判例検索β > 平成17年(う)第115号
詐欺、窃盗、有印私文書偽造、同行使、殺人、死体遺棄
事件番号平成17(う)115
事件名詐欺、窃盗、有印私文書偽造、同行使、殺人、死体遺棄
裁判年月日平成19年10月16日
裁判所名・部広島高等裁判所  第1部
結果棄却
原審裁判所名広島地方裁判所
原審事件番号平成14(わ)46
原審結果その他
判示事項の要旨本件は(1)会社の清算人であった被告人が、会社の清算方法を巡って対立していた代表清算人の養父を交通事故を装って殺害することを計画し、養父の頭部を鉄アレイで殴打した上、自己が運転する車の助手席に乗せ、車を高速でコンクリートブロック壁に衝突させて殺害し、保険金詐欺を行った、(2)妻から離婚されると思い、いっそのこと妻を殺害しようと決意し、浴室で妻を湯に漬けて殺害し、その死体を岸壁から海中に遺棄し、妻が誤って転落したと偽って保険金を詐取した等の事案について、原審が言い渡した死刑判決は、(1)量刑が重過ぎて不当であり、(2)憲法に違反するという理由で被告人が控訴したところ、量刑は不当でなく、死刑制度は憲法に違反しないとして、控訴を棄却した。
裁判日:西暦2007-10-16
情報公開日2017-10-13 01:38:12
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主文
本件控訴を棄却する
理由
本件控訴の趣意は,弁護人鶴敍(主任)および同今枝仁連名作成の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官矢野敬一作成の答弁書および答弁書(補充)」
と題する書面にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。論旨は,被告人を死刑に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であり,また,我が国の死刑制度は憲法13条,19条,31条,36条に違反するというのである。所論にかんがみ記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討する。本件は,殺人2件,死体遺棄1件,詐欺14件(うち4件は,いわゆる保険金詐欺),窃盗1件および有印私文書偽造・同行使・詐欺3件を犯したという事案であるところ,これらは,Aの殺害とその関連事件,Bの殺害とその関連事件およびその他の事件の3つに分類することができる。そこで,まず本件事案の概要を見た上,A殺害とその関連事件,B殺害とその関連事件およびその他の事件とに分けて,量刑不当の事由として弁護人が主張するところを検討し,最後に,死刑選択の相当性と憲法違反の主張について検討することとする(以下,証拠に付したかっこ内の「検の数字は原審検察官請求証拠の標目番号であり,
弁の数字は当審弁護人請求証拠の標目番号である)。
1
本件事案の概要
(1)


A殺害とその関連事件
被告人およびその養父であるAは,いずれも原判示のC会社の清算人であり,Aは代表清算人であったところ,被告人は,C会社のD銀行に対する債務について連帯保証をしていた。被告人とAは,C会社の清算方針を巡って意見が対立していたところ,被告人は,Aを殺害して,自分の思うように同社を清算することにより,D銀行に対する上記連帯保証による債務(以下本件保証債務という)を免れるとともに,原判示第2の生命保険会社との間で結ばれたAを被保険者,被告人を保険金受取人とする生命保険契約に基づき,死亡保険金(災害死亡時6000万円。以下本件生命保険金という)を得ようと企て,平成10年10月11日午後9時ころ,原判示第1のF生コンの敷地において,殺意をもって,Aの頭部を鉄アレイで数回殴打した上,同人を普通乗用自動車(以下本件車両ともいう)の助手席に乗せ,自らは同車を運転して,時速68キロメートル以上の高速度で原判示第1の免許センター北口交差点付近のコンクリートブロック壁に同車前部を衝突させ,上記一連の暴行により,
Aに脳挫傷,
急性硬膜下血腫,
脳内出血等の傷害を負わせ,
よって,平成11年1月20日,搬送先の原判示第1の病院において,Aを脳挫傷に起因する肺炎により死亡させて殺害した(原判示第1)。②

被告人は,本件車両を故意にコンクリートブロック壁に衝突させるなどしてAを殺害したことを秘して,同月27日ころ,原判示第2の生命保険会社に対し,Aが不慮の交通事故により死亡した旨虚偽の申告をして本件生命保険金の支払を請求し,同年11月11日ころ,被告人から本件生命保険金債権を譲り受けたG会社名義の預金口座に同保険会社から6000万円を振込入金させてだまし取った(原判示第2)。



被告人は,本件車両を目的とする自家用自動車総合保険契約が,原判示第3の損害保険会社との間で結ばれていたことを奇貨として,同年4月7日ころ,同保険会社に対し,被告人が,本件車両を運転中の不慮の交通事故により受傷した旨虚偽の申告をして,医療保険金の支払を請求し,同月12日ころ,被告人名義の預金口座に同保険会社から130万9000円を振込入金させ(原判示第3の1),同年10月26日ころ,同保険会社に対し,上記交通事故によりAが死亡した旨虚偽の申告をして,Aの相続人として死亡保険金の支払を請求し,同月29日ころ,被告人名義の預金口座に同保険会社から910万円を振込入金させて(同第3の2),それぞれだまし取った。
(2)


B殺害とその関連事件
被告人は,その妻Bに対し,G会社の代表取締役であるHに取得された本件生命保険金を取り返す手段を講じており,これを取り返したらBの預金口座に入金される旨嘘を言うとともに,そのための行動をしているかのように装い,取り返す手続が遅れている旨色々な嘘を言い続けていたものの,これ以上嘘を言うのが困難になったことから,嘘を言っていたことなどがBに発覚すれば,
Bが,
被告人に愛想を尽かして離婚し,
他の男と再婚するであろうと考えるうち,Bを殺害すれば,Bが,実際のことを知って悲嘆することもなく,自分自身も,Bが他の男と再婚するのを見なくてすむなどと思い至り,Bを昏睡させた上,溺死させて殺害しようと企て,平成12年3月1日午後11時ころ,原判示第4のaの家において,Bの飲み物に睡眠導入剤を混入してBにこれを飲ませた上,Bと性交渉をした後,一緒に入浴し,浴槽内で寝込んでいたBの体を手で押さえてBの頭部を湯の中に漬け,目を覚ましたBが,上半身を起こし何で,何でなんなどと叫ぶのも構わず,Bの両肩を両手で押さえつけ,その上に馬乗りになるなどしてその顔を湯に漬け続け,よって,同日午後11時40分ころ,Bを溺水による窒息のため死亡させて殺害した(原判示第4)。


被告人は,Bの死体を自動車に積み込んで原判示第5のb岸壁まで運搬した上,同月2日午前1時20分ころ,同岸壁からBの死体を海へ投げ捨て,もって死体を遺棄した(原判示第5)。



被告人は,原判示第6の生命保険会社との間で,Bを被保険者,被告人を保険金受取人とする生命保険契約が締結されていることを奇貨として,同月27日ころから同年4月8日ころまでの間,Bが岸壁から誤って転落するという不慮の事故で死亡したように装って,Bの死亡保険金を請求し,同月21日ころ,被告人名義の預金口座に同保険会社から299万3365円を振込入金させてだまし取った(原判示第6)。
(3)


その他の事件
被告人は,平成13年8月13日,原判示第7のI方において,Iの自動車運転免許証1通を窃取した(原判示第7)。



被告人は,同日,原判示第8の信用金庫の支店において,上記免許証に表示されたI名義の普通預金申込書兼入金伝票等を偽造した上,同免許証とともに提出行使し,担当者をだまして預金通帳1通の交付を受けた(原判示第8)。



被告人は,同日,原判示第9の店舗において,上記免許証に表示されたI名義の電話契約申込書を偽造した上,
同免許証とともに提出行使し,
担当者をだまして携帯電話機1台(仕入価格5万0900円)の交付を受けた(原判示第9)。


被告人は,不正に入手したI名義のクレジットカードを利用して,同年9月30日から同年10月20日ころまでの間,前後9回にわたり,原判示第10の1ないし9の各店舗において,ゲーム機合計12台(販売価格合計40万8789円)をだまし取った(原判示第10の1ないし9)。⑪
被告人は,同年11月11日ころ,原判示第11の店舗において,上記免許証に表示されたI名義のジェイフォンサービス加入契約申込書を偽造した上,同免許証とともに提出行使し,担当者をだまして携帯電話機1台(仕入価格3万2000円)の交付を受けた(原判示第11)。

被告人は,同月12日,原判示第12のガソリンスタンドにおいて,その店員に対し,代金を支払う意思も能力もないのに,あるように装って給油を申し込み,ガソリン45リットル(販売価格4995円)を給油させてだまし取った(原判示第12)。
なお,原判示第8,第9および第11にいずれも同人になりすましIになりすまし
I本人によるとあるのは,それぞれ同人の代理人になりすまし
Iの代理人になりすまし
Iの代理人によるの誤記で
あると認める。
2
A殺害とその関連事件について
(1)


動機について
原判決は,A殺害の動機について,
Aを殺害することにより,C会社の清算権限を奪取し,自己の方針に従って同社の債務を清算することによって,同債務を主債務とする被告人の本件保証債務を免れることのほか,本件生命保険金を取得することをも動機としたものであるものの,
本件保証債務を免れる手段としては,Aを殺害してC会社の清算権限を奪うことが主であって,本件生命保険金は付随的な意味しか持たなかった(原判決の量刑の理由の項の2(2)ア)などと認定した上,F生コン敷地において,
A殺害行為に及ぶ直前に,
被告人が,
Aに対し,
昭和60年1月13日に死亡した被告人の養母でありAの妻であるJのことを話題にし,
もっと大事にしてやりゃよかったろうがなどと詰
問したところ,Aが子供が産めんかったあの女が悪いんじゃなどと言ったことから,Aが,Jをあの女呼ばわりして,Jを死に追い込んだ責任をJに転嫁しようとしているなどと考えて,憤まんやるかたなく感じたことも,A殺害のきっかけであった旨認定している(原判示第1。なお,原判決の量刑の理由の項の2(4)参照)。
これに対し,弁護人は,原判決が,その量刑の理由の項の2(2)で認定するとおり,本件生命保険金は最大でも6000万円にすぎず,本件保証債務が6億円を超えていたことにかんがみると,Aを殺害して本件生命保険金を得ても,
それだけで,
被告人が,
本件保証債務を免れ,
破産を回避できるわけではない上,被告人が,本件生命保険金をC会社のD銀行以外の金融機関に対する債務や滞納税の返済に充てようと計画し,被告人の主債務や保証債務に充当しようとはしていなかったことからすると,本件生命保険金を得ることは,A殺害の付随的意味ですらなく,単なる殺害後の結果でしかなかったことを意味する旨主張する。そして,被告人も,原審公判で保険金は,偽装交通事故によって親父を殺害することで自動的に下りる,言い方は悪いかもしれませんが,おまけのようなものであり,私にとってはあってもなくても,さして影響のあるものではありませんでしたと弁護人の主張に沿う供述をしている(原審第15回公判調書中の被告人供述調書4頁。以下原審第15回被告人4頁のようにいう)。②

そこで検討するに,原審で取り調べた証拠によると,原判決のA殺害に至る経緯の項の1(1)ないし(4),2(1)(2)の各事実のほか,以下の各事実が認められる。

C会社は,平成10年当時,c市d区e町所在の本社ビルおよび敷地(以下合わせてFビルという),同市f区g町大字h字i182番4の山林6825平方メートルおよび同所183番保安林2433平方メートル(以下合わせて本件山林という)ならびに同市j区k町l所在の宅地約400平方メートルを所有し,F生コンに対する2億0033万5538円,G会社に対する5995万円等合計3億1591万9018円の貸付債権を有していた。
他方,その当時のC会社の債務は,D銀行(E支店)に対するものに加えて,K信用金庫(L支店)に対して元金4600万円,K信用組合(T支店)に対して元金2096万4269円,K県信用保証協会に対して元金8620万5232円のほか,Fビルの入居者に対する敷金合計1982万7050円の返還債務および未払税金合計1422万7700円等の合計約8億1852万6282円であった(捜査状況報告書〔検154〕)。そして,FビルにはD銀行を債権者とする極度額5億5000万円の根抵当権等が,本件山林にはD銀行を債権者とする極度額4億円の根抵当権等が,それぞれ設定されていた(捜査関係事項回答書〔検163〕
,全部事項証明書〔検152,153〕)。


