判例検索β > 平成18年(わ)第436号
詐欺
事件番号平成18(わ)436
事件名詐欺
裁判年月日平成19年4月16日
裁判所名・部神戸地方裁判所  第2刑事部
判示事項の要旨詐欺の実行行為否認(排斥)
裁判日:西暦2007-04-16
情報公開日2017-10-13 01:38:42
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主文
被告人を懲役4年6か月に処する
未決勾留日数中270日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,不動産の売買,仲介等を目的とするA株式会社(以下A株式会社という。)の取締役で,同会社に不動産を売却した旧権利者のために不動産譲渡に係る税務申告手続等を代行するなどの業務に従事していたものであるが,第1

同じくA株式会社の取締役であったBと共謀の上,A株式会社に不動産を売却したC(当時72歳)から不動産譲渡に係る税務申告手続等の代行の名目で金銭をだまし取ろうと企て,被告人において,平成12年3月下旬ころ,神戸市a区b町c番地の前記C方に電話をかけ,同人に対し,真実は受領した金銭全額を同人のために前記税務申告手続等に使用する意思がなく,その金銭をA株式会社又はその役員個人のために流用して費消する意図であるのにこれを秘し,納税額が1億4400万円になるので交付してほしい旨告げて,前記Cをして被告人に交付する金銭は前記税務申告手続等に使用される旨誤信させ,よって,同月30日,同人方において,同人の妻Fを介して,前記Cから,当時のD農業協同組合E支所支所長振出名義の小切手2通(額面合計1億4400万円)の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた。

第2

A株式会社において老人ホーム事業を計画している旨仮装して,老人ホーム建設工事代金の借用の名目で前記Cから金銭をだまし取ろうと企て,平成12年3月31日ころ,同人方において,同人に対し,真実は,A株式会社において老人ホーム事業を現に計画している事実もその建設工事を発注していた事実もないのに,これをあるように装って,A株式会社が大阪府八尾市内で老人ホームの事業を計画していること,既にその工事をM組に発注していること,その工事代金を今月中に支払わなければならないことを告げるとともに,M組へ
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の工事代金の支払に充てる金銭として1億5000万円を貸してもらいたい旨告げて,前記Cをしてその旨誤信させ,よって,同日,同所において,同人から,現金1億5000万円の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた。
第3

A株式会社に不動産を売却したC(当時73歳)から市民税及び県民税の納付資金の名目で金銭をだまし取ろうと企て,平成12年11月10日すぎころ,前記C方に電話をかけ,同人に対し,真実は,A株式会社において同人の市民税及び県民税を立て替えて納付した事実がなく,受領した金銭は別の目的に費消する意図であるのにこれを秘し,現在A株式会社において県民税及び市民税の4000万円を立て替えているので支払ってほしい旨告げて,前記Cをして被告人に交付する金銭はA株式会社が立て替えている市民税及び県民税の精算に充てられる旨誤信させ,よって,同月15日ころ,同所において,同人の妻Fを介して,前記Cから,現金4000万円の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させた。

(証拠)
-省略-
(補足説明)
1
弁護人及び被告人は,①判示第1の事実については,判示の小切手2通(以下
本件小切手という。)はC(以下被害者という。)及びその妻のFの税金の支払のために預かったものであってだまし取ったものではない,②判示第2の事実については,判示の現金1億5000万円(以下本件1億5000万円という。)は被告人が個人として被害者から借りたものでだまし取ったものではない,③判示第3の事実については,判示の現金4000万円(以下本件4000万円という。)は被害者及びFの県民税及び市民税の支払のために預かったものであってだまし取ったものではないとして,被告人はいずれの事実についても無罪である旨主張するので,以下,判示各事実を認定した理由について補
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足して説明する。
2
証拠上明らかな事実
関係各証拠によれば,以下の事実が明らかに認められる。

