判例検索β > 平成18年(行ケ)第10079号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号平成18(行ケ)10079
事件名審決取消請求事件
裁判年月日平成19年2月26日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判日:西暦2007-02-26
情報公開日2017-10-19 19:24:38
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平成19年2月26日判決言渡
平成18年(行ケ)第10079号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年1月29日
判決原告
アチャサ,ンーレテド
ンキンーイコポイッ

訴訟代理人弁理士

平木祐輔同大屋憲一同松谷優子同遠藤真治被告特任許庁長官中嶋種村慈樹同長井啓子同唐木以同大場義指定代理人主誠知良則文1原告の請求を棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

3
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2000-10445号事件について平成17年10月4日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成元年8月25日,発明の名称をインビトロにおける組織の生存能力及び増殖能力を測定する,自生状態法及びシステムとする発明につき,特許出願(パリ条約による優先権主張,優先日平成元年3月20日,米国。特願平2-500602号。以下本願という。)をしたが,平成12年5月18日,特許庁から拒絶査定を受けた。
原告は,これを不服として審判請求をし,平成16年9月9日付け手続補正書をもって本願に係る明細書について特許請求の範囲を補正した(以下,この補正後の明細書を本願明細書という。)。
そして,特許庁は,上記審判請求を不服2000-10445号事件として審理した結果,平成17年10月4日,

本件審判の請求は,成り立たない。

との審決(以下審決という。)をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
本願明細書の特許請求の範囲は請求項1ないし9からなり,請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を本願発明1という。)。
インビボでの腫瘍の増殖に対する抗腫瘍剤の効果を予測するインビトロ法であって,(a)該腫瘍の複数の部分を別々の容器で組織培養し,その際該複数の部分は,少なくとも0.5mm3の容量の均一標本であり,含水細胞外マトリックス含有ゲル上で組織培養され,(b)腫瘍の少なくとも2つの部分を評価しようとする抗腫瘍剤で処理し,(c)該薬剤で処理した部分中の生存する細胞の割合と該薬剤で処理しない部分中の生存する細胞の割合とを比較し,(d)該薬剤で処理した部分中の増殖する細胞の割合と該薬剤で処理しない部分中の増殖する細胞の割合とを比較し,(e)該薬剤で処理しない部分中の生存する細胞の割合と比較して,該薬剤で処理した部分中の生存する細胞の割合の減少は,該薬剤で処理しない部分中の増殖する細胞の割合と比較して,該薬剤で処理した部分中の増殖する細胞の割合の減少と一緒になって,生存する細胞の割合の減少単独又は増殖する細胞の割合の減少単独に基づく予測と比較して,該抗腫瘍剤が腫瘍に対してインビボで効果的であるか否かをインビトロアッセイが正しく予測する見込みを高めることを含む方法。3審決の内容
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明1は,本願の優先日前に頒布された刊行物1(甲4)記載の発明と刊行物2ないし6(甲5ないし9)に記載された各発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は拒絶すべきであるというものである。
審決は,本願発明1と刊行物1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84(1987)p.5029-5033。甲4)に記載された発明(以下刊行物1発明という。)との間には,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(一致点)
インビボでの腫瘍の増殖に対する抗腫瘍剤の効果を予測するインビトロ法であって,(a)該腫瘍の複数の部分を別々の容器で組織培養し,その際該複数の部分は,少なくとも0.5mm3の容量の均一標本であり,含水細胞外マトリックス含有ゲル上で組織培養され,(b)腫瘍の部分を評価しようとする抗腫瘍剤で処理し,(d)該薬剤で処理した部分中の増殖する細胞の割合と該薬剤で処理しない部分中の増殖する細胞の割合とを比較し,(e)該薬剤で処理しない部分中の増殖する細胞の割合と比較して,該薬剤で処理した部分中の増殖する細胞の割合の減少により,該腫瘍剤が腫瘍に対してインビボで効果的であるか否かをインビトロアッセイにより予測する方法。である点。(相違点)
前者(本願発明1)が,更に,(b)腫瘍の少なくとも2つの部分を評価しようとする抗腫瘍剤で処理し,(c)該薬剤で処理した部分中の生存する細胞の割合と該薬剤で処理しない部分中の生存する細胞の割合とを比較し,(e)該薬剤で処理しない部分中の生存する細胞の割合と比較して,該薬剤で処理した部分中の生存する細胞の割合の減少は,該薬剤で処理しない部分中の増殖する細胞の割合と比較して,該薬剤で処理した部分中の増殖する細胞の割合の減少と一緒になって,生存する細胞の割合の減少単独又は増殖する細胞の割合の減少単独に基づく予測と比較して,該腫瘍剤が腫瘍に対してインビボで効果的であるか否かをインビトロアッセイが正しく予測する見込みを高めることを含む方法。であるのに対し,後者(刊行物1発明)にはそのようなことが記載されていない点。
第3当事者の主張
1取消事由についての原告の主張
審決がした本願発明1と刊行物1発明との一致点及び相違点の認定に誤りがないことは認める。
審決は,刊行物2ないし4により一般に,薬剤の細胞に対する影響を調べる際には,細胞増殖の指標である細胞のDNA合成と並んで,細胞の生存の指標ともなる細胞のタンパク合成等も主要なデータとして計測されており,これらを総合して薬剤が細胞に及ぼす作用の詳細,そのメカニズム等を検討すること(以下事項Aという場合がある。),また,刊行物5及び6により腫瘍細胞を死滅させるか否かは,腫瘍の増殖を抑えるか否かと並んで,抗腫瘍剤の活性を評価する際に重要な評価項目であること(以下事項Bという場合がある。)は,いずれも周知であると認定して,上記各周知事項と刊行物1発明とを組み合わせることにより,当業者が相違点に係る本願発明1の構成を容易に想到することができたと判断している。しかし,審決には,以下のとおり,①刊行物2ないし6から周知事項を認定した点,②刊行物1発明と刊行物2ないし6記載の各事項を組み合わせることが容易であるとした点,③本願発明1に顕著な効果がある点を看過した点に,いずれも誤りがあり,その結果,本願発明1についての容易想到性の判断を誤った違法がある。
(1)周知事項の認定の誤り(刊行物2ないし6)
ア事項Aについて
審決は,刊行物2(JournalofToxicologyandEnviromentalHealth,16(1985)p.13-23。甲5),刊行物3(JournalofAntibiotics,Vol.38,No.2(1985)p.230-235。甲6)及び刊行物4(ActaEndocrinologica1986,112(1986)p.436-441。甲7)の各記載から,一般に,薬剤の細胞に対する影響を調べる際には,細胞増殖の指標である細胞のDNA合成と並んで,細胞の生存の指標ともなる細胞のタンパク合成等も主要なデータとして計測されており,これらを総合して薬剤が細胞に及ぼす作用の詳細,そのメカニズム等を検討することが,ごく普通に行われていた(審決書9頁12行∼16行)と認定している。しかし,審決の認定には,以下のとおり誤りがある。
(ア)

