判例検索β > 平成16年(わ)第1112号
殺人
事件番号平成16(わ)1112
事件名殺人
裁判年月日平成18年3月6日
裁判所名・部神戸地方裁判所  第1刑事部
結果その他
判示事項の要旨共謀否定(排斥)
裁判日:西暦2006-03-06
情報公開日2017-10-13 01:40:05
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主文
被告人を懲役11年に処する
未決勾留日数中370日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,内縁の夫であったA及びBと共謀の上,Aの実兄であるCの妻でかねてから確執のあったDを殺害しようと企て,平成11年8月26日午前1時ころ,神戸市E区F町a丁目b番c号Gd号室の同女方居宅において,Bが,同女(当時64歳)に対し,殺意をもって,その頸部等を園芸用のはさみ(刃体の長さ約6.2センチメートル)で数回突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,同女を右総頸動脈及び右内頸静脈切損による失血により死亡させ,もって,同女を殺害したものである。(証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略
(事実認定の補足説明)
1
弁護人は,A及びBと被告人との間の共謀の存在を争い,被告人は本件に関与してい
ないから無罪であると主張し,被告人も一貫してこれに沿う供述をしているので,以下,その主張を排斥して共謀を肯認した理由について,補足説明する。2
関係各証拠によれば,おおむね動かし難い事実として,以下の諸事情を認めることが
できる。
(1)

被告人は,
Aの兄で資産家であるCの妻であった被害者のことを,
Cの有する莫大

な財産をねらって結婚したものと考えていた上,Aや被告人に前科があることや被告人に売春歴があることなどを理由に被告人らを馬鹿にしているものと考え,被害者を疎ましく思っていた。
また,本件の実行犯であるBは,平成11年6月ころ,内縁関係にあったHと共に,被告人らを頼って高知県から神戸市に出てきて,被告人らの居宅の近くで暮らしていた。
(2)

Cは,
平成9年12月に腸閉塞の手術を受けてから寝たきりの状態になっていたが
,被告人らは,上記の事情に加え,毎日のように午後10時ころから午前2時ころまでAがCの世話をしなければならないのは,被害者がCの世話を十分にしていないからであるとして,被害者に対する嫌悪感を更に強めていた。さらに,Aは,同月16日ころ,C宅でお茶を飲んだ際に顔がゆがむなど体に変調を来したことがあったことから,そのような症状は覚せい剤を混入されたためである旨の被告人の言葉を信じ,被害者が覚せい剤をお茶に混ぜるなどしてCらの健康を害そうとしたものと邪推して憎しみを募らせ,被害者を殺害しようと決意した。
(3)

Aは,
自分一人では被害者を殺害することができないと考えて,
Bに殺害を依頼す

ることにし,上記の事情等を話して,1000万円の報酬で被害者の殺害を依頼したところ,Bはこれを承諾した。そこで,Aは,被害者の自宅をBに教えるなどして,被害者殺害の準備を進めた。
また,Aは,被告人に対し,Bに被害者の殺害を依頼したことを話した上で,被告人がBとAとの連絡役になるよう依頼したところ,被告人も,被害者の殺害に同意した上で,これを引き受けた。そこで,Aは,Bに対しても被告人が連絡役を務めることを伝えた。
さらに,被告人らの居宅にBが来て被害者の殺害方法等について話し合いをした際には,被告人もその場に居合わせ,Bに対し,こんな悪いお姉さんがお兄さん(Cの意)

が亡くなったら財産が全部いくんやで。そんなあほらしいやろ。「あんたも遊んでるやろ

。金が欲しいやろ。いい話やろ。などと被害者の殺害を促すような発言をしたほか,Aの」
指示を受けないままで,Bに対して報酬を1億円に増額するという話をすることもあった。
(4)

Bは,本件犯行当日,Hを伴って被害者宅に赴いた上,判示のとおり被害者を殺害
した。犯行後,Bは,被告人らの居宅に赴き,まず被告人に被害者を殺害したことを報告し,その後,被告人から連絡を受けて同人宅に駆けつけたAにも報告した。その際,Aは,

ちょっと早かったな。

などと言ったものの,Bが被害者を殺害したこと自体には特に異議を唱えることはなく,この点は被告人においても同様であった。その後,Aの指示で被告人がB及びHの逃走資金を用意することになり,翌日被告人が60万円をHを介してBに与えた。
(5)

