判例検索β > 平成17年(わ)第1356号
傷害致死、殺人、死体遺棄、逮捕監禁致傷、逮捕監禁、監禁、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反、傷害
事件番号平成17(わ)1356
事件名傷害致死,殺人,死体遺棄,逮捕監禁致傷,逮捕監禁,監禁,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反,傷害
裁判年月日平成19年8月7日
裁判所名・部千葉地方裁判所  刑事第1部
判示事項の要旨架空請求詐欺を行う組織の内紛から,被告人両名を含む多数の構成員が,4名の構成員を監禁の上,凄惨な暴行を加えて死亡させ,死体を山林に埋めた殺人,傷害致死,死体遺棄等の事案につき,(1)被告人両名が実行犯らに3名の殺害を含めた解決策の実現を委ねたことなどを理由に殺害の共謀を認め,(2)3名の殺人と1名の傷害致死の訴因に対し,1名に対する殺意を認めず,2名の殺人と2名の傷害致死を認定し,(3)犯行態様の残虐さや結果の重大性を指摘した上で,グループを統括する首謀者として被害者の殺害に向けて中心的かつ積極的な役割を果たした被告人に死刑を,監禁や暴行を中心的に行い,実行犯らに殺害等の方法による解決を押し付けるなど,その影響力を行使して大きな役割を果たしたが,首謀者ではなく,当初は殺害を主導していなかった被告人に無期懲役を言い渡した事例
裁判日:西暦2007-08-07
情報公開日2017-10-13 01:38:22
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平成19年8月7日宣告
平成17年(わ)第1356号,同第1362号,同第1497号,同第1644号,同第2314号

傷害致死,殺人,死体遺棄,逮捕監禁致傷,逮捕監禁,監禁,

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反,傷害主文
被告人Aを死刑に,同Bを無期懲役に処する
被告人Bに対し,未決勾留日数中500日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人両名並びにC(第1ないし第6について分離前相被告人。,D(第1な)
いし第6について分離前相被告人。,E(第1ないし第6について分離前相被告)
人。,F,G,H,I,J,K及びLらは,M,N,O及びPらとともにいわゆ)
る架空請求詐欺等を行っていたものであるところ,M,N及びOは,中国人マフィアに被告人A(以下被告人AまたはAという。
)らを襲撃させて多額の現
金を強奪することを計画し,Pもこの計画に関与していた。
第1
1
被告人両名は,
C,D,F,G及びHと共謀の上,M(当時25歳)を逮捕し監禁しようと企て,平成16年10月13日午後10時20分ころ,千葉県船橋市a町b丁目c番d号付近路上において,同人に対し,こもごも,同人が乗車していた普通乗用自動車を取り囲み,同車の運転席窓ガラス等を所携の金属バットで殴打し,被告人B(以下被告人BまたはBという。
)がMの右大腿部を所
携のナイフで刺突するなどして,同人を同車運転席から引きずり出して同所付近に停車中の自動車に押し込めた上,後ろ手錠をかけて,同人を不法に逮捕し,その際,上記暴行により,同人に加療期間不明の右大腿部刺創等の傷害を負わせ,さらに,同所から東京都新宿区ef丁目g番h号所在のQビル付近まで同車を走行させて同人が同車から脱出するのを不能にして監禁し,引き続き,同
日午後11時30分ころ,同人をQビルi階事務所内に連行し,その後同事務所に現れたE,J,I,L,K及びRとも共謀の上,同所に見張りを立てるなどして,同月16日までの間,Mが同事務所等から脱出するのを不能にして,同人を不法に監禁し,
2
C,D,F,G及びHと共謀の上,O(当時34歳)を監禁しようと企て,同月14日午前零時ころ,本件事務所内において,同人に対し,その顔面を手拳で数回殴打し,後ろ手錠をかけるなどし,その後同事務所に現れたE,J,I,L,K及びRとも共謀の上,同所に見張りを立てるなどして,同月16日までの間,Oが同事務所から脱出するのを不能にして,同人を不法に監禁し,
3
C,D,F,G及びHと共謀の上,N(当時31歳)を逮捕し監禁しようと企て,同月14日未明ころ,C,G及びHが,東京都杉並区jk丁目l番m番付近路上に赴き,Nに対し,その背部等を金属バットで数回殴打し,足蹴にするなどして,同人を同所付近に停車中の自動車に押し込めた上,後ろ手錠をかけて,同人を不法に逮捕し,さらに,引き続き,同所からQビル付近まで同車を走行させて同人が同車から脱出するのを不能にして監禁した上,同日午前2時前ころ,同人を本件事務所内に連行し,その後同事務所に現れたE,J,I,L,K及びRとも共謀の上,同所に見張りを立てるなどして,同月16日までの間,Nが同事務所から脱出するのを不能にして,同人を不法に監禁し,
4
C,D,F,G,I及びHと共謀の上,P(当時22歳)を監禁しようと企て,同月15日午前4時前ころ,本件事務所内において,同人に対し,その顔面を手拳で数回殴打し,その両手首をひもで後ろ手に緊縛するなどの暴行を加え,その後同事務所に現れたEとも共謀の上,同所に見張りを立てるなどして,同月16日までの間,Pが同事務所から脱出するのを不能にして,同人を不法に監禁した。

第2

被告人両名は,D,F,G,H及びIと共謀の上,同月14日午前2時前ころから,本件事務所内において,Nに対し,こもごも,その顔面,胸部及び背
部等を多数回手拳で殴打し,足蹴にする暴行を加え,その後,C,E及びJとも共謀の上,同月16日未明ころまでの間,Nに対し,その顔面を手拳で殴打し,J及び被告人Bが,Nの背部に熱湯を掛け,被告人Aらが覚せい剤水溶液をNの身体に注射するなどの暴行を加え,よって,同人に背部熱傷等の傷害を負わせ,同日未明ころ,同所において,同人を熱傷性ショック等により死亡させた。
第3

被告人両名は,C,D及びEと共謀の上,同日午前11時ころから同日午後2時ころまでの間,本件事務所内において,被告人らの暴行により衰弱し後ろ手錠をかけられるなどしていたOに対し,同人の身体を寝袋にくるみ,布粘着テープをその口元や胸部等に巻き付けるなどの暴行を加え,よって,同日午後3時ころ,同所において,同人を胸部圧迫等による呼吸不全により死亡させた。
第4

被告人両名は,C,D及びEと共謀の上,Mを殺害しようと企て,同日午後4時ころ,本件事務所内において,C,D及びEが,Mの鼻口部を両手でふさぐなどし,よって,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害した。
第5

被告人両名は,C,D及びEと共謀の上,Pを殺害しようと企て,同日午後4時ころ,本件事務所内において,C,D及びEが,Pの鼻口部を両手でふさぐなどし,よって,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害した。
第6

被告人両名は,C,D,E,F,J,I及びSと共謀の上,N,O,M及びPの死体を遺棄しようと企て,同日午後8時過ぎころから同日午後11時ころにかけて,上記死体4体を普通貨物自動車に積載して,本件事務所から茨城県潮来市n字op番地q所在のT駐車場まで運搬し,さらに,U及びVらと上記死体4体を遺棄する旨の共謀を遂げ,上記駐車場において,上記死体4体をVらに引き渡し,Vらが,同月20日ころ,上記死体4体を同県東茨城郡r町st番地u及び同町st番v(当時の地名)の土中に埋没させて遺棄した。
第7

被告人Aは,E,W,X,Y,Z,A①,B①,C①,D①ほか数名と共に,債務処理等名下に金員を詐取し,利益を図ることを目的とする団体を形成して
いたものであり,同団体は,被告人Aの指揮命令に基づいて,宛名シールの入手,郵便はがきの購入,郵便はがきへの欺罔文言の印刷,同郵便はがきの郵送による欺罔,電話による欺罔,預金口座からの払戻し指示,詐取金の払戻し,払い戻された詐取金の回収及び詐取金の管理等の任務の分担があらかじめ定められた組織により,金員を詐取する団体であるが,被告人Aは,E,W,X,Y,Z,A①ほか数名と共謀の上,上記団体の活動として,上記組織により,別紙一覧表記載のとおり,E①ほか25名に電子消費料金等の債務がないのにこれあるように装い,同月4日ころから同年11月4日ころまでの間,前後26回にわたり,差出人を法務省認可法人F①又は法務省認可法人G①と称し,電子消費料金未納分なる債務がある旨記載した郵便はがきを大分県臼杵市wx番地のyE①方ほか25か所に郵送して同女らに閲覧させた上,同年10月4日から同年11月4日までの間,前後50回にわたり,同女らに対し,上記一覧表欺罔方法欄記載の方法により,同表欺罔文言要旨欄記載の虚構の事実を申し向け,同女らをして真実電子消費料金等の債務が存在し,その処理等のための費用が必要である旨誤信させ,よって,同年10月4日から同年11月4日までの間,前後62回にわたり,同女らをして,同県大分市za①丁目b①番c①号株式会社H①銀行I①支店ほか33か所から千葉県成田市d①町e①番地f①株式会社J①銀行K①支店に開設された被告人Aらが管理するL①名義の普通預金口座ほか16口座に現金合計4752万9740円を振り込ませ,もって,人を欺いて財物を交付させた。
第8

被告人Bは,平成17年6月15日午前6時40分ころ,東京都港区g①h①丁目i①番j①号所在のM①警察署k①階警務課留置場第l①留置室トイレ前において,同室者のN①(当時38歳)に対し,その顔面を手拳で数回殴打し,その左手首にかみ付くなどの暴行を加え,よって,同人に全治約1週間を要する左腕関節部咬傷,顔面・頭部打撲傷兼皮下出血,口腔内切創の傷害を負わせた。

(証拠の標目)
(省略)
(事実認定の補足説明)
(以下において,月日のみで記載するものは平成16年中のことを示し,日のみで記載するものは,平成16年10月中のことを示すものとする。

第1
1
傷害致死,殺人,死体遺棄,逮捕監禁致傷,逮捕監禁,監禁被告事件争点
上記事件について,本件争点の概略は,①O,M及びPに対する殺人の共謀の成否,②Nに対する逮捕についての被告人Bの共謀の成否,③Oに対する殺人罪の成否である。
そこで,まず,各争点に対する判断をする前提として,本件犯行に至る経緯,犯行状況及び犯行後の事情等の本件事件の一連の経過について検討を加えた上で,各争点について,当裁判所の認定した事実及びその理由を補足して説明する。

2
証拠上容易に認められる本件事件の経過等
前掲関係各証拠によれば,以下の各事実を認めることができる。
(1)

被告人両名と共犯者らとの関係
被告人Aについて
被告人Aと,D,F及びGは,同学年で中学生のころから親しく,友人関係にある。
被告人Aは,知人の紹介で,いわゆるヤミ金融の店で働いていたCと知り合い,Cが同店を辞めた後の平成14年ころ,Cが開業したヤミ金融の店で,Cの下で数か月間働いていた。
平成15年1月ころ,被告人Aは,Eと知り合い,同年5月ころには,広告関係の業務を中心とする株式会社O①を設立した。同年6月ころには,同会社にEを加えるとともに,音楽事業部を設け,Eをその音楽事業部の
部長としてCDの制作等を行うようになった。

被告人Bについて
被告人Bは,平成14年ころ,勤めていた風俗店の店長が暴力団組織の組長であったことから,その誘いを受けて同組織に加入し,同店で勤務していた際,被告人Aと知り合った。被告人Bは,平成15年12月ころ,上記暴力団組織を抜け出したが,その際,被告人Aから住居のあっせんを受けるなどの協力を得たことから,被告人Aに対して恩義を感じるようになった。

(2)

詐欺グループの概要等
融資保証金詐欺の開始
被告人Aは,同年10月ころ,多重債務者に対して架空の融資話を持ち掛けて保証金名下に金員を詐取するといういわゆる融資保証金詐欺を行うための事務所P①を設立し,Eを店長として,EやQ①らとともに同詐欺を開始し,その後,同事務所には被告人Aの誘いを受けて,G,I,L,D,F,被告人B及びJらが加わった。
被告人Aは,
(平成16年)3月ころまでには,事務所R①を新たに開設して,Iを店長に据え,
P①の店長にはQ①を据えて,Eは現場を離れて両事務所を統括する立場となり,被告人Aが中心となって,随時メンバーの所属を入れ替えるなどしながら,両事務所において同詐欺を行っていた。


架空請求詐欺が行われた状況等
5月ころ,被告人Aは,不特定多数の者に架空の債務があることを告げる内容のはがきを郵送するなどして金員を詐取するいわゆる架空請求詐欺の手口を知るや,S①に出資を持ち掛け,S①の開設した事務所において,店長の立場で,E及び被告人Bと共に同詐欺を行うようになった。その後の5月ころから6月ころに,Cは被告人Aから同詐欺の情報を得
て,事務所T①を立ち上げ,被告人Aの誘いにより被告人B,I,D,F及びGが同事務所に加わったほか,Cが,当時自己の経営していたカジノ店に勤務していたNを加入させ,同事務所において,被告人Bを店長として同詐欺を行うようになった。同事務所においては,被告人Aがマネージャー,Cがサブマネージャーという立場で,人件費等の経費を
差し引いた純利益を互いに折半して得ていた。F及びGは,その後S①の事務所に移った。なお,
T①の名称は,以後,
U①やV①な
どに変更されたが,その時期が明確でないため,以下では,便宜上すべてT①と記載する。
被告人Aは,6月ころ,
P①においても架空請求詐欺を開始し,E
を店長に据えた。同事務所において,純利益の約1割はC及びS①が取得し,残りはすべて被告人Aが取得していた。
さらに,被告人Aは,6月ころ,
T①の店長であった被告人Bが同
事務所を辞めたことから,同様に架空請求詐欺を行うための事務所W①を新たに設立した上,被告人Bをその店長にするとともにI,J及びHらを同事務所に加入させて同詐欺を開始し,純利益の約1割はC及びS①が取得し,残りはすべて被告人Aが取得していた。また,T①にお
いては,Dが新たに店長となり,その後,順次,O,M及びPらが同事務所に加入した。
なお,グループ内で,被告人Aは社長
,CはY①さん又はZ①さん
,DはA②さん
,Eは部長などと呼ばれていた。

架空請求詐欺の中止
8月下旬ころ,被告人Aは,警察の取締りが厳しくなるとの情報を得たことや,Cが傷害罪で逮捕されたことなどを契機として,各メンバーに呼びかけるなどして,上記T①P①及びW①において行って,
いた架空請求詐欺を中止させた。

(3)

Mの逮捕監禁に至る経緯
10月1日ころ,D,F,G及びIは,9月ころから連絡が取れず行方が
分からなくなっていたPを町中で偶然発見したことから,Pに対し,行方をくらました理由を問いただしたところ,Pは,中国人マフィアが被告人Aらを襲撃するという情報があったので,怖くなって逃げたなどと答えた。10月初旬ころ,被告人Aは,Eを通じて,Eの知人で暴力団組員であるC②から,被告人Aらを中国人マフィアがねらっているとの話があり,C②がその話を止めておいたなどと聞いた。
その後,Pから,O①が経営しているD②で再び働きたい旨の申し出があったことから,被告人A,C,D及びGはPと会って話を聞くこととし,12日夜,東京都新宿区内の居酒屋E②に集まった。同所において,Pが,中国人マフィアを使って,被告人A,C及びEを襲撃して現金を奪う計画があること及び同計画についてはMから聞いたことなどを話したことから,被告人Aらは,その真偽を確かめるため,Pを使ってMに対して電話をかけさせ,
E②に来るように伝えたものの,Mに来る気配がなかったことから,13日未明ころ,上記計画内容を聞き出すため,Mのマンションへ移動することとした。被告人Bは,13日午前4時ころ,被告人Aからの連絡を受け,同被告人らと途中で合流し,被告人A,同B,C,D,G及びPの6人は,上記マンション前に赴き,その後,被告人Bから連絡を受けたFも同所に到着した。被告人Bは,同所において,Pに対し,その身体を手で殴打する暴行を加えた。
被告人らは,同所において,Mを発見できなかったことから,東京都新宿区のm①通りにある被告人Bが以前使用していたマンションに移動し,その後,Hも同マンションに現れた。被告人Bは,同所において,Pに対し,計画内容等を追及しながら顔面を殴打するなどの暴行を加えた後,帰宅した。被告人Aらは,Pを使ってMに電話をかけさせていたところ,同日夕方こ
ろ,Pが計画内容を漏らした迷惑料を支払うとの口実で,千葉県方面でMと会う約束をさせることに成功したことから,Pと共にMに接触するため,千葉県方面へ向かうこととした。そこで,被告人Aは,Jに,ワンボックスタイプのレンタカー(以下,これをワンボックスカーという。
)を借りる
ように指示した上,H,P及びCとともにPの使用する自動車(以下,これをF②という。
)に乗車し,また,D,F及びGは金属バットなどを購
入した後,被告人Bと合流してワンボックスカーに乗車し,被告人らは,分乗して千葉県方面へ向かった。F②に乗車していた被告人Aらは,途中でPだけを残して,ワンボックスカーに乗車し,PにMとの連絡を取らせるなどして,待ち合わせ場所である千葉県船橋市内の路上に赴いた。
(4)

Mに対する逮捕監禁状況
被告人A及び同Bら7名は,13日午後10時20分ころ,Mが同人の使
用する普通乗用自動車(以下,これをG②という。)に乗車して前記路
上に停車しているのを発見するや,Gを残して6名で上記車両のもとへ駆け寄り,被告人AがMの身体を殴打し,CがG②の窓ガラスを金属バットでたたき割り,被告人Bが所携のナイフでMの右大腿部を突き刺すなどして,Mを車外に引きずり出した上,ワンボックスカーに押し込め,後ろ手錠をかけるなどして判示第1の1記載のとおり,Mを逮捕監禁した。
さらに,被告人らは,13日午後11時30分ころ,本件事務所にMを連行して同人に対する監禁を継続した。
(5)

Oに対する監禁状況
被告人Aらは,前記のとおり逮捕監禁したMから計画内容等を聞き出すた
めに,本件事務所に向かう途中の車内で,同人を追及したところ,同計画にO及びNが関与していることを知った。
そこで,被告人Aらは,まず,Oを呼び出した上で,計画内容等を聞き出すこととし,13日午後10時43分ころ,CがOに電話をかけ,仕事の話
があるなどという口実でOと会う約束をした上,Dと共に待ち合わせ場所へ赴いてOと接触し,14日午前零時ころ,Oを本件事務所内に連れてきた。そして,その場で被告人ら7名は,こもごもOの顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加えた上,後ろ手錠をかけるなどして判示第1の2記載のとおり,Oに対する監禁を開始した。
(6)

Nに対する逮捕監禁状況
被告人Aらは,Nも監禁することを決意し,Mに電話をかけさせてNの居
場所を確認するなどした上,14日未明ころ,CがNを逮捕することとなった。その際,Cは,被告人Aに対し,

H②ちゃん借りてくよ。

などと言って,被告人Bと共に行こうとしたが,被告人BがCの上記発言に対して文句を言うなどして断ったため,Cは,G及びHと共にNのもとに行くこととなった。
C,G及びHはワンボックスカーに乗車して東京新宿区n①町方面へ赴き,Mを通じて聞き出したNの居場所を,被告人Aから随時報告を受けるなどして確認し,Nを発見するや,CがNの背部等を金属バットで殴打し,GがNの下腿部を足蹴にする暴行を加えるなどして,Nをワンボックスカーに押し込めて,後ろ手錠をかけて逮捕監禁した上,本件事務所に連行して監禁を継続した。
Cは,上記N逮捕の際,Nの自宅の鍵を発見したことから,現金強奪計画に関する資料を探すためにNの自宅へ赴き,書類等を持ち出して,14日午前2時前後ころ,本件事務所に戻った。
(7)

その余の共犯者らの参集状況,Mらに対する暴行状況
前記のとおり,M,O及びN(以下Mら3名ともいう。
)を監禁した

後の14日午前2時前後ころ,被告人Aから連絡を受けたEと,被告人Bから連絡を受けたJがそれぞれ本件事務所に参集し,被告人AらからMらの立てていた襲撃計画を聞いて,監禁に加わった。

14日午前2時30分ころから同日午前4時ころまでの間,Cは,Oを引き取らせるため,Oの知人であり以前にOを紹介したI②に連絡を取り,被告人Aと共に待ち合わせるなどして,I②を本件事務所に連れてきたが,I②はOに声を掛けるなどした後,そのまますぐに退出した。その後,被告人Bから連絡を受けたIが,14日午前7時ころ,本件事務所に現れ,監禁に加わった(なお,被告人Bは,
I②の話が出るちょっと前くらいかI②が来た後に,被告人AとCが少し離れたところへ行って話していたので,『何でわざわざ2人でこそこそ話すんですか。』と言ったところ,Iもこれに同調する発言をした。などとI②が来た時間帯にIがその場にいたかのような趣旨の供述をしているが,関係者間における通話記録(以下,単に通話記録という。
)におけるCとI②及び被告人BとIと
の通話状況に照らせば,I②及びIが本件事務所に現れたのは,前記日時ころと優に認められる。。

被告人らは,14日未明ころから午前中にかけて,Mら3名に対し,襲撃計画の内容を聞き出すとともに私的制裁を加えるため,こもごも殴る蹴るなどの暴行を加えた。その際,被告人Aが,Oの頭部を包丁でたたくなどしたほか,被告人Bが,Nに対して,Cの持ち帰ったNのバッグの中にあったMDMAを飲ませ,J及び被告人BがNの背中に熱湯を掛ける暴行を加えた。また,EがNの背部の熱傷に対して,水泡をつぶしてにがりや水を掛けるなどした。
Nは,上記暴行を受ける中,中国人マフィアを使って被告人Aらを襲撃した上,殺害し,現金を奪うことを計画していたこと,被告人A,C及びEの3名のほかに,被告人B,D,F,G及びIも含めた8名を襲撃の対象としていたこと,上記8名の写った写真を中国人マフィアに渡していたこと,実際にCやDを襲撃する日を決めて実行しようとしたことが何度かあったこと,同計画にJ②なる人物が関与していることなどを供述させられた。
また,その間,R,L及びKも被告人らからの連絡を受けて本件事務所に参集し,監禁に加わった。
(8)

C②への調査依頼状況及びその後の被告人らの行動経過Eは,Nが襲撃計画の対象として8名の名前を挙げたことから,その真偽
を確かめるとともに計画阻止を依頼するため,その場にいた上記8名から本名を聞き出した上で,メモに記載し,14日未明ころ,そのメモを持参してC②に会い,計画の詳細の調査と計画阻止を依頼した後,再び本件事務所に戻った。これについて,被告人Bは,Eが先に8名の名前を出して確認を求めたことは,確認方法として不適切であるなどとEに文句を言った。被告人Bは,14日午前8時前後ころ,本件事務所を出て,当時の被告人Bの住居地であったマンションK②に帰宅し,Eも,14日午前ころ本件事務所を出て,Eの経営する会社の事務所へ行った。また,D及びGは,14日午後3時ころ本件事務所を出て,同日午後5時ころ,仕事上のミーティングに参加するなどした後,同日夜に本件事務所に戻った。
被告人Aは,14日午前ころ本件事務所を出て,O①の事務所や同被告人の経営していた飲食店L②などで過ごした後,同日夜,Kを介してC②と会う約束をして東京都新宿区内のM②ホテルにチェックインをし,15日未明ころ,C及びKとともに同ホテルの客室内でC②と対面した。その際,被告人Aらは,C②から,J②の名刺を示されるとともに,J②と話をつけて中国人の話を止めさせたなどと説明を受けた。また,Mらを監禁していることに話が及ぶや,C②は,o①(東京都豊島区)で起きた通り魔事件を例に挙げて,覚せい剤中毒にする方法を説明し,また,そのほかに釜で死体を焼却する方法もあるなどと話した。
被告人Bは,その間の14日夕方ころ,東京都新宿区p①町内で,警察への通報をしない病院の手配ができるかどうかを知人に確認するなどした後,15日午前1時ころ,本件事務所に戻った。

また,本件事務所にいたF,G,R及びHは,15日未明ころ,Mを本件事務所の外に連れ出してF②に乗せ,約1時間程度車内で監禁を継続しながら,Mに同人の妻へ無事を装わせる電話をかけさせるなどした後,本件事務所に連れ戻した。その後,F,G及びHは,15日午前2時20分ころ,薬局で軟膏などを購入し,GらがNの背中に軟膏を塗るなどの治療をした。その後,被告人A及びCは,本件事務所に戻り,本件事務所内にいた被告人B及びDらに対し,現金強奪計画が阻止された旨を告げた。
また,Eも,15日午前4時ころまでには本件事務所に戻った。
(9)

