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怠る事実の違法確認等請求
事件番号平成18(行ウ)35
事件名怠る事実の違法確認等請求
裁判年月日平成19年5月24日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  民事第9部
結果棄却
判示事項の要旨愛知県市町村振興協会が県から交付されたサマージャンボ宝くじの収益金を県内の市町村に配分しないことが違法であるとして,県内のA町の住民が町長に対し町に配分すべき収益金相当額の損害賠償請求等を同協会にするよう求める住民訴訟において,サマージャンボ宝くじの収益金は県内の市町村の共有に属するものとは認められないことなどを理由に住民の請求が棄却された事例
裁判日:西暦2007-05-24
情報公開日2017-10-18 04:05:22
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平成18年(行ウ)第35号

怠る事実の違法確認等請求事件

主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は被告補助参加人に生じた分を含め原告の負担とし,原告補助参加人に生じた費用は同参加人の負担とする。

第1
1請実及び理由求
被告が,財団法人愛知県市町村振興協会に対し4億3995万2406円を支払えとの請求を怠ることは違法であることを確認する。

2
被告は,財団法人愛知県市町村振興協会に対し,4億3995万2406円及びこれに対する平成16年9月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を三好町に支払うよう請求せよ。

第2

事案の概要
本件は,三好町の住民である原告が,被告補助参加人において,愛知県から交付されたサマージャンボ宝くじの収益金を同県内の市町村(名古屋市を除く。以下同じ。)に配分することなく内部に留保していることが違法であるなどとして,被告に対し,被告補助参加人に昭和54年度から平成15年度までに三好町に交付すべきであった上記収益金の支払請求をしないことが違法であることの確認を求めるとともに(地方自治法242条の2第1項3号),被告補助参加人に上記収益金及びこれに対する遅延損害金を支払うよう請求することを求める(同項4号)住民訴訟である。

1
前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)(1)当事者等
原告及び原告補助参加人(原告ら)は,愛知県西加茂郡三好町の住民である。

被告は,三好町の執行機関である。
被告補助参加人は,愛知県内の市町村の健全な発展を図るために必要な諸事業を行い,もって市町村の振興及び住民福祉の増進に資することを目的とする財団法人である。
(2)市町村振興宝くじ(サマージャンボ宝くじ)発売の経緯

当せん金付証票(宝くじ)は,都道府県及び地方自治法252条の19第1項の指定都市(政令指定都市。以下,両者を合わせて都道府県等という。)等が,公共事業その他公益の増進を目的とする事業で地方行政の運営上緊急に推進する必要があるものとして総務省令で定める事業の費用の財源に充てるため,総務大臣の許可を受けて発売するものとされている(当せん金付証票法4条1項)。
都道府県等は,地方自治法252条の2第1項の規定により,全国自治宝くじ事務協議会(全国宝くじ協議会)を設立し,全国を通じて共同して発売する宝くじに関する事務の管理及び執行を行わせている(全国自治宝くじ事務協議会規約1条,3条,4条参照。甲39号証)。


宝くじの発売権のない市町村は,昭和52年,財政の充実強化を図るべく宝くじの発売権を認めるよう要望するようになり,全国市長会や自治省(当時)などの関係機関が協議した結果,昭和53年9月ころ,市町村に宝くじの発売権を付与することについては引き続き検討することとしたが,当面は,都道府県が市町村振興宝くじの名称の宝くじを発売し,その収益金を各都道府県に設立する公益法人に交付し,これら公益法人が交付された収益金を市町村に貸し付けるなどして運用するとの結論に達した(丙3号証)。


以上の協議結果を受けて,全国宝くじ協議会は,市町村振興宝くじの発売要領(本件発売要領)を策定し,市町村振興宝くじに係る各都道府県ごとの収益金は,それぞれの市町村の振興に資するための経費にあてる
ものとするが,その具体的な取扱いについては,主として①収益金を効果的に活用するため,各都道府県ごとに公益法人である市町村振興協会(地方協会)を設置し,同法人において各都道府県の収益金の交付を受けるものとすること,②収益金を全国的な視野から広域的に活用するため,地方協会の連合組織として,中央に公益法人である全国市町村振興協会(全国協会)を設置すること,③地方協会は,都道府県の交付金の2割に相当する額を全国協会に納付するものとし,都道府県の交付金の8割に相当する額は基金に積み立てて運用するものとすること,④地方協会が積み立てた基金の総額が一定額に達した後においては,それ以後の毎年度の都道府県の交付金の8割に相当する額を一定の基準により市町村に配分し又は積み立てることとした(甲40号証)。

