判例検索β > 平成14年(わ)第3277号
身の代金拐取、拐取者身の代金要求、逮捕監禁、殺人、住居侵入
事件番号平成14(わ)3277
事件名身の代金拐取,拐取者身の代金要求,逮捕監禁,殺人,住居侵入
裁判年月日平成17年11月29日
裁判所名・部名古屋地方裁判所  刑事第5部
結果その他
判示事項の要旨身の代金目的略取等を計画して現に実行に移し,略取した被害者を殺害し,その犯行後,侵入盗を行うためにマンションに侵入したとして,死刑又は無期懲役を求刑された被告人3名に対して,争いのあった殺人についての共謀を認定した上,犯行において果たした役割等を詳細に検討し,それぞれ無期懲役を言い渡した事例
裁判日:西暦2005-11-29
情報公開日2017-10-13 01:40:25
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平成17年11月29日宣告

裁判所書記官

平成14年(わ)第3277号,平成15年(わ)第30号
判決主文
被告人3名をそれぞれ無期懲役に処する
理由
(罪となるべき事実)
被告人3名は,分離前相被告人D,同E及び同Fと共謀の上,
第1

Gを略取し,Gの安否を憂慮する内縁の夫Hらの憂慮に乗じて同人らから身の代金を交付させることを企て,平成14年12月4日午前6時20分ころ,名古屋市a区bc丁目d番e所在の月極I駐車場付近において,徒歩で帰宅中のG(当時43歳)の腕等をつかみ,その首筋にナイフを突き付け,あらかじめ同駐車場に駐車してあった普通乗用自動車にGを押し込んで同車を発進させ,もってGの安否を憂慮する者の憂慮に乗じて金員を交付させる目的でGを略取した上,そのころ,同所から同市f区gh丁目i番j号所在のJビルk号被告人C方に向けて走行中の自動車内において,Gの手足をビニールひもで緊縛するなどし,同日午前6時30分ころ,上記被告人C方にGを連れ込み,そのころから同日午後10時15分ころまでの間,同所において,Gを緊縛したままその動静を監視して,Gを同所等から脱出することを不能ならしめ,もって約15時間55分にわたり,Gを不法に逮捕監禁し,その間の同日午前7時29分ころから同日午後8時38分ころまでの間,被告人Bにおいて,19回にわたり,上記被告人C方等からH(当時43歳)が携帯する携帯電話に電話をかけ,同人に対し,

今,あんたの奥さんがこっちにいる。お金用意して下さい。8000万円だ。

お前,奥さんの命が欲しくないのか。

などと申し向けて身の代金を要求し,もってGの安否を憂慮する者の憂慮に乗じて財物を要求する行為をした。

第2

上記要求後,被告人B,被告人A及びDがHと接触して身の代金を受け取ろうとしたものの,Hが警察に通報したのを察知して身の代金の受取りを断念するとともに,自分らの犯行であることが警察に発覚することを防止するためGを殺害しようと決意して,被告人B及び被告人Aの指示を受けたDが,同日午後10時10分ころ,上記被告人C方でGを見張りながら待機していた被告人Cに電話をかけてGを殺害するよう伝え,これを受けた被告人C,E及びFが,同日午後10時15分ころ,同所において,Gの頸部をビニールひもで絞め付け,その頭部を棒で殴打するなどした上,これにより失神してぐったりしたGを既に死亡しているものと思い込んで旅行かばんに詰め込み,被告人B,被告人A,被告人C及びFにおいて,上記旅行かばんを上記被告人C方から運び出し,同月5日午前零時前ころ,名古屋市l区m町e番i所在のK橋上から上記旅行かばんを海中に投げ入れ,そのころ,同所において,Gを溺死させて殺害した。

第3

金員窃取の目的で,同月7日午前零時50分ころ,Lらが居住する名古屋市a区pq丁目r番s号所在のMビル4階通路に侵入した。

(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
被告人Bは,当公判廷において,被害者であるGの殺害を共犯者らと共謀した事実を否定し,これを受けて被告人Bの弁護人は,殺人について被告人Bは無罪である旨主張する。また,被告人A及び被告人Cは,当公判廷において,いずれも略取前からGの殺害を企てていたことを否定する供述をしており,被告人A及び被告人Cの各弁護人も,これに沿った主張をしている。
一方,検察官は,Gを略取する前から,Gを殺害することの共謀が成立していた旨主張している。
そこで,以下,当裁判所が被告人Bの殺人についての共謀を認定し,殺人を共謀した時期を略取後身の代金を要求し,これを受け取ろうとしたものの,警察官に通
報がされていると判断した後の時点と認定した理由を補足して説明する。第1

関係証拠によれば,判示第1及び第2の犯行に至る経緯,共謀状況及び犯行状況等として,以下の事実が認められる。

1
被告人ら6名は,平成13年11月25日夜,被告人Bが情報提供をした,愛知県西尾市内に居住するパチンコ店経営者宅(以下西尾市内の家という。)に強盗に入るため,被告人Aが店長をしていた韓国エステ店Nに集合した。そして,被告人Bの運転する自動車で西尾市内の家まで下見に行き,その帰りに,被告人Bがほかの5名に道具を準備するよう指示した。同月29日から30日にかけての深夜,被告人ら6名は,バールやガラス切り等の道具を携え,待ち合わせの上,被告人Bの運転する自動車で西尾市内の家に行った。被告人Bが各自の役割分担や侵入方法等の具体的な指示をして,被告人Bを除く5人が,同所に押し入ろうとしたものの,ガラスを破ることができず,侵入に失敗した。

2
西尾市内から名古屋市内に戻る車中で,被告人Bと被告人Aが,O方へ強盗に入り,場合によってはOを殺害することを話し合い,実行に移すことになったが,ほかの者も特に反対はしなかった。
その際,被告人Aが,Gは,韓国エステ店を経営していて大金を持っているので,Gを誘拐して身の代金を取ればよいなどと話すと,被告人Bが賛成した。なお,被告人Aは,以前韓国エステ店のアルバイトでチラシ配りをしていたときに,2回くらい,付近で韓国エステ店を営むGから声を掛けられたことがあり,被告人Cは,Gの経営していた韓国エステ店に客として出入りするうちに,Gから挨拶されたことがあった。
被告人Aは,自らがGと面識を有しており,被告人CもGと面識があることを知っていたことから,自分や被告人CはGに顔を知られているからGを誘拐すれば,殺さなければならないと話した。すると,被告人Bは