Pに対する監禁状況
被告人らは,Mらの供述により,Pも被告人Aらに関する情報を流すなど
して現金強奪計画に関与しており,報酬を得る約束もしていたことを知るや,15日未明ころ,Pを後ろ手に緊縛した上,被告人B及びDらが顔面を殴打するなどの暴行を加えて,Pを監禁した(なお,その監禁時期については被告人Aと各共犯者とで供述が異なっているので,後に検討する。。)
(10)

M②ホテルにおける謀議状況
被告人A,同B,C,D,E,F,I及びGの8名は,M②ホテルの客室
内に集まり,監禁しているMらの処遇について話し合った。その話し合い中の15日午前4時44分ころ,被告人EがC②に電話をかけ,死体を処分する方法があるのかなどと確認したところ,C②からその方法がある旨の回答が得られた。
(11)

M②ホテルにおける謀議後の被告人らの行動経過
被告人Bは,M②ホテルでの話し合いの後,G及びFと共に同ホテルを出
て,15日午前5時46分ころ,コンビニエンスストアで買い物をした後,本件事務所に戻った。また,D及びIもM②ホテルから本件事務所にそのまま戻った。
15日午前6時前後ころ,被告人A,C,E及びKは,東京都新宿区内の
N②O②とも考えられる(第6回公判期日における証人Cの証人(
尋問調書添付の図面)が,以下では,関係証拠の記載に従ってN②と表記する。
)でC②に会い,Mらの処遇に関して依頼をし,被告人AとEが現金を用意して,C②に5000万円を支払った。
被告人A及びCは,本件事務所に戻り,その場にいた者に

大丈夫だった。

などとC②への依頼が成功した旨を告げ,Eもこのころ,本件事務所に戻った。また,その前後ころ,被告人Bは,本件事務所を出て再びK②に帰宅した。
被告人Aらは,本件事務所内において,Mら4名(M,O,N及びPの4名をいう。以下同じ。
)に覚せい剤を注射し,頭をたたくなどした(この点
に関連して,被告人Bは,M②ホテルに移動する前に覚せい剤を注射したと述べるなど,被告人AやDらの供述と一部一致しないところがあるが,Mら4名の死体から覚せい剤の成分が検出されていることと,Eも,覚せい剤を注射した後,Mらの頭をたたいているのを見た旨供述していることからすると,M②ホテルでの話し合いの後にMらに対して覚せい剤を注射し,その頭をたたくなどした事実があったことは優に認められる。もっとも,被告人Bは,M②ホテルから本件事務所に戻った後,間もなく帰宅しており,同被告人やCらの供述に照らしても,被告人BがM②ホテルに移動する前に覚せい剤を注射し,M②ホテルでの話し合い後の覚せい剤注射には関与していなかった可能性もあながち否定できない。。

被告人Bは,帰宅後睡眠を取り,15日夕方ころ,東京都渋谷区にある歯科医院で受診するなどした後,同日夜に帰宅した。
被告人A及びCは,15日昼ころ,本件事務所を出て,I②らと東京都新宿区内のホテルP②
(以下Q②ホテルという。
)で仕事上の打合せ
などをした後,それぞれ別々に本件事務所に戻った。Eも15日昼ころ,本件事務所を出て,Eが経営していた会社事務所へ出勤し,同日夜,再び本件
事務所へ戻った。また,D及びGは,15日午後6時ないし午後7時ころ,東京都渋谷区q①町にあるD②の店の後片付けのために外出し,被告人Aも,同日午後7時過ぎころ,外出し,
L②2号店に出勤した。
Cは,15日午後10時51分ころ,Q②ホテルにチェックインをして,同ホテルの客室内で休憩を取り,その後,Eも同室に来て,共に休憩を取っていた。
(12)

Nの死亡状況及びQ②ホテル参集に至る経緯
16日未明ころ,本件事務所内で,それまでに受けた暴行により衰弱して
いたNに対し,Iがその頭部をハンガーで殴打する暴行を加えたところ,Nは,判示第2記載のとおり,熱傷性ショック等の影響により死亡した(なお,被告人らのNに対する暴行は,現金強奪計画の内容を聞き出した上,私的制裁を加える目的で行われたものであるから,監禁の手段たる暴行ではなく,判示第2記載のとおり,傷害致死罪が成立する。。

Fは,Nの死亡を知るや,16日午前2時44分ころ,被告人Aに対し,その旨報告した。Eは,被告人Aから,16日午前2時52分ころ,C②との話の進ちょく状況を確認するように促されたことから,同日午前2時59分ころ,C②に電話をかけたところ,C②から,そっちで殺して持ってくるようになどと言われた。そこで,Eは,被告人Aに対し,C②から言われた上記内容を報告した。その後,被告人Aは,被告人Bに対し,Nが死亡したことやQ②ホテルに移動することなどを告げ,Fに対しても,Q②ホテルに来るように伝えた。
なお,検察官は冒頭陳述等において,Fが被告人AにNが死亡した事実を報告したのは,同日午前4時ころであると主張するが,Sらの供述により,被告人Bが,Q②ホテルに到着する前にNが死亡した事実を被告人Aから電話で聞いて知っていたことが認められることと,通話記録に照らせば,上記の経過であったことは優に認められる。

(13)

Q②ホテルにおける参集状況等
16日午前4時ころ以降,C及びEのいるQ②ホテル客室に,被告人A,
F,D,被告人B及びHが順次参集した。
同客室内でEは,16日午前7時40分ころ,同日午前8時6分ころ及び同日午前9時2分ころにC②に電話をかけており,同日午前9時2分の通話の途中でC②との連絡役をCと交替した(なお,Eは同日午前9時2分の電話の際に交替したのではなく,Q②ホテルに被告人Aらが参集する前から既に交渉役をCに交替していた旨供述しているが,通話記録におけるC②との通話状況やCや被告人Aの供述等に照らし,明らかに不合理であって信用できない。。Cは,C②から粘着テープ(以下ガムテープともいう。)
)で
ぐるぐる巻きにして,何かに包み,人間だと分かりづらいような形にするように言われた。
Cは16日午前9時53分ころ,Q②ホテルにおいて,チェックアウトの手続をした。
(14)

G検挙状況及びその後の被告人らの行動経過
F及びGは,Pの使用車両であるF②を解体処分するために,各自自動車
を運転して東京都府中市方面へ向かって走行していたところ,16日午前10時25分ころ,同市内において,F②を運転していたGが警察官から職務質問を受け,その後,R②警察署及びS②警察署に任意同行され,大麻草を所持していたことから大麻取締法違反の被疑事実で逮捕された。
G運転車両に追従していたFは,16日午前10時30分ころ,本件事務所内にいた被告人Bに電話をかけ,Gが上記のとおり職務質問を受けたことを報告した。それを聞いた被告人Bが,Fに

Gが捕まった。

などと言ったために,本件事務所内にいた被告人A,C,D及びEも,Gが検挙されたことを知った。
その報告を受けた被告人Bは,被告人Aと共に本件事務所を出て,K②に
向かって移動した。その際,Cも被告人両名を追いかけて,いったん同事務所の外に出たが,被告人Bから同事務所にとどまるようにとの趣旨のことを言われたため,本件事務所に戻った。
被告人両名は,16日午前11時前後ころ,SとJがいたK②内に到着し,その後仮眠を取るなどした。また,Fも被告人Bからの連絡を受けて,16日午前ころ,同所に到着した。その後の16日午後零時52分ころ,SがUに電話をかけた。
Cは,その間の16日午前10時44分ころ,同日午後1時4分ころ及び同日午後2時3分ころに,それぞれC②に対して電話をかけて交渉を継続していたが,Mらの受け取りについての了承が得られず,C②から,受け取りの最低条件としてMらが騒いだり逃げ出したりできないように,Mらをガムテープでぐるぐる巻きにするようになどと言われていた。
(15)

Oの死亡状況
C,D及びEは,本件事務所内で,Nの死体と,O,M及びPの3名(以
下Pら3名ともいう。
)を寝袋に入れ,前記C②の指示に従ってガムテ
ープで顔や胸部等を巻いたところ,16日午後3時ころ,Oが死亡した。(16)

M,Pの殺害状況
16日午後3時16分ころ,Cは,C②に対し,Oが死亡したことや,仲
間の1人が検挙されたことを伝えたところ,C②は

もう一切引き受けられない。二度と電話するな。

などと言って交渉を打ち切り電話を切った。Cは,16日午後3時33分ころ,被告人Aに電話をかけ,C②との交渉が決裂した旨報告した。
C,D及びEは,16日午後4時ころ,M,Pの順に,Cにおいて,両名の口などを押さえ,D及びEにおいて両名の身体を押さえるなどして,判示第4及び第5記載のとおり,M及びPの両名を順次殺害した。
(17)

その後の被告人らの行動経過

被告人Aは,16日午後4時ころ,K②を出た後,同日午後6時ころまでには東京都渋谷区のs①に移動した。また,それまで仮眠を取っていた被告人Bは,16日午後5時ころに起きて,Jらから,被告人Aが外出したことなどを聞いた。
Sは,被告人Bから依頼されて,16日午後5時38分ころから同日午後5時49分ころにかけて,3回にわたり,Uに電話をし,死体1体の処理を依頼した。
(18)

死体遺棄状況等
被告人両名は,最終的には,UにMらの死体4体の処理を依頼することと
し,死体処理の手配ができたとの連絡を受けたC,E及びDは,上記死体4体をそれぞれ寝袋に入れるなどして梱包し,Iも含めた4名で本件事務所から運び出してレンタカー会社から借り受けた自動車内に積み込んだ。また,このころ,被告人Aは,Cに約5000万円を用意させ,S①からも5000万円を借り受けて,Eを通じて被告人Bにこれらの現金を預けた。その後,被告人B,C,D,E,I,F,J及びSはそれぞれ数台の自動車に分乗して上記死体4体を茨城県潮来市内まで運搬した上,16日午後11時ころ,被告人Bが,Uに対し,当初依頼していた死体が1体から4体に増えたことを説明した上,死体4体の処理を改めて依頼し,これを了承したU及びVに対し,上記のとおり被告人Bが被告人Aから預かった現金1億円を支払って,上記車両ごと上記死体4体を引き渡した。
その後,被告人Bらは,茨城県内の居酒屋T②で飲食した。その際,被告人Bは,その場にいた者に対し,少なくとも,Sがかかわったことを誰にも話さないようになどと口止めをした。また,その翌日の夜にも,被告人Bは,CやDらと東京都港区内の飲食店U②で飲食した。20日ころ,Uの指示を受けたVは,V②とともに,茨城県茨城郡小川町内の判示雑種地に穴を掘り,上記4名の死体を埋没させて遺棄した。
(19)

死体発見状況等
平成17年6月18日,前記死体遺棄現場の深さ約3メートルないし5メ
ートルの土中からMら4名の死体が発見されたが,いずれも高度に腐敗した状態であり,死体の解剖結果のみでは死因は不明であるとの鑑定結果が出された。また,4名の死体について,それぞれ覚せい剤成分の含有が認められた。
Mの死体は,両手に後ろ手錠をかけられた状態で頭部を除いて寝袋に入れられた上,頭部にはベージュ色,深緑色及び赤色の粘着テープを巻かれ,更にその上から頭部を含めた上半身に2枚目の寝袋を被せられた後,全身をベージュ色の粘着テープでぐるぐる巻きにされている状態であり,下半身は腐敗が進み,下腿部は分離している状態であった。
Oの死体は,両手に後ろ手錠をかけられ,顔面にはベージュ色,黒色,青色及び深緑色の粘着テープが巻かれ,胸腹部には青色テープが巻かれ,下腿部には青色テープが巻かれてひもで縛られた上,黄色テープが巻かれていた。さらに,頭部を除いて全身を寝袋に入れられた上,その上から上半身を赤色テープ,下半身を黄色テープでぐるぐる巻きにされていた。そして,2枚目の寝袋を頭部側から被せられた後,ベージュ色テープをミイラ状に巻かれ,下半身に3枚目の寝袋を被せられた状態であった。
Nの死体は,両手に後ろ手錠をかけられ,足先及び頭部からそれぞれ寝袋を被せられた上,その上から頭部に灰色テープ,下半身にT①色テープをぐるぐる巻きの状態で巻かれ,更に上半身に3枚目の寝袋を被せられた状態であった。
Pの死体は,両手,両足をひもで緊縛された状態で,頭部を除いて全身を寝袋に入れられ,頭部を青色,赤色及び黒色粘着テープで巻かれた後,頭部を含めた全身をベージュ色の粘着テープでミイラ状に何重にも巻かれており,更にその上から上半身に寝袋を被せた状態であった。

3
争いのある事件の経過等
(1)

事件の全体的な経過に関する被告人両名及びCの各供述の概要
被告人両名と本件各殺人の実行犯であるCらの各供述は全体的に異なる点
が多く,その信用性を検討する必要があるところ,まず,被告人両名とCの各供述について,相違点を中心に概要を俯瞰する。

被告人A
8人でM②ホテルに行く際には,Pはまだ監禁されていなかった。M②ホテルでは,監禁をうまく収束させるためにC②に相談しに行くことが決まっただけであった。その後,N②では,EとCがC②と話をしており,会話の内容は聞こえなかった。CとC②の話で5000万円を払うことになり,Cからお金を立て替えてほしいと頼まれたので,Eに預けていたお金と合わせて5000万円を用意し,C②に渡した。そのお金は,監禁の解決の依頼とそれまでの謝礼だと思った。その後,事務所に戻ってからPを監禁した。
Nの死亡を知り,Bに連絡したところ,BからNの死体処理をW②に頼むことを提案されたが,これを断った。
Q②ホテルでは,Bが,Cを責める発言をして,もう巻き込まないでくれということを言っており,Cもこれを了承したので,Cが自分の責任について自覚したということであり,Cが何かをしなければいけないということではなく,自分以外の人間には,この監禁にはもうかかわってもらわなくてもいいということだと思った。私は,今後のことについてはCに責任があり,自分は責任はないという気持ちだったが,Cを助けたいという気持ちは強く持っていた。
その後,Hと一緒に事務所に戻った後,Oらに罪をかぶって刑務所に行けるか尋ねたが断られた。CやEがC②と交渉を続けていたことは知らなかったが,Eが,C②の話が駄目そうだと言ってきたので,交渉をやめる
ように言った。
Bにかかってきた電話で,Gが捕まったと聞き,Gを助けようと思い,Bの後に続いて事務所を出たが,Cが責任を自覚したにもかかわらずDとEを置いて事務所を出てきてしまったので,BがCに戻るように言っていた。
その後,Gの捕まった現場に向かっていると思っていたが,BとK②に行くことになった。BからW②に頼めば1億円でNの死体を持って行ってもらえるんじゃないかと言われたが,これを断った。また,布団で寝るように言われたが,眠れず,Gが検挙されたときに持っていた包丁に自分の指紋が付いているはずなので,間違いなく捕まると思い,自首しようと考えており,Cにも,自分は捕まるので事務所を移動した方が良いと話した。その後,CからC②との交渉が決裂した旨の電話があり,C②との交渉をまだ継続していたことに驚き,これ以上大事になってもケツ持てないので,落ち着いて下さいということを言った。
C②からだまされたことを確信したため,暴力団組員のX②に頼んで中国人マフィアの動きを止めてもらおうと思い,避難するためにr①にあるY②ホテルへ向かったが,途中でCから被害者を殺害したとの電話があり,驚いた。Cから,

どうしよう,どうにかならないかな。

という話をされたので,Cを助けるため,Bに頼んで死体処理の話を進めることにした。イ
被告人B
M②ホテルでは,殺しを頼みに行くことになったのはわかったが,それが成功するなどとは思ってもおらず,Eらに関しては,何言っているのかなというのが正直な気持ちであり,何かが決まったという認識はなかった。私としては,自分がねらわれたわけでもないので,まず無理だろうけどねらわれた本人たちで勝手にやってくれという認識だった。
その後,事務所にいったん戻ってから,すぐに帰宅したが,翌日未明に
Aから電話があり,Nが死亡したことと,Z②会の相談役に頼んであることを聞き,Q②ホテルに来るように言われた。もうかかわるのはやめようと思っており,Jを家に避難させ,Hを呼んでQ②ホテルに行った。Q②ホテルでは,Cに対して,自分は関係ないから,もう今後一切こっちにケツを持ってこないでくれということを言い,Hにもかかわらないようにと言った。その後,Q②ホテルを出て,Aにもかかわらないようにしようと提案したところ,Iも誘っていこうということだったので,いったん事務所に戻り,Eらが戻ってくるのをしばらく待っていた。
Gが検挙されたとの電話を受け,それをきっかけに事務所から出ようと思い,Aに目で合図をしながら事務所を出たが,Cも出てきたので付いてこられるとまずいと思い,

あんたが何かあったときだけ,助けてくださいって言われたって,それは筋が通んないでしょう。

と言って,Cを残してAと一緒にタクシーに乗り,K②へ行った。
K②で,しばらく寝てから起きると,Aがいなくなっており,死体をばらばらにするのを手伝うようにAに言われたとJから聞き,Aを助けるため,Sを通じてUに死体1体を1億円で処理を頼めるかどうかを聞いた。その後,Cから残りの3名を殺害したと聞き,Aに電話をかけたところ,AからUに死体4体の処理を頼んでほしいと言われた。

C(E及びDも概ね同趣旨の供述をしている。

M②ホテルでは,Mら4名を殺すことと,殺害と死体処理をC②に依頼してみることが決まった。その後,N②でAがC②に,4名の殺害と死体処理を依頼し,C②が了解したのでAが5000万円を用意してC②に支払った。
Q②ホテルでは,Bから責め立てられ,Mら4名は全員Cグループの人間なので,Cが責任を取れと言われた。結局,C②の話が駄目になったら,

おまえが事務所に行って殺せよ。

という内容だった。
事務所でGが検挙されたとの話があったとき,Bから,

とにかくもうおまえらがやれ。

と殺害の命令を受け,事務所の外に出た後も,

おまえがやればいいんだ。

と言われ,Aも黙ってBと一緒に行ってしまった。その後,C②との交渉が決裂したため,その旨をAに報告したところ,Aから

あとはそっちで全部やってください。

と言われた。(2)

本件詐欺グループ内における被告人らの地位・立場について
被告人Aの地位
(ア)

検察官は,C及びDらを構成員とするグループ(以下Cグループという。)について,Cと被告人Aとの共同経営であったと主張し,
他方,被告人Aの弁護人は,被告人Aは,同グループの経営には関与しておらず,統括もしていなかったと主張する。
(イ)

この点に関する共犯者及び被告人両名の各供述の概要は以下のとお
りである。


Aから,

もうかる話があるんですよ。それに出資しませんか。

というふうな話があり,A社長の経営する詐欺グループに私が入ったという形になる。人を出すのはA社長で,私は400万円ぐらい出資して,A社長の下で働かないかというようなことを誘われた。具体的方法は,A社長が連れてきた人から教わり,私も社員として事務所で詐欺行為を行っていた。店長の利益率はA社長が決めており,そういった経費を払って残った純利益に関しては,その半分を私がもらい,残りの半分は経営者のA社長のところへ行くという話だった。
事務所の移転は,同じ事務所で長くやっていると,警察の摘発のおそれが高くなるので,そろそろ事務所を移ったほうがいいというA社長の指示によるものである。また,事務所の閉鎖の際は,私が逮捕されるというのは関係なく,詐欺に対する警察の摘発が厳しくなるとい
う情報がA社長のほうに入ったということで,A社長から,そろそろ事務所を閉鎖するという通告があったので,閉鎖は,経営者であるA社長の判断でされた。その指示によって,従業員の人間が片付けとかしたと思う。


T①の経営者はAとCであり,Aはマネージャー
,Cは
サブマネージャーと呼ばれていた。また,グループを解散するま
で純利益はいつも2等分に分けていた。事務所の閉店は,Aの指示によるものであり,Cが逮捕されたことが理由であった。



CとAがやっていたグループの店長に,Dがすえられたというイメージであった。また,CとAの上下関係は詐欺だけでいうと,Aのほうがちょっと上かもしれないが,昔世話になっていたとか,そういうところまで引っくるめると,Cのほうがちょっと上になるか,ほぼ同格だと思う。



Aから,Cが先輩だという話は聞いていたので,Cグループに関していえば,Cがトップというような認識はあったと思う。また,平成16年8月ころ,架空請求詐欺を一時中断したが,それはC,S①及びAの3人の指示によるものであった。


被告人A
S①グループで店長を務めていた際,Cに返そうと思っていた金額があったので,Cに対し,

S①には言わないので,やってもいいですよ。稼げる仕事なんで,もう迷惑掛けることはないから是非やってください。

と言ったところ,Cが詐欺グループを立ち上げた。初日から売上げがあり,Cから,

Aのほうで人も用意してくれているし,折半でやらないか。

という話を頂いた。Cグループは,Cがオーナー社長で,自分はマネージャーの立場だったが,
W①立ち上げ直
後の7月初旬ころ,Cグループを抜けた。

被告人B
Cグループは,AがS①に隠れて始めるということで,Aがその店に出るのがまずいから,店長をやってくれという話だった。お金はCが全部払っており,共同ではなく,Cが6で,Aが4ぐらいの関係であった。

(ウ)

各供述の検討及び認定事実
前記2の事件経過と上記各供述を踏まえて検討するに,事務所T①の開設にあたってCが全額を出資しながら,単に人を出したあるいはノウハウを提供したというだけで,その利益の半分を被告人Aに渡すことは考えがたい。また,Cが逮捕された後,同事務所において,他の事務所と同時期に架空請求詐欺を中止しており,その際,Dが中止を決定したともうかがえないことからすると,被告人Aが他の事務所と共にCグループの解散を指示したことは明らかであり,解散時において,Cグループの経営に対する被告人Aの関与が全くなかったとは考えがたい。そうすると,Cグループにおける被告人AとCとの上下関係は必ずしもはっきりせず,対等の関係であったかどうかは定かではないものの,少なくとも解散時におけるまで,被告人Aは,店長よりも上の立場で,Cグループの経営に関与していたというべきである。

被告人Bの地位
(ア)

検察官は,被告人Bが,暴力団構成員としての経歴や粗暴性を活か
し,グループ内で強い発言力を有していたと主張し,他方,被告人Bの弁護人は,被告人BがCやEよりも下の立場にあったと主張する。(イ)

前記2で認められる本件詐欺グループの状況にかんがみれば,被告
人Bは,CやEよりも,グループにおける地位としては,下位に位置していたということができるが,前掲関係各証拠によれば,本件事件前にEらに暴力を加えたことや,暴力団関係者からの電話対応のトラブルを解決したことがあったことなどの事情が認められることに加え,前記2(6)認定のとおり,本件事件中にも,CからNの逮捕に一緒に行くように言われた際にこれを拒否する発言をしていること,本件に至るまでの経緯や本件の一連の経過にかんがみても,被告人Aが被告人Bを相当程度信頼していたと認められることなどを総合すると,被告人Bは,CやEに指示をする立場にあったとはいえないものの,少なくとも被告人A以外の指示を受けることはなく,被告人Aの信頼も得て相当程度の発言力も有していたと認められる。
(3)

被告人らがMら4名から聞き出した計画内容について
被告人らがMらから聞き出した計画内容は,Mらが中国人マフィアを使っ
て被告人Aらを襲撃して殺害し,現金を強奪するというものであったことは,被告人らの供述により明らかであるが,Mらがねらっていた対象者について,供述が異なっているので,その点について検討する。

共犯者及び被告人両名の各供述の概要は以下のとおりである。
(ア)


最初は,私とA,Eの3人をねらっており,その他はわからないとい
う状況だったが,Nに対して,誰をねらっていたかを追及したところ,Nが,1人ずつ名前を出して8人の名前を挙げ,Mもそれに対してそうですよと認めた。また,具体的に写真を渡していることも判明し,その写真に実際にその8人が写っていた。さらに,写真の中に写っているEの彼女や,私の妻,子供も含めて全員を殺すという具体的なことまで出た。その後,Eがねらわれていたグループのメンバー8名の名前を書いたメモをC②のところへ持っていき,事務所に戻ってきてからEが,

C②にメモを見せて確認したら,メンバー全員がねらわれていると言っていた。

と報告をした。(イ)


