判例検索β > 平成15年(わ)第77号
虚偽有印公文書作成・同行使・詐欺、有印公文書偽造・同行使・詐欺
事件番号平成15(わ)77
事件名虚偽有印公文書作成・同行使・詐欺,有印公文書偽造・同行使・詐欺
裁判年月日平成20年1月10日
裁判所名・部佐賀地方裁判所  刑事部
裁判日:西暦2008-01-10
情報公開日2017-10-13 01:37:59
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略語表
本判決書においては下記の略語(五十音順)を用いる。その他の用語等についても,差し支えがない限り,2回目以降適宜の略語を用いることがある。(


)内が略語)
甲町財務規則(財務規則)
甲町体育指導委員(体指)
甲町体育指導委員及び甲町老人クラブ連合会会員(体指等)
甲町体育指導委員連絡協議会(体指会)
甲町老人クラブ連合会(T)
九州地区体育指導委員研究大会(九州体指研究大会)
甲107添付資料(精算金一覧表)
国民健康保険事業(国保事業)
佐賀県体育指導委員実技研修会(体指実技研修会)
支出負担行為兼支出票(支出票)
出張(依頼)票(請求兼領収書)

(出張票)

女性体育指導委員研修会(女性体指研修会)
全国体育指導委員研究協議会(全国体指研究協議会)
主文
被告人を懲役10月に処する
未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
この裁判確定の日から2年間その刑の執行を猶予する。
押収してある出張(依頼)票(請求兼領収書)1通の偽造部分を没収する。理由
(罪となるべき事実)
被告人は,甲町教育委員会事務局生涯学習課主査として,同課が所管する生涯スポーツ事業の企画・運営,非常勤職員である甲町体育指導委員の管理・研修及びそれらの予算執行管理等の職務に従事していたものであるが,同課が所管する生涯スポーツ事業等に関して,内容虚偽の公文書を作成し行使して,あるいは,公文書を偽造し行使して,同町体育指導委員又は同町老人クラブ連合会会員に対する指導・審判の謝金等支払名下に金員を詐取しようと企て,
第1

平成11年4月20日ころ,佐賀県西松浦郡甲町乙丙丁番地所在の生涯学習センター(旧甲町勤労者福祉会館)1階の甲町保健衛生課(平成12年4月1日に保健福祉課と改称)において,真実は,平成10年10月から同11年3月までの間に国保保健事業高齢者出前スポーツリハビリ教室なる事業が開催された事実も,もとより同町体育指導委員であるAらが同事業において指導・審判の支援をした事実もなく,同人らに謝金を支払う必要がなく,被告人において前記体育指導委員に謝金を交付する意思もなかったのに,これらがあるように装って,行使の目的で,ほしいままに,情を知らない同町保健衛生課国民健康保険事務担当職員Bをして,支出額調書」の金額欄に45,500円,ただし欄に「国保保健事業高齢者出前スポーツリハビリ教室指導員謝金,
@3500円×2人×5回=35,000円@3500円×1人×3,回=10500円,支払先欄にA他とそれぞれ記入させた上,作成担当
者欄にBと記名押印させ,もって,公務員として,その職務に関し,虚偽の公文書である支出額調書1通を作成し,同町保健衛生課長を介し,同年4月27日ころ,同町戊己丁目庚番辛号所在の同町役場1階財政課において,支出決定権者である同町財政課長Cに対し,前記支出額調書1通を提出行使し,前記Cをして,その記載内容が真実である旨誤信させ,よって,前記Cの支出決定に基づき,同月30日ころ,同町役場1階会計課窓口において,情を知らない同町会計課主査Dから,情を知らない前記Bを介し,同町体育指導委員に対する指導・審判の謝金支払名下に,
現金4万5500円の交付を受け,
第2

平成11年4月20日ころ,前記第1記載の生涯学習センター1階の保健衛生課において,真実は,平成10年12月から同11年3月までの間に国保保健事業地区の健康づくりスポーツ(ニュースポーツ)なる事業が開催された事実も,もとより同町体育指導委員であるEらが同事業において指導・審判の支援をした事実もなく,同人らに謝金を支払う必要がなく,被告人において前記体育指導委員に謝金を交付する意思もなかったのに,これらがあるように装って,行使の目的で,ほしいままに,
情を知らない前記第1記載のBをして,
支出額調書の金額欄に70,000円,ただし欄に国保保健事業地区の健康づくりスポーツ指導員謝金(ニュースポーツ),@3500円×10回×2名,支払先欄にE他9名とそれぞれ記入させた上,作成担当者
欄にBと記名押印させ,もって,公務員として,その職務に関し,虚偽の公文書である支出額調書1通を作成し,同町保健衛生課長を介し,同年4月27日ころ,前記第1記載の同町役場1階町長室において,支出決定権者である同町町長Fに対し,前記支出額調書1通を提出行使し,前記Fをして,その記載内容が真実である旨誤信させ,よって,前記Fの支出決定に基づき,同月30日ころ,前記第1記載の会計課窓口において,情を知らない前記第1記載のDから,情を知らない前記Bを介し,前記第1記載同様同町体育指導委員に対する指導・審判の謝金支払名下に,現金7万円の交付を受け,
第3

平成12年4月中旬ころ,前記第1記載の同町役場1階の保健福祉課において,真実は,平成11年9月から同12年3月までの間に,
国保保健事業地区の健康づくりスポーツ教室なる事業が開催された事実も,もとより同町体育指導委員であるEらが同事業において指導・審判の支援をした事実もなく,同人らに謝金等を支払う必要がなく,被告人において前記体育指導委員に謝金を交付する意思もなかったのに,これらがあるように装って,行使の目的で,ほしいままに,情を知らない前記第1記載のBをして,
支出額調書の金額
欄に49,000円,ただし欄に国保保健事業地区の健康づくりスポーツ教室(9月∼3月)指導員謝金3500円×2人×7回=49,00,0支払先欄にE他1名とそれぞれ記入させた上,作成担当者欄にB,
と記名押印させ,もって,公務員として,その職務に関し,虚偽の公文書である支出額調書1通を作成し,同町保健福祉課長を介し,同年4月25日ころ,前記第1記載の同町役場1階財政課において,支出決定権者である前記第1記載の同町財政課長Cに対し,前記支出額調書1通を提出行使し,前記Cをして,その記載内容が真実である旨誤信させ,よって,前記Cの支出決定に基づき,同月28日ころ,前記第1記載の会計課窓口において,情を知らない前記第1記載のDから,情を知らない前記Bを介し,前記第1記載同様同町体育指導委員に対する指導・審判の謝金支払名下に,税引き後の現金4万4100円の交付を受け,
第4

平成12年4月中旬ころ,前記第1記載の生涯学習センター1階の甲町教育委員会生涯学習課又はその周辺において,真実は,同年3月25日に佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)なる事業が開催された事実も,もとより体育指導委員であるGらが同事業に参加した事実もなく,同人らに旅費(日当・交通費)を支払う必要がなく,被告人において前記体育指導委員に旅費(日当・交通費)を交付する意思もなかったのに,これらがあるように装って,行使の目的で,ほしいままに,
出張(依頼)票(請求兼領収書)用
紙の出張者欄に生涯スポーツ指導者G外

,用務欄に佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)とそれぞれ記入した上,同町教育委員会生涯学習課において預かり保管中のGと刻した印を冒捺し,もって,同町体育指導委員G外名義の公文書である出張(依頼)票(請求兼領収書)1通を偽造した上,
同町教育委員会生涯学習課長を介し,
同年4月25日ころ,
前記第1記載の同町役場1階財政課において,支出決定権者である前記第1記載の同町財政課長Cに対し,前記出張(依頼)票(請求兼領収書)1通を提出行使し,前記Cをして,その作成名義及び記載内容が真実である旨誤信させ,前記Cの支出決定に基づいて,同月28日ころ,前記第1記載の会計課窓口において,情を知らない前記第1記載のDから,同町体育指導委員に対する旅費(日当・交通費)支払名下に,現金合計3万2960円の交付を受け,第5

平成12年5月上旬ころ,前記第1記載の生涯学習センター1階の甲町教育委員会生涯学習課又はその周辺において,真実は,同年3月18日に婦人スポーツ交流大会(グラウンドゴルフ)なる事業が開催された事実も,もとより同町体育指導委員又は同町老人クラブ連合会会員であるHらが同事業において指導・審判の支援をした事実もなく,同人らに謝金を支払う必要がなく,被告人において前記体育指導委員らに謝金を交付する意思もなかったのに,これらがあるように装って,行使の目的で,ほしいままに,
支出額調書用紙の
金額欄に56,000円
,ただし欄に婦人スポーツ交流大会(グラウンドゴルフ)指導審判謝金(3月18日開催分),支払先欄に「H外とそれ」
ぞれ記入し,もって,公務員として,その職務に関し,虚偽の公文書である支出額調書1通を作成し,同町教育委員会生涯学習課長を介し,同年5月12日ころ,前記第1記載の同町役場1階総務課助役席において,支出決定権者である同町助役Iに対し,前記支出額調書1通を提出行使し,前記Iをして,その記載内容が真実である旨誤信させ,前記Iの支出決定に基づいて,同月15日ころ,前記第1記載の会計課窓口において,情を知らない前記第1記載のDから,同町体育指導委員及び同町老人クラブ連合会会員に対する指導・審判の謝金支払名下に,税引き後の現金5万3900円の交付を受け,第6

平成12年5月下旬ころ,前記第1記載の生涯学習センター1階の同町教育委員会生涯学習課又はその周辺において,真実は,同年3月26日に出前スポーツ教室なる事業が開催された事実も,もとより同町体育指導委員であるJらが同事業において指導・審判の支援をした事実もなく,同人らに謝金を支払う必要がなく,被告人において前記体育指導委員に謝金を交付する意思もなかったのに,
これらがあるように装って,行使の目的をもって,
ほしいままに,
支出額調書用紙の金額欄に24,500円
,ただし欄に出前スポーツ教室講師謝金(3月26日開催),支払先欄に「J外とそれぞれ記入し,」
もって,公務員として,その職務に関し,虚偽の公文書である支出額調書1通を作成した上,
同町教育委員会生涯学習課長を介し,
同年5月27日ころ,
前記第1記載の同町役場1階財政課において,支出決定権者である同町財政課長Cに対し,前記支出額調書1通を提出行使し,前記Cをして,その記載内容が真実である旨誤信させ,
前記Cの支出決定に基づいて,
同月30日ころ,
前記第1記載の会計課窓口において,情を知らない前記第1記載のDから,同町体育指導委員に対する指導・審判の謝金支払名下に,税引き後の現金2万2050円の交付を受け,

第7

平成12年5月下旬ころ,前記第1記載の生涯学習センター1階の同町教育委員会生涯学習課又はその周辺において,真実は,同年3月19日に各区対抗ニュースポーツ大会(グラウンドゴルフ)なる事業が開催された事実も,もとより同町体育指導委員又は同町老人クラブ連合会会員であるKらが同事業において指導・審判の支援をした事実もなく,同人らに謝金を支払う必要がなく,
被告人において前記体育指導委員らに謝金を交付する意思もなかったのに,これらがあるように装って,行使の目的で,ほしいままに,
支出額調書用
紙の金額欄に38,500円
,ただし欄に各区対抗ニュースポーツ大会指導審判謝金(3/19グラウンドゴルフ),支払先欄に「K外とそれぞ」
れ記入し,もって,公務員として,その職務に関し,虚偽の公文書である支出額調書1通を作成した上,同町教育委員会生涯学習課長を介し,同年5月27日ころ,前記第1記載の同町役場1階財政課において,支出決定権者である前記第1記載の同町財政課長Cに対し,前記支出額調書1通を提出行使し,前記Cをして,その記載内容が真実である旨誤信させ,前記Cの支出決定に基づいて,同月30日ころ,前記第1記載の会計課窓口において,情を知らない前記第1記載のDから,同町体育指導委員及び同町老人クラブ連合会会員に対する指導・審判の謝金支払名下に,税引き後の現金3万4650円の交付を受けた。
(証拠の標目)省略
(事実認定の補足説明)
第1
1
本件の主たる争点(以下,略語表の略語を用いる。

弁護人の主張の概要
(1)

被告人が本件各支出額調書及び出張票の作成事務を行って予算支出させ,
会計課から現金の交付を受けたこと,本件各支出額調書及び出張票に記載した日付・場所・名称どおりの事業の実施はなかったこと,公訴事実1ないし3の各事業では体指の支援がなかったこと,予算支出させた現金を被告人の執務机の引き出しの中に入れて保管していたことは争わない。
ただし,被告人は,本件公訴事実1ないし3及び5ないし7の各事業に相当する事業を,他の名称で他の時期に実施している。すなわち,本件公訴事実1については,
シルバースポーツ教室の名称で,平成10年6月8日
から同月12日の間に,
第2回ZinD3の大会前教室として,平成11
年2月10日から同月17日までの間にそれぞれ実施した。本件公訴事実2については,
出前スポーツの名称で,平成10年5月16日から平成1
1年3月28日までの間に実施した。本件公訴事実3については,地区の健康づくりスポーツ教室の名称で,平成11年10月18日から平成12年3月27日までの間に実施した。本件公訴事実5については,平成12年8月27日,
おはようグラウンドゴルフ大会の名称で実施した。本件公
訴事実6及び7については,平成12年8月8日,
親子グラウンドゴルフ(ナイター)大会の名称で実施した。
(2)

本件公訴事実1ないし3及び5ないし7の被告人の各行為は,甲町役場
において慣行化していた予算流用の事務処理方法に従ったもので,前任者であるLから被告人が引き継いだものであり,各決裁権者,すなわち生涯学習課,保健衛生課及び財政課の課長らは明示的又は黙示的に承認していた。被告人は予算支出を受けた現金をすべて,生涯スポーツ事業や国保事業におけるニュースポーツ等の大会等の賞品,消耗品及び備品等に使用しており,私的な目的に流用したことはない。
(3)

本件公訴事実4は,予算化されたが未執行の特別旅費があり,これを執
行する必要があったところ,平成11年度中に行われた体指の他の出張について費用弁償が未了のものがあったため,その費用弁償に充てるために特別旅費としての旅費請求手続を行ったものであり,生涯学習課,財政課の課長らの各決裁権者も承認していた。被告人は予算支出を受けた現金を平成13年2月28日に体指会会計担当者のMに交付しており,私的な目的に流用したことはない。
(4)

したがって,被告人は,行使の目的をもって虚偽の支出額調書を作成し
行使したり,同様の目的をもって出張票を偽造し行使したり,決裁権者らを欺く行為をしたことはないので,各犯罪の実行行為がなく,その認識・認容(構成要件的故意)もない。
支出した現金はすべて甲町のために使っており,
私的な目的に流用はしておらず,自己の利益を図る意図はなかったので,詐欺罪における不法領得の意思もない。各公訴事実の被告人の行為は当時の甲町の財務慣行に従ったもので,各決裁権者も明示的又は黙示的に承認していたのであり,当時被告人は自己の前記各行為が違法なものであるとの意識はなく,これを欠いたことにつき相当の理由があるから,被告人の故意責任は阻却される(本件審理の経過及び弁論要旨の全体の趣旨等に照らすと,弁護人は本件公訴事実4の被告人の行為を含む被告人の本件全行為について前記主張をしているものと解される。。

以上より,被告人は本件各公訴事実につき無罪である。
(5)

検察官は,被告人は公金を私的に費消したという見込みで本件公訴提起
をしたが,公判段階で前記主張・証拠を撤回した。また,本件公訴提起は,甲町役場及び他の地方自治体や行政機関における多くの予算流用・不正支出事例が,私的費消がない限り,刑事責任を問われていないことと権衡を失している。本件公訴提起は,検察官の訴追裁量権を逸脱したもので,公訴権の濫用に当たる。
2
検察官の反論の概要
(1)

被告人は,架空の事業名等を記載した内容虚偽の支出額調書を作成する
などして,予算執行手続を経て公金を支出させ,受領した現金を会計課から交付された封筒から抜き取ってまとめて保管するなどして,自己の個人的な判断のみによって公的にも私的にも用途や時期を問わず自由に費消可能ないわゆるプール金として保管し,費消先等についてN生涯学習課長らの上司に事前相談や事後報告等を一切せず,
その収支状況を自らも正確には把握せず,
他には知り得ないようなずさんな形で保管し,被告人の個人的な判断のみで支出していた。
(2)

本件公訴事実1ないし3及び5ないし7(詐欺)について
前記(1)のような被告人による予算の執行・管理・運用等の実態を前提とすれば,N生涯学習課長らが,そのことを知りながら,賞品代捻出の必要性等から,これを了承ないし黙認し,支出される予算が何に費消されるのかも分からないまま,内容虚偽の支出額調書等を決裁していたとは考え難い。まして,財政課は,各事業担当課から提出される大量の出張票や支出額調書等の書類について,逐一その内容の真偽にまで立ち入って調査・検討し,その記載内容が虚偽でないかを判断するだけの人的・物的余裕はなく,単に記載漏れがないかなど,その形式面をチェックするに過ぎないから,C財政課長は,被告人の前記(1)の行為を了承も黙認もしていなかった。被告人は,C財政課長らに対し,内容虚偽の支出額調書を作成して提出し,これらの事業をそのとおり実施し,体指等が各支出額調書に記載された事業を支援した事実があり,予算支出した謝金を被告人において体指等に交付する意思があるように装い,
欺罔して同人らをその旨誤信させ,
決裁させた。

本件詐取金の少なくとも一部は,被告人の私的な用途に費消された疑いが強い。


被告人は,甲町全体の利益を図る見地から公平性や効率性,費用対効果等を勘案して議会議決を経て認められ,年単位で費目ごとに明確に定められた予算の枠組みを完全に無視し,予算の枠組みに全く拘束されず,自己の個人的な判断のみによって公的にも私的にも用途や時期を問わず自由に費消できるいわゆるプール金として多額の現金を常時保管し,年度をまたいで多額の現金を持ち越したりして,
自己の個人的な判断で費消していた。
被告人の供述でも,その金額は78万円に達するときがあったというのであり,実際にはそれ以上の金額であった可能性もある。被告人は,本件で予算支出した現金を他に事業の賞品代等に充てたと弁解するが,これは,自己の職務実績を上げ,職場における自己の地位や評判,名声を向上させるための行為であり,甲町全体の公益を図るための行為とは認められず,自己又は第三者の利益を図ろうとする意図に出た行為と評価できる。そうすると,被告人が予算支出した現金のすべてを私的な用途に費消したものでなかったとしても,詐欺罪における不法領得の意思が認められると言うべきである。

被告人の本件各行為と,弁護人主張の甲町役場における予算の流用に関する慣行・慣例事例は,予算支出時において支出(流用)の目的と具体的な必要性が先行し,当該流用先の事業名や流用金額が,支出額調書に記載しようとすればできる程度に明確に定まっていたか否かという点で,根本的な相違があり,被告人の前記各行為は,具体的な支出先が明確に定まっておらず,支出額調書にも記載できないような段階のものであり,公平性や費用対効果等の観点から認められた予算を支出する必要性は認められないから,予算支出命令権者がこれを了承ないし黙認するはずがない。その他の諸点を考慮しても,両者は明らかに異質なものであるから,被告人の本件各行為は,前記予算の慣行・慣例に従って行われたものとは認められない。


Lの行為は,実際に体指等の支援を受ける事業の具体的な開催予定があることを前提として,その事業の賞品を事前に買掛けで購入し,当該事業を体指等の支援を受けて実際に実施した後,体指等に交付する謝金の名目で予算支出された現金をその賞品代に充てるというものであり,被告人の手法とは異なるから,被告人の本件各行為がLの手法を踏襲したものとは認められない。


被告人は,平成13年3月10日,T会計のOに,現金19万7767円を交付した行為を精算であると主張するが,これは犯行発覚後の罪証隠滅工作に過ぎない。


以上のような点からして,本件公訴事実1ないし3及び5ないし7について,詐欺罪が成立することは明らかである。

(3)

本件公訴事実4(詐欺)について
平成11年度の特別旅費は総合型地域スポーツクラブの先進地視察という特別な目的で予算が組まれたとする被告人の弁解及び特別旅費は査定が厳しく,予算として認められにくかったので,消化の必要性を強く感じたとする被告人の弁解は,いずれも客観的事実に反するから,特別旅費予算の消化目的があった旨の被告人の弁解は虚偽である。イ
2件の出張旅費の予算支出であることを明確にするため,出張票に添付する領収書を2通に分けて作った旨の被告人の弁解は,参加した体指の氏名や人数・交通手段が事実と異なる点で,虚偽であり,2通の領収書の氏名が重複しないようにする記載方法は他にあった。
平成11年度女性体指研修会の出張旅費は女性体指個人に交付するつもりであった旨の被告人の弁解は,平成10年度女性体指研修会の出張旅費は体指側には交付されていないこと,平成13年2月28日に体指会会計のMに渡した現金入り封筒には被告人自身が体指会会計へと手書きしていること,同金員は個人に渡しやすい金種指定がなされていなかったことからして虚偽である。被告人は,同種の研修会に関する出張旅費の予算支出及び体指への交付について極めてずさんな運用をしてきており,平成8年度以降だけでも,正規に予算支出して適正に体指に交付されたものは1件もない。以上からして,
本件旅費は,別の2件の出張旅費として体指に交付するつもりであった旨の被告人の弁解は虚偽である。

被告人は,
別の2件の出張旅費として体指に交付する意図の下,架空事業の名目で予算支出することは,財政課職員に説明し,C財政課長の了解を得た旨弁解するが,被告人が説明したとする財政課職員のPはそのような説明を受けたことを否定しているし,被告人が前記の点をC財政課長らに説明して了解してもらうつもりなら,2通の領収書の氏名が重複することを避ける必要はなかったから,前記弁解は虚偽である。


被告人が,平成13年2月28日,体指会会計のMに封筒に入れた現金3万2960円を交付したのは,犯行発覚後の罪証隠滅工作に過ぎない。

本件詐取金の少なくとも一部は,被告人の私的な用途に費消された疑いが強い。

以上のような点からして,本件公訴事実4について,詐欺罪が成立することは明らかである。

(4)

本件1ないし7の虚偽有印公文書作成等の各公訴事実について
被告人の前記各行為は甲町役場における予算の流用に関する慣行・慣例に従って行われたものではない。

C財政課長らの職務の性質・実情に照らすと,同課長らが本件各公文書の虚偽性又は偽造性を個別に認識した上で了承していたわけではないから,被告人の前記各行為が行使に当たることは明らかである。


本件各公文書は,単に予算支出時に,予算支出のためだけに使用されるのではなく,その後においても,当該支出が適正になされたか否かを審査するため,当該予算が町の一般財源であれば役場内の監査のため,国や県の補助金であれば国や県の監査のため必要とされ,地方自治法の規定に基づく監査などの際に使用されるものであり,監査のための資料等として一定期間の保管が義務づけられているのであって,被告人もそのような性質を持つ公文書であることを認識していたのであるから,仮に,C財政課長らがその虚偽性又は偽造性を了承ないし黙認していたとしても,
行使の目的に欠けるところはない。


以上のような点からして,本件1ないし7の虚偽有印公文書作成等の各公訴事実について,虚偽有印公文書作成罪等の各罪が成立することは明らかである。

(5)

公訴権濫用について
被告人の本件各行為が詐欺及び虚偽有印公文書作成等の各罪に当たること
は明らかであり,何ら訴追裁量権を逸脱していないから,公訴権濫用に当たらない。
3
本件の主たる争点
以上によれば,
本件においては,本件起訴は公訴権濫用に当たるか否か,
(1)
(2)
各犯罪の実行行為の有無及びその認識・認容(構成要件的故意)の有無,(3)詐欺の各公訴事実につき不法領得の意思の有無,(4)各公訴事実の犯行において被告人が違法性の意識を欠いたことにつき相当の理由があるとして故意責任が阻却されるか否か,が主たる争点である。
第2

前提事実
前掲関係各証拠によれば,
次の各事実が認められ,
これらの事実については,
被告人も概ね認め,又は積極的には争っていない。

1
被告人の甲町役場における経歴,所属課及び担当職務内容等
(1)

経歴
被告人は,昭和50年4月に臨時的任用職員として,同53年4月に正職
員として甲町に採用され,産業課(現農林課)で勤務後,平成4年4月からは生涯学習課に主査として配属された。平成12年10月1日付け定期異動により同町総務課に配属されたが,平成13年4月16日に懲戒免職処分を受けた。
(2)

所属課及び担当職務内容
生涯スポーツ事業
(ア)

生涯学習課(前身は社会教育課)は,甲町教育委員会事務局に設置
され,主に社会教育に関する事業,すなわち①生涯学習の振興に関すること,②生涯学習団体の指導・助言及び育成に関すること,③生涯スポーツの振興及び指導に関すること,④体指に関すること,⑤生涯スポーツ及びレクレーションに関することなどの事務を分掌している。
(イ)

同課には,課長,課長補佐,主査及び主事等の各職員が配置され(
平成10年当時,課長補佐1名,主査3名,主事等7名)
,主査以上が
管理職に当たる。甲町教育委員会の事務局の職員の職務・権限には甲町職員のそれに関する規則が準用される。
課長の職務・権限は,上司の命を受け,所属課の事務を統括し,所属課員を指揮監督することである甲町教育委員会処務規則4条1項),(

具体的には,①町長が行う町行政における重要施策の決定を補佐するとともに上司の命を受けて分掌事務の方針並びに基本計画及び実施計画を立案し,上司の承認を得てこれを所属主任者に周知徹底させて職務の遂行を図り,課内職員を指揮監督すること,②業務遂行について必要な情報を収集分析し,上司に対し,必要な情報を提供し,意見を具申するとともに課内職員に対し必要な情報を送ること,③分掌事務の遂行について進行状況を常に把握し,目標と実績を対比し,必要な調整を行い,方針及び基本計画の変更を要するものが生じた場合又は異例に属するものがある場合は,その都度上司に報告し,指示を受けること等である(甲町事務分掌規則5条別表第3)

課長補佐は,課長を補佐し,その事務を掌理する(前記処務規則4条2項)が,課長に準じてその職務を行うこととされている(前記別表第3)

主査の職務・権限は,上司の命を受け,当該担当の所掌事務を掌理することである(前記処務規則4条3項)が,具体的には,①課長が行う実施計画の立案を補佐し,上司の命を受けて所管する事務について指示された実施計画に基づき具体的かつ細目的な処理計画を立案し,上司の承認を得てこれを処理するとともに当該事務について配置された職員がいるときはこれを配置職員に周知徹底させ職務の遂行を図り,配置職員を指揮監督すること,②課長の指導のもと所管する事務の事務内容のうち定例的固有な事務については標準化と定例化を図り,配置職員が速やかに事務の内容及び執行手続を修得し執務するよう努めること,③所管する事務を遂行するために必要な情報を収集分析し,上司に対し的確な情報を提供し,意見を具申するとともに配置職員に対して必要な情報を伝達すること,④所管する事務の遂行について進行状況を常に把握し,目標と実績に対し,必要な調整を行い,実施計画並びにこれに基づく具体的かつ細目的な処理計画の変更を要するものが生じた場合は,その都度上司に報告し,その指示を受けること等である(前記別表第3)。
(ウ)

生涯学習課は,甲町教育委員会の事務分掌上,社会教育の一環とし
て生涯スポーツ事業を主管している。被告人は,主査として,同事業の企画・運営,体指の管理・研修及びその予算執行・管理等の業務を担当していた。
生涯スポーツ事業には,住民スポーツと競技スポーツがある。住民スポーツとは,楽しみながらスポーツに親しむレクレーション的な性格のもので,甲町の具体的な事業としては,高齢者スポーツ教室,出前スポーツ教室,ウォーキング教室,ニュースポーツのグラウンドゴルフ・ペタンク・ミニバレー等,
新春歩く会
,スポレク等がある。競技スポ
ーツの事業としては,町民体育大会」町民オリンピック等がある。,イ国保事業(ア)保健衛生課は,①保健衛生に関すること,②国民健康保険事業,③介護保険事業,④老人保健事業,⑤各種医療費の助成及び貸付制度に関することなどの事務を分掌している。(イ)保健衛生課には,課長,課長補佐,主査等が配置されており,それぞれの職務・権限は,前記ア(イ)と同様である。(ウ)甲町は老人医療費が高額であったため,医療費の適正化や国保事業の運営安定化のための施策が実施され,平成7年度からは,国保総合健康づくり推進事業が開始された。甲町高医療費安定化対策推進協議会や甲町医療費適正化対策本部が設けられ,保健衛生課,町民(福祉)課(両課は平成12年4月1日に統合され保健福祉課となった。)及び生涯学習課が協力して同事業に取り組むことになった。すなわち,保健衛生課は,国保事業の一環として,高齢者健康づくりのためのグラウンドゴルフ,トリム体操,食改善教室等の事業を企画していたところ,このうち,グラウンドゴルフ等のニュースポーツについては,その運営・管理等を生涯学習課が行い,必要な用具・人員等についても生涯学習課が準備し,保健衛生課及び生涯学習課の共催事業の形で実施された。被告人は,このように保健衛生課と共催した国保スポーツ事業の運営・管理等も担当していた。同事業の補助率は,謝金等が10割,備品が5割であったが,賞品代は補助対象外であった。国保事業においては,例年,前年度の11月後半から12月に新年度の予算枠組みを決め,5月に県のヒアリングを受け,11月に県に報告をした。前記報告の際には,保健衛生課の担当職員が生涯学習課の担当職員から事業実施状況等を聴取して,実績報告をしていた。11月分までの事業を「実績として,3月までの事業を予定として報告し,未実施事業については必ず実施するという町長名の確約書を国に提出することになっていた。また,町民に親しみやすさを持たせるため,事業の正式名称と,町民向けの名称とは異なることがあった。
2
甲町における予算編成及び執行の流れ
甲町の会計年度は4月1日から3月末日までであるが,事務手続上,年度末までに支払を済ませることができない場合もあるため,会計の出納閉鎖日を5月末日としていた(いわゆる出納整理期間)