身の代金を取って殺して埋めてしまえばよい。知っているのは天と地とこの6人だけだ。


などと言ったが,これを聞いた被告人C,D,E及びFも特に反対しなかった。もっとも,Gの略取や殺害について具体的な話はしないまま,まずO方に強盗等に入ることにして,Oが居住する判示第3記載のMビルへ向かった。Mビル付近に着くと,被告人Bは,O方居室のある同ビル4階で待ち伏せをさせるため,被告人C,D,E及びFを自動車から降ろしたものの,近くにパトカーが停車していたことから,この日O方に強盗等に入ることは諦めた。そして,再び乗車した自動車内で,被告人A又は被告人Bが,先に話に出ていたGの略取等を実行する旨話し,被告人Aは,Gが在留資格を得るために日本人と偽装結婚していることや店で違法行為をしている等の事情から,警察に通報する可能性は低いなどと話した。そして,被告人Bが再度,

殺して埋めれば,知っているのは天と地と6人だけ。絶対にばれない。

などと言うと,Gの略取や殺害について反対する者はいなかった。被告人ら6名は,その日はGが経営する店を下見して解散した。
3
被告人ら6名は,同年12月1日午前零時ころN前に集合し,被告人B及び被告人Aを中心として,Gを監禁する場所,要求する身の代金の額や要求方法のほか,Gの殺害方法や死体遺棄の方法についても話し合い,被告人Bが計画の実行に必要な道具を準備するよう指示した。その際,監禁場所は被告人C方とすること,Gの携帯電話を使用して内縁の夫であるHに身の代金を要求することを決め,殺害方法については,Dが,サランラップをGの顔に巻き付けて窒息死させるなどと言い,死体遺棄の方法については,山や墓地に埋めること,海に捨てること等の話をしたが,全員の間で具体的に決定するまでには至らなかった。
そして,被告人Bの指示で,Gの帰宅を待って,DとEが途中交代してGを尾行したものの,Gが自宅マンションに入ってしまい,略取の機会を失したため,被告人Bが,翌日自宅マンション前でGの略取を実行することやその方法を簡単に話して解散した。翌2日は被告人Bの都合により延期された。
同月3日午前2時ころ,被告人ら6名がNに集合すると,被告人Bが,DはGを尾行する,被告人CとFはGをマンション前で待ち,被告人Bの自動車に押し込む,Eは車内で待機し車のドアを開閉するなどと各自の役割を指示し,FにGを脅すためのナイフを渡した。DがGを尾行したが,途中で見失ったりしたため,再び略取は失敗した。次回は被告人AもDと共にGの見張りをすることにして,その日は解散した。
4
被告人Cと分離前相被告人3名は,ナイフやビニールひも等の道具類を準備した上,同月4日午前零時過ぎころ迎えに来た被告人Bの自動車に乗り込み,Gの店の方へ向かった。そのころ既に,被告人Aは被告人Bから言われた喫茶店で張り込みをしており,Dも被告人Aと合流して,被告人Bや被告人Cと携帯電話で連絡を取りつつ見張りを続けた。Gが帰宅するころになると,被告人Bは,Gの自宅マンション付近に自動車を移動して,被告人CとFを同マンション前で待機させた。同日午前6時ころ,被告人Aが,徒歩で帰宅するGを発見してDと共に尾行を開始し,被告人Aから連絡を受けた被告人Bは,自動車をGの自宅マンション隣の駐車場に移動した。
Gが自宅マンション前を通過したことから,同日午前6時20分ころ,被告人CがGに声を掛けて

僕のこと覚えてる。

などと言いながら近づくと,振り向いたGは

覚えているよ。

と答えた。FがGの首筋にナイフを突き付け,被告人CもGの身体をつかんで被告人Bの自動車に乗せようとしたが,Gが抵抗したことから,被告人A,Dや車内で待機していたEも加わって,Gを無理やり上記自動車に乗せた。その際,被告人らは,Gにかぶせるためのコートは準備していたが,自分たちの顔を隠すようなことはせず,結局コートも使用しなかった。
そして,被告人C方へ向けて走行中の車内で,Gの目をガムテープで塞ぎ,手足をビニールひもで緊縛するなどした。午前6時30分ころにGを被告人C方に連行した後も,目隠しや緊縛を継続して脱出できないようにした。
5
被告人ら6名は,Gの携帯電話を使用して内縁の夫と連絡を取ろうと考えていたのにGのバッグが見当たらなかったことや,Fが略取現場にナイフを落としてきたなどと言ったことから,被告人Bと被告人Aが略取現場までGのバッグ等を探しに行ったが結局見付からなかった。被告人C方に戻った被告人Bは,内縁の夫に身の代金を要求する旨ほかの者に話し,被告人ら6名でGを取り囲み,内縁の夫の電話番号を聞き出そうとしたが,Gは素直に答えなかった。被告人BがGの頬を平手でたたいて「殺すぞ。」と脅したが,Gが

殺すなら殺せ。

などと言い返したことから,被告人AもGの顔面を手拳で数回殴打し,さらに,Dや被告人Cが包丁の刃先でGを突くなどしたところ,GはHの携帯電話番号を教えた。同日午前7時29分ころ,被告人Bがプリペイド式の携帯電話でHに電話をかけ,日本語で,身の代金8000万円を要求し,さらに,同日午後零時23分ころ再びHに電話をかけたが,Hが,用意できるのは300万円であると言ったことに立腹し,同日午後1時ころ,Gを電話に出させて,身の代金を早く用意するよう言わせた。その際,EがGの喉元に包丁を突き付けるなどしており,また,そのころ,DがGを平手で殴打したり,被告人Aや被告人CがGの足を蹴ったりもした。
その後も,被告人BがHに何度も電話をかけ,Gを包丁で脅して現金を集めるよう懇願させるなどしたところ,同日午後5時12分ころの電話で,金額が840万円に上がったことから,被告人Bは,取りあえず840万円を受け取り,Gは殺さずにおいて翌日も引き続き身の代金を要求することにした。そして,ほかの者にその旨告げた上,被告人AとDと共に自動車で身の代金の受取りに出掛けた。

6
被告人Bと被告人Aは,車内で身の代金の受取方法を相談し,名古屋市t区内のuでDに受け取らせることにして,取りあえずHに同市a区内の地下鉄b駅2番出口へ行くよう指示した。Dが同所付近で待っていると,Gの内縁の夫らしい人を見付けたが,Dは警察官に見張られているように感じたことから,
被告人Aにその旨連絡した。これを聞いた被告人Bは,DとHに地下鉄v駅へ行くようそれぞれ指示し,被告人Bと被告人Aも自動車で同駅方面へ向かった。地下鉄v駅に着いたDが,被告人Aらに指示を求めると,uへ行くよう指示された。地下鉄u駅の出口付近にGの内縁の夫らしい人がいたが,Dは,その周辺に警察官がいると感じたことから,その旨被告人Aに連絡し,身の代金の受取りはしなかった。
被告人Bは,警察に通報されたとの不安を強くし,Hにl区役所へ行くよう指示したが,身の代金の受取りを断念するとともに,逮捕を免れるためにはGの殺害を実行しなければならないと考え始めた。被告人Aは,被告人Bの指示で,Fに電話をかけ,Gの所持品を処分するよう伝え,FがGの指輪と時計を被告人C方近くの川に投げ捨てて処分した。同日午後9時50分ころDが自動車に戻り,その際尾行されている気配はなかったものの,Dが尾行されていたと話したことから,被告人Bは,直ちにG殺害を実行に移すことを決意した。被告人Bが,被告人AとDにその旨話したところ,2人とも,仕方ないなどと言って賛成した。
被告人Bは,同日午後10時ころ,尾行されないようにするため,Hに名古屋市x区内のyへ行くよう指示した後,Hとの連絡に使用してきたプリペイド式携帯電話を壊して川に投棄した。そして,同日午後10時10分ころ,被告人Bと被告人Aの指示を受けたDが,携帯電話で,被告人Cに,自分たちが戻るまでにGを殺害するよう伝えた。電話を受けた被告人Cは,EとFに,DからGを殺害せよとの連絡があったことを伝え,この3人もG殺害を直ちに実行に移すことを決意した。
7
同日午後10時15分ころ,被告人CがFにビニールひもを渡し,寝かされていたGに