本件発売要領を受けて,昭和54年2月から4月にかけて全国協会及び各都道府県の地方協会が設立され,同月4日,市町村振興宝くじの発売が告示された(なお,昭和55年度以降はサマージャンボ宝くじとの名称で発売された。)(丙3号証)。

(3)被告補助参加人による寄附行為の変更
被告補助参加人は,愛知県からサマージャンボ宝くじの収益金の交付を受け,これを愛知県内の市町村に貸し付けるなどの業務を行っていたところ,平成14年,国税関係機関から,市町村に対する有利子での貸付けが収益事業である金銭貸付業に当たるのではないかとの指摘を受けた。
これを契機として,被告補助参加人は,平成16年8月,寄附行為を変更して愛知県内の市町村を会員とし,各会員から徴収する会費は,当該各年度に市町村に配分すべき交付金をもって充てることとした(以上の寄附行為の変更によって導入した会員制度を本件会員制度という。)。
また,被告補助参加人は,同月11日,上記会費の具体的な算出方法等を定める財団法人愛知県市町村振興協会会員及び会費に関する規程(本件
会費規程)を制定し,同規程に基づく会費の運用を昭和54年度から平成15年度までの各年度において適用があったものとみなすこととした。本件会費規程では,被告補助参加人が,サマージャンボ宝くじ交付金の市町村配分額及び各会員の会費の額を決定したときは,速やかに各市町村に通知し,かかる通知を受けた市町村は,速やかに被告補助参加人に対し,サマージャンボ宝くじ交付金をもって会費としたことを確認する旨の確認書を提出するものとされている(甲7号証,12号証の1・2,18号証,29号証の1・2)。
(4)三好町に対する会費の通知
被告補助参加人は,平成16年9月24日,三好町長に対し,昭和54年度から平成15年度までの間における被告補助参加人の会費を4億3995万2406円と算出した旨を通知した(甲13号証の1・2)。
三好町長は,平成16年9月30日,被告補助参加人に対し,昭和54年度から平成15年度までの間における会費の額が上記のとおりであり,サマージャンボ宝くじ交付金をもって会費としたものであることを確認する旨の確認書を送付した(乙3号証)。
(5)住民監査請求
原告は,平成18年3月13日,三好町監査委員に対し,三好町長において財団法人愛知県市町村振興協会に対し交付金4億3995万2406円を返還することを求めよとの勧告を出されたいとの住民監査請求をした。三好町監査委員は,同年4月25日,本件監査請求を棄却し,これを原告に通知した(甲1号証,2号証)。
(6)本訴提起
原告は,平成18年5月22日,被告に対し,本訴を提起した。
2争点
三好町が,被告補助参加人に対し,昭和54年度から平成15年度までの間
の交付金に相当する4億3995万2406円を請求する権利を有するか否かについて,以下の諸点
(1)愛知県が被告補助参加人に交付するサマージャンボ宝くじの収益金は愛知県内の市町村の共有に属するものか否か
(2)被告補助参加人が過大な内部留保資金を有しているか否か
(3)被告補助参加人が導入した本件会員制度が違法か否か
3
争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)愛知県が被告補助参加人に交付するサマージャンボ宝くじの収益金は愛知県内の市町村の共有に属するものか否かについて
(原告らの主張)

愛知県から被告補助参加人に交付されるサマージャンボ宝くじの収益金は,昭和54年に同宝くじの発売が始まって以来,愛知県内の市町村の共有財産であり,同市町村は共有物である上記交付金の分割請求権を有しているものである。
公権力の担い手である三好町は,上記共有持分権を自由に放棄することはできず,それを実現すべき義務を負うところ,三好町が,昭和54年度から平成15年度までの間に配分を受けられずにいる交付金の額は,4億3995万2406円であることが明らかになっている。
しかるに,被告補助参加人は,上記交付金を愛知県内の市町村に配分する単なる機関であるにもかかわらず,これら市町村の合意を得ることなく,長年にわたりその配分を怠り,違法に財産を蓄え,有利子で貸し付けたり,有価証券で保有したり,全国協会に上納してきたものである。
したがって,三好町は,被告補助参加人に対し,共有物分割請求権に基づき,4億3995万2406円を請求すべき義務がある。


