判例検索β > 平成18年(ワ)第22533号等
契約金返還等本訴請求事件、契約金返還等反訴請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成18(ワ)22533等
事件名契約金返還等本訴請求事件,契約金返還等反訴請求事件
裁判年月日平成19年11月21日
法廷名東京地方裁判所
裁判日:西暦2007-11-21
情報公開日2017-10-19 19:09:59
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平成19年11月21日判決言渡
平成18年(ワ)第22533号
平成19年(ワ)第4215号
口頭弁論終結日

同日原本領収

裁判所書記官

契約金返還等本訴請求事件
契約金返還等反訴請求事件

平成19年9月14日
判決
東京都新宿区〈以下略〉
本訴原告(反訴被告)


同訴訟代理人弁護士

西尾則雄
京都市〈以下略〉
本訴被告(反訴原告)

乙主1文
本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対して,金2
00万円及びこれに対する平成18年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
本訴被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は,本訴反訴を通じ,これを本訴被告(反訴原告)の負
担とする。

4
この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1

請求

1
本訴
主文第1項と同旨

2
反訴
本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,金615万円及び
これに対する平成18年10月12日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要
本件本訴は,本訴被告(反訴原告,以下被告という。)のした発明について特許を受ける権利の譲渡を受けた本訴原告(反訴被告,以下原告という。)が,後日,当該発明には新規性がなく,特許を受けることができないことが判明したことから,原告と被告との間で,原告が上記譲渡の対価として被告に支払った200万円の返還の合意をしたと主張して,同合意に基づき,被告に対して200万円(及び遅延損害金として,弁済期の翌日又は弁済期の経過後である平成18年9月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員)を請求している事案であり,これに対して,被告が,上記合意は原告の強迫によりしたものであるから,同合意を取り消す旨の意思表示をしたと主張している。
本件反訴は,被告が,原告に対し,①原告との間で締結したコンサルタント契約に基づき,未払コンサルタント料300万円,②被告が原告から既に受領したコンサルタント料の一部を,後日,原告に返還したが,同返還は原告の強迫によるものとして,上記の返還したコンサルタント料15万円,及び③上記の特許を受ける権利を譲渡した対価のうちの未払分300万円(並びに遅延損害金として,平成18年10月12日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合の金員)を請求している(③の請求は,第6回弁論準備手続期日に追加されたものである。以下,この訴えの追加的変更を本件反訴訴えの変更という。)事案であり,これに対し,原告は,本件反訴訴えの変更は,著しく訴訟手続を遅滞させることになるから許されない旨異議を述べるとともに,被告の反訴請求をいずれも争っている。

1
争いのない事実等(証拠により認定した事実は,当該証拠番号を末尾に摘示する。)

(1)

被告は,アルミニウム陽極酸化処理に関する技術であるMライト

(以下被告技術という。)の研究に従事し,被告技術について多数の特許出願をしており,第三者との間で,当該特許権について実施許諾契約を締結したり,被告技術の提供に関する契約を締結するなどして収入を得ている(甲2,乙17,19,弁論の全趣旨)。
(2)

原告は,平成16年7月ころ,丙(以下丙という。)の紹介により,
被告と知り合った(なお,原告は,丁に代えて,戊という名も用いることがある。)。
原告は,平成16年11月13日,被告との間で,被告の特許出願中の発明(出願番号2004-82391,以下391発明という。)の応用技術である発明についての特許を受ける権利を譲り受けることなどを内容とする契約(以下本件譲渡契約といい,本件譲渡契約の対象となった発明を本件発明という。)を締結して(甲6,乙24),同日,被告に対し,上記代金として200万円を交付した(本件譲渡契約の代金額については争いがある。)。
その後,平成17年2月,原告は,被告技術を利用して事業を行うための会社として,株式会社ザ・グルメ(以下グルメという。)を設立し,さらに,同年5月ころ,原告又はグルメは,被告との間で,原告又はグルメが被告に対して,毎月20万円の支払をすること等を内容とする契約(以下本件コンサルタント契約という。)を,口頭により締結し,同契約に基づき,被告に対して,同年6月1日及び同月30日に,それぞれ20万円が支払われた(乙16。なお,本件コンサルタント契約の当事者が原告であるか,又はグルメであるかの点,及び本件契約の具体的な内容については争いがある。)。
原告は,平成18年4月24日,被告及び丙との間で,本件譲渡契約に基づき原告が被告に交付した200万円を,被告及び丙が,連帯して,原告に
対し,同年5月から8月まで分割して,返還する旨の合意(以下本件返還合意という。甲1)をし,その際,被告は,本件返還合意の内容を記載した弁済予定と題する書面(甲1,以下本件返還合意書という。)に署名をしたが,上記金員の支払はされていない。
被告は,本件コンサルタント契約に基づいて原告から受領した金銭の返還として,平成18年6月1日に10万円,同月13日に5万円を,それぞれ原告に交付した。
(3)

