判例検索β > 平成17年(わ)第666号
殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反
事件番号平成17(わ)666
事件名殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反
裁判年月日平成18年3月15日
裁判所名・部和歌山地方裁判所  刑事部
結果その他
判示事項の要旨暴力団関係者である被告人両名が,深夜繁華街の路上で,1丁ずつ所持するけん銃から合計8発の実弾を男性めがけて発射し,同人に重傷を負わせるとともに,その流れ弾により通行人に軽傷を負わせた殺人未遂,銃刀法違反事件について,それぞれ懲役17年と懲役13年が言い渡された事例
裁判日:西暦2006-03-15
情報公開日2017-10-13 01:40:04
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主文
被告人Aを懲役17年に,被告人Bを懲役13年に処する
被告人らに対し,未決勾留日数中各80日を,それぞれその刑に算入する。
被告人Aから,押収してある回転弾倉式けん銃1丁を没収する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人Aは,暴力団C組の若頭補佐だったものであるが,平成17年10月8日にC組を破門されたDが,その後も和歌山市内の繁華街である通称Eを従前どおり飲み歩き,知人らに対し,破門は同組若頭代行のFが仕組んだものであるとか,破門前と同様にEへ出歩いていても,文句を言える者は同組内に一人もいないなどと言い回っていると伝え聞いて,C組に対する挑戦的で許し難い態度であると立腹していたところ,若頭代行のFが,Dに制裁を加えないどころか,同人を恐れて避けている様子すら見受けられたことから,このままDを放置すればC組の面子が潰れてしまうとして,自分の手でDに制裁を加えようと考え,これを確実に成功させるため,けん銃を用いた先制攻撃により同人を殺害しようと決意した。被告人Aは,同月21日午後6時ころ,Fの運転手兼付き人的立場にあったC組周辺者の被告人Bを誘って,和歌山市G所在の居酒屋に赴き,同人と飲酒した際,被告人Bから,Fが相変わらずDを怖がりDに制裁を加える様子がないのを聞き知るや,いよいよ前記決意を固め,一人で知人が経営する会社の事務所に向かい,隠匿していた回転弾倉式けん銃に実包を込めた上,これを持って上記居酒屋に戻り,同日午後11時40分ころ,被告人Bを同店の前に呼び出し,同人に対し,

俺がDにけじめつけるから,お前のそのチャカ貸せ。

などと申し向け,同人に護身用に貸し与えていた自動装てん式けん銃を返還するよう求めるなどした。被告人Bは,被告人Aの言動から,兄貴分同様に慕っていた被告人Aが,言外にDを殺害すべく直ちに襲撃に向かう意図であることを察知し,これまでDから理不尽な暴力や脅迫
を受けてきて憤懣を募らせていたことに加え,そうした仕打ちを受けた話が意に反してC組に伝わり,Dの破門の一因となったと知らされていたため,Dからの報復を強く恐れてもいたことから,けん銃の返還を強く拒んだ上,被告人AとともにDをけん銃で殺害しようと決意し,被告人Aに同行を申し出,被告人Aにおいても,被告人Bの意図を察知してこれを了承し,被告人Bに車の運転を命じて共にDを捜すことにした。
(罪となるべき事実)
被告人両名は,前記のとおり共謀の上
第1

Dを殺害しようと企て,法定の除外事由がないのに,平成17年10月22日午前零時54分ころ,不特定又は多数の者の用に供される場所である和歌山市ab丁目c番d号付近路上において,被告人Aが,電話でその場に呼び出したD(当時35歳)に対し,いきなり所携の回転弾倉式けん銃で弾丸5発を発射し,うち3発をDの胸部等に,1発を同所を通行中のH(当時44歳)の右臀部にそれぞれ命中させ,次いで,被告人Bが,Dに対し,所携の自動装てん式けん銃で弾丸3発を発射し,うち1発をDの右上腕部に命中させたが,Dに全治約3か月間を要する前胸部銃創(2か所),両側血胸,肺挫傷,右上腕銃貫通創等の,Hに加療約2週間を要する右臀部,大腿部銃創の各傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなかった

