判例検索β > 平成15刑年(わ)第4657号
逮捕監禁、殺人
事件番号平成15刑(わ)4657
事件名逮捕監禁,殺人
裁判年月日平成18年3月27日
裁判所名・部東京地方裁判所  刑事第7部
裁判日:西暦2006-03-27
情報公開日2017-10-13 01:40:00
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平成18年3月27日宣告逮捕監禁,殺人被告事件
平成15年刑(わ)第4657号,平成16年合(わ)第54号


被告人を懲役10年に処する
未決勾留日数中660日をその刑に算入する。


【罪となるべき事実】
被告人は,
第1A1及びA2と共謀の上,平成15年9月6日午前1時35分ころ,東京都豊島区(以下省略)所在のマンションBC階D号室
の甲方居室(以下甲の居室という)において,A1が中心とな
って,甲(当時38歳)に対し,その頭部,背部等を手拳や先端部分に金属を縫い込んだ革製の凶器であるスラッパーで殴打するなどの暴行を加え,同室から同人の両腕をつかみ同マンション1階玄関前まで連行して,不法に同人を逮捕した上,同日午前1時50分ころ,同人を同マンション玄関前路上に停車させていた普通乗用自動車(E)の2列目座席に押し込んで同車を発進させ,A1が同都新宿区(以下省略)所在のマンションF前路上まで同車を疾走さ
せ,引き続き,同マンションG号室(以下本件居室という)内
に甲を連れ込んだ上,同室内において,同人の両手に手錠を掛け,両手及び両足をそれぞれロープで縛るなどするとともに,終始同人を監視し,さらに,同日午後10時ころ,両わきを抱えて同人を同室から連れ出し,あらかじめA1の指示により被告人が借り受けて同マンション前の路上に停車させていた普通乗用自動車(H)の2列目又は3列目座席に甲を押し込んで,同日午後11時ころまでの間,A1が同車を運転して同都江東区(以下省略)所在の社団法人I駐車場(以下本件駐車場という)まで疾走させ,甲を上記各
自動車内及び本件居室内から脱出することを不能にさせて,不法に同人を監禁し(同年12月12日付け公訴事実)

第2A1が,上記のとおり甲を本件居室に監禁中,同人から,同人が雑誌や書籍にA1を中傷する記事等を執筆して掲載したことが鍵業者のJに頼まれてA1を鍵業界から抹殺するための布石であり,Jから更に資金援助を受けA1の実名を出して中傷する内容の書籍を
出版する予定である旨を聞かされて激高し,上記監禁中もA1に謝罪する態度を見せない甲の反抗的態度から,このまま同人を解放すれば,同人がA1らに逮捕監禁されたことを警察に通報し,また,甲がA1を中傷する書籍を執筆して出版することにより同人の社会的信用が失墜し,同人の関与する鍵関係の事業も立ち行かなくなってしまうなどとと考え,そのような事態を防ぐには甲を海に沈めて殺害するしかないと決意し,被告人及びA2に対して

こいつ,とんでもないことを考えている。3冊目の本を書いて攻撃してくる。腐っているから直らない。謝りもしない。生かしたままだったら,解放したら必ず報復してくるから,沈めちゃおう

などと告げたのに対し,被告人がA1の甲殺害の意図を了解して承諾し,同様にA1の意図を承諾したA2及びA1との間で甲を殺害する旨の共謀を遂げた上,
A1の指示により,
A2が船舶や甲を縛る鎖等を用意し,
被告人が普通乗用自動車(H)を借り受けて,上記第1のとおり,甲を同車で本件駐車場まで搬送した後,A1及びA2が,睡眠薬を飲まされたことにより自力歩行が困難となっていた甲を抱え上げたり両わきを挟むようにしたりして,A2が借り受けて同所付近に係留中の小型作業船であるKに甲を乗せ,A2が操船して同船を
海上に進行させ,同年9月7日午前零時5分ころ,同区(以下省略)地先のL号地貯木場の南側海上に停泊中の同船上において,
A2が,
殺意をもって,甲に対し,背部を刺突行為専用のプッシュダガーナイフで多数回にわたり突き刺して,間もなく同人を背部刺創による左肺損傷により死亡させて殺害し(平成16年2月6日付け公訴事実)
たものである。
【証拠の標目】省略
【事実認定の補足説明】
弁護人は,判示第2の殺人について,被告人がA1及びA2との共謀に関与した事実はないから無罪であり,
仮に関与が認められるとしても,
同人らの殺害行為を幇助したにとどまる旨主張し,被告人も公判段階に至って同趣旨の供述をしているので,検討する。
第1本件殺人に対する被告人の関与の有無及び程度について
1被告人の公判供述を含む関係証拠によれば,本件の事実経過や本件各犯行の具体的状況等について,次のような事実が認定できる。
(1)

被告人は,平成12年ころから服飾品の輸入業を始めたが,
事業に行き詰まり,本件当時は定職に就くことなく同棲相手の
収入に頼って生活していた。A1は,かねてMセンターを設立
して鍵の学校を経営するとともに,平成9年11月に鍵関
係の業務を行う有限会社N(後に株式会社に組織変更)を設立
し,東京都新宿区(以下省略)等に出店するなどしていた。ま
た,A1は,シリンダー錠の開発や製造販売を行う株式会社O
(以下株式会社Oという。
)に多額の資金援助を行ってい
た。A2は,本件当時は開錠工具を取り扱う事業等をしていた
が,
かねて潜水士と一級小型船舶操縦士の資格を保有していた。
一方,甲は,平成2年ころからフリーのルポライター及びカメ
ラマンとして稼働し,雑誌の特集記事を執筆したり,鍵関係の
雑誌を出版するなどしていた。また,Jは,P株式会社(以下
P株式会社という)の代表取締役としてシリンダー錠Q
を販売する事業等をしていた。
(2)Jは,平成12年ころ,
Qに関する取材を受けたことから
甲と知り合い,同人から鍵業界に関する様々な情報を得られる
と考えて付き合いを継続していた。また,A1も,平成13年
8月ころ,甲が執筆した鍵関係の書籍を見て,出版社を通じて
同人と知り合い,その後,鍵業界に詳しい同人と付き合えば仕
事上も有益であろうと考えて,一緒に酒を飲みに行ったり,資
金を援助したりする交際をしていた。
(3)A1は,平成14年4月ないし5月ころ,甲に株式会社Oの商品を特集する鍵のパンフレットの作成を依頼し,同年夏ころ
までに株式会社Oと共に合計170万円を支払った。しかし,
同人は,その仕事を進めず,A1がそのことで甲を難詰したこ
とから,次第に同人との連絡が取れなくなった。このため,A
1は甲に逃げられたと思い,その行方を捜すようになった。
(4)A1とJは,同業者として知り合った当初は仲が良く,A1がQの宣伝をしてその売上げが伸びたこともあったが,J
にその宣伝協力に対する謝礼を求めたことなどから,両者は次
第に関係を悪化させ,平成14年3月ころに,P株式会社の顧
客名簿に各取引先を誹謗中傷する内容の寸評が付けられた怪文
書が出回るようになると,その出所をめぐって両名の対立が更