帰らせてあげる。

などと言ってGを起こすと,FがGの背後から頸部にビニールひもを巻いて絞め,続いてGの横にいた被告人Cに同ビニールひもの片端を渡して,2人で同ビニールひもを引っ張った。そうすると,G
が暴れ出したことから,Eがその足を押さえ,次いで,Eが被告人Cと交替し,Fと2人で同ビニールひもを引っ張って頸部を絞め続けた。さらに,Gを確実に殺害するため,FがGの頸部に腕を回して絞め,被告人Cが,木の棒でGの頭部を殴打したり,Gを窒息させるためにサランラップをその顔面に巻き付けたりしたところ,Gは身動きしなくなった。同日午後10時30分ころ,被告人B,被告人A及びDが被告人C方に戻ると,被告人ら6名は,Gが既に死亡しているものと思っていたことから,被告人Bの指示でGの死体を運び出すことになり,E,F及び被告人Cが,部屋にあった旅行かばんにGを詰め込んだ。被告人Aの指示で,DとEの2人は被告人C方に残って証拠隠滅のために室内を整頓することになり,残りの4人で上記旅行かばんを自動車に積み込んだ上,被告人Bの運転で判示第2記載のK橋まで行き,同年12月5日午前零時前ころ,同所から上記旅行かばんを海中に投げ入れた。しかし,このときGは未だ死亡しておらず,海中に投棄されたことにより溺死した。8
上記犯行後,被告人Bはほかの者に

このことを知っているのはおれたち6人だけだ。おれたちが言わなければ誰にもばれない。

などと口止めした。同日夜,被告人Bが被告人Aに,名古屋市z区内の歯科医の家に侵入して金品を奪うことを持ち掛けると,被告人Aはこれに応じ,被告人Cにも連絡して,被告人ら6名で実行することになったが,家の中に人がいたことから,結局実行するには至らなかった。さらに,被告人ら6名は,判示第3のとおり,同月7日,O方に侵入して金員を窃取等する計画を実行に移そうとして,Mビル4階通路に侵入したものの,通報により現場に臨場した警察官により,Dと被告人Aが現行犯逮捕され,ほかの者も同月10日に逮捕された。

第2
1
殺人についての被告人Bの共謀について
被告人A,被告人C及び分離前相被告人3名は,殺人の共謀が成立した時期については,捜査段階と異なる供述をしているものの,外形的事実については,公判廷においても,おおむね上記認定事実に沿った内容の供述をしている。
一方,被告人Bは,捜査段階においては,上記認定事実とおおむね合致する内容の供述をしているものの,公判廷においては,自らが,Gを殺害するあるいはGの死体を埋めるなどという話をしたことは全くない上,DにGの殺害を指示する電話をかけさせたこともなく,自分の知らない間に,Dと被告人AがGの殺害を決めて,被告人Cらに連絡したのだと思うなどと述べて,殺人についての関与を否定している。
2
殺人を共謀し実行するに至った状況についての被告人Aら5名の供述は,具体的かつ詳細で,その内容も自然であり,Gの略取,殺害に関する話合いの時期や内容等について,若干の相違は認められるものの,おおむね合致している。また,被告人Bの捜査段階における供述ともおおむね符合する。
被告人Bが,Gの殺害を指示したという部分に関しても,被告人A及びDの供述は合致しており,被告人Bも捜査段階において,被告人A及びDとGを殺害する相談をしたことは認めている。D,被告人C,E及びFの4名で,被告人Aを馬鹿にするような話をしていたなどという事情からすると,Dが,被告人Aに有利な虚偽供述をして被告人Bに責任を負わせることは考え難い上,D及び被告人Aは,判示第3の住居侵入の際に現行犯人逮捕されていることから,被告人Bに責任を負わせて被告人Aの刑事責任を軽減させるように口裏合わせをする機会もなかったと考えられる。

3
(1)

被告人Bの捜査段階における供述の任意性及び信用性について
被告人Bは,公判廷では,逮捕時に,警察官であることを告げられないまま,抵抗もしていないのに,乗っていた自動車から引きずり降ろされ,地面に押さえ付けられて足で蹴られるなどの暴行を受けて警察まで連行された上,平成15年1月7日の取調中に警察官から2回足を蹴られる暴行を受けた事実を述べるとともに,検察官は,取調べに当たって,被告人Bからはほとんど何も聞かずに,共犯者らの供述調書を見ながら被告人Bの調書を作成したものであって,被告人Bは夜遅くまで長時間の取調べがなされていたことも
あって,調書の内容や署名の意味も分からないまま署名したなどと述べた。これを受けて被告人Bの弁護人は,捜査段階における被告人Bの供述調書の任意性及び信用性を争っている。
(2)ア

被告人Bを逮捕しその後の取調べを担当した警察官である証人Pは,逮捕時に,被告人Bを地面に押さえ付けたのは被告人Bが逃走しようとしたためであり,そのときには逮捕状を所持していなかったので,逮捕状の緊急執行の手続を執ったと述べ,取調中に被告人Bに対して暴行を加えたことは否定している。
P警察官の上記供述は,逮捕手続に関する部分については,内容も自然で,その信用性を疑わせる事情は存在しない。よって,逮捕手続には違法は認められない。


検察官は,被告人Bが暴行を加えられたと供述している平成15年1月7日には,本件に関する重要部分の被告人Bの取調べは既に終了していたのであるから,警察官が被告人Bに暴行を加えることは考えられないなどと主張する。
しかしながら,被告人Bの供述によれば,それ以前に,被告人Bが調書への署名を拒んだこと等の経緯があった上で,その日に本件と関係のないことを聞かれて被告人Bが答えなかったことをきっかけとして,暴行を加えられたというのであって,重要部分の取調べが終了していたからといって,直ちに暴行を加えられることがないとは言えない。そして,被告人Bの弁護人から,同月9日に,取調中に被告人Bに対する暴行があったとして,勾留場所を名古屋拘置所に変更するよう移監の申立てがなされていることは当裁判所に顕著な事実であり,その事情も考慮すれば,取調中に暴行を受けたという被告人Bの供述の信用性を直ちに排斥することはできない。