第2

法定の除外事由がないのに,前記日時場所において,前記回転弾倉式けん銃1丁及び前記自動装てん式けん銃1丁をこれらに適合する実包合計10発と共に携帯した

ものである。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
1
補足説明の必要性

弁護人らは,本件公訴事実を争っておらず,法律上の主張もしていないが,被告人両名の確定的殺意の発生時期について,被告人Aが最初にDに対しけん銃を発射した後,Dが自己の回転弾倉式けん銃を取り出し被告人Aに銃口を向け引き金を引くなどした時点である旨主張し,被告人両名も当公判でこの主張に沿う供述をしていることから,本件の重要な情状事実に関する判断として,以下,被告人両名の確定的殺意の発生時期について,当裁判所の見解を補足して説明する。2
(1)

被告人Aの殺意について
本件犯行態様とその結果について
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
被告人両名が本件現場に赴いた際,被告人Aは,口径0.38インチ(以下,38口径という。)の回転弾倉式けん銃に実包5発を装てんした上,ズボンの腰の部分に差し込んでおり,被告人Bは,口径0.22インチ(以下,22口径という。)の自動装てん式けん銃に実包5発を装てんした上,ズボンの後ろポケットに入れていた。被告人Aは,あらかじめ護身用に貸し与えておいた実包を装てん済みの上記自動装てん式けん銃を被告人Bが所持していることを知りながら,Dを捜すため同行を表明した同人に命じて自己の車を運転させ,自らはその助手席に座っていた。
被告人Aは,本件現場にDが到着し,自車の後方近くに停めた車を降りたことを確認するや,自らも車を降りながら,右手で上記回転弾倉式けん銃を取り出し,その撃鉄を起こしてから,Dの方へ向かったが,その際,被告人Bにその場で待機するよう命じたり,帰宅を促したりすることはなかった。被告人Aは,Dと約1.25メートルの距離で正対し,互いに二言三言怒号し合った直後,上記回転弾倉式けん銃の銃口をDの右大腿部に向けていきなり弾丸を1発発射し,続けてDの胸部や腹部に向けてごく短時間のうちに弾丸を4発発射した。被告人Aが発射した5発の弾丸のうち,3発がDに命中し,1発は同人の左第二肋間から肺を貫通して後ろの第三肋骨を損傷させ,そのやや
上部で上向きに停弾し,背中の皮膚の下あたりまで到達するもので,同人に肺の挫滅や肺間動脈の損傷を生じさせた結果,多量に出血させ(以下,左胸部の銃創という。),他の1発は同人の右第二肋間を通過し,前縦隔の脂肪の中を通過して胸腔内で停弾し,射入口から約13センチメートルの位置まで到達したが,同人の臓器や主要な血管に損傷を生じさせることはなく,残りの1発は同人に右下腿擦過創を生じさせた。Dの左胸部の銃創は,心臓にごく近接したもので,仮に心臓に命中していれば即死の危険性が高かった上,心臓付近に集中する主要な血管を損傷していた場合でも,早期に失血死する危険性が高く,また,本件各銃創についても治療せず約1時間放置すれば,失血等により死亡していた可能性が大きかった。
なお,検察官は,論告において,被告人Aの射撃状況について,Dが本件当時着用していたジャージ上着の破損状況等から,Dが左胸に被弾した際,被告人AにおいてDの着衣の胸倉付近を掴んで同人の身体を押さえ付けた上で,上記回転弾倉式けん銃の銃口を左胸部に接触するほどに突き付けて射撃したものである旨主張するので,検討を加えておく。