ねらわれていたのはA,C,Eの3人という話で,Nから話を聞いて
いくうちに,私,G,F,I,Bも含めた8人がねらわれているとわかった。そのころEが事務所に来て,事実確認のために事務所を出て行き,戻ってきたときに,Aの写真がばらまかれていたりとか,事実確認が本当だったということが分かり,自分たちの名前も書いて止めてもらおうということで,名前を書いた紙をまた持っていった。その答えはすぐには出ず,多分その日の夜くらいに,あの件は止めたから大丈夫だ,という話を聞いたと思う。
(なお,反対尋問において,Dは,
Eが最初に確認に行ったときは,3人の名前しか挙がってなかったのではないかと思う。戻ってきたときに,Aの行きつけのところに写真がばらまかれていて,3人に関しては,中国人マフィアの動きを止めてもらったということを言っていたと思う。その後,Nの話から3人以外にもねらわれているというのが発覚したので,Eが名前を書いた紙を持って,残りの5人についてもねらわれているかどうかの確認と,もしねらわれていたら止めてもらうことを頼みに行った。MとOは共に,3人しかねらってないということを言い張っていた。などと供述を変転させている。)
(ウ)


監禁に加わった直後ころ,ねらわれている可能性のあるメンバーの名
前を書いて,C②に会いに行き,それを渡して,ねらわれていたら止めてほしいというような内容でお願いした覚えはある。ねらわれているか確認してくださいというよりは,この名前がねらわれていたら止めてくださいというお願いだったと思う。また,写真に写っていた8人の名前
を書いたことは間違いないが,ほかにも名前を書いていたかどうかまでは分からない。C②からその結果について報告を受けた覚えはなく,Aたちに対して,8人がねらわれていたという報告はしていないと思う。(エ)


私が,Nに暴行しながら,だれだれもねらってただろう,などと追及
したところ,M②ホテルに集まった8人の名前が出てきた。MやOが,8人の名前を出したかどうかははっきりしない。OやMが,やっぱり8人をねらっていたと述べた記憶はなく,Pも,その8人をねらったと述べてはいないと思う。また,写真の話が出たのが,Nに聞く前だったか,後だったかというのもはっきりしない。
(オ)


最初名前が出ていたのは,AとC,Eで,最終的にはNの口から七,
八人の名前が出てきた。C,E,D,A,B,F,G,Jだったと思う。Eが,確認しに行ったかどうかというのは分からない。
(カ)


事務所に来たころ,自分もねらわれている対象に入っているんだとい
う話を聞かされた。その後,Mらから,殺害計画の内容について順次聞いていったが,誰から聞いたか覚えていないが,ねらわれていたターゲットの中に,Bは入っていなかった。Bがねらわれていなかったことについて,不良だと相手が思ったんじゃないかという話をだれかとした記憶がある。また捜査段階の最初から,一貫して,当初からねらわれていた人間は7人だったということをずっと言っている。集合写真を相手方に渡したんだという話は聞いた。また,一番最初に,AかDのどっちかをねらうとかいう話をだれかが言っており,D辺りをつっつけば,あとみんな簡単にすぐさらえるだろうと思ったんじゃないか,みたいな話を自分たちで話した記憶がある。

(キ)

被告人A
襲撃の対象とされたのは,当初は3人と聞いていたが,FからNの話
した内容として,B,D,I,G,Fの名前が出たと聞いた。また,Nは,私たちのことを調査するために,Cの結婚式の写真を使っていたということや,Dを一番最初にさらうというような話もしていたので,Dは本当だろうと思ったが,ほかの人間については,お金も持ってないし,襲撃したところで何のメリットもないだろうということで,私は信用しなかった。その後,Eが,8人の名前を書いた紙を持って,C②に会いに行き,戻ってきて,ねらわれていたのが8人だったということと,J②の件は止めてもらうようにお願いしたということを言っていた。その際,Eが,先にメモをC②に見せて確認を求めたと言っており,それに対して,Bが,先にメモを見せてというのはおかしいだろうと言っていたのを聞いて,私も確かにそのとおりだなと思い,この時点で,この8人がねらわれていたのかどうか,確信するには至らなかった。
(ク)

被告人B
写真を持ってAが通っていた美容室などを調べに行っていたという話
が出たので,Nに対し,写真に出てくる人間をねらっていたのかどうか問いかけていたが,Nは,MDMAが効いている状態で,はっきりとはいとかいいえとか,だれだれをねらっていたというのは言わず,首を振って答えていた。そこで,半信半疑ながらもAら以外の5人を聞いていくと,自分のところでは,Nがうんもいいえも言わないので,MとOに,

何でおれだけねらってねえんだよ。

と言ったら,ほかの人間もねらってないですよみたいなことを言っており,だれかに

現役の不良だと思われてたんじゃないですか。

と言われた。その後,Mが,当初はねらっていた人数がいっぱいいたが,人数が多過ぎて絞りきれないため,お金を持っている3人に絞ったということを
言っていた。また,

店長はお世話になっているんで,ターゲットに入ってないですよ。

などと,私については当初からねらっていなかったということを言っていた。結局,ねらわれていたのは,A,C,Eの3人か,それにDを含めた4人という話だった。

各供述の検討及び認定事実
上記各供述を検討するに,被告人らが,Nから,ねらっていた対象として,被告人A,E,C,D,被告人B,F,G及びIの8名の名前を聞いたこと,その情報を基に,Eが8名の名前を書いたメモを持ってC②に会いに行き,事務所に戻った後,その場にいた者に,8名がねらわれていた旨告げたことについては,各供述はほぼ一致しており,内容に特段不自然なところもないので,十分信用でき,上記事実が認められる(Hは,Jの名前を挙げているが記憶違いの可能性が高い。。

他方,I及び被告人Bは,被告人Bがねらわれていなかったとの話を聞いた旨供述している。Iの供述は,不良だと思ったのではないかと話をしたなど,内容が具体性に富んだものである上,捜査段階から一貫して上記供述をしていることもうかがえる。この点に加えて,前記アの他の者の供述によってもN以外が8人の名前を挙げていたとは認めがたいこと,被告人らは,14日午前2時前後ころにCがNの自宅から持ち帰った書類等を基に,Nを追及していたことからすると,Iが本件事務所に来た同日午前7時ころまでには既に計画内容をひととおり聞き出していた可能性が高いこと,Eが上記確認のために外出するなどの出入りがあったほか,仮眠を取っていた者もいた可能性があることなどをも考慮すると,I及び被告人Bとそれ以外の者との間で,認識にくいちがいが生じた可能性も否定できないのであるから,上記I及び被告人Bの供述の信用性を直ちに否定することはできない。
そして,被告人Bが,Q②ホテルでCらに対して,

ねらわれたのはお前だろ。

などと発言した可能性が高いことなどに照らしても,被告人Bが,M②ホテルに移動する時点において,自分はねらわれていなかったとの認識を有していた可能性は否定できないというべきである。
(4)

M②ホテルでの謀議及びその前後の被告人らの行動状況についてPの監禁時期
C,D,E及び被告人Bは,Pが監禁されたのはM②ホテルに移動する前であった旨明確に供述し,Fも上記移動前であったと思う旨述べているところ,殊にEは,Pが監禁された際には,事務所におらず,M②ホテルに移動する前である15日未明ころに事務所に戻ると,既にPが監禁されていたと供述し,他の場面と記憶が混同していることはうかがえないのであって,Cらの供述と一致していることも考慮すると,その信用性は高いというべきである。
これに対し,被告人Aは,

M②ホテルでC②に会った後,本件事務所に戻った際に,同事務所内にEがいた。Pを監禁したのは,M②ホテルでの話し合い後であった。

旨供述し,Hも

M②ホテルに他の者が行っている間,Pと一緒にNらに水を飲ませてあげていたので,Pはまだ監禁されていなかったと思う。

旨供述し,F及びDも

Nに対する治療行為についてEも加わっていた。

などとFらが軟膏などを購入した15日午前2時20分ころより後の時間帯にEが本件事務所内にいたかのような趣旨の供述をしている。しかしながら,D自身がNへの治療行為をPが手伝ったことがあったことを認めつつも,Nへの治療行為は何回かあったと供述していることを始め,前掲関係各証拠によれば,Nに対する治療行為は,Fらが軟膏などを購入する前に,EがNの服を切って,背中に水をかけた行為も含め,1回だけではなかったと認められる。そして,Eが自己の明瞭な記憶として,上記時間帯に事務所にいなかったことを供述していることに比し,これに反する内容の上記各供述は,前後関係について相互に一
致しているものでもなく,他の場面の記憶と混同している可能性が高いのであって,信用しがたい。
したがって,Pの監禁時期は,M②ホテルに移動する前である15日午前4時前ころであったと認められる。

M②ホテルでの謀議内容及びN②における依頼状況(ア)

M②ホテルにおける謀議の全体的な経過について,共犯者及び被告
人両名の各供述を比較して検討するに,事務所内で,被告人Aらが集まって会話をしていた際,EがMらについて

殺すということですか。

という趣旨の発言をし,それを契機に,M②ホテルに移動したこと,同ホテル客室内において,Mらに対して覚せい剤を注射する案のほか,まぐろ漁船に乗せる,たこ部屋に入れるなどといった種々の案が出されたがいずれも否定され,その後,Eが,殺害を提案する発言をしたこと,それに対して,被告人Bが死体の処理はどうするんだとの発言をしたこと,それを受けて,Eが,死体を焼却処分する方法があると知り合いから聞いたなどと言って,電話をかけ,被告人両名らに

大丈夫そうです。

などと言ったこと,その後,被告人Bが

殺しは,堅気のやることではない。

という趣旨の発言をしたこと,最終的にC②へ相談をしに行くことになり,話し合いが終わったこと,その際,被告人Aが話し合いの内容について口外しないようにとの口止めをし,被告人Bもこれを念押しするような発言をしたことなどについては,被告人両名が一部これに反するかのような供述をする部分もないではないが,基本的に各供述内容は概ね一致しており,その内容にも特段不自然,不合理な点はなく,前記2で認められる前後の状況とも整合しており,その限度では上記の内容の事実を認めることができる。
そこで,それを前提として,さらに具体的な謀議内容についての供述の信用性を検討する。

(イ)

M②ホテルにおける具体的な謀議内容及びN②における依頼状況に
関する共犯者及び被告人両名の各供述の概要は,以下のとおりである。a

Eが,

もうやるしかないでしょう。

と殺すという意味のことを言ったのに対して,Bが

やる,やるって簡単に言うけど,死体の処理とかはどうするんだ。

と言い,結局,殺すのはいいけれどもばれないように死体を隠すにはどうするんだという趣旨で話が動いた。Eが電話をして,大丈夫だと言った後,

殺すのはここにいる8人のやることではないだろう。そこまでできない。

というような話がBから出て,全体の流れとして,やくざであるC②に殺すことも頼んでみようという流れになり,Aが,全員に挙手を求め,一人一人指をさして,8名全員の賛成でそれが決まった。その後,Aが,

今回のこのことを口外したり裏切ったりしたら,そいつは家族ごとぶっ殺すからな。

と口止めをした。結局,話し合いの結論は,4人を殺すこと,殺害や死体の処理をC②に相談してみるということ,この8人での決定はもう変更できないということ,裏切り者が出たら家族ごと殺すということの4つであった。
N②では,C②の左隣にAが,C②の右隣にEが座り,Aの左隣に私が座って話をし,Aが,4人の殺害と死体の処理を頼んでいた。C②は,

うちの組はそういう専門の人も今いるんで,任せてくれたら大丈夫ですよ。ただ,人を使うのでお金も掛かりますよ。

と言い,Aが,

幾らぐらい掛かりますか。

と聞くと,C②は,

1人1000万ぐらいは掛かるので,4人で4000万ぐらいですよ。

と言っていた。Aが,

中国人マフィアを止めてくれたお礼とC②さんの手間賃とかも含めて,全部合わせて5000万でお願いしてもいいですか。

ということで,C②に対して4人の殺害と死体の処理を頼み,
AとEが,お金を取りに行った。Aは

自分でお金を取りに行ってくる。

と言っており,Eに対して,

預けているお金持ってきて。

とも言っていたので,EとAが持ってきたお金は,両方ともAのお金だと思った。


Bから

部長はどう思うんだ。

と言われ,それまでの話し合いの流れで,もう既にほぼ殺すような話になっていたので,

殺すしかないんじゃないですか。

と答えたところ,Bから,

殺すはいいが,死体はどうするんだ。

という趣旨のことを言われた。死体の処理の話が本当にあるのかどうかC②に確認した後,具体的にどうやって殺すのかというような話になり,最終的に,Bが

殺しもやくざにやってもらったらどうだ。

というようなことを言ったと思う。その後,Aが,実際にC②のほうで殺害や死体の処理をやってもらえるのであれば,被害者らを殺害する方向でいいかという多数決を採り,全員が手を挙げた。M②ホテルでの集まりで決まったのは,殺害だけでなく,保険として覚せい剤を打って頭をたたいて廃人にするという話でもあった。話し合いの終わりに口止めされ,Iが,
兄貴が一番心配なんだよと言われていたのは覚えている。
N②では,C②の右隣に私が座り,私の右側にA,Cの順に座った。私が,CとAをC②に紹介した後,

実は殺害までお願いしたいみたいな話になっているんですけれども,殺害までやってもらえるものなんですか。

とC②に聞いたところ,C②から

そういうのもやってますよ。

と言われたので,恐らくそこで私がAと席を替わり,AとC②が話し始めたと思う。AとC②の話はあまり聞こえてこなかったが,その後,Aから,

じゃあ,5000万円,E君のほうで用意できる。

と言われ,その話はやはり殺害の依頼で,もうお金を払うこ
とまでまとまったのだと分かった。


Bから多分Eに,
どうする。」みたいな形で振られ,Eが

消すしかないでしょう。

と言うと,Bが,

消すといったって,どうやってやったり処分したりするんだ。

と言っていた。Eをたしなめているというより,いったいどうやってやるんだという趣旨の言葉だったと思う。それに対して,Eが,

知り合いがいるんで,ちょっと当たってみます。

と言って電話で確認し,その結果をAのほうに

大丈夫みたいですよ。

という形で報告した。Aは,

じゃあすべて任せるでいいな。ほかに意見があるやつは言ってくれ。

と言った後,みんなに目をつぶらせて,いいやつは挙手をしてくれということで挙手をさせ,殺害と死体遺棄を含めて,Mらの処分をすべてC②に任せる依頼をすることが決まった。その後,Aが,

このことを口外したり裏切ったやつは家族ごと消すから分かったか。兄貴(Iを指す。,)おまえが一番心配なんだよ,大丈夫なのかよ。

と言い,Bも,

社長,任せてください。それは自分が真っ先にやりますから大丈夫ですよ。

みたいなことを言っていた。


だれが言い出したかはっきりしないが,やるしかないというような話が出て,殺害するしかないというような話になっていったと思う。それに対して,死体はどうするんだというような話が出ていた。Eが知り合いの暴力団の人に遺体の処理を頼む電話をかけ,大丈夫そうですというような話を,Aや自分たちにしていた。M②ホテルでは,暴力団関係者に殺害と死体の処理などをお願いするという話でまとまっていると思うが,挙手を求められた記憶はなく,挙手を求められたかどうかはっきりしない。その後,だれにも言うなという話が出て,I
が,

兄貴は一番やばいんだから,大丈夫か。

と言われていた。e

シャブ漬けが却下された後にEが,

4人を消してしまったほうが安心できる。

というふうに言った。それに対して,たしかBが,

消すといってもどうやってやるんだ。

と聞き返し,Eが

知り合いに相談してみます。

と言って電話をかけ,電話で数十分話した後,Aに,

任せるの,大丈夫みたいです。

という形で報告した。Bが,

そんなことは堅気のやることじゃない。

という趣旨のことを言ったかもしれないが,はっきり覚えていない。Aが,

全部やくざに任せる方向でいいか。

ということで,1人ずつ顔を見て確認し,殺害と死体遺棄を頼むことが決まった。Aは,

このことをしゃべったら殺す。

と言い,Iに対して,

目が泳いでいる,大丈夫か。

と言って,Iが

大丈夫です。

と答えた。その後にBが,

いや,もしこいつがしゃべったら,おれがやりますよ。

みたいな形でIに圧力を掛けた。


被告人A
Eが,

殺したほうが安心じゃないか。

と言い,Bが,それに対して

消すったって,死体どうすんだよ。

とばかにしたような言い方をしたら,Eがむっとしたように,

いや,知り合いで,窯で焼却すれば,死体,跡形もなくできると言ってたんですよ。

ということを言った。それで,私が,

えっ,それって,何,C②さんの話。

と言って,Cと一緒に苦笑いして,それはないよねというやり取りをしたら,Eが,

本当ですよ,ちょっとじゃあ電話します。

と言って電話をしていた。
Eが,電話をした後,

大丈夫そうです。何とかなりそうだけど,会って話をしようということを言われた。

と勝ち誇ったように言っ
ており,Bが,

おまえ,でも,殺しは堅気のやることじゃねえだろう。

と,おまえ本当あほだなみたいな感じの言い方をしたところ,Cが,

まあとにかくC②さんのほうに相談してみようよ。

と私に言ってきたので,私がみんなに対して,

じゃあとにかくこっちのほうで話をしてくるから。ここで出た話というのは,先方にも迷惑掛かることだし,言わないようにしようよ。

と言った。その後,Kから連絡があり,

C②さんが会ってくれる。Jで予約取ってあるから来てよ。

ということを言われたので,私が,

じゃあ,ちょっともうこっちで話をしてくるから。

と言ったら,みんなが部屋を出ていったという流れだったので,M②ホテルでの話し合いで何かが決まったということはない。
監禁をうまく収束してもらうということを相談するため,N②でC②に会い,私の右隣にE,Eの右隣にC②,Eの正面にCが座ってEとCがC②と話をしていた。初めはEで,その後Cが主に話をしていたが,話は聞いていなかったので,話の内容は分からなかった。その後,EとCが同時に頭を下げたので,何だろうなと思い,そこから話を聞くようにしたら,C②が,

分かりました。ただ,今回の話というのは,先方もある話ですし,私が一存で決められる話でもありませんので,取りあえず先立つものとして。

と言った後に左手を上にぱっと広げてぱあを出して,

これだけ取りあえずいいですか。

ということを言っていた。すると,Cが,

えっ,5000万ですか。


とちょっとびっくりしたような言い方をして,私としては,500万とか50万じゃないのかなと思ったが,C②も,

うん,まあ,そうです。

みたいな,どもったような言い方をしていたので,ちょっとこれ違うんじゃないかなという感じを受けたが,Cから

今,トランクルームに金を置いてあるんだけど,時間がまだ早くて取りに行けないから,ちょっとAのほうで出しといてくれないかな。

と言われ,Eに,預けてあるお金が幾らあるかを聞くと,2000万円ちょっとぐらいということだったので,残りの3000万円は私のほうで取りに行くということを言った。

被告人B
Eが,

もうやるしかないでしょ。

と言い始め,私は,またいつものEの無知な発言なのかなと思ったので,

やるやるって簡単に言っているけど,やった後,死体の処理とかどうすんの。あんた,そこまで考えて物事言っているの。

というようなことを言ったら,Eが突然,

いや,自分の知り合いの不良が,窯か何かで焼くと死体を消すようなことができる。

みたいなことを言い出した。その後,Eが,AかCと話していて,

電話で聞いてみてよ。

みたいな感じになり,Eが電話をした後,

大丈夫そうです。

と言い,Aが,

どうしよう。

と言ったので,ちょっとまずいだろうと思い,

死体の処理があっても,だれがやるの。殺しはまずいだろう。殺しなんて堅気のやることじゃないだろう。

ということを言った。それに対して,Cが出てきて,

死体のほうができるんだったら殺しも頼んでみたら。

と言い出し,A,C,Eで何かしゃべっていて,取りあえず頼んでみようみたいな感じになり,Aが

話してきて,その結果によってはどうなるか分からないけど,それでいい。

ということを言って,誰も反論せず,そのまま解散しており,多数決などは採っていない。また,Iに,

兄貴が一番危ないんだよ。

と話したのは覚えているが,それが何だったのかは覚えていない。

(ウ)

検討
C,E及びDについては,弁護人も指摘するとおり,殺人の実行犯という立場から被告人らに不利な供述をする動機が十分認められ,現
にCは,話し合いの時点で,既に4人を殺害することが確定的に決まったなどと他の者と異なる供述をしていることも考慮すると,各供述の信用性は,慎重な判断を要するというべきである。
そこで,上記各供述についてみるに,被告人Aを除く共犯者及び被告人Bの各供述は,いずれもEの知り合いの暴力団関係者にMらの殺害と死体処理の依頼をすることになったという点で概ね一致しているところ,殺害の実行犯ではないF及びGが,殺害や死体処理を依頼することに反対せず,これを同意したと供述する内容は,Mらの殺害について自らにも責任の一端があることを認める内容ともいうことができ,被告人Aとの関係に照らしても,あえてそのような内容の虚偽供述をする理由は見出しがたい。また,Mらが重篤な傷害を負い,被告人両名を含む全員が,事件が発覚しないような解決策を講じる必要があるとの認識の下,覚せい剤を注射する等の案が退けられ,有効な解決策が見出されない状況において,Eが,Mらの殺害を提案し,死体の処理方法があると言って確認の電話をして,大丈夫との回答が得られた後に,その電話の相手方に殺害と死体処理を依頼することが決まったというのは,その経緯に照らして,合理的であり,その後,被告人A,E及びCが電話の相手方であるC②に会い,現金5000万円を払っていることや,その後のC②との交渉経過とも整合している。また,被告人Bも,話し合いの過程で,上記殺害及び死体処理を頼むとの話が出たことについては認める供述をしているのであって,前記のとおり,C,E及びDの各供述については,その信用性の判断は慎重を期すべきであるが,Eの知り合いの暴力団関係者にMらの殺害と死体処理の依頼をすることが決まったとの上記内容に一致する限度ではその信用性を否定する理由はなく,上記各供述と相互にその信用性を補強し合っている関係にあるから,その信用性は高い。

また,上記結論について被告人Aがその場にいた者の確認を取り,口外しないようにとの口止めをしたかどうかについて,C,E及びDは,挙手をさせて確認したと供述し,Gは挙手ではなく1人ずつ確認したと供述し,Fははっきりしないと供述するなど,必ずしも供述が一致しているとはいえない上,Cらが,上記結論に至る経緯として,被告人Aが主導したことを強調するために挙手を求められたとの虚偽の供述をする動機がないわけではない。しかしながら,その後口止めがあったことについては,供述が一致するなど,その信用性は高いのであり,そのような口止めをする前提として,話し合いの結論についての確認があったという内容は合理的であり,確認方法についての不一致があることや,Fがはっきりしないと供述していることを考慮しても,被告人Aがその場にいた者の確認を求め,それについて口止めをしたとの事実を認める限度ではその信用性は十分である。
さらに,その後のN②での依頼内容について,C及びEは,いずれも被告人Aが中心となってC②に殺害と死体処理を依頼した旨供述している。かかる依頼内容は,上記のとおり,M②ホテルにおける話し合いの結論と符合する上,その場で5000万円もの多額の現金を支払っていることや,その後のC②との交渉経過とも整合していて信用性が高い。また,被告人Aが中心となってその依頼をしたとの点に関しては,C及びEが自らの関与の程度を矮小化して虚偽の供述を述べる動機がないわけではないが,上記のとおり,M②ホテルでの話し合いにおいて,被告人Aが,Mらの処遇に関して他の者の意見を求め,最終的に,C②に殺害と死体の処理を依頼することについてその場にいた者の確認を取った上,それについて口外しないようにとの発言をするなど話し合いにおける中心的な役割を果たしていたことと整合する上,被告人Aのグループ内における地位や,逮捕監禁等を主導的に
行い,M②ホテルでC②に直接会うなど,それまで終始中心的な立場で本件事件に関与していたこととも整合している(5000万円を支出したことについて,被告人Bが,Cではなく被告人Aに対して批判的な発言をしていることとも整合する。
)のであって,この点につい
ての信用性も十分認められる。
なお,弁護人も指摘するとおり,各供述には,具体的な発言内容等を含め,細部にはくい違いもみられるところであるが,どのような経過でどのような結論が決まったかについては覚えていても,その具体的な発言内容等についてまで正確に記憶していないことはその供述時期からしてもやむを得ないというべきであり,また,部分的に自己の責任を低く見せるために自己に有利に事実を解釈して供述している部分があることはむしろ通常見られることであるといえ,弁護人の指摘するようなくい違いがあることをもって,前記各供述の信用性が否定されるものとはいえない。
また,N②における依頼状況についての上記C及びEの各供述についても,各人の着席位置に関して供述がくい違っているが,他の者が着席していた位置についてまで常に正確に記憶しているとは通常いいがたく,記憶違いによる供述のくい違いがあることは何ら不自然ではない。むしろ,自分と話の相手方であるC②や主に話をしていたという被告人Aとの相対的な距離関係を中心に記憶することは十分あり得ることであって,かかる観点からすれば,被告人AがC②の隣に座って話をしていたという点で一致しているということもできるのであり,上記の点に不一致が見られるからといって,C②への依頼状況及び依頼内容に関する供述の信用性を左右するものとはいえない。

