判例検索β > 平成18年(わ)第1621号
弁護士法違反、詐欺、有印私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、同行使被告事件
事件番号平成18(わ)1621
事件名弁護士法違反,詐欺,有印私文書偽造,同行使,公正証書原本不実記載,同行使被告事件
裁判年月日平成18年8月9日
裁判所名・部大阪地方裁判所  第1刑事部
裁判日:西暦2006-08-09
情報公開日2017-10-13 01:39:35
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主文
被告人を懲役3年及び罰金100万円に処する
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から5年間その懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1

(平成18年3月28日起訴分第1)
弁護士でないのに,利益を得る目的で,別紙記載のとおり,平成16年1月8日から平成18年2月16日までの間,130回にわたり,東京都品川区ab丁目c番d号所在のA株式会社が発行する在日中国人向け週刊新聞B及び東京都豊島区ef丁目g番h号所在の株式会社Cが発行する在日中国人向け週刊新聞Dの紙面に日本国際法務総合事務所等の名称を用いて,各種法律事務を行う旨の中国語の宣伝広告を掲載して発行させ,もって,法律事務を取り扱う旨の標示をした

第2

(平成18年3月28日起訴分第2)
平成16年8月下旬ころ,Eが上記Bに掲載された日本国際法務総合事務所には弁護士及び行政書士がおり,交通事故の損害金の示談交渉等を行う旨の虚偽内容の宣伝広告を見て,長女Fを被害者とする交通事故に関し,相談の電話をかけてきたことを奇貨として,示談交渉の費用名下にEから金員を詐取しようと企て,被告人の部下の担当者をして,Eに対し,

日本国際法務総合事務所には,弁護士がいるので,示談できますよ。交通事故の賠償金の示談交渉は20万円です。

などと嘘を言わせ,さらに,同年9月初めころ,大阪市i区j町k番l号所在の日本国際法務総合事務所から,大阪府寝屋川市m町n番o号所在のE方に電話をかけ,Eに対し,日本国際法務総合事務所が示談交渉を行えば,賠償額として,任意保険と自賠責保険から120万円は出ます。日本国際法務総合事務所では,事務所の弁護士を立てて損害金の交渉を行うので,相手の保険会社も交渉に応じるから,裁判にはならない。心配しなくていいですよ。などと嘘を言い,さらに,同月初旬ころ,

当事務所では,この事件の処理を事務所の司法書士,行政書士等が必要な書類や資料を作成して準備します。

などと記載され,交通事故の賠償金の交渉費用は,特別割引によって18万円であることや,振込先の銀行の支店名,口座番号及び口座名義等が記載された書面をE方に郵送し,その書面を見たEをして,日本国際法務総合事務所には弁護士がおり,長女の交通事故の損害金の示談交渉を依頼すれば,同事務所の弁護士らが保険会社等と示談交渉を行い,相当額の賠償金を得られる旨誤信させ,よって,同月10日,Eの指示を受けたFをして,大阪市p区qr丁目s番t号所在の当時の株式会社G銀行H支店に開設した日本国際法律総合事務所代表I名義の普通預金口座に18万円を振込入金させ,もって,人を欺いて財物を交付させた
第3

(平成18年3月28日起訴分第3)
平成16年10月上旬ころから中旬ころ,上記日本国際法務総合事務所において,行使の目的で,ほしいままに,念書と題し,Fの依頼により,交通事故の加害者を相手に人身損害賠償,休業損害賠償及び慰謝料支払等の賠償交渉の手続きについて,日本国際法務総合事務所関西日中事務局が代理人となって,交渉等を行うことなどを記載し,同事務局の記載の下に,弁護士代表:J,行政書士代表:Kと冒書した書面2通を作成した上,各書面の弁護士代表:J及び行政書士代表:Kの名下に,J,Kと刻
した印章をそれぞれ冒捺し,もって,日本国際法務総合事務所関西日中事務局弁護士代表J及び行政書士代表K作成名義の念書2通を偽造し,同月中旬ころ,同偽造文書2通を真正に成立したもののように装って上記E方に郵送し,そのころ,同人方に到達させて行使した

