判例検索β > 平成18年(行コ)第250号
解任処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成15年(行ウ)第668号)
事件番号平成18(行コ)250
事件名解任処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成15年(行ウ)第668号)
裁判年月日平成19年4月17日
法廷名東京高等裁判所
判示事項1 旧日本道路公団法(昭和31年法律第6号,平成16年法律第102号により廃止)13条2項柱書所定の「その他役員たるに適しないと認めるとき」に当たることを理由として,国土交通大臣から日本道路公団総裁を解任された者が,同解任処分の理由となる事実は存在せず,また,同処分手続に違法があるとしてした同処分の取消請求が,棄却された事例
2 国土交通大臣がした日本道路公団総裁の解任処分が,聴聞の通知書中に,予定される不利益処分の根拠となる法令の条項として「日本道路公団法13条2項」とのみ記載された場合において,行政手続法15条1項1号の根拠となる法令の条項が特定されており,手続上の違法があるとはいえないとされた事例
裁判要旨1 旧日本道路公団法(昭和31年法律第6号,平成16年法律第102号により廃止)13条2項柱書所定の「その他役員たるに適しないと認めるとき」に当たることを理由として,国土交通大臣から日本道路公団総裁を解任された者が,同解任処分の理由となる事実は存在せず,また,同処分手続に違法があるとしてした同処分の取消請求につき,総裁には,高度の公共的性格を有する重要な業務を担う同公団を代表し,その職務を総理するという広範かつ重大な職務権限に対応して,同公団の業務を適切かつ円滑に遂行するために高度の資質,能力等が要求されるというべきところ,前記「その他役員たるに適しないと認めるとき」とは,当該「役員」が総裁である場合は,何らかの客観的合理的理由により,総裁が前記のとおり要求される高度の資質,能力等を欠くものと国土交通大臣が認めるに至ったときを指すものと解するのが相当であるとした上,次の(1)及び(2)の事実をもって前記「その他役員たるに適しないと認めるとき」に当たると判断したことは相当であり,同処分手続にも違法な点はないとして,前記請求を棄却した事例
(1)平成15年5月に日本道路公団が債務超過に陥っていることを示すとされた財務諸表を入手したとする新聞報道がされたことに関し,速やかに役員及び職員を指揮して事実関係を正確に調査,把握し,かつ説明する等の適切な対応をとるべきであるのにこれを怠り,同年8月に至るまでそのデータの存在すら確認できなかったばかりか,国会,マスコミ等に一方的な見解に基づく対応に終始するなどし,日本道路公団に対する国民の信頼を著しく損ねる結果を生じさせた事実
(2)ある会合をめぐる報道等に関し,国会における質問に対して正確な事実関係を確認するための適切な対応を行わず,不誠実な答弁を繰り返し,当該会合において発言したとされた内容が,総裁自身が日本道路公団の役職員を信頼していないと受け取られるような内容であったにもかかわらず,同発言に関する適切な説明等を行わず,公団組織内における総裁と役員及び職員間の信頼関係を著しく損ねる結果となった事実
2 国土交通大臣がした日本道路公団総裁の解任処分が,聴聞の通知書中に,予定される不利益処分の根拠となる法令の条項として「日本道路公団法13条2項」とのみ記載された場合につき,同聴聞通知書における不利益処分の原因となる事実の最終段落では,「これらのことから総合的に判断すれば,貴職については,高速道路に関する制度を抜本的に改革する重要な時期を迎える公団の総裁として十分な資質を有していないと言わざるを得ず,このことが日本道路公団法第13条第2項に該当すると認められる。」と記載されているから,同聴聞通知書を受領した不利益処分の名あて人となるべき者としては,旧日本道路公団法(昭和31年法律第6号,平成16年法律第102号により廃止)13条2項が,同公団の役員の解任事由として,同項1号,2号及び柱書の三つの処分要件を規定しているうち,同項柱書による解任処分をしようとしていることを理解することができるから,行政手続法15条1項1号所定の根拠となる法令の条項は特定されており,手続上の違法があるとはいえないとした事例
裁判日:西暦2007-04-17
情報公開日2017-10-19 19:20:59
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主文1
本件控訴を棄却する

2
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

当事者の求めた裁判

1
控訴の趣旨
(1)

原決定を取り消す。

(2)

