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損害賠償請求事件
事件番号平成17(ワ)3677
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日平成19年9月20日
裁判所名・部東京地方裁判所  民事第35部
結果その他
裁判日:西暦2007-09-20
情報公開日2017-10-17 20:46:56
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平成19年9月20日判決言渡
平成17年(ワ)第3677号

損害賠償請求事件
判主1決文
被告らは,原告X1に対し,連帯して2959万380
8円及びこれに対する平成13年10月10日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告らは,原告X2に対し,連帯して2853万720
8円及びこれに対する平成13年10月10日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告らは,原告X3に対し,連帯して110万円及びこ
れに対する平成13年10月10日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。

4
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

5
訴訟費用は,これを5分し,その3を原告らの,その余
を被告らの負担とする。

6
この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行する
ことができる。
事実及び理由

第1
1
請求
被告らは,原告X1に対し,連帯して6885万0562円及びこれに対する平成13年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
被告らは,原告X2に対し,連帯して6669万5923円及びこれに対する平成13年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
被告らは,原告X3に対し,連帯して600万円及びこれに対する平成13年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2

事案の概要
本件は,日本に語学留学のために滞在していたA(大韓民国(以下韓国という。
)国籍。1976年(昭和51年)12月31日生。
)が,平成13
年10月10日,a会(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下暴対法という。
)3条による指定を受けている暴力団)の下部組織の構
成員である分離前相被告Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6に,その組織の構成員を殺害した犯人であると誤信され,報復及びみせしめとして射殺された(以下本件殺人事件又は本件殺害行為という。
)と主張して,遺族
である原告らが,上記4名の被告らに対しては,共同不法行為(民法709条及び719条)に基づき,被告Y1(a会総裁)及び被告Y2(a会会長)に対しては,使用者責任(被告Y1につき民法715条1項,被告Y2につき同条2項)に基づき,損害賠償及びこれに対する平成13年10月10日(本件殺人事件の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1
前提となる事実(当事者間に争いがないか,証拠により容易に認定される事実)
(1)

当事者等
原告X1及び原告X2は,Aの父母であり,原告X3は,Aの姉である(甲1)



被告Y1は,本件殺人事件当時,a会の代表者であり,被告Y2は,a会の会長(被告Y1の次位)であった。


分離前相被告Y3は,a会e一家i会m組(上部団体であるi会が正式に発足したのは,平成13年11月であり,それ以前のm組の上部団体はj会であった。甲17)の組長であった。
Y3は,本件殺人事件に関し,千葉県警察本部から全国指名手配を受けているが(甲4)
,現在も逃亡中である。

被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,Y3の下でそれぞれ活動していたが(なお,本件殺人事件当時,m組の構成員であったか否かは争いがある。,本件殺人事件等の刑事事件の被告人として,平成16年3月,千)
葉地方裁判所において,被告Y4及び被告Y6はいずれも懲役20年,被告Y5は懲役7年に処する旨の判決の宣告を受けた(甲5,31,32)。
その後,控訴審である東京高等裁判所において,被告Y5は懲役10年,被告Y6は無期懲役に処する旨の判決の宣告を受け,各判決はいずれも確定し,上記被告らは現在服役中である(丙1,2及び丁1)

なお,被告Y4はY4’
,被告Y5はY5’という通称を使用していた。

(2)

本件殺人事件に至る経過の概要
Cの殺害
平成13年9月25日(以下,原則として,平成13年については月日のみを記載する。,当時m組の構成員であったCが何者かに拉致され,)
同月27日,死体で発見された。
翌28日,m組の元組長代行であり,既にm組を破門されていたDが,

朝のニュースで見た。

とCが殺害されたことをm組に連絡してきたことから,m組は,C殺害の犯人探しを開始した。
翌29日,被告Y4らは,Cの自宅からCが生前撮影していたビデオテープを発見し,これを某所所在のm組事務所に持ち帰り,後日再生したところ,Dと思われる人物がCと共に現金輸送車の強盗の下見等をしている内容が映し出された。そこで,Y3は,m組構成員らを図書館に行かせ,現金輸送車が襲撃された事件等に関する新聞記事を調査させたところ,該当する強盗事件(平成13年7月10日に発生した小田原市農業協同組合の現金輸送車強奪事件(以下小田原事件という。。甲19)の記事)
が見つかったことなどから,D及びCが強盗事件を起こし,それで得た金員の配分を巡ってD又はその関係者がCを殺害したのではないかと考えるに至った。

Dに対する追及
Y3は,10月2日,Dを東京都新宿区の喫茶店に呼び出し,C殺害について問い詰めるとともに,Dを尾行して居所を突き止めるべく,m組構成員らに自動車やバイクを準備させていたが,DはC殺害への関与を否定し,Y3らは,Dの尾行にも失敗した。また,被告Y4は,同月5日,再度Dを上記喫茶店に呼び出し,C殺害について追及したが,Dは関与を否定した上で,千葉県柏市南柏(以下単に南柏という。
)で韓国エステ
店を経営するEなる韓国人がC殺害に関与している旨述べ,Dは,その後行方が分からなくなってしまった。
そのため,m組では,追及の対象をEなる韓国人に向けることとし,同月6日から翌7日にかけて,被告Y4,被告Y5,被告Y6及びm組の相談役を務めていたFが南柏に赴いて韓国エステ店を探索したところ,某韓国エステ店の経営者がEという韓国人であることが判明し,同店の前で張り込みを始めた。すると,同店の前に,韓国人風の男4名が乗車した自動車(サニー)が停車し,男達が降車して同店に出入りした後,再びサニーで発進したため,サニーを追尾したところ,某マンション付近で2名の男が降りたが,被告Y4らは,その後サニーを見失った。
m組としては,上記韓国人らがE又はその関係者であると考え,サニーの駐車場所を探すべく,同日から同月9日にかけて某マンション付近で更に張り込みをしたところ,サニーが某マンション付近の月極駐車場(以下本件駐車場という。
)を利用しており,午前3時ないし4時ころに戻
ってくることが判明した。


Aの殺害
被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,10月10日午前0時ころ,2台の自動車(ブルーバード及びアリスト)に分かれて某マンション付近に向かった。その後,同日午前6時ころ,被告Y6は,サニーが本件駐車場に向かったことを確認し,けん銃を所持して,某マンション前の一方通行の道路(長全寺通り)に停車していたブルーバードを降り,本件駐車場に通じる路地に入っていった。そして,被告Y6は,同路地を歩いて来たAに対し,殺意をもって,自動装てん式けん銃を使用し,弾丸4発を発射して左胸部等に命中させ,胸部射創による心タンポナーデにより死亡させた。なお,このとき,被告Y4はブルーバードに乗車しており,被告Y5は,長全寺通りの出口付近でアリストに乗って待機していた。
被告Y6は,Aに対し,けん銃を発射した後,ブルーバードに戻り,被告Y4の運転でその場を離れた。そして,被告Y5と千葉県船橋市所在の中山競馬場付近のオートスナックで落ち合い,同所でブルーバードを乗り捨て,被告Y5が運転していたアリストに乗車し,m組事務所に戻った。2
争点
本件の主たる争点は,次のとおりである。
(1)

本件殺害行為に関し,Y3,被告Y4及び被告Y5は,被告Y6と共謀
していたか否か(争点1)
(2)

被告Y1及び被告Y2の使用者責任の成否(争点2)


被告Y1及び被告Y2とY3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6との間に,民法715条1項又は2項所定の関係がそれぞれ成立していたか(使用者性。争点2-1)


本件殺害行為は,被告Y1の事業の執行についてされたものであるか
(事業執行性。争点2-2)
(3)
3
損害の額(争点3)

争点に関する当事者の主張
(1)

争点1(本件殺害行為に関し,Y3,被告Y4及び被告Y5は,被告
Y6と共謀していたか否か)について
(原告らの主張)
本件の事実経過からすれば,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,Y3の指示の下,あらかじめ定めた役割分担に基づき,共謀してAを殺害したことは明らかである。すなわち,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,Y3から指示を受け,E又はその周辺の韓国人を殺害するため,被告Y6が自動装てん式けん銃を所持して殺害を担当し,被告Y4がその見届役,被告Y5が被告Y4及び被告Y6を現場から逃走させるなどの役割分担を定め,2台の自動車に分かれて柏市内に向かい,同市内でAを殺害したのである。このことは,刑事裁判においても,上記被告らの共謀が認定されていることからも明らかである。
(被告Y4及び被告Y5の主張)
以下のとおり,被告Y4及び被告Y5は,本件殺害行為について,Y3や被告Y6と共謀したことはない。

被告Y4について
被告Y4は,Cを殺害したと思われるDとの間で,金銭で解決する話がついたものの,Dと連絡が取れなくなり,また,Dの所在が分からなくなったので,EがDの所在を知っているかもしれないと考え,Eを探していた。そして,Eを見つけたら,誘拐してでもDの所在を聞き出そうと考え,誘拐に必要な催涙スプレー,手錠及びナイフを用意したが,Eを殺害することは考えていなかった。Y3から本件殺害行為に関する指示は受けていない。


被告Y5について
被告Y5は,Y3とDの間で,金銭的に解決したと聞いていたが,Dの所在が分からなくなったので,10月6日,被告Y4の指示により,その舎弟として共にDの所在を探した。本件殺人事件当日は,被告Y4から

迎えに来てくれ。

と言われ,運転手として柏に行っただけであり,柏において誰が何をするか等の説明は一切受けておらず,E等の韓国人を殺害するとは思っていなかった。また,被告Y6がAを撃ったことも知らされていない。このことは,被告Y5が,被告Y4及び被告Y6と柏に行く際,足がつく可能性のある自分の自動車を使用したこと及びNシステムが設置されている高速道路を使って帰ったことからも明らかである。(2)

争点2-1(使用者性の有無)について
(原告らの主張)
以下の点にかんがみれば,a会の代表者である被告Y1は,Y3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6との関係で,民法715条1項所定の使用者に当たる。また,被告Y2は,本件殺人事件当時,a会の会長(被告Y1の次位)であり,a会の執行部の長として,被告Y1に代わって事業の執行を監督する立場にあったのであるから,民法715条2項所定の代理監督者に当たる。
なお,q組組長の使用者責任を認めた最高裁判所平成16年11月12日第二小法廷判決・民集58巻8号2078頁(以下藤武事件最高裁判決という。
)の説示内容・認定要件は,a会においても同様に満たされている。ア
a会の目的
a会は,暴対法3条による指定を受けた暴力団(指定暴力団)であり,その実質上の目的は,暴力団の威力を背景に違法・不当な資金を獲得することにある。このことは,東京都公安委員会がa会を指定暴力団に指定した理由として,
a会においては,その多数の暴力団員が,生計の維持,財産の形成又は事業の執行のための資金を得,又は得ようとするに当たって,a会に所属している旨を告げ,その他a会に所属していることを利用して恐喝,暴力行為等処罰に関する法律違反等を行っている。また,a会は,構成員たる暴力団員が生計の維持,財産の形成又は事業の執行のための資金を得,又は得ようとすることに関連して,他の暴力団との間に暴力行為を伴う対立を生じさせている。したがって,a会は,その威力を構成員たる暴力団員に利用させ,又はその威力を構成員たる暴力団員が利用することを容認していると認められる。と認定しているとおりである。イ
a会の組織構造
(ア)

擬制的血縁関係の連鎖による下部組織の形成
a会は,昭和33年にb会として発足した後,
a会c連,合d連合会と改称を重ね,平成3年2月,名称を再びa会,
に改めた。その際,被告Y1は,f一家六代目を襲名するとともに,a会内の二次組織に位置する各組織代表と杯を交わし,擬制的血縁関係を結んだ。
a会においては,被告Y1を頂点とする擬制的血縁関係の連鎖による強固なピラミッド型の組織が形成され,封建的家族観に基づく上命下服の関係が生じており,被告Y1の意思は,末端組織の構成員まで伝達される体制になっている。すなわち,a会では,被告Y1を親又は兄とする旨の杯を交わした構成員が二次組織の組長となり,二次組織の組長と杯を交わした構成員が三次組織の組長となって更に配下の構成員と杯を交わしていくという序列的・擬制的血縁関係の連鎖により,強固なピラミッド型の組織が形成されている。
(イ)

a会の名称及び代紋の使用
a会の下部組織が,a会内外の組織に対し,御礼状や挨拶状を発送す
る場合,組織名を一次組織から順に表示することによって,a会に属する組織であることを明確にしている。例えば,
a会e一家i会m組
の場合,
a会が一次組織,
e一家が二次組織,
i会が三次組
織,
m組が四次組織であり,a会の名を冠して自らの組織がa会の
傘下の組織であることを明示している。
また,a会の下部組織に加入した者は,直属の組長からa会の代紋の入ったバッジを交付されるとともに,a会の代紋入り名刺の作成を許されるなど,代紋の使用が認められている。
(ウ)

上納金
被告Y1は,下部組織の構成員に対して,a会の名称及び代紋の使用
を許すことにより,a会の威力を利用させ,又は威力を利用することを容認して,上記構成員が合法・非合法を問わず活動することによって得た収益の一部を会費等の名目で上納させている。その額は,平成13年当時は,階層によって一人当たり月額3000円から5万円であった。a会の下部組織であるm組では,これらの上納金をGが集金してa会e一家i会に納めていた。また,m組以外にもa会f一家k会三代目n組,a会f一家l組の構成員も上納金を納めていたことにかんがみれば,a会すなわち被告Y1に上納金が納められていた事実は明白である。このように下部組織の構成員が,直接a会費として負担を課せられていたことからは,a会が下部組織を含めた組織全体で運営されている実態や,下部組織構成員のa会への帰属意識の強さ及びその威力利用の現実を知ることができる。

a会の組織運営
(ア)

a会のポスト
本件殺人事件当時,a会は,代表である被告Y1の下,会長,会長補
佐,常任顧問,顧問,理事長,幹事長,本部長,執行部役員,副会長,副会長補佐,副理事長,常任相談役,相談役,専任評議委員,評議委員,代議委員,幹部,組員の19階層で構成されていた。
なお,遅くとも平成14年7月13日までに,Y3及び被告Y4は,専任評議委員に,被告Y5及び被告Y6は,評議委員にそれぞれ選任されている。このように,a会の組織運営上のポストに四次組織であるm組の構成員が就任している事実からも,a会が下部組織構成員も含めて運営されている実態がうかがわれる。
(イ)

意思決定
a会の組織の具体的運営については,被告Y1の下に被告Y2を長と
する執行部が置かれていた。執行部の各ポスト(本件殺人事件当時は,会長,三役(理事長,幹事長,本部長)
,各委員長,副会長)には二次
組織の代表らが就任し,a会の本部機能を担っている。
a会としての意思決定は,代表である被告Y1の命を受け,毎月1回又は随時に開催される執行部会において,活動方針等の重要事項を審議し,審議結果につき被告Y2の承認を得て,被告Y1が最終決定することによる。すなわち,執行部は,被告Y1の明示又は黙示の意思に基づき,日常的な意思決定を行っているにすぎない。執行部を構成する各役員は,被告Y1と杯を交わし,擬制的血縁関係における全人格的な支配下にあるから,被告Y1の最終的な意思に反することはできないのである。このことは,下部組織の組長等幹部の選任に当たっても,最終的に代表者である被告Y1の承認が必要であり,これら幹部の書状披露においてもY1親分の承認を得てなどと明記されていることなどにも如実に表れている。
また,上記a会の執行部を構成する各委員長としては,風紀委員長,懲罰委員長,慶弔委員長,渉外委員長,組織委員長,諮問委員長がある。このような委員長制度の存在は,a会の下部組織の行為につき,a会として懲罰を科したり,慶弔についてa会として対応すべき場合が存在することを示している。
(ウ)