第4

(平成18年3月28日起訴分第4)
弁護士でなく,かつ,法定の除外事由がないのに,報酬を得る目的で,業として,平成17年2月19日,大阪府守口市uv丁目w番x号所在の大阪府L警察署内の接見室において,大阪地方検察庁検察官から公判請求された,被告人MことNに対する大阪地方裁判所平成17年(わ)第759号傷害被告事件につき,同人のために,弁護士Oを弁護人として周旋し,もって,報酬を得る目的で法律事務の周旋をすることを業とした

第5

(平成18年4月7日起訴分第1)
中華人民共和国の国籍を有するPの本邦における在留資格変更の許可を不正に得るため,同人とQが婚姻した旨偽装しようと企て,P及びQと共謀の上,平成16年3月17日,大阪市y区z町α丁目β番γ号所在の大阪市y区役所において,同区役所係員を介して同区長Rに対し,PとQが婚姻する意思に基づき婚姻を届け出る旨の内容虚偽の婚姻届を提出し,同月22日,同区役所からその届の送付を受けた同市δ区役所において,情を知らない同区長Rをして,同区役所備付けのQの戸籍簿原本に両名が婚姻した旨の不実の記載をさせた上,これを真正な戸籍簿原本として,同区役所に備え付けさせて行使した
第6

(平成18年4月7日起訴分第2)
中華人民共和国の国籍を有するSの本邦における在留資格を不正に得るため,同人とTが婚姻した旨偽装しようと企て,S及びTと共謀の上,平成16年10月25日,大阪府富田林市ε町ζ番η号所在の富田林市役所において,同市役所係員を介して同市長Uに対し,SとTが婚姻する意思に基づき婚姻を届け出る旨の内容虚偽の婚姻届を提出し,同月28日,同市役所からその届の送付を受けた大阪市θ区役所において,情を知らない同区長Vをして,同区役所備付けのTの戸籍簿原本に両名が婚姻した旨の不実の記載をさせた上,これを真正な戸籍簿原本として,同区役所に備え付けさせて行使した