に深まった。同年8月ころ,Jは,甲から,P株式会社の元従
業員であるR,Sという女性とA1が怪文書発出の犯人である
と聞かされた。同年11月ころ,Jは,甲から新たな鍵関連の
書籍の出版に関する資金援助を依頼され,引き続き同人から情
報を得ることを考えてその依頼に応じたが,その後,同人が書
籍を執筆している様子はうかがわれなかった。
(5)被告人は,同年1月ないし2月ころ甲と知り合い,同人が企画していたファッション雑誌発刊の仕事を手伝うこととなった
が,発刊時期の変更が相次いだことから,同年8月末ころには
手を引いた。被告人は,この仕事で約19万円の経費を立替払
していたため,同年9月,同雑誌の広告代金として150万円
を渡して使い込まれたTらと共に甲の当時の自宅を訪ね,同人
に念書と借用書を作成させたものの,
返済は実行されなかった。
(6)同年秋ころ,被告人は,甲に紹介されて顔見知りとなっていたA1から連絡を受け,甲がA1の依頼した仕事をしないまま
音信不通になったことを知り,
同人と共に甲を捜すことにした。
同年11月ころ,A1と被告人,・蝶らは,同都豊島区(以下
省略)所在の甲の行きつけのスナックUで待ち伏せをして
同人を捕らえ,同人の上記自宅で,同人に対し,A1が依頼し
た仕事をするよう迫り,Tが毎月10万円ずつの返済を求め,
甲にそれらを約束させた。Tは,翌12月以降,甲から約束ど
おり返済を受けていたが,A1は,平成15年1月ないし2月
以降,再び甲と連絡が取れない状態になった。その上,被告人
とA1に対して,頻繁にいたずら電話がかかるようになったこ
とから,同人らは,甲が嫌がらせにまで及んだものと考え,同
年3月ころから本格的に同人の所在を捜すようになり,同人の
上記自宅に投石したり,玄関ドアに張り紙をしたりするように
なった。さらに,A1と被告人は,A1の発案で甲の原稿執筆
料から金員を回収しようと考え,同年6月上旬ころ,被告人が
他の債権者を伴って,甲が原稿を執筆している出版社に赴いた
ものの,担当者から支払を断られた。このころ,A1は,甲が
雑誌V7月号に,鍵業界関係者にとってA1を指称するも
のであることが容易に判明する表現や仮名を用いて,同人が依
頼を受けて規制薬物や銃を復讐相手の家に置いて警察に通報す

るなどの復讐請負人を生業としている人物である旨のA1を中
傷する記事を執筆掲載していることを知り,連日のいたずら電
話に対する腹立ちと併せ,甲に対する不満や怒り,うっとうし
さなどを募らせた。また,A1は,このころ知人を通じて偶然
に,甲の転居先が判示第1のマンションBであることを知
るに至った。
(7)A1は,同年7月下旬ころ,知人を介してA2と知り合った。A2は,A1に対し,前記(1)の資格を持っているほか,傭兵
経験があってナイフが好きであるなどと語り,鍵業界のことも
知っていたため,A1は,A2に興味を持ち,毎晩のように同
人を連れて飲み歩くなど,親しく付き合うようになった。A2
も,A1の人柄にほれ込んで,次第にA1の力になりたいと思
うようになっていった。
同年8月上旬ころ,
A1がA2に対し,
甲に怒りを募らせていることを語ると,A2は,以前自分も甲
から高圧的に取材を申し込まれた上,同人の執筆したWと
いう書籍の中で詐欺師扱いされたことがあったことから,甲を
拉致するというA1の計画に賛同した。さらに,A1は,この
ころ,甲が執筆したXという書籍の中に,鍵業界関係者に
とってA1を指称するものであることが容易に判明する身上経
歴の男性が,犯罪行為に使われたことのある銃を他人の家など
に入れた上,警察に通報してその人物を社会的に抹殺できる旨
語ったなどと,A1を中傷する内容の文章が書かれていること
を知り,自己の社会的信用が失われてしまうとの危機感を覚え
るとともに,このような書籍を執筆した甲に対し,強い怒りと
憎しみの感情を抱くようになった。そして,A1からそのこと
をうち明けられたA2が,A1の思いに賛同した上,甲に制裁
を加えることを強く主張しため,A1は,甲を拉致して制裁を
加える計画を実行する決意を固めていった。
(8)同年8月下旬ないし9月初頭ころ,被告人はA1からA2を紹介されるとともに,3人で甲を拉致して監禁する旨の計画を
打ち明けられたのに対し,被告人は,同月2日ころ,
Uの
ホステスから甲が同月5日に来店するとの情報を得たため,そ
れをA1に伝えた。同人は,同日ころまでに,甲をNの倉庫と
して使用されていた本件居室に監禁することを計画して準備し