なるほど,Dのジャージ上着の繊維が溶融した状況を,そのジャージと同種の生地に対し上記回転弾倉式けん銃と同種のけん銃から実弾を発射した実験結果と照合すると,被告人Aが上記回転弾倉式けん銃でDの左胸部を射撃した際,その銃口から上記ジャージ上着までの距離が5センチメートル以内であった可能性が認められ,その際,検察官が指摘するように被告人AがDの胸倉を掴むなどしていた可能性も全くないとはいえない。
しかし,被害の再現状況に関する説明を含むDの供述においては,被告人Aから胸を撃たれた際,胸倉を掴まれた点には全く触れられていないところ,Dの被害状況に関する供述は,被告人両名の供述とも主要かつ重要な部分において概ね符合する具体的なものであって,被告人Aに胸倉を掴まれた状態で射撃されるという特徴的な被害部分の記憶のみが欠落していたとは考え難い上,被
告人両名に殺害されそうになったDにおいて,被告人Aから胸倉を掴まれ銃口が左胸部に接触するほどの至近距離から射撃されたという被告人Aの情状に関し不利な事柄について,殊更虚偽を述べて被告人Aの刑責を軽減しようとする理由にも乏しく,その供述の信用性は高い。加えて,関係各証拠によれば,Dは,被告人Aから発砲されている途中にそれ以上の被弾を避けるため,被告人Aのけん銃を取り上げようとこれに立ち向かった事実が認められ,その際,Dは,被告人Aから向けられた銃口が自己のジャージ上着の胸部付近に相当接近した状態で被弾した可能性が認められ,前記の繊維の溶融がその際生じたことも考えられる。
そうすると,検察官が主張するような態様で被告人Aが発砲したと認定するには合理的な疑いが残るから,この点の検察官の主張は採用できない。以上の認定事実,とりわけ,被告人Aが,Dに対し,至近距離から,強力な殺傷能力を有する38口径のけん銃で金属製の弾丸を5発も発射し,うち3発をDの身体に命中させ,前胸部に致命傷に近い重大な傷害を負わせた上,その発射状況も,Dに弁明あるいは謝罪の間も与えず先制して1発目を,ほどなく2発目以降を発砲したものであり,実包の装てん状況からみても複数の発砲をする意図であったことが強く推認され,同じく実包を装てんしたけん銃を所持する被告人Bの加勢をも予定していたことが強く推認される本件事実関係の下では,被告人Aが上記の銃撃に際し,1発目の射撃と2発目の射撃の間のごく短い時間内に,Dに対する殺意につきその評価を質的に異にするような心理的な変化があったと認めるに足りる特段の事情がない限り,銃撃当初から確定的殺意を有していたことが推認されるというべきである。
この点,弁護人らは,被告人Aが銃撃当初から確定的殺意を有していたのであれば,あえてDの右大腿部を狙って発砲するはずがない旨主張するが,本件の射撃状況に照らせば,被告人AがDの右大腿部を狙って発砲したか否かはそれ自体からは必ずしも明らかでなく,右大腿部を狙ったとする被告人Aの供述
については,けん銃の試射をしたこともないと供述していることから,その射撃の腕に自信を有していたとは考えられないはずの同人が,Dに致命傷を与えないようにするためにその大腿部のみを狙い撃ちしたということ自体かなり不自然であってにわかに信用することはできないし,仮に右大腿部を狙ったのだとしても,強力な殺傷能力を有する38口径のけん銃を用いて至近距離から発砲していることから,相手方の身体に重大な損傷を与えて失血等により死亡する可能性が高いことは明らかで,被告人Aもそのことを知らなかったとは考えられないし,しかも相手の動きを封じて殺害をより確実なものにするためにそうした可能性も考えられることから,結局,被告人Aの1発目の射撃によりDに右下腿擦過創が生じた事実は,上記確定的殺意の推認を妨げるものではなく,弁護人らの主張は採用することができない。
(2)