これに対し,被告及び被告補助参加人(被告ら)は,昭和57年の自治省財政局地方債課長の内かん(昭和57年内かん。乙2号証)を引用し,
愛知県からの交付金に係る被告補助参加人の資産が愛知県内の市町村の共有ではなく,市町村の総有的資産であると主張する。
しかし,仮に,総有財産であるとすれば,財産を管理処分する権限は,財団法人である被告補助参加人にはなく,現実の構成員である愛知県内の市町村全体に帰属するはずであって,このような財産を市町村から取り上げるのは公金横領に等しい。
また,被告らは,愛知県から交付されるサマージャンボ宝くじの収益金は地方財政法32条や本件発売要領の規定などにより,地方協会に帰属するものであり,市町村の共有財産となりうる余地はないなどと主張する。しかし,本件発売要領を定めた全国宝くじ協議会には収益金の配分方法等を定める権限しかなく,本件発売要領は,同協議会の越権行為によって定められたものである。
したがって,被告らの主張を前提としても,愛知県内の市町村全体の同意・了承を得ることなく,被告補助参加人が,市町村に交付すべき資産を市町村に貸し付けることは本来不可能であるとともに,上記市町村の財産権の侵害に当たり,憲法94条に違反するものである。
(被告らの主張)

市町村振興宝くじであるサマージャンボ宝くじの収益金は,その誕生の経緯や発売目的によれば全市町村の利益のために使われるべきものではあるが,収益金が生じる都度,それぞれの市町村に配分する場合には,それぞれの配分額が少額となり,効率的に事業に充当できないことから,そのような形で各市町村に帰属させるのではなく,各市町村の利益のために使用する目的の財産として,都道府県に設置した地方協会に帰属させることにしたものである。
そして,上記収益金に係る交付金は,各都道府県が,地方財政法32条,当せん金付証票法,全国自治宝くじ事務協議会規約(甲39号証)及び本
件発売要領(甲40号証)に基づき,各都道府県ごとに設置された地方協会に対して,地方自治法232条の2所定の交付金として交付しているものであって,愛知県内の市町村の共有財産になり得る余地など全くない。したがって,上記交付金は,市町村の振興に資する事業の財源とされるものではあるが,被告補助参加人の資産であるから,この一部を受け取る権利が個々具体的に各市町村に生ずるなどと解すべき余地はない。イ
また,総有とは,構成員の各人には単に使用・収益の権能があるのみで持分権はなく,分割請求権や管理権を有しない所有形態であると解されているところ,持分権がなく,分割請求権も管理権もない点で,サマージャンボ宝くじに関する交付金に対する市町村の立場と相似しているが,市町村が交付金に対する使用・収益の権限を当然保有しているわけではない点において総有とは相違している。
昭和57年内かんが,上記交付金をいわば市町村の総有的資産と名付けたのは,上記のような総有との類似点と相違点に着目した比喩的な表現であって,交付金が市町村の総有財産であることを承認したものではない。

(2)争点(2)被告補助参加人が過大な内部留保資金を有するか否かについて(原告らの主張)

公益法人は,不特定多数の者の利益の実現を目的として設立されるものであり,いたずらな収益事業への傾斜や多額の内部留保資金の保有は許されず,政府においても公益法人設立・運営の基準を閣議決定し,公益法人の設立認可及び指導監督基準の運用指針を申し合わせているところである。
そして,平成12年12月11日付け自治省財政局地方債課長の内かん(平成12年内かん。甲23号証,乙7号証)では,サマージャンボ宝くじの収益金について前年度の各都道府県内市町村(指定都市を除く。)の標準財政規模の合計額に0.3%を乗じた額の基金残高(貸付金を含まない。)が確保され,各地方協会の事業の実施状況に応じて必要な基金残高が確保されることを前提として,サマージャンボ宝くじに係る交付金についても,市町村に配分し,その財源として活用することとしてもさしつかえないと指示しているところ,愛知県における平成15年度の標準財政規模の合計額の0.3%は約29億0427万円であり,これが被告補助参加人の適正な内部資産の額となるべきである。

