたびたびあり,これらによって園児らの尻に内出血のあざができていた事実が認められる反面,被告Zが上記のような回数園児らの尻を叩いたことを示唆する証拠は,
甲58の1)

の(2)を除いて見当たらない。かつ,同書証についても,そこに記載されている叩かれた回数については,被告Zによるものか保母らによるものか明らかでなく,原告A自身の陳述書にも,上記請求原因事実は,職員や保母らによってやられた旨の記載がある。
そうすると,上記請求原因事実については,上記ア(ア)bの限度で認めることができ,他の部分についてはこれを認めるに足りる証拠はない。
また,被告Zは,上記請求原因事実を否認するも,同原告の陳述書には尻を叩いたこと自体は認める記載があるうえ,丁16によれば園児らを膝に抱いて尻を叩いたことは本訴提起前に認めている事実が認められるのであり,本件全証拠によっても,上記ア(ア)bの認定を覆すに足りない。
(ウ)

被告Zは,上記認定事実ア(ア)cにかかる請求原因事実を否認

する。
しかし,証拠によれば,園において,園児らを乾燥機部屋に閉じこめ,部屋の外からそのドアを叩くということが,園児らに対する懲罰として行われていた事実が認められる。また,丁16によれば,本訴提起前に県によって行われた園児及び被告Zに対する聴聞において,被告Zまたは職員に乾燥機部屋に閉じこめられた旨訴えた園児が3人いた事実及びこれに対し被告Zが,園児らが乾燥機部屋で遊んでいる時に閉めちゃうぞと言ったことはある限度で認めていた事実が認められる。これらに照らせば,
被告Zが上記行為を行った旨の原告Aによる甲58の1)

の(2)の記載は信用できる。
これに対し,被告Zは,本人尋問及び陳述書においても,自己が園児らを乾燥機部屋に入れた事実を否認する供述ないし記載をしておらず,上記ア(ア)cの認定を覆すに足りる証拠はない。
(エ)被告Zは,上記認定事実ア(ア)dにかかる請求原因を否認する。a
本件における複数の原告らが,被告Zが長時間,あるいは複数日にわたって正座させた事実及び正座させられている間食事を取ることを許さなかった事実を請求原因としているところ,被告Zは,かかる請求原因事実をすべて否認する旨主張するため,以下で上記各事実につき検討する。
(a)ⅰ

証拠によれば,被告Zが,相当の頻度で園児らに正座を指

示していたことは明らかである。
そして,その時間の長さについてであるが,複数の原告らが,
本人尋問ないし陳述書において,被告Zに正座を命じられ,途中
多少の中断はあったとしても,そのまま居室に戻ることなく,複
数の日にまたがって,その場に座り続けることを余儀なくされた
ことを体験ないし目撃した旨の供述ないし記載をしている。

また,平成12年2月に,被告県が園児らに対し聞取調査を行
った際に,原告ら以外の園児を含む複数の園児らが,被告Zに,
複数日にわたり正座させられた旨述べた事実が認められる。さら
に,証拠によれば,被告Zが園児らを複数日にわたり正座させて
いる旨園の保母らも認識し,それを問題視していた事実が認めら
れる(なお,被告Zは,証人Mの属人的な事柄を挙げ,被告Zに
敵対し,
信用性がないかのような主張及び供述を縷々しているが,
同証人の証言は,原告らの請求原因事実についても分からないこ
とは分からないと述べ,原告らの供述内容についても,自己があ
り得ないと考えることについては,そのとおり述べていることか
ら,いずれも信用できるものである。。

これらの事実に照らせば,上記ⅰの供述及び陳述書の記載は,
いずれも信用するに足りる。

したがって,原告らの在園中,被告Zが園児らに正座するよう
指示し,これによって,園児らが,多少の中断はあったとしても,長時間その場に座り続けるということが相当の頻度であり,それ
が複数の日にまたがることもしばしばあった事実は明らかであ
る。


なお,本件全証拠によっても,被告Zが,長時間に及ぶ正座の
終期を具体的に明示して正座するよう指示したとは認められな
い。しかし,一方で短時間であれ具体的な終期を明示したうえで
正座を指示した事実も認められないのであり,証拠及び弁論の全
趣旨によれば,被告Zにより正座を指示された園児らは,被告Z
あるいは園の職員から,正座を止めてよい旨の指示がない以上,
自由にその場を離れることはできない心理的強制下に置かれてい
た事実が認められる。そうである以上,具体的に被告Zがその終
期を指示しなかったとしても,被告Zの指示によって開始した正
座が,複数の日にまたがる等,長時間に及んだ場合には,その全
体が,被告Zの指示によるものと評価するのが相当である。
(b)

また,証拠によれば,園児らが被告Zに正座を命じられてい

る間は,少なくとも被告Zの目につく場所や時間帯には食事をすることができなかった事実,保母らが正座を命じられている園児らの食事を準備し,被告Zの目に付かぬよう,調理室または正座をしている廊下で食べさせることがあった事実が認められる。
そしてこれらの事実からすると,被告Zは,園児らが被告Zによ
り正座を命じられている間は,食事を取ることを許さなかったと認めるのが相当である。

以上からすれば,上記ア(ア)dに関する原告Aの本人尋問における供述及び陳述書の記載はいずれも信用でき,同項の認定に反する証拠は採用できない。

(オ)

被告Zは,上記ア(ア)eにかかる請求原因事実を否認し,同被

告本人尋問においても,園児らの服を切ったことは一度もない旨供述するが,証拠によれば,被告Z自身,園児の服の袖を切ったことを認めていたことは明らかであるから,上記供述は信用できず,他に上記ア(ア)eの認定を覆すに足りる証拠はない。
(カ)

被告Zは,上記ア(ア)fにかかる請求原因事実を否認するも,

この認定を覆すに足りる証拠はない。
(キ)

被告Zは,上記ア(ア)gにかかる請求原因事実を否認するも,

この認定を覆すに足りる証拠はない。
(ク)

被告Zは,上記ア(ア)h(b)及び(c)にかかる請求原因事

実を否認するも,この認定を覆すに足りる証拠はない。
(ケ)被告Zは,上記ア(ア)i(a)にかかる請求原因事実を否認し,同被告本人尋問においてもこれを否認する旨供述するが,
主張において,
足で押し出して退室を促した旨は認めており,乙26にもこれに沿う記載があることに照らすと,被告Zの上記供述によっても,上記認定を左右するに足りず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(コ)

被告Zは,上記ア(ア)j(b)にかかる請求原因事実を否認す

るも,上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(サ)

被告Zは,上記ア(ア)k(c)にかかる請求原因事実を否認す

るも,上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(シ)

なお,原告Aは,請求原因として,被告Zが同原告を熱い風呂に

入れ,100秒浸っているように指示し,同原告がくらくらになっても出ることを許さなかった旨主張する(前記第2の3(1)
【原告らの主
張】ア(ア)d)
。しかし,本件全証拠によっても,被告Zにおいてか
かる行為を行った事実は認めるに足りない。

本争点に関する被告Zの主張イ,エ及びオについて
以上の被告Zによる行為の違法性を判断するに先立ち,被告Zは,原告らによる不法行為の主張に関し,民訴法133条2項2号違反等を理由に本訴請求の棄却を求めるとともに,懲戒権行使の範囲内であること及び有形力の行使が虐待に該当しないことを理由に,違法性がない旨主張するため,ここでこれらの点につき,判断する。
(ア)

133条2項2号違反等の主張について

a(a)

被告Zは,原告らの請求原因の主張が不特定であるから,民

訴法133条2項2号及び同規則53条1項違反を理由として本訴請求は棄却されるべきである旨主張する。
(b)ⅰ

一般に,民訴法133条2項2号及び同規則53条1項に

よって訴状に記載が要求されている請求原因は,請求を特定する
ために必要とされるものであり,本件のような給付請求では,請
求の趣旨において支払を求めている一定の金銭がいかなる法的性
質のものであるかを特定するためのものである。かかる機能から
すれば,その内容をどこまで具体的に記載しなければならないか
は,他との誤認混同を生じる可能性があるか否かという相対的な
問題であり,事案によって異なる。

これを本件についてみると,まず被告Zは,不法行為の行われ
た年月日及び時間の詳細な主張が必要である旨主張する。
しかし,
本件は,
被告Zの原告らに対する言動が問題とされる事案であり,
ある一定の時期にその行為が行われたこと自体をもって請求権の
存在が相当程度判断可能な性質のものである。したがって,被告
Zの主張するような詳細な日時等が重要性を持つ事案ではなく,
本件で原告らが主張する程度の期間の特定があれば,請求原因の
特定として足りるものと認められる。
これに加え,本件の請求原因においては,行為の主体及び客体
は明確であり,場所も園内であることが明らかであるうえ,行為
の原因,態様及び結果についても,一応の主張がされていること
から,原告らが主張する程度の特定があれば,上記各規定の要求
する請求原因の主張としては足りるものと解されるのであって,
被告Zの主張するさらに詳細な行為の態様,前後関係及び結果等
は,不法行為の成否の問題として実体上の判断に際して検討すべ
き事柄である。

(c)

したがって,民訴法133条2項2号及び同規則53条1項

違反をもって本訴請求を棄却すべきとの被告Zの主張は理由がな
い。
b(a)また被告Zは,仮に請求原因の特定に欠けると言えなくても,行為の前後関係の主張及び立証がされていないものについては,被告Zに正当な反論の機会が保障されいないから,不法行為に基づく損害賠償請求をするに足りる主張及び立証がされているとはいえ
ず,棄却されるべきである旨主張する。
(b)

しかし,本件においては,前記aに述べたとおり,原告らに

よって請求を特定するに足りる主張はされているのに対し,被告Zにおいてはこれに対応した反論をすることは何ら阻害されていないのであるから,かかる双方の主張及び立証を前提に,原告らの主張立証が不十分であるとしてその請求を棄却するかについては,当裁判所における実体上の判断の問題であって,被告Zに反論の機会が保障されていないということは理由とならない。
むしろ,原告らは,各行為の原因については一応の主張をしたう
えで,被告Zの言動が不法行為に当たると主張しているのであるから,その行為の前後の事情からその言動が不法行為でないと争うのであれば,それは被告Zに主張責任があるというべきである。
そして,実際上被告Zは,原告らが不法行為として主張する行為
の大部分につき,行為の前後の事情如何にかかわらず,およそかかる行為を行っていないとの主張を行っている。またその他の行為については,原告らの主張する前後の事情を踏まえたうえで,あるいは自ら前後の事情につき何らかの主張したうえで,自己の行為の違法性を争うものがほとんどである。これらの被告Zの応訴態度からすると,本件において,原告らによる行為の前後関係のの主張立証が不十分であることによって,被告Zの反論に多大な支障が生じているとは解されない。
(c)

以上を総合すれば,被告Zに正当な反論の機会が保障されて

いないこと理由として請求棄却を求める被告Zの上記主張は理由がない。
(イ)

被告Zは,児童福祉施設の長において,体罰を行うことは,懲戒

権の行使として容認されており,仮に被告Zにおいて,体罰と呼べる有形力の行使を行ったと認められるとしても,それは,児童福祉施設の長の懲戒権行使の範囲内のものであり,違法性がない旨主張するので,まずこの点について検討する。

法47条1項本文は,

児童福祉施設の長は,入所中の児童で親権を行う者又は後見人のない者に対し,親権を行う者又は後見人があるに至るまでの間,親権を行う。

と定め,また同条2項は,

児童福祉施設の長…は,入所中…の児童で親権を行う者又は後見人のある者についても,監護,教育及び懲戒に関し,その児童の福祉のため必要な措置をとることができる。

と定めており,児童福祉施設の長が入所中の児童に対し懲戒権を行使することは,
法により認められている。
しかし,そもそも親権者たる父母が懲戒権の行使として行いうる行為にも,法律上当然に限界があるところ,上記施設長の入所児童に対する養護が,都道府県知事ないし政令指定都市の長による委託に基づくものであること,親権者たる父母の懲戒権が,その親権の一部として認められるのと異なり,上記施設長の懲戒権は,法律によって付与された権限であること,及び法47条2項が児童の福祉のためと
定めるとおり,上記施設長の懲戒権行使については,目的が明示的に限定されていることからすると,上記施設長が懲戒権の行使として行いうる行為の範囲は,親権者たる父母による場合よりも,更に狭いものと解するのが相当である。
そして,上記施設長の懲戒権の行使として適法とされる範囲については,当該施設長と児童の関係に加え,当該児童の年齢,行動,健康及び心身の発達の状況等諸般の事情を勘案のうえ,社会通念に照らし相当といえるかを個別に判断すべきものであるが,児童の身体に創傷を生じさせ,又は心身の健康を害するがごとき行為は,その程度において,親権者たる父母の懲戒権行使としてすらおよそ許されるものではなく,また方法において児童の人格を辱める行為ないし徒に児童を困惑させる行為等については,たとえそれが肉体的苦痛を伴うものでなくても,社会通念に照らして不相当なものであるときは,懲戒権の範囲を逸脱し,違法なものと評価すべきである。

なお,被告Zは,学校の校長及び教員に懲戒権行使を認める学校教育法11条が,但書きにおいて

体罰を加えることはできない。

と定めるのに対し,児童福祉法47条にかかる禁止規定がないことをもって,児童福祉施設の長には体罰が許されている旨主張し,被告
恩寵園もこの主張を援用する。
この点,児童福祉施設が,児童に対する一般的な養護,保護ないし支援を目的とする施設であり,その長の懲戒権も,児童の福祉のために必要な措置として行うことが認められているのに対し,学校は,児童,生徒等に対する教育を目的とした場であり,校長及び教員の懲戒権も,明文上,教育上必要があると認められる場合に限定されていることからすると,法律上,児童福祉施設の長に認められる懲戒権の範囲は,校長及び教員に認められる懲戒権の範囲に比して,広範に及ぶものと解することができる。
しかし,そもそも児童福祉施設の長の懲戒権は,上記aで述べたとおりのものであることからすると,児童福祉施設の長において,その懲戒権の行使として体罰を加えることが許されていないのは当然であり,児童福祉法と学校教育法とでは,その立法趣旨も目的も異なるものであって,それぞれの規定する懲戒権についても,上記のとおり異なる目的から定められたものなのであるから,学校教育法11条との対比をもって,児童福祉施設の長に体罰が許されているとの被告
Zの主張は,到底採用できない。


また,被告Zは,平成9年6月11日法律第74号による児童福祉法の改正によっても,同法に体罰禁止が明文化されず,上記改正に伴い,児童福祉施設最低基準に9条の2が追加されたものの,同条等にも体罰禁止が明示されていないことから,
上記改正法の施行前までは,
児童福祉施設の長において体罰を行うことは,懲戒権の行使として許容されており,施行後においても完全に禁止されたものとはいえない旨主張する。
しかし,児童福祉施設の長の懲戒権が,上記aで述べたとおりのものであることから,当然に,その行使として体罰を加えることが許されないことは上述したとおりである。上記基準9条の2の新設については,もとより児童福祉施設の長の懲戒権は,児童をその保護者に代わって健やかに育成するために認められているものであるから,児童に身体的苦痛を与え,その人格を辱める等の行為は許されておらず,児童の健全な育成を図るべき施設職員によって児童が心身に外傷を負うというようなことはあってはならないことであり,本来あり得るはずもないことであるにもかかわらず,入所児童に対する体罰が後を絶たないことから,あえて規定化してこの点を明確にしたものと解するのが相当である。
したがって,
上記改正の前後を問わず,
児童福祉施設の長において,
懲戒権の行使として体罰が許容されているとの解釈は,児童福祉法の趣旨に照らし,当裁判所において到底採ることはできない。
(ウ)

次に,被告Zは,児童虐待防止法2条記載の虐待の定義及び

程度に該当しない有形力の行使は,違法性はない旨主張する。
しかし,同法は,3条において,

何人も,児童に対し,虐待をしてはならない。

と規定し,およそ児童に対し虐待行為を行うことを禁じているのであって,同法2条は,

この法律において,『児童虐待』とは,保護者…が,その監護する児童…に対し,次に掲げる行為を行うことうをいう。

と規定しているとおり,同法4条以下で定める国及び地方公共団体の責務,
早期発見及び通告義務等の対象としての児童虐待」
の定義を明らかにするものにすぎない。加えて,同法は,①児童に対する虐待の防止,②児童虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務及び③児童虐待を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより,児童虐待の防止等に関する施策を促進することを目的として,民法とは別個の観点から定められたものであり,同法の規定の解釈如何によって,民法上の不法行為の範囲が画されるものではない。したがって,被告Zらの上記主張は採用できない。(エ)なお,被告恩寵園も,原告らによる被告Zの不法行為の主張つき,請求原因としての特定を欠き主張自体失当である旨主張するとともに,被告Zによる上記(イ)の主張を援用するが,被告恩寵園によるこれらの主張に理由がないことも,上記(ア)及び(イ)に述べたとおりである。エ違法性(ア)以上を前提に判断するに,前記アア),(acないしf及びhc)(において認定した,被告Zの原告Aに対する一連の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。(イ)この点被告Zは,前記ア(ア)aに関し,かかる行為が行われたとしても,ブランコのように揺すってあげているような情景である可能性が高く,外形上不法行為にあたらない旨主張するも,前記ア(ア)aに認定した事実からして,被告Zが主張する遊技に類するような情景とは認められず,かかる行為が行われた以上,不法行為に該当するのは明らかである。また,被告Zは,前記ア(ア)cにつき,かかる行為が行われたとしても,押入に閉じこめるという類型の優しいお仕置きであり,外形上不法行為に当たらない旨主張するが,同項に認定した被告Zの行為は,単に子供が反省するまで暗い部屋に閉じこめるというものではなく,ドアを外から叩き,児童が泣き叫んで許しを求めているのに止めないというものであるから,懲戒行為として過度なものというべきである。さらに被告Zは,前記ア(ア)eに関し,一般論として,安全を優先して着衣の袖先を切ることは指導の選択肢としてあり得ることであり,外形上不法行為に当たらない旨主張する。しかし,被告Zの主張するように,安全性に配慮して,着衣の袖を手首より長い状態にしておくことを止めさせようとするのであれば,よほど危険が切迫しているのでない限り,その服を一時的に預かる等の方法を採ることができるはずである。しかるに,園内において着衣の袖を長くしておくことで,かかる切迫した状況に陥ること自体,容易に想定できないのであるから,上記一般論をもってして園児の着衣の袖を切ることを正当化することはできず,被告Zの上記主張は不合理であって採用できない。そして,本件においても,前記ア(ア)eで認定した事実からすると,原告Aにおいて,着衣の袖が長いことで何らかの危険が切迫した状況下に置かれていたとは認められず,それにもかかわらず,着衣の袖を切ったことは,懲戒権の行使として許容される限度を超え,違法である。なお,ア(ア)h(c)に関連し,被告Zは,陳述書において,そろばんの珠で頭をこする行為につき,お愛想の愛嬌ある姿勢であると述べ,この行為についても,行為自体の違法性を否認するようであるが,そもそもそろばんの珠で頭をこするというような行為は,被懲戒者に肉体的苦痛を与えるのみならず,その人格を愚弄する行為といえ,精神的な苦痛を与えるものであって,社会通念上お愛想の愛嬌ある姿勢などとは到底捉えられるものではなく,通知表の成績が悪いことに対する懲戒として行われた場合に,違法であることは明確である。(ウ)他方,前記アに認定した被告Zの原告Aに対する行為のうち,ア)(b,g及びh(b)に関しては,違法といえるまでの事情は認めらない。また,ア(ア)i(a)の行為については,同項で認定した状況及び証拠によれば,原告Aにおいて,何らかの退室すべき理由があったとうかがわれるうえ,被告Zの行為の程度も弱いものと認められることから,違法性は認められず(なお,同(b)における被告Zの行為は請求原因となっていない。,ア(ア)jの行為については,前記ア(イ)に認)定したとおり,この当時原告Aが無断外出,無断外泊を繰り返し,帰園時刻も遅くなりがちであったことに照らせば,ここに認定した程度の言辞を用いて夜間の外出を止めさせようとすることは,児童福祉施設の長における適法な権限行使の範囲内といえ,ア(ア)kの行為についても,原告Aにおける原因行為及びこれに対する被告Zの行為の程度に照らし,児童福祉施設の長における懲戒権の範囲を逸脱するものとはいえない。また,ア(ア)lについては,被告Zの原告Aに対する一連の不法行為の結果ないし原告Aの精神的損害に関する間接事実というべきものであって,ここに認定した事実自体を被告Zの不法行為と解することはできない。したがって,これらはいずれも上記一連の不法行為には含まれないものと解する。(エ)次に前記ア(イ)に認定した,原告Aの退園にかかる事実につき,その違法性を判断する。a恩寵園は,園児らにとって,家庭に代わる場所であるところ,社会の最小単位である家庭は,子供が最初に社会における自己の位置づけを知る場であり,そこで受ける扱いは,子供にとって自己評価を形成する最大の要因であるということができる。原告Aは,2歳のころから17歳で退園するまで園で養育されており,恩寵園以外に家庭というべきところを知らないと言っても過言ではないところ,その間,前記判示のとおり,被告Zにより,長期間にわたり不法行為を継続して加えられてきたうえ,後述のように,被告Zが,ともに養育されている他の園児らに対して暴行等の不法行為を行うさまを,日常的に見聞してきた。このように,家庭というべき園において,不法行為の対象として扱われ,自分と同じ立場の園児らも同様に扱われているのを認識しつつ成長した以上,原告Aが,自己の置かれた立場を顧みられる年齢に達したころ,自己の存在価値に疑問を覚え,自暴自棄になるのは当然である。かかる原告Aの心理状態は,16歳のときに,児相職員に対し,「何で生まれてきたのか。生まれてこなければよかった。等と述べ,同職員に自分の生命について否定的なことを言う発言が多いと評
されていることや,園においても他の園児らと,