た。
(9)同月5日午後8時過ぎころ,被告人がUに甲が入店した
ことを確認し,その後,同店前に到着したA1の指示で,被告
人がレンタカー(ワンボックス型の普通乗用自動車であるE)
を借り受け,A2も,同日午後10時30分ころに手錠や判示
第2のプッシュダガーナイフ,判示第1のスラッパーなどを持
参し,被告人らと合流して甲を待ち伏せた。しかし,翌6日午
前零時ころになっても甲が姿を見せなかったことから,A1は
同店内に入って甲らしき人物を確認したものの,甲はA1がト
イレに入ったすきに同店を出て非常階段から逃走した。被告人
らは,周囲を捜すなどしたが甲を発見できず,同人が自宅に戻
っているかもしれないと考えて,上記自動車で甲の居室に向か
った。A1は,その車中で繰り返し無言電話を受けた上,4度
目の電話を受けて甲と会話をした際に,同人から

捜せるもんなら捜してみな。地球のどこかにはいるよ

などと言われて激高した。被告人らは,同日午前1時20分ころ,甲が居住する
前記マンションBに到着し,A2が雨どいを伝ってC階に
ある甲の居室に登り,開いていた窓から室内に入り,玄関ドア
を開けて被告人及びA1を同居室内に招き入れた。
(10)そして,被告人ら3人は,判示第1のとおり甲に暴行を加えた後,同日午前1時50分ころ,同人を上記自動車の2列目座
席に押し込んで本件居室に連行した。
その後,
被告人とA2は,
甲を縛るロープや食料等を買いに出かけたが,
この時被告人は,
甲の財布を無断で持ち出し,在中していた現金約14万円をA
2と折半した。また,甲の携帯電話機は,このころ以降常に被
告人が所持していた。
(11)同日午前3時ころ,被告人とA2が本件居室に戻り,3人で食事をした後,A1は,被告人と共に甲の居室に戻り,居室内
の指紋をふき取った上,同人の所持品等を処分した。そして,
A1と被告人が上記自動車を返却してA1の保有する普通乗用
自動車で本件居室に戻ると,A1は,A2に対し,甲を乗せる
ための船舶や同人を縛る鎖や重り等を用意するように求め,A
2はそれを引き受けた。また,被告人は,そのころA1の指示
により,同人らが甲を捜し回っていたことを知っているU

のママが警察に通報することを防ぐべく,同女にあてて甲の携
帯電話機からしばらく,旅にでる事にしますという文面の
電子メールを送信した。
(12)同日午前5時過ぎころに被告人が自宅に戻り,同日午前6時ないし7時ころにはA2もいったん帰宅した。A2は,自宅か
ら睡眠薬を持参して本件居室に戻ると,
それを甲に飲ませた上,
船舶等の準備に出掛けた。被告人は,新たにレンタカー(ワン
ボックス型の普通乗用自動車であるH)を借り受けて同日午後
1時過ぎころ本件居室に戻り,入れ替わりでA1がいったん帰
宅し,同日午後5時ないし6時過ぎころにFに戻った。この間
A2は,知人に電話をして,通称Y号地にある本件駐車場の西
側に係留中の小型作業船であるK」
を借りる約束を取り付け,甲の体に巻き付ける鎖と針金を購入した上,自宅からウェイトベルトや革手袋を持ち出し,同日午後7時30分ころ,本件居室に戻った。(13)被告人らは,同日午後10時ころ,甲に再度睡眠薬を飲ませた上で同人を上記自動車に乗せてY号地に向け出発したが,途中で道に迷ったため,被告人が同車を降りてタクシーでA1らを先導した。本件駐車場に到着すると,A2は鎖やウェイトベルトをKに運び込み,またA1と共に,もやいを引っ張ってKの位置を変えた。その後,A2とA1は甲を車から降ろし,抱え上げたり両わきを挟むようにしたりして同人をKの船上に運んだ。そして,A1は,A2に後を頼む旨告げて上記自動車に戻った。この間,被告人は,同車内で甲の体に掛けてあったタオルケットと帽子を海に投げ捨てたほか,同人の自発的な失踪を装うべく,同人の携帯電話機から電子メールを数か所に送信した。A1は,被告人を同車に同乗させてZ駅前のコンビニエンスストアに赴き,そこで被告人に同車を預け,A2を迎えに行くよう指示して被告人と別れた。(14)A2は,Kのエンジンをかけて船を出し,ゆっくりと前進して沖合に向かったが,L号地貯木場の西側で,甲が左舷から海に飛び込むようにして船から落ちたため,A2は,すぐに反転して甲を捜し,海面上に浮かんでいた甲を見付けて船に引き上げた。A2が甲に「何で逃げたんだと聞いたが,同人の応答
は不明瞭なものであった。A2は,ウェイトベルトを甲の腰に
装着したりその身体に鎖を巻き付けたりして,それらの要所を
針金で固定した上,
同船を上記貯木場南側の海上まで進めると,
甲の背部を前記プッシュダガーナイフで多数回にわたり突き刺
した後,同人を海に落とした。その後,A2は本件駐車場に戻
り,待っていた被告人が上記自動車を運転してA2をa駅付近
まで送り届けた。
(15)同月7日,被告人は知人と2人での甲の居室を掃除して,A1からその報酬を受け取った。また,被告人は,同月6日以降
も,継続的に甲の携帯電話機から同人の自発的な失踪を装う内
容の電子メールを送信した。
(16)同月12日午前7時ころに至り,同都江東区(以下省略)所在の建材埠頭岸壁先の海上で,甲の遺体が発見された。その背
部には合計8か所の刺創があり,そのうち5個は左胸腔内に達
し,その数個が原因となって肺実質内に達する長さ約1.5な
いし約2.2センチメートルの左肺損傷が3か所生じている。
これらの創傷はその周囲に出血を伴うことから生前に生じたも
のと判断されるが,このような肺損傷は,一般的に,多量の出
血を生じると同時に気胸を伴うことにより,重大な呼吸循環障
害を引き起こして死因となり得るものである。上記遺体の頭頂
部には,直径約0.6センチメートル,深さ約0.9センチメ
ートルのほぼ円形の創傷が1個あるが,頭蓋骨に骨折はなく,
周辺組織に出血がみられないことから,それは死後に形成され
たものと認められ,その他に甲の体表に創傷等の異常は認めら
れなかった。なお,甲が生前に水におぼれたことを示唆する所
見は明らかでなく,死後変化が高度であったため詳細な臓器所
見は明らかでないが,明白な器質的疾患は確認されなかった。
以上から,甲は,背部刺創による左肺損傷により,少なくとも
致命的な傷害を負ったものと判断される。
(17)被告人ら3人は,
同日中に甲の遺体が発見されたことを知り,
本件居室に集まって今後の連絡手段やその際に使用する偽名等
を決めた。被告人は,A1から弁護士費用相当額を詐取しよう
と考え,この席で同人に偽造パスポートを作って海外に逃亡す
る話を持ちかけ,間もなく同人から合計250万円をだまし取