(1)GとBは,平成2年ころから,神戸市a区b町周辺の地権者からの土地の買収を試みるようになり,平成3年ころからは,被告人もこれに加わった。そして,同年7月,G,B及び被告人が中心となって既存会社の商号を変更してA株式会社を設立し,3名はいずれも同社の取締役となった。
(2)A株式会社は,前記b町周辺の地権者から土地を購入し,これをK組の子会社に転売して利益を得ることを目的として活動し,その中で,被告人は,地権者との交渉,売買契約の締結,地権者への売買代金の支払等を行い,Bは,A株式会社の実質的経営者として,土地買収業務を統括し,被告人から交渉経過等について報告を受け,売買価格の決定などを行っていた。
(3)A株式会社が得た転売差益については,まずA株式会社に資金を拠出していた者に一定の取り分を渡し,そこから更に経費やA株式会社への留保分を控除した残りを,B,G及び被告人の3人で分配していた。
(4)また,A株式会社は,土地の売買に伴い地権者が納付義務を負う不動産譲渡税等(国税のみならず,県民税及び市町村税等の地方税も含む。以下同じ。)について,その確定申告手続や納付手続の代行業務も行うようになっていたが,その際,不動産譲渡税等の金額を抑えるため,地権者との売買契約の際,正規の売買契約書のほかに売買価格を低くした別の売買契約書を作成し,これをもとに確定申告手続や納付手続を行っていた。
そして,平成8年ころから,A株式会社は,地権者の不動産譲渡税等の確定申告手続や納付手続をH会に委託するようになったが,H会ではA株式会社が地権者との間で作成した低い売買価格の売買契約書よりも更に低い金額で確定申告していたことから,実際に納付する不動産譲渡税等はA株式会社が地権者から預かる納税資金よりも低額になり,A株式会社は,その差額を利益として
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B,G及び被告人の3名で分配するようになった。
(5)その後,平成10年ころからは,前記b町周辺の買収対象の地権者は減少し始め,平成11年末にほぼ買収が完了したことにより,平成12年3月にはA株式会社の土地買収業務による収入はほとんどなくなっていた。
ところが,A株式会社は,平成3年の設立以来,法人税の確定申告手続を全くしておらず,平成11年暮れころ税務調査を受けてその旨指摘され,過去5年分の法人税を申告してこれを延滞税,加算税等とともに支払わなければならなくなった。
さらに,平成12年始めころ,H会にも税務調査が入って前記地権者の不動産譲渡税等の過少申告が発覚したことから,その修正申告をしなければならなくなったが,地権者に改めて税金の負担を求めることが事実上困難であったことから,A株式会社において修正申告に伴う納税額を負担しなければならなくなった。
しかし,同年3月29日現在のA株式会社名義の銀行口座の残高はわずか4000万円弱であった。
(6)平成11年6月9日,被害者及びFは,A株式会社との間で,被害者及びFが所有する山林を合計12億円で売却する契約をしたが,その際,両当事者は,不動産譲渡税等の金額を抑えるため,前記の売買価格による売買契約書のほかに,売買価格を合計5億5567万円とする売買契約書も作成し,またこのとき,被害者及びFの不動産譲渡税等の納税手続は,A株式会社側において行うことも約されていた。
(7)平成12年3月下旬ころ,被告人は,被害者に対し,納税額が1億4400万円になるので渡してほしい旨告げて,同月30日,被害者方において,本件小切手の交付を受けた。この小切手は,同年4月14日,B個人名義の口座に入金され,そのほとんどはA株式会社やBらの他の用途に費消され,被害者及びFの税金の支払に充てられたのはこのうち数百万円にすぎなかった。
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(8)同年3月31日,被告人は,被害者宅において,被害者から本件1億5000万円の交付を受けた。その際,被告人は,被害者に対して,被告人名義の領収書を渡したが,その二,三日後,更に借主を被告人,連帯保証人をA株式会社とする借用証書を渡した。被告人は,同月31日,交付を受けた金銭のうち1億円を被告人個人が購入した着物の代金の支払に充てた。
(9)被害者の不動産譲渡税等の確定申告は,本来の申告期限までには行われず,平成12年6月1日に売買価格を7億円として確定申告が行われた。(10)A株式会社は,同月28日,前記法人税等について法人税額が合計2億8123万9540円となる確定申告をした。また,前記地権者の不動産譲渡税等の修正申告にからんでA株式会社が負担すべき金額は最終的に約8億円となった。
(11)同年10月下旬ころ,被告人は,被害者方において,被害者の県民税及び市民税に相当する金額として,本件4000万円の交付を受けた。
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判示第1の事実について