何のために生まれてきたのだろう。こうやっていじめられるために生まれてきたのだろうか。

等と話していたことからも,容易に察することができる。加えて,過度の懲戒が,かえって被懲戒者に反発心を生じさせることがあるのは,周知のことである。
したがって,原告Aにおいて上記のような心理状態となり,それに加えて被告Zが暴力を控えざるを得ない状況となった場合に,同原告が,前記認定事実のとおり,園の生活習慣を遵守しなくなり,園職員に反抗するようになったとしても,その原因は,園において不法行為を繰り返してきた被告Zにあるというべきである。

そして,そうである以上,原告Aが問題行動等を繰り返すようになった場合には,被告Zにおいて,それを矯正・善導すべく,最大限尽力すべきであったにもかかわらず,前記認定事実のとおり,外聞を気にして指導を躊躇し,同原告の父親の観護能力が十分でないことを,児相を通じて認識していたと認められるにもかかわらず,前記施設長意見を出して,原告Aの措置解除を求めたことは,委託を受けて原告Aの養育義務を負った養護施設の長の責任に照らし,相当な行為であったといえるか,疑問を禁じ得ないところである。

しかしながら,他方,原告Aにおいても,その問題行動は,無断外泊にまで及び,園として責任をもった養育を行うことが非常に困難な状態を作出するに至っている。また,原告Aの問題行動等は,その当時の被告Zの不法行為に対抗するための行動ではなく,被告Zによる抑圧から解放されたことを契機として,園の生活習慣を遵守せずに自由に行動するというものであり,たしかに前述のとおり,自暴自棄になることがやむをえなかったと解すべき事情があるとしても,それによって園の秩序を乱し,他の園児らに悪影響を与えることまでは容認されるものではない。そして,園職員からのみならず,児相においても繰り返し指導を受け,問題行動等を止めなければ,退園せざるを得ないことを認識する機会を,十分に与えられたにもかかわらず,問題行動等を止めなかったのであるから,客観的にみて,原告Aにおいても,退園することは受忍せざるを得ないような状況であったということができる。
また,入所措置解除が決定される経緯についてみるに,児相及び園は,複数回にわたり協議を重ね,その間,児相は,園に対し,原告Aを園での生活に適応させる方策を検討する方向での指導を行っており,また原告Aに対しても,自己の置かれている状況,今後採りうる選択肢を具体的に示しながら,今後のことを考えて行動するよう,複数回にわたり指導している。このように,児相においては,原告Aが,園での生活を継続できる方向での調整を図っていたということができる。これに対し,園においても,原告Aの処遇につき,児相に相談を持ち掛け,その後児相の提言を全部は受け入れる余裕がなくなり,園内では他の園児らへの悪影響もあるため原告Aの受入れを継続することは困難との意見が出される状況になっても,児相の調整に従って,同原告の受入れを継続した事実が認められるのであって,以上のような経緯に照らせば,必ずしも短絡的に原告Aの養育を放棄したということはできない。
そして,退園後の事情を検討するに,たしかに家庭引取後に原告Aが置かれた環境は劣悪であり,原告Aがそのような環境に置かれることにつき,園及び児相において事前に予見が可能であったと認められる。しかし,前記認定事実のとおり,原告Aが,退園後,市川児相に一時保護されている間,児相としては,同原告の父親の観護能力等に疑問を持ち,家庭引取り以外の選択肢を示したり,自立支援寮の見学を勧めたりしたのに対し,同原告が一貫して家庭引取を希望したのであり,他方同原告の父親も一応同原告を引き取る意思を表明したことからすると,児相において家庭引取りの意思決定をするのもやむを得なかったと認められる。そして,その後の環境の劣悪さついては,もっぱら同原告の父親の責めに帰すべき問題というべきである。

以上を総合すれば,たしかに原告Aの入所措置が解除されることとなり,同原告が劣悪な環境下で生活をする結果となったことにつき,被告Zに何ら原因がなかったとは言い切れないが,原告Aの行動及び施設長意見提出までの経緯に照らせば,被告Zにおいて措置解除を求める意見を提出したこともやむを得なかったといわざるを得ず,
また,
入所措置解除後の経緯に照らしても,家庭引取後の原告Aの境遇にかかるものまで,被告Zの責めに帰すべき損害と評価することはできない。
したがって,被告Zに,原告Aを危険のただ中に放擲した違法は認められない。
なお,原告Aは,被告Zが,退園の30分前まで退園の事実を知らせなかったことも不法行為の一環として主張するが,それまでに,同原告が無断外出等を繰り返し,園職員の言うことも素直に聞き入れなくなっていたこと,同原告自身はその時点では園での生活を継続することを希望していたことからすると,被告Zにおいて,退園を知らせた場合の同原告の行動を危惧して,直前まで退園を知らせなかったのもやむを得なかったといえ,かかる行為に違法は認められない。

損害
被告Zの原告Aに対する本件一連の不法行為により同原告が被った精神的損害について判断するに,上記一連の不法行為が長年にわたるものであること,その内容が,当時の同原告の年齢ないし感受性に鑑みて過度の恐怖感を与え,あるいは相当の肉体的苦痛ないし屈辱を与えるものであること,養護施設という家庭に代わる場所で,他に逃げ場ないし庇護者を求めることができない状況下で加えられたものであること,その他本件に関する一切の事情を合わせ考慮すると,同原告の受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,40万円と認めるのが相当である。

(2)

原告H
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。
(ア)a

原告らの在園中,園児らは食堂で班ごとに食事を取ることとな

っていたが,食後,班ごとの当番が,自分の班のテーブルのテーブルクロスを拭くこととなっており,また,テーブルクロスのないテーブルには,配膳できないこととなっていた。

被告Zは,原告Hが小学校3,4年生のころ(平成3年4月から平成5年3月)
,同原告の班の当番が,食後,同原告の班のテーブルク
ロスを拭かなかったことを理由に,上記テーブルクロスを取り上げ,同原告を含むその班の園児らに,その次の食事を取らせなかった。
(イ)

被告Zは,原告Hの小学校時代を通じ,以下のとおり,たびたび

同原告を,保母室の前の廊下等,園内の床に正座させた。

同原告が,小学校1,2年生のころ(平成元年4月から平成3年3月)
,廊下を走った,部屋で騒いだ等の理由で,3時間から5時間,
同原告を正座させた。


同原告が,小学校3,4年生のころ(平成3年4月から平成5年3月)
,同原告及び他の園児らが,夜の自由時間に室内で遊んでいたと
ころ,同室内に入って行き,
うるさい。」と怒鳴り,同原告を正座
させた。


同原告の小学校中学年以降(平成3年4月以降)は,同原告に正座をさせている間,同原告に食事を取ることを許さなかったことがあった。

d(a)

同原告が,小学校6年生のころ(平成6年6月ころ)
,原告

H及び他の園児ら数名に対し正座をするよう指示し,約24時間その指示を解かず,その間,同原告及び上記園児らが食事を取ることもトイレに行くことも許さなかった。
(b)

上記(a)の指示により正座をしている最中,上記園児らの

うちの1人が,トイレに行かせてほしいと被告Zに頼んだにもかかわらず,被告Zは,これを許さず,その場でするよう言い,上記園児はその場で失禁した。
なお,原告Hは,被告Zがその場を離れたときに,被告Zに隠れ
て,トイレに行ったり足を伸ばしたりした。
(c)

その翌日,園の園児らは水族館に行くこととなっていたが,

被告Zは,原告Hを上記水族館に行かせなかった。
(ウ)a

原告らの在園中,少なくとも平成7年12月までの間,園児ら

が学期末に学校から受け取った通知表については,終業式の日に園児らが被告Zのところへ持参した後,保護者の印として,被告Zが同被告の印を押すか,被告Zの判断に基づき,園の他の職員が被告Zの印を押すことになっていた。

被告Zは,原告Hが小学生だったころ(平成元年7月から平成7年3月までの間)
,同原告が学校の通知表を被告Zに見せに行き,保護
者としての押印を頼んだが,次の学期の,学校に通知表を持参するべき日になっても,押印を拒むべき格別の理由がないにもかかわらず押印せず,そのため同原告は,その日に通知表を持参できなかった。
(エ)

原告Hが,小学校6年生の1学期(平成6年4月から同年7月)


学校の算数の科目である分数のかけ算・わり算を努力して勉強したところ,1学期の通知表に,担任の先生によって,分数のかけ算・わり算をよく理解している旨の記載がされた。
同原告は,被告Zにほめてもらえるものと思い,通知表を見せに行ったところ,被告Zは,それについて何らほめなかったのみでなく,同原告に対し,

なんだ,これしかできないみたいじゃないか。

というようなことを言い,これによって同原告は,落胆し,努力しても報われないとの心境になった。
(オ)

被告Zは,原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月

から平成7年3月)
,同原告が,プロミスリング(糸を編んで作った腕
輪ようのもの)を足に着けていたことに立腹し,園内の放送で他の園児らを食堂に呼び,他の園児らの見ている前で,同原告の体を,足が机の上に,頭が机の下になるように,机に載せ,園で飼育しているチャボの餌を作る際に使用する包丁を同原告の足に押しつけ,出血させた。(カ)

原告Hが小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平成7

年3月)
,被告Zによって,性器にはさみを当てられた男児が,叫び声
を上げたため,その叫び声を聞いた原告H及び別の園児(男子)が,声を上げたところ,被告Zは,同原告及び上記別の園児に対し,お前達もだ等と言い,同原告を横たえ,その腹部ないし胸部に乗ると,同原告の性器にはさみを当てた。
(キ)a

原告Hが,小学校5,6年生だったころ(平成5年4月から平

成7年3月)
,昼の時間帯に,園で飼育していたチャボを,飛べるか
どうか試そうと,園庭にある高さ3メートル前後の遊具の上から放したところ,上記チャボは地上に落下して死んでしまった。

これを見た被告Zは,同原告に対し,上記チャボを抱いているよう指示した。同原告はそれに従い,途中食事等で中断はしたものの,紙あるいは布に包んだ上記チャボの死骸を抱き続け,就寝時になっても被告Zが上記指示を解かなかったため,
同原告は,
そのまま翌朝まで,
上記チャボの死骸を自己の布団に入れて寝た。


翌日,同原告が,上記チャボの死骸を焼却するために,焼却炉へ持って行ったところ,被告Zは,同原告に対し,

お前も一緒に(焼却炉に)入れ。

などと言った。
(ク)a

被告Zは,原告Hが小学校6年生だったころ(平成7年3月こ

ろ)
,同原告及び他の数名の園児らが,風呂場で排水溝をふさいで水
をためる等して遊んでいたことに立腹し,寒い時期であったにもかかわらず,
同原告及び上記園児らを裸のまま1時間以上園庭に立たせた。

その間,同原告と並んで立っていた他の園児が,尿意を催し,被告Zにそれを訴えたところ,被告Zが,同園児に対し,

そこでしろ。


と言ったため,同園児はやむを得ずその場で排尿し,その尿が同原告にかかった。
(ケ)

被告Zは,原告Hが中学校1年生の前半ころ(平成7年4月から

平成7年8月ころ)
,あざができるほど,竹刀や木の棒状のもので,同
原告の体部を殴ったり,同原告の頭等を,手の甲で殴ったり(いわゆるウラケン
)したことが複数回あった。

事実認定の補足説明
(ア)

被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,請求原因事実を否認

し,テーブルクロスをたたんだりしたことはあったが,食事をさせなかったことはない旨主張する。

この点に関連し,被告Zは,本件各請求原因を通じて,園児らに対し,食事をすることを禁止したことはない旨主張しており,同被告本人尋問においても,園児らに対する指導が食事の時間帯に食い込むこと等によって,食事をさせる時間が遅れたことはあっても,食事を意図的に禁止したことはない旨供述をする。
そこでまず,被告Zが園児らの食事を意図的に禁じることがあったかについて,ここで検討する。
(a)

証拠によれば,複数の原告らが,異なる状況下において,ま

た,各原告の請求原因となっているか否かにかかわりなく,被告Zに食事をすることを禁じられた旨述べており,さらに他の園児が被告Zに食事を禁じられていることを目撃した旨,かつそれが頻繁にあった旨述べている。
(b)

そして,証拠によれば,本訴提起の約10年前である平成2

年5月に原告Kが,約6年前である平成6年5月に原告Jが,それぞれ自己の母親に,
園で食事を食べさせてもらえない旨訴えており,
同月に市川児相に一時保護中の原告Jが,同児相の職員との雑談の中で,被告Zが園児に食事を食べさせない時の様子を,具体的文言も含め,語っている事実が認められる。また,平成8年には,園児らが,県知事に対し,食事を抜かれる旨を手紙で訴えている事実が認められる。
これらに加え,証拠によれば,園では罰として園児らに食事を与
えないということが,複数の園児らが通う中学校で問題となっていたこと,被告Zが園児らに食事を与えないことが保母らの間でも問題となっていたことが認められる。
これらを総合すると,原告らによる上記(a)の供述ないし陳述
書の記載は信用できる。
(c)

したがって,被告Zが,園児らに対し,食事をすることを禁

じることは,日常頻繁にあったと認めるのが相当である。
そして証拠及び弁論の全趣旨によれば,これらが被告Zにより意
図的に行われたものであることは明らかである。
b(a)

また被告Zは,園児がテーブルクロスを拭かなかった場合の

対応についても,同被告本人尋問において,衛生上の問題からテーブルクロスを拭くことについては強く指導しているが,そのために食事を抜かしたり,極端に遅らせたことはない旨供述し,同被告の陳述書にも同旨の記載がある。
(b)

しかし,証拠によれば,複数のもと園児らが,テーブルクロ

スを拭かなかったために被告Zに食事を禁じられたり,テーブルクロスを取り上げられ配膳ができない状態にされ,食事を抜かれたりした旨供述しており,しかもそれが何度もあった旨供述している。そして,上記証拠の中には,本訴提起前に,原告ら以外の者によって作成されたものもあり,いずれも信用するに足りる。また,証拠によれば,本訴提起前,被告Z自身が,平成6年か7年ころ,園児が食後テーブルクロスを拭かなかった時に,
テーブルクロスを外し,
そのテーブルに配膳をさせなかったことがあった旨認めている。加えて,証拠によれば,平成2年5月に,原告Kが,自己の母親に対し,同じ班の園児が食事当番で注意されたため,原告Kに夕食が与えられなかった旨訴え,これを上記母親が児相に訴えている事実が認められることも合わせ鑑みれば,原告らの在園中,被告Zが,園児らがテーブルクロスを拭かなかったという理由で,そのテーブルの班の園児らに対し,食事を取ることを禁じ,あるいはテーブルクロスを取り上げ,配膳させずに食事を抜かせたことが,しばしばあったと認めるのが相当である。

したがって,上記ア(ア)の認定に反する被告Zの供述及び陳述書の記載は採用できず,他に上記ア(ア)の認定を覆すに足りる証拠はない。

(イ)a

被告Zは,上記ア(イ)aの認定事実に関し,請求原因事実を

否認し,同被告本人尋問において4,5時間正座をさせたことはない旨供述をするが,被告Zが,原告らの在園中,園児らに長時間の正座を指示していた事実は,前記(1)イ(エ)a(a)ⅰで認定したとおりであり,被告Zの上記供述は信用できない。そして,被告Z自身,同被告本人尋問において,廊下を走った場合には正座をさせることになっていた旨供述しているうえ,原告Hが大騒ぎをしたときに正座をさせたことがあるということは主張において認めていることからすると,この点に関する原告Hの供述及び陳述書の記載は信用でき,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

被告Zは,上記ア(イ)bの認定事実に関し,請求原因事実を否認するも,上記請求原因事実に関し,大騒ぎをしていると就寝までは学習を含めた時間なので,気持ちを静めるために正座をさせたことはある旨の,請求原因事実を認めるかのような主張もしており,上記認定を覆すに足りる証拠もない。

被告Zは,上記ア(イ)cの認定事実に関し,請求原因事実を否認し,本件各請求原因を通じ,原告らに意図的に食事を禁じたことはない旨供述し,これに沿う陳述書ないし書証を提出するも,被告Zが,園児らに正座するよう指示し,その指示を解くまでの間,食事をすることを許さなかったことがあった事実は,前記(1)イ(エ)aで認定したとおりであり,
かかる認定に反する被告Zの供述は信用できず,
書証も採用しない。他に上記ア(イ)cの認定を覆すに足りる証拠はない。

d(a)

まず,被告Zは,上記ア(イ)dの認定事実に関し,請求原

因事実を否認し,同被告本人尋問においてこれに沿うかのような供述をし,同被告の陳述書にも同旨の記載がある。
(b)しかし,証拠によれば,原告Hは,本訴提起前の平成8年に,市川児相で面会した弁護士に対し,
被告Zに24時間正座させられ,
トイレに行かせてもらえず,園児らのうちいずれかが失禁したことを訴えた事実が認められる。また,同原告は,その際ともに正座させられた園児のうちの1人が原告Bであった旨訴えているところ,証人Mによれば,原告Bは,廊下に正座させられ,トイレに行かせてもらえずにその場で失禁したことがあった事実が認められる。また証拠によれば,本訴提起前から,保母らの間で,被告Zが園児に罰として24時間,睡眠,食事及びトイレに行くことを禁じて正座をさせ,失禁させたことが問題となっていた事実が認められる。さらに,証拠によれば,被告Zは,原告Hに,24時間寝させてもらえず,トイレに行きたいのに,ズボンのまましろと言われた旨指摘された際,これに反論しなかった事実が認められる(なお,この点に関し,被告Zは,本人尋問において,この指摘は,原告Hらに対し後ろ向きに座らされてされたものであるから,反論できなかった旨述べるが,上記証拠によれば,被告Zは,この際の一連の指摘ないし質問に対しても,自己の主張は述べており,また上記原告Hの指摘についても,たとえ後ろ向きに座らされていても,身に覚えがなければ,事実を確認する程度のことはするはずであるところ,なんらかかる発言もないのであって,この点の被告Zの反論は採用しない。。