被告人は,C会社のD銀行に対する債務のほかに,K信用金庫に対する債務についても,AおよびMとともに連帯保証していた(捜査関係事項回答書〔検163の32丁以下〕
,原審第15回被告人6頁)。


被告人は,C会社が,Aの構想する原判示の加工砂事業によって収益を得ることは,実現可能性が低いから,加工砂事業をすることを諦めて,C会社の所有するFビル等の資産を有利な条件で任意売却するとともに,原判示の本件確認書に基づいて,N会社からC会社に譲渡された本件山林を,N会社が所有する原判示の第1期工事によって完成した宅地約2000坪(以下本件宅地という)と交換して同宅地を転売し,C会社のF生コンに対する貸付債権の弁済を受け,あるいは同債権を譲渡することなどにより,C会社の上記債務を弁済すべきであると考えるようになった。そして,被告人は,Fビルについては3億円程度で,本件宅地は坪単価平均28万円程度(合計約5億6000万円)で売却できるので,C会社の上記債務は十分返済可能であり,そうすれば,被告人自身は破産を免れ,被告人所有のaの家も保全できると考えていた。

しかし,
Fビルの売却については,
様々な引き合いはあったものの,
一向に成約に至ることはなかった(D銀行E支店長作成の回答書〔検157〕中の交渉記録簿)。
また,本件宅地と交換すべき本件山林の所有名義は,平成10年5月28日売買を原因としてHに移転された後,同年8月25日真正な登記名義の回復を原因としてG会社に移転された(全部事項証明書検〔
152,153〕)。そして,被告人は,それに先立つ同月21日,G会社の代表取締役を退任し,
代わってHがその代表取締役に就任していた(履
歴事項全部証明書〔検151〕)。したがって,本件山林と本件宅地との交換および本件宅地の転売については,実質的にはHの権限において実行されることになったから,本件宅地が転売される時期や,本件山林の根抵当権者であるD銀行に対する被担保債権の返済額も,同銀行とHとの話合いによって決せられることになった(被告人の検察官調書〔検197〕3項)。しかし,D銀行が根抵当権を設定していた本件山林は,1000万円の価値もなかったことから(原審第18回被告人13頁),本件宅地との交換に本件山林を供する前提として,本件山林の根抵当権設定登記の抹消登記手続をD銀行にさせるために,その被担保債権に関し,G会社がC会社に代わってD銀行に弁済する金額について,Hが交渉しても,同人は本件保証債務の返済について何らの利害関係も有しないこともあって,相当に難航することが予想された。オ
C会社は,Fビル入居者からの賃料収入が月額200万円程度あったところ,Aは,平成8年1月にC会社が解散し,清算手続に入った後にも,その清算人である立場を利用して,上記賃料収入から諸経費や清算人の報酬を優先して支払い,これを金融機関に対する債務の弁済に充てようとはしなかった。
被告人は,従前から,C会社の元従業員として,D銀行との間の債務弁済に関する交渉に当たっていたところ,同銀行は,平成10年8月18日,それまで支店長や支店長代理において対応していたC会社の同銀行に対する債務の弁済交渉に,本店融資管理部も関与して,同年10月以降,上記賃料収入から上記債務の弁済を開始しない場合には,上記賃料債権を差し押さえる旨通告していた。被告人は,G会社の代表取締役を退任した後,同年9月10日,C会社の清算人に就任したところ,D銀行は,同月14日,被告人に対し,同年12月までにFビルの任意売却先を探すよう強く要請した。また,被告人においても,同年9月29日,D銀行に対し,同年10月早々には,C会社の清算人を被告人1人にした上,清算人報酬を受け取らず,O会社に対し管理費等として月額10万円ないし15万円を支払うことを考えている旨申し入れた(上記交渉記録簿)。
なお,O会社は,被告人が,Bからの借入金約320万円を資本金として設立した不動産仲介業を目的とする会社であるところ,当時ほとんど仕事がない状態であった(被告人の警察官調書〔検181〕の14項)。

原判決の量刑の理由の項の2(2)のとおり,被告人は,Aが,
同人を被保険者,被告人を保険金受取人とする生命保険契約を締結していたことや,同契約によるA死亡時の受取額は,普通死亡時3000万円,
災害死亡時6000万円であることを熟知していた。
そして,
被告人は,Aの葬儀の翌日には本件生命保険金の請求手続を生命保険会社に問い合わせ,A死亡の1週間後には必要書類を提出して,その請求手続をした。



以上の事実関係,特に,<ア>被告人は,C会社のK信用金庫に対する元金4600万円の債務についても連帯保証をしていたから,被告人自身が破産するのを避けるためには,その債務も弁済する必要性があったこと,<イ>C会社のK信用金庫に対する上記債務については,Mも連帯保証していたところ,被告人は,知り合いのMに迷惑を掛けたくないと考えていたため,
この点からも上記債務を弁済する必要性があったこと,
<ウ>本件山林と本件宅地との交換および本件宅地の転売については,被告人が,自ら主体的に関与することが困難になっていた上,Fビルの任意売却についても,必ずしも目処が立っていたわけではないこと,<エ>被告人は,平成10年9月当時,C会社の清算人になり,O会社の経営にも当たっていたものの,それらによる収入は多くを見込めなかったことなどからすると,自己の債務を弁済することにより,破産することを避けたいと考えていた被告人にとって,Aが死亡すれば,まず確実に手にすることができる本件生命保険金について,無関心であったとは考え難い。しかも,被告人は,捜査段階において,Aを殺害することを考えるようになってから,Aを殺害すれば本件生命保険金も手に入るので,災害死亡時6000万円の生命保険金が下りるよう,Aの死亡を事故に見せかけることができるような計画を立てたことや,上記6000万円のうち約4500万円をC会社のK信用金庫に対する債務の返済に充て,
その余は,
Fビルを任意売却するための交渉を有利に進める意味で,
同ビルに対する税務官庁からの差押えを避けるために,C会社が滞納している税金の支払に充てようと考えていた旨供述し(被告人の検察官調書〔検220〕),原審公判においても同旨の供述をしていること(原審第15回被告人5頁)や,aの家については,親戚に金を渡して買い取らせ,その所有名義を変更することにより,差押えを避けて残すことを考えていたこと(被告人の警察官調書〔検189〕15項)などにも照らすと,被告人がAを殺害しようとした動機が,本件生命保険金を得ることにもあったことは,明らかである。


弁護人は,本件生命保険金を被告人において一切受け取っていないことと,A殺害の動機との関係について,原判決が,何らの検討も行っていないのは不当である旨主張している。
しかし,被告人は,A殺害行為をする時点において,本件生命保険金を受け取ろうと考えていたものであって,それを実際に受け取ったか否かということと,A殺害の動機とは直接の関係はない。
また,関係証拠によると,以下の事情も認められる。すなわち,被告人は,本件車両の運転を誤って交通事故を起こしたことにより,助手席に乗っていたAが負傷した旨偽っていたところ,その事故の前に,Aを殴打していた事実が同人の弟に発覚したことから,そのことが弱みになって,同人から,本来被告人1人が受け取る筈であった本件生命保険金の一部を,Aの妻子に渡すよう要求されて諍いになり,そのことを,被告人が金員を借りていた被告人のいとこであるHに相談したところ,同人にうまく言いくるめられて,本件生命保険金債権をG会社に譲渡することになり,その結果,本件生命保険金はHが取得し,被告人は受け取ることができなかった。被告人は,その後,本件生命保険金を取り戻そうと考え,弁護士に相談したところ,取り戻すためにはまず仮差押えをすべきであり,それには保証金が必要であると教えられた。しかし,被告人は,当時無収入で,いわゆるサラ金にも借金がある状態であったため,本件生命保険金を取り戻すことを諦めた。
そうすると,被告人が,本件生命保険金を受け取っていないのは,被告人が殺害行為をした後の,被告人の予想しなかった事情の変化によるものであって,被告人が本件生命保険金を受け取っていないからといって,被告人がAを殺害しようとした際,本件生命保険金を得ようという動機があったことについて,何らの疑問も生じない。


もっとも,被告人としては,仮に本件生命保険金が得られなかったとしても,
本件山林と本件宅地との交換に頑なに反対していたAを殺害し,
被告人自らが,
その交換を実行することができるようになりさえすれば,
本件宅地を含めたC会社の資産を換価することにより,本件保証債務を含めた被告人の債務の負担から解放され,破産を免れることができると考えていたことが認められる。したがって,仮に,Aが生命保険に加入していなかったとしても,被告人がAを殺害したことに変わりはなかったという,被告人の原審公判供述の信用性を否定することはできない。そうすると,本件生命保険金を得ることは,被告人にとって,A殺害の重要な動機ではあるものの,最大の動機は,C会社の清算業務からAを排除することにあったというべきである。本件生命保険金を得ることは,A殺害の動機の一つではあっても,従たるものにすぎず,主たる動機であったということはできない旨の原判決の説示は,以上の限度において正当である。
(2)


Jの死因について
原判決は,その量刑の理由の項の2(3)で説示するとおり,Jが,自らの意思によって縊死したと推認している。
これに対し,弁護人は,原判決が,Jの死因について事実を誤認しており,Jは,Aによって殺害された疑いが濃厚である旨主張し,仮に,Jの死因が,他殺ではなく自殺であったとしても,被告人において,AがJを殺害したと誤信するのも無理からぬところであったし,Jが自殺した原因は,Aが若い女性と不倫関係にあった上,同女との間で子供までつくったことが大きく影響していたのであるから,被告人がAを殺害するに当たり,被告人最愛のJを死に至らしめたのはAであるとの思いにより,Aを殺害することに対する心理的障壁がやや低くなっていたと考えられるので,この点も量刑上考慮すべきである旨主張している。


そこで検討するに,関係証拠によれば,原判決の被告人の生育歴,家族関係の項の4および量刑の理由の項の2(3)ア(ア)aないしe,(イ),(ウ),(エ)abの各事実が認められるところ,Jの死因について,捜査機関が,自殺であると判断するまでの経緯は,以下のとおり要約できる。すなわち,Jは,昭和60年1月13日に原判示のmの家で死亡し,同日夜,110番通報により臨場した警察官らは,同夜から翌日にかけて検視を行い,Jの死体の頚部に損傷があり,自他殺いずれかは判明しないと判断した(捜査状況報告書〔検386〕添付の検視調書写し参照)。そして,Jの死体は,鑑定処分許可状に基づき医師Pにより解剖され,同医師は,鑑定書(検387はその写し。以下P鑑定書という)を作成した。他方,Jの死体の第一発見者である被告人は,連日,警察署に出頭して警察官による取調べを受けた。被告人は,当初,Jの死体を発見したときの状況について,午後8時ころmの家に帰り,玄関の錠を開けて中に入り,奥六畳間の照明を点けたところ,Jが,コタツに入り仰向けになって,胸から上をコタツから出して寝ており,よだれを出していたのでタオルで拭いてやり,
お母さんと声をかけても反
応がなく,身体が冷たいので温めるため電気カーペット上に運び,父親の自動車電話や親戚に電話したなどと述べていた。しかし,被告人は,その後,供述を変え,帰宅したところ,Jが,太い荷造り用のロープの一端を庭の柵に結び,他方の端を,リビングルームのガラス製引き戸の上部にある高窓(天窓)の桟の上を通してたれ下げ,そのロープで首をつって死亡していたので,庭に出て上記ロープを切ってJの死体を床に降ろし,そのロープは自室の天井裏に置いた旨供述した(以下,この供述を旧供述という)。そして,mの家の被告人が供述した場所から2つに切断されたロープ(以下本件ロープという)が発見され,警察官が,mの家で,P医師立会いの上,ロープとマネキン人形を用いて,被告人の供述する方法で首をつることができるかどうかの再現実験をした。加えて,原判決の量刑の理由の項の2(3)イ(イ)abのとおり,Jは,Aが,不貞行為をして,相手女性との間に子をもうけたことなどに苦悩し,酒に溺れる生活をしていた上,Jが書き残したと推測されるメモの内容が,自殺をほのめかす遺書としての意味合いを持つものと判断されたことなどから,捜査官は,被告人の上記供述を受け入れ,Jは自殺したものと判断した。