平成12年6月ころ,
Bが本件犯行の報酬の支払いをAに要求してきたことから,

Aは,約束どおり1000万円を同人に支払うため,被告人にI駅でBの父親であるJに額面1000万円の割引K銀行債券(以下割引債という。を渡すように指示し,被告)
人は,この指示に従い同所においてJに上記割引債を交付した。
3
本件の首謀者であるAは本件公判の途中で,実行担当者であるBは本件公訴提起前に
それぞれ死亡しているので,以上の事実は,主にAの捜査段階における供述及びBの当時の内妻であるH供述によるものである。以下,その信用性について補足説明する。まず,Aの供述について検討すると,その内容は殺人の実行を依頼した点など自己に不利益な事項を詳細かつ具体的に供述するものである上,Bと被害者殺害に関する話し合いを重ねた様子,Bに本件の報酬として1億円を支払うという話をしたと被告人から聞いたことなど,後記のH供述とその根幹部分において符合しており,相互にその信用性を補強し合っている。また,被告人に対しJに1000万円の割引債を渡すよう指示したとの点は,Jの供述によって裏付けられている。さらに,Aは記憶のはっきりしている点とあいまいな点とを明確に分けて供述し,検察官からの追及に対し自らの言い分は言い分として供述しているのであって,任意性に富んだ状況の下で供述当時の記憶に従って供述していることがうかがえる。のみならず,Aは被告人とほぼ20数年間夫婦として生活していたものであり,被告人を信じているので被告人がBに対しCが死亡する前に被害者を殺害するよう促したことはないと思う旨供述したり,被告人に対し寛大な処置を願う旨供述するなどしているのであって,殊更虚偽を述べて被告人に責任を転嫁するような供述態度は見受けられない。したがって,A供述の信用性は高いと認められる。次に,H供述の信用性について検討すると,反対尋問に動揺するところはなく,その内容も被害者に対し何ら固有の動機を有していないBが被害者を殺害するに至る理由を説明するものであって,十分に自然かつ合理的であること,上記の諸点においてA供述とも一致しており,相互にその信用性を補強し合っていることに加え,本件被害者の殺害の前後にBと行動を共にし,被害者の殺害後現場の指紋をふき取ったことや,覚せい剤使用の事実など,自己に不利益な内容についても率直に供述しており,被告人を罪に陥れるような事情もうかがわれないことなどに照らして,その信用性は十分である。これに対し,被告人は,Aが被害者を殺害しようとしていることは聞いたことがあるものの,それ以上に本件に関与したことはない旨供述する。しかしながら,その供述内容は上記の事実関係に反する上,捜査段階からその内容があいまいで,Aが被害者殺害の意図を有しているのを認識していたのか否かや被害者殺害後の被告人の行動といった点において一定しないものがあることや,その内容には,犯行当日は睡眠薬を飲んでいたため眠っていたと供述するなど,Hらに口裏合わせを依頼した内容と合致する点が含まれていることなどに照らして,到底信用できない。
4
検討
そこで,以上の事実関係を前提にして,被告人の本件についての関与の有無程度を検
討すると,被告人は,Aらが被害者の殺害を企図していることを十分知りながら,Bとの連絡役を引き受けた上,犯行後にはBから犯行の報告を受けてAに伝達し,後には本件の報酬を交付するなど,実際に連絡役としての役割を果たしている。
そして,被害者と何