以上を総合すれば,上記ア(イ)d(a)及び(b)の認定事実
に関する原告Hの供述及び陳述書の記載は信用でき,上記各事実が認定できるのであって,上記各認定に反する被告Zの供述及び陳述書の記載部分は信用できず,他に上記各認定を覆すに足りる証拠はない。また,上記ア(イ)d(c)の認定については,これを覆すに足りる証拠はない。

なお,上記ア(ア)及び(イ)に関し,被告Zは,原告H本人尋
問において,勤務時間が8時半から17時半過ぎまでであり,園児らの朝食及び夕食の時間には,在園していない旨指摘し,同被告本人尋問においても同旨の供述をする。しかし,証拠から,被告Zの在園時間は特定しておらず,同被告の自宅が園と同じ敷地内にあったこともあり,早朝から深夜まで在園していることもあった事実が認められ,被告Z自身,上記bのように,夕食後ないし園児らの登校前の時間帯における園での自己の言動を多々主張ないし供述しているのであるから,上記在園時間にかかる被告Zの供述は採用しない。

(ウ)

被告Zは,上記ア(ウ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
し,本人尋問において,本件各請求原因を通じ,通知表は原則として被告Zが見た後,まとめて主任保母に渡し,主任保母が押印するが,通知表の内容によっては被告Zが園児らに課題を与え,主任保母においてそれが達成できたかを判断した上で押印することもあり,また園児が通知表を持ってこないために新学期に押印がないことも考えられる旨供述し,甲12にも被告Zによるこれと同旨の記載があり,証人Nも同旨の証言をする。
しかし,証拠によれば,本訴提起前から,保母らの間で,通知表に押印しないことが,被告Z自身の問題として取り上げられていた事実,被告Zが原告らの通知表を無視したり,見ようとしなかったりして,押印がされなかった事実が認められるのであって,これらの事実から,通知表へ押印するか否かは,被告Zの判断に基づくものと認められる。そして,証拠によれば,被告Zが,園児らが通知表を持参しても,容易に保護者としての押印を与えず,学校に通知表を持参する日になっても押印を与えなかったことがしばしばあった事実は明らかである。
これらの認定事実に照らせば,被告Zの上記供述,証人Nの上記証言及び甲12によっても,上記ア(ウ)の認定は左右されず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(エ)

被告Zは,上記ア(エ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認

するが,一方で,さらにできるようにもっとがんばるよう励ましたつもりが正しく受け取られなかった可能性がある等と,上記認定中の発言をしたこと自体は認めるかのような主張をしており,上記認定を覆すに足りる証拠もない。
(オ)

被告Zは,上記ア(オ)の認定事実に関し,事実関係を否認し,

同被告本人尋問及び陳述書にも,これに沿う供述及び記載がある。この点,被告Zは,同被告本人尋問において,原告Hに対し,上記プロミスリングを自分で切れないなら切ってやろうか等言ったものの,実際に切ったのが同被告自身であったか,同原告であったか,記憶が定かでない旨供述し,陳述書にも同様の記載があるが,他方で,同原告の足は切れていない旨断言している。しかし,自身が切ったか否かも分からないのに,足は切れていないと断言するのは不自然である。また,被告Zは,同被告本人尋問において,同被告自身がプロミスリングを切ったかという問いにに対し,

私自身は,していないと思っております。

と答えたり,同被告自身が切った可能性も,原告Hが切った可能性もある旨答えたり,同原告が切った記憶がある旨述べたりしており,その供述は極めてあいまいであり,信用できない。なお,被告Zは,同被告本人尋問において,包丁の刃先を上に向けなければ,プロミスリングを切ることはできないから,その過程で肌が傷付くことはない旨述べるが,プロミスリングを引いて張った状態にすれば,刃を下に向けても切ることは可能であることからも,上記反論は採用できない。
以上より,被告Zの供述及び陳述書の記載のうち,上記ア(オ)の認定に反する部分は採用せず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。(カ)

被告Zは,上記ア(カ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認

するが,被告Zは,同被告本人尋問においても,園児に対し,性器を切っちゃうぞなどと言った記憶はある旨供述する一方で,園児の性器にはさみを当てたかどうかについてはわからない,その場にはさみ等刃物があったことについてはよく記憶していない旨供述するに止まっており,上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(キ)a

被告Zは,上記ア(キ)の認定事実に関し,請求原因事実を否

認し,同被告本人尋問において,原告Hの行為により,チャボが瀕死の状態となったため,かわいそうなので抱いてやれとは言ったが,抱いて寝ろとは言っていない旨供述し,陳述書にも同旨の記載がある。しかし,被告Zが,同被告本人尋問において,同原告がチャボの死骸を抱いて寝たことは後から聞いた旨供述し,甲12においても,児童が自分で抱いて寝た旨記載しているとおり,同原告が翌朝までチャボの死骸を自分の布団に入れて寝たという客観的事実は問題なく認められるところ,上記ア(キ)aに認定した同原告の行動からしても,同原告が格別上記チャボに愛情を持っていたとも考えられず,同原告が自らすすんで上記チャボの死骸を自分の布団に入れて寝るということは,通常考えがたい。また,証拠から,原告Hは,被告Zの罰を恐れて,上記チャボの死骸を抱くことを勝手に止めることはできない心理的強制下に置かれていたと認められ,いったん同被告に何らかの指示をされた以上,それを園児らが自らの判断で止めるのは困難であった事実は,前記(1)イ(エ)a(a)ⅳで認定した事実からも推認できるところである。
したがって,同原告が,上記チャボの死骸を,自分の布団に入れて翌朝まで寝たことも,被告Zの指示に基づくものと評価するのが相当である。

また被告Zは,上記ア(キ)cの認定事実に関し,陳述書において,焼却炉での仕事は別の職員の仕事で,
自分は焼却を行っていないため,
焼却炉でかかる会話をしたことはあり得ない旨記載し,同被告本人尋問においても同旨の供述をする。
しかし,証拠によれば,焼却炉は被告Zの自宅脇,かつ園の裏庭あたりにあったと認められ,実際に被告Zが焼却を行っていなくても,焼却炉周辺にいることは,十分にあり得ることである。
また,原告Hは,同原告の本人尋問ないし陳述書において,上記焼却炉での被告Zの言葉に,
非常に恐怖感を覚えた旨具体的に述べるが,
他方チャボの死骸を抱いて寝たことについては楽だった旨述べていることからすると,殊更に虚偽を述べて被告Zの悪質性を高めるかのような意図はうかがえないのであって,上記認定事実ア(キ)cに関する同原告の供述及び陳述書の記載部分は,信用できる。
以上に照らし,被告Zの上記供述及び陳述書の記載部分は信用できない。

以上のとおり,上記ア(キ)の認定に反する被告Zの供述及び陳述書の記載部分は採用できず,
他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

(ク)a

被告Zは,上記ア(ク)の認定事実に関し,請求原因事実を否

認し,女子に見られる可能性があるので外に裸で出るはずがない等と主張する。
しかし,同被告は,本人尋問においても,原告Hを裸にしたり,裸で立たせたことがないかという旨の問いに対し,
あいまいな返答をし,
あるいは沈黙する等の態度に終始しており,
同被告本人尋問の結果は,
上記認定事実を左右するに足りず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

なお,原告Hは,上記ア(ク)bに関し,被告Zが,他の園児に,尿を原告Hにかけるように言った旨主張するが,本件全証拠によっても,かかる事実は認められない。

(ケ)a

被告Zは,上記ア(ケ)の認定事実に関し,請求原因事実を否

認し,本人尋問においても,これに沿う供述をする。

しかし,まず,証人Mは,原告Hにつき,頭や体をたたかれることがとても多かった旨証言している。また,証拠によれば,平成5年8月11日に,同原告の母親が,市川児相に電話をかけ,帰省した同原告の顔に,被告Zに殴られてできたあざがある旨訴えている事実が認められる。これらからすると,被告Zの暴行により,頻繁にあざができていた旨の同原告の陳述書の記載は信用できる。
c(a)

また,証拠によれば,被告Zが,原告らの在園中,園児らを

竹刀で殴ることがあり(甲12において,同被告自身,園児を竹刀でたたいた事実を認めている。,それによって出血させたことも

あった事実は明らかである。
(b)

そして,証拠によれば,平成8年5月に,原告Hが,被告県

児童家庭課の職員との面接に際して,被告Zから竹刀で殴られたりたたかれたりした旨訴えていることからも,竹刀で同被告に殴られた旨の同原告の陳述書の記載は信用できる。

さらに,証拠によれば,被告Zが,原告らの在園中,原告Hを含め,木の棒状のもので園児らを殴ることがあった事実が認められる。

e(a)

そして,原告Gの陳述書において,被告Zが,よく廊下など

で,突然何も言わずに,ウラケンで園児らを殴った旨の記載があるが,いわゆるウラケンで殴られたことは同原告の請求原因事実になっていないことに加え,上記記載は,そのときの同被告の体の動きや,そのため同被告が手を動かすだけで手で顔を覆う癖がついた等につき,具体的にされており,信用できる。また証拠によれば,本訴提起前に県が行った園児からの聴聞において,
いずれかの園児が,
本件各請求原因事実と異なる状況下において,被告Zにウラケンをされた旨訴えた事実が認められる。
以上からすると,原告らの在園中,被告Zが,園児らに対し,明
確な理由もなく,園児らをしばしば手の甲で殴った事実が認められる。
(b)

そうすると,被告Zから手の甲で殴られた旨の原告Hの陳述

書の記載は信用できるのであって,
これを否認する同被告の供述は,
信用性が劣ると言わざるを得ない。

以上より,上記ア(ケ)の認定に反する被告Zの供述は採用できず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(コ)

なお,被告Zは,原告らに対し,日常的に体罰ないし虐待があれ

ば,原告らの生活指導票に記載されないはずはないところ,かかる記載が一切ないことをもって,同被告の行為に関する原告らの請求原因における主張は,事実無根である旨主張するが,証拠によれば,生活指導票は,園児らの生活全般につき,園の保母が記載し,同被告に提出されたうえで検印されるものなのであるから,そのような生活指導票に,不法行為と主張されるような同被告の行為が記載されていないのは当然であって,同被告の上記主張は採用できない。

違法性
(ア)a

前記ア(ア)(イ)a,c,d(a)(ウ)b,オ)(カ)






(キ)b,c,
(ク)a及び(ケ)で認定した,被告Zの原告Hに対
する一連の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。

ただし,前記アに認定した被告Zの原告Hに対する行為のうち,
(イ)b,
(イ)d(c)(エ)及び(ク)bに関しては,違法とい

えるまでの事情は認められず,上記一連の不法行為には含まれないものと解する。

(イ)

なお被告Zは,前記ア(イ)に関し,正座の習慣を身に付けさせ

ることは,養護施設における教育方法として不可欠であること,正座が懲戒として行われた場合でも,足を崩す等の抜け道があり,かかる抜け道を前提としてものであったことをもって,正座は外形上不法行為に当たらない旨主張する。
しかし,前記ア(イ)に認定した正座の態様,動機からすると,被告Zの原告Hに対する正座の指示が,生活習慣を身に付けさせるだけの目的のもとになされたものとは認められない。また,たしかに原告Hは,被告Zが見ていないときには,トイレに行ったり,足を崩したりして,正座を続けていなかったのであり,被告Zにおいても,そのことは想定したうえで正座の指示を与えたものと考えられる。しかし,小学校低学年の児童にとって,断続的とはいえ,3時間ないし5時間もの間,床の上に座っていることは,その年齢,体力に照らし,相当の精神的肉体的苦痛を伴うものであるところ,かかる苦痛を強いることは,廊下を走った,部屋で騒いだ等の,その懲戒の原因となった行為との対比からしても,過度の懲戒行為と言わざるを得ない。また,正座の指示を受けている原告Hにしてみれば,その間,いつ被告Zに見つかるかわからないという緊張感を持ち続けているのであるから,それが約24時間もの長時間にわたれば,被告Zのいない間に足を崩す等の行為も,さして原告Hの精神的肉体的苦痛を減殺するものとは考えられないし,そもそも正座の指示を与えている間,
本来取るべき食事を取らせないということ自体,
児童の健やかな育成を趣旨とする児童福祉法の理念に照らし許されるものでなく,かかる指示自体をもって不法行為を構成することは明らかである。
したがって,被告Zの上記主張は採用できない。

損害
原告Hは,被告Zの原告Hに対する本件一連の不法行為により,相当程度の精神的損害を被ったものと認められる。

(3)

原告B
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。
(ア)

被告Zは,原告Bが小学校6年生だったころ(平成6年ころ)


園の保母室内の畳敷きになっているところで,マッチを擦って畳の上に捨て,同原告の左手首を持って,まだ燃えている上記マッチの上に同原告の左手の平を押し付け,やけどを負わせた。
(イ)a

被告Zは,原告Bが小学校6年生だったころ(平成6年ころ)


同原告に対し,廊下あるいは保母室で正座するよう指示し,その指示を約1週間解かず,その間,食事をすることも,横になって寝ることも許さなかった。

上記aの正座を指示されている間,原告Bは,被告Zが見ていないときには,トイレに行ったり,その場や保母室で眠ったり,職員が準備した食事を食べたりしたが,まったく食事が与えられなかった日もあり,その時には同原告は,同被告の目を盗んで,菓子を食べる等していた。

(ウ)

被告Zは,原告Bが小学校6年生だったころ(平成6年ころ)


同原告の下顎部を,ボール紙でできた調理用ラップの芯で2回ないし3回つき,現在でも傷跡が残るほどの傷害を負わせた。
(エ)

被告Zは,原告Bが小学校6年生だったころ(平成6年ころ)


同原告の両腕を真横に上げさせたうえで,竹刀を両袖に通し,その姿勢のまま同原告に立っているよう指示した。
(オ)

被告Zは,原告Bが小学校6年生だったころ(平成6年ころ)


寒い季節に同原告を裸の状態で戸外に立たせ,水をかけた。
(カ)

被告Zは,原告Bが中学校時代の平成7年4月から平成7年8月

ころまでの間,同原告の体部を,しばしば金属バットで叩いた。
(キ)

被告Zは,
原告Bが小学校6年生のだったころ平成6年ころ)



同原告をトイレに行かせなかったことがあった。

また被告Zは,原告Bが園に入所した平成2年2月から平成7年8月ころまでの間,しばしば,同原告に食事をさせなかったり,正座を指示して寝かせなかったりし,同原告の通知表に保護者としての押印を容易に与えないことも何度かあった。

事実認定の補足説明
(ア)

被告Zは,上記ア(ア)に関し,請求原因事実を否認し,同被告

の陳述書にもこれを否認する旨の記載がある。
しかし,証拠によれば,原告Bが,本訴提起前の平成8年4月10日に,市川児相において,弁護士に上記事実を訴えている事実が認められることに合わせ,同原告はその陳述書において,上記行為をされたときの感覚として,熱いというよりもびっくりした等,体験した者でなければ語れない感覚を記載していることからしても,上記ア(ア)にかかる同原告の供述及び陳述書の記載は信用でき,これらの証拠に照らし,被告Zの上記陳述書の記載部分は信用できず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(イ)a

被告Zは,上記ア(イ)aに関し,請求原因事実を否認し,陳

述書において,原告Bの言い分が信用できない旨記載する。
(a)

しかし,まず正座の期間については,被告Zが園児らに正座

を指示し,複数日にわたってその指示を解かなかったことがあった事実は,前記(1)イ(エ)a(a)で認定したとおりである。そして証人Mによれば,2,3日にわたり被告Zによる正座の指示が続くことはしばしばあり,4日以上の日数に及ぶこともあった事実及び原告Bは園児らの中でも正座させられることが多く,正座させられている場所で寝食することも多かった事実が認められる。これらの事実に照らせば,上記の日数にかかる原告Bの供述及び陳述書の記載は,明確に1週間という日数までは認めるに足りなくとも,その程度の日数正座をさせられたという限度では信用することができる。
(b)

また,証拠によれば,園児らが被告Zに正座を命じられてい

る間は,少なくとも被告Zの目につく場所及び時間帯には寝ることができなかった事実が認められ,
かかる事実からすると,
被告Zは,
園児らが被告Zにより正座を命じられてる間は,寝ることを許さなかったと認めるのが相当である。そして,被告Zが,園児らを正座させている間,食事を取ることを許さなかった事実は,前記(1)イ(エ)a(b)で認定したとおりである。
これらの事実に照らせば,被告Zが食事及び寝ることを許さずに
正座させた旨の原告Bの供述及び陳述書の記載は信用できる。
(c)

したがって,被告Zの上記陳述書の記載部分は採用せず,他

に上記ア(イ)aの認定を覆すに足りる証拠はない。

上記ア(イ)bの認定については,本件全証拠によってもこれを覆すに足りない。

(ウ)

上記ア(ウ)の認定事実に関し,被告Zはこれを否認し,陳述書

にもその主張に沿うかのような記載があるが,
証拠によれば,
原告Bが,
本訴提起前に行われた被告県による聴取に対しても,上記認定にかかる事実を述べたと認められることに照らし,上記認定事実に関する同原告の供述は信用できるのに比して,
被告Zの上記陳述書は,
この点に関し,

ラップの芯で顔を殴ったこともありません。

と記載するのみで信用できず,他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(エ)

上記ア(エ)の認定事実に関し,被告Zはこれを否認し,陳述書

にもその主張に沿う記載があるが,上記認定事実に関する原告Bの陳述書の記載が,証人Mの証言によって一応裏付けられるのに対し,被告Zの上記陳述書はこの点に関し

手を真横にして竹刀を入れて立たせたこともありません。

と記載するのみであって,原告Bの陳述書の記載に比して信用性が劣るといわざるを得ない。よって,被告Zの上記陳述書の記載部分は採用せず,他に上記ア(エ)の認定を覆すに足りる証拠はない。
なお,原告Bの請求原因事実のうち,被告Zが,同原告に,1日中手を上げたまま立っているように命じたとの事実は,本件全証拠によっても認めるに足りない。
(オ)a

被告Zは,上記ア(オ)の認定事実に関し,請求原因事実を否

認し,同被告の陳述書にもこれを否認する旨の記載がある。

しかし,証拠によれば,被告Zが園児らを裸の状態で立たせることがあり,それが戸外であることもあった事実が認められる。また,証拠によると,被告Zが,原告ら以外の園児に,真冬に裸で水を浴びさせた事実が認められる。
これらの事実に照らせば,被告Zが,寒い時期に裸の状態で原告Bを戸外に立たせ,水をかけた旨の同原告の本人尋問における供述及び陳述書の記載は信用するに足りる。これに対し同被告の陳述書は,この点に関し,

寒中に裸で戸外に立たせて水をかけたことはありません。

と記載するに止まり,信用できず,他に上記ア(オ)の認定を覆すに足りる証拠はない。

(カ)

被告Zは,上記ア(カ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認

し,同被告の陳述書にもこれを否認する旨の記載がある。
a(a)

しかし,複数の原告らないしもと園児が,本訴提起の前後及

び請求原因事実となっているか否かを問わず,異なる状況下で,被告Zが金属バットで園児を殴ったことを見聞した旨ないし自己が殴られた旨を供述している。
(b)

そして,証人Nによると,園には金属バットがあった事実,

また金属か木製か明らかでないものの,保母室にバットがあり,職員がそれを園児らを威嚇するために手にすることがあった事実が認めらる。また,証人Mによれば,原告らの在園中,被告Zがバットで園児らをたたくことがあった事実が認められる。
これら各事実に照らすと,上記a)の各証拠は信用するに足り,

被告Zが,原告らの在園中,園児らを金属バットでたたくことがあった事実が認められる。

これに加え,証人Mによれば,原告B本人は園児らの中でも被告Zから暴力を受けることが多い方であったと認められることからしても,上記ア(カ)の認定事実に関する原告Bの供述及び陳述書の記載は信用でき,これに対し被告Zの陳述書は,この点に関し,事実関係を否認する旨の記載があるに止まり,信用できるものではなく,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
なお,金属バットで力一杯殴られた場合には骨折等に至るところ,原告Bにつきかかる事実は認められないため,かかる強度はなかったものというべきである。しかし,後記(10)イ(イ)c(b)の事実に加え,原告Bの陳述書にあえて