本願発明1は,三次元での組織培養であるのに対して,刊行物2

ないし4は二次元での細胞培養における結果を報告するものである。二次元培養では,癌細胞の増殖性,シグナルの伝達,抗癌剤の評価,遺伝子発現プロフィル等において生体内で起こっているのと同じ現象が観察され得るものではなく,その信頼性は低いから,ごく普通に検討が行われていたと認定するのは誤りである。
(イ)

また,刊行物2ないし4は,以下のとおり,相反する結果が記載

されているので,これらの記載が細胞の生存性マーカーとしてタンパク合成を使用するという本願発明1の着想に到達することはない。①

刊行物2(甲5)は,イバリンとフォモプシンの両者の成長する
細胞数が減少するにもかかわらず,フォモプシンは,チミジンとグリシンの両者の取り込みに対し阻害効果を示すのに対し,イバリンはグリシンの取り込みを促進するという,相反する結果を示すものである。



刊行物3(甲6)は,20μg/mlまでのナフトマイシンに抵抗性であるアラニンの導入にほとんど影響を与えることなく(233頁のFig.2),2μg/mlのナフトマイシンがL5178Yの成長を最大限阻害するのであるから(232頁のFig.1),アミノ酸(アラニン)の導入を生存性の測定に使用するという技術思想に対して障害になる。



刊行物4(甲7)には,精巣におけるDNAの合成速度は36%減少したにもかかわらず,DNAの含量は変化しなかったと記載されており,記載内容に矛盾がある,また,刊行物4は,シスプラチンは蛋白合成に影響を与えることなく精母細胞の数を最大95%まで減少させたのであるから,生存性マーカーとしてタンパク合成を使用するという技術思想に対して障害になる。

イ事項Bについて
審決は,刊行物5(JNCI,Vol.68,No.2(1985)p.279-286。甲8),刊行物6(CancerResearch,48,3617-3621,July1,1988。甲9)の各記載から,薬剤による細胞の増殖抑制については,その効果が可逆的である場合があること,すなわち,薬剤により増殖を抑えられた細胞が生存を続け,薬剤の投与が中止された後,再び増殖することがあることが知られており,腫瘍の増殖抑制は永続的な腫瘍の解消に必ずしもつながるとはいえないから,腫瘍細胞を死滅させるか否かは,腫瘍の増殖を抑えるか否かと並んで,抗腫瘍剤の活性を評価する際に重要な評価項目であることは自明である(審決書9頁17行∼30行)と認定した。
しかし,審決の認定には,以下のとおり誤りがある。
(ア)

本願発明は,インビボで有効な抗腫瘍剤をインビトロで評価する

のに対して,刊行物5,6は,抗腫瘍剤のインビボでの有効性を腫瘍細胞の生存性に基づいて測定したことを記載したものではなく,また,二次元培養における結果を記載したものであり,しかもその結果の信頼性は乏しい。
(イ)

被告が本訴で提出した乙7(FLANIGAN,RCetal.,JournalofUrology,Vol.135,pp.1091-1100(1986)),乙8(PAVLIK,EJetal.,CancerInvestigation,Vol.3(5),pp.413-426(1985)),乙10(加藤哲郎ら,日泌尿会誌,Vol.68(10),pp.901-908(1977))も,二次元培養における結果を報告するものであり,抗腫瘍剤が腫瘍に対しインビボで効果的であるか否かをインビトロで正しく予測する方法ではなく,乙9(新見健,広大医誌,Vol.36(3),pp.357-369(1988))は,インビボでのヌードマウスを用いた制癌剤に対する感受性試験であり,実用性のない方法に関するものである。
(2)容易想到性の判断の誤り
ア組合せの困難性
審決は,刊行物1記載の含水細胞外マトリックス含有ゲル上で組織培養した腫瘍について,薬剤の腫瘍増殖に対する効果を調べるにあたっては,その直接の指標であるDNA合成に与える影響だけでなく,タンパク合成に与える影響等,薬剤が細胞に及ぼす影響を調べる際に通常採用されるその他の指標についても,データを計測し,これらを総合して薬剤が腫瘍増殖に及ぼす作用の詳細,そのメカニズム等を検討すること,そして,中でも特に,細胞生存の指標ともなるタンパク合成に与える影響を調べ,これを抗腫瘍剤としての評価項目の一つとすることにより,インビボにおける薬剤の抗腫瘍効果をより的確に予測しようとすることは,当業者が容易に想起し得ることであるといえる。(審決書9頁32行∼10頁1行)として,本願の優先日当時,刊行物1発明と事項A,Bを組み合わせることにより相違点に係る本願発明1の構成は当業者が容易に想到することができたと判断している。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)