(3)

もっとも,被告人Bの供述する暴行の程度,被告人Bが暴行を受けたこと
によって供述を変えたことはなかったと述べていること等に,公判供述と異なる内容が捜査段階の調書に記載されている理由について第29回公判まで警察官による暴行が原因であるとは述べていなかったことをも併せ考慮すれば,捜査段階における被告人Bの供述調書の任意性に疑いを差し挟む事情とはいえない。
(4)

そして,被告人Bの検察官に対する供述調書には,当時の心境等が具体的かつ詳細に記載されている上,身の代金を要求する電話連絡等の客観的に明らかな事項についても記憶にない旨の記載があること,身の代金の受取りに出掛けた車中で,被告人A及びDと,Gを殺害することを話し,Dに殺害を指示する電話をさせた状況等の本件の重要部分についても,はっきり覚えていないなどと記載がされていること,警察に通報されたと考えた後に,解放することを提案したなどとも記載されていること,Gの所持品を処分させた状況等について,共犯者らの供述と異なる供述も録取されていること,調書の訂正を求めている部分もあること等に加え,捜査段階から弁護人が選任されており,弁護人からは調書の内容を確認し,違っている部分があれば訂正を求め,署名等を拒否することもできるなどと被疑者としての権利の説明を受けていることをも考慮すれば,捜査段階における供述調書には,被告人Bがその記憶に従って述べたとおりに記載がなされていると認められる。検察官が,被告人Bの供述をほとんど聞くことなく,共犯者の供述調書を見ながら被告人Bの供述調書を作成したとの被告人Bの供述は信用することができない。

(5)

以上から判断すると,被告人Bの捜査段階における供述調書の任意性に疑いはない。
そして,被告人Bの捜査段階における供述は,具体的かつ詳細で,内容も自然であり,共犯者らの供述ともおおむね合致している上,自己に不利益な事実をも認める内容となっており,信用性が高い。

4
(1)

被告人Aの捜査段階における供述の任意性及び信用性について
被告人Aは,公判廷においては,当初は誘拐も含めた犯罪の対象として,Gの名前を出したのであって,誘拐とは言っていないが,共犯者らが誘拐の話をしていき,警察でも誘拐と訳されたなどと述べて,自らがGの誘拐を提案したことを否定している。
また,被告人Aは,取調中に警察官から暴行を受けた上,検察官による取調べの前には,警察官から,警察の調書と同じことを検察官に言わないと殺すなどと脅迫を受けたなどと述べ,被告人Aの弁護人は,捜査段階における供述調書の任意性及び信用性を争っている。

(2)

被告人Aの取調べを担当した警察官である証人Qは,公判廷で,被告人Aに暴行を加えたことはなく,検察官に対し警察での調書と同じ内容を述べなければ殺すなどと言ったことを否定した。
Q警察官の供述は,被告人Aが,住居侵入被疑事実での逮捕当初には,未だ逮捕されていない共犯者が被告人Aの交際相手に危害を加えることを恐れて真相を話すことができないなどと述べていながら,翌日になって,共犯者が逮捕されたわけでもなく,警察官が交際相手の身の安全について何ら保証したわけでもないのに被告人Aが犯行を認めたと述べる自白に至る経緯について不自然な部分もないわけではない。しかしながら,最初から人を殺すつもりがあったのかと聞かれて,これを否定したところ,6人から8人くらいの警察官が取調室に入ってきて暴行を加えられたという,被告人Aの供述自体が不自然である上,被告人Aの検察官調書において,警察での供述を訂正している部分があること,調書に公判供述と異なる記載がある理由について,第25回公判までは暴行を受けたことによって供述を変え,あるいは自身の記憶と異なる内容が記載された調書に署名・指印したなどとは述べていないこと等を考慮すれば,Q警察官の供述は信用することができるというべきであって,被告人Aが述べるような暴行等が行われたとは認められず,捜査段
階における被告人Aの供述の任意性に疑いはない。
(3)

そして,被告人Aの捜査段階における供述調書は,共犯者の供述と合致しており,被告人A自らが,調書を閲読して内容の確認をしていることも認められるのであって,十分信用することができる。加えて,共犯者らも,被告人AがGの略取を提案したなどと述べていることからすると,被告人Aの公判供述は信用性に乏しい。

5
以上から,殺人の共謀が成立した時期に関する部分は措くとして,共謀状況に関しては,被告人Aら5名の供述及び被告人Bの捜査段階における供述は信用でき,これらの証拠によって,被告人BがGを殺害するするのを共謀した事実を認定することができる。

第3
1
殺人の共謀の成立時期について
被告人ら6名の捜査段階においてそれぞれ作成された各供述調書中には,平成14年11月30日,西尾市内の家での強盗に失敗した後の車中でGを誘拐して殺害することを6人で決定した旨の記載がされている。
一方,公判廷においては,Dは,殺害については冗談だと思ったなどと述べながら,西尾市内の家での強盗が失敗した日に誘拐だけでなく殺害についても6人で合意したとも述べ,被告人Cは,殺害の話は冗談だとは思わなかったが,自分は反対であったと述べ,被告人A,E及びFは,いずれも誘拐前に共犯者のうちのいずれかがGの殺害の話をしたことは認めながら,殺害の話は本気だとは思わなかったなどと述べている。そして,被告人A及び被告人Cは,身の代金を受け取った後にGを解放しようと考えており,殺害を決定した時期は,被告人Aは警察に通報されたと考えた被告人BがGの殺害を提案した後であると,被告人CはDから殺害するように連絡を受けた後であるとそれぞれ述べている。また,被告人Bは,Gを殺害するという話をしている共犯者らに,そのような話をしないように言い,身の代金を受け取った後にGを解放することを6人で決めてから,身の代金の受取りに出掛けたなどと述べている。
2
上記第1の認定事実によれば,西尾市内から名古屋市内に向かう車中で,被告人Aが,自分と被告人CがGと面識を有していることから,Gを誘拐した場合,殺害しなければならないなどと言うと,被告人Bが,

身の代金を取って殺して埋めてしまえばよい。知っているのは天と地とこの6人だけだ。

などと言い,その後,被告人ら6名で,Gの殺害方法や死体の遺棄方法についても話合いがなされていることが認められる。その際,Gの殺害に反対する者はなく,解放するという話は全くなされていないことが認められる。
略取の実行方法を見ても,Gと面識のある被告人Cが,顔を隠すこともなく,かつGに面識があることを気付かせるような内容で声を掛けている上,その際,Gが被告人Cに対して,覚えているなどと答えているにもかかわらず,被告人Cがそのことを気にした様子はうかがわれない。被告人B,被告人A及びDの3名は,警察に通報されたと感じると,直ちにGを殺害することを決定してその旨連絡しており,被告人Cら3名も,連絡を受けると,すぐに殺害に及んでいることも認められる。さらに,被告人Aは,被告人Bが,Gを処理するなどと言った際,