甲町では,毎年11月末日までに,町長から翌年度予算の編成方針の説明があり,これを受けて財政課は新年度予算説明会を12月初めに各課の担当職員に行う。各課担当職員は,担当する年間事業を企画立案し,事業内容の資料とともに,各事業に係る歳入及び歳出予算見積書の作成事務を行い,担当課長へ概要の説明をし,担当課長がこれを取りまとめて12月20日までに財政課長に提出する。財政課長は,提出された見積書等の内容を精査し,翌年1月に各担当課ごとに見積書等の内容について説明を求める(いわゆる予算ヒアリング)
。予算ヒアリングでは,担当課の課長と事業担当職員が,予算の各目節ごとに,事業目的,必要性,経費等を財政課に説明しなければならない。財政課は,3月までの事業実施見込みを聞き,予算執行率を上げるため,不要な予算は減額補正を促す。予算ヒアリングを経て財政課が予算書を作成し,町長の査定を受け,3月に議会の決議を経て予算が成立する。
補正予算は6,9,12,3月の定例町議会で議決され,各1か月前に要求書を受け付ける。
各担当課は,予算執行実績調書を作成し,翌年度の6月30日までに財政課長を経て町長に提出する。
財政課では実績をまとめて決算実績報告書を作成し,
9月の議会で決算認定を受ける。
予算執行は,財務規則15条に基づき,予算書の区分に従い執行しなければない。例外として,同規則5,20条により,項・目・節の流用につき,担当課長から財政課長に通知し,財政課長と収入役との協議等を経て,所定の審査で問題がなければ認められる。同規則3条,同条別表第1及び21条により,10万円以上の流用や旅費,負担金補助及び交付金の流用等は町長の,10万円未満の各節間の流用等は助役の,5万円以内の各節間及び細節間の流用等は財政課長の専決事項とされている。
3
体指(体指会)及びT並びに関連の謝金及び旅費の支出事務
(1)

体指等及び関連の謝金等の支出根拠等
体指(体指会)
体指は,スポーツ振興法19条3項に根拠を置く非常勤特別職の地方公務員であり,体指会はその連絡協議会である。甲町は,スポーツ振興法を受け,
甲町体育指導委員に関する規則で体指の職務内容・定数・任期
等を定めている。体指は,毎月1回,甲町生涯学習センターにおいて定例会を開催し,生涯スポーツ担当職員が議事運営を行い,体指が指導・審判する事業等への出席依頼及び確認,県などが行う講習会への参加者確認等を行っていた。定例会では毎年決算報告も行われていた。体指が定例会等に参加した場合は,
甲町報酬及び費用弁償条例に基づき,報酬及び旅
費が支給され,体指が甲町が主催する生涯スポーツ大会等で指導・審判を行った場合,生涯学習課が用いていた講師謝金基準に基づき,1回当たり3500円の謝金が支給され,体指が講習会等に出席した場合,甲町職員等の旅費に関する条例甲町職員等の旅費支給規則に基づき,,
旅費が支給されていた。体指の場合,車賃は実費(公用車及び私有車同乗の場合は支給なし。私有車の場合は電車賃相当額を運転者に支給。,日)
当は1日2200円,宿泊料は1日1万0900円である。
会計課は,
源泉徴収税額表に基づき,体指の謝金については10パ
ーセントの所得税を源泉徴収する運用であったが,源泉徴収しない場合もあった。源泉徴収された場合には,毎年源泉徴収票が体指に送付されていた。


Tは,各地区にある任意団体である単位老人クラブの連合体であり,各単位老人クラブは甲町が行っている生涯スポーツのうち,高齢者を対象としたニュースポーツ等に参加した。Tは,会長1名,副会長4名,事務局長,事務局次長,会計及び理事等の役員を置いており,毎月1回月例会(定例役員会)を開催し,業務に関する諸連絡事項の伝達及び必要事項の討議等を行い,毎年決算報告も行っていた。
Tの役員等の会員が甲町の依頼を受けて各種大会や行事に参加して指導・審判等をした場合には,体指同様に1回当たり3500円の謝金を支給されていた。
会計課は,T会員の謝金については原則として所得税を源泉徴収しない運用であった。

生涯学習課は,生涯スポーツ教室・大会等の開催に当たって,体指やT会員に対して,実技指導・審判などの支援を依頼していた。

(2)

体指等謝金等の支出手続等
財務規則上,予算執行手続については,本来,決議書や起案書等の作成が
必要とされていたが,同規則63条,64条2項により,支出理由や支出額が定型的な支出については,簡易な手続が認められていた。
生涯学習課において,体指等に謝金,旅費等を支給する場合には,担当職員が,謝金の場合は債権者からの請求書に代わる支出額調書に合計金額・事業名・事業開催日時・起票日・支払先・作成担当者名等の所定事項を記載してこれを作成し,旅費の場合は作成名義人である出張した体指の承諾のもとで事業担当者が出張票に出張者名・旅行期間・用務・用務地・経路・賃金等の所定事項を記載してこれを作成し,領収書を添付して生涯学習課の課長等の決裁を経て,財政課の決裁に回していた。財政課では,担当職員が歳出の会計年度・所属区分・予算科目に誤りがないかなどを確認し,支出負担行為兼支出票を作成し,
支出額調書等と共に町長らの支出決定権者の決裁に回し,
支出決定を得た後,収入役に回し,その支出命令を得て会計課で支出手続を行っていた。
支出決定権者については,
財務規則3条1項,
同規則別表第1に定められ,
支出される予算科目ごとに定められた金額に応じて,
町長のほか,
財政課長,
助役の専決権が定められていた。謝金の場合であれば,1件5万円未満は財政課長,5万円以上10万円未満は助役の専決事項とされていた。旅費は財政課長の専決事項であった。
収入役の支払命令が出た後の支払手続は,財務規則73条1項によれば,収入役が支出票に基づき小切手を債権者に振り出し,債権者はこれを金融機関で換金することになるが,体指等の謝金のように,一度に多数の債権者が存在する支払の場合,係る方法によると,小切手振出しのための会計課の事務が繁雑になるのみならず,債権者の換金時期が不定期で会計課の事務停滞の原因となる上,債権者にしてみれば,小切手を受領するよりも現金を受領した方が便利であるため,実際の事務処理としては,会計名ごとにまとめた金額を記入した小切手を金融機関に振り出し,その現金を使用済みの封筒に小分けして入れ(所得税の源泉徴収が必要な場合はその控除後の金額を入れる。,封筒に事業名と支出金額(所得税の源泉徴収が必要な場合は前記金)
額)を記載して担当職員に預け,債権者への現金の交付を依頼するという取扱いが慣行的に行われ,定着していた。担当職員から会計課に金種の指定をすることができた。決裁に回された支出票及び支出額調書等は会計課で保管された。
そして,債権者からの領収書については,担当職員が会計課で現金を受け取る際に支出額調書に添付された領収書を受け取り,現金を債権者に支払って領収書に債権者の押印をもらい,この領収書を再度会計課に提出すべきところ,事務処理の便宜上,担当職員が予め生涯学習課内に保管された多数の印鑑の中から適当なものを捜し,これを使用して領収書を代筆代印で作成して支出額調書等に添付して決裁に回すという方法が取られることも多かった。
被告人も,体指については,前記生涯学習課内に保管された多数の印鑑の中から債権者名義の印鑑を用いて,債権者の領収書を代筆代印で作成し,支出額調書等に添付して決裁に回すという方法で支出額調書等の作成事務を行っていた。Tについては,Tの役員に領収書を交付して指定した人数分の記名押印をしてもらうこともあった。
支出した現金は,自己の執務机の横にある袖机の鍵付きの引き出し内に保管していた。
(3)

国保事業における体指謝金の支出手続等
生涯学習課と保健衛生課の共催による国保事業で体指謝金を支出する場合は,生涯学習課の担当職員が事業名・開催日時・場所・審判の氏名等を記載したメモと支出額調書に添付すべき領収書を作成し,保健衛生課の担当職員に渡し,保健衛生課の担当職員がこれらのメモ等をもとに支出額調書を作成し,保健衛生課及び財政課等の決裁に回し,会計課から支出を受けて生涯学習課の担当職員に現金を渡していた。
4
生涯学習課,保健衛生課及び財政課における体指等謝金等の決裁状況等(1)

生涯学習課の場合
支出額調書等の決裁は,担当職員から課長補佐,課長の順に回しており,
事業の実績報告や関係書類等は付されていなかった。
生涯学習課の執務室内には黒板があり,職員がその週や月の事業予定を書いていた。また,毎週月曜日に行われる,生涯学習課及び学校教育課の全職員を対象とし,教育長も出席する打合せ会(朝礼)で,担当職員から,前の週の事業の報告や,今週以降の事業予定の説明等がなされていた。賞品の買い出しや運搬,のし付け作業等は担当職員以外の職員も手伝っていた。賞品は,生涯学習課の執務室や体育館の倉庫に保管していた。
(2)

保健衛生課の場合
生涯学習課と保健衛生課の共催による国保事業で体指謝金を支出する場合
は,生涯学習課の担当職員が作成したメモ,領収書に基づき,保健衛生課の担当職員が支出額調書を作成し,課長補佐,課長の順に決裁に回していた。事業が開催されたことの裏付け資料等は付されていなかった。
(3)

財政課等の場合
体指等謝金の場合
財政課は,担当課から提出された支出額調書の決裁に当たり,歳出の会計年度所属区分及び予算科目に誤りはないか,予算の目的に反していないか,配当予算額を超過していないか,金額の算定に誤りはないか,正当な債権者であるか等を調査する。具体的には,担当職員が,所管課,支出する金額と予算残額を確認し,決裁書類の記載から,予算科目と矛盾のない予算執行理由であるか,領収書が添付されているか,担当課長の決裁印が押されているか等を確認し,不明瞭な点があれば,各課担当職員に説明を求めたり,差し戻して訂正をさせるなどして,支出票を作成し,支出額調書とともに財政課長の決裁に回す。財政課長は,支出票と支出額調書に記載された事業名とが合っているか,支出金額と支出額調書の金額が合っているか,支出額調書記載の謝金額と領収書の人数が合っているか,担当課長の決裁印が押されているか等を確認して決裁する。支出額調書には各課の事業等に関する起案文書は付されていない。
助役及び町長の場合も,同様に,決裁書類の記載に基づいて決裁する。イ
旅費の場合
旅費の種類には,普通旅費,特別旅費及び費用弁償がある。普通旅費は職員の経常的な出張,特別旅費は職員の研修会や視察等事業のため特別の目的がある出張,費用弁償は体指などの特別職の出張につきそれぞれ支給される。特別旅費は宿泊の要否とは直接の関係はない。費用弁償でも宿泊料が支給されることもある。
普通旅費は精算払い用の青い出張票で請求され,各月末が締め切りのため,各月初めに各担当課から財政課に出張票の決裁が回る。支払日は毎月21日である。
特別旅費は,出張前に概算払い用の白い出張票で請求されるのが通常であり,その都度決裁に回される。視察先の要覧等が添付されていることもある。出張後には詳しい復命が要求される。特別旅費の予算要求に当たっては,特別旅費調書の提出が要求される。

5
本件各謝金等の支出状況等
被告人は本件各支出額調書及び出張票の作成事務を行って所定の決裁を受け,現金の交付を受けた。本件各支出額調書及び出張票に記載した日付・場所・名称の事業の実施はなかった。本件公訴事実1ないし3の各謝金債権者である体指の指導・審判の支援は,
(それに相当すると弁護人が主張し,被告人が
それに沿う供述をする他の名称・時期の事業も含めて,
)なかった。
6
被告人に対する懲戒処分及び刑事告訴に至る経緯
平成12年12月上旬ころ,被告人の後任の主査Yが,体指会会計担当者のMから体指会計について質問を受けたことなどを契機として,被告人の予算管理に疑念を抱き,Y生涯学習課長(当時)に相談の上,被告人担当事業の収支の調査を開始した。その結果,書類上,使途不明の謝金支出があることや,開催されていない事業で謝金が支出されていることなどが判明した。平成13年2月上旬ころ,Yが被告人に対し,同12年3月19日のグラウンドゴルフ大会や,同月25日の佐賀スポーツセミナー
(講習会)が開催
されていないにもかかわらず予算支出されていることを指摘し,説明を求めたところ,被告人は,

次年度事業に使った。,

領収書はない。

等と述べた。Yの報告を受けた生涯学習課長らは,監査委員に,被告人が公金を使い込んでいた疑いがあると告げた。
同13年2月26日,甲町町長が,監査委員に,被告人について監査をしてもらえないかと述べた。
被告人は,同月28日に,Mに対して合計18万0360円の現金入り封筒5通を,同年3月10日に,T副会長のOに対して合計19万7767円の現金入り封筒を,精算金であると述べてそれぞれ交付した。その際,Oに,精算金一覧表も交付した。
同年3月1日,甲町町長は,地方自治法199条1項により,同町監査委員に対し,監査要求をし,監査委員により,平成9年度から12年度の期間の被告人が担当した生涯スポーツ事業及び保健衛生課との共催に係る国保事業について,体指会,T及び賞品購入店等の関係者を呼んで事情聴取したり,監査委員が調査に出向いたり,電話照会するなどの方法により監査が行われ,同年4月4日,文書をもって,

甲町老人クラブ,甲町体育協会,甲町体育指導委員会に支払われる謝金,費用弁償が適切に支払われていない事実を確かめた。

等を内容とする監査結果の報告がなされた。
同年4月16日,被告人に対する懲戒免職処分がなされたが,被告人は,同年6月1日,行政処分不服申立てをした。
同月11日,被告人は,

先に渡したニュースポーツ教室の謝金につき,誤って税引き後の額を渡していたので,税金分を持参した。

と説明して,1万0500円をMに交付した。
同年7月12日,甲町町長は,私文書偽造・同行使,詐欺罪で被告人を甲警察署長に告訴した。
第3
1
前任者Lの事業執行状況
当事者の主張の概要
(1)

弁護人の主張
被告人が担当した生涯スポーツ事業の前任者はLであるが,生涯学習課で
は,同人のもとで,少なくとも昭和61年度から被告人が赴任する直前の平成3年度までの6年間,謝金を賞品代に充てる運用が継続して行われ,ほぼ慣行化していた。この間,歴代の課長や課長補佐から賞品代を正規の予算に組むべきであるとか,他の費目から購入すべきだとかの意見は全く出なかった。
被告人は,Lから事務引き継ぎを受けた際,

スポーツ教室や大会等の謝金を賞品代に充てて,大会運営をしている。

との説明を受けた。Lは,謝金を出した時には所得税の源泉徴収があるから,その取扱いに注意するようにと言った。Lから現金の引き継ぎはなかった。Lから引き継いだ事業記録には賞品代の領収書は綴られていなかった。
被告人は,Lから事務引き継ぎを受けた時は,謝金の対象者は教室や大会に参加することが必要であり,実際に参加しているのだろうと思った。事業記録に,体指が平日の事業を支援したような記録があったので,体指に平日の教室・大会への支援をお願いしたところ,

平日の参加は無理である。


と断られた。Lに確認すると,

体指の名前だけ使っている。

と言われた。平成3年度のファミリーグラウンドゴルフ大会は雨で流れ,その賞品を引き継いだ。Lは,

謝金で購入した。

と言っていたが,その謝金はその後返金されていた。被告人は,一定の資金がLのもとで管理されていたと理解した。
被告人は,謝金の賞品代への流用については,Lが体指の了解を得ていると思っていた。
被告人は,産業課時代に認識していた予算の流用慣行と同様,生涯学習課でも謝金の活用が行われていると理解した。これまでの流用経験,甲町役場内での流用慣行から,Lの流用方法も是認されると判断し,これをそのまま真似ることにした。そのような手法は,生涯学習課でも承認されていると認識していた。
(2)

検察官の反論
Lは,実際に体指等の支援を受ける事業の具体的な開催予定があることを
前提として,その事業の賞品を事前に掛けで購入し,当該事業を体指等の支援を受けて実際に実施した後,体指等に交付する謝金の名目で予算支出された現金をその賞品代に充てるという運用をしていた。
2
L供述の概要
(1)

捜査段階の供述
平成2及び3年度,
高齢者対象グラウンドゴルフの普及促進に取り組み,
町内の各地区の老人会に対して協力を求めた。年一,二回,甲町教育委員会主催で,ルール等を熟知した高齢者の有志に審判を依頼し,高齢者グラウンドゴルフ大会を開催したが,普及に苦労した。審判員のA2やB2らから,審判謝金で賞品を買ったらどうかという提案があったので,課長補佐のC2と協議し,審判謝金を支出して審判の承諾を得て高齢者グラウンドゴルフ大会の賞品を買うことにした。

賞品は大会前にD2から掛けで購入し,謝金が出たら同店に賞品代を支払った。


体指にはグラウンドゴルフ大会の審判を依頼していない。体指には定例会参加などの活動に対して報酬等を支払っていた。生涯学習課の職員が体指会の通帳を管理し,体指に対する報酬等は体指会の通帳に入金し,体指会の懇親会費用等に充てた。賞品代に充てたことはない。


水増し請求や架空請求をしたことはない。


大会当日に高齢者に印鑑を持参してもらい,大会会場で領収書に署名押印をもらった。体指の場合は,生涯学習課で預かっている体指の印鑑を使用して,担当職員が代筆代印で領収書を作成していた。


被告人には,引き継ぎの際,高齢者の審判謝金を審判員の承諾を得てグラウンドゴルフ大会の賞品代に充てていたことと,参加者が増えたのでもう賞品を出す必要がないことを伝えた。

(2)

公判段階の供述で捜査段階の供述に付加され又は同供述が変遷した部分賞品は1個400ないし500円程度だった。謝金が余ることはなかった。


高齢者グラウンドゴルフ大会や親子スポーツ大会で,体指の審判謝金が支出されているものが複数あるが,それにつき体指に実際に審判を依頼したかどうか具体的な記憶がない。
一部は賞品代に充てられた可能性がある。
体指に対して審判謝金で賞品を買うことを説明したかどうか具体的な記憶がない。


大会当日に大会会場で高齢者に領収書の署名押印をもらったことはなかった。領収書は原則として担当職員が代筆代印で作成していた。

3
関係証人の関係供述の概要
(1)

生涯学習課関係
E2
平成元年7月から同4年3月末まで生涯学習課に在籍。自分が生涯学習課に在籍していた時期,教室・大会の謝金は賞品代に充てていた。体指の謝金は体指の懇親会等に充てていたと思う。謝金債権者に対して謝金を賞品代に充てるという説明をした記憶はなく,Lが説明していたかどうかも分からない。生涯学習課の職員が体指会の通帳を管理していた。領収書は担当職員が代筆代印で作成していた。



昭和63年から平成8年11月末まで生涯学習課に在籍。生涯学習課内には共用の印箱があり,謝金等を支出する際に使用した。スポーツ事業自体の実施等は,色々な会議等で報告・連絡等がなされていたので,その実施等についてはすべての課長が認識していた。L職員の時代も賞品が出るスポーツ大会があった。町内のスポーツ店に賞品買い出しの手伝いに行った。課長が大会で賞品を配布することもあったと思う。賞品代は一部謝金を利用して購入していると思っていた。事前に謝金を支出する書類が課内で回されるし,Lからもそういう話を聞いていた。小さな課であり狭い部屋で仕事をしていたので,課員は私を含めてそう理解していた。前記のことは当時の課長や課長補佐もある程度知っていたと思う。
賞品を購入する,
賞品にのしを貼る,大会会場に賞品を運ぶというような作業の手伝いをした。朝のミーティングでは賞品を出すぐらいの話はなされていたが,その中身や賞品代の出所等の話はなかった。大会前に,大会規模に合わせて,講師に名義を借りたような形で謝金を支出した。講師は体指だったり高齢者だったりした。
Lと被告人とで,賞品の有無や,賞品代の出所に特に大きく変わったところはなかった。
(2)

T関係
F2
平成元年ころ,グラウンドゴルフの講習に参加したことがある。各区を回ってグラウンドゴルフの指導・審判をしたことはない。グラウンドゴルフの審判をしたことはある。領収書に名前のある事業に参加したことはあるが,グラウンドゴルフの関係でお金をもらったことはないし,町の職員から名義を貸してくれと言われたことも,謝金を賞品代に充てるという説明を受けたこともない。


B2
Tの会長として,グラウンドゴルフの講習に参加したことはあるが,各区で指導・審判をしたことも,
謝金を受け取ったこともない。
町の職員に,
グラウンドゴルフ大会で賞品を出すことを提案したこともない。

(3)

体指関係
G2
L職員のころにも大会賞品は出ていた。町の職員から,謝金を受け取ったことも,謝金を賞品代に充てるという説明を受けたこともない。事業参加につき具体的な記憶はないが,平日に三,四日連続して指導・審判したことはない。



L職員のころに,大会賞品が出ていたかどうか覚えていない。謝金を受け取ったことも,謝金を賞品代に充てることを了解したこともない。事業参加につき具体的な記憶はないが,平日の昼間に指導・審判したことはない。



L職員のころにも大会賞品は出ていた。謝金を受け取ったことはない。Lから,謝金を賞品代に充てるという説明もなかったと思う。もし説明があれば,体指は了解したと思う。事業参加につき具体的な記憶はないが,J,H2,G2と平日に4日間連続で指導・審判したことはない。エ
I2
昭和61年9月19日から同62年2月10日まで難病で入院・手術をした。退院後1年くらいしてから,体指の実技指導はしていない。
4
L供述の信用性の検討
(1)

Lは,捜査段階で,

体指にはグラウンドゴルフ大会の審判を依頼しておらず,体指謝金を賞品代に充てたこともない。

旨供述しており,E2も,

体指の謝金は懇親会等に充てたと思う。

旨供述している。しかしながら,平成3年10月23日の高齢者グラウンドゴルフ大会では体指の審判謝金が支出されていること,E2が

平成元年度から3年度にかけて教室・大会の謝金は賞品代に充てていた。とも供述していること,

Wが

講師は体指だったり高齢者だったりした。

旨述べていることと合致しない。さらに,公判廷で

体指の謝金は一部賞品代に充てられた可能性がある。

と供述が変遷している。(2)

Lは,捜査段階で,

高齢者から審判謝金で賞品を買ったらどうかという提案があった。,

大会会場で高齢者から領収書に署名押印をもらった。

旨供述しているが,F2及びB2の供述と一致しない。さらに,公判廷では

領収書は原則として職員が代筆代印で作成した。

と一部供述が変遷している。
(3)

Lは,捜査段階で,

被告人に,参加者が増えたのでもう賞品を出す必要がないと伝えた。

旨供述している。しかしながら,前記供述は,スポーツ大会の参加者数が初回よりも減っていることと整合しない。
(4)

Lは,

水増し請求や架空請求はしていない。,

謝金が余ったことはない。

旨述べている。しかしながら,難病の手術・入院後で実技指導をしていなかったはずの体指のI2に審判謝金と費用弁償が支出されている事業(昭和63年2月28日親子ミニバレーボール大会
)や,仕事を持っており平日に連続で指導
・審判したことがない旨述べている体指のG2,J及びEに平日の4日間連続する教室で謝金が支出されている事業(平成3年3月12ないし15日高齢者健康づくり教室)がある。Wも,
講師に名義を借りたような形で謝金を支出した旨述べている。
また,賞品は1個400ないし500円程度というLの供述を前提としても,参加者数に比して謝金債権者数が多い事業がある(昭和62年2月20日勤労青少年バレーボール大会は参加者18名,謝金債権者16名),
平成元年12月22日勤労青少年軟式庭球大会は参加者30名,謝金債権者10名)

(5)

以上より,L供述のうち,他の証拠と一致しない前記各供述はにわかに
信用することができない。
5
第2の前提事実及び関係証拠により認められる事実
第2の前提事実,L供述及び関係証人の供述を総合すれば,Lの事業執行状況はおよそ次のようなものであったと認められる。
Lは,高齢者及び体指の審判謝金名目で支出した現金で,スポーツ大会の賞品を購入していた。謝金を賞品代に充てることにつき,高齢者及び体指に明確な説明をしていなかった。生涯学習課内では,賞品代は一部謝金を利用して購入しているという話は出ており,
他の職員が賞品買い出しの手伝いをしていた。
賞品はD2で掛けで購入していた。支出額調書に添付する領収書は代筆代印で職員が作成した。事業の実施や謝金債権者の支援がないのに,謝金が支出されたことや,謝金債権者が水増し請求されたこともあった。謝金が賞品代を超過して,謝金が余り,Lの手元で保管されていた可能性もある(ただし,その具体的な状況を認めるに足りる証拠はない。。加えて,体指会の会計は生)
涯学習課の職員が通帳で管理しており,支出した謝金を職員が現金で保管する機会は元々あった。
第4
1
被告人の事業執行状況
当事者の主張の概要
(1)

弁護人の主張
体指等謝金の目的・使途・管理状況等
(ア)

甲町役場では,各課において,種々の予算の流用等が行われてきた。
生涯スポーツ事業において,各種の教室や大会に賞品を出し,参加者に楽しんでもらうことは,同事業を普及させるために,極めて有効な方法であるが,被告人は,予算不足を補うために,体指やT会員に対する指導・審判謝金で賞品等を購入して事業を運営する方法を採ってきた。雨天等で延期になった事業で,予算未消化の場合には,次年度の事業に流用するために指導・審判謝金の予算請求を行った。
(イ)

N生涯学習課長,U同課課長補佐及び同課職員は,被告人が謝金を
流用して賞品代を捻出していることを承知していた。国保事業における謝金の同様の流用についても,Q保健衛生課長,R同課課長補佐及び担当者であるS同課職員らは承知していた。
決裁権者であるC財政課長は,
甲町役場内では一般的に予算の流用が行われていることを知っていた。予算の流用については,担当課長が了解していればこれを了承するという慣行・慣例であった。
(ウ)

被告人は,生涯スポーツ事業において,平成8年度までは各事業年
度内に予算を消化し,体指等謝金を次年度に持ち越すことはなかった。ところが,平成9年度末,被告人が約3か月間けがのため入院したり,同年度に体指の支援を受けないで国保事業を実施しなければならなくなったなどの原因から,謝金を翌年度に持ち越すことになった。このように次年度に持ち越した現金は,被告人のもとで管理され,いつでも上司への報告や調査を受けることが可能な状態に置かれていた。すなわち,被告人は持越金を生涯学習課内にある執務机の鍵の掛かる引き出し内に,事業ごとの封筒に入れたまま保管した。他の現金と一本化したり,自己名義の預金口座に移したりはしていない。賞品を購入した時は,その都度封筒に記入し,領収書をもらった時は,それを別の封筒に入れて保管した。予算を使い切った後,領収書はファイルなどに貼り付け,領収書綴りとしていた。上司の要求があれば,前記保管状況を開示することは可能であった。しかし,現実には,上司による報告要求等は全くなかった。事業の趣旨・予算規模・使途についての了解等からして,上司はその必要を認めなかったからである。
(エ)

以上のとおり,被告人は,予算不足を補いつつ,生涯スポーツ事業
に必要な賞品代等に充てる目的のために,それだけのために持越金を保管していたものであり,
予算上の一切の拘束を離れて,交際費や接待費を含むどんな用途にでも,全く意のままに費消し得る違法な資金のプールを作る意図など全くなかった。私的な目的の流用は一切ない。イ
本件公訴事実1ないし3の保健衛生課との共催に係る各国保事業について
本件公訴事実1ないし3の保健衛生課との共催に係る各国保事業は,被告人が体指の支援を受けないで,一人で指導して行った。補助事業の制約上,消耗品費等は認められなかったので,謝金名目で賞品代を捻出した。謝金の請求に当たっては体指の名義を借りた。
補助事業の制約に合わせて,
事業名・実施日等を調整した。


本件公訴事実4の出張旅費について
本件公訴事実4の出張旅費は,平成11年度中に行われた体指の他の出張の費用弁償が未精算であったため,年度末に特別旅費の予算が余っていることを確認し,前記費用弁償の精算をするために請求したものである。被告人は,平成13年2月28日,体指会会計のMに事情を説明の上,前記費用弁償金を交付した。

本件公訴事実5ないし7の各事業について
本件公訴事実5の事業は,関係者との日程の調整が付かず,年度内に実施できなかったので,翌年度の平成12年8月27日に,
おはようグラウンドゴルフ大会として実施した。同謝金は,体指とT幹部の名義を借りて請求し,前記大会の賞品代に費消した。
同6及び7の各事業は,関係者との日程調整や天候の都合で,年度内に実施できなかったので,2事業を併せ,翌年度の平成12年8月8日に,親子グラウンドゴルフ大会として実施した。前記6の事業の謝金は体指の,同7の事業の謝金は体指とT幹部の名義をそれぞれ借りて請求し,いずれも同月8日に実施した親子グラウンドゴルフ大会の賞品代に充て,残りは同年度の町民体育大会等の賞品代に充てた。


預かり金の精算について
被告人は,平成12年10月1日,総務課に異動になった後,同年11月末か12月初めころ,精算の準備をした。領収書綴り等は紛失していたことから,手元に残った事業ごとの封筒等をもとに精算表を作成した。この精算表に基づき,体指会及びTに精算し,それぞれ現金入り封筒を交付した。体指とTに交付した現金が当時被告人が保管していた預かり金のすべてである。その余はすべて生涯スポーツ事業の賞品代,備品・消耗品費に使用した。私的な流用が一切ないことは前記のとおりである。

(2)

検察官の反論


本件公訴事実1ないし3及び5ないし7に関する被告人の各事業執行状況
本件各予算支出時において,被告人は,予算支出の具体的必要性がないことを認識しており,予算支出した現金を体指等に交付する意思はなかった。被告人は,受領した現金を,個人的な判断のみによって自由に費消可能な状態で保管し,その費消時期・金額・残高・費消先等を被告人以外の誰も把握できなかった。OやMに対する現金の交付は,精算ではなく,犯行発覚後の証拠隠滅工作である。

本件公訴事実4に関する旅費の支出状況等
本件予算支出時において,被告人には,未精算の他の2件の体指の出張旅費に充てるために予算支出して体指に交付するという意思はなかった。被告人は,受領した現金を,個人的な判断のみによって自由に費消可能な状態で保管し,その費消時期・金額・残高・費消先等を被告人以外の誰も把握できなかった。Mに対する現金の交付は,弁護人主張のような出張旅費の精算ではなく,犯行発覚後の証拠隠滅工作である。

2
被告人供述の概要
(1)

被告人の体指等謝金等支出事務の処理方法等
被告人が前任者Lから引き継いだ事務処理方法
被告人は,体指等謝金等支出事務については,平成6年ころまでは前任者Lから引き継いだ事務処理方法をそのまま踏襲した。すなわち,体指の謝金の金額に合わせてD2から掛けで賞品を購入し,大会等を実施した後,体指が実際に指導・審判をしていなくても,体指の名義を使って領収書を代筆代印で作成し,その大会等の謝金を予算支出し,その謝金で業者に賞品の代金を支払うという方法である。T役員らの名義も使って謝金を予算支出した。Lから賞品の領収書や現金の引き継ぎはなかった。