他方,上記のとおり,被告人Aは,M②ホテルでは何も決まっておらず,CがとにかくC②に相談してみようと言って話し合いは終わり,
その後,C②に会ってCが監禁の収束をC②に依頼した旨供述する。しかしながら,死体の処分方法についてEがC②に電話で確認し,大丈夫であるとの回答が得られた後,実際にC②に会い,現金5000万円を支払ったという経過に照らせば,死体の処理方法があるとの返答をしたC②が,N②において,Eらに対して,それを前提とした話をしないというのは考えがたく,その後,単に監禁の収束などという抽象的な依頼のために5000万円もの多額の金額を支払ったというのは極めて不合理であるというほかない。また,かかる状況において,被告人Aが,C②との話し合いをCらに任せ,Cが5000万円との金額を口にしてもなお,単に監禁の収束などという抽象的な依頼をしたにすぎないとの認識であったというのも信用しがたい。これらの点に加えて,被告人Aには,自己の刑責を免れるために殺害を依頼することが決定してはいなかったという内容の虚偽供述をする動機が十分認められることにも照らせば,被告人Aの上記公判供述は到底信用することができないというべきである。
また,被告人Bの供述について,話し合いの全体的な経過に関する内容は,前記Cらの供述とも整合し,基本的な信用性は認められるというべきであるが,話し合いの結論について,賛成も反対もしなかったなどと述べる部分については,被告人Bも概ね認めているとおり,被告人Aが全員に確認を求めた際,被告人Bは特に反論もせず,その後被告人Aが口止めをした際にも,これを念押しする発言をしていることに照らせば,信用できず,被告人Bも話し合いの結論に賛成の態度を示したというべきである。

以上によれば,M②ホテルにおいて,被告人Aが中心的な立場で話し合いをまとめるなどした結果,C②にMら4名の殺害と死体の処理を依頼することが決定され,被告人Bを含む全員がこれを了承したこ
と,その後,被告人A,C及びEが,N②に赴き,主に被告人Aが,C②と話をして,C②にMら4名の殺害と死体の処理を依頼してその了承を得たと認められる。
また,これを前提とすれば,その後のC②との交渉状況に関するE及びCの供述も合理的で信用でき,前記2におけるその後のE及びCとC②との電話によるやりとりは,Mらの殺害と死体処理を前提とした交渉であったと認められる。
(5)

Q②ホテルにおける言動及びその前後の状況について前掲関係各証拠によれば,Q②ホテルに集まった被告人らの言動等の全体的な経過のうち,被告人Bが客室内に入った後,C及びEに対して,バスローブを着ていることを叱責したこと,被告人BがEにZ②会との交渉状況を尋ね,Eが,交渉途中である旨答えたこと,その際,被告人Bが同Aに対し,Z②会に5000万円を支払ってしまったことについて,問題視する発言をしたこと,Cの携帯電話にNの携帯電話からの着信があったこと,その後,被告人Bが,Cに対し,その給料体系の問題を指摘し,Mらが強奪計画を立てたのはこの給料体系についての不満などからであり,結局Cに原因があると追及したことについては,特にこれを否定する証拠もなく,容易に認めることができる。また,被告人BがHに対し,かかわるのをやめるように言ったとの点についても,被告人B,F及びHの各供述が一致している上,その後HがF②の処分に関与せず,本件事務所からも離れるなどの行動を取っていることとも整合しており,信用できる。上記事実によれば,被告人Bは,遅くともQ②ホテルでの上記やり取りの際には,被告人AがEの知り合いである暴力団Z②会の関係者に5000万円を支払い,Eがその者と交渉中であることを知っていたと認められる。そして,M②ホテルにおいて,Eの知り合いの暴力団関係者に殺害と死体処理を依頼することが決定し,被告人Bもこれを了承していたことか
らすれば,上記Z②会への依頼は,M②ホテルにおける話し合いの内容を前提とした,殺害と死体処理を内容とするものであるとの認識を被告人Bが有していたと認められる(なお,被告人AがN②における依頼内容を本件事務所内にいた者らに伝えた際,被告人Bが本件事務所内にいて,これを聞いた可能性もあるが,前記2(11)のとおり,被告人Bが既に帰宅していた可能性も否定できず,同被告人が,被告人AからC②への依頼内容を本件事務所内で被告人Aから聞いたとまでは認定できない。。


そこで,前記ア以外の同ホテルにおける被告人らの言動等に関する共犯者及び被告人両名の各供述の概要は以下のとおりである。
(ア)


私は,Bから,今回の事件では私に責任があることを前提として,
何かあったら全部責任取れよ。警察が動いたら,おれや社長(Aのことを指す。)の名前は出すなよ。C②との話が駄目になったら,残りの3人もお前が事務所に行ってやれ。社長には恩があるが,あんたには別に恩はないんだ。などと言われた。私は,これに言い返すことができず,承諾した。Aは,Bのこの命令を承認する態度を取っていた。また,Dに対しても,Bは,

お前は同じグループなんだから,同じだぞ。責任取れよ。

と言っていた。(イ)


Bは,Cに対し,

全部お前が悪いんだよ。お前らがねらわれたんだから,お前が事務所に行ってやってこい。いつまでも社長を頼ってんじゃねえよ。

などと言っていた。そして,私にも,

お前も全部一緒だぞ。分かってんのか。

などと言っていた。私もCも抵抗が一切できない状況で,相づちを打つしかなかった。
(ウ)


Bは,Cに対し,

もともとCグループの問題じゃねえか。こっちにケツを持ってくるんじゃねえぞ。いざとなったら,お前がやれよ。

などと話していた。Bは,とばっちりなんだからこっちを巻き込むなとかAやBが捕まらないように処理しろという趣旨のことを言っていた。Bは,Dに対しても

A②さん(Dのことを指す。,お前もだぞ。)

と言っていた。CはBに押しつけられていた形だった。Aはそのときは特に何も言っていなかった。
(エ)


Bは,Cに対し,Mら4名が全部Cのグループであり,Cに責任があ
る,責任を取れなどと話していた。また

あの3人を始末してこい。

と言ったかどうかはっきりとは言えないが,あの3人を何とかしてこいとかそういうような話はしていた(なお,Fは主尋問においては,4人を始末してこいというような話をしていたと思う旨供述していたが,上記のように供述を変遷させている。。また,Cグループの問題から生)
じているからみんなを巻き込まないでくれ,こっちにケツを持ってくるんじゃないという趣旨のことも言っていた。Aは

ちょっと言い過ぎだから,メンバーみんなの責任だから。

とその話を止めていたが,Bは

甘いですよ。

と言って聞かなかった。CはBの話に頷いていた。BはDにも

あんたも同罪だ。

というような話をしていた。(オ)


Bが,CやEを責めている感じで,Cのせいで結局こういうふうにな
ったから,これ以上俺たちを巻き込むな,自分のケツは自分でふいて,こっちにはケツを持ってくるんじゃないという趣旨のことを言っていた。自分たちで解決しろという趣旨に取れた。それに対して,Aは,

もともとH②さんがCの店舗にいたということもあるんだから,グループの問題として考えよう。

と言っていた。CはBに対して,分かったような感じのことは言っていたが,落ち込んでいるような感じで,怖がって
びびっている感じだった。部屋を出る前に,AがCに対して,Bから言われたことを余り気にしないでゆっくり休んでくださいと言っていた。また,Aは,まぐろ漁船とか,たこ部屋とかが本当にできるのかどうか当たってみるとも言っていた。
(カ)

被告人A
Bは,Cに対し,そもそも今回こうなったのは,Cのせいであるとし
た上で,こっちは関係ないから巻き込むんじゃないと言っていた。私が,

まあ,そこまで言わないで,みんなの問題として考えよう。

と話したが,BはまたCに対して責任の追及を始めた。そして,

こっちの人間巻き込まないでくれよ。こっちにケツ向けんじゃねえよ。

と言っていた。Cは

分かりました。そっちに迷惑かけないように自分で何とかします。

と言っていた。自分としても,Cがそう言うんだったら,本来Cがやるべきことだから,これ以上はあんまり言えないなと思った。Bが部屋を出て行った後,Cに,

取りあえず落ち着いて,ゆっくり休んでくださいよ。

ということを言った。また,Hには,

もうこれ以上死人が出てもまずいし,漁船とか,そういう話,おれのほうでも知り合いにちょっと聞いてみるよ。

ということを言った。(キ)

被告人B
私は,Cに対し,
今回の件はCさんのところの問題じゃないですか。あんたのところの給料体系から始まって,自分ばっかもうけてるからこんなことになったんでしょう。俺とかとばっちりですよね。自分のところのケツは自分でふいてくださいよ。などと言うと,Aが

売上げ上げるためにやって,悪気がないんだから。

と言ったが,私は,これを制して,

関係ないんだし,社長には義理あるけど,あんたには義理ねえし,おれにはケツ振ってくんなよ。

と言った。Cは,

分かりました。そっちには迷惑かけません。自分たちで何とかします。

と言った
(なお,被告人Bは後に,

自分たちで何とかします。

とはCは述べていないと供述を変遷させている。。Dに対しても,話の途中で,)

給料体系に対してはA②さんにもいえることだぜ。

と言った。ウ
上記アの認定事実とイの各供述に照らせば,少なくとも,被告人Bは,Cに対し,Mらが本件襲撃計画を計画したのはCの責任だなどとして,Cを責め,Dも同罪であるとした上で,自分たちを巻き込まないで,自分のケツは自分でふいて,被告人Bらの方には問題を持ってくるななどと言ったこと,その際,被告人Bは被告人Aからみんなの問題として考えようなどと言われたが,それを否定してCの問題だと述べたこと,それに対してCもこれを承諾したことが認められる。
また,被告人Aが,Cに対して,ゆっくり休んで下さいなどと言ったことや,Hに対して,M②ホテルで提言された殺害以外の解決策が可能かどうか当たってみると言ったことについては,その後の被告人AやCらの行動にも照らして,当該供述の信用性を判断する必要があるものの,被告人AとHの供述がこの点において一致していることからすると,直ちにその信用性を否定することまではできない。


ところで,C,E及びDはいずれも,Cらにおいて,Pら3名を自ら殺害をすることを指示する内容の発言を被告人Bからされたと供述し,被告人両名はこれを否定する供述をしているので,殺害の指示ないしそれに準ずる発言があったか否かについて検討する。
Cらには,殺害に関する責任を被告人両名に転嫁するための虚偽供述をする動機があり,その供述の信用性判断には慎重を期さなければならないことは前記のとおりである。Cらは最終的にはC②との交渉が決裂した後,自ら殺害を実行しているのであって,Cらの供述はこの点では一応の整合性は認められるが,他方,M②ホテルにおいて,C②に殺害と死体処理を依頼することが決定し,それに基づいてC②への依頼をしていた状況にあ
り,被告人らは,あくまでも他人に依頼して殺害目的を遂げることを主眼としていたとうかがえること,C②との交渉は難航していたとはいえ,継続中であったことなどからすると,かかる状況において,被告人BがCらに対して,自ら殺害することを内容とする発言をしたというのは唐突な感も否めず,F及びHも,被告人Bが殺害を指示するような発言をしたと述べているとは評価できないこと(Fの供述には前記のとおり変遷がある上,殺害の指示に準じる発言があったと明確に供述しているとはいいがたい。また,Hは,3人を始末してこいというような話はなかったと供述している。
)にも照らせば,上記Cらの供述を直ちに採用することは困難である。そこで,殺害の指示ないしそれに準ずる発言があったか否かを含め,被告人Bがどのような趣旨の発言をしたかや,その発言の意図,それに対する被告人Aの認識については,その他の事情も勘案して後に検討することとする。
(6)

G検挙時前後の被告人らの行動経過等
まず,FがQ②ホテルから本件事務所内に戻ったかどうかについて供述に不一致があるので検討するに,F及び被告人Bの供述内容は,被告人両名とFが共に本件事務所付近までタクシーで行ったこと,被告人両名が本件事務所内に行き,Fは近くで待っていたが,しばらくして被告人両名に無断でF②の処分のために出発したことについて一致している上,Fがこの点に関して殊更虚偽の供述を述べる理由は乏しく,事務所の外で待機していたが無断で離れたという内容は自然かつ具体的であって,FがこのころGに電話をしていることとも整合しており,十分信用できる。他方,被告人A及びHは,Fが本件事務所内にいた記憶があると概括的な供述をするのみで具体性に乏しく,記憶違いの可能性も十分あることからすると,信用性は低い。


次に,被告人Bが,Cらに対して,殺害を指示する趣旨の発言をしたか
否かについて検討する。
C及びDは,被告人Bが,Fとの電話を切った後,とにかくもうお前らがやれ,逃げたら家族ごと殺す,見張りをつけるなどという発言をしたとの供述をしており,さらに,Cは本件事務所前でも被告人Bが同趣旨の発言をした旨供述しており,他方,被告人両名はいずれもこれらを否定する供述をしている。この点についても,前記Q②ホテルにおける殺害指示に準じる発言の有無について検討したのと同様,Gが検挙されたことを知って事態が切迫したとはいえ,Cが自ら殺害をすることを示唆する発言をしたというのは唐突な面がある上,Eは事務所内において殺害を指示するような発言はなかったと思うと供述していることからすると,C及びDの上記各供述を直ちに採用することは困難であり,前記Q②ホテルにおける発言の内容の検討と同様,他の事情を勘案して後に検討することとする。(7)

その後の行動経過について
Uに死体処理を依頼するに至る経緯等
(ア)

Uへの依頼時期及び内容
死体処理の依頼に関するU及びSの供述は,SがUに対し,昼ころに中国人にねらわれているのでかくまってほしいとの連絡をし,夕方ころに死体1体の処理を1億円でできないかとの話をしたという点で一致し,被告人Bの供述も概ねこれと符合しており,通話記録とも整合しているのであって,その信用性は十分肯定できる。
そして,その経緯についての被告人Bの供述は,
16日午後5時ころにK②で起きた後,Sらから,C②との交渉が決裂したことと,Aが最悪の場合にはNの死体を解体するのを手伝ってくれとJらに話したり,華僑に会いに行くなどという話をしたりして出て行ったことを聞き,Aが困っているなら手助けしてあげたいという気持ちからSを通じてUに依頼した。というものであるところ,S及びJも,被
告人Aが,最悪の場合には死体の解体を自分たちでするしかないと言っていたなどとこれに沿う供述をしている。特にJは,被告人Bが,これについて汚い仕事をやらせてなどと言って怒っていたことなども供述するなど内容が具体的である上,捜査段階から同趣旨の供述をしていたこともうかがえるし,覚えていない部分については,覚えていない旨明確に供述するなど,記憶に従って真摯に供述している姿勢も認められる。また,被告人Bに殊更有利になるような虚偽供述をしていることもうかがえない。そして,被告人Bは,被告人Aが支払をすることを当然の前提として1億円の金額を提示したと考えられることからすると,被告人Aの意思に反してそのような行動を取るはずはなく,上記のように被告人Aが困っていると聞いて,その意思をそんたくして依頼をしたという経緯は自然である。これらの諸点に照らせば,被告人Bの上記供述を排斥することはできないというべきである。b
これに対し,被告人Aの供述は,
K②で寝る前に,被告人BからW②に頼めば1億円で死体を持っていってもらえるのではとの話をされたがこれを断った。その後,午後1時ころに被告人BがSに頼んでどこかに電話をさせており,Nの死体処理の依頼をしているのではないかと思った。というものであるが,その内容は上記Uらの供述と反する上,それまでの被告人Bの被告人Aに対する態度等を含めた両者の関係に照らせば,被告人Bが被告人Aの面前で,被告人Aの明示的意思に反する行動をあえて取ることは不自然であって,信用することはできないというべきである。


上記検討のとおり信用性の認められる被告人Bの上記供述部分や通話記録等によれば,被告人Bが,16日午後5時ころにK②で起きた後,Jらから,C②との交渉が決裂したことや,被告人Aが最悪の場合には死体の処理を手伝ってほしいなどと言っていたことを聞き,被
告人Aの意思をそんたくして,同日午後5時38分ころから同日午後5時49分ころまでの間,Sを通じてUに死体1体を1億円で処理できないかという話を持ち掛けたと認められる。

なお,被告人Aの弁護人は,Jの公判供述について,その証人採用決定には違法があるとして証拠排除の主張をしているが,検察官が証人Jの立証趣旨変更の申立てをした際,刑事訴訟規則217条の30に規定されたやむを得ない事由についての具体的な疎明を明示的
にはしなかったとはいえ,検察官が,審理経過にかんがみて,やむを得ない事由があるとの理由で上記申立てをしていることは明らかである上,それを受けて裁判所が本件審理経過にかんがみ,やむを得ない事由があったと認めて採用している以上,同弁護人指摘の点を勘案しても,それにより上記証人採用決定が直ちに違法になるものとはいえず,証拠排除の主張は理由がない。

(イ)

被告人両名が3人の死亡を知った状況及びその後の死体処理の手配
に至る経緯

被告人Bは,

Jを使ってCに電話をかけさせ,その後電話を交替してNの死体処理の目処がついたことを伝えたところ,Cから3人とも殺してしまったと聞いた。

と供述している。この点については,上記Uへの依頼の電話の直後に,JからCに対する通話記録があることとも整合している上,F及びSも被告人Bが本件事務所内にいる誰かと電話をして,電話の相手から3人の死亡を聞いたと供述していることとも符合しており,信用できる。
さらに,被告人Bは,その直後被告人Aに電話をして,Cから残りの3人を殺害したと聞いたこと,死体1体については1億円で頼める手配ができたことを告げたところ,被告人Aから残りの3体も何とかならないかと言われたことなどを供述している。この点についても,
上記Cへの電話の直後に被告人Bから被告人Aへ架電した事実が認められることと整合し,前記供述部分やその前後の経過に照らしても特段不自然,不合理な点はなく,少なくとも上記の限度では十分信用できる。

他方,被告人Aは,前記のとおり,

被告人Bから,W②に頼めば1億円で死体を持っていってもらえるのではとの話をされた。

と供述し,さらに続けて,
16日午後6時ころ,Cからの電話でMらを殺害した事実を知り,5000万円用意できたら連絡してほしいと伝えた。その後の午後6時18分ころ,被告人Bに電話をかけ,4人の死体処理を頼んで欲しいと伝え,S①に5000万円を借りた。午後6時2分の被告人Bから被告人Aへの通話記録は通話状態になっていただけで会話はしていない。などと供述している。たしかに,16日午後6時2分ころの同時刻に被告人AとC,被告人Aと同Bとのそれぞれの間に架電されたことを示す通話記録が存在し,この点では上記内容と整合するといえるが,1億円でUに死体処理を頼めるかどうかを確認したのは,前記のとおり,同日午後5時38分ころから同日午後5時49分ころまでの間であり,その後,同日午後6時18分に至るまで被告人Bと話をしていないとの被告人Aの供述を前提とすると,同日午後6時3分ころの電話の際には,1億円の話は知らなかったことになり,被告人AがCに対し,5000万円用意してほしいと伝えたというのは明らかに不合理といわざるを得ない。また,1億円の話を事前に聞いていたとの被告人Aの供述を仮に前提としても,W②に頼むのはNの死体1体を1億円でという話であり,残りの3人も死亡したと知った被告人Aが,死体4体でもW②に頼めるかどうかについて16日午後6時18分に至るまで被告人Bに確認をしなかったという点や,そのような確認をする前に,Cに対し,1億円あれば何
とかなるかもしれないなどと言って5000万円を用意するように伝えたというのは,やはり不自然というほかない。
したがって,Cや被告人Bとの間の通話状況について,被告人Aが殊更に虚偽の供述をする動機は乏しいことを考慮しても,上記の点にかんがみればその供述の信用性は認められないといわざるを得ず,記憶違い等の可能性が高い。

以上によれば,被告人Bは,Uに対し,1億円で死体1体の処理を依頼した後,CからO,M及びPの3人も殺害したと聞いたこと,被告人Bが被告人Aに連絡を取り,被告人AからPら3名の死体についても,Uに処理を依頼してほしいと頼まれたことがそれぞれ認められる。


事件後の被告人Bの言動について
(ア)

C,D及びEは,Mら4名の死体をUらに引き渡した後,被告人

BがT②やU②で,事件のことを話したら家族ごと殺すなどと言って口止めをしたほか,

おれは主犯で捕まったら死刑か無期だ。

などと話していたと供述している。この点について,被告人Bは,
Sがかかわっていることを言わないように口止めをしただけである。自分が主犯だとは言っておらず,ホテルを泊まり歩いているときに,主犯は,4人も殺しちゃったら,普通に考えても無期か死刑だぞと言ったにすぎない。などと述べるが,主犯は死刑か無期になるという趣旨の発言を一般論としてわざわざ述べるとは考えにくいところである。他方,口止めをするにあたってCらに対して心理的に威迫するとともに本件事件の重大性を強調する趣旨で,上記Cらの供述するような発言を被告人Bが言うことは十分考えられるし,Cらの各供述が相互に一致していることも併せ考慮すれば,被告人Bが,自分は主犯で捕まれば死刑か無期になることを強調して,事件のことを言わせないよう
にするため何でもすると強く口止めをしたと認められる。
(イ)

被告人Bの上記発言は,口止めの効果を増すためにわざと言った

可能性も否定できないから,それをもって直ちに被告人Bが主犯であることの認識を示すものとして共謀を裏付ける事情であるとまではいえないが,少なくとも被告人Bが本件の重大性と自己の責任の重大性については十分認識していたことを示す事情として考慮することはできるというべきである。
4
殺人の共謀の成否について(争点①に対する判断)(1)

被告人らによる殺害指示の有無
前記のとおり,Cらは,Q②ホテルやG検挙を知った際などにおいて,被告人Bからお前がやれなどと自ら殺害をするように指示されたこと,その後C②との交渉が決裂したことを被告人Aに報告した際,後はそっちでやってくださいなどと殺害を指示された旨供述しているので,どのような趣旨の発言があったかについてまず検討する。


前記2及び3で認定した各事実を整理すると以下の各点が指摘できる。(ア)

被告人らは,Mら4名を順次監禁して暴行を加え,M,O及びNに
重篤な傷害を負わせた。
(イ)

M②ホテルにおいて,被告人ら8名は,Mら4名の殺害と死体処理
をEの知り合いの暴力団関係者に依頼することを決定し,被告人A,C及びEが,N②において,C②に対して上記依頼をして,その了解を得た。
(ウ)

その後,Nが死亡したとの連絡を受けた被告人AらがQ②ホテルに
参集し,被告人Bも遅くともこのころまでには,Mらの殺害と死体処理の依頼を暴力団関係者に行い,Eが引き続きその交渉中であることを認識した。
(エ)

Q②ホテルにおいて,被告人Bは,Cに対し,Cグループの給料体
系などを引き合いにして,ねらわれることになったのはCグループ内部に問題があったからだなどと責め立てる発言をした。
(オ)

Gが検挙された際,被告人両名は,本件事務所を出て,被告人Bが,
追いかけてきたCに対し,本件事務所にとどまるようにとの趣旨の発言をした。
(カ)

16日午後3時33分ころ,被告人Aは,CからC②との交渉が決
裂した旨の報告を受け,その後,Jらに対し,最悪の場合にはNの死体の解体を手伝ってほしいなどと話した後,華僑に会いに行くなどと言ってK②から外出した。
(キ)

16日午後5時ころ,被告人Bは,Jらから上記(カ)の被告人Aの
話を聞き,Sを通じてUに死体1体の処理を1億円でしてほしいとの依頼をした。その直後ころ,被告人BはCに死体1体の処理の手配ができた旨告げたところ,Cから残りの3人も殺害したと聞いた。そこで,被告人Bは,被告人Aに連絡をして,死体1体を1億円で処理することを依頼したこと,Cから残り3人も死亡した事実を聞いたことを話したところ,被告人Aが被告人Bに対し,死体4体の処理を依頼してほしいと頼んだ。
(ク)