意思伝達方法
a会の意思伝達方法は,原則として,毎月1回開催される定例食事会の席上で,被告Y1の命を受けた執行部が被告Y1の意思を出席者に伝達し,更にそれが組事務所当番(a会総本部や上部団体からの連絡を受け,その連絡を更に下部の団体に伝えるため事務所に常駐すること)等によって各下部組織にファクシミリ等で伝達する方法により行われる。
このように,a会では,被告Y1の意思が,各下部組織の組長を通じて下部組織及びその構成員に伝達,徹底される体制が採られている。そして,前記のとおり,各組織の組長と構成員との間には,擬制的血縁関係による全人格的な支配関係があるため,伝達された指示・決定は,下部組織構成員にも拘束力・強制力が及ぶ。

a会では,下部組織を含むa会の構成員全員の行動規範として,綱領を定めている。これは,a会下部組織の組事務所にも掲示されており,その構成員への周知徹底が図られている。
また,a会には,a会の根幹に関わる事項を定めた規約が存在しており,これに従って,一次組織から下部組織までを含めた組織運営がされている。
なお,被告Y1及び被告Y2は,a会において会員に対する通達が存在することや各一家内の人事・縁組みの承認等に関する意向をa会総本部が指示していたことを自認している。


r会の取決め
r会とは,対立抗争が暴力団にとって不可避であることを前提に,a会を含む関東の主要な博徒系暴力団が,q組の関東進出を阻止するとともに,各縄張を維持することで既得権益を確保し,共存共栄を図る目的で,昭和47年に結成されたものである。
r会においては,
r会通達事項
(甲67)として,その加盟団
体においては理由のいかんを問わずけん銃を絶対に使用しないこと,これに反した場合やその報復については厳重に処罰すること,抗争事件発生の場合,当番会の事務局長は当事者会に対し,再発なき様指示し,当事者会はその指示に従うことが定められ,
抗争事件についての処分
(甲67)として,r会所属団体の組員が個々に抗争を起こ
した場合,その抗争が原因でその組織の会長宅又は総本部へ銃刀等をもって攻撃したときは,その組員は,協議の上破門又は絶縁処分とすること,その抗争と何ら関係のない人等に危害を加えた場合も破門又は絶縁処分とすることが定められている。
このようなr会の取決めは,その内容・目的からして,総本部ひいては代表者の意向が末端組織の構成員に至るまで伝達徹底される体制が確立されていなければ遵守し得ないものである。
a会においては,昭和57年当時の代表者がr会の取決めを遵守する旨の意思表明をし,また,実際に遵守した例があり,本件殺人事件当時の代表者である被告Y1もこれを遵守していた。このことは,本件殺人事件当時,a会において,上記体制が採られていたことの証左である。

m組について
(ア)

組織
m組は,Y3が平成13年初めころに結成したa会の四次組織であり,
本件殺人事件当時の構成は,以下のとおりであり,Y3と配下の構成員の間には,暴力団特有の絶対的指揮命令関係が形成されていた。
組長

Y3

代行

空席(Dが就いていたことがあるが,破門され
た。


若頭

被告Y4

相談役(本部長)


事務局長


理事長

空席
組員

被告Y5,被告Y6,H,I

そして,本件殺人事件後の12月ころ,Y3は,以下のとおりm組内の組織変更を行い,本件殺人事件の実行犯に対する論功行賞として,被告Y4を代行に,被告Y5を理事長に,被告Y6を本部長補佐にそれぞれ昇格させている。
組長

Y3

代行

被告Y4

理事長

被告Y5

本部長

F(後に空席)

事務局長


理事長補佐


本部長補佐

被告Y6

なお,被告らは,本件殺人事件当時,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,Y3と杯を交わしておらず,被告Y1及び被告Y2には使用者性は認められない旨主張する。しかし,上記被告らは,本件殺人事件当時,m組の構成員であったことを自認している。さらにいえば,被告Y4は,a会e一家j会内o組のJ組長が,間もなく引退することが判明していたため,引退時に正式にY3と兄弟杯を交わすことになっていたにすぎない。被告Y6は,Y3の運転手であったが,誰もがm組の構成員であると認識し,被告Y6もいずれ功を挙げ,Y3と杯を交わして親子関係になることを強く望んでいた。そして,上記被告らは,本件殺人事件後の平成14年1月初旬,Y3との間で正式に,被告Y4は兄弟杯,被告Y6及び被告Y5は親子杯を交わしている。
(イ)

上部組織との関係
m組の直接の上部組織は,本件殺人事件直前までは,a会e一家j会
であったが,平成13年7月ころ,同組組長Bが,e一家からf一家へ養子に出たことに伴い,同年11月,組長代行であったKがj組の組織を引き継ぎ,i会を結成した。このため,本件殺人事件当時のm組の直接の上部組織は,Bの抜けたj組(後のi会)であった。
そして,m組は,本件殺人事件当時,直接の上部組織であるj組(i会)又はその上部組織であるe一家を通して,最上位のa会,被告Y1の絶対的指揮命令下にあった。すなわち,被告Y1からm組への指示は,e一家,i会本部事務所を通して,ファクシミリ等でm組事務所へと伝達され,m組の構成員は,この指示に従って行動していた。また,m組では,Y3及びその構成員が,上部組織であるe一家及びi会の本部の当直(組事務所当番)を行い,a会の専任評議委員や評議委員を務め,また,i会,e一家,更にはa会に上納金を納めるなど,a会所属の組織として,a会を支える具体的活動を行っていた。
(被告Y1及び被告Y2の主張)
以下の点からすれば,本件においては,被告Y1及び被告Y2に使用者性は認められない。

a会は連合体であること
a会は,q組のようなピラミッド型の組織ではなく,戦前からの歴史を有する各博徒団体(f一家,e一家,g一家,h一家など)が集まって結成された組織であり,本件殺人事件当時は,各博徒団体の連合体組織をとっていた。そのため,シノギ(資金獲得活動)はもちろん,仮に他の組織と抗争が生じた場合も,各博徒団体に関わることは,その内部の自治的解決にゆだねられており,a会総本部の事務としては,各一家内で決まった人事や縁組みなどをそのまま承認する,他団体との義理がけや親睦を図る,けん銃の所持や薬物の使用を禁止するといった大まかな方針を示すといった程度で,q組のように総本部において抗争から構成員の生活に関することまで細かく指示を出し,末端構成員までその徹底を図るというシステムは採られていない。
このように,各一家は同格であり,その連合体としてa会があり,被告Y1は,a会の代表者であるものの,m組の上部団体であるe一家の総長ではなく,f一家の総長の地位にとどまるものであり,e一家のことには関与していない。

通達について
a会においては,執行部から会員に対する通達はあるが,会としての行事の注意事項を伝達するなどの一般的な事項に関するものであり,q組のような構成員の生活に関する事項にまでわたるものではない。また,q組のように通達告等の文書により,全国8ブロックのブロック長

等を通じて末端組織の構成員に至るまで伝達徹底される体制が採られ,その内容は,構成員に対して強い拘束力と強制力を持ち,これに反した場合には指詰め等の制裁を受けるといったシステムは,a会には存在しない。

人事について
a会における昇格は,構成員の所属する組織の長の推薦がないと行われない仕組みになっており,執行部が独自の判断で下部組織の構成員を昇格させることなどはしていない。a会は,q組とは異なり,各一家内で決まった人事や縁組みなどをそのまま承認している。また,執行部における決定は,執行部によって行われており,被告Y1及び被告Y2は,最高幹部の人事以外は関与しておらず,その意思が先行することなどない。

上納金について
a会に会費はあるが,その性質は,会員の福利厚生や会全体の経費に充てられる互助会費としてのものであり,被告Y1及び被告Y2に利益を供与するものではない。すなわち,会費は月額制で,相談役5万円,副会長補佐5万円,副理事長3万円,理事(常任相談役)2万円,幹事(相談役)1万5000円,専任評議委員1万円,評議委員5000円,代議委員5000円,幹部3000円であり,q組のような高額ではなく,上納金でないことは明白である。

慶弔規定について
a会は,前記のような連合体としての性格から,q組とは異なり,下部組織を含む構成員全体を対象とする慶弔規定は存在しない。いわゆる出所放免祝いなどは,各博徒団体で主催し,当該団体以外は出所者の知人友人が参加する程度である。なお,葬儀については,各一家の申請により,死亡者の数が20人程度に達した場合にa会合同葬を行っているが,その場合でも,喪主は死亡者の所属する各一家の長が務め(そのため,喪主は数十名となる。,被告Y1及び被告Y2は,生花を出す程度で関与はしな)
い。


被告Y4,被告Y5及び被告Y6との関係
被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,本件殺人事件当時,Y3と杯を交わしておらず,ましてや直属の上部団体であったj組のBとも杯を交わしていなかったのであるから,擬制的血縁関係は存在しない。すなわち,被告Y6は,5か月ほどY3の運転手をしていたにすぎず,a会とは別の組織の構成員の愛人と交際しており,組の御法度に触れることをしている。また,被告Y4は,事実上活動していたのは2年程度にすぎず,以前はq組v組(あるいはw組)に所属していたが,やくざからの永久追放を意味する絶縁処分となっており,Y3と杯を交わしたり,m組に出入りすることは本来御法度であった。被告Y5は,被告Y4の誘いでm組に出入りするようになったが,ゴト師として活動しており,業務上過失傷害しか前科はなく,他団体の組員であったわけでもない。このような被告Y6,被告Y4及び被告Y5の経歴からすれば,そもそもY3との間で全人格的絶対的服従関係があったのか自体疑わしいし,やられたらやりかえせというやくざの論理を語る資格があるかも疑わしい。
(3)

争点2-2(事業執行性の有無)について

(原告らの主張)
以下の点からすれば,本件殺害行為は,a会の威力・威信の維持拡大活動という事業の執行そのものであり,仮に事業の執行そのものではないとしても,a会の組織の威力を利用しての資金獲得活動という事業の執行と密接に関連する行為である。

暴力団における報復及びみせしめの事業性
暴力団の事業には,①
拡大活動,③

威力を利用した資金獲得活動,②

集団の維持

威力・威信の維持拡大活動の3つが含まれる。そして,以

下のとおり,③に必然のものとして,対立抗争のほか,報復・みせしめがあり,これらも暴力団の事業に含まれる。これは,藤武事件最高裁判決及び同控訴審判決にも沿うものである。
すなわち,③

威力・威信の維持拡大活動が暴力団の事業となるのは,

暴力団が,暴力を組織化することにより形成される威力を背景に,資金獲得活動を実行しているから,暴力団にとって,縄張や威力・威信の維持拡大は,その資金獲得活動に不可欠のものであるからである。
そして,暴力団にとって,その組織,構成員,縄張等が侵害されると,その暴力団の組織力が軽視され,威力・威信が傷つけられることになるから,そのような場合は,暴力によって威力・威信等を損なった原因を除去し,それらを回復しないと構成員の士気が低下し,組織そのものが弱体化し,ひいては組織消滅の遠因にもなる。これがやられたらやりかえせという鉄則が生じるゆえんであり,報復及びみせしめはその表れとして,威力・威信を回復させるためになされるものである。そのため,暴力団の構成員は,所属している団体の他の構成員が殺害された場合,威力・威信を維持回復するため,報復,みせしめを実行することになる。そして,これが連鎖的に行われる状況が対立抗争と呼称される。
このような下部組織の構成員による報復,みせしめ行為は,当該下部組織の構成員の士気・忠誠や威力・威信のみならず,最上位団体の威力・威信の維持回復のための活動でもある。なぜなら,組織としての威力・威信が害された事態が下部組織に発生した場合,下部組織が上部組織の威力・威信を利用し,上部組織がこれを容認している以上,対外的に害されるのはその上部組織の威力・威信でもあるからである。そのため,当該下部組織が,報復,みせしめを首尾良く実行しない場合,上部組織から下部組織に対する有形無形の圧力が加えられることになる。本件で,BがY3に対して,報復,みせしめの実行を迫ったのは,その徴表の1つである。以上のとおり,下部組織の構成員が,報復,みせしめを実行することは,上部組織の威力・威信の維持拡大活動に必然のものとして,その事業に含まれる。

本件殺人事件の事業執行性
本件殺人事件は,m組の構成員であるCが殺害されたことに対する組織的な報復,みせしめであって,最上位団体(一次組織)であるa会すなわちその代表者である被告Y1の威力・威信の維持拡大事業の執行そのもの又はこれに密接に関連する行為として行われたもの,あるいは,a会の威力を利用した資金獲得活動,すなわち被告Y1の事業の執行と密接に関連する行為として行われたものである。
(ア)

a会執行部の指示
m組の元上部組織であったj組のBは,Cが殺害された後,Y3を呼
び出し,

きちんとした形を示せ。

と組織としてのけじめをつけるよう指示した。当時,Bは,a会の本部長(執行部を構成する三役の1つであり,会長に次ぐa会のナンバー3に位置づけられる。
)を務めてお
り,この指示が,a会全体の威力・威信の維持回復に関わるものであったことは疑問の余地がない。
(イ)

実行犯である被告Y6らの認識及び処遇
本件殺人事件の実行犯である被告Y6も本件殺人事件がa会の威力・
威信の維持回復のためであったと自認しており,被告Y5も本件殺人事件に当たって,上層部からの強制が存在し,これに服従せざるを得ない状況であった旨明言している。
そして,Y3は,本件殺人事件後,本件殺害行為についてBなどのa会上層部に報告をした。また,Y3は,平成14年1月初旬,被告Y4と兄弟杯,被告Y6及び被告Y5と親子杯を交わし,被告Y6らを,m組内においてそれぞれ昇進させ又は幹部に登用するなど,いずれもその功を認めて報奨している。
(ウ)

a会をとりまく状況
本件殺人事件当時,a会をとりまく状況は,s会との一連の確執・抗
争(t会・s会抗争,u会の内部抗争,四ツ木斎場事件)及びq組の急速な関東進出などがあって,非常時ともいえる極めて厳しい状況にあり,下部組織に関するものであっても,a会の威力・威信を減殺するおそれがあれば,無関心ではいられないという格別の時期にあった。
(被告Y1及び被告Y2の主張)
以下の点からすれば,本件殺人事件は,m組が強盗組との汚名をそそぐために行われたものか,あるいは,被告Y6の私怨から行われたものにすぎず,a会の威力・威信の維持とは無関係であるから,
a会の威力を利用しての資金獲得活動に係わる事業の執行と密接に関連するとは到底評価できない。藤武事件最高裁判決は,暴力団の対立抗争において,その構成員がした殺傷行為が,民法715条にいう事業の執行につきなされた行為に該当するとされた一事例であって,威力・威信を利用しての資金獲得活動と無関係に下部組織の構成員がした殺傷行為のすべてについて,最上位の組長に責任があると認めた事例ではない。本件殺人事件には,暴力団の下部組織における対立抗争やシノギという側面は皆無であり,その点で上記最高裁判決とは事案の内容を異にしており,同判決の射程範囲には含まれないものである。ア
本件殺人事件に関するm組の認識
(ア)

