判例検索β > 平成18年(わ)第254号
殺人、死体遺棄被告事件
裁判日:西暦2007-03-29
情報公開日2017-10-13 01:38:45
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主文
被告人を懲役7年に処する
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
押収してある小刀1本(平成19年押第2号の1)を没収する。
理由
(犯行に至る経緯)
1
被告人は,平成13年8月ころA(以下被害者と略記することがある。)と知り合い,平成14年6月ころから,被告人方で同棲を始めた。暴力団構成員であった被害者は,被告人や同人の長男であるBに対して暴力を振るったり,脅迫的な言動に及んだりすることがあり,さらに,平成18年5月ころからは,被告人の長女(当時中学3年生)に対して性的虐待を繰り返すようになった。
被告人は,同年7月ころ,長女から,被害者によって何回も性的虐待を受けていることを打ち明けられたことから,同年8月下旬ころ,その点を被害者に追及したが,被害者は,被告人や同人の長女らが言うことを聞かないのが悪いなどと開き直る態度を取り,同年9月ころには,両名に対して,同時に口淫するように強いた上,今後も長女に対して繰り返し性的虐待を行うという態度を明らかにした。

2
被告人は,このような暴力行為や性的虐待に憤ったものの,被害者のことが怖かったということもあって,警察などに相談することにもためらいを覚え,同年10月10日,Bに対し,長女が被害者にレイプされてもう我慢できない,もうやるしかないなどと被害者を殺す意思があることを告げ,同月11日,再び,被害者を今週中にやるなどと言ったところ,Bも,被告人とともに被害者を殺害することを決意した。
そこで,被告人とBは,同月12日に被害者の殺害方法等について話し合い,被害者に睡眠薬を服用させて,眠らせた上で殺害すること,犯行に気付かれないように,同居していた被害者の長男や被告人の長女にも睡眠薬を服用させること,凶器として自宅の小刀を使うこと,殺害後,被害者の死体を公園に遺棄することなどを取り決めた。
被告人は,同月15日,長女から,同月14日にも被害者によって性的虐待を受けた旨を聞いて被害者を殺害する意思を強くし,夕食のカレーに精神安定剤を混ぜて被害者らに与えたが,薬が効かなかったことから,その日は,殺害を実行するには至らなかった。被告人は,同月16日及び17日にも,夕食のみそ汁に精神安定剤を混ぜて被害者らに与えたが,やはり薬の効き目が弱かったことから,被害者の殺害を実行するには至らなかった。
3
そうしたところ,被告人の長女は,同月16日,在籍している中学校の教諭に被害者から性的虐待を受けた旨を相談し,同月18日,児童相談所に保護された。被告人は,長女が児童相談所に保護されたことを被害者が知れば,被告人らに対してより激しい暴力を振るうのではないかなどと考え,同日,児童相談所に長女の保護をやめるように掛け合ったものの,保護が解かれなかったことから,この日のうちに被害者を殺害しようと決意し,自宅でBに

今日やるからね。

などと告げた。Bもこれに同調し,被告人とともに,小刀で被害者を刺し,公園に死体を遺棄することなど,被害者の殺害方法等を再度確認した。

4
被告人は,同日午後6時ころ,被害者に,夕食のみそ汁に睡眠薬8錠を混ぜてこれを服用させ,その後,同人の長男に対しても,清涼飲料水に睡眠薬を混ぜてこれを服用させたところ,被害者は同日午後9時ころに,被害者の長男は同日午後10時ころまでには,それぞれ眠りに就いた。
Bは,同日午後10時過ぎに帰宅したが,被告人の指示を受けて,いったん裏口から入った後,被害者の長男に対し被害者が外出したように見せ掛けるため玄関から外出し,その約5分後に,今帰ってきたように見せ掛けるため再び玄関から入った。
その後,被告人とBは凶器の小刀や軍手などを準備したが,すぐに被害者を殺害すると,解剖の際に睡眠薬の成分が検出されて自分達に嫌疑が掛かるのではないかと考え,服用させた睡眠薬の消化を待つために被害者殺害を翌19日午前零時ころに実行することとし,被害者が就寝していた和室の隣の部屋で被害者の様子をうかがいながら時間をつぶした。
被告人は,同日午前零時15分ころ,Bとともに被害者が就寝している上記和室に入り,小刀を両手で逆手に握って被害者を刺す構えをしたが,怖くなって殺害をためらい,Bから促されて隣の部屋に戻った。Bは,被告人に

