判例検索β > 平成18年(わ)第384号
詐欺
事件番号平成18(わ)384
事件名詐欺
裁判年月日平成19年4月23日
裁判所名・部神戸地方裁判所  第2刑事部
判示事項の要旨故意否認(認容,無罪)
裁判日:西暦2007-04-23
情報公開日2017-10-13 01:38:42
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主文
本件各公訴事実について,被告人はいずれも無罪。

第1


本件公訴事実
本件各公訴事実は,平成18年3月31日付け,同年4月27日付け,同年5月2日付け,同年6月15日付け,同年6月29日付け,同年7月6日付け(ただし,別紙の●●欄中,番号6の日時欄に13日午後4時34分ころとあるのを13日午前8時22分ころと訂正する。,同年8月10)
日付け及び同年8月30日付け各起訴状記載のとおりであるから,それらを引用する。その要旨は,要するに,被告人は,A株式会社がインターネット上で主催するAオークションを利用して,電化製品の販売をしていたものであるが,同オークションを利用して,電化製品の販売名下にインターネット利用者から金員を詐取しようと企て,平成16年11月17日から同年12月23日までの間,多数回にわたり,販売に供する商品を発送する確実なめどがないのに,これを秘し,パソコンを使用して,A株式会社が管理するサーバーに,商品名,開始価格,数量,発送期日等の競売による売却情報を送信,掲示して購入者を募り,掲示を閲覧して競売に参加し落札した者に電子メールで連絡するなどし,落札金額と送料を被告人が指定した郵便貯金口座あるいは銀行預金口座に振り込めば,約1か月ないし2か月後に落札商品を受け取れるものと誤信させ,よって,同年11月19日から同年12月27日までの間,各落札者らをして,被告人が管理する前記預貯金口座に合計600万4140円を入金させ,もって,それぞれ,人を欺いて財物を交付させたものである,というものである。

第2
1
当裁判所の判断
検察官は,被告人は,遅くとも平成16年11月中旬以降,商品を発送できる確実なめどがないのに,これを秘して,商品の出品を続けていたことは明らかであって,本件証拠上,各公訴事実は優に認定できると主張するのに対し,被告人は,Aオークションの落札者から落札代金等を詐取する意思はなく,
落札された商品を仕入れて発送するつもりであった旨を捜査段階から一貫して述べており,弁護人は,本件は商取引上の債務不履行であって,被告人に詐欺の故意はなく,欺罔行為が存在しないから無罪である旨を主張しているので,以下検討する。
2
本件各詐欺の訴因について
本件各詐欺の訴因は,被告人が,電化製品の販売名下にインターネット利用者から金員を詐取しようと企て,販売に供する商品を発送する確実なめどがないのに,これを秘し,パソコンを使用して,A株式会社が管理するサーバーに,落札金額と送料を被告人指定の預貯金口座に振り込めば,約1か月ないし2か月後に落札商品を落札者に送付するなどという商品の売却情報を送信し
て,Aオークションにその内容を掲示し,掲示を閲覧して競売に参加して,その内容を真実と信じて落札した者に落札金額と送料を前記預貯金口座に振り込めば,約1か月ないし2か月後に落札商品を受け取れるものと誤信させて,各商品の落札金額及び送料の合計金額をそれぞれ詐取した,というものであるが,弁護人は,公訴事実にこれを秘しとの記載がある点を捉えて,検察官は,被告人がその信用状況等の事実を告知しないことを詐欺の実行行為に組み込んでおり,不作為による詐欺として起訴しているとして,Aオークションという商取引において,出品者の信用状況等を告知する法律上,信義則上の義務の存否,被告人自身の信用状況等の認識程度,被告人が自身の信用状況等を落札者に告知しないことが欺罔行為となるのかという各問題点を指摘している。確かに,検察官は,これを秘しという文言を公訴事実に記載しているが,本件は,被告人の信用状況等の落札者に対する告知の有無が問題となる事案ではなく,落札者においては,オークション出品者は,落札金額と送料(以下落札金額等という。を)
出品者が指定する預貯金口座に入金すれば,その掲示されたとおりの時期に商品が送付されてくることを当然の前提として落札しており,商品が掲示されたとおりに発送されずに入手できないというのであれば,落札して落札金額等を支払うはずはないのであるから,被告人において,オークションに掲示したとおりに落
札者に対して商品を発送することができないことを認識しながら,あるいは,発送することができないかもしれないことを認識しながら,それでもかまわないと思って,あえて各公訴事実記載のような掲示をして落札者を募ったことそれ自体が作為による詐欺を構成するものであって,検察官の本件各起訴もそのようなものとして理解すべきである。したがって,本件の基本的な争点は,被告人が,各公訴事実記載のAオークションでの掲示をした時に,落札者に対して掲示したとおりに商品を発送することができないことを認識しながらあえてそのような掲示をしたのか,あるいは,掲示したとおりに商品を発送することができないかもしれないことを認識しながら,それでもかまわないと思ってあえてそのような掲示をしたのか,という点にある。
3
認定できる外形的事実
(1)