しかるに,被告補助参加人は,愛知県内の市町村に対するサマージャンボ宝くじの収益金の配分を違法に怠り,基金特別会計に入れるとともに,上記市町村に有利子で貸し付けたり,有価証券で保有したりしており,このような保有資金は,公益事業を実施するための基金には該当せず,過大な内部留保資金に当たるというべきである。
具体的には,被告補助参加人が,平成18年3月末日時点で基金特別会計として有している約452億円の資産から,上記適正額である約29億0427万円を控除した約422億円が過大な内部留保資金ということになり,このうち少なくとも,昭和54年度から平成15年度までの間に愛知県内の市町村に交付すべきであった396億2354万8703円(甲13号証の2参照。このうち三好町分は4億3995万2406円)は,被告補助参加人が違法に保有しているものであるから,直ちに愛知県内の市町村に配分すべきである。

(被告らの主張)

原告らは,被告補助参加人が過大な内部留保資金を有しているなどと主張する。
しかし,原告らの上記主張は,平成8年9月20日付けの閣議決定(甲22号証)を根拠とするものと解されるが,同閣議決定は内部留保資金の定義を明確にしていなかったところ,平成9年12月16日付けの閣議決
定(乙4号証)において,内部留保とは,総資産額から,公益事業を実施するために有している基金等を除いたものとすることとされており,このような解釈によれば,被告補助参加人の基金及び貸付金が,上記基準の対象となる内部留保資金に該当しないことは明らかである。

また,原告らは,平成12年内かんを根拠に,被告補助参加人の適正な内部留保資金は,標準財政規模の合計額に0.3%を乗じた約29億0427万円であると主張するが,平成12年内かんは,

標準財政規模の合計額に0.3%を乗じた額の基金残高(貸付額を含まない。)

のほか,各地方協会の事業の実施状況に応じて必要な基金残高の確保をも求めた上,これらが確保されていれば市町村に配分することもさしつかえないとするものであって,標準財政規模の合計額に0.3%を乗じた額の基金残高以外の資金をすべて配分するよう指示するものではないことは明らかである。