らの接点のない実行犯のBを本件犯行に誘い込み,同人に本件犯行を実行させることは,自らの犯行であることを隠蔽しようとしたAにとって必須であったのであり,被告人がBとの連絡役となることも,Cの看病等のため留守がちでBと緊密な連絡を取ることが困難であったAにとって欠かせないことであったと解される。したがって,被告人は,本件の不可欠で重要な部分を担当したというべきである。
また,被告人は,Bに対し自ら被害者の殺害を促すような発言をしている上,Bとの間でいったんは1000万円と決定された報酬額について,Aとその増額について話をしたというだけであるのに,同人の指示によることなく,自らBに報酬が1億円になった旨の話をするなどしていることからすると,被害者殺害に積極的であったと認められる。さらに,被告人は,上記のように被害者を疎ましく思っていたことに加え,被害者を殺害した後にCが死亡すれば,Aが多額の遺産を手にする結果,同人と経済的に一体で当時他に収入を得るさしたる手段を持っていなかった被告人にとっても経済的に相応の見返りがあることは見やすい道理であり,実際に被告人においても,上記のように,被害者にCの遺産が渡ることは阻止したい旨の口吻を漏らしていた。このように,被告人が本件に関与する動機についても,十分首肯できる。
以上によれば,被告人は,A及びBと被害者を殺害する旨の意思を相通じ一体となって本件犯行を敢行したものといえるから,被告人に被害者殺害の共謀共同正犯が成立することは明らかである。
なお,弁護人は,Aが世間話として被害者に対する不満を漏らしたのを,覚せい剤中毒であったBが本気のことと受け取って暴走したのが本件の真相である,と主張する。しかしながら,そもそも本件殺害計画は相当に具体的である上,実行犯の報酬等も定められていたのであるから,これを単なる世間話程度のものとみることは到底できない。加えて,Bが被害者の殺害後直ちに被告人らにそれを報告していること,また,被告人及びAもこれに何ら異を唱えることなく報酬等を与えていることをも考え合わせれば,Bが被告人らと共謀を遂げ,それに従って本件を実行したことは明らかであり,Bが上記共謀と無関係に独自に本件を敢行したとは認められない。
以上のとおり,弁護人の主張は理由がない。
(累犯前科)
被告人は,平成5年8月27日L地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役2年に処せられ,平成7年7月27日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書(乙37)によって認める。
(法令の適用)
被告人の判示所為は行為時においては刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法199条に,裁判時においては刑法60条,その改正後の刑法199条に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑によることとし(その有期懲役刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるので,上記同様に刑法6条,10条により軽い行為時法のそれによる。,所定刑)
中有期懲役刑を選択し,前記の前科があるので,刑法56条1項,57条により前記改正前の刑法14条の制限内で再犯の加重をした刑期の範囲内で,被告人を懲役11年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中370日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。(量刑の理由)
本件は,被告人が内縁の夫らと共謀の上,内縁の夫の兄の配偶者を殺害したという殺人の事案である。
犯行に至る経緯は前記のとおりであって,その短絡的で身勝手極まりない動機に酌量の余地はない。また,本件は,高額の報酬を約束することで被害者との接点がない共犯者を実行担当者として誘い込んだ上,自ら手を下すことなく被害者を殺害させるに至ったもので,誠に狡猾かつ冷酷で計画的な犯行である。
被害者は,何ら落ち度がないのに自分のあずかり知らぬところで策謀を巡らされ,突然その生命を奪われたものであり,その肉体的苦痛や無念さには想像を絶するものがあると思われ,かけがえのない命を奪った犯行の結果は重大である。また,捜査当局が懸命に捜査したとはいえ,本件の真相が判明するまでには長期間が経過しており,その間,本件犯行が近隣住民に与えた不安感にも大きいものがあったと認められる。さらに,被害者の遺族は,公判廷において,良き母親であった被害者を失った悲しみを述べるとともに,被告人に対し真相を明らかにしてほしいなどとその心情を吐露しており,その処罰感情にも厳しいものがある。
そして,実行犯を本件に誘い込むなどして殺害を実行させ,犯行後には報酬等を交付した被告人の役割にも,非常に大きいものがある。
しかるに,遺族に対する慰謝の措置は何ら講じられていないばかりか,被告人は,自己の関与が発覚することのないよう実行犯と口裏合わせをするなどした上,捜査段階から本件への関与を否認して不自然,不合理な弁解に終始しており,反省の情や後悔の念が認められないところであって,犯行後の事情も甚だ芳しくない。しかも,被告人にあっては,売春防止法違反,詐欺,覚せい剤取締法違反の罪による前科14犯(服役前科4犯を含む。を有しており,規範意識の希薄さもうかがわれる。以上の諸事情に照らすと,被告人の)
刑責は重大といわざるを得ない。
しかしながら,他方では,本件の首謀者は内縁の夫であり,被告人自身は従属的な立場にあったことなど,被告人のために酌むべき事情も認められるので,以上の事情を十分考慮して刑を量定した。
よって,主文のとおり判決する。
平成18年3月6日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官

的場純男
裁判官

西野吾一
裁判官

三重野

真人
トップに戻る

saiban.in