判例検索β > 平成15年(行ウ)第34号
工事施行認可取消請求事件
事件番号平成15(行ウ)34
事件名工事施行認可取消請求事件
裁判年月日平成18年3月30日
法廷名大阪地方裁判所
判示事項1 鉄道の計画予定地の近隣住民らが提起した,鉄道事業法8条2項に基づき国土交通大臣がした前記鉄道の工事施行認可処分の取消請求について,市の環境条例に基づく環境影響評価手続において対象事業に係る環境影響を受ける範囲であると認められた関係地域内に居住又は勤務する住民らには原告適格が認められるとされた事例 2 鉄道の計画予定地の近隣住民らが提起した,鉄道事業法8条2項に基づき国土交通大臣がした前記鉄道の工事施行認可処分の取消請求が,棄却された事例
裁判要旨1 鉄道の計画予定地の近隣住民らが提起した,鉄道事業法8条2項に基づき国土交通大臣がした前記鉄道の工事施行認可処分の取消請求につき,工事施行認可に関する鉄道事業法,鉄道営業法及び技術基準省令(平成13年国土交通省令第151号)並びに環境基本法及び大阪市環境影響評価条例(平成10年大阪市条例第29号)の規定の趣旨及び目的,これらの規定が工事施行認可の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,同法は,これらの規定を通じて,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の諸利益を保護し,鉄道事業等の健全な発達を図るなどの公益的見地から鉄道事業の工事施行を規制するとともに,騒音等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当であるとした上で,住民らの住所地又は勤務地は,前記市の条例に基づく環境影響評価手続において対象事業に係る環境影響を受ける範囲であると認められた関係地域の中にあり,鉄道の地上走行部分の沿線に位置する地区であって,同地区で生活する住民らについては,前記工事が施行されることにより騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たると認められるとして,原告の一部に対し原告適格が認められるとした事例 2 鉄道の計画予定地の近隣住民らが提起した,鉄道事業法8条2項に基づき国土交通大臣がした前記鉄道の工事施行認可処分の取消請求につき,鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年国土交通省令第151号。以下「技術基準省令」という。)6条にいう著しい騒音の防止の適合性について,環境影響評価書における環境影響評価の判断の過程に看過し難い過誤等があり,処分者の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,処分者の上記判断は不合理であり,裁量権の逸脱があるものとして不適法と解すべきであるとした上で,前記評価書における環境影響評価の判断の過程に看過し難い過誤等があるとはいえず,前記評価書を参考に技術基準省令6条及び解釈基準適合性を認めた処分者の専門技術的判断には,著しい過誤欠落はなく,裁量の範囲を逸脱した違法はないなどとして,前記請求を棄却した事例
裁判日:西暦2006-03-30
情報公開日2017-10-18 04:16:26
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主1文
別紙2原告目録番号3,15,20,23,24,34,39,40,66,78,79,88,90,91及び100記載の原告らの訴えを却下する。
2
その余の原告らの請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求
被告が平成15年1月23日付けで西大阪高速鉄道株式会社(以下西大阪鉄道という。)に対してした鉄道事業法(以下事業法という。)8条2項に基づく西大阪延伸線西九条∼近畿日本鉄道株式会社(以下近鉄という。)難波間の工事施行認可(以下本件認可という。)を取り消す。
第2

事案の概要
本件は,西大阪鉄道の西大阪延伸線(西九条駅から近鉄難波駅)計画予定地の近隣住民等である原告らが,同延伸線計画は,列車走行により周辺住民に受忍限度を超える騒音被害を生じさせるものであって,事業法8条2項の国土交通省令で定める規程である鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年国土交通省令第151号。以下技術基準省令という。)6条(著しい騒音の防止)に適合せず,技術基準省令のその他の規程にも適合しない違法がある,また,本件認可の前提となる鉄道事業許可(事業法4条,5条),道路敷設許可(同法61条ただし書),都市計画決定が違法であるなどと主張して,被告が行った本件認可の取消しを求める事案である。

1
法令等の定め(引用する書証番号については,枝番も含む。)
(1)事業法の目的
事業法は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的とする(事業法1条)。

(2)鉄道事業
事業法において鉄道事業とは,第一種鉄道事業,第二種鉄道事業及び第三種鉄道事業をいうところ,第二種鉄道事業とは,他人の需要に応じ,自らが敷設する鉄道線路(他人が敷設した鉄道線路であって譲渡を受けたものを含む。)以外の鉄道線路を使用して鉄道による旅客又は貨物の運送を行う事業を,第三種鉄道事業とは,鉄道線路を第一種鉄道事業を経営する者に譲渡する目的をもって敷設する事業及び鉄道線路を敷設して当該鉄道線路を第二種鉄道事業を経営する者に専ら使用させる事業をそれぞれいう(事業法2条)。(3)鉄道事業の許可
鉄道事業は許可制とされ,適切な事業の計画及びその事業を自ら適確に遂行する能力を有する者に対してのみその経営が認められている(事業法3条ないし5条参照)。鉄道事業の許可を受けようとする者は,事業基本計画その他の事業法4条1項各号に掲げる事項を記載した申請書を被告に提出しなければならない(事業法4条1項)。
事業基本計画とは,鉄道事業の種別ごとに,鉄道事業法施行規則(昭和62年運輸省令第6号。以下事業法施行規則という。)4条に規定する鉄道の種類,施設の概要,旅客を運送する区間及び貨物を運送する区間,計画供給輸送力,駅の位置及び名称,駅の取扱範囲といった事業の基本となる事項に関する計画をいう(事業法4条1項6号,事業法施行規則5条)。(4)工事の施行の認可
鉄道事業者(鉄道事業の許可を受けた者をいう。)は,事業法施行規則で定めるところにより,鉄道線路,停車場その他の同規則9条に規定する鉄道事業の用に供する施設(以下鉄道施設という。)について工事計画を定め,許可の際被告の指定する期限までに,工事の施行の認可を申請しなければならない(事業法8条1項)。
上記工事の施行の認可を申請しようとする者は,事業法施行規則10条1
項各号に掲げる事項を記載した工事施行認可申請書を提出するとともに,この申請書には,同条2項各号に掲げる書類及び図面を添付しなければならない。
被告は,工事計画が事業基本計画及び鉄道営業法(以下営業法という。)1条の国土交通省令で定める規程に適合すると認めるときは,上記認可をしなければならない(事業法8条2項)。
(5)技術基準省令
営業法1条は,鉄道ノ建設,車輛器具ノ構造及運転ハ国土交通省令ヲ以テ定ムル規程ニ依ルヘシと規定しているところ,鉄道の建設及び車両器具の構造については,平成14年3月31日に施行された技術基準省令が制定されている。技術基準省令は,それぞれ次のとおり規定している。1条(目的)
この省令は,鉄道の輸送の用に供する施設(以下施設という。)及び車両の構造及び取扱いについて,必要な技術上の基準を定めることにより,安全な輸送及び安定的な輸送の確保を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。
3条(実施基準)1項
鉄道事業者は,この省令の実施に関する基準(以下実施基準とい
う。)を定め,これを遵守しなければならない。
同条4項
鉄道事業者は,実施基準を定め,又は変更しようとするときは,あらかじめ,当該実施基準又は変更しようとする事項を地方運輸局長に届け出なければならない。
5条(危害の防止)
施設の工事は,のり切り,切土,掘削,盛土,くい打ち等により人に危害を及ぼさないように行わなければならない。