刊行物1発明は三次元組織培養に係るものであり,刊行物2ない

し6記載の各事項は,二次元培養に係るものであるので,これらを組み合わせることにより当業者が相違点に係る本願発明1の構成を容易に想到することができたとはいえない。


本願発明1の構成(a)該腫瘍の複数の部分を別々の容器で組織培養し,その際該複数の部分は,少なくとも0.5mm3の容量の均一標本であり,含水細胞外マトリックス含有ゲル上で組織培養とは,組織の三次元的完全性を維持するように,均一標本を含水マトリックス含有ゲル上で組織培養(本願明細書(甲2)の3頁右上欄4行∼6行)することであり,腫瘍細胞と正常細胞とからなる腫瘍組織を三次元で培養すること(三次元組織培養)を指す。三次元組織培養と二次元培養とを比較すると,二次元培養では,癌細胞の性質の発現に大きく影響する正常細胞との相互作用がないのに対し,三次元組織培養では,癌細胞と正常細胞との相互作用が存在するために癌細胞の性質の多くが発現し,制癌剤による治療効果を正しく予測する可能性が高まる。


刊行物1発明は,三次元組織培養を使用した発明である。
ところで,三次元組織培養については,次のような否定的な見解
が存在していた。
すなわち,Nature,Vol.424,21August2003(甲10,11,以下Nature誌という。)に,

単層の細胞と複雑な組織,すなわち二次元と三次元では大きな違いがあるが,これまでの生物学ではこの事実は無視されてきた。

,Bissellは,3-D培養システムを用いて30年ばかり実験を行っている。しかし,長い間,批評家は,彼女の方法は費用がかかり,面倒でかつ不必要であると主張した。批評家の考えは,1997年に画期的な文献が発表されてから変化した。などと記載があるように,本願の優先日(平成元年3月20日)当時,三次元組織培養に対しては,費用がかか
り,面倒でかつ不必要であるという技術的偏見があった。
甲3(JournalofClinicalOncology,Vol.22,No.17,September1,2004,pages3631-3638)は,アメリカ癌治療学会が発行した化学療法の感受性と抵抗性の試験法についての特集記事で
あるが,1968年1月から2004年1月までに発行された化学療法の感受性と抵抗性の試験法に関する文献中,所定の事前評価に従って選択した1139の文献を検討した結果(甲3の表2及び表3),癌治療の現場で使用しても良いという充分な根拠を持
つ化学療法の感受性と抵抗性の試験法は見出せなかったという
ものであるが,甲3においては,三次元組織培養について言及も考察も何らされておらず,このことは,本願の優先日当時,三次元組織培養の技術的意義が無視されていたことを示す。
以上のとおり,本願の優先日当時,三次元組織培養の技術的意義
が否定され,刊行物1は無視されていたから,当業者は,三次元組織培養を使用する腫瘍細胞のインビトロ感受性試験によりインビボでの薬剤の効果の予測性を向上できるとは考えなかったはずであ
る。


他方,刊行物2ないし6は,二次元培養における結果を報告する
もので,三次元組織培養における結果を開示するものではない。また,前記のとおり,抗腫瘍剤評価における生存性と直接関連するものでも,本願発明1の抗腫瘍剤の効果を癌細胞の生存性に基づいて予測するインビトロ方法を示唆するものでもない。

(イ)

したがって,刊行物1発明と刊行物2ないし6記載の事項を組み

合わせることは困難であり,また,これらを組み合わせても,細胞生存の指標ともなるタンパク合成に与える影響を調べ,これを抗腫瘍剤としての評価項目の一つとすることにより,インビボにおける薬剤の抗腫瘍効果をより的確に予測しようとすることは,当業者が容易に想起し得るものではなかった。
イ本願発明1の顕著な効果の看過
審決は,本願明細書には,インビトロでの細胞増殖能力とインビボでの腫瘍阻止能力の間の相関性について記載されているのみであって,インビトロにおける細胞生存能力と増殖能力の測定結果をあわせ利用することによって,インビボでの腫瘍阻止能力を予測したことについては,何も記載されていない。,

本願発明1において,インビトロにおいて薬剤の細胞生存に与える影響を増殖に与える影響とともに調べることによって,予測しがたい格別の効果が得られたということもできない。

(審決書11頁3行∼9行)と認定判断している。しかし,審決の認定判断には,以下のとおり誤りがある。
(ア)