被控訴人が控訴人に対し平成15年10月24日付けでした日本道路公団
総裁解任処分を取り消す。
(3)
2
訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨

第2

事案の概要

1
本件は,被控訴人から日本道路公団法(以下公団法という。)13条2
項柱書き所定のその他役員たるに適しないと認めるときに該当することを理由として日本道路公団総裁(以下総裁という。)を解任された控訴人が,被控訴人に対し,解任処分の取消を求めた事案である。
原判決は,本件解任処分は適法であるとして,控訴人の請求を棄却した。控訴人は,これに不服であるとして本件控訴を申し立てた。
2
前提事実,争点,争点に関する当事者の主張は,次項以下に控訴人の当審に
おける補充主張及び被控訴人の反論を付加するほかは,原判決の事実及び理由中の第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。3
控訴人の当審における補充主張
(1)

聴聞手続上の違法


本件解任処分は,行政手続法に基づき聴聞手続を経てなされるものであ
るから,聴聞手続において提出され,当事者・被処分者の反論の対象となった証拠によって認定された事実を構成要件とすべきであり,訴訟手続で新たな証拠により事実の主張の補充をすることができないのに,原判決は,本件口頭弁論に提出されたすべての証拠を総合して事実を認定し,控訴人につき解任要件がある旨認定したものであり,違法である。

また,聴聞手続において,被控訴人が控訴人に送付した聴聞通知書の
不利益処分の原因となる事実については,誰が,何時,何処で,何を,どうしたかといういわゆる五何が具体的に記載されていなければならないのに,上記通知書における記載が不完全であり,解任処分の構成要件として到底認められるものではなかったものであり,この一事からしても本件解任処分が違法であるといえる。
さらに,被控訴人は,不利益処分の原因となる事実を証する資料の標目を作成しておらず,聴聞期日までに10日間という短期間しかなかったこともあって,控訴人は,防御のための資料の謄写ができず,閲覧の結果のメモにより聴聞期日に臨むほかなく,本件解任処分の原因事実についての資料との関連性も十分把握できないまま9時間という長時間の聴聞を受けることになったものである。このような本件聴聞手続は,一連の手続であり,個々の手続が違法であるとともに,それぞれの行為は互いに影響を及ぼし合うものであるから,個々の行為の瑕疵,違法は手続全体の違法を惹起し,本件聴聞手続は全体として違法であると評価されるべきものであるから,本件解任処分も違法である。
(2)

実体上の違法
解任要件の解釈について
公団法13条2項柱書きのその他役員たるに適しないと認めるときという要件について,総裁とそれ以外の理事・監事とを区別していないから,総裁についてのみ独自の解任事由を導き出すことは許されない。そして,役員たるに適しないときとは,1号,2号以外の事由であることが明白であり,1号が分限解任の事由であるのに対し,2号が懲戒解任の事由であって,この2号とともに本文のその他の役員たるに適しないと認められて解任された場合には退職金の支給がされないとされていることからみると,非違行為を前提とする懲戒解任の規定とみるほかない。そして,この規定は,公団役員の地位の保障規定になっているのであり,これを拡張して解釈することは許されない。
原判決は,その他役員たるに適しないと認めるときについて,高度の公共的性格を有する重要な業務を担う公団を代表し,その業務を総理する総裁として,公団の業務を適正かつ円滑に遂行させるために高度の資質,能力等が要求されているにもかかわらず,何らかの客観的合理的理由に基づいて,その資質,能力等を欠くものと国土交通大臣が認めるに至ったときを指すものと解するのが相当である。」と判示するが,何らかの客観的合理的理由という要件は抽象的であってその内容は理解できないし,その資質,能力等を欠くものという要件に至っては一層不明確であり,しかも,そのような判断権が国土交通大臣にあるとするならば,法律による行政から大きく乖離するものといわざるを得ず,国土交通大臣が総裁を政治的判断で解任できるというに等しいものである。

財務諸表問題について
問題とされた幻の財務諸表は,平成15年7月14日の衆議院決算行政監視委員会における木下厚委員から配付された平成12年度仮定損益計算書(乙23の2)及び同年度末仮定貸借対照表(乙23の3)に当たるが,これは,公団内に設置された民営化プロジェクトチームにおいて実務家レベルによる道路資産の再評価の検討がなされた際に,一部の者によって,不十分な道路資産再評価をもとに,形だけの減価償却作業を行い,数字合わせをすることによって作成されたものであり,もとより公団が組織として作成したものではない。したがって,その内容は,極めて杜撰なものとなっており,AB大学教授が