(3)争点(3)被告補助参加人が導入した本件会員制度が違法か否かについて(原告らの主張)
ア(ア)被告補助参加人は,上記のとおり,愛知県内の市町村への交付金の配分を違法に怠り,約422億円もの過大な内部留保資金を有していたところ,平成14年に税務署の調査を受け,従来行ってきた市町村に対する有利子貸付けが金銭貸付業に当たり,課税対象になるとの指摘を受けた。これは,昭和56年11月に国税庁が行った法人税基本通達の改正に基づくものであり,被告補助参加人が所有権を有する金員を有利子で貸し付けた場合には,金銭貸付業に該当するため,登録が必要になるとともに課税の対象になるという内容のものであった。
被告補助参加人は,上記指摘を受けた後,①上記交付金にかかる資産の所有権が被告補助参加人にあることを認め,金銭貸付業の登録をするとともに納税するか,②所有権が愛知県内の市町村にあることを認め,
資産を同市町村に配分するかのいずれかを行うべきであった。
しかるに,被告補助参加人は,会員から会費を徴収し相互に貸し付けるとの形式にすれば共済貸付となり,課税を免れることができると考え,平成16年度に寄附行為を変更し,本件会員制度を導入した。
(イ)しかし,このようにして導入された本件会員制度は,全国協会に対し2割を上納した残りの交付金全額を,会員である愛知県内の市町村にいったん配分するが,その全額を会費として再度徴収するというものであり,さらに,平成16年度に本件会員制度を導入したにもかかわらず,サマージャンボ宝くじの発売時点である昭和54年度に遡って導入したこととして,平成15年度までの25年間に愛知県内の市町村に配分すべきであった396億2354万8703円を配分したこととする一方,その全額を会費として徴収するというものであった。
また,これらの会計処理にあたっては,被告補助参加人は,その予算書及び決算書に愛知県内の市町村へ配分したことと,その同額の会費を徴収したことを記載しておらず,上記各市町村に対しても予算書及び決算書に記載する必要はないと指示した結果,本件会員制度による会費の運用はこれら市町村の議会の同意も得られていない。
(ウ)以上のような制度の導入や会費を徴収した行為は,共済貸付とは全く無縁であり明らかに脱税を目的としたものであって,国民の財産権を保障した憲法29条,地方公共団体の財産管理権を保障した同法94条に違反するものであるとともに,会計年度独立の原則を定める地方自治法208条,総計予算主義を定める同法210条及び同法施行令148条,地方自治の本旨について定める憲法92条にも違反するものである。このように違憲・違法な行為は,民法90条により無効であって,その結果,三好町は,被告補助参加人から,昭和54年度から平成15年度までの間のサマージャンボ宝くじの収益金のうち,4億3995万2406円の配分を受ける権利を有しているとともに,被告補助参加人に対し,同額の会費を支払う義務はないことになる。
しかるに,被告補助参加人は,上記金員を現在も保有しており,三好町の上記財産権を侵害しているものである。
よって,三好町は,被告補助参加人に対し,上記金額の不当利得返還請求権又は損害賠償請求権を有する。
イ(ア)これに対し,被告らは,上記交付金や会費の決定が,いずれも被告補助参加人と愛知県内の市町村との間の私法上の契約であると主張する。しかし,被告補助参加人から愛知県内の市町村に対して送付された本件会員制度の導入に関する文書(甲13号証の1・2)は,一方的な決定通知であり,上記交付金及び会費にかかる契約の意思表示を求めたものではない。
また,被告補助参加人の本件会費規程には,会員でなければ,一切交付金を配分しないとの強要的な文言が記載されており,三好町を含む愛知県内の市町村が提出した確認書は,これら市町村の自由意思に基づく承諾ではない。
さらに,どのような団体であっても契約の締結にあたってはその内容を自由に決することはできず,法律上の制約を受けるところ,被告補助参加人は公益法人であり,相手方とされる市町村は公金を取り扱う行政主体であるから,契約内容の瑕疵が私法上の契約自由の原則によって正当化されることはない。
(イ)また,被告らは,仮に,三好町に交付金の配分請求権があるとしても,既に会費との相殺によって消滅したなどと主張する。
しかし,本件の交付金は,愛知県内の市町村の共有財産であり,被告補助参加人による会費との相殺は同市町村の財産権と行政執行権を侵害する違法なものである。
(被告らの主張)
