判例検索β > 平成17年(う)第629号
窃盗、住居侵入、強盗殺人被告事件
事件番号平成17(う)629
事件名窃盗,住居侵入,強盗殺人被告事件
裁判年月日平成17年8月16日
法廷名東京高等裁判所
結果破棄自判
判例集等巻・号・頁第58巻3号38頁
原審裁判所名千葉地方裁判所
判示事項窃盗犯人による事後の殺害が窃盗の機会継続中に行われたとはいえないとされた事例
裁判要旨被害者方に侵入して財物を窃取した犯人が,誰からも追跡されることなく隣接する自宅に戻り,約10分ないし15分後,罪跡隠滅の目的で,被害者方において家人を殺害したなど判示の事実関係の下では,その殺害は窃盗の機会の継続中に行われたものとはいえない。
裁判日:西暦2005-08-16
情報公開日2017-10-13 02:04:40
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主文
原判決を破棄する
被告人を懲役20年に処する
原審における未決勾留日数中170日をその刑に算入する。
理1由
本件控訴の趣意は,弁護人井出嘉宏作成名義の控訴趣意書記載のとおりである
から,これを引用する。
2
論旨は,要するに,原判決は,罪となるべき事実第1として,被告人は,金品
窃取の目的で,
平成16年6月7日午前9時ころ,
千葉県館山市内のA方に侵入し,
同所において,同人所有の現金約6万9700円及び財布等在中の手提げバッグ1個(時価合計約5万6100円相当)を窃取し,その際,在宅していたB(当時79歳)に犯行を目撃されたと考え,その罪跡を隠滅するため,同人を殺害しようと決意し,そのころ,同所8畳間において,同人を俯せに倒すなどしてその背部に馬乗りになった上,同所にあったストッキングを同人の頸部に巻き付けて締め付け,よって,そのころ,同所において,同人を絞頸等により窒息させて殺害したとの事実を認定判示しているが,被告人は窃盗をした後A方から外に出て自宅に戻っており,その時点で窃盗の機会は終了しているというべきであるから,本件は窃盗罪と殺人罪として評価されるべき事案であって,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実認定の誤りがあり,ひいて法令適用の誤りがあるというのである。そこで,原審記録を調査して検討することとする。
関係証拠によれば,被告人は,原判示第1の日時ころ,金品窃取の目的で前記A方に侵入し,4畳半間において,同人所有の前記手提げバッグを手に取り,そのまま同人方を出ると,誰からも追跡されることなく東側に隣接する被告人方居宅に戻ったこと,この逃走中,A方敷地内から自宅敷地内へ塀越しに手提げバッグを投げ入れ,自宅に戻るや同バッグを屋内に取り込んだこと,被告人は自宅において約10分ないし15分間逡巡するうち,窃盗現場を立ち去る際隣室の8畳間から物音が
聞こえたことからB(以下被害者という。
)に自己の窃盗が発覚したと考え同
人を殺害するほかないと決意し,再びA方に至り,同所8畳間において,原判示のとおりBを殺害したことが認められるなお,

殺害が罪跡隠滅目的であったことは,
上記経過に徴して,優に認定できる。。

以上の事実関係を前提に,原判決は,被害者が隣人である被告人による窃盗を目撃していた可能性があること,窃盗敢行後被告人が戻った自宅はその犯行現場の隣接地であること,被告人が自宅に戻っていた時間は僅か10ないし15分程度であることから,本件では窃盗現場との時間的場所的接着性が認められ,加えて被告人との関係から被害者が警察への通報等を一定時間逡巡することも容易に想定できることを併せ考慮すると,被告人に対し被害者からの追及可能性が継続していることを理由に,本件殺害行為はなお窃盗の機会の継続中に行われたというべきであるとして,事後強盗罪の成立を認めた。
しかしながら,被告人は,手提げバッグを窃取した後,誰からも追跡されずに自宅に戻ったのであり,その間警察へ通報されて警察官が出動するといった事態もなく,のみならず,盗品を自宅内に置いた上で被害者が在宅するA方に赴いたことも明らかである。そうしてみると,被告人は,被害者側の支配領域から完全に離脱したというべきであるから,被害者等から容易に発見されて,財物を取り返され,あるいは逮捕され得る状況がなくなったと認めるのが相当である。本件殺害は,窃盗の機会の継続中に行われたものということはできない。原判決は時間的接着性のほか被告人方がA方と隣接していることをもって場所的接着性があるというが,たとえ時間的かつ距離的に近接していても追跡されないまま自宅という独立したいわば被告人自身の安全圏に脱した以上,時間的場所的接着性は本件における窃盗の機会継続に関する認定を左右するものではないというべきである。また,被害者による警察への通報等の可能性を強調し被告人に対する追及の可能性が継続していたことを指摘する点についても,本件においては追及の現実の行動がなかったことが明白である以上可能性を問題とする原判決の説示にも賛同できない。