これに対し,当審において証人として取り調べたQ医師は,Jの死因が縊死ではないという意見を述べているところ,その意見は,同医師の当審公判供述ならびに同医師作成の意見書(弁21)および意見書(追加)」と題する書面(弁25)を総合すると,以下のとおり要約できる(以下「Q意見という)。ア
縊死の場合,死体の頚部に形成された索溝は,体重が最もかかる前頚部に強く深く顕著に出現し,上方に向かうに従って索状物は首から離れていくから,索溝は徐々に弱く浅くなり,やがて消失する。ところが,P鑑定書によると,Jの索溝は,ほぼ頚部を水平に一周しており,絞死の場合に見られる索溝のようであって,縊死とは思えない形状であり,絞死の可能性の方がはるかに高い。


P鑑定書によると,Jの頚部の内部所見は,<ア>甲状軟骨左右の上角が骨折し,周囲の筋肉に出血があり,左側では頚椎のそばに及ぶ出血となっている,<イ>頚部左右の皮下出血がある,<ウ>頚部左右脊椎部分付近の出血がある,<エ>喉頭蓋粘膜溢血点がある,<オ>舌骨骨折はないが,
舌骨周囲の出血がある。
そして,
以上の所見を要約すると,
前頚部上方の舌骨や甲状軟骨部の前面から両側面にかけて,横に幅数センチメートル程度の索状物あるいは手掌面のようなもので,首を前から後方へ圧迫するようにやや強い外力が作用したために,甲状軟骨の骨折や周囲の出血を形成したものと思われるところ,特に甲状軟骨の上角が左右とも折れているということは,縊死あるいは絞死というよりも,扼死の際に見られる所見に近い。Jの右側頚部の拇指頭面大の淡青色変色は,
はっきりとは分からないものの,
Jを扼殺した際の,
加害者の右手の第1指(拇指)の扼痕ではないかと思われる。したがって,本件は,メカニズムからいえば扼死の可能性が最も高い。縊死や絞死は,索状物による頚部圧迫が主であるから,甲状軟骨骨折や前頚部および左右側頚部の出血は,扼死よりも生じにくい。

Jの頚部をほぼ水平に一周する索溝が見られることからすれば,絞死の可能性が高い。しかし,P鑑定書添付の写真6によると,右側頚部に横に走る索溝に対して,縦に3条の蒼白な皮膚圧迫痕があり,その周辺はかすかに出血を伴っているように見えるところ,これは,加害者が,Jの背後からやや幅のある帯状の紐の両端を持って,U字状に前頚部にかけ,後方に強く引いて頚部圧迫によって絞殺しようとした際,Jが防御のために右手指3本を索状物の下に入れ,その3本の指が紐の下に挿入されたまま,加害者がJの首を絞めたために形成された絞殺時の防御痕であるとも考えられるし,あるいは,右側頚部でJの着衣のぬいしろあるいは皺などの凹凸が形成されたために,その厚さが強い紐の圧迫によって印象されて出現したものとも考えられる。


Jの顔面のうっ血や眼瞼結膜,口唇粘膜,心外膜,喉頭蓋,気管支粘膜等に溢血点があることから,
Jが窒息死したことは明らかである。
そして,体重が紐に100パーセント掛かる定型的縊死の場合には,側頚部を走る動静脈が一緒に締まってしまうので,索溝の下と上の部分には変化がなく,内部に出血などが起きにくいというのが原則である。これに対し,絞死の場合には,皮膚の表面を走る静脈は締まるのに対し,深い部分の動脈は締まりにくいので,顔面のうっ血や眼瞼結膜の溢血点が出る。また,自殺を目的として自分で自分の首を絞めた上,紐がゆるまないように結ぶ自絞死の場合には,着衣等が紐の下にかからないようにはだけて絞めるので,上記のような防御痕あるいは着衣のよれのような印象が生じるとは思われない。さらに,Jの膀胱内には200ミリリットルの尿が入っていたところ,縊死の場合は立位になっているので,膀胱内に尿が200ミリリットルも入っていれば,意識を失ったときに,膀胱括約筋,肛門括約筋が開き,内容物が流れ出る筈であるのに,これが流れ出ていないということは,Jは,意識を失ったときに横臥位であったと考えてよい。

以上のとおり,Jの外部所見からは絞死を思わせ,内部所見からは扼死を思わせる2つの所見が併存しているところ,これをすべて絞殺の所見と解釈しても誤りではないものの,初めに索状物で背後から首を絞め,仮死状態で仰臥位になっているところを前頚部を手指で絞め扼殺したと考えても,Jの死体所見を矛盾なく説明することができ,いずれにせよ,Jの死は他殺によるものであり,縊死(自殺)では説明することができない。



そして,被告人は,A殺害について捜査官から取り調べられた際,Jの死因について旧供述とは異なる供述をしているところ,被告人の平成14年6月30日付け警察官調書(検188)には,要旨以下のとおりの供述が記載されている。すなわち,昭和60年1月13日の夕方,被告人が帰宅したところ,Jが,リビングに仰向けに倒れて死んでいた。Jの首にはガーゼのような物が巻かれ,それを少し下ろしてみると,引っ掻いたような傷とロープで絞めたような痕が残っていた。また,Jの髪や服が濡れており,そばの台所には浴室にある筈のタライが,水の入っていない状態で置かれていた。被告人は,Aが,Jのことが邪魔になって殺したと思い,直ぐにAの自動車電話に電話して,状況を伝えて直ぐ帰宅するよう言い,その後,親戚にも電話連絡した。被告人は,mの家の1階階段下の物置に置いてある筈のロープを見に行き,そこにはなかったので探したところ,2階の押入の中にあり,中途半端な長さに切ってあった。被告人は,この姿のままのJを人に見られたくないと思い,Jの着衣を着替えさせたり,
濡れていた髪をドライヤーで乾かすなどした。
電話連絡から10分後くらいにmの家に戻ったAは,駆け付けた医師に対しいい具合に頼むと,病気で死んだことにしてくれという内容の話をしていた。しかし,救急隊が来て,首のロープ痕を見て警察に連絡し,警察も動き出した。被告人は,自分から本当のことを言うつもりはなく,帰宅したらJが首をつっていたと嘘を織り交ぜ,想像して話していたところ,偶然ロープ全体の長さや切った長さ,巻き付けの状態等が被告人の話と一致し,
その後,
警察から取調べを受けることはなかった。
また,被告人の平成14年7月1日付け検察官調書(検195)には,上記警察官調書の記載と同旨の内容に加えて,要旨以下のとおりの供述が記載されている。すなわち,本件ロープは,いつも階段下の倉庫に保管してあったのが,被告人の部屋の押入にあった。そのロープは,もともと10メートル以上の長いものであったところ,2メートルないし3メートルと,残りとの2本に切断された状態になっていた。被告人は,本件ロープを自室の押入の天井裏に隠した。元々韓国人である被告人にとって,
父親は絶対の存在であり,
息子が父親のことを警察に売ることは,
日本人よりも抵抗感が大きかった上,養父が養母を殺したことが明るみになれば,F生コンもC会社も立ち行かなくなり,自分の仕事もなくなって,Bとの結婚話も破談になってしまうという気持ちがあった。被告人は,
警察で嘘発見器にかけられ,
刑事からの取調べに対しては,
当初,
家に戻ったら母親がリビングに倒れていたと言ったところ,首に絞められた痕があると追及されたことから,
実は家に戻ってきたら母親が首をつっていたので,それを私が降ろした。リビングの床に倒れていたと嘘を付いていたのは,母が自殺したことが公になると世間体が悪いから,病死ということにしたいと思い嘘をついていたと説明した。
刑事から,
Jが首をつっていたロープはどこにあるのかとか,どのように首をつっていたのかと聞かれて,自分の部屋の天井裏にロープがあることを話した。そして,ロープが10メートル以上の長いもので,しかも切られていたことから,辻褄が合うようにロープの一端を庭木に縛り,反対側を縁側の掃出窓の上にある小窓から室内に引き入れ,そこで首をつっていたものであり,ロープが切れているのは,Jを降ろすとき自分が切ったと嘘の説明をした。
さらに,被告人は,原審公判廷において,上記警察官調書および検察官調書とほぼ同旨の供述をし,当審公判廷においては,弁護人から差し入れられた上記昭和60年1月14日付け検視調書写しを読んで,記憶が混乱していることが分かったとして,当初供述していたとおり,同月13日午後6時ころ帰宅した際,Jは,1階奥の台所でコタツに入って座っており,被告人がいったん外出して,同日午後8時ころ帰宅したときに,Jは,その下半身を上記コタツに入れた状態で倒れていた旨供述した。
以上のとおり,
被告人は,
J死亡直後の検視の際には,
警察官に対し,
Jの死後最初にJを発見したとき,Jは下半身をコタツに入れて仰向けになって倒れていた旨の供述していたものの,その後の警察での取調べの際には,Jは首をつって自殺していた旨供述した。しかし,A殺害についての取調べの際には,再び,当初の供述と同様の供述をして,Jの死因が自殺ではなく,Aに殺害されたものである旨供述したものである(以下,Jが殺害されたという被告人の供述を新供述という)。