骨折しないように殴るのです。

と記載されていることからすると,少なくとも被告Zは,叩いたと評価すべき程度には,勢いをつけ,また力を入れて,上記暴行を加えたと認めるのが相当である。

(キ)

被告Zは,上記ア(キ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認

する。
しかし,上記ア(キ)aに関しては,被告Zの陳述書及び本人尋問においても,上記認定事実に沿う記載及び供述があり,また上記ア(キ)bのうち,しばしば正座を指示し寝かせなかった点については,上記イ(イ)aにおける検討からも明らかであるし,被告Zが懲罰の名目で園児らに食事を取ることを許さなかったり,園児らの通知表に保護者としての押印を与えなかったりしたことがしばしばあった事実は,それぞれ前記(2)イ(ア)b及び(2)イ(ウ)で認定したとおりあるから,これらの点に関する原告Bの供述及び陳述書の記載は信用でき,上記ア(キ)の認定を覆すに足りる証拠はない。
なお,原告Bの請求原因事実中,被告Zが,同原告にずっと勉強をすることを命じて遊ばせなかったとの事実は,本件全証拠によっても認めるに足りない。

違法性
(ア)

被告Zの,原告Bに対する,前記アの一連の行為は,被告Zにお

いて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
(イ)

なお,被告Zは,小学校5,6年生ころから中学生のころにかけ

て,弱者への暴力,喫煙及び窃盗を行う等,原告Bの非行化が進んだところ,前記アの一連の行為が,かかる非行化を止める取組みの一環だった旨主張するかのようである。
しかし,被告Zの原告Bに対する一連の行為の中には,そもそも懲戒ないし教育目的で行われたものか否かすら疑問なものもあるうえ,前記アで認定した各行為の態様,生じさせた結果に照らせば,これら一連の行為は,被告Zの主張する原告Bの非行化を前提としても,懲戒権行使の範囲を逸脱した違法なものといわざるを得ない。

損害
被告Zの原告Bに対する本件一連の不法行為により原告Bが被った精神的損害について判断するに,上記認定にかかる有形力行使の程度,与えた傷害の結果,不法行為の頻度,その他懲戒の原因行為等本件記録上現れた一切の事情を考慮すると,原告Bの受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,80万円と認めるのが相当である。
(4)

原告C
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。
(ア)

被告Zは,原告Cが小学校に上がるか上がらないかのころ(昭和

63年1月ころから同年6月ころ)
,園内の渡り廊下を走っていたとい
う理由で,前記(1)ア(ア)a(a)と同様の麻袋に原告Cを入れ,その麻袋を,園の出入口近くの廊下にある,竹箒等の掃除用具を掛けるための釘につるした。なお,このころの原告Cの身長は105センチメートル前後,体重は17キログラム前後であった。
(イ)a

被告Zは,原告Cが中学校1,2年生だったころ(平成6年4

月ころから平成7年8月ころ)
,同原告に対し,正座をするよう指示
し,その指示を翌日まで解かず,その間食事をすることも許さなかったことが複数回あった。

上記aの指示をされている間,原告Cは,被告Zや保母が見ていないときを見計らって,足を崩したり,トイレに行ったりして,正座を中断することもあった。夜間は,保母の宿直する部屋で寝ることもあったが,その場で座ったまま寝たこともあり,また食事も決まった時間に食堂で取ることはできず,
被告Zの目に付かない時間及び場所で,
保母が準備した食事を取ることもあったが,そのような食事も与えられない場合があった。

(ウ)

被告Zは,原告Cが中学校1,2年生だったころ(平成6年4月

ころから平成7年8月ころ)同原告の顔などを手の甲で殴ったこと(い,
わゆるウラケン)が複数回あった。
(エ)

被告Zは,原告Cが中学校1,2年生だったころ(平成6年4月
ころから平成7年8月ころ)
,何らかの理由で朝の登校前に同原告を叱
り,そのまま登校の時刻になっても叱り続けたために,同原告が学校に遅刻することとなったことが複数回あった。
(オ)a

原告らの在園中,園においては,毎年年度替わりの際に,園児

らの居室の割当てが変更されたが,その際園児らは,自己の私物を従来の居室から新たな居室へ移動させることとなっていた。

原告Cが,
中学生だったころ平成6年4月から平成8年4月初め)

の居室替えの際,私物が多かったため,居室の移動時にそれらを入れる段ボールの数が多くなってしまうのを避けようと,トイレットペーパーを入れる業務用の大きな箱を見つけて,私物をそこに入れ,1箱にまとめようとした。それを見た被告Zは,上記箱の中から,同原告の私物を全部放り出した。

(カ)

被告Zは,原告Cが中学校1年生1学期末から中学校2年生3学

期始めまでの間(平成6年7月から平成7年9月ころ)
,同原告が学校
の通知表に保護者としての押印をもらうために,被告Zに通知表を見せに行っても,容易に押印しないことが複数回あり,被告Zが,通知表の提出日である始業式の日になっても押印をしなかったため,同原告は通知表の保護者印欄に押印のないまま登校したこともあった。

事実認定の補足説明
(ア)

被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,請求原因事実を否認

し,同被告の本人尋問及び陳述書において,園児らを麻袋に入れてつるしたことはない旨及び原告Cの重量及び上記釘の高さの点から,上記釘に原告Cを入れた麻袋をつるすことはできない旨,供述及び記載する。しかし,
被告Zが園児らを麻袋に入れてつるしたことがあった事実は,
(1)イ(ア)aで認定したとおりである。そして,上記ア(ア)の認定事実に関する原告Cの本人尋問における供述及び陳述書の記載は具体的であることに加え,証拠によれば,園児が麻袋に入れられて,上記釘につるされていたことがあった事実は明らかであることに照らせば,上記被告Zの供述及び陳述書の記載は採用できず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(イ)

被告Zは,上記ア(イ)aにかかる請求原因事実を否認し,陳述

書においてもこれを否認する旨の記載をするが,前記(1)イ(エ)aで認定したとおり,被告Zが園児らを複数の日にまたがって正座させることはたびたびあり,その間食事を取ることを許さなかった事実は明らかであることに照らすと,上記陳述書の記載は信用できず,他に上記ア(イ)の認定を覆すに足りる証拠はない。
(ウ)

被告Zは,上記ア(ウ)にかかる請求原因事実を否認し,陳述書

においてもこれを否認する旨の記載をするが,
前記2)(ケ)(a)



で認定した事実及び原告Iが陳述書において原告Cがウラケンをされたところを見た旨記載していることから,上記ア(ウ)に関する原告Cの供述及び陳述書は信用できることに照らし,これに反する被告Zの上記陳述書の記載は採用できない。
(エ)被告Zは,上記ア(エ)にかかる請求原因事実を否認したうえで,当日までに持参すべきものを原告Cにおいて当日の朝言い出し,注意を受けて処理していたため遅れたこともあったと思われる旨主張する。a
しかし,証拠によれば,被告Zが,原告らの在園中,指導等の名目あるいは懲罰として,しばしば,数日間にわたって園児らに学校を休ませていた事実は明らかであり,丁16号証のうち,この認定に反する部分及び甲12号証は採用できない。


これに加え,
原告Cの陳述書における上記認定事実に関する記載は,
Mに車で送ってもらったことも何度かあった等具体的事実にまで触れられていることからすると,信用するに足りる。
これに対し,被告Zの陳述書には,上記ア(エ)の認定事実を否認する旨の記載があるが,同じ陳述書で,被告Zは,原告Eへの反論として,一般論的に,行った非行の程度によっては,訓戒などが優先し,遅刻して登校する場合もある等と,姿勢として一貫しない内容の記載をしているのであって,否認の記載部分は信用できない。なお,ここに挙げた被告Zの陳述書の記載内容及び原告Cの陳述書の記載からすると,原告Cが学校に遅刻することとなった理由は,被告Zが主張するように原告Cが当日の朝持参すべきものの処理をしていたためというものばかりであったとは考えられず,被告Zの訓戒等によるものがあったと認めるのが相当である。加えて証人Nは,その陳述書において,中学生の登校時刻は被告Zの出勤時刻前なので,しかり続けることなどない旨記載するが,前記(2)イ(イ)eに認定した事実に照らし,採用できず,他に上記ア(エ)の認定を覆すに足りる証拠はない。
(オ)

被告Zは,上記ア(オ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認

する。しかし,証拠によれば,被告Zが園児らの私物を捨てたり,取り上げたりすることがたびたびあったと認められることに照らし,上記認定事実に関する原告Cの供述及び陳述書の記載は信用でき,他方被告Zの本人尋問及び陳述書においても上記ア(オ)にかかる請求原因事実を明確に否認する供述及び記載はなく,上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(カ)

被告Zは,上記ア(カ)にかかる請求原因事実を否認し,原告C

において被告Zに通知表を提出しないまま始業式の日を迎えてしまったと思われる旨主張するが,前記(2)イ(ウ)で認定した事実に照らし,上記ア(カ)に関する原告Cの本人尋問における供述及び陳述書の記載は信用でき,他方被告Zの陳述書の記載は,上記ア(カ)にかかる請求原因事実を明確に否認するものではないことからも採用せず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

違法性
被告Zの,原告Cに対する,前記ア(ア)ないし(エ)及び(カ)の一連の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
ただし,前記ア(オ)の被告Zの行為については,損害賠償に相当する違法性までは認められず,上記一連の不法行為には含まれないものと解するのが相当である。


損害
被告Zの原告Cに対する本件一連の不法行為により原告Cが被った精神的損害について判断するに,上記一連の不法行為が長年にわたること,相当の恐怖感ないし困惑を与えるものであること,原告Cの年齢ないし被告Zとの体格の差に鑑みて有形力の行使が懲戒として強度なものであること,その他本件記録上現れた一切の事情を考慮すると,原告Cの受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,40万円と認めるのが相当である。

(5)

原告Dについて
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。
(ア)a(a)

原告Dが,小学校6年生だった冬(平成6年の年末から

平成7年の2月ころまでの間)
,園内の一室において,同年代の園
児5名とともに合計6名で,当時恩寵園の指導員であった訴外Pに勉強をみてもらっていたが,上記Pが一時部屋を出て行った際,上記6名のうち原告Dを含む5名が,勉強を中断し,本を読んだり,椅子に乗る等して遊び始めた。
(b)

被告Zは,上記5名が,勉強を中断して遊んでいる様子を,

同室の窓の外から目撃し,同室に入ってくると,上記5名に対し,園内の保母室の前の廊下に来るように言った。
b(a)

被告Zは,言いつけに従って上記廊下に行った原告Dらに対

し,遊んでいた罰として,同所において正座をするよう指示した。被告Zは,上記指示を20時ころに行ったものであるが,翌朝,原告Dらが学校へ行く準備をする時刻になるまで,上記指示を解かなかった。
(b)

その間,原告Dは,途中そっとトイレに行く等して正座を中

断しながらも,上記廊下で座り続けた。
(イ)a

原告Dが中学校1年生だった平成7年5月2日,他の園児とけ

んかをしたところ,目の周りが青くなり,ほほがはれた。

翌3日は,園の行事として,園児ら全員で青葉の森公園へピクニックに行くこととなっていたが,被告Zは,同日朝,原告Dの顔を見るや,園に残っているように指示した。原告Dは,出発の時まで,何度も被告Zに謝罪し,
ピクニックに連れて行ってもらえるよう頼んだが,
同被告はこれを許さず,結局同原告は,同日園に残り,ピクニックに行くことができなかった。


事実認定の補足説明
(ア)a

被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,事実関係を否認す

るとともに,同被告の陳述書においても,これに沿うかのような記載がある。
しかし,前記(1)イ(エ)a(a)で認定した事実に照らせば,被告Zが夜に原告Dを正座させ,そのまま朝まで正座を止める許諾を与えないことは,優にありうることであるうえ,上記ア(ア)に関する原告Dの陳述書の記載及び供述は,上記6名の行動及び被告Zの言動等,具体的なものであって信用できる。これに対し,被告Zの上記陳述書の記載部分は,正座を指示したことすら断定的に否定するものではなく,信用できず,他に上記ア(ア)の認定を覆すに足りる証拠はない。

なお,前記(1)イ(エ)a(a)ⅳに判示したとおり,具体的に被告Zがその終期を指示しなかったとしても,被告Zの指示によって開始した正座が,複数の日にまたがる等,長時間に及んだ場合には,その全体が,被告Zの指示によるものと評価するのが相当である。
(イ)

被告Zは,上記ア(イ)の事実認定に関し,請求原因事実を否認

するも,上記認定を覆すに足りる証拠はない。

違法性
被告Zの,原告Dに対する,前記ア(ア)b(a)の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
これに対し,前記ア(イ)で認定した被告Zの行為については,自由な外出が制限されている園児らにとって,前記ピクニックは大きな楽しみであるとともに,貴重な社会経験の機会であったこと,これに対し,証拠上,被告Zにおいて,原告Dのあざの原因につき,本人らから事情を聞く等して事実関係を確認した様子が窺えないことに照らせば,懲戒の要否ないし手段についての意思決定過程が相当といえるかにつき,疑問がないわけではないが,原告Dにおいて,顔にあざができる程度のけんかをしたという原因行為が認められること,取られた懲戒の手段が園の行事に1日参加させないという程度のものであることからすると,児童福祉施設の長の懲戒権を逸脱する行為とまではいえず,違法性は認められない。

損害
被告Zの原告Dに対する本件不法行為により原告Dが被った精神的損害について判断するに,正座をさせられていたのが本来睡眠・休息をとるべき夜間であること,正座させた時間も長時間にわたり,小学校6年生の女子の体力,身体機能からして相当の肉体的苦痛を与えるものであること,その他懲戒の原因等本件記録上現れた一切の事情を考慮すると,原告Dの受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,10万円と認めるのが相当である。
(6)

原告Iについて
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない
(ア)a

被告Zは,原告Iが小学校5年生だったころ(平成4年4月こ

ろから平成5年3月ころ)
,原告Iに対し,正座するように指示し,
原告Iはそれに従って正座をした。その正座を開始した時刻は昼食の時間よりも前であったが,原告Iは,被告Zに正座を指示されていたため,昼食を取ることができなかった。

原告Iは,そのまま夕食の時間帯も座り続け,夕食の時間帯に夕食を取ることができなかった。その後,保母が食べ物を準備し,原告Iに対し,食べてもよい旨申し向けたため,原告Iはそれを食べたが,その後また正座をし,少なくとも夜間の時間帯までは,被告Zの上記指示が解かれることはなかった。

(イ)

被告Zは,原告Iの在園中,原告Iが自分の班のテーブルクロス

を拭くことを失念したことを理由に,上記テーブルクロスを取り上げ,原告Iに対し,食事を取ることを禁じたことがあった。
(ウ)

被告Zは,原告Iの小学校1年生3学期末から中学校2年生1学
期末までの間(平成元年3月から平成7年7月までの間)
,同原告が被
告Zに学校の通知表を見せに行った際,通知表の記載を見たうえで,同原告の頭にそろばんを押しつけ,そろばんの珠を数回こすりつけたことがあった。

事実認定の補足説明
(ア)

被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,事実関係を否認する

とともに,同被告の陳述書においても,これに沿うかのような記載がある。
a(a)

しかし,まず,被告Zが園児らに相当の頻度で長時間にわた

る正座を強いた事実は,前記(1)イ(エ)a(a)で認定したとおりであり,同被告自身,同被告本人尋問において,就寝時間を過ぎても正座を続けさせたことが複数回あった旨供述していることからすると,原告Iを,昼前から夜間まで正座させたということも優にあり得ることである。
(b)

加えて,原告Iの本人尋問は,朝まで正座していたか等,覚

えていないことについては誇張することなくその旨述べ,また眠かったという強い記憶がある等,供述も具体的であって,信用できるものであり,上記(a)と併せ考えれば,原告Iが,昼前に被告Zに正座するよう指示され,その指示が少なくとも夜間まで解かれなかった事実が認定できる。

さらに,園児らが被告Zにより正座を命じられてる間,被告Zが上記園児らに食事を取ることを許さなかった事実は,前記(1)イ(エ)a(b)で認定したとおりである。


以上より,上記ア(ア)に関する原告Iの陳述書の記載は信用できるのに対し,被告Z本人尋問の供述のうち,上記ア(ア)の認定事実に反する部分は信用できず,
他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(イ)

被告Zは,上記ア(イ)の認定事実に関し,事実関係を否認し,

同被告本人尋問において,園児らに対し,食事をすることを禁止したことはない旨供述をする。また,同被告の本人尋問及び陳述書において,テーブルクロスを拭かなかったことを理由に食事を抜かしたり,極端に遅らせたりしたことはない旨の供述ないし記載をする。
しかし,被告Zが,原告らの在園中,園児らがテーブルクロスを拭かなかったという理由で,そのテーブルの班の園児らに対し,食事を取ることを禁じ,あるいはテーブルクロスを取り上げ,配膳させずに食事を抜かせたことが,しばしばあった事実は,前記(2)イ(ア)で認定したとおりである。
したがって,被告Zの供述及び陳述書の記載のうち,上記ア(イ)の認定に反する部分は採用せず,
他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(ウ)

被告Zは,上記ア(ウ)の事実認定に関し,事実関係を否認する

も,上記認定を覆すに足りる証拠はない。

違法性
被告Zの,原告Iに対する,前記アの一連の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。


損害
原告Iは,被告Zの原告Iに対する本件一連の不法行為により,相当程度の損害を被ったものと認められる。

(7)

原告Eについて
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない
(ア)a

被告Zは,原告Eが6歳くらいのころ(昭和63年ころ)
,原

告E及び他の園児2名に対し,何らかの理由で立腹し,園の庭にある水深約80センチメートルの池に,裸になって入るよう命じ,やむを得ず,同原告は,着衣を脱ぎ,パンツ1枚になって,上記池に入った。原告Eは,上記池の中に入っている間,上記池の前に立っていた被告Zに対し,何度か謝罪をしたが,同被告は同原告が上記池から出ることを許さず,その結果同原告は,約10分間にわたり,上記池の中に立ち続けた。

なお,上記aの行為が行われた時の原告Eの着衣は,長袖のポロシャツにズボンあるいはスカートというものだった。

(イ)a

原告Eは,小学生であった平成元年4月から,平成5年までの

間のいずれかの日,他の4,5名の園児らとともに,被告Zに何らかの理由でしかられ,園内に立たされた。そこで,原告E及び上記園児らは,被告Zの許しを得るために,一人ずつ被告Zに謝罪に行くこととし,原告Eも,被告Zのところへ行って,謝罪をした。

しかるところ,被告Zは,原告Eに対し,そのまま立ち続けるか,別の罰を受けるか選ぶよう迫り,同原告が立ち続けるよりも別の罰を受けてすぐに許してもらった方がいいと考え,別の罰を受けることを選択した。そうすると,被告Zは,原告Eに対し,
おなかを出せ
と申し向け,同原告が着衣をまくり上げて腹部を露出したところ,同原告の腹部を強くつねった。


上記bの行為を受けた原告Eは,声が出ないほどの痛みを感じ,自己の居室に戻って,痛みのために号泣した。


事実認定の補足説明
(ア)

被告Zは,上記ア(ア)aの認定事実に関し,同被告の行為にか

かる事実を否認する主張をし,同被告の陳述書にもこれに沿う記載がある。
しかし,証拠によれば,少なくとも恩寵園において池の中に園児を立たせるという罰が行われていたと認められる。これに加え,上記ア(ア)に関しては,原告Eの供述は,池の水の色や足の裏の感触等,恐怖を感じた対象ないしそのときの感覚につき,その内容が迫真性に富むものであることからすると,上記ア(ア)に関する原告Eの供述及び陳述書の記載は信用でき,
この点に関する被告Zの陳述書の記載は信用できない。
なお,被告Zは,上記陳述書において,上記行為に関する原告Eの記憶が鮮明にすぎ,信用できない旨述べるが,幼児期の強烈な恐怖体験については,そこに至る経緯は覚えていなくとも,その体験のさなかに目に見えたもの,
感触,
恐怖感そのものは鮮明に印象に残るということが,
ままあるものであり,原告Eの供述は不自然なものとはいえず,むしろ同原告の恐怖感の強さを示すものということすらできるのであるから,被告Zの上記陳述書の記載は採用できない。
(イ)