本件は,被告人が平成16年1月から行っていたAオークションに関
して,同年11月17日以降の取引が詐欺罪を構成するとして起訴されたものであるところ,本件関係証拠によっては,被告人がAオークションで行っていた全部の取引実態や被告人が行っていたその余の事業活動の全容は解明されていない。しかし,証人Bの公判供述(以下B供述という。によれば,捜)
査機関において,被告人が提出した電子メールの記録,被告人が管理していた4件の預貯金口座の記録,被告人の仕入先への照会結果等の客観的資料を分析し,可能な限り,被告人のAオークションでの取引状況等を把握しようとしたことが認められる。そして,B供述によれば,同人の公判廷における供述調書の末尾に添付された関係資料には,推測した部分や誤記があるが,被告人ネット取引状況一覧以下取引状況一覧という。中の入金日,落札者,(

入金額,落札日,開始価格,落札価格,落札商品,仕入先,仕入物,仕入価格の各欄の記載は,客観的な資料に基づくものやそれらの資料から合理的に推測できるものであり,収益欄の記載は,入金額から,オークション手数料(落札価格の3パーセント)×1.05(消費税を加算)の金額及び仕入価格の合計額を控除したものであり,送料については各取引につき特定できなかったので
控除していないことが認められ,少なくとも,オークションに出品された商品の仕入関係について捜査機関が把握できた取引データ(以下照合可能データという。についての収益及び収支の資料及びそれらに関する説明は十分)
信用することができる。
(2)