たしかに,Q意見は,Jの死因について,絞殺または扼殺であり,縊死(自殺)では説明することができないというのであり,被告人の新供述は,法医学的にも裏付けられているようにみえる。
しかし,Q意見は,Jの死因を検討する際,P鑑定書に記載されたJの死体所見を,定型的縊死の場合に見られる所見と比較検討して,縊死ではないという結論を導いていることは,Q医師の証言からも明らかである。ところが,Jが,定型的縊死であることを窺わせる証拠はなく,被告人の旧供述に基づき,mの家でマネキン人形を使って再現実験をした際は,首に巻いたロープの結び目が右側頚部にあることに照らすと,Jが縊死したのであるとすれば,それは非定型的縊死であることが窺われる。また,Q意見は,縊死の場合は立位になっているので,意識を失ったときに膀胱括約筋や肛門括約筋が開き,内容物が流れ出る筈であるのに,Jの膀胱内に尿が200ミリリットルも入っていて,これが流れ出ていないということは,Jは,意識を失ったときに横臥位であったと考えてよいというところ,P鑑定書によれば,Jの肛門は閉じていたというのであるから,その肛門括約筋や膀胱括約筋は開いていなかったと考えられ,そうすると,Jの膀胱内に尿が残っていたことをもって,縊死ではないと直ちにいうこともできないというべきである。
また,被告人の原審および当審各公判供述によれば,被告人は,Jの死体が発見された当時,連日,警察署において長時間の取調べを受け,Jが,夫の不倫やその相手との間で子が生まれていることなどに悩み苦悩しているのを見て,被告人が,いっそのことJを死なせて楽にしてやろうと考え殺害したのではないかと追及され,ポリグラフ検査まで受けたというのであるから,捜査機関においては,Jを被告人が殺害したのではないかということを相当程度疑っていたことが窺われる。そして,被告人の旧供述の信用性を確認するために,mの家において,P医師立会の下で被告人の旧供述の内容を再現する実験をした上で,被告人の旧供述が,少なくとも信用できないとはいえないと判断したものである。捜査機関が,相当の嫌疑があると考えた者の否認供述の信用性を否定できなかったという事実は,十分尊重しなければならないというべきである。さらに,この再現実験の際,実際にJの死体を解剖した法医学者であるP医師も立ち会っていたことにかんがみると,被告人の旧供述は,法医学的にみて必ずしも不合理なものでもなかったことが窺われるといわざるを得ない。
しかも,ロープの端を庭木に結びつけた上,ロープのもう一方の端を家屋内に引き込んで首をつるという方法は,極めて特異な方法であると考えられるところ,
真実,
被告人が,
その新供述のとおりの体験をして,
旧供述のような体験をしていなかったとすれば,庭木にロープの端を結びつけて屋内で縊死するというような特異な方法を思いつくとは考え難いというべきである。この点について,被告人は,ロープ全体の長さや切られた長さなどを矛盾なく説明するために,苦しまぎれに嘘を考え,縊死している状況について虚偽の供述をしたところ,たまたま警察官に信用してもらえた旨供述する。しかし,縊死していた状況について嘘の供述をするのであれば,例えば,ロープにしたところで,その全部を使って首をつっていたという必要もなく,一部余っていたように装うこともできるし,切られた短い方のロープがJの頚部に巻かれていたように述べることもできたのであって,自殺の道具立てにわざわざ庭まで使って虚偽の自殺方法を述べるというのは不自然の感を免れない。
加えて,被告人は,Jが死亡しているのを発見した直後,自室押入の中に本件ロープがあるのを発見して,それを入れたのはAであると思ったというのである。そうすると,当然,Aが,被告人をJ殺害の犯人に仕立て上げようとしていることも察知した筈である。
そして,
被告人は,
取調べを受けたときの警察官の対応から,自分自身がJ殺害の犯人であると疑われていることも分かっていた筈である。それにもかかわらず,被告人は,その当時は,自分を犯人に仕立てようとAが企んでいるとは気付かず,
いずれ警察が,
Aが犯人であることを突き止めるであろうし,
そうなればAも真実を話すであろうと思い,それまでの時間を稼ぐつもりで,Jが縊死したと嘘を言った旨供述しているところ,被告人のこの供述は,内容が不合理であり不自然であって信用できない。
また,Jが,自殺をほのめかす本件メモを残していたことは既に認定したとおりである。
そうすると,Jの死因については,被告人の旧供述の方こそ信用できるというべきであるから,原判決が,検視およびP鑑定書によると,何らかの紐状物により頚部を圧迫されたことにより窒息死したものと認められるものの,これが自殺によるものか,他殺によるものかを確定的に判断できないところ,Jに自殺の動機があり,本件メモが存在していた上,被告人の旧供述のとおり本件ロープが発見され,旧供述に基づいて再現実験がなされた結果,Jが自殺したと判断されて捜査が終えられていることなどから,Jは自らの意思で縊死したと認定したのは,正当として是認できる。


被告人は,AがJを殺害したものであり,自分自身はそう信じていた旨供述するのであるが,前述のとおり,被告人の旧供述の方が信用できるところ,これによれば,被告人は,Jが縊死しているのを見ており,Aが殺害したものでないことは分かっていた筈である。もっとも,Jの死が自殺であるにせよ,その主たる原因は,Aの不貞行為とその相手との間に子が生まれたことにあることは明らかであるから,Jをそのような状況に追いやったのはAであり,その意味において,被告人が,Jの死についてはAに責任があると考えたとしても,それは至極自然なことであって,何ら不思議はない。
そして,A自身も,Jの死亡については,自分に原因があることは理解していた筈であるから,Jの死後,Aが,被告人に対して経済的に甘くなり,
被告人が購入するマンションの頭金約450万円を出したほか,
自動車やゴルフ会員権の購入代金合計約600万円を出し,さらには被告人のサラ金に対する債務も合計約1500万円くらい支払うなどしたことも,Jの死亡について,自分に原因があるという負い目を感じていたからであると考えれば,十分説明のつくことであって,被告人が述べるように,AにはJを殺したことの弱みがあったからである(被告人の警察官調書〔検188〕)と考えるのは当たらない。



したがって,原判決が,その量刑の理由の項の2(4)において,原判示第1の犯行直前に,Aにおいて,13年近くにもわたって隠し続けてきた筈の殺人という重大犯罪を,被告人との仕事の話のついでに交わされた簡単な会話の中で,さしたるためらいもなく認めるような言動をしたというのは,
余りに唐突で不自然であるから,
その際,
被告人が,
Aから,Jを殺害した旨聞いた旨の供述は信用できない旨説示した点は正当である。
なお,原判決は,被告人が,原判示第1の殺害行為の日の2日か3日後に,Aの妻であるRに対し,Aとの別れ話があったのか尋ね,Rが,それを否定したという事実(Rの検察官調書〔検165〕)から,原判示第1の犯行直前に,Aが,被告人に対し,Rと別れようと思っている旨述べたという事実を認定している。しかし,原判示第1の犯行直前に,被告人が,AからJ殺害の事実を聞いたという供述が信用できないのであるから,その同じ時に,Aから,妻と別れようと思っているという話を聞いたという供述についても,その信用性については慎重に検討する必要がある。そして,被告人が,Aから,そのような話を聞いてもいないのに,聞いたと嘘をついたと疑う余地がある上,原判示第1の犯行直前よりも,もっと以前にそのような話をAから聞いていたという可能性も否定し難い。また,仮に,その犯行直前にAからそのような話を聞いたとしても,そのことから直ちに,被告人の供述のとおり,その際,被告人がAに対し,Jのことを話題にしてもっと大事にしてやりゃよかったろうがなんでもっと大事にしてやらんのじゃなどと詰問したと
ころ,Aが子供を産めんかったあの女が悪いんじゃなどと言って,Jをあの女呼ばわりしたのではないかとまでいうことはできない。したがって,原判示第1において,Aに対し,Jのことを話題にし,『もっと大事にしてやりゃよかったろうが』『なんでもっと大事にしてやらんのじゃ』などと詰問したところ,Aが『子供を産めんかったあの女が悪いんじゃ』などと言ったことから,AがJを『あの女』呼ばわりして,Jを死に追い込んだ責任をJに転嫁しようとしているなどと考えて,憤まんやるかたなく感じるとともにと認定説示した点は,事実を誤認しているといわざるを得ない。
しかしながら,原判決は,Aを殺害しようとした主たる動機は,C会社の清算権限をAから奪って自己の方針に従ってC会社を清算し,自己の破産を免れようとした点にあると認定しているのであるから,この誤認が判決に影響を及ぼすとはいえない。
(3)


A殺害の態様,殺害後の事情等について
弁護人は,A殺害計画およびその実行について,原判決が,被告人は極めて周到な準備をした上,これをほぼ計画どおりに実行したのであって,本件犯行は,冷徹に計算された,稀に見るほど計画性の高い犯行と断じているところ,被告人の計画は,最終的にA死亡という意図どおりの結果になったことが不思議なほど,拙劣で確実性がなく,実現可能性や計画性の乏しいものであった上,実行の面でも冷静さを欠き,計画を変更せざるを得なかっただけでなく,結果の発生に至る経緯も,当初の計画からは大きく異なるものであったから,原判決の評価は誤っているというのである。



そこで検討するに,被告人は,原判示第1のA殺害の犯行に及ぶ1か月以上前から,殺害方法について考え計画を練っていたところ,その経緯は,以下のとおりであったと認められる。すなわち,被告人は,A殺害の場所を,
夜間人がおらず,
日曜日であれば従業員の出入りもない上,
Aを呼び出しても怪しまれないF生コンの敷地に決めた。また,A殺害行為の後,同人を本件車両に乗せ,自動車事故で死亡したように装うことに決めて,偽装の交通事故(以下本件事故ともいう)を起こす場所やその方法,警察に事情聴取された際の弁解内容についても,予め考えておいた。さらに,A殺害の後,交通事故を偽装するためには,Aの死体を載せた自動車を被告人自身が運転せざるを得ないので,交通事故を装う際,被告人自身が大けがをしたり命を落としたりすることのないよう,
安全性が高いベンツである本件車両を使用することとした。
そして,
自分は助手席に乗り,死亡したAを運転席に座らせて,助手席側から本件車両の運転ができるかどうかを確かめるため,Aから本件車両を借りて試してみたところ,うまく運転できなかったことから,Aの死体は助手席に載せ,被告人自ら運転することに決めた。また,被告人は,凶器についてもあれこれ考えた末,Aの不意をつけるように,殺傷能力が大きい割に形状の小さい鉄アレイにすることとし,鉄アレイを被告人が入手した形跡が残らないように,
万引きして用意した。
加えて,
被告人は,
A殺害後,Aに代わって自分がC会社の代表清算人になることができるよう工作した。


以上のとおり,被告人は,A殺害の方法について,事前に十分考え,周到に計画を練って準備していたものである。
ところが,実際には,F生コンの敷地にAを呼び出し,その不意をついて,鉄アレイでAの前額部を複数回殴打し,その頭蓋骨の一部が欠損するほどの傷害を与えたところまでは,事前に計画したとおりに事態が進行したものの,Aは,その場で絶命するに至らなかった。その上,Aは,同敷地内にある女子トイレの中の洗面台まで歩いて行ったため,その付近が血で染まり,洗面台の排水口にAの頭の骨片が落ちたところ,被告人は,その犯跡を隠滅することができなかった。そして,本件事故を起こした翌日,上記洗面台付近の血の跡や骨片をF生コンの関係者に発見されたことから,被告人が,本件事故の直前にAを殴打したことが発覚したものであって,これらの点において,計画どおりに事が運ばなかったことは明らかである。
しかし,被告人は,重傷を負ったAを本件車両の助手席に乗せ,これを運転して,計画どおり本件事故を起こし,Aは,病院に搬送されたものの,その後意識を回復することなく死亡し,A殺害については,3年半以上もの間,犯行が捜査機関に発覚しなかったものである。
そうすると,A殺害が極めて周到な準備をした
計画性の高い犯行であるとの評価は免れ難い。また,事前の計画とは異なり,F生コン敷地においてはAを殺害できなかったものの,Aは,その後,病院における治療の甲斐もなく死亡するに至ったものであるから,
原判決のほ
ぼ計画どおりに実行したという評価も誤りとはいえない。そして,被告人がAに負わせた傷害の程度は相当に深刻であり,Aが被告人の行為によって死亡したことを,他人に知られないまま相当期間経過したことなどにも照らすと,所論指摘の諸点を検討してみても,被告人の計画が拙劣で確実性がないものとはいえない。
たしかに,実行の面では,F生コンの敷地において,計画どおりAを殺害するまでに至らなかったことや,上記女子トイレの中に犯跡が残されていたことに気付かなかったことなどからすれば,被告人が冷静さを欠いていたかのように見えないではない。しかし,鉄アレイで殴打して相当の重傷を負わせた筈であるにもかかわらず,その直後,Aが自力で歩くなどということは,全く予想外の出来事であり,そのような事態に立ち至って,その場でさらに暴行を加える気持ちにならず,それよりも次に予定していた交通事故により殺害しようと考え,それを実行する方に気を奪われたとしても,それは無理からぬことである。また,女子トイレの中に血痕や骨片等の犯跡が残されていることに気付かなかったのも,そのときの状況にかんがみれば,自然な成り行きであるというべきであって,これらの事情から,被告人が冷静さを欠いていたとまではいえない。
もっとも,被告人は,A殺害行為をした翌朝,F生コンの敷地に戻った際にも,上記女子トイレの中の犯跡を発見して,これを消すなどの罪証隠滅工作をしていない。そして,その結果,被告人が,本件事故の直前にAを殴打した事実に関する証拠が残ってしまったものであって,この点をとらえて,その計画の実行において不十分な点があったと評価する余地はある。
(4)