(1)まず,判示第1の事実について,関係証拠によれば,被告人が判示の日時に判示のとおり税金の支払に充てる旨述べて被害者から本件小切手の交付を受けたことが明らかに認められる。
なお,被告人が被害者から本件小切手の交付を受けた状況について,被害者は,公判廷において,平成12年3月下旬ころ,被告人から,国税の納税資金として1億4400万円が必要であるので渡してほしい旨の電話があり,同月30日,被告人が被害者宅に来た際被害者は留守であったため,Fを介して被告人に本件小切手を渡した旨述べているのに対して,被告人は,平成12年3月下旬ころ,電話ではなく被害者の面前で,国税と地方税を併せた納税資金として1億4400万円が必要である旨伝え,同月30日は,被害者から直接本件小切手の交付を受けた旨,異なる供述をしている。
しかし,後記のとおり,被害者の供述は全体的に信用性が高いといえるから,
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前記の状況については基本的に被害者の供述のとおりと認めるのが相当である。もっとも,①被告人が被害者に交付を求めた1億4400万円が国税のみの納税費用の趣旨であったのか,地方税の納税費用も含む趣旨であったのかとの点については,1億4400万円という金額は,被害者の供述する,売買価格7億円に国税の税率20パーセントをかけた金額よりも,むしろ,被告人の供述する,被害者及びFが不動産譲渡税等の金額を抑えるために作成していた売買契約書の売買価格合計5億5567万円に国税及び地方税の合計税率26パーセントをかけた金額に近く,後者の方により適合すること,②平成12年3月末当時,A株式会社は,それまで不動産譲渡税等の確定申告手続や納付手続を委託していたH会に税務調査が入ったために同団体には委託することができず,同年4月に兵庫税務署の職員と相談する予定を立てたり,申告の手続を委任する税理士をさがしていたような状況であって,いまだ売買価格を7億円として被害者及びFの不動産譲渡税等の確定申告をするとは決まっていなかったことからすれば,被告人が被害者に交付を求めた1億4400万円は,既に作成されていた売買価格を5億5567万円とする売買契約書に基づいて,暫定的に国税及び地方税を計算した金額とみるのが自然である。
(2)そこで,次に,平成12年3月末の被告人のA株式会社の財務状態に関する認識について検討する。
前記のとおり,当時のA株式会社の財務状態は客観的には大幅な債務超過の状態であったものであるが,被告人も,当時,①前記b町周辺の土地買収は平成11年末においてほぼ終了し,A株式会社の収入が相当に減少していたことは当然に知っていた上,②A株式会社が平成3年の設立以来,法人税等の確定申告手続を全くしておらず,平成11年暮れころ税務調査を受けてその旨指摘され,過去5年分の法人税等を申告して延滞税,加算税等とともに支払わなければならないことや,③平成12年始めころ,H会にも税務調査が入って地権者の不動産譲渡税等の過少申告が発覚し,修正申告に伴う納税額をA株式会社
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で負担しなければならないことは知っていたのであり,特に修正申告分については負担額が5億円から6億円程度になると認識していたのである(乙21,23,26)。
これに加え,被告人は,④平成11年3月12日ころ,前記b町の地権者のIから1億円を預かりながら,これをBに預け,A株式会社らにおいてこのうち9000万円をIに無断でA株式会社において使用したことや,このほかにも平成11年10月か11月ころには,A株式会社のためにIの娘のJから合計1億4000万円を借りて,A株式会社の借金の支払に充てたことがあること(乙21,22),⑤被害者に対して1億4400万円の交付を求める前の平成12年3月26日か27日ころ,Bに被害者の税金をA株式会社で一時立て替えられないかと聞いたところ,Bは,A株式会社にはそんな金がないので出せない旨返答したこと(乙25,26),⑥被告人は,Bに対し,平成11年1月27日に20万円を,平成12年1月11日に5万円をそれぞれ同人の口座に振り込んで貸し付け,また,平成11年11月にはBから土地を購入するための手付金2000万円を貸すように求められたこと(被告人の公判供述,甲9),⑦被告人自身,捜査段階においては,当時A株式会社は資金的に困窮した状態であり,被害者の納税資金を出す資金的余裕はないことを知っていた旨自認していること(乙26,29)も併せ考慮すれば,被告人は,平成12年3月末当時,A株式会社の銀行口座の預金残高を具体的に知っていたかどうかにかかわらず,A株式会社の財務状態が危機的状況にあることを認識していたものと認められる。これに反する被告人の公判供述は,前記の各事情に照らして不自然,不合理であって,信用することができない。
(3)そこで,この平成12年3月末の被告人のA株式会社の財務状態に関する認識を踏まえて,被害者から本件小切手の交付を受けた際,被告人にこれを税金の支払ではなく他の用途に費消する意図があったかどうか,Bとの間に共謀があったかどうかについて検討する。