その後,被告人Bらが,死体4体を運搬してUに会い,その場で死
体が4体に増えたが死体処理を引き受けてほしい旨依頼し,Uがこれを了承した。

Q②ホテル並びにG検挙後の本件事務所内及び本件事務所付近における被告人Bの発言内容について
(ア)

上記イの経過に照らして検討するに,前記のとおり,C②との交渉
が継続中に,被告人Bが,Cらにおいて自ら殺害することを示唆する発言をするというのはいささか唐突ではあるものの,Nが死亡し,Gが検挙されるなど,事態が切迫した状況にあったことを考慮すると,C②と
の交渉が決裂した場合に備えてCらが自ら殺害するように示唆する発言をすることも十分考えられるところである。
しかしながら,被告人両名は,その後にC②との交渉が決裂したことを知った後も,Nの死体処理だけを考えて動いており,C②との交渉が決裂した場合に残りの3人をCらが自ら殺害するとの認識を前提として行動していたとはうかがえない。検察官は,この点について,死体の処理という頼みにくい依頼をする際に,将来的に死体が4体となることまで伝えて交渉することは考えがたいと主張するが,前記認定のとおり,被告人Bは,被告人AがNの死体処理のために動いていることを知って,その意思をそんたくして死体1体の処理の依頼をしたものである上,後になって死体が4体に増えたなどといえば相手方が死体処理を拒否することも考えられるところであり,現に被告人Bは,本件事件後にUから報酬について支払の追加を請求されたことにより,被告人Aとの間で支払についてのトラブルが発生する結果となっているのであって,検察官の主張は採用しがたい。
そうすると,これまで検討してきた事情にかんがみれば,Q②ホテルや,G検挙時の本件事務所内外で,被告人Bから,自ら殺害することを示唆する発言をされた旨のCらの供述の信用性には疑問があり,これを否定する被告人両名の供述を排斥することは困難というべきである。(イ)

他方,被告人Bは,Q②ホテルやその後の本件事務所外でのCに対
する発言について,
Cグループのトラブルなんだから,僕たちにトラブルを持ち込まないでくれよという趣旨でケツ振ってくるなと言っただけであり,責任を押しつけたのではない。事務所の外でも,Aと一緒に逃げるのに,付いてこられるとまずいと思って言っただけである。と供述するが,それまでQ②ホテルで休憩を取るなどしていたCが,被告人Bの発言を受けて,その後C②との交渉役を交替してその成功に向け
て積極的に交渉を行うようになったこと,G検挙後,Cは,被告人Aを本件事務所の外まで追いかけて責任を回避したい姿勢を示していたのに,被告人Bの発言を受けて本件事務所に引き返し,その後もC②との交渉を継続し,その交渉決裂後には自ら殺害行為に及んでいることなどからすると,Q②ホテル及びG検挙後の本件事務所付近における被告人Bの発言は,被告人Bの真意はひとまず置くとしても,少なくともCに対して,自ら事件を解決しなければならないとの認識をさせるに十分なものであったことは認められる。

16日午後3時33分ころの被告人AのCに対する電話での発言内容Cは前記のとおり,そっちで殺害をするように指示された旨供述し,D及びEも被告人Aからそのように言われたことをCから聞いた旨供述する。他方,被告人A及びHは,いずれも

まだそんなことやっていたのか。これ以上の大事になったらケツ持てない。

などと,殺害に向けた行動をやめるように伝える発言をしたと供述している。また,これに加えて,被告人Aは,Q②ホテルから本件事務所に戻った際,Eに対し,C②との交渉をやめるように話したとも供述する。
そこで,上記イ及びウも踏まえてこれを検討するに,前記認定のとおり,Q②ホテルにおいて,被告人AはC②との交渉が決裂した後の次善策を決めることもなく,本件事務所に戻り,その後,被告人Aに助けを求めていたCを残して本件事務所を離れていること,CはEから交渉役を引き継いだ以降,必死になってC②との交渉を行い,交渉が決裂するや,すぐに被告人Aにその旨報告をしていること,そのように被告人Aに助けを求める姿勢を示していたCが,上記電話の後,すぐに自ら殺害行為に及んでいることからすると,Cが被告人Aの意思に反して無断でC②との交渉を継続していたとも,被告人AがCに対して,殺害に向けた行動をやめるように伝える発言をしたとも到底考えがたく,被告人Aの上記供述内容は極めて
不合理であるというべきである。そして,Hは既に刑が確定しており,被告人Aと中学生時代から親しい関係にあることからすると,Hが被告人Aに有利な証言をする動機は十分認められる。H及び被告人Aの各供述は相互に一致しており,このように供述に一致が見られることは通常信用性を相互に補強する事情と考えるべきであるが,何らかの方法で供述を一致させた可能性も否定しきれないところであり,上記のように明らかに不合理な供述が一致していることをもって,その供述を信用することはできないというべきである。したがって,上記H及び被告人Aの各供述はいずれも信用できない。
これに対し,C,D及びEの各供述も概ね相互に一致しているところ,Cが上記電話の後,実際に自ら殺害行為に及んでいることと整合していることからすると,被告人AがCに対し自ら殺害することを指示した可能性も十分考えられるところである。しかしながら,そっちの責任で解決するようにとの趣旨の発言があったことはCらの供述内容や行動状況に照らして優に認められるものの,前記認定のとおり,被告人らは,それまでC②に引き渡すなどして殺害を依頼することを想定して行動していたものであり,C②との交渉が決裂したとはいえ,Nの死体1体の処理すら目処が立っていない状況にある中,他の解決策を考えることもなく,Cに対し,自ら殺害するようにとの指示をすることはいささか不自然である上,被告人Aは,C②との交渉が決裂した後も,Nの死体処理だけを考えて行動していたとうかがえる。これらの点に加え,CはQ②ホテルなどにおいて,被告人Bの発言などを受けて自ら事件を解決しなければならないとの認識を持って,それに従った行動を取っていたことからすると,C②との交渉が決裂した後,被告人Aが,Cに対して,これまで同様にそっちの責任で解決してくれという趣旨の発言をしただけで,直接的な殺害指示をしない場合でも,それを受けたCが自らの判断で殺害行為に及んだ可能性も否定で
きないことを考慮すると,被告人Aが,Cに対し,自ら殺害するようにとの直接的な指示をしたと認定するには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。
(2)

共謀の成否について
被告人Aについて
(ア)

まず,当裁判所が認定した被告人Aの行動経過及び認識内容は以下
のとおりである。
被告人Aは,中国人マフィアを使って被告人らを殺害して現金を強奪する計画があることを知るや,中心的に逮捕監禁等を実行した上,監禁したMらにこもごも暴行を加えて,重篤な傷害を負わせた。その後,M②ホテルにおいて,C②に会い,上記計画を中止させた旨聞いた後,Mら4名の処遇について話し合うため,M②ホテルに参集し,Eの提案等を受けて,主導的に話し合いをまとめ,Mら4名の殺害と死体処理をC②に依頼することを決定した。そして,被告人Aは,C及びEと共にN②でC②に会い,現金5000万円を支払って上記依頼を遂げ,その後は,仕事のために外出するなどしていたところ,予期せずNが死亡したとの連絡を受けたことから,Eに電話をして,C②に対する上記依頼の進ちょく状況を確認させたところ,C②が殺害を断ってきたと聞いた。そこで,善後策を話し合うため,CのいるQ②ホテルに赴いたところ,後から来た被告人BがCグループの問題なのでケツを持ってくるななどと言ってCを責め立て,Cもこれを了承する態度を示した。そして,被告人Aらは,C②との交渉が決裂した場合の次善策を決めることもなく,本件事務所に移動し,Gが検挙されたとの連絡を受けるや,本件事務所を出た後,助けを求めて追いかけてきたCが被告人Bによって追い返されるのを止めることもなく,そのまま本件事務所を後にした。その後,CからC②との交渉が決裂したとの報告を受けた際も,そっちの責任で
解決してくれという趣旨の発言をして,Cを突き放したが,最悪の場合にはNの死体処理を手伝ってほしいなどとJらに言って,外出した。その後,Cが残りの3人についても殺害したこと,被告人Bが死体1体の処理を1億円で頼むあてができたことを聞き,死体4体の処理を1億円でやってもらうように被告人Bに頼み,自らはC及びS①から現金を集めるなどして,1億円を準備した。
(イ)

検討
以上を前提に,被告人Aに殺人の共謀が成立するか否かについて検討
する。

まず,M②ホテルでは,前記のとおり,被告人らは,自らの監禁行為等によって,Mらをそのまま解放することができず,事件が発覚しないような何らかの方策を取らなければならないとの認識のもと,殺害以外に解決策が見当たらないため,Mら4名を殺害することもやむを得ないとの共通認識が確認され,その実現に向けて自らC②へ依頼をすることとしている(なお,この段階では,4名を直ちに自らの手で殺害するということまで決定されたものではない。。

そして,被告人Aは,そのようにC②に殺害と死体の処理を依頼した後,その交渉が難航していたことを知りながら,Q②ホテルにおいては,被告人Bがケツを持ってくるななどと言ってCを責めた際にも,C②との交渉が決裂した場合に取るべき対応策を決めることもせず本件事務所に戻り,Gが検挙された後,Qビルを出て,被告人Bが,Cに本件事務所にとどまるようにとの趣旨の発言をした際にも,これを止めることもなく本件事務所を離れていることや,その後の被告人Aの行動経過に照らせば,Q②ホテルにおいてCに対して

ゆっくり休んで下さい。

などとCをなだめる発言をしたことがあったとしても,被告人Aは,Cが被告人Bの各言動を受けて,自ら事件の解決を行う
ことになったことを認識しながら,これを容認する態度を示し,結局事件の解決をCに任せてこれに当たらせたということができる。
もとより,このような事件の解決とは,事件が発覚しないためのものであって,当時継続中のC②との交渉をCが成功させてC②に殺害と死体処理をさせるか,あるいは別の者に依頼して殺害させるなど,何らかの方法で3人を殺害することが最も有力な解決手段であるとの認識をもって,それを含めた何らかの方法で,事件が発覚しないような解決策の実現をCに委ねたことは明らかで,遅くともこの時点までには,O,M及びPの3人を殺害することについての共謀が成立したと認められる。
また,C②との交渉が決裂した後も,被告人Aは,Cに解決を任せるとの姿勢を変えなかったものであり,上記共謀が引き続き継続していたということができる。
なお,被告人Aは,前記のとおり,Cらが自ら殺害することを直接指示したものではなく,Cらが直ちに自ら殺害行為に及ぶことまで想定していなかった可能性は排斥できないが,上記共謀の内容は,実行者や殺害方法などを具体的に特定せずに,殺害等の解決をCに任せたというものであるから,Cらが自ら殺害行為に及んだ本件にあっても当然に共謀の内容に含まれる。

被告人Aの弁護人の主張について
被告人Aの弁護人は,M②ホテルでの話し合い後も被告人らが覚せい剤を注射している事実を挙げて,M②ホテルにおいて,殺害と死体処理を依頼することは決定していない旨主張する。しかしながら,M②ホテルにおいて,覚せい剤を注射する案は,記憶がなくならないとの理由で否定されており,同弁護人の主張するような覚せい剤中毒にして監禁事件が発覚しないようにすることについて更に議論がされた
とはうかがえない上,C②に5000万円もの多額の金額を支払い,その後,Nが死亡するまでC②との連絡を取っていなかったことからすれば,被告人Aは,C②に解決方法を委ねていたとうかがえる。また,被告人らの暴行態様に照らせば,殺害することが決まった後に,興味本位で覚せい剤を注射することも十分考えられるところであり,Dが遊び感覚で注射したと供述していることなども考慮すると,被告人らが覚せい剤を注射したとの事情は,M②ホテルにおける話し合いの内容についての前記認定を何ら左右するものとはいえない。
また,同弁護人は,M②ホテルでの話し合いに参加したF及びGが,N死亡後に蘇生を試みていることを挙げて,殺害依頼が決定していなかったことが裏付けられると主張する。しかしながら,M②ホテルで決定されたのは,あくまでもC②に殺害と死体処理を依頼することであって,その後C②にその依頼をしたことをF及びGが知っていたとしても,現にFはN死亡後に被告人Aに連絡をし,その後被告人AらがQ②ホテルに参集するなどの行動を取っていることからしても,具体的にいつ引き渡しをするかなども決まっていない段階でNが死亡することは想定していなかったということができる。したがって,そのような状況において,F及びGが蘇生を試みたからといって,M②ホテルにおいて上記決定がされたことと何ら矛盾するものではない。同弁護人は,共謀の成立を否定する事情として,被告人Aが,Mらを警察に出頭させることによる解決を試みていることも指摘する。この点についてのGの供述は,16日午前6時ころに,被告人Aが事務所で

言うことを聞けば悪いようにはしない。

などと言っていたのを聞いたと供述する一方,Fから電話で呼ばれて,事務所の外に出ると,被告人A,被告人B,Fがいたと供述しており,通話記録に照らせば,上記通話は,同日午前8時21分ころになされたと考えられる
など,前後関係にやや不自然な部分もあるが,H及び被告人AがNが死亡したことの責任を負うように言っていたと供述していることと整合しており,これらの供述の信用性を否定することはできないというべきである。しかしながら,そのような事実や,前記3(5)で指摘した,被告人AがQ②ホテルにおいてまぐろ漁船の話などの殺害以外の解決策を再検討する姿勢を示していた事実があったとしても,前記のとおり,共謀の内容が,Cが責任を持って事件が発覚しないような殺害を含めた何らかの方法で解決するというものであることからすると,Cに解決を委ねて事務所を離れるまでの間に,被告人Aが,Cの代わりにそのように殺害以外の解決手段を模索していたとしても,上記共謀の成立と何ら矛盾するものとはいえない。また,これに加えて,被告人Aは,自首を考えており,Hにもそのような話をしていたと供述するが,仮にそのような考えを抱いていたとしても,前記のとおり共謀が成立した後,Gが検挙されたとの報告を受けた際にも,自首について告げず,Cを突き放す態度を取っていることからすると,共謀の成立は否定されない。
さらに,同弁護人は,共謀の成立を否定する事情として,Cが被告人Bに促されるまでMらを殺害した事実を被告人Aに報告せず,D及びEも報告をしなかったことを指摘する。しかしながら,前掲関係各証拠によれば,Cが殺害後しばらくは茫然自失の状態となっていたことがうかがえるのであって,そのため連絡が遅れることは不自然とはいえないし,D自身が自分は報告する立場ではなかったと供述するように,DやEがその報告をCに任せたとしても必ずしも不自然とはいえないことに照らすと,かかる事情が共謀の成否を左右するものとはいえない。
加えて,同弁護人は,共謀の成立を否定する事情として,死体1体
の処理だけを依頼していたことも指摘するが,この点についても,上記共謀内容に照らせば,3人については,殺害をするか否かも含めて解決手段をCに委ねていたものであり,他方,Nについては既に死亡していたことからすると,被告人らとしてみれば,早急にその処分をする以外に取るべき方策は考えられない状況にあったものであり,Gが検挙されるなどして事態が切迫した状況にある中,Nの死体処理だけは,Cだけに任せるのではなく,別の処分先を手配するために行動していたとしても何ら不合理とはいえない。

被告人Bについて
(ア)

まず,当裁判所が認定した被告人Bの行動経過及び認識内容は次の
とおりである。
被告人Bは,被告人Aから,Mらの立てていた計画を知らされ,被告人Aらと共にM,O及びNを順次監禁した上,Mの大腿部をナイフで刺突し,Nに対して,熱湯を掛けるなどの激しい暴行を加えた結果,重篤な傷害を負わせるに至った。その後,14日午前にいったん自宅に戻り,警察への通報をしない病院の手配をして本件事務所に戻り,Pを監禁した。また,そのころ,被告人AからMらの立てていた計画が止まったと聞いた。その後,M②ホテルにおいて,Eの提案や被告人Aの主導により,Mら4名の殺害と死体処理をEの知り合いの暴力団関係者に依頼することが決定したことから,被告人Bもこれを了承した。その後,被告人Bは,本件事務所に戻った後,自宅に戻り,歯科医院で受診するなどした後,自宅で寝ていたところ,16日未明ころに,被告人Aから,電話でNが死亡したことを聞き,Q②ホテルに移動した。Q②ホテルにおいて,被告人Bは,4名の殺害と死体処理をZ②会に依頼して,Eがその交渉中であることを知りながら,Z②会に頼んでいるならそっちでやればいいなどと言った上,Cに対しても,Cグループの問題であること
を指摘しながら,Cに自ら責任を持って解決をしなければならないとの認識をさせるに十分な発言をした。Q②ホテルから本件事務所に戻った後,Gが検挙されたとの連絡を受け,被告人Aと共に本件事務所を出て,追いかけてきたCに対し,事務所にとどまるようにとの趣旨の発言をして,被告人Aと共にK②に移動した。その後,夕方ころまで寝て起きた後,Jらから,被告人AがNの死体処理を手伝ってもらうかもしれないなどと話していたことを聞いたため,Sを通じてUに死体1体の処理を1億円で依頼した。その後,死体処理の手配ができそうだということを伝えるために,Cと連絡を取ったところ,Cから残りの3人についても殺害したと聞いたため,被告人Aに連絡を取り,被告人Aから4名の死体処理をUに頼んでほしいと言われたことから,これを了承し,Eらと連絡を取るなどして,死体4体を運搬するのに同行し,Uに会って,4体の死体処理の依頼をした。死体の引渡し等が完了した後,被告人BはCらに対し,自分は主犯で捕まれば死刑か無期になるので,事件のことを言わないようになどと言って口止めをした。
(イ)

検討
以上を前提に,被告人Bに殺人の共謀が成立するか否かについて検討
する。

被告人Bは,被告人Aらと共に監禁,暴行を行い,Nらに重篤な傷害を負わせるなどしたことから,事態の収束が困難となった状況の中,M②ホテルにおいて,被告人らの監禁行為や詐欺行為が発覚しないように監禁を終わらせる有効な解決手段が決まらないために,Mら4名の殺害とその死体処理を依頼するとの決定がされた際,これを了承し,その後,Q②ホテルにおいて,Eが3人の殺害と死体処理についてZ②会と交渉中であることを認識しつつ,Cに対し,今回の問題はCグループの問題だなどと言い,その後も,本件事務所の外でCが事務所
から離れるのを阻止する発言をして,被告人Aと共に本件事務所を離れているのである。そうすると,Q②ホテルにおいて,被告人Bは,Cが今後責任を持って事件を解決するであろうこと,その解決方法としては,既に依頼したZ②会の関係者との交渉をCらが成功させてC②に殺害と死体処理をさせるか,あるいは別の者に依頼して殺害させるなど,何らかの方法で3人を殺害する可能性が高いことを認識し,G検挙後には,事務所から離れようとしていたCに対し,上記認識を前提として,事務所にとどまるようにとの趣旨の発言をしているのである。結局,被告人Bは,Q②ホテルでの発言以降は,Cに事件の解決を押しつけたということができるが,被告人Bも当初から監禁,暴行に中心的にかかわっており,Mらの殺害を依頼することを含めた何らかの方法により事件が発覚しないような方策を取る必要があると認識し,現にMらの殺害に向けて交渉が進行中であることを認識しつつ,Q②ホテルにおいてCに責任を押しつける発言をし,G検挙後にはCが本件事務所から離れるのをとがめる発言をしていること,さらには事件後に前記のとおりCらに対して口止めをしていることも考慮すると,被告人Bは,Q②ホテル等において,Cが責任を持って事件が発覚しないような解決方法を実現すべきであるとの認識をもって,進んで上記発言をしていたといえる。
したがって,被告人Bは,M②ホテルでの殺害の謀議を前提として,CらがC②との交渉を成功させてC②に殺害と死体処理をさせるか,あるいは別の者に殺害を依頼するなどして,Cが責任を持って事件が発覚しないための何らかの方策を取るように求めたということができ,これによって,遅くともGが検挙された後の被告人Bの発言がされた時点までには,被告人Aと同様に,Pら3名を殺害することについての共謀が成立したと認められる。


被告人Bの弁護人の主張について
これに対し,被告人Bは,
Cグループのトラブルなんだから,僕たちにトラブルを持ち込まないでくれよという趣旨でケツ振ってくるなと言っただけであり,責任を押しつけたのではない。残る3名の扱いについて関心を持ちたくないので,自分はかかわらないということを言ったものである。などと,自分は関係ないので事件とのかかわり合いを断つことを言ったにすぎない旨供述し,被告人Bの弁護人もこれを裏付ける事情として,被告人Bが被害者らによる殺害計画の対象になっていなかったこと,Q②ホテルに行く前に,Sにこれ以上かかわらないようにすることを示唆するやり取りをしていること,Hや被告人Aに,かかわるのをやめた方がいいと伝えていることなどを指摘する。たしかに,被告人B自身がMらの立てた計画の発端はCグループの給料体系等に問題があったためとの認識を持っていたとうかがえること,M②ホテルでの話し合い後,自宅に戻っていたことなどをも考慮すると,同弁護人の指摘するこれらの事情があったことは否定できない。しかしながら,そのように被告人BがQ②ホテルに呼び出されるのを嫌い,事件から遠ざかりたいとの願望を抱いて,Cグループの問題で自分は関係がない旨の発言をしていたとしても,被告人Bは,前記のとおり,事件が発覚しないために,殺害を含めた何らかの方策を取る必要があるとの認識を有していたと認められることからすると,自分は関係がないという言動ないし態度は,自分がその解決の責任を負うつもりはなく,Cが責任を持つべきであるという意味にほかならず,前記共謀の成立を妨げるものではない。
また,同弁護人は,共謀の成立を否定する事情として,被告人Bが,Uに依頼した死体の数が1体であったことを挙げるが,前述のとおり,被告人Bは,被告人Aが,Nの死体処理について解決方法を模索して
いることを知って,それを助けるためにUに依頼をしたものであるから,共謀の成立を否定する事情とはいえない。

以上のとおりであるから,被告人両名とC,E及びDとの間に,Mらを殺害することについての共謀が成立していたと認められる。

5
Nに対する逮捕についての被告人Bの共謀の成否(争点②に対する判断)(1)

被告人Bの弁護人は,

同被告人はCがNを逮捕しに行く前にCからの誘いを明白に拒絶し,逮捕行為には関与していない。

と主張する。(2)

前記2(6)で認定したとおり,Cは,被告人Aに対し,

H②ちゃん借りてくよ。

などと言って,被告人Bと共に行くことを申し向け,被告人BがCの上記発言に対して文句を言うなどして断ったことは認められるが,前記認定のとおり,被告人Bは被告人Aから呼ばれて合流した上,被告人Aらと共にMの逮捕監禁やOの監禁を実行し,NがGらによって逮捕され(被告人Bもこれを当然予想していたと認められる。,本件事務所内に連行されて)
きた際も,Nに対して,暴行を加えて主体的に監禁行為に加わるなど被告人Aの意に従って,Mに対する逮捕監禁やO及びNに対する監禁行為に積極的に関与していたものである。そして,Nの逮捕についても,上記の経緯やCの発言などに照らせば,被告人Aの意に沿うものであることは明らかである。そうすると,Cらとの間でNの逮捕についての共謀が成立していたことは明らかであり,被告人BがCの誘いを断ったのは,単に自ら逮捕行為の実行役を担いたくないとの意思表示にすぎないというべきである。
(3)

したがって,被告人Bについて,判示のとおりNに対する逮捕の共謀が
成立することが優に認められる。
6
Oに対する殺人の実行行為及び殺意の有無(争点③に対する判断)(1)

争点
判示第3に関する公訴事実の要旨は,被告人両名が,Cらと共謀の上,O
に対し,殺意をもって,テープを巻きつけた上,呼吸困難になったOをその
まま放置し,同人を呼吸不全により死亡させて殺害したというものであるが,当裁判所は,判示のとおり傷害致死の限度でこれを認定したので,その理由を補足して説明する。
(2)

犯行状況等
犯行状況及びその後の死体梱包状況に関するC,E及びDの各供述内容(ア)