暫定的な仕掛け品というか半製品,メモ程度のものという印象だ。専門家が目を通したものとは思えない。

と述べているこからも明らかである。そして,同教授によると,同財務諸表は剰余金がマイナス6174億円であり,債務超過であるとするが,奇妙な計算方法が採られていて,政府出資金を負債ではなく資本金として計算すれば,少なくとも1兆円ほど資産の方が大きく,債務超過にはなってないと指摘されているところであり,幻の財務諸表によっても債務超過にはなっていないのである。
そして,控訴人も公団も,このような幻の財務諸表を隠蔽などしていない。そもそも隠蔽するに値しない杜撰な資料である。控訴人は,国会における質問,答弁等の過程で幻の財務諸表の存在を知ったにすぎない。
控訴人は,国会の場において,表現の違いこそあれ,一貫して,公団が組織としていわゆる幻の財務諸表を作成した事実はないことを述べていたが,これは,真実を述べたものであって,原判決のように事実に沿わない内容の対応に終始したものなどとは到底いえない。また,幻の財務諸表は,平成15年7月10日にC上で発表されたD論文で明らかとなり(同年5月のE新聞記事に掲載されたのは,幻の財務諸表の一部にすぎず,日本道路公団は直ちに抗議している。),さらに同月14日の衆議院決算行政監視委員会において木下委員により資料として配布され,質問がなされているが,控訴人をはじめとする公団幹部は,同月10日には記者会見において真実に従った十分な説明をし,その後も記者会見で説明をしている。そして,同月14日から同月24日まで調査を実施し,同月25日付けでその調査結果を明らかにし,さらには追加調査もしているのであるから,控訴人らには対応の遅れも何らなかった。他方,石原伸晃国土交通大臣(以下石原大臣という。)は,当時の新聞記事等によると,財務諸表により公団は債務超過になっていたこと,控訴人や公団がその財務諸表を隠蔽したことの事実誤認をして,本件聴聞を行い,本件解任処分に至ったものである。したがって,本件解任処分について,解任事由がないことは明らかである。

解任権の濫用について
本件解任処分の原因事由とされた事実は,すべて扇千景国土交通大臣在任中に生起したものであり,同大臣自身は,これについての控訴人の責任を否定しており,同大臣在任中は,具体的な解任権が発生していたとはいえない。ところが,石原伸晃氏が同大臣に就任するや否や,扇大臣が何ら問題としなかったマスコミの異常な風評,国会での答弁等を改めて問題とし,非難し始め,本件解任処分をしたものであり,前大臣の下で具体的な解任権が発生していないのに本件解任処分をしたものであって解任権の濫用というほかない。

4
被控訴人の反論
(1)

聴聞手続上の違法について


本件聴聞通知書に記載された不利益処分の原因となる事実が特定さ
れていないなどということは,その内容に照らしても全くあり得ないことである。

国土交通省聴聞手続規定5条1項に基づいて閲覧を求めようとする者が
作成すべき資料の標目を記載した書面には,個々の資料の標題を記載しなければならないものではなく,聴聞の件名と当事者の氏名によって特定された不利益処分に関する証拠資料一切と記載したものでも足りる。現に,控訴人も,不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧を求める旨の閲覧請求書(乙3)をもって,証拠閲覧の請求をし,これを受けて,国土交通省が証拠資料一切の閲覧を認めているのである。したがって,行政庁において,控訴人が主張するような資料の標目を作成すべき義務はない。
(2)

実体上の違法について
解任要件の解釈について
公団法は,役員として総裁のほかに,副総裁,理事,監事をおくことを定め,それぞれの職務及び権限の内容を規定しているから,役員の解任事由である同法13条2項柱書きのその他役員たるに適しないと認めるときの解釈適用に当たっても,それぞれの役員の職責に応じた判断がされるのは当然である。
原判決は,解任要件について,控訴人の主張のとおりの解釈を示したうえ,総裁には,その時々の政治経済の状況等を正確に把握し,同公団の組織の在り方と業務の遂行について的確な判断を下し,国土交通大臣の監督の下でその事務を円滑に遂行していく高い資質,能力等が求められるものというべきである。そうすると,総裁の言動がこのような求めに沿わないものであって,国土交通大臣ひいては政府の目指す政策の遂行を阻害するものであると判断される場合には,国土交通大臣は,公団法13条2項柱書きの規定に基づいて,総裁を解任することができる。と判示しており,何らかの客観的合理的理由という要件やその資質,能力等を欠くものという要件が具体化されているのであり,不明確であるとの非難は当たらず,国土交通大臣が政治的判断のみで解任できるとしているものではない。