った。
2上記認定の事実経過等に基づいて検討すると,A2が甲の背部をナイフで刺突するに至るまでの一連の経過,とりわけ,被告人ら3人が役割を分担して,甲を運搬するためのレンタカーや船舶を借り受け,凶器のプッシュダガーナイフ,重りにするウェイトベルトや鎖のほか,睡眠薬等を準備し,同人の自発的な失踪を装う文面の電子メールを送信するなどした上,深夜,被告人ら3人が共同して,睡眠薬を服用させた甲をレンタカーに押し込んで本件駐車場に連行した後,A1とA2が係留されていた船舶に甲を乗せて海上に運び出すという経過を経て,A2がその背部を上記ナイフで多数回突き刺して甲を海に落とすという結果に向けた組織的な役割分担に基づく一貫したものと評価できる行動がとられた経過等に照らすと,他に特別な事情の認められない限り,A2が上記船舶の準備に入る前の段階で,被告人ら3人の間で甲を殺害する旨の意思を通じ合った上,その意思を実行する意図の下に被告人ら3人が本件駐車場に向かったことが強くうかがわれるというべきである。
3そして,被告人ら3人は,本件殺人に関する謀議の状況等について,次のような趣旨の供述をしている。
(1)まず,A1は,公判証言で,次のような趣旨の供述をしている。すなわち,同年9月6日に甲を本件居室に監禁し,被告人
とA2がロープや食料等を買いに出た間,自分は,甲から,自
分を中傷する文章等を執筆掲載したのはJに頼まれて自分を鍵
業界から抹殺するための布石であり,さらに,Jから資金援助
を受けて自分の実名を出して中傷する内容の書籍を出版する予
定であると聞かされた。自分は,監禁中も全く謝罪しようとす
る様子を見せない甲の反抗的態度から,このまま同人を解放す
れば,逮捕監禁されたことを警察に通報するのではないか,そ
して,同人が自分を中傷する書籍を執筆して出版することによ
り自分の社会的信用が失墜し,自分の関与する事業も立ち行か
なくなってしまうと考え,それらを防ぐためには甲を海に沈め
て殺害するしかないと決意した。その後,自分は,被告人と一
緒に甲の居室に行って荷物の処分等をし,最初のレンタカーを
返却して自分の車で本件居室に戻る途中で,被告人にあいつおれの目の前から消えてほしいと言うと,被告人はマグロ船にでも乗っけて働かせましょうかなどと答えた。しかし,私が真剣に

それじゃだめだ。沈めちゃおう

と言って甲の殺害を持ちかけると,
被告人も真顔になってやっちゃいますか。
確かにうざいっすからねと言って賛成した。自分は本件居室
に戻るとすぐに,被告人とA2に

こいつ,とんでもないことを考えている。3冊目の本を書いて攻撃してくる。腐っているから直らない。謝りもしない。生かしたままだったら,解放したら必ず報復してくるから,沈めちゃおう

と言って,甲を海に沈めて殺そうと持ちかけた。この時2人は自分の手の届く距
離に立っており,被告人はやっちゃいましょうと答え,A
2も

沈めるのですか。任せて下さい

と言って承諾し,引き続き船や重りの準備の話をした際にも,被告人は一緒に話を聞
いていた。この話の後,被告人にUのママにあてて電子メ
ールを送信してもらった。
船の準備まで少し時間がかかるので,
午前5時過ぎころに被告人がいったん帰宅した際,
被告人にA

2がやってくれるから。大丈夫だから

と声をかけた。本件駐車場に到着した後,甲を車外に押し出すと,同人は寝ぼけた様
子で辺りを見回していた。被告人に

見張っておいてね。タオルケット捨てておいて

と言って,A2と2人で甲を船まで運んだが,途中で持っていた同人の足を地面に落としてしまい,
同人は痛てと言っていた。同人を船に乗せて車に戻り,コ
ンビニエンスストアに行って,買った食料を食べながら被告人
に終わったなあと言うと,被告人も

終わりましたね。仕方ないですね

と答えていた。自分は人と会う約束があったので,被告人にA2を送るように言い,そこで被告人と別れた。
翌7日午前零時11分ころ,A2から電話があり

終わりました。ちゃんと沈めときましたんで

と言われた。その後,被告人から電話があり,そろそろA2を迎えに行っていいかと聞か
れたため,迎えに行ってもらった。さらに,被告人からレンタ
カーを返した旨と明日甲の居室を片付ける旨を告げる電話があ
り,その際,自分が甲の最後の様子についてすーっと沈んだらしいよと言うと,被告人は驚いた様子もなくああ,そうっすかと答えていた。同日夜,被告人と会い,甲の居室を片付けてくれた礼として2万円を渡したが,この時被告人はにこ
にこと笑っていた,というのである。
(2)また,A2は,検察官に対する供述調書で,次のような趣旨の供述をしている。すなわち,A1は,被告人と一緒に甲の居
室に出掛けて本件居室に戻ると,自分と被告人に対して

こいつはもうだめだ。もう治らない。それにこのまま解放したら,警察に走るかもしれない

こいつを帰したら,何をしてくるか分からないし,また本を書いて攻撃してくる。性根が腐ってる。海に沈めよう

などと言った。これに対し,被告人はやっちゃいましょうなどと答え,自分もやりましょうと答えた。自分がA1から,船や重りを早く用意してほしいと言わ
れた際には,被告人が同席していたように記憶している。この
話の後,A1が被告人にUのママにあてて電子メールを送
るように指示していた,というのである(乙36)