B供述,証人C及び同Dの各公判供述,捜査関係事項照会に対する回答
2通(検甲335号証[不同意部分を除く]検甲44号証[被告人にかかる破産事,
件記録一式,不同意部分を除く],写真撮影報告書(検甲338号証)及び被告)
人の供述(捜査段階及び公判段階)等関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
①被告人は,平成16年1月(以下,特に断らない限りは平成16年である。か)
らAオークションにフラッシュメモリー等のさほど価格の高くない商品を出品するようになり,2月中旬までは,単価が2500円前後の商品を出品し,それ以降,出品した最終日である12月23日まで,デジタルカメラ等単価が数万円の商品を出品していた。
②本件の捜査により把握できた限りでの被告人のAオークションへの出品状況に関し,1月から12月までの各期の取引状況(なお,前期とはその月の1日から15日まで,後期とは16日から月末までをいう。は別紙各期の取引)状況記載のとおりであり,1月から12月までの全取引数は3143件であり,5月後期から取引数が増加し,その期は,同月前期の取引数41件の約3倍の137件,同売上高81万円余りの約5倍の407万円余りとなり,以後,上下はあるが11月前期までは,取引数で55件(8月前期)から184件(11月前期)売上高で289万円余り(6月後期)から1294万円余り,
(10月後期)であったのが,11月後期には取引数625件,売上高2841万円余りとなり,同月前期の取引数184件から441件の増加,売上高では1177万円余りから1663万円余りの増加となっている。また,被告人は,2月後期からすでに,入札開始価格を相当安く設定してAオークションに出品しており,当該商品の仕入価格が数万円の商品については,ごく一部の例
外を除き,一つの商品について数千円から数万円の損失となっており,同様の入札開始価格の設定で出品を続ければ,累積赤字が増大するのは客観的に明らかな状況になっていた。しかし,被告人は,その後も,商品の出品を続け,ほとんどの商品について仕入価格を数千円から数万円下回る価格で落札されていた。
③被告人の前記Aオークション取引のうち,出品された商品の仕入関係について捜査機関が把握できた取引データ(照合可能データ)に基づくものについて,その取引及び収支の各状況をみると,2月から12月までの収益及び各期の収支は別紙商品単位収益(照合可能データ)及び「各期における収支(照合可能データ)のとおりである。これによれば,2月後期からすでに利益が上」
がらず赤字となっており,以後12月に出品をやめるまでの間に利益が上がった月はまったく存在せず,5月後期で赤字の累積額は116万円余りとなり,以降累積赤字額は減少することなく月日の経過に従って増加し,11月前期でのそれは2500万円を超えるに至っている。そして,被告人の供述によっても,大まかな取引の状況,特にその収支状況については,照合可能データのないその余のオークション取引(把握できた全取引数3143件から仕入先との照合が可能な取引数1433件を差し引いた数である1710件)についても全体の傾向としては,B供述によって認められる照合可能データのある1433件の取引とほぼ同様のものと認められ,したがって,累積赤字額は前記照合可能データに基づくものよりも更に大幅に多額になっていたものと推認することができる。
④被告人は,2月ころから,出品した商品のほとんどについて,すでに入金日から約1か月ないし2か月後に落札商品を落札者に送付するようになっていたが,捜査機関で把握できた前記オークション取引3143件に関し,11月15日までに落札された分は,一部の落札者に対し商品が発送されないままになっているものの,その大部分は送付され,同月16日以降に落札された分は,一部の落札者に対し商品が発送されているものの,その大部分は発送されない
ままになっている。また,発送された商品の仕入資金は,いずれも,その後のオークション取引での落札者から入金された金員である。
⑤被告人は,Aオークションに商品を継続的に出品する一方で,落札日から約1か月ないし2か月後ではあるが,落札された商品を仕入れて順次落札者に送付しており,オークションへの出品をやめた12月23日以降も継続して商品を仕入れて落札者に発送していた。すなわち,同日には,前記取引状況一覧(証人Bの公判供述調書に添付されたもの)の№1807,№2327,№2328の落札者に関する商品代金(合計22万8940円)を仕入先に支払い,同月24日には,№1685,№1686,№1706,№1707,№2300の落札者に関する商品代金(合計68万3519円)を仕入先に支払い,同月25日には,№2251,№2252,№2262,№2283,№2285,№2312,№2313,№2316,№2319,№2426,№2427,№2710,№2993の落札者に関する商品代金(合計43万1237円)を仕入先に支払い,同月27日には,№2709の落札者に関する商品代金(3万7456円)を仕入先に支払い,いずれもそのころそれらの落札者に対して当該商品を発送したものと推認できる。
⑥被告人は,平成17年1月11日,負債総額約5422万円(うちAオークション関係は約5254万円)として,神戸地方裁判所に破産申立てをし,同月28日破産手続開始決定がされ,同年3月23日破産手続が廃止された後,同年4月26日免責許可決定がされ,債権者が抗告したが,同年10月18日,大阪高等裁判所は抗告を棄却した。
4
被告人の供述
(1)