その他の主張について
弁護人は,①被告人の行為とA死亡との間の因果関係について,疑問を
差し挟む余地がある,②被告人は,本件事故後間もなく,K県K西警察署で取調べを受けた際,捜査官から,本件事故の前にAを殴ったという話があるが本当かと尋ねられ,このとき既に,親族から問い詰められて,Aを殴打したことを告白していたため,素直にそのことを認める供述をしたから,自首に類似する事情が認められる,③原判決が,A殺害計画は極めて周到かつ綿密なものであり,このことは,現に,被告人が,犯行現場に残されていた血痕や骨片の存在を知ったAの親戚から問い詰められて,Aを殴打したこと自体を認めざるを得なくなった後も,A殺害そのものについては,3年半以上にわたって発覚を免れたことからも明らかであるとし,
これを,捜査機関の捜査不十分などと批判して,これに責任を転嫁するかのような弁護人らの主張は到底採用できないと判示して,捜査機関の怠慢を軽視し,量刑上全く考慮しようとしなかったのは誤っている旨主張している。
しかし,①の点については,被告人のAに対する暴行の結果,同人が負った頭部外傷に基いて,同人に遷延性意識障害が発生し,健康な状態であれば容易に行うことのできる口腔内に溜まった唾を飲み込んだり,痰や嘔吐物を吐き出すなどの行動ができなくなっていたところ,唾や痰,嘔吐物には多くの雑菌が含まれ,それらが気管から肺に入って肺炎を起こし,かつ,脳に重篤な障害があることから,菌に対する抵抗力や体力が低下していたことも加わって,Aは死に至ったことが認められる。そうすると,被告人の行為とA死亡との間に因果関係が存することは,優に認められるのであって,因果関係があることに疑いを差し挟む余地はない。
②の点については,所論によっても,被告人は,F生コン敷地内の女子トイレにA殴打を示す痕跡が残っていたため,親族から問い詰められて,Aを殴打したことをやむなく認め,捜査官に対しても,その限度で供述したにすぎない。そうすると,A殺害を自主的に捜査機関に申告することを意味する自首に類似したような事情があるとはいえない。
③の点については,本件事故当時,Aの親戚等が,捜査機関に対し,F生コン敷地内の女子トイレに血痕や骨片が残されていた事実を告げてはいないところ,被告人は,Aを殴打した事実を認めながらも,Aの死亡原因は自動車事故である旨虚偽の供述を続けていた上,A殺害計画が,相当程度周到かつ綿密であったことから,Aの死亡が事故によるものであると判断され,その結果,被告人によるA殺害が,原判示の期間発覚しなかったものである。そうすると,原判決が,被告人において虚偽供述を続けながら,その虚偽供述を見抜けなかったとして,捜査機関を非難することなど許されないという考えの下に,捜査機関の捜査が不十分であるなどと批判して,これに責任を転嫁するかのような弁護人の主張は到底採用できない旨断じて,
捜査機関の怠慢を量刑上考慮しなかったのは相当である。
3
B殺害とその関連事件について
(1)

弁護人は,原判決が,そのB殺害に至る経緯の項の1ないし7で

認定した事実を前提に,
被告人が,
Bに対して深い愛情を有していながら,
極めて強固な殺意をもって殺害行為に及ぶということは,理解できるところではなく,被告人が,最愛の妻Bが自分を許してくれる筈もないと思い詰めたことと,同女を殺害してしまうということとの間には相当の飛躍があり,被告人がBをなぜ殺害しなければならないのか,その経緯,動機が説明できないし,被告人のBに対する深い愛情と,B殺害という行為における愛情の欠如という評価とは矛盾し,両者が結びつかないことは明らかであって,
B殺害の動機に関しては何ら解明されていない旨主張する。
しかし,原判決は,その量刑の理由の項の5(1)で認定しているとおり,被告人が,Bに対し,本件生命保険金がHの手に渡り,自らは取得できなかった旨伝えたところ,
Bが落胆して離婚をほのめかしたことから,
本件生命保険金を取り戻すことができると嘘をつき,さらに,それを取り戻すことができたと言って,Bをだまし続けたところ,これ以上Bをだませないと考えるや,
真相を知ったBから離婚されることを阻止するために,
Bを殺害しようとしたというのである。そして,被告人のBに対する愛情とは,結局のところ,同女を失いたくない,他の男性に取られたくないといういわば独占欲であって,同女を他の男性に奪われるくらいであるならば,いっそのこと同女を殺害しようと決意したというその動機は,十分理解することが可能である。B殺害の動機が解明されていない旨の所論に賛同することはできない。
また,被告人が,Bについて強い独占欲を有していたが故に,強固な殺意をもって同女の殺害に及んだことも,十分に理解し得るというべきである。
(2)

次に,弁護人は,原判決が,B殺害について,被告人が,着実かつ非
常に周到に殺害の準備を進め,同女を殺害することについての,ためらいやおののきなど何ら窺うことができない上,その殺害の態様は,極めて残虐かつ執ようなもので,殺意も極めて強固であり,B殺害後死体遺棄に至る行為は,非常に計画的かつ巧妙で,犯跡隠ぺいに子供たちを平気で利用する冷酷な心情には,人間として理解し難いものがあり,犯行後もB殺害を認めない被告人の態度には,Bを殺害したことに対するおののきや後悔は一切見出せないなどと説示していることについて,B殺害は突発的なものであり,しかも,最終的に立てられた殺害計画と実際の犯行との間にもずれがあり,海での事故による溺死であるように装うといいながら,殺害計画自体が,海での溺死ではないことがすぐに判明するようなずさんなものであったから,原判決は,そのような事実を正しく評価していない旨主張している。
しかし,被告人は,B殺害の約22時間前である平成12年3月1日午前1時ころ,B殺害を決意し,その後,一度はその決意を鈍らせて,犯行に用いる予定であった睡眠導入剤を海に捨てたものの(被告人の検察官調書〔検328〕2項),同日昼ころ以降は,殺害の準備をためらうことなく進め,B殺害に至ったものである。そして,原判示第4および原判決の量刑の理由の項の5(2)のとおり,Bが,必死に抵抗し,Sくんと長
男の名を呼んで助けを求めるのも構わずに,被告人は,浴槽内でBを転倒させ,もがき苦しむ同女に馬乗りになって,その顔を湯に漬け続けて殺害したものである。B殺害に至る経緯および殺害の態様を総合すれば,B殺害の態様は,極めて残虐かつ執ようで,殺意も極めて強固であるというべきであるから,その旨説示した原判決の認定評価に誤りはない。
また,被告人は,Bの死体を原判示第5の岸壁から海に投げ捨てた後,釣りをしている長男のそばに行き,
何か海に落ちる音がしなかったか
などと,暗にBが誤って海に落ちたかと思わせる伏線を張った上,車に戻った長男が,Bがいないことに気付くや,一緒に探す振りをするなど,犯跡隠ぺいに子供を平気で利用する冷酷な心情には,人間として理解し難いものがあるとした原判決の評価も,相当であるというべきである。そして,被告人は,Bの死体を遺棄した(原判示第5)後,警察官から事情を聴取された際にも,あくまでBが事故死したように装って虚偽の供述をしたほか,原判決の量刑の理由の項の5(3)で指摘されているとおり,原判示第1,第2,第7ないし第12の各罪で審理中の原審公判において,B殺害の事実は全く身に覚えがない旨述べて,B殺害の事実を認めていなかったことが明らかである。
もっとも,被告人は,当初,Bに睡眠導入剤を飲ませ,Bが眠った後,その状態のまま自動車に乗せて岸壁へ行き,眠っているBを海中に投げ入れて殺害し,事故死に見せかけるという計画を立てていた。しかし,実際には,Bに睡眠導入剤を服用させた後,aの家(以下自宅ともいう)の風呂場で,浴槽の湯にBの顔を漬けて殺害しているところ,この計画変更は突発的になされたものであり,最終的に立てられた殺害計画と実際の犯行との間にずれがあることは否定できない。また,殺害現場となった自宅は,閑静な住宅密集地にあり,子供2人がいたことから,Bが大声を出して抵抗すれば,犯行が発覚した可能性もあった上,自宅から海岸まで,子供たちに怪しまれないようにしてBの死体を運ぶために,Bの死体に衣服を着せたり,その髪を乾かすなど,予定外の行動をせざるを得ず,そのために約50分間を要したところ,その間にも子供たちにその様子を見られる危険性があるなど,犯行遂行の確実性が,元々の計画に比して低くなっていたことも否めない。さらに,被告人は,同月2日午前1時9分ころ原判示第5の岸壁付近に着き,同日午前1時30分ころ,Bが海に落ちた旨119番通報しているところ(捜査関係事項照会回答書〔検302〕),同日午前2時17分ころ海中から引き上げられたBの死体の下顎は,既に硬直していたものであって(Vの警察官調書〔検273〕
,捜査状況報告書〔検27
4〕,下顎部の硬直は,通常,死後2時間程度で発現することからすると)
(捜査状況報告書〔検270〕),通報時刻と推定死亡時刻とが合わないことや,海で溺死した場合,肺組織に無数の珪藻が検出される筈であるのに,浴槽で溺死したBの肺組織からは,それが検出されなかったことなど,最終的な殺害計画自体が,海での事故による溺死でないことがすぐに判明するような,ずさんなものであったことも否定し難い。
そうすると,原判決が,その量刑の理由の項の9(2)において,A殺害のみならずB殺害についても,長期間にわたって発覚を免れたのは,何よりもまず,これらの犯行が,被告人の綿密な計画,周到な準備に基づいて,巧妙に実行された結果というべきであると説示している点については,実際の犯行態様と対比したとき,過大に評価しているきらいがあるといわざるを得ない。
加えて,被告人は,取調べの検察官から,推定死亡時刻との関係で,少しでも長く長男と釣りをした後,119番通報した方が有利であったのではないかと質問されて,それは分かっていたものの,暗く冷たい海にBを長く漬けておくのはかわいそうであったので,早く引き上げてやりたかったし,その時点では,B殺害が発覚することはある程度覚悟していた旨述べているところ(被告人の検察官調書〔検329〕5項),その心情に偽りがあるとは思われない。また,被告人は,取調べの検察官に対し,Bを殺したことを後悔している旨繰り返し供述している(被告人の検察官調書〔検328〕8項)ところ,その心情にも偽りがあるとは思われない。この点について,原判決は,その量刑の理由の項の5(3)において,被告人が警察に通報するなどして犯跡隠ぺいに意を用いBの死体が発見された後も冷静な態度を保ち続け
最愛の妻であったBを殺害したことに対するおののきや後悔は一切見出せないと説示しているところ,B殺害後の被告人の心情をそのように一蹴してしまうのが相当であるか,疑問なしとしない。
(3)