財務諸表問題について
本件解任事由としての財務諸表問題は,公団が組織として財務諸表を作成したこと,公団が債務超過に陥っていたこと,控訴人や公団が財務諸表を隠蔽したことを問題としているものではなく,控訴人が総裁としてそのような疑いを払拭せず,さらに助長させたことを問題にするものである。すなわち,控訴人は,原判決の判示するとおり,公団の職員が検討し作成した「幻の財務諸表は,総裁の決裁を経たものではないから財務諸表とはいえないという考えに固執して,形式的といわれてもやむを得ない内容の答弁を繰り返すことによって,総裁ないしは公団に対する信頼を失墜させた」ものであり,このことが解任理由とされたものである。
また,控訴人は,平成15年5月16日のE新聞の報道がなされた時点において,速やかに社内調査に着手して正確な事実関係を把握し,公団にかけられた疑いを払拭すべきであったのに,これを怠り,マスコミ等に対し一方的な見解に基づく対応に終始したものであり,控訴人に調査の遅れがあったことは明白である。

解任権の濫用について
扇前大臣は,公団が債務超過であることを示す財務諸表を隠蔽したという点に関し,正式な書類とは思っていないとして控訴人の責任を問う考えはないと述べたことがあったにすぎない。本件解任処分は,あくまでも,控訴人が国会答弁等において不適切な対応に終始した結果,厳しい批判を受け,公団に対する国民の信頼を失墜させたことを理由とするものであり,改めて検討したうえで控訴人を解任したことが許されないとする根拠はない。

第3

当裁判所の判断

1
当裁判所も,控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,原判決を
以下のとおり補正し,次項に控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の事実及び理由中の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決62頁4行目の言ってみてばを言ってみればに改め,同72頁4行目から74頁20行目までを以下のとおり訂正する。
日本道路公団法は,このような日本道路公団の高度の公共的性格に照らし,その適正かつ円滑な業務の遂行を確保するため,同公団を代表し,その業務を総理する総裁の任命権及び解任権を国土交通大臣に付与したものと解される。そして,同法13条2項は,国土交通大臣又は総裁は,それぞれ任命に係る役員が「次の各号の一に該当するときとともにその他役員たるに適しないと認めるときは,それぞれの任命に係る役員を解任することができると定めているところからすると,その他役員に適しないと認めるときとは,当該役員が公団の職務を遂行する適性や能力を欠く(次の各号の一に該当する場合を除く。)と国土交通大臣又は総裁が認めるときをいうものと解される。上記当該役員が総裁である場合は,高度の公共的性格を有する重要な業務(同法1条,19条等)を担う公団を代表し,その職務を総理する(同法9条1項)という職務権限を有するものであり,総裁はこのような広範かつ重大な職務権限に対応して,公団の業務を適切かつ円滑に遂行するために高度の資質,能力等が要求されるというべきである。したがって,総裁の場合のその他役員たるに適しないと認めるときとは,何らかの客観的合理的理由により,総裁が上記のとおり要求される高度の資質,能力等を欠くものと国土交通大臣が認めるに至ったときをいうものと解するのが相当である。そして,前記の日本道路公団の高度の公共的性格に加えて,その業務内容である高速道路の建設等が,国土の総合的かつ体系的な利用,さらには関係地域の振興等の面で,住民の生活,地域経済等に重大なかかわりをもつものであり,その在り方,民営化等をめぐって政治的にも重要なテーマとなっており,国民の関心も高かったことは公知の事実であって,そのような事情を考慮すると,日本道路公団という大組織を代表し,その業務を総理する総裁には,その時々の政治経済の状況等を正確に把握し,同公団の組織の在り方と業務の遂行について的確な判断を下し,国土交通大臣の下でその事務を円滑に遂行していく高い資質,能力等が求められていたというべきである。