C拉致を警察に届け出ていること
Y3は,9月25日,m組の構成員であったCが何者かに拉致され,
Cの妻から連絡を受けた際,警察に届け出た。しかし,本件殺人事件の目的がみせしめ・報復目的ならば,警察に届け出ることはおよそ考えられない。
(イ)

Dの連絡に対する認識
Cの殺害については,9月28日,m組の元組長代行であったDが,
m組事務所にやってきて,Cの死体発見のニュースをテレビで見
た。」と言った。しかし,Y3らは,m組を破門されたDがわざわざC殺害について連絡してきたことに不審を抱き,DがCを殺害したのではないかと疑ったのであり,m組にとっては内輪の喧嘩程度の認識にすぎなかった。Cを殺害した犯人が同じ組織の元組員(D)であるとすれば,それによって失われたのは,せいぜいa会内部におけるm組の信用にすぎず,a会の威力・威信が傷つけられたとは到底いえない。
(ウ)

Cの葬儀を組葬にしなかったこと
Y3は,Cの葬儀は組葬にしたいと思い,直属の上部団体であったj
組B及びi会K会長に上申したところ,Cが強盗行為に関与したこと,Cは破門されたDと行動を共にしたことなどから,組葬とすることに反対された。そのため,Cの葬儀は,個人的なものとして執り行われた。このように,Cの葬儀が直属の上部団体の葬儀として行われなかったのは,そもそもCの殺害及びその後の一連の出来事が直属の上部団体へ波及する要素が全くなかったことを如実に示すものである。
(エ)

a会幹部の関与がないこと
原告らは,Bが,Y3に対し,a会の威力・威信の回復を図るよう指示したと主張している。しかし,本件はm組内部の問題であり,Bを含むa会幹部が,Y3に対し,C殺害に関して発言したことはない。被告Y5及び被告Y6の経歴・立場にかんがみれば,これらはいずれも伝聞憶測にすぎず,これらの証拠によって上部団体の指示があったと認めることはできない。本件殺人事件に関与したm組組員のうち,最も高い地位にあり,事情に明るい立場にあった被告Y4の供述を十分検討すれば,原告らの主張が誤っていることは明らかである。
(オ)

以上のとおり,本件殺人事件は,m組が強盗組との汚名を晴らすと
いうm組固有の事情に基づいて行われたものであって,組員Cの殺害の報復として行われたものではない。

被告Y6の私怨の可能性
本件殺人事件は,被告Y6が,親密な関係にあったCが殺害されたことに対する私怨として,Y3らの意思に反してAを殺害したと評価することも可能である。このような場合には,被告Y6固有の問題であり,被告Y1及び被告Y2の使用者責任は成立しない。
(ア)

経緯の不自然性
被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,10月8日までは,m組が強盗
組でないことを証明するために,D又はEの所在を探していた。しかしながら,翌9日になって急に

DやEでなくとも,Eの関係者であれば誰でもいいから殺害することにした。

というのは,不自然極まりない。すなわち,Eの関係者を殺害したところで,m組が強盗組でないことを証明することにはならず,むしろ,Eの関係者の殺害によって,DやEらが一層警戒を強め,その所在をつかむことが更に困難になってしまうばかりか,一般市民を殺害すれば,それこそm組は他の組織から笑い者にされてしまうのである。
なぜ,9月30日からわずか10日前後の期間で,Y3が,Eの関係者を銃殺することで形を示さなければならなかったのかについて,被告Y4,被告Y5及び被告Y6らの供述調書では具体的な説得力ある説明は一切なされていない。
(イ)

実行犯の人選の不自然性
被告Y4及び被告Y5の供述調書には,被告Y6はヒットマンの役割
であった旨記載されている。しかしながら,被告Y6の前科前歴の大半は窃盗であり,m組との関わりもY3の運転手をしていただけであり,正式な組員ではない。また,被告Y6は,DやE等の割り出しの際,柏での現地調査以外関与しておらず,けん銃の扱いも不慣れである。このような点からすれば,Y3が被告Y6をヒットマンとして選んだというのは不自然である。
(ウ)

犯行の時間帯の不自然性
本件殺人事件は,10月10日午前6時ころに行われたものであるが,
その時間帯ならば,通勤のために近辺を歩いている者などに犯行を目撃される可能性がある。また,m組に対して強盗の疑いを晴らすように求めたi会K組長も期限を区切って指示していたわけでもないから,上記日時でなければならない必然性はない。
(エ)

被告Y6とCの関係
被告Y6は,以前からCと親しくしており,Cの誘いで柏のエステ店
を経営することも勧められたりするほど親しい仲であった。また,被告Y6は,Cの自宅でCの所持していたけん銃を探し出し,その翌日,Cの死亡が判明した際,Cが仇討ちをしてくれと言っているものと受け止めており,これは被告Y6の私怨による単独犯行であることを示している。

本件殺人事件後の人事について
原告らは,本件殺人事件後,被告Y4,被告Y5及び被告Y6が昇格したことをもって,本件殺人事件に対する論功行賞である旨主張する。しかしながら,被告Y4が,若頭から代行に昇格したとしてもm組のナンバー2であることに変わりはなく,特段の意味を持たない。また,被告Y6は,本部長補佐に昇格しているが,同じく平組員であったH及びIは,被告Y6より上席の事務局長及び理事長補佐に昇格していることにかんがみると,やはり特段の意味を持たない。さらに,被告Y5は,理事長に就任しているが,原告らの主張によれば,被告Y5は,被告Y6と比べてさしたる役割を果たしたわけではないことにかんがみれば,別の理由で昇格したと見るべきである。
(4)

争点3(損害の額)について

(原告らの主張)

Aの損害
(ア)

逸失利益
日本で就労した場合

5739万1846円

Aは,本件殺人事件当時も某大学に在籍しており,また,将来日本で働きたいという希望から,日本に3度短期滞在し,4度目の来日の際には,日本語を習得すべく,本件殺人事件の日である10月10日から日本語学校に通学することとなっていた。そして,Aは,日本語学校に1年6か月間通学する予定であったところ,遅くとも5年間の就学後である29歳からは稼働を開始したと考えられる。そこで,基礎収入を平成13年賃金センサス男性・大卒・全年齢平均年収である680万4900円,就労可能年数を38年,生活費控除率を5割として逸失利益の現価を算定すると,5739万1846円となる。b
韓国で就労した場合(予備的主張)

4808万1944円

上記のとおり,Aは,某大学に在籍していたから,仮に日本の大学に進学していなければ,上記大学を卒業したはずである。そして,韓国労働部発行の2001年賃金構造基本統計調査報告書(甲119)によれば,韓国人男性の収入状況は,全職種,大卒以上,全年齢平均では,月額給与199万3915ウォン,年間特別給与713万4550ウォンである(年間合計3106万1530ウォン)から,これを基礎収入とすべきである。
また,韓国では戸主制がとられ,長男が戸主となることから(甲
1)
,Aが韓国に帰国した場合,一家の支柱となって両親を含む家族
を扶養することは明らかであったこと,Aは,健康な成人男性であったから,婚姻して子供を含む新たな家族を有するに至る蓋然性も極めて高かったことからすれば,生活費控除率は3割とすべきである。そして,Aは,生存していれば,日本語学校を平成15年3月20日に卒業し,仮に日本で就労しないのであれば,韓国に帰国して某大学に復学し,平成18年3月に同大学を卒業して,遅くとも同年4月(当時29歳)から稼働を開始したと考えられる。
そこで,これらの基礎収入,生活費控除率,就労可能年数により,逸失利益の現価を算定すると,3億6675万7773ウォン(日本円に換算すると4808万1944円。平成19年6月16日当時,100ウォンは13.11円であった(甲150))となる。

(イ)

死亡慰謝料

5000万円

以下の点からすれば,死亡慰謝料としては,5000万円が相当である。

前記のとおり,Aは,某大学に在学し,将来的に日本で働きたいとの希望の下,日本に3度短期滞在し,本件殺人事件当日からは日本語学校に通学することになっていた。このように,Aは,将来有望な青年として,その将来を約束されるはずであった。ところが,Aは,何らの落ち度もないにもかかわらず,a会の暴力団組織としての威力・威信を維持回復するという身勝手な暴力団特有の論理により,m組構成員の極めて杜撰な調査の末,C殺害犯の一味であると誤認された挙げ句,突然至近距離から銃弾4発を左胸部,顔面等に撃ち込まれ,殺害されたのである。
以上の経緯から,本件殺人事件は,交通事故等による死亡とは明らかに異なり,暴力団組織の一員である被告らの利己的な確定的故意に基づいて敢行された組織的犯罪であり,このような理不尽な理由によって殺害されたAの無念さ,怒り等の精神的苦痛は,筆舌に尽くし難いものである。したがって,本件のような極めて特異な事案における慰謝料額は,交通事故事案で構築されてきた死亡慰謝料の基準を参考としつつも,その具体的な特異性を斟酌して当然大幅に増額されてしかるべきである。

また,不法行為における慰謝料の制裁的機能という観点からも,本件のような暴力団犯罪型の不法行為においては,慰謝料の増額を認めるべきである。そして,慰謝料請求に制裁的機能を持たせるという考えは,交通事故事案における慰謝料額の定額化傾向と何ら反するものではない。すなわち,交通事故事案は,その態様に類似性・反復性が認められ,被害者及び加害者の互換性も顕著であって,大量発生事案に対する合理的処理の必要からも定額化に合理性が認められるが,本件においては,そのような事情はなく,むしろ,暴力団犯罪への抑止的効果を持たせるためにも,慰謝料の制裁的機能を活用して,通常の事案に比し,ある程度高額な慰謝料を認めるべきである。


原告X1の損害
(ア)

葬儀関係費用
法要費用

合計95万6600円
57万円
原告X1は,平成13年11月26日,Aの四十九日法要を執り行い,600万ウォン(日本円に換算すると57万円。同日,100ウォンが9.50円であった(甲48))を出捐した。


薦度齊費用

29万4300円

薦度齊とは,死んだ霊魂が極楽浄土で生まれ変わるよう祈念する仏教上の儀式である。
原告X1は,平成13年12月15日,Aの薦度齊を執り行い,300万ウォン(日本円に換算すると29万4300円。同日,100ウォンが9.81円であった(甲49))を出捐した。


貸切バス費用

9万2300円

原告X1は,平成13年10月14日,Aの葬儀を行った際,親族送迎のために貸切バスを利用し,100万ウォン(日本円に換算すると9万2300円。同日,100ウォンが9.23円であった(甲50))を出捐した。

(イ)

旅費・交通費

合計19万8039円

平成15年7月17日来日分
原告X2及び原告X3は,平成15年7月17日,被告Y6らの刑事裁判傍聴のために来日し,同月19日に帰国した。その際の航空運賃は,合計96万9400ウォン(日本円に換算すると9万7036円。同月17日,100ウォンが10.01円であった(甲5
1))
。,宿泊費(東横イン千葉駅前店)は,9975円であった。


平成15年10月9日来日分
原告X2は,平成15年10月9日,被告Y6らの刑事裁判の証人として出廷するため,原告X3を伴って来日し,同月11日に帰国した。その際の航空運賃のうち,原告X2分については訴訟費用となったが,原告X3の航空運賃は,合計64万0100ウォン(日本円に換算すると6万2153円。同月9日,100ウォンが9.71円であった(甲52))
。,両名の宿泊費は(ホテルサンガーデン千葉)は,
2万8875円であった。
(ウ)

固有慰謝料

200万円

韓国では,現在でも戸主制度と類似の制度が存続しており,家を継ぐのは長男に限定されている。その意味で,どの家でも長男は特別な存在であり,原告X1も,長男であるAを大切に育ててきたし,ひとかたならぬ期待を抱いていた。
しかるに,Aは,日本において,合理的理由もなく暴力団員に射殺されたのであり,原告X1の絶望感は,想像を絶するものであった。実際,X1は,Aの死亡により,鬱状態に陥るとともに,神経性の胃潰瘍となり,吐血して入院までしている。

原告X2の損害(固有慰謝料)

200万円

原告X2に関しても,原告X1と同様,Aを失った精神的苦痛は甚大であり,被告Y6らの刑事裁判の証人として出頭した際には,激情から,被告らに殴りかかったほどである。

原告X3の損害(固有慰謝料)

500万円

原告X3は,韓国民法上もAの相続人ではないが,愛する弟を何らの合理的理由もないのに射殺された。韓国では,姉妹は結婚しない限り,将来長男を戸主とする戸籍に属することもあり,原告X3はAを特別に可愛がって,愛情を注いできた。実際,Aが兵役中に休暇をとって家に帰ってくることがあると,他のすべての約束を取り消して弟と一緒に過ごすほどであったし,本件殺人事件後,弟を失ったショックから働く気になれず,失意の中,無為な日々を過ごしてきた。また,そうした中でも,X3は,弟を殺害した被告Y6らの刑事裁判傍聴のため,2度も来日した。したがって,X3が被った精神的苦痛もまた甚大である。

弁護士費用

合計2400万円

本件の特殊性・困難性にかんがみると,弁護士費用は,損害額の2割程度を弁護士費用とすべきである。これに従って原告らの弁護士費用を算定すると,原告X11200万円,原告X21100万円,原告X3100万円となる。

相続に関する韓国民法の規定
(ア)

相続は,被相続人の本国法によるから(法例26条)
,韓国の相続

法理に従うことになる。韓国民法1000条1項は,法定相続人について,第1順位を被相続人の直系卑属,第2順位を被相続人の直系尊属としている。そして,同条2項後段は,同親等の相続人が数人いるときは,共同相続人になるとしている。
また,同法1006条は,相続人が数人であるときは,相続財産はその共有とするとしており,可分債権は,相続開始と同時に当然に共同相続人の間でその相続分に従って分割承継されるというのが韓国の判例である。
そして,同法1009条1項は,法定相続分について,同順位の相続人が数人であるときは,その相続分は均等であるとする。
(イ)

Aは,父原告X1,母原告X2の長男として生まれ,未婚であり,
子供もいない。
したがって,Aの相続財産は,原告X1と原告X2が,それぞれ2分の1ずつ相続した。
(被告Y6の主張)
原告らの主張する損害の額は,いずれも争う。
(被告Y4及び被告Y5の主張)
被告Y4及び被告Y5は,原告らに対し,不法行為責任を負わないから,損害の額について認否不要である。
(被告Y1及び被告Y2の主張)