6条(著しい騒音の防止)
鉄道事業者は,列車の走行に伴い発生する著しい騒音の防止に努めなければならない。
8条(応急復旧の体制)
鉄道事業者は,運転事故,災害等が発生した場合における応急復旧のための体制をあらかじめ定めておかなければならない。
19条(縦曲線)
こう配が変化する箇所には,列車の運転速度,車両の構造等を考慮し,車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのないよう,縦曲線を挿入しなければならない。ただし,こう配の変化が少ない場合,運転速度が低い場合その他の車両の安全な走行に支障を及ぼすおそれのない場合は,この限りでない。
20条(建築限界)6項
建築限界外であっても,建築限界内に崩れるおそれのある物を置いてはならない。
27条(災害等防止設備)1項
物件の落下等により線路に支障を及ぼすおそれのある切取区間,トンネル口等には,線路の支障を防ぐための設備又は落下物等を検知するための設備を設けなければならない。
28条(橋りょう下等の防護)1項
交通の頻繁な道路,線路又は河川に架設する橋りょうであって橋りょうの下を通行するものに危害を及ぼすおそれのあるものには,物件の落下を防止するための防護設備を設けなければならない。
39条(道路との交差)
鉄道は,道路(一般公衆の用に供する道をいう。以下同じ。)と平面交差してはならない。ただし,新幹線又は新幹線に準ずる速度で運転する鉄
道以外の鉄道であって,鉄道及びこれと交差する道路の交通量が少ない場合又は地形上等の理由によりやむを得ない場合は,この限りでない。(6)著しい騒音の防止の解釈基準
在来鉄道の新設や大規模改良に伴う環境の急変による騒音問題を未然に防止する観点から,対策指針の設定を要望する声が地方公共団体等において高まったのを背景にして,環境庁が平成4年9月17日に発足させた学者その他の学識経験者等を委員とする在来鉄道騒音指針検討会における検討の結果を取りまとめ,在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針について(平成7年12月20日付け環境庁大気保全局長通達。以下騒音対策の指針という。乙14)が出された。これを受け,技術基準省令等の解釈基準を定めた鉄道に関する技術上の基準を定める省令等の解釈基準について(平成14年3月8日付け鉄道局長通達。以下解釈基準という。乙13)Ⅰ-3第6条(著しい騒音の防止)関係の2は,新幹線を除く普通鉄道の新設における騒音レベルについて,沿線屋外の地上1.2メートル,近接側軌道中心線からの水平距離12.5メートルの地点における等価騒音レベルを,昼間(7時から22時まで)が60デシベル以下,夜間(22時から翌日7時まで)が55デシベル以下と定めている。
(7)大阪市環境評価条例等
大阪市では,環境影響評価及び事後調査について大阪市等の責務を明らかにするとともに,環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価及び事後調査が適切かつ円滑に行われるための手続その他所要の事項を定めることにより,その事業に係る環境の保全及び創造について適正な配慮がなされることを確保し,もって現在及び将来の市民が安全で健康かつ快適な生活を営むことのできる良好な都市の環境の確保に資することを目的として,大阪市環境影響評価条例(平成10年4月1日大阪市条例
第29号)を制定している。平成12年4月1日大阪市条例第54号による改正後の大阪市環境影響評価条例(以下評価条例という。)は,次のとおり定めている(甲2)。
2条(定義)2項
この条例において対象事業とは,別表に掲げる事業の種類のいずれかに該当する1の事業であって,環境影響の程度が著しいものとなるおそれがあるものとして市長が定めるもの(環境影響評価法第2条第4項に規定する対象事業を除く。)をいう。
別表(2)
事業法による鉄道及び軌道法による軌道の建設及び改良の事業
6条(技術指針の策定等)1項
市長は,環境影響評価及び事後調査が科学的知見に基づき適切に行われるようにするため,環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法,事後調査の項目及び手法その他環境影響評価及び事後調査に係る技術的な事項に関する指針(以下技術指針という。)を策定するものとする。同条3項
市長は,技術指針を策定し,又は改定するときは,あらかじめ大阪市環境影響評価専門委員会(以下専門委員会という。)の意見を聴くものとする。
7条(方法書の作成等)
事業者は,対象事業に係る環境影響評価を行う方法について,技術指針で定めるところにより,次に掲げる事項を記載した環境影響評価方法書(以下方法書という。)を作成しなければならない。
9条(方法書についての意見書の提出等)1項
方法書について環境の保全及び創造の見地からの意見を有する者は,市長が定めるところにより,前条の公告の日から,同条の縦覧期間満了の日
の翌日から起算して2週間を経過する日までの間に,市長又は事業者に対し,意見書の提出により,これを述べることができる。
10条(方法書についての市長の意見)1項
市長は,方法書の提出を受けたときは,市長が定める期間内に,当該方法書について,前条第1項の意見及び同条第3項の見解を勘案して,事業者に対し,環境の保全及び創造の見地からの意見を書面により述べるものとする。
同条2項
市長は,前項の規定により意見を述べるときは,あらかじめ専門委員会の意見を聴くものとする。
13条(準備書の作成等)1項
事業者は,前条の規定により対象事業に係る環境影響評価を行った後,技術指針で定めるところにより,当該環境影響評価の結果に係る次に掲げる事項を記載した環境影響評価準備書(以下準備書という。)を作成しなければならない。
14条(関係地域の決定等)
市長は,準備書及び要約書の提出を受けたときは,当該準備書及び要約書を受理した日から起算して30日以内に,対象事業に係る環境影響を受ける範囲であると認められる地域(以下関係地域という。)を定め,速やかにその旨を事業者に通知するものとする。
16条(説明会の開催等)1項
事業者は,市長が定めるところにより,前条第1項の縦覧期間内に,関係地域内において,準備書の記載事項を周知させるための説明会(以下説明会という。)を開催しなければならない。この場合において,関係地域内に説明会を開催する適当な場所がないときは,関係地域以外の地域において開催することができる。

17条(準備書についての意見書の提出等)1項
準備書について環境の保全及び創造の見地からの意見を有する者は,市長が定めるところにより,第15条第1項の公告の日から,同項の縦覧期間満了の日の翌日から起算して2週間を経過する日までの間に,市長又は事業者に対し,意見書の提出により,これを述べることができる。18条(公聴会の開催)1項
市長は,前条第1項の意見書又は同条第2項の書類の提出を受けたときは,準備書について環境の保全及び創造の見地からの意見を聴くため,公聴会を開催するものとする。ただし,市長が公聴会を開催する必要がないと認めるときは,この限りでない。
20条(準備書についての市長の意見)1項
市長は,準備書の提出を受けたときは,市長が定める期間内に,当該準備書について,第17条第1項の意見及び同条第3項の見解並びに前条の意見及び見解を勘案して,事業者に対し,環境の保全及び創造の見地からの意見を書面により述べるものとする。
同条2項
市長は,前項の規定により意見を述べるときは,あらかじめ専門委員会の意見を聴くものとする。
21条(評価書の作成等)1項
事業者は,前条第1項の市長の意見が述べられたときはこれを勘案するとともに,第17条第1項の意見に配意して,準備書の記載事項について検討を加え,技術指針で定めるところにより,次に掲げる事項を記載した環境影響評価書(以下評価書という。)を作成しなければならない。22条(評価書の公告及び縦覧等)2項
市長は,免許等又は特定届出がその実施に際し必要とされる対象事業に係る評価書について,前項の規定による公告を行ったときは,当該免許等
を行う者又は当該特定届出を受理する者に対し,当該評価書の写しを送付するものとする。
28条(事後調査の実施等)1項
事業者は,事後調査計画書に記載された項目及び手法に基づいて,技術指針で定めるところにより,対象事業に係る事後調査を行わなければならない。
同条3項
事業者又は前項の規定により事後調査を行う者(以下事業者等という。)は,事後調査を行ったときは,市長が定めるところにより,次に掲げる事項を記載した書面(以下事後調査報告書という。)を作成し,市長に提出しなければならない。
29条(事後調査報告書の審査等)3項
市長は,第1項の審査の結果,当該対象事業に係る環境影響の程度が著しいものとなるおそれがあると認めるときは,あらかじめ専門委員会の意見を聴いた上で,事業者等に対し,必要な措置を講ずるよう求めることができる。
33条(都市計画に定められる対象事業に関する特例)
対象事業が都市計画法第4条第7項に規定する市街地開発事業として同法の規定により都市計画に定められる場合における当該対象事業又は対象事業に係る施設が同条第5項に規定する都市施設(以下都市施設という。)として同法の規定により都市計画に定められる場合における当該都市施設に係る対象事業については,第2章から第4章まで,第30条及び第31条の規定による環境影響評価その他の手続は,同法第15条第1項,第22条第1項又は第87条の2第1項の規定により当該都市計画の決定又は変更をする者が当該対象事業に係る事業者に代わるものとして,市長が定めるところにより,当該対象事業又は対象事業に係る施設に関する都
市計画の決定又は変更をする手続と併せて行うものとする。この場合において,第31条第1項第3号及び第3項の規定は,適用しない。
36条(専門委員会)1項
この条例の規定によりその権限に属するものとされた事項について,諮問に応じて審議を行わせるため,専門委員会を置く。
同条2項
専門委員会は,前項に定めるもののほか,環境影響評価及び事後調査に関する技術的又は専門的な事項について,市長の諮問に応じ,環境の保全及び創造の見地から調査し,又は審議するとともに,市長に意見を述べることができる。
39条(免許等への配慮)2項
市長は,前項に規定する場合以外の場合においては,当該免許等を行う者に対し,当該免許等を行うに当たり,当該対象事業に係る評価書の内容に配慮するよう要請することができる。
(8)道路への敷設の禁止

鉄道線路は,原則として,道路法による道路に敷設してはならないが,やむを得ない理由がある場合において,被告の許可を受けたときは,敷設することができる(事業法61条1項)。
なお,鉄道線路の道路への敷設については,事業法が昭和62年4月1日に施行されるまでは,地方鉄道法(事業法附則2条の規定により廃止)4条が地方鉄道ハ之ヲ道路ニ敷設スルコトヲ得ス但シ已ムコトヲ得サル場合ニ於テ主務大臣ノ許可ヲ受ケタルトキハ此ノ限ニ在ラスと規定していた。


この許可の手続については,鉄道線路の道路への敷設の許可手続を定める政令(昭和62年政令第78号。以下敷設許可政令という。)及び鉄道線路の道路への敷設の許可手続に関する省令(同年建設省令第9号)
が定めているところ,この許可を受けようとする者は,申請書に国土交通省令で定める書類及び図面を添付し,申請に係る鉄道線路が敷設される道路の区間の存する都道府県を統括する都道府県知事を経由して,これを被告に提出しなければならず(敷設許可政令1条1項),都道府県知事は,上記申請書の提出があったときは,遅滞なく,申請に係る鉄道線路が敷設される道路の道路管理者の意見を聴き,当該聴取した道路管理者の意見を記載した書類を申請書に添付し,かつ,当該申請に対する意見を付して,これを被告に進達しなければならない(敷設許可政令2条)。

この許可の審査基準は,軌道法等に係る審査基準及び標準処理期間について(平成13年7月31日付け国道政第23号国土交通省道路局長通達)により,次のとおりとされている(乙3)。
(ア)道路に敷設するやむを得ない理由があること。
(イ)申請に係る鉄道線路が敷設される道路の道路管理者の同意を得ていること。
(ウ)道路に敷設する路線が道路管理上支障を及ぼさないものであること。具体的には次のような観点から審査を行う。

道路計画,地下利用計画その他諸計画に支障を及ぼさないものであること。


道路管理者が行う工事との調整が図られていること(費用負担及び将来計画を含む。)。

cd
道路に敷設する鉄道施設が必要最小限なものであること。

e2
道路交通への影響の低減について検討された工事方法であること。
駅及びその周辺の整備計画が適切であること。

前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)(1)関係者
阪神電気鉄道株式会社(以下阪神電鉄という。)は,明治32年6月
12日に設立された鉄道事業等を主たる業務とする株式会社である。西大阪鉄道は,西九条,近鉄難波の区間において第3種鉄道事業を経営するため,大阪府及び大阪市が民間と共に共同出資し,平成13年7月10日に設立されたいわゆる第三セクターの株式会社である。
(2)西大阪延伸線の経緯
阪神電鉄は,軌道法に基づき,昭和21年11月20日に千鳥橋・西九条間,昭和23年9月25日に西九条・難波間の軌道敷設特許申請をし,昭和34年2月,千鳥橋・難波間の特許(現在の事業法による第1種鉄道事業許可。以下従前事業許可という。)を取得した。阪神電鉄は,千鳥橋から西九条までの区間を第1期工事として,昭和35年6月に工事に着手し,昭和39年4月に完成し,開業した。
さらに,阪神電鉄は,第2期工事として,西九条・九条間について昭和40年10月27日に工事施行認可を得て,昭和42年8月に工事に着工した。しかし,地元住民らの反対などにより頓挫し,工事は中止された(甲4,30)。
西九条・九条・難波間の鉄道(以下西大阪延伸線という。)新設については,平成元年5月31日付け運輸政策審議会答申第10号(以下第10号答申という。)により,目標年次である平成17年までに整備することが適当である区間とされた(甲47の5)。
(3)鉄道事業許可