被告人が新たに始めた事務処理方法
被告人は,平成7年ころから,賞品のマンネリ化を防ぐため,町外の業者から多様な賞品を購入するようになったが,これらの業者は掛け売りをしないため,予め現金を用意する必要が生じた。体指の定例会報酬及び費用弁償は,数か月分まとめて予算支出し,後日体指会会計担当者に渡していたため,手元には,予算支出後まだ体指に交付していない体指の定例会報酬や費用弁償の現金があった。そこで,被告人は,そのころから,現金払いで賞品を購入するに当たり,前記現金を一時的に借用して賞品を購入し,後日大会等の体指等謝金を予算支出した際に,現金を戻し入れるという事務処理方法を採るようになった。

体指等謝金等の管理状況
予算支出した体指等謝金等は,会計課から交付された封筒に入った状態で,生涯学習課内の被告人の袖机内に保管していた。同封筒には事業名と金額が記載されていた。その封筒から現金を一時的に借用して他の事業の賞品等を購入した場合には,その封筒に賞品代等の支出先の事業名及び支払金額等を記載し,後日その事業の謝金等を予算支出した際に,元の封筒に現金を戻し入れ,戻した金額を記載した。賞品等の領収書はいったん領収書保管用の封筒に入れ,賞品代等の支出先の事業名,支出名目及び支出金額等を記載していた。領収書は3か月に1回くらいの割合で整理して,ノートやファイルに貼って領収書綴りを作っていた。領収書綴りは,説明を求められたときに備えて二,
三年間は保存し,
それを過ぎると廃棄した。
残っていた領収書綴りは総務課への異動のころにすべて紛失した。

謝金等の精算の要否についての基本的な考え
被告人は,実際に体指の指導・審判の支援を受けて実施した事業につき予算支出した謝金や体指の旅費については,他の生涯スポーツ事業一般の賞品等を購入するために一時的に借用しても,最終的に体指に交付して精算する必要があると基本的に考えていたが,体指に交付せずにスポーツ事業の賞品等の購入に充てたものもあった。実際に体指の支援を受けずに実施した事業で体指の名義だけを借りて予算支出した謝金や,T会員の謝金は,生涯スポーツ事業一般の賞品代等に費消することができ,体指やT会員に交付して精算する必要はないと考えていた。実際に体指等の支援を受けたか否かは被告人の記憶のみで区別していた。

体指等謝金等の使途等
平成9年度は,体指の支援を受けずに実施した3教室の謝金29万4000円と,全国体指研究協議会の特別旅費12万2300円の合計41万6300円を,生涯スポーツ事業一般に充てる資金とし,備品や消耗品を5万円程度購入し,
町民体育大会や新春歩く会の賞品代の補充に
各5万円程度充て,約26万円を平成10年度に持ち越した。翌年度への持ち越しが生じたのはこの時が最初である。平成10年度は,体指の支援を受けずに実施した2教室(本件公訴事実1及び2に係るもの)の謝金11万5500円,費用弁償2件分及び前年度からの持ち越し金約26万円の合計約40万円を,生涯スポーツ事業一般に充てる資金とし,備品や消耗品を5万円程度購入し,
町民体育大会や新春歩く会の賞品代の
補充に各5万円程度充て,約25万円を平成11年度に持ち越した。平成11年度は,体指の旅費と謝金,T会員の謝金及び前年度からの持ち越し金約25万円の合計78万円を,
生涯スポーツ事業一般に充てる資金とし,
備品や消耗品を5万円程度購入し,
町民体育大会や新春歩く会の
賞品代の補充に各5万円程度充て,年度内に事業実施できなかった3大会の謝金11万0600円(本件公訴事実5ないし7に係るもの)と合わせて合計約63万円を平成12年度に持ち越した。この中から,一部(本件公訴事実3に係るものを含む。
)は平成12年度事業の賞品代等に充て,
残りは体指会とTに精算した。


体指会及びTに対する謝金等の精算
被告人は,平成12年10月1日付けで総務課に異動することが決まったので,保管していた謝金等を体指会及びTに交付して精算することにした。平成12年11月末か12月初めころに,精算の準備をし,手元に残っていた封筒等を見ながら精算金一覧表を作成した。
婦人スポーツ(3/18)5月予定53,900-おはようGG大会賞品代(米代)?→高齢者に委託と記載された,現金の入っていない封筒があった。いずれかの事業から賞品代4万9850円を立て替えた記憶があり,平成12年3月の婦人スポーツ交流大会から変更して平成12年8月に実施したおはようグラウンドゴルフ大会がそれかもしれないと思った。
平成13年2月28日に体指会会計担当のMに精算金を交付した。同年3月10日にT会計担当のOに精算金と前記精算金一覧表を交付した。その際,
おはようグラウンドゴルフ大会の賞品の米代をTが支出
したかどうか尋ねたが,同人は

そういうことはない。

と言っていた。(2)

被告人の生涯学習課における業務報告状況等
被告人の生涯学習課における業務報告状況
生涯学習課では,職員が机を並べて座っており,互いの仕事の状況を把握できる状態だった。執務室内の黒板に事業の予定を書いたり,毎週行われる朝礼で事業の報告をしたり,予定を連絡したりしていた。体指等の謝金名目で予算支出して生涯スポーツ事業等の大会等の賞品を買うことは,生涯学習課のJ2・K2・Nの歴代課長に言ったことがあると思う。賞品代の出所につき特に何も質問されなかった。賞品の購入,のし書き,運搬等は他の職員も手伝っていた。


賞品の保管状況
購入した賞品は,生涯学習課執務室奥の休憩室や体育館の倉庫などに置いて一時保管していた。


謝金債権者に対する説明等
TのL2事務局長ら同会の役員には,グラウンドゴルフの賞品代は一般会計からは出せないので謝金名目で予算支出して賞品代に充てること,源泉徴収される場合があること等を説明し,了解を得ていた。会計担当のOに領収書用紙を渡して

何々事業の何名分の氏名と押印をお願いします。

と依頼していた。
体指は,前任者のLから,謝金を賞品代に充てることを説明されたはずであり,Tと異なり甲町の非常勤職員であるから,当然そのことを理解してくれていると思ったので,被告人から改めて体指にそのことを説明したことはない。
(3)

国保事業の共催経緯
被告人が保健衛生課と同課主管の国保事業の共催に積極的に取り組んだ動
機の一つは,当時ニュースポーツ用具が不足しており,国保事業では備品購入に5割の補助金が付くので,これを利用したいということであった。平成7年4月ころ,保健衛生課に行き,国保事業担当職員のSと,国保事業の実施の件について協議した際,前記のニュースポーツ用具購入の希望をSに伝えた。さらに,生涯学習課の生涯スポーツ事業では体指の名義を使って謝金を予算支出して賞品代に充てているので,国保事業でも同様にしたい旨申し出たところ,Sは

関係者の了解が得られれば差し支えない。

という意見であった。その後,平成9年ころ,Sや保健衛生課課長補佐のRに相談し,体指の支援を受けないで出前スポーツ教室等の事業を実施し,その謝金でニュースポーツの用具や賞品を購入できないか相談し,
了解を得た。
R保健衛生課長補佐に相談した時期はもっと後だったかもしれない。保健衛生課長と一対一で協議したことはない。
(4)

本件公訴事実1ないし3の各国保事業の実施状況等
本件公訴事実1ないし3の各国保事業の実施状況
(ア)

ニュースポーツ普及のために地区や企業に出向いて行う出前スポーツは,平日や昼間に実施することが多いので,生業を持つ体指の支援を受けられなかった。そのため被告人一人で指導に当たった。
(イ)

本件公訴事実1の国保保健事業高齢者出前スポーツリハビリ教室
高齢者を対象に,平成10年6月14日の第1回Y2と平成11
年2月15,18日の第2回ZinD3の各大会前に,その練習として,
シルバースポーツ教室名でニュースポーツ教室を実施した。
(ウ)

本件公訴事実2の国保保健事業地区の健康づくりスポーツ事業
企業を対象に,土,日,祭日に,各町内の体育施設や広場に出向き,
出前スポーツ名でニュースポーツ教室を実施した。
(エ)

本件公訴事実3の国保保健事業地区の健康づくりスポーツ教室
高齢者を対象に,平成11年10月18日から平成12年3月27日
まで行われた第1回Z2ニュースポーツ(個人戦)大会に備え,その練習として,地区の健康づくりスポーツ教室」名の事業を実施した。(オ)前記各予算支出手続の際に体指の名義を借りた。前記のとおり,本件公訴事実1ないし3の各国保事業は,事業名及び実施日が異なるものの,すべて実施済みである。実際に実施した際に使用した事業名と各支出額調書等に記載の事業名とが異なるのは,国保事業で決めた事業名を実施に当たってそのまま使うと違和感があったからであり,異なる事業名を使用することは保健衛生課の了承を得た。各事業の実施日と各支出額調書等に記載の実施日が異なるのは,同年11月ころの県への報告の際,年度の後半に事業を行う旨の報告をしていたので,各支出額調書等の作成に当たり前記報告に合わせたからである。イ謝金の使途実際に体指の支援を受けることなくその名義を借りて予算支出した謝金なので,被告人はその謝金を体指に交付して精算する必要がないと考えていた。本件公訴事実1に係る謝金4万5500円と公訴事実2に係る謝金7万円の合計11万5500円は,翌平成11年度事業である「第43回町民体育大会と第27回新春歩く会の賞品代の補充に各5万円程度ずつ充て,残りは文房具等の消耗品やスポーツ用具等の購入に使った。本件公訴事実3に係る謝金4万4100円は,翌平成12年度事業の賞品代等に充てた。私的な目的の流用はしていない。
(5)

本件公訴事実4の特別旅費の予算支出目的等
予算支出目的
平成11年度の特別旅費の予算が,出納整理期間である平成12年4月ころになっても未消化であり,これを消化する必要があった。一方,平成11年8月28日の平成11年度女性体指研修会と同年11月20日の平成11年度体指実技研修会の各費用弁償が未精算であった。そこで,前記特別旅費の予算を消化するとともに,前記2件の費用弁償の精算として体指に交付するために,
本件公訴事実4の特別旅費の予算支出手続を行った。
領収書には名前が重複しないように適宜体指の名義を借りて書いた。名義を借りることについて特に説明はしていない。


決裁権者らに対する説明
前記アの特別旅費の予算を消化するとともに未精算の2件の費用弁償の精算に充てるために佐賀スポーツセミナー名目で予算支出手続を行うということは,N生涯学習課長に説明して了承を得た。財政課のPからの問合せに対しても同様に説明した。


体指会会計係Mに対する費用弁償金の交付状況
本件公訴事実4の予算支出後,多忙のため,しばらく体指への費用弁償金の交付ができなかった。その間,他の生涯スポーツ事業のために一時借用したかもしれない。平成13年2月28日,体指会の会計係であるMに未精算の旅費2件分の精算金である旨説明して交付した。

(6)

本件公訴事実5ないし7の各事業の実施状況等
本件公訴事実5ないし7の各事業実施状況及び謝金の使途
(ア)

本件公訴事実5ないし7の各事業は平成11年度内に予定していた
が,天候不良や日程調整の不調で同年度内に実施できなかったため,同年度内に実施した旨の支出額調書等を作成して体指等の謝金を予算支出し,
翌年度に同趣旨の事業を実施してその賞品代等に充てた。
いずれも,
体指及びT会員の支援を受けずに実施した事業であったので,
被告人は,
これを生涯スポーツ事業一般の賞品代等に費消することができ,体指やT会員に交付して精算する必要はないと考えた。
(イ)


本件公訴事実5の婦人スポーツ交流大会(グラウンドゴルフ)は,老人クラブと婦人会の交流を図る目的で,子育てが終わった世代の女性を対象に,平成12年3月18日に実施予定であったが,日程調整ができずに実施できなかった。そこで,同年8月27日に「おはようグラウンドゴルフ大会の名称で同種の高齢者対象の事業を実施し,予算支出した体指等の謝金はその賞品代に充てた。私的な目的の流用はしていない。
(ウ)

本件公訴事実6の出前スポーツ教室は,町民に幅広くニュース

ポーツを普及させる教室を開催しようとの計画であったが,日程調整ができず,年度内に実施できなかった。
(エ)

本件公訴事実7の各区対抗ニュースポーツ大会(グラウンドゴルフ)は,グラウンドゴルフとソフトバレーを町民に幅広く普及させて将来は町民オリンピックの種目にすることを目標に,平成11年11月28日に実施予定であったが,雨天のためグラウンドゴルフが平成12年3月19日に延期となり,更に同日も雨天のため実施できなかった。(オ)

本件公訴事実6及び7の各事業は,これらを合わせて,平成12年
8月8日に親子グラウンドゴルフ大会」
の名称で同種の事業を実施し,予算支出した体指等の謝金等はその賞品代に充て,残りは同年度の町民体育大会等の賞品代に充てた。私的な目的の流用はしていない。イ生涯学習課長らに対する説明本件5及び7の各予算支出手続の際には体指及びT会員の名義を,同6の予算支出手続の際には体指の名義をそれぞれ借りた。N生涯学習課長及びU同課長補佐には,予算支出に対する決裁を得る際,当該事業が未実施であること,後日実施する予定であることを説明して了解を得た。3関係証人等の関係供述の概要(1)ア生涯学習課関係生涯学習課長N平成8年4月から同12年3月末まで生涯学習課長として在籍。本件公訴事実4の出張票及び同5ないし7の各支出額調書について,決裁の際,実際にはその記載のとおりの事業は開催されていないということや,体指が参加・指導していないということは知らなかった。もし知っていれば決裁しない。各決裁の時の具体的な記憶はない。生涯スポーツ事業の大会の一部で賞品が出ていた。賞品代の出所については深く考えていなかった。体指定例会議事録の確認はしていた。体指の研修旅費の決裁文書に,開催案内等が添付されることもあった。朝礼や,黒板の記載や,体指定例会議事録に,佐賀スポーツセミナーの記載があったかどうか記憶にない。本件公訴事実4の具体的な決裁状況は覚えていない。捜査段階では推測で話した。出張票の費目が訂正されている事情や,なぜ特別旅費で支出されたかは分からない。時間外勤務について被告人と協議した記憶もない。特別旅費は,予算要求の際に財政課から厳しくチェックされる。平成12年1月の予算ヒアリングで,財政課から,未執行の特別旅費の消化について聞かれたかどうか記憶にない。平成12年3月末の段階で,平成11年度の体指の出張旅費2件が未精算だったという話を被告人から聞いたことはない。事業の執行については担当職員に任せていた。生涯学習課長として在籍中,被告人の担当する大会に四,五回出席し,うち1回参加者に賞品を授与したことがある。イ生涯学習課課長補佐U平成10年4月から同14年3月末まで生涯学習課課長補佐として在籍。本件公訴事実4の出張票及び同5ないし7の各支出額調書について,決裁の時,実際にはその記載のとおりの事業は開催されていないということや,体指が参加・指導していないということは知らなかった。被告人から,謝金を賞品代に充てるという話は聞いたことはある。上司や審判代表者の了承が必要だと思う。実際に開催されていない事業や参加していない債権者について謝金等を請求することはできないと思う。特別旅費は,予算ヒアリングで消化状況や今後の消化見通しをかなり厳しく聞かれる。未精算の費用弁償に充てるために特別旅費を消化するという形で決裁を求められた場合の対応は,ケースバイケースだと思う。日程調整できなかった大会の謝金について,別の大会で使ったという事情を聞いた上で支出額調書の決裁を求められた場合,決裁したと思う。雨で流れた大会の謝金について,次年度の別の事業で使うということで決裁を求められた場合,どうしても予算消化しなければならない事業であれば,決裁したと思う。賞品代については特に意識していなかった。ウW昭和63年4月から平成8年11月末まで生涯学習課在籍。Lと被告人の各事業執行方法を比較して,賞品の有無や賞品代の出所に特に大きく変わったところはなかった。エV平成8年11月から同13年12月末まで生涯学習課在籍。毎週月曜日に行われる生涯学習課と学校教育課の合同打合せ会(朝礼)で,被告人から,前年度の事業を4月以降に実施する旨の報告がなされたことがある。事業は実施されていないし実施の予定もないが予算を支出した,という報告は受けたことがない。被告人は,賞品代を予算要求しても財政課にはねられるので,体指や老人会の審判謝金を賞品代に充てていると言っていた。領収書に記載されている人は実際には審判をしておらず名前だけを借りているという話は,被告人から聞いた覚えがある。事業は実際に開催されているんだろうと思っていた。被告人は賞品の領収書をファイリングしていた。上司や他の職員がそのファイルをチェックしたことはなかった。生涯学習課では主に担当職員と課長が予算管理をしていたが,担当職員の方から報告や相談をしない限り,課長の方から予算執行状況等について話してくることはなかった。節内の流用は担当職員ができると認識していた。オY平成12年10月1日から同14年3月末まで生涯学習課主査として在籍(その後同課課長補佐)。平成12年10月,被告人から生涯スポーツ事業の事務引き継ぎを受けた際,現金の引き継ぎはなかった。謝金で賞品を買うように言われた。平成12年8月8日と同月27日に実施されたグラウンドゴルフ大会では,謝金を予算支出していないが賞品は出ていた。(2)ア保健衛生課(平成12年4月1日以降は保健福祉課。以下同じ。)関係保健衛生課長Q平成10年4月から同13年3月末まで保健衛生課長として在籍。本件公訴事実1ないし3の各支出額調書について,決裁の際,実際にはその記載のとおりの事業は開催されていないということや,体指が指導・審判していないということは知らなかった。もし知っていれば決裁しない。国保事業実施確約書を出した場合,国保事業の趣旨に合った事業を実施すればいいと理解していた。国保事業の趣旨に合うかどうかは担当職員の判断に任せていた。国保事業の予算の中の報償費で賞品は買えると思う。報償費という節内に賞品代も講師謝金もある。ただし,実際に講師をしていない人の謝金として支出することはできないと思う。謝金を賞品代に充てているという話を担当職員のBから聞いたことはないが,謝金を賞品代に充てるという判断をすることも担当職員に委ねていた運用の範囲内であると思う。課長補佐が了解していれば,自分も承認しているということになる。イ保健衛生課長補佐R平成5年7月ころから同課主査,課長補佐,課長として在籍。国保事業の目的は,行く必要がないのに病院に集まるお年寄りや自宅に閉じこもるお年寄りをスポーツや公民館の習い事に集めることだった。事業に賞品が出ていることは知っていた。賞品代は最初は参加賞も補助金の対象になっていたので,報償費の賞品代として予算を組んで賞品を買っていたが,後には補助対象外になった。平成7年ころ,保健衛生課と被告人が協議した結果,国保事業では謝金の補助率が10割だったので,謝金を予算支出して,審判の厚意で賞品を買わせてもらおうという話になった。平成9年か10年ころ,保健衛生課の事務所から出てきた被告人から,「体指の支援を受けずに自分一人で『出前スポーツリハビリ教室』を指導して,浮かせた体指の謝金分でニュースポーツの道具等を買いたい。課長とBには説明してきた。旨聞いた。当時の保健衛生課の課長は多分M2課長だったと思う。私は,

源泉徴収票が謝金債権者に送られるから,本人に先に話しておいた方がいい。

と言った。
平成7年ころ,年度内に雨で実施できなかった高齢者グラウンドゴルフ大会について,被告人,私,S,M2保健衛生課長で協議し,年度内に事業を行ったことにして謝金を予算支出し,4月以降に実際に大会を実施した時に使おうということになった。B職員の時代にも同じようなことがあり,同様に処理した。
老人会の事務局長は,自分たちが審判謝金なり指導謝金としてもらった分は,被告人に賞品を買え,良いように使って構わない旨言っていると話していた。
自分は,審判なり指導員なりの仕事をして謝金の支払を受けた方が,次の大会の賞品を買えと言って被告人にあげられる分については,その方と被告人の関係であるから,私たちが口を出すことではないと思う。体指に実際に頼まずに生涯学習課の職員が実施した教室の謝金についても,謝金債権者と話ができていれば,若しくは暗黙の了解があればいいと思う。
スポーツ教室等の事業を開催したが,体指の支援はなく,職員が指導した場合でも体指の謝金を請求したことがあった。年度をまたいでの開催も含め,全く開催されることのなかった事業について謝金を請求したり,債権者数を水増しして謝金を請求したという記憶はない。
国保事業の書類の中の事業名称と,現場で実際に実施する際の事業名称が異なることはあった。被告人から,国保事業の名前は固すぎるしとっつきにくいから,違う名称で事業をしてもよいだろうかという問合せがあった。
甲町は,以前は老人医療費が高かったが,後ではそれが下から近い方になった。被告人が生涯スポーツ事業に取り組んだ成果だと思う。


平成9年4月から同13年12月末まで保健衛生課在籍。被告人からT会員の謝金を賞品代に充てるという話は聞いた。
本件公訴事実1ないし3の各支出額調書は被告人のメモのみに基づき作成した。実際にはその記載のとおりの事業は開催されていないということや,体指が指導・審判していないということは知らなかった。
生涯学習課とのタイアップ事業の実施後,保健衛生課に報告文書が回ってくることもあった。
国保事業では,例年2月に国民健康保険普通調整交付金が交付されるため,年度途中である11月に実績報告をするという扱いになっていたと思う。前記報告の時点で未実施の事業については,町長名で事業実施確約書を提出するので,プレッシャーがあった。見込みと違う運用がなされるであろうことを認識しつつ実績報告をすることもあった。獲得した予算費目と実績とが異なっていても,国保事業という趣旨に合致していればいいという認識であった。その判断は担当職員がしていた。
ZinD3事業については,生涯学習課と国保事業に加えることができるかを協議し,対象になると判断した。


平成7年4月から同10年3月末まで保健衛生課在籍。平成7年4月ころ,保健衛生課で,私,被告人及び課長補佐のRと打合せをした際,被告人から,

国保事業では補助金で備品等が買えるので,タイアップしてスポーツ事業を行い,ニュースポーツの道具等を買いたい。賞品代は補助の対象外なので,謝金を賞品代に充てる。

という話があった。事業の実施要項が回ってきていたので,大会で賞品が出ていることは保健衛生課も知っていた。大会や教室は実際に開催されていると思っていた。被告人から大会等が開催されていない事業について謝金を支出させるという説明はなかった。大会で,謝金支払の対象となる債権者が参加せず,職員が指導していることはあった。

(3)

T関係
L2
T役員で話し合い,審判謝金を賞品代に充てるよう被告人に提案した。被告人から領収書に署名押印するように頼まれ,Oが領収書を会員のもとに持参し,会員が押印した。ほとんどの大会で賞品が出ていた。
ニュースポーツ大会をやる前に練習会をしていた。練習会は昼間が多かった。
平成10年6月14日にY2があり,その前の6月8日から12日まで練習会があった。
平成11年2月15,18日に第2回ZinD3があり,その前に練習会があった。開催日には幅があった。
Z2ニュースポーツ交流大会は,T主催ではないが,Tの会員が参加していた。各種目の概ね1週間くらい前から練習会があった。
いずれの練習会も,私が参加していたかどうか分からないが,被告人が指導したと思う。体指が参加しているのも見たことがある。
T主催事業以外でも,参加者はT会員がほとんどなので,謝金は賞品代に使っていいというのがT役員の話だった。
審判は決める係に任せていた。


グラウンドゴルフ

T会計,TG

G会計とは別に,町や社会福祉協議会等が開催する事

業予算で,Tが関係するグラウンドゴルフの支出入については,豫備費として管理執行していた。
Y2は元来T主催の事業であったが,被告人の提案により,平成10,11年はニュースポーツを更に普及させるために甲町が開催した。甲町が主催した事業の賞品は,Tが購入し,事業終了後に被告人から賞品代金を受け取ったものと,被告人が賞品を購入して準備していたものとがあった。前者はグラウンドゴルフ,後者はペタンク等のニュースポーツが主だった。
平成8年ころ,被告人は,Tの役員の前で,

町の予算に賞品代はないが,審判謝金を賞品代に充てていいか。領収書にサインと押印をしてもらえば,手続は自分がやる。

旨説明し,役員は,甲町が主催する事業についてTの役員に出る謝金を賞品代に充てることを了承した。被告人から

何名分もらってください。

と領収書を手渡され,Tの役員の署名や押印をもらったことが20回くらいある。
平成13年3月10日,自宅を訪ねてきた被告人から精算金一覧表を見せられ,謝金の残金19万7767円を受け取った。被告人は,精算金一覧表の記載について順次説明し,
平成12年3月18日に『婦人スポーツ』としてグラウンドゴルフを開催する予定で,謝金5万6000円(税引き後5万3900円)を同年5月15日に支出したが,事業が開催できなかったため,平成12年5月ころに『婦人スポーツ大会』を開催する計画をした。しかし,これも変更して,平成12年8月の『おはようグラウンドゴルフ大会』の賞品代に充てることにした。賞品はTにお願いして,米代4万9850円を使った。差し引き4050円は,後日支払う。と説明した。
被告人が懲戒免職処分を受けた後の平成13年4月ころ,普段使っていなかった財布から,平成12年8月25日付けN2発行の米代1万6000円と,同月28日付けO2発行のマーカー代3360円の領収書が見つかり,私が,
おはようグラウンドゴルフ大会の賞品代を個人
で立て替えていて,被告人から代金を受け取っていなかったことが分かった。
(4)

体指関係
P2
体指の定例会で出前スポーツの話が出た時,用具の準備やルール指導について町職員の支援が期待できるので,Q2」で社内スポーツとしてやってきた大会を「出前スポーツの一環としてやろうと思った。
平成10年10月24日のグラウンドゴルフ大会は,私としては,出前スポーツの一環として取り組んだと思っている。
出前スポーツの
一環ということを,体指や従業員には特に言っていない。用具の準備やコース設定等につき被告人の援助を受けた。やり方等について,それまで社内スポーツとしてやってきた大会と特に違った点はない。


平成13年2月28日に被告人から封筒入りの現金を受領した際,3万2960円入りの封筒につき,未精算の旅費2件分の精算金であるという説明は聞いていない。


G2
私が体指会の会計係を担当した平成5年から平成12年6月までの間に,甲町の職員から,
九州体指研究大会の宿泊費に対する旅費以外に
旅費をもらったことはない。研修会などに参加するときは交通手段は町が所有する公用車を使用していた。
九州体指研究大会は県外で行われ,
宿泊を伴い,その費用のすべてを体指に負担させるのは大変なので,特別に旅費が出るのだと思っていた。
九州体指研究大会の旅費は,私が被
告人から一括して受領していた。その他の体指の旅費についても,個人に支払われることはほとんどないものと思っていた。私は体指の謝金や旅費はすべて体指会の通帳に入れていた。
甲町で,被告人が不正を働いたのではないかという疑いが表沙汰になった後,被告人が私を訪ねてきて,

何年度分か調べられてこんだけやっとらんと言われよる。

と言いながら,私に現金入りの封筒を見せたことがある。


R2
体指の研修会への参加の際は,ほとんど町役場の公用車を利用した。ほとんどの場合職員が随行し,職員が公用車を運転した。個人の車や電車等を利用したことはほとんどない。私が個人の車を使用したのは,平成9年の女性体指研修会の際である。そのときは私が車を運転し,他の女性体指を乗せて佐賀市まで行ったが,そのことで職員からガソリン代として旅費をもらった記憶はない。私以外の体指の車で行った場合も,ガソリン代が出たとか,出るとかの話は一度も聞いたことがない。平成11年8月28日の女性体指研修会には出席していない。

S2
私は個人の車を運転して,体指の研修会に参加したことがない。いつも町役場の公用車に乗せて連れて行ってもらった。


T2
平成11年8月28日の女性体指研修会は,M体指と二人で参加した。
他の体指は参加していない。
私もMさんも運転免許証を持たないので,
車を運転するはずがない。公用車を利用したか,記憶はない。今まで,このような研修会に参加して旅費をもらったことはない。



体指実技研修会や全国体指研究協議会の正規の旅費を含め,旅
費が体指個人に現金で支払われたことはない。

(5)

財政課関係
財政課長C
平成8年4月から同14年3月末まで財政課長として在籍。本件出張票及び各支出額調書について,決裁の際,実際にはその記載のとおりの事業は開催されていないということや,体指が参加・指導していないということは知らなかった。
細節間の使い回しは各課で判断できると思う。



平成10年5月から同15年3月末まで財政課に在籍。平成12年度から予算ヒアリングに助役が立ち会うようになった。特別旅費は原則として認めないという説明を財政課がしたことはあるが,予算ヒアリングで,特別旅費を消化できないと次年度の特別旅費を認めないとまで言ったかどうかは分からない。
本件公訴事実4の出張票の費目末尾3を×で消して費に書き直
した。費用弁償と思って書き直した後,パソコンで確認すると,生涯スポーツ振興事業費の費用弁償の予算がなかったので,
被告人に聞いたところ,

特別旅費でやりたい。と言われた。具体的なやりとりは覚えていない。

佐賀スポーツセミナー
は実際に開催されたと思っていた。
被告人から,
別の研修会の旅費の精算に充てるとは聞いていない。


平成8年12月から同13年12月末まで財政課に在籍。平成12年度から予算ヒアリングに助役が立ち会うようになった。
予算ヒアリングでは,
他のものに使える需用費と役務費以外は,執行率を上げるために減額補正するよう指導していた。旅費は基本的に減額させたかったので,執行残があれば,予算ヒアリングで今後の支出の見込みなどを聞いていた。特別旅費の予算要求に当たっては,特別旅費調書を提出させ,目的や事業効果などを聞いていた。
本件公訴事実4の予算支出に当たっては財政課と生涯学習課との間で何らかの協議があったと思うが,具体的な記憶はない。補正が間に合わない4月に入っても特別旅費が残っていたので,財政課としては,執行率を上げたいし,2年連続で未執行をチェックできなかったという事態を避けたかったのではないか。財政課長が何らかの説明を受けて納得したから決裁が通ったと思う。

4
第2の前提事実,第3の5の認定事実及び関係証拠により明らかに認められる事実
第2の前提事実,第3の5の認定事実及び関係証拠によれば,次の各事実が明らかに認められる。
(1)

被告人の体指等謝金等支出事務の処理方法,使途及び予算支出した謝金
等の保管状況

被告人は,前任者Lの運用を引き継ぎ,T会員などの高齢者及び体指の指導・審判謝金名目で予算支出した現金で生涯スポーツ事業の大会賞品を購入した。謝金債権者が実際には指導・審判をしていないのに領収書にその名義を借りて予算支出したこともあった。


原則として,領収書は被告人が代筆代印で作成し,支出額調書等に添付して生涯学習課長及び財政課長らの決裁権者の決裁に回した。事業開催の裏付け資料等は付されなかった。


生涯学習課と保健衛生課が共催した国保事業で謝金等を支出する際には,被告人が,事業名・開催日時・場所・審判名等を記載したメモと領収書を,保健衛生課の担当職員に渡し,同職員はこれらをもとに支出額調書を作成し,決裁に回した。事業開催の裏付け資料等は付されなかった。