(3)さらに,被告人自身も検察官に対する供述調書で,自分とA1が甲の居室から本件居室に戻ると,A1がA2に船をどのく
らいで段取りできるかを聞いた上,

だめだな,こいつは。また,なんか書きそうだ。こいつ,このままだとまたなんかやりそうだから,船に乗っけて沈めるから

と言う言葉を聞いて,甲がA1を誹謗中傷するような本や記事を書くから,海に沈め
て殺そうと考えていることが分かった。自分も甲に腹を立てて
いたし,甲がA1を怒らせていたのであるから,殺されること
は自業自得だと思った上,自分が直接手を下すのではないと考
えたことや,A1とこれまでのような関係でいた方が自分のた
めになるという思いから,A1に

そうですね。分かりました

と答えた。その後,A2がA1に指示された船の段取りを引き
受けたことから,A2も甲を海に沈めて殺すことを承諾したこ
とが分かった,というのである(乙59)

4これに対し,A2及び被告人は,公判廷で次のような趣旨の供述をしている。
(1)A2は,公判証言で,次のような趣旨の供述をしている。すなわち,甲の居室で甲を見付けて暴行を加えた際には,被告人
も甲をこぶしで殴り,さらに足のすねで二,三回蹴っていた。
それから被告人は,甲の携帯電話機を操作して,A1と共に発
着信履歴について甲を問い詰めていた。被告人とA1が甲の居
室の掃除から戻ってくると,A1はいつもと違う雰囲気で目が
つり上がっており,ぴりぴりしていた。そして,A1は

こいつはもう性根が腐っている。このまま解放したらまた本に書いて攻撃してくる

と言い,3人で甲を海に連れて行って海水を飲ませるとかマグロ船に乗せるなどといった話をしたが,とり
あえず海に連れて行くことになり,自分と被告人がやりましょうと言って合意すると,自分はA1から船の手配を頼まれた。この時,A1は何回か海に沈めるとも言ったが,甲に
海水を飲ませるとも言っていたので,甲を脅す目的で海に連れ
て行くのだと思った。Y号地に向かう車内で,被告人がタクシ
ーに乗り換えた後,自分がA1にこれからどうするのですか
と聞くと,A1は

こいつは性根が腐っている。やはり許すわけにはいかないから,沈めて殺す

と言った。自分が甲を殺害するか否かを決めかねているうちに,車は本件駐車場に到着し,
甲を船に乗せて出発した。途中で甲が海に落ちたので引き上げ,
なぜ逃げたのだと聞くと,逃げていないなどと言っていた。そ
れから10分くらい経過した後に,甲を刺して海に捨てたが,
刺す直前には肩を揺さぶっても何の反応もなかったので,死ん
でいると思った,というのである。
(2)また,被告人は,公判廷において,次のような趣旨の供述をしている。すなわち,自分は,甲の居室で甲を捕まえた際,つ
い反射的に1回だけ甲を蹴った。自分にとって甲に暴行を加え
るような事態は全くの予想外で,甲がかわいそうで見ていられ
ず,A2と一緒にロープなどを買いに出た。甲の荷物を処分し
て本件居室に戻る途中で,A1から

甲を心配するやつなんていないよな。船に乗せちゃおうかな

と言われたものの,A1は甲を沈めるとは言っておらず,マグロ船に乗せて働かせるの
だと思い,A1と話をするのが面倒だったので好きなようにすればいいんじゃないですかと答えた。本件居室に戻ると,A1からUのママに電子メールを送信するよう頼まれたた
め,これに集中していてA1とA2の会話は聞いていなかった
が,A1が船の準備にかかる時間を聞いて,A2が二,三日か
かると答え,A1が船の準備ってそんなにかかっちゃうの
と言った時に,監禁して見張るという状況を早く終わらせたい
という思いから,マグロ船に早く乗せるという意味で早い方がいいんじゃないですかと言った。A1から帰っていいと言われて帰宅する際,あいつ,
何か書いてくるかもしれないから,船に乗って沈めちゃおうかなとか思ってんだよねと言われたが,借金を返すために働かせることを隠語で沈めると言う
ことがあり,3人で食事をした際にマグロ船の話もしていたの
で,自分は甲を船の中で働かせるのだと思った。Y号地に向か
う前,本件居室でA2からナイフを見せられてこれから野郎なんですが,Zの方で船に乗せます,それで最悪沈めますと言われた。Zの方にそういうところがあるんですか」
と聞くと,「ええ,何人も沈んでいるところがあるんですと言われ,一瞬甲を殺すのかと思ったが,殺人など現実的ではないし,早く
終わりにしたいという気持ちの方が強く,99パーセントない
だろうと考えて特にA2に確認はしなかった。甲殺害の事実を
認識したのは,本件駐車場を出てコンビニエンスストアに寄っ
た際,A1から