阪神電鉄は,平成13年9月27日,事業法4条に基づき,被告に対し,別紙1事業目録2記載の鉄道事業(以下本件阪神事業という。)の許可を申請し,同時に,従前事業許可について廃止届を提出した(甲47の4,乙4)。
西大阪鉄道は,同日,事業法4条に基づき,被告に対し,別紙1事業目録1記載の鉄道事業(以下本件西大阪事業といい,本件阪神事業と合
わせて本件各事業という。)の許可を申請した(甲47の3,乙5)。イ
本件西大阪事業で計画している西大阪延伸線は,大阪市此花区西九条3丁目地内から,安治川を横断して約300メートル進んだ同市西区九条3丁目地内までの約0.7キロメートルが跨線橋,高架線,陸橋,河川橋の構造物で構成されている橋りょう区間であり,橋りょう区間とトンネル区間とを接続する区間でU型擁壁で線路部分が確保されている土留擁壁区間が約0.2キロメートル,地下となるトンネル区間が約2.5キロメートルである。西大阪延伸線は,大阪市此花区,西区,大正区,浪速区に位置し,地上区間の沿線は,同市此花区西九条1丁目及び2丁目地区(以下西九条地区という。),同市西区九条2丁目及び3丁目地区(以下九条地区という。)並びに同区九条南3丁目及び4丁目地区(以下九条南地区という。)であり,九条地区及び九条南地区における西大阪延伸線計画の概要は,別紙4計画の概要(西区・その1)記載のとおりである。

上記各申請について,近畿運輸局長は,平成13年10月18日,許可することが適当であると思料されるとの意見を付した調査書(以下運輸局調査書という。甲47の2)を添えて被告に送付し,被告は,平成13年11月16日,阪神電鉄に対し,本件阪神事業の許可(以下本件阪神事業許可という。)をし,西大阪鉄道に対し,工事施行認可申請期限を平成14年11月15日までとして,本件西大阪事業の許可(以下本件西大阪事業許可といい,本件阪神事業許可と合わせて本件各事業許可という。)をした(甲47の1,乙6,7)。

西大阪鉄道は,平成14年6月24日,技術基準省令3条4項に基づき実施基準を近畿運輸局長に届け出た(乙30,36)。

(4)道路敷設許可

西大阪鉄道は,平成14年10月3日,事業法61条1項に基づき,大阪府知事を経由して被告に対し,大阪市西区九条から千代崎までの約1.
2キロメートル及び同市浪速区桜川から幸町までの約1.2キロメートルの各区間(大阪市道九条中通線,同難波境川線等)において,鉄道線路の道路への敷設の許可を申請した(乙8)。

大阪府知事は,上記敷設許可の申請について,同月9日,鉄道線路が敷設される道路の道路管理者である大阪市の意見を聴取し(乙9),同年11月8日,支障がないとの回答を受け(乙10),同日,上記申請を適正と認めて被告に進達した(乙11)。
被告は,同年12月19日,上記申請に対し許可(以下本件敷設許可という。)をした(乙12)。
(5)環境影響評価

西大阪延伸線は,事業区間の距離が3.4キロメートルであるから,環境影響評価法の適用はなく(同法2条2項1号ハ,3項,環境影響評価法施行令1条別表一,三,ホ),評価条例の対象事業である。


西大阪延伸線は,都市計画法11条1項1号の都市高速鉄道で,同法4条5項の都市施設に該当することから,大阪市を決定権者とする都市計画の対象事業とされた。そのため,都市計画決定手続と併せて,評価条例33条により事業者に代わって大阪市が環境影響評価(以下本件評価という。)を実施し,平成14年11月,環境影響評価書(以下本件評価書という。甲1)が作成された。都市計画決定権者は,事業者に対し,環境影響評価その他の手続を行うための資料の提供,説明会への出席その他必要な協力を求めることができることから(大阪市環境影響評価条例施行規則45条。甲2),本件評価手続において大阪市は,方法書,準備書,評価書の作成等について西大阪鉄道に協力を依頼し,各種資料の提供を受けた。西大阪鉄道は,資料作成のために,専門的技術や知識を要する各種現況調査,予測,評価などについて,中央復建コンサルタンツ株式会社(以下中央復建という。)に
委託した。

本件評価は,環境影響評価を実施する地域を西大阪延伸線が位置する行政区として行われた(甲1,75頁)。
本件評価書によると,列車の走行に伴う騒音の予測結果は,地上1.2メートル,近接側軌道中心からの距離12.5メートルにおける等価騒音レベルが昼間につき52ないし59デシベル,夜間につき48ないし54デシベルであり(甲1,139頁,乙15),解釈基準の定める騒音レベルを満たしている。
本件評価において,評価条例20条(準備書についての意見)に基づき,大阪市長から

本路線沿線における生活環境の保全のため,住宅等の立地状況に十分配慮し,必要に応じて適切な騒音・振動対策を講じること。また,供用後,事後調査により予測結果の検証を行うこと。

との意見が示された。これに対し,都市計画決定権者から評価地点よりも線路に近接した住宅や中高層住宅等では,騒音の指針値等を超える地点がある。そのような箇所では高欄の嵩上げ,消音バラストの散布等の騒音対策,防振低減効果のより大きい防振材を用いた軌道の採用等の振動対策が考えられるが,今後その適用方法,効果の検討を行い,必要に応じて適切な措置を講じることとする。さらに,供用後に事後調査を行い,予測結果の検証を行うこととする。との見解が示された(甲1,289頁)。

大阪市は,大阪市都市計画審議会にかけた上,同年12月20日,西大阪延伸線について都市計画変更決定を行った。

(6)工事施行認可

西大阪鉄道は,平成14年10月10日,本件西大阪事業について,工事を施行しようとする区間の起点を大阪市此花区西九条3丁目,終点を同市浪速区幸町一丁目,工事着手予定時期を平成15年4月1日,工事完成予定時期を平成21年3月31日とする鉄道施設に関する工事(以下本件工事という。)の施行認可を申請した(乙1)。イ
被告は,平成15年1月23日,工事の完成期限を平成21年3月31日として,本件認可をした(乙2)。

3
争点
本件の争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおりである。(1)原告適格
(原告ら)

周辺地域居住者等
(ア)行政事件訴訟法(以下行訴法という。)は,取消訴訟の原告適格について,法律上の利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨目的及び当該処分において考慮されるべき利益の内容性質を考慮し,当該法令の趣旨目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令の趣旨目的をも参酌し,当該利益の内容性質を考慮するに当たっては,被侵害利益の内容性質及び害される態様程度も勘案すると定めている(同法9条2項)。
(イ)事業法8条2項の工事施行認可を受けるためには,当該工事が営業法1条に基づく技術基準省令に適合しなければならない。そして,技術基準省令6条では,著しい騒音の防止が規定されている。鉄道騒音の防止において,沿線住民の被害が最も考慮されるべきことは当然であるが,技術基準省令の解釈基準の前文にも列車の運転等に伴って生ずるすべての人や物に及ぼしうる危険を,・・・できるだけ小さくするものとすると沿線住民の被害が考慮されることが記載されている。(ウ)著しい騒音被害に関しては,次のとおり,環境基本法及び評価条例もその目的としており,これらは目的を共通にする関連法令である。環境基本法は,環境の保全を推進し,国民の健康で文化的な生活を保
護することを目的とし(1条),国及び地方公共団体が,環境の保全に関する施策を策定し,実施する責務を有し(6条,7条),政府が,騒音に係る環境上の条件について,人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定め(16条1項),政府は,公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより,環境基準が確保されるように努めねばならないとし(同条4項),国は,環境の保全上の支障を防止するため,事業者等の遵守すべき基準を定めること等により,公害を防止するために必要な規制の措置を講じなければならない(21条)としている。技術基準省令6条に定められた著しい騒音を防止することは,環境の保全を推進し,国民の健康で文化的な生活を保護することを目的とするものであるから,環境基本法は技術基準省令6条及びそれを要件とする事業法と目的を同じくする。
評価条例は,環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業について環境影響評価および事後調査が適切・円滑に行われるための手続等を定めることにより,現在及び将来の市民が安全で健康かつ快適な生活を営むことのできる良好な都市の環境の確保に資することを目的とする(1条)。評価条例は,大阪市が,評価条例に定める手続が適正かつ円滑に行われるように努めなければならない基本的責務を負うものとした上で(3条),事業者から提出された環境影響評価書を当該免許を行なう者等に送付し(22条2項),免許等を行う際に評価書の内容に十分配慮するよう要請することとしている(39条)。これらの規定は,工事施行認可等の種々の許認可について環境影響評価等の手続を通じて著しい騒音等を防止するなど環境の保全に適正な配慮が図られるようにすることも,その趣旨及び目的とするものということができ,技術基準省令6条及びそれを要件とする事業法と目的を同じくする。
(エ)以上のとおり,技術基準省令6条の規定に加えて,環境基本法,評価
条例等の規定の趣旨及び目的をも参酌すれば,工事施行の認可に関する規定は,工事施行自体及び工事施行により完成する鉄道施設の供用等により生じる騒音によって,事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって健康で文化的な生活を保護し,良好な生活環境を保全することも,その趣旨及び目的とするものと解される。
工事施行認可がされた場合,それに起因する騒音等による被害を直接的に受けるのは,工事施行地域の周辺の一定範囲の地域に居住する住民であり,その被害の程度は,居住地が事業地に接近するにつれて増大する。このような工事施行地域の周辺地域に居住する住民が,当該地域に居住し続けることにより上記の被害を反復,継続して受けた場合,健康や生活環境に係る著しい被害にも至る。そして,工事施行の認可に関する事業法の規定は,その趣旨及び目的にかんがみれば,工事施行地域の周辺地域に居住する住民に対し,工事施行に起因する騒音等によってこのような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解され,前記のような被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることはできない。
以上のような工事施行の認可に関する規定の趣旨及び目的,これらの規定が工事施行の認可の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,事業法は,騒音等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって,本件工事施行地域の周辺に居住する住民のうち本件各事業が実施されることにより騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に
受けるおそれのある者は,当該工事施行の認可の取消しを求める法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有する。(オ)原告らの大半は,別紙3原告適格一覧表(以下原告一覧表という。)関係地の所在欄に記載のある場合は当該住所地に,記載のない場合は同住所欄記載の住所地に,同関係欄及び別紙5住宅地図(以下住宅地図という。)記載のとおり,本件工事施行地域の周辺に居住等しており,本件各事業が実施されることにより騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者であるから,原告適格が認められる。