俺も持つから。

などと言って,殺害実行を促し,被告人及びBは,同日午前零時30分ころ,後記罪となるべき事実第1記載の殺害行為に及んだ。
5
殺害後,被告人とBは,室内に付いた血を拭いたり,被害者が外出時に殺害されたと見せ掛けるために同人の服を取り替えたりした上で,死体を公園に遺棄するため,Bがこれを背負って自宅を出たが,運ぶのに疲れて公園に遺棄することを断念し,途中の空き地に死体を放置して,後記罪となるべき事実第2記載の死体遺棄行為に及んだ。
被告人とBは,帰宅後,畳の血を拭いたり,血の付いた被害者の服やタオル等をごみ袋に入れて隠したり,小刀を隠すなどした。

(罪となるべき事実)
被告人は,被告人の長男であるBと共謀の上,
第1

被告人の内縁の夫であったA(当時41歳)を殺害しようと企て,平成18年10月19日午前零時30分ころ,函館市a町b丁目c番d号所在の被告人方1階北東側和室において,殺意をもって,眠っていた上記Aに対し,被告人及びBが共同して小刀(刃体の長さ約13.5センチメートル。平成19年押第2号の1)で上記Aの前胸部左側を突き刺した上,被告人が上記Aが身に付けていたネックレスでその頸部を絞めるとともに,Bが上記Aの鼻口部をタオルで押さえ付け,よって,そのころ,同所において,同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害し,第2