今はまだ駄目なんじゃないの。

などと言ったと述べており,DがGの殺害を指示する電話を被告人Cにかけた後にも,身の代金の受取りに行くことを提案していることが認められる。そうすると,被告人ら6名が,Gを殺害することをあらかじめ予測していたことがうかがわれる。

3(1)

被告人Bは,当公判廷において,略取後,被告人C方において,共犯者
らと,身の代金を受け取った後にGを解放することを決めたと述べており,Eも被告人Bから,5人で相談してGを解放すると決めたことを聞かされたと述べている。しかしながら,被告人Aらほかの4名は,Gを解放するという話を被告人Bとしたとは述べていないことから考えて,被告人B及びEの公判供述は信用することができない。
また,被告人Bの天と地と6人しか知らないという発言の元となった言葉が,本来は悪いことをすれば発覚するから,止めた方がよいという意味
であったとしても,本件においては,その前後の話の内容及び共犯者らがいずれも犯罪が発覚しないという意味でとらえていることからすると,被告人Bの発言は,Gの略取等を行っても発覚しないという意味で用いられていたと認められる。
そうすると,この点に関する被告人Bの公判供述も信用することはできない。
(2)

被告人A及び被告人Cは,Gが在留資格を得るために日本人と偽装結婚をしていること及び経営するエステ店で違法行為をしていると認識していたこと等の事情から,Gを略取しても,HやGの姉妹が警察に通報することはなく,Gを解放できると考えていたなどと述べるが,被告人Aの供述を見ると,Gを誘拐するなどの話をしている際には,警察に通報されることを相当恐れていたことがうかがわれ,被告人Cも,Gを解放した場合の報復を恐れていた上,当初予定していた身の代金の受取場所とは異なる場所にHを呼び出し,Dに様子をうかがわせ,何度も受取場所を変更して様子をうかがっていることからすれば,被告人Aらが,警察に通報されていないかを確認していたことは疑いがないのであって,警察に通報される可能性が低いと考えていたとしても,その可能性が全くないと考えていたという点は信用できず,任意性に疑いのない被告人A及び被告人Cの捜査段階の供述調書にも,Gを解放しようと考えていたなどという記載は全くされていない。

(3)

そうすると,身の代金を受け取った後に,Gを解放しようと考えていたという被告人3名の公判供述は信用することができない。

4
以上の事情を総合すれば,被告人ら6名が,Gの略取を実行した場合,Gを殺害することになるであろうとの認識を有していたことは認められる。
5
検察官は,上記第3の2記載の事実及び被告人ら6名の捜査段階における供述等に基づいて,被告人ら6名は,平成14年11月30日に,車中で,Gを略取して殺害するという共謀が成立していたと主張しており,被告人ら6名の
捜査段階における供述調書には,これを裏付ける略取前にGの殺害を決定していたなどという記載がある。
(1)

しかしながら,上記第1の2認定のとおり,被告人ら6名の略取前におけるGの殺害方法等に関する話合いは,具体的な合意に至っていないだけでなく,その具体的方法等を決めるために相談をした形跡もうかがわれないことからすれば,各自の意見あるいは感想を述べるなどしていたに過ぎないとみることもでき,上記各供述調書の記載から直ちに,略取前にGを殺害する共謀が被告人3名を含む共犯者全員の間に成立していたというのは疑問である。そして,その際殺害に積極的に反対した者はいなかった反面,賛成意見を具体的に述べていない者もいること,企図した強盗等の犯罪を2度にわたって失敗した後であり,共犯者間で虚勢を張り合っていたという側面も全くないわけではないとうかがわれること,略取を実行に移そうとしてからは,共犯者間で殺害等について話がされていないこと,あらかじめ殺害や死体を遺棄するための道具等を準備したり,死体を遺棄する具体的場所を探した形跡がないこと,監禁中にGに食事を与えるなど,その生命に対する一応の配慮がなされていること,Gを殺害するという話をし,その後,実際に殺害していることから,外国人である被告人ら6名が,取調べの際に略取前の話合いの時点で殺害を決定したという点を否定できなかったとしても,必ずしも不自然とは言えないこと等を考慮すれば,略取前にGを殺害するという話は出たが,それによって全員の間にG殺害の確定的な意思が形成されたというほど真剣で具体的なものではなかったという趣旨の被告人らの公判供述を,信用できないとして直ちに排斥することは困難である。その意味で,略取前に,被告人ら6名でGを殺害することを決定したという部分に関しては,被告人ら6名の捜査段階における供述調書は信用することができない。

(2)

そうすると,被告人ら6名で,略取前からGを殺害することを決定していたと認めるには合理的な疑いを容れる余地がある。

6
以上の次第で,被告人ら6名が,Gを略取する前から,Gの略取を実行した場合には殺害することになるであろうとの認識を有していたことは認められるものの,この時点でGを殺害することを具体的に決定していたとまでは認定できない。しかし,上記第1の認定事実によれば,遅くとも,平成14年12月4日,警察に通報されたと考えた被告人BがGの殺害を提案し,被告人AとDがこれに同意して,Dが電話で被告人Cにその旨伝え,これを受けた被告人Cが,E及びFにGを殺害することを伝えた時点で順次殺人の共謀が成立したものと認定することができる。そこで,判示第2のとおり認定したものである。
(法令の適用。いずれも被告人3名について)
1
罰条

いずれも刑法60条に加えて

判示第1について
身の代金拐取の点

刑法225条の2第1項(有期懲役刑の上限は,
行為時においては平成16年法律第156号によ
る改正前の刑法(以下改正前刑法という。)
12条1項に,裁判時においては上記改正後の刑
法12条1項によることとなるが,これは犯罪後
の法令によって刑の変更があったときに当たるか
ら,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑に
よる。)

拐取者身の代金要求の点

刑法225条の2第2項,1項(有期懲役刑の上
限については,上記身の代金拐取の点と同様,刑
法6条,10条により軽い行為時法の刑である改
正前刑法12条1項による。)

逮捕監禁の点

包括して平成17年法律第66号による改正前の
刑法220条(裁判時においてはその改正後の刑
法220条に該当するが,犯罪後の法令によって

刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,
10条により軽い行為時法の刑による。)
判示第2について

改正前刑法199条(裁判時においてはその改正
後の刑法199条に該当するが,犯罪後の法令に
よって刑の変更があったときに当たるから,刑法
6条,10条により軽い行為時法の刑による。)