不動産権利者
(ア)鉄道事業地内不動産権利者
原告一覧表鉄道用地欄に記載のある各原告らは,同欄及び住宅地図桃色部分(8,17及び18)記載のとおり,本件各事業用地(鉄道用地)内にある原告一覧表土地の所在欄記載の各土地の権利者である。同原告らは,本件認可により自己が権利を有する不動産の収用を甘受せざるを得ない法的地位に立たされるのであり,本件認可の取消しを求める原告適格を有する。
原告一覧表番号(以下原告番号という。)17のAは,不動産所
有者の母で同居者であるが,不動産の所有名義人以外であっても法律上保護される居住権が発生しており,本件認可により自己が居住する不動産の収用を甘受せざるを得ない法的地位に立たされる。
原告番号20,23,43,77,88及び97の各原告らは,平成17年4月7日,Bから,売買により,大阪市西区九条a-b-c所在の土地の各100分の6の共有持分を取得した。
(イ)道路事業地内不動産権利者
原告番号74のCは,原告一覧表道路用地欄及び住宅地図茶色部分記
載のとおり,道路用地である大阪市西区九条d-e-f所在の土地の所有者である。本件各事業は,本件敷設許可も伴っており,道路間に割り込んだ鉄道幅分を拡幅するように道路を左右に移動させることになっている。そのため,本件各事業を施行するためには道路用地の取得も当然に必要とされる。したがって,道路用地に権利を有する者も,本件認可の取消しを求める原告適格を有する。
(ウ)隣接地権利者
原告一覧表隣接地欄に記載のある各原告らは,同欄及び住宅地図青色部分記載のとおり,本件各事業地(鉄道用地)の隣接地に権利を有する者である。
事業法22条は,鉄道施設についての測量,実地調査又は工事のため必要があるときは,これらを円滑に行わせるため,国土交通大臣の許可を受けて他人の土地への立ち入り及び一時使用ができることを定めており,最も念頭においているのは,事業地の隣地である。事業地の隣接地の権利者は,工事施行認可がされれば,自己の権利地への事業者の立ち入り及び一時使用を甘受せざるを得ない法的地位に立たされる。したがって,同原告らは,本件認可の法律上の効果として直接権利利益を侵害され,義務を課せられる者ということができ,本件認可の取消しを求める原告適格を有する。
(被告)

本件認可の取消訴訟を提起する原告適格
(ア)法律上の利益を有する者の意義
行訴法9条にいう法律上の利益を有する者とは,当該処分により
自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者を指すが,上記法律上保護された利益は,当該処分の本来の法的効果として実体法上制限されることとなる利益に限ら
れるものではなく,当該処分の根拠となる行政法規が個人の具体的利益を個別的に保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されることとなる利益も含まれると解される。そして,行政権の行使に制約を課すことにより保障される利益が不特定多数者の利益である場合であっても,当該行政法規の趣旨・目的,当該処分を通して保障しようとしている利益の内容・性質等を考慮して,当該行政法規がその不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめることなく,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解されるときは,このような行政法規を通して保障される利益もまた上記法律上保護された利益に当たり,上記制約に違反して処分が行われ,行政法規による利益の保護を無視されたとする者は,法律上保護された利益を侵害された者として,当該処分の取消訴訟における原告適格を有すると解することができる。(イ)本件認可の取消訴訟の原告適格

本件認可が原告らの実体法上の権利等に制限を加える処分ではないこと
本件認可は,西大阪鉄道に対し,専ら,本件工事計画に係る鉄道施設に関する工事の施行に同意を与えるものにすぎず,本件工事が施行される区間の不動産の権利者及び当該鉄道施設の周辺住民に対し,その法的効果として,その実体法上の権利,利益に制限を加える処分ではない。仮に原告らが本件工事が施行される区間(以下本件区間
という。)の不動産の権利者又は当該鉄道施設の周辺住民であるとしても,原告らは,本件認可によって,その主張する本件工事の施行に伴う被害を受忍すべき義務が課されることになるものではなく,仮に本件工事の施行によって原告らの実体法上の権利,利益が侵害されるのであれば,本件認可の取消しを待つまでもなく,当該権利,利益に
基づいて,その侵害の回復を求めることが可能であり,本件認可の存在によって当該権利,利益の侵害を甘受しなければならない地位に立つこととなるわけではない。

工事施行の認可の制度が当該認可の名宛人以外の第三者の具体的利益を個別的利益として保護する趣旨を含まないこと
事業法は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的としている(1条)。同条の文言に照らしても,事業法は,鉄道事業が国民の日常生活及び経済活動に必要不可欠な役割を果たしていることにかんがみ,輸送の安全と安定的かつ継続的な輸送の提供を確保することを目的として所要の規制を行うこととしたものであって,国民個々人の具体的利益を個別的に保護することをも目的としているものと解することはできない。
また,工事施行の認可は,事業基本計画及び技術基準省令への適合性のみを要件としており,専ら輸送の安全等の見地から鉄道施設の工事の適正な施行の確保を目的としたものであって,鉄道施設が建設される区間の不動産の権利者及びその周辺住民の具体的利益を直接保護することをも目的としているとみることは困難である。
そして,事業法及び事業法施行規則には,鉄道施設の工事について,当該工事が施行される区間の不動産の権利者及びその周辺住民の具体的利益を保護することを念頭に置いて設けられたとうかがわせるような規定は全く見当たらないし,その認可の手続において,これらの者からの意見書の提出や聴聞などの第三者保護の手続の履践が要求されているわけでもない。
以上のような事業法の目的,工事施行の認可に関する規定の内容等
によると,事業法8条2項の規定による認可は,許可を受けた鉄道事業者の設置しようとする鉄道施設が,許可の内容を的確に具体化する施設として計画,設計され,施設として必要な技術水準に適合しているかどうかを,あらかじめ審査,確認するためのものであり,被告は,当該工事計画が事業基本計画及び技術基準省令に適合している限り認可をしなければならないことに照らしても,上記認可の制度が,当該工事が施行される区間の不動産の権利者及びその周辺住民の具体的利益を個別的に保護することをも目的とするものと解することはできない。
(ウ)まとめ
以上のとおり,本件認可は,原告らの実体法上の権利等に制限を加える処分ではないし,本件認可の根拠となる行政法規が,原告らの具体的利益を個別的に保護する趣旨を含むものでもない。原告らは,本件認可により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれがある者に当たらないというべきであるから,本件認可について取消訴訟を提起する原告適格を有しない。

周辺地域居住者の原告適格
上記のとおり,工事施行の認可の制度が,当該工事が施行される区間の不動産の権利者及びその周辺住民の具体的利益を個別的に保護することをも目的としていると解することはできない。
原告らが主張する周辺住民の安全や環境利益も公共の福祉を構成する余地がないではないものの,これに関する周辺住民の個人的な利益は,いわゆる反射的利益にとどまり,これを直接の保護法益として含むものではない。


不動産権利者の原告適格
(ア)鉄道事業地内不動産権利者

土地収用法3条各号は,単に,土地を収用し,又は使用することができる公共の利益となる事業を掲げているにすぎず,それ以上に,例えば,事業法8条2項の規定による認可をもって土地収用法20条の規定による事業の認定に代え,当該工事を同法の事業に該当するものとみなして同法の手続により土地の収用,使用をすることができるなどとする規定はいずれの法律にも一切なく,仮に原告らの掲げる者が本件区間の不動産の権利者であるとしても,土地収用法3条7号の規定により,本件認可がその法的効果としてこれらの者の実体法上の権利等に制限を加えるものであるということはできない。
(イ)道路事業地内不動産権利者
(ア)において述べたところに照らすと,原告らのこの主張も失当である。
(ウ)隣接地権利者
事業法22条1項は,

鉄道事業者は,鉄道施設に関する測量,実地調査又は工事のため必要があるときは,国土交通大臣の許可を受け,他人の土地に立ち入り,又はその土地を一時材料置場として使用することができる。

と規定しているとおり,当該土地の立入り及び使用のためには国土交通大臣の許可を受けなければならず,工事施行の認可により直ちに当該土地の立入り及び使用が許されるわけではないから,仮に原告らの掲げる者が本件区間の隣接地の権利者であるとしても,本件認可がその法的効果としてこれらの者の実体法上の権利等に制限を加えるものであるということはできない。
(2)本件認可の適法性

技術基準省令適合性
(ア)6条(著しい騒音の防止)適合性
(原告ら)


解釈基準に掲げる測定地点で解釈基準に掲げる騒音数値を上回ることが事前に予測でき,工事施行を認可してはならないこと
(a)騒音対策の指針は,在来鉄道の新設又は大規模改良に伴い生じる騒音問題を未然に防止することが指針策定の目的であることを通知し,指針が,生活環境を保全し,騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針であるとしている。