ものである。

(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
被告人の判示第1の各所為はそれぞれ弁護士法77条の2,74条2項に該当し,判示第2の所為は刑法246条1項に該当し,判示第3の所為のうち各有印私文書偽造の点はいずれも同法159条1項に,各偽造有印私文書行使の点はいずれも同法161条1項,159条1項にそれぞれ該当するが,各有印私文書偽造とその行使の間には手段結果の関係があり,偽造文書2通の行使は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪とし,犯情が異ならないので偽造有印私文書行使罪の刑で処断することとし,判示第4の所為は弁護士法77条3号,72条に該当し,判示第5及び第6の所為のうち各公正証書原本不実記載の点は刑法60条,157条1項に,各不実公正証書原本行使の点は同法60条,158条1項,157条1項にそれぞれ該当するが,この公正証書原本不実記載とその行使との間には手段結果の関係があるので,いずれも同法54条1項後段,10条により1罪として犯情の重い不実公正証書原本行使罪の刑で処断することとし,各所定刑中判示第4ないし第6の罪について懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をし(ただし,短期は判示第3の罪の刑のそれによる),罰金刑については同法48条1項によりこれをその懲役刑と併科することとし,同条2項により判示第1の各罪所定の罰金の多額を合計し,その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役3年及び罰金100万円に処し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その懲役刑の執行を猶予し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)
本件は,弁護士でなく,弁護士を雇用したこともない被告人が,(1)在日中国人向け新聞に日本国際法務総合事務所等の名称を使用して法律事務を取り扱う旨の広告を130回にわたって掲載した弁護士法違反(判示第1),(2)広告を見て示談交渉を依頼してきた被害者に弁護士が交渉を行うかのように偽って報酬を詐取した詐欺(判示第2),(3)弁護士等の関与を偽装するため弁護士及び行政書士名義の書面を偽造した有印私文書偽造,同行使(判示第3),(4)報酬を得る目的で業として刑事被告人に弁護人を周旋した弁護士法違反(判示第4)及び(5)在留資格のない中国人らに本邦における在留資格を得させるなどの目的でそれぞれ日本人との婚姻を偽装して戸籍に不実の記載をさせた公正証書原本不実記載,同行使2件(判示第5及び第6)の事案である。
判示第1の弁護士法違反の点については,被告人は,130回にも及ぶ新聞広告掲載により在日中国人を始めとする一般市民を惑わせ,実際に広告を見て弁護士のいる法律事務所であると誤解して示談交渉を被告人に依頼してきた被害者が出るに至っており,重大な結果が生じている。また,被告人は,弁護士ではないのに法律事務を扱うかのような広告をし,法律事務所の名称を使用して大阪弁護士会から非弁護士活動に該当するとの警告を受け,二度とそのような活動をしない旨の謝罪文を提出したにもかかわらず,名称を法務総合事務所に変更したのみで同内容の広告を掲載し続けたのであって,態様は悪質である。専ら自己が不正な利益を得るために敢行した動機に酌むべき点はない。判示第2の弁護士が示談交渉を行うかのように誤信させた詐欺の犯行も,上記の広告を見て依頼してきた被害者から,弁護士が交渉しないのであれば到底払うはずのない多額の現金を詐取したものである上,被害金の全額返還が遅れるなど被害者に対する犯行後の被告人の態度も誠実とは言い難い。また,判示第3の被告人と無関係の弁護士,行政書士の名義を使った有印私文書偽造等の犯行も,弁護士及び行政書士の作成名義の文書の信用を害するもので,悪質である。氏名を冒用された弁護士及び行政書士は厳重処罰を望んでいる。
また,判示第4の業として刑事被告人に弁護人を周旋した点は,弁護士に対しては自己がボランティアであるかのように装いつつ,依頼者からは正当な弁護士費用に上乗せして不当に多額の金員を要求して利益を得ていたのであり,結果は重大である。被告人が,これを自らの利益のために業としていたことは極めて悪質で,弁護士制度に対する公共の信頼を害し,ひいては法秩序を害する点で強く非難されねばならない。被告人に依頼して,実際に弁護人に支払われた金額の2倍以上の額を支払わされた依頼者も,厳しい処罰を求めている。さらに,判示第5及び第6の公正証書原本不実記録,同行使の犯行については,いわゆる偽装結婚により中国人の在留資格の不正取得を図ったもので,戸籍の信用を現実に害しており,我が国の外国人管理制度をも揺るがす犯行であり,被告人は中国人と日本人との間を仲介して偽装工作に協力した上,多額の報酬を得ているのであって,結果,態様ともに悪質であるし,動機も金銭目的で酌量の余地はない。
以上の点を考慮すれば,被告人の刑事責任は重大である。
しかしながら,他方で,被告人は,本件事実関係を認め,二度と弁護士の名を騙り法律事務所と混同を招くような名称を使用せず,本件のような非弁護士活動を行わないことを誓っていること,詐欺の被害者に被害金全額を返還して被害回復をしていること,被告人には本邦における前科はないこと,被告人の夫が今後被告人が再び違法行為に手を染めることのないよう監督することを約束していることなど酌むべき事情も認められる。
そこで,これら諸般の事情を総合考慮の上,主文のとおりの刑を量定し,今回に限り,その懲役刑の執行を猶予するのが相当と判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑

懲役3年6月及び罰金100万円)

平成18年8月9日
大阪地方裁判所第1刑事部

裁判長裁判官

秋山
裁判官

山田裕文
裁判官

杉浦一輝敬
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