被告人は,予算支出した謝金等の現金を自己の生涯学習課内の袖机内に保管していた。


被告人は,賞品代等の支出先の事業名及び支出金額等をメモ書きした封筒や,そのメモ書きと対応する記載のある精算金一覧表を作成した。同一覧表はTのOに交付した。

(2)

被告人の業務報告状況等
生涯学習課における業務報告状況
(ア)

生涯学習課の執務室内の黒板には事業予定が書かれていた。毎週月
曜日には生涯学習課の朝礼があり,担当職員から事業の報告や予定の説明等がなされていた。
賞品代の出所について質問がなされたことはない。
賞品の買い出しや運搬等は他の職員も手伝っていた。
(イ)

被告人が,生涯学習課内で,又は同課同僚職員に対し,

謝金を賞品代に充てている。

という話をしたことがある。イ
保健衛生課に対する事業説明状況
生涯学習課と保健衛生課とが共催した国保事業実施後に,保健衛生課に報告文書が回覧されてくることがあった。


購入した賞品の保管状況
購入した賞品は,
生涯学習課の執務室や体育館の倉庫に保管されていた。


謝金債権者に対する説明等
(ア)

体指は毎月定例会を開催し,年に一度決算報告を行っていた。定例
会の議事運営は生涯学習課の担当職員が行い,
事業の確認等をしていた。
体指に謝金が支出された場合には,原則として源泉徴収され,源泉徴収票が送付された。
(イ)

T役員は,被告人に体指,同役員らの指導・審判謝金を賞品代に充
てることを了承し,領収書の作成に協力した。
(3)

国保事業との共催経緯等
被告人は,国保事業を生涯学習課と保健衛生課で共催するに当たり,謝金
名目で補助金を支出して賞品やニュースポーツ道具を買うことなどを,保健衛生課の課長補佐であったR及び担当職員であったSに提案し,
了解を得た。
(4)

本件公訴事実1ないし3の各国保事業の実施状況等
本件公訴事実1ないし3全体について
(ア)

本件公訴事実1ないし3の各支出額調書に記載された日付,名称で
の事業開催の事実はない。
(イ)

平成7年度から実施された国保総合健康づくり推進事業は,国

民健康保険における医療費の適正化を主な目的としており,そのうちニュースポーツについては,生涯学習課と保健衛生課が共催していた。(ウ)

国保事業の実績報告の際,未実施事業については必ず実施するとい
う町長名の確約書を国に提出することになっていた。
(エ)

事業の正式名称と町民向けの名称とが異なることがあった。

本件公訴事実1について
(ア)

本件公訴事実1の支出額調書等の記載は,事業名国保保健事業高齢者出前スポーツリハビリ教室,実施日は平成10年10月12,2
5日,同年11月1,10日,12月10日,平成11年1月23日,2月7日,3月28日となっており,支出額調書が財政課に提出されたのは出納整理期間内の平成11年4月27日ころである。
(イ)

平成10年6月14日,
第1回Y2が開催され,グラウンドゴル

フ大会やその他のニュースポーツ大会が行われた。この事業はT主催事業である。
第1回Y2の前の平成10年6月8,9,10,11,1
2日にその練習会があった。
(ウ)

平成11年2月15,18日,
第2回ZinD3が開催され,グ

ラウンドゴルフ大会(同月15日)やその他のニュースポーツ大会(同月18日)が行われた。この事業は,高齢者の健康増進,楽しむスポーツ活動の普及,参加者の交流などを目的とし,生涯学習課と保健衛生課が共催した。
第2回ZinD3の前の平成11年2月1から16日の
間に数日間,その練習会があった。
(エ)

被告人は,平成10年6月8ないし11日に,リハビリのため通院
していた。

本件公訴事実2について
(ア)

本件公訴事実2の支出額調書等の記載は,事業名地区の健康づくりスポーツ,実施日は平成10年12月5,19日,平成11年1月
25日,2月1,8,9,10,17,21日,3月3,28日となっており,支出額調書が財政課に提出されたのは出納整理期間内の平成11年4月27日ころである。
(イ)

企業の従業員や地区の住民を対象として,次のようにグラウンドゴルフ等が実施された。



同年6月20日,U2



同年9月5日,甲焼卸団地協同組合



同年9月26日,V2社



同年10月24日,Q2



同年10月25日,壬地区



同年11月8日



平成11年1月23日,癸地区



同年2月21日

⑩エ
平成10年5月16日,U2

同年3月28日

本件公訴事実3について
(ア)

本件公訴事実3の支出額調書等の記載は,事業名国保保健事業地区の健康づくりスポーツ教室(9月∼3月),実施日は平成11年9月10日,10月14日,11月10日,12月9日,平成12年1月10日,2月12日,3月22日となっており,支出額調書が財政課に提出されたのは出納整理期間内の平成12年4月25日ころである。(イ)

平成11年10月18日から平成12年3月27日にかけて,
第1回Z2ニュースポーツ(個人戦)大会が開催された。個人戦開催日は,平成11年10月18日,11月29日,12月20日,平成12年1月24日,2月28日,3月27日であった。この事業は,高齢者の健康増進,楽しむスポーツ活動の普及,参加者の交流などを目的とし,生涯学習課と保健衛生課が共催した。各種目の1週間前くらいからその練習会があった。
(5)

本件公訴事実4の特別旅費の予算支出状況等
本件公訴事実4の出張票記載の佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)という事業は実施されていない。イ
旅費の決裁権者は財政課長である。
財政課は,
決裁文書の記載に基づき,
費目,予算残額,費目と予算執行理由との対応及び担当課長の決裁印の有無等を確認する。


特別旅費の出張票の決裁には,視察先の要覧等が添付されていることがあり,出張後には詳しい復命が要求される。特別旅費の予算要求に当たって,特別旅費調書の提出が要求され,必要性等を詳しく聴取される。

本件出張票は,特別旅費の予算支出に通常用いられる概算払い用ではなく,精算払い用の出張票である。平成11年度予算の出納整理期間内である平成12年4月25日ころに財政課の決裁に回された。
同課職員のPが,
費目の特別旅費に当たる3を費用弁償を指す費に訂正したが,結
果的には特別旅費が支出された。本件出張票添付の領収書は,A,W2,E及びS2の体指4名に日当各2200円と佐賀市までの交通費(鉄道賃)各1640円を支給するものと,G,J,T2,P2,H2,R2,M及びX2の体指8名に日当各2200円を支給するものの合計2枚に分けられていた。予算支出額は合計3万2960円であった。


平成10年度では保健体育総務費で特別旅費19万5000円を要求したが,2万7000円しか認められなかった。同年度の生涯スポーツ振興事業費の特別旅費は3万9000円は未消化で,全額不用で精算された。平成11年度も前年度と同じ生涯スポーツ指導者講習会で同額の3万9000円の特別旅費を要求して認められたが,平成12年1月の平成12年度予算ヒアリングの時点でも未消化であった。平成12年度予算ヒアリングにはI助役も立ち会った。平成11年度の特別旅費は減額補正されなかった。平成12年度は地域総合型スポーツクラブ先進地視察で費用弁償1万1000円,普通旅費1万1000円,
生涯スポーツ指導者講習会で費用弁償3万3000円,特別旅費4400円を要求し,費用弁償4万4000円,普通旅費1万1000円,特別旅費5000円が認められた。

平成11年度女性体指研修会と平成11年度体指実技研修会の費用弁償は予算支出されていない。平成11年度女性体指研修会は,申込書に4名の記載があった。
平成11年度体指実技研修会は,
体指の定例会議事録に,
体指14名のうち6名が欠席したと記載されていた。これらの費用弁償の合計額は3万2960円である。実際には,平成11年度女性体指研修会には,MとT2の2名が被告人運転の公用車で参加した。


平成10年度,平成12年度の各女性体指研修会では,実施後間もなく費用弁償が予算支出された。


過去に実施された女性体指研修会及び体指実技研修会については,体指個人は旅費の交付を受けていない。


G2は,平成5年から同12年6月まで体指会の会計係を務めていたが,平成8年度から同11年度までの体指会決算書によれば,
受取旅費と
して計上されているのは,すべて前記九州体指研究大会
(ただし,平
成9年度決算書には受取旅費欄の摘要欄に九体指分とあるが,甲93によれば,これは全国体指研究協議会熊本大会を指すと認められる。)
の関係のみで,それ以外の旅費の計上はなく,同人は前記九州体指研究大会(平成9年度は全国体指研究協議会熊本大会
)関係の旅費以外
に,体指の出張旅費を被告人から受領したことはない。前記九州体指研究大会(平成9年度は全国体指研究協議会熊本大会
)も,旅費とし
て体指個人に支払われたもので,それを一括して同人が被告人から手渡しで受領した。


平成13年2月28日に体指会会計のMが被告人から受領した現金入り封筒のうち,3万2960円が入っていた封筒には,Mの自筆による3/25出張(佐賀)旨の記載がある。(6)

本件公訴事実5ないし7の各事業の実施状況等
平成12年3月18日開催予定の婦人スポーツ交流大会(グラウンドゴルフ)は開催されなかった。

出前スポーツ教室は実施されなかった。


平成11年11月28日開催の第2回各区対抗ニュースポーツ大会のうち,屋外のグラウンドゴルフ大会は雨のため平成12年3月19日に延期となったが,同日も雨で開催できなかった。


平成12年8月8日,第5回ファミリーグラウンドゴルフ(ナイター)大会が実施された。この事業は,家族を対象にし,ニュースポーツの普及と親子のふれあいなどを目的としている。同大会には98組196人が参加し,上位入賞者とホールインワン者に賞品が出た。指導・審判謝金の予算支出手続は行っていない。


平成12年8月27日,
第3回おはよう高齢者グラウンドゴルフが
実施された。この事業は,高齢者にグラウンドゴルフを普及し,健康増進を図ることなどを目的としている。上位者に賞品が出た。指導・審判謝金の予算支出手続は行っていない。

5
被告人供述の信用性の検討
(1)

被告人の体指等謝金等支出事務の処理方法等
被告人が前任者Lから引き継いだ事務処理方法
第4の4の認定事実と概ね一致し,信用できる。


被告人が新たに始めた事務処理方法
体指の定例会報酬や費用弁償からも賞品代を出すようになったという点については,他に矛盾する証拠もなく,信用できる。


体指等謝金等の管理状況
(ア)

被告人は,会計課から交付される事業名と金額が記載された現金入
り封筒と,被告人が別に作成した領収書用の封筒を利用して,現金の出入りがあるたびに,それらに事業名や金額等を記入し,体指等謝金等の借用及び戻し入れの各状況が分かるようにきちんと管理していた旨供述している。
(イ)

しかしながら,そのような管理方法を採っていれば生じないような
次の客観的事情がある。

被告人がこれらの封筒類を見ながら作成したと供述している精算金一覧表には,実際には源泉徴収されていないにも関わらず源泉徴収された旨の誤った記載がなされている(12/15各区対抗ニュースポーツ12/15ニュースポーツ教室ファミリーGG大会



甲9番号欄357・390・391)
。その上,被告人は,そのうち
12/15ニュースポーツ教室について,平成13年6月に至っ
て,
税額に相当する1万0500円を,
体指会会計係のMに交付した。


精算金一覧表の記載によれば残金4050円があるはずの事業(
5/15婦人スポーツ
)につき,同残金が存在せず,使途も不明で
あり,Oに交付できなかった。


精算金一覧表の12/15ニュースポーツ教室の備考欄には,
一時高齢者の『Z2』事業の10月∼12月の3種目の賞品代42,150円(13,700-,15,500-,12,950-)一時立替の為精算がおくれる旨の記載がある。同一覧表によれば,12/15ニュースポーツ教室事業の体指謝金10万5000円は,平成11年12月15日に会計課から支払われたのであるから,少なくともZ2事業の10月,11月実施事業分の賞品購入には間に
合わないはずである。この点について,被告人は,Z2」事業の賞品

は,当初現時点ではどの事業かは特定できない他の平成10年度生涯スポーツ事業(被告人は本件公訴事実1及び2の事業であるとも供述する。)の謝金で購入したが,その後,前記「12/15ニュースポーツ教室

事業の体指謝金に立替先を変え,同事業の謝金を前記他の生涯スポーツ事業に戻し入れたが,同謝金は直ちに新春歩く会の賞品代の補充に充てた旨供述している。しかし,そうだとすれば,会計課から受領した前記他の生涯スポーツ事業
の封筒には,
前記戻し金額の記載が,
12/15ニュースポーツ教室の封筒に
は支出先の事業名である他の生涯スポーツ事業と支出金額の各記
載が,それぞれあるはずであり,精算金一覧表作成当時,会計課から受領した封筒が被告人の手元に残っており(被告人は,弁109,51回622項,52回623項でその旨供述している。もっとも,被告人は,55回580項で,にわかに,精算金一覧表作成当時会計課から受領した封筒は被告人の手元になかった旨供述を変更しているが,変遷に合理的根拠がなく,信用し難い。,被告人が同封筒も見)
ながら精算金一覧表を作成したのであれば,精算金一覧表の12/15ニュースポーツ教室の備考欄の記載は,前記のような,他の生涯スポーツ事業に関する記載が欠落した記載にはならず,例えば他の生涯スポーツ事業』一時立替えの為精算がおくれるのよう

な記載になったものと考えられる。

(ウ)

総務課へ異動後,精算金交付までに,約5か月間も要している。
被告人は,これらの不自然な点や矛盾点について,説得的な説明を
しておらず,あるいは合理的理由なく説明を変遷させている。したがって,体指等謝金等の管理状況に関する被告人供述は,そのまま信用することはできない。
(エ)

もっとも,第4の4で認定したとおり,被告人は,賞品代等の支出
先の事業名及び金額等をメモ書きした封筒や,そのメモ書きと対応する記載のある精算金一覧表を作成し,同一覧表をOに交付しているのであるから,少なくとも,会計課から支払われた体指等謝金等の現金や賞品等の領収書を封筒に入れて保管し,賞品等の領収書の記載に基づいて,それらの封筒に,賞品代等の支出先の事業名,支出及び戻し金額等をメモするなどの管理をしていたという限度では,
被告人供述は信用できる。

体指等謝金等の使途等
(ア)

被告人が,自己が管理していた体指等謝金等の使途等について供述
するところは,他に矛盾する証拠もなく,基本的に信用できる。
ただし,
どの事業の謝金等をどの事業の賞品代に,又はどのような消耗品や備品の購入に使ったか,個別具体的に特定することは,被告人は元々帳簿を付けたり,預金して通帳に記帳するなどの方法も取っていなかった上,被告人が前記現金の管理に用いていたという封筒や領収書等の資料はすべて処分され又は紛失しているため,ほとんど不可能である。また,被告人供述中,本件公訴事実4の特別旅費を予算支出した目的が他の2件の体指の費用弁償の精算のためであったとする部分については,後記第4の5(5)で説示するとおり,信用できない。
(イ)

被告人は,被告人が管理していた体指等謝金等の一部を被告人の私
的な目的に流用した,あるいはその疑いがあるとの点については,これを全面的に否定しているところ,その点の被告人供述の信用性について検討する。

この点に関し,検察官は,当初,冒頭陳述において,
被告人は,(中略)私的用途に流用し,また,自己が担当する生涯スポーツ事業等の参加者に渡す賞品等を購入するなど,予算の枠を無視し私的な判断で費消可能な金員を詐取するため,,このようにして得た金員を生涯学習課内にある自己の机の引き出し内に保管し,必要に応じて,自己ないし家族のスポーツ用品等を購入するなど自己の用途に充て,また,自己が担当する生涯スポーツ事業等の賞品購入代金等に充てるなどしていた旨主張し,その関係の立証趣旨に基づく証拠書類を証拠調べ請求していたが,第2回準備手続期日で,

使途不明金が存在すること,私的用途への流用については,本件の罪体として立証する考えはない。ただ,情状としての立証を考えている。

と述べ,次に第4回公判期日で,前記各記載の趣旨は犯行の動機・目的を並列的に例示したもの詐取金の費消先を例示したものである旨釈明,
し,同期日で前記各証拠書類の証拠調べ請求をすべて撤回した。
したがって,被告人が,自己が管理していた体指等謝金等の一部を自己の私的な目的に流用したことを立証することを目的とする証拠は,そもそも存在しない。

ところで,被告人は,平成13年2月28日及び同年3月10日,体指会とTの関係者に精算金一覧表を示すなどして,被告人の手元に残っていた現金を交付し,保管現金残高を零にしているので,この行為が,被告人がそれまで管理していた体指等謝金等の一部の私的流用を窺わせるものか否か,検討する。
(a)

被告人は,体指会会計等への精算が遅れた理由及び精算金一覧

表の作成時期等について,平成12年10月10日から同年11月末ころまで,総務課への異動に伴う諸般の事務処理や総務課の仕事に慣れるのに精一杯で精算事務が後回しになった,平成12年11月末か同年12月初めころ,精算の準備を行い,そのころ領収書綴りは紛失していたので,手元に残っていた事業ごとの封筒をもとに精算金一覧表を作成した旨供述している。
(b)

一方,Yは,平成12年12月上旬ころ,被告人が担当してい

た事業の収支の調査を開始し,その結果は,平成13年2月上旬ころ,生涯学習課長らに報告され,同年3月1日,甲町長から監査委員に監査要求がなされ,その結果が同年4月4日に出て,同月16日,懲戒免職処分となり,
同年7月12日,刑事告訴に至っている。
(c)

前記(b)に照らすと,Yらの内部調査及び監査委員による監査開
始などの動きが,被告人の心理になにがしかの影響を与え,被告人をして平成13年2月及び同年3月に体指会とTの関係者に体指等謝金等の精算をすることを促進させるなどした可能性は否定できないと言うべきである。問題は,被告人が,被告人による体指等謝金等の一部の私的流用の事実の発覚を防ぐために,前記精算を促進するなどしたかである。
この点については,まず,被告人が保管現金を債権者らが属する
体指会又はTに精算しようとしたこと自体は,全く理由がないこととは言えないし,それは直ちに前記私的流用の事実の発覚防止につながるものでもない。
もっとも,被告人は,精算金一覧表を作成する際参考にしたとい
う封筒(それには,支出先の事業,支出金額等,体指等謝金等の現金の移動がメモ書きされていた。
)を処分したかもしれないと供述
している点は注目される。なぜならば,領収書が紛失した以上,それらの封筒は,被告人が体指等謝金等を一部にせよ私的に流用していないことを証明できるほとんど唯一の資料となるべきものだからである。これを被告人が処分したとなると,単にその証明が困難になったというにとどまらず,それらの封筒には被告人に不利益な記載があったから処分したのではないか,との疑念を生じさせる事柄ではある。しかし,そのような疑いを客観的に裏付ける証拠は全くない上,被告人は単に精算金一覧表の作成や精算行為が終わった時点で,当時はまだ刑事告訴などの動きもなかったため,それらの封筒の重要性に思いが至らず,不用意に処分してしまったと考えることが全くできないわけではない。
(d)

よって,前記の精算行為の存在は,直ちに被告人がそれまで管
理していた体指等謝金等の一部の私的流用を窺わせるものとは言えず,この点を全面否定する被告人供述の信用性が減殺されるとまでは言えない。
(2)

被告人の生涯学習課における業務報告状況等
第4の4の認定事実と概ね一致し,次の点を除き,概ね信用できる。被告人は,体指等の謝金名目で予算支出して生涯スポーツ事業の大会等の
賞品を買うことは,生涯学習課のJ2・K2・Nの歴代課長に説明して了承してもらった旨供述している。しかしながら,Nは,

賞品代の出所については深く考えていなかった。,

体指がその事業に参加・指導していないということは知らなかった。

旨供述し,被告人からそのような説明を受けたことを肯定していない。この点に関する被告人の供述は,いつ,どこで,どういう機会に,どのように説明したか,そのとき相手方はどのような反応を示したかなど,具体的な状況については一切触れていないか,曖昧であり,にわかに信用できるものではない。
(3)

国保事業の共催経緯等
第4の4の認定事実と概ね一致し,次の点を除き,概ね信用できる。被告人は,実際に体指の支援を受けた事業の謝金を関係者の了解を得て賞
品購入に充てるという点にとどまらず,平成9年ころ,体指の支援を受けないで出前スポーツ教室事業を実施することや,その謝金でニュースポーツ用具や賞品を購入することについて,保健衛生課の了解を得た旨供述し,本件公訴事実1ないし3の各支出額調書の保健衛生課の決裁はそのような了解に立ってなされたものである旨供述している。
しかしながら,この点について,本件公訴事実1ないし3の各支出額調書決裁当時保健衛生課長であったQは,体指が指導していないことは知らなかった旨供述している上,被告人の

保健衛生課の了解を得た。旨の供述は,

それ自体漠然としており,にわかに信用し難いものである。もっとも,前記決裁当時課長補佐であったRは,平成9年か10年ころ,被告人から,

体指の支援を受けずに自分一人で『出前スポーツリハビリ教室』を指導して浮かせた体指の謝金でニュースポーツの道具等を買いたい。課長とBには説明してきた。

旨聞いた,自分は,

源泉徴収票が謝金債権者に送られるから,本人に先に話しておいた方がいい。

と言った旨供述しているけれども,同供述は,被告人が保健衛生課長とBに前記説明をするのを直接見聞きしたという趣旨のものではないことなどのその内容に照らし,

保健衛生課の了解を得た。

旨の被告人の供述を直ちに裏付けるものとは言えない。また,同供述によれば,当時の保健衛生課長はおそらくM2であったというのであるところ,同人は本件公訴事実1ないし3の各支出額調書決裁当時は保健衛生課長の職にはなく,同人との間の交渉は直ちに前記決裁当時の保健衛生課長の認識如何には影響しない。他に被告人供述を裏付けるような的確な証拠はない。そうすると,保健衛生課のR課長補佐や担当者が,生涯学習課との共催に係る国保事業について,実際に体指の支援を受けた事業の謝金を関係者の了解を得て賞品購入に充てるという点にとどまらず,平成9年ころ,体指の支援を受けないで事業を実施し,浮かせた謝金をニュースポーツの道具や賞品の購入に充てることを了承したとまでは認め難く,まして,Q保健衛生課長がその点について了承したと認めることはできない。したがって,前記の点に関する被告人供述はにわかに信用し難い。
(4)

本件公訴事実1ないし3の各国保事業の実施状況等
本件公訴事実1ないし3の各国保事業の実施状況
第4の4によれば,高齢者を対象として,
第1回Y2及び第2回ZinD3の前にニュースポーツの練習会が開催されたこと,企業や地区の住民を対象として各町内の体育施設等に出向いてニュースポーツ事業が実施されたこと,高齢者を対象として第1回Z2ニュースポーツ(個人戦)大会の各個人戦前に練習会が開催されたことが認められ,これらの練習会等を開催した旨の被告人供述は信用することができる。
なお,
第1回Y2の練習会の日程と,被告人がリハビリのために通院
した日程とが一部重なっているが,時間帯や指導の方法によっては,被告人が前記通院をしながら,前記練習会を実施することは可能であり,前記の点で被告人供述の信用性が直ちに減殺されることはない。

実施事業名等が公訴事実1ないし3の各支出額調書等の記載と一致しないことについて
被告人は,前記アの各練習会等はいずれも本件公訴事実1ないし3の各支出額調書等に記載の事業に相当するものとして実施した,実際に事業を実施した際に使用した名称と各支出額調書等に記載の事業名とが異なるのは,国保事業で決めた事業名を実施に当たってそのまま使うと違和感があったからであり,
異なる事業名を使用することは保健衛生課の了承を得た,
各支出額調書等に記載の実施日と実施した練習会等の日付が異なるのは,県に対する国保事業の報告の際,年度の後半に事業を行う旨の報告をしていたため,それに合わせたからである旨供述している。
(ア)

まず,前記アの各練習会等が国保事業としての事業目的と一致する
か否かについては,国保事業は国民健康保険における医療費の適正化を主な目的としているところ,
高齢者を対象としたニュースポーツ教室は,
前記事業目的に沿うものである。しかし,企業や地区の住民を対象としたニュースポーツ教室は,国保加入者でない人も含まれることになり,P2も,社内スポーツと実質的に変わらない旨供述していることから,事業目的との関連性は,高齢者対象のものに比べてやや薄い。
(イ)

次に,前記アの各練習会等の名称が,本件公訴事実1ないし3の各
支出額調書等に記載の事業名と異なっている点については,保健衛生課は,獲得した予算費目と実態とが異なっていても,国保事業の趣旨に合致していれば差し支えないという柔軟な姿勢であったことが窺われるから,被告人の供述は概ね信用できると言うべきである。
(ウ)

さらに,日付の違いについては,年度途中で報告を行うため未実施
事業については予定の報告にならざるを得ないという国保事業の特殊性からすれば,予定として報告した分についてはあくまで予定であるのだから,実際の事業がこれと異なる日に実施されることがあり得るということは当然想定されていると思われる。
そうであるにも関わらず,
なぜ,
報告後に実施したものについてまで,実際の練習会等の日付と同じ日付を領収書に記載しなかったのかは疑問が残る。事業実施の日付は,体指等の謝金債権の発生原因事由を特定し,それに該当する体指等の指導・審判活動が真実行われたか否かを審査する上で極めて重要な要素であるから,支出額調書添付の領収書に記載された事業実施の日付が実際と異なる記載になっているということは,単にそのような審査を著しく困難にするだけでなく,予算支出自体の誠実性を疑わせ,極めて安易かつ便宜的な予算支出ではないか,あるいは他の目的を意図した架空請求や水増し請求等ではないかとの疑念を抱かせるものであることは否定できない。
(エ)

以上によれば,前記アの各練習会等は,本件公訴事実1ないし3の
生涯学習課と保健衛生課の共催に係る国保事業に相当するものであり,被告人はそれらの事業の支出額調書等作成の際,前記練習会等を念頭に置き,その関係の体指謝金を予算支出する意図であった,事業の名称や実施日付の相違は単に形式的なものにとどまる旨の被告人供述は,にわかに信用し難いと言うべきである。

謝金の使途
自己の担当する生涯スポーツ事業に関する賞品,備品及び消耗品の購入に充てた旨の被告人供述は,矛盾する証拠もなく信用できる。

(5)

本件公訴事実4の特別旅費の予算支出目的等

予算支出目的
(ア)

本件公訴事実4の特別旅費の予算を消化する必要性
特別旅費は,予算要求時に特別旅費調書を提出して財政課に目的や事業効果等を詳しく説明する必要があり,出張後は詳しい復命が要求されるなど,審査が厳しい。


財政課は,予算ヒアリングにおいて,事業担当課から,未執行事業の実施見込みを聞き,予算執行率を上げるため,不要と判断すれば減額補正を促すところ,平成11年度の特別旅費が減額補正されていないことからすれば,平成12年度の予算ヒアリングにおいて,生涯学習課は,平成11年度の特別旅費の予算消化の見込みについて,財政課が納得する程度の説明をしたこと,そのため被告人は平成11年度の特別旅費の予算を消化する必要性と責任を一層強く感じていたことが推認される。


以上によれば,本件公訴事実4の特別旅費の予算を消化する必要性があった旨の被告人供述は信用できる。


この点,検察官は,平成10年度の特別旅費が全額不用として精算され,平成11年度の特別旅費も平成12年度の予算ヒアリング時において未消化であったにもかかわらず,平成12年度の旅費の要求が全額認められていることなどから,平成11年度の特別旅費の予算を消化する必要性があった旨の被告人供述は信用できないと主張している。
確かに,平成12年度の予算では旅費全体としての要求額はほぼ全額認められ,金額も増額されているものの,特別旅費は平成10年度予算で大幅に減額され,同11,12年度予算では要求額及び獲得額共に減少し,旅費の内訳も細かくなっていること,平成12年度の予算ヒアリングからは助役も立ち会っていることからすれば,平成11年度の特別旅費の予算を消化する必要性があった旨の被告人の供述は自然であって信用できるものであるから,
検察官の主張は採用しない。
(イ)

本件出張票の体裁,記載内容等
本件出張票に添付された領収書は2枚に分けられ,それぞれ,未精算であった平成11年度女性体指研修会及び平成11年度体指実技研修会の申込書又は定例会議事録記載の参加人数と一致している。平成11年度の特別旅費の予算の未消化額は3万9000円であったところ,本件では,前記2枚の領収書の合計3万2960円が予算支出されている。本件出張票は,特別旅費の予算支出に通常用いられる概算払い用ではなく精算払い用であり,出納整理期間内に財政課の決裁に回された。


本件出張票の記載内容を見ていくと,次のような問題がある。
被告人は,平成11年度女性体指研修会と同年度体指実技研修会の費用弁償が未精算であり,この精算目的を兼ねて,本件公訴事実4の特別旅費の予算を消化しようと企図した旨供述するけれども,第4の4の認定事実によれば,まず,本件出張票に添付の領収書に記載の人数及び参加者名が実際の人数及び参加者名と一致しない。特に,平成11年度女性体指研修会の費用弁償に対応すると思わ
れる領収書記載の体指は,4名のうち3名までが男性体指であり,なぜそこまでする必要があったか疑問が残る。次に,平成11年度女性体指研修会については,参加した体指は被告人運転の公用車で往復したはずなのに,体指4名全員の交通費(鉄道賃)が請求されており,請求内容が実体と一致しない。さらに,会計課は前記領収書の記載に従って旅費を支払うのであるから,前記のように,領収書に記載された体指の人数・氏名・交通費の有無が実体と一致しないのであれば,同旅費を受領した被告人においてこれを体指又は体指会に交付する場合,債権者・金額を巡って紛議が生じるのは避けられず,被告人は事実上同旅費を体指側に交付できないのではないかとの疑問が生じる。
このような本件出張票の記載内容上の問題に照らすと,被告人に,真実前記2件の未精算の体指の費用弁償精算の目的があったのか,根本的に疑問であると言わざるを得ない。
(ウ)

以上によれば,被告人の供述のうち,本件公訴事実4の特別旅費の
予算を消化する必要性があった旨の供述は信用できるが,平成11年度女性体指研修会と同年度体指実技研修会の費用弁償が未精算で
あり,この精算目的を兼ねて,本件公訴事実4の特別旅費の予算を消化しようと企図した旨の供述は,前記精算目的があったとする点に疑問が残るので,にわかに信用できない。

決裁権者らに対する説明
(ア)