従来の二次元培養では生体内(インビボ)で起こっている現象と

異なるため,そのインビトロアッセイでは抗腫瘍剤が腫瘍に対してインビボで効果的であるか否かを正しく予測することができなかった。これに対して,本願発明1は,インビボの環境をシミュレーションすることができる三次元組織培養を使用し,インビトロにおける細胞生存能力と細胞増殖能力の測定結果を合わせ利用することによって,抗腫瘍活性を正しく予測することを可能にするという顕著な効果を有する。
(イ)

本願明細書(甲1)の実施例3には,①インビボ応答性とインビ
トロ応答性との間に臨床的な相関性のあることについて,卵巣カルチノーマに罹った患者について細胞増殖能力からメルファランで確認されたこと,卵巣カルチノーマに罹った患者について細胞増殖能力からアドリアマイシン及び5-フルオロウラシルで確認されたことが記載され,②卵巣カルチノーマに罹った患者の卵巣カルチノーマ組織から取って培養した細胞についてシスプラチン等の薬剤の存在下で細胞増殖能力を試験した結果,3H-チミジン及び35S-メチオニン双方の取り込みによって発生する検知可能なシグナルの減少から増殖能力及び生存能力の双方が阻害されたことが示されている。
このように実施例3は,インビトロにおける細胞生存能力と増殖能力の測定結果を合わせて利用することによって,インビボでの腫瘍阻止能力を予測できることを示すものである。
また,仮に本願明細書にインビトロにおける細胞生存能力及び増殖能力の測定結果を合わせて評価した結果が記載されていないとしても,両者を合わせて評価することによりインビボでの腫瘍阻止能力を正しく予測できる見込みが高まることは,自明である。
なお,甲13(Kubotaetal.,ClinicalCancerResearch1537,Vol.1,1537-1543,Decemver1995)及び甲14(Furukawaet.al.,ClinicalCancerResearchVol.1,305-311,March1995)は,インビトロで生存する細胞の割合及び増殖する細胞の割合の両者を取ると,どちらか1つを取った場合に比較して,細胞がインビボで取る方向の予測可能性が高まることを証明している。
(ウ)

したがって,審決には,本願発明1の顕著な効果を看過した誤り

がある。
2被告の反論
(1)原告の主張(1)に対し

本願の優先日前に,腫瘍細胞のインビトロ薬剤感受性試験の評価項目として,細胞生存性をアミノ酸の取り込み,すなわちタンパク合成を計測することは周知であったが(乙10ないし12),他方,その指標は,あくまでも便宜的な指標にすぎず,細胞が生存していてもタンパク合成能が低下する場合等もあり,すべての場合に正しく細胞生存性を反映するものではないことは技術常識であった(乙14)。
そして,刊行物2ないし4には,薬剤処理した後の腫瘍細胞のDNA前駆体(3Hチミジン,3Hウリジン)の取り込みと共に,アミノ酸(3Hグリシン,14Cリシン,3Hアラニン)の取り込みを測定しているのであるから,明記されてはいないものの,薬剤処理後の腫瘍細胞の増殖性(DNA前駆体取り込み)とともに,生存性を,薬剤の効果を予測する評価項目として採用しているということができる。
したがって,本願の優先日当時,事項Aが周知であるとした審決の認定に誤りはない。


刊行物5,6によれば,薬剤により増殖を抑えられた細胞が生存を続け,薬剤の投与が中止された後,再び増殖する例があったこと,及び薬剤処理後の細胞の生存性が重要な評価項目であることが認められる。また,乙7ないし10によれば,本願の優先日当時,腫瘍細胞のインビトロ薬剤感受性試験の評価項目としては,細胞増殖性のみでは足りず,細胞生存性も合わせて判断すべきであるという技術思想が周知であったことが認められる。
したがって,本願の優先日当時,事項Bが周知であるとした審決の認定に誤りはない。
(2)原告の主張(2)に対し
ア組合せの困難性に対し
(ア)

Nature誌(甲10,11,訳文・乙4,5)記載の三次元培養は,含水細胞外マトリックス含有ゲル中に細胞が埋め込まれて培養されるものであって,本願発明1及び刊行物1発明の含水細胞外マトリックス含有ゲル上での組織培養とは全く別異の培養法であるから,Nature誌は,刊行物1記載の含水細胞外マトリックス含有ゲル上での組織培養(原告がいう三次元組織培養)の技術的意義が否
定されていたことの根拠とはなり得ない。むしろ,本願の優先日当時,含水細胞外マトリックス含有ゲル上での組織培養は,摘出した腫瘍組織の優れたインビトロ培養法として周知であったものであり(乙3,6等),原告の主張は,上記組織培養の評価を過小に見積もったものである。
また,甲3(訳文・乙13)には,技術評価のための文献抽出基準について,研究は,化学療法が経験的(臨床試験文献に基づいて)に選ばれた患者における結果と,化学療法がCSRA(被告注・化学療法の感受性と抵抗性の試験法)によって選ばれた患者の結果の比較をしていなければならない。研究は,患者が,試験に誘導されるか,経験的治療を受けるかをランダムに割り当てる必要はないが,1グループにつき20名以上の患者を含んでいなくてはならない。われわれは,試験結果と臨床結果の相関関係のみを報告する論文は除外した。と記載されている。甲3で刊行物1が取り上げられなかったのは,上記文献抽出基準を満たしていないためであり,三次元組織培養が無視されていたからではない。
(イ)