被告人Aの捜査段階における供述について
被告人Aは,捜査段階において,本件現場に臨むに当たり,Dに対し,前記回転弾倉式けん銃を用いてその体に弾丸を撃ち込み命を奪おうと決意していた旨繰り返し供述し,銃撃当初から確定的殺意を有していたことを実質的に認めていたものである。
被告人Aの上記供述は,特段の事情のない限り銃撃当初から確定的殺意を有していたことが推認される前記の客観的情況等と非常によく合致するものである上,本件当時暴力団幹部の地位にあった被告人Aにおいて,自己が所属する組の面子を守るためDを殺害するという暴力団特有の論理を抱いて行動したとみても何ら不自然ではないし,被告人Aの他の供述部分に照らしても,Dと喧嘩闘争になることを予期しつつ,腕力に優れるDに負けないために刃物以上に殺傷能力の高いけん銃を準備したと述べている点や,本件当夜被告人Bにけん銃を返還するよう求めた理由についても,Dに対抗するため実弾を発射可能なけん銃が2丁欲しかったためであると述べている点など,被告人Aが確定的殺意を有していたこととよく整合する部分が多々みられることから,その信用性
は高い。
(3)

Dのけん銃所持の点について
弁護人らは,本件犯行経過について,①被告人AがDの右大腿部を狙って発砲し,②その直後,Dが腹部からけん銃を取り出し,被告人Aに銃口を向け引き金を引いたが不発に終わった後,③自己の生命の危険を感じた被告人Aが,Dに対する殺意を確定化させ,同人の胸を狙ってさらに連続して発砲した旨主張しているが,これは,被告人Aによる1発目の射撃と2発目の射撃の間のごく短い時間内に,Dに対する殺意につきその評価を質的に異にするような心理的な変化があったと認めるに足りる特段の事情を主張するものと理解できる。そこで,以下,この特段の事情につき検討する。
被告人両名は,捜査段階から一貫して,被告人Aの最初の発砲後,Dが38口径の回転弾倉式けん銃を取り出し,被告人Aに向けて2回引き金を引いて発砲しようとしたものの,いずれも不発であった旨弁解しているところ,これを一応推認させる事情として,Dが本件現場に乗り付けた車両内から実包6発が発見された事実と,Dの友人であるIが,本件現場に向かう途中のDに対し,C組の者がけん銃を持って本件現場で待ち受けている旨電話で伝えていた事実が認められる。
しかし,Dは,本件現場で自らけん銃を所持していた事実自体を明確に否定している上,その所持していたけん銃を本件後に自ら隠匿したのだとすれば,同人が本件現場から逃げ出して身を隠し,病院に搬送されるまでの間に,本件現場あるいはその周辺において隠匿したものと考えるほかないが,前記のとおりDは瀕死の重傷を負い,しかも被告人Bに背後から射撃され,被告人両名の追撃を受けていたのであって,被告人Aから奪ったけん銃については,駐車場のガレージの屋根の上へ放り投げて隠匿したにとどまり,しかもほどなく本件現場近くの民家の屋根に上って見ず知らずの住人に必死に助けを求めていることからすれば,Dに自己のけん銃の隠匿を優先したいとの心理が働いたとして
も,第三者にけん銃を託す機会や余裕があったとは考えにくく,自ら隠匿できる場所の範囲はかなり限られていたはずであるのに,Dが被告人Aから奪ったけん銃は本件当時の捜索で駐車場のガレージの屋根の樋から容易に発見されている一方で,Dのけん銃は,約30人の捜査員を投入して,本件当日午前6時ころから午後0時ころまで,さらに同日午後1時ころから午後6時ころまで本件現場周辺を捜索し,以後も日をおいて2回捜索を行うなど,捜査機関において相当丹念に探したものとみられるのに,ついに発見することができなかったのである。このような事実関係の下では,Dが自ら所持していたけん銃を隠匿した可能性は低いといわねばならない。また,本件現場やその周辺に投棄ないし放置されていたDのけん銃を第三者が隠匿した可能性についてみても,Iが事件発生最中に警察に通報したことから,速やかに警察官が臨場しており,本件当日午前2時には既に本件現場の実況見分が開始されていたことなどに照らすと,早期に臨場した警察官らが現場を保存などする前に第三者が隠匿する可能性は元々低かったとみられる上,発砲事件が起きた直後の路上で一般通行人がけん銃を拾得し,そのまま警察に届けなかった可能性はまず考えられないし,Iを含むDの知人らについても,見つけたけん銃がDのものと識別できなければ,Dのために隠匿しようとは考えないはずであり,識別できた場合でも,隠匿が発覚すれば自己も厳しく責任を問われることは,容易に予想し得るところであるから,Dのためにあえて法禁物たるけん銃を隠匿しようとする者はまずいないとみてよく,第三者による隠匿の可能性も極めて低いといえる。さらに,D側の事情を検討するに,C組を破門された後のDの言動が同組に対する挑戦に等しいと被告人Aに受け取られる結果になったことはともかくとして,Dが意図的にC組を挑発して自らの命に関わるような制裁を招くことを予想していたものとは到底考えられない上,Dが自車内に実包6発を所持していた態様も,セカンドバッグの中に入れられたナプキンに包んでいたもので,うち5発についてはさらに油紙にも包まれテーピングもされていたのであるか
ら,予備弾としても即時使用可能な状態になかったことは明らかであり,これらの事情を総合的に考慮すれば,Dが法禁物であるけん銃を身に付けあるいは自車内に常時隠匿していたとはにわかに考え難い。しかも,Dは,本件当日午前零時33分ころから4分44秒間,和歌山市内のJ付近において,被告人Aと電話で話し,その呼出しで直ちに本件現場に向かい,同日午前零時50分過ぎには本件現場に到着しており,Iと電話で話したのも本件のわずか数分前のことにすぎないという本件経緯の下では,Dが自宅等に立ち寄ったり,第三者から受け取るなどしてけん銃を調達した可能性は非常に低いというべきである。この点,百歩譲ってDが被告人Aの呼出しに応じて本件現場に赴くまでの間にけん銃を入手する時間的な余裕があったとしても,被告人Aとの通話状況や,Iから被告人Aがけん銃を所持している旨伝えられたことから,直ちに生命の危険を感じて自らもこれに対抗すべくけん銃を調達したものとみるのは飛躍があり,Dが本件現場で被告人Aと対峙した場面でさえ,