逸失利益について
本件殺人事件当時,Aには収入はなかったのであるから,逸失利益の算定について,被害者の実収入を基礎とすることを原則とする損害賠償制度の趣旨に照らせば,賃金センサスに基づき,逸失利益を算定することは違法というべきである。
仮に賃金センサスに基づいて逸失利益を算定するとしても,Aは,原告らの長男であり,日本語研修終了後,韓国に帰国して生計を立てることが想定されるから,日本の賃金センサスに基づいて逸失利益を算定することは失当である。すなわち,Aは,日本語学校に通学して日本語を習得すべく来日し,在留期間は6か月の語学研修目的であり,本件殺人事件当時に在籍していた某大学を卒業した後は,韓国で神父となることを志していたのであるから,いずれ韓国に帰国することが想定されていたもので,日本での就労可能性はない。
ところで,原告X3は,Aが日本で仕事をすることを希望していた旨陳述書(甲125)に記載しているが,原告X2は,本人尋問において,長男であるAが韓国に戻って面倒を見てくれることを期待している旨供述したことや,わずか6か月の語学研修でAが日本で仕事に就ける蓋然性は極めて低いことなどからすれば,Aが日本で収入を得られたとは考えられない。
そうすると,Aが,仮に日本語学校で1年6か月間研修し,韓国に帰国後,某大学に復学して同大学を卒業するであろう29歳から67歳までの38年間(ライプニッツ係数16.8678)の逸失利益の現価を,韓国の賃金センサス(全職種全学歴男性の平均月収である155万8940ウォン)に基づき,生活費控除率を50%として算定すると,1億5777万5328ウォンとなる。
そして,平成18年5月20日当時,1ウォンは0.1203円であるから,日本円に換算すると,その逸失利益の現価は,多くとも1898万0372円となる。

慰謝料について
原告らは,Aの死亡慰謝料について,いわゆる制裁説に基づく主張をしているが,そのような説は少数説であり,本件においては,制裁説ではなく通説及び判例の賠償説によるべきである。
ところで,死亡慰謝料の算定に当たっては,支払を受ける遺族の生活の基盤がどこにあり,支払われた慰謝料がいずれの国で費消されるかに応じて,当該外国と日本との所得状況等経済的事情の相異を考慮することが必要である。そして,本件では,A及び原告らは,日本よりも所得等が低い韓国に生活基盤を有するのであるから,その慰謝料は,日本における慰謝料額よりも低くなると考えられ,具体的には,平成13年度の日本と韓国の全産業全学歴賃金センサスを比較して慰謝料を算出すべきである。日本の独身男子の死亡慰謝料は2000万円前後であり,平成13年の全産業全学歴全労働者の年収は,502万9500円である。他方,平成13年の韓国の全職種全学歴全労働者の年収は,201万1019円(139万3059ウォン×12か月×0.1203円)であるから,これらの比較に基づいて,韓国における慰謝料を算出すると,799万6894円となる。
2000万円÷502万9500円×201万1019円=799万6894円

原告ら固有の損害について
原告X1の損害のうち,薦度齊は2度の葬式であり,我が国では認められない。また,平成15年7月17日の刑事裁判傍聴のための旅費交通費は,因果関係が認められない。さらに,同年10月9日にX3が来日した分も因果関係は認められない。
固有慰謝料についても,上記イ同様に所得状況等の格差を考慮すべきであるから,以下のとおり,原告X1及び原告X2の慰謝料は,79万9689円を超えることはない。
200万円÷502万9500円×201万1019円=79万9689円原告らは,原告X3の慰謝料について,父母である原告X1及び原告X2よりも多い額を主張しているが,その法的根拠は示されておらず,上記原告X1及び原告X2の慰謝料額を超えることはあり得ない。

弁護士費用について
原告らは,弁護士費用について,本件の特殊性・困難性を根拠に損害額の20%を主張するが,その具体的な主張・立証はなく,藤武事件においても弁護士費用は損害額の10%となっていることからすれば,主張自体失当である。

第3
1
争点に対する判断
暴力団とa会
前記前提となる事実(第2の1)及び証拠(甲2ないし5,12ないし18,20,23,25,27ないし29,31ないし42,44,54ないし111,122,126ないし133,乙1ないし8,33,丙1,2,丁1,証人L,証人M及び被告Y4)によれば,次の事実を認めることができる。(1)

暴力団一般について
意義及び沿革
暴対法では,暴力団とは,その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。
)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助
長するおそれがある団体をいうと定義されている(暴対法2条2号)。
現在の暴力団組織は,博徒(博打打ちとも呼ばれ,縄張内で非合法な賭博場を開き,そこから利益(寺銭)を上げることを稼業としている者の集団)
,的屋(香具師とも呼ばれ,縁日,祭礼等に際し,境内や街頭で営業を行う露天商や大道芸人等の集団のうち,縄張を有しているもので,暴力的不法行為を行い又は行うおそれのあるもの)といった古くから存在していた組織のほか,愚連隊(終戦直後から繁華街等を中心に当てもなくうろつき,ゆすり・たかり,窃盗等の違法行為を行っていた不良青少年の集団)の流れを汲む組織などが,相互に吸収・模倣しあうなどして生まれたものであり,その沿革は各組織によって様々である。

基本的性格及び行動原理
暴力団の共通した基本的性格の1つは,暴力を組織化することによって得られたその団体の威力・威信を利用して暴力団員に資金獲得活動(シノギ)を行わせて,利益の獲得を追求するところにある。具体的には,暴力団は,その団体の勢力を及ぼし,安定的に資金を獲得するため,一定の地域・利権に対する支配権(縄張・シマ・守場所などと言われる。
)を持っ
ており,この縄張を中心として,暴力団の名称を告げ,また,暴力団のバッジや肩書入り名刺を示すなどして,その団体の威力・威信を利用した覚せい剤の密売,賭博,ノミ行為,ゆすり・たかり等の恐喝,みかじめ料(用心棒代,守料,ショバ代ともいう。
)の徴収,交通事故示談等の民事
問題への介入等を資金源として様々な活動をしている。暴力団にとっては,このような縄張が大きいほど安定的に資金を獲得しやすく,また,縄張の大小ひいては資金獲得活動の難易は,暴力団の勢力や威力・威信により大きく左右される。
したがって,暴力団にとって,縄張や威力・威信の維持拡大は,その資金獲得活動に不可欠のものとなっている。そのため,暴力団にとって,縄張や威力・威信(メンツ)を侵害されれば,それを放置することなく,その維持・回復に努めることになる。たとえば,暴力団においては,他団体の縄張の拡大を防ぎ,自らの団体の縄張を死守するため,いわゆる縄張争いがしばしば生じており,また,同じ組に所属する構成員が殺害された場合等は,構成員を殺した相手に相応の報復をすることにより,その組織の威信ひいては一次組織の威信を維持している(いわゆるやられたらやりかえせ。暴力団組織の構成員には,そのような報復をしなければ,組)
織が軽く見られ,組織を存続させることさえ危うくなるといった意識が存在しているからである。そして,このような下部組織の構成員による行為が連鎖していくことにより,いわゆる一次組織同士の対立抗争に発展することも少なくない。

暴力団の組織構造
暴力団においては,その威力・威信の支えとなる暴力を集約・組織化することが不可欠であり,そのために,組織の強固な結びつきを維持する必要があることから,組長と組員が杯事(さかずきごと)といわれる秘儀を通じて親子(若中)
,兄弟(舎弟)という家父長制を模した序列的擬制的
血縁関係を結び,組員は,組長に対する全人格的包括的な服従統制下に置かれている。親分・子分の上下関係は,理屈を超えた絶対的なものとされ,親分の命令であれば,理非善悪を問わずこれに従うのが子分としての当然の義務であり,かつ美徳であるとされている。
このように,暴力団においては,組織の構成員が,特殊な序列的擬制的血縁関係で結びつき,子分が更に自ら親分となって子分を持つことによって,こうした関係の連鎖が形成され,一方,親分名乗りをしている者が他の親分の子分となることでその傘下に入り,組織が裾野を広げていくなど,組織力や経済力のある親分ほどその傘下に組織が連なることとなる。組織が拡大した暴力団は,傘下組織を含めたピラミッド型組織全体を運営していくため,頂点に位置する最上位の組長から末端構成員に至るまでを一つの組織とした上で,それを細分化した階層に区分けして,全体としての上下関係を明確にしている。
暴力団組織は,その階層ごとの格付けにより下位の構成員から会費,義理代(葬儀・祝儀)等の名目で金銭(いわゆる上納金)を徴収し,それにより組織を維持している。
暴力団組織の運営方針,上層部の人事,他団体との問題処理に関しては,暴力団組織ごとに綱領や内規を定め,執行部等の上部機関が決定し,検討の結果を最上位に位置する組長が最終的に決定するといった形で運営されているのが通常である。

暴対法の定め
上記のような暴力団の基本的性格,特徴等を踏まえ,暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行い,及び暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を講ずるとともに,暴力団員の活動による被害の予防等に資するための民間の公益的団体の活動を促進する措置等を講ずることにより,市民生活の安全と平穏の確保を図り,もって国民の自由と権利を保護することを目的として(暴対法1条)
,平成3年5月15日,暴対法が制定された。
暴対法3条は,都道府県公安委員会(以下公安委員会という。
)は,
暴力団が以下の(ア)ないし(ウ)のいずれにも該当すると認めるときは,当該暴力団を,その暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として指定するものとする旨規定しており,この指定の有効期間は3年間である(暴対法8条1項)
。そして,
暴対法3条による指定を受けた暴力団(指定暴力団)及び暴対法4条による指定を受けた暴力団(指定暴力団連合)については,暴対法上,暴力的要求行為の規制等(第2章)
,対立抗争時の事務所の使用制限(第3章

,加入の強要の規制その他の規制等(第4章)が規定されている。(ア)

名目上の目的のいかんを問わず,当該暴力団の暴力団員が当該暴力
団の威力を利用して生計の維持,財産の形成又は事業の遂行のための資金を得ることができるようにするため,当該暴力団の威力をその暴力団員に利用させ,又は当該暴力団の威力をその暴力団員が利用することを容認することを実質上の目的とするものと認められること。
(イ)

国家公安委員会規則で定めるところにより算定した当該暴力団の幹
部(主要な暴力団員として国家公安委員会規則で定める要件に該当する者をいう。
)である暴力団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人
数の比率又は当該暴力団の全暴力団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が,暴力団以外の集団一般におけるその集団の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率を超えることが確実であるものとして政令で定める集団の人数の区分ごとに政令で定める比率(当該区分ごとに国民の中から任意に抽出したそれぞれの人数の集団において,その集団の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が当該政令で定める比率以上となる確率が10万分の1以下となるものに限る。)
を超えるものであること。
(ウ)

当該暴力団を代表する者又はその運営を支配する地位にある者の統
制の下に階層的に構成されている団体であること。
(2)

a会について
沿革及び概要
a会は,明治初期に,Nが,現在の東京都港区芝浦一帯を縄張として,日本橋住吉町で結成した博徒f一家を前身としている。その後,三代目総長のOが,昭和33年にf一家を中心に関東の博徒及び的屋組織を集めてb会を結成し,昭和39年10月にa会となったが,いわゆる第
一次頂上作戦(昭和39年2月から昭和44年4月にかけて,警察庁が組織暴力犯罪取締本部を設置し,特に暴力団のトップ・最高幹部の逮捕と,組織の解体を目的として実施した一連の暴力団対策)により昭和40年に解散を余儀なくされた。しかし,f一家五代目総長であるPが,かつてのa会当時の同士を糾合し,昭和44年にc連合を発足させた。c連合は,名称が示すように連合体としての色彩が強く,トップとなったPもあくまでも連合体の代表という立場にとどまっていたが,昭和57年5月にd連合会に改称し,代表も会長とすることによって更に組織としての結束を強めていった。そして,平成3年2月,当時のd連合会理事長であった被告Y1がf一家六代目総長を襲名し,d連合会のトップになると,それまでの連合体組織を解消し,被告Y2をはじめ,主としてa会傘下組織の最高幹部や総長クラスの者との間で,被告Y1を親とする杯直しを行い,組織を一本化させるとともに,名称もd連合会からa会に戻し,被告Y1はa会会長に就任した。
その後,被告Y1は,平成10年6月,a会執行部の体制を変え,被告Y1は総裁,被告Y2は会長(被告Y1の次位)に就任した。なお,被告Y1は,現在もa会の代表者たる総裁の地位にあるが,平成17年にf一家六代目総長を引退し,被告Y2がf一家七代目総長に就任している。a会は,平成13年当時,代表者を被告Y1とし,某所に主たる事務所を有し,勢力範囲は,1都1道1府17県,暴力団員数は,約6300人で,五代目q組に次ぐ勢力を有していた。主な二次組織としては,f一家を筆頭に,e一家,h一家,g一家がある。
暴対法との関係では,a会は,平成4年に暴対法3条に基づく指定を受け,平成7年,平成10年,平成13年,平成16年及び平成19年の各6月に再指定されている(甲2,33ないし36,151)
。被告Y1は,
平成4年の指定に当たり,聴聞会(現在は意見聴取
)にa会の代表者
として出席し,

暴力団と呼ばれるのは,はなはだ迷惑である。

旨述べたが,指定自体は争わず,以後,聴聞会にa会からの出席者はなく,審査請求等指定に対する不服申立もされていない。

組織の基本的形態・構造
平成13年当時のa会の基本的形態・構造は,次のとおりであった。(ア)

階層的・序列的組織の形成
被告Y1は,平成3年にa会会長に就任した際,まず二次組織以下の主な最高幹部や総長らと親子杯を交わし,その余の者と以後継続的に杯を交わして,本件殺人事件当時は,a会の代表者(a会総裁兼f一家六代目総長)として,a会の頂点の地位にあった。そして,a会においては,被告Y1と杯を交わした傘下組織の構成員が,二次組織(f一家,e一家,h一家,g一家など)又は三次組織(a会e一家j組など)を形成し,これらの構成員と杯を交わした者が更に下部組織を順次形成しており,被告Y1を頂点とする擬制的血縁関係の連鎖による階層的組織が形成されていた。
また,a会においては,被告Y1を頂点として,傘下組織を含めた全部を一体としてa会といういわゆるピラミッド型の組織が形成されており,その内部に総裁(被告Y1)
,会長(被告Y2)
,会長補佐,常任
顧問,顧問,理事長,幹事長,本部長,執行部役員,副会長,副会長補佐,副理事長,常任相談役,相談役,専任評議委員,評議委員,代議委員,幹部,組員という19階層(現在は21階層)の役職制度が設けられており,末端組織の構成員も含む統一体としての階層的・序列的組織が形成されていた。
(イ)

a会の名称,代紋を使用することによる資金獲得活動の容認
a会の名称の使用
a会の下部組織の構成員は,自らを表示する場合,例えば,
a会e一家i会m組というように,必ずa会を冒頭に掲げ,a会の傘下組織であることを明示し,また,前記のa会における役職も,これを同一の名刺に併記していた。なお,すべての名刺の左上部又は右上部には,下記(イ)のとおり,一次組織であるa会の代紋が表示されている。