本件特許出願の出願経過
本件発明について,平成16年11月17日,発明者を,原告,丙及び被
告とし,出願人を原告及び丙とする特許出願がされた(特願2004-333780。以下本件特許出願という。)が,平成18年11月7日,拒絶理由通知が発送され,平成19年3月12日,拒絶査定がされ,その後,同拒絶査定が確定した(甲4,5の2,7,弁論の全趣旨)。
2
争点
(1)

本訴について
本件返還合意を強迫を理由に取り消すことができるか

(2)

反訴について


本件コンサルタント契約に基づく未払コンサルタント料の請求の可否

被告が,原告に対して,平成18年6月1日及び同月13日に支払った金員の返還請求の可否

ウエ3
本件反訴訴えの変更の可否
本件譲渡契約に基づく未払譲渡代金の請求の可否

当事者の主張
(1)

争点(1)(本件返還合意を強迫を理由に取り消すことができるか)につい

(被告)

本件返還合意の意思表示は,原告の強迫によりしたものであり,被告は,平成19年4月12日の第2回弁論準備手続期日において,本件返還合意を取り消す旨の意思表示をした。
すなわち,被告は,平成18年4月24日午後6時30分ころ,東京駅地下の飲食店オレンジロードにおいて,丙と食事をしていたところ,原告が来店し,同店内で,被告及び丙に対し,怒った口調で,本件譲渡契約に基づいて原告が被告に支払った200万円の返還の要求をし,被告らを強迫した。その際,丙から,店の外に,原告が連れてきた暴力団風の男が10人くらい集まっていると聞かされた。このような状況で,丙において,本件返還合意書を作成し,被告に対して,署名をするよう求めたので,被告は,本件返還合意書に署名をしたのである。
(原告)
被告の主張は争う。
原告は,被告との間で,本件譲渡契約を締結して,同契約に基づき,被告に対して200万円を交付したが,その後,原告の事業に関して協力を得ている三井物産株式会社(以下三井物産という。)から,本件発明は新規性が欠如しており,特許を受けることはできない旨の報告を受けたので,平成18年4月24日に,上記オレンジロードにおいて,被告にそのことを問い質したところ,被告は,これを認めた上で,上記200万円を原告に返還する旨合意したのである。
(2)

争点(2)ア(本件コンサルタント契約に基づく未払コンサルタント料の請
求の可否)について
(被告)

被告は,平成17年5月ころ,原告との間で,本件コンサルタント契約を締結したが,本件コンサルタント契約の内容は,被告が,原告に対し,技術指導,技術説明,資料収集,資料提供をして,原告の製品開発等に協
力し,その対価として,原告から,毎月20万円の支払を受けるというものである。
被告は,原告から,本件コンサルタント契約に基づき,平成17年5月分及び同年6月分のコンサルタント料として,合計40万円の支払を受けたが,その後,原告が,本件コンサルタント契約を解除した平成18年10月の前月分まで15か月分のコンサルタント料の支払を受けていない。なお,被告は,本件コンサルタント契約期間中は,原告から技術の質問を受けた時はいつでも答えられるように,日頃から資料を収集し,自ら技術を磨いて勉強をし,また,マレーシアまで行って技術説明をしたりした。イ
原告は,本件コンサルタント契約の当事者は,原告ではなく,グルメであると主張するが,この主張は,原告が個人としての支払義務の追及を逃れるためにしているのであって,真実は,原告が本件コンサルタント契約の当事者である。本件コンサルタント契約の平成17年6月分のコンサルタント料は,原告個人名義で入金され,また,原告がコンサルタント料の返金を強制した際に指定した口座は,原告個人名義である。


したがって,被告は,原告に対して,本件コンサルタント契約に基づき,平成17年7月分から平成18年9月分までの15か月分のコンサルタント料の合計300万円とこれに対する弁済期の経過した後である平成18年10月12日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求する。