ところで,本件財務諸表や本件会合問題については,政府が日本道路公団の抜本的改革を重要な政策として掲げて推進している状況下で,同公団が債務超過となっているかどうかが大きな問題となっていたのであるから,控訴人は,同公団の国会ひいては国民に対する説明責任を果たすために,総裁として,同公団の財務状況についての内部的な検討経過とその問題点を明らかにしたうえ,同公団が債務超過の状況にあるかという国会等における質問に対して誠実かつ迅速に対応すべきであった。すなわち,上記各問題は,前記(1)ア(カ)における推進委員会の意見書のとおり,当時,政府が日本道路公団の抜本的改革を重要な政策として掲げて推進しており,同公団の民営化が特殊法人改革の天王山として位置づけられ,同公団の財務状況は企業として存立していく上で極めて厳しいものとなっていると目されて企業会計原則に基づく財務諸表の作成により財務状況を正確に把握することが求められ,さらには同公団の廃止,民営化等の抜本的な改革が検討されている状況下で生じたものである。そして,これらの問題は,いずれも新聞や雑誌等による報道を発端として国会で審議がなされ,控訴人の対応の不十分さから,国会や推進委員会等において批判を招き,ことに推進委員会からは,平成15年7月15日,いかなる状況下にあっても,公団の業務を総理するのは他ならぬF総裁自身である。今回の問題で国民がF総裁に問うていたのは,困難な問題に直面した際に,その問題の本質を明らかにして,きちんと世に問う姿勢であり,部下あるいは部署を率いて自ら解決する資質である。この点に関し,F総裁は明らかに落第点であったといわざるをえない。などとしてその責任を問われ(前記(1)ウ(コ)),報道機関による各種報道もあって,国民の日本道路公団に対する信頼を損ねる結果となり,同公団の適正かつ円滑な業務の遂行を阻害するに至ったものと認められる。このように,控訴人は,政府が日本道路公団の抜本的改革を重要な政策として掲げて推進している状況下で,同公団が債務超過となっているかどうかが大きな問題となっていたのであるから,同公団の国会ひいては国民に対する説明責任を果たすために,総裁として,同公団の財務状況についての内部的な検討結果とその問題点を明らかにしたうえ,同公団が債務超過の状況にあるという国会等における質問に対して誠実かつ迅速に対応すべきであったのに,これに適切に対応することができず,同公団の職員が検討し作成した幻の財務諸表は総裁らの決裁を経たものではなく,正式財務諸表ではないから財務諸表とはいえないという考えに固執して,形式的といわれてもやむを得ない答弁を繰り返すことによって,国会や推進委員会,世論の批判を招き,総裁ひいては同公団に対する国民の信頼を失墜させたものであって,このような控訴人の上記対応は,上記のとおり最大関心事が同公団が債務超過の状態にあるか否か,また,それを示すような検討結果が同公団内部に存在しているかということであって,その検討結果が記載された書面が総裁の決裁を経た正式の財務諸表であるか否かでなかったことに照らすと,事態をいたずらに混乱させたものといわざるを得ず,少なくとも当時の状況下においては,極めて不適切な対応であったといわざるを得ない。」
2
控訴人の当審における補充主張に対する判断
(1)

聴聞手続上の違法の主張について


控訴人は,本件聴聞手続において提出された証拠のみに基づき本件解任
事由があるか否かを判断すべきであるのに,原判決は,本件口頭弁論で取り調べられたすべての証拠に基づき本件解任事由を認定判断しており,原判決の認定は違法である旨主張する。
しかしながら,行政手続法及び国土交通省聴聞手続規則上,聴聞手続が実施された場合,その後の行政訴訟において提出できる証拠を聴聞手続において取り調べられた証拠に制限するとの規定はないから,訴訟当事者は,聴聞手続における証拠のほかにも,行政訴訟において新たな提出された証拠を提出することができ,裁判所は,その取調結果に基づいて事実を認定し,判断をすることができるものであるから,控訴人の主張は採用することができない。