刊行物2ないし4の腫瘍細胞の培養方法が刊行物1のものと異な

るとしても,刊行物1ないし4は,いずれも本願発明1と同様に,腫瘍細胞の薬剤感受性を試験するという技術分野に属するものであり,刊行物5,6は,細胞の増殖に与える薬剤の影響を検討するものであるから,これらはいずれも本願発明1の引用例として適切なものである。
そして,刊行物1(甲4の5029頁左欄26∼36行,訳文・乙1)には,本願の優先日当時,腫瘍細胞のインビトロ薬剤感受性試験による,インビボでの薬剤の効果の予測性を向上させるという技術的課題があったと記載されているから,刊行物1に接した当業者であれば,腫瘍の優れた培養法である,含水細胞外マトリックス含有ゲル上での組織培養を活用した上で,薬剤感受性の判定に用いる評価項目の点において改良を加えようと考えるのが自然であり,刊行物1に,腫瘍細胞に対する薬剤の影響を判断する際の様々な評価項目が記載された刊行物2ないし4及び細胞の増殖に与える薬剤の影響について記載された刊行物5,6を組み合わせて,相違点1に係る本願発明1の構成に容易に想到することができたことは明らかである。
イ顕著な効果の看過に対し
本願明細書(甲1)には,腫瘍細胞の生存性の評価結果と増殖性の評価結果を合わせて薬剤の効果を判断することにより,臨床結果の予測性を向上できたことについての具体的な効果は何ら記載されていないから,本願発明1が格別顕著な効果を有するとはいえない。
また,腫瘍細胞のインビトロ薬剤感受性試験の評価項目は,細胞増殖性のみでは足りず,細胞生存性も合わせて判断すべきであるという技術思想は周知であり(前記(1)イ),この技術思想は,腫瘍細胞の増殖性の評価結果又は生存性の評価結果のいずれか単独よりも,腫瘍細胞の増殖性の評価結果と生存性の評価結果とを合わせて判断する方がインビボでの効果の予測性を向上できることを意味するにすぎないから,本願発明1の効果は,周知例から当然に予測できる効果といえる。
なお,甲13及び甲14(訳文・乙15)は,いずれも,インビトロ薬剤感受性試験の評価項目として細胞増殖性又は細胞生存性のいずれか一つしか採用していないので,本願発明1には,細胞増殖性と細胞生存性の評価を合わせて判断することによりインビボにおける薬剤の効果の予測性を向上させるという顕著な効果があるとの原告の主張の根拠とはなり得ない。
以上のとおり,本願発明1が格別顕著な効果を有するものといえない。第4当裁判所の判断
1周知事項の認定の誤りについて
(1)事項Aについて

①刊行物2(甲5)に,イバリンとフォモプシンが,10-6モルにおいて,組織培養物中で成長する細胞数を減少させることを示した。フォモプシンは[3H]チミジンと[3H]グリシンの両者の取り込みに対し阻害効果を示したが,一方,イバリンは[3H]グリシンの取り込みを促進した。,②刊行物3(甲6)に,ナフトマイシンと同定される抗生物質が土壌ストレプトマイセス菌から単離された。この抗生物質は,ip投与により,マウスの腫瘍に対して顕著な治療活性を示した。・・・L5178Y細胞においては,DNA及びRNAの合成は蛋白合成よりももっと著しく阻害された。・・・これらの結果は,ナフトマイシンの細胞毒性のメカニズムが多種のSH酵素,特に核酸の生合成に関与するそれらの酵素の阻害であることを示唆する。,③刊行物4(甲7)に,この研究は,マウスの精巣機能に対する抗ガン剤シスプラチンの影響について報告する。ip注入によりMFIマウスに投与された,体重1kg当たり8mgのシスプラチンの1回投与量により,間期の一次精母細胞の数だけが減少した。・・・シスプラチンは,精巣による蛋白合成の速度に影響を与えず,また,精巣蛋白,RNA並びにDNAの含有量にも変化はなかった。・・・精子形成に対する影響は,おそらく一時的で,薬剤の除去後に逆行できるものである。,

DNAとタンパク合成速度の測定:DNAとタンパク合成速度は精巣タンパクへの14C-リジンの取り込みと,DNAへの3H-ティミジンの取り込みで測定された。

との記載がある。これらの記載によれば,DNA合成とともに,タンパク合成の促進,阻害,速度等のデータ(アミノ酸である[3H]グリシン,14C-リジンの取り込み等)が計測されており,一般に,薬剤の細胞に対する影響を調べる際には,細胞増殖の指標である細胞のDNA合成と並んで,細胞の生存の指標ともなる細胞のタンパク合成等も主要なデータとして計測されており,これらを総合して薬剤が細胞に及ぼす作用の詳細,そのメカニズム等を検討することが,ごく普通に行われており,本願の優先日当時,事項Aが周知であったものと認められる。

これに対し原告は,①刊行物2ないし4は,本願発明1の三次元組織培養とは異なる二次元での細胞培養における結果を報告するものであるが,二次元培養では,癌細胞の増殖性,シグナルの伝達,抗癌剤の評価,遺伝子発現プロフィル等において生体内で起こっているのと同じ現象が観察され得るものではないから,信頼性が乏しいこと,②刊行物2ないし4は,その中で相反する結果が示されているので,これらの記載から,細胞の生存性マーカーとしてタンパク合成を使用するという本願発明1を容易に想到することはないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)