また,被告Zは,上記ア(イ)bの認定事実に関し,同被告の行

為にかかる事実を否認する主張をし,同被告の陳述書中で,この点の時期等に関する原告Eの主張が,上記ア(ア)にかかる主張が鮮明なのに対して,不鮮明であって信用できない旨述べる。
しかし,上記ア(イ)bの事実に関して,原告Eの主張が不明確なのは,主として上記行為の行われた時期及び上記行為の前に立たされていた理由であるところ,立たされていた理由については,上記行為と直接に関係のない事実であるから,記憶が不鮮明でも不自然ではなく,時期についても,原告Eは,約11年間にわたってほぼ毎日生活の場で被告Zと接しており,かつその間何度も被告Zから叱責を受けたと認められることからすると,
十分に特定ができていなくても不自然とはいえない。
そして,原告Eの供述ないし陳述書の記載は,上記2点を除けば具体的であることに加え,証拠によれば,複数の園児が被告Zにつねられたという体験をしており,それも特に柔らかいところをつねったという事実が認められること,また上記ア(イ)bの認定事実との関連は不明であるものの,被告Zが,謝罪に行った園児の腹部をつねった事実が,保母によっても認識されていること,被告Zが罰を2つ挙げて罰を受ける園児にいずれかを選択させることがままあったと認められることからすると,信用するに足りるものである。したがって,この点に関する被告Zの主張は採用できず,上記認定を覆すに足りる証拠もない。

違法性
(ア)

被告Zの,原告Eに対する,前記アの一連の行為は,被告Zにお

いて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
(イ)

なお,被告Zは,原告Eに万引き及び喫煙等の問題行動があった

旨主張するも,前記ア(ア)a並びにア(イ)a及びbが,これらの問題行動の懲戒として行われた旨の主張及び立証はなく,原告Eにおいてこれらの問題行為があったからといって,被告Zの前記一連の行為に違法性がないということはできない。

損害
被告Zの原告Eに対する本件一連の不法行為により原告Eが被った精神的損害について判断するに,上記一連の不法行為が,行為の態様及び原告Eの年齢からして,長年記憶から消えない程の恐怖感を与え,あるいは相当の肉体的苦痛を与えたと認められること,その他本件記録上現れた一切の事情を考慮すると,原告Eの受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,10万円と認めるのが相当である。

(8)

原告Fについて
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。なお,下記(ア)については,原告Jの請求原因事実と一部重複するため,合わせてここで認定する。
(ア)a

原告らの在園中,園では,園児ら数人ずつに1部屋の居室が割

り当てられ,それぞれ担当の保母が決められていたが,平成6年当時の一定期間,園児らが自分の居室以外の居室に入る場合には,その居室及び自分の居室の担当保母に,それぞれ許可を得なければならないという規則があった。

原告Fが中学校3年生で,原告Jが中学校2年生だった平成6年4月下旬から5月初旬のゴールデンウィーク中,被告Zは,上記規則に反して他の園児の居室に出入りした園児を叱っていたが,その後他の園児ら全員を園の食堂に集めた。被告Zは,上記園児らに対し,無断で他の居室に入ったことがあるかとの質問をし,これに対して,ほぼ全員の園児らが入ったことがある旨答えると,それに対して園児らを叱り,これを契機として縷々説教を始めたが,徐々にその内容や言葉遣いが難解になっていった。

c(a)

被告Zは,上記のように園児らに説教をする中で,園児らに

対し,質問を発した。
(b)

これに対し,原告Fは,問われている内容が分からなかった

ため,

質問の意味が分かりません。

旨被告Zに言った。(c)

また,原告Jも,上記質問に対し,被告Zの意に添うような

返答ができなかった。

すると被告Zは,原告F及び同Jに対し,

話が分からないのだから,幼児だ。

と言い,その後,幼児扱いする旨申し向け,上記原告らに,幼児用居室の隣室の,アコーディオンカーテンで仕切られた部分で生活させ,
食器及びトイレも,
幼児が使用するものを使用させた。

原告Fは,上記dのような生活を1週間から2週間続けた。なお,被告Zは,上記c(b)の件に関し,その日のうちに謝罪に行った原告Fに対し,

お前は幼児だから,お前と話すことはない。

と言って,同原告のほほを平手で1回たたき,鼻から出血させた。

(イ)a

原告らの在園中,義務教育を終える園児らの進学に関しては,

被告Zが保護者としての権限及び責務を担っており,願書に保護者としても印を与えること及びその判断も,最終的には同被告により行われるもので,同被告の了承がなければ,在園しながら高校に進学することはできなかった。

原告Fは,中学時代,学校の成績も良く,熱心に勉強に取り組んでおり,遅くとも中学校2年生の2学期には進路についても自らの考えを保母らに伝え始め,中学校3年生になった時点では,普通高校に進学したいとの希望を明確に有するようになっていた。


原告Fの家庭は,同原告が3歳のころに父親が死亡し,同原告が入所措置された当時,母親は,生活保護費を受給していたものの,同原告を含めた4人の子供達を養育することが困難な状態であり,同原告が中学校3年生になった当時も,同原告を家庭から高校に通わせることが可能な経済状態ではなく,かつその当時,母親とは連絡が取れないこともあり,所在が必ずしも明らかでない状況であった。
このような原告Fの家庭事情からすると,在園しながら進学する以外に,同原告が普通高校に進学するのは困難であり,同原告及び被告Zにおいても,かかる認識を有していた。


一方,原告Fは,上記cのような認識に加え,園から高校に進学すれば,園が学費を負担することとなり,同学年の園児がすでに専門学校への進学を許されていることからすると,同じ年度に複数人進学をすることは園の財政事情が許さないのではないかと懸念していた。e(a)

そのため,同原告は,普通高校に進学したいとの希望を被告

Zに伝えることを躊躇する気持ちもあったが,どうしても進学したいとの気持ちが強かったため,
中学校3年生だった平成6年の春に,
同被告に希望を伝える意を決し,高校に行かせてほしい旨頼んだ。(b)

しかるに被告Zは,原告Fの上記依願に対し,

何だ,おまえ,銚子に帰るんじゃなかったのか。

と返答した。(c)

原告Fは,上記c及びdのような事情から,上記(b)の被

告Zの発言によって,普通高校への進学はかなわないかもしれないと思い落胆するとともに,家庭の事情が同原告が帰れるような状況にないにもかかわらず上記のように言われたことに精神的な衝撃を受けた。
f(a)

その後も原告Fは,保母に付き添ってもらう等して被告Zに

進学の相談をしようと試みたが,
同被告は,
話をはぐらかす等して,
同原告の進学に関する話を進めなかった。
(b)

また,中学校3年の1学期末ころには,高校進学を希望する

理由につき,同原告が,勉強がしたいからである旨述べても,被告Zは,勉強したいという理由だけでは高校進学の理由にはならない等述べた。しかし同原告は,その当時,高校卒業後の具体的な進路等については意思を決することができなかったため,その後,職員らに中学校卒業後の進路について意思を問われても,勉強をするために高校に行きたいということ以外に答えることができなかった。g(a)

原告Fは,普通高校へ進学する希望をあきらめられなかった

ため,中学校3年生の夏休みに入ってから,再度被告Zに,高校に行かせてほしい旨頼んだ。
これに対し,同被告は,被告Zのほか,6人の職員の名前を挙げ,その7人が集まったときに同原告の進学の話をする旨述べた。
(b)

当時園においては,職員らはローテーション勤務となってい

たため,上記職員ら7名が揃う機会は容易にあるものではなく,そのため原告Fは,各職員に,集合してもらえるよう,個別に頼みに行った。
h(a)

このような状況の中で,原告Fは受験勉強を進めていたが,

翌平成7年1月に,高校受験の願書を中学校に提出する時期になっても,在園しながらの高校進学について,被告Zに明示的な了承を得られずにいた。
(b)

そこで同原告は,同月ころ,願書に必要事項を記入し,園内

の保母室のいた被告Zに,保護者として署名押印してくれるよう,頼みに行った。
同原告が,

高校に行かせて下さい。

等と言って,頭を下げつつ,願書を差し出したところ,被告Zは,それを受け取り,その記載を見ながら数歩歩くと,上記願書をそこにあったごみ箱に放り捨てた。
(c)

被告Zの上記行為に,原告Fは精神的な衝撃を受けたが,そ

の願書に被告Zの署名押印をもらわなければ高校に進学することができないと思い,上記ごみ箱から願書を拾うと,土下座をし,その状態で

お願いします。

と頼み続けた。(d)

その間,被告Zは,同原告にはっきりと聞き取れないような

ことを言いながら歩き回る等していたが,その後,自分は今印鑑を持っていない等と言うようになったため,同原告は,その場では押印してもらえないものの,高校に行くことは了承されたと理解し,

明日の朝お伺いします。

と述べて保母室から退去した。(e)

翌朝,被告Zの印鑑を管理している同被告の妻が,園に出勤

してきた際,原告Fは,願書を持参して押印を頼んだが,その直後に会議があるとの理由で,すぐに押印してもらうことはできず,会議が終わった8時半過ぎに押印してもらうことができた。
そのため,同原告は,中学校に遅刻したが,その日に中学校に願
書を提出することができた。

事実認定の補足説明
(ア)

被告Zは,上記ア(ア)にかかる請求原因事実を否認する。

しかし,上記ア(ア)a,b,c(a)及び(b)並びにdの認定事実については,被告Zの本人尋問における供述も,上記認定に沿うものであり,c(c)については格別言及せず,同eの認定事実についても,覚えていないないし叩いていないと思う等のあいまいな供述をするにすぎないものであり,上記認定事実を左右するものでなく,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(イ)

被告Zは,上記ア(イ)にかかる請求原因事実を否認し,以下の

とおり主張する。
a(a)

まず,被告Zは,原告Fが,担任の保母らに声かけをされて

いたのに,進路に関する意思決定ないし意思表明をしなかったために,協議が行われないまま時間が過ぎ,願書提出の日を迎えた旨主張し,同被告の陳述書にも同旨の記載をする。
(b)

しかし,原告Fが,中学校3年生の春ころには,普通高校に

進学したいとの希望を持ち,その希望を保母にも被告Zにも伝えていたことは,前記ア(イ)b及びeに認定したとおりである。
この点,被告Zは,同原告の生活指導票の記載をもって,同原告
が保母の声かけにもかかわらず意思決定及び意思表明をしなかった旨主張するが,同原告の中学校3年生4月ないし6月期の生活指導票には,『高校へ行きたい』という気持ちはあるのだが,

『どうしていきたい』等の理由がはっきりしない。

と担任保母が記入しているのであり,また,被告Z自身が,同被告本人尋問において,同原告が中学校3年生の春に,高校へ行きたいと言うことを聞いていた旨供述していることから,少なくともこの時期から,原告Fは,高校進学につき意思決定及び意思表明していたことは明らかであ
る。
そして,
原告Fの意思表明に関し,
不明確な点があったとすれば,
上記生活指導票記載のとおり,高校進学の理由についてであると認められるところ,証拠によれば,被告Zが,原告Fに対し,高校進学の理由を聞き,原告Fが勉強がしたいからである旨返答したのに対し,被告Zが,それでは理由にならない旨申し向けた事実,これにより,原告Fとしては他に理由が考えつかず,それしか理由がない以上高校に行かせてもらえないのか等と困惑していたために,保母らから,

どうするの。

等と問われても,明確な対応ができなかった事実が認められる。
以上のとおり,原告Fにおいては,中学校3年生の春には,園か
ら普通高校に進学したい旨の意思決定及び意思表明をしていたのであり,この程度の意思決定及び意思表明があれば,進路についての協議を進めるには十分足りるものであるはずである。そして,中学校3年生が,勉強がしたいという理由のみで高校進学を望むのは,自然なことであって,中学校3年生にそれ以上の理由付けを考えさせる方がむしろ無理を強いることであり,仮に原告Fの意思表明に不明確な部分があったために進路についての協議が進まなかったとしたら,それは被告Zにおいて,かかる無理を強いたことが原因というべきである。
したがって,被告Zの上記主張にかかる同被告の陳述書の記載部
分は信用できず,主張は採用しない。
b(a)

次に被告Zは,前記ア(イ)e(b)の発言に関し,原告

Fが,

母親の面倒をみてあげたい。「銚子に帰って高校に行き

たい。
」との2つの意向を示していたために,銚子に帰って進学
することの困難性を説明した経緯の中でのものである旨主張す
る。
しかし,被告Zの上記発言の言回しからして,かかる説明のた
めの発言と解することは困難である。また,前記認定事実のとお
り,原告Fは,普通高校進学を強く望む一方で,家庭に戻って進
学をすることは困難であることを認識しており,だからこそ在園
しながら進学させてもらえるよう被告Zに頼んだのであるから,
前記ア(イ)eの時点で,原告Fが銚子に帰ったうえで進学した
いとの希望を有していなかったことは明らかである。
したがって,被告Zの上記主張は採用できない。
(b)

なお,被告Zの上記主張からも明らかなとおり,上記発言

当時,被告Zにおいて,原告Fが銚子に帰って進学することは困
難であることの認識を有していたのであるから,被告Zの上記発
言は,銚子に帰ることと高校進学は,両立しないものであるとの
趣旨のものと認められる。
他方,証拠によれば,同原告は向上心が強く,勉強にも熱心に
取り組んでおり,成績も良いことを被告Zが周知していた事実が
認められるのに加え,前記ア(イ)bのとおり,原告Fは,中学
卒業後の進路につき中学校2年生のころから保母に伝えていた事
実からすると,前記ア(イ)e(a)の原告Fの申し出が被告Z
にとって想定外のものであったとは認められない。
そうすると,前記ア(イ)で認定したその後の被告Zの原告F
に対する対応も考慮すると,被告Zの上記発言は,原告Fを困惑
させる目的でなされたものと認めるのが相当である。
c(a)

そして,被告Zは,前記ア(イ)hの認定事実に関し,原

告Fにおいて,進学についての希望を直前まで伝えず,中学校の
進路希望調査書も持参せず,事前に協議もしないまま突然願書を
持ってきたものであるところ,そのように突然願書を持参されて
も押印できないものであり,その点を伝えつつ,またその場に印
鑑がないため押印できない旨申し向けながら,願書を返却する仕
草をしたところ,同原告が受け取らなかったため,タイミングが
ずれて同願書が床に落ちた旨主張し,
同被告本人尋問においても,
これに沿う供述をする。
(b)しかし,原告Fが,直前まで進学についての希望を伝えず,事前の協議もしないまま突然願書を持ってきたとの主張に理由が
ないことは,上記aで述べたとおりであり,また,上記aで検討
した事実に照らせば,仮に原告Fにおいて,中学校の進路希望調
査書を被告Zに持参していなかったとしても,願書の提示が突然
の意思表明だったと認めることはできない。
また,その後原告Fが土下座をしてまで押印を頼んでいる事実
に加え,証拠によれば,被告Zが,園児の通知表をごみ箱に捨て
たこともあった事実が認められることを合わせ考慮すれば,同被
告が故意に上記願書を捨てたと認めるのが相当である。
(c)よって,被告Zの上記供述は信用できず,他に上記ア(イ)の各認定を覆すに足りる証拠はない。

違法性
(ア)

被告Zの,原告Fに対する,前記アの一連の行為は,社会通念に
照らし,
児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内とは認められず,
また監護及び教育に関し,その児童の福祉のため必要な措置ということもできず,違法である。
(イ)a(a)

この点,被告Zは,前記ア(ア)の事実に関し,いずれ

も虐待に相当する体罰ではなく,外形的事実として不法行為に該当しない旨主張する。
しかし,前述の通り,被告Zの主張する,児童虐待防止法上の虐
待に該当しなければ不法行為ではないとの考えは,当裁判所は採用しないところであり,そもそも中学校3年生である原告Fを幼児扱いし,幼児が普段使用する食器やトイレを使わせること自体,原告Fに不当な屈辱を与えるものであって,不法行為に該当することは明らかである。
よって,被告Zの上記主張は採用できない。
(b)

また,被告Zは,前記ア(ア)の事実に関し,移動させた部

屋及び使用させたトイレ等も特段不便なものではないし,指導上の行為であることからも,不法行為ではない旨主張する。
しかし,たとえトイレ等が不便なものでないとしても,上述のと
おり,中学校3年生を幼児扱いし,幼児が普段使用する食器やトイレを使わせること自体,
被懲戒者に不当な屈辱を与えるものであり,
本件における原告Fの行った原因行為との均衡からしても,児童福祉施設の長の適法な懲戒権行使の範囲を逸脱するものである。
よって,被告Zの上記主張は採用できない。
b(a)

さらに被告Zは,前記ア(イ)のうち,g(a)の事実につ

き,
園職員らに同原告が高校在学中の3年間在園することについて,
引き受ける気持ちを持たせるため必要だった旨主張し,違法性を争うようである。
しかし,かかる理由であれば,前記ア(イ)g(a)に認定した
7名が一堂に会する必要は必ずしも認められず,上記主張は不合理であって,採用できない。
(b)

また,前記ア(イ)のうち,h(a)ないし(c)に関して

は,前記イ(イ)cのように,事実関係を争うのみならず,原告Fの願書持参が唐突だったこと及びその場に印鑑がなかった旨主張して,容易に押印をしなかったことの違法性をも争うようである。
しかし,被告Zが容易に押印しなかった理由が,その場に印鑑が
なかったとの理由のみであれば,原告Fが土下座までして押印を頼む必要はなかったのであるから,他の理由で押印しなかったことは明らかであるところ,原告Fの願書持参が唐突だったためとの被告Zの主張に理由がないことは,前記イ(イ)cに判示したとおりであって,他に合理的な理由が見当たらないのであるから,被告Zにおいて,原告Fが土下座するまで,正当な理由もなく押印を拒んだと認めるのが相当であり,被告Zの上記主張は採用できない。
(c)

なお,被告Zは,前記ア(イ)に関し,何ら体罰虐待に該当

するものでなく,不法行為にあたらない旨主張する。
しかし,民法上,体罰虐待のみが不法行為となるものはないこと
は当然である。そして,前記ア(イ)の被告Zの一連の行為は,高校受験生という通常でさえ精神的負担の大きい時期に,自己の了承がなければ進学がかなわないという優越的立場を利用し,徒にその了承を明示しないことで原告Fに不安を与え続け,また原告Fの進学に対する真摯な願望を弄ぶものであって,その違法性は明らかである。
よって,被告Zの上記主張は到底採用できない。

損害
被告Zの原告Fに対する本件一連の不法行為により原告Fが被った精神的損害について判断するに,前記一連の不法行為が,その経緯,態様及び行われた時期に照らし,原告Fに対し,相当の理不尽さ,屈辱感及び不安感を感受させたものと認められること,その他本件記録上現れた一切の事情を考慮すると,原告Fの受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,30万円と認めるのが相当である。
(9)

原告Jについて
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。
(ア)

被告Zは,原告Jが中学校1年生だったころ(平成5年4月から

平成6年3月)
,同原告の班の当番及び同原告が,食事の際,同原告の
班のテーブルクロスを拭かなかったことに立腹し,上記テーブルクロスを取り上げ,同原告に対し,その次の食事を取ることを禁じた。
(イ)

被告Zは,原告Jが中学校1年生だったころ(平成5年4月から

平成6年3月)
,同原告に対し,しばしば正座を指示し,1日中その指
示を解かず,その間食事もとらせず,学校にも行かせなかった。
(ウ)a

前記(8)ア(ア)aないしdに同じ。

原告Jが,数日間,前記(8)ア(ア)dのような生活を続けていたところ,被告Zは,同原告に対し,

お前は幼児だから,パンパースを持ってこい。俺がはかせてやる。

と申し向けた。原告Jは,この言いつけに従わないことで,また被告Zに怒られることを恐れ,仕方なく幼児用おむつであるパンパースを取りに行ったところ,それをOに見とがめられ,同人から