代紋バッジ・代紋入り名刺の使用
a会に加入した者には,所属組織を通じて,a会のaの文字を表した代紋バッジが交付されるとともに,代紋入りの名刺の作成が許される。代紋バッジについては,二次組織である各一家からの申請に基づき,総本部が交付している(乙33)
。この代紋は,末端の構成員に
至るまで同一のものが使用されている。

a会の名称,代紋を利用しての資金獲得活動
a会の下部組織の構成員は,それぞれの縄張等において,a会の名称を告げ又は代紋(代紋バッジや代紋入り名刺)を示すことによって資金獲得活動を行っており(甲145,146)
,a会もこうした資
金獲得活動を容認していた。a会は,平成13年当時も暴対法3条による指定を受けており(上記(2)ア)
,その指定理由には,同条1号
の名目上の目的のいかんを問わず,当該暴力団の暴力団員が当該暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成又は事業の遂行のための資金を得ることができるようにするため,当該暴力団の威力をその暴力団員に利用させ,又は当該暴力団の威力をその暴力団員が利用することを容認することを実質上の目的とするものと認められることが含まれていることや,a会の構成員に対して平成13年度において,暴対法11条による中止命令が320件,再発防止命令が12件発せられていること(甲38,127,147)は,a会が,暴力団の威力を利用して資金獲得活動をしていたことの現れである。

(ウ)

会費等の徴収
a会は,上記(イ)のとおり,構成員に対し,a会の名称又は代紋を利
用して資金獲得活動を行うことを容認する一方,地位に応じた会費,
合同本葬祭費等の経済的負担を課しているほか,葬儀等において総本部や傘下組織からの指示の下,階層に応じた金額の臨時徴収を行っている。会費の額については,副会長以上が5万円,副理事長3万円,常任相談役2万円,相談役1万5000円,専任評議委員,常任評議委員及び評議委員1万円,代議委員5000円,幹部3000円と決められており,これらが毎月総本部に納められている。
なお,a会においては,常任相談役以上の役職にある者が950人から999人いるとされるところ(甲3の3,証人L)
,これらの者が全
員常任相談役と仮定しても,総本部に納められる会費の額は,最も少なく見積もっても月額1900万円,年間2億2800万円となる。さらに,a会においては,上記のとおり,常任相談役以下の役職にある者も会費を納めており,これらを併せ考えると,総本部に納められる会費の額は,上記金額を大きく上回るものと考えられる。
(エ)

綱領及び規約の存在
a会においては,構成員全体の行動規範として,綱領(甲122の3
別添2)を定めており,傘下組織においては,これを事務所等に掲示するなどして周知徹底が図られている(甲77,78,81)

また,a会の組織運営の根幹に関わる事項として,規約(甲122の3)が定められている。この規約は,平成13年当時のもの(甲122の3別添2)では,全7章・19条から成り,その内容は,目的(綱領の実現を図ること等。第3条)のほか,役員の選任手続(第2章),執
行部の意義及び活動内容(第3章)
,会籍の管理(第4章)
,会計(第
5章)
,総本部事務局(第6章)
,附則(第7章)というものであり,
以下のa会における会の運営(意思決定等)は,下部組織を含め,これに従ってなされている。なお,この規約は,平成15年の改正の際(甲122の3別添3)には,被告Y1が承諾をしている(証人M)


a会の意思決定及びその伝達方法
平成13年当時のa会の意思決定及びその伝達方法は,次のとおりであった。
(ア)

a会執行部
a会規約における位置付け
a会規約では,執行部について,次のように定めている。すなわち,a会には,執行機関として執行部を置き,執行部は,会の運営及び活動を決定する最高の意思決定機関であり,かつ会務の執行をつかさどるとされ(規約6条)
,執行部は,理事長,幹事長,本部長,副会長,
その他執行部役員により構成され,これらの者は会長が指名・選任するとされている(規約7条)
。なお,a会は,会長制とし,会長職は,
原則として代々会長の指名による(規約2条)

このように,a会の運営方針,他団体との問題処理,会員の入退会の管理,非行会員に対する調査・審議,破門又は除籍の処分等,組織にとっての重要事項は,まず執行部によってその方向性を定めることとされている。このことは,下記b(a)及び(b)の具体的事例にも表れているとおりである。そして,a会の決定に違反する行為等があった場合には,その構成員は,絶縁,破門,除名等の処分を受けるものとされ(a会規約14条)
,その決定内容の徹底が図られている。


実際の意思決定・運営
執行部会は,当時,毎月5日に某所所在のa倶楽部(現在は,埼玉県日高市所在のa共済会館)で開催されており,日常的な会の運営は執行部によってなされ,必要があれば被告Y1及び被告Y2による事後承諾がされ,重要事項については,執行部で審議した上,執行部から報告を受けた被告Y2の承認を経て,被告Y1が最終決定をしていた。このことは,守場所の管理者(貸元)の就任に関し,
書状披露
(甲39,41)中に,
a会会長f一家六代目Y1氏の承認を頂きa会会長f一家六代目Y1親分の御承認を頂き,
,一家名の
変更に関し,
御通知
(甲40)中に,
a会会長f一家六代目Y1親分の御承認を頂きとそれぞれ記載されており,また,新たな貸元の襲名披露において,被告Y1による承諾
,被告Y2による承認がされていること(甲85の3,4,甲129,130,132,133)にも表れている。
執行部は,ほぼ全員が被告Y1と杯を交わしている者によって構成されており,被告Y1の最終的な意思に反することはできず,規約上は最高の意思決定機関とされる執行部の決定は,実際には被告Y1の意思を忖度して行われているものと認められる。
(a)

書状の作成について
a会の作成した執行部決定事項と題する書面によれば,
慶事書状作成に付いてとして,
一,先ず総本部に連絡する事一,直接会長には絶対に連絡をしない事申請を出し一,総本部より執行部に執行部で審議の上会長に報告承諾を得るその後会長に当代跡目が挨拶に行き書状作成に当たる事とされ,また,破門除籍書状作成についてとして,
一,会長の直系若者については会長が承諾した者のみ会長の名前とa会執行部で書状を出す事一,副会長補佐副理事長常任相談役に付いては先ず総本部に連絡を取り会長の名前と各一家の代表者名とa会執行部で書状を出す事に付いては一,相談役専任評議委員総本部に連絡を取り評議委員代議委員若者各一家とa会執行部で書状を出す事とされている(調査嘱託の結果)。
これらによれば,書状の作成については,一次的には,各一家で
はなく執行部が方針を定め,重要な書状の作成については,会長が関与することが認められる。
(b)

構成員の加入及び破門等の管理
a会執行部は,a会に加盟しようとする者の承認を行い(a会規
約10条)
,a会の構成員に非行等があった場合には,その非行等
の種類・程度に応じて,直属の組によらずに非行会員に対する調査・審議,破門又は除籍の処分を行っている(甲122)
。このこと
は,a会e一家j組内p組の構成員であったQが,a会執行部の名義で破門されていることにも表れている(甲91)

(イ)

執行部決定事項の傘下組織への伝達
執行部の決定した事項は,埼玉県日高市所在のa共済会館において,
原則として毎月1回,各二次組織の長及び各二次組織ごとに指定された者が出席して開催される定例食事会の席上で,執行部の役員が指示命令している。また,緊急時は,a会総本部から各二次組織の長に対し,電話やファックスで指示していた。そして,これを受けた各二次組織の長は,それぞれの二次組織幹部会議等で指示命令するなどして,末端の構成員まで伝達・徹底している。二次組織以下の傘下組織においては,このような意思伝達をスムーズに行うために,原則として,それぞれの組織ごとに組事務所当番を置き,24時間体制で連絡の受信及び発信ができるようにしている。
具体的には,例えば,a会の四次組織であるm組は,三次組織であるi会の事務所で8日に1回,二次組織であるe一家の事務所で3か月に1回の割合で組事務所当番を務めており,被告Y6及び被告Y5らは,Y3と共にi会本部事務所に泊まり込むなどして連絡対応に当たっていた。このような体制の下,執行部の決定事項等は,m組に対しては,e一家を経てi会本部事務所,m組池袋本町事務所等へとファックス等で伝達され,m組の構成員は,Y3からの指示や通達を読むなどして,その内容を了解していた。そして,こうしたa会執行部からの指示は,m組の組員全員が守っており,守らなければならないこととされていた。(ウ)

ブロック制
a会では,対立抗争等に備えて傘下組織を10ブロックに分け,各ブロックでは,1か月交代でブロック当番が,当番ブロックの本部事務所で当番に当たっていた。各ブロックでは,他団体との抗争等が発生した場合には,ブロック当番は,当番ブロック長に対し,直ちに事案の内容を報告し,当番ブロック長の指示を関係組織に伝達するなどして対応に当たり,さらに必要に応じて,総本部等で一体的に対応していた。なお,ブロック制は,平成16年3月に廃止され,傘下組織を8地区に分けた地区制に変更された。
(3)

m組について
沿革及びa会における系列
m組は,平成13年1月ころ,a会e一家j組内o組の組長代行であったY3が,J組長の引退により,その跡目を継いで発足させたa会の四次組織である。m組の直接の上部団体は,発足当時は,j組であったが,同年7月ころ,Bがe一家からf一家に養子に出たことにより,j組の組長が不在となり,その跡目を誰が継ぐか明確でない時期が続いていたが,同年11月,j組の組長代行であったKがi会を発足させ,正式にm組の上部団体となった。
なお,Y3は,平成15年8月,a会から破門され,平成17年2月にa会e一家及びa会執行部の連名で破門再通知がされている(調査嘱託の結果)



組織構成
m組の本件殺人事件当時の構成は,以下のとおりであった。
組長

Y3

代行

空席(以前はD)

相談役(本部長)


事務局長


理事長

空席

組員

被告Y4,被告Y5,被告Y6,H,Iなど

顧問


なお,被告Y4は,Y3の舎弟待遇であり(丙1及び被告Y4)
,被告
Y5及び被告Y6は,被告Y4を兄貴と呼び,本件殺人事件当時も兄弟関係にあった。
そして,本件殺人事件後の平成14年1月ころ,Y3は,以下のとおりm組内の組織変更を行い,被告Y4を代行に,被告Y5を理事長に,被告Y6を本部長補佐にそれぞれ昇格させた。
組長

Y3

代行

被告Y4

理事長

被告Y5

本部長

F(後に空席)

事務局長


理事長補佐


本部長補佐

被告Y6

また,これと同時期に,被告Y4は,Y3と兄弟杯,Kと親子杯を交わし,被告Y5及び被告Y6は,Y3と親子杯を交わした。そして,a会内の役職として,被告Y4は,専任評議委員,被告Y5及び被告Y6は,評議委員にそれぞれ就任した。
(4)

ところで,被告らは,上記(2)及び(3)の事実に関し,次のアないしウの
主張をするので,以下検討する。

まず,被告Y1及び被告Y2は,a会はq組のようなピラミッド組織ではなく,連合体組織であるから,資金獲得活動はもちろん,仮に他の組織と抗争が生じた場合でも,各一家に関わることは,その内部の自治的解決にゆだねられていた旨主張し,証人Mは,これに沿う供述をし,陳述書(乙33)にもこれに沿う記載をしている。
しかしながら,上記認定のとおり,a会は,下部組織も含めて綱領及び規約に従って運営されており,また,会の基本的方針・人事等(具体的には,書状作成の手続の策定及びa会執行部名義による破門など)については,執行部が協議・決定し,必要に応じて被告Y1及び被告Y2の承認を経ており,これが定例食事会及び組事務所当番等によって二次組織以下に順次伝達・徹底されている。また,a会会長である被告Y2が平成3年2月にd連合会理事長であったY1がf一家六代目総長を襲名,d連合会のトップになると同時にそれまでの連合体組織から,Y1を親とする杯直しを行い,組織を一本化させ名称もd連合会からa会に戻し,a会会長に就任しました。と供述している(甲89,90)ほか,a会の下部組織の構成員も,

a会のトップに君臨しているY1総裁の指揮命令は絶対的なものであり,総裁の一声で末端組員までが命令に服従しなければならないのです。

と供述している(甲145)ことからしても,a会は,被告Y1及び被告Y2が主張するような連合体組織とはいえず,また,二次組織たる各一家の自治にゆだねられているとはいえないことは明らかである。イ
また,被告Y1,被告Y2,被告Y4及び被告Y5は,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,本件殺人事件当時,Y3と杯を交わしておらず,いずれもm組の構成員ではなかった旨主張し,被告Y4及び証人Mは,これに沿う供述をし,証人Mの陳述書(乙33)にもこれに沿う記載がある。しかしながら,本件殺人事件当時,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,被告Y3と杯を交わしていなかったものの,被告Y4は,Y3の舎弟待遇であり,被告Y5及び被告Y6は,被告Y4の舎弟として活動していたこと(上記1(3)イ)に加え,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,Y3を兄貴親父(オヤジ),と呼び,その指示は絶対的である旨認識していたこと(甲12ないし14,17,20,23,28,42,63),
被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,いずれもi会の組事務所当番を務めるなど,既にa会内におけるm組組員としての役割を担っていたこと(上記1(2)ウ(イ))がそれぞれ認められ,このような事実のほか,現に,被告Y4らが,本件殺人事件当時も自らをm組の組員であると供述し(甲18,23,28,42)
,m組の本部長であったFも被告Y4らがm組の組員
である旨の認識を有していること(甲27)にも徴すると,杯事に基づく擬制的血縁関係と同様の関係が構築されていたというべきである。現に,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,いずれも平成14年1月ころには杯を受けるに至っている(上記1(3)イ)
。したがって,本件殺人事件当時
においても,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,既に実質的にはm組の構成員として活動していたものと認められる。

さらに,被告Y1及び被告Y2は,執行部における決定は,執行部によって行われており,被告Y1及び被告Y2は,最高幹部の人事以外は関与していない旨主張し,証人Mは,これに沿う供述をし,陳述書(乙33)にもこれに沿う記載をしている。
しかしながら,そもそも,執行部を構成する役員の指名・選任を行うのは会長であるから(規約7条)
,会長である被告Y2やその親分に当たる
被告Y1が,執行部の行う意思決定に強い影響力を及ぼすであろうことは容易に推察され得るところである。実際にも,執行部は,ほぼ全員が被告Y1と杯を交わしている者によって構成されており(証人M41頁),被
告Y1及び被告Y2は,貸元クラスの人事について承認・承諾をしている以外に,証人Mも認めているとおり,執行部の決定について,必要に応じて事後承認や相談に応じているのであるから,執行部の決定のうちには,被告Y1及び被告Y2が改めて明示的に意見を述べないものがあるとしても,それは,上記認定のとおり,執行部がその意思を忖度してそれぞれの決定を行っており,被告Y1及び被告Y2が個別具体的に逐次意見を述べる必要性が低いことの結果というべきである。このことは,五代目q組においても,
1次組織における組員人事,他組織との関係処理,警察対策など組織運営に関する最終的な意思決定は組長である1審被告Rが行うこととなるが,1次組織の日常の常務の意思決定や執行については,「執行部と呼ばれる舎弟頭,若頭,総本部長,副本部長,舎弟頭補佐,若頭補佐の15人(平成6年5月現在)で構成される幹部会が合議制で行い」とされていること(甲46)にも共通するものである。これらからすると,執行部の決定について,被告Y1及び被告Y2が関与していないなどとは到底いうことができず,むしろ,執行部の意思決定は被告Y1及び被告Y2の意思と同視することができるものというべきである。
したがって,被告Y1,被告Y2,被告Y4及び被告Y5の上記アないしウの主張は,いずれも採用できない。
2
本件殺人事件に至る経緯及びその後の経過
前記前提となる事実(第2の1)及び証拠(甲5ないし32,43,45,62ないし66,88,123ないし125,乙1ないし4,7,8,丙1,2,丁1,原告X2及び被告Y4)によれば,次の事実を認めることができる。(1)