在来鉄道の新設又は大規模改良工事を施行するに当たっては,本指針に適合できるよう計画するとともに,供用後速やかに,本指針に対する適合性を検証することが望ましい。

とされており,本指針への適合は,計画段階の指針適合性判定と供用後の指針適合性検証の二つの段階で問題となるべきことが明らかにされている。
鉄道騒音の予測手法については,Dらの提案式(在来鉄道騒音の予測評価手法について,以下D式という。甲28)を用いて科学的に実施することが可能であり,各種のパラメータを代入すれば予測結果を数値で示すことができる。D式は,騒音問題の未然防止を目的とする騒音対策の指針に基づく騒音対策が適切かつ円滑に実施されるために,在来鉄道の走行に伴う騒音の予測評価が今後一層重要になるとの認識のもとに,共同研究者に運輸省交通研究所も加わって研究発表されたものであり,その信頼性は高い。このような信頼性の高い予測手法が確立している以上,計画段階から数値レベルで指針適合性を判断することは十分に可能であるから,予測が不確実なので数値比較による審査や事前の対策は意味がないとの被告の主張は不当である。
鉄道事業者に対する鉄道技術行政上の監督権に著しい騒音を防止
することを加えることが必要と認識され技術基準省令6条が定められた。技術基準省令6条の意義は,被告の鉄道技術行政上の事業者
に対する監督責任の中に鉄道騒音の未然防止をはかる必要が明示された点にある。事前審査である工事施行認可の段階で,技術基準省令6条に具体的に適合するかどうか,少なくとも解釈基準の数値内にあることが審査されなければならない。解釈基準に掲げる測定地点で,解釈基準に掲げる数値を上回ることが予測される場合は,技術基準省令6条に適合せず,工事施行を認可してはならない。
本件工事は,評価条例の対象事業となっており,評価条例22条
2項により本件評価書が被告に送付されている。被告は,本件工事が環境影響評価法対象事業であるか否かにかかわらず,審査上の適正手続の履行内容として,当該工事計画を前提とする供用後の騒音予測値を確認し,審査基準と対照して工事施行認可の許否を判断しなければならない。本件では,具体的予測値を示す資料としては本件評価書しかなく,本件西大阪事業(西大阪延伸線)の建設計画書でも,環境影響評価を行ったことが環境面における配慮をした根拠として記載されているのであるから,被告としては,少なくともそれらの書面上に示された予測計算が,D式など確立した技術的知見に基づいて適正に行われたかどうかを審査しなければ,上記の予測値と基準値との適切な対照評価を行うことができない。よって,被告は,技術基準省令6条の適合性判断に際して,本件評価書の内容を審査すべきである。
被告は,予測される騒音レベルが不確実なもので,鉄道施設の供
用開始後でも改善命令(事業法23条1項)などにより騒音対策を指導できることなどを根拠に,予測される騒音レベルがどの程度であり,騒音被害回避のための対策が事前にかつ具体的になされているかどうかは工事施行認可時の審査事項ではないと主張する。しかし,被告は,当初,完成検査ではなく本件認可において,騒音の数
値が解釈基準内であるかどうかが審査対象であることを前提として主張していたにもかかわらず,原告らから甲第9号証が提出され,騒音被害が解釈基準を上回ることが明らかとなったため,その主張を変遷させた。さらに,そのような主張は,騒音問題の未然防止を図ろうとする法令の趣旨に反し,法律が課した被告の鉄道事業者に対する行政監督の責務を放棄したのも同然であって,極めて不当である。
(b)被告は,技術基準省令6条に適合する根拠として,本件評価書(甲1)により予測結果が騒音対策の指針を満たしていることを主張し,本件認可申請書において,技術基準省令6条すなわち騒音対策の指針の適合性を判断する資料としては,本件評価書しかない。しかし,本件評価書は,次に述べるように,一見してその杜撰さ,問題のあることが明らかで,恣意的な操作がされた疑念が当然に生じるはずであり,被告は,本件認可の時点で,その鉄道走行騒音の予測値に疑念を抱くべきであった。

本件評価書は,10デシベルの読み間違いをした実測データ及
びスローにすべきところをファスト設定にした実測データを用い
ている。


D式を勝手に改変し,転動音,車両機器音についても線路構造
で区別している。車両機器音は車両の主電動機の冷却用ファン音
やモーターファン音であって列車の速度と車両諸元から計算され,構造種別には何ら関係しない音源であるし,転動音についても,
Dらの論文では,レール表面や車輪路面状態,軌道種別(スラブ,バラスト)には依存するものの,構造(堀割,橋りょう,高架の
種別)には依存しないとしている。中央復建の担当者は,Dらの
論文でも転動音が構造種別に依存することを否定していないとす

るが,誤りである。D式では不都合な結果となるため,勝手に改
変したものと推測される。

本件評価書が設定したパワーレベル値は,D式の数値モデルの
下限を採用し,その理由の説明はない。これも予測値を低く算出
するため恣意的に下限値を採ったものと推測される。


本件評価書における予測モデルの検証では,実測データのすべ
てが表にプロットされていない。恣意的にデータを取捨選択して
いる。本件評価書の設定したパワーレベル値を用い,実測データ
の誤りを修正した上すべてのデータをプロットしたものが甲第9
号証の2頁図2現況再現結果(評価書)である。同図と本件
評価書(甲1,133頁)を比べれば,その杜撰さと恣意性は明
らかである。本件評価書では,特に高架構造部分の直下地点の斜
め45度線より上部の危険側に偏っているデータが意図的にカッ
トされている。これは,本件評価書が予測値を低めに出すためパ
ワーレベル値を恣意的に低めに設定したことを表している。


以上のとおり,本件評価書では予測値を低めに出すようパワー
レベルが意図的に設定され,それを隠蔽するために,D式を改変
し,検討手順を明記しなかったと考えられる。D式の根拠のない
改変,データの恣意的な取捨選択,恣意的な検証操作が行われた
本件評価書は,環境影響評価の本質である科学性,客観性を欠き,その結果は本件認可の技術指針への適合性を判断すべき資料とな
り得ない。
本件評価書の実測資料(類似箇所の測定結果)について,適用条

件(甲1,129頁)を同一にし,D式を忠実に用いて再計算を行った結果によれば(甲9,3頁表2),各予測地点における騒音の予測値は,No④地点では,近接軌道中心から12.5メートル,地
上1.2メートルの高さにおいて,昼間62デシベル,夜間58デシベルとなって,騒音対策の指針に違反する結果となった。No③地点についても,昼間59デシベル,夜間55デシベルの騒音が予測され,予測の確実性の範囲を考慮すれば,実際には同指針に違反するおそれが大きい。技術基準省令6条の適合性は本件各事業の全沿線で満たされる必要があり,一か所でも違反が予測される以上,全体が違法というべきである。
被告が,本件認可における技術基準省令6条の適合性判断に際し,本件評価書を適正に審査していれば,その杜撰さや不備は明らかであった。そして,同じデータに拠っても適正な列車走行騒音予測を行えば,本件各事業が技術基準省令6条の解釈基準の指針値を超える騒音を発することが予測できたはずである。よって,本件認可は,技術基準省令6条に違反する重大な過失を看過してされた違法がある。

既存住宅と線路との位置関係等の物理的条件により著しい騒音が生じ,認可してはならないこと
(a)新設路線において既存住宅が近接する区間については,当該鉄道騒音が問題となる地点における騒音数値が,社会通念上著しい騒音に当たる場合には技術基準省令6条に適合せず,不認可としなければならない。
事業法8条2項,技術基準省令6条を基準とする工事施行認可制
度及び技術基準省令6条の技術的根拠である騒音対策の指針の意義からすれば,技術基準省令6条にいう著しい騒音の防止は,単
なるバックグラウンド騒音に関わる環境保全を意図するのみでなく,当該鉄道沿線における個々の受音者が被る騒音公害被害の防止の意味をも含んでいると解される。

騒音対策の指針の考え方に基づけば,標準測定点以外の近接施設
における騒音予測値についても検討しなければならない。その場合にどの程度の騒音であれ,技術基準省令6条に抵触し,工事施行を不認可とすべきであるのか具体的基準となる数値は示されていない。しかし,過去の公害等調整委員会の責任裁定申請の結果(公害等調整委員会平成4年(セ)第1号から第3号まで,平成6年(セ)第1号から第3号まで,平成8年(セ)第2号,平成9年(セ)第1号,第2号及び第4号小田急線騒音被害等責任裁定申請事件)や新幹線騒音公害の裁判例等(名古屋高裁昭和55年(ネ)第487号・第492号,昭和58年(ネ)第88号判時1150号30頁)から,自ずと一定の受忍限度が社会的に認められているのであるから,具体的に発生する可能性がある騒音被害が著しいかどうか
は判定可能である。
それにもかかわらず,標準測定点以外の近接施設における騒音予
測値については一顧もしない審査態度はきわめて不誠実である。
(b)本件評価書でも,140頁以下のコンター図によれば,沿線に中層住居が隣接する高架付近において,次のとおりいずれも指針値を大きく上回る騒音の発生が予測されている。

No①地点(高さ16.2メートル,軌道中心から3.9メートル)
昼間67.5デシベル,夜間62.5デシベル


No②地点(高さ16.2メートル,軌道中心から3.9メートル)
昼間70.0デシベル,夜間65デシベル


No③地点(高さ13.2メートル,軌道中心から3.9メートル)

昼間70.0デシベル,夜間67.5デシベル
これらはいずれも環境基準C類型(相当数の住居と併せて商業,
工業等の用に供される地域)における基準値(昼間60デシベル以下,夜間50デシベル以下)をも上回り,No②,No③地点では幹線交通を担う道路に近接する空間の基準値(昼間70デシベル以下,夜間65デシベル以下)をも超えている。特に,No③地点は,商店街の頭上を横断しつつ中層住居が密集する中を切り取るように軌道が通過し,最も騒音が懸念される地点であり,しかもロングレールの敷設限界のR400の曲線を最急勾配(35%)で上下するという地点であるから,その騒音は制動に伴う金属音も混じった激烈なものとなることが予測される。
甲第9号証で騒音を再予測した結果では,地上15メートルの地
点では近接軌道中心から12.5メートル離れていても,No①からNo④のすべての地点で指針値を超える騒音が予測される。特に,No③地点では,高架に近接する住居(高欄から0.5∼1メートル,地上15メートル)において,等価騒音レベルでも昼間78デシベル,夜間74デシベル,ピーク音(最大値)にすれば89∼95デシベルもの激甚な騒音に晒されることになる。No④地点の道路脇の中層建物(近接軌道中心から12.5メートル,地上15メート
ル)においては,等価騒音レベルでも昼間72デシベル,夜間68デシベル,ピーク音(最大値)にすれば84∼89デシベルの酷い騒音に晒されることになる。以上は本件評価書の140頁以下に示されたコンター図から読みとれる数値をさらに上回っている。
以上のとおり,本件各事業の沿線の実情を考慮すれば,沿線住民
に激甚な騒音被害を引き起こすことが予測され,そのレベルは沿線住民が日常生活を営むこともできないようなものであって,その受
忍限度をはるかに超えており,違法というべきである。