なんで,なーちゃんよ。

と述べ,同人から敵意を示される理由を解しかねる様子であったことや,被告人Aに射撃された後も,「弾くんか。」と述べ,銃撃を想定していなかったともみられる発言をしていること,Dが喧嘩の強さに自信を持っていたと推察されることなどに照らせば,むしろ,けん銃を所持して本件現場に臨むほどの切迫感や必要性を感じていなかったとみる方がはるかに自然である。なお,Dが被告人Aに撃たれた後,そのけん銃を奪い,被告人Bに向けて発砲しようとした点については,関係各証拠に照らし,弁護人らが主張するとおりと認められるが,Dがその点をあえて供述しなかったのは,被告人両名において,Dがあらかじめ所持し,被告人Aに向けて発砲しようとしたと主張するけん銃が,被告人Aのものと同じ38口径の回転弾倉式けん銃であるとされていたことから,実包を所持していた罪で現に勾留されていた状況にあって,被告人Bに対しけん銃を発砲しようとしたことを認めれば,自らもその刑責を問われたり,自己のけん銃所持の疑いを強めたりするおそれが高いと判断したものとして十
分了解可能であるから,Dの前記供述状況を根拠として同人のけん銃所持を疑うのは相当ではない。
これらの点に加え,被告人両名の供述にも多くの疑問がみられる。まず,被告人Aの当公判での供述によれば,Dは,被告人Aから右大腿部を撃たれた直後,ジャージ上着をまくり上げ,ジャージズボンと腹の間から38口径とみられる回転弾倉式けん銃を取り出し,2回引き金を引いたが,不発に終わったというのであるが,実包が装てんされているはずの回転弾倉式けん銃が2発も続けて不発に終わったとする点において,既にかなり不自然である上,関係各証拠によれば,Dが本件当時薄手のジャージ上下(そのズボンはゴムバンドとみられる。)を着用していたと認められる一方で,ベルトを締めていたなどの事情は窺われないのに,同人が被告人Aと対峙した際,相当の重量があるはずの38口径の回転弾倉式けん銃を腹部とジャージズボンの間に挟んでいることができたのか疑問があるし,被告人Aが述べるように至近距離から1発目の発砲をした後,Dの態度を見極めていたというのであれば,Dがけん銃を取り出す様子を見せた時点で,その反撃の意図は明白であり,既にDに向けて銃口を構えた圧倒的に優位な体勢にあったから,直ちに2発目の発砲をしてしかるべきであるのに,Dが銃口を被告人Aに向け,さらに引き金を2回も引くまで何もしなかったのは非常に不自然である。しかも,被告人Aは,捜査段階においては,まさしくDがけん銃を取り出した時点で2発目を発砲したとし,その後にDがけん銃の銃口を被告人Aに向けて引き金を引いてきたと述べだしたのであり,供述内容が合理的な理由なく変遷している。また,Dが真実けん銃を所持していたのであれば,被告人両名の供述の中に,Dが被告人Aに掴みかかっていった後のDのけん銃の状況(例えば,Dがそのけん銃を鈍器として殴りかかるとか,これを投げつけるといった行動が考えられる。)が表れていてしかるべきであるのに,この点が全く表れておらず,非常に不自然である。仮に,Dが銃撃を受けたためその場にけん銃を取り落としていたのだとすれば,そのこ
とが被告人両名の供述に表れるか,少なくとも大きな音がして,現場付近にいた他の者のうちの誰かが覚知していても不思議はないのに,そのような形跡もなく,やはり不自然である。さらに,Dがけん銃を取り出したところを見たとする被告人Bの供述も,その際,被告人Aと約10.5メートル離れた地点にいたというのであるが,被告人Bが被告人Aの後に続いてDに駆け寄っていったとするD及びIの各供述並びにこれと合致するKの供述に明らかに反していることから,その信用性は低い。
以上に照らせば,Dが本件現場においてけん銃を所持していなかったこと,したがって被告人Aに向けて発砲しようとした事実もなかったことは,合理的な疑いを差し挟む余地なく認められ,この点に関する弁護人らの前記主張は採用することができない。そして,弁護人らが主張する事情以外に,被告人Aが銃撃当初から確定的殺意を有していたとの推認を妨げるに足る前記特段の事情は何ら見当たらない。
(4)