何考えているの。等と言われたうえ,

平手でほほを叩かれた。
(エ)

被告Zは,原告Jの小学校2年生3学期末から中学校1年生の3

学期末までの間(平成元年3月から平成6年3月までの間)
,しばしば
同被告の通知表に,保護者としての印を押さなかった。

事実認定の補足説明
(ア)

被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,事実関係を否認する

とともに,同被告本人尋問においてこれに沿う供述をし,同被告の陳述書にも同旨の記載がある。
しかし,被告Zが,原告らの在園中,園児らがテーブルクロスを拭かなかったという理由で,そのテーブルの班の園児らに対し,食事を取ることを禁じ,あるいはテーブルクロスを取り上げ,配膳させずに食事を抜かせたことが,しばしばあった事実は,前記(2)イ(ア)で認定したとおりであり,かかる事実に照らせば,同被告の本人尋問の結果及び陳述書の記載のうち,上記ア(ア)の認定事実に反する部分は信用できず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(イ)a

被告Zは,上記ア(イ)の認定事実に関し,事実関係を否認す

るとともに,同被告の陳述書にもこれに沿う記載がある。

しかし,被告Zが,原告らの在園中,園児らを長時間,場合によっては複数の日にまたがって正座させ,その間,食事を取ることを許さなかった事実は,前記(1)イ(エ)aで認定したとおりである。
c(a)

そして,被告Zが,原告らの在園中,指導等の名目あるいは

懲罰として,しばしば,数日間にわたって園児らに学校を休ませていた事実は,前記(4)イ(エ)aに認定したとおりである。
(b)

また,上記のとおり,被告Zは,複数の日にまたがって園児

らを正座させることがあった事実が認められること,証人Nによれば,園児らを正座させている間,学校に行かせないことがあった事実が認められること,証拠によると,複数の原告らが異なる状況及び理由において,被告Zにより正座を指示され,そのため学校にも行けなかった旨供述していることからすると,被告Zが,園児らに正座を指示し,その指示を解くまでの間,学校に行かせない場合があった事実が認められる。

以上のb及びcに加え,証拠によれば,平成6年5月に原告Jが自己の母親及び児相の職員に,園で正座させられること,学校に行かせてもらえないこと及び食事を食べさせてもらえないこと等を話している事実が認められ,
同じころ被告Zが,
市川児相の児童福祉士に対し,
同原告に何がいけないかを気付かせるために学校を休ませることもある旨述べた事実が認められることを総合すると,
上記認定事実アイ)

に関する原告Jの供述及び陳述書の記載が信用できる。これに対し,上記認定事実に反する被告Zの供述及び陳述書の記載部分は,信用性が低いといわざるを得ず,採用できない。

(ウ)

被告Zは,上記ア(ウ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認

するが,上記ア(ウ)aの認定事実を左右するに足りる証拠がないことは,前記(8)イ(ア)に述べたとおりである。また,上記ア(ウ)bに関しては,被告Zは,陳述書において,単にOが原告Jのほほを平手で叩いたことはない旨の記載をするのみであるが,この点については被告ZがOの行動をすべて把握していたわけではないから信用するに足りず,他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(エ)

被告Zは,上記ア(エ)の事実を否認し,同被告の陳述書には,

判をしばしば押さないなどということはない旨の記載があるが,前記(2)イ(ウ)で認定したとおり,園児らが,同被告から,学校の通知表に,保護者としての印を押してもらうことになっていたにもかかわらず,同被告が,園児らが持参する通知表に,容易に保護者としての押印を与えなかったことがしばしばあったという事実は明らかであり,これに加え,証拠によれば,原告Jが,平成5年9月9日,市川児相の職員に対し,被告Zが通知表を見てくれず,押印をしてくれない旨訴えいている事実が認められることからしても,上記認定事実にかかる原告Jの陳述書の記載は信用でき,これに対し,被告Zの陳述書における上記記載は信用性が劣ると言わざるを得ず,採用できない。他に上記ア(エ)の認定を覆すに足りる証拠はない。

違法性
被告Zの,原告Jに対する,前記アの一連の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。


損害
原告Jは,被告Zの原告Jに対する本件一連の不法行為により,相当程度の精神的損害を被ったものと認められる。

(10)

原告K
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。
(ア)

被告Zは,原告Kが中学校1年生になったころ以降,その在園中

(平成元年4月ころから平成2年4月ころまでの間)同原告に対し,,
しばしば,算数の計算を間違えた等のささいな理由で,平手やげんこつで,同原告の顔や頭を殴るという暴行を加えた。
(イ)a

被告Zは,原告Kが中学校1年生だった平成2年3月ころ,同

原告の通知表に関することを理由に,同原告の顔を殴り,そのため同原告の顔には青くあざができた。

被告Zは,原告Kが中学校1年生だったころ(平成元年4月から平成2年3月)
,園の保母室の入り口周辺において,その場にあった金
属バットで,同原告のももを叩いた。
(ウ)

被告Zは,原告Kの在園中(平成元年2月から平成2年4月ころ

までの間)
,同原告が食事を取るのに時間がかかることに立腹し,1時
間ないし3時間にわたり,食堂から退出させなかったことがたびたびあった。
(エ)a

原告Kが中学校2年生だった平成2年4月29日,同原告の班

の当番の小学生が,朝食後にテーブルを拭くのを失念した。このことに関し,被告Zは,その日の夕方に同原告の班の全員を園長室に呼び,高学年の4人を殴る等して叱責した。

それにもかかわらず,翌日も当番がテーブル拭きを失念し,翌々日も失念したため,その日の夕食の時間,食堂へ行き,そこにいた被告Zに班の全員で謝りに行ったところ,被告Zは,食堂から出て行くように言った。
その後,被告Zが,上記班において今後どうするのか決めるよう指示をしたので,原告Kらは,班における対策を話し合ったが,なかなか被告Zのところに行けずにいたところ,保母に居室に帰るよう言われたため,結局その日は,その後も夕食を取らず,被告Zのところへも行かないままになった。
翌朝(同年5月2日)
,原告Kが,上記当番の件について,班の他
の園児らと相談していたところ,保母に,

学校から帰ってきたら,園長のところに行くように。

と言われた。

原告Kは,学校から帰ってきて被告Zにところに行ったら,被告Zに殴られると思い,帰園することが怖くなった。そして,ゴールデンウィークに入って,学校に行かずに毎日園にいるようになると,その間同被告に徹底的に標的にされ,暴力をふるわれると思うと同時に,これまで同被告から受けた暴力を考えると,いつか病院に入る等の事態になりかねないと考えた。
そのため,原告Kは,その日学校の同級生に相談し,下校後,帰園せずに,船橋市aにある上記同級生の家に行ったが,そこで上記同級生の母親に園における生活を話したところ,親元に帰るよう勧められた。
そこで,原告Kは,午後1時ころ,上記同級生の家を出て,所持金もない状態で,東京都江東区bにある母が住んでいるアパートに向かい,途中警察官の姿等を見かけると声を掛けられるのではないかと緊張しつつも,隠れるようにしながら走り,同日午後8時半ころ,上記アパートに到着した(以下本件無断外出という。。


事実認定の補足説明
(ア)a

被告Zは,上記ア(ア)の事実を否認し,同被告の本人尋問に

おいて,本件各請求原因事実をとおし,園児らの問題行動を止めるために,園児らを殴ったことはあるかもしれないが,懲罰として殴ったことはない旨供述する。

しかし,証拠によれば,被告Zが,原告らの在園中,園児らを,懲罰の名目で,日常頻繁にげんこつないし平手で殴っていた事実が優に認められ,この認定に反する上記供述は信用できない。


また,被告Zは,同被告の陳述書において,原告Kの供述が信用できない旨記載するが,証拠によれば,原告Kは,平成2年5月9日に,市川児相の職員に対し,被告Zに顔をげんこつで殴られた時の状況につき,具体的に訴えたり,被告Zに殴られるのが怖くて,学校から園に帰れず,母親のところにきた旨述べたりした事実が認められ,また証拠によれば,平成6年5月27日,原告Jが,市川児相の職員に対し,姉の原告Kのみが家庭引取りとなった件につき,原告Kに対しては,本当にひどい体罰だったので仕方ないと思う旨述べた事実が認められる。これらの事実に照らせば,上記ア(ア)の認定事実に関する原告Kの供述及び陳述書の記載部分は信用するに足り,上記ア(ア)の認定事実を覆すに足りる証拠もない。
なお,原告K主張の請求原因事実中,被告Zにおしりを100回叩かれたとの事実は,本件全証拠によっても認定できない。
(イ)a

被告Zは,上記ア(イ)の各認定事実に関し,原告Kの陳述書

においては,金属バットで顔を殴られあざができた旨の記載があるのに対し,同原告本人尋問において,金属バットでももを殴られ,顔はげんこつで殴られあざができたとの供述へと変遷したこと,仮に金属バットを使ったとしてもけがの程度から殴ったとの主張は大げさであることから,原告Kの言い分は信用できない旨,同被告の陳述書に記載する。

上記ア(イ)aについて
しかし,原告Kは,本人尋問において,中学時代に被告Zから殴られてあざができ,
その際母親と面会したことがある旨供述するところ,
証拠によれば,平成2年5月に,市川児相の職員が上記母親に対し聴聞を行ったところ,
上記母親が,
平成2年3月に原告Kに面会した際,
同原告の顔に3か所の青いあざがあったため,事情を聞くと,被告Zに通知表のことで殴られた旨述べた事実が認められる。かかる事実に照らせば,原告Kの上記供述は信用できる。


上記ア(イ)bについて
(a)

また,被告Zが,原告らの在園中,園児らを金属バットでた

たくことがあった事実は,前記(3)イ(カ)aに認定したとおりである。
(b)

そして,原告Gによれば,原告Kが金属バットで殴られたこ
とが,園児らの間で話題となった事実が認められ,また証拠によれば,原告Iらが,平成8年4月に,弁護士に対し,原告Kが金属バットで殴られ,
出血したことがある旨報告した事実が認められるな

お,話者B)(として,原告Bの姉が金属バットで殴られた旨
供述したかのような記載があるが,原告Bには姉はいないため,上記話者の記載は,(H)
の誤記と認められる。。

以上を総合すれば,被告Zから金属バットによる暴行を受けた旨
の原告Kの供述は信用できる。なお,被告Zは,金属バットで殴った場合には,骨折等するため,かかる事実がない以上原告Kの主張は大げさであり信用できない旨,同被告の陳述書に記載する。この点確かに,金属バットで力一杯殴られた場合には骨折等に至るところ,原告Kにつきそのような事実は認められないため,かかる強度はなかったものというべきである。しかし,こづく程度であれば,上記認定のように,園児らの間で話題になったり,出血したとの記憶が残ったりするとは考えがたいことに加え,
原告K本人尋問から,
上記暴行が強い衝撃を伴うものとして同原告の記憶に残っていると認められることからすると,少なくとも被告Zは,叩いたと評価すべき程度には,勢いをつけ,また力を入れて,上記暴行を加えたと認めるのが相当である。

以上のとおり,上記ア(イ)にかかる原告Kの本人尋問における供述は,同原告の陳述書の記載とは齟齬は認められるものの,他の証拠及び間接事実に照らせば,いずれも信用することができ,上記認定に反する証拠は採用しない。

(ウ)

被告Zは,上記ア(ウ)の認定事実に関し,事実関係を否認し,

同被告の陳述書において,
原告Kの言い分は信用できない旨記載するが,
証拠によれば,原告らの在園中,園では食事をすべて食べ終わるまで,数時間かかっても食堂で食事を続けなければならず,それが被告Zが見ているときには,特に厳しく守らなければならなかった事実及び被告Zが食事を取るのが遅い園児らに罰を与えることがたびたびあった事実が認めれることに照らせば,上記ア(ウ)の認定事実に関する原告Kの供述及び陳述書の記載部分は信用するに足り,また上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(エ)

被告Zは,上記ア(エ)の事実に関し,原告Kが園に無断で外出

したことはあるが,請求原因として主張されているような事実はなく,同原告は,他の園児らに,早く家に帰りたい旨よく言っており,本件無断外出も,ちょっとしたことをきっかけに園を飛び出してしまったものである旨主張し,証拠として児童記録票を挙げる。
この点たしかに,同書証には,平成2年4月ないし6月の生活指導結果評価欄に,同原告につき,

子供達の間では,早く家に帰りたいという事をよく言っていたらしく,ちょっとしたことをきっかけに,園を飛び出してしまう。

旨の記載がある。しかし,証拠によれば,本件無断外出直後に,上記ア(エ)で認定した経緯につき,原告Kが市川児相において供述しているのに対し,それを受けて児相職員によって行われた被告Z及びOとの面接において,Oが,原告Kは嘘は言っていない旨述べていることからしても,原告Kの上記供述内容は信用できるものである。他方,上記児童記録票は,園の担当職員が,被告Zに提出する前提で記載しているものであり,きっかけがちょっとしたことか否かは当該職員による評価にすぎないものであって,上記ア(エ)の認定を左右するには足りず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

違法性
(ア)

前記ア(ア)及び(イ)で認定した,被告Zの原告Kに対する一
連の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。
(イ)

ただし,前記アに認定した被告Zの原告Kに対する行為のうち,

(ウ)に関しては,違法といえるまでの事情は認められず,また,エ)(
に関しては,請求原因として原告Kが主張する被告Zの行為自体については,不法行為と認めるに足りず,むしろここで認定された事実は,被告Zの一連の不法行為の結果ないしそれによる原告Kの損害を推認させる間接事実というべきものであり,上記一連の不法行為に含むものではない。

損害
原告Kは,被告Zの原告Kに対する本件一連の不法行為により,相当程度の精神的損害を被ったものと認められる。

(11)

原告G
認定事実
前提事実,各項目末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実を認めることができ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。
(ア)a

被告Zは,原告Gが中学校1年生だった夏休みの初めころ(平

成3年7月下旬から8月上旬ころ)同原告が昼食を食べ終わるのが,,
班で一番遅かったことを理由に,約24頁ある新聞紙一紙分につき,そこに記載されている全ての漢字の書取りをするよう指示した。

上記指示は,具体的には,上記新聞紙のうち,毎日一定の紙面分の漢字を書き取らせるというものであった。その量は,決められた時間内に容易に書き終えられる量ではなかったが,被告Zは,上記指示を出した日の夕食以降,原告Gが食事の時間になっても指定された量の漢字の書取りを終えていないことを理由に,同原告に食事を取ることを許さなかった。そのため同原告は,園における食事は,食事の時間に被告Zがいなければ決められた時間に取ることができたが,被告Zが食堂にいるときには食事を取ることができなかった。このような時には,保母が被告Zの目に付かないような時間になってから,同原告に食事を与える場合もあった。

しかし,上記夏休みの終わりころ(平成3年8月下旬ころ)
,原告
Gは,食事を与えられない日が3日間続き,4日目の日曜日,自分の居室で立ち上がろうとした際に,力が入らず,その場にへたり込んでしまった。


園では,毎年年度替わりの際,園児らの居室の新たな割当てが発表されるが,上記新聞紙一紙分の漢字の書取りは,翌年の年度替わりの際(平成4年3月末ないし同年4月初めころ)にも終了していなかった。しかるに被告Zは,原告Gが上記新聞紙一紙分の漢字の書取りを終えていないことを理由に,同原告の新たな居室を発表しなかった。そのため同原告は,従前の居室は使用できないため,私物等を運び出したのに,新たに生活すべき居室が与えられない状態となり,その後約1か月にわたり,園の廊下で起居することとなった。その間同原告は,布団も与えられなかったため,就寝時はシーツを体に掛け,それでも寒いので,その上に自分の衣類を掛けて寝ていた。


上記新聞紙一紙分の漢字の書取りは,開始から1年半以上続けても完了しなかったが,
平成4年度から平成5年度への年度替わりの際平

成5年3月末ないし同年4月初めころ)
,新たな年度における同原告
の担当職員が被告Zに話をした結果,打ち切られることとなった。それまでの間,原告Gは,上記bのような生活を強いられた。

(イ)a(a)

原告Gが中学校1年生だった平成3年7月20日ころ,
学校のベランダで右肩を打ち,
右腕が肘から上に上がらなくなった。
その当時,毎年学校が夏休みの時期に,県の児童福祉施設が参加する球技大会が行われていたが,恩寵園の園児らも上記球技大会に参加しており,同年の夏休みの時期も,同年8月20日に予定されていた上記球技大会におけるソフトボールの試合に向け,被告Zの指導監督下に,園児らによるソフトボールの練習が行われた。
(b)

同年7月24日ころに行われた上記練習の際,被告Zが練習

に参加している園児ら全員に腕立て伏せを行うよう指示したのに対し,原告Gが,上記(a)の理由により,腕が痛くてできません。
旨訴えたところ,被告Zは,同原告に対し,片腕でも腕立て伏せをやるよう申し向けた。
(c)そこで原告Gが,片腕で腕立て伏せをやろうと試みたところ,身体を支えきれずに倒れてしまった。すると被告Zは,同原告の方へ向けてボールを投げ,そのボールは,地面でバウンドして原告Gの顔に当たり,
同原告は,
顔の感覚がなくなるほどの痛みを感じた。
(d)

翌日,同原告が保母に連れられて病院へ行ったところ,右肩

が骨折している旨の診断がされた。その後,同原告は右腕を包帯でつっていたが,それを見ても被告Zは,上記(b)及び(c)の事実につき,同原告に対し謝罪をしなかった。

原告Gが中学校2年生だった平成4年8月20日にも前記球技大会が予定されており,この年の夏休み中(平成4年7月21日から同年8月19日までの間)にも,ソフトボールの練習が行われたが,原告Gは,前記骨折の後遺症で,肩から腕が回せず,ボールを遠くに投げることができなかった。
これを見た被告Zは,原告Gにキャッチャーの役,他の園児ら20名くらいにピッチャーの役を割り当て,ピッチャー役の園児らを一列に並ばせると,順次同原告に対してボールを投げさせ,それを同原告がキャッチして投げ返し,同原告にボールを投げた園児がそれをうまくキャッチできたら,その園児は列から離れ,うまくキャッチできなければまた列の最後尾に並び,次の園児に交替するということをやらせた。
原告Gは,2回に1回程度しかまともにボールを投げ返せなかったため,ピッチャー役の園児がなかなか減らず,原告Gはそのために他の園児らが自分を恨んでいるのではないかとの心境にならざるを得なかった。
(ウ)

原告Gが,中学校3年生の後半ころ(平成5年10月ころから平

成6年3月ころ)
,自己の居室で小学生の園児と遊んでいたところ,被
告Zは,同原告が就職活動をすべき時期に遊んでいるとして,同原告をしかりつけた。
その際,同原告が,被告Zに殴られることを恐れて,顔を伏せ,顔の前に手を上げて防御しようとしたところ,同被告は,同原告を上記居室内の二段ベッドのはしごの前に立たせ,後ろ手にさせて,近くに落ちていたひもで同原告の両手を上記はしごに縛り付けた。
そのうえで,同被告は,同原告の顔や腹部を約10回くらい殴り,その合間に,殴るふりをして殴らないという動作もしたが,同原告はその度に,顔をよけようとする等,おびえる反応を示さざるを得ず,同原告は同被告がその反応を見て楽しんでいると感じた。
その間,同原告は,その場から逃れたいとの思いで,縛られた手のひもを解こうともがいたため,同原告は,手首の皮が切れ,出血をする傷害を負った。同原告の手は,同被告の上記暴行が終わるころにははしごから外れたが,同被告は,自ら上記ひもを解くことはしなかった。イ
事実認定の補足説明
(ア)被告Zは,上記ア(ア)の認定事実に関し,請求原因を否認する。a
そして,上記ア(ア)aに関し,被告Zは,同被告の本人尋問及び陳述書において,原告Gに新聞紙の漢字の書取りをさせたことは認めつつも,罰としてではなく,学力向上のためである旨供述ないし記載する。
しかし,書取りを指示された契機に関する原告Gの供述及び陳述書の記載が,その際の昼食の献立,食べるのが遅くなった理由,指示が出された際や退園後の心境等につき具体的であり信用性が高いのに加え,被告Zの上記弁解は,学力向上のためであれば新聞紙ではなく他に適切な教材がある点で不合理であり,信用できない。