まず,抗腫瘍剤の評価は,抗腫瘍剤が腫瘍細胞に対してどのよう

な作用を生じるかを調べることによって行われ,その評価の指標及び評価方法自体は,腫瘍細胞をどのように生育させたか(培養方法)にかかわらず,適用し得るというべきであることに照らすと,刊行物2ないし4が二次元培養を使用しているからといって,周知例として不適切であるということはできない。
(イ)

また,刊行物2ないし4の記載内容について格別不合理な点を示

す記載はない。


培養前後の細胞数の減少の原因としては,薬剤による細胞の
増殖の抑制・死滅,その他の原因が考えられ,刊行物2(甲5)
は,フォモプシンとイバリンが,細胞数の減少という面では同
じ結果を示していても,細胞の増殖性や生存性に対する作用が異なっていることを示しているにすぎず,その記載に不合理な点は存しない。



刊行物3(甲6)のFig.1及びFig.2の両図から導き出される結論は,L5178Y細胞においては,DNA及びRNAの合成は蛋白合成よりももっと著しく阻害されたということであり,アミノ酸(アラニン)の取り込み(蛋白合成)が抗腫瘍剤の評価の指標として使用できないことを示すものとはいえない。



DNAの合成速度が減少しても,DNAの含量(生存している細
胞数)が変化しないことはあり得ることであり,刊行物4(甲7)の精巣におけるDNAの合成速度は36%減少したにもかかわらず,DNAの含量は変化しなかったとの記載は,DNAの合成速度が減少したが,生存している細胞数に影響を与えなかったことを示したものとして理解することができる。また,刊行物4の

間期の一次精母細胞の数だけが減少した。・・・シスプラチンは,精巣による蛋白合成の速度に影響を与えず

との記載中,蛋白合成の速度に影響を与えずとの部分は,精巣全体に関するものであり,一次精母細胞の数だけが減少との部分は,精巣全体に存在する細胞のうち間期の一次精母細胞のみに関するものであり,上記記載内容
は何ら相反するものではない。
(2)事項Bについて

①乙7に,重要なことは,抗ガン剤は細胞増殖を阻害するだけでなく,ガン細胞を生存不能にしてしまうことである。インビトロでの化学感受性が患者での反応と同一の相関を示すなら,ガンの再発はインビトロでの化学感受性測定におけるガン細胞の生存率と相関している。,②乙8に,

抗ガン剤施用後も生存可能な腫瘍細胞が増殖能を回復できることを考慮すれば,抗ガン剤にとって重要なのは,腫瘍細胞の増殖を阻害することだけでなく,生存不能にすることである。

,③乙9に,現行の3H-TdR法では,1)摘出腫瘍は,dividingcellとnon-dividingG0cellとから成立しておりそのほとんどはnon-dividingG0cellであるにもかかわらず,3H-TdR法では3H-TdRが細胞周期のS期にしか取り込まれないため,制がん剤による腫瘍細胞全体のdamageを十分表現しきれていない可能性がある。したがって,制がん剤の効果をみるためには'totalcellkill'の概念を生かす必要があり,non-dividingG0cellへの制がん剤の効果も考慮する必要がある。,④乙10に,14C-leucine取り込みを指標とした蛋白合成が,増殖細胞だけでなく休止細胞のbaselinemetabolicactivityをも比較的よく反映するならば,それは細胞の生死cellviabilityの指標にもなるであろう。14C-leucine取り込み法はあくまでも代謝活性をもとにしてcellviabilityを判断するものではあるが,相対的にcytotoxicityをみる上では普遍性のある方法と考えられる。との記載がある。これらの記載によれば,本願の優先日当時,腫瘍細胞を死滅させるか否かは,腫瘍の増殖を抑えるか否かと並んで,抗腫瘍剤の活性を評価する際に重要な評価項目であることが,技術常識とされており,事項Bが周知であったものと認められる。

これに対し原告は,乙7,8,10は,二次元培養における結果を報告するものであり,抗腫瘍剤が腫瘍に対しインビボで効果的であるか否かをインビトロで正しく予測する方法ではなく,また,乙9は,インビボでのヌードマウスを用いた制癌剤に対する感受性試験であり,全く実用性のない方法であることなどからすれば,刊行物5,6,乙7ないし10から事項Bが自明であるとはいえないと主張する。
しかし,前記(1)イ(ア)認定のとおり,抗腫瘍剤の評価の指標及び評価方法自体は,腫瘍細胞をどのように生育させたか(培養方法)にかかわらず,適用し得ることに照らすならば,格別の具体的な根拠のない限り,二次元培養での評価項目の有効性に関する知見は,三次元組織培養に適用できると考えるのが合理的である。また,乙7ないし10に関する原告指摘の他の点は,事項Bが周知であることの認定を何ら妨げるものではない。

(3)

したがって,事項A,Bの認定の誤りをいう原告の主張は理由がない。
2容易想到性の判断の誤りについて
(1)組合せの困難性の主張について
相違点に係る本願発明1の構成は当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。その理由は以下のとおりである。

前記1認定のとおり,一般に,薬剤の細胞に対する影響を調べる際には,細胞増殖の指標である細胞のDNA合成と並んで,細胞の生存の指標ともなる細胞のタンパク合成等も主要なデータとして計測されており,これらを総合して薬剤が細胞に及ぼす作用の詳細,そのメカニズム等を検討すること(事項A),腫瘍細胞を死滅させるか否かは,腫瘍の増殖を抑えるか否かと並んで,抗腫瘍剤の活性を評価する際に重要な評価項目であること(事項B)は,本願の優先日当時,いずれも周知であった。
そして,刊行物1(甲4,訳文・乙1)に,