弁護人は,B殺害に関して,④上記のとおり,Bの死体が発見された
際,死後硬直が始まっていたことに加えて,被告人が,死体を遺棄して間もない同年3月2日午前3時25分ころ自宅に戻った後,Bの体を拭いたバスタオルを他の洗濯物と一緒に洗濯し,その終わりを示す洗濯機のメロディーが鳴るのを長男が聞いていたことから,この点を捉えて,捜査機関が,何を洗濯したのかなどと被告人を追及していけば,B殺害が露見する可能性があったこと,B殺害後,被告人の体全体にひっかき傷が残っており,被告人が,B殺害後の数日間,警察署で任意の事情聴取を受けた際にも,警察官からその点を指摘されていたから,警察官が,さらにこの点を追及していけば,被告人によるB殺害が露見する可能性があったこと,Bを解剖した時点で,肺臓内の水分に珪藻が存在するか否かがきちんと調査されていれば,被告人がBを殺害したことが容易に判明し得たことなどに照らすと,B殺害直後から,被告人によるB殺害が容易に疑われる状況にあったというべきであるから,結局,被告人のB殺害計画は甘いものであり,犯罪遂行の確実性が低かったといわざるを得ない,⑤捜査機関は,B死亡の事実は把握していたものの,殺害されたものとして扱っていなかったところ,被告人が,捜査機関に対しB殺害を申告したことによって,初めてそのことが発覚したものと評価できるから,自首に該当し,仮にそうでないとしても,被告人の改悛による責任減少が認められるから,刑の軽減が認められるべきであるというのである。
しかし,所論が④で指摘する事実は,いずれも,B殺害後に生じた事実ばかりであるから,それらの事実があったからといって,それが,B殺害の遂行の確実性が低かったことを示すとはいえない。もっとも,それらの事実は,いずれも,被告人によるB殺害を裏付け得る事実であるといえるから,被告人によるB殺害は,容易に発覚し得るものであり,その計画が甘いものであったことを示す事情であるということはできる。
⑤の点については,被告人が,平成14年9月2日に開かれた原審第6回公判期日において先ごろ,私が妻Bを殺害した旨の報道がされ,現在その件について任意の取調べも受けているところですが,私には,そのような事実は全く身に覚えのないことですと述べていたものであって,その当時から,捜査官によりB殺害についての取調べがなされていたことが明らかであるところ,被告人の同月20日付けの警察官調書(検319)には

昨日,自分がBを殺したことを正直に話そう。そして私が罪を償うことで,子供たちが真っ当な道を歩むことを願おうと心に決め

て,警察官に対し私がBを殺したんですと話した旨の供述が記載されている。そうすると,被告人は,捜査機関の取調べに対して犯行を認めて自白したにすぎず,それが自首に当たらないことは明白である。また,④でも指摘されているとおり,被告人がB殺害を申告しなければ,その事実が発覚しないような状況ではなかったことが明らかであるから,被告人がB殺害を自白したことについて,特に被告人の改悛による責任減少が認められるとはいえない。
4
死刑選択の相当性について
以上検討した諸点についての判断を踏まえて,以下,原判決の量刑の当否について検討する。
(1)

原判示第1のA殺害について
原判示第1の犯行は,被告人が,自分の養父を殺害したという事案である。被告人は,15歳のとき自分が養子であるという事実を知ったところ,そのときまでAを実の父親であると信じており,その後にあっても,それまでと同じく,実の父子同様の関係にあり,高校卒業後間もなく,当時Aが実質的に経営していたF生コンに就職してからは,将来,F生コンにおけるAの地位を引き継ぐことをAから期待され,経済的にも何不自由なく遇してくれるなど,多大な恩義のあるAを殺害したものであって,まことに悪質である。その態様は,夜間,Aを呼び出し,突如,一方的に,鉄アレイでAの前頭部を複数回にわたって殴打して瀕死の重傷を負わせた上,自分の運転する自動車の助手席に同乗させて発進し,交差点のコンクリートブロック壁に高速度で衝突させて,Aに脳挫傷等の傷害を負わせ,搬送先の病院において,同人を上記脳挫傷に基づく肺炎により死亡させて殺害したというものである。被告人は,A殺害行為の1か月以上前から綿密に計画を立て,
犯行場所や日時についても,
Aを呼び出しても怪しまれないF生コン敷地で,
Aが自宅におり,
かつ,
同社の従業員の出入りがない日曜日の夜に実行することを決めるなど,その犯行全体を通じて極めて計画的である。被告人は,当初,A殺害を実行した1週間前の日曜日の夜に,
殺害行為に及ぶつもりでいたものの,
その日は決断がつかなかったことから,その1週間後に実行することを決めた旨供述している。しかし,いったん実行を決意するや,頭蓋骨が折れてその骨の一部が飛び出すほどの強い力で,Aの前頭部を複数回鉄アレイで殴打したものであって,その態様は,甚だ凶暴で執ようかつ残忍というほかない。しかも,自分自身が重傷を負ったり死亡したりする可能性すらあったにもかかわらず,Aを乗せた自動車を自ら運転して高速度で走行させ,
コンクリートブロック壁に計画どおり衝突させた点は,
被告人が,犯行をやり遂げようという強固な決意を有していたことを物語っている。Aは,被告人の鉄アレイによる攻撃によって脳に強い衝撃を受け,
通常であれば,
その攻撃を受けた時点で直ちに意識障害が生じ,
歩行も困難となった筈である。しかし,被告人の供述によると,Aは,頭部から多量に出血し,血の中に目があるような形相であったものの,なお歩行や会話が可能であって,自ら近くのトイレまで行った後,被告人から病院に行こうなどと言われるや,自ら自動車に乗り込んだというのである。しかるに,被告人は,Aを殴打したことにより,かような重大な傷害を負わせたことについて何ら反省悔悟することなく,Aが,
そのような大けがを負わされながらも,病院に行こうという被告人の言葉を信頼して,本件車両の助手席に乗るや,その信頼を逆手に取り,当初からの計画どおり犯行を遂行して,交通事故を装ってAを殺害し,自らは不慮の事故を装うことにより罪責を免れようとしたものであって,極めて卑劣かつ冷酷である。

被告人の犯行により,Aは,上記偽装の交通事故の現場において,完全に意識を失い,病院に搬送されて脳組織の一部除去,脳内血腫の吸引および止血等の手術を受けて,手術自体は成功したものの,その後も意識が回復することなく,殺害行為から3か月以上経った後に死亡したものである。生じた結果は甚だ重大であり,Aの肉体的苦痛は,極めて大きかったと推察される。
Aは,妻との間に子がなかったことから,実弟の子である被告人を,その幼いころに引き取り,実子同様に大切に育て,被告人が成人してからも,マンションを買い与えたり,被告人がBと結婚する際は,その結婚に反対していたBの両親の説得にも当たるなどした。
また,
被告人が,
aの家を購入した際は,その月々のローンも実質的にAが支払い,将来Aが死亡した際,そのローン債務が清算できるよう,被告人を保険金受取人とする本件生命保険に加入した。さらに,Aは,被告人に多額の小遣いを与えたり,被告人の借金の返済を肩代わりするなど,被告人に対し惜しみない愛情を注いできたものである。また,Aは,J死亡後再婚した女性との間に子供をもうけたことについて,被告人に対し申し訳なく感じ,そのことを気に掛けていたものであって,常に,被告人を自分の長男として扱ってきたということができる。しかも,Aは,負債を抱えて解散に追い込まれたC会社に代わって,Aが将来加工砂事業を展開する際の中心にする予定であったG会社の代表取締役に被告人を就任させるなどして,被告人に期待を掛けていたものである。そのような被告人から,突如,恩を仇で返すような仕打ちを受けたAの驚愕は著しかったと推察される。また,当時8歳から15歳の学齢期にあった3人の男児の成長を見守ることもできず,その母親である妻も残してこの世を去らざるを得なかった無念の情や不安感は,いかばかりであったかと思われる。
しかるに,被告人は,捜査段階においては私は,父を殺したこと自体は後悔していませんと述べるなど(被告人の検察官調書〔検199〕9項),A殺害について反省の態度が見られなかった。

最愛の夫を被告人によって奪われたAの妻の悲しみや憤りは強く,絶対に被告人を許すことができず,被告人をAと同じ目にあわせてもらいたい旨供述して,被告人を死刑に処すよう求めている。また,Aの子らの悲しみも深いものと推察される上,Aの妻子らの被った経済的痛手も著しい。加えて,原判決の被告人の生育歴,家族関係の項の2,その量刑の理由の項の3(3)アのとおり,Aは,F一族の中心として,一族の尊敬や信望を集めてきたものであって,その兄弟や甥なども,被告人の厳重処罰を求めている。しかるに,被告人は,Aの妻子らに対し何らの慰謝の措置も講じていない。


被告人が,Aを殺害するに至った経緯や動機は,既に認定説示したとおりである。すなわち,A殺害行為に及んだ当時,C会社は,合計8億円以上の債務を抱えていたところ,被告人は,C会社のD銀行に対する6億3130万円余りの債務およびK信用金庫の元金4600万円の債務(以下,合わせて本件債務という)について連帯保証しており,特にD銀行からは,その債務の履行を求められていた。C会社の代表清算人としてその清算権限を有していたAは,本件山林の保有を続け,本件山林を足がかりにして将来加工砂事業を行うことにより利益を得れば,それらの債務を返済することが可能であると考えていた。一方,被告人は,加工砂事業を展開することは困難であって,早急に本件山林を本件宅地と交換した上,同宅地を転売するなど,C会社の資産を売却等して整理することにより,それらの債務を返済すべきであると考え,Aにその旨進言していた。しかし,Aは,加工砂事業を行うことにこだわり,当面,それら債務の返済を滞らせたとしても,D銀行等の金融機関が,Fビルや本件山林等に設定していた担保権を実行することはないと考え,被告人の進言を入れようとはしなかった。そこで,被告人は,このままでは,自分が破産に追い込まれ,自宅であるaの家も差押えを受けて,妻子との幸せな生活を失い,被告人が幼いころの貧しい生活に逆戻りするとともに,子供たちにも肩身の狭い思いをさせることになるとの焦燥感を募らせた末,C会社の清算権限をAから奪ってC会社の資産を整理するとともに,本件生命保険金を取得して,本件債務を返済するため,A殺害行為に及び,さらに本件生命保険金をだまし取ったものである。
たしかに,Aの計画していた加工砂事業が,近々開始できる可能性は乏しかったことが窺われるし,平成10年当時にあっては,それ以前とは異なり,D銀行等の金融機関が担保権を実行することは,十分にあり得たから,
被告人のAに対する進言は正当であったということができる。
したがって,Aの方針に従いC会社の資産を売却整理することなく,本件債務の返済もしないままに時を移せば,被告人が破産に追い込まれる可能性も十分存したと認められる。そうすると,被告人が,そのような不安を持ったことは当然であり,Aにおいて被告人の進言に一切耳を貸さなかったことは,相当とはいい難かったように思われる。そして,そのことが,被告人を精神的に追い詰めた面があったことは否定し難い。しかし,そうであるからといって,それが,被告人のA殺害を正当化するような理由になり得ないことも,また明らかである。

弁護人は,
AがJを殺害したとの疑惑を被告人が有していたことから,
A殺害についての障壁が低くなっていた旨主張する。
しかし,既に説示したとおり,被告人は,JがAによって殺害されたと認識していなかったものであるから,弁護人の主張は前提を欠いている。
もっとも,Jが自殺した主な原因が,Aの不貞行為にあることは明らかであり,
AがJを自殺に追いやったといわざるを得ないのであるから,
被告人が,Jの死についてはAに責任があると思っていたことは明らかである。
しかし,
いかに被告人がJに対して愛情を持っていたとしても,
Jの敵討ちのようにしてAを殺害することが,幾分たりとも相当視できないことは明らかである。ましてや,被告人は,Aに対し相当の恩義があった上,Aからも愛情を受けていたのであるからなおさらである。被告人が,Jの自殺についてAに責任があると思っていたことを,A殺害の関係で特段に斟酌すべきであるとまではいえない。


なお,原判決は,その量刑の理由の項の3(2)ア(イ)(ウ)において,被告人によるA殺害が,冷静かつ着実な方法で実行され,犯行後も執ように犯跡を隠ぺいする行動に出た旨認定している。
しかし,既に指摘したとおり,被告人の元々の計画は,被告人がAを鉄アレイで殴打して殺害し,犯跡隠滅のため,Aの死体を本件車両に載せて偽装の交通事故を起こすというものであったのに,実際には,Aを鉄アレイで殴打することによっては殺害することができなかったものである。そうすると,被告人が,常に冷静かつ着実にA殺害を実行したとまでいえるのかについては,疑問の余地もある。
また,被告人は,Aを殴打した後,AがF生コン敷地内の女子トイレに入ったことを認識していながら,Aの傷害部位から流れ出た血が同トイレ内に落ちていることなどに思い及ばず,Aを乗せた本件車両を運転して同敷地から立ち去る前にも,また,その翌朝,被告人が,入院先の病院を抜け出して同敷地に戻った際にも,上記トイレ内の犯跡を隠滅する機会がなかったわけではないのに,被告人は,それらの犯跡を隠滅していない。そうすると,被告人が,犯行後も執ように犯跡を隠ぺいする行動に出た旨の原判決の評価も,必ずしも当を得ているとはいえない。(2)