結論
これまで詳細に認定説示してきたとおり,本件事実関係の下では,特段の事情がない限り,被告人Aが銃撃当初から確定的殺意を有していたことが推認されるところ,そのような特段の事情はなく,上記推認が被告人Aの捜査段階の供述ともよく合致しているのであるから,被告人Aが最初にDを射撃した時点で,既に確定的殺意を有していたものと認められる。

3
被告人Bの殺意について
前記のとおり,被告人Aが銃撃当初から確定的殺意を有していたこと,Dが本件現場においてけん銃を所持していなかったことを前提に,被告人Bの殺意について検討すると,関係各証拠によれば,被告人Bは,自分のことが原因の一つとされてC組を破門されたDからの報復を極度に恐れ,被告人Aから護身用に22口径の自動装てん式けん銃を借りて,これに実包を装てんしたまま持ち歩いていたところ,本件当夜飲酒していた居酒屋の前の路上で,被告人Aから,

俺がDにけじめつけるから,お前のそのチャカ貸せ。

と言われて,前記けん銃の返還を求められ,さらに,被告人Aからその場に残れと強く言われていたのに,進んで同人に同行することを申し出てその了承を得た上,上記けん銃を携帯したまま同人の車を運転して本件現場に赴き,Dが本件現場に現れた後も,既にDに向けて5発を発砲した被告人Aに加勢して,自らもDに対し,その胸部や背部を狙って上記けん銃で3発を発砲し,右上腕銃貫通創の傷害を負わせていることに加え,被告人Bは,捜査段階において,Dを殺害し損ねれば後日必ず報復を受けることになるので,被告人Aから残るよう言われこれを拒否したときにはDを射殺する決意であった旨の供述もしており,その信用性を疑わせる事情も見当たらないことなどの事情を総合すれば,被告人Bが被告人Aに対し同行を申し出た時点において,既にDに対する確定的殺意を有しており,このような確定的殺意に基づき本件が実行されたことは,優に認められる。
(累犯前科)
省略
(法令の適用)
被告人両名の判示第1の所為のうち,各けん銃発射の点はいずれも包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条,3条の13に,殺人未遂の点は被害者ごとにいずれも刑法60条,203条,199条に,判示第2の所為は,包括して刑法60条,銃砲刀剣類所持等取締法31条の3第2項,1項,3条1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の各けん銃発射とD及びHに対する各殺人未遂とはそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,被告人両名につきいずれも刑法54条1項前段,10条により結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重いDに対する殺人未遂罪の刑で処断することとし,被告人両名につき判示第1の罪についていずれも所定刑中有期懲役刑を選択し,被告人Aについては累犯前科があるので同法59条,56条1項,57条により判示第1及び判示第2の各罪の刑についてそれぞれ同法14条2項の制限内で3犯の加重をし,以上は被告人両名につき同
法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条によりいずれも重い判示第1の罪の刑に法定の加重(ただし,被告人Aについては同法14条2項の制限内で)をした刑期の範囲内で,被告人Aを懲役17年に,被告人Bを懲役13年にそれぞれ処し,同法21条を適用して未決勾留日数中各80日をそれぞれの刑に算入することとし,押収してある回転弾倉式けん銃1丁は,判示第2の犯罪行為を組成した物で被告人A以外の者に属しないから,同法19条1項1号,2項本文を適用して被告人Aからこれを没収することとする。