判示第3について
2
刑法130条前段

科刑上一罪の処理
判示第1について

刑法54条1項前段,後段,10条(身の代金拐
取と逮捕は1個の行為が2個の罪名に触れる場合
であり,逮捕と監禁は包括1罪の関係にあり,身
の代金拐取と拐取者身の代金要求との間には手段
結果の関係があるので,結局以上を1罪として刑
及び犯情の最も重い拐取者身の代金要求罪の刑で
処断)

3
刑種の選択
判示第1及び第2の各罪について
いずれも無期懲役刑を選択
判示第3の罪について

4
懲役刑を選択

併合罪の処理

刑法45条前段,46条2項(犯情の重い判示第
2の無期懲役刑で処断)

5
訴訟費用

刑事訴訟法181条1項ただし書(負担させな
い。)

(量刑の理由)
第1

被害者Gの身上等
被害者であるGは,中華人民共和国の国籍を有し,本国でHと婚姻して1男
をもうけたが,Hが本邦に留学したことから,両親に長男を預け,その後を追って平成9年ころ留学目的で来日した。そして,アルバイトをしながら学業に勤しんだ後,平成12年ころからHと実質的夫婦として生活しながら,飲食店やいわゆる韓国エステの経営を始め,本件当時には名古屋市内において上記韓国エステ店等6軒を経営していた。
両親に預けられた長男は本国で順調に成長しており,Gの姉妹5名は同女を頼って来日して,いずれも本邦で生活していた。
Gは健康であり,被告人らによって殺害されるまで,事業の上においても,家庭にあっても,それぞれに充実した幸福な毎日を過ごしていた。第2
1
被告人らの関係,犯行に至る経緯等
被告人ら6名は,いずれも留学目的で中国から来日した者であるが,遊興に耽ったり,生活費を稼ぐためのアルバイトに追われるなどして次第に学習意欲を失い,窃盗等の犯罪行為を行ってでも大金を手に入れたいなどと考えるようになっていた。
遼寧省出身の被告人Bは,平成5年10月,日本語を習得するとともに,日本の経済を学ぶ目的で本邦に入国し,大学の別科で1年間日本語の勉強をした後,その大学に入学して,本件犯行当時は大学院修士課程に在籍しており,日本語が相当堪能であった。また,被告人Bは,普通乗用自動車を2台保有し運転していた。山東省出身の被告人C,E及びFは,いずれも平成12年1月に来日して同じ短期大学に入学したが,いずれも平成13年には授業料が払えなくなって退学し,あるいは除籍された。四川省出身のDは,平成12年3月に来日し,大学の別科で1年間日本語の勉強をした後,4年制大学の入学試験に合格したものの,授業料が払えず,結局入学することはできなかった。福建省出身の被告人Aは,同年4月に日本の大学に進学する目的で来日し,Dと同じ大学別科で1年間勉強した後,4年制大学に入学したが,平成14年9月以降はほとんど通学していなかった。

2
被告人Aは,平成12年8月から平成14年2月までOが経営する飲食店でアルバイトをしており,被告人Cとは,被告人Cが平成13年5月ころから半年くらい同じ店でアルバイトをしていたことから知り合い,被告人Cを通じてEやFとも知り合った。また,Dも被告人Aらを通じて被告人Cと知り合い,被告人Cらを通じてEやFを知った。その後,被告人Aは,平成14年9月から約1か月間,韓国エステ店Rでアルバイトをしていたが,その際,付近で韓国エステ店数軒を営むGの噂を聞き,被告人Aがチラシ配りをしていたときに,2回くらいGから声を掛けられたこともあった。被告人Aは,同年11月11日から韓国エステ店Nの雇われ店長となったが,経営が苦しかった上,本邦で知り合った中国人女性と結婚し,親元を離れて暮らすためには300万円くらいのまとまった金を手に入れる必要があると考えていたことから,強盗等をしてでも金を得ようと考えるようになった。
被告人Bは,大学に通いながらアルバイトをするなどしていたものの,やがて学習意欲を失い,アルバイトもしなくなった。平成14年11月ころには,親からの送金等で生活しており,収入がなかったことから,遊興費等を得るため楽な方法で大金を稼げる窃盗や強盗をしようと考えるようになった。被告人Cは,短大の寮を出て,友人方を転々とするなどした後,平成13年の終わりころからは,判示第1記載のJビルに住んでおり,平成14年9月に清掃のアルバイトをしていたラブホテルを辞めさせられてからは,無職であった。被告人Cは来日して間もなくGの経営していた韓国エステ店に客として出入りするうち,Gから挨拶されたことをきっかけに顔見知りとなった。Dは,アルバイトをしていたものの生活は苦しく,家賃を払えなくなって,同年10月終わりころから,被告人C方に居候していた。Eは,平成13年3月ころに知り合った中国人に頼まれて,本国で戸籍の不正取得の手伝いをして高額の報酬を受け取っていたが,遊興に費消してしまった上,平成14年1月にはその仕事もなくなり,生活が苦しくなって,同年3月ころから被告人C方
に同居させてもらっていた。また,Fは,短大を除籍された後,アルバイトをしていたが,やはり生活は苦しく,留学の際の借金を返すための送金もできないでいた。
DとEが被告人C方に同居してからも,被告人Cらの収入はDのアルバイトによる給与だけで,十分な食事をとることもできず,同年11月に入るとその金額も少なくなった上,被告人Cは家賃を数か月分滞納していた。そのため,被告人C,D及びEの3人は,金を得るために

何か悪いことをしよう。

などと話し合い,具体的なあてはなかったものの,機会があれば窃盗等をやることになった。同月上旬,被告人CはFに対し,窃盗等をしないかと誘ったが,このときはFは応じなかった。
3
被告人C,D及びEの3人とも窃盗等の犯罪を行った経験がなかったことから,被告人Cが被告人Aに,盗みに入りやすい家等の情報や窃盗等を一緒にやる人を紹介してほしいなどと相談した。
被告人Aは,Nのオーナーから,Gはここ数年で二,三億円儲かっているなどと聞いたことから,同月中旬,被告人Cに,Gから金を奪う話を持ち掛けたが,被告人CはGに顔を知られていた上,DとEに相談したところ反対されたことから,断った。
被告人Bと被告人Aは,同月中旬ころに知人の紹介で知り合い,いずれも強盗等をしてでも金を得ようと考えていたことから,2人は金持ちの家等の情報交換をした。被告人Bが愛知県西尾市内に居住するパチンコ店経営者宅に強盗に入ることを持ち掛けると,被告人Aは,これに応じるとともに,被告人Cにも伝えた。そして,被告人CがD,E及びFにその話をすると,DとEだけでなく,Fも賛成し,その後,行動をともにするのに便利であるとの理由でFも被告人C方に住むようになった。