原判示第2の本件生命保険金の詐欺について
原判示第2の犯行についての動機,経緯,犯行態様および結果は,原判
決がその量刑の理由の項の3(1),(2)イ,(3)イで説示するとおりであって,その動機,態様ともに悪質であり,その被害額は非常に多額であるところ,その被害弁償は一切なされていない。もっとも,本件生命保険金については,上記2(1)④のとおり,被告人は,実際には一切取得することができなかったものである。
なお,
被告人は,
平成16年8月27日,
被害者である生命保険会社との間で,被告人が,同保険会社に対し,不法行為による損害賠償債務として6000万円およびこれに対する平成11年11月10日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払義務があることを認めて,これを直ちに支払う旨の刑事和解を成立させてはいるものの,それが履行される見込みはない。
(3)

原判示第3の1,2の各保険金詐欺について
原判示第3の1,2の各犯行についての動機,経緯,犯行態様および結果については,原判決の量刑の理由の項の4のとおりである。すなわち,その利欲的な動機に酌むべき点はなく,その態様は狡猾であり,被害額は合計1040万9000円と多額である。被告人は,これらをBや知人からの借金返済等に充てて費消したところ,現在に至るまで被害弁償の措置を何ら講じていない。
(4)

原判示第4のB殺害および同第5の死体遺棄について
B殺害および死体遺棄の各犯行に至る経緯,動機,犯行態様,犯行後の行動および結果等は,上記3(2)(3)で指摘した点を除いては,概ね,原判決が,そのB殺害に至る経緯の項の1ないし7および量刑の理由の項の5(1)ないし(4)で説示するとおりである。

その経緯および動機は,被告人が,Bに対し,本件生命保険金を取り戻すことができる,あるいは取り戻すことができた旨,仮差押え決定通知書と称する書面や銀行の振込受取書を偽造までして,その場限りの嘘を重ねてだます一方,夜間,同女が飲む飲料に睡眠導入剤を混入して同女を眠らせることにより,同女が外出して知人に会うのを妨げて,その嘘が発覚するのを免れていたものの,それ以上Bに嘘をつき続けることができなくなり,もし,同女に真相が発覚した場合には,同女が,自分に愛想を尽かして離婚し,他の男性と再婚してしまい,子供たちとも会えなくなるであろうから,それを避けるためには,Bを殺害するしかないと考えて,実際に殺害に及んだ上,海で事故死したように装って,犯行が発覚するのを免れようと考え,
その死体を海に投棄したものである。
その殺害の動機は,いわゆる財産目当て,あるいはわいせつ目的というような,特に悪質と考えられる類のものではない。しかし,そうであるからといって,極めて安易に人を殺めたことの悪質性が弱まるものではない。被告人の行為は,本来,自分の身を犠牲にしてでも守るべき妻の生命を奪い,かつ,被告人と妻との間にもうけた当時12歳の長男および8歳の長女から,その母を奪うという,子供たちにとって,これ以上ないといっても過言ではない不幸を強いるものである。被告人のいう妻を失いたくない,あるいは子供たちと会えなくなるのを避けたいという心情は,それ自体十分に理解し得るものである。しかし,その目的のために,妻を殺害するという行為に出た点は,この上なく短絡的かつ身勝手である。しかも,被告人は,Bとの婚姻後も,他の女性と浮気をしたり,B殺害の約4年8か月前である平成7年7月には,テレホンクラブで知り合った女性をホテルに誘って性交渉をもった後,同女の財布から現金を抜き取ったことにより,窃盗罪で逮捕され,起訴を猶予されたことがあったほか,子供たちのための学資保険や貯金を,Bに黙って勝手に引き出して使うなど,Bに対して,数々の背信行為を重ねてきたものである。そうすると,被告人は,妻子への思いを語りながらも,その内実は,自分だけが大切であり,自分だけは不幸になりたくなく,その目的のためには,妻子を含めた他者の存在やその思いには何らの配慮もしないという,極めて自己中心的な自己愛を表現しているにすぎないといわざるを得ない。したがって,B殺害の動機の悪質性は,上記のような財産等を目当てとする利欲からの殺人と比べても大差なく,酌量の余地はない。また,上記のとおり,被告人が,嘘に嘘を重ね,Bの知らぬうちに睡眠導入剤を同女に飲ませるなどした経緯も,甚だ悪質である。ウ
B殺害の態様は,以下のとおりである。すなわち,被告人は,既に,その日の夜のうちにBを殺害しようと決めていたことから,Bの作った夕飯を同女の最後の手料理であると思いながら味わって食べた。
そして,
子供を風呂に入れて寝かせた後,居間で酒を飲みながら,同女が家事を終えるのを待ち,居間に来た同女とともに酒を飲んだ。Bは,被告人から,既に本件生命保険金6000万円がB名義の預金口座に入金されていると聞かされていたので,
明日こそ銀行に連れて行って欲しいと
被告人に言った。それに対して,被告人は,B殺害を決意していたことから,
明日は時間もあるし,銀行に行こうなどと嘘をついてBを喜
ばせた。被告人は,Bに用事を言い付けて台所に行かせた隙に,同女が健康のために毎日飲んでおり,その日も用意してあった飲み物の入ったマグカップの中に,あらかじめ水に溶かして用意していた多量の睡眠導入剤を流し込んで,居間に戻ってきたBに飲ませた上,同女と性交渉をもった。その後,被告人は,浴室で同女とともに浴槽の湯に浸かり,被告人の胸に背中をもたれかからせて,あったかいねえ」と言いながら,被告人を信頼しきって眠り始めた同女を見るうち,突然,冷たい海の中ではなく,暖かい湯船の中で死なせてやろうという身勝手な思いが生じたことから,既に認定説示したとおり,極めて残虐かつ執ように,強固な殺意に基づいて同女を殺害した。Bは,その日,被告人から,既に入金されていると聞かされながら,被告人の都合によって,なかなかその入金が確認できなかった本件生命保険金6000万円について,明日こそはその入金が確認できると考えて嬉しく思っていた筈である。そして,最も安全であるべき自宅において,夫と夫婦の愛情を確認する性交渉をした直後,一緒に暖かい風呂に入り,その浴槽内で,自分を誰よりも守ってくれる筈の夫の胸に抱かれながら,その心地よさに安心しきって眠っていたところ,突如態度を豹変させた夫により,その場で,全裸のまま殺害されたものである。そのときのBの驚愕は著しく,何で,何でなんという同女の言葉どおり,

直ちにはその状況が理解できなかったに違いない。そして,突然の事態に混乱しながらも,ようやく,自分が夫から殺されようとしていることが飲み込め,必死に抵抗しながらも,最後に「Sくん

と12歳の長男に助けを求める叫びを発したときの絶望感はいかばかりであったかと思われる。死に至るまでの苦しさ,38歳の若さで,かつ,未だ学齢期の長男長女を残して絶命させられる無念さ,そして,何よりも,これまで様々な心労を強いられながらも,信じて愛し続けてきた夫に裏切られたことの悔しさを思うとき,その不憫さ哀れさには語るべき言葉がない。エ
B殺害後の状況および死体遺棄の態様等は,既に認定説示したとおりであり,自分の子供たちをアリバイ証人に仕立てつつ,Bの死体を海に投棄することによって,Bが事故死したように見せかけ,B殺害の犯跡を隠滅しようとしたもので,悪質というほかない。加えて,被告人は,そのほかにも以下のような罪証隠滅工作を行っている。すなわち,被告人は,B殺害直後,Bの体を拭いていた際,Bの口から出た汚物が付着したバスタオルを自宅近くのコンビニエンスストアのゴミ箱に捨てた。Bの死体を海に投げ捨て,長男とともにBを探す振りをした後,119番通報し,同女が発見されて搬送された先の病院で,警察官から事情聴取を受け始めたものの,それが終わらないうちに病院を抜け出し,自動車を運転して自宅に帰る道中,Bを殺害したときに使った証拠品を持っていてはまずいと思い,睡眠導入剤を捨てた(被告人は,その当時,焦っていたことから,睡眠導入剤を捨ててしまったところ,後記の弁解内容から考えると失敗であった旨供述している。被告人の検察官調書〔検329〕7項。なお,被告人の警察官調書〔検317〕三項の問答参照)。自宅に戻ると,脱衣所付近の床がBの吐いた物で汚れている気がして,それをバスタオルで拭き,洗濯機の中に入れて洗濯した。そして,自宅に来た警察官や,その後,警察署で被告人の事情聴取に当たった警察官に対し,Bが日ごろ,寝る1時間くらい前に睡眠薬を飲んでおり,Bが原判示第5の岸壁から落ちた日も,自宅から出掛ける前,同女が酒を飲んでふらついていた旨,
Bが事故死したかのように装う供述をしたほか(被
告人の警察官調書〔検317,318〕),Bを溺死させる際,同女が抵抗したことによって被告人の顔面等に生じていた傷について警察官から問われて,コーキング作業をしてついた旨虚偽の説明をした(写真撮影報告書〔検287〕)。さらに,被告人は,子供たちや親族に対しても,Bの死因について同様の虚偽の説明をした。

上述のとおり,Bは,被告人の女性問題や金銭問題に悩まされながらも,妻として家庭を守り,子供たちに愛情を注いでいたものであって,何ら責められるべき点はない。そのようなBを殺害した結果の重大性はいうまでもない。そして,何よりも,自分の子供たちから,突如,その最愛の母親を奪ったことにより,
同児らに与えた不幸の大きさ,
そして,
その母親を殺害したのが父親である被告人であると知らされたときの子供たちの受けた衝撃や苦悩,
葛藤の大きさは,
想像を絶するものがある。
Bの父親および姉妹らの被告人に対する憤りは強い。Bの父親は,原審公判において,Bを失ったことによる喪失感とともに,そもそも被告人との結婚に反対を貫けず,最終的に許してしまったことについて激しく後悔している旨供述している。また,同時に,Bの父親は,Aの親族から,原判示第1の交通事故があった際,被告人がAを石で殴打したことや,F生コン敷地内のトイレにAの骨があったことを聞かされ,被告人を告訴することについて相談されたとき,
積極的に告訴させておけば,
Bが殺されることはなかったと述べて,
無念の情を露わにするとともに,
自分の孫である残された2人の子の行く末を案じている。
Bの長姉は,
明るく朗らかで,
家事も育児も完璧にこなしていたBが,
子供たちの成長を見られなかったことについて,いかに無念であったかと述べるとともに,Bの長女については,B死亡の約1年半後から現在に至るまで,長男については,平成14年1月に被告人が逮捕された後長男が中学校を卒業するまで,自分の手元に引き取っているところ,母親が父親に殺害された旨知らされた子供たちの苦悩や寂しさを訴えている。そして,Bの父親およびBの姉妹らは,いずれも被告人を死刑に処すよう求めている。
しかし,被告人は,これらBの遺族に対し,謝罪の手紙のほかには何らの慰謝の措置も講じていない。