(原告)

原告は,平成17年5月ころ,被告から,金の無心を受け,被膜を施した調理器の実用に向けての勧誘もあったので,やむなく,グルメにおいて,被告に資金援助をすることにし,その名目として,本件コンサルタント契約を締結した。本件コンサルタント契約の内容は,単に,グルメが,被告に毎月20万円の資金援助をするというもので,被告が,グルメに対し,
技術提供等のコンサルタント業務を提供することは,その内容となっていない。
ところが,その後,グルメが,被告が発明したと称する被膜を施したフライパンを顧客に販売したところ,ことごとく顧客からクレームを受ける事態となり,その販売代金を返金することになった。また,平成17年8月26日,被告とH精機製造株式会社(以下H精機製造という。)との間で,被告が,H精機製造に対し,被告の特許の実施許諾をすることなどを内容とする契約が成立し,同契約に基づき,H精機製造から支払を受けた1000万円について,原告,被告が会長を務める株式会社Mライト研究所の代表者であったA(以下Aという。)及び被告間で分けるという事前の合意があったにも関わらず,被告は,上記代金受領直後に,原告との今後の交流を拒んだ。そこで,原告は,同年7月以降,コンサルタント料名目で支払っていた資金援助を止めた。

したがって,本件コンサルタント契約は,実体は,グルメから被告への資金援助のためのものである。
仮に,原告が,本件コンサルタント契約に基づき,被告に対しコンサルタント料の支払義務を負っていたとしても,本件コンサルタント契約は,被告が未払金を請求しないことを含めて,明示又は黙示の合意により解約されたものである。また,被告は,本件コンサルタント契約に基づき,コンサルタント業務を行っていないから,コンサルタント料の支払請求権も発生しない。

(3)

争点(2)イ(被告が,原告に対して,平成18年6月1日及び同月13
日に支払った金員の返還請求の可否)について
(被告)
被告は,本件コンサルタント契約に基づき,原告から受領したコンサルタント料のうち,10万円を平成18年6月1日に,5万円を同月13日に,
それぞれ返還したが,これは返還する必要がないのに,原告から強迫されたために返還を合意して支払ったのであるから,不当利得に基づく返還請求又は不法行為に基づく損害賠償請求として,上記合計15万円の返還とこれに対する弁済期の経過した後である平成18年10月12日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求する(上記主張の一部は,当裁判所が善解したところによる。)。
(原告)
争う。
(4)

争点(2)ウ(本件反訴訴えの変更の可否)について

(原告)
本件反訴訴えの変更の申立ては,著しく訴訟手続を遅滞させることになる訴えの変更であるから許されない。
(被告)
争う。
(5)

争点(2)エ(本件譲渡契約に基づく未払譲渡代金の請求の可否)について
(被告)
本件譲渡契約の譲渡代金は500万円であるが,被告は,原告から,上記代金として200万円しか受領していないので,被告は,原告に対して,残金300万円及びこれに対する弁済期の経過した後である平成18年10月12日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を請求をする。
(原告)
争う。
また,本件発明は,特許を受けることはできないものであったのに,被告は,本件発明が特許を受けることができるものと原告を欺罔して,本件譲渡契約を締結させた。原告は,平成19年9月14日の第6回弁論準備手続期
日において,詐欺を理由に,本件譲渡契約を取り消す旨の意思表示をした。第3
1
当裁判所の判断
事実認定
前記争いのない事実等,証拠(甲1ないし4,5の1及び2,6ないし18,乙1ないし4,16ないし20,24)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められ,これを覆すに足る証拠はない。
(1)

被告は,被告技術の研究に従事し,被告技術について多数の特許出願を
しているが,2件を除いて特許査定を受けておらず(拒絶査定が確定したもの,審査請求をせずに審査請求期間が徒過したものがある。),特許査定を受けた2件も,特許料を納付しなかったため,その特許権は既に消滅している。
なお,本件譲渡契約の対象となった本件発明については,原告及び丙が,出願人となって本件特許出願をしたが,平成18年11月7日,拒絶理由通知が発送され,平成19年3月12日,拒絶査定がされ,その後,同拒絶査定が確定した。
(2)