公判供述
16日の午前11時くらいからOにガムテープを巻き始めたが,既にその時点で,Oの目のまゆ毛部分から,鼻の一番高い部分くらいまで目や鼻の辺りに何重かのガムテープが巻かれていた。また,口の辺りにもガムテープはあったと思うが,何回か水を飲ませており,密閉した状態ではなかったと思う。
足のほうをEやDと一緒に巻いた記憶はあるが,胸部を巻いた記憶はない。途中で私はガムテープを買いに外出し,戻ってきたらOは寝袋に入れられ,顔が出ていた状態だった。もともと鼻筋とか目の部分とか口の部分にはガムテープが巻かれていたので,更に顔面にガムテープを巻くことはしていない。Oの鼻での呼吸状態は,鼻が若干つぶれて息が通りにくくなっていたような感じではなく,通常どおりだった。
MとPについては,寝袋に入れたが,体のどこを巻いたかは覚えておらず,目と鼻の部分はもともとガムテープが巻かれていたので,その上から巻いてはいない。
途中でOの呼吸状態について,多少苦しそうだというのはあったかもしれないが,呼吸状態がひどいということはなく,鼻水や痰のようなものを引きずる音もなかった。Oがウッと音を出して呼吸音が
止まって,一瞬息が詰まったような状況になったことや,前方に大き
くのけ反って,そのままの姿勢で固まったということもなかった。捜査段階では,Oの最期に関する取調べが1か月以上にわたって延々と続き,げっぷかしゃっくりか何かしていたかもしれないなどと言うと,しゃっくりだったらのけ反るなどと誘導されながら,大げさに書かれて事実と異なる内容の調書が作られ,押し切られたような感じでサインをしてしまった。
Mらを殺害した後,死体4体にガムテープを巻いたり寝袋に入れたりして梱包作業をしたが,具体的にどのようにしたかについては覚えていない。

捜査段階における供述
Oについては,巻き始める前,手錠をかけられ,足首をガムテープで巻かれ,顔面については騒がれないために,目と口の辺りにそれぞれ一重か二重くらいガムテープが巻かれていたが,口は完全に密閉している状態ではなかった。
3人でまずOの上半身を起こし,胸の辺りと両腕をひとまとめにして何重もガムテープを巻いた。その後,Oの体を寝袋に入れ,寝袋の上からもガムテープを何重も巻いた。さらに,鼻の穴の部分を除いて顔面をびっしりと強くガムテープで巻いた。鼻が若干潰れて息が通りにくくなっていたと思う。また,口を完全にふさいだので,Oの声も明確に聞き取ることはできなくなった。
M,Pについては,寝袋に入れた後で,その上からガムテープを巻いており,顔面についても鼻の穴を除いてぐるぐる巻きにした。
Oは若干息苦しそうな状態になり,死亡する30分ないし1時間位前から鼻水や痰のようなものを引きずっている音が聞こえだし,酷い鼻づまりの状態で息苦しそうになったが,短時間のうちに息が詰まって死ぬという考えは頭に浮かばなかった。そのような状態が30分な
いし1時間くらい続いた後,Oはウッと音を出し,呼吸音が止ま
り,一瞬息が詰まった状態になった後,息苦しそうな状態で呼吸を再開した。その数分後,Oはウッという息が完全に詰まったような
呻き声をあげ,胸の辺りを前方に大きくのけぞらせた状態で固まっており,死亡したことがわかった。
死亡後,外から見て死体だとわからないようにするために,死体の梱包作業を行ったが,ガムテープを巻くとすれば,顔面と頭部の全部が隠れるように巻くはずなので,Oについては死亡後は顔面にはガムテープを巻かずに,直接寝袋を掛けたはずである。
(イ)


まず,Oの足の部分を持ち上げ,Eが,足のつま先から,すねくらい
まで動きが取れないくらい何重かに巻いた。その後,上半身を支え,Eが,腕と胸とか背中を一くくりで巻いた。途中でCがガムテープを買いに外出し,その後Oの体を寝袋に入れ,顔が出た状態となり,寝袋の上からも,体の部分にガムテープを巻いたと思う。目や口にはガムテープが既に二重くらいに巻いてあり,その上から,鼻の呼吸を確保しながら顔の肌が見えないように,ガムテープを巻いた。
MとPに関しては,Oの場合と違って最初から寝袋に入れてその上からガムテープを巻き,顔の部分は,Oと同様にして巻いた。
Oの呼吸状態は普通で,危険を感じるということは,全くなかった。その後,私はたばこを買いに1回外出し,戻ってきたらOが亡くなったということをEから聞かされた。
Mらを殺害した後,O,M,Pの3人の皮膚が見えないようにするため,顔に多分ガムテープを巻いた後,頭の方から寝袋を掛けるなどして梱包したという記憶だが,Oの死体の顔面を撮影した写真を見ると,頭皮が見えているので,ガムテープを巻かずに寝袋を被せただけの可能性
もある。
(ウ)


Oにガムテープを巻き始めたときに,恐らくBにGが検挙されたこと
の報告の電話がかかってきた。まず,Dが足首辺りを持って,足を持ち上げるようにして,足首のほうから腰の辺りまで私が巻いていった。その後,私がOの上半身を起こし,DとCが,Oのお腹のへその上辺りから肩の下ぐらいまでガムテープを巻いた。顔についても,鼻は呼吸ができる程度に空けて,目と口の部分などほかの部分を巻いていると思う。口の部分は,そのときはいったんふさいだが,後々にまたお茶を上げたか何かで,ずれたと思う。その後,Oを寝袋に入れ,その上からも更に体にガムテープを巻いたと思う。また,Oを巻いている途中でCがガムテープを買いに外出したことがあった。
MとPについては,寝袋に入れて,その上からガムテープを巻き,顔も目や口の部分に巻いていると思う。
Oは,口で息がしづらい分,鼻で息をしており,鼻からの息が抜けるスースーという音がずっとしていた。その後,スースーという音が全くしなくなったので,私はOが寝たのだと思い,寝たかどうかを確認したが反応がなかったので,Oが死亡したことがわかった。

医師B③の証言内容
解剖所見だけで死因が確定されたものはない。肋骨の骨折があり,血色素浸潤のようなものも見られるので,骨折が生前に生じた可能性はあるが,断定はできない。
肋骨骨折が仮に生前に生じていたとした場合,胸郭動揺の状態となり,呼吸不全で死亡することが考えられる。覚せい剤を注射されたほうが酸素の消費量が増えて,呼吸が活発になり,呼吸困難をより強まらしめる要因になる。肋骨骨折や覚せい剤の使用だけでも死亡する可能性はあるが,ガ
ムテープを巻く行為により,顔面については,それによって空気を吸うときの抵抗が増えるので,鼻口部閉鎖に近い状態になって,窒息状態が起きやすくなり,胸部から腹部については,肋骨骨折の痛みを増強し,それによって動揺胸郭での死亡をより起こりやすくするので,死期を早め得る。その場合,死亡直前ころに,鼻水や痰のようなものを引きずるガラガラというような音がしたり,
うっといった呼吸音がして一瞬息が詰まった
後,鼻から息を吐き出して,苦しそうに呼吸を再開し,その数分後に胸を大きくのけぞらせて動かなくなったりすることもありうるが,苦しそうな様子を見せない状態でいるということもあり得る。一度呼吸障害が悪化して意識不明みたいにまでなってしまうと,植物状態みたいに動かなくなったまま呼吸だけしているということはあるので,最後も同じような状態で,特に大きく反応しないで死んでしまうこともある。

Oを巻いた状況及び死因について
Cら3名の前記アの各供述のうち,Oを巻いた状況及び死体の梱包状況に関する部分についてみるに,Cの捜査段階における供述と,Dの公判供述は,Oの下半身及び上半身をガムテープで緊縛した上,寝袋に入れ,その上から全身にガムテープを巻いたこと,その際,鼻の呼吸を確保して,目や口の部分などをガムテープで巻いてふさいだこと並びにM及びPの緊縛状況について概ね一致している。また,死亡後に顔面にガムテープを巻いたかどうかについて,Dは巻いた記憶があると述べるが,写真を示され,巻いていない可能性があるとも述べていることからすると,この点についての供述も上記Cの供述と概ね一致しているといえる。そして,これらの点については,前記2で認められる死体の状況とも整合しており,その限度では十分信用することができる。また,Eの公判供述も,Oの口の部分のテープは後でずれたと思う旨述べるなど,死体の状況と整合しない部分もあるが,大筋については上記C及びDの各供述と一致しており,その符
合する限度では十分信用できるといえる。
これに対し,Cの公判供述は,O,M及びPに対して,誰がどこを緊縛したかなど記憶があいまいな部分が多い上,その供述する緊縛状況は,死体の状況とも相違しており,直ちには採用することはできない。
前記信用性の是認できる各供述部分によれば,Cらは,Oに対し,胸腹部及び下腿部をガムテープでぐるぐる巻きにした上,頭部を除いて全身を寝袋に入れ,その上から,胸腹部及び下腿部にガムテープを巻いたこと,頭部については,鼻の穴を除いてぐるぐる巻きにし,Oは口で息をすることができない状態になったことが認められる。しかしながら,前記2及び3で認められるC②との交渉状況,殊にC②に生きたまま引き渡す条件として巻き始めたことに照らすと,Cらは,Oの鼻の呼吸は確保して巻いたと推認される。なお,実況見分調書添付の写真などの関係各証拠によれば,発見されたOの死体の鼻部が閉塞に近い状況であったことが認められるものの,同人の鼻軟骨は腐敗しており,上記状況は地中深く長期間埋没されていた結果である可能性も排斥できない。

Oの死亡前の状況についての供述の検討
Oの死亡前の状況に関するCの捜査段階における供述は,前記同様,この点についても,具体的であり,また,その供述内容はB③医師の前記供述とも整合しているのに対し,公判における供述には記憶があいまいな点が多いことからすると,捜査段階における供述の基本的な信用性は肯定でき,特信性がないとする各弁護人の主張は理由がない(もっとも,Cの捜査段階における供述は,Oの呼吸状態が悪化していたことを殊更強調するかのような部分が散見される上,Cが公判において,その取調べが追及的で誘導されたとして具体的にその取調べの様子を語っていることに照らすと,その細部の信用性については慎重に検討する必要がある。。

そこで,さらに,その供述の細部について検討するに,鼻水や痰の音を
聞いたとする供述については,B③医師の証言によれば,そのような事実があった可能性は十分あるものの,かかる事実はD及びEの供述にも現れておらず,前記取調べ状況にもかんがみれば,Cの捜査段階における供述のみをもって直ちに採用することはできない。また,死亡直前の状況について,

Oが『ウッ』と音を出して,一瞬息が詰まった状態になった後,再び,『ウッ』という息が完全に詰まったような呻き声をあげ,胸の辺りを前方に大きくのけぞらせた状態で死亡した。

と供述する部分に関しては,Cは,前記のとおり,公判段階ではかかる事実を否定し,取調官の誘導による旨具体的に供述していることに加え,その場にいたEもこれを否定する供述をしており,このような特異な現象について,CとEとの間で認識が大きく異なることは容易には考えられないこと,C及びEの各公判供述にあるようなOの死亡直前の状況は,B③医師の前記証言に照らして矛盾がないことに照らせば,Cの上記捜査段階における供述について,直ちにその信用性を認めてこれに依拠することは困難というべきであり,Oが静かな状態で突然死亡したとするC及びEの各公判供述を本件証拠上排斥することはできない。
(3)

Oの死因について
前記2で認められるOに対する暴行状況,前記認定の緊縛状況及びOの死
亡直前の状況,死体の埋没経緯や埋没状況及びB③医師の証言によれば,Oは,生前に肋骨骨折が生じていた可能性が高いが,肋骨骨折の有無にかかわらず,覚せい剤注射により酸素消費量が増大している中,口をふさがれて呼吸状態は相当程度悪化している状況において,更に胸腹部を巻き付けられたことで胸部は相当程度圧迫され,呼吸状態を更に悪化させたと考えられ,そのように緊縛されてから数時間以内に死亡していることからすると,その死因は,覚せい剤注射と,口や胸部への緊縛行為による呼吸制限などの複合的な要因により,呼吸状態が著しく悪化し,呼吸不全に陥って死亡したものと
認められる(さらに,生前に肋骨骨折が生じていれば,胸郭動揺の状態となり,胸部への緊縛行為によって胸部が圧迫され,呼吸状態を更に悪化させた結果,呼吸不全に陥って死亡したものと認められる。。

(4)

殺人罪の成否について
以上を踏まえ,Oに対する殺人罪の成否について検討する。


まず,Cらが殺意をもって緊縛行為を行ったか否かについては,前記のとおり,Cらは,C②に生きたまま引き渡すためにOを緊縛し,鼻の呼吸を確保して巻いたものと認められることからすると,緊縛行為時点において,未必的にも殺意があったとは認められない。


さらに,その後の放置行為の際,Cらが殺意を有していたかについてみるに,CらはOを放置したことによって,結果として前記のとおり呼吸状態の悪化により死亡の危険を招き,呼吸不全により死亡させているが,Cらは当初鼻の呼吸を確保したとの認識を有していたのであるから,緊縛前よりも呼吸状態が幾分か悪化していることは当然理解できるとしても,覚せい剤注射や胸部への緊縛行為などの複合的な要因(なお,当時Oに肋骨骨折が生じていた可能性も高いが,Cらがこの骨折が生じていたことを認識していたとうかがわせる事情は認められない。
)によって,呼吸状態が
著しく悪化しており,死亡の危険が生じているということまで,通常人が予見することは甚だ困難というべきである。
また,前記2及び3で認められるC②との交渉状況に照らせば,C②との交渉が難航していたことはうかがわれるものの,未だ交渉は決裂しておらず,自ら殺害しなくても良いように,C②の指示を受けてOに対する緊縛行為を行ったものであるから,Oを緊縛後に放置した際,Cらが当該緊縛行為によりOが死亡することを未必的にも認識,認容していたとするには合理的な疑いが残る。


ところで,本件においては,Cらは,Oらの殺害と死体の処分をC②に
任せることを企図しており,本件緊縛行為は,C②への殺害依頼のために行われ,その結果,Oは死亡している。
この点,検察官は,被告人らの殺害計画は,
C②にOらを引き渡して殺害するか,C②との交渉が決裂した場合にはCらが直接Oらを殺害するというものであり,本件緊縛行為は,被告人らが同計画を遂行させるために必要不可欠な行為である上,その後に同計画を遂行する上で障害となるような特段の事情もなく,また,同計画における殺害行為と時間的場所的に密着した関係にあったから殺人の実行の着手に当たるとして,殺人罪が成立すると主張する(最高裁平成16年3月22日第1小法廷決定・刑集58巻3号187頁参照)

しかしながら,本件緊縛行為は,それ自体が死亡の結果発生の客観的な危険性が認められる行為であるものの,前記のとおり,CらはあくまでもC②に引渡しをする目的で行ったものであって,自ら殺害を行うことを容易にするために行ったものとは認められない。
そして,Cらは,C②に引渡しをすれば,最終的にはC②やその関係者が何らかの方法でOを殺害するとの認識を有していたこと,その際,本件緊縛行為により,Oらの抵抗が排除され,殺害が容易になると予想できたことは認められはするものの,C②とは前記のとおり交渉途中であり,具体的にいつどのような方法で引き渡し,C②らがどのような方法をもって殺害するのかなどといった具体的な方法は何ら決定していなかったと認められる。このようなC②との交渉経過及びCらの認識に照らせば,本件緊縛行為と実際に想定される殺害行為との間には,時間的・場所的密着性があるとも主観的な関連性が大きいともいえず,上記最高裁決定とは事案を異にするというべきであり,本件緊縛行為をもって殺人罪の実行の着手があったと認めることはできない。検察官の上記主張は理由がない。エ
以上のとおりであるから,CらのOに対する緊縛行為及び放置行為につ
いて,殺人の実行行為や故意は認められず,被告人両名について,Oに対する殺人罪は成立しない。
また,Oに対して,ガムテープを口や鼻筋,胸部などに巻いた行為は単なる監禁継続のために行われたものではなく,暴行に当たると評価でき,CらがOを緊縛して放置し,死亡させた行為は,Oに対する傷害致死罪に該当する。そして,前記のとおり,Cらが,上記緊縛行為を開始するまでの時点において,被告人両名とCらとの間には,C②に引き渡すなどの方法でOらを殺害するとの内容の共謀が成立し,その具体的な実行方法はCらに委ねられていたものであり,上記暴行は,その共謀内容を遂行する過程で行われたものであるから,上記共謀に包含される。
したがって,被告人両名について,判示のとおり,Cらと共謀の上,Oを緊縛するなどして死亡させた傷害致死罪が成立する。
7
被告人Aの捜査段階における供述調書について
(1)

これまで検討したとおり,判示第1,第2及び第4ないし第6の各事実
については,被告人Aの捜査段階における各供述調書の任意性及び信用性を検討するまでもなく,前掲関係各証拠から認定することができるものであり,判示第3の事実については,上記各供述調書の任意性及び信用性が認められるかどうかにかかわらず,傷害致死の限度でのみ公訴事実が認められることになるから,当裁判所としては,上記各事実を認定する上で,上記各供述調書の任意性及び信用性について更に判断する必要を認めないが,被告人Aの弁護人は,被告人Aの上記各供述調書について任意性がないとして証拠排除の主張をしているので,念のためこの点について付言する。
(2)

被告人A,証人C③検察官及び同D③警察官の各供述等の関係各証拠に
よれば,本件取調状況については以下のとおり認められる。

死刑を示唆する発言の有無
被告人Aは,取調べの当初から,D③警察官から自分自身やCらが死刑
になることを示唆する発言を繰り返しされたと供述しているところ,被告人が,勾留中にかかる発言をされていることを内容とする手紙を弁護人に送付していること,D③警察官自身も,Cらが死刑になるとの発言をしたことは否定しながらも,

被害者4人が亡くなっている事件で当然極刑に値する事件だ。極刑として逮捕して取り調べていくんだ。

との趣旨の発言をしたと認めていることなどからすれば,被告人Aが供述するように,被告人AやCらが死刑になることを示唆する発言が数度にわたってされたことを否定することはできない。

捜査官による偽計を用いた取調べ又は執拗な説得の有無
被告人Aは,捜査官の発言として命を奪ったという表現にすれば殺害を認めたことにならない。M②ホテルでどういう話し合いがあっても法には触れないから署名するように。調書というのはあくまでも捜査に協力したという証拠で,裁判官は調書で君を裁くわけじゃない。今までの供述のままだとBの分を君が罪をかぶることになる。などと言われ,署名を拒否しているにもかかわらず,署名するように執拗に説得された旨供述する。これについて,取調べを担当したC③検察官は,
被告人Aがホテルで被害者たちを殺すことに決めたが,殺したという表現を使われると,殺人の刑事責任を認めたことになってしまうので嫌だと言って署名を拒否したので,生の事実として,命を奪ったという言葉であれば納得できるんではないかと被告人に確認した。裁判官は被告人の調書だけで犯罪を裁くわけじゃないとは言った。Bをかばっているというような話はした。などと供述する。このようなC③検察官の供述に照らしても,被告人の上記供述が全くの虚偽であるとは考えられないことに加え,命を奪ったとの記載がされた経過について,弁護人が上記被告人Aの供述に沿う内容の通知書を検察官宛に送付していること,その取調べ時間等にかんがみても,殺人の責任を否定し,調書の署名を拒否していた被告人Aに対し,命を奪ったとい
う表現について被告人Aが納得して署名させるために相当長時間にわたって追及や説得をしていたとうかがえることなどに照らせば,被告人Aの供述する上記事実があったことについても否定しがたいというべきである。ウ
任意性について
以上の取調べ担当官の言動等に加え,関係証拠から認められる取調べ時間等の客観的取調べ状況,作成された供述調書の内容に照らして検討するに,被告人Aは,平成17年6月30日にM及びNに対する逮捕監禁の被疑事実により通常逮捕されて以降,同年9月2日に至るまで,ほぼ連日的に数時間にわたる取調べを受け,その初期の段階から被告人Aが殺人の刑事責任について否認する供述をしていたことなどから,取調べ担当の警察官から再三にわたって認めなければ被告人A自身やCらが死刑になることを示唆する発言をされたほか,取調べ担当検察官からも否認すると情状が悪いという趣旨の発言をされるなどしながら,事実はこうでなかったのかといった誘導的な質問をされ,署名を拒否するや,

命を奪ったという表現にすれば殺害を認めたことにならない。

などと相当長時間にわたって署名するように追及や執拗な説得をされた可能性があるというべきである。もとより被疑者から供述を引き出すためにある程度の誘導的,追及的な取調べを行うことや,取調べが連日にわたることもやむを得ない場合があるといえるが,本件のような取調べ方法は,被疑者を心理的に圧迫し,誘導によって供述を引き出す結果となる危険をはらむものであって,適切さを欠いたものであったといわざるを得ない。
しかしながら,そのような取調べが行われたことによって作成された供述調書の信用性の判断に慎重な検討を要することはいうまでもないが,死刑になることを示唆する発言については,認める供述をすれば死刑を回避できることを暗に示すなどの利益誘導や約束などがあったとも,被告人Aがそのように理解したとも解されないし,命を奪ったとの供述に変えれば
良いとの誘導についても,それによって直ちに殺人についての責任を認めたことにはならないとの説明はあながち誤りとはいえない。そして,被告人A自身も取調べ状況を適宜弁護人に報告しながら助言を得るなどしており,その助言もあって,作成された調書について署名を拒否したり,訂正を申し立てていたとうかがえ,作成された調書についても一部被告人に不利な部分はあるものの,公判廷における供述内容に沿う部分も多く,他の自白している共犯者の供述とも相当程度異なっていることなどからすれば,取調官の追及等に影響を受けて供述をした部分があるとしても,全体として被告人の供述するとおりに録取されたものと認めることができる。以上の諸事情に照らせば,被告人Aの供述調書には,任意性を疑わせる事情はないというべきである。
第2
1
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件争点
弁護人は,

被告人Aは,詐欺の実行行為に関与しておらず,Eらとの間に共謀も存在しない。

と主張し,被告人Aもこれに沿う供述をしているので,判示のとおり共謀を認定した理由を補足して説明する。

2
前掲関係各証拠によれば,以下の各事実が認められ,これらの点については,弁護人も特に争ってはいない。
(1)

被告人Aは,知人を通じて知り合ったEらと共に,平成15年5月ころ,
O①の名称で会社を設立して広告業務等を行うようになり,その後Eを中心として同会社においてCDの企画・販売等の音楽関連事業も行うようになったが,同年10月か11月ころからは,同会社の事業資金等を稼ぐため,多重債務者に対して電話をかけ,架空の融資話を持ち掛けて保証金名下に金員を詐取するといういわゆる融資保証金詐欺を開始することとし,Eと共にその人員を集め,東京都新宿区内に事務所を設けて,Eらと共に同詐欺を行うようになった。

その際,同詐欺を行うための準備として,被告人Aが,多重債務者の名簿を,インターネットや知人を介して知った名簿取引業者から入手し,また,他人名義の口座を,知人のブローカーから入手するなどした。同事務所において,各メンバーには,電話をかけて相手を騙す電話係や,振り込ませた現金を引き出す出し子などの役割と各報酬額が決められており,Eは詐取金の管理等を行っていた。また,被告人Aは,詐取金から各メンバーの報酬等を差し引いた残額をEから受け取り,利益として得ていた。その後,W及びA①が電話係として加入するなど,新たな構成員が順次加入して共に同詐欺を繰り返していた。
(2)

(平成16年)6月ころ,被告人Aは,より多くの利益を得るため,同
事務所における詐欺の方法を,融資保証金詐欺から,不特定多数の者に架空の債務があることを告げる内容のはがきを郵送するなどして金員を詐取するいわゆる架空請求詐欺へ変更し,Eを同事務所の責任者として,
電話係
や出し子などの組織体系を維持したまま同詐欺を行うようになり,その後,YやXらが順次加入した。
同事務所において,電話係は,W,A①,X及びYが行い,Eは,詐取金を被告人Aに届ける役割などを担っていた。また,各メンバーの報酬については,E,W及びA①は詐取金総額の2パーセントと決められ,Yは時給2000円と1件成功するごとに1万円と定められていた。被告人Aは,これまで同様,これらの報酬等を控除した利益を享受していた。
また,その後,被告人Aは,Bを中心とした詐欺グループも結成し,同グループにおいても,架空請求詐欺を開始した。
被告人Aらは,同詐欺を行う際,不特定多数の者の住所,氏名が記載された宛名シールや,他人名義の口座等を利用しており,宛名シールについては,被告人Aが,これまでと同様の方法により名簿取引業者から入手してEらに手渡すなどしており,口座についても,被告人Aが,同様にブローカーから
入手していた。被告人Aは,宛名シールを購入する際,名簿取引業者から被告人Aが偽名として使用していたE③宛の領収証を受領していた。また,口座については,EやBが自ら入手することもあった。
(3)