(量刑の理由)
本件は,被告人両名が,共謀の上,深夜繁華街の路上で,被告人両名の知人であった被害者に対し,こもごもけん銃を発砲して重傷を負わせたが,その殺害には至らず,さらに,流れ弾により第三者にも傷害を負わせ(判示第1),その際,大型の回転弾倉式けん銃1丁と小型の自動装てん式けん銃1丁をこれらに適合する実包10発と共に所持した(判示第2)という事案である。
被告人両名の犯行動機についてみるに,被告人Aは,本件当時暴力団C組の幹部の地位にあったが,同組を破門された被害者DのC組に対する敵対的な言動を聞き及び,このまま放置すれば組の面子が潰れてしまうことから,自ら被害者Dを射殺してけじめをつけるほかないと決意し,本件各犯行に及んだもので,その犯行動機は,暴力団特有の短絡的かつ危険な論理に基づく反社会的なものであって,到底容認することはできず,酌量の余地は寸毫も認められない。被告人Bは,C組の周辺者であるところ,兄貴分同様に慕っていた被告人Aの言動から被害者Dを射殺する意図を察知し,これまで被害者Dから理不尽な暴力等を受けてきた仕返しをするとともに,その報復を回避するため,被告人Aと共に被害者Dを殺害しようと決意し,被告人Aに同行を申し出た上,本件各犯行に及んだもので,その犯行動機についても,酌むべきものは認め難い。
本件各犯行態様についてみても,被告人両名は,殺害の目的を遂げるため,強力な殺傷能力を有する38口径の回転弾倉式けん銃及びやはり殺傷能力の高い22口
径の自動装てん式けん銃各1丁に,それぞれ適合する実包5発ずつを装てんした状態で携行して本件現場に至り,深夜とはいえ,飲食店等が立ち並び,人通りのある県内有数の繁華街の路上で,その場に呼び出した被害者Dに対し,同人が無防備状態にあったのに,ほとんど問答無用の形で,上記の各けん銃を用いて至近距離ないし近距離から弾丸合計8発を発射し,身体の枢要部である胸部の2発を含む計4発を被害者Dに命中させ,さらに無関係の一般通行人である被害者Hにも1発を命中させたもので,計画性が高く,人命を全くないがしろにした強固な犯意に基づく極めて大胆かつ執拗で冷酷非情なものであり,悪質極まりない犯行である。本件各犯行において,被告人Aは,上記のとおり暴力団幹部の地位にあり,犯行を計画し,被告人Bに指示を与え,自らはより殺傷能力の高い38口径のけん銃から弾丸5発を率先して発射していることから,常時主導的立場にあったことは明らかであり,また,被告人Bも,自己保身の動機も加わり被告人Aを説き伏せ,積極的に犯行に加わり,自らも被害者Dを殺害すべく被告人Aに引き続いてけん銃を発射し,Dの腕に貫通創を負わせ,逃走する同人の背後からさえ銃弾を浴びせるなどしており,その役割は決して小さいとはいえない。
本件犯行結果についてみるに,被害者Dは,被告人両名の銃撃により,肺を貫通して背中の皮膚の下あたりまで達する左胸部の被弾で肺挫傷や肺間動脈の損傷等の傷害を負ったほか,右胸部の被弾も深さが約13センチメートルにも及び,右上腕部も貫通創だったもので,特に左胸部の被弾のため多量に出血し,あと1時間程度処置が遅れていたならば失血死していたほどの重体に陥って,病院搬送時には生命の危機に瀕しており,手術による止血,弾丸摘出等の適切な治療措置を施されてようやく一命を取り留めたものであって,本件犯行が被害者Dの身体に与えた打撃は非常に大きく,わずかに弾道が逸れていれば心臓あるいは主要な血管等を損傷して致命傷となっていた可能性も極めて高く,被害者Dは,本件により差し迫った死の恐怖にさらされたものであり,その精神的苦痛にも甚だしいものがあったというべきである。しかるに,被告人両名は被害者Dに対し何らの慰藉措置も講じておらず,