原告は,平成16年7月ころ,丙の紹介により,被告と知り合い,被告
から,被告技術についての説明や,被告が多数の特許権を有し,また,多数の特許出願をしていることを聞き,さらに,当時被告が特許出願(特願2004-82391。以下391出願という。)をしていた391発明及びその応用技術である本件発明が,その事業化によって多額の収益が見込まれる有望な発明であるとの説明を受けたため,上記の各発明を利用して事業ができ,これにより多額の収益を得ることができるものと考えるようになり,平成16年11月13日,被告との間で,本件発明についての特許を受ける権利を,代金500万円で譲り受けることを内容とする本件譲渡契約を締結し,同日,上記代金の一部である200万円を被告に支払った。
その後,原告は,平成17年2月,被告技術を利用して事業を行うための
会社として,グルメを設立してその代表者に就任し,さらに,同年5月ころ,原告と被告との間で,被告が,原告に対して,被告技術についての技術指導や,グルメの製品開発についての協力をし,その対価として,原告が,被告に対し,毎月20万円のコンサルタント料を支払うという内容の本件コンサルタント契約が締結された。ただし,本件コンサルタント契約締結においては,契約書は作成されず,また,契約当事者も,原告のみならずグルメも含まれるか否かが曖昧なままであり,さらに,コンサルタント料の支払時期や被告が提供すべき業務の具体的な内容についても,明確な取り決めはなされなかった。
原告は,本件コンサルタント契約に基づき,被告に対して,平成17年6月1日及び同月30日に,それぞれ20万円を支払った。なお,上記のコンサルタント料の支払は,銀行振込の方法によりされたが,同年6月1日の振込はグルメ名義でされ,同月30日の振込は原告名義でされた。
ところが,その後,グルメが,被告技術を利用して被膜処理を施したフライパン等をレストラン等に販売したところ,そのすべての販売先から,グルメの施した被膜処理についてのクレームを受け,返金処理等の対応を迫られたため,原告は,被告技術を利用してフライパン等に被膜処理をすることの事業化を諦めることとした。
また,原告は,平成17年7月以降は,被告に対して,コンサルタント料を支払っておらず,被告も,原告に対して,コンサルタント料の支払を請求することはなかった。
(3)

原告は,Aと共に,H精機製造に対して,被告技術を売り込み,その結
果,H精機製造は,被告技術に興味を持ち,平成17年8月25日,被告との間で,被告が,H精機製造に対し,被告の有する特許権について通常実施権を許諾し,また,被告技術についての技術指導をすること,H精機製造が,被告に対し,頭金として1000万円,実施料として別途協議する額,技術指導料として月額30万円を支払うこと等を内容とする契約(以下被告・H精機製造間契約という。)を締結した。被告は,同契約に基づき,H精機製造から,1050万円の支払を受け,上記契約の成約のための協力に対する対価として,原告に200万円,Aに100万円を支払った。被告・H精機製造間契約の締結には,三井物産が決済代行人として関与した。なお,被告・H精機製造間契約においては,対象特許として,特許番号第1532837号,特許番号第1805359号,特願2004-082391,特願2004-248617との記載があるが,特許番号第1532837号及び特許番号第1805359号の特許権は,被告・H精機製造間契約の締結の時点で既に消滅しており,特願2004-082391及び特願2004-248617も,特許査定がされる見込みはなかった。
(4)