インビボにおける応答を表示する,細胞の薬剤感受性を調べるインビトロ試験は,ガンの治療とガン治療薬の開発にとって非常に必要とされている。

と記載されているように,本願の優先日当時,腫瘍に対する抗腫瘍剤のインビトロ試験についてインビボにおける薬剤効果の予測の精度を向上させることは自明の課題であったものといえるから,その予測の精度を向上させるため,刊行物1に事項A,Bを組み合わせて,刊行物1発明において,インビトロアッセイにおける評価指標として,細胞の増殖性ととも
に,細胞の生存性を加えてその両者を比較検討してインビボでの効果を予測する方法とすること(相違点に係る本願発明1の構成)は,当業者が容易に想到することができたものと認められる。

これに対し原告は,刊行物1発明は,腫瘍細胞と正常細胞とからなる腫瘍組織を三次元で培養する三次元組織培養に係る発明であるが,本願の優先日当時,三次元組織培養に対しては,費用がかかり,面倒でかつ不必要であるという技術的偏見があり,当業者は,三次元組織培養の技術的意義を否定し,刊行物1を無視していたため,三次元組織培養を使用する腫瘍細胞のインビトロ感受性試験によりインビボでの薬剤の効果の予測性を向上できるとは考えなかったはずであるから,刊行物1発明に事項A,Bを組み合わせる動機付けはないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)

Nature誌(甲10)には,

この文献でBissellのグループは,β1-インテグリンと言われる表面受容体に対する抗体が3-D培養で成育した乳癌細胞の性質を完全に変化させること示した。

(訳文2頁),彼の,3-D培養系ではFriedlは,2つのタイプの癌細胞におけるタンパク質切断酵素の活性を妨げた。そして細胞は,マトリックス中の間隙を通して押出すことのできるアメーバ状形に変化したことを彼は見出した。(訳文3頁),三次元培養において成長させるためには,細胞は,構造タンパク質からなる細胞外マトリックスや実際の生組織中に見出されるその他の生物学的分子を模した構造中に埋め込まれる必要がある。・・・培養体を穏やかに加温することにより,細胞は新たに固体化したゲル中に埋め込まれることになる。(訳文・乙4)との記載,及び3-D培養した乳癌細胞の写真(原文の870頁上段)の掲載があり,これらによれば,Nature誌記載の3-D培養は,腫瘍細胞のみを三次元で培養することを意味するものであって,原告の主張する腫瘍細胞と正常細胞とからなる腫瘍組織を三次元で培養する三次元組織培養とは異なるものであることが認
められるから,原告の指摘するNature誌の記載箇所が当業者が三次元組織培養の技術的意義を否定し,刊行物1を無視していたことの根拠になるものではない。
(イ)

かえって,乙2(FREEMAN,AEetal.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,Vol.83,pp.2694-2698(1986))には,他の研究者(例えば,参照文献3∼6)は,インビボ状況を説明する際に腫瘍細胞の三次元のインビトロ増殖が重要であることを強調してきた。培養された腫瘍を実際の癌を代表するものとするために,インビトロで増殖するように,腫瘍がその細胞構成と構造,発癌特性,分化機能,またインビボで存在する可能性のある細胞の不均質性を維持することが不可欠である(7)。,壊死組織を切り取り,残りの健全な腫瘍組織を剪刀で1立方ミリメートル相当の断片に分割する。この腫瘍片5∼10個をコラーゲン表面に置き,そこで腫瘍片はくっつくか,緩やかな繊維組織に組み込まれるようになる。,本研究の結果は,外科的手術から直接得て,浮遊する豚皮由来のコラーゲン・ゲル上に移植された多様なヒト腫瘍を,高い増殖能を利用して長期間にわたり培養することができ,しかもその成功の頻度が高いことを示している。腫瘍は,三次元増殖,組織構成及び構造,分化機能,単一の腫瘍からの複数の細胞型の増殖を含めたインビボ状態の特性を維持することができる。との記載があり,これらの記載によれば,本願の優先日当時,他の研究者も腫瘍細胞と正常細胞とからなる腫瘍組織を三次元で培養する三次元組織培養の重要性を認識し,研究を行っていたことを理
解することができる。
(ウ)

原告は,アメリカ癌治療学会が発行した化学療法の感受性と抵抗性の試験法についての文献(文献数1137)を検討した特集記事である甲3において,三次元組織培養について言及も考察も何らされていないことは,本願の優先日当時,三次元組織培養の技術的意義が無視されていたことを示すものであると主張する。しかし,甲3(訳文・乙13)は,臨床試験文献に基づいて選ばれた患者における結果とCSRA(化学療法の感受性と抵抗性の試験法)によって選
ばれた患者の結果を比較し,かつ1グループにつき20名以上の患者を含んでいることなど独自の基準を設けて検討の対象とする文献を選択しており,甲3において刊行物1が取り上げられなかったことが当業者が刊行物1を無視していたことの根拠になるものではない。
(エ)