4
以後の本件犯行に至る経緯及び犯行状況等の詳細は,上記事実認定の補足説明の第1で記載したとおりである。

第3
1
量刑上特に考慮した事情
本件は,被告人ら6名が,被告人B及び被告人Aを中心とする犯罪グループを形成した上,一攫千金を狙って,身の代金目的の略取等の犯行を計画して現に実行に移し,略取した被害者を殺害したという身の代金拐取,拐取者身の代金要求,逮捕監禁,殺人の事案及びその犯行後,更に侵入盗を計画し,実行しようとしてマンションに侵入したという住居侵入の事案である。

2
Gは前に述べたとおり,留学のため来日し,経営者としての才能を開花させ,手広く事業を営むとともに,夫や子あるいは姉妹らを支え,家族の中心となって生活をしていたものである。被害にあった時期は,働き盛りであるとともに,公私共に人生で最も幸せで充実した時期にあったということができる。こうした最中,たまたま金をたくさん儲けているという噂になっただけの理由で,被告人ら6名による略取の対象とされ,命を奪われるに至ったもので,理不尽で悲惨の極みというほかはない。その結果は余りに重大で取り返すことのできないものである。
Gは,被告人ら6名によって突然略取され,逮捕された上,長時間監禁されて暴力も加えられた挙げ句に,ビニールひもで頸部を絞められるなどして仮死状態に陥れられた上,溺死させられる非業の最期を遂げたものであるが,その間にGの味わった肉体的苦痛や絶望感等の精神的苦痛の大きさ及び被告人ら犯人に対する怒りは容易に想像できる。身の代金の要求にも協力させられ,解放されることを期待していたのに,愛する夫や息子,姉妹等を残して死を遂げなければならなかった無念さは察するに余りある。そして,Gには,このような被害を受けるべき落ち度は全くない。
また,Gの安全な救出を願いながら最悪の結果に曝された夫や姉妹の味わった衝撃の大きさや無力感,悲しみの深さは筆舌に尽くし難い上,永久に瘉されることはないものである。その処罰感情が現在でもなお峻烈であるのは当然であり,被告人らの極刑を求める心情は十分に理解できる。

3
家族らの愛情につけ込んで大金を得ようとする身の代金目的の略取は,それだけでも人間として最も卑劣な犯罪の一つとして厳罰をもって阻止されなければならないものであると言うべきである。被告人ら6名は楽をして大金を手に入れたいなどという考えの延長としてこのような犯行に及んだ上,Gを通じて自分らの犯罪が警察に発覚して刑罰を受けることになるのを恐れて,何物にも代え難いGの命を奪う非道な犯行にまで及んだもので,被告人らの刑責は極めて重く,被告人らの人生全てをもっても償い切れるものではない。
4
略取,身の代金要求及び逮捕監禁の犯行態様は,組織的かつ計画的であり,殺人の犯行態様は,執拗,冷酷で残虐である。

(1)

犯行は,被告人ら6名が,主に被告人Bの指示により,あらかじめ道具を準備するなどした上,2度にわたって略取の機会を失して失敗したにもかかわらず,諦めることなく,徒歩で帰宅するGを尾行する者,自宅マンション前で待ち伏せする者などに分かれて,携帯電話で連絡を取り合って組織化して,強引にGを自動車に乗車させ,直ちに目隠しをし,手足を緊縛して,ほぼ当初の計画どおりにGを略取しており,執拗で用意周到な計画に基づく犯行である。その後も,手足の緊縛や目隠しをしたままGを長時間監禁し,その間,Gの内縁の夫であるHに,当初8000万円という高額の身の代金を要求し,Hが希望する金額を用意しなければ,語気を荒くしてGを殺害するなどと脅迫するだけでなく,被告人Bや被告人Aを中心としてGにも暴行・脅迫を加え,必死に救出を求めるGの声をHに聞かせて,Gの安否を憂慮するHの不安感を高めるなどしており,非常に悪質である。

(2)

また,Gの殺害についても,略取した当初から殺害することになると予想していたのであり,冷酷,非情といわなければならない。殺害の態様も確定的殺意に基づいて,頸部をビニールひもで絞めた上,とどめを刺すために,ラップを顔面に巻き付けるなどしており,結果的には,既に死亡したと考えて海中に投棄して溺死させたものの,それまでの経過は,誠に残虐と言わな
ければならない。
(3)

さらに,被告人Aは,殺害を決定して被告人Cらに伝えた後にも身の代金を受け取りに行くことを提案している上,Gを殺害したわずか2日ほど後には,被告人ら6名は,以前実行するに至らなかったO方に侵入し,室内にある現金を奪う計画を実行に移そうとして判示第3の住居侵入事件を敢行しているのであって,被告人ら6名の規範意識は,麻痺しているだけでなく,死者に対する憐憫の情も自己の非道な所業についての悔悟の念も全くうかがうことができない。

5
犯行の動機は,楽をして大金を手に入れたいなどというもので,被告人Cが中心となって形成した犯罪グループに,被告人B及び被告人Aも加わって,被告人Bや被告人Aを中心とする犯罪グループを形成していったもので,上記のとおり,Gを略取した当初から,身の代金を受け取ったとしてもGを殺害するに至る事態を認識しながら高額の身の代金を得られることへの期待等から,結果の重大性等を深く考えないまま,Gの略取,殺人等を実行していったと認められ,経緯や動機に酌量の余地は全くない。
しかるに,被告人A及び被告人Cは,公判において,警察に通報されたと考えた被告人Bの提案やその後の電話連絡によりGの殺害を決意したこと等を強調して,計画を実行しようとした際,実行すればGを殺害することになるとは考えていなかったなどと述べている上,いずれも積極的に本件各犯行に及んでいたと認められるにもかかわらず,自己の立場の従属性を主張して刑事責任の軽減を図るなど,真摯な反省とは相容れない供述態度を示している。また,被告人Bは,誘拐した場合にGを殺害することになるとは考えておらず,自分は共犯者間で従属的立場にあったなどと述べるにとどまらず,殺人への関与すら否定するなど不合理な弁解に終始して自己の刑事責任を免れようとしており,真摯な反省の態度は認められない。

6
略取及び殺人等の犯行における被告人3名が果たした役割は,次のとおり共
犯者中でもいずれも重要であったと認められる。
(1)

被告人Aは,Gを略取して身の代金を要求することを提案しており,被告人Bと共に,共犯者に役割等を指示するなど,中心となって本件犯行に及んでいる上,略取の際にGを尾行し,被告人Cらが無理やり自動車に乗せる際にも協力している。さらに,被告人Bらと身の代金を受け取りに行き,その受け取りに適当な場所を探すなどし,被告人BがGの殺害を提案した際にも,直ちに同意している。

(2)

被告人Bは,Gを略取して身の代金を要求するという被告人Aの計画に賛成し,殺害にも賛成する意見を述べており,共犯者に犯行の具体的方法や役割等も指示して中心的役割を果たしている上,Gの略取や身の代金の受取りに欠くことのできない車両の運転や身の代金の要求をしており,最終的にGの殺害を提案したのも被告人Bである。

(3)