被告人は,前記破産免責許可決定に対する抗告審である大阪高等裁判所
に対する陳述書(検甲44号証中の平成17年10月12日付けの被告人の陳述書)の中で,次のように述べている。すなわち,Aオークションでの取引の経緯等の項で,実際に商品の発送が出来ていない平成16年11月前後からは,前の商品を発送しなければ,デザインの仕事を含めて全て失ってしまうのではないかという脅迫(強迫の誤記)観念があり,立ち止まる事が許されない状況でしたので(この状況を『自転車操業』だと言われれば返す言葉もありません。落)札しやすい価格設定をしていたと思います。と述べ,具体的な取引の経緯」
の項で,この頃(4月から6月頃)は,利益の方が多いという実感があった事「から,取引の形式をあまり気にとめていませんでした。今振り返ると,取引方法,見込みが相当甘かったと思います。,6月までの段階でも,Fなどの量販店を利用して,その取引では赤字が出ていた事は明らかですから,この時点で商品の確保を確実にしてその台数だけを出品するとか,直接売買の申込みがあっても断るなどすればこの様な最悪の事態にはならなかったのではないかと後悔しています。それが出来なかったのは,これだけ売れば利益が出ているだろうから大丈夫だろうという,事業者としてはあまりにも甘すぎる見込みと,損した分をたくさん売って取り返そうという利益追求の自分の姿勢にあったと思います。と述べ,このような事態に至った原因と反省の項で,最大の反省は,量販店などで仕入れをすれば赤字が出る事はわかりきったことなのに,落札されて,先に入金された他の落札者を利用する事に抵抗がなかったこと,ここで商品の発送を止めたら,全てを失ってしまうかもしれないという恐怖感を冷静に見つめなおすことができず,行き着くところまで行き着いてしまったという点にあります。私は,本当に,債権者の方々を騙すという事など考えたことはありませんが,上記の状況を客観的に見れば,私の行っていた事は,正に『自転車操業』であり,そのような状況を債権者の方々が知っていれば,私と取引はしなかったと思います。と述べている。
(2)

Aオークション取引に関する被告人の捜査段階の供述は,おおむね,次
のとおりであり(検乙5,6号証)公判供述もほぼ同旨である。すなわち,平,
成16年1月ころから試験的にフラッシュメモリー等を出品し,同年3月ころまで損失を出さなかった,本格的に家電製品を出品し始めた時点では,安い商品をストックしておいたり,入札時点で仕入れるようにしていたが,いつころからか,相手(落札者)の振込があってから商品を仕入れるようになった,同年5月のゴールデンウイークころまでは黒字であったが,その後は帳簿をつけておらず経営
状態は把握していなかった,同年7月にEを立ち上げる際にデジタル工房の収支を明らかにする必要があり,この時点で100万円から200万円ほどの赤字であった,それはデジタル工房の全収支であり,デザイン関係の仕事の収支も入っており,オークションだけの赤字かどうかは不明であり,当時の認識は,オークションの収支はプラスマイナスゼロか,少し黒字か赤字かというくらいであったが根拠はない,赤字は出ているが,デザイン部門での収益が上がれば穴埋めができると思っていた,当時,デザイン部門の仕事でGから月70万円ないし80万円,ほかにも飛び込みの仕事があり,100万円や200万円なら補填できると思っていた,その後,Aオークションで儲けたというほど利益が上がったことはないが,そのまま出品を続け,秋ころから出品数が増え,9月か10月,デジタルカメラ等を現金問屋で仕入れようとしたが商品がない時期があり,どこにも在庫がなく量販店に買いに行った,量販店で買った商品の出荷では赤字になることは分かっていた,安くても数千円,高いときは数万円の赤字が出ることがあったが,なんとか納期に間に合わせないといけないと思いやむなく量販店を利用した,同年11月以降,出荷が遅れた際に自分で決めた遅延金を相手(落札者)に払ったりしていた,遅延金の支払いは11月以降全部で10件ほどである,納期に間に合うように商品を出荷することばかりに集中して,Aオークションで利益が出ているかどうかなど把握できていなかった,振り込まれたお金を振り込んだ人の商品を買うのではなく,その約1か月前に落札された商品の入荷に使うようになっていたのは気付いていた,オークションの件数なども分からないまま儲けを出すとかではなく,出品と仕入れ,出荷を繰り返していた,具体的な根拠はないが,財政状況を把握していなかったのでオークションを続けられなくなるとの意識はなかった,落札代金として入金されたお金をそれ以前の仕入れに補填することが自転車操業だと言われればそのとおりだが,デザイン部門での収入で補填すればいいと思っていた,帳簿を付けていなかったので具体的な金額は分からず,根拠もないが,自分の感覚では補填できると思っていた,赤字になっていることには気付いていたが,補填しながらでもオークションを続けていれば,いずれは赤字
は解消すると思っていた,11月に急激に出品数が増えているのはまったく記憶にない,11月に急に増やしたという認識はない,11月当時財政状態を把握していれば,その時点でAオークションでの取引はやめている,12月27日の夜に損失が数千万円もあると気付くまで,お金が足りないと思ったことは一度もない,もっと早くに多額の損失が発生していることに気付いていれば,その時点で取引をやめていた,というものである。
また,Aオークション以外の取引及びオークション取引の赤字の補填資金に関し,被告人は,Aオークション以外の取引先及び取引内容について説明した後,平成16年末にAオークションが破綻を来していることが判明した時点で,赤字補填に使える金額は約824万円であったことになると述べている(検乙7号証)