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本件小切手は,同年4月14日にB個人名義の口座に入金されており,被告人は被害者から本件小切手の交付を受けた後,少なくともこの日までの間にBにこれを渡したか,又は同人と共に管理するようになったと認められるところ,①被告人の供述によっても,同年3月末当時は,いまだ被害者及びFの不動産譲渡税等の確定申告はされておらず,A株式会社において,同年4月に兵庫税務署の職員と相談する予定を立てたり,申告の手続を委任する税理士をさがしていたような状態であり,いまだいかなる売買価格をもって確定申告をするのかも決まっていなかったのであるから,すぐに納税費用が必要な状況にはなかったにもかかわらず,被告人は同年3月末ころに被害者に対し1億4400万円の交付を求め,そのわずか数日後に本件小切手の交付を受けていること,②前記のとおり,被告人は平成11年にIから1億円を預かりながら,これをBに預け,A株式会社らにおいてこのうち9000万円をIに無断で使用したことがあること,③被告人は,平成12年末ころ以降被害者から何度も税金を納付した証明書類を渡すよう求められたにもかかわらず,そのことをBに伝えただけで,自らはおよそ税務署に確認するなどの調査をしていないことなどからすれば,被告人は,被害者から本件小切手の交付を受けた際,これを税金の支払ではなく,A株式会社又はその役員個人において他の用途に費消する意図があったこと,またこれについてBとの間に共謀があったことが推認される。これに対して,被告人は,公判廷において,本件小切手はBに言われるまま被害者に交付を求めて受けとったものであり,その後直ちにBに渡しており,その際,納税資金がすぐに必要な状況ではなかったことは深く考えなかった旨供述するが,被害者は当時A株式会社やK組の子会社の側で不動産譲渡税等の負担をしてくれると考えており,自ら積極的に不動産譲渡税等の納税費用を負担する意思のなかったことが明らかであり,そのような被害者に対して,納税費用として多額の金銭等の交付を求めるにもかかわらず,納税資金が具体的にいかなる緊急性をもって必要であるのかについて関心を持たなかったというの
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は,それ自体が不自然というほかない。しかも,被告人は,前記のとおり,公判廷において,平成12年3月末当時A株式会社の財務状態を知らなかった旨,捜査段階と異なる供述をしているが,この供述はそれ自体が不自然,不合理であることはもちろん,供述の変遷についても合理的な理由を説明していないのであって,これらの事情に照らしても,被告人の前記供述は信用できないというべきである。
(4)なお,証人Bは,被告人はA株式会社名義の口座の入出金をすべて指示していた,本件小切手をB個人名義の口座に入金する際も被告人とともに手続を行った,平成12年6月1日にこの入金額のうち7000万円を引き出してそのうち3000万円を被告人に渡したなどと供述し,証人Lも,被告人からA株式会社名義の口座の入出金について指示を受けていた,被告人はA株式会社の金銭の流れを全部把握していたと思うなどと供述する。
しかし,証人Bの供述については,①同人は,捜査段階においては,平成9年にLがA株式会社の代表取締役に就いた後に被告人が経理や口座管理の業務に従事していたとは供述していなかったのに,公判廷でこれと異なる供述をするに至っていること,②平成12年6月1日,同月28日,同年9月29日,同年10月31日にB個人名義の口座から本件小切手により入金した金額の一部が引き出されていることについて,被告人とともに銀行に赴いて引き出した旨供述するが,これに必要な書類はすべてBが作成している上,ふだんは前記b町周辺において土地買収の交渉を行っていた被告人がわざわざこれに同行したというのも不自然であることからすると,この供述は不自然というべきである上,しかもこのうち同年10月31日は被告人は海外にいたのであるから,Bはこの点については明らかに被告人に不利益な虚偽の供述をしていること,③捜査段階においては,本件小切手をBに渡したのは被告人であったとか,前記②の点についても被告人と共に銀行に行ったと思うなどと,被告人の行為についてあいまいな供述をしていたのに(乙4),公判廷ではこれを断定的に供
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述するに至っていること,④その体裁や記載内容から自らが費消した金銭の内訳が記載されていることが明らかなメモについて,自らの構想を含めて真実と虚偽を交ぜて記載したものであるなどと不自然な供述をしていること,⑤Gがその警察官調書(弁11,13)において,BがA株式会社の諸経費のやりくりをしていた旨供述していることにも整合しないことなどからして,全体的に信用性が低いというべきである。
証人Lの供述についても,①同人は,捜査段階においては,BがA株式会社の実質的な経営者であり,Bが被告人から買収交渉の経過等の報告を受けて売買価格を決定していた,A株式会社名義の預金の入出金についてはBの指示を受けていた,地権者の納税資金は,被告人が地権者から預かってBに渡し,BがLに渡してA株式会社名義の口座に入金していた旨供述していたのに,公判廷では,突如被告人もLにA株式会社名義の口座の入出金を指示していた旨供述するに至っているが,この変遷について何ら理由を供述していないこと,②自らがつけていた手帳について,特段予定の主体が記載されておらず,L自身の予定であることが明らかな記載について,被告人の予定を記載したものであるとか,手帳にはA株式会社の他の役員の予定も記載していたなどと不合理な供述をしていることなどからして,同様に全体的に信用性が低いというべきである。
ただし,証人B及び同Lの供述が信用できないとしても,前記の推認が左右される関係にはないことは明らかである。
(5)したがって,前記の推認のとおり,被告人は,被害者から本件小切手の交付を受けた際,これを税金の支払ではなく,A株式会社又はその役員個人において他の用途に費消する意図があったことが認められ,被告人は,判示のとおり,この意図を秘して,税務申告手続等に充てるものとして被害者から本件小切手をだまし取ったことが優に認められる。また,この犯行についてBとの間に共謀があったことも優に認められる。