また,上記ア(ア)b及びcの認定事実に関し,被告Zは,同被告の本人尋問及び陳述書において,毎日の書取りの量が一定の紙面分であったことを除き,これを否認する供述及び記載をする。
しかし,食事の時間になっても決められた分量の書取り終わらず,同原告が食事の時間にも書取りをやっていたことがあった事実は,同被告の本人尋問からも認められ,また同被告が園児らに食事を取ることを許さないことが頻繁にあった事実は,前記(1)イ(エ)a及び(2)イ(ア)で認定したとおりである。
これらの事実に加え,上記ア(ア)b及びcに関する,原告Gの本人尋問における供述及び陳述書の記載は,食事を与えられなかったときの心境,4日目に食事を取った経緯,献立等に関し,相当に具体的であり,特に3日間食事を与えられなかった後の体の状況,4日目に食事を取った経緯及びその際の身体的反応については,体験していなければ表現できない程度に迫真性に富むものであり,信用性が高い。以上に照らし,
被告Zの上記供述及び陳述書の記載は信用できない。


そして被告Zは,上記ア(ア)dの事実につき,請求原因を否認する主張をするも,この点に関する同被告の本人尋問における供述はあいまいであって信用できない。

以上より,上記ア(ア)の各認定に反する被告Zの本人尋問における供述及び陳述書の記載は採用できず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

(イ)a

上記ア(イ)aの認定に関し,被告Zは,請求原因事実を否認

し,同被告の陳述書において,ソフトボールの練習を無理強いしたことはない旨記載し,本人尋問においても,被告Zにおいて原告Gから練習免除を申し出られたことは記憶にない旨供述する。
しかし,証拠によれば,被告Zがソフトボールに関し,園児らに無理な練習を強いていた事実が認められる。これに加え,上記認定事実に関する原告Gの本人尋問における供述及び陳述書の記載が具体的であることからしても,原告Gの上記供述及び陳述書の記載の信用性は高い。これに比して,被告Zの上記供述及び陳述書の記載は,信用性が劣るといわざるを得ず,採用できない。他に上記ア(イ)aの認定を覆すに足りる証拠はない。
なお,被告Zが原告Gの方へ向けてボールを投げたときには,園児らは腕立て伏せをしていて,被告Zにおいてボールを使用する練習が行われていたものとは認められないこと,及びバウンド後のボールによって上記のような痛みを感じるということは,相当強くボールが地面に投げつけられたと認められることに照らすと,被告Zは,同原告の方へ向けて故意に上記ボールを投げつけたと認めるのが相当である。

上記ア(イ)bの認定に関し,被告Zは,請求原因事実を否認するが,上記認定を左右するに足りる証拠はない。

(ウ)

被告Zは,上記ア(ウ)の認定事実に関し,請求原因事実を否認
し,同被告の本人尋問及び陳述書においてもこれを否認する旨の供述及び記載をする。
しかし,被告Zの上記本人尋問における供述及び陳述書の記載が,請求原因事実を否認するに止まるものであるのに対し,上記ア(ウ)の認定事実に関する原告Gの本人尋問における供述及び陳述書の記載は,具体的で迫真性に富むものであり,また証人Mが上記認定事実に該当する事実があった旨証言するのに加え,証拠によれば,同被告が,同原告に対し上記ア(ウ)の場合以外にもいわゆるフェイントをかけたことがあった事実,及び同原告が被告Zに怒られると顔を防御しようとする習慣があった事実及び防御しようとする同原告を同被告が殴ったことがあった事実が認められることに照らしても,原告Gの上記供述及び陳述書の記載は信用できる。よって,被告Zの上記供述及び陳述書の記載は採用できず,他に上記ア(ウ)の認定を覆すに足りる証拠はない。

違法性
被告Zの,原告Gに対する,前記アの一連の行為は,被告Zにおいて懲戒として行ったとしても,社会通念に照らし,児童福祉施設の長の正当な懲戒権行使の範囲内ということはできず,違法である。


損害
被告Zの原告Gに対する本件一連の不法行為により原告Gが被った精神的損害について判断するに,上記一連の不法行為が,長期間かつ絶え間なく継続したものであって,それが原告Gにとっては家庭代わりの場所において,そこで生活をしていかねばならないという状況下で強制されたものであること,原告Gに懲戒に相当する落ち度も認められないのに,理不尽に肉体的苦痛及び疎外感ないし焦燥感を与えられたこと,その他有形力行使の程度,
理由及びその結果等本件記録上現れた一切の事情を考慮すると,
原告Gの受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,80万円と認めるのが相当である。
2
争点2(被告Zを公務員とみなした被告県の国賠責任)について
(1)

認定事実

前記前提事実,証拠(各項末尾に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めれらる。

法50条7号の費用支弁について
(ア)

法50条7号は,都道府県が,同法27条1項3号に規定する措

置を採った場合において,入所又は委託に要する費用のほか,入所後の保護につき,法45条に基づき厚生大臣が定める最低基準を維持するために必要な費用は,都道府県が支弁等する旨定める(以下50条7号に基づく費用を,
法50条7号措置費という。。

(イ)

法50条7号措置費の種類,支弁方法等は,具体的には,
児童福祉法による入所施設措置費国庫負担金の交付基準について
(昭和4
8年4月26日厚生事務次官通知)
に定められているところ,
同通知は,
上記措置費の種類及び支弁額の決定につき,概要以下のように定める。a
法50条7号措置費は,
事務費及び事業費に大別され,
事務費とは,
児童福祉施設を運営するために必要な職員の人件費その他事務の執行に伴う諸経費であり,事業費とは,事務費以外の経費であって,施設に入所している措置児童等に直接必要な諸経費を総称したものをいう。


その支弁額は,各年度当初に都道府県知事及び政令指定都市の長等によって定められた措置児童1人当たりの措置費の単価(以下保護単価という。を基準として算出されるところ,事業費については,)
保護単価を基準に,各月ごとの措置児童数に応じた額が支弁され,事務費については,措置児童数の変動に関係なく固定的に保障されるべき経費であることから,保護単価に施設の定員を乗じた額が支弁される。もっとも,事業費については,その施設に対する法50条7号措置費の支弁義務者が複数いる場合で,その支弁義務者が協議を行い,措置人員にかかわらず支弁すべき人員(以下協定人員という。

を定めて支弁することとしている場合には,保護単価にその協定人員を乗じた額が,各支弁義務者から支弁される。

被告恩寵園に対する法50条7号措置費の支弁について
(ア)

被告県による支弁

被告県は,原告らの在園中,被告恩寵園に対し,法50条7号に基づき,その措置児童数に応じた事務費を支弁してきたが,上記措置児童数には,原告Dを除く原告らに対応する員数も計上されている。
また,事業費に関し,被告県及び千葉市は,千葉市が政令指定都市となった平成4年度以降,前記ア(イ)bの協議を行い,協定人員を定めて支弁することとしたため,同年度以降,被告県は,その措置児童数にかかわらず,被告恩寵園の定員のうち,被告県の負担すべき協定人員に対応する事業費を支弁してきた。
(イ)

千葉市による支弁

千葉市は,原告Dの在園中,被告恩寵園に対し,地方自治法252条の19第1号,児童福祉法59条の4並びに同条の委任する同施行令18条の3及びその委任政令たる地方自治法施行令174条の26第1項に基づき,児童福祉法50条7号の定める事務費を,その措置児童数に応じて支弁してきたが,上記措置児童数には,原告Dに対応する員数も計上されている。
また,千葉市は,被告県との上記協議に基づき,原告Dの在園中も,その措置児童数にかかわらず,被告恩寵園の定員のうち,千葉市の負担すべき協定人員に対応する事業費を支弁してきた。

その他の費用支弁について
(ア)

被告県による支弁

被告県は,原告らの在園中,被告恩寵園に対し,
千葉県児童福祉施設等県単措置費実施要領に基づき,被告県が措置した児童の処遇向上を図るために必要な費目について,被告県の単独事業により支弁すべき費用として,県単児童保護措置費を支弁してきた。これは,被告県による措置児童数に応じて支弁してきたものであるが,原告らの在園中においては,上記措置児童数に,原告Dを除く原告らに対応する員数も計上されている。
(イ)

千葉市による支弁

千葉市は,原告Dの在園中,被告恩寵園に対し,
千葉市児童福祉施設等市単措置費実施要領に基づき,千葉市が措置した児童の処遇向上を図るために必要な費目について,千葉市の単独事業により支弁すべき費用として,市単児童保護措置費を支弁してきた。これは,千葉市による措置児童数に応じて支弁してきたものであるが,原告Dの在園中においては,上記措置児童数に,原告Dに対応する員数も計上されている。(2)

判断

ア(ア)

法は,国及び地方公共団体が,保護者とともに,児童を心身とも

に健やかに育成する責任を負うと規定し(法2条)
,その責務を果たさ
せるため,都道府県に児童相談所の設置を義務付け(法15条)
,保護
者がないか又は保護者による適切な養育監護が期待できない児童(以下要保護児童という。
)については,都道府県は,児童相談所の長の
報告を受けて養護施設に入所させるなどの措置を採るべきこと(法27条1項3号)
,保護者が児童を虐待しているなどの場合には,都道府県
は,親権者又は後見人(以下,併せて親権者等という。
)の意に反
する場合であっても,家庭裁判所の承認を得て養護施設に入所させるなどの措置を採ることができること(法28条)
,都道府県が3号措置に
より児童を養護施設(国の設置する施設を除く。
)に入所させた場合,
入所に要する費用のほか,入所後の養育につき法45条に基づき厚生大臣が定める最低基準を維持するために要する費用は都道府県の支弁とし(法50条7号)
,都道府県知事は,本人又はその扶養義務者から,負
担能力に応じて費用の全部又は一部を徴収することができること(法56条2項)
,養護施設の長は,親権者等のない入所児童に対して親権を
行い,親権者等のある入所児童についても,監護,教育及び懲戒に関し,その児童の福祉のため必要な措置を採ることができること(法47条)などを規定する。
このように,法は,保護者による児童の養育監護について,国又は地方公共団体が後見的な責任を負うことを前提に,要保護児童に対して都道府県が有する権限及び責務を具体的に規定する一方で,養護施設の長が入所児童に対して監護,教育及び懲戒に関しその児童の福祉のため必要な措置を採ることを認めている。上記のような法の規定及び趣旨に照らせば,3号措置に基づき養護施設に入所した児童に対する関係では,入所後の施設における養育監護は本来都道府県が行うべき事務であり,このような児童の養育監護に当たる養護施設の長は,3号措置に伴い,本来都道府県が有する公的な権限を委譲されてこれを都道府県のために行使するものと解される。
したがって,都道府県による3号措置に基づき社会福祉法人の設置運営する養護施設に入所した児童に対する当該施設の職員等による養育監護行為は,都道府県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解するのが相当である。
(最高裁平成17年(受)第2335号,第2336
号同19年1月25日第一小法廷判決・民集61巻1号1頁)
(イ)そうすると,前記前提事実のとおり,原告Dを除く本件原告らは,いずれも被告県の行った3号措置により園に入所したものであるから,上記原告らに対する関係では,被告Zによる養育監護行為は,被告県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為というべきであり,被告県は,国賠法1条1項により,被告Zの原告らに対する前記1の各不法行為につき,その損害を賠償する責めを負うものと認められる。

原告Dとの関係について
これに対し,原告Dは,前記前提事実のとおり,千葉市が委任した千葉市児相所長によって入所措置が行われている。そこで,同原告に対する関係でも,被告Zの養育監護行為が被告県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為といいうるかにつき,以下検討する。
(ア)

この点,前記前提事実(3)イで述べたとおり,いわゆる政令指

定都市は,地方自治法252条の19第1項1号,児童福祉法59条の4第1項,同施行令18条の3及び地方自治法施行令174条の26により,児童福祉法15条に基づく児相設置義務を負い,同法27条1項3号及び28条の各措置を行う権限を有し,費用に関する同法50条7号及び56条2項に定める権利義務を有する。そして,児童福祉法47条の規定は政令指定都市が入所措置した児童との関係でも,その養護施設の長に当然に適用されるところ,これらの法の規定及び趣旨に照らせば,前記ア(ア)に述べたのと同様の理由により,政令指定都市による3号措置に基づき養護施設に入所した児童に対する関係では,当該養護施設の職員等の養育監護行為は,当該政令指定都市の公権力の行使に当たる公務員の職務行為としての側面を有するといえる。このことは,政令指定都市の設置する児相所長が,政令指定都市の長の委任を受けて3号措置を行った場合でも異なることろはない。
したがって,前記前提事実(3)イ及び(4)
(ク)に照らし,原告
Dに対する関係では,被告Zの養育監護行為は,千葉市の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と認めることができる。
(イ)

しかしながら,原告Dに対する被告Zの養育監護行為は,以下の

理由により,なお被告県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為でもあると解するのが相当である。

養護施設に入所した児童に対する当該養護施設の職員等の養育監護行為が,地方公共団体の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解される場合,その所以は,入所後の施設における養育監護が本来当該地方公共団体が行うべき事務であり,当該職員等が本来地方公共団体の有する公的な権限を委譲されて,これを当該地方公共団体のために行使するものと解される点に求められる。


この点,県知事は,養護施設に関しては,社会福祉法人一般に対して有する社会福祉事業法上の監督権限のみならず,特に,法46条に基づき,法45条の最低基準を維持するための監督権限を有し,さらに,法58条に基づき,法35条4項の規定により設置した養護施設が法若しくは法に基づいて発する命令又はこれに基づいてなす処分に違反したときは,同項の認可を取り消す権限を有しているが,上記各権限は,本件において,千葉市が児童を園に入所措置した場合にも,なお県知事に留保されるものである。
しかるところ,法45条及び46条が,最低基準の定立義務及びその維持の監督権限を定めたのは,憲法25条,法1条ないし3条の趣旨に鑑み,児童がひとしく適正な施設のもとに養育監護されるべきことを目的としたものと解され,また法58条が,上記認可取消権限を定めたのは,養護施設において,入所児童に対し,児童の健全育成という法の趣旨に沿った養育監護を行わせしめるためと解される。
そうである以上,現に養護施設に入所措置されている児童に対する関係では,仮に千葉市が入所措置した場合であっても,被告県が養育監護行為の事務の主体としての責任から完全に解放されているとはいえないというべきである。
以上からすれば,千葉市が入所措置した児童に対する関係においても,当該児童が現に入所した後の施設における養育監護については,千葉市が行うべき事務であると同時に,少なくとも国賠法1条1項の責任主体の観点においては,被告県が行うべき事務であると評価されてもやむを得ない。そしてこのような児童の養育監護に当たる養護施設の長は,本来千葉市が有する公的な権限を委譲されてこれを千葉市のために行使するのみでなく,入所後の児童に対して被告県が有する公的な権限を委譲されてこれを被告県のために行使するものと解するのが相当である。

したがって,本件において,少なくとも国賠法1条1項の責任主体を検討する限度においては,千葉市による3号措置に基づき養護施設に入所した原告Dに対する被告Zの養育監護行為は,千葉市の公権力の行使に当たる公務員の職務行為であるとともに,被告県の公権力の行使に当たる公務員の職務行為と解するのが相当である。


被告県の主張について
(ア)

上記ア(ア)の判断に関する主張について
被告県は,法27条4項が,親権者等の意に反して3号措置を採る
ことはできない旨定めることをもって,入所後の施設における養育監護は,親権者等の依頼に基づき,当該施設で行われるものであり,都道府県の入所措置は,施設への入所措置をあっせんするものに過ぎないとして,養護施設の職員等による養育監護行為を都道府県の公権力の行使に当る公務員の職務行為ということはできない旨主張する。しかし,都道府県による法27条の措置が行われる児童は,児相所長及び家庭裁判所により,法27条に基づく措置の必要性が認められて都道府県知事に報告ないし送致された児童であり,この中には,親権者等の保護者がいない児童や保護者に観護させることが不適切と認められる児童(要保護児童)も含まれる。そして,3号措置は,都道府県が,その判断に基づき,同条1項1号ないし6号の措置のうちから,その児童に適切な措置として3号措置を選択した結果,なされるものである。
このような経緯に照らせば,3号措置は,都道府県により,児童の福祉のためにあくまで公権的に行われるものであることが明らかであり,単なる施設への入所のあっせんということはできない。
また,同条4項についても,そもそも3号措置の趣旨が,親権者等による適切な監護養育が期待できない児童の保護にあることからすると,親権者等が反対の意を表明しているときには3号措置を強行できないにすぎないと解するのが相当であって,同項の定めによっても,都道府県が3号措置を採る際,親権者等の承諾を得ることが必ずしも必要となるものではない。
そうすると,3号措置に基づく施設への入所を,親権者等の依頼に基づくものと解するのは相当でなく,その後の養育監護についても親権者の依頼に基づくものと解することもできない。
以上より,被告県の上記主張は採用できない。

また,被告県は,社会福祉事業法4条,5条1項2号及び3号(平成12年6月7日法律第111号による改正後の社会福祉法60条,61条1項2号及び3号)において,社会福祉法人の地方公共団体に対する独立性が認められているとして,養護施設の職員等による養育監護行為を都道府県の公権力の行使に当る公務員の職務行為ということはできない旨主張する。
しかし,社会福祉事業法5条1項2号及び3号は,あくまで不当な関与及び援助要求を禁じているのであって,その趣旨とするところは,民間の社会福祉事業を健全に発展させるために,国及び地方公共団体はその責任に属する分野に専念すべきとの点にあると解される。そのうえでなお,同法が54条以下で,地方公共団体の社会福祉法人に対する強い監督権限及び助成に関する定めを置いていることからすると,地方公共団体は法律上当然にかかる監督・助成主体としての権限及び責任を負うものと解するのが相当である。
そうすると,同法5条1項2号及び3号の規定をもって,上記ア
(ア)に示した児童福祉法上の定めから導かれる判断を妨げる程の独立性を,養護施設に認めることはできない。なお,社会福祉事業法4条は,第一種社会福祉事業の事業主体を限定した規定にすぎず,同条によって,社会福祉法人の地方公共団体に対する独立性を認めることはできない。
以上より,被告県の上記主張は採用できない。

さらに被告県は,国賠法1条1項の適用上,私人が公共団体の公権力を行使しているというためには,当該公共団体が当該業務の主体といえる程度に私人の業務に関与していることを要する旨を主張する。しかし,
当該私人の業務が,
本来公共団体が行うべき事務であって,
公共団体から委託を受けて行っているものであり,かつ上記委託にともない,当該私人が公共団体から公的権限の委譲を受け,それを当該公共団体のために行使していると評価できる以上,
当該私人の業務は,
それに対する公共団体の関与の程度を問題とするまでもなく,当該公共団体の公権力を行使している公務員の職務行為と評価するのが相当であって,被告県の上記主張は採用できない。


また,被告県は,入所措置の主体によって責任を負う主体が決まるとすると,措置主体が異なれば,同じ施設で同等の養育監護を受けている児童につき,責任主体が異なることとなり不合理である旨主張する。
しかし,前記ア及びイに判示したとおり,入所後の児童に対する養護施設の職員等による養育監護行為につき,国賠法1条1項の責任を負う主体は,単に入所措置の主体によって決まるものではなく,法の規定及び趣旨を総合的に解釈し,当該養育監護行為について,誰が本来的な事務及び権限の主体と解されるかによって決せられるものである。したがって,被告県の上記主張は,その前提を欠くものであり,また,入所措置の主体によって必ずしも責任主体が異なる事態とはならないことも前記判示のとおりである。
よって,被告県の上記主張は採用できない。
(イ)