Cの殺害とその犯人探しの開始
平成13年9月25日,当時m組の構成員であったCが何者かに拉致され
たとして,Cの妻が,その事情をY3らに報告した。これに対し,Y3は,Cが拉致されたことを警察に届け出ることとし,m組の構成員らに対し,その旨を指示した。
同月27日,Cは,埼玉県川口市内において死体で発見された。
翌28日,m組の元組長代行で,既に同月15日にm組を破門されていたDが,m組事務所を突如訪れ,Cが殺されたことを朝のニュースで見た旨述べたことから,m組は,初めてCが殺害されたことを知り,Y3以下,その犯人探しを開始した。
翌29日,被告Y4及びFらが,Cの自宅を調べたところ,Cが生前撮影したと思われるビデオテープを数本発見したため,これをm組事務所に持ち帰った。
翌30日,Cの通夜が行われた後,Y3やm組の構成員が上記Cの自宅から発見されたビデオテープを再生したところ,Dと思われる人物がCと共に現金輸送車の強盗の下見等をしている様子が映し出された。そこで,Y3は,m組の構成員らを図書館に行かせ,現金輸送車が襲撃された事件等に関する新聞記事を調査させたところ,該当する強盗事件(小田原事件)が見つかった。このような経緯に加え,m組を破門されていたDがわざわざCの殺害についてm組に連絡してきたことに不自然さを感じたことなどから,m組では,D及びCが強盗事件を起こし,それで得た金員の配分を巡って,D又はその関係者がCを殺害したのではないかと考えるに至った。
(2)

Dに対する追及と南柏のエステ店の捜索
Dに対する追及
Y3は,10月2日,Dを東京都新宿区の喫茶店に呼び出し,C殺害について問い詰めるとともに,Dを尾行して居所を突き止めるべく,m組の構成員らに自動車やオートバイを準備させていたが,DはC殺害への関与を否定し,Y3らはDの尾行にも失敗した。また,被告Y4は,同月5日,Dの居所を突き止めることなどを目的として,再度Dを上記喫茶店に呼び出し,C殺害について追及したが,Dは関与を否定し,Eという韓国人がC殺害に関与しているなどと述べただけで,被告Y4は,被告Y5,被告Y6らに指示していた尾行も失敗した。その後,被告Y4は,何度かDと連絡を取ろうとしたが,その後Dの行方は分からなくなってしまった。

被告Y4,被告Y5及び被告Y6らによる南柏のエステ店の捜索
そこで,m組では,追及の対象をEなる韓国人に向けることとし,被告Y4が,Eは南柏で韓国エステ店を経営しており,所沢ナンバーのマジェスタ(生前,Cが乗っていたものと同じ車種)に乗っている旨の情報を得ていたため,同月6日,F,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,2台の自動車(インフィニティ及びアリスト)に分乗して南柏に赴き,韓国エステ店を探索した。その際,被告Y4は,F,被告Y5及び被告Y6に対し,

所沢ナンバーのマジェスタを探せ。

などと指示していた。そして,被告Y4らが韓国エステ店を探索するうち,韓国語を話せるFの聞き込みにより,某韓国エステ店の経営者がEという韓国人であることが判明し,F及び被告Y5が同店の前で張り込みをしていたところ,同店の前に,韓国人風の男4名が乗車した自動車(サニー)が停車し,3人くらいの男達が降車して同店に入っていくのが見えた。そこで,F及び被告Y5は,別の韓国エステ店付近で張り込みをしていた被告Y4及び被告Y6に対し,携帯電話で

怪しい車が来て,それらしい男が店に入っていった。

旨連絡した。そのため,被告Y4及び被告Y6が某韓国エステ店に向かうと,同店前に停まっていたサニーに男達が再び乗り込み,発車していくのが見えたことから,これを追尾したところ,某マンション付近で2名の男が降りたのを確認したが,その後サニーを見失った。なお,その間,Fは,韓国語を話すことができるため,某韓国エステ店の店員に話を聞いたところ,サニーに乗っていた人物の一人がEである旨の情報を得た。被告Y6及び被告Y4は,F及び被告Y5に対し,サニーに乗っていた男の居所を突き止めた旨連絡し,到着したF及び被告Y5に対し,あそこだなどと言って某マンションを示した。その後,被告Y4らは,更に上記エステ店付近で張り込みを続けることとし,再び二手に分かれてエステ店の見張りを続けたが,翌7日午前2時ころまでにはいったん帰った。なお,南柏からの帰りの車内で,被告Y4は,被告Y6に対し,

Y6,あいつらだよ。Cを殺したのは。,

わかってるよな。

などと述べ,これに対し,被告Y6は,

わかってます。

などと答えた。ウ
サニーの駐車場所の捜索
m組としては,上記韓国人らがE又はその関係者であると考え,サニーの駐車場所を探すこととし,10月7日,m組に出入りしていたSを通じて,その若衆であるTに対し,上記サニーの駐車場所を探させることとした。そこで,Tは,友人のUと共にサニーの駐車場所を探すこととし,Uと共に某マンション付近で張り込みをしたところ(なお,Tは,翌8日には帰ったため,その後の張り込みはUが行った。,同月9日,サニー)
が本件駐車場を利用しており,午前3時ないし4時ころに戻ってくることが判明した。


上部団体からの圧力
このころ,Y3は,m組の上部組織であったa会e一家j組のB(当時のa会本部長)に呼ばれ,Cが殺害されたことに関して

きちんとした形を示せ。

などと圧力を受けるなどしていた。そのため,m組としては,Cを殺害した犯人を探し出し,その犯人を報復・みせしめとして殺さなければ,対外的にも対内的にも組としての形がつかない状況になっていた。
(3)

本件殺人事件の発生
10月9日,Y3は,被告Y4,被告Y5及び被告Y6をm組事務所の2
階に呼び,本件殺人事件について指示を出し,被告Y4に対しては,

今回のことを何とか形をつけてくれ。自分では体を賭けるようなことはするな。,

時間もないから,後は任せる。

などと述べ,暗に被告Y6など下位の者らと共に,E又はその関係者を報復として殺害するよう指示した。このような指示を受け,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,E又はその関係者を報復・みせしめとして殺害することを決意し,被告Y4が殺害計画を進行する役,被告Y6が殺害の実行役となり,被告Y5は,本件殺害行為後に,被告Y4及び被告Y6をアリストに乗せて同車を運転して連れ帰る役を担当することとし,同月10日午前0時ころ,被告Y4及び被告Y6はブルーバード(足のつかない車としてm組が用意したもの)に,被告Y5はアリストにそれぞれ乗車して,Nシステム等により事後に捜査が自らに及ぶことを避けるために高速道路を使わないで某マンション付近に向かった。同日午前1時ころ,上記被告らは,某マンション付近に到着した。上記被告らは,某マンションを確認すると,被告Y6は,被告Y4を某マンション前で降ろし,サニーを確認するため,本件駐車場に向かい,本件駐車場付近の路上にブルーバードを駐車して,サニーを探したが,同車は見当たらなかった。被告Y5は,某マンション前の一方通行の道路(長全寺通り)の出口付近にアリストを停め,その場で待機することとした。被告Y6及び被告Y4は,しばらくの間,某マンション付近を徘徊するなどしてサニーを待っていたが現れないため,被告Y6は,怪しまれることがないように,いったん某マンション付近の100円パーキングの前にブルーバードを移動させた。そして,被告Y6及び被告Y4は,更にその場で待機することとした。この間,被告Y6は,ブルーバード内でけん銃に弾を込めたが,助手席に座っていた被告Y4から

詰めすぎるなよ。

などと注意されたほか,

俺が行こうか。

などと言われ,これに対し,

いえ,自分が行きますよ。

などと答えた。
その後,被告Y6は,ブルーバードを長全寺通りの入口付近(北端)に移動させ,被告Y4と共にサニーを待つこととした。すると,ブルーバードを移動させて間もない同日午前4時ころ,ブルーバードの脇をサニーが通りかかったため,被告Y6がこれを追尾したところ,サニーは某所所在のフィリピンパブ付近の路上に停まり,韓国人風の男が数人降りていった。そこで,被告Y6は,ブルーバードをサニーの後方に停車し,その後,被告Y4がアリストから乗り移ってきた。被告Y6から連絡を受けた被告Y5は,サニーの前方にアリストを移動させて,それぞれサニーを見張っていたが,後に,被告Y5は,アリストをすぐ先の交差点を右折した地点に移動させ,被告Y6は,それまでアリストが停まっていた位置にブルーバードを移動させて,被告Y4と共にサニーの見張りを続けた。
同日午前5時40分ころ,サニーに2人の男(A及びV)が乗車して,サニーが発車したため,被告Y6がこれを追尾すると,サニーは某マンション前に停まったため,被告Y6は,サニーの後方にブルーバードを停めてサニーの様子をうかがっていた(この間,被告Y5は,被告Y4の指示に従い,当初アリストを停車させていた長全寺通りの南端付近にアリストを移動させて待機し,被告Y4はアリストを降りてブルーバードの助手席に移動した。。すると,サニーからVが降りて某マンションに入り,Aが助手席か)
ら運転席に乗り移り,サニーをバックさせてきたため,ブルーバード内にいた被告Y6及び被告Y4は,シートを倒して姿を隠した。
被告Y6は,サニーが本件駐車場に向かったことを確認し,けん銃を所持してブルーバードから降り,本件駐車場に通じる路地に入っていった。そして,被告Y6は,同日午前6時ころ,同路地を歩いてきたAに対し,殺意をもって,自動装てん式けん銃を使用し,弾丸4発を発射して左胸部等に命中させ,Aを胸部射創による心タンポナーデにより死亡させた。
(4)

本件殺人事件後の経過
被告Y6は,Aに対し,けん銃を発射した後,ブルーバードに戻ったとこ
ろ,被告Y4が運転席に移っていたことから,助手席に乗り込み,被告Y4の運転で直ちにその場を離れた。発車してまもなく,被告Y4は,被告Y6に対し,
やったか。」などと聞いたところ,被告Y6はたぶんなどと答えた。そして,被告Y6は,被告Y5に対し,その場を離れるよう携帯電話で連絡し,その後まもなく,被告Y5に再度電話して,中山競馬場で合流する旨打ち合わせた。中山競馬場に向かう途中,被告Y4は,検問等でけん銃等を所持していることが発覚することを恐れ,被告Y6に対し,犯行に使用したけん銃及び弾丸を宅配便で送ることを持ちかけ,Fに電話して住所を聞いた上,付近のコンビニに立ち寄って,被告Y4と被告Y6はFに宛てて上記けん銃及び弾丸を送った。
その後,被告Y6及び被告Y4は,被告Y5と中山競馬場付近のオートスナックの駐車場で落ち合い,同所にブルーバードを乗り捨てて,被告Y5が運転していたアリストに乗車し,m組事務所に戻った。そして,被告Y4及び被告Y5は,Y3の自宅を訪れ,Y3に対し,E又はEの関係者を殺害した旨を報告した。
その後,平成14年1月ころ,m組においては,本件殺人事件に関係した被告Y4,被告Y5及び被告Y6に役付けがされ,被告Y4は代行,被告Y5は理事長,被告Y6は本部長補佐に就任した。また,被告Y4は,i会会長であるKと親子杯,Y3と兄弟杯を,被告Y5及び被告Y6は,Y3と親子杯をそれぞれ交わし,a会における役職として,被告Y4は専任評議委員,被告Y5及び被告Y6は評議委員に就任した。
(5)

ところで,被告らは,本件の事実経過に関し,次のア及びイの主張をす
るので,以下検討する。

まず,被告Y1,被告Y2,被告Y4及び被告Y5は,被告Y4及び被告Y5の捜査段階における供述及び被告Y6の刑事事件における供述は,いずれも信用できない旨主張し,被告Y4及び被告Y5の陳述書(丙1,2)において,これに沿う記載をしている。
しかしながら,被告Y6の刑事事件における供述並びに捜査段階における被告Y4及び被告Y5の供述は,いずれも極めて具体的かつ合理的なものであり,また,相互に符合しており,信用性は高いというべきである。すなわち,Cの殺害からDに対する追及の経緯,南柏の韓国エステ店の捜索,某マンション付近での張り込み,Aの殺害,犯行後の行動に関する上記被告らの供述は,それぞれ具体的かつ迫真的であって,内容もほぼ一致している上,信用できるFの供述(甲27)や某マンションに設置された防犯ビデオの映像や被告Y6が使用したけん銃の形状などとも客観的に符合している(甲25,45)

被告Y4は,後に捜査段階の供述を変遷させた理由として,自らが被告Y6に殺害を指示したように供述することが組の方針だと考え,その旨供述していたが,後に組の指示がないことが分かったので供述を変遷させたなどと供述している。しかしながら,被告Y4の捜査段階における供述中には,Y3から本件殺人事件前日に

Y4’,今回のことを何とか形をつけてくれ。,本件殺人事件後に「Y6は立派にやったんか。

」と言われた
旨,被告Y6が親父にハジケと言われていますからと述べた旨それぞれ供述しており(甲17,28)
,必ずしも自らが被告Y6に殺害を指示
したような供述をしていたものではなく,被告Y4の弁解は,不自然不合理と言わざるを得ない。さらに,被告Y5は,本件の刑事裁判における第1回公判期日の罪状認否においても公訴事実を認める供述をしており(甲31)
,被告Y4と同様,その後供述を変遷させたことにつき合理的理由も認められず,変遷後の供述は不自然不合理な内容となっている。したがって,被告Y4及び被告Y5の捜査段階における供述及び被告Y6の刑事事件における供述は,十分信用できるというべきである。イ
また,被告Y1及び被告Y2は,BがY3に対し,C殺害について形をつけるよう指示したことはない旨主張し,証人M及び被告Y4はこれに沿う供述をし,証人Mの陳述書(乙33)にもこれに沿う記載がある。しかしながら,Bの指示があった旨の被告Y5や被告Y4の捜査段階の供述は,あえてa会本部長という要職にあったBの名前に言及しているところ,上記のような指示の事実がないのであれば,あえて虚偽の供述をするとは考え難い。また,Bは,m組の直接の上部団体(三次組織)であったa会e一家j組の組長であって,BがY3に対し,直接指示したとしても不自然とはいえない。このことは,本件殺人事件当時のm組の直接の上部団体が明確でなかったことからも十分首肯できるものである。すなわち,Bが平成13年7月にe一家からf一家に養子に出た後,Kがi会を発足させ,正式にm組の上部団体となったのは,同年11月のことであり,この間,Bの跡目を誰が継ぐか明確でない時期が続いていたのであって,本件殺人事件当時も,このような過渡期にあったものである(上記1(3)ア)