絶対このことは言うなよ。墓場まで持ってってくれ

と言われた時である。その後,A1から電話でA2が甲を刺したと聞いたので,A2を送る車中でこのことを確認す
ると,A2から

ええ,刺しました。野郎,1回逃げようとして海に落ちたんで,引きずり上げて刺しました

と言われ,甲の死を確信した。犯行当時は,後でA1やA2から何かされる
かもしれないと考えて,途中で抜けることができなかった。ま
た,この状況が早く終わってくれという気持ちが強く,よく物
事を考えていなかった。事件後,A1から電話で甲の居室の掃
除をしてくれる人はいないかと聞かれ,勘弁してくれと思った
が,その場にいた友人がバイト代が出るならやると言い出した
ので,2人で一緒に掃除した。なぜA1と甲の間のトラブルで
自分がこのような目に遭わなければならないのかと思い,逮捕
後の弁護士費用を得ておこうと考え,A1をだまして合計25
0万円をだまし取った。しかし,この金は引越費用に使ったり
交際相手に渡したりしたため,弁護士費用としては残らなかっ
た,というのである。
5そこで,上記各供述を対比して信用性を検討する。
(1)まず,前記3(1)掲記のA1の供述内容は,特に,甲に対して殺意を抱くに至った経緯や動機のほか,これをA2や被告人に
伝えた状況,その後の被告人の言動等の点で,それ自体として
具体的かつ詳細なものである。また,上記供述は,甲を海上に
連れ出すためにとった被告人ら3人の一体的で一貫した行動の
動機や目的に加え,最終的にA2が海上で甲をナイフで刺突し
て死に至らしめた経過を合理的に説明する内容となっており,
前記認定の事実経過やそれに基づく前記推認と整合する自然か
つ合理的なものである。さらに,A1の上記供述は,捜査段階
の中盤以降からほぼ一貫した内容となっている上,弁護人の反
対尋問にも全く動揺していない。その上,同供述は,A2のほ
か,被告人自身の検察官に対する前記各供述と内容的にほぼ符
合しており,相互に信用性を補強し合うものとなっている。
なお,A1は捜査段階の初期に,殺意を抱いた時期が,甲の
監禁を実行する前ないしA2が船の手配に出ている間である旨
の供述をしていたため,被告人ら3人が甲の殺害を謀議した時
期についても,前記供述と異なる供述をしていたことがうかが
える。この点についてA1は,先行して取調べを受けていた被
告人及びA2の供述により,捜査本部は自分が甲を殺害して被
告人とA2がその死体を遺棄したとの見方をしており,取調べ
で激しく対立してよく思い出すどころではなかった,甲や自分
の携帯電話機の発着信履歴を見て徐々に記憶を喚起し,平成1
5年12月14日ないし15日ころ正確に思い出した,ようや
く取調官が私を信用した上で話を聞くようになったのは,年が
明けてからである,平成16年1月16日に殺人の被疑事実で
逮捕された時にはまだ実行犯が自分であると見られていたが,
これ以降の自分の供述は一貫していると思うと述べている。A
1の供述経過に関する上記のような説明は,被告人ら3人の捜
査段階における各供述経過と符合している上,記憶を喚起する
に至った理由や取調官の信用を得た経緯が具体的かつ詳細に述
べられており,信用に値するものといえるから,A1供述の上
記変遷には合理的な理由が認められ,これによってA1の前記
供述の信用性が損なわれるものではない。
また,前記3(2)掲記のA2の検察官に対する供述は,A2
自身や取調担当検察官の公判証言等の関係証拠を総合すれば,
A2の前記供述の任意性には疑いがない上,供述内容が誤りな
く録取されたものと認められることに加え,内容的にも前記認
定の事実経過と整合した自然かつ合理的なものといえる。この
点,A2は,上記のような供述に至った経緯について,そのこ
ろは連日の長時間に及ぶ取調べで疲れて物事を考えられる状態
でなく,事実と違う内容が録取されていることに気付かなかっ
たなどと述べている。しかし,A2は,交代後の検察官は,水
を用意してくれたり休憩を取ってくれたりしたとも述べている
上,A2の捜査官に対する各供述調書には共犯者らの供述と相
反する部分について問答形式でA2の言い分が録取されている
部分が多数あることや,同人が供述を変えて事実を話すに至っ
た経緯が詳細に録取されていること(甲186)などに照らして
も,同人の供述経過に関する上記供述は信用することができな
い。
さらに,前記3(3)掲記の被告人の検察官に対する供述は,
内容的にみて,被告人の消極的な立場が強調されてそのままに
は信用できない部分があるとしても,大筋で前記認定の事実経
過に整合した自然かつ合理的なものである。なお,被告人は,
上記のような供述に至った経緯について,取調官に今から思え
ばこうだったんだよねなどと言われて,そうだったんでしょう
ねなどと答えたために作成されたものである上,A1とA2の
話が合っているのに,お前だけ違うことを言っていると量刑が
重くなると言われ,
怖くなって署名指印したなどと述べている。
しかし,殺人の被疑事実で逮捕された後の被告人の各供述調書
の内容は,A1やA2,あるいは被告人自身の発言内容などの
重要な部分において,公判廷における被告人の供述と大きく異
なっているのであるから,取調べ時に犯行当時のことを思い返
して供述したため公判供述と異なる内容となった旨の弁解は,
およそ理解し難い上,捜査官に対する供述調書には,
私はこれまで,A1やA2と同様に見られるのが怖くて,甲を海に沈めて殺すことを知ったのは9月6日の午後8時か9時ころと話してきました。しかし,全て正直に話してもう一度人生をやり直してほしいと言われ,私にこのように言ってくれる人の言うことを信じてみようと思うようになりました乙59)などと,(
前記内容の供述をするに至った心境を具体的に述べたものや,
A1の供述と食い違う部分について問答形式でそのまま録取さ
れているものがあることをも踏まえると,これらが被告人の恐
怖心から作成されたものとは考えにくく,被告人の供述経過に
関する上記供述も,A2と同様に信用することができない。
以上の諸点に照らすと,A1の前記証言並びにそれと同趣旨
のA2及び被告人の検察官に対する前記各供述は,十分な信用
性を備えたものと評価することができる。
(2)これに対し,前記4(1)掲記のA2の公判証言は,前記認定のとおり,被告人らが本件駐車場に向けて出発するに当たり甲に
睡眠薬を服用させたことが明らかであり,同人を脅すこととは
相容れない行動に出た事実と明白に矛盾する内容である。また,
単に甲を脅すために船舶や鎖,重りを用意するということ自体,
目的に整合しない行動といわざるを得ないし,本件における被
告人らの一連の行動をみても,A1は甲殺害の実行をA2に委
ねるつもりであったのであるから,これについて同人の明確な
了解を得ないまま各種準備に取りかかるとは考え難く,本件駐
車場に至る車内において,ようやく同人に明確に伝えたという
点も,事実の経過に照らして不自然というほかない。また,船
から落ちた甲を引き上げた際には,同人はA2の問いかけに応
答していたとしながら,何ら特段の事情もないのに,その10
分後には甲は全く反応しなくなっていたと述べる点も不自然で
あるし,A2は,甲を殺害するか否かを決めかねていたとしな
がら,呼び掛けに反応しなくなった甲の脈や呼吸を確認するこ
ともなく,いきなり背部を多数回刺突して海に落とすという行
動に出たというのであって,そのこと自体も甚だ不自然といわ
なければならない。加えて,A2の公判廷における供述経過を
みても,第1回公判期日において公訴事実はおおむねそのとお
り間違いないと述べていたのに,甲は既に死んでいると思って
刺したにすぎない旨述べて,その供述内容を大きく変遷させて
いる。A2は,上記供述変更の理由について,いつ言えばよい
かよく分からなかったなどと述べているが,納得できる説明と
はいい難い。
また,前記4(2)掲記の被告人の公判供述についても,その供
述を前提とすれば,被告人はA1から船に乗って沈めちゃおうかなとか思ってんだよねと言われた際には,借金を返すために船で働かせる意味であると認識し,その後,A2から