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判示第2の事実について

(1)まず,判示第2の事実について,被告人が判示の日時に被害者から本件1億5000万円の交付を受けたこと,また,当時A株式会社において現に老人ホーム事業を計画していた事実もその建設工事を発注していた事実もないことは証拠上明らかであるが,本件1億5000万円の交付の経緯及び交付の際の状況について,証人C(被害者)は,①平成11年11月ころ以降,被告人からA株式会社が大阪府八尾市内で老人ホームを経営する計画を立てていることを聞いていたが,平成12年3月31日,被告人が被害者宅を訪れ,この老人ホームの経営のための事業資金の貸付けを求めてきた,②被告人からは以前にも同様の話があり,そのときは断っていたが,この日は,被告人が堂々と被害者宅に上がって腰をかけ,動くような気配もなく,老人ホームの発注先のM組に工事代金を支払わなければならないということをやかましく言われたので,結局貸すことにしたが,その際,被告人から,被告人自身が金に困っているとか,被告人個人で事業をするなどという被告人の個人的な理由による貸付けの依頼はなかった,③被告人は,最初は1億円を貸してほしいということであったが,その後5000万円を追加してほしいと頼んできたので,5000万円を追加し,結局合計1億5000万円を渡した,④すると,被告人が領収書を渡してきたが,被害者としてはA株式会社に貸したつもりであったのに,被告人名義の領収書であったため,A株式会社の正式な借用証書を持ってくるように言うと,その二,三日後に,被告人は,借主を被告人,連帯保証人をA株式会社とする借用証書を持ってきたので受け取った,⑤その際,A株式会社は連帯保証人であり,借主が被告人になっていることはうっかりとしていたが,A株式会社の社印があるので最終的にはA株式会社が責任をとってくれると思っていた旨供述する。
(2)被害者の公判廷における供述には,時の経過により記憶があいまい又は不正確になっているところも見受けられ,また,判示第1及び第3の事実に関する
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供述には,不動産譲渡税等についてA株式会社又はK組の子会社側に負担するよう求めた経緯や確定申告の前提とする売買価格を設定した経緯について,不自然な内容の供述をしている部分があり,これは脱税行為への自らの関与の積極性をできるかぎり薄めようとする意図から出たものと解されるものの,これを全体的にみれば,体験した者ならではの迫真性に富んだ具体的で詳細なものであり,他の客観的証拠との間に抵触や矛盾もないこと,本件事件後被告人やA株式会社らにだまされたと考え,これらの者を相手方として民事訴訟を提起していることなどから,当時の記憶は適宜の時期に喚起されて比較的正確に保たれていると考えられること,前記の脱税についても一応の事実関係を認めていること,前記の点を除いて主要な点ではその供述内容に不自然,不合理なところや供述の変遷は認められないこと,被害者が被告人に不利益な虚偽の供述をする動機は特にうかがわれないことなどからすれば,その供述は全体的に信用性が高いということができる。特に,判示第2の事実に関する状況については,その供述内容に不自然,不合理な点はおよそ見受けられないこと,1億5000万円という多額の金銭を貸し付ける際,被告人の使途に関する説明や貸付けの動機について記憶違いをしたり,その後の時の経過により記憶が著しくあいまい又は不正確になるとは考え難いこと,被害者の脱税行為とは無関係の事柄であり,被害者が被告人に不利益な虚偽の供述をする動機はおよそ見当たらないことからすれば,被害者の前記(1)の供述は,これを十分に信用することができるというべきである。
確かに,弁護人が主張するように,①被告人が平成12年3月31日に被害者に渡した領収書は,被告人個人名義のものである上,ただし書にも老人ホーム事業に関する記載はなく,また,その二,三日後に被告人が持ってきた借用証書も,借主は被告人個人であり,A株式会社は連帯保証人にすぎないこと,②被害者は,被告人に本件1億5000万円を交付するに当たって,老人ホームの完成予定時期,営業開始予定時期,施設の名称その他老人ホームのために
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融資するかどうかの判断材料となる重要な事項について被告人に尋ねていないことが認められるが,①については,被害者はうっかりとしていたが,A株式会社の社印があるので最終的にはA株式会社が責任をとってくれると思った旨供述しており,特に法律の専門的知識のない被害者がそのように考えたからといっても不自然,不合理であるとはいえないし,②についても,被害者は自らが高額の土地売買の取引をしたA株式会社に対して貸し付ける認識であったことからすれば,被害者がA株式会社の事業と考えていた老人ホームの事業内容の詳細について被告人に尋ねなかったとしても,直ちに不自然,不合理であるとはいえないというべきである。
(3)これに対して,被告人は,公判廷において,被害者に対しては,被告人個人としてどうしても必要だから,被告人に投資すると思って貸してほしい旨頼み,着物の代金の支払に充てるつもりであることは告げなかったが,被告人はそれ以上貸付けの理由を追及することなく本件1億5000万円を貸してくれた旨供述する。しかし,被害者は,不動産譲渡税等の負担にすら難色を示していたのであって,そのような被害者が,土地売買の取引をした相手方の担当者にすぎない被告人に対して,被告人がしたとする依頼や説明だけで納得して1億5000万円もの大金を被告人個人に貸し付けたというのは,それ自体が不自然であり,その供述は到底信用することができない。
(4)したがって,信用できる証人Cの供述によれば,被告人は,判示のとおり,A株式会社において現に老人ホーム事業を計画していた事実もその建設工事を発注した事実もないのに,これがあるかのように装って,M組への支払に充てる金銭として被害者から本件1億5000万円をだましとったことが優に認められる。
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判示第3の事実について