なお,
被告人は,
上記のような動機からBを殺害したにもかかわらず,
その約1年後には,いわゆるお見合いパーティに参加して,原判示第7の女性と知り合い,その女性から拒まれたにもかかわらず,しつこくつきまとった挙げ句,同女と交際するようになり,性関係までもつに至っている。被告人は,Bを殺害したことを後悔し,反省している旨折に触れ述べているところ,その言葉自体は嘘ではないと思われるものの,実際の行動は,それと全く裏腹であり,B殺害について被告人の述べる後悔や反省の弁は,口先だけのものであるといわざるを得ない。交際相手を求めた被告人の心情については,妻を自らの手で殺害してしまったことを悔やむ気持ちや寂しさをこらえることができず,新たに交際する女性を求めたと解するとしても,心の底から反省し,無念の思いで死んでいったBの心情や,その遺族の気持ちを少しでも推し量れば,自分が新たに女性と交際するなどということは決して許されないことであるということは,被告人において容易に理解できる筈である。それにもかかわらず,お見合いパーティに参加し,ストーカー行為までして女性と交際した被告人については,犯行後の情状が極めて悪いというべきである。(5)

原判示第6の保険金詐欺,第7の窃盗,第8,第9,第11の各有印私
文書偽造・同行使・詐欺ならびに第10の1ないし9および第12の各詐欺についての動機や経緯,態様等は,原判決が量刑の理由の項の6,7において説示するとおりである。すなわち,被告人は,B殺害の約50日後にだまし取った原判示第6のBの死亡保険金を借金返済や生活費等に使い果たし,やがて日雇い仕事に出るようになったものの,生活費に窮したため,B殺害から1年半を経ないで,約3か月間に窃盗1件,有印私文書偽造・同行使・詐欺3件および詐欺10件を累行したものである。いずれの動機や経緯にも酌量の余地はない。その態様は,交際中の女性方から,原判示第7の運転免許証を盗み出し,それを悪用して,原判示第8,第9,第11の各有印私文書偽造・同行使・詐欺に及んだところ,運転免許証の窃取が被害者に発覚しないように,その不正利用をした後は直ちに元の場所に戻したり,原判示第9,第11の各犯行において同女名義でした携帯電話契約や,原判示第10の1ないし9の各詐欺で同女のクレジットカードを不正利用したことが発覚しないよう,同女の住所を当時の被告人の自宅住所にして届け出たり,郵便局に同女の転居届を出すなど,いずれの犯行も,その態様が非常に狡猾で悪質である。被害額は,現金が299万3365円,物品の価額が合計49万6684円相当に及ぶところ,いずれの被害についても弁償はされていない。各被害者あるいは被害店舗の関係者は,いずれも被告人の厳重処罰を求めている。
(6)

以上のとおり,本件各犯行の動機や経緯,犯行態様および犯行後の情
状はいずれも悪質で,特に酌むべき点はない。いずれも生じた結果は重大であり,被害者らの被害感情は厳しい。
特に量刑上重視すべきA殺害およびB殺害については,いずれも極めて自己中心的な動機による,強固な殺意に基づいた,執ようかつ残虐な態様による犯行であって,生じた結果はまことに重大であり,いずれの被害者遺族の処罰感情も極めて厳しいものがある。殺害された被害者2名は,被告人の養父および妻であって,いずれも,被告人に対して愛情を持って接し,被告人を慈しんでくれた,被告人にとって極めて恩義のある存在であった。特に,妻Bについては,一点の落ち度も見出すことはできない。それにもかかわらず,養父を殺害する行為に出て,その3か月余り後に同人を死亡させた後,わずか1年2か月を経ないで妻を殺害したものである。その各動機の根底においては,自己に都合の悪い事態に立ち至ったとき,邪魔になる人物や自己から離れていく人物を殺害することによって,問題を処理しようとする点において,一部つながるものがあり,このような人格態度は,厳しく断罪されなければならない。また,各殺害は,基本的には全く別の動機から,冷酷かつ慎重に各被害者の殺害を計画し,それを実行したものであって,その悪質さは際だっている。近しい親族や家族を連続して殺害するなどした被告人の犯行が,社会に与えた衝撃も著しく,この点も被告人の量刑に当たって十分に考慮されるべきである。そして,本件の他の各犯行の犯情をも併せ考慮すると,原判示第7以下の犯行は,殺人を2件も犯した後の犯行であり,ある程度自棄的になっていたことは否めないことや,職も失い生活費に窮した上での犯行であることを斟酌しても,被告人の犯罪傾向は強く,規範意識を欠いているというほかない。他方,本件殺人2件は,全くの第三者を利欲目的または格別の目的もなく無差別に連続して殺害したような事案ではなく,そのような事案と対比すると,その凶悪性は若干劣るという評価も成り立ち得ること,A殺害については,それが殺害されなければならないほどの事情ではないものの,C会社の清算について,被告人からの正当と思われる進言に耳を貸さず,被告人が,破産への不安から精神的に追い込まれる原因を作った点で,Aにおいても全く落ち度がないとまではいえないこと,被告人が,Jの死亡についてAに責任があると考えていた点は,
無理からぬものであるところ,
それが,A殺害の決意を若干なりとも促した面があったと考える余地があること,A殺害およびB殺害ともに,その各犯行前,被告人が,実行をためらっていること,B殺害の動機については,すこぶる身勝手とはいえるものの,
財産目当て等の利欲性はないこと,
A殺害およびB殺害について,
比較的長期間,捜査機関に明らかにならなかったのは,各犯行の計画性の高さや,被告人において巧妙な罪証隠滅工作を行ったためであることが否定できない反面,いずれの犯行についても,直ちに被告人の犯行であることが発覚するような重要かつ明らかな証拠を残しており,その点で,被告人の計画は完璧なものではなく,また,実行行為においては,完全犯罪というにはほど遠いものであったこと,
被告人は,
いずれの犯行についても,
自白した後は,その全容を詳細に供述し,B殺害については,繰り返し後悔の念を述べるなど,A殺害を除いては,捜査段階から原審公判を通じて反省の態度を示していたこと,原審の最終段階においては,A殺害を含めて反省の弁を述べ,
その罪は,己の命を以ってしても到底償いきれませんと述べて,極刑を受けることにより罪を償う覚悟を示すに至っていたこと,被告人には前科がないことなど,被告人のために斟酌すべき事情も認められる。
さらに,当審における事実取調べの結果によれば,以下の事実が認められる。すなわち,被告人とBとの間の長男Sは,14歳か15歳のとき,母Bが,父である被告人によって殺害されたことを知り,当初は,被告人を自らの手で殺したいほど憎んだものの,本件の原審判決を報道で知ってから,気持ちが少しずつ変わり,平成17年7月から被告人と手紙をやり取りするようになり,その後面会もするようになり,週に1回程度の割合で面会を続けている。Sは,現在では,母を失った上に,父である被告人をも失うことは耐えられないとして,被告人について極刑を回避するよう望んでおり,現在,被告人とSが,父と子としての交流を保ち,互いに精神的に支え合っていることが窺われるのである。実の父に母の命を奪われた子であるSの心情については,非常に複雑で,激しい葛藤が渦巻いているものと思われ,
余人において安易に推し量ることはできないといえよう。
もし,
被告人が死刑に処された場合,
Sは,
母を失った被害者である上に,
最も近しい肉親である父をも失い,再び母を失ったのと同様の悲しみや喪失感を味わうことになる。この点は,被害者遺族の意思ないし被害感情として一定の考慮をせざるを得ないものと考える。他方,被告人も,当審において私の生い立ちとその後の生活歴について」
と題する長文の手記(弁19)を提出しており,それには,これまでの人生や本件のことを振り返った上,原審の死刑判決については,今でもやむを得ないことだろうと思っているものの,Sと面会してからは,生きたいと思うようになったこと,もし許されて無期懲役になったなら,一生懸命務めて罪を償い,もう一度Sと暮らしたいと思っており,今の自分にとっては,Sの存在だけが生きる支えとなっている旨記載している。それによると,被告人は,Jの死因等についての原審の認定については不服であるものの,死刑判決自体はやむを得ないと考え,受け入れる姿勢を示しているのであって,被告人の贖罪意識は,相当に深まっていると評価することも可能であると考えられる。しかし,これらの諸情状を総合してさらに検討するに,原判決には,上述のとおり,その前提となる事実の誤認あるいは評価の誤りがあるものの,なお,本件は,その結果が別々の機会に2名の被害者を殺害した2件の殺人罪を含む重大凶悪事案であり,それら各殺人の態様についてみても,いずれも計画性が高く,特にA殺害の態様の残虐性は著しい上,両殺人事件とも強固な殺意に基づく犯行であり,いずれも被告人において様々な罪証隠滅工作を図るなど,犯行後の情状も悪質であることに加えて,各殺人の被害者遺族らの被害感情が極めて峻烈であり,社会的影響も大きかったこと,Sの心情は尊重すべきであるものの,同人は,本件各殺人やその後のことについて,必ずしもすべての真相を知った上で,現在の気持ちに至ったものであるかは疑わしいこと,Sは,本件殺人の被害者2名の遺族の中の1人であり,他の遺族の気持ちを代弁しているわけではないことなどの諸事情にも照らすと,罪刑均衡の見地からも一般予防の見地からも,被告人を死刑に処した原判決の量刑は,まことにやむを得ないものというべきである。5憲法違反の主張について弁護人は,我が国の死刑制度は憲法13条,19条,31条,36条に違反しており,これが合憲であるとする最高裁判所昭和22年(れ)第119号昭和23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁等の判例は変更されるべきである旨主張する。しかし,我が国の死刑制度が憲法13条,31条,36条の各規定に違反するものでないことは,確立した判例(所論指摘の判例のほか,最高裁判所昭和24年新(れ)第335号昭和26年4月18日大法廷判決・刑集5巻5号923頁,昭和26年(れ)第2518号昭和30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁)であって,その後の時代と環境の変化や死刑制度に関する世界的な動向等所論指摘の諸点を十分検討しても,国民の感情,犯罪状況,刑事政策を取り巻く諸般の事情を総合すると,現在においても,これが左右されるものではない。また,弁護人は,平成9年に臓器の移植に関する法律(臓器移植法)が制定されたことにより,死刑囚が,贖罪のために自己の臓器を提供することが可能になったところ,たとえ死刑囚であっても,その臓器提供の意思は尊重されなければならないにもかかわらず,現行の絞首という執行方法によれば,体内の臓器の損傷が大きく,少なくとも心臓と肺の移植は不可能であるし,その他の臓器についても,果たして移植の対象とし得るか大きな疑問がある上,死刑囚について現実に移植意思を尊重するための制度的保障は全くないことなどを考慮すると,現行の死刑制度は,その執行方法を変更しなければ,「償い方の自由ともいうべき権利を侵害するものであるから,
憲法13条,
19条に違反する旨主張する。
たしかに,臓器移植法2条1項が,生存中に有していた自己の臓器の提供に関する意思は尊重されなければならないと規定していることは,そのとおりである。しかし,同法2条は,あくまで臓器移植の基本的理念,すなわち,移植医療の基本は,
臓器提供者本人の人道的な提供意思にあり,
移植医療は,
本来,
その上に成り立つものであることを示しているものと解すべきであり,かかる観点から臓器提供意思の尊重も理解すべきである。そして,刑に服している者は,その執行に必要な限度において,国民が享有する基本的人権に合理的な制限が加えられることもやむを得ないところ,死刑は,人間の存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る刑罰であるから,例え,生前の意思により脳死状態における臓器の提供意思が表明されている場合であっても,その意思を尊重するために死刑の執行方法が左右されることにはならないし,これにより臓器提供ができなくなったとしても,それはやむを得ないというべきである。したがって,この点からしても,現行の死刑制度が憲法13条,19条の各規定に違反するものではない。
6
結論
以上説示したとおり,原判決の量刑は不当ではない。また,我が国の死刑制度は憲法に違反するものでもない。論旨は理由がない。
よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却し,当審における訴訟費
用を被告人に負担させないことにつき同法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。
平成19年10月29日
広島高等裁判所第1部

裁判長裁判官

楢崎康英
裁判官

森脇淳

裁判官

友重雅裕
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