これから野郎なんですが,Zの方で船に乗せます,それで最悪沈めます。何人も沈んでいるところがあるんです

と言われた際には,もしかしたら本気で殺すのかなと思ったが,
現実的でないなどと考え,
特に確認はしなかったということになる。しかし,海に沈める」
という言葉の意味は,通常は人を海に沈めて殺害することととるのが自然であり,また,苛烈な暴行を加えて連行した上,緊縛するなどして監禁している甲を無理やり船に乗せて働かせるなどといったことが実現可能であるとは考えられないことに照らすと,A1の発言を唐突に隠語ととらえ,船に乗せて働かせる意味だと思ったとする被告人の供述は不自然といわざるを得ない。さらに,被告人が述べるA2の上記発言は,およそ甲を船に乗せて働かせるという趣旨に解する余地はなく,先のA1の発言と併せて考えれば,A1とA2は,甲を海に沈めて殺害する意思を有していると解するほかないところ,もし,被告人がこの時点までに,A1とA2のこのような意思を認識していなかったとすれば,このような重大な事柄について,その場でA2に確認しないとは考えられないところである。また,関係証拠によれば,本件居室は床面積が18.10平方メートルのワンルームタイプのマンションであり,本件当時,その居室には両壁面に沿って大量のダンボールや包装済みパンフレット等が積み上げられていたことが認められ,そのような狭い居室内において,A1とA2が監禁中の甲の今後の扱いについて話していると思われるにもかかわらず,電子メールの作成に集中してその内容をほとんど聞いていなかったとする点も,被告人の当時の態度として不自然といえる。また,甲を本件居室に監禁した後,かわいそうで見ていられずA2と共にロープ等を買いに出たとする供述も,この時被告人が無断で甲の財布を持ち出し現金をA2と折半したことにかんがみれば,到底信用することができない。さらに,犯行中に後でA1らから何かされるかもしれないと考えて離脱できなかったと述べる点も,本件犯行後,被告人はA1から合計250万円の現金をだまし取るという行動に出ている以上,信用することが困難である。なお,被告人は,A2の第7回公判期日において証人として供述した際,殺すつもりだと感じ始めたのは9月6日の朝から,もう明確にこれはまずいと思い始めたのは出発の辺りからである旨供述する一方,「海に沈めるという言葉を隠語として理解したとは全く供述していなかったのに,その後の同第27回公判期日において,
殺すつもりと分かったのはコンビニエンスストアでA1から口止
めをされた時であり,
海に沈めるとは船に乗せて働かせる意
味だと思ったなどと述べて,その供述を変更しているところ,当
初は沈めるという言葉が隠語であると理解したことを供述し
なかった理由については,特に意味はないなどと述べて何ら合理
的な説明をしていない。以上の諸点に照らすと,甲を船に乗せて
働かせると思っていた旨の被告人の前記公判供述は,不自然かつ
不合理なものであって到底信用できない。
6以上のとおり,前記認定の事実経過やそれに基づく推認に加え,A1の前記証言並びにこれを支えるA2及び被告人の検察官に対する前記各供述を始めとする関係証拠を総合すれば,平成15年9月6日早朝に被告人とA1が甲の居室から本件居室に戻った直後に,被告人ら3人の間で甲の殺害に関する謀議が行われた事実を優に認定することができる。
第2共謀共同正犯の成否について
上記認定事実に基づいて,被告人の共謀共同正犯の成否について
検討する。被告人は,A1から甲の殺害を持ちかけられるや,その意味を了解した上でやっちゃいましょうなどと答えて直ちに賛
同する積極的な姿勢を示したことに加え,
引き続き船や重りの手配,
これに要する費用や時間等の謀議がなされているほか,A1の指示に従って自ら甲の携帯電話機からUのママあてに虚偽内容の電
子メールを送信したことなどに照らすと,この時点で,被告人は本件殺人の態様や手段に関するほぼ全容を理解していたものと認められる。そして,被告人が上記謀議を遂げた後にいったん帰宅したほか,被告人ら3人の間では,A1が主導権を握っていたものの,その間に強固な支配服従関係があったとは認められないことなどに照らすと,被告人には,その意思に基づき本件犯行から離脱する機会と時間が十分にあったとみるべきである。それにもかかわらず,被告人は,甲の殺害とそれに至る経過を確定的に認識しながら,再び本件居室に戻り,上記謀議から殺害の実行に至るまで通算しておよそ19時間にもわたる間,A1及びA2と共に行動して,本件殺人の犯行に対する関与を継続したものである。そして,この間被告人は,甲を本件駐車場に運ぶため前記自動車(H)を借り受け,A1らが外出中に単独で甲の見張りをし,同駐車場では証拠となるタオルケットなどを海中に投棄した上,周囲の様子を見張り,船から戻ったA2を出迎えて送り届けるなどしており,本件犯行の遂行に密接に関連する重要な役割を果たしている。さらに,被告人は,犯行後においても,甲の部屋を掃除した上で,同人の出奔を装う電子メールを継続して送信するなど,自ら罪証隠滅行為にも及んだものである。
このように,本件謀議の態様やその内容,一連の犯行の経過やそ
の中で被告人が果たした役割,犯行後の被告人の行為等にかんがみれば,被告人は,本件において,A1及びA2と甲の殺害という目標に向けて一体となり,その不可欠の一員として自ら本件殺人の遂行に重要な役割を果たし,相互の役割分担を利用し補充し合って,被告人ら3人の共同意思を実現したものと評価することができる。したがって,甲の殺害について被告人に固有の直接的な動機ないし利益が見当たらないことや,被告人が基本的にA1の指示に従って行動したことなどを考慮しても,被告人は,本件殺人の共謀共同正犯としての責任を免れないというべきである。