防音対策
被告は,橋りょう区間及び土留擁壁区間については防音壁の設置が可能な構造,ロングレールの敷設が可能な構造,軌道はバラスト道床又はコンクリート道床でコンクリート道床は消音バラストの散布が可能な構造,橋りょう区間について無道床鉄桁構造の採用が避けられていることが認められ,著しい騒音の防止に努めているから技術基準省令6条に適合していると主張する。
しかし,これら防音壁,ロングレール,バラスト道床,コンクリート高架橋などは,本件評価書において予測値を算出する際にすでにモデルの適用条件として折り込み済みである(甲1,129頁)。そして,甲第9号証の再計算結果も同じ適用条件を採用しており,同様に折り込み済みである。さらに,本件評価書においては,前提として反射性の高さ1.2∼1.5メートルの防音壁が予定されている(甲39)。被告は,本件認可に際してこれら詳細を認識していたのであり,これらを前提に本件認可を行ったものである。よって,防音壁の設置が可能な構造が示されていることなどは,環境影響評価による予測値をさらに低減する根拠とはなり得ない。
西大阪鉄道は,一部の原告らに対し,高さ6メートルの防音壁の話を持ち出したことがあるが,このような異常な高さの防音壁を設置するためには,高架構造物の構造計算において高さ1.5メートル程度の防音壁設置とは根本的に条件が異なってくるのであって,本件認可にかかる設計を前提としてはそのような防音壁の設置は不可能である。その他,西大阪鉄道も被告も,環境影響評価による列車走行騒音予測値を低減する具体的対策を何ら個別具体的に主張立証していない。よって,本件評価書で前提とされた防音対策以外の防音対策は,技術
基準省令6条の適合性を判断するに際して考慮されるべきではない。本件工事の着工後に本件認可の時点で具体的に前提とされていなかった防音対策が採られ,仮にこれによって結果的に騒音が低減されるとしても,行政処分の取消訴訟における違法性の判断は処分時を基準にされるべきであるから,裁判所がこれを考慮することは許されない。d
重要な判断要素を考慮しなかった違法
本件認可における被告の判断の適否については,仮に,ある範囲において被告の裁量判断の余地が認められるとしても,被告が,本来最も重視すべき諸要素・諸価値を不当,安易に軽視し,その結果当然尽くすべき考慮を尽くさず,本来考慮に入れるべきでない事項を考慮に入れ,過大に評価すべきでない事項を過大に評価し,これらのことにより被告の判断が左右されたものと認められる場合には,裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして違法となる。
本件においては,著しい騒音が生じるかどうかは重要な判断要素であり,被告がその点について軽視し,容易にできる騒音予測を行わなかったものであるから違法があることは明らかである。

(被告)

工事施行認可における技術基準省令6条適合性の審査内容
(a)騒音防止対策の必要性
本来,列車の走行に伴う騒音の程度は,現実の列車の走行がなけ
れば明らかにならない性格のものであるところ,騒音対策の指針は,将来目標とすべき騒音レベルの基準値を明らかにすることにより,いわば前倒しして鉄道施設建設工事段階において,同基準値を前提とする騒音対策をも考慮させることとしたものである。事業法上,工事施行認可(8条2項),工事計画変更認可(9条2項),完成検査(10条2項)における技術基準省令6条の適合性判断を通じ
て,将来,列車が現実に走行した時点で,解釈基準に定める騒音レベルを上回らないようにするための努力がされているか否かを審査することが求められており,これにより,列車が現実に運行される際に,騒音対策の指針に定められた具体的な騒音レベルを超えないことが担保されることになる。
ただし,これら事業法の規定は,直ちに,鉄道施設建設,列車運
行に至るまでの各段階において騒音の予測を行い,その予測が解釈基準に定める騒音の具体的数値に適合することまで要求するものではない。騒音対策の指針は,鉄道線路から一定の距離を隔てた地点において線路から漏れる騒音レベル及び防音対策の効果を確認しようとするものにすぎず,周辺住民の個々の受音点(鉄道施設からの離隔距離等に無関係に人の生活のある場所)の全てにおいて,騒音レベルを一定数値以下とすることを保証するものではない。また,騒音対策の指針は,工事の進捗に伴って個々の具体的な施設を設計・計画する各段階において,本指針に適合するように計画することを求めていると解することが妥当であり,計画の初期段階から騒音対策を考慮させることにより,事業の実施に伴い,取り返しのつかない環境影響を生じないようにすることを意図したものであると解される。
(b)工事施行認可段階における騒音予測には不確実性を伴うこと列車の走行に伴う騒音の程度は,列車が現実に走行して初めて明
らかになる性質のものであって,列車の走行が可能となるまでは,どれだけの騒音が発生するのかは予測にしかすぎない。列車走行に伴う騒音は,線路構造,軌道構造,防音壁(高欄を含む。)の高さ,車両の構造及び運転速度により左右されるところ,工事施行認可段階においては,車両確認(事業法13条)により確定する車両の構
造,運行計画の届出(同法17条)により確定する運転速度,列車の本数等は確定していない。したがって,工事施行認可段階における予測は不確実なものとならざるを得ず,予測を前提として対策を講じたとしても,実施する対策の効果を一般論にとどまらず具体的に事前に確認することはできない。
他方,騒音防止措置については,鉄道輸送施設完成後,現実の走
行までに,充実・改善の余地があり得るのであるから,工事施行認可段階においては,列車走行時に解釈基準に定める騒音の指針値を達成するための考慮がされているかを確認することで十分である。(c)工事施行認可における技術基準省令6条適合性の審査内容
技術基準省令が,事業法上,工事の施行認可のみならず,工事計
画変更認可(同法9条2項),完成検査(同法10条2項),さらには営業法上,営業開始後の列車の運行,鉄道施設の変更等に当たっても適合性を要求されるものであることに照らし,適合性を判断する段階を考慮してあてはめの判断基準を具体化する必要がある。そして,列車の走行に伴う騒音の程度は,列車が現実に走行して
初めて明らかになる性質のものであって,工事施行認可段階においては,予測は不確実なものとならざるを得ない一方,騒音防止措置については鉄道輸送施設完成後も充実・改善の余地があり得ることに照らせば,工事施行認可の際には,騒音防止の努力があるか否かについて検討することとし,具体的には技術基準省令3条に基づき事業者に策定を求める実施基準において同省令6条の解釈基準に示された数値基準と合致する指針値が規定されているかなど,列車の走行時に解釈基準に定める騒音の指針値を達成するための考慮がされているかどうかの確認にとどめ,その後,事業者が実施基準遵守義務を果たしていない場合には,完成検査,鉄道施設の検査等の過
程を通じて事業者に対して所要の措置を講ずることとするのが合理的である。
さらに,被告は,事業法の手続を要しない事業活動においても,
事業者が適切に環境を保全するための措置を講じていくよう技術基準省令6条において著しい騒音の防止について努力義務を課し,同省令3条において実施基準を定めて遵守する義務を課すことにより,事業者に事業を継続している限り著しい騒音の防止を図らなければならない法的義務を課す規制の仕組みを構築している。事業者が,このような規制の仕組みの中で環境を保全するための措置を講じなければ,被告は,業務改善命令等の不利益を課すことにより,その遵守を図ることになる。

本件工事計画が技術基準省令6条に適合すること
以上の観点から,被告は,工事施行認可段階においては,実施基準に解釈基準と合致する指針値が規定されていること,当該実施基準に適合させるために工事計画において騒音の発生を低減させるための配慮がされていること,線路外に漏れる騒音が少なくなるような措置が採られているあるいは講ずることが可能であることを確認し,これらを満たしていれば,著しい騒音の防止に努めており,技術基準省令6条の適合性が認められると判断している。
本件工事計画に関する騒音防止対策については,まず,線路実測図から線路構造及び線路中心線から左右100メートル内の建物の連たん状況及び河川・道路の状況を確認し,解釈基準が定める騒音レベルの基準値は,地下区間を除き,橋りょう区間及び土留擁壁区間に適用されることを確認した。そして,橋りょう区間においては,騒音が著しい無道床鉄桁橋りょうが採用されていないことが確認された。また,工事計画,実施基準,橋りょう及び土留擁壁区間の構造物の断面図な
どの各種図面から防音壁(高欄を含む。)の設置があること又は設置が可能なこと,バラスト道床あるいはコンクリート道床を採用し,コンクリート道床は防振構造で消音バラストを散布可能なこと,当該区間はロングレールが敷設されることが確認され,これらの仕様等がこれまでの騒音数値に関する知見に照らし,列車が走行する時点において解釈基準に定める騒音の指針値を達成するための考慮がなされていることも確認できた。これらから,本件工事計画が著しい騒音の防止に努めているとの判断に至った。なお,工事着手後に西大阪鉄道において,高さ約6メートルの防音壁の設置を計画している。これは環境影響評価手続の中において,評価条例20条に基づき市長から

本路線沿線における生活環境の保全のため,住宅等の立地状況に十分配慮し,必要に応じて適切な騒音・振動対策を講じること。また,供用後,事後調査により予測結果の検証を行うこと

との意見が出されたこと等を踏まえたものであって,環境保全に努める観点から防音壁の仕様等について再検討をし,約6メートルの高さの防音壁の設置を計画しているものであって,技術基準省令の適合性とは無関係である。

本件評価書
(a)環境基準及び環境影響評価
一般に環境影響の予測及び評価においては,事業者により実行可
能な範囲でできる限り環境影響の回避・低減が図られているかという観点から評価することが基本であり,国や地方公共団体の環境保全施策のうち環境基準が明らかにされている場合には,これらとの整合性についても併せて検討することになる。
本件の環境影響評価もそのような視点から実施されているが,環
境基準は,維持されることが望ましい基準であり,行政上の政