被告人Aは,8月ころ,警察の取締りが厳しくなるとの情報を聞いたこ
とや,事務所に警察の関係者から電話がかけられたことなどから,同月下旬ころ,詐欺を中止することとし,E及びBを責任者とする両事務所のメンバーをカラオケ店に集め,詐欺を中止することが決定された。
また,その後,被告人Aは,前記両事務所のメンバーを事務所に集め,別に存在していたS①を中心とした架空請求詐欺グループのメンバーも集まり,同所において,集まったメンバーに対し,S①と共にグループを解散する旨改めて明言するとともに,表の仕事をするように促すなどした。
(4)

10月初めころ,被告人Aは,当時交際していた女性のほか,W,A①,
X及びYと共に,東京都新宿区にあるボウリング場に行き,ボウリングや卓球などを行った。
(5)

E,W,A①,X及びYらは,10月4日から架空請求詐欺を再開した。
その際の役割は,Wが電話係のまとめ役,A①が,出し子から回収した詐取金をEに届ける役,X及びYが電話係,B①,C①及びD①が出し子であった。また,報酬については,W及びA①が詐取金総額の各5パーセント,X及びYが各2パーセントであった。
(6)

11月初めころ,被告人Aは,E,W,A①,L,F③,B,D及びF
らと共に,飲食店G③に集まり,その際,被告人Aは,Eらから1000万円以上の現金を借り入れた。
(7)

11月5日にB①及びC①が逮捕され,11月30日にA①が逮捕され
たため,Eらは同詐欺の実行を中止した。
3
上記各事実によれば,被告人Aは,Eと共に(平成16年)8月まで,組織的に架空請求詐欺を行い,8月に詐欺を中止したこと,10月4日からEを中
心として再び同詐欺が開始され,その際の組織体系は中止前と同様のものであったことが認められる。そこで,被告人Aが,再開後の詐欺に関与していたか否かについて,関係者の供述を検討する。
4
各供述の検討
(1)

まず,E,W,A①及び被告人Aの各公判供述の概要は以下のとおりで
ある。


9月中旬ころ,車の中で,Aから,
手持ちの資金が少なくなってきたから,そろそろまた架空請求をやろうと思う。再開するにしてもリスクはどんどん下げていきたいから,新しい人間はどんどん増やしていって,どんどん自分たちのリスクを下げていこう。Wは『L②』で使いたいから,外してほしい。ということを言われた。その後,幹部会のメンバー全員に話をしたところ,Wが電話で,

お金がないので是非やりたい。

と言っていたので,そのことをAに伝えたところ,AもWが加わることを了承した。各メンバーの役割について,最終的にはAから,Wが電話係の教育係,A①が出し子からお金を回収する役で,報酬は2パーセントという話をされた。
その後,麻布にあるU②にF③,L,W,A①,X,Yを集め,上にはAがいることや,Aから言われた報酬の話をしたところ,W,A①,X,Yが給料を上げてほしいと言っていたので,その旨Aに伝えた。私の役割は,再開前と同じようにAにお金を持って行く役割で,報酬は純利益の10パーセントと決められた。
再開後も再開前と同様に,売上げをAの指定した場所に持って行って受け渡しをしていた。また,口座については,お金を渡すときにAからもらうときもあったが,Wらの現場のほうで仕入れていたことが多かったんじゃないかと思う。宛名シールはAから連絡を受けて,Xに取りに行かせて
いた。
G③に集まったのは,Aから,保険を掛けた車を売って,盗難保険ももらうという怪しげな投資話をされ,全員に1人500万円ずつくらい出させてくれないかと言われたためであった。事前に口裏合わせをした上で,1人200万円ずつしか出せないと言ったところ,Aから,

そんなものしか出ないの。部長のところは売上げも上がっていないし。H②ちゃんとこはもうちょっと上がっているんだけどね。

と言われた。その後,みんなで話し合って,Aからお金を出せと言われたときのために,売上げを過小にAに報告して,売上げの一部をストックすることになった。
B①とC①が逮捕されたことをAに報告した際,Aから

大丈夫だよ。もうしばらく続けよう。

と言われ,その後A①が逮捕された際には,Aからやめようと言われた。


9月中旬ころ,Eから電話で,

Y,Xの2人にやらせるんだけど,それを手伝ってくれ。

などと架空請求詐欺を再開すると言われたので,

社長の了解を得ているんですか。

と確認したところ,了解を得ていないということだったので,確認を取ってほしいと強くお願いした。その後,Eから二,三週間という期限付きでAの了解をもらった旨の連絡を受けたので,架空請求詐欺を始めることにした。
10月3日にボウリング場で,帰り際にAに

明日からやります。

と伝えたところ,じゃあ頑張ってとか,気を付けてねなどと言われた。また,架空請求詐欺を再開した後も,Aから架空請求詐欺の状況について,売上げ状況や,名簿が足りているかとか,銀行口座が足りているかなどということを何度か聞かれたことがあった。
宛名シールについては,Aが手配をして,その旨をEか私に連絡を入れ,
主にX,Yが取りに行っており,領収証に書かれた宛名はE③となっていた。
G③では,Aが,また詐欺をする資金が必要だからということで,一人500万円貸してくれという話になっていた。また,私たちの事務所の売上げが悪かったので,AがEに対し,

何で上がらないんだろうね。やり方悪いんじゃないの。H②さんにでも教えてもらいなよ。

みたいなことを言っていた。また,Aから,

もし必要だったら,今やっている詐欺の売上げから抜いておいて。

というふうに言われた。B①が逮捕された際,Aに詐欺を続けるかどうか相談したところ,Aは,自分たちまで捕まることはないだろうと言っていた。
また,Eが

Aに売上げを全部渡すと,金全部使っちゃうから,こっちでためとこう。

という話をしていた。ウ
A①
9月下旬ころ,Eから新宿にあるG③という店に呼び出され,Eから,架空請求詐欺を再開するので,出し子からお金を回収する役をやってほしいと頼まれた。最初,2パーセントという給料を提示され,私がそれだったらやらないなどと言ったところ,給料を5パーセントに上げられ,1週間とか10日ぐらいしかやらないと言っていたため,断りきれずに承諾した。その後,別の場所で,Eから,自分やWが働いていることをAには内緒にするように話をされた。
再開後は,XやYが宛名シールを受け取りに行っており,その領収証はAの偽名のE③の名前が記載されていた。
G③では,AがEに対し,

H②さんのほうは1日1000万くらい上がっているみたいだけど,部長のほうでももうちょっと頑張ってみたら。やり方H②さんに教えてもらったら。

みたいなことを言っていた。また,Aから,車を買って何か詐欺みたいなことをするということについて,1
人500万円ずつ貸してくれと言われた。Aは,

急に必要になって返してほしいというときは,売上げの中から持っていってくれてもいい。

というようなことを言っていたと思う。
その後,またAからそういったことを言われたときのために,本来Aに行くはずの売上げの一部をストックして,Eが保管しておくとの対策を取るようになった。

被告人A
Eが架空請求詐欺を再開していたことはA①が逮捕された後,逮捕事実が報道されるまで全く知らなかった。
9月中旬ころ,喫茶店か車の中で,Eから,警察の動きについて聞かれたことがあり,架空請求詐欺をもう一回やりたいというニュアンスだったので,

撲滅するという話だから,危ないよ。

と答えた。ボウリング場でWらと会ったときのことについては,帰り際に6人全員がいる状態から,私と彼女だけがその集団から離れて帰って行った状況だったので,Wと私が2人だけで話す機会はなく,架空請求詐欺を行っていることについて何か言われたということはなかった。
10月24日ころ,Bから架空請求詐欺を再開したいので,一緒にやらないかと言われ,名簿業者を教えてほしいと言われた。また,Bは10月に既に別のグループを再開したが,売上げが上がらないとも言っていた。Bの誘いを断ろうとしたが,強く誘われたことなどもあって断り切れずに承諾し,名簿業者を教える代わりに純利益の25パーセントをもらうことになった。
G③に集まったのは,O①の事業の運転資金が払えなかったため,お金を貸してもらうためであり,EやWらにそのように説明した。G③では,車の盗難保険の詐欺の話もしたが,そのような詐欺がはやっているという世間話をしただけであった。貸したお金について,売上げから抜いてくれ
という話はしておらず,詐欺の方法を教えた対価として500万円もらえる予定だったので,Lに対して,その中から必要なお金を取って良いと言っただけである。
(2)

検討
上記各供述を検討する前提として,Eは,被告人Aに本件の責任を転嫁する動機が十分認められる立場にあって,その信用性の判断には慎重を期すべきといえ,また,W及びA①についても,再開することは本意ではなかったかの供述もしていることからすれば,自らの責任を軽減するため,Eとのやり取りについて過剰な評価を交えた供述などをするおそれは否定できないが,被告人Aとの関係では,あえて虚言を弄してまでその関与を捏造するおそれが高いとまではいいがたい。


そこで,その内容についてみるに,W及びA①の供述によれば,宛名シールを入手した際の領収証の記載は,再開後も中断前と同じE③と記載されていた事実が優に認められるところ,同詐欺の再開後,被告人Aから宛名シールの手配等について随時連絡を受けていたとのE及びWの各供述内容は,宛名シールの手配について架空請求を中断する前は主に被告人Aがしており,上記のとおり領収証の記載も同じであることと整合性が高い。この点に加えて,G③での被告人Aの発言内容やその後に売上金の一部をストックしてEが管理することになったという内容について,上記3名の供述は概ね一致している上,その内容もG③に行く前に集まって1人200万円だけ出そうと決めたことや,売上金をストックするに至った経緯等について具体性に富み,特段不自然なところはないことからすると,弁護人の指摘するように,供述に一部くい違う点があることや,捜査段階における供述に変遷が見られることなどを考慮しても,これらの供述の信用性は高いということができる。そうすると,上記の各供述によれば,被告人Aは,再開後の宛名シールの手配に関与していたほか,遅くても11
月初めころにG③に集まった際には,Eらが架空請求詐欺を行っていることを知っており,その詐取金の一部をEから受領していたことが認められる。

そして,Wの供述は,ボウリング場で被告人Aに詐欺の再開を伝えたことや,再開後にも随時被告人Aから詐欺の実施状況を尋ねられたことなどの内容を含め,全体として上記イの点と整合するものであり,前記のとおり,Wが殊更虚偽の供述を述べているともうかがえないことからすると,Wの供述は全体として信用できるというべきである。


さらに,本件架空請求詐欺を開始した経緯に関する供述内容を検討するに,Wは,Eから手伝ってほしいと頼まれたと供述し,A①もEからその場で報酬額の変更の提示を受けた旨供述しているのに対し,Eは,被告人Aから再開の指示を受けてWらに同指示内容を伝えるとともに,WやA①からの要望を受け,その内容について被告人Aの了解を得た旨述べている。そして,前記Eの立場に照らせば,Eの上記供述内容は,自らの責任を矮小化しようとする意図の表れともみることができ,その全部を直ちに採用することは困難というべきである。しかしながら,Eの供述のうち,9月中旬ころに被告人Aと意思を相通じて再開することにしたとの点については,前記2の各事実や,上記イの点と整合し,Eが当初から被告人Aの了承を得て本件詐欺を再開したものと考えるのが合理的であることからすると,少なくともその限度では十分信用することができるというべきである。

以上のとおり,E,W,A①の各供述は基本的に信用でき,これに反する被告人Aの上記供述は,基本的にその信用性は乏しい上,再開するのは危険であるとの認識を持っていたというのに,Bから架空請求詐欺の再開を持ち掛けられるや,強く誘われたためとはいえ,これを承諾して利益を得るようになったなどと不合理な内容を含んでおり,信用することはできない。

5
なお,弁護人は,被告人Aが再開後の詐欺に関与していないことの裏付けとして,Eが詐欺を再開する独自の動機があったことや,Eが再開を主導していたことを挙げている。この点については,Wが,前記のとおりEから,メンバーに加わるように頼まれたと供述し,A①も,Eから自分やWが働いていることを被告人Aに内緒にするように言われたことや,Eがその場で報酬額の引き上げを提示したことなどを供述しており,これらの供述は,Eが,同詐欺の再開に向けて,被告人Aの了解を得ずに自らメンバーやその報酬額を決定するなど,主導的な役割を果たしていたことをうかがわせる事情とみることができる。しかしながら,Eが独自に詐欺を再開する動機がなかったとはいえないことを加味しても,Eが中断前にも現場の責任者として中心的な役割を果たしていたことを考慮すれば,Eの上記行動は,被告人Aとの間で再開の話があったことを前提としても何ら矛盾するものではなく,特段不自然なものともいえないのであって,これらの事情は上記Eらの供述の信用性を阻害するものとはいえない。
また,弁護人は,被告人Aが,警察の取締りに強い危機感を抱いており,メンバーに対しても,表の仕事に就くよう勧めていたことを指摘するが,被告人Aはそのような危機感を抱いていながらもBが再開することは了承したというのであるから,被告人Aに再開の動機がなかったとはいえない上,メンバーに表の仕事を紹介したとしても,被告人A自身がそのようないわゆる表の仕事と架空請求詐欺を並行して行っていたことからすると,EやWが供述するように,被告人Aが,主要なメンバーに対しては,なるべく現場から離れて詐取金だけが得られるようにするとの話をしていたとの内容に沿うものといえる。したがって,これらの点についても被告人Aが再開後の詐欺に関与していないことの裏付けとはいいがたく,被告人Aが再開後の詐欺行為に関与していたことを内容とする前記Eらの供述の信用性を左右するものとはいえない。

6
以上によれば,被告人A及びEが,9月中旬ころに,架空請求詐欺を再開す
ることとし,その後,EがWやA①らに架空請求詐欺を再開する旨を告げ,その準備をするなどして架空請求詐欺を開始したこと,同詐欺を行う際,被告人Aが宛名シールの手配に関与していた上,詐取金の一部をEから継続的に受領していたことなどの事実が認められ,これらを総合すると,被告人AとEらとの間に本件各犯行についての共謀が成立していたことが認められる。(法令の適用)
被告人Aについて


判示第1の所為のうち,
Mに対する逮捕監禁致傷の点につき,
包括して刑法60条,221条に該当するので,刑法10条を適
用し,平成17年法律第66号附則10条により同法による改正
前の刑法220条所定の刑と,刑法6条,10条により軽い行為
時法である平成16年法律第156号による改正前の刑法204
条所定の刑とを比較し,重い上記改正前の刑法204条所定の懲
役刑によって処断(ただし,短期は上記改正前の刑法220条所
定の刑のそれによる。

O及びPに対する監禁の点につき,
それぞれ刑法60条,前記改正前の刑法220条
Nに対する逮捕監禁の点につき,
包括して刑法60条,前記改正前の刑法220条
判示第2及び第3の各所為につき,
いずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法205条(行為時においては上記改正前の刑法205条に該当し,その刑の長期はその改正前の刑法12条1項によることとなり,裁判時においては上記改正後の刑法205条に該当し,その刑の長期はその改正後の刑法12
条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)
判示第4及び第5の各所為につき,
いずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法199条(行為時においては上記改正前の刑法199条に該当し,その有期懲役刑の長期はその改正前の刑法12条1項によることとなり,裁判時においては上記改正後の刑法199条に該当し,その有期懲役刑の長期はその改正後の刑法12条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。

判示第6の所為につき,
被害者ごとにそれぞれ刑法60条,190条
判示第7の別紙一覧表番号1,4,5,8,13,15ないし17,19ないし24の各所為につき,
いずれも包括して刑法60条,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条1項9号(刑法246条1項)
(刑の長期は,行為時に
おいては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。

判示第7の別紙一覧表番号2,3,6,7,9ないし12,14,18,25,26の各所為につき,
いずれも刑法60条,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条1項9号(刑法246条1項)
(刑の長期は,行為時においては
上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があっ
たときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)
科刑上一罪の処理
判示第1につき,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,1罪として最も重いMに対する逮捕監禁致傷罪の刑で処断)
判示第6につき,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,1罪として犯情の最も重いMに対する死体遺棄罪の刑で処断)
刑種の選択
判示第4及び第5の各罪につき,いずれも死刑
併合罪の処理
刑法45条前段,46条1項本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第5の罪の刑で処断し他の刑を科さない。

訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
被告人Bについて


判示第1の所為のうち,
Mに対する逮捕監禁致傷の点につき,
包括して刑法60条,221条に該当するので,刑法10条を適
用し,平成17年法律第66号附則10条により同法による改正
前の刑法220条所定の刑と,刑法6条,10条により軽い行為
時法である平成16年法律第156号による改正前の刑法204
条所定の刑とを比較し,重い上記改正前の刑法204条所定の懲
役刑によって処断(ただし,短期は上記改正前の刑法220条所
定の刑のそれによる。


O及びPに対する監禁の点につき,
それぞれ刑法60条,前記改正前の刑法220条
Nに対する逮捕監禁の点につき,
包括して刑法60条,前記改正前の刑法220条
判示第2及び第3の各所為につき,
いずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法205条(行為時においては上記改正前の刑法205条に該当し,その刑の長期はその改正前の刑法12条1項によることとなり,裁判時においては上記改正後の刑法205条に該当し,その刑の長期はその改正後の刑法12条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)
判示第4及び第5の各所為につき,
いずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法199条(行為時においては上記改正前の刑法199条に該当し,その有期懲役刑の長期はその改正前の刑法12条1項によることとなり,裁判時においては上記改正後の刑法199条に該当し,その有期懲役刑の長期はその改正後の刑法12条1項によることとなるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。

判示第6の所為につき,
被害者ごとにそれぞれ刑法60条,190条
判示第8の所為につき,
刑法204条
科刑上一罪の処理
判示第1につき,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,1罪として最も重いMに対する逮捕監禁致傷罪の刑で処
断)
判示第6につき,刑法54条1項前段,10条(1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,1罪として犯情の最も重いMに対する死体遺棄罪の刑で処断)
刑種の選択
判示第4及び第5の各罪につき,いずれも無期懲役刑
判示第8の罪につき,懲役刑
併合罪の処理
刑法45条前段,46条2項本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第5の罪の刑で処断し他の刑を科さない。

未決勾留日数の本刑算入
刑法21条
訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
第1

事案の概要
本件は,いわゆる架空請求詐欺を行う組織の構成員であった被告人両名が,中国人マフィアに被告人Aらを襲撃させて多額の現金を強奪する計画を上記組織の構成員である被害者4名が立てていたことを知り,C,Dほか多数の構成員と共謀の上,被害者M及び同Nに後ろ手錠をかけて,本件事務所に連行し,暴行を加えるなどして逮捕監禁し,被害者O及び同Pも手錠又はひもを用いて後ろ手に拘束し,暴行を加えるなどして監禁し(判示第1)
,被害者Nに対し
て私的制裁のために,他の共犯者とともに,こもごも断続的に殴る蹴るなどした上,熱湯を掛け,覚せい剤を注射するなどの暴行を加えて死亡させ(判示第2)
,同様に殴る蹴るなどしたことにより衰弱状態にあった被害者Oに対しても,顔面及び胸部を緊縛するなどの暴行を加えて死亡させ(判示第3),さら

に,被害者M及び同Pの鼻口部をふさいで殺害し(判示第4,第5),被害者
Mら4名の死体を茨城県内に運搬して暴力団関係者に依頼して土中に遺棄した(判示第6)ほか,被告人Aが,上記組織による団体活動として,いわゆる架空請求詐欺により,被害者26名から,合計4752万9740円を詐取し(判示第7)
,被告人Bが上記被疑事実等による勾留中に留置場の同室者に暴
行を加え,傷害を負わせた(判示第8)という事案である。
第2
1
被告人両名の身上,経歴等
被告人A
被告人Aは,昭和54年5月23日,福岡県福岡市で出生し,父親と別居して母親と共に上京し,東京都練馬区内の小中学校を卒業後,都立高校に進学し,プロのサッカー選手になることを志してサッカーに打ち込むなどしていたが,恐喝未遂事件を起こしたことを契機に同高校を中途退学し,栃木県内の私立高校に進学した。その後,同県内のサッカークラブへの入団の誘いを受けたことから,同高校を中途退学し,その後同クラブに通う中,プロのサッカークラブから練習生として誘いを受けるに至ったが,脊椎分離症等の再発によりサッカー選手になる夢を断念し,再び上京してアルバイトをするなどして生計を立てていた。平成12年には,他人名義のクレジットカードを使用して商品を詐取したこと等による詐欺等の容疑で逮捕され,平成13年2月に懲役1年6月,3年間執行猶予の判決を受けた後,静岡県内の旅館,埼玉県内の麻雀店で稼働するなどした後,Cの経営するヤミ金融を手伝うなどしていた。その後,平成15年ころに,広告業等を行う会社を興し,E,D及びGらと共に音楽事業や,飲食店の経営なども展開するようになったが,それと並行して,前記のとおり,融資保証金詐欺や架空請求詐欺を行っていた。被告人Aに婚姻歴はなく,上記の前科1犯を有する。

2
被告人B
被告人Bは,昭和51年9月1日,東京都中野区で出生し,中学卒業後,都
立高校に進学したが,中途退学した。その後はアルバイトやヤミ金融の店長をするなどして生計を立てていた。平成14年ころからは,暴力団組織に加入して同組員として活動していたが,平成15年12月ころに,同組織を抜け出した後,前記のとおり,被告人Aに誘われて同被告人を中心とする融資保証金詐欺のグループに加入し,融資保証金詐欺や,架空請求詐欺を行っていた。被告人Bに婚姻歴はないが,内妻であったSとの間に,本件事件後に生まれた幼い子供がいる。また,平成15年に傷害,窃盗,暴行により懲役3年,4年間執行猶予に処せられた前科1犯を有する。
第3
1
各被告人共通の情状
本件犯行動機及び犯行態様等は以下のとおりである。
(1)

被告人らは,前記のとおり,いわゆる架空請求詐欺を行う組織を結成し,
職業的に同詐欺を行っていたところ,同組織の構成員であった被害者らが中国人マフィアと結託して,被告人らに対する現金強奪計画を立てていることを知ったことから,その計画内容を聞き出すとともに私的制裁を加える目的で,各逮捕監禁ないし監禁行為に及んだものである。被告人らには,襲撃されて殺害されるというおそれもあり,被害者らの計画を阻止する必要があったとはいえ,多人数で拉致するなどして順次監禁して上記目的で執拗に暴力を振るったものであり,集団による暴力行為をもってこれに対抗しようという発想自体,極めて危険かつ短絡的なものといわざるを得ない。
(2)

そして,本件各逮捕監禁ないし監禁等の犯行態様及びその余の各犯行に
至る経緯等についてみるに,被告人らは,軟禁状態にあった被害者Pを利用して詐言を用いるなどして被害者Mを呼び出した上,路上に停車中の車両内にいた同人に対し,6人がかりで金属バット等を持って取り囲み,車両の窓ガラスをたたき割り,同人の大腿部を躊躇することもなくナイフで刺した上,同人を引きずり出すなどの大胆かつ粗暴な態様で車両に押し込めて連行している。その後,被害者Nに対しても,同様に呼び出した上,3人がかりで路
上にいた同被害者を突然金属バットで殴るなどして襲撃し,後ろ手錠をかけるなどの手荒な態様で車両に押し込めて連行したほか,被害者Oに対しても,仕事の打合せなどと称して誘い出した上,本件事務所で待ち構えて多人数で襲いかかり,後ろ手錠をかけるなどして監禁したものであり,Mら3名に対する上記各犯行は,いずれも甚だ卑劣で悪質なものである。さらに,被告人らは,それまで上記監禁行為等に協力させていた被害者Pに対しても,後ろ手に緊縛して殴りつけるなどして,容赦なく監禁しており,誠に非道な犯行といわざるを得ない。
被告人らは,次々と仲間を呼び出すなどした上で,被害者4名を本件事務所内に2日前後の期間監禁し,その間に,後ろ手に緊縛され,抵抗などおよそできない状態の被害者4名に対し,同人らの計画内容を聞き出す目的や,襲撃計画を立てたことに対する報復として,被害者4名の悲痛な悲鳴にも省みることなく,多人数で断続的に凄惨かつ容赦ない暴行を一方的に加えたものである。そして,このような凄惨な暴行の結果,被害者らに重篤な傷害を負わせ,その処遇に困るや,自らの犯罪が発覚することと被害者らに報復されることを防ぐために被害者4名を暴力団関係者に依頼して殺害するとの謀議をするに至り,その交渉の継続中に被害者Nを傷害致死により死亡させながらも,さらに殺人の謀議を維持し,上記暴力団関係者への引渡しを容易にするために,被害者3名の身体をガムテープで何重にも緊縛するなどといった異常な行為の結果,被害者Oを傷害致死により死亡させ,その後上記交渉に失敗するや,最終的に被告人らとCらとの共謀に基づき,Cらにおいて被害者2名を殺害したものであって,上記各犯行の動機は極めて自己中心的,反社会的であり,その悪質性は顕著である。
(3)