生涯学習課長に対する説明
被告人は,本件公訴事実4の特別旅費の出張票の決裁の際,N生涯学
習課長及びU同課課長補佐に,特別旅費の予算を消化するとともに,未精算の2件の体指の費用弁償の精算をするために,
佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)名目で予算支出手続をする旨を説明し,両名から了承を得た旨供述するけれども,両名はいずれも被告人からそのような説明を受けたことを否定し,前記セミナーが実際には開催されていないことは知らなかった旨供述している。
N生涯学習課長は,本件出張票決裁当時,総務課長に異動になっており(平成12年4月1日付け)
,被告人が同課長に何も事情を説明しな
いで,同課長の異動前の所属課の事業に関する案件の決裁を得たとは考え難い。生涯学習課は,小人数の小さな課である上,主管事業の計画及び執行に当たっては,担当者が課内の黒板に書き,朝礼でも報告・説明をするなど,全課的に取り組む態勢が採られていたこと,本件出張票にはN生涯学習課長の復命確認の押印があるところ,実際には開催されず,復命欄に資料別添とある資料も添付されていないのに,被告人からどのような復命を受けた結果,
復命確認の押印をしたという
のかそもそも疑問であることに照らすと,いずれも生涯学習課の管理職の地位にあったにもかかわらず,
佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)の開催の有無については知らなかった旨のN生涯学習課長及びU同課課長補佐の各供述はたやすく信用できず,両名は,これが生涯学習課が執行した事業ではないことを,少なくとも未必的には知っていたことはもとより,いずれも本件出張票を決裁していることからすれば,被告人からこれが特別旅費の予算を消化するための名目であることまでの説明は受けていたものと考えるのが自然である。そして,佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)が架空のセミナー(講習会)である以上,次にその出張名目で予算支出された特別旅費の使途が当然問題となるから,被告人は,両名に対し,予算支出された本件特別旅費は,未精算の2件の体指の費用弁償の精算に充てる旨の説明もしたと考えざるを得ない。これに反する両名の供述はにわかに信用し難い。したがって,この点に関する被告人の供述は,前記の限度で信用できる。
(イ)

財政課長に対する説明
被告人は,本件出張票が財政課の決裁に回った時,財政課の職員Pに
対し,特別旅費の予算を消化するとともに未精算旅費の精算に充てるため,
佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)名目で説
明し了承を得た,C財政課長もこの点を了承して決裁した旨供述しているけれども,Pは,本件出張票が体指の出張であったことから費用弁償で処理すべき事案ではないかと思い,費目欄を訂正し,被告人に問い合わせたところ,

特別旅費でやりたい。

と言われた旨供述し,Cも佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)の事業開催がなかったことや体指が参加していなかったことは知らなかった旨供述している。
そうすると,財政課で問題になったのは,本件出張旅費が費用弁償に当たるか,特別旅費で処理してもよいかという点であり,
佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)が実際に開催されたかとか,それに体指が参加したかという点ではなかったことが窺われる。財政課の決裁は決裁文書の記載に基づく形式的な審査が主であることからすれば,そのことは十分あり得ることである。被告人が生涯学習課側の意向として

特別旅費でやりたい。

旨を財政課に伝えたことや,本件出張票には,

県内の指導者が出席し,午前中講義,午後は実習が行われました。(中略)資料別添

旨の被告人による添え書きがあり,これが特別旅費で求められる復命書と見ることが不可能ではないこと(なお,N生涯学習課長の復命確認の押印もある。,PやC財政課長は本件

支出票を決裁していることなどに照らすと,財政課は本件出張旅費を特別旅費で処理することは承認したことは認められるものの,
佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)が実際に開催されたか,体指が参加したかについては,被告人からは説明を受けなかったものであり,まして,本件出張票が体指の未精算旅費の精算を目的とするものであることの説明はなく,そもそも財政課はそのような説明を受ける必要もなかったから,これらの点についての認識は全くなかったと認めるのが自然である。したがって,これらの点につき財政課に説明し了承を得た旨の被告人供述はにわかに信用し難い。

体指会会計係Mに対する費用弁償金の交付状況
被告人は,
多忙のためしばらく体指に対する費用弁償金の交付ができなかった。その間,他の生涯スポーツ事業のために一時借用したかもしれない。平成13年2月28日に体指会計係のMに体指関係の清算金を交付した。その際,未精算の旅費2件分の精算である旨説明した。旨供述している。

被告人が平成13年2月28日体指会会計係Mに未精算の旅費の費用弁償金を交付した。

との点はともかく,

多忙のため体指に対する費用弁償金の交付ができなかった。

との点及び

Mに未精算の旅費2件分の精算である旨説明した。との点については,信用性に疑問がある。

(ア)

被告人は,体指に対する費用弁償金の交付が遅れた理由について,多忙を挙げているけれども,本件特別旅費が予算支出されたのは平成12年4月28日であって,Mに対する精算金の交付が行われたのは,平成13年2月28日であり,その間約10か月も経過している上,被告人も出席して毎月開催される体指会の定例会の機会など,Mに本件費用弁償金を交付する機会はいくらでもあったはずであるから,被告人の前記弁解は到底信用することができない(むしろ,被告人が示唆する他の事情,すなわち,
他の生涯スポーツ事業のために一時借用したた
め,精算が遅れたと考える方が自然である。。

(イ)

Mは,

Mに未精算の旅費2件分の精算である旨説明した。

との点
について,
そのような説明は受けていない旨明確に否定している。
Mは,
その際,被告人が交付した封筒に,
3/25出張(佐賀)という,
佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)を指すと思われるメモ書きをしている上,被告人供述のような説明を受けたのであれば当然するであろう平成11年度女性体指研修会と同体指実技研修会の参加者名等のメモ書きをしていない。他方,同封筒には,
15,360円(4名)と17,600円(8名)の合計32,960円である旨の記載もある。
そうすると,被告人の前記供述のうち,

Mに未精算の旅費2件分の精算である旨説明した。

旨の供述部分は,全く実体のない虚偽供述とまでは断定できないものの,どれだけ具体的に説明したかについては少なからず疑問があり,被告人がこの点につきMに具体的に説明したと供述する趣旨であるとすれば,その供述はにわかに信用し難いと言うべきである。
(6)

本件公訴事実5ないし7の各事業の実施状況等
本件公訴事実5ないし7の各事業の実施状況及び謝金の使途
本件公訴事実5ないし7の各事業の実施状況及び謝金の使途に関する被告人供述は,第4の4の認定事実と符合する上,第4の3のO供述以外にこれと矛盾する証拠はないから,前記O供述と矛盾する部分及び謝金の流用可能性に関する被告人の個人的見解等に関する部分を除き,概ね信用することができる。
前記O供述の裏付けとなっている甲107号証添付の領収書は,それぞれ発行店関係者の供述によって作成名義の真正は認められる。しかしながら,これらの供述によっても,内容の真正や発行の経緯は不明であり,平成12年8月27日のおはようグラウンドゴルフ大会との関連性は必ずしも明確でない上,領収書の発見時期,経緯やOが管理していた豫備費帳簿の記載状況に照らしても不自然さが残る。このように,前記O供述の信用性には疑問が残るものの,その信用性を否定することもできない。そうすると,本件公訴事実5の謝金として予算支出した現金は,平成12年8月27日に実施したおはようグラウンドゴルフ大会の賞品代に充てた旨の被告人供述は,にわかに信用し難いが,逆に,これを被告人が私的な使途などに充てたという証拠は全くないから,結局,被告人は,前記謝金は,前記おはようグラウンドゴルフ大会の賞品代を含む生涯スポーツ事業一般のために費消したものと認められるが,具体的な使途を特定することはできない。

生涯学習課長らに対する説明
被告人は,本件公訴事実5ないし7の各事業の支出額調書の決裁を得る際,
N生涯学習課長及びU同課課長補佐に,
当該事業が未実施であること,
後日実施する予定であることを説明し了解を得た旨供述するけれども,両名はいずれも各事業が実施されていないことは知らなかった旨供述している。
N生涯学習課長は,本件各支出額調書決裁当時,総務課長に異動しており(平成12年4月1日付け),被告人が同課長に何も事情を説明しないで,同課長の異動前の所属課の事業に関する案件の決裁を得たとは考え難い。生涯学習課は,小人数の小さな課である上,生涯スポーツ事業の計画及び執行に当たっては,課内の黒板に書き,朝礼でも報告・説明をするなど,全課的に取り組む態勢が採られていたこと,N生涯学習課長は,被告人が多数の生涯スポーツ事業の大会等を計画し,休日もいとわず精励している姿を見て,

手伝おうか。

と声を掛けたり,自らも大会に出席したり,参加者に賞品を授与するなど,被告人の担当する生涯スポーツ事業に課長としても関心を払っていたこと,本件公訴事実7の事業は2回も雨天のため延期になっていることに照らすと,いずれも生涯学習課の管理職の地位にあったにもかかわらず,本件公訴事実5ないし7の各事業が開催されていないことは知らなかった旨のN生涯学習課長及びU同課課長補佐の各供述は信用できず,両名は,各事業が未実施であることを,少なくとも未必的には知っており,被告人から,どこまで具体的な説明があったかの点はともかく,各事業は実施予定であることの説明を受けて各支出額調書を決裁したものと考えるのが自然である。したがって,この点に関する被告人の供述は,前記の限度で信用できる。

6
第2の前提事実,第3の5及び第4の4の各認定事実,関係証拠並びにこれらに照らして信用できる限度での被告人供述から認められる事実
(1)

被告人の体指等謝金等支出事務の処理方法等
被告人が前任者Lから引き継いだ事務処理方法
被告人は,体指等謝金等支出事務については,平成6年ころまでは,前任者Lから引き継いだ事務処理方法をそのまま踏襲した。すなわち,体指の謝金の金額に合わせて町内の業者から掛けで賞品を購入し,大会等を実施した後,代筆代印で領収書を作成してその大会等の謝金を予算支出し,その謝金で業者に賞品の代金を支払うという方法である。T役員ら同会会員の名義も使った。Lは,謝金債権者が実際には指導・審判をしていないのに領収書にその名義を借りて予算支出したこともあった。Lから賞品の領収書や現金の引き継ぎはなかった。


被告人が新たに始めた事務処理方法
被告人は,平成7年ころから,賞品のマンネリ化を防ぐため,町外の業者からも賞品を購入するようになったが,これらの業者は掛け売りをしないため,
予め現金を用意する必要が生じたので,
被告人は,
そのころから,
予算支出後まだ体指に交付していない体指の定例会報酬や費用弁償の現金を使って賞品を購入し,後日大会等の体指等謝金を予算支出した際に,現金を戻し入れるという事務処理方法を採るようになった。


体指等謝金等の管理状況
被告人は,予算支出した体指等謝金等を,会計課から交付された封筒に入った状態で,生涯学習課内の被告人の袖机内に保管していた。同封筒には事業名と金額が記載されていた。その封筒内の現金を使って他の事業の賞品等を購入した場合は,その封筒に賞品代等の支出先の事業名及び支出金額等を記載し,後日その事業の謝金等を予算支出した際に,元の封筒に現金を戻し入れ,戻した金額を記載した。しかし,前記のような謝金等の管理方法が現実にどの程度実行されていたかとなると,疑わしい。賞品等の領収書はいったん領収書保管用の封筒に入れ,賞品代等の支出先の事業名,支出名目及び支出金額等を記載していた。領収書は3か月に1回くらいの割で整理して,ノートやファイルに貼って領収書綴りを作っていた。領収書綴りは,説明を求められたときに備えて,二,三年間は保存し,それを過ぎると廃棄した。残っていた領収書綴りは被告人が総務課に異動のころにすべて紛失した。

体指等謝金等の使途等
被告人は,平成9年度は,体指の支援を受けずに実施した3教室の謝金29万4000円と,全国体指研究協議会の特別旅費12万2300円の合計41万6300円を,生涯スポーツ事業一般に充てる資金とし,備品や消耗品を5万円程度購入し,
町民体育大会や新春歩く会の賞品
代の補充に各5万円程度充て,約26万円を平成10年度に持ち越した。翌年度への持ち越しが生じたのはこの時が最初である。平成10年度は,体指の支援を受けずに実施した2教室本件公訴事実1及び2に係るもの)(
の謝金11万5500円,費用弁償2件分及び前年度からの持ち越し金約26万円の合計約40万円を,生涯スポーツ事業一般に充てる資金とし,備品や消耗品を5万円程度購入し,
町民体育大会や新春歩く会の
賞品代の補充に各5万円程度充て,約25万円を平成11年度に持ち越した。平成11年度は,体指の旅費と謝金,Tの会員の謝金及び前年度からの持ち越し金約25万円の合計約78万円を,生涯スポーツ事業一般に充てる資金とし,備品や消耗品を5万円程度購入し,
町民体育大会や新春歩く会の賞品代の補充に各5万円程度充て,年度内に事業実施できなかった3大会の謝金11万0600円(本件公訴事実5ないし7に係るもの)と合わせて合計約63万円を平成12年度に持ち越した。この中から,一部(本件公訴事実3に係るものを含む。
)は平成12年度事業の賞
品代等に充て,残りは体指会とTに精算した。


体指会及びTに対する謝金等の精算
被告人は,平成12年10月1日付けで総務課に異動になったので,保管していた謝金等を体指会及びTに交付して精算することにした。平成12年11月末か12月初めころに,精算の準備をし,手元に残っていた封筒等を見ながら精算金一覧表を作成した。
そして,平成13年2月28日,体指会会計係Mに対し,封筒5通に入れて,精算金一覧表記載の12/15500円,同「5/30ニュースポーツ教室分9万4
町スポレク(3/5)
」分4万4100円,
佐賀スポーツセミナー分3万2960円及び平成12年度女性体指研修会分8800円の合計18万0360円の現金を精算金又は旅費名目で交付した。しかし,その際,被告人は,Mに対し,前記佐賀スポーツセミナー分について,

未精算の旅費2件分の精算である。

旨,簡単な説明をしたが,それ以上に具体的な説明をしなかった。
さらに,同年3月10日,T副会長Oに対し,封筒に入れて,精算金一覧表記載の,Z2ニュースポーツ」分16万2922円,
「高齢者スポーツ(Z)2/26分1万9910円及び4/14高齢者健康づくりスポーツGG(1/31,3/17)分1万4935円の合計19万7767円の現金を精算金名目で交付し,
その際,
精算金一覧表も交付し,
これに基づき同人に具体的に説明をした。
(2)

被告人の生涯学習課における業務報告状況等
被告人の生涯学習課における業務報告状況等
(ア)

生涯学習課は,小人数の小さい課であり,担当職員が,執務室内の
黒板に担当事業の予定を書いたり,毎週月曜日に行われる,生涯学習課及び学校教育課の職員全員を対象とし,教育長も出席する打合せ会(朝礼)で,担当事業の報告や予定の連絡を行い,主管事業について全課的に取り組む態勢が採られていた。N課長は主管事業の実施状況等を認識していた。また,被告人が多数の生涯スポーツ事業の大会等を計画し,休日もいとわず精励している姿を見て,

手伝おうか。

と声を掛けた
り,自らも四,五回大会に出席したり,そのうち少なくとも1回は入賞者等に賞品を授与するなど,被告人の担当する生涯スポーツ事業に課長としても関心を払っていた。
生涯スポーツ事業の大会等の賞品の買い出し・運搬等は,主として被告人がしたが,他の職員も手伝った。勤務時間内に賞品を買いに行くこともあり,そのときは課長や同僚職員にその旨断って外出した。大会等の前に,賞品を包装したり賞品に順位等を書いたのしを付けたりする作業があるが,それは執務室内で,かつ執務時間内に,他の職員も加わって行い,その作業状況は課内の誰の目にも付くものだった。
歴代の生涯学習課長は,N課長のみならず,その前任者であるJ2・K2の各課長も,大会等で,生涯学習課職員が準備した賞品を入賞者等に授与する役割を果たしたことがある。
被告人は,長期にわたり,かなりの数の大会等につき,消耗品費等の予算を使って賞品を購入する方法でなく,指導・審判謝金名目で予算支出し,それで賞品を購入するという方法を採っていた。元々グラウンドゴルフ等のニュースポーツは,競技スポーツと異なり,高齢者や障害者等を含め誰でも楽しめるために考案されたスポーツであるから,技術的に難しいものではなく,指導・審判に特別の技術は要らなかった。それにもかかわらず,1大会当たり16名もの指導・審判謝金の予算支出手続が反復されたことは,それ自体他の使途への流用の可能性を疑わせることだった。被告人は,生涯学習課内で,又は同課同僚職員に対し,

謝金を賞品代に充てている。

旨話したことがある。生涯学習課長や同課課長補佐が大会等の賞品代の出所は指導・審判謝金ではないかと推測することは難しいことではなかったが,被告人が生涯学習課に在籍中,歴代の同課課長や同課課長補佐から,賞品代の出所について質問を受けたことはなかった。また,同課課長らがその点を自ら調査したことも,被告人の賞品代の捻出方法は予算執行上問題であるから改めるようにとか,賞品を出さない事業執行方法を考えるようにとかの指示をしたこともなかった。
(イ)

N生涯学習課長は,

賞品代の出所については深く考えていなかった。,

体指がその事業に参加・指導していないということは知らなかった。

旨供述しているけれども,前記(ア)に照らすと,同課長は,少なくとも未必的には,被告人は体指等が指導・審判していないのに謝金を予算支出し,それを大会等の賞品代に流用していることを知っていたものと推認されるから,前記供述はたやすく信用できない。

購入した賞品の保管状況
購入した賞品は,生涯学習課の執務室や体育館の倉庫等に置いていた。

謝金債権者に対する説明等
被告人は,TのL2事務局長ら同会の役員には,グラウンドゴルフの賞品代は一般会計からは出せないこと,謝金名目で予算支出して賞品代に充てること,源泉徴収される場合があること等を説明し,了承を得ていた。T副会長Oに領収書用紙を渡し,

何々事業の何名分の氏名と押印をお願いします。

と言って,領収書の作成を依頼していた。体指については,被告人は,前任者のLが謝金を賞品代に充てることを体指に説明済みであると思っていた。そして,体指は甲町の非常勤職員であるから,当然そのことを理解してくれていると思い,被告人から改めて体指にそのことを説明したり,了承を取ったことはなかった。

(3)

国保事業の共催経緯等
甲町は,国民健康保険制度の下で,昭和63年度から連続して高医療費指
定市町村に指定されていた。70歳以上の老人医療費が原因で,佐賀県内でもワースト3に入るぐらい医療費が高水準にあった。医療費の適正化は,甲町にとって必須の行政課題であった。保健衛生課は,主管課として,平成4年度から平成6年度までヘルスパイオニア事業を,平成7年度から平成11年度まで国民健康保健総合健康づくり推進事業を取り組んだ。このように,国保事業は,高齢者に呼びかけてスポーツや公民館等での文化行事に参加してもらい,高齢者の健康増進を図り,高齢者に対する医療負担を軽減しようという目的があった。
国保事業は甲町を挙げて全庁的な取組みが要請された。助役の下に,課長級で組織する甲町高医療費安定化対策推進協議会等が設置され,保健衛生課と生涯学習課もその体制に組み込まれ,相互に連携して国保事業を実施する責務を負った。
生涯学習課は,平成4年ころから,将来の高齢化社会の到来を見込んで,従来の競技スポーツ中心の施策から生涯スポーツ(ニュースポーツ)中心の施策に転換し,
生涯スポーツ事業を積極的に展開しようとした。
そのために,
まず,ニュースポーツ用具の整備・充実が必要であった。国保事業では,備品の購入につき5割の補助金が付いたので,被告人は,これを利用して,ニュースポーツの用具の整備・充実を図ろうと計画した。
保健衛生課のM2及びQの両課長は,国保事業の運用は課長補佐以下の職員の判断や運用に任せ,特段の問題がない限り,その案のとおり決裁するという態度であったが,被告人は,保健衛生課に出向いて,国保事業の件で協議した際,一対一で保健衛生課長と話し合ったことはなく,国保事業の担当者であるS又はB職員と打合せをし,そのそばでM2又はQ保健衛生課長が執務しているという状況であった。
国保事業では参加賞が出ていたが,平成6年ころまでは参加賞代に補助金が付いたので,予算を組んで購入していた。平成7年ころ参加賞が補助対象外になったので,被告人及び保健衛生課が協議し,謝金に10割の補助金が付くことから,債権者の厚意で謝金を使って賞品を購入することになった。保健衛生課は,実際に体指が事業を支援した場合,その謝金を債権者である体指の承諾を得て事業の賞品購入に使うことは差し支えないという考えで事業を執行した。ただし,開催の事実が全くない事業につき,謝金を予算支出したことはない。もっとも,平成7年ころ,雨で年度内に実施できなかった高齢者グランドゴルフ大会について,被告人,S,R課長補佐及びM2課長が協議して,年度内に事業を行ったことにして謝金を予算支出し,4月以降に実際に大会を実施した時に使うという処理をしたことはある。平成9年ころ,被告人は,保健衛生課において,M2課長が執務しているそばで,Bに,

体指の支援を受けずに自分一人で『出前スポーツ』を指導して,浮かせた体指の謝金分でニュースポーツの道具等を買いたい。

と申し出た。R課長補佐にも前記申出をした。R課長補佐は,被告人に,

源泉徴収票が謝金債権者に送られるから,本人に先に話しておいた方がいい。

と注意したが,保健衛生課と被告人が,前記被告人の申出について協議したり,被告人に具体的な諾否の回答をしたことはない。
国保事業の書類上の名称と,生涯学習課が実際に開催した事業名が異なる場合があった。これについては,被告人から,国保事業の名称は固くて親しみにくいから違う名称で事業をしてもよいだろうかという旨の事前の問合せがあった。
(4)

本件公訴事実1ないし3の各国保事業の実施状況等
本件公訴事実1ないし3の各国保事業の実施状況等
(ア)

ニュースポーツ普及のために地区や企業に出向いて行う出前スポーツ教室は,平日や昼間に実施することが多いので,生業を持つ体指の支援は受けられなかった。そのため,被告人が一人で前記スポーツ教室の指導に当たった。
被告人が一人で指導した前記スポーツ教室として,次のaないしcの各事業があった。被告人は,これらが,本件公訴事実1ないし3の生涯学習課と保健衛生課の共催による各国保事業に相当する旨弁解する。ところで,Q保健衛生課長は,

国保事業実施確約書を出した場合,国保事業の趣旨に合った事業を実施すればいいと理解していた。国保事業の趣旨に合うかどうかは担当職員の判断に任せていた。

と供述する。このような保健衛生課の事業執行方法を踏まえて考えれば,前記スポーツ教室の性質・内容等からして,被告人の前記弁解はそれ自体として全く理由がないわけではない。しかし,被告人は,そのような対応関係や,体指の指導・審判の支援を受けないで,被告人が一人で指導して実施したことを,保健衛生課担当職員Bを含め,同課関係者に具体的に説明したり,それについて同課と協議したりして,同課の了承を得ておらず,保健衛生課は,本件公訴事実1ないし3の生涯学習課との共催に係る国保事業は,当該各支出額調書及び同添付の領収書に記載の事業名により同記載の時期に開催され,体指は各事業において実際に指導・審判に従事したという認識であった。まして,被告人は,支出決定権者である財政課長や町長には,前記事情を一切説明していない。

被告人は,平成10年6月14日の第1回Y2と平成11年2
月15,18日の第2回ZinD3の各大会前に,その練習とし
て,
シルバースポーツ教室名でニュースポーツ教室を実施した。


被告人は,企業を対象に,土,日,祭日に,各町内の体育施設や広場に出向き,
出前スポーツ名でニュースポーツ教室を実施した。


被告人は,高齢者を対象に,平成11年10月18日から平成12年3月27日まで行われた第1回Z2ニュースポーツ(個人戦)大会に備え,その練習として,地区の健康づくりスポーツ教室名
の事業を実施した。

(イ)

被告人は,平成10年度の出納整理期間内である平成11年4月2
0日ころ,保健衛生課担当職員Bにメモと指導・審判謝金の領収書を渡し,同職員は,保健衛生課において,同メモに基づき本件公訴事実1及び2の各支出額調書を作成し,これに前記領収書を添付して,Q保健衛生課長等の決裁を得た上,同月27日ころ,支出決定権者であるC財政課長及びF町長(助役不在につき)の決裁を得た。前記領収書には謝金債権者として体指の署名と押印があったが,いずれも体指の承諾を得ていないものであった。Bは,同月30日ころ,情を知らない会計課主査Dから前記各謝金の交付を受け,これを全額被告人に渡した。
同様に,被告人は,平成11年度の出納整理期間内である平成12年4月中旬ころ,Bを介して,本件公訴事実3の支出額調書を作成し,同様の体指の領収書を添付して,
Q課長の決裁を得た上,
同月25日ころ,
C財政課長の支出決定を得,同月28日ころ,Bを介して情を知らないD主査から前記謝金を受け取った。
(ウ)

被告人は,領収書の謝金債権者にTの役員の名義を使うこともでき
たが,体指の名義を使ったのは,Tは純然たる外部団体であるが,体指は甲町の非常勤職員であり,体指が指導・審判するのが事業の趣旨により合致すると考えたこと及び体指の活動実績になると被告人なりに考えたことによる。

本件公訴事実1ないし3の各謝金の使途
(ア)

被告人は,本件公訴事実1に係る謝金4万5500円と同2に係る
謝金7万円の合計11万5500円は,翌平成11年度事業である第43回町民体育大会と第27回新春歩く会の賞品代の補充に各5万円程度ずつ充て,残りは文房具等の消耗品やスポーツ用具等の購入に使った。本件公訴事実3に係る謝金4万4100円は,翌平成12年度事業の賞品代等に充てた。
(イ)

前記(ア)の謝金で購入した消耗品及びスポーツ用具の例
ニュースポーツ等の運動・応急手当用具類
ソフトバレーボールのボール・ラケット,巻き尺,スパイラル・テープ等

高齢者スポーツ指導・応急手当用の参考図書類
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文房具類
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(5)

本件公訴事実4の特別旅費の予算支出目的等
予算支出目的
(ア)

予算における特別旅費の特殊性等
甲町においては,特別旅費は,普通旅費や費用弁償に比べ,予算とし
て認められにくい。予算要求する際,他の旅費と異なり,
旅費(特別旅費)見積書を添付し,
その出張の必要性を明らかにする必要があり,
財政課はその点を慎重に審査していた。
(イ)

統合型地域スポーツクラブ事業の視察計画と特別旅費の予算化
平成9年度から,文部省は各自治体に対し,
統合型地域スポーツクラブ事業の取組みを要請した。これは,欧米のスポーツクラブをモデルに,体育協会を中心に地域の社会資源を結集したスポーツクラブを育成するというものであった。そのためには,体育協会関係
者に先進地(佐賀市)への視察をしてもらう必要があった。そこで,生涯学習課は,平成10年度に生涯スポーツ指導者講習会(佐賀市)名目で,特別旅費3万9000円を予算要求し,認められた。しかし,関係者との調整が付かず,先進地視察ができず,予算は未消化で終わった。平成11年度でも同様の予算要求をし,同額が認められていたが,関係者との調整が付かず,平成12年度の予算編成作業が開始された時点でも,予算は消化されないままであった。
(ウ)

本件公訴事実4の特別旅費の予算を消化する必要性
平成11年11月,翌12年度の予算編成の説明会が開催され,I助
役が出席し,特別旅費を基本的に認めない方針を述べた。同年12月,予算要求に関するヒアリングが開催され,I助役が出席した。同ヒアリングでは,当年度の予算の消化状況についての確認がされ,当年度に未消化で必要ないとされた予算は3月の補正予算の財源にされる。I助役は,被告人に対し,
生涯スポーツ指導者講習会(佐賀市)の特別旅
費3万9000円が未消化であることを指摘し,その必要性を尋ねた。被告人は,前記統合型地域スポーツクラブ事業実施準備のため先進地を視察する必要がある旨を説明したところ,I助役は,同旅費を消化するように指導した。
ところが,本件特別旅費の予算は,出納整理期間である平成12年4月ころになっても未消化であった。
被告人は,2年続けて特別旅費の予算を未消化で終わらせるわけにいかず,担当職員としての責任もあって,何とかして前記予算を消化しなければならないと強く意識した。
(エ)

本件特別旅費の予算支出手続
平成11年8月28日,佐賀市で開催された平成11年度女性体指研修会と同年11月20日,佐賀市で開催された平成11年度体指実技研修会の費用弁償が未精算であった。そこで,被告人は,これを利用して,
佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)と
いう体指のための架空のセミナー(講習会)への出張名目で,本件特別旅費の予算を消化することを企てた。しかし,被告人は,予算支出した特別旅費を,前記2件の出張をした体指に費用弁償金として交付する意思はなく,
名義を使っただけの領収書記載の体指に交付する意図もなく,
生涯スポーツ事業の賞品代等に流用するつもりであった。
被告人は,平成11年度の出納整理期間内である平成12年4月中旬ころ,G外」名義の本件公訴事実4の出張票を同人らに無断で作成し,被告人が体指に無断で署名・押印した体指12名の署名・押印のある領収書2枚を添付して,N生涯学習課長の決裁を得た上,同月25日ころ,支出決定権者であるC財政課長の決裁を得,同月28日ころ,会計課主査のDから本件特別旅費3万2960円の交付を受けた。イ決裁権者らに対する説明(ア)生涯学習課長に対する説明被告人は,本件出張票についてN生涯学習課長の決裁を得る際,同課長に対し,「佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)は実際には開催されておらず,本件特別旅費の予算を消化するための名目に過ぎないこと,本件特別旅費は予算支出後未精算の2件の体指の費用弁償の精算に充てることを説明した。
(イ)

財政課長に対する説明
被告人は,本件出張票は費用弁償で処理すべきではないかと問い合わ
せた財政課職員Pに対し,

特別旅費でやりたい。

と答え,それが通って本件出張旅費を特別旅費で予算支出することをC財政課長に承認してもらったものの,本件出張票に記載された佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)は架空のもので,実際には開催されておらず,特別旅費の予算消化の名目に過ぎないとか,それゆえ実際には体指が同セミナー(講習会)に参加した事実はないとか,体指の未精算旅費の精算を目的とするものであるなどの具体的な説明は,PにもC課長や他の職員にもしなかった。まして,本件特別旅費は,予算支出後,体指には交付せず被告人が担当する生涯スポーツ事業の賞品代等に充てる予定であるという真の意図は説明していない。

本件特別旅費の流用と体指会会計係Mに対する金員交付状況
被告人は,会計課から受領した本件特別旅費3万2960円を生涯スポーツ事業の賞品代等に流用した。しかし,被告人は,平成12年12月上旬ころ,被告人の後任のYが被告人担当事業の収支の調査を開始し,その結果に基づき,平成13年2月上旬ころ,Y生涯学習課長らが,甲町監査委員に被告人が公金を使い込んでいた疑いがあると告げ,同月26日,F町長が監査委員に監査をしてもらえないかと伝えるなどの動きの中で,被告人の手元に残っていた謝金等の現金の精算の準備作業を進め,精算の一環として,
本件特別旅費相当額3万2960円を体指に交付しようと考え,
平成13年2月28日,同会会計係Mに前記金員を他の精算金と共に交付した。