ア(ア)被告補助参加人は,愛知県から交付されたサマージャンボ宝くじの収益金のうち,全国協会に納付した後の残金の一部を有利子で愛知県内の市町村に貸し付ける事業を行っていたところ,国税庁は,昭和56年11月,金銭貸付業の範囲に関する法人税基本通達を改正し,会員等の拠出する資金を主たる原資として当該会員等に貸付を行っている場合に限り金銭貸付業に当たらないこととしたため,被告補助参加人の上記貸付事業が,金銭貸付業に該当し,課税の対象となるか否かが問題になった。当時の自治省及び全国協会が,国税庁に対し,被告補助参加人を含む地方協会が市町村に対して行っている貸付けは,各都道府県からの交付金を原資とするものではあるが,当該交付金は,市町村に配分されるべき収益金を原資とするものであって,市町村に交付されるべき資産を市町村に貸し付けているという実態(市町村の総有的資産をその構成員である市町村に貸付けているという実態)にあることを説明した結果,自治省と国税庁との間で,当面の間,地方協会の市町村に対する貸付金は,収益事業である金銭貸付業としての取扱いはしないことが確認されるとともに,今後3年ごとに見直しを行い,その後の取扱いについては,両省庁間で協議するものとされた。
(イ)しかるに,平成14年には被告補助参加人が,平成15年には財団法人東京都市町村振興協会がそれぞれ税務調査を受け,再度,両者が行っていた市町村に対する貸付けが収益事業である金銭貸付業に該当するとの指摘を受けることとなった。
そのため,被告補助参加人は,法人税基本通達改正時における自治省と国税庁との間の確認内容にかんがみ,市町村に対する貸付けの実質は,改正後の法人税基本通達における金銭貸付業には該当しないものと解されるが,将来再度課税問題が生じないこととすべく,形式上も法人税基本通達上の金銭貸付業に該当しないものとする必要性があると判断し,平成16年8月11日開催の理事会において,寄附行為に所要の変更を加えるほか,会員及び会費に関する条項を新設するとともに,附則にて,これらの条項を昭和54年に遡って適用することを議決した。
(ウ)以上のような寄附行為の変更は,被告補助参加人による市町村への貸付けの原資である愛知県からの交付金が,会員である市町村の総有的資産であり,実質的には各市町村が会費として負担してきたものであることを確認し,これを寄附行為上明確にしたものにすぎないのであって,上記寄附行為の変更等があって初めて,愛知県内の市町村に昭和54年度から平成15年度までの間の会費納入義務が生じたものではない。(エ)仮に,上記寄附行為の変更等があって初めて昭和54年度から平成15年度までの会費の納入義務が生じたものと解しても,被告補助参加人から各市町村への交付金,及び各市町村が被告補助参加人に対して支払う会費もまた,被告補助参加人と市町村との間の私法上の契約であり,その配分や徴収は契約自由の原則によって,両当事者間で自由にその内容を決定・合意できるのであるから,本件のように過年度分に遡って会費を定めることも,その金額を配分されるべき交付金と同額とすることもいずれも許容されるものである。
(オ)また,仮に,三好町が昭和54年度から平成15年度までの間の交付金配分請求権を取得した事実があったとしても,当該債権は,平成16年9月24日に被告補助参加人が三好町に対し,昭和54年度から平成15年度までの間における会費が4億3995万2406円であることを通知し,同月30日に三好町が被告補助参加人に対し,サマージャンボ宝くじの交付金をもって上記会費に充てる旨通知したことによって,相殺によって消滅したものというべきである。
イ(ア)これに対し,原告らは,サマージャンボ宝くじの収益金については,市町村が最終的に配分金を受け取る権利があると主張する。
しかし,愛知県が被告補助参加人に対して交付するサマージャンボ宝くじの収益金は,最終的には市町村に配分されるものであるとしても,市町村との配分契約が締結されるまでは,市町村が被告補助参加人に対し,具体的な交付請求権を有するわけではない。
したがって,原告の上記主張が,具体的な契約なくして交付請求権を有するとの趣旨であれば,失当である。
(イ)また,原告らは,被告補助参加人の指示を受けて,三好町が被告補助参加人からの交付金や同補助参加人への会費を予算に計上しなかったことが地方自治法210条等に違反するなどと主張する。
しかし,同条にいう収入及び支出は,現金の収納及び現金の支払の意味であると解すべきであり,本件のように現金の収入,支出そのものが行われていないものについては予算に計上する必要がないことは明らかであるし,そもそも,予算編成上どのような過誤があったと仮定しても,このことが,原告らが主張する三好町の被告補助参加人に対する債権を発生させるものではない。
(ウ)さらに,原告らは,被告補助参加人から交付金を受けるためには,会員でなければならないなどとして,補助参加人が,三好町に会費の支払を強要したなどと主張する。
しかし,被告補助参加人による交付金が会員を対象とするものではなく,全市町村を対象としたものであることは,財団法人愛知県市町村振興協会基金交付金交付規程(丙8号証),財団法人愛知県市町村振興協会新宝くじ交付金交付規程(丙9号証)に規定することから明らかであり,上記主張は前提を欠く失当なものである。
第3
1
争点に対する判断
争点(1)愛知県が被告補助参加人に交付するサマージャンボ宝くじの収益金は愛知県内の市町村の共有に属するものか否かについて
(1)前記前提事実欄記載の各事実に各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