5
検討
(1)

被告人は,平成16年11月中旬にオークション取引の出品数を急に増
やした認識はないと供述するが,前記各期の取引状況によれば,10月後期は163件,11月前期は184件であったのが,11月後期は625件と,11月前期に比べて3倍以上,件数にして441件増加しているのであり,これからすれば,どの程度の数量を増やそうとしたのかを認定できる証拠はないものの,明らかに意識的に出品数を増加させたものというべきであって,被告人の前記供述中,11月に急激に出品数が増えているのはまったく記憶にない,11月に急に増やしたという認識はないとの部分は信用できない。また,前記商品単位収益(照合可能データ)によれば,平成16年2月後期から軒並み赤字であり,累積赤字額が増加していることが明らかであることからすると,被告人の前記供述中,この頃(4月から6月頃)は,利益の方が多いという実感があった3月ころまで損失を出さなかった同年5月のゴールデンウイークこ,,ろまでは黒字であったなどという部分も信用できない。(2)

被告人の供述によっても,平成16年7月にEを立ち上げる際にデジタ
ル工房の収支を見て,100万円から200万円の赤字であることを認識したと
いうのであり,それが分かりながら,かつ,Aオークションでの取引で儲けが出ていると認識しないまま,それ以降も漫然と出品を続け,前の落札者に対する商品の仕入資金に当てるために同年11月中旬以降,出品数を増加させて,その前の落札者に対する商品の仕入資金を得るために,新たな落札者から多くの落札金額を得ようとしたことは十分推認することができる。そうすると,被告人が出品数を増加させた11月中旬時点で,被告人において,Aオークションによる累積赤字額がどの程度になっていたかということをおおまかにでも認識していたものとすれば,検察官がいうように,その時点において,すでに経済的に破綻しており,11月中旬以降の落札者に対して商品を発送することができなくなることを認識していた,あるいは,少なくとも商品を発送することができなくなるかもしれないことを認識していたものと推認する余地がある。しかし,被告人が,11月中旬時点で,Aオークションによる累積赤字額がどの程度になっていたかということをおおまかにでも認識していたことを認めるに足りる直接の証拠はないし,客観的には11月後期の売上高は同月前期の2倍以上,金額にして1663万円余りの増加となっているが,平成16年12月27日に自己の財政状況を見直すまでは,赤字であることは認識していたもののそれがどの程度に至っているかについて把握していなかった旨を述べる被告人の弁解を排斥し,前記のとおりにオークションへの出品数が増加していること自体から,被告人において,その増加の程度についてもおおまかな認識があったとみるのは困難であり,他に,被告人がその当時の取引状況や累積赤字額についておおまかな認識があったと推認できるような状況も認められない。また,被告人が現金問屋や量販店での仕入価格を下回る入札開始価格でAオークションに出品していたのは,すでに平成16年2月後期からであって,同年11月中旬以降に,出品数は増加させているが,入札開始価格をことさら低く設定し,従前にまして落札しやすくなるようにしたものとは認められない。確かに,客観的には,被告人がAオークションに本格的に家電製品を出品し始めた当初から赤字であって,出品すればするほど赤字が急激に増大していったことは,前記商品単位収益(照合可能データ)からみて明ら
かであるといえるが,被告人において,そのような状況にあることをおおまかにでも認識していたものと認めるに足りる直接の証拠はないし,前記で認定したAオークションの取引状況自体から,その当時は自己の財政状況を把握していなかったという被告人の弁解を排斥するのは困難である。
(3)