(6)

本件公訴事実5ないし7の各事業の実施状況等
本件公訴事実5ないし7の各事業の実施状況
(ア)

本件公訴事実5の婦人スポーツ交流大会(グラウンドゴルフ)
被告人は,老人クラブと婦人会の交流を図る目的で,子育てが終わっ
た世代の女性を対象に,平成12年3月18日に本件公訴事実5の婦人スポーツ交流大会(グラウンドゴルフ)を実施する予定であったが,日程調整がうまくいかず,実施できなかった。次に,被告人は,平成12年5月ころ,
婦人スポーツ(グラウンドゴルフ又はトリム体操)大会として,実施しようと計画したが,これも実現できなかった。被告人は,同年8月27日に,高齢者対象のおはようグラウンドゴルフ大会を,体指・T会員の指導・審判の支援を受けずに,実施した。被告人の意図としては,これが本件公訴事実5の婦人スポーツ交流大会(グラウンドゴルフ)に相当する事業であった。(イ)

本件公訴事実6の出前スポーツ教室
被告人は,町民に幅広くニュースポーツを普及させるため,本件公訴
事実6の出前スポーツ教室の実施を計画したが,平成11年度内に実施できなかった。
(ウ)

本件公訴事実7の各区対抗ニュースポーツ大会(グラウンドゴルフ)被告人は,グラウンドゴルフとソフトバレーを町民に幅広く普及させて,将来は町民オリンピックの種目にすることを目標に,平成11年11月28日に本件公訴事実7の各区対抗ニュースポーツ大会(グラウンドゴルフ)の実施を計画したが,雨天のためグラウンドゴルフ大会が平成12年3月19日に延期となり,さらに,同日も雨天のためこれを実施できなかった。
(エ)

親子グラウンドゴルフ大会
被告人は,平成12年8月8日,
親子グラウンドゴルフ大会を,

体指・T会員の指導・審判の支援を受けずに実施した。被告人の意図としては,これは,本件公訴事実6の出前スポーツ教室及び同7の各区対抗ニュースポーツ大会(グラウンドゴルフ)に相当する,両事業の合併事業であった。

本件公訴事実5ないし7の謝金の各予算支出手続
(ア)

被告人は,平成12年度の出納整理期間内である平成12年5月上
旬ころ,本件公訴事実5の支出額調書を作成し,これに指導・審判謝金の領収書を添付して,
N生涯学習課長の決裁を得た上,
同月12日ころ,
支出決定権者であるI助役の決裁を得た。前記領収書には謝金債権者として体指及びT役員ら同会会員の署名と押印があったが,謝金債権者らの承諾を得ていないものであった。被告人は,同月15日ころ,情を知らない会計課主査Dから前記謝金の交付を受けた。
同様に,被告人は,平成12年5月下旬ころ,本件公訴事実6及び同7の各支出額調書を作成し,
これに指導・審判謝金の領収書を添付して,
N生涯学習課長の決裁を得た上,同月27日ころ,C財政課長の支出決定を得た。本件公訴事実6の支出額調書添付の領収書には体指の,同7の支出額調書添付の領収書には体指及びT役員ら同会会員の署名と押印があったが,いずれも謝金債権者らの承諾を得ていないものであった。被告人は,同月30日ころ,情を知らないD主査から前記各謝金を受け取った。
(イ)

被告人が,領収書に体指の名義を使ったのは,Tは純然たる外部団
体であるが,体指は甲町の非常勤職員であり,体指が指導・審判するのが事業の趣旨により合致すると考えたこと及び体指の活動実績になると被告人なりに考えたことによる。

生涯学習課長,財政課長及び助役に対する説明
(ア)

N生涯学習課長は,本件公訴事実5ないし7の各事業が未実施であ
ることを,少なくとも未必的には知っていたが,被告人から,各事業を翌平成12年度に実施する予定であることの説明を受けて各支出額調書を決裁した。
(イ)

C財政課長及びI助役は,いずれも,被告人から,本件公訴事実5
ないし7の各事業が年度内に未実施であることの説明は一切受けておらず,年度内に実施済みであると認識して各支出額調書を決裁した。エ
本件公訴事実5ないし7の各謝金の使途
本件公訴事実5の謝金として予算支出した現金は,平成12年8月27日に実施したおはようグラウンドゴルフ大会の賞品代を含む生涯スポーツ事業一般のために費消した。なお,このように,相当な金額であるのに,予算支出した謝金の使途を具体的に特定できないものがあるということは,
被告人の本件体指等謝金等の管理が,
被告人の供述にもかかわらず,
厳格なものでなく,むしろかなりずさんなものであったことの根拠事実(第4の5(1)ウ)に更に一つの根拠事実を付け加えるものである。同6及び7の謝金として予算支出した各現金は,いずれも,同月8日に実施した親子グラウンドゴルフ大会の賞品代に充て,残りは同年度の町民体育大会等の賞品代に充てた。
(7)

体指等謝金等の保管・流用状況,賞品購入の目的・意義・購入方法及び
生涯スポーツ事業の数・効果等

体指等謝金等の保管・流用状況
(ア)

体指等謝金等の保管状況
被告人は,平成8年ころ,Tの役員らの前で,

町の予算に賞品代はないが,審判謝金を賞品代に充てていいか。領収書にサインと押印をしてもらえば,手続は自分がやる。

旨説明した。役員らは甲町が主催する生涯スポーツ事業について,Tの役員に出る謝金を賞品代に充てることを了承した。
T副会長Oは,
被告人から,何名分もらってください。

と言って領収書用紙を渡され,それにTの役員の署名や押印をもらって被告人に渡した。その回数は,平成8年ころから同12年までの間に約20回あった。T役員に依頼して作成してもらった領収書以外に,被告人が無断で作成した体指名義の領収書もあった。被告人は,本件公訴事実1ないし7関係を含め,体指及びTの役員ら同会会員名義の少なからぬ領収書を使用して,国保事業や生涯スポーツ事業関係の予算から多額の指導・審判謝金を支出させ,被告人の手元で保管した。
予算支出した謝金額は,一大会当たり平均5万6000円であった。(イ)

体指等謝金等の流用状況
平成9年度は,体指の支援を受けずに実施した3教室の謝金29万4
000円と,
全国体指研究協議会の特別旅費12万2300円の合
計41万6300円を,生涯スポーツ事業一般に充てる資金とし,備品や消耗品を5万円程度購入し,
町民体育大会や新春歩く会の賞
品代の補充に各5万円程度充て,約26万円を平成10年度に持ち越した。
平成10年度は,体指の支援を受けずに実施した2教室(本件公訴事実1及び2に係るもの)の謝金11万5500円,費用弁償2件分及び前年度からの持ち越し金約26万円の合計約40万円を,生涯スポーツ事業一般に充てる資金とし,備品や消耗品を5万円程度購入し,
町民体育大会や新春歩く会の賞品代の補充に各5万円程度充て,約25万円を平成11年度に持ち越した。
平成11年度は,体指の旅費と謝金,T会員の謝金及び前年度からの持ち越し金約25万円の合計約78万円を,生涯スポーツ事業一般に充てる資金とし,備品や消耗品を5万円程度購入し,
町民体育大会や
新春歩く会の賞品代の補充に各5万円程度充て,年度内に事業実施できなかった3大会の謝金11万0600円(本件公訴事実5ないし7に係るもの)と合わせて合計約63万円を平成12年度に持ち越した。この中から,一部(本件公訴事実3に係るものを含む。
)は平成12年
度事業の賞品代等に充て,残りは体指会とTに精算した。
費消した賞品代は,一大会当たり平均4万数千円から5万円程度であった。

賞品購入の目的・意義・購入方法等
(ア)

被告人は,生涯スポーツ事業としてニュースポーツの普及活動を進める中で,
参加者に楽しんでもらう人を集める事業を継続す,,る生涯スポーツ事業を定着させるための方法の一つとして,各,
生涯スポーツ事業の大会・教室に賞品を用意した。町民の感触は良く,好評であった。
(イ)

賞品は,当初はスポーツ用品であったが,日用品や米,野菜を購入
するようになった。購入先も,町内の店から町外の店や通販へと広がった。
入賞賞品,参加賞,特別賞に分け,値段に差を設けていたが,通常500円以内,
高いもので2000円程度であった。
まれに特別な大会で,
1本9000円程度の高額な賞品を出す場合もあった(平成12年1月新春グラウンドゴルフ大会。

町内の店から賞品を購入する際には掛けで購入できたので,端数
の調整ができた。町外の店や通販から購入するようになると,
掛け
が利かず,ある程度融通の利く資金が必要となった。
(ウ)

賞品の購入は主として被告人が行ったが,生涯学習課の職員に手伝
ってもらったり,Tに依頼したりした。

被告人が執行した事業の数・効果等
(ア)

被告人が生涯学習課に在籍していた期間(平成4年4月から同12
年9月)
,生涯スポーツ事業の事業数,参加者数や生涯スポーツ人口が
増加した。
この点につき,被告人の前任者のLが生涯スポーツ事業を担当していた平成3年度と被告人がこれを担当していた平成7年度を取り上げて比較すると,次のとおりである。

平成3年度
(a)

スポーツ教室

5教室,37回,74時間,受講者数(延)833名
(b)

スポーツ大会等

6大会,参加者数283名

平成7年度
(a)

スポーツ教室

9教室,90回,180時間,受講者数439名
推計延人数約4000名(439×10)
(b)

スポーツ大会等

13大会,参加者数2113名
国保事業においても,グラウンドゴルフやニュースポーツの普及で多くの町民が運動に関心を持ち,実際に参加するようになった。
(イ)

甲町は,国民健康保険制度の下で,昭和63年度から連続して高医
療費指定市町村に指定されていた。70歳以上の老人医療費が原因で,佐賀県内でもワースト3に入るぐらい医療費が高水準にあった。
それが,
平成14年ころには,49市町村のうち40位に好転した。その原因として,被告人が関与ないし担当した国保事業や生涯スポーツ事業による効果も否定できない。
第5
1
決裁権者らの認識
当事者の主張の概要
(1)

弁護人の主張
本件公訴事実1ないし3
本件公訴事実1ないし3については,保健衛生課の了解があった。現場では,異なる事業名で実施すること,体指の支援を受けないで教室を開催すること,謝金を賞品や用具購入に充てることについては,保健衛生課の了解を得ていた。このことは保健衛生課長を通して,支出決定権者である財政課長及び町長も了承していたものと推測される。仮に,決裁権者らが直接に了解していなかったとしても,担当課の了解があれば,決裁権者も了解することが甲町役場の慣例・慣行であったので,本件公訴事実1ないし3についても了解していたものである。

本件公訴事実4
本件公訴事実4については,当時総務課長に異動していたN元生涯学習課長の決裁を得たが,その際,当該出張は行っていないが,特別旅費を消化する必要があること,未精算の費用弁償に充てることを説明して了解を得た。そもそも本件出張は体指の日帰り出張について特別旅費となっているほか,復命のための別添資料が付いていないなど,体裁からして,何らかの説明を伴わなければ了承できないものである。平成12年4月25日ころ,財政課のP職員から電話があった。体指の佐賀市内への出張は特別旅費ではなく,費用弁償ではないかという問合せであった。被告人は,助役の指導で特別旅費を消化する必要があること,未精算の費用弁償があることを説明して了解を得た。その後,財政課から何の問合せもなかったので,
財政課内でも了承が得られたものと認められる。
本件出張票を見れば,
P職員の書き込みがあり,財政課長もP職員と同じ疑問を持ったはずであるところ,これを決裁しているからである。


本件公訴事実5ないし7
本件公訴事実5については,平成12年5月12日ころ,被告人が生涯学習課のU課長補佐から決裁を受けた。その際,

関係者との調整ができず,未開催の分である。近々開催しますから。

と説明すると,同補佐は特に何も言わずに決裁した。同日,総務課長に異動していたN元生涯学習課長のところに行き,決裁を受けた。その際,同課長にも前記と同旨の説明をすると,同課長も特に何も言わずに決裁した。
本件公訴事実6及び7については,平成12年5月中旬ころ,被告人が生涯学習課のU課長補佐から決裁を受けた。その際,

雨天で開催できなかった分である。近々開催しますから。

と説明すると,同補佐は特に何も言わずに決裁した。同日,総務課長に異動していたN元生涯学習課長のところに行き,決裁を受けた。その際,同課長にも前記と同旨の説明をすると,同課長も特に何も言わずに決裁した。
以上のとおり,生涯学習課は本件各流用を了解していた。このことは,生涯学習課長ないし元同課長を通して,支出決定権者である財政課長も了解していたと推測される。仮に,決裁権者が直接に了解していなかったとしても,担当課の了解があれば財政課も了解するのが甲町役場の慣例・慣行であったので,本件公訴事実5ないし7についても了解していたものである。
(2)

検察官の反論
被告人による予算の執行及び管理・運用等の実態を前提とすれば,被告人
の上司であったN生涯学習課長らが,そのような実態を知りながら,賞品代捻出の必要性等から,被告人の行為を了承ないし黙認し,支出される予算が何に費消されるかも分からないまま,内容虚偽の支出額調書等を決裁していたとは考え難い。保健衛生課長らも同様である。まして,本件各予算の支出決定権者であるC財政課長らは,多数の支出額調書等の書類を決裁する関係上,その内容真偽を逐一確認することはできず,被告人から,本件各支出額調書等が内容虚偽であることの説明を受けていたわけでもないから,本件の被告人の行為を了承も黙認もしていない。
2
各決裁権者らの認識
第2の前提事実,第4の6の認定事実及び関係証拠によれば,各決裁権者らが,本件公訴事実1ないし7の各支出額調書又は出張票について決裁した際,被告人の生涯スポーツ事業執行方法や各支出額調書等の記載内容の真実性についての各決裁権者らの認識は,次のようなものであったと認められる。(1)

被告人の生涯スポーツ事業執行方法について
N生涯学習課長
(ア)

賞品代捻出の方法についての認識
Nは,生涯学習課長として,同課の事務を統括し,所属職員を指揮監督するとともに,予算を計画的に執行しその結果を報告すべき責任がある(甲町教育委員会処務規則4条1項,財務規則16条,131条)ところ,生涯学習課の主管事業の概要やその実施の有無等について基本的な認識を持っており,生涯学習課の予算の内容や執行状況についても少なくともその要点については認識していたと認めるのが,その地位や職責及び執務状況等に照らし自然である。

b
生涯スポーツ事業で参加者に賞品を出すためには,本来生涯スポーツ振興事業費中に記念品又は消耗品費という予算を組み,そこから支出しなければならない。生涯学習課では,賞品代は,
町スポレク祭や郡スポレク祭等の規模の大きい生涯スポーツ事業
等一部の事業以外では予算要求をせず,それら予算要求されていない事業については,
当然賞品代の予算が組まれていなかったちなみに,

被告人は,
消耗品費を賞品代には使わず,ボール代等の用具代等
に使い,そのため生涯スポーツ振興事業費中の消耗品費にか
なりの不用額が出ることになり(平成8年度24万0888円,同9年度30万1585円)
,平成10年度からは前記消耗品費の予
算要求額自体が削減されている。。

N生涯学習課長は,被告人が,賞品代が予算化されていない事業であるのに,賞品を出していることを,生涯学習課の執務室内で,課員が手伝って行う賞品の包装やのし付けの準備作業をするのを見たり,大会等で自ら賞品を参加者に授与する役割を果たしたことなどから,知っていた。


被告人は,長期にわたり,かなりの数の大会等につき,消耗品費等の予算を使って賞品を購入する方法ではなく,体指等の指導・審判謝金名目で予算支出し,それで賞品を購入するという方法を採っていた(この背景の一つとして,体指の実績作りという考慮が働いたことがある。。グラウンドゴルフ等のニュースポーツの指導・審判に特別)
の技術は要らないはずなのに,1大会当たり16名もの指導・審判謝金の予算支出手続が反復されたことは,それ自体他の使途への流用の疑いを抱かせる。被告人は,生涯学習課内で,又は同課同僚職員に対し,

謝金を賞品代に充てている。

旨話したことがある。d
前記b,cに照らすと,予算の内容や執行状況の要点に通じていたN生涯学習課長が,賞品代の予算が組まれていない大会等の賞品代の出所は体指等の指導・審判謝金ではないかと推測することは難しいことではなかったから,被告人に対し,賞品代の出所は何か質問すべきであり,そうすれば,謝金から賞品代を捻出していることは隠しようのない事実であるから,被告人はそのことを保管していた領収書を示すなどしてN課長に説明し,これにより直ちに客観的な実態が判明したはずであった。ところが,N課長は,平成8年4月から同12年3月までの生涯学習課長としての在任中,そのことについて一度も被告人に質問せず,自ら調査することもなかった。被告人に,被告人の賞品代の捻出方法は予算執行上問題であるから改めるようにとか,賞品を出さない事業方法を考えてくれなどの指示をしたこともなかった。

そうすると,N課長は,被告人が,賞品代の予算が組まれていないのに賞品を出していた生涯スポーツ事業の賞品代の出所は,体指等の指導・審判謝金であることを,抽象的,概括的に認識していたが,これを深く追及することをあえてせず,被告人を信頼し,被告人の努力により事業実績が上がっていたこともあり,基本的に被告人から求められるまま支出額調書に決裁していたと推認される。
このように,N課長の賞品代の出所に関する認識は,抽象的,概括的なものにとどまった上,被告人が上げてくる支出額調書に対する同課長の審査は形式的なものであったから,個別の支出額調書に添付の領収書で謝金債権者とされている体指等が,謝金で賞品を購入することについて被告人から説明を受け,承諾しているかとか,実際に体指等が指導・審判したかとかの具体的な事情については,認識がなかったと見られる。
(イ)

体指等謝金等保管金の存在・目的・金額・保管及び利用状況等につ
いての認識
被告人は,会計課から交付を受けた体指等謝金等を,封筒に入った状態で,生涯学習課執務室内の自己の袖机の引き出しに入れて保管し,その中から生涯スポーツ事業の賞品代等に支出し,支出先の事業につき会計課から謝金の支払があれば,これを支出元の事業の封筒に戻し入れるなどして管理し,賞品購入の領収書も二,三年間は事情聴取があったときに備えてノート等に貼って保存し,その後は被告人の一存で廃棄していた。
N課長は,被告人の前記体指等謝金等保管金の存在・目的・金額・保管及び利用状況等について,被告人から報告や説明を受けたことも,自ら質問したり調査したりしたことも全くなく,これについての認識はほとんどなかった。

保健衛生課長
(ア)

国保事業では,平成6年ころまでは参加賞代に補助金が付いたので,
予算を組んで購入していた。平成7年ころ参加賞が補助対象外になったので,被告人及び保健衛生課が協議し,謝金に10割の補助金が付くことから,債権者の厚意で謝金を使って賞品を購入することになった。保健衛生課は,実際に体指が事業を支援した場合,その謝金を債権者である体指の承諾を得て事業の賞品購入に使うことは差し支えないという考えで事業を執行していた。
(イ)

Q保健衛生課長の認識は,前記保健衛生課の事業執行方針と基本的
に同じであって,
それを出ることはなかったと推認される。
したがって,
Q課長は,体指の指導・審判謝金の支出額調書を決裁するに当たり,同記載内容は真実であり,仮に謝金が賞品代に使われることがあっても,当該事業は実際に開催され,体指は実際に指導・審判しており,ただ,その厚意で謝金が賞品購入に充てられると認識していた。
(ウ)

Q課長は,被告人の体指等謝金等保管金の存在・目的・金額・保管
及び利用状況等について,被告人から説明を受けたことは全くなく,これを知り得る状況にもなく,これについての認識は全くなかった。ウ
支出決定権者である財政課長,助役及び町長
(ア)

財政課は,支出額調書等の決裁に当たり,歳出の会計年度所属区分
及び予算科目に誤りはないか,予算の目的に反していないか,配当予算額を超過していないか,金額の算定に誤りはないか,正当な債権者か等を調査する。不明瞭な点があれば,各課担当職員に説明を求めたり,訂正をさせるなどして,支出票を作成し,支出額調書等と一緒に財政課長の決裁に回す。財政課長は,支出票と支出額調書等に記載された事業名とが合っているか,支出金額と支出額調書等の金額が合っているか,支出額調書等記載の謝金額と領収書の人数が合っているか,担当課長の決裁印があるか等を確認して決裁する。支出額調書等には各課の事業等に関する起案文書は付されない。助役や町長も,同様に,決裁書類の記載に基づいて決裁する。
(イ)

そうすると,財政課長等は,支出額調書等の記載が真実であるか否
かの点については,担当課長の決裁印があればこれを信頼し,それ以上深く審査することは原則としてなく,自らは主として歳出の会計年度所属区分及び予算科目の適否など,予算及び支出の形式的事項の審査を行うのが実情であったと認められる。
(ウ)

前記のような,財政課長等の審査,決裁の実情からすれば,財政課
長等は,被告人の事業執行方法について個別具体的な認識がなかったことは明らかである。したがって,財政課長等は,生涯学習課長の決裁印のある体指等の指導・審判謝金の支出額調書や体指の出張票を審査,決裁するに当たり,同記載内容は真実であると認識し,これについて疑いを抱かなかったものである。まして,財政課長等は,被告人の体指等謝金等保管金の存在・目的・金額・保管及び利用状況等について,被告人から報告や説明を受けたことは全くなく,生涯学習課長からも報告等はなかったから,これを知り得る状況になく,この点についての認識は全くなかった。
(2)

本件公訴事実1ないし7の各支出額調書等の記載内容の真実性について生涯学習課長
(ア)

N生涯学習課長は,同課長としての執務の過程で,本件公訴事実4
の佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)は実際には開催されていないことを,少なくとも未必的には知っていた。加えて,本件公訴事実4の出張票の決裁当時,同課長は,総務課長に異動になっていたが,被告人から,
佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)は実際には開催されていないが,本件特別旅費の予算を消化するため,前記名目で予算支出し,未精算の2件の体指の費用弁償の精算に充てる旨の説明を受けた。
N課長は,本件特別旅費の消化の必要性を十分理解していたから,被告人の説明を了承して本件出張票を決裁した。
(イ)

N生涯学習課長は,同課長としての執務の過程で,本件公訴事実5
ないし7の各事業が未実施であることを,少なくとも未必的には知っていたが,被告人から,具体的な日時・開催要領等の具体的な点はともかく,
各事業を翌平成12年度に実施する予定であることの説明を受けて,各支出額調書を決裁した。

保健衛生課長
被告人が一人で指導した出前スポーツ教室は,それらの性質・内容に照らし,保健衛生課の事業執行方法上,本件本件公訴事実1ないし3の生涯学習課と保健衛生課の共催による各国保事業に相当するものとして取り扱う余地が全くないわけではない。しかし,被告人はその対応関係や,各事業は体指の指導・審判の支援を受けることなく,被告人が一人で指導して実施したことを,保健衛生課担当職員Bを含め,同課関係者に具体的に説明したり,それについて同課と協議したりして了承を得ておらず,保健衛生課のQ課長は,本件公訴事実1ないし3の生涯学習課との共催に係る国保事業は,当該各支出額調書及び同添付の領収書に記載の事業名により同記載の時期に開催され,体指は実際に各事業において指導・審判に従事したという認識であり,
その認識に立って本件各支出額調書を決裁した。


支出決定権者である財政課長,助役及び町長(第4の6の認定事実)被告人は,支出決定権者であるC財政課長,I助役及びF町長には前記ア,イの各事情,すなわち,本件公訴事実1ないし3の各事業は,各支出額調書等記載の名称とは異なる名称でかつ同記載の時期とは異なる時期に実施したこと,各事業は体指の指導・審判の支援を受けることなく,被告人が一人で指導して実施したこと,本件公訴事実4の佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)は実際は開催されておらず,特別旅費の予算消化のための書類上の理由に過ぎないこと,特別旅費は予算支出後,体指に交付せずに被告人が担当する生涯スポーツ事業の賞品代等に充てる予定であること,本件5ないし7の各事業は未実施であることなどは全く説明しなかった。わずかに,C財政課長に対し,同課P職員を介し,本件公訴事実4の体指の出張は特別旅費で予算支出したい旨申し出て,それが認められた経緯があるだけである。したがって,各支出決定権者は,各支出額調書及び出張票の記載は真実であると認識し,その点に何ら疑いを抱くことなく,これらを決裁したものである。
第6
1
被告人が在籍した産業課及び甲町役場における予算の流用等
当事者の主張の概要
(1)

弁護人の主張
被告人は,生涯学習課に赴任するまでは,産業課に在籍したが,
同課は,
建設課などと共に,いわゆる事業課の一つで,被告人は補助事業を担当することが多かった。その際,被告人は,上司,先輩や財政課の職員から,予算を流用する手法について指導され,予算を流用して備品を購入するなど,予算執行に関する手法の存在とそれが甲町役場の慣行・慣例になっていることを知った。被告人は,甲町役場に採用された後に,財務規則の講習を受けたり,指導を受けたことはない。財務規則を見たことはなく,前任者からの引き継ぎや先輩らの指導に従い,日々の執務をしていた。このような執務環境の中で,被告人は甲町役場における流用慣行を認識し,実践するようになった。


甲町役場には,予算執行上,独自の慣行・慣例があり,財務規則に違反する多数の流用事例があった。これらの流用事例の多くに,財政課が積極的に関与し,主導してきた。C財政課長は,建設課等で担当した事業の流用やその他の流用手法を見聞してきた。C財政課長等多くの職員が捜査機関に対して虚偽の供述をし,被告人を犠牲にして我が身に危険が及ぶのを避けようとした。
捜査機関は,この事件までに,地方自治体で財務規則に違反する処理が常態化していたことを十分に認識していたはずである。佐賀県,その他多くの自治体で多額のプール金が作られていたケースはもちろんのこと,警察や検察の流用事例すら容易に認識していたはずである。本件捜査では,仮に被告人が有罪であれば,自分も同罪であるとして流用事例の資料を持参して説明した職員もいた。捜査機関は,これらの流用事例を十分に調査・検討すれば,本件流用も甲町役場の慣行・慣例として実施されたこと,被告人はこれらの慣行や前任者の手法を真似てこれを実施したことを容易に把握することができたはずである。しかし,捜査機関は,被告人の起訴と有罪方向にのみ証拠収集を図るという偏向した捜査を行った。
(2)

検察官の反論
甲町において,予算の流用があった事実自体は否定できない。しかし,これらは,甲町において,当然のこととして日常的に行われていたものではなく,例外的なものである。また,弁護人主張の予算の流用事例と,本件の被告人の行為との間には,次のような点などに明白な差異があり,両者は異質なものである。


まず,弁護人主張の流用事例は,必要な備品を購入するために余った消耗品費を流用したり,次年度事業のために当年度予算から支出したりしたというものであるところ,いずれも流用の目的と具体的な必要性が先に立ち,予算支出時において,支出した予算を何にいくら使うのかという具体的な支出(流用)先や支出目的,支出金額が決まっているが,財源や予算費目が異なるなど,財務規則違反にとどまる範疇のものであるのに対し,本件の被告人の行為は,予算支出時において,支出を受けた予算を何にいくら使うのかという具体的な支出(流用)先や支出目的,金額が確定していない段階で,内容虚偽の支出額調書を作成,行使するなどして謝金等の名目でとりあえず予算支出させ,その現金を,振込等のため一時的にプールするというのではなく,被告人の個人的な判断で公的にも私的にもいつでも自由に費消可能ないわゆるプール金として保管し,被告人の個人的な判断で出金したというものである。


次に,弁護人主張の予算流用事例は,財政課が主体となって行われたものと,建設課等の担当課独自の判断で行われて財政課が黙認したものがあるが,いずれも,担当者一個人の判断によるものではなく,課の判断として行われて財政課も承知していたものであるのに対し,本件の被告人の行為は,前記のように,支出(流用)先の事業や流用金額等について上司に事前相談や事後報告等を一切せず,被告人の個人的な判断のみによって行われていたものである。

よって,本件の被告人の行為は,甲町役場における予算の流用の慣行・慣例に従って行われたものとは認め難い。

2
被告人が在籍した産業課における予算の流用
関係証拠によれば,次の事実が認められる。
(1)

被告人は,昭和50年に甲町役場に採用され,産業課に配属され,平成
4年3月まで在籍し,農林担当であった。産業課は,その後,企画産業課,農林課と名称を変えた。
(2)

補助事業の予算消化の必要性
昭和52年に補助事業を実施した際,県や上司から,
予算(補助対象経費)

は絶対に100パーセント支出しなくてはならないと指導を受けた。予算を残すと次年度予算確保に影響があり,甲町の監査報告時にも指摘される。予算は残さずできる限り使い切ることが必要であると教えられた。
(3)

農業構造改善事業に関する予算の流用
昭和53年から56年度に第二次農業構造改善事業があり,農林省の国庫
補助が付いた。国5割,県2割の7割補助であった。同事業に関して,次のように予算を流用した。

机・椅子等の購入
昭和53年度の総事業費9000万円のうち400万円程度が事務費であり,高額で消化し切れないので,その消化を財政課に依頼した。年度末になると,消耗品の領収書が何件も出てきたが,これらは財政課が独自に消化したものであった。予算書には備品購入費が計上されていないのに,机や椅子が新品になった。

カメラの購入
工事現場の写真撮影にカメラが必要であった。上司に話したところ,財政課に相談するように指示され,財政課に相談したが,備品の予算はなかった。支出担当者と被告人が町の指定業者である写真店に行き,カメラの機種・金額を話し,写真・現像・フィルム代というように細かく請求書を切ってくれと依頼した。カメラは一週間ぐらいで届いた。


工事代の支払
最終年度に排水工事があって,計画よりも排水溝の長さを長くする必要があった。しかし,その工事の予算の残額はなく,最終年度なので,次年度に回すこともできなかった。建設課の職員から指導を受け,課長補佐と相談しながら,次のような予算処理をした。昭和56年度の予算に,同事業とは無関係の農業費の農地費の人件費(賃金)の予算があったが,本来は町道の草刈り費用として予算計上されたものであった。この草刈り人夫の賃金名目で予算支出して,
十数万円を前記工事代として業者に支払った。
工事を担当した業者から草刈り人夫の名目で領収書を発行してもらった。草刈りは全く実施されていない。

(4)