被告人両名にその命を絶たれる寸前であった被害者Dの処罰感情は非常に厳しい。また,被害者Hは,深夜路上を通行していただけであったのに,被告人Aが発射した弾丸により,加療約2週間を要する右臀部,大腿部銃創の傷害を負わされ,弾丸摘出の手術を受けているが,その弾道如何によっては重傷を負い,あるいは死亡していた可能性すらあり,治療のため合計1週間近くの欠勤を余儀なくされたことや,繁華街の路上で暴力団組員による発砲事件に突然巻き込まれたという精神的打撃も考慮すれば,その結果は決して軽視できない。さらに,本件が現場の通行人はもちろん,地域住民らにも強い恐怖と深刻な不安を与え,市民の社会生活を著しく脅かしたことは疑いようがなく,この点も軽視することはできない。
被告人両名は,犯行後も,犯行に使用したけん銃1丁を投棄し,犯行時の着衣も処分するなどして罪証隠滅工作を行っており,事後の情状も悪い。近時,けん銃を凶器として用いた凶悪犯罪や一般市民を巻き込んだ発砲事件等が少なくないところ,本件のような犯行は,法秩序に対する許し難い恫喝と挑戦であり,一般予防の観点からも厳重に対処し,同種事犯の再発を強く防遏する必要性が高い。
以上に加え,被告人Aは,本件と三犯の関係にあるものを含む懲役刑前科が6犯あり,5度も服役しながら前刑執行終了後わずか5か月で本件のような重大事犯に及んでいることや,長年にわたり暴力団に所属し,幹部組員として活動していたことからすれば,被告人Aの犯罪傾向は深刻なものとみざるを得ず,再犯のおそれも懸念されるところである。
以上に照らせば,犯情は誠に芳しくなく被告人両名の刑事責任は非常に重大である。
他方において,被害者Dが速やかに病院に搬送され緊急手術により一命を取り留めたことから殺人の点は未遂にとどまったこと,被害者Dは入院から2週間弱で退院できるまでに回復し,後遺症もみられないこと,被害者Hに対する被弾は,被告人両名において全く意図したものではなかったこと,被害者Hの傷害も幸いにして
重篤なものではなく,入院加療までは要しなかったこと,現時点では被告人両名の側から被害者Hに対し治療費,慰謝料等の名目で163万円余りが支払われて示談が成立していること,証人となった各被告人の妻や内妻が被告人両名の今後の更生に協力する旨述べていること,被告人両名は,事件の2日後の夜にはそろって警察に出頭し,捜査段階から本件の事実関係を概ね認め,被害者Hらに対しては謝罪の手紙を書き送るなど,反省の態度を示していること,被告人Aは,所属する暴力団を脱退し,当公判廷において,社会復帰後は正業に専念するつもりであると述べていること,被告人Bは,傷害罪による罰金前科が1犯あるのみであることなど,被告人両名のために酌むべき事情も認められる。
そこで以上の事情を総合考慮するとともに,近時における殺人罪等の法定刑の引上げや懲役刑加重の上限の変更などの立法動向をも踏まえて検討すると,検察官の被告人両名に対する求刑は,一般予防の観点を必要以上に強調しすぎたとの感が否めず,責任に応じた量刑という観点からは酷に失するものというべきであるから,結局,被告人両名に対しては主文掲記の各刑をもって臨むのが相当である。よって,主文のとおり判決する。
(求刑)被告人Aにつき,懲役30年,回転弾倉式けん銃1丁の没収,被告人Bにつき,懲役25年
平成18年3月15日
和歌山地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

樋口裕晃
裁判官

田中伸一
裁判官

下和弘
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