被告人Cは,Gの監禁場所を提供し,略取の際,Gに声を掛けて無理やり自動車に乗せたばかりでなく,Gの殺害を指示されるや,E及びFと3人でその頸部をビニールひもで絞め付けるなど積極的に犯行に及んでいる。
(4)

さらに,被告人3名は,死亡したと考えていたGを海中に投げ入れるなどもしているのであって,一連の犯行において,いずれも非常に重要で必要不可欠な役割を果たしていると言うことができる。

7
加えて,被告人らは,せめてもの償いである被害弁償等の十分な慰謝の措置を現段階においても講じていない。また,本件一連の犯行自体が誠に悪質である上,近時外国人等による集団犯罪が深刻な社会問題になっていることから,本件が社会に与えた悪影響も軽視できない。同種の犯罪を撲滅し社会を防衛するためにもこの種の犯罪の犯人を厳罰に処する必要がある。

8
以上のとおり,被告人3名の刑事責任はいずれも極めて重いと言わなければならない。略取前に殺人の共謀が成立していたとまでは認められないとしても,本件の重大性,悪質性,結果の悲惨さや,動機に酌量の余地がないこと,遺族
の峻烈な処罰感情等を考慮すると,被告人B及び被告人Aを死刑に処するべきであるという検察官の意見は十分に傾聴すべきものである。
9
しかしながら,本件の証拠を詳しく検討すると,被告人3名の刑を定めるについて検討されるべき事情として,更に次の各点が上げられる。

(1)

被告人A及び被告人Bが中心となって犯行が計画,実行されたことは認められるものの,ほかの共犯者も自らの意思で本件各犯行に加担し,それぞれが実行のために相応の役割を分担していたと認められること,身の代金を取得できた場合には均等に分配する予定であったこと等からすると,被告人A及び被告人Bがほかの共犯者らを支配していた関係は認められず,また,被告人A及び被告人Bを除く4名の中心であったと認められる被告人Cとの関係でも,上下関係があったとまでは認められない。そして,被告人A及び被告人Bは,G殺害の意思を固めてDを通じてこれを被告人Cに伝えている上,結果としては殺人の実行行為に関与しているものの,既にGが死亡していると考えた結果の関与であって,Gを仮死状態にした頸部を絞めるなどの行為は行っていない。

(2)

被告人Cは,上記のとおり,被告人A及び被告人Bを除く4名の中心であり,当初に窃盗や強盗をしようと犯罪グループを形成し,被告人Aを巻き込んで犯行を計画し,本件各犯行が引き起こされることになったものである上,略取,殺害の犯行に積極的に関与し,Gを殺害しようとその首を絞めて仮死状態に陥れたばかりか,Gを入れたバッグを海中に投げ入れて溺死させた行為にも加わっていたことが認められる。そうすると,被告人B及び被告人Aが主に各犯行を計画・指示するなどしていて,最終的にGの殺害を決断したのも被告人Bらであり,被告人Cはその連絡を受けて殺害行為に及んだものであって,その点で,被告人A及び被告人Bの方が中心的役割を果たしていたことが認められること,D及びEと犯罪グループを形成した当初は殺人までしようと考えていたわけではないことを考慮しても,その役割が末端に過
ぎず,従属的であったとは到底言えず,被告人A及び被告人Bの負うべき刑責との間に,決定的な差があると認めることはできない。
(3)

さらに,被告人3名が,Gの略取を実行すれば,殺害することになるであろうと考えていたことは認められるが,先に判断したとおり,略取前からGを殺害する共謀が成立していたとまでは認められず,Gの殺害を最終的に決断したのは警察に通報されたのではないかと考え,逮捕されることを恐れた結果であって,その意味では殺人が事前の綿密な計画に基づく犯行とまでは言えない。

(4)

身の代金については手にしておらず,判示第3の窃盗目的の住居侵入についても,マンション通路部分への住居侵入にとどまっていて,その点では実害を発生させてはいない。

(5)

被告人3名は,Gの命を奪った結果の重大さについてはいずれも反省の弁を述べていること,本邦における前科前歴がないこと,その年齢等から更生の可能性が否定できないこと,被告人Bについては,父親及び叔父がその更生に助力する旨述べるとともに,父親はGの遺族に被害弁償したいとも述べていること等の事情も認められる。

(6)

さらに,既に無期懲役の刑が確定しているD,E及びFとの責任を比較してみると,DはF及び被告人Cを手伝って略取行為を実行し,略取後は被告人B及び被告人Aと共に身の代金を受取る役割を分担して,Hと接触する機会をうかがい,警察に被害通報がされていると判断してこれを被告人B及び被告人Aに知らせ,G殺害の決定及び実行されるきっかけを作っている。Eは略取行為時には自動車のドアを開けるなどして実行を手伝い,被告人C及びFと共にGの首をロープで絞め付けて仮死状態に陥れている。そして,FはD及び被告人Cと共に略取行為を実行し,被告人C及びEと共にGの首をロープで絞め付けて殺害行為を行った上,被告人3名とともにGの入ったバッグを海中に投げ込んで同人を溺死させるのにも加担しているものである。
これらの各役割が被告人3名に比して決定的に軽微とも,従属的ということもできない。
以上の各事情を総合して,被告人3名の量刑について判断すると,各被告人らのため酌むべき事情を最大限に考慮しても,被告人3名の刑事責任が極めて重いことはいうまでもない。
しかしながら,被告人3名に対する各刑責を考察すると,

(1)

被告人A及び被告人Bが本件犯行において果たした上記認定の役割等からすると,被告人A及び被告人Bはそれぞれ犯行遂行の中心的存在であり,ほかの共犯者を指示して一連の犯行を行ったと言えるが,その間の刑事責任には大きな差異はないということができる。

(2)

両名と被告人Cとを対比しても,被告人CもD,E及びFとの関係では上位の立場にあったと言え,被告人A及び被告人Bのみがほかの共犯者を支配する状況にはなかったと認められることからすると,Gを殺害するためにその首をロープで絞め付けて仮死状態に陥れた上,海中に投げ込んで溺死させるのにも加わった被告人Cと比べ,被告人B及び被告人Aについてのみ死刑を選択するほどに,その刑責に決定的な差異があるとまではいえない。そうしてみると,共犯者間の刑の均衡という観点からみて,共犯者間で被告
人A及び被告人Bの2名のみに対して死刑を選択することには躊躇を禁じ得ず,結局被告人A及び被告人Bについて極刑がやむを得ないとまでは断定することができない。
そこで,被告人3名をいずれも無期懲役に処するのが相当と判断した。よって,主文のとおり判決する。

(求刑-被告人B及び被告人Aにつき死刑,被告人Cにつき無期懲役)平成17年12月26日
名古屋地方裁判所刑事第5部

裁判長裁判官

伊藤
裁判官

丹羽芳徳
裁判官

鈴木清志新一郎
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