先輩職員及び町長らの指導と被告人の受け止め
前記農業構造改善事業を実施する際,建設課の先輩職員は,
補助事業の制約,設計に計上できない工事・施設,予算不足,設計ミスなど,色々とトラブルが発生するが,それでも事業は必ず完成させなければならない。財政課,関係機関との協議がうまくいかないこと,できないこともある。そのような場合,内々で業者と相談して,次年度以降の予算による後払い清算(「借り,他事業による清算等で対応する。)
」旨流用の方法を教示した。
当時の町長は,常々,
事業に取り組むとき,しなくてはいけないとき,できるだけ補助金を確保するように。補助事業上の制約があるが,『鉛筆を嘗めてでも』上手に交付を受けよ。そのようにして町費を少しでも減額することが町の利益,町民のためになる。旨指導した。先輩が,色々な機会に,後輩職員に,国や県から補助事業・補助金をたくさん取ってきて取り組むのが優秀な職員であると話して聞かせた。
被告人は,当初,前記のような処理ができることに驚いたが,先輩や上司は当然のことのように指導したので,被告人はそのようなやり方もできるのかと受け止めた。
3
甲町役場における予算の流用等
関係証拠によれば,甲町役場では,前記2以外にも,次のような予算の流用や不正又は不適切な支出が行われたことが認められる。
(1)

補助金等の流用及び不正支出等
平成2年,企画産業課は,同年度の国勢調査を担当したが,この調査のためには調査員を採用する必要があった。しかし,調査員を採用することなく,町職員約70名が,職務専念義務を免除されることなく,同調査に従事した。ところが,調査員報酬の支払に当たり,同調査に従事した職員名義ではなく,その家族等の名義の領収書が作成され,総額450万円以上の調査員報酬が職員の家族等に支払われた。前記のような調査の方法を採ることは,担当者が企画産業課長に説明し了承を得た。


平成7年,企画商工課は,佐賀県生活文化振興補助金」を利用したA3「展の企画を担当した。町並保存対策課のX職員は,財政課に呼ばれ,郷土史研究会の名称を使うため,規約や名簿を作成するように指示された。虚偽の書類作成に逡巡する同職員に対し,財政課は,

事業というものはこういうもんだ。誰でもしている。自分たちも手が後ろに回るぐらいのことはしている。これは町のためになるんだ。町のためであればそれぐらいの気持ちで仕事をしなければならない。

などと言って,説得した。I企画商工課長も,

誰でもしている。やればできるから。

と励ました。X職員は,実在の郷土史研究会の会長の名義を使用し,印鑑は三文判を購入して,同会長の承諾を得ることなく,規約,名簿を作成した。補助金申請は,
郷土史研究会名で,A3展」とかたりべ養成講座を抱

き合わせた形で行った。「かたりべ養成講座

は,20回のうち17回ぐらいは甲町の職員が講師として担当した。県と甲町から補助金が出た。県の補助金は,X職員が開設した郷土史研究会名義の口座に直接入金された。

平成7年,企画商工課は,補助事業である平成7年度佐賀県快適観光ネットワーク事業の一環として,バス停サイン整備事業」を実施した。平成7年度内に事業の完成ができなかったので,完成間際のバス停の案内板を工場からバス停まで運び,陶板地図の代わりにコピー紙を厚紙に貼ったものを写真に撮った。実際に完成したのは,平成8年7月上旬であった。エ平成7年,財政課が関与して,企画商工課の「E3事業の補助金を,翌年度事業であるF3に使う目的で予算支出し,F3」の広報グッズや出演する芸能団体の委託料等の費用に充てた。オ平成8年ころ以降,財政課が主導して,複数の事業課に付いた補助事業費から消耗品名目で予算支出し,机,椅子,整理棚,パソコンなどの備品等を購入した。カ平成8,9年,保健衛生課は,国保事業の補助金を消耗品名目で予算支出し,職員用の椅子を購入した。職員用の作業服を購入したこともある。いずれも財政課との協議・同課への報告はなかった。キ平成10年,保健衛生課は,年度末に補助金を消化するため,教育委員会主催で開催中の「ミニバレーボール大会につき,国保事業として開催したような虚偽内容の書類を作成し,補助金を予算支出した。財政課との協議・同課への報告はなかった。

平成11年ころ,生涯学習課は,
平成11年度社会参加促進事業の
補助事業を行ったが,担当のV職員が年度末に予算支出の状況を確認したところ,30万円ぐらい補助対象経費を充足できないことが判明した。このまま実績報告をすれば,国庫補助は零になる。そこで,事業とは全く別の事業で甲町単独の予算で実施していた甲町教育委員会社会教育講座の支出分をあたかも社会参加促進事業で実施したようにして,金額のつじつまを合わせた報告文書を作成して提出し,補助条件を充足させた。このやり方はN生涯学習課長にも報告して了承を得た。


平成12年,
地域振興券の事務費を大量に使う必要が生じ,事務費
では認められないパソコン数台を購入した。


平成13年,生涯学習課は,平成12年度生涯学習支援設備整備事業」による補助金を利用して,ノート型パソコンとプリンター等の周辺機器を購入した。業者のパソコン納入が平成12年度の出納閉鎖までに間に合わず,業者は納入は6月になりそうだと言った。担当のV職員がY主査とY生涯学習課長に報告したところ,「先に5月末までに請求書をもらい,支出を5月末までにすればよい。との指示を受けた。財政課に平成13年3月30日付けの請求書を回し,V職員が財政課に事情を説明して,パソコン等代金を予算支出してもらい,
同年5月中に業者に支払を済ませたが,
パソコン等の納入は同年6月下旬であった。


平成14年,
財政課が関与して,
税務課の国保税収納特別対策事業費
を予算支出し,会計課の臨時職員の賃金に充てた。


平成15年1月ころ,企画情報課のS職員は,
平成13年度二次補正地域イントラネット施設基盤整備事業の補助金を利用して,セキュリティーポリシーの構築を計画した際,同名目では補助金が受けられないので,『地域イントラネット基盤施設整備事業現地調査』と『地域イン

トラネット基盤施設整備事業物産観光情報サーバー設定費』に分けて契約を行いたい。

旨の一部不正操作を含む内容の起案をし,同起案中でその理由を明確に説明して決裁に回し,B3企画情報課長,C3財政課長,I助役及び町長の各決裁を受け,同補助金を利用して,
セキュリティーポリシー構築のためのソフトを導入した。

平成15年ころ,保健福祉課のE2職員は,
平成15年度国民健康保険医療費適正化特別対策事業を担当した。臨時雇いの保健師が,重複頻回受診者や長期入院者などに対する訪問指導をしたという実績報告をして,前記交付金を受領したが,この訪問指導が実際に前記実績報告のとおりに行われたことを確認できる資料はない。

(2)

会計年度独立の原則違反
請負工事代金は,年度内に工事が未完成の場合,会計年度独立の原則上,
本来繰越明許費
(地方自治法213条1項)の手続を取って,必要な歳
出金額を付けて事業を次年度に繰り越すなどの方法を講じなければならないところ,甲町役場では,これに違反して預かり会計という不正な便法が慣例的に行われていた。すなわち,このような場合,財政課長立会のもとに虚偽の工事完了報告書を作成し,財政課長の決裁により工事代金を予算支出するが,工事が完成するまで請負業者の通帳と印鑑を会計課が預かるという処理である。その後工事未完成の間に請負業者が倒産して,工事続行上等の困難な問題が生じた事例もあった。
第7

主たる争点に対する当裁判所の判断
当裁判所が前記第2ないし第6において認定した事実に基づき,以下,主たる争点に対する当裁判所の判断を示す。

1
争点(1)
(1)

本件起訴は公訴権濫用に当たるか否か

当事者の主張の概要
弁護人の主張
検察官は,公訴提起段階では,被告人が公金を私的な目的で流用したものと考えており,冒頭陳述において,

被告人は詐取金を私的用途に流用した。

旨主張し,これに関連する証拠を請求したが,その直後に,前記主張につき,

詐取金の費消先を例示したものにすぎない。

旨釈明し,私的流用に関連する証拠を撤回した。このように,本件では,私的流用の有無という起訴すべきかどうかを決める事案の核心部分につき,検察官に判断の誤りがあった。検察官は,前記主張等を撤回した時点で本件公訴を取り消すべきであった。
また,甲町ではこれまで多くの予算流用が行われており,本件公訴提起は,甲町におけるこれら多くの予算流用事例との権衡を失する。
さらに,佐賀県を初めとする自治体,その他の行政機関,警察・検察・最高裁において,本件と同様の予算の流用ケースが多数存在し,社会問題となっているが,これらの流用例において,私的費消がない限り,行政処分はともかく,刑事責任を問われた例はない。本件公訴提起は,このような一般的な流用事例との均衡を失する。
以上より,本件は,嫌疑なしで不起訴処分にするか,仮に有罪であると判断したとしても起訴猶予にすべき場合であるのに,検察官が起訴便宜主義の運用を誤って公訴提起したものであるから,公訴権濫用に当たる。イ
検察官の反論
被告人の本件各行為が詐欺及び虚偽有印公文書作成等の各罪に当たることは明らかであり,何ら訴追裁量を逸脱していないから,公訴権濫用には当たらない。

(2)

当裁判所の判断
本件公訴提起に至る経緯と捜査状況
(ア)

本件公訴提起に至る経緯は次のとおりである。すなわち,Y生涯学
習課長と相談の上,被告人担当事業の収支を調査していた被告人の後任の主査Yが,平成13年2月上旬ころ,被告人に対して,開催されていない事業につき予算が支出されていることを指摘してその説明を求めたところ,被告人は,

次年度事業に使った。,

領収書はない。

旨述べた。同年3月から,被告人が担当していた生涯スポーツ事業及び保健衛生課との共催に係る国保事業について,甲町監査委員による監査が行われたが,被告人は,監査委員の質問に対して,

謝金の一部を賞品代に使った。,

領収書は段ボール箱に入れて置いていたが,休んでいる間になくなった。

旨説明した。同年4月4日,

甲町老人クラブ,甲町体育協会,甲町体育指導委員会に支払われる謝金,費用弁償が適切に支払われていない事実を確かめた。

等を内容とする監査結果の報告がなされ,甲町は,同月16日,被告人を懲戒免職処分にした。被告人は,同年6月1日,行政処分不服申立てを行った。そして,本件公訴事実6の支出額調書につき,

4,5,7区でグラウンドゴルフやソフトバレーを実施した。

などと述べた。同年7月12日,甲町は,私文書偽造・同行使・詐欺罪で被告人を甲警察署に告訴して捜査が開始された。(イ)

本件記録によれば,被告人は,平成15年2月16日,虚偽公文書
作成・同行使・詐欺の被疑事実で通常逮捕され,
平成15年2月18日,
同被疑事実で勾留(接見禁止決定付き)され,平成15年3月9日,勾留のまま本件公訴提起に至ったこと,被告人には,平成15年2月16日以降,私選弁護人が付き,弁護人を通じ,勾留に対する準抗告,勾留取消請求,勾留理由開示,捜査機関に対する適正捜査の要請等,複数の弁護人による活発な弁護活動が行われたことが認められる。被告人は,捜査段階では被疑事実を自白することなく,一貫してこれを否認し,本件で検察官が証拠調べ請求した被告人の供述調書は,
弁解状況を立
証趣旨とする検察官調書1通のみである。
(ウ)

前記(ア),(イ)によれば,本件の端緒は,甲町内部で,被告人の担当し
た生涯スポーツ事業や保健衛生課と共催した国保事業に関し,予算の不正支出等の疑いがあることが発覚したことにあり,内部調査や監査委員による監査を経て,刑事告訴に至ったものである。被告人は,捜査開始前,自由に自己の言い分を述べることができる機会が与えられ,その都度自己の言い分を述べている。告訴を受けて捜査機関による捜査が開始され,
被告人は逮捕・勾留されたが,
被告人は被疑事実を否認し続けた。
勾留のまま本件公訴が提起されたが,弁護人から,公訴権濫用の主張との関係で,本件の捜査には刑事訴訟法や通常の捜査方法から著しく逸脱した重大な違法がある旨の主張はなされていない。

甲町役場において本件以外に多数の予算の流用や不正支出の事例があったこと,その中には流用等に係る予算の規模が本件よりもはるかに大きい事例もあったことが認められるところ,その経緯・内容・関係者等の詳細はもとより明らかでないが,これらの予算の流用等の事例に関与した甲町関係者の中で少なくとも刑事責任が追及され公訴が提起された者は,被告人の他には存在しない。
そこで,この点において,被告人に対する検察官の本件公訴提起が公訴権の濫用に当たるか以下検討する。
(ア)

第1に,これらの他の予算の流用等の事例の多くは,本件公判にお
いて,弁護人の立証活動によりその概要が明らかになったものであり,本件公訴提起までの間にこれらの事例に関する告訴・告発は,被告人からのものも含め全くなかったことはもちろん,これらの事例を刑事事件として立件し捜査対象とするには,甲町内部から具体的で有力な情報提供がなければ困難であるが,事柄の性質上そのような情報提供が円滑になされたとは認め難い。そうすると,捜査機関がこれらの事例を捜査対象としなかったことは,やむを得ないことであり,検察官が本件公訴提起に当たってこれらの事例を念頭に置いていなかったとしても,直ちにその判断に違法があると言うことはできない。
(イ)

第2に,本件事案の重要性の有無・程度について検討しなければな
らない。本件事案は,被告人が,体指等の支援を受けて事業を開催した事実がなく,体指に謝金を交付する必要がなかったにもかかわらず,これがあるかのように装って,内容虚偽の支出額調書を作成し(本件公訴事実1ないし3及び5ないし7)
,あるいは,体指の出張事実がなく,
体指に出張旅費を交付する必要がなかったにもかかわらず,これがあるかのように装って,内容虚偽の体指名義の出張票を偽造し(本件公訴事実4)
,N生涯学習課長及びC財政課長らに提出,行使するなどして予
算執行手続を経て公金を支出させたという,虚偽有印公文書作成・同行使・詐欺,有印公文書偽造・同行使・詐欺の事案であるところ,詐取した金額は合計約30万円程度のものであるが,被告人は平成4年4月から同12年9月まで生涯学習課に主査として在籍した約8年間にわたって同種の行為を繰り返していたことも併せ考慮すれば,本件は一地方公務員の不祥事であるというにとどまらず,地方自治体の行政,公金(予算)管理,補助金制度,さらには,公務員制度の在り方や信頼に関わる事件であって,検察官が甲町町長の告訴を受けて捜査が開始された本件につき,刑事処分相当であるとして,被告人について公訴を提起したことは,それなりの理由があると言わなければならない。
(ウ)

第3に,検察官が本件公判の途中で,本件公金の私的流用について
の主張及び証拠の請求を撤回した点について検討する。
検察官は,冒頭陳述において,

被告人は支出した謝金等を私的用途に流用した。

旨主張し,その関係の立証趣旨に基づく証拠を請求していたが,第2回準備手続期日において,

私的用途への流用については罪体として立証する考えはない。

旨述べて前記主張を撤回し,第4回公判期日において,前記冒頭陳述につき,
犯行の動機・目的の例示

詐取金の費消先の例示である旨釈明し,前記証拠請求をすべて撤回した。この経緯からすれば,検察官は,本件公訴提起時においては,被告人が予算支出した本件謝金等を私的な目的で流用したものとして,その立証を意図していたが,それが成功する見込みが立たなくなり,主張・立証を撤回せざるを得なくなったものと考えられる。
しかしながら,詐欺罪において,詐取した財物の使途は,構成要件,特に不法領得の意思の存在の立証を支える重要な一要素ではあるものの,その立証ができなければ,詐欺罪の構成要件の立証ができなくなるわけではない。次項において改めて取り上げるが,むしろ,本件の検察官の訴訟活動全体から見れば,検察官は,詐欺罪の構成要件の立証上,被告人において予算支出させた現金の保管態様がいわゆるプール金であったかどうかを重視していることは明らかであり,本件公訴提起に当たって重視したのもその点であったと解される。そうだとすれば,この点については検察官は一貫した主張・立証活動を行ったから,公訴提起すべきかどうかの判断の核心部分に関しては,検察官に錯誤はなかったと認められる。
(エ)

第4に,甲町役場における他の予算の流用等の事例と比較した場合,
検察官が被告人の本件各行為について公訴提起をしたことに合理性があるか否かである。

甲町役場の他の予算の流用等の事例の多くは支出決定権を有する財政課長が統括する同課の主導又は関与のもとで行われたものと認められ,財政課の承認も黙認もない本件とは根本的に事情が異なる。
もっとも,これらの事例の中には,財政課の承認や黙認がなかった疑いが濃いものも散見されるが,事業実施の有無,実質的な債権者の有無,債権者らの同意の有無,担当課における認識の有無・内容,支出した予算の使途等,犯罪の成否や軽重,情状等に関わる個別・具体的な事情はそれぞれ異なるのは当然である。

次に,両者のもう一つの重要な相違点は,甲町役場における他の予算の流用等の事例は,予め流用等の目的と具体的な必要性があり,予算支出時点でその使途や金額が決まっており,予算支出後はその使途に従って使用されるのに対し,被告人の本件各行為は,被告人の担当する生涯スポーツ事業一般の用に充てるという漠然とした流用目的と必要性のもとで,予算支出時点でその使途や金額も具体的に決まっていないのに,虚偽の支出額調書を作成するなどして,謝金等の名目でとりあえず予算支出させ,それを被告人の執務机の引き出しの中に保管してプールしておき,その中から被告人のみの判断で随時,生涯スポーツ事業の賞品,備品や消耗品の購入に支出していたもので,その収支状況についてはもちろん,同プール金の存在自体,生涯学習課長を含め他の職員は誰も知らず,いわば予算管理の外に置かれていたという点である。


そうすると,検察官が,甲町役場における他の予算の流用等の事例については,刑事責任を問題とすることなく,被告人の本件各行為については刑事責任を科するに値するとして公訴提起をした判断自体は,それなりの合理性を否定できないと言うべきである。


以上によれば,検察官が本件公訴提起に当たって公訴権を濫用した,あるいは公訴を取り消すべきであったと認めるほどの重大な事由はなかったことが認められるから,弁護人の主張は採用しない。

2
争点(2)

本件各犯罪の実行行為及びその認識・認容(構成要件的故意)の

有無
(1)

被告人は,本件公訴事実1ないし3,5ないし7の各支出額調書及びこ
れに添付した領収書に記載された日付・場所・名称の事業を実施しておらず,本件公訴事実4の出張票に記載された佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)は開催の事実がなく,被告人において作出した架空の事業であった。したがって,前記各事業等に予算を支出すべき根拠がないから,これらの事業につき指導・審判の支援をしたとされる体指及びT会員に対し,甲町が謝金を支払う必要はなく,前記出張について,体指に対し旅費(特別旅費)を支払う必要もなかった。そして,被告人は,支出決定権者であるC財政課長,I助役及びF町長の決裁により予算支出される謝金や旅費を,前記体指やT会員に対して交付する意図はなく,これらの現金は,被告人の手元で封筒に入れて保管(プール)しておき,自らが担当する生涯スポーツ事業一般の賞品代や消耗品・備品の購入代に充てる意図であり,実際被告人は,他の同種の事業で予算支出した謝金等同様,本件謝金等をそのように運用し,少なくともそのように運用しようとして,手元で封筒に入れて保管(プール)していた。
(2)

本件公訴事実1ないし3の各事業は,保健衛生課が主管する国保事業を
同課と生涯学習課が共同で開催した事業であるが,被告人は,各支出額調書の作成に当たり,同支出額調書に記載した日付・場所・名称の事業を実施していないことや,被告人においてこれに相当すると考える事業を同支出額調書の記載とは異なる時期に体指の指導・審判の支援を受けないで一人で指導して実施したこと,本件予算支出に係る謝金を自己が担当する生涯スポーツ事業の賞品代等に充てること等につき,前記各支出額調書の作成権限者たる公務員である保健衛生課担当職員のB及びQ同課長らに説明したことはなく,したがって,B及び同課課長らは,当時それらの事情を知らず,被告人が同支出額調書に記載した日付・場所・名称の事業をそのとおり実施し,事業を支援したとされる体指らが各事業において実際に指導・審判に従事したという認識であった。
(3)

本件公訴事実4の出張票の決裁当時,N生涯学習課長は,総務課長に異
動になっていたが,被告人は,同課長に対し,
佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)は実際には開催されていないが,特別旅費の予算を消化するため,前記名目で予算支出する旨の説明をし,同課長は,これを了承して本件出張票を決裁した。また,被告人は,本件公訴事実5ないし7の各事業についても,同課長に対し,これらは未実施であるが,各事業を翌平成12年度に実施する予定である旨の説明をし,同課長はこれを了承して本件各支出額調書を決裁した。
(4)

被告人は,支出決定権者であるC財政課長らには,本件公訴事実1ない
し3の各事業は,各支出額調書等記載の名称とは異なる名称でかつ同記載の時期とは異なる時期に実施したこと,各事業は体指の指導・審判の支援を受けることなく,被告人が一人で指導して実施したこと,本件公訴事実4の佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)は実際は開催されておらず,特別旅費の予算消化の口実であること,本件公訴事実5ないし7の各事業は未実施であるが,翌12年度に実施予定であることなどは全く説明しなかった。したがって,C財政課長ら各支出決定権者は,各支出額調書及び出張票の記載は真実であり,いずれも予算の支出根拠があると認識し,その点に何ら疑いを抱くことなく,誤信したままこれらを決裁した。C財政課長ら各支出決定権者が,各決裁時において,本件各支出額調書や出張票に記載された事業や出張が,そのとおり実施されていないことや架空の出張であること,体指やT会員が指導・審判の支援をした事実がないこと,被告人が予算支出した謝金等を領収書に記載された体指等に交付する意図がないことを知っていれば,当然決裁せず,予算支出を認めなかったであろうことは多言を要しないところである。
(5)

以上によれば,被告人は,予算支出される謝金や旅費を,債権者である
体指やT会員に対して交付せず,自らが担当する生涯スポーツ事業一般の賞品代や消耗品・備品の購入代に充てるという意図をもって,本件公訴事実1ないし7の予算支出手続をし,その過程で,C財政課長ら各支出決定権者に提出する目的で,本件各支出額調書の作成権限者である担当職員に虚偽の記載をさせ(本件公訴事実1ないし3)
,出張票を偽造し(同4)
,自ら各支
出額調書に虚偽の記載をし(同5ないし7)
,これらの公文書を各主管課長
を介し各支出決定権者に提出し,情を知らない各支出決定権者をして,それらの記載が真実であり,いずれも予算の支出根拠があると誤信させて支出決定をさせ,これにより体指等の謝金や出張旅費を予算支出させ,情を知らない会計課から前記Bを介し(同1ないし3)又は自ら(同4ないし7)各現金の交付を受けたものである。被告人に虚偽有印公文書及び偽造有印公文書の各行使の目的があったこと,被告人の前記各行為が虚偽有印公文書作成・同行使・詐欺(同1ないし3,5ないし7)又は公文書偽造・同行使・詐欺(同4)の各実行行為に当たること(ただし,不法領得の意思の点は,改めて次項で説示する。
)並びに被告人に各実行行為に対する認識・認容(構成
要件的故意)が認められることは,いずれも明らかである。
よって,弁護人の主張は採用しない。
なお,弁護人は,本件虚偽有印公文書作成・同行使罪,有印公文書偽造・同行使罪の公訴事実について,被告人の本件各文書の作成・提出行為は正当業務行為に当たり違法性が阻却される旨の主張もあるが,これまで判示してきたところに照らせば,被告人の前記各行為が正当な業務の執行でないことは明白であるから,弁護人のこの点の主張も採用しない。
3
争点(3)
(1)

詐欺の各公訴事実につき不法領得の意思の有無

はじめに
詐欺罪のような領得罪の成立に必要な不法領得の意思とは,権利者を排除
し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思を言い,必ずしも自己の利益取得を意図することを要しないと解される。
そこで,本件においては,被告人が,詐欺の各公訴事実につき,体指等の謝金又は旅費の名目で予算支出した現金を,その本来の所有者又は管理者である甲町を排除し,自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用又は処分する意思を有していたと言えるか否かが問題となる。
被告人が,前記体指等の謝金等(以下本件謝金等という。
)をその経
済的用法に従い利用又は処分する意思があったことは明らかであり,その点については弁護人及び被告人も争いがないところであるから,本件では,被告人において,本件謝金等を,権利者である甲町を排除し,自己の所有物と同様に利用・処分する意思があったか否かが核心的な問題である。ところで,前記の権利者を排除し,自己の所有物と同様に利用・処分する意思の有無は,犯行の動機・目的,犯行の性質・内容・規模・期間等,犯行態様,取り分け欺罔行為の性質・内容・違法性の程度等,犯行と予算制度との関係,犯行と被告人の職務権限との関係,詐取金の金額・保管態様,決裁権者らの認識の有無,詐取金の利用方法・使途・私的利用の有無等,結果が権利者に及ぼす影響の性質・内容・程度等,精算状況,前任者の事務処理方法,甲町役場の慣行・慣例など,諸般の事情を総合的に考慮して,被告人の行為は権利者の所有権又は管理権を侵害するか否か,その危険性の有無・程度,被告人の行為が権利者の合理的な利益及び意思に反するか否かを検討することによって,認定すべきものと解される。
(2)

不法領得の意思の有無の認定の基礎となる諸事情
犯行の動機・目的
被告人は,生涯学習課に主査として勤務した平成4年4月から同12年9月までの約8年間にわたって,体指やT会員が生涯スポーツ事業の大会等で指導・審判した事実はないのに,
その謝金名目で予算支出するなどの,
本件各公訴事実と同種の行為を繰り返し,これによって会計課から交付を受けた現金を,自己が担当する生涯スポーツ事業として実施したスポーツ大会等の賞品,備品及び消耗品の購入に充てていた。T会員については,その指導・審判の支援を受けた場合でも,その承諾を得て,その謝金を前記賞品代に充てたこともある。本件各公訴事実において謝金等の名目で予算支出した現金は,他の同種行為の場合と同様に,被告人が担当する生涯スポーツ事業のスポーツ大会等の賞品,備品及び消耗品の購入に充てる意図であった。
(以下,本件謝金等を含め,被告人が同様の方法で予算支出
した体指等謝金等を体指等謝金等という。


犯行の性質・内容・規模・期間等
本件各詐欺の犯行は,被告人が,体指等の支援を受けて事業を開催した事実がなく,体指に謝金を交付する必要がなかったにもかかわらず,これがあるかのように装って,内容虚偽の支出額調書を作成し(本件公訴事実1ないし3及び5ないし7)
,あるいは,体指の出張事実がなく,体指に
出張旅費を交付する必要がなかったにもかかわらず,これがあるかのように装って,内容虚偽の体指名義の出張票を偽造し(本件公訴事実4),N
生涯学習課長及びC財政課長らに提出,行使するなどして予算執行手続を経て公金を支出させ,情を知らない会計課からその交付を受けたという事案である。
被告人が本件各詐欺の犯行において詐取した金額は合計約30万円程度であるが,本件は一甲町職員の不祥事であるというにとどまらず,甲町役場の行政,公金(予算)管理,職員管理,補助金制度の在り方,さらには,甲町役場やその職員の信用に関わる性質の事件である。
被告人は,生涯学習課に主査として勤務した平成4年4月から同12年9月までの約8年間にわたって同種の行為を繰り返していた。


犯行態様-欺罔行為の性質・内容・違法性の程度等
本件各詐欺の犯行は,虚偽の支出額調書を作成し又は出張票を偽造し,これを支出決定権者である財政課長らに提出行使して同課長らを欺罔し,同課長らをして内容が真実である旨誤信させて,同記載の金額の支出決定をさせ,情を知らない会計課から謝金等の現金の交付を受けたという事案であり,主査という中堅職員による有印公文書の虚偽作成罪や偽造罪及びこれらの行使罪を伴っている点で,違法性は強い。

犯行と予算制度との関係
生涯スポーツ事業で参加者に賞品を出すには,本来生涯スポーツ振興事業費の中に記念品又は消耗品費という予算を組み,そこから支出しなければならない。生涯学習課では,賞品代は,
町スポレク祭
や郡スポレク祭等の規模の大きい生涯スポーツ事業等一部の事業以外では予算要求をしていなかった。被告人は,
消耗品費を賞品代には使
わず,ボール代等の用具代のみに使った。
他方,被告人は,虚偽の支出額調書を作成するなどして,謝金等の名目でとりあえず予算支出させ,それを被告人の執務用机の引き出しの中に保管(プール)しておき,その中から被告人のみの判断で随時,生涯スポーツ事業の賞品,備品や消耗品の購入に支出していたもので,その収支状況についてはもちろん,同プール金の存在自体,生涯学習課長を含め他の職員は誰も知らず,予算管理の外に置かれていた。


犯行と被告人の職務権限との関係
被告人は,主査として,上司の命を受け,担当事務を掌理するが,課長が行う実施計画の立案を補佐し,上司の命を受けて所管する事務について指示された実施計画に基づき具体的かつ細目的な処理計画を立案し,上司の承認を得てこれを処理するとともに,当該事務について配置された職員がいるときは,これを配置職員に周知徹底させ,職務の遂行を図り,配置職員を指揮監督することなどの職責がある。
被告人は,生涯学習課において,生涯スポーツの企画・運営,体指の管理・研修,予算執行・管理等の職務を分担していた。
被告人の職務権限の中に,被告人が,ある程度まとまった現金を手元に保管(プール)しておき,その中から被告人のみの判断で随時,生涯スポーツ事業の賞品,備品や消耗品の購入に支出することを許容するようなものはない。

詐取金の金額・保管態様
(ア)

被告人は,本件謝金等合計約30万円を含め,体指等の名義を用い
て謝金等の名目で予算支出した現金を自己の執務用机の引き出しに入れて,保管(プール)していた。被告人が保管していた前記現金は,年度や時期により異なるが,平成9年度の場合約41万円,平成10年度の場合約40万円,平成11年度の場合約78万円である。被告人は一大会当たり平均4万数千円から5万円程度の賞品を出していたから,これはその10回分又はそれ以上に相当する。
(イ)

被告人は,体指等謝金等を会計課から交付された封筒に入った状態
で,自己の執務用机の引き出しに入れて保管(プール)していたが,同封筒には事業名と金額が記載されていた。その封筒内の現金を使って他の事業の賞品等を購入した場合は,その封筒に賞品代等の支出先の事業名及び支出金額等を記載し,
後日その事業の謝金等を予算支出した際に,
元の封筒に現金を戻し入れ,戻した金額を記載した。賞品等の領収書はいったん領収書保管用の封筒に入れ,賞品代等の支出先の事業名,支出名目及び支出金額等を記載していた。領収書は3か月に1回くらいの割で整理して,ノートやファイルに貼って領収書綴りを作っていた。領収書綴りは,説明を求められたときに備えて,二,三年間は保存し,それを過ぎると廃棄した。
(ウ)