サマージャンボ宝くじは,宝くじの収益金をもって財政の充実強化を図りたいとする市町村の要望を受けて発売されたものであるが,発売主体は都道府県であり,その収益金もいったん都道府県に帰属したあと,地方自治法232条の2の規定に基づき各都道府県の地方協会に交付されるものとされている(甲40号証,丙3号証)。


また,各地方協会は,都道府県から交付されたサマージャンボ宝くじの収益金の2割に相当する額を全国協会に納付し,残りの8割に相当する額を積み立て,市町村に有利子で貸し付けるなどの事業を行っており,基金を各市町村に配分するか否かについても,各地方協会において,事業の実施状況に応じて必要な基金が確保されることなどを前提にその実施を判断すべきものとされている(甲7号証,23号証,40号証,乙7号証,丙3号証)。

(2)ア以上の認定事実によれば,サマージャンボ宝くじの収益金は,発売当初より都道府県から交付を受けた地方協会の資産となることが予定されており,市町村は,地方協会による貸付事業や交付事業等を通じてその利益を受ける関係にあるものと解するのが相当である。
したがって,サマージャンボ宝くじの収益金が,法律的な帰属関係として市町村の共有に属するものであるとか,あるいは総有に属するものとは認められない。

これに対し,原告らは,昭和57年内かんには収益金が市町村の総有に属する旨記載されていると主張するが,同内かんは,サマージャンボ宝くじの発売の趣旨,目的が,上述したとおり,最終的に各市町村の利益のために運用されるべきものであることから,そのような実質的関係を比喩的にいわば市町村の総有的資産と表現したものにすぎず,その法律的な帰属関係が総有であることを述べたものではないことは,同内かんが述べている趣旨及びその文意に照らしてみれば明らかというべきである。また,原告らは,全国宝くじ協議会にはサマージャンボ宝くじの収益金に関する本件発売要領を定める権限はない旨主張するが,全国宝くじ協議会は,都道府県等が,地方自治法252条の2第1項の規定に基づき,全国を通じて発売する宝くじに関する事務を管理し,執行させるために設けた協議会であって(全国自治宝くじ事務協議会規約4条。甲39号証),都道府県が発売する市町村振興宝くじの発売額,発売区域,収益の都道府県ごとの配分額とその取扱い等を定めることは,同協議会の担当事務として当然予定されているものと解するのが相当である。
したがって,原告らの上記各主張は採用できない。
2
争点(2)被告補助参加人は過大な内部留保資金を有するか否かについて原告らは,平成12年内かんの記載を根拠に,被告補助参加人の適正な内部留保資金額は約29億円であり,これを超える約422億円の資産は過大な内部留保資金であって,これを配分しないことが違法である旨主張する。しかし,平成12年内かんは,各地方協会に対し,各都道府県から交付されたサマージャンボ宝くじの収益金について,各都道府県内市町村(政令指定都市を除く。)の前年度の標準財政規模の合計額に0.3%を乗じた額の基金残高が確保され,各地方協会の事業の実施状況に応じて必要な基金残高が確保されることを前提に,サマージャンボ宝くじに係る交付金を市町村に配分してもさしつかえないことを通知するものであると認められ,これが,地方協会の内部留保資金の適正な限度額を画するものであるとか,一定額を市町村へ配分するよう命ずるものであるなどとは認められない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。

3
争点(3)被告補助参加人が導入した本件会員制度が違法か否かについて原告らは,被告補助参加人が,平成16年に,昭和54年度から平成15年度までの25年間に市町村に配分すべき396億2354万8703円を配分したこととする一方,その全額を会費として徴収するとの本件会員制度を導入したことについて,このような取扱いが,①法人税を免れることを目的とするものであること,②昭和54年度に遡って適用することが公序良俗に反すること,③本件会員制度によって算定された昭和54年度から平成15年度までの間の会費は,上記期間における予算に計上されておらず,会計年度独立の原則(地方自治法208条),総計予算の原則(同法210条)等に違反すること,④愛知県内の市町村に対して会員となることを強要したものであることから違法であり,三好町は上記期間分の会費を支払う義務を負うものではなく,昭和54年度から平成15年度までの間の配分金合計4億3995万2406円の交付を受ける権利を有していると主張する。
(1)前記前提事実欄記載の事実に各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

昭和56年11月に国税庁の法人税基本通達が改正され,改正前は,公益法人が金銭の貸付けを行う場合,①貸付先が組合員その他これに類する特定の者であり,②その貸付金の利率がすべて年7.3%以下であれば,金銭貸付業として取り扱わないこととされていたが,同改正後は,上記2要件に加えて,③その貸付金がその組合員,会員等の拠出に係る資金を主たる原資とするとの要件が備わった場合にはじめて金銭貸付業に該当しない共済貸付として取り扱うことが明記された。地方協会の市町村に対する資金貸付けについて,上記の法人税基本通達の改正を契機に金銭貸付業としての課税問題が浮上し,関係機関の協議の結果,地方協会の貸付事業が市町村の総有的資産(前述したとおり,法律的な意味の総有ではない。)をその構成員である市町村に貸し付けているものであるという実態にかんがみ,一定の要件の下で当面は課税しないことが確認されていたが,平成14年になって被告補助参加人が税務調査を受け,再度,市町村に対する資金貸付けが,収益事業である金銭貸付業に該当する旨指摘されるに至った(乙1号証,2号証)。イ
被告補助参加人は,上記指摘を受けて,平成16年8月に寄附行為を変更し,愛知県内の市町村を会員とした上,各年度の会費の額は,当該各年度において,愛知県から交付されるサマージャンボ宝くじに係る収益金等の80%に相当する額を一定の割合に応じて算出した額(上記収益金等の80%のうち,31.7%に相当する額を市町村数により,68.3%に相当する額を各市町村の人口数により案分して算出した額)とする旨の条項を追加するとともに,寄附行為の附則において,これらの規定は昭和54年度から平成15年度までの各年度において適用があったものとみなすこととした。
また,被告補助参加人は,上記寄附行為の変更を受けて,平成16年8月11日付けで本件会費規程を設けて会費の額等を定めるとともに,附則において,上記規程の各規定(会費の基金への積立に関する3条,会費の額等に関する4条,会費に係る手続きに関する5条)は,昭和54年度から平成15年度までの各年度において適用があったものとみなすこととするほか,昭和54年度から平成15年度までの間における交付金の額及び会費の額を速やかに市町村に通知し,通知を受けた市町村は速やかに被告補助参加人に対し,上記交付金をもって会費としたことを確認する旨の確認書を提出すべきものとする規定を設けた(甲7号証,12号証の1・2,29号証の1・2)。