その後,原告は,平成17年12月ころ,三井物産から,被告の有する
特許権は,すべて特許料の未納により消滅しており,また,被告が出願している特許出願も,特許拒絶査定が確定しているか,又は審査請求がされていないものであり,391出願も審査請求がされておらず特許査定はされないものと推測され,本件発明も特許を受けることができないものと推測される旨を告げられ,その結果,391発明及びその応用技術である本件発明が,その事業化により多額の収益が見込まれるような有望な発明であるとの被告の説明が虚偽であったとの認識を得るに至った。
しかし,原告は,三井物産から,原告から被告に対する本件譲渡契約に基づいて支払った200万円の返還請求は,被告・H精機製造間契約に関する交渉が終わってからにして欲しいと要望されたため,それまで待つことにした。そして,原告は,被告・H精機製造間契約の処理が終わった旨の連絡を受け,平成18年4月24日,丙に対して,被告と面談する機会を設けるよう要求したところ,丙から,同日,飲食店オレンジロードにおいて,被告と会う予定である旨を聞き及び,同日午後6時30分ないし7時ころ,上記オレンジロードで被告及び丙と面談した。原告は,その席で,原告が三井物産から告げられた事実の確認をするとともに,391発明や本件発明が有望であるとの虚偽の事実を説明して200万円を支払わせたことを責めたところ,被告は,これを認めたため,両者は,本件譲渡契約を解除するに至った。そして,原告が,同契約に基づき被告に支払った200万円の返還を求めたところ,被告は,原告に対し,200万円の支払を分割とするとの意向を示し,原告と被告及び丙との間で,被告及び丙が,連帯して,200万円を同年5月から8月まで,4回に分割して,支払うことを内容とする本件返還合意が成立した。原告が,被告及び丙に対して,上記の合意の内容を確認した念書を作成するよう要求したので,丙は,本件返還合意書の本文を作成し,同書面に署名をし,さらに,被告も署名をした。本件返還合意書には,本件返還合意の内容を正確に反映した記載がされている。
また,被告は,本件コンサルタント契約により原告から受領した40万円のうち,10万円を平成18年6月1日に,5万円を同月13日に,それぞれ原告に返還した。なお,上記の金銭の支払は,いずれも原告名義の銀行口座に振り込む方法でされた。
(5)

被告は,平成18年6月2日,警視庁の中央警察署及び千葉県警察の市
原警察署に対して,同年4月24日に,原告から恫喝を受け,200万円の弁済予定の書面にサインをさせられたこと等を記載した被害届を提出した。2
争点(1)(本件返還合意を強迫を理由に取り消すことができるか)について本件返還合意がされたときの状況は,前記1(4)で認定したとおりであり,本件において,上記の際に,原告が,被告に対して,強迫をした事実を認めるに足る証拠が全くないだけではなく,原告から強迫を受けたとの被告の主張は,怒った口調で金員の返還請求がなされたという以外に,その強迫の態様についての具体的な主張がなく,それ自体信用性に欠けるものといえる。むしろ,前記1で認定した本件特許出願や被告がこれまでにした特許出願の経緯(特に,被告が,本件発明の基本発明であると原告に説明した391発明の特許出願について,審査請求をしなかったこと)からすれば,被告は,本件発明及び391発明とも,進歩性ないし新規性がなく,したがって,本件特許出願及び391出願とも,特許査定を受けられないことを認識していたものと推認される。それにも関わらず,被告は,前記1のとおり,そのことを秘して,原告との間で,本件発明及び391発明が事業化により多額の利益が見込まれる有望な発明であるとして,本件譲渡契約を締結したものであり,原告に,その点を問い質されて,本件譲渡契約に基づいて支払われた200万円の返還が求められていたことからすれば,被告において,原告からの200万円の要求を拒み得る立場になく,これに応じざるを得ない状況であったというべきである。
以上より,被告が原告の強迫により,本件返還合意の意思表示をしたとは認められず,本件返還合意を強迫を理由に取り消すことはできないというべきである。
3
争点(2)ア(本件コンサルタント契約に基づく未払コンサルタント料の請求の可否)について
(1)

本件コンサルタント契約の当事者について
前記1で判示したとおり,原告は,本件コンサルタント契約の当事者であ
り,グルメを原告と共に同契約の当事者と解する余地があるとしても,そのことにより原告が当事者であることを否定することはできないというべきである。また,被告は,原告から支払われた本件コンサルタント契約のコンサルタント料のうちの一部の返還の趣旨で,原告名義の銀行口座に,合計15万円を振り込んでいるが,振込先の口座を原告名義のものとしたのは,原告の指示によるものと推測され,このことから,原告は,本件コンサルタント契約のコンサルタント料の返還を請求できる主体は原告であり,その前提として,本件コンサルタント契約のコンサルタント料を支払った主体も原告であると認識していたものと認められる。
そして,原告自身も,訴状,第1準備書面,第3準備書面,請求の減縮の申立書,第4準備書面及び第5準備書面において,本件コンサルタント契約が原告と被告との間で締結された旨記載しており,被告から,反訴として,本件コンサルタント契約の未払コンサルタント料の支払請求を受けた後,初めて,本件コンサルタント契約の当事者が原告ではなくグルメであると主張するに至ったものであることも考慮すれば,被告と本件コンサルタント契約を締結したのは,原告であったと認めるのが相当である。
(2)