(1)まず,判示第3の事実について,関係証拠によれば,被告人が判示の日時に判示のとおりA株式会社において立て替えて支払っている税金の精算に充てる
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旨述べて被害者から本件4000万円の交付を受けた事実が明らかに認められる。
なお,被告人が被害者から本件4000万円の交付を受けた状況について,被害者は,公判廷において,平成12年11月10日過ぎころ,被告人から,A株式会社において県民税及び市民税の4000万円を立て替えているので支払ってほしい旨の電話があり,同月15日,被害者宅に来た際には被害者は留守で,Fを介して被告人に本件4000万円を交付した旨供述しているのに対し,被告人は,同月15日に事前に連絡することなく被害者宅を訪問して県民税及び市民税として4000万円が不足しているので渡してほしい旨告げたところ,被害者からその日に同額の交付を受けた旨,異なる供述をしているが,前記のとおり,被害者の供述は全体的に信用性が高いといえるから,前記の状況については基本的に被害者の供述のとおりと認めるのが相当である。(2)そして,前記3(2)で認定のとおり,被告人は,平成12年3月末当時,A株式会社の財務状態が危機的状況にあることを認識していたものと認められ,その後,A株式会社の財務状態が改善するような事情はおよそ見受けられず,かえって,同年6月28日には,法人税額が合計2億8123万9540円となる確定申告をして多額の租税債務が現実化していることに照らせば,被告人は,同年11月15日当時も,A株式会社の財務状態について前同様に認識していたと認められる。
(3)そこで,被告人のA株式会社の財務状態に関する認識を踏まえて,被害者から本件4000万円の交付を受けた際,被告人にこれを税金の支払ではなく他の用途に費消する意図があったかどうかについて検討するに,①前記3で認定のとおり,被告人は平成12年3月30日に税金の支払ではなく他の用途に費消する意図で本件小切手の交付を受け,実際にそのほとんどはA株式会社やB個人らの用途に費消され,被害者及びFの税金の支払に充てられたのはこのうち数百万円にすぎなかったのであって,被告人が本件4000万円について本
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件小切手とは異なり実際に税金の支払に充てられると認識していたとは考え難いこと,②そもそも被害者及びFの不動産譲渡税等のうち国税は同年6月1日の確定申告においても合計1億1505万5800円だったのであり,既に1億4400万円の本件小切手の交付を受けていることからすれば,県民税及び市民税が4000万円も不足するわけではない上(乙39),また,7億円の売買価格を前提に国税20パーセント,県民税及び市民税が6パーセントとして計算したとしても,県民税及び市民税として足りない金額は3800万円であるにもかかわらず,被告人は立て替えている県民税及び市民税として4000万円の交付を求めていること,③前記のとおり,被告人は,平成12年末ころ以降,被害者から何度も税金を納付した証明書類を渡すよう求められたにもかかわらず,自ら税務署に確認するなどの調査を全くしていないこと,④被告人は当時被告人個人が購入した着物について多額の代金の支払を請求されるなど多額の債務を有しており,本件4000万円を個人的に流用する動機も否定できないことなどからすれば,被告人は,被害者から本件4000万円の交付を受ける際,これを税金の支払ではなく,A株式会社又はその役員個人において他の用途に費消する意図があったことが推認される。