したがって,被告人に(事後)強盗殺人罪の成立を認めた原判決は事実を誤認し法令の解釈適用を誤ったものであり,これが判決に影響を及ぼすものであることは明らかであるから,破棄を免れない。論旨は理由がある。
3
そうすると,刑訴法397条1項,380条,382条により原判決を破棄し
た上,同法400条ただし書により更に被告事件について次のとおり判決する。(罪となるべき事実)
当裁判所が原判決挙示の証拠により認定した罪となるべき事実は原判示第2の事実を第3の事実として認定するほか次のとおりである。
被告人は,
第1

金品窃取の目的で,平成16年6月7日午前9時ころ,千葉県館山市ab番
地A方に無施錠の勝手口から侵入し,同所において,同人所有の現金約6万9700円及び財布等12点在中の手提げバッグ1個(時価合計約5万6100円相当)を窃取し,
第2

第1の犯行の際前記A方に居住するB(当時79歳)に目撃されたと考え,
第1の犯行終了後,その罪跡を隠滅するため,同人を殺害しようと決意し,同日午前9時20分ころ,同所8畳間において,同人の肩を背後から両手で掴んで引き回し,同人を俯せに倒してその背部に馬乗りになった上,同所にあったストッキングを同人の頸部に巻き付けて締め付け,よって,そのころ,同所において,同人を絞頸等により窒息させて殺害した。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為のうち,住居侵入の点は刑法130条前段に,窃盗の点は同法235条に,判示第3の所為は同法235条にそれぞれ該当し,判示第2の所為は,行為時においては平成16年法律第156号(刑法等の一部を改正する法律)による改正前の刑法199条に,裁判時においてはその改正後の刑法199条に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから同法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし,判示第1の住居侵入と窃
盗との間には手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により1罪として重い窃盗罪の刑で処断することとし,判示第2の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に同改正前の刑法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役20年に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中170日をその刑に算入し,原審及び当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。(量刑の事情)
本件は,被告人が隣家に侵入して金品を窃取し,その犯行を同居者に目撃されたと考えて隣家において同人を殺害し,その後,窃取したキャッシュカードを使用して現金自動預入引出兼用機から現金を引き出して窃取したという事案である。本件の量刑に当たって最も考慮すべき殺人の事案は,犯行発覚を恐れていわば口封じのために敢行したもので卑劣というほかなく,強盗殺人にも比すべき事案である。確定的殺意に基づき高齢で無抵抗の被害者の背後を襲ってストッキングを頸部に巻き付けて締め続け,その際死因となりうる多数の肋骨骨折を生じさせたことも認められ,まことに執拗で残虐かつ冷酷である。その結果,被害者は全く落ち度がないにもかかわらず,仲睦まじく暮らした実妹に看取られることもないまま自宅で非業の最後を遂げたのであり,その無念さは察して余りあり結果は重大である。また,自宅押入内に入れられた遺体を発見した実妹の精神的衝撃は甚大であり,被告人に対し厳しい被害感情を有するのも当然である。加えて,被告人は窃取した金員を数か所の借金返済に充てるとともに,窃取したキャッシュカードを使用して多額の金員を引き下ろしたばかりか,実妹の求めに応じて何食わぬ顔で遺体を押入から運び出すなど殺害実行後の情状もよくない。本件経緯,態様及び結果のいずれをみても被告人に酌むべき事情はない。本件の犯情は悪く,被告人の刑事責任は重大である。本件については無期懲役刑の選択も考慮できる。
しかしながら,被告人は当審において遺族の気持ちを慮って被告人方家屋を取り
壊すとともに遺族に対し被害弁償としてその敷地を無償譲渡する意向を示し被告人の娘もその実現に努力していることが認められ,このような事情を考慮すると,本件殺人罪について無期懲役刑を選択するには躊躇を覚える。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官

河辺義正

裁判官

小川正明

裁判官

片山隆夫)

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