未払コンサルタント料の請求の可否について
前記1で判示したとおり,本件コンサルタント契約は,口頭で締結され,
同契約に基づき被告が提供すべき業務の内容も,被告技術についての技術指導や,グルメの製品開発についての協力というものであり,その具体的内容は明確には定められていないこと,実際にも,原告が本件コンサルタント契約のコンサルタント料を支払ったのは,最初の2か月分のみであり,平成17年7月以降は一切支払っていないこと,被告も,コンサルタント料の支払がされないことを,本件反訴を提起するまでは,何ら問題としなかったことからすると,もともと,契約当事者の意識としては,必ずしも,本件コンサルタント契約に基づくお互いの債務を厳格に履行することを求めるものではなかったと解される。そして,前記1で判示したように,被告は,本件譲渡契約の対象となった本件発明及びその基本発明であるとの説明があった391発明が特許を受けることができないこと,並びに被告の有する特許権は,すべて特許料の未納により消滅しており,また,被告が出願している特許出願も,特許拒絶査定が確定しているか,又は審査請求がされていないものであることを認めた上で,本件譲渡契約に基づき原告から支払われた200万円を返還することを内容とする本件返還合意をしたものである。しかも,本件コンサルタント契約における被告の債務は,被告技術についての技術指導をするというものであり,被告に食器,調理器等に関する技術があること,及び被告が説明していた被告の特許権が有効であり,特許出願も,近い将来に,設定登録を受けることができることが前提とされていたことが明らかである。
そうすると,原告被告間で本件譲渡契約が解除され,本件譲渡契約の対価の返還を合意しながら,本件コンサルタント契約に基づく未払コンサルタント料の支払請求権が存続するものと原告及び被告が認識していたとは,到底考え難い。このことは,被告が,前記1(4)で判示したように,本件譲渡契約の解除後,受領したコンサルタント料の一部を原告に返還していることからも容易に推認される。
したがって,本件返還合意がされた上記の状況においては,原告及び被告は,本件返還合意の際に,本件コンサルタント契約も合意解約し,平成17年7月分から本件返還合意がされるまでの間のコンサルタント料についても,両当事者間において,被告は原告に対して請求し得ないものとの黙示の合意が成立したものと解するのが相当である。
(3)

したがって,被告の本件コンサルタント契約に基づく未払コンサルタン
ト料の請求は理由がない。
4
争点(2)イ(被告が,原告に対して,平成18年6月1日及び同月13日に支払った金員の返還請求の可否)について
被告は,原告と合意して,本件コンサルタント契約に基づき受領したコンサルタント料のうち,10万円を平成18年6月1日に,5万円を同月13日に返還したが,この返還の合意は,原告の強迫によるものであるとして,上記の15万円の返還を請求している。
しかしながら,本件全証拠によっても,原告が被告を強迫した事実を認めるに足りない(前記3のとおり,平成18年4月24日の本件返還合意がされた際に強迫があったとは認められず,また,その後に,強迫があったとも認められない。)。したがって,被告は,上記金額について,不当利得に基づく返還請求をすることはできない。
なお,上記のとおり,原告による強迫の事実は認められないのであるから,原告が上記支払を受けたことについて,原告に不法行為も成立せず,不法行為に基づく損害賠償請求もすることはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
5
争点(2)ウ(本件反訴訴えの変更の可否)について
本件反訴訴えの変更は,第6回弁論準備手続期日においてされたが,同期日で弁論準備手続は終結し,また,同日開かれた第3回口頭弁論期日において,弁論が終結しているように,本件反訴訴えの変更がされたときには,既に,両当事者のすべての主張立証が終了していたところ,本件反訴訴えの変更に係る請求は,本件譲渡契約の未払代金の請求であり,この請求原因に対する認否及び抗弁は種々のものが考えられ,原告のそれらの主張の準備のためには相当程度の時間が必要であること,また,原告の主張によっては,本件訴訟における従前の争点とは全く異なる点が新たに争点となり,さらに,人証調べが必要となる可能性もあること,他面で,被告としては,本件反訴訴えの変更に係る主張は,反訴を提起した段階で主張し得たものであることを考慮すると,本件反訴訴えの変更は,訴訟手続を著しく遅滞させるものとして,民訴法143条1項ただし書により許されないとするのが相当である。

第4

結論
以上のとおりであり,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由があり,被告の反訴請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官

清水
裁判官

山田
裁判官

佐野節真紀信
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