控訴人は,本件聴聞通知書における不利益処分の原因となる事実の
記載が不完全であって,解任処分の構成要件を満たしていない旨主張する。本件聴聞通知書には,本件財務諸表問題について,控訴人は,平成15年5月の新聞報道により,当該財務諸表の存否が問われていたのに,十分な調査をせず,その存在を否定し,同年7月に月刊誌に内部告発記事が掲載された後にも状況を把握できず,同年8月に至ってデータの存在を確認したとの発表を行ったことにより,財務諸表に関する国会対応が不誠実との批判を招き,道路関係四公団民営化推進委員会との関係においても同様の批判を受けた旨,また,本件会合問題については,国会答弁において当初記憶にないといいながら,最終的には会合の存在を認めたが,この間他の出席者に速やかに確認をとるなどの誠実な対応を行わず,組織における不信感を招来せしめた旨がそれぞれ記載されているところ(乙1,2),引用に係る原判決の認定事実(就中,第3の1(1)のウ及びエ)のとおり,本件財務諸表問題及び本件会合問題については繰り返し国会で質問の対象となり,控訴人がこれらに答弁していたことをもあわせ考慮すると,本件聴聞通知書中の上記部分は,一定の具体的な事実が記載されているものとして,いずれも予定されている不利益処分の原因となる事実が特定されているものであり,控訴人においてもこれも容易に認識し得たものというべきである。したがって,控訴人の上記主張も採用することができない。ウ
控訴人は,本件聴聞手続において,被控訴人が,不利益処分の原因とな
る事実を証する資料の標目を作成しておらず,しかも,控訴人からの資料の謄写の請求を認めなかったのは違法であり,また,本件聴聞手続は全体として評価すれば違法である旨主張する。
しかしながら,被控訴人に対し不利益処分の原因となる事実を証する資料の標目を作成することを義務づける法令の規定や,資料の標目を不利益処分を受ける者に対し教示することを義務づける法令の規定はなく,国土交通省聴聞手続規則5条1項が,行政手続法18条1項の規定による閲覧の求めにつき,閲覧をしようとする資料の標目を記載した書面を行政庁に提出してこれを行う旨定めていることから直ちに,被控訴人に資料の標目を作成する義務があるということもできない。また,不利益処分を受ける者が被控訴人に対し資料の謄写又は複写を求めることができることを定める法令の規定は存在しない。なお,控訴人は,実際に本件聴聞手続において不利益処分の原因となる事実を証する資料の閲覧の請求をし,同資料の閲覧をしているのであり,その点に関し支障が生じたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件聴聞手続において資料の閲覧,謄写に関して違法があったとはいえない。また,本件聴聞手続においては,前示のとおり本件聴聞通知書交付日から本件聴聞期日までの期間が相当期間としては違法に短期間であったとはいえないものの,控訴人にとっては決して十二分な期間であったとはいえなかったこと,謄写閲覧についても被控訴人において任意にこれに応じなかったことなど控訴人にとっての配慮が十分でなく,本件聴聞手続に不満が残ったことはうかがい知れるところではあるが,そのことから本件聴聞手続が全体として違法になるものとも認められない。よって,控訴人の主張は採用することができない。(2)

実体上の違法について
解任要件の解釈について
控訴人は,公団法13条2項柱書きのその他役員たるに適しないと認めるときという解任要件は,総裁とそれ以外の理事を区別していないから,総裁のみの解任要件を導き出すことはできず,また,これによる解任の場合には,同項2号による場合と同様に退職金が支給されないことに照らしても,非違行為に限定されるべきであるところ,この要件についての原判決の解釈は,抽象的であって不明確であり,政治的判断による解任を許すこととなり,不当である旨主張する。
しかしながら,公団法によると,公団役員として総裁のほかに,副総裁,理事,監事が置かれており,その任命権者,解任権者は,総裁及び監事は国土交通大臣,副総裁及び理事は総裁とされており,同法13条2項柱書きのその他役員たるに適しないと認めるときという解任要件も,各役員の職責等に応じて解釈適用されるべきである。そして,日本道路公団役職手当支給基準2条1項が公団法13条2項の解任のうち1号以外は退職金が支給されないとしていることから,同項のその他役員たるに適しないときとは,同条2項2号と同様に非違行為に限定されるべきであると解することは本末転倒であって,上記解任要件が非違行為に限定される理由はないというべきである。
また,前示のとおり,総裁は,高度の公共的性格を有する重要な業務を担う公団を代表し,その業務を総理するという職務権限を有するものであり,総裁はこのような広範かつ重大な職務権限に対応して,公団の業務を適正かつ円滑に遂行させるために高度の資質,能力等が要求されるというべきであるから,その他役員たるに適しないと認めるときとは,何らかの客観的合理的理由により,総裁が上記のとおり要求される高度の資質,能力等を欠くものと国土交通大臣が認めるに至ったときをいうものと解するのが相当である。そして,総裁には,その時々の政治経済の状況等を正確に把握し,同公団の組織の在り方と業務の遂行について的確な判断を下し,国土交通大臣の監督の下にその事務を円滑に遂行していくことが求められるところ,控訴人の総裁としての言動は,前示のとおり,事態をいたずらに混乱させたものといわざるを得ず,少なくとも当時の状況下においては,極めて不適切な対応であったといわざるを得ない。
したがって,その他役員たるに適しないと認めるときについての上記のような解釈が,抽象的であって不明確であり,恣意的な政治的判断による解任を許すものということはできないから,控訴人の主張は採用することができない。