被告人は,落札者から得た落札金額等は,従前の落札者に対する商品の
仕入資金にほぼ全額を使用しており,それ以外の自己の用途に使用した事実は,平成16年12月初めに株取引に使用して数万円ほど損失が出たという(検乙48号証)ほかには見当たらず,本件起訴にかかる同年11月中旬以降の落札金額等も従前の落札者に対する商品の仕入資金にほぼ全額を使用しており,被告人が大きな損失が出ていることを知ったという同年12月27日まで,前記のとおり,従前の落札者に対する商品を仕入れて発送しており,それ以外の自己の利益には費消していない。要するに,被告人は現実に経済的利益を自分の手元に得ていないものと認められるのであり,被告人が行っていたデザイン関係等の収益から補填できそうもない赤字額になっていたことを認識したのであれば,その時点でsrAオークションへの出品はやめていたという被告人の供述もそれなりに説得的である。
(4)

被告人の供述によれば,Aオークションにおいて大きな損失が出ている
ことを知ったのは平成16年12月27日夜か28日朝であったというところ,それを認識してからはオークションに出品しておらず,対応策をすぐに弁護士に相談している。また,同年11月中旬ころの被告人の認識としては,Aオークションで赤字が出ていること自体は認識していたが,ほかのデザイン関係の収益で補填できると思っていたというのであり,その金額についても,前記のとおり,計算上約824万円となるというのである。そうすると,被告人において,そのころの客観的な赤字額がデザイン関係等による収益では到底補填できそうもない程度の多額の赤字となっているとの認識がない以上,11月中旬以降さらに出品を続ければ落札者に対して約束どおりに商品を発送する見込みがないのにあえて出品をし続けたものと認定することはできないといわざるを得ない。しかし,被
告人において,当時,おおまかにでも赤字の額がそのように多額になっていたことを認識していたものと認めるに足りる直接の証拠はなく,また,そのように推認できる状況があったとも認められず,デザイン関係の収益で補填できると思っていたという被告人の供述を一概に排斥することはできない。
(5)

被告人の供述等関係証拠(弁14,15号証)によれば,被告人は,インタ
ーネットを利用して,出品する商品の仕入先の情報を検索したり,安く仕入れることのできるバイヤーのサイトに入会したりするなど,それなりに仕入先の確保に努めていたことが認められる。
(6)

被告人が平成16年12月27日まで自己の財政状況について認識でき
なかったとの点についても,同年12月になって返金やキャンセルが多くなり,同月26日か27日になって,未出荷の人数を確認しようとしてリストを作ってみると,思っていたよりも多かったというのであり,翌日が有限会社Eの仕事納めの日で,その日に弁護士に相談に行ったが,それまでは,デザイン関係の仕事の多忙,元夫の体調不良や被告人自身の体調不良等の事情があって,同年7月ころにおおまかに自己の財政状況を把握して以降,同年12月27日までの間に自己の財政状況を顧みる余裕がなかったとの被告人の供述もあながち不自然であるとはいえない。
(7)

以上のとおり,被告人は,平成16年7月ころ以降Aオークション取引
が赤字になっていること自体は認識しつつ,同年11月中旬以降,オークションへの出品数を増加させて,それまでに出品した落札者に対する仕入資金を得ようとしたものとは認められるものの,当時の自己の財政状況に関し,おおまかにせよその客観的な赤字額を認識していたものとは認められない。そうすると,その当時,被告人が,赤字の補填についてデザイン関係等による収益で賄うことができると思っており,Aオークション以外のそれらの収益で補填して,オークションに出品した商品を仕入れて落札者に対して発送することができると考えていたとの可能性が相当程度残るものといわざるを得ず,落札者に対して掲示したとおりに商品を発送することができないかもしれないことを認識しながら,それでも
かまわないと思ってあえて出品したものと認めるには未だ合理的疑いが残るというべきである。
6
結論
よって,本件各公訴事実については,いずれも犯罪の証明がないことに帰するから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(私選弁護人

長谷部信一〔主任〕田島實)


平成19年4月23日
神戸地方裁判所第2刑事部

裁判官

佐野哲生
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