判例検索β > 平成19年(う)第1539号
詐欺被告事件
事件番号平成19(う)1539
事件名詐欺被告事件
裁判年月日平成19年9月18日
法廷名東京高等裁判所
結果破棄自判
判例集等巻・号・頁第60巻3号8頁
原審裁判所名新潟地方裁判所
判示事項1 包括一罪を構成する一連の行為の中間に別罪の確定裁判が介在した場合と刑法45条後段の適用
2 包括一罪を構成する一連の行為が執行猶予付き懲役刑を言い渡した確定裁判の前後にまたがって行われた場合と刑法25条の適用
裁判要旨1 包括一罪を構成する一連の行為の中間に別罪の確定裁判が介在した場合,その包括一罪は確定裁判を経た罪と刑法45条後段の併合罪の関係に立つものではない。
2 包括一罪を構成する一連の行為が執行猶予付き懲役刑を言い渡した確定裁判の前後にまたがって行われた場合,刑法25条1項1号により刑の執行を猶予することはできない。
裁判日:西暦2007-09-18
情報公開日2017-10-13 02:04:37
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主文
原判決を破棄する
被告人を懲役1年に処する
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予
する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
理由
本件控訴の趣意は,検察官田邊哲夫作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり,これに対する答弁は弁護人福島昭宏作成の答弁書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。
所論は,原判決が罪となるべき事実で認定する被告人の所為は,いわゆる包括一罪であり,れが終了したのは,告人を懲役1年6月,こ