これに対して,被告人は,公判廷において,本件4000万円は,Bから言われるまま被害者宅を訪問して被害者から交付を受けたものである,4000万円という金額は,このとき国税は既に納付されていたと考えていたが,本件小切手は国税分よりも多く預かっていたこともあり,大体4000万円ぐらいあれば足りるだろうということで決まったと思う旨供述し,本件4000万円は全額被害者及びFの県民税及び市民税の支払に充てるつもりであった旨供述するが,この供述は,被害者の,被告人はA株式会社において県民税及び市民税を立て替えているのでその精算を求めてきた旨の供述と前提となる事実関係においても食い違う上,被害者の不動産譲渡税等については,同年6月1日に確定申告がされていたにもかかわらず,その際の国税の金額を確認することな
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く,また,4000万円あれば足りるだろうというあいまいな計算で,必要な金額を上回ることを知りながらこのような多額の金銭の交付を求めたというのは,それ自体が不自然である上,被告人は他の地権者からはそのような金額の決め方では納税費用の交付を受けていなかったこと(甲38)からしても不自然である。また,前記のとおり,被告人の供述は,判示第1又は第2の事実に関するものについても不自然,不合理な部分が多いのであって,これらの事情に照らせば,被告人の前記供述は信用できないというべきである。
(4)したがって,前記の推認のとおり,被告人は,被害者から本件4000万円の交付を受けた際,これを税金の支払ではなく,A株式会社又はその役員個人において他の用途に費消する意図があったことが認められ,被告人は,判示のとおり,この意図を秘して,A株式会社が立て替えた市民税及び県民税の精算に充てるものとして被害者から本件4000万円をだまし取ったことが優に認められる。
なお,検察官は,本件4000万円について,被告人は交付を受けたその日にそのうち3000万円を被告人個人が購入した着物の代金の支払に充てた旨主張する。しかし,被告人はこの事実を否定し,この3000万円の支払は本件4000万円とは別に自ら調達した現金で支払った旨供述しているところ,確かに被告人はこの3000万円の原資について裏付けのある十分合理的な説明をすることができておらず,本件4000万円がこの3000万円の原資であることがある程度推認されるとはいえ,他方で,この3000万円の支払を受けた者は,この日,昼前後に同金額を受領した旨供述しており(甲31),Fも被告人がこの日被害者宅に来た時間は昼前後から午後4時ころである旨供述していること(弁15)からすれば,この3000万円の原資が本件4000万円であると断定することはできないというべきである。
6
まとめ
以上のとおり,判示の各事実はいずれもこれを優に認定することができ,弁護
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人及び被告人の主張は採用できない。
(法令の適用)
1罰