このような事実からすれば,m組の直接の上部団体の長であったBがY3に対して,

形をつけろ。

と直接指示を出したと認めることができる。
したがって,被告らの上記ア及びイの主張は,いずれも採用することができない。
3
争点1(本件殺害行為に関し,Y3,被告Y4及び被告Y5は,被告Y6と共謀していたか否か)について
(1)

上記1及び2で認定した事実によれば,次のことが明らかである。すな
わち,被告Y4は,Cの殺害に関与したと思われる者として,南柏で韓国人風の男4名を発見した際,被告Y6に対し,

Y6,あいつらだよ。Cを殺したのは。,

わかってるよな。

などと述べ,被告Y6は,

わかってます。

などと答えた(上記2(2)イ)。また,被告Y4,被告Y5及び被告
Y6は,本件殺人事件の前日である10月9日,Y3から本件殺害行為に関して指示を受け,それに基づき,被告Y4が殺害計画を進行する役,被告Y6がE又はその関係者を殺害する実行役となり,被告Y5は,某マンション付近で待機して,犯行後,被告Y4及び被告Y6を乗せて連れ帰るといった役割を決めて某マンション付近に向かった(上記2(3))
。さらに,被告
Y4は,被告Y6に対し,某マンション付近で張り込みをしていた際,

俺が行こうか。,

詰めすぎるなよ。

などと述べていた(同前)。さらに,本
件殺害行為後,被告Y4及び被告Y6は,凶器を所持しているのが発覚することを恐れ,犯行に使用したけん銃等をコンビニからFに宛てて宅配便で送っている上,中山競馬場付近のオートスナックで被告Y5と落ち合い,同所でブルーバードを乗り捨て,上記役割分担に従い,被告Y5の運転するアリストに乗ってその場を立ち去った(上記2(4))

このような事実のほか,被告Y4及び被告Y5は,いずれも捜査段階において,そして,被告Y5においては,刑事事件における第1回公判期日の罪状認否に至るまで本件殺害行為についての共謀を認める旨の供述をしており,これらの供述は,上記2(5)ア説示のとおり,十分信用できることからすれば,被告Y4及び被告Y5は,Y3の指示に基づき,被告Y6と共謀の上,Aを殺害したものと優に認めることができる。
(2)

ところで,被告Y4及び被告Y5は,Cの殺害については,Y3とDの
間で,金銭で解決することになったと聞いていたが,Dの所在が分からなくなったので,EがDの所在を知っているかもしれないと考え,Eを探していただけで,E等の韓国人を殺害するとは思っておらず,本件殺人事件について,被告Y6と共謀したことはない旨主張し,それぞれの陳述書(丙1及び2)にこれに沿う記載をし,被告Y4は本人尋問においてこれに沿う供述をしている。
しかしながら,E等の韓国人を殺害するつもりはなく,仮に話をつけるためであれば,南柏での韓国エステ店の捜索の時と同様に韓国語の話せるFを同行するはず(上記2(2)イ)であり,あるいは拉致するつもりであったのであれば,Dに対する追及を行った時と同様に,m組の構成員を周辺に配置し(上記2(2)ア)
,あるいは,複数人で接近するのが自然であるにもかか
わらず,本件殺害行為時には,そのような対応はとられていなかった。また,被告Y5は,被告Y4及び被告Y6と柏に行く際,足がつく可能性のある自分の自動車を使用したこと及びNシステムが設置されている高速道路を使って帰ったことから,本件殺害行為について共謀はなかった旨主張するけれども,被告Y5は,本件殺害行為当時,多くは長全寺通りの出口付近で待機しており,被告Y5のアリストを使用したとしても足がつく可能性は高くなかったといえる。さらに,高速道路を使って帰ったことについても,被告Y5自身が,

高速を使うなという指示をつい忘れ,そのまま入口を通過すると乗ってしまったのです。(甲63)と供述しているところである。

したがって,被告Y4及び被告Y5の上記主張は採用できない。
4
争点2-1(使用者性の有無)について
(1)

被告Y1が,本件殺人事件当時,a会の代表者であったことは当事者間
に争いがない。
そして,上記1及び2で認定した事実によれば,次のことが明らかである。すなわち,①

a会は,その威力をその暴力団員に利用させ,又はその威力

をその暴力団員が利用することを容認することを実質上の目的とし,下部組織の構成員に対しても,a会の名称・代紋を使用させるなど,その威力を利用しての資金獲得活動を行うことを容認していたこと(上記1(2)イ(イ)),


a会では,構成員に対して,毎月,階層に応じて3000円から5万円
の会費や合同本葬祭費といった経済的負担を課し,a会総本部に納入させており,これらを合わせると,最も少なく見積もっても,年間2億2800万円以上の収入となり(上記1(2)イ(ウ))
,上記資金獲得活動による収益が被
告Y1や被告Y2の直接の支配下にあるa会総本部に取り込まれる体制が採られていたこと,③

a会は,本件殺人事件当時,構成員相互の杯事による

擬制的血縁関係の連鎖により構成され,また,末端組織の構成員も含めた19階層の役職制度が設けられており,被告Y1を頂点とする階層的組織を形成しており(上記1(2)イ(ア))
,a会においては,構成員全体の行動規範と
して,綱領が定められており,これが下部組織の組事務所にも掲示されるなどして,周知徹底が図られているほか,規約によって,下部組織を含めた,会全体の運営がなされていたこと,また,月1回の執行部会で決定された事項については,毎月の定例食事会等において二次組織たる各一家に伝達され,組事務所当番による電話やファクシミリ等を通じて更に配下の組織に順次伝達されるシステムがとられるなど,被告Y1の意向が末端組織に至るまで伝達され,かつそれが徹底される体制が採られていたこと(上記1(2)イ(エ)及びウ)が,それぞれ認められる。
このような事実に徴すると,被告Y1は,a会の威力・威信を利用しての資金獲得活動としての事業及びa会の威力・威信の維持拡大活動としての事業について,下部組織の構成員をa会執行部又は二次組織(各一家)を通じるなどして,直接間接に指揮監督することができる地位にあったといえるから,被告Y1とY3,被告Y4,被告Y5及び被告Y6との間には,上記事業について,民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立していたものと認められる。
(2)

また,被告Y2は,被告Y1の次位たるa会の会長であるところ,被告
Y1から会長の指名を受けたものであり(規約2条)
,a会は,会長制とさ
れ(甲122の3。規約2条)
,現に,会長の権限として,人事について,
貸元の襲名披露に対する承認(上記1(2)ウ(ア)b)
,執行部役員の指名・選
任(甲122の3。規約5条)を行い,書状作成についても,重要なものについて会長として報告を受け,これに対する承諾を与えるなど(上記1(2)ウ(ア)b(a))
,a会の組織運営について,直接又は執行部を通じるなどし
て統制・関与している。そして,上記貸元の襲名披露においては,被告Y1が総裁として行う承諾は,被告Y2の承認に対するものとされており(証人M)
,規約上も,総裁という役職は規定されておらず,規約上の最上位者としては会長職が予定されていることがうかがわれる。
このような事実のほか,上記(1)の各事実からすれば,被告Y2は,被告Y1に代わって,被告Y1の事業を監督する地位にある者といえ,民法715条2項所定の代理監督者に当たるものと認められる。
(3)

ところで,被告Y1及び被告Y2は,本件においては,被告Y1に使用
者性は認められない旨主張し,証人M及び被告Y4は,これに沿う供述をし,それぞれの陳述書(乙33,丙1)中にも,これに沿う記載がある。しかしながら,a会が連合体組織であるとは認められないこと,被告Y4,被告Y5及び被告Y6が本件殺人事件当時,m組の実質的な構成員であったと認められること,被告Y1及び被告Y2が執行部の決定に関与していないとは到底認められないことは,いずれも上記1(4)アないしウ説示のとおりである。
こうしたことに加え,上記(1)の認定説示をも考え併せると,被告Y1及び被告Y2の上記主張は,採用できない。
5
争点2-2(事業執行性の有無)について
(1)

暴力団の事業


上記1(1)イ認定のとおり,暴力団の基本的性格の1つとして,暴力を
組織化することによって得られたその団体の威力・威信を利用して暴力団員に資金獲得活動(シノギ)を行わせて,利益の獲得を追求することがあり,現に,暴力団は,それぞれの縄張を中心として,暴力団の名称を告げ,また,暴力団のバッジや肩書入り名刺を示すなどして,その団体の威力・威信を利用した覚せい剤の密売,賭博,ノミ行為,ゆすり・たかり等の恐喝,みかじめ料の徴収,交通事故示談等の民事問題への介入等を資金源として様々な活動をしているのであり,したがって,組織の威力・威信を利用しての資金獲得活動は,前記4(1)で述べたとおり,暴力団の事業ということができる。なお,暴対法は,このような暴力団組織の威力・威信を利用しての資金獲得活動が事業として存在することを前提として,このような暴力団活動を規制するために制定されたものに他ならない。

また,上記1及び2で認定した事実によれば,次のことが明らかである。すなわち,暴力団にとって,縄張の大小ひいては資金獲得活動の難易は,暴力団の勢力や威力・威信により大きく左右される関係にあるから,暴力団にとって,縄張や威力・威信の維持は,その資金獲得活動に不可欠のものである(上記1(1)イ)
。言い換えれば,縄張や威力・威信の維持拡大
活動と,容易かつ安定的な資金獲得活動とは密接不可分の関係にあるといえる。そのため,暴力団にとって,縄張や威力・威信(メンツ)を侵害されれば,それを放置することなく,その維持・回復に努めるべきこととなり,現に暴力団の構成員も同様の意識を持って活動している(同前)。こ
のような侵害が,当初は下部組織において生じた事態であっても,侵害者に対して威力を誇示することが,ひいては上部組織ないしは組織全体の威力の維持拡大に寄与するものであり,こうした威力の誇示の連鎖が一次組織同士の対立抗争まで拡大することも少なくない(同前)

このような事実に徴すると,組織の威力・威信を利用しての資金獲得活動のみならず,威力・威信の維持拡大活動も暴力団にとっての事業というべきであり,仮にそれに至らないとしても,組織の威力・威信を利用しての資金獲得活動としての事業と密接に関連する行為であるというべきである。
(2)

以上を前提に,本件における事業執行性の有無について検討する。上記1認定事実,特に,a会の下部組織の構成員は,それぞれの縄張等において,a会の名称を告げ又は代紋(代紋バッジや代紋入り名刺)を示すことによって資金獲得活動を行っており,a会もこうした資金獲得活動を容認していたと認められること,a会は,その構成員に対し,地位に応じた会費合同本葬祭費等の経済的負担を課しているほか,葬儀

等で総本部や傘下組織からの指示の下,階層に応じた金額の臨時徴収を行っていること,a会の構成員が,
連中等に好き勝手な事をやられたのでは,p組の名がすたるので,何とかケジメだけは付けなければという気持ちから,その為にはけん銃で・・・の連中のタマを取るのが一番効果があると思いました。(Qの別件における警察官に対する供述調書。甲93)私はヤクザであり,組織のメンツをかけてやったことですから,
(Qの別件における警察官に対する供述調書。甲104)私の属して,いるa会e一家は同じa会の中にあって,由緒正しい系譜を有していると聞いており,そういう意味では,面子にこだわるところは他より強いと思います。m組も,当然e一家の傘下ですから,その意識は強いと思いますし,稼業上のことで面子を潰される様な事があれば,きちんとした形を示さなければならないと思います。(被告Y5の警察官に対する供述調書。甲42)旨それぞれ供述していることなどに徴すれば,上記(1)ア及びイの説示は,a会においても同様に当てはまるものであり,a会の威力・威信の維持拡大活動及びa会の威力・威信を利用しての資金獲得活動は,いずれもa会の最高権力者たる被告Y1の事業というべきである。

そして,上記2認定事実によれば,次のことが明らかである。すなわち,本件殺害行為に先立って,a会の本部長(当時,a会のナンバー3に当たる。
)であったBが,Y3に対し,Cが殺害されたことに関して

きちんとした形を示せ。

などと圧力を加えるなどしており,そのため,m組としては,Cを殺した犯人を探し,その犯人を報復・みせしめとして殺さなければ,対外的にも対内的にも組としての形がつかない状況に至っていた(上記2(2)エ)
。また,本件殺人事件後の平成14年1月ころ,Y3は,
m組において,本件殺人事件に関与した被告Y4を代行に,被告Y5を理事長に,被告Y6を本部長補佐にそれぞれ昇格させた(上記1(3)イ)。
さらに,被告Y4,被告Y5及び被告Y6は,a会内の役職として,専任評議委員又は評議委員にそれぞれ就任した(同前)
。また,被告Y4,被
告Y5及び被告Y6も本件殺害行為は,C殺害に対する報復・みせしめである旨供述している(甲12,15,17,23,28,42,乙7)。
このような事実のほか,上記4(1)の諸点及び平成13年当時のa会をとりまく状況は,s会との一連の確執・抗争などがあり(甲70,71),
a会の威力・威信を維持する必要性が高かったと考えられること等も併せ考えると,本件殺害行為は,a会の威力・威信を維持回復するための行為の一環として行われたものと認められるから,a会の威力・威信の維持拡大活動としての事業の執行あるいはa会の威力・威信を利用しての資金獲得活動としての事業の執行と密接に関連する行為としてなされたものと認められる。
(3)

ところで,被告Y1及び被告Y2は,この点について次のア及びイの主
張をするので,以下検討する。

まず,被告Y1及び被告Y2は,本件殺人事件は,m組が,強盗組との汚名をそそぐためにm組固有のものとして行ったものであって,暴力団の下部組織における対立抗争やシノギという側面は皆無であること,C殺害は,内輪もめの結果であって,a会の威力・威信は失われていないこと,本件殺害行為についてBをはじめとするa会幹部の関与はないことなどから,本件殺害行為に事業執行性は認められない旨主張し,証人M及び被告Y4は,これに沿う供述をし,それぞれの陳述書(乙33及び丙1)中にも,これに沿う記載がある。
しかしながら,前記2(2)エ認定のとおり,Bは,組長を呼び出し,Cが殺害されたことに関し,