3年間執行猶予に処した裁判が確定した後であり,被告人は原判決時にこの執行猶予期間中であったのであるから,刑法45条後段を適用する余地はなく,被告人に対しては,同法25条2項により,情状に特に酌量すべきものがある場合に限り再度の執行猶予に付することが許され,その場合には,同法25条の2第1項後段により被告人を保護観察に付さなければならないのに,刑法45条後段,刑法25条1項1号を適用して被告人に保護観察付きでない単純な執行猶予を付した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというのである。
そこで検討すると,原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,被告人が,共犯者7名と共謀の上,故意に自動車による交通事故を作出し,保険会社から保険金名下に金員を詐取しようと企て,平成17
年8月10日,被告人がレンタルリース会社から借り受けた普通貨物自動車を運転し,共犯者Aが運転し他の共犯者らが同乗する普通乗用自動車の後部に故意に追突させる交通事故を作出した上,被告人において,情を知らないレンタルリース会社の担当者に被告人の過失により上記事故を起こした旨の虚偽の申告をし,同社から保険会社にその旨の申告と自動車保険契約に基づく保険金の支払を請求する旨の申立てをさせ,引き続き,共犯者らにおいて,同保険会社の担当者に対し,上記交通事故により上記A運転の車両が損壊するとともに,共犯者らが負傷した旨申し立てるなどして保険金の支払を請求し,同保険会社の担当者を誤信させ,治療費,休業損害等として保険金の支払を決定させて,平成17年9月6日から平成18年8月11日までの間,前後71回にわたって,共犯者ら及び医療機関等の預金口座に対し,合計1433万5522円を振込入金させたという保険金詐欺の事実である。
本件においては,被告人及び共犯者らが,共謀の上,長期間のうちに多数回にわたり虚偽の申告や保険金の請求といった実行行為を繰り返しているが,これらの行為は,同一の偽装事故に基づく同一の被害会社に対する一連の保険金請求として,社会的な事実関係及び被害法益が同一であり,被告人及び共犯者らが事前の共謀に基づきその犯意を持続させて繰り返したものであるから,全体として包括して一罪を構成するものと解すべきである。
そして,関係証拠によれば,被告人は,平成18年2月21日,神戸地方裁判所豊岡支部で建造物侵入窃盗の罪により懲役1年6月,執行猶予3年に処せられ,この裁判は同年3月8日に確定したことが
認められるところ,被告人及び共犯者らによる本件の一連の行為は,この確定裁判の前後にまたがっている。このような場合,包括一罪を構成する本件行為は上記確定裁判後に終了したのであるから,刑法45条の適用については確定裁判後の犯罪と評価すべきものであるとともに,この確定裁判による執行猶予期間中の犯罪であって,原判決はその猶予期間中に言い渡されたのであるから,再度の執行猶予に関する刑法25条2項,25条の2第1項後段により,1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを行い,情状特に酌量すべきものがある場合に限り,被告人を保護観察に付した上で執行猶予を言い渡すことが許されると解するのが相当である。
この点,原判決は,本件における被告人自身の行為のすべてと共犯者らの行為の大部分は上記確定裁判前のものであり,その後の行為は共犯者Bの行った保険金請求のうち21万6542円分にすぎないことから,包括一罪となる本件行為全体について,上記確定裁判との関係で刑法45条後段の併合罪と評価するとともに,被告人に刑法25条1項1号により,保護観察を付さない執行猶予を認めている。しかし,上記のとおり,被告人及び共犯者らによる本件の一連の行為は,被告人と共犯者らの持続的な共謀及び犯意の下,同一の社会的な事実関係を基礎とし同一の被害法益に対して行われたという社会的実態から,全体として刑法上1つの行為として包括して一罪を構成すると評価されるのであるから,刑法45条の適用に際しても,他の刑法上一罪と評価される犯罪と同様,その行為の終了時を基準として判断すべきである。
また,確かに,関係証拠によれば,本件において,被告人自身は,
当初の偽装事故において加害車両を運転し,レンタルリース会社
の担当者に被告人の過失による事故であるとの虚偽の申告を行い,同担当者を通じて保険会社への保険金の請求を行わせたのみであり,その後犯した別件について上記執行猶予付き懲役刑の確定裁判を受けたのであって,本件がこの確定裁判後の犯罪とされるのは,共犯者Bの行為に基づくものであることが認められる。刑法25条2項が再度の執行猶予の要件を厳格にしている趣旨が,一度執行猶予を許されたにもかかわらず,その猶予期間中に更に罪を犯した場合,再犯の危険が初犯者に比して一層大きいため,初犯者と同じ条件で執行猶予を許すのが相当でないからであることを考慮すると,被告人が執行猶予判決を受けた後に行われたのが共犯者らの行為のみであった本件について刑法25条2項の適用を避けようとした原判決の意図も理解できないわけではない。
しかし,共同正犯の場合に自身の行っていない行為についてまで正犯としての罪責を問われるのが,相互に他の共犯者の行為を自らの行為として利用する関係にあるからである以上,本件についていえば,被告人は,自身の行為のみでなく,共犯者ら全員の行為についても自身の行為と同様の罪責を負うべきである。被告人が,共犯関係から離脱していたのであればともかく,そのような事実が存在しない以上,上記確定裁判後に被告人自身の行為がないことについて,量刑上考慮することは許されるとしても,これを理由に再度の執行猶予に関する刑法25条2項の制限を受けないと解するのは相当でない。
以上によれば,刑法45条後段及び25条1項1号を適用して被告人を懲役1年6月,執行猶予3年に処した原判決には,これらの法令
の解釈適用を誤った違法があり,この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。
よって,刑訴法397条1項,380条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,当裁判所において更に判決する。
原判決が認定した事実に法令を適用すると,原判示認定の所為は,包括して刑法60条,246条1項に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処することとする。なお,被告人は上記のとおり平成18年2月21日に神戸地方裁判所豊岡支部で懲役1年6月に処せられ3年間その刑の執行を猶予され,本件の罪はその猶予の期間内に犯したものであるが,原判決が量刑の理由で判示したところに加え,共犯者らに対する刑との均衡や,本件行為の大半は上記執行猶予付き懲役刑の言渡し前のものであり,被告人が,その言渡しを受けた後,本件の共犯関係から離脱しなかったとはいえ,自ら積極的に本件行為を行ったとは認められないことなどを考慮すると,情状に特に酌量すべきものがあるから,同法25条2項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予することとし,同法25条の2第1項後段によりその猶予の期間中被告人を保護観察に付し,原審及び当審の訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書きを適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官

池田


裁判官

稗田雅洋

裁判官

吉井隆平)

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