策目標であって,環境基準が遵守されないという場合でも,それだけでは地域住民に重大な被害を生じさせることや重大な環境保全上の支障が生ずることが明らかとなるとはいえない。
(b)本件評価書の正当性が技術基準省令6条適合性の判断に影響を与えないこと
被告が工事施行認可段階において行う著しい騒音の防止に努めているかの判断は,具体的に予測された騒音レベルの検証を行うのではなく,将来解釈基準に定める騒音レベルを上回らないようにするための努力が工事段階でなされているか否か,具体的には,実施基準に解釈基準と合致する指針値が規定されていること,当該実施基準に適合させるために工事計画において騒音の発生を低減させるための配慮がなされていること,線路外に漏れる騒音が少なくなるような措置が採られていること又は講ずることが可能であることを確認するほかなく,かつそれをもって足りる。したがって,本件評価書の記載内容によって工事計画の技術基準省令6条適合性の判断が左右されることはないから,本件評価書の正当性は,同条適合性の判断に影響を与えず,本件認可の適法性とは無関係である。
また,環境影響評価法においては,その適用を受け,政令で定め
る一定規模以上の免許等の対象となる事業について環境影響評価を実施した場合,免許等を行う者は,環境の保全に関する審査によって環境の保全に配慮していない場合は免許等を拒否する処分等を行うことができるとする横断条項(同法33条)を定めており,行政実体法における処分等の要件を定める根拠規定を個別に改正するに等しい効果を備えた規定であるということができる。しかし,本件工事は環境影響評価法の適用はなく,評価条例には,環境影響評価法33条のような実体法的な規定はなく,市長は,対象事業に係る
免許等を行う者に対し,当該対象事業の実施についての免許等を行うに際して,環境影響評価書の内容に配慮するように要請することができると定めるにすぎない(評価条例39条2項)。そして,評価条例においては要請を受けた許認可権者の義務を定めた規定はないのであるから,このような配慮を要請するにすぎない規定では,許認可等の根拠となる法令の要件に関する規定を個別に改正するに等しい効果を付与する規定といえず,被告が本件認可にあたって本件評価書の正当性を判断する必要性はないし,また,その義務もない。したがって,仮に本件評価書が不当なものであったとしても,本件認可の適法性に何ら影響を与えるものではない。
被告は,本件認可において本件評価書を技術基準省令6条の適合
性を判断する際に参考としているが,環境影響評価書は,方法書
(評価条例7条),準備書(同13条)の2回にわたって環境の保全及び創造の見地からの意見を有する者の意見書の提出が認められ,また市長も意見を述べるが,その際には,あらかじめ専門委員会(同36条)の意見を聴くものとされていること(同10条,20条)などによりその客観性が担保されているということができ,参考とすることに何ら問題はない。
(c)本件評価書が不当とはいえないこと
原告らは,証人Eの供述及びEが作成した報告書(甲9)に基づ
き本件評価書が不当な内容のものであると主張する。しかし,Eは,環境影響評価はベスト追求型であり,騒音予測においてもその主旨を踏まえて安全側の数値を代入すべきであるとの立場に立って環境影響評価を行うとしており,甲第9号証もそのような観点から作成されている。
他方で,原告らは,本件評価書は騒音予測において恣意的な操作

がされた可能性があると主張するが,その根拠は,なぜそのような選択をしたかについて客観的な記述がないというにすぎず,運転速度などの予測条件の設定内容自体を鉄道の技術的な制約条件を踏まえて検討したものではない。評価書上,選択した数値や手法について,どの程度,根拠を説明するのが適切かという問題はあるにせよ,かかる問題と恣意的な操作がされたか否かは全く別問題である。恣意的に操作したというのは,あくまでも推定にすぎない。
また,原告らは,D式は転動音が鉄道構造物種別の影響を受けな
いとしているところ,本件評価書はこれと異なる前提に立っていると主張し,D式が上記のような前提に立っているという根拠は甲第28号証であるとするが,甲第28号証からは必ずしもD式が上記前提を取っているとは読めないし,本件評価書の予測方法がD式と異なっており不当である,あるいは恣意的であるとする証人Eの証言は根拠があいまいなものである。中央復建の主任技術員は,高架の高欄の上等での測定値を基にして鉄道騒音の予測モデルから逆算して転動音の音源パワーレベルを求めるのに,鉄道構造によって,音の吸音や反射特性が異なることを考慮するのが相当であると根拠を明らかにしている。
本件評価書は,専門委員会が騒音予測に必要な音源パワーレベル
の設定の妥当性について住民意見を踏まえて都市計画決定権者に対して説明を求め,事業者が説明のための資料を提供した経緯があるが(乙37,24∼32頁),予測が恣意的な数値を前提とし,あるいは特殊な予測方法を採用しているというような指摘がされた形跡は認められない。また,評価書をとりまとめる中で評価を誤り,あるいは評価の誤りを看過したとしても,評価条例29条3項(事後調査報告書の審査等)によって,市長は,事業者に対し,必要な
環境保全措置を講ずるよう求めることができるから,環境影響評価の段階で予測を恣意的に操作をすることなど想定し難い。これらからすると,本件評価書が不当なものであるとはいえない。
(イ)その他の規定適合性

5条(危害の防止)適合性
(原告ら)
工事により危害が及ぶ人の範囲には,鉄道事業者及び工事関係者自身のほか,のり切り,切土,掘削,盛土,くい打ち等による,地盤沈下,地盤崩落,騒音,振動などの災害によって直接的な危害が及ぶ沿線住民を含む。本件工事は,住宅密集地で,予定線路からわずか1メートル程度の位置に既存の居住用建物および商店が林立する地域における高架・掘割構造を含む鉄道新設工事であって,その状況にかんがみて,地盤沈下,地盤崩落,騒音,振動により人に危害を及ぼすおそれが甚大であるから,鉄道事業者には高度の安全対策が要求されている。
しかるに,本件において,西大阪鉄道が講じる危害防止措置の内容は,工事計画中に抽象的一般論が記述してあるのみであり,上記のような危険性の高い地域における工事であるのに,その状況を特に考慮していない点で本条に適合しない。
また,被告が,認可権者として,上記のような危険性の高い状況を正確に認識し,危険性とその防止措置の審査を行うべきであるにもかかわらず,かかる状況を自ら認識することなく,または,都市計画権者及び鉄道事業者からの一方的な報告に基づく誤った決定権者及び鉄道事業者からの一方的な報告に基づく認識を基礎として,上述のごとき特別の措置を講じていない工事計画をして本条に適合するものと判断したのは違法である。

(被告)
本件認可申請において西大阪鉄道が提出した危害防止方法記載書類には,土砂の掘削等を伴う工事を特定した上で,工事中に土砂崩壊,かん没,排土すべり出し等が生じないよう,ボーリング等による土質調査,土留工の方法,密閉型シールドマシンによるトンネル採掘などについて記載されている。危害防止措置の内容が一般的,抽象的であるとの原告らの主張は失当であり,これらの安全確保の方法が講じられれば人に危害を及ぼすおそれはないということができるから,本件工事計画は技術基準省令5条に適合している。

8条(応急復旧の体制)適合性
(原告ら)
被告は,応急復旧のための体制は,運行を開始するまでに定めておけば足りるのであって,工事の施行の認可の際に審査する事項ではないと主張する。しかし,事業法8条2項は,技術基準省令に適合することを認可の要件としているのであるから,技術基準省令8条が要求している応急復旧のための体制を定めなくても認可してよいというのは誤りである。技術基準省令は,認可の要件であるものとそうでないものとを区別していない。認可の際に応急復旧の体制の有無が審査されなければ,運行開始前においても審査される機会がないのであるから,結局,応急復旧のための体制を定めるよう要求した事業法の趣旨は全うされないことになる。
被告は,技術基準省令8条の運転事故・災害等には工事施行中
の災害等は含まれないと主張する。しかし,災害対策基本法2条1号は,災害を暴風,豪雨,豪雪,洪水,高潮,地震,津波,噴火その他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他と定義しており,本令でいう災害等には一般に事故と表現する非常事

態全般を含むものと解すべきである。
監督行政庁は,従前から鉄道の建設,改良等の工事に伴う事故の防止について(昭和49年2月21日鉄土第12号通達)及び鉄道・軌道の建設,改良等の工事に伴う事故の防止について(平成3年3月15日官鉄施第26号・地施第56号各通達)において,工事期間中の安全管理体制の確保を事業者に求めている。近年,我が国においては,集中豪雨や震災等による激甚被害が多発しているほか,テロ対策なども重要な課題となっており,本件のように,大規模な鉄道新設工事が数年間にわたって継続される場合には,工事期間中に何らかの災害等に遭遇する可能性があり,仮に,それらの危険が住宅・商店密集市街地において一度現実になれば,当該線路が運転中か工事中かにかかわらず,近接する沿線住民の生命身体財産に甚大な危害を及ぼす。
以上のとおり,本件認可に当たって,被告が,技術基準省令8条で要求されている応急復旧のための体制の定めがないのに本件工事施行を認可したことは違法であり,本件工事計画中に災害時の応急復旧のための体制をあらかじめ定めた事項がない点,及び,被告がかかる事項に関する審査を行っていない点でも,本件認可は違法である。
(被告)
事業法8条2項は,あくまで工事計画が技術基準省令及び事業基本計画に適合することを認可の要件としているところ,応急復旧のための体制は,工事計画の記載事項とはなっていないから(事業法施行規則11条2項,別表第一参照。ただし,西大阪鉄道は,特定認定鉄道事業者であることから,事業法施行規則27条の2第1号イにより工事施行の認可の申請に係る工事計画の記載事項は別表第五の三に掲げるとおりとなるが,同表においても応急復旧のための体制は記載事項
とはなっていない。),工事の施行の認可の際に審査する事項に当たらない。したがって,この点が本件工事計画に定められていなくても,技術基準省令8条に違反することはない。
技術基準省令は,鉄道ノ建設,車輛器具ノ構造及運転ハ国土交通省令ヲ以テ定ムル規程ニ依ルヘシと定める営業法1条の規定に基づき制定され,その1条(目的)がこの省令は,鉄道の輸送の用に供する施設(以下「施設という。)及び車両の構造及び取扱いについて,必要な技術上の基準を定めることにより,安全な輸送及び安定的な輸送の確保を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。」と定めていることからも明らかなとおり,工事施行の認可に当たり審査すべき事項のみについて規定しているわけではない。技術基準省令は,工事の完成検査(事業法10条2項),鉄道施設の検査(事業法11条2項),車両の確認(事業法13条1項)等に当たり審査すべき事項についても規定している。
技術基準省令8条の規定の解釈に当たり,趣旨,目的を異にする災害対策基本法2条1号の規定を参考にすることは相当ではないし,技術基準省令8条は,災害,運転事故等ではなく運転事故,災害等と規定しているから,列車の運行開始前の工事における災害等を含まないことは,その文理解釈に照らしても明らかである。