きちんとした形を示せ。

などと圧力をかけ,これを受けたY3は,被告Y4に対し,

今回のことを何とか形をつけてくれ。

などと言って,E又はその関係者を報復・みせしめとして殺害するよう指示したことが認められる。そして,m組が,専ら強盗組との汚名をそそぐため,a会の意思とは無関係にC殺害に関与した者を殺害した場合,m組は,後に上部組織から解散,組員の破門等の処分を受けることが容易に予想され,そのような行為は,かえってa会内における組の存続を危うくさせるであろうにもかかわらず,被告Y6らは,本件殺害行為を実行しており,また,被告Y4らは,本件殺害行為の後,直ちにその旨をY3に報告しており(上記2(4))
,本件殺害行為に関する情報は,ほ
どなくa会の上部団体の知るところとなったと推認されるところ,本件殺害行為に関与した被告Y6らは,何ら処分を受けることなく,むしろ,m組内で昇格したのみならず,a会内の役職として,専任評議委員又は評議委員にそれぞれ就任した事実にかんがみると,本件殺人事件は,m組が,専ら強盗組との汚名をそそぐためにm組固有のものとして行われたものとは認めることはできない。
仮に,m組において,強盗組との汚名をそそぐ動機を併せ有していたとしても,前記認定のとおり,本件殺害行為は,Cの殺害に関与した者を報復・みせしめとして殺害することにより,m組の組員であるCが殺害されたことにより侵害されたm組の威力・威信,ひいてはa会の威力・威信を維持回復するための行為の一環として行われたものであることは明らかというべきであるから,上記被告Y1及び被告Y2の主張は,前記認定・判断に影響を与えるものではない。
さらに,被告Y1及び被告Y2は,C殺害は,内輪もめの結果であって,a会の威力・威信は失われておらず,本件殺害行為についてBをはじめとするa会幹部の関与はないなどと主張する。
しかしながら,DがCを殺害したかはともかく,本件殺人事件当時,Dは,既にm組を破門されており,m組内部の者とはいえず,Cの殺害がm組内の内輪もめの結果であるとはいえない。そして,Cが殺害された原因は,必ずしも明らかではないけれども,m組の組員であるCが,m組以外の者によって殺害されたとすれば,前記のとおり,a会の威力・威信は侵害されるものといえ,また,本件殺害行為に当たってB(a会本部長)及びY3の指示があったと認められることは前記のとおりであるから,上記被告Y1及び被告Y2の主張は採用できない。

また,被告Y1及び被告Y2は,本件殺人事件は被告Y6の私怨から行われたものである旨主張し,被告Y4は,これに沿う供述をし,同人作成に係る陳述書(丙1)中にも,これに沿う記載がある。
しかしながら,本件殺害行為の態様をみても,被告Y6が,けん銃で殺害行為を実行し,その間,被告Y4は,自動車の助手席から運転席に移って,被告Y6が殺害行為を実行して車に戻ってきた際には直ちに逃走すべく待機していたものであり,また,被告Y5も,被告Y6らの乗っていた車を捨てて,逃走するために待機していたものであり,これらの一連の事実経過からしても,本件殺害行為は,上記被告らによって,共謀の上敢行されたものと認められ,被告Y6の私怨からなされたものとは到底認められない。仮に,被告Y6が,a会の意向を離れて,独自の判断で本件殺害行為を行ったとすれば,本件殺害行為に関し,後に何らかの処分を受けるのが当然であるところ,被告Y6は,本件殺人事件に関して,後にa会のみならずm組内でも何ら処分を受けておらず,むしろ平成14年1月ころには,Y3と正式な親子杯を交わし,m組内で本部長補佐に,a会内で評議委員にそれぞれ就任している。このような事実のほか,上記(2)の認定説示に徴すると,本件殺人事件は被告Y6の私怨から行われたものであるとはいえないことは明らかである。
したがって,被告Y1及び被告Y2の上記ア及びイの主張は,いずれも採用できない。

6
争点3(損害の額)について
(1)

逸失利益

2787万4416円

原告らは,Aの逸失利益の算定に関し,主位的にAが日本で就労した場合を前提として主張し,予備的に韓国で就労した場合を前提として主張する。財産上の損害としての逸失利益は,事件がなかったら存したであろう利益の喪失分として評価算定されるものであり,その性質上,種々の証拠資料に基づき相当程度の蓋然性をもって推定される当該被害者の将来の収入等の状況を基礎として算定せざるを得ない。そして,損害の填補,すなわち,あるべき状態への回復という損害賠償の目的からして,この算定は,被害者個々人の具体的事情を考慮して行うのが相当である。したがって,一時的に我が国に滞在し将来出国が予定される外国人の逸失利益を算定するに当たっては,当該外国人がいつまで我が国に居住して就労するか,その後はどこの国に出国してどこに生活の本拠を置いて就労することになるか,などの点を証拠資料に基づき相当程度の蓋然性が認められる程度に予測し,将来のあり得べき収入状況を推定すべきことになる。そして,我が国における就労可能期間は,来日目的,事故の時点における本人の意思,在留資格の有無,在留資格の内容,在留期間,在留期間更新の実績及び蓋然性,就労資格の有無,就労の態様等の事実的及び規範的な諸要素を考慮して,これを認定するのが相当である(最高裁判所平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号78頁参照)

このような観点から,本件におけるAの将来のあり得べき収入状況につき,以下検討する。

証拠(甲1,7ないし11,30,120,123ないし125及び原告X2)によれば,以下の事実が認められる。
Aは,昭和51年(1976年)12月31日,韓国ソウル特別市で出生した。Aの家族は,皆が熱心なキリスト教徒であったことなどから,Aも小学校に進む以前から教会に通うなどしていた。高校卒業後,Aは,神学を勉強して牧師になるべく,平成9年3月5日,韓国の某大学に入学したが,平成10年4月2日からは,徴兵制により陸軍に入隊し,平成12年6月1日に除隊した。陸軍除隊後,Aは,日本に興味を持ち,やがては日本で何らかの事業を始めようと考えるようになり,平成13年2月27日から同年3月13日まで,同年4月19日から同月30日まで,同年6月1日から同年8月30日までの3回にわたって,いずれも短期滞在の在留資格で日本に滞在していた。そして,Aは,日本で本格的に日本語学校へ通うべく,同年9月12日,就学6か月の在留資格の下,再度日本に入国した。Aは,日本滞在中,いとこであるWが居住する某マンションに寝泊まりしながら,Wが経営する某商店に夜間勤務しており,同年10月10日(本件殺人事件の日)から平成15年3月20日までの間,千葉県松戸市所在の日本語学校に通学することになっていた。
なお,某大学は,4年制の大学であり,Aは1年修了時に陸軍に入隊したから,仮にAが,平成15年3月20日に日本語学校卒業後,同大学に復学した場合には,残りの大学3年間を経た平成18年3月に同大学を卒業するはずであった。なお,本件殺人事件当時も,Aは,日本でどのような事業を始めるかについての見通しは立っていなかった。

上記ア認定事実によれば,次のことが明らかである。すなわち,Aの家族は,皆が熱心なキリスト教徒であり,Aは,当初牧師になるべく某大学に入学した。Aは,陸軍除隊後に日本語を勉強して日本で事業を始めること考えるようになったものの,日本で具体的にどのような事業を始めるかは未定であった。さらに,本件殺人事件当時のAの在留資格は,就学6か月にすぎず,永住者又は就労資格までは有していなかった。また,Aの日本での生活は,いとこであるWが居住する某マンションに寝泊まりしながら,日本語学校への通学及びWが経営する某商店に夜間勤務していたというものであり,日本で起業・就労する具体的な状況にあったわけでもない。このような事実に徴すると,Aが,将来において日本で就労し得た相当程度の蓋然性があったとまでは認めることができず,原告らの上記主張は,その限りにおいて採用することができない。


そうすると,Aは,平成18年3月に某大学を卒業後,同年4月には韓国において稼働を開始したと考えられるところ,韓国労働部発行の2001年賃金構造基本統計調査報告書(甲119)によれば,韓国人男子の年収は,全職種,大卒以上,全年齢平均で,年間合計3106万1530ウォン(月額給与199万3915ウォン及び年間特別給与713万4550ウォンの合計額)であると認められ,これを基礎収入とし,生活費控除率を5割,就労可能年数を平成18年4月以降の38年(この場合のライプニッツ係数は,未就労者として,就労の終期までの年数に対応する係数から就労の始期までの年数に対応する係数を差し引いて算出する。)とし
て,Aの逸失利益の現価を算定すると,以下のとおり,2億0526万0802ウォン(日本円に換算すると2787万4416円(円未満切り捨て)。口頭弁論終結時である平成19年6月20日当時,100ウォン)
は13.58円であったことは当裁判所に顕著な事実である。
)となる。
3106万1530ウォン×0.5×(17.5459-4.3295)=2億0526万0802ウォンエ
ところで原告ら並びに被告Y1及び被告Y2は,次の(ア)及び(イ)の主張をしているので,以下検討する。
(ア)

まず,原告らは,Aが韓国で就労した場合であっても,韓国では戸
主制がとられ,長男が戸主となって両親を含む家族を扶養することは明らかであったこと及びAは健康な成人男性であり,後に婚姻して子供を含む新たな家族を有する蓋然性も極めて高かったことから生活費控除率は3割とすべきである旨主張する。
しかしながら,Aが韓国に帰国した後に,両親である原告X1及び原告X2を扶養することになったとは,本件全証拠によっても,直ちには認めることはできず,また,Aが今後婚姻して新たな家族を有する蓋然性が高かったとは必ずしも認められないから,生活費控除率を3割とすべき事情は認められない。
(イ)

他方,被告Y1及びY2は,本件殺人事件当時,Aには収入はなか
ったから,賃金センサスを基礎に逸失利益を算定することは違法である旨主張する。
しかしながら,一般に,無職者又は未就労者であっても,労働能力及び労働意欲があって就労の蓋然性があり,かつ,就労によって平均賃金が得られる蓋然性があれば,それを基礎に逸失利益を算定することは何ら違法ではないところ,上記ア認定事実によれば,Aは,健康な男子であり,日本語学校での学びを終え,韓国に帰国した後は,某大学に復学し,卒業後,韓国で就労したと予測され,その場合には,韓国における大卒者と同等の賃金を得られる蓋然性が優に認められるというべきである。
したがって,原告ら並びに被告Y1及び被告Y2の上記(ア)及び(イ)の主張は,いずれも採用することができない。
(2)

慰謝料

合計2500万円

以上認定した諸事実,特に,Aは,将来的に日本で働きたいとの希望の下,日本に3度短期滞在し,本件殺人事件当日から日本語学校に通学することになっていたにもかかわらず,C殺害に関与した者であると誤信され,けん銃によって,24歳の若さで射殺されたという本件の経緯,犯行態様及び結果の重大性のほか,原告X1は,本件殺人事件の後,神経性の胃潰瘍で吐血までしており(甲123)
,原告らの長男であるAに対する愛情
の程度は相当なものと考えられること,原告X3も,Aの来日までは同人と同居しており,とりわけ仲の良い兄弟として過ごしてきたのみならず,原告X2に付き添って被告Y6らの刑事裁判を傍聴までしていることのほか,韓国における物価水準等,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,本件殺人事件によりA及び原告らが被った精神的損害を慰謝するには,その慰謝料をAにつき2000万円,原告X1及び原告X2につき,それぞれ200万円,原告X3につき,100万円と認めるのが相当である。

なお,被告Y1及び被告Y2は,死亡慰謝料の算定に当たっては,支払を受ける遺族の生活の基盤がどこにあり,支払われた慰謝料がいずれの国で費消されるかに応じて,当該外国と日本との所得状況等経済的事情の相異を考慮することが必要であるから,本件においても,我が国と韓国の賃金センサスの差に比例して慰謝料を算出すべきである旨主張する。しかしながら,被告Y1及び被告Y2の主張するところをしんしゃくしても,本件殺人事件によるA及び原告らの慰謝料としては,上記金額が相当であるから,被告Y1及び被告Y2の主張は前記認定・判断を左右するものではない。
(3)

葬儀関係費用(原告X1の損害)
法要費用

合計95万6600円

57万円

甲112によれば,原告X1は,平成13年11月26日,Aの四十九日法要を執り行い,600万ウォン(日本円に換算すると57万円。同日,100ウォンが9.50円であった(甲48))を支出したことが認め。
られる。

薦度齊費用

29万4300円

甲112によれば,原告X1は,平成13年12月15日,Aの薦度齊を執り行い,300万ウォン(日本円に換算すると29万4300円。同日,100ウォンが9.81円であった(甲49))を支出したことが。
認められる。
なお,被告Y1及び被告Y2は,薦度齊は2度の葬式であって,我が国では認められておらず,因果関係は認められない旨主張するけれども,韓国の文化・慣習に照らし,薦度齊の費用も葬儀関係費用に当たると考えられ,出捐した金額も,相当な範囲を超えるものではないから,本件殺害行為と相関係のある損害というべきである。
したがって,被告Y1及び被告Y2の主張は採用できない。

貸切バス費用

9万2300円
甲113及び弁論の全趣旨によれば,原告X1は,平成13年10月14日,Aの葬儀を行った際,親族送迎のために貸切バスを利用し,100万ウォン(日本円に換算すると9万2300円。同日,100ウォンが9.23円であった(甲50))を支出したことが認められる。

(4)

旅費・交通費(原告X1の損害)

0円

甲114の1及び2,甲115,116,117の1及び2並びに弁論の全趣旨によれば,原告X2及び原告X3が,平成15年7月17日,被告Y6らの刑事裁判を傍聴するために来日した際,及び平成15年10月9日,原告X2が,被告Y6らの刑事裁判の証人として出廷するため,原告X3を伴って来日した際,原告X1は,航空運賃及び宿泊費として,日本円に換算して合計19万8039円を支払ったことが認められるけれども,これらの本件殺人事件の刑事裁判の傍聴等のために要した費用は,本件殺害行為から通常生ずる損害とまでは直ちにいうことはできず,本件殺害行為と相当因果関係のある損害とまでは認めることができない。
(5)

原告X1及び原告X2による相続
相続は,被相続人の本国法によるところ(法の適用に関する通則法36条及び同法附則2条,3条)
,Aは,韓国籍であるから,その相続につい
ては,韓国法に従うことになる。そして,甲53によれば,韓国民法1000条1項は,相続の順位について,①
続人の直系尊属,③

被相続人の直系卑属,②

被相続人の兄弟姉妹,④

被相

被相続人の4親等以内の

傍系血族と規定し,同条2項後段は,同親等の相続人が数人いるときは,共同相続人となる旨規定している。また,同法1006条は,相続人が数人であるときは,相続財産はその共有とする旨規定しており,可分債権は,相続開始と同時に当然に共同相続人の間でその相続分に従って分割承継されると解釈されている。そして,同法1009条1項は,同順位の相続人が数人であるときは,その相続分は均分とする旨規定している。

甲1によれば,本件殺人事件当時,Aは,未婚であり,子供もいなかったと認められるから,原告X1及び原告X2は,Aの逸失利益2787万4416円及び慰謝料2000万円の合計4787万4416円の損害賠償請求権の各2分の1である2393万7208円ずつを相続した。
(6)

そうすると,原告X1は,Aの相続分である2393万7208円及び
同原告の固有の損害である295万6600円の合計2689万3808円の損害賠償請求権を有することになる。
また,原告X2は,Aの相続分である2393万7208円及び同原告の固有の損害である200万円の合計2593万7208円の損害賠償請求権を有することとなる。
そして,原告X3は,同原告の固有の損害として100万円の損害賠償請求権を有することとなる。
(7)

弁護士費用

合計540万円

弁護士費用に関する損害については,本件事案の性質・難易,訴訟の経過,認容額などを考慮して,原告X1については270万円,原告X2については260万円,原告X3につき10万円をもって相当と認める。
なお,原告らは,損害額の2割程度を弁護士費用とすべきである旨主張するが,原告ら主張の諸要素を勘案しても,本件の弁護士費用が,損害額の2割程度とまでは認めることはできない。
7
結論
以上によれば,原告らの請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第35部

裁判長裁判官

浜秀樹
裁判官

三井大有
裁判官

小津亮

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