しかし,前記(イ)のような体指等謝金等の管理方法が現実にどの程度
実行されていたかとなると,疑わしい。のみならず,封筒に現金の出入りを記載するという方法自体,被告人独自の不完全なものであって,帳簿を付けたり,通帳を作って口座で保管するという方法と異なり,上司を含む第三者に報告したり,上司らが査閲したりするのに十分とは言えない。領収書綴りにしても,二,三年保管した後に廃棄していたというのであるが,
その保管期間は被告人の独自の判断に基づくものであるし,
最終の領収書綴りは総務課に異動の際に紛失してしまったというのである。これらの事情に照らすと,被告人の体指等謝金等の保管方法は,公金(予算)を管理する方法としては,ずさんなものであったと言わざるを得ない。

決裁権者らの認識の有無
被告人は,予算支出した体指等謝金等を手元に保管(プール)し,生涯スポーツ事業一般の賞品,備品及び消耗品を購入するという事業執行方法を採っていることについて,生涯学習課課長や同課課長補佐に相談・報告しなかった。N生涯学習課長は,被告人が体指等の謝金を賞品代に充てているという程度の抽象的・包括的な認識はあったものの,その詳細,すなわち,被告人が,ある程度まとまった体指等謝金等を自己の執務用机の引き出しに入れて保管(プール)していること,その金額,謝金等の債権者である体指等に説明し承諾を得ているか,どの大会等に賞品代としていくら使ったか,購入した備品や消耗品の種類・金額等については,ほとんど認識がなかった。
まして,国保事業を生涯学習課と共に開催した保健衛生課の課長以下の職員は,被告人が保管(プール)する体指等謝金等の存在等の事情は全く知らず,支出決定権者ら,すなわち,財政課長や助役,町長は,そのような事情を知る由もなかった。


詐取金の利用方法・使途・私的利用の有無等
(ア)

被告人は,手元に保管(プール)した体指等謝金等を利用して,自
己の判断のみで,賞品,備品及び消耗品の品目・量・個数・購入先等を決めて,
これらを随時購入していた。
被告人が購入した備品や消耗品は,
ニュースポーツ等の運動・応急手当用具類,高齢者スポーツ指導・応急手当用の参考図書類,チラシ作成の参考図書類,文房具類と,極めて多彩であり,電卓(辞書機能付き)は被告人自身が執務に使用し,総務課に異動した時も同課に持参した。
被告人は,本件謝金等も,他の謝金等と同様,生涯スポーツ事業の大会等の賞品代や備品・消耗品の購入に充て,又はその一部をそれらの用途に充てる意思で保管していた。
被告人が体指等謝金等を私的な用途に費消した事実は認められず,被告人にはその意思もなかったと推認される。
(イ)

体指等謝金等を何に使うか,生涯スポーツ事業のどの大会等に賞品
を出すか,どのような賞品,備品や消耗品を購入するかが,被告人のみの判断で決められたように,生涯スポーツ事業のどの大会等から体指等の謝金名目で予算支出するか,いつ予算支出するか,体指とT会員の内訳や人数をどうするか等もまた被告人の一存で決められた。いったん予算支出された体指等謝金等は,支出根拠となった事業名や予算費目の枠が取り払われ,被告人のみの判断で,生涯スポーツ事業一般のためにかなり広範囲に利用することのできる1個の独立した資金に変わったと見ることができる。被告人は,そのような資金を被告人の裁量で維持・管理し,利用していたものである。

結果が権利者に及ぼす影響の性質・内容・程度等
(ア)

本件のように,一甲町職員がその裁量で維持・管理し,利用する独
立した資金を持つことは,甲町にとって,公金(予算)管理上も職員管理上も放置できない異常な事態であることは多言を要しない。それはまた,上司が承認せず,上司が責任を持ち得ない方法で事業が執行されたということであり,行政の在り方としても問題がある。賞品代が予算化されていなかったにもかかわらず,換言すれば,賞品代は予算の優先順位上低い取扱いを受けていたにもかかわらず,謝金等の名目で賞品代を捻出して支出したことは,
予算に表れている甲町の政策意思に沿わない。
補助金制度が悪用されており,補助金の適正な執行という点でも非難の余地がある。さらには,被告人の本件各犯行が,甲町役場やその職員に対する信用を失墜させる行為であることは言うまでもない。
(イ)

本件で,もう一つ重要な点は,被告人は,謝金等の権利者として,
体指やT会員の名義を使い,不正行為に町民を巻き込んでいることである。被告人はTの役員には事情を説明し承諾を得たが,一般的な説明・承諾にとどまるし,体指には説明さえしていない。そのために体指等の所得税の源泉徴収の問題も派生させている。
(ウ)

被告人の賞品購入の目的は,参加者に競技を楽しんでもらい,スポ
ーツ大会の参加者を増やし,
生涯スポーツ事業を定着させることにあり,
被告人が生涯スポーツ事業を担当するようになった後,甲町におけるスポーツ事業数やスポーツ事業への参加者数が飛躍的に増加し,生涯スポーツ事業の発展・定着といった目的は相当程度達成されたことは間違いない。また,国保事業との関連を見ても,甲町町民,特に高齢者が生涯スポーツに関心を持ち,生涯スポーツ事業に対する参加人口が広がったことが,当時甲町の大きな政策課題であった国保医療費の大幅な低減に結びついたことも積極面として評価される。
しかしながら,町民の生涯スポーツ事業に対する関心や参加意欲を高めるには,事業や競技の方法を工夫するなどの方法も考えられ,賞品の提供は,事業を実施する上で不可欠なものではなく,やや安易な方法との見方もできる。仮に公金で購入するのであれば,事業の規模や参加者の属性,広報に効果的な賞品の種類・形状,適正な価額,適正な購入先等について合理的な検討がなされるべきであるし,事後的な検証を行う必要もあり,一担当者である被告人の判断のみに全面的に委ねられて良いものではない。

精算状況
被告人は,平成12年10月1日に総務課に異動後,体指等謝金等の残金を体指会やTに精算しているが,この精算行為にも疑問がある。まず,そもそも体指等謝金等は支出根拠がないか,薄弱なものであるから,本来この精算は甲町役場に対してなされるべきものであって,名目的な債権者である体指等に精算すべき合理的根拠はない。被告人は,前記精算を生涯学習課長ら上司に相談せず,被告人の判断のみで行い,結果も報告していない。精算の内容を見ても,体指会の関係では,公用車を使った出張について交通費まで支払って精算した,源泉徴収されていないのに源泉徴収されたとしてその金額を支払わなかった(後に追加支払をした。,Tとの)
関係でも,
被告人が指導・審判の支援を受けたとする裏付けが乏しいなど,
問題が含まれている。


前任者の事務処理方法
被告人の前任者のLも,体指等の名義を用いて客観的な指導・審判状況と必ずしも一致しない謝金支出を行い,賞品代に充てるという事務処理方法を採っていた。しかし,被告人は,Lからその事務処理方法を引き継いだだけでなく,
自らの判断で,①予算支出した現金を手元に保管(プール)し,他の事業の賞品購入に使い回すという事務処理方法を開始し,②本来体指に交付すべき体指会報酬や旅費等の費用弁償についても,手元に保管している間,賞品等の購入に一時流用し,③そのようにして手元に保管している現金から,賞品のみではなく,自己の担当する生涯スポーツ事業一般の備品や消耗品も購入するようになったのであって,被告人の積極的かつ独自の発案に基づく手法が多く含まれている。


甲町役場の慣行・慣例
甲町役場では,被告人の事例以外にも,過去少なからぬ数の予算の流用や不正又は不適切な支出が行われた。被告人は長年の勤務を通じてそのような同役場の実態を相当程度知っていた。それらの事例の中には,支出決定権を有する財政課長が統括する同課の主導又は関与のもとで行われたものも多い。そのような事例は,権利者である甲町自身が容認したものと見るべきである。しかしながら,甲町役場の慣行・慣例の中に,本件のように,職員がある程度まとまった現金を手元に保管(プール)しておき,その中から当該職員のみの判断で随時かなり広範囲の物品の購入に支出していたというものは見当たらず,この点で,本件は甲町役場の慣行・慣例とはいささか異質である。
ところで,体指等の謝金等を予算支出するには,支出額調書や出張票の作成が必要であり,それには債権者である体指等の記名や押印をした領収書を添付する運用であった。前記支出額調書等は,生涯学習課長の決裁を必要とし,財政課長は,前記決裁があれば,支出額調書等の記載が真実であるか否かの審査は,前記生涯学習課長の決裁を信頼して原則として行わず,自らは主として歳出の会計年度所属区分及び予算科目の適否など,予算及び支出の形式的事項の審査をしていた。そして,財政課長は,疑問があれば,担当者に説明を求めたり,訂正をさせていた。
そうすると,甲町役場では,前記のような予算の流用事例等が少なからず存在したものの,予算の適正な執行を担保する組織的な態勢が恒常的に取られていたのであり,これが機能不全に陥っていたなどの事情は認められない。
(3)

不法領得の意思の認定
前記(2)認定の諸事情を総合的に考慮すれば,被告人の本件各詐欺の犯行
は,被告人に交付を受けた謝金等を私的な用途に費消する意思もその事実もなかったとは言え,
権利者である甲町の所有権又は管理権を侵害するもので,
甲町の合理的な利益及び意思に反する行為であると認められる。それにもかかわらず,被告人は,前記各犯行をあえて行ったものであるから,本件謝金等を,本来の権利者である甲町を排除し,自己の所有物と同様に利用・処分する意思であったと認められ,不法領得の意思が肯認される。
よって,弁護人の主張は採用できない。
4
争点(4)

本件各犯罪において違法性の意識を欠いたことにつき相当の理由

があり故意責任が阻却されるか否か
(1)

はじめに
故意犯において,行為者が当該犯罪を犯すにつき違法性の意識を欠いただ
けで直ちに故意責任がないとは言えないが,違法性の意識を欠いたことにつき相当の理由がある場合は,故意責任を問い得ないと解される。法令の発布を知り得ない特殊の事情がある場合や,所管官庁あるいは法規の解釈・運用を職責とする公務員の責任ある回答ないし言明に従った場合又はこれに準ずる事情がある場合は,違法性の意識を欠いたことにつき相当の理由があると言うことができる。そして,前記検討をするに当たっては,官庁又は公務員の側の事情と行為者の側の事情を総合的に考慮すべきである。この見地からすると,前記の公務員が行為者の行為を事実上黙認したにとどまる場合は,一般的には前記の相当の理由があるとは言えないし,行為者が,同公務員に対して必要な情報を提供しないで得た同公務員の回答等に基づいて行動した場合も,同様に相当の理由があると見ることはできない。
当該具体的な事情のもとで,行為者が違法性の意識を持つことが可能ではあったが,困難であったと認められるときは,その刑を減軽することができる(刑法38条3項ただし書)

(2)

違法性の意識を欠いた相当の理由の有無の認定の基礎となる諸事情弁護人は,被告人が本件各公訴事実の行為を行うにつき違法性の意識を欠
き,そのことにつき相当の理由があったとして,被告人は,当時の甲町役場の財務慣行に従って前記各公訴事実記載の事務処理を行ったものであること,各決裁権者らが被告人の行為を承認又は黙認していたこと,の2点を挙げている。

前記の点について
(ア)

甲町役場では,被告人の事例以外にも,過去少なからぬ数の予算の
流用や不正又は不適切な支出が行われた。被告人は長年の勤務を通じそのような同役場の実態を相当程度知っていた。それらの事例の中には,支出決定権を有する財政課長が統括する同課の主導又は関与のもとで行われたものも多い。
(イ)

しかしながら,甲町役場の慣行・慣例の中に,本件のように,職員
がある程度まとまった現金を手元に保管(プール)しておき,その中から当該職員のみの判断で随時かなり広範囲の物品の購入に支出していたというものは見当たらず,この点で,本件は甲町役場の慣行・慣例とは異質である。
被告人の前任者のLも体指やT会員の謝金を利用して生涯スポーツ大会等に賞品を出しており,被告人はそれを引き継いだ面もあるが,体指に交付する前の定例会報酬や費用弁償を利用して賞品を購入したり,体指等への交付も賞品代への充当も未了である現金を年度を超えて手元に保管(プール)するなど,被告人が採った事務処理方法は前任者Lのそれを相当程度拡大させている。
甲町役場では,前記のような予算の流用事例等が少なからず存在したものの,財政課において,予算の適正な執行を担保する組織的な態勢が恒常的に取られていたのであり,これが機能不全に陥っていたなどの事情は認められない。

前記の点について
被告人の決裁権者らに対する報告・説明状況及び決裁権者らの認識等は,次のとおりである。
(ア)

生涯学習課長
N生涯学習課長は,被告人が,賞品代の予算が組まれていないのに賞品を出していた生涯スポーツ事業の賞品代の出所は,体指等の指導・審判謝金であることを,抽象的,概括的に認識していたが,これを深く追及することをあえてせず,被告人を信頼し,被告人の努力により事業実績が上がっていたこともあり,基本的に被告人から求められるまま支出額調書に決裁していた。
被告人は,N課長から,本件公訴事実4の出張票の決裁を得るに当たり,

佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)は実際には開催していない。特別旅費の予算を消化する名目に過ぎない。未精算の体指の費用弁償の精算に充てる。

という程度の説明を,本件公訴事実5ないし7の支出額調書の決裁に当たり,

翌12年度に実施する予定である。

という程度の説明はしたが,それ以上の個別具体的な事情,すなわち,領収書に記載された体指等から名義使用について個別に承諾を得ていないことや,体指の名義を使用して予算支出した特別旅費を体指に交付せずに被告人が担当する生涯スポーツ事業の賞品代等に充てる予定であること(本件公訴事実4)
,翌年度に実施する予定の事業の具
体的な日付・場所・内容・審判数・金額等(本件公訴事実5ないし7)については,
説明をしなかった。
N課長はこれらの情報を得ることなく,
前記各決裁をした。
N課長は,被告人が体指等謝金等から捻出した保管金の存在・目的・金額・保管及び利用状況等について,被告人から報告や説明を受けたことも,同課長自ら被告人に質問したり調査したりしたことも全くなく,この点についての認識はほとんどなかった。
(イ)

保健衛生課長
平成7年ころ,被告人と保健衛生課が協議したが,保健衛生課は,実
際に体指が事業を支援した場合にその謝金を債権者である体指の承諾を得てスポーツ事業の賞品購入に使うことは差し支えないとの考えであり,生涯学習課との共催に係る国保事業においては,債権者の厚意でその謝金を使って賞品を購入することになった。
平成9年ころ,被告人は,保健衛生課の執務室で,同課担当職員のBに対して,
体指の支援を受けずに被告人が一人でスポーツ教室を実施し,
体指謝金名目で予算支出して,ニュースポーツの道具の購入に充てたい旨の申出を行ったが,この件については,被告人から同様の申出を受けた同課課長補佐のRが,

源泉徴収票が送付されるので,先に体指に話した方がいい。

旨注意したにとどまり,保健衛生課が被告人に対し,被告人からの前記申出について具体的な諾否の回答をしたことはなかった。
被告人は,Q保健衛生課長や前記Bに対して,本件公訴事実1ないし3の各支出額調書に記載した日付・場所・名称の事業を実施していないことや,これに相当すると考える事業を同記載とは異なる時期に体指の指導・審判の支援を受けないで一人で指導して実施したこと,本件予算支出に係る謝金を自己が担当するスポーツ事業の賞品代等に充てること等を説明しておらず,保健衛生課長は,前記各事業は,当該各支出額調書及び同添付の領収書に記載の事業名により同記載の時期に開催され,体指は各事業において実際に指導・審判に従事したという認識であった。したがって,同課長が被告人に対し,前記各公訴事実記載の事務処理を承認する旨伝えたことはなかった。
Q課長は,被告人が体指等謝金等から捻出した保管金の存在・目的・金額・保管及び利用状況等について,被告人から報告や説明を受けたことはなく,この点についての認識はなかった。
(ウ)

支出決定権者である財政課長,助役及び町長
被告人は,支出決定権者であるC財政課長,I助役及びF町長には,本件公訴事実1ないし3の各事業は,各支出額調書等記載の名称とは異なる名称でかつ同記載の時期とは異なる時期に実施したこと,各事業は体指の指導・審判の支援を受けることなく,被告人が一人で指導して実施したこと,本件公訴事実4の佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)は実際は開催されておらず,特別旅費の予算消化のための書類上の理由に過ぎないこと,特別旅費は予算支出後,体指に交付せずに被告人が担当する生涯スポーツ事業の賞品代等に充てる予定であること,本件公訴事実5ないし7の各事業は未実施であることなどは全く説明しなかった。したがって,各支出決定権者は,各支出額調書及び出張票の記載は真実であると認識し,
その点に何ら疑いを抱くことなく,
これらを決裁した。
C財政課長らは,被告人が体指等謝金等から捻出した保管金の存在・目的・金額・保管及び利用状況等について,被告人から報告や説明を受けたことはなく,生涯学習課長からも報告等はなかったから,この点についての認識は全くなかった。
(3)

違法性の意識を欠いた相当の理由の有無の認定
前記(2)ア認定の諸事情のほか,被告人は本件各犯行当時甲町役場での勤務経験が20年以上で生涯学習課に異動して八,九年目の中堅職員であり,主査という重要な地位にあったことに照らすと,甲町役場では被告人の事例以外にも過去少なからぬ数の予算の流用や不正又は不適切な支出が行われており,被告人は長年の勤務を通じそのような同役場の実態を相当程度知っていたとは言え,被告人が,本件各公訴事実記載の事務処理,すなわち本件各犯行を行うにつき違法性の意識を欠き,かつそのことにつき相当の理由があると言うことはできない。


前記(2)イ認定の諸事情に照らすと,各決裁権者らが被告人の行為を承認又は黙認していた事実は認められず,弁護人の主張はその前提を欠くと言うべきである。N生涯学習課長が,被告人が生涯スポーツ事業において体指等の謝金名目で予算支出して大会等の賞品代に充てる運用をしていることを抽象的・概括的に認識していたにもかかわらず,個別具体的な事情について被告人に質問したり,調査したりすることはなかったという事情は認められるが,これをもって直ちに同課長は被告人の行為を黙認していたとは認め難い。被告人は,まずN課長に前記のような事情を率直に報告・説明して相談すべき職責があったのであり,被告人が生涯学習課の中堅職員で主査という重要な地位にあったことも考え併せるとなおさらであり,被告人がその職責を果たさなかった以上,同課長が個別具体的な事情につき被告人に質問したり,自ら調査しなかったからといって,被告人が本件各犯行を行うにつき違法性の意識を欠き,かつそのことにつき相当の理由があると言うことはできない。
(4)

違法性の意識を持つ上で困難な事情の有無の認定
被告人は,昭和53年に甲町役場に採用され,以来同役場に長年にわたり
勤務する過程で,先輩職員等から様々な機会に予算の流用等の財務規則に違反する事務処理方法を学び,それが甲町役場や町民に利益をもたらすのであれば許されないものではないという執務姿勢を身に付けていったこと,甲町役場では過去少なからぬ数の予算の流用や不正又は不適切な支出が行われており,その中には財政課が主導又は関与した事例もあり,被告人は勤務を通じてそれらのことを知っていたこと,他の自治体の職員との交流の中でそれらの自治体の職員も甲町役場の職員と同様の事務処理方法を採っていることを知ったこと,被告人の前任者のLも体指やT会員の謝金を利用して生涯スポーツ大会等に賞品を出しており,被告人はその手法を引き継いだこと,N生涯学習課長は,被告人が生涯スポーツ事業において体指等の謝金名目で予算支出して大会等の賞品代に充てる運用をしていることを抽象的・概括的に認識していたにもかかわらず,個別具体的な事情について被告人に質問したり,調査したりすることはなく,被告人が上げる決裁を形式的な審査のみで承認していたこと(この点は被告人の上司であった同課歴代課長らも同じ),
保健衛生課は,体指の厚意で謝金を賞品代に充てることは差し支えないという,謝金の利用についていささか曖昧な態度を取っており,Q保健衛生課長も同じ考えであったと推認されること,被告人は,T役員には,謝金を利用して賞品代を捻出する方法を説明して包括的な同意を得たこと,甲町は高医療費指定市町村に指定され,医療費,特に高齢者のそれを抑制することが重要な政策課題であり,全庁的な取組みがなされ,その一環として生涯スポーツ事業の振興の必要性が高かったこと,被告人の努力により甲町町民の生涯スポーツ事業に対する関心が高まり,同事業への参加者が増加し,高医療費が相当程度改善されたが,生涯スポーツ大会等に賞品を出したことはこれに寄与したこと,生涯学習課においては,平成11年度の特別旅費の予算が出納整理期間に至っても未消化のままであり,予算ヒアリングに助役自らが立ち会って質問するなど財政課が予算の審査について厳しい態度を示していた折から,被告人としては特別旅費の消化の必要性を強く意識せざるを得ない状況になっていたこと,本件公訴事実4の出張票の決裁に当たって,N生涯学習課長は,被告人から,
佐賀スポーツセミナー(生涯スポーツ指導者講習会)が架空の事業であること,すなわち支出根拠たる事業の実施が全くないという最も重要な事項につき説明を受けたにもかかわらず,特別旅費の予算を消化するための方便として安易に決裁したこと,財政課においても,P職員が,費目違いの可能性を電話で指摘した際,被告人が,

特別旅費でやりたい。

と答えた程度であったにもかかわらず,結果的に同出張票に基づく特別旅費の予算支出の決裁が通ったことなどの諸事情に照らすと,被告人が本件各犯行を行うに当たり,違法性の意識を持つこと自体は可能ではあったものの,実際問題として,自らそれらの行為の違法性に思い至ることは困難であったと認められる。
以上のとおりであるから,弁護人の主張のうち,被告人は本件各公訴事
(5)

実の行為を行うにつき違法性の意識を欠き,そのことにつき相当の理由があったとの主張は採用できないが,違法性の意識を持つことが困難であったとの限度では,弁護人の主張は理由がある。
(法令の適用)
1
罰条
(1)

第1ないし第3及び第5ないし第7の各行為のうち
虚偽有印公文書作成の点につき

刑法156条,155条1項

同行使の点につき

刑法158条1項,156条,155
条1項

詐欺の点につき
(2)

刑法246条1項

第4の行為のうち
有印公文書偽造の点につき
同行使の点につき

刑法158条1項,155条1項

詐欺の点につき
2
刑法155条1項

刑法246条1項

科刑上一罪の処理
(1)

第1ないし第3及び第5ないし第7の各罪における各罪の関係につきいずれの場合も刑法54条1項後段,10条(一罪として刑の短期及び犯情の点で最も重い虚偽有印公文書行使罪の刑で処断)

(2)

第4の罪における各罪の関係につき
刑法54条1項後段,10条(一罪として刑の短期及び犯情の点で最も重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断)

3
法律上の減軽
いずれの罪の刑についても刑法38条3項ただし書,68条3号

4
併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い第2の罪の刑に法定の加重)
5
未決勾留日数の算入

刑法21条

6
刑の執行猶予

刑法25条1項

7
没収
出張(依頼)票(請求兼領収書)1通の没収につき刑法19条1項1号,2項本文8
訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
1
はじめに
本件は,甲町役場の生涯学習課に主査として勤務し,生涯スポーツ事業の企画・運営・予算執行管理等の業務を担当していた被告人が,その在職中に,虚偽の支出額調書を作成・行使し又は出張票を偽造・行使して,町から謝金又は旅費名目で予算を支出して現金の交付を受けたという虚偽有印公文書作成・同行使・詐欺(判示第1ないし第3及び第5ないし第7)及び有印公文書偽造・同行使・詐欺(判示第4)の各事案である。

2
各犯行に至る動機・経緯及び犯行内容等
(1)

判示第1ないし第3及び第5ないし第7の各事案
被告人は,高齢者などの平素スポーツに親しむ機会の少ない町民を対象として,ニュースポーツを中心とする生涯スポーツ事業を実施し,多数の参加者を得て,同スポーツを普及させるためには,これらの大会等において賞品を出し,参加意欲を高めることが有効であると考えた。しかし,町の財政状況が厳しい折から,正規の予算を組むことは困難であろうなどと考え,安易な便法として,生涯スポーツ事業において体指やT会員が指導・審判の支援をした場合に支払われる謝金を利用して,生涯スポーツ事業一般の賞品代等を調達しようと企て,本件第1ないし第3及び第5ないし第7の各犯行に及んだ。

本件第1ないし第3の各犯行は,被告人が,保健衛生課と共催した国保事業において,各支出額調書記載の事業を開催した事実はなく,体指の指導・審判の支援を受けた事実は全くなく,被告人は予算支出した謝金を体指に交付する意思はないのに,これらがあるように装って,情を知らない保健衛生課担当職員に虚偽の内容の各支出額調書を作成させ,支出決定権者である財政課長又は町長に提出・行使して,同人らを欺罔し,指導・審判の謝金支払名下に現金の交付を受けたというものである。


判示第5ないし第7の各犯行は,被告人が,生涯スポーツ事業において,各支出額調書記載の事業を開催した事実はなく,体指又はT会員の指導・審判の支援を受けた事実は全くなく,被告人は予算支出した謝金を体指等に交付する意思はないのに,これらがあるように装って,虚偽の内容の各支出額調書を作成し,支出決定権者である財政課長又は助役に提出・行使して,同人らを欺罔し,指導・審判の謝金支払名下に現金の交付を受けたというものである。

(2)

判示第4の事案
本件第4の事案は,生涯スポーツ事業において,特別旅費の予算が未消化で
あり,その消化を急がねばならない状況に置かれていた被告人が,特別旅費の予算を消化するとともに,予算支出した特別旅費は体指に交付することなく,生涯スポーツ事業一般の賞品代等に充てようと考え,架空の体指の出張を作出し,未精算であった体指の出張を利用するなどして,体指作成名義の出張票を偽造し,支出決定権者である財政課に提出・行使して,同人を欺罔し,特別旅費支払名下に現金の交付を受けたというものである。
3
本件各犯行の違法性及び被告人の責任
(1)

被告人が本件各詐欺の犯行において詐取した金額は合計約30万円程度で
あり,比較的少額ではあるが,体指等の町民を巻き添えにした虚偽有印公文書の作成などを伴っており,動機・経緯の安易さと相まって,本件各犯行の違法性や被告人の責任はそれ自体小さくはない。
(2)

さらに,次のような事情も犯情として考慮されるべきである。
被告人は,生涯学習課に主査として勤務した平成4年4月から同12年9月までの約8年間にわたって,体指やT会員が生涯スポーツ事業の大会等で指導・審判した事実はないのに,その謝金名目で予算支出するなどの,本件各犯行と同種の行為を繰り返した。T会員については,その指導・審判の支援を受けた場合でも,その承諾を得て,その謝金を前記賞品代に充てたこともある。被告人は,予算支出後まだ体指に交付していない体指の定例会の報酬や費用弁償の現金を一時流用して賞品を購入したこともある。被告人は,これらによって会計課から交付を受けた現金を自己の執務用机の引き出しに入れて,保管(プール)していた。被告人が保管していた前記現金は,年度や時期により異なるが,平成9年度の場合約41万円,平成10年度の場合約40万円,平成11年度の場合約78万円であり,相当多額である。

被告人は,その保管(プール)金を,自己のみの判断で,自己が担当する生涯スポーツ事業のスポーツ大会等の賞品,備品及び消耗品の購入に充てていたが,そのことや保管状況等を課長等に報告・説明することはなく,領収書の保管等も不十分で,今となっては支出状況の正確な実態を明らかにすることができず,公金の管理の在り方としてはずさんなものというほかない。

本件は,
一甲町職員の不祥事であるというにとどまらず,
甲町役場の行政,
公金(予算)管理,職員管理,補助金制度の在り方,さらには,甲町役場やその職員の信用に関わる事件であって,看過し難い。

4
被告人に有利な情状
他方,次の各情状は,被告人のために酌むことのできる情状として,量刑上考慮すべきである。
(1)

生涯学習課においては,被告人の前任者も,体指や高齢者の謝金名目で予
算を支出し,交付を受けた現金でスポーツ大会の賞品を購入する手法を採っており,被告人はこれを引き継いだものである。被告人が,本件各犯行を犯したのは,
生涯スポーツ事業一般の賞品代等に充てる資金を必要としたためであり,予算支出した謝金等の現金を私的な用途に支出する意図はなく,また,その事実も認められない。生涯スポーツ大会等に賞品を出したことは,その参加者を増加させ,高齢者等に対するニュースポーツの普及という点で寄与したことは否定できない。
(2)

生涯学習課長は,被告人が謝金を賞品代に充てていることについて抽象的
・概括的な認識は有しており,被告人に説明を求める等して適切に指導・監督することは可能であったにもかかわらず,これを怠り,被告人に事業執行等をほぼ一任し,被告人が上げる決裁の審査も形式的なものに終わっていたなど,指導・監督権限のある上司としていささか疑問のある態度に終始していた。第4の犯行において,同課長は,被告人からの説明で,出張票の出張名目たる事業は実施されていないこと,同出張は特別旅費を消化するための方便であることを認識したのであるから,これを決裁せず被告人を指導・監督すべきであったのに,そのような態度に出ることなく,そのまま決裁を通している。(3)

甲町役場には多数の予算の流用事例等があり,被告人は役場職員として採
用されて以降,
これらの事例を見聞きし,
先輩等からも指導をされるなどして,
甲町や町民の利益になることであれば,財務規則等に違反する事務処理方法も許されるなどと誤った規範意識を有するに至り,これを是正する機会に乏しかったものである。
(4)

被告人は生涯学習課に在職時,生涯スポーツ事業の企画・実施に当たって
は,夜間勤務や土・日の休日出勤もいとわずに誠心誠意事業に取り組んだ。町民の被告人に寄せる信頼や評判は高く,生涯学習課の生涯スポーツ事業が大きな成果を上げた要因として,被告人の前記のような自己犠牲的な職務への精励があったことを見落とすことができない。
(5)

被告人は,本件各犯行等により甲町役場から懲戒免職処分を受け,既に十分な社会的制裁を受けている。
(6)
5
被告人には前科もない。

以上の諸情状を総合的に考慮し,被告人に対しては,主文掲記の刑を定めた上で,その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

(求刑

懲役1年6月,偽造有印公文書1通の偽造部分没収)

平成20年1月10日
佐賀地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

若宮利
裁判官

伊藤
ゆう子

裁判官

稲吉彩信子
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