前記犯行が被告人らの犯行であることの発覚を防ぐため,同日午前2時30分ころ,こもごも,前記場所から同市a町b丁目e番fの空き地内まで前記Aの死体を背負うなどして運んだ上,これを同所に放置し,もって死体を遺棄し
たものである。
(証拠の標目)
省略
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は,判示第1の殺人行為は被害者による被告人及びその子らに対する急迫不正の侵害に対して,防衛の意思をもってやむを得ずした防衛行為であり,その程度を超えて被害者の殺害に至ったものであるから,被告人には過剰防衛が成立し,情状により刑を免除すべきであると主張するので,以下検討する。当該犯行に至る経緯は先に認定したとおりであり,被害者は,平成18年10月18日午後9時ころから眠りに就き,被告人及びBは,同日午後11時ころから被害者が眠る自宅1階北東側和室の隣の長女の部屋で被害者殺害の機会をうかがい,翌19日午前零時15分ころ,上記和室に入り,被告人が被害者の前胸部に向けて小刀を構えるが,殺害を実行できずにいったん長女の部屋に戻り,同日午前零時30分ころ,再び上記和室に入った上,共同して被害者の前胸部を小刀で刺突し,頸部を絞めるなどして本件殺害行為に及んだものであり,その間,被害者は刺突行為がなされるまで眠り続けていたことが認められる。
このように,被害者は,被告人らの刺突行為の3時間以上前から眠り続けていたのであるから,およそ,被告人らが被害者の殺害に及んだ際に被害者による急迫不正の侵害があったといえる状況にはなく,被告人に過剰防衛が成立する余地はない。弁護人は,同月17日午後10時ころ,被害者が包丁を持ち出して被告人及び長女に対し性交を迫ったことは強姦の実行の着手に当たる上,その後被害者が被告人らを姦淫することなく眠りに就き,同月18日になっても断続的に眠っていたのは被告人が数回にわたり密かに被害者に服用させた睡眠薬の作用によるものであるから,この間,一時的に侵害行為が停止していたとしても,被告人らに対する急迫不正の侵害は,本件殺害行為の時点でもなお継続していたと評価すべきであると主張する。この点,同月17日夜の被害者の行為が被告人や長女らに対する侵害行為に当たるとしても,その後,被害者は本件被害に遭うまで1日以上の間,被告人やその長女らに何らの侵害行為を行っておらず,その素振りさえも見せていないのであり,これが被害者の意思によるものか被告人の投与した睡眠薬の影響によるものかにかかわらず,被害者による侵害行為が継続していたとみる余地は全くなく,弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法60条,199条に,判示第2の所為は同法60条,190条にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役7年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中100日をその刑に算入することとし,押収してある小刀1本(平成19年押第2号の1)は,判示第1の殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収することとする。
(量刑の事情)
本件は,被告人が長男と共謀して内縁の夫を殺害した上,その死体を空き地に放置したという殺人及び死体遺棄の事案である。
犯行に至る経緯は先に認定したとおりであり,被害者には責められるべき大きな落ち度があったといえるが,被告人としては,長女が受けた被害を警察に申告したり,児童相談所に保護を求めるといった合法的な手段を選択することは客観的には容易な状況にあり,現に児童相談所からは保護を受けられる旨の説明を受けたにもかかわらず,このような手段を全く講ずることなく,あえて被害者殺害に及んだことは,人命を軽視した短絡的な判断と評せざるを得ず,厳しい非難に値する。被告人は,長女が児童相談所に保護されたと被害者が知れば,激怒して激しい暴力を振るうのではないかと恐れたというが,本件犯行時において,被害者の暴力は現実化してはいないし,被告人らは,長女が保護される前から既に被害者殺害及びその罪証隠滅方法等を計画し,精神安定剤を服用させるなど被害者殺害を企図していたのだから,この点からも,殺害行為を正当視することはできず,また,本件犯行当時,長女は児童相談所に保護されていたのであるから,被害者の殺害を,長女の法益保護のためにしたものと評する余地もない。
本件殺害行為の態様は,あらかじめ睡眠薬を服用させた上,眠っていた被害者の胸部に,被告人及びBが共同して刃体の長さ約13.5センチメートルの小刀を突き刺し,暴れ出した被害者を動かなくなるまで二人がかりで押さえ付け,さらに,被告人が被害者の身に付けていたネックレスで同人の頸部を絞め,Bがタオルで被害者の鼻口部を押さえて窒息死させ,死亡したことを脈で確認したというもので,被害者を確実に死に至らせようという被告人らの強固な殺意に基づく冷酷かつ悪質な犯行である。
また,被告人らは,事前に殺害の方法や役割,死体遺棄をするなどして罪証隠滅をすることなどを話し合った上で殺害行為に及び,罪責を免れるため,被害者が外出時に被害に遭ったと仮装することを目的に死体遺棄にまで及んだもので,犯行は計画的なものである。
さらに,被告人は,16歳の高校生であるBに対して,被害者を殺害する意思のあることを打ち明け,Bが自己も被害者殺害に加担する意思のあることを示すと,これを拒絶するどころか,その力を借りて被害者殺害を実行することに意を強くし,Bと具体的な殺害方法,殺害の時期,罪証隠滅方法等の相談を繰り返し,Bとともに本件各犯行に及んだものである。被告人は,本件各犯行を終始主導したものであり,特に,いまだ分別が十分とはいえない16歳の長男をかかる凶行に巻き込んだ点について,厳しい非難を免れない。
被害者は,突如としてその生命を絶たれたものであり,その結果が重大であることは多言を要しない。被害者の遺族の悲嘆は大きく,被告人らの厳罰を求めている。被害者の遺族らに対し,何ら慰藉の措置は講じられていない。
以上からすると,犯情は全体として悪く,その刑事責任は重い。
他方,被害者は,被告人及びその子らに日常的に暴力を振るっていた上,被告人の長女に対して性的虐待を繰り返すなど常軌を逸した行動に出ており,本件に至る経緯において極めて重大な落ち度が認められること,被告人において,被害者から繰り返し暴行脅迫を受け,さらには長女が性的虐待を受けていることを聞いて精神的ショックを受けながら,被害者に対する恐怖感などもあって警察などに相談することにもためらいを覚え,精神的に追いつめられた状態になっていたことは否定できないこと,被告人は,当公判廷において,

殺人をしたということに対して後悔しています。遺族に対しても,申し訳ないという思いがあります。

などと反省の言葉を述べていること,前科がないこと,被告人の親族が社会復帰後の被告人の監督を誓っていること,その他被告人の体調等,被告人のために酌むことができる事情が認められる。
以上の諸事情を総合的に考慮し,被告人に対して,主文掲記の刑を量定することが相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

懲役9年,小刀没収)

平成19年3月29日
函館地方裁判所刑事部
裁判長裁判官

柴山智
裁判官

岡田
龍太郎

裁判官

深野英一
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