その余の主張について

被告県は,本件請求原因で主張される被告Zの各行為は,いずれも入所児童に対する養育監護の一環とはいえないため,国賠法1条1項にいう職務を行うについてなされたものとはいえない旨主張する。
しかし,国賠法1条1項にいう職務を行うについてに該当する行
為は,外形的にみて,加害公務員の行為が職務行為の外形を有すれば足りると解されるところ,被告Zによる本件各行為は,被告Zが施設長を務める養護施設内で,入所児童に対し,入所児童に対する施設長ないし職員という立場を前提として行われたものであり,外形上,養護施設職員が,入所児童に対して養育監護を行うにつきなされたものと認められる。
したがって,被告Zによる本件各行為は,国賠法1項1項にいう職務を行うについてなされたものといえ,被告県の上記主張は採用できない。

被告Z個人の責任について
(ア)

国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務
員の職務行為に基づく損害については,国又は公共団体が賠償の責めに任じ,職務の執行に当たった公務員は,個人として被害者に対しその責任を負わないとしたものと解される(最高裁昭和28年(オ)第625号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁等)。
これを本件についてみるに,原告らに対する被告Zの養育監護行為が被告県の公権力の行使に当たり,被告Zの本件各不法行為により原告らが被った損害につき被告県が国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負うことは前記判示のとおりであるから,本件において,被告Zは,民法709条に基づく損害賠償責任を負わないというべきである。
(イ)a

これに対し,原告らは,本件が,平成19年最高裁判決と異な

り,児童の養育保護について直接責任を負うべき被告Zにおいて,故意に行った行為の責任が問われている事案であることから,被告Z個人も不法行為責任を負担すべき旨主張する。
しかし,公務員が,権限行使の意思を何ら有さないのに,職務行為を装って,故意に他人に損害を加えたというような場合であればともかく,本件各不法行為は,被告Zにおいて,その職務行為である養育監護行為を行うにつきなされたものであり,上記のような事情も認められないのであるから,本件各不法行為が故意に行われたものであることを前提としても,被告Zは個人としての責任を負わないとするのが国賠法の法意と解される。
よって,原告らの上記主張は採用できない。

また,原告らは,被告Z及び被告恩寵園だけが被告とされた場合には,被告Z及び被告恩寵園は損害賠償責任を免れないところ,被告千葉県を共同被告とした場合に,責任が免除されるのは,不合理である旨主張するが,仮に被告Z及び被告恩寵園のみが被告とされていた場合でも,本争点におけるこれまでの判断と同様の判断により,被告Z個人の民法709条に基づく責任は認められないこととなる。
よって,原告らの上記主張は採用できない。
3
争点3(監督義務違反を理由とした被告県の国賠責任)について
前記2に判示したとおり,被告県は,被告Zの養育監護行為につき行われた不法行為に基づく損害について,上記養育監護行為が被告県の公権力の行使に当る公務員の職務行為に該当するとの理由で国賠法1条1項の賠償責任を負担するのであるから,本争点については判断するまでもない。

4
争点4(被告恩寵園の使用者責任)について
(1)

前記2で判示したとおり,被告Zの本件不法行為による損害について
は,被告県が国賠法1条1項の賠償責任を負うところ,前記2(2)エ(ア)に示した法の趣旨からすれば,国又は公共団体以外の者の被用者が第三者に損害を加えた場合であっても,当該被用者の行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たるとして国又は公共団体が被害者に対して同項に基づく損害賠償責任を負う場合には,被用者個人が民法709条の責任を負わないのみならず,使用者も同法715条に基づく責任を負わないと解するのが相当である。
したがって,
本件において被告恩寵園は,
被告Zの本件各不法行為につき,
民法715条の責任を負わない。
(2)ア

なお,原告らは,本件が,平成19年最高裁判決と異なり,児童の
養育保護について直接責任を負うべき被告Zにおいて,故意に行った行為の責任が問われている事案であることから,当該施設設置主たる法人も損害賠償責任を負担すべきと主張する。
しかし,被告Zの本件各不法行為が故意に基づくものであることを前提としても,本件においては,前記判示のとおり,被告Zに民法709条の責任が認められないのであるから,その使用者たる被告恩寵園においても民法715条の責任は負わないものと解すべきである。

また,原告らは,被告Z及び被告恩寵園だけが被告とされた場合には,被告Z及び被告恩寵園は損害賠償責任を免れないところ,被告県を共同被告とした場合に,責任が免除されるのは,不合理である旨主張するが,仮に被告Z及び被告園のみが被告とされていた場合でも,争点3及び本争点におけるこれまでの判断と同様の判断により,被告恩寵園の民法715条に基づく責任は認められないこととなる。


よって,原告らによる上記(ア)及び(イ)の各主張は,いずれも採用できない。

5
争点5(消滅時効)について
(1)

被告県が,原告Hらの各本訴請求につき,平成18年12月21日の
本件第32回口頭弁論において,消滅時効を援用する旨の意思表示を行った事実は当裁判所に顕著であるところ,前記前提事実に加え,証拠(各項末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。ア
原告Kに関する事情
(ア)

Lは,平成2年3月11日,園において原告Kと面会した際,同

原告の両ほほ及び顎の3か所に,青くあざができているのに気が付き,同原告から事情を聞いた。これに対し,同原告は,Lに,通知表のことで被告Zに殴られた旨話した。なお,これ以前に,同原告は,Lに対し,被告Zから太い蝋燭で殴られた旨話していた。
(イ)

Lは,原告Kが無断外出(本件無断外出)をした同年5月2日の

夜から,同原告が同月21日に市川児相に一時保護されるまでの間,Lのアパートで同原告と同居していたところ,同月9日までの間に,同原告から,前記1(10)ア(エ)の事実経過を知らされた。また,このときまでに,Lは,同原告から,通知表に被告Zの押印がもらえず,学校に提出できなかったため,学校から園に電話がかかってきたことがあったとの事実も聞いた。
(ウ)

Lは,同月9日,本件無断外出を受けて,市川児相に行った際,

上記(ア)及び(イ)の事実を,児相職員に話した。
(エ)

その後,原告Kは,同月31日付けで措置解除となり,Lはこの

ころから同原告と同居を始めたが,これ以降も,Lは,同原告の園における辛い経験や,原告J,同I及び同Hに対する被告Zの行為等に関する話を,原告Kから聞いた。

原告Jに関する事情
(ア)a

原告Jは,平成5年9月3日,園に無断でL方に帰った。

その理由につき,同原告は,Lに対し,同年6月26日の夕食時,同原告の班のテーブルが騒がしかったことを理由に,被告Zが怒り,同原告を含む上記班の園児らに罰を与えたが,その後も怒り続けており,同年9月1日の中学校の始業式にも,被告Zが制服を取り上げたため,同原告は出席できなかった旨述べた。

Lは,同月7日,市川児相の職員から電話がかかってきた際,上記aの事実を上記児相職員に伝えた。


原告Jは,同年10月1日に帰園するまでの間,Lと同居していたが,その間,被告Zに暴力をふるわれること,正座をさせられること及び食事を取らせてもらえないこと等を話し,家庭に引き取ってもらいたい旨伝えた。

(イ)a

原告Jは,平成6年5月9日,園に無断でL方に帰った。

その理由につき,同原告は,Lに対し,園において立たされたり,学校に行けないようにされたり,食事も取らせてもらえない等と述べた。

Lは,同月18日,市川児相に電話をかけ,上記aの事実及び園において顔を叩かれることもあるようである旨を,児相職員に伝えるとともに,自分が言える立場ではないが,そういうやり方はあまり良いとは思えない旨述べた。
(ウ)

原告Jは,その約1か月後の平成6年6月14日付けで措置解除

となり,このころからLと同居を始めた。

原告Hに関する事情
(ア)

Lは,平成5年8月9日,原告HがL方へ帰省した際,同原告の

顔にあざがあることに気が付き,
同原告から事情を聞いた。
これに対し,
同原告は,Lに,入浴時にタオルを忘れ,他の園児に借りたところ,被告Zに見つかり,殴られた旨話した。
(イ)

Lは,同月11日,市川児相に電話をかけ,上記(ア)の事実を

児相職員に伝えたうえで,園には子供達が世話になっていて感謝しているが,子供がかわいそうになってしまった旨述べ,引き取りたいが,生活が安定していないため,他の施設に入れないかを打診した。

Lによる面会等に関する事情
(ア)

Lは,原告Hらが園に入所してから,原告Kが措置解除になるま

での16か月間に,約17回にわたり原告Hらに面会し,約10回にわたり原告Hらに電話をかけた。
(イ)

Lは,原告Kの措置解除後,原告Jが平成6年5月9日に園に無

断で帰宅するまでの約4年間に,12回にわたり原告J,同I,同Hに面会し,8回にわたり上記原告らに電話をかけた。
また,この間,上記原告らは,7回にわたり各回1週間程度,L方に帰省した。
(ウ)Lは,その後原告I及び同Hが措置解除になるまでの約2年間に,3回にわたり上記原告らに面会し,上記原告らは,この間に4回にわたり,各回1週間程度,L方に帰省した。
(エ)

原告Hらは,L方に帰省した際及びLが面会に来た際に,自分や

その姉,妹ないし弟に対する被告Zの暴力等について,Lに話をしていた。

本件集団駆込み後の事情
(ア)

平成8年4月3日及び同月4日ころ,上記両日に発生した本件集

団駆込みに関し,園における体罰が原因で園児らが集団駆込みした旨の報道がなされた。
(イ)

Lは,上記報道を,新聞及びテレビで見聞し,同月10日,市川

児相に電話をかけ,原告I及び同Hが心配であり,面接したい旨伝えるとともに,上記原告らに引取りの見込み等を,児相職員に話した。なお,この際,児相職員は,Lに対し,報道は体罰が脱走の原因とされているが,実際は以前のような体罰はなくなっており,園長と保母らの対立が原因である旨述べた。
(2)

判断

ア(ア)

本件においては,原告Hらが主張する被告Zの本件各不法行為が

行われた当時,原告Hらは,いずれも未成年者であったため,まず原告Hらの親権者たるLにおける認識につき検討する。

原告Kについて
前記認定事実のとおり,原告Kは,平成2年5月31日付けで措置解除になっているところ,
それまでもLは,
原告Kの無断外出の際や,
面会及び電話を通じ,原告K及びその妹弟から,原告Kが被告Zから暴力を受けた事実を聞き,またそのためにあざができることもあった事実を確認しており,かつ上記措置解除後も原告KがLと同居し,自分が園で経験した辛いことを話した事実が認められることからすると,遅くとも上記同居を開始したころには,本件で原告Jが主張する被告Zの不法行為についても,原告Kないしその妹弟から聞いて認識していたものと認められる。
そうすると,原告Kが措置解除となった平成2年5月31日ころには,Lにおいて,上記不法行為の損害及び直接の加害者を知ったということができる。

原告Jについて
前記認定事実のとおり,Lは,平成6年5月9日の原告Jの無断外出の際,同原告が園で食事を取らせてもらえなかったことや,学校に行けないようにされたこと等を同原告から聞いており,それまでも,平成5年9月の原告の無断外出の際や,面会,電話ないし帰省に際して,原告J及びその妹弟から,原告Jが被告Zによって暴力を受けた事実,登校を妨害された事実,正座をさせられ,食事を禁じられた事実等を聞いていることからすると,遅くとも上記平成6年5月9日の無断外出のころには,本件で原告Jが主張する被告Zの不法行為についても,原告Jないしその妹弟から聞いて認識していたものと認められる。
そうすると,平成6年5月9日ころには,Lにおいて,上記不法行為の損害及び直接の加害者を知ったということができる。


原告Iについて
前記前提事実及び前記認定事実のとおり,原告Iは,平成8年5月24日付けで措置解除となっているところ,それまでもLは,面会,電話ないし帰省に際して,原告Iないしその姉弟から,原告Iが被告Zから暴力を受けた事実等を聞いていたと認められるのに加え,上記措置解除後は家庭引取りとなっている事実からすると,遅くとも上記措置解除及び家庭引取りとなったころには,本件で原告Iが主張する被告Zの不法行為についても,原告Iないしその姉弟から聞いて認識していたものと認められる。
そうすると,原告Iが措置解除及び家庭引取りとなった平成8年5月24日ころには,Lにおいて,上記不法行為の損害及び直接の加害者を知ったということができる。

原告Hについて
前記前提事実及び前記認定事実のとおり,原告Hは,平成8年5月24日付けで措置解除となっているところ,それまでもLは,平成5年8月の原告Hの帰省の際や,その他の帰省,面会ないし電話に際して,原告Hが被告Zから暴力を受けた事実等を聞き,またそのためにあざができることもあった事実を確認していたと認められるのに加え,上記措置解除後は家庭引取りとなっている事実からすると,遅くとも上記措置解除及び家庭引取りとなったころには,本件で原告Hが主張する被告Zの不法行為についても,原告Hないしその姉らから聞いて認識していたいものと認められる。
そうすると,原告Hが措置解除及び家庭引取りとなった平成8年5月24日ころには,Lにおいて,上記不法行為の損害及び直接の加害者を知ったということができる。

(イ)

また,前記認定事実によれば,Lは,被告Zの原告Hらに対する

暴行等につき,市川児相に繰り返し報告していたことが認められるのであり,これによれば,Lは,被告県に対し,その責任を追及し,賠償を求めることができたものと解するのが相当である。

一方,たとえLが,前記ア(ア)a及びbに認定した時点で,原告K及び原告Jの賠償請求権を行使するに足りる認識を有していたとしても,前記ア(ア)bの時点では,いまだ原告J自身が在園中であり,それ以降も,園には上記各原告らの妹弟である原告I及び原告Hが入所措置されている状態であることに鑑みると,Lにおいて,園の施設長たる被告Zの不法行為を主張して,被告県に賠償請求を行うのは不可能だったといわざるを得ない。


以上を総合すれば,原告Hらの前記2において認定された被告県に対する国賠法1条1項の賠償請求権の消滅時効は,いずれも遅くとも平成8年5月24日には進行を開始すると解するのが相当であり,遅くとも平成11年5月24日の経過をもって,上記各消滅時効が完成したものと認められる(国賠法4条,民法724条前段)

よって,平成18年12月21日の本件第32回口頭弁論期日における被告県による消滅時効の援用により,原告Hらの前記2において認めた被告県に対する国賠法1条1項の賠償請求権は消滅したと認められる。エ
原告Hらの反論について
(ア)

これに対し,原告Hらは,Lがその能力において法の予定するよ

うな親権者としての権利行使を期待できる人物ではなく,また従前の児相の対応及び子を施設に預けている親の引け目から,被告Zの不法行為につき損害賠償請求が可能と考えていなかったとの理由により,Lが法定代理人として行使する賠償請求権の消滅時効も,原告Hら自身が権利行使しうる時点まで,進行を開始しない旨主張する。

しかし,前記認定事実のとおり,Lは被告Zの原告Hらに対する暴力等につき,繰り返し児相に報告しているうえ,その際に被告Zの行為を批判したり,ときには自ら児相に電話をかけて被告Zの暴行を訴えたりしており,また,原告Hがあざを作って帰省した際や,本件集団駆込みの報道に接した際には家庭引取りの必要性を認識してその見込み等を述べたりしているのである。
そうすると,たしかに証拠によれば,Lは,原告Hらの在園当時,自分自身で原告Hらを養育監護するに足りる能力は有していなかったと認められるが,Lの上記言動からすると,Lにおいて原告Hらの親権者として被告Zの不法行為につき権利主張する意思ないし能力は有していた事実が窺えるのであって,前記認定事実に照らせば,本件全証拠によっても,Lにつき親権者として本訴請求権の行使が期待できない人物であったとまでは認めることはできない。

また,そもそも民法166条1項にいう権利を行使することができるとは,法律上の障碍がないことをさすというべきところ(最高裁昭和48年(オ)第647号同49年12月20日第二小法廷判決・民集28巻10号2072頁)
,従前児相が被告Zの行為を問題としな
かったために,Lが被告Zの不法行為につき損害賠償請求が可能と考えなかったとの事情は,Lの損害賠償請求権を行使するにつき,なんら法律上の障碍となるものではなく,消滅時効の進行を妨げる事情とはなりえない。
この点は,施設に子を預けた引け目があったとの事情に関しても同様であるうえ,原告Hらが全員措置解除となった後も,3年以上本訴請求がされなかったことに照らせば,上記事情により,Lが賠償請求権を行使ができなかったと解することはできない。


よって,原告Hらの上記主張はいずれも採用できない。

(イ)

また,原告Hらは,県知事が被告園に対する監督権限を発動しな

かったことで,被告Zの体罰等を継続させ,Lに権利救済の希望を失わせ,権利行使能力の涵養を阻害したとして,被告県による時効援用権援用につき,権利濫用を主張する。
しかし,上記(ア)aで指摘したとおり,Lにおいて原告Hらの親権者として被告Zの不法行為につき権利主張する意思ないし能力は有していたといえるのであって,県知事の被告園に対する監督権限不行使という原告Hらの主張を前提しても,Lにおいて,権利救済の希望を失い,被告県により権利行使能力の涵養を阻害されたとの事実を認めることは,本件全証拠を以てしても困難である。
よって,原告Hらの上記抗弁は理由がない。
(ウ)

なお,原告Hらは,被告県による消滅時効の主張が,最終準備書
面でなされたものであり,時機に遅れた主張である旨主張する。
たしかに,本訴が平成12年5月から係属しており,争点としても主張立証の提出に困難を伴う性質のものではないことに照らせば,被告県による上記主張が適時になされたものか,疑問なしとしない。しかし,原告Kの被告Zに対する本訴請求権については,平成14年1月24日の本件第6回口頭弁論期日において,被告Zにより消滅時効の主張がされ,また,原告J,原告I及び原告Hの被告Zに対する本訴請求債権についても,
平成18年5月25日の本件第29回口頭弁論期日において,
被告Zにより具体的に消滅時効の主張がされ,その後も攻撃防御が行われてきたところ,被告県の消滅時効の主張は,被告Zによる上記各主張とほぼ同様である。これに加え,被告県による上記最終準備書面の提出前に,原告Hらにおいて,被告県により消滅時効の主張がなされるものと仮定した反論の主張が一応なされていることからすれば,被告県による消滅時効の主張が上記時点で行われたことにより,原告Hらの防御の困難性が殊更に増大したものとは認められないのであって,
上記主張が,
従前の訴訟状態に対する原告Hらの信頼を裏切るものであるとまではいえない。
また,被告県の消滅時効の主張に対する原告Hらの反論は,被告Zの消滅時効の主張に対する反論とほぼ重複するものであり,付加される事情についても,従前被告県による監督義務違反の争点として攻撃防御が尽くされてきた事実に基づくものであるから,被告県の消滅時効の主張が上記時点で行われたことによって,新たな人証の取調べが必要となった等の事情もなく,上記主張が訴訟の完結を遅延させたとはいえない。したがって,被告県による上記主張は,時機に遅れたものとして却下することが相当なものとまでは認められず,当裁判所においてこれを却下することはしない。
第3

結論
以上のとおり,原告Aの請求は,被告県に対して40万円,原告Bの請求は,被告県に対して80万円,原告Cの請求は,被告県に対して40万円,原告Dの請求は,被告県に対して10万円,原告Eの請求は,被告県に対して10万円,原告Fの請求は,被告県に対して30万円,原告Gの請求は,被告県に対して80万円及びこれらに対する各不法行為の後の日である平成12年5月23日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員の各支払を求める限度で理由があるから,その限りにおいてこれを認容することとし,上記原告らの被告県に対するその余の請求並びに被告Z及び被告園に対する請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,原告Hらの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

千葉地方裁判所民事第5部

裁判長裁判官


裁判官

裁判官

川隆人三村義幸鎌戸田泉
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