次に,傷害致死,殺人,死体遺棄の各犯行態様についてみるに,被害者
Nに対しては,熱湯を掛けた上,激しい悲鳴を上げている同人に対し,更に殴る蹴るなどし,その一方で興味本位にMDMAや覚せい剤を使用するなど
の壮絶な態様の暴行を加えた結果,同人を死亡させており,従前の激しい暴行で負傷し衰弱していた被害者Oに対しても,殺害を依頼した暴力団関係者への引渡しを容易にするなどという理由から,その顔面や胸部を更にガムテープで何重にも緊縛し,呼吸困難に陥らせて死亡させたものであり,両名に対する傷害致死の犯行は,前記犯行に至る経緯やその犯行態様に照らして,誠に残忍かつ非情なものといわざるを得ない。
また,被害者M及び同Pに対しては,前記のとおり,ガムテープでその身体をぐるぐる巻きにされ,抵抗できない状況にあった両名の身体を更に押さえつつ,鼻口部をふさいで両名を一気に殺害したもので,本件殺人は,人命を全く軽視し,強固な殺害意思に基づいた極めて冷酷かつ非道な犯行である。しかも,被告人らは,その後,犯行の発覚を防ぐため,被害者4名の死体を寝袋に入れてガムテープで何重にも巻くなどした上,暴力団関係者に多額の現金を支払ってその処分を依頼し,その結果被害者らの死体は産業廃棄物などとともに約8か月間にわたって土中に埋められ,人相が容易には判別できないほど高度に腐敗した状態にまで至らしめられたものであり,本件死体遺棄の犯行も死者に対する冒とくの態度が甚だしいというほかない。2
そして,本件各犯行により,被害者4名の尊い生命が奪われた結果が極めて重大であることはいうまでもない。
被害者4名は,いずれも突然前記のように襲われるなどして監禁され,凄惨な暴行を一方的に加えられた挙げ句,被害者Nについては,熱湯を掛けられ,背部全体に重篤な熱傷を負いながら,医師の手当を受けることなく放置され,更に殴る蹴るなどのほかMDMAや覚せい剤を使用させられて死亡するに至っており,被害者Oについては,前記暴行により衰弱状態にあったにもかかわらず,更に覚せい剤を注射され,顔面や胸部をガムテープで緊縛された結果呼吸困難に陥り,身動きのできない中放置されたためにそのまま呼吸不全により死亡させられており,被害者M及び同Pについては,被害者N及び同Oが相次い
で死亡して更なる恐怖感を抱く中,全く抵抗できない状態のまま為す術もなく殺害されたものであって,このような経緯で死亡した被害者らの受けた肉体的苦痛,恐怖感,絶望感は筆舌に尽くしがたく,大切な家族を残したまま若くしてその生命を断たれた無念さは察するに余りある。
各被害者の遺族らは,行方不明となっていた各被害者の安否を憂慮し,その無事を祈りながら帰宅を待ち望んでいたのに,約8か月後その思いも空しく,最悪の結果を伝える悲報に接し,無惨に変わり果てた被害者と対面させられたものであり,その際に受けた精神的衝撃や悲しみは計り知れない。そして,各遺族らが,家族を失ったことによる強い悲憤の念を抱き,その処罰感情が峻烈であるのは当然というべきであり,被告人両名に対する極刑を求める心情は十分に理解できる。
3
上記犯行態様の残虐さ及び結果の重大さに照らせば,本件は,稀に見る重大凶悪事件ということができ,さらに,架空請求詐欺グループ内の内紛ともいうべき経緯によって,このような壮絶な犯罪を引き起こしたという事情にかんがみると,本件犯行が,地域社会に多大な衝撃と不安を与えたであろうことは想像に難くなく,本件の社会的影響は重大というべきである。

4
他方において,被告人両名に有利に斟酌すべき事情も認められる。弁護人の主張するように,被害者らが,被告人らを襲撃して殺害し,現金を強奪する計画を立てていたことが本件事件の発端となっていることは否定できず,かかる事情が被告人らの本件各犯行を正当化しうるものでないことはいうまでもないが,被告人らがこれに早急に対応する必要があったという意味では,被告人両名のために,有利に斟酌すべき事情であるということができる。また,監禁を開始した当初は被害者4名に重篤な傷害を与えたり,さらに死亡させることを予定していたものではなく,逮捕監禁後の各犯行は,犯行に加担した各構成員が,感情の赴くままに,めいめいが暴行を加えたことから,結果的に凄惨な暴行を加えるに至ったという面もあり,被害者らの殺害を決意したことに
ついても,被害者らに与えた傷害が重く,その処遇に苦慮したことも起因しているのであって,これらの犯行が,当初から計画された犯行であるとまではいえない。また,最終的にCらが自らの手で被害者らを殺害した行為については,前記のとおり,被告人両名は,Cらに殺害を含めた解決の責任を押しつけ,その具体的な方法はCらに委ねたものであり,被害者らを殺害することについての直接的,具体的な指示があったものではないことも幾ばくかは有利に斟酌すべき事情といえる。
第4
1
各被告人個別の情状
被告人Aについて
(1)

被告人Aは,本件犯行グループを統括していた立場にあり,各メンバー
を招集して指示をするなどしながら次々と仲間を犯行に引き込み,終始主導的かつ中心的な立場で監禁等を実行したものである。そして,自らも狙われたことや裏切られたことに対する怒りに任せて,被害者を殴打した上,覚せい剤を注射したり,包丁で被害者の頭をたたくなどの卑劣で過激な暴行を加え,その結果,被害者らに重篤な傷害を負わせたために,被害者らを解放することが困難となるや,その処遇についてメンバーから意見を聴取し,主導的に話し合いをまとめあげて,被害者4名の殺害と死体処理を暴力団関係者に依頼することを決定した上,他のメンバーにもこれを了承させている。さらに,自らC②に対して多額の現金を支払ってその依頼を遂げ,被害者Nが死亡したとの連絡を受けた後も,その重大性に思いを馳せることもなく,引き続き殺害計画の遂行を企図し,Eに対してC②との交渉状況を確認するように促すなど,被害者らの殺害に向けて中心的かつ積極的な行動を取っていたものである。また,C②との交渉が難航した状況において,今後の対応を検討するためFを呼ぶなどしてQ②ホテルに参集し,Cらが,被告人Bによって殺害等の方法による解決をする責任を押しつけられてやむなくこれを承諾する姿を見るや,それまで首謀者として殺害の謀議をまとめ上げ,終始殺
害に向けて積極的に行動して,共犯者を牽引し,Cらが殺害等の方法による解決の実行をするのを唯一止めうる立場にありながら,被告人Bの行動を最終的に容認して自らも暗にCらにその責任を押しつける態度を示したものである。さらには,C②との交渉が決裂したとの報告を受けた際にも,何らの次善策を講じようともせずに,Cを突き放す態度を示し,その結果被害者らの処理を迫られていたCらが心理的に追いつめられて殺害行為に踏み切ったといえる。そして,その後の死体遺棄についても,被告人Bが手配した死体処理の方法を容認して,この費用として1億円を調達するなど引き続き主導的な役割を果たしたものである。
このように被告人Aは,まず被害者らの襲撃計画を聞くや,Cらと共に多数の共犯者の力を頼んで,被害者らを拉致監禁する方法を選び,自らも感情の赴くまま,共犯者らと苛烈な暴行を被害者らに加えて,被害者らの襲撃計画を聞き出すとともに自らの報復感情を満足させたものである。ところが,その暴行の程度が甚だしく,事態の収拾に苦慮するや,被告人Bが申し出た密かに被害者らに治療を受けさせるという方法を十分顧慮することもなく,共犯者Eが言い出した暴力団組員に殺害等を委ねるという意見を,自らの保身等のために安易に採用し,わずかな時間話し合いをしただけで被害者らの殺害の決定を共犯者らの間でまとめ上げたものであり,その余りに短絡的かつ身勝手な思考は厳しい非難を免れない。そして,多額の金員を支払って暴力団組員に殺害と死体の処理を請け負わせることで共犯者らと殺害計画を進め,被害者Nが死亡し,C②との交渉が難航する中でも,被告人Bの行動を容認することで,警察に発覚することなく事態を収拾させるようにCに強い,その結果,被害者3名を殺害ないし死亡させたものである。被告人Aは,Cらに殺害等の方法による解決を任せた時点では必ずしもCら自身が直ちに殺害することまで想定していたものでないかもしれないが,グループにおける首謀者として,各メンバーに多大な影響力を行使しながら,犯行全般にわた
って終始主導的な役割を果たし,被害者らの殺害を決定し,その実現に向けた行動を終始止めることなく取り続けていたものであり,死体遺棄に至るまでの,その強固な犯意に基づく一連の行動は,被害者らの生命の尊さを全く無視した,極めて非人間的な行為といわざるを得ない。Cらは,最終的に,その殺害の実行を被告人らから押しつけられることになったのであって,被告人Aの果たした役割は極めて重大であり,自らは捕まる危険性のある犯行現場から離れて,Cらに殺害等の事件処理を実行させるなど,狡猾な態度もうかがえ,その罪責は極めて重いというべきである。しかるに,被告人Aは,自己の刑責を免れるため,被害者らの殺害を決定しておらず,殺人について責任を負わない旨の弁解に終始し,被害者遺族に対しても何らの慰謝の措置等も取っていないのであって,その反省は十分とはいいがたく,自らの行った行動を真摯に顧みているともいえない。
また,被告人Aは,判示第7のとおり,組織的な詐欺を敢行しているところ,その手口は,法務省認可法人などと偽って債権回収業務を行う正規の会社であるかのように装い,電子消費料金等の名目で架空の債務が存在することを記載したはがきを不特定多数の者に送り付け,問い合わせのために電話をかけてきた被害者らに対し,裁判取り下げ費用等のために,すぐに現金を振り込まなければならず,振り込んだ現金は返還されるなどと言葉巧みに申し向けて,現金を振り込ませて詐取するというものである。しかも,被告人Aらは,多くの構成員によって,はがきへの印刷,はがきの郵送,電話による欺罔,詐取金の払戻し,詐取金の回収及びその管理等を分担し,その役割に応じて報酬を決めるなどして,職業的かつ常習的に本件各犯行を行っていたものであることからすると,本件は非常に巧妙かつ悪質な犯行といわざるを得ない。その結果,被害者は26名にも上り,その被害金額も4700万円以上と多額である。このような組織的犯行において,被告人Aは,組織を統括する立場として,Eと共に詐欺の実行を決定し,必要な資金や宛名シー
ル等の手配を行い,詐取金から各構成員の報酬や経費等を除いた純利益を自己の取り分として享受していたものであって,その役割は極めて重大である。そして,被告人Aは,この点についても関与を否認し,弁解に終始しているのであって,十分な反省の態度がみられない。
ところで,被告人Aは,前記のとおり,平成13年2月に詐欺罪により執行猶予付き懲役刑に処せられながら,その猶予期間中から再び詐欺行為を始め,組織的な詐欺行為を首謀者として繰り返していたものである。その過程で多額の金員を獲得したが,それを奪おうと被害者らが強奪計画を立てていることを知るや,本件各犯行を主導して重大な結果を引き起こしながら,再び組織的詐欺行為を行っているのであって,その規範意識は欠如しているといわざるを得ず,再犯の可能性が低いとはいえないし,矯正可能性にも多大の疑問を禁じ得ない。
(2)

他方で,被告人Aに有利に斟酌すべき事情として,被告人Aは,前記の
とおり,グループを統括していた立場にあり,本件の首謀者として終始中心的な役割を果たしたものであるが,同グループは被告人Aが,古くからの同輩や知人を中心として集めたものであり,本件において,被告人Aは,他の共犯者に対して指揮命令して服従させる関係にあったものとは必ずしもいえないこと,そのため,他の共犯者も互いに仲間意識を持って相当程度主体的に行動していた面もあったということができ,本件犯行中には被告人Aが積極的に指示したとはいえない部分もあること,また,前記のとおり,C②に対して殺害を依頼するなどして殺害に向けて積極的に行動していたものであるが,C②との交渉が難航した後は,被害者らについて殺害以外の方法も模索していたこともうかがえること,Cらに対する直接的な殺害指示があったとまでは認められず,Cらに殺害を含めた解決の責任を押しつけたのは,被告人Bの言動を容認した結果という面も否定できないこと,被害者らを逮捕監禁して暴行を加え,被害者Nを死亡させたことや,死体遺棄を指示したこ
とについては事実を認め,その限度では反省と謝罪の言葉を述べるとともに,日々写経をするなどの反省の態度もみられること,被告人Aの母親及び実姉も公判廷において遺族に対する謝罪の気持ちを述べていること,犯行当時25歳で,現在でも28歳と比較的若年であることなどの事情も認められる。2
被告人Bについて
(1)

被告人Bは,被告人Aに呼び出されたことで逮捕監禁行為に加担したも
のであるが,仲間を裏切るものは許せないとの強い怒りに任せて,被告人Aらと合流直後にPに対して暴行を加えたのを始めとして,その後もMの大腿部をナイフで刺突し,金属バットで被害者らを殴打したり,Jが少量の熱湯を被害者Nに掛けたのを見るや,さしたる理由もなくそれに続けて多量の熱湯をその背部等に掛け,Pの監禁行為も中心的に行うなど,各逮捕監禁や暴行をさしたる躊躇もせず率先して行っている上,上記のような暴行はいずれも残忍かつ非情な態様であり,その激しい攻撃性,粗暴性は共犯者の中でも際だっている。被害者らに重篤な傷害を負わせたことに対する被告人Bの果たした役割は大きく,現にNの死因は背部熱傷の影響が大きかったのであって,Nの傷害致死に関する寄与度は他の共犯者に比して著しく大きい。このように当初の逮捕監禁行為において,事態の重大化を招いたことについての被告人Bの責任は重い。そして,被告人Bは,被害者らの今後の処遇についてM②ホテルにおいて話し合いが行われた際には,被告人AやEが話を主導した結果,被害者の殺害を依頼するとの結論に至るや,被告人B自身も他に有効な解決策がなく,殺害もやむを得ないと考えて,これを容認する態度を示して,それまで被害者らの治療を密かに行えるような手配をしていながら,被害者らの治療をあえて求めず,被告人Aに続いてIに口止めまでしている。さらに,Q②ホテルにおいては,殺害に向けた交渉が進行中であることを認識しながら,Cグループの問題であることを指摘しつつ主体的にCらを責め立て,被告人Aがみんなの問題だからと取りなしてもこれを取り合わずにC
を非難し,その後Gが検挙されて事態が切迫すると,Cに対して事務所にとどまるように発言し,Cに殺害等の方法による解決の責任を押しつけて,その実行を強く求めたものである。これらの被告人Bの行動により,結果的にCらが事件の解決を急き立てられて殺害行為に及んだもので,その与えた影響,果たした役割は大きい。また,その後の死体遺棄においても,内妻のつてを利用して死体処理を依頼し,死体の運搬及び引渡しをするなど中心的な役割を果たした上,それが成功した後,Cらに対して強く口止めをしている。このように,被告人Bは,当初は殺害を主導していたものではないものの,被害者らに重篤な傷害を与えながら,その責任を自覚することなく,被害者らに治療を受けさせる手だてを尽くさず,被告人Aらが暴力団組員にその殺害を依頼することになると,被害者らを放置して被害者Nを死亡させるなど,事態の解決を困難にさせたもので,その責任は大きい。被告人Bは,自らも事態の解決を図るべく行動していた面はあるものの,Q②ホテルに参集して以降は,その解決の責任をCに押しつけ,Cらが被害者らを殺害した後も,死体遺棄の手配や口止めをするなど,実質的にCらの殺害実行や死体遺棄等の行動を決定付けたともいうべきであり,その与えた影響,役割にかんがみれば,同被告人の罪責は極めて重いというべきである。被告人Bは,Q②ホテルでCらがくつろいでいる姿を見て,従前の不満(被告人Bは,従前Cのもとで店長をしていたが,計算に細かく人使いが荒いCとはそりが合わずに,店長を辞めて飛び出し,悪感情を抱いていた上に,今回の被害者らの行動は,Cが被害者らの給料体系を一方的に不利益に変更したためであると考えて,その運営のやり方にも強い不満を持っていた。
)が爆発し,今回の被害者ら
の襲撃計画についてはCに責任があるなどとして,同人を強く責め,自らは,被害者らを殺害するなどの処理から離れたいとの強い願望から,結局は同被告人らに処理を持ってこないでCらで処理しろと強要してこれを同人らに受け入れさせながら,その一方で,自らとは親しいHやJら,さらには被告人
Aに対しても,本件事務所から離れて被害者らの処理にかかわらないように慫慂しているのであり,自らの損得や好悪のみをもとにして周囲の者を巻き込んでその影響力を行使し,自己らの安泰を図りつつ,被害者らの苦しみを全く顧慮しないその身勝手で冷酷な態度は厳しい非難を免れない。被告人Bの供述するように,本件事件を解決する責任を負わされることに対する強い拒絶心の裏返しとしてCらに責任を押しつけた面も否定できないものの,もともとM②ホテルでの謀議では出席者8名の総意として,暴力団組員に被害者らの殺害等を委ねることになっていたのに,これ以上事件にかかわることを嫌った被告人Bが,上記のとおり,Cらに被害者らの処理を押しつけ,それを被告人Aが容認したものであり,これによって本件謀議内容が変容したものといわざるを得ず,被告人Bの果たした役割は大きい。ところが,被告人B自身は,自らの行動が招いた結果として,Nを死亡させたことや,Cらが殺害行為に及んだ点についての自己の責任を十分に自覚しておらず,自らの行動を自省しようとする意識が極めて希薄で,反省の態度は乏しい。また,勾留中にも同室者から掃除の仕方を注意されたことに激高し,判示のとおりの暴行を加えて,傷害を負わせているのであり,その動機も短絡的で,粗暴な態度がうかがえる。
ところで,被告人Bは,平成15年に傷害,窃盗,暴行罪により執行猶予付きの懲役刑に処せられたものであって,本件犯行時執行猶予中であった。ところが,被告人は,前記のとおり,自らの感情の赴くまま,被害者らに苛烈な暴行行為を繰り返し,共犯者を威迫して自らの安泰をはかり,その結果本件犯行遂行に大きな役割を果たしたものであり,その粗暴性と規範意識の乏しさからは再犯のおそれも少ないとはいえず,その矯正も容易とはいえない。
(2)

他方,被告人Bに有利に斟酌すべき事情として以下の点が挙げられる。当初は殺害を主導したのは被告人AとC,Eらであり,M②ホテルでの被
告人Bの発言は,結果的にEがC②に電話をかけ,Eや被告人Aが具体的に殺害に向けた行動を取る契機になったとはいえるものの,被告人Bは,当初は病院の手配をするなど殺害以外の解決方法も考えていたことがうかがわれ,その発言内容はEの発言内容を論難する趣旨でされたものであった可能性は否定できない。被告人Bの一連の行動に照らしても,被告人Bは,当初は事の成り行きを被告人Aらに任せていたことがうかがえ,殺害に向けて積極的にその方法を具体化させる意図をもって上記のような発言をしていたとまでは認めがたく,M②ホテルにおける発言を殺害に向けた積極的な行動と評価することはできない。また,その後のQ②ホテル等におけるCらに対する言動は,Cらに殺害を含めた解決をする責任があることを強く言い聞かせ,結果的にCらが事件の解決を急き立てられて殺害行為に及んだものであり,これらの言動の与えた影響力が相当大きかったといえるものの,被告人Bの上記言動は,M②ホテルにおいて既に決定された謀議内容を前提としたものであった上,Cらに直接殺害を指示するものとはいえない。そして,C自身が本件犯行グループにおいてもともとは被告人Aに次ぐ地位にあり,本件においても,当初から中心的な役割を担い,被害者らを殺害すること自体についても肯定的な態度を示していた上,Cが本件殺害を行うについては,被告人Aが突き放す態度に出たことも大きく影響しているといえる。
また,被害者らを逮捕監禁して暴行を加え,被害者Nを死亡させたことや,死体遺棄については本件の事実関係を認め,本件詐欺グループに身を置いたことが本件の発端であったとして,被告人なりの反省の情を述べていること,被告人Bの母親も同被告人が罪を償い,更生することを願っていること,同被告人には前記のとおり幼い子がいることなどの事情も認められる。第5
1
結論
死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における究極の刑罰であることにかんがみると,そ
の適用は慎重の上にも慎重に行わなければならないことはいうまでもないが,死刑制度を存置する現行法制の下では,犯行の罪質,動機,態様殊に殺害の手段方法の執拗性・残虐性,結果の重大性殊に殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪質が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択も許されるものというべきである。
これを前提として,以上の諸情状を総合考慮して,被告人両名についての量刑について判断するに,本件傷害致死,殺人等事件は,前記説示のとおり,極めて重大かつ悪質な事案であり,被害者らの立てた襲撃計画に端を発したものとはいえ,被害者らは全く抵抗できない中,理不尽かつ凄惨な暴行を約2日間にわたって一方的に受け続け,その後,暴行により死亡,あるいは,鼻口部をふさがれて殺害されたものであり,その犯行態様は残虐性,執拗さの点で際だっている。また,その犯行動機は前記のとおりであって,酌量の余地は全くない。さらに,殺害された被害者が2名,暴行の結果死亡させられた被害者が2名と,4名もの多数の死者を出した結果は極めて重大であり,被害者遺族はいずれも被告人両名に対する極刑を切望している上,社会に与えた影響も大きい。そして,これらの犯行に当初から中心的な立場として加担した被告人両名の刑責は極めて重大であるというほかない。
2
そして,被告人Aに対しては,Cが自ら殺害行為に及ぶことを積極的に意図していたものではないことや,被害者らが被告人らを殺害する計画を立てていたことが本件の発端となっていることなど,前記検討に係る被告人Aに有利に斟酌すべき諸情状を最大限に考慮したとしても,前記説示のとおり,本件重大犯罪に,当初から中心的な立場で関与して,4人の被害者の殺害を企図し,被害者Nを被告人らの凄惨な暴行により死亡させた後も,残り3名の殺害を引き続き目論んで被告人Bと共にCにその計画を遂行する責任を果たすように促し
た結果,被害者Oを死亡させ,残りの2名についても殺害させた被告人Aの罪責は余りにも重大であり,また,被告人Aがその後も職業的な詐欺行為を継続するなど規範意識の欠如が甚だしいことも考慮すると,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑をもって臨むほかない。
3
次に,被告人Bについては,前記のとおりM②ホテルでの謀議において被害者4名を殺害することを容認した上,被告人Aらにその実現を委ねていたが,自ら熱湯を掛けるなどしていた被害者Nが死亡し,事態が切迫した状況になるや,その責任を追及してCに犯行計画の実現を押しつけ,結果的に被害者らを死亡させたり殺害することについて大きな影響力を行使していることからすると,その関与の程度からも結果の重大性からもその刑責は重大であり,被告人Bを死刑に処するべきであるという検察官の意見は十分理解することができるものである。しかしながら,前記のとおり,被告人Bは本件においてもとより殺人の実行者でもなければ,首謀者の立場にあったものでもなく,当初は被告人Aに同調した行動を取り,殺害計画の取りまとめやC②との交渉も被告人Aらに任せていたもので,Q②ホテル等での言動もM②ホテルでの謀議内容を前提としたものであったという点では,被告人Aとはその関与,役割の程度に大きな開きがあったといえることなど,前記諸情状を総合考慮すると,被告人Bについて,死刑を選択することには躊躇を禁じ得ず,極刑がやむを得ないとまでは断定することができない。被告人Bに対しては終生被害者らの冥福を祈らせてしょく罪に当たらせるのが相当である。

4
よって,被告人Aを死刑に,同Bを無期懲役に処するのが相当と判断し,主文のとおり判決する。

(求刑

被告人両名につき死刑)

平成19年8月13日
千葉地方裁判所刑事第1部

裁判長裁判官

彦坂孝孔
裁判官

甲斐雄次
裁判官向野剛は,差し支えのため署名押印することができない。

裁判長裁判官


(別紙一覧表省略)

坂孝孔
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