以上のとおりであるから,弁護人の前記主張はすべて採用できない。【法令の適用】省略
【量刑の理由】
本件は,被告人が,ほか2名と共謀し,被害者をその自宅から拉致してマンションや自動車内に21時間余りにわたって監禁したほか,その間に首謀者が被害者の言動に立腹してその殺害を決意すると,その実行を持ちかけられた被告人も,他の共犯者と共に共謀に加わった上,3人で被害者を港まで運んだ後に,共犯者が被害者を小型船舶で海上に運び出し,
その背部をナイフで多数回突き刺して殺害したという事案である。このような罪質や結果を考慮しただけでも,本件は事案自体として重大かつ悪質なものである。
しかも,本件殺人の犯行において,被告人らは,無理やり服用させた睡眠薬の影響により既に抵抗できない状態にある被害者をあらかじめ用意した船舶に乗せた上,重りをつけたり鎖で縛ったりして死体が発見されることを防ぐ措置を施した後に,背部をナイフで多数回刺してそのまま海に投げ入れたもので,その犯行態様は残虐極まりなく,極めて冷酷かつ凶悪なものである。その上,被告人らは,被害者の殺害を決意してから,凶器や船舶等の犯行用具を準備したり,被害者を運搬する自動車を借り受けたり,さらには,被害者の所持品を処分したり,被害者の携帯電話機から関係者に自発的な失踪を装う電子メールを送信したりして,犯行の発覚を防ぐための偽装工作を施すなどしたもので,強固な意思に基づく計画的な犯行でもある。
また,本件逮捕監禁の犯行においても,被告人らは,いったん取り逃がした被害者をその自宅で発見するや,こもごもその頭部等を手拳や特殊な凶器で殴打するなどの激しい暴行を執拗に加えた上,自動車に押し込んで首謀者の管理するマンションの居室に拉致した後,再度被害者を自動車に押し込んで東京港の埠頭まで搬送するなどして,長時間にわたる監禁を続けただけでなく,被害者の手足を緊縛したり,睡眠薬を2度にわたって飲ませたりしたもので,その犯行態様も甚だ悪質である。さらに,被告人らは,事前に謀議を遂げた上,各自が分担して,監禁場所のほか手錠や凶器等の犯行用具を用意したり,レンタカーを借り受けたりして実行を準備し,3人で被害者の入店が確認された飲食店前に集合して待ち伏せるなどしたもので,十分な計画性も認められる。
他方,被害者が,被告人らに金銭的な迷惑を掛けたり,執筆した出版物で共犯者らを中傷する行為に及んだ経緯があったことは否定できず,被告人らとの関わりにおいて被害者に責められるべき点がなかったとはいえない。しかし,このような事情は,被告人らが本件のような凶悪な犯行におよんだことを正当化し得るものでないことはもとより,怒りに任せて暴力的な復讐を図った被告人らの行為は,極めて短絡的なものというほかない。そして,被害者は,長時間にわたる逮捕監禁により甚だしい心身の苦痛を味わわされた挙げ句,38歳という年齢で突然に生命を奪われたもので,その無念さは計り知れない。また,その遺族が深い悲しみと峻厳な処罰感情を示している心情も,当然のものというべきである。しかるに,被告人からは,未だに何らの慰謝の措置も講じられていない。
そして,被告人は,被害者が出入りしていた飲食店のホステスと連絡を取り合い,
被害者の動向に関する情報を収集して首謀者に伝えるなど,
被害者の所在を突き止めるに際して中心的な役割を果たした上,本件逮捕監禁の実行に当たっては,自ら同店の前で被害者を待ち受け,その入店を確認して共犯者らに連絡をとったもので,同犯行において被告人の果たした役割が重要かつ不可欠なものであったことは明らかである。なお,
弁護人は,
被告人が同犯行に関する事前の謀議に加わっていない上,
被害者に加えた暴行も近づいてきた同人を反射的に1回足蹴りしただけであると主張する。しかし,この主張に沿う被告人の公判供述は,前記認定の事実経過や共犯者の供述等に照らして,信用性に乏しいものといわざるを得ない。また,被告人は,本件殺人の犯行においても,実行行為こそ担当していないものの,被害者を運搬するためのレンタカーの借受けや道案内等の実行に向けた準備行為のほか,被害者を自動車から船に移す際の見張りや同人の関係者に対する電子メールの送信などの犯跡隠蔽工作や罪証隠滅行為などを積極的に担当したもので,殺人の実行に密接に関連する重要な役割を果たしている。さらに,被告人は,逮捕後も,友人との口裏合わせを利用し,自己名義で借りたレンタカー等の客観的な証拠とも整合するような虚偽の供述を行って,罪責を免れようとしたほか,公判段階に至っても,自己の関与を極小化させた内容の不合理な弁解に終始しており,真摯な反省の姿勢はうかがえない。
以上によると,被告人の刑事責任は重いというほかない。
そうすると,
本件各犯行において被告人が従属的な立場にあったこと,
被告人が,被害者の殺害に関与したことについては,それなりの反省の態度を示していること,被害者の父親が出廷し,被告人を宥恕する意向を表明していること,被告人の母親や知人が社会復帰後の支援を申し出ていること,被告人の現在の精神状態や前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情に加え,共犯者に対する刑との均衡を考慮しても,上記のような本件の罪質,態様や被告人の果たした役割等に照らすと,被告人に対しては,主文掲記の刑をもってその罪を償わせるのが相当と判断した。
(求刑懲役13年)
平成18年3月27日
東京地方裁判所刑事第7部

裁判長裁判官


橋徹
裁判官

水上
裁判官

川尻周恵理子
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