第1の行為

刑法60条,246条1項

第2及び第3の各行為いずれも刑法246条1項
2
併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重
い第2の罪の刑に法定の加重)

3
未決勾留日数の算入

刑法21条

4
訴訟費用の不負担

刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
1
被告人が取締役を努めていたA株式会社は,平成3年の設立後,神戸市a区b
町周辺の地権者から土地を購入して,他に転売して利益を得る事業を行っていたが,ずさんな利益分配を継続していたこと,また,確定申告を怠っていたため多額の納税義務が一度に課せられたこと,地権者からの土地の購入,転売の件数が減少したことなどから,大幅な債務超過となり,経営が破綻寸前の状態となった。そのため,被告人及びBは,地権者から納税を代行する団体に渡すために預かっていた納税費用をA株式会社の運転資金等に流用するようになり,被告人は,このような経緯の中で,当初からA株式会社又はその役員個人において他の用途に費消する意図を秘して,地権者である被害者から納税費用として小切手あるいは金銭をだまし取るという判示第1及び第3の各犯行に及んだものであって,これらの犯行に至る経緯や動機に酌むべき点はない。また,判示第2の犯行は,A株式会社の運転資金等の確保というよりは,自らの浪費に起因する被告人の個人的な債務の支払に充てる金銭を得たいがための犯行であって,その経緯や動機は他の犯行に比べても特に悪質で酌むべき点は全くない。
犯行態様を見ても,判示第1及び第3の各犯行は,A株式会社を通して納税を依頼すれば納税額が少なく済むと考えていた被害者の信頼を逆手に取り,A株式
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会社又はその役員個人において他の用途に費消する意図を秘して,言葉巧みに納税費用として金銭を交付させたもの,判示第2の犯行は,判示第1の犯行に成功したことを奇貨として,同様に被害者のA株式会社に対する信頼を利用して,被告人の個人的な債務の支払に充てる金銭を得るために,A株式会社の事業のための借入れであるかのように装って金銭を交付させたものであり,いずれも計画的であることはもちろん,巧妙で狡猾な犯行である上,その被害額は合計3億3400万円もの巨額に達しており,老後の生活資金を奪われた高齢の被害者が受けた経済的打撃は計り知れないが,その被害はほとんど全く弁償されていない。2
そして,被告人は,本件各犯行を常習的に敢行し,共犯事件である判示第1の
犯行においても,自ら被害者をだまして金銭の交付を受けるなど主要な役割を果たしている上,だまし取った本件1億5000万円のうち少なくとも1億円を自らの個人的な債務の返済に充て,個人としても多額の利得を得ている。なお,この点に関して,証人Bは,判示第1の犯行でだまし取った本件小切手を入金した中から被告人に3000万円を渡した旨供述し,検察官は,判示第3の犯行でだましとった本件4000万円のうち少なくとも3000万円は被告人が自らの個人的債務の返済に充てた旨主張するが,補足説明において判示したとおり,証人Bのこの点の供述は信用することができず,判示第3の犯行でだまし取った金銭についても,これを被告人が個人的な債務の返済に充てたと認めることはできない。
3
このように,本件各犯行はその経緯や動機に酌むべき点はなく,態様も悪質で
結果も重大であるが,被告人は本件各犯行を否認しており十分な反省の態度はみられないのであって,これらの事情からすれば,被告人の刑事責任は誠に重い。4
他方,判示第1及び第3の各犯行において被告人がだまし取った納税費用は,
被害者がA株式会社に土地を売却した価格について,これを低く偽って確定申告するという脱税行為を前提としたものであり,被害者には軽率な点があったといえる。また,判示第1の犯行においては,実行犯は被告人であるものの,本件小
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切手はB個人名義の口座に入金されていること,そのうち一部はBの個人的用途に充てられていること,BがA株式会社の実質的経営者であったこと,被告人が本件小切手から個人的な利得を得たとは認められないことなどに照らすと,Bが被告人に指示して行わせた犯行とみるのが自然であり,判示第3の犯行も,前記のとおり本件4000万円について被告人が自らの個人的な債務の返済に充てたと認めることはできず,被告人の供述するとおりBに渡っている可能性があり,同様にBが被告人に指示して行わせた犯行である可能性が否定できない。判示第2の犯行も,被告人が供述するとおり本件1億5000万円のうち5000万円はBに渡っている可能性が否定できないのであって,このようなBの指示や利得及びその可能性は被告人に有利に評価すべきものである。このほか,判示第1の犯行でだまし取った本件小切手のうち一部は実際に被害者の納税費用にあてられたこと,被告人は前記のとおり本件各犯行を否認しているものの,被害者に財産的損害を与えたことについては謝罪し,今後定職に就いて被害弁償に努める意思を示していること,罰金前科以外に前科がないこと,母親が今後の生活の監督を誓約していることなどの被告人のために酌むべき事情も認められる。5
そこで,以上の事情を総合考慮し,被告人を主文の刑に処することとした。
(検察官熊谷功太郎,私選弁護人西谷良彦各出席)
(求刑―懲役6年)
平成19年4月16日
神戸地方裁判所第2刑事部

裁判官岩
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崎邦生
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