財務諸表問題について
控訴人は,問題とされた幻の財務諸表は,民営化プロジェクトチームによる道路資産の再評価がなされた際に,一部の者によって不十分な再評価をもとに形だけの減価償却を行い数字合わせをして作成されたものであり,極めて杜撰な内容となっており,専門家によると,政府出資金を負債ではなく資本金として計算すれば,少なくとも1兆円ほど資産が多く,債務超過にはなっていないものであり,しかも,控訴人は,これを隠蔽などはしておらず,国会においても,一貫して,公団が組織として幻の財務諸表を作成した事実はない旨を述べ,公団は,平成15年7月にC上でD論文が発表されたのに対し,公団幹部らによる説明し,さらに調査をしてその結果を公表しており,控訴人らに対応の遅れはなかったから,結局,控訴人には本件解任事由がなかった旨主張する。
しかしながら,本件解任事由とされたのは,幻の財務諸表が正式なものとして存在するか否かやこれを控訴人が隠蔽したかどうかなどではなく,幻の財務諸表問題に対する控訴人の不適切な対応であることは前示のとおりである。すなわち,公団の民営化等の抜本的な改革が検討され,企業会計原則に基づく財務諸表の作成により財務状況を正確に把握することが求められるような状況下において,新聞や雑誌等による報道を発端として国会で質疑がなされ,公団が債務超過の状態にあるかどうか,それを示すような検討の結果が公団内部に存在しているかどうかなどが問題とされたのであるから,控訴人としては,公団の財務状況に係る内部的な検討経過とその問題点を明らかにしたうえ,公団が債務超過の状態にあるかという疑問に対して誠実に応答すべきであったのに,幻の財務諸表は,総裁の決裁を経たものではなく正式な財務諸表ではないから財務諸表とはいえないという考え方に固執して,形式的といわれてもやむを得ない内容の答弁等を繰り返すことによって,総裁ないしは公団に対する国民の信頼を失墜させたものであり,国会における答弁内容がその都度変遷するなど国権の最高機関である国会を軽視し,不誠実な対応と受け取られてもやむを得ない事態を招来した。また,道路関係民営化推進委員会との関係においても,同様の問題を惹起したという事実及び更に,本件財務諸表を巡る一連の対応は,それがマスコミを通じて広く報道されたこともあって,公団に対する国民の信頼を著しく損ねる結果を生じさせたという事実を認めることができるものである。
したがって,控訴人の本件解任事由に対する主張は採用することができない。

解任権の濫用について
控訴人は,石原大臣の前任大臣の在任中の控訴人の言動について,しかも,前任大臣が控訴人の責任を否定していたのに,石原大臣が改めて問題とし,非難を始め,本件解任処分をしたものであり,解任権の濫用である旨主張する。
本件解任処分の解任事由とされた本件財務諸表問題及び本件会合問題に係る控訴人の言動等は,すべて石原大臣の前任大臣在任中に生起したものであり,当時,前任大臣がこれを理由として総裁の更迭をする意向がないことを表明していたことが認められる(甲4,5,10,15,40の1)。しかしながら,後任の石原大臣が解任事由があると判断したことに問題はなく,前任大臣において控訴人を解任しないことを決定していたわけではなく,控訴人の更迭問題は最終結論をみないまま,石原大臣が就任したものであるから,同大臣において控訴人を解任したことが解任権の濫用に当たるともいえない。控訴人の上記主張は採用することができない。
3
よって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第16年民事部

裁判長裁判官

宗宮
裁判官

坂井満
裁判官

畠山稔英俊
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