したがって,当業者が三次元組織培養の技術的意義を否定し,刊

行物1を無視していたことを前提とする原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。

また,原告は,①刊行物2ないし6は,二次元培養における結果を報告するもので,三次元組織培養を開示するものではないのみならず,抗腫瘍剤評価における生存性と直接関連するものでも,本願発明1の抗腫瘍剤の効果を癌細胞の生存性に基づいて予測するインビトロ方法を示唆するものでもないこと,②甲11(Nature誌)及び甲12は,刊行物1と細胞の増殖性及び細胞の生存性との区別は無関係であることを示し,増殖性と生存性を一つに組み合わせて測定することが本質的に困難であることを暗に示していることからすれば,刊行物1と刊行物2ないし6を組み合わせることはそもそも困難であり,また,これらを組み合わせても,細胞生存の指標ともなるタンパク合成に与える影響を調べ,これを抗腫瘍剤としての評価項目の一つとすることにより,インビボにおける薬剤の抗腫瘍効果をより的確に予測しようとすることは,当業者が容易に想起し得るものではないと主張する。
しかし,原告の上記主張も,以下のとおり理由がない。
前記ア認定のとおり,抗腫瘍剤の腫瘍に対するインビトロ試験についてインビボにおける効果の予測の精度を高めることは自明の課題であったものといえるから,刊行物1に事項A,Bを組み合わせて,刊行物1発明において,インビトロアッセイにおける評価指標として,細胞の増殖性とともに,細胞の生存性を加えることは容易に想到することができたものと認められる。また,前記イ(ア)認定のとおり,Nature誌記載の3-D培養は,腫瘍細胞のみを三次元で培養することを意味するもので,原告の主張する腫瘍細胞と正常細胞とからなる腫瘍組織を三次元で培養する三次元組織培養とは異なるものであり,甲1
1(Nature誌)は,刊行物1の技術については言及していない。さらに,甲12が,成育阻害(増殖性)と細胞死(生存性)との間に基本的違いがあることを示しているとしても,基本的な違いがあるものを評価指標とすることにより評価の精度を高めることになることは研究者であれば当然考えることであるから,成育阻害(増殖性)と細胞死(生存性)との基本的な違いが両者を評価指標として組み合わせることの阻害要因となるものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

以上のとおり,相違点に係る本願発明1の構成は当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤りはない。

(2)本願発明1の顕著な効果の看過の主張について

原告は,従来の二次元培養では生体内(インビボ)で起こっている現象と異なるため,そのインビトロアッセイでは抗腫瘍剤が腫瘍に対してインビボで効果的であるか否かを正しく予測することができなかったが,本願発明1は,インビボの環境をシミュレーションすることができる三次元組織培養を使用し,インビトロにおける細胞生存能力と細胞増殖能力の測定結果を合わせ利用することによって,抗腫瘍活性を正しく予測することを可能にするという顕著な効果を有するのに,審決には,これを看過した誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり採用することができない。
(ア)

本願明細書(甲1)には,実施例3として,①卵巣カルチノーマに罹った患者S.D.から得た外植腫瘍組織は,メルファラン10μg/mlで,細胞増殖能力が70%以上に阻害され,インビボ(メルファランを使用した治療)では,治療中に腫瘍サイズの減少を示したこ
と,②胸部カルチノーマに罹ったD.H.に対し,5-フルオロウラシル又はアドリアマイシンのいずれかの存在下で行った培養は,患者D.H.の胸部カルチノーマ組織の細胞増殖能力を,十分に(すなわち,90%より多く)阻止せず,5-フルオロウラシル又はアドリアマイシンのいずれかを使用したインビボ治療に反応しなかったこと,③結腸・直腸癌に罹った患者V.S.に対し,5-フルオロウラシルの存在下で行った外植組織の培養は,患者V.S.の結腸カルチノーマ細胞の細胞増殖能力を十分に(すなわち,90%より多く)阻止せず,5-フルオロウラシルを使用したインビボ治療に反応しなかったことが記載されている。
しかし,上記①ないし③記載の実験は,三次元組織培養を行った場合,インビトロにおける抗増殖性試験の予測精度が高いことを示
すが,これは刊行物1発明により奏される効果にすぎず,抗生存性試験を組み合わせるとさらに予測精度が高まることを何ら示すものではなく,他に本願明細書中にこのことを示唆する記載はない。
(イ)

原告は,仮に本願明細書にインビトロにおける細胞生存能力及び

増殖能力の測定結果を合わせて評価した結果が記載されていないとしても,両者を合わせて評価することによりインビボでの腫瘍阻止能力を正しく予測できる見込みが高まることは,自明なことであり,甲13,14にこれを裏付ける記載がある旨主張する。
しかし,単一の評価指標により予測するより,複数の評価指標により予測する方が予測精度が高まるとの一般論から理解できる程度の効果が,本願発明1の効果が顕著であることの根拠にならないことは明らかである。また,甲13は,インビトロ薬剤感受性試験において細胞増殖性のみを評価項目とし,甲14(訳文・乙15)は,細胞生存性のみを評価項目としたものあって,甲13及び甲14は,いずれも細胞増殖性及び細胞生存性の両者を評価項目としたものではないから,両者を合わせて評価することによりインビボでの腫瘍阻止能力を正しく予測できる見込みが高まることを示すものではない。

したがって,本願発明1において,相違点に係る構成を採用することにより,予測しがたい格別の効果が得られたということもできないとした審決の判断に誤りはなく,審決に格別な効果を看過した誤りはない。3結論
以上によれば,審決に相違点の判断の誤りがあるものとは認められないから,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

飯村敏明
裁判官

大鷹一郎
裁判官

嶋末和

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