被告補助参加人は,平成16年9月24日,上記のような寄附行為の変更等を各市町村長に通知するとともに,被告に対し,昭和54年度から平成15年度までの間における会費が4億3995万2406円であることを通知した。
これを受けた被告は,同月30日,被告補助参加人に対し,昭和54年度から平成15年度までの間の会費の額が上記金額であり,サマージャンボ宝くじ交付金をもって会費としたことを確認する旨の確認書を提出した(甲12号証の1・2,13号証の1・2,乙3号証)。
(2)ア以上の認定事実によれば,被告補助参加人が,愛知県内の市町村を会員として,これに交付すべきサマージャンボ宝くじの収益金をもって会費とする旨の寄附行為の変更等を行った上,これを昭和54年度から平成15年度までの各年度に遡及的に適用するものとしたのは,地方協会による市町村への資金貸付けが,昭和56年の法人税基本通達の改正時における国税関係機関との協議によって,当面の間,収益事業である金銭貸付業とは扱わず非課税とすることが確認されていたものの,平成14年になって,再度,国税関係機関によって金銭貸付業に該当する旨指摘されたことから,かかる疑義を解消すべく,被告補助参加人による市町村への資金貸付けが,昭和54年当初から実質的に共済貸付として運用されてきたものであることを寄附行為上も明確化するため,確認的になされたものであって,これまでの被告補助参加人の事業内容を実質的に変更するものではなく,会員である市町村においても,かかる取扱いに同意して必要な手続を行ったものと認められる。

したがって,上記のとおり,本件会員制度は,被告補助参加人の設立当初からの貸付事業の実質的な内容が共済貸付であったことを寄附行為上も明確にしたものにすぎないから,その導入によって法人税を免れたものとは認められない。
また,財政法上,収入・支出は現金の収納・支払をいうものとされており(同法2条1項),国及び地方公共団体の財務会計事務の処理については原則として現実の金銭の収支に基づいて経理を行う現金主義が採用されているところ,本件会員制度は,昭和54年度から平成15年度までの間に被告補助参加人から市町村に対して交付される金員をもって会費としたものとみなすものであって,上記期間中の各年度において現実に現金の収納・支払が生じていたものではないから,本件会員制度による交付金と会費が,昭和54年度から平成15年度までの間における各年度の三好町の歳入歳出予算に編入されていなかったことをもって,本件会員制度が総計予算の原則あるいは会計年度独立の原則に違反しているものとは認められない。
したがって,本件会員制度の導入について原告の前記主張にかかる違法や違憲の問題はないから,それが公序良俗に反して無効ということもできない。

さらに,本件会費規程によれば,被告補助参加人から会費の通知を受けた愛知県内の市町村は速やかに確認書を提出するものとされているが(甲12号証の2),これは,既に判示したとおり,被告補助参加人による市町村への資金貸付けが,実質的に共済貸付として運用されてきたものであることを明確化するための手続について定めたものであり,現実の交付金請求権や会費支払債務を生じさせるものではないから,交付金の交付と引き替えに会員となるべきことを強要する内容であるなどとは解されない。
そうすると,本件会員制度が違法である旨の原告らの主張は,いずれも採用できない。
第4

結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条,66条を適用して,主文のとおり判決する。

名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官

中村直文
裁判官

前田郁勝
裁判官

片山博

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