判例検索β > 平成17年(わ)第1334号
窃盗、毒物及び劇物取締法違反被告事件
事件番号平成17(わ)1334
事件名窃盗,毒物及び劇物取締法違反被告事件
裁判年月日平成18年3月14日
裁判所名・部神戸地方裁判所  第4刑事部
結果その他
判示事項の要旨財物性否定,可罰的違法性否定(いずれも排斥)
裁判日:西暦2006-03-14
情報公開日2017-10-13 01:40:04
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主文
被告人を懲役1年10月に処する
未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
神戸地方検察庁で保管中のポリ袋入りシンナー1袋及びビン入りシンナー1本を没収する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1

平成17年6月13日午前3時25分ころ,
神戸市a区bc丁目d番e号株式会社AB

店において,同店店長C所有の単三乾電池4本入りパック等2点(時価合計796円相当)を窃取し
第2

同年10月21日午前10時50分ころ,同市同区fg丁目h番i号先j橋高架下
において,興奮,幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であって,政令で定めるトルエンを含有するシンナーをみだりに吸入し
第3

同月24日午前6時ころ,同市k区l町m丁目n番o号D寺内において,興奮,幻
覚又は麻酔の作用を有する劇物であって,政令で定めるトルエンを含有するシンナー約103ミリリットルをみだりに吸入する目的で所持し
第4

同月24日午前6時ころ,上記D寺内E前において,同所設置のさい銭箱から,E
住職F管理に係る現金2円を窃取し
たものである。
(証拠の標目)
省略
(累犯前科)
被告人は,1)平成14年3月20日神戸地方裁判所において窃盗未遂罪,毒物及び劇(
物取締法違反罪により懲役1年6月(3年間執行猶予,平成15年1月15日その猶予取消し)に処せられ,平成17年4月15日その刑の執行を受け終わり,2)平成14年6(
月27日神戸地方裁判所において毒物及び劇物取締法違反罪,窃盗未遂罪により懲役1年2月に処せられ,平成15年10月25日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。
(法令の適用)
省略
(弁護人の主張に対する判断)
1
弁護人は,判示第4の事実について,被害物件の現金2円は財物には該当せず,また
,被告人の行為には可罰的違法性すなわち刑罰に値する違法性が存しないので被告人は無罪であると主張する。そこで,以下,これらの点につき当裁判所の判断を示す。2
財物性について
刑法上の財物とは,財産権とくに所有権の目的となりうべき物であって,社会通念上
保護に値すると認められるものをいうところ,

これを本件についてみるに,本件被害物

件は,国内における基本的な支払手段であり,また,あらゆる経済的価値の基準であって,いわば経済的価値そのものというべき金銭であることから,その数量にかかわらず,社会通念上保護に値するものであることは明らかである。
よって,本件被害物件である現金2円は,刑法上の財物に該当し,この点に関する弁護人の主張は採用できない。
3
違法性について
構成要件に該当する行為であっても,その動機,態様,被害の程度等に照らし,法秩
序全体から見て,刑罰をもって臨むほどの違法性を有しないときは,犯罪として不成立となる余地がないとはいえない。
しかしながら,

本件行為は,ジュース代欲しさに,容易に外から手を差し入れる

ことのできない構造で,回収用受け皿に施錠もされていたさい銭箱を引き倒し,そこから転がり出たさい銭を持ち去ろうとしたものであって,動機は,利欲的なものであるし,態様も,管理者による排他的な占有を積極的に侵害するものである。また,結果的に金額としては2円という僅少なものにとどまったが,上記のとおり,金銭は,その数量にかかわらず社会通念上保護に値するのみならず,

被害者からすれば,たとえ2円であっても

,参拝者の提供したいわゆる浄財として宗教的価値を見い出し,しかるべき用途に使いたいという主観的価値を有するものである上,本件は,管理者による回収時期の関係で犯行時において偶々さい銭が少なかったに過ぎないことからすれば,被害金額のみを捉えて法益侵害の程度及び行為の持つその危険性を軽視することはできない。以上のとおり,

本件犯行は,その動機,態様,被害の程度等に照らしても

,法秩序全体から見て刑罰をもって臨むほどの違法性がないとは到底言えず,
したが

って,この点に関する弁護人の主張も採用できない。
(量刑の事情)
本件は,コンビニエンスストアでの乾電池の万引き1件(第1事実)シンナー吸入1件,
(第2事実)シンナーの吸入目的所持1件(第3事実)及び寺院でのさい銭盗1件(第4,
事実)の事案であるが,いずれもその動機に酌むべき事情はない。なお,被告人は,公判において,判示第3のシンナー吸入目的所持及び同第4のさい銭盗の動機について,当時は捕まって刑務所に入りたかったなどとしながら,公判の途中からやはり刑務所に行くのはいやだと思うようになったと述べるが,各犯行は敢えて人気のない時刻・場所を選んで行われていること,さい銭盗の発覚直後,盗んだ硬貨を投棄して罪証隠滅行為に及んだり,駆け付けた警察官に対して反抗的態度をとっていたこと,捜査段階では,刑務所に行きたかったからなどという供述はしておらず,むしろ,さい銭盗については未遂であるなどと弁解していた時期もあることからすれば,被告人の上記公判供述は不自然であり,信用することができない。
そして,被告人の前記各前科は,いずれもさい銭盗未遂及びシンナーの吸入目的所持によるものであり,ことに,被告人が前刑終了後2か月経たないうちに判示第1の窃盗に及んでいることも考えあわせると,被告人の規範意識の鈍磨は顕著であって犯情はよくなく,被告人の刑事責任は重いと言わなければならない。
他方で,各窃盗による被害は,いずれも金額が少額である上,その被害も回復されていること,被告人は,身体に障害を有し,地域でいじめにあっている形跡もある一方で,自分なりに就職口を探していたこと,被告人の実母が被告人の更生に向けた環境作りを申し出ていることなど,被告人のために酌むべき事情も認められるので,以上の事情を総合考慮して,主文の刑を定めた。
(求刑

懲役3年,所持にかかるシンナー没収)

平成18年3月14日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判官

佐茂剛
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