第3章第2節(線路線形等)の技術基準適合性
(原告ら)
技術基準省令は,13条(線路線形),14条(曲線半径),15条(カント),16条(スラック),17条(緩和曲線),18条(こう配),19条(縦曲線)などにより,線路線形の技術基準を定めることによって,車両の安全走行,脱線防止を図ろうとしている。しかるに,本件工事部分のうち,安治川橋りょう(0K382M90
0)には緩和曲線と縦曲線が競合する曲線半径の小さいカーブが橋りょう部分として存在し(乙1,第12号図その3-1及びその4-1参照),これを含めて本件工事区間中には,こう配確保の必要等から緩和曲線と縦曲線が競合する曲線半径の小さいカーブが九条駅西側(1K116M650),岩崎橋駅西側(1K676M000),木津川下(2K116M791)の合計4か所もある。上記のような曲線の競合は脱線の危険につながるため,設計上避けるべきものとされており,本件工事施行は,線路線形に関して技術上の適切を欠く違法な設計となっているおそれが大きい。
(被告)
緩和曲線と縦曲線との競合は,軌道の左右レールの間隔や高低差,レール長さ方向の高低差等の変位量を管理することが困難となるためできる限り避けることとしている(線路及び施設の審査基準について(昭和51年6月28日付け鉄土第46号鉄道監督局民営鉄道部土木電気課長通達)。乙24)ところ,当該箇所は,コンクリート構造(乙1添付図面第9号図地上区間定規図,同第10号図開削トンネル定規図,同第11号図単線シールドトンネル定規図参照)にするなど軌道が容易に変位しない構造を採用していることから,管理上の問題は発生せず,車両の安全な走行に支障を及ぼすことはなく,技術基準省令19条(縦曲線)に違反しない。

20条6項(建築限界)及び27条1項(災害等防止設備)適合性(原告ら)
技術基準省令20条6項の規定は建築限界外における鉄道事業者の工作物の設置を想定したものであり,同27条1項の規定は切取区間,トンネル口等を想定したものではある。しかし,西大阪延伸線のように,橋りょう構造物から極めて近接し,これを見下ろす位置に既存建
物がある場合には,災害時のみならず,平時においても建築限界内へ建築物の部分や付属品(広告看板など),生活用品(物干し竿,植木鉢など)等が崩落・墜落することが避けられないのであるから,鉄道事業者としては,本条の趣旨からそれらに対する措置を定めておかなければならない。
しかるに,本件工事においては,建築限界内への崩落や線路への物件落下に対して措置が講じられておらず,不測の事態が発生したときには,落下物自体により工事関係者の生命身体財産に危害が及ぶほか,閉塞された線路からの車両(工事・検査・保守等の関連車両を含む)の脱線・転落等により,沿線住民の生命身体財産に甚大な被害を生じる可能性が高い点で,上記各条に適合しない。
(被告)
技術基準省令20条6項は,その文理からして,鉄道事業者に対し,あくまで建築限界外に建築限界内に崩れるおそれのある物を置くことを禁じているにすぎず,それ以上に,既存建物から建築限界内への建築物の部分,附属品,生活用品等の崩落,墜落に対する措置を命じる規定であると解することはできず,原告らの上記主張は,その前提を誤っている。
また,技術基準省令27条(災害等防止設備)1項の趣旨は,斜面等からトンネル口等への落石に備え,必要な箇所に落石予防工や落石防護工を施し,又は落石検知装置を設置することを義務付けている規定であって,それ以上に,既存建物からの建築物の部分,附属品,生活用品等の崩落,墜落に対する措置を命じる規定であると解することはできず,原告らの上記主張はその前提を誤っている。

28条1項(橋りょう下等の防護)適合性
(原告ら)

本件工事は,交通の頻繁な道路・河川のほか,既存建物及び商店街出入口直上に架橋する橋りょう工事として,物件の落下により,通行者や住民の生命身体財産に重大な被害を生じる可能性があるのに,本件工事計画中には,物件の落下を防止する防護設備の設置を定めた項目はなく,上記の被害の危険性が除去されていないという点で,技術基準省令に適合しない。
(被告)
技術基準省令28条1項(橋りょう下等の防護)の趣旨は,運行開始後に橋りょうから交通の頻繁な道路等に砕石(バラスト)が落下しないような設備(橋りょう下防護工。乙26参照)の設置を義務付けている規定であって,工事中の物件の落下に対する措置を命じる規定でないことは明らかであって,原告らの上記主張はその前提を誤っている。

39条(道路との交差)適合性
(原告ら)
交通量が増大し,自動車が大型化・高速化している今日において,公衆用道路と鉄道が交差する場合には,道路の渋滞がおこるほか,軌道への進入・衝突・転落などの重大事故が発生して,大きな被害を生じる可能性がある。このため,道路整備に伴う鉄道との交差については,交通事故の防止及び交通の円滑化を目的として昭和36年に踏切道改良促進法が制定され,立体交差を原則とすることになった。本条も上記の考慮に基づくものであり,やむを得ない場合といえ
るかどうかは,主として交通事故の防止及び交通の円滑化を妨げないかどうかの見地から,現地の利用状況や地域特性を総合考慮して慎重に判断しなければならない。
しかるに,西大阪延伸線は,九条地区の橋りょう部から掘割構造部
にかけて,九条南地区と九条地区とを結び,九条北小学校への通学路となる交通量の多い重要な生活道路である公衆用道路を分断する。別紙6地図④の交差点(以下交差点④という。)は通行可能な高さが2.2から2.4メートルに制限され,また,同地図⑥の交差点(以下交差点⑥という。)は完全に通行できない状態になる。これらの交差部分は,技術基準省令が原則禁止としている道路との交差禁止に反するものであり,そのような分断がやむを得ない理由もなく,技術基準省令に適合しない。
(被告)
技術基準省令39条本文は,単なる交差ではなく平面交差を原則として禁じているのであり,原告らの主張する交差部分については,いずれも鉄道線路と交差するものではないから,同条本文には抵触しない。

その他の違法性
(ア)違法性総論
(原告ら)
行政庁には,認可等に当たり当該施設が将来において利用されることに起因する一定の損害を受けるリスクから第三者(周辺住民)を保護する義務が課せられている。このような行政庁の法的義務(リスクから保護する義務)は,処分の根拠規定によって課せられたものに限られるという理論的必然性はない。処分を行う行政庁に対しては,根拠規定のほかにも手続規定・目的規定等様々の枠規定が,更にはまた,行政庁の権限行使に制約を課する現行法令一般が,このような法的義務を課している。行政庁の権限行使は,現行法令一般に反しないことが求められているのであって,関連法規である都市計画法,事業法に違反する場合は本件認可が違法となることは明らかである。

また,認可により違法な状態を作出してはならないことも,当該施設が将来において利用されることに起因する一定の損害を受けるリスクから第三者(周辺住民)を保護する義務が課せられていると認められることから明らかである。
(被告)
事業法8条2項によれば,工事施行認可においては,違法事由は事業基本計画あるいは営業法1条の国土交通省令である技術基準省令に適合しないことであり,それに尽きる。したがって,その余の違法は本件認可の違法事由とはなり得ないから,原告の上記主張は主張自体失当である。
(イ)都市計画決定の違法性
(原告ら)

違法の関連性
工事施行認可手続においては,事業基本計画への適合性が審査されなければならない(事業法8条2項,事業法施行規則5条)。事業基本計画は事業法5条に定められる事業の計画の中核をなすもので
ある。事業の計画の審査においては,経営上,輸送の安全上,事
業の遂行上いずれも適切な計画であることが必要である(事業法
5条1項1号ないし3号)。したがって,工事施行認可においても,当該工事が,事業法上適切な計画に基づくことが要件となってい
る。
また,事業基本計画中には,環境対策,バリアフリーなどが考慮されていることからも明らかなとおり,ここでいう適切な計画とは,その鉄道事業が実現した場合に,鉄道関係法令のみならず,環境基本法,高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律,都市計画法,災害対策基本法,評価条例などの関
連する諸法令に違反しないこと,すなわち違法状態を作出しないと是認できる計画であることを指す。
被告は,本件認可に当たって,大阪市の都市計画において都市高速鉄道が都市施設として定められた事実やその都市計画決定に基づく環境アセスメントの結果を上記の適切な計画があったものとす
る重要な論拠としている。したがって,その都市計画決定もしくは環境アセスメントの結果に違法ないし著しい不当があった場合には,被告が前提とした事業基本計画もその内容において適切を欠くことになり,結局は,本件認可も行ってはならないことになる。

違法事由
都市高速鉄道の都市計画決定は,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な都市環境を保持するように定めなければならない。本件認可の対象たる鉄道事業は,環境面,災害対策,地域の経済性などの点で優位性を有する地下式を採用しなかった点,騒音,振動,低周波音,日照,電波障害などの点で環境基準に違反する状態を生み出す点,新たな災害対策上の問題を生じさせるなど災害対策基本法に違反する点,地域経済の阻害や交通渋滞を招くなど都市計画法13条に違反する点など都市計画法等の関係法令に違反することは明白である。

(被告)
事業法8条1項の鉄道施設に関する工事の施行の認可は,同条2項の規定からも明らかなとおり,都市計画決定の存在を要件としておらず,都市計画決定の違法が同条1項の認可の適法性に影響を及ぼすことはあり得ない。原告らの主張は失当である。
(ウ)鉄道事業許可の違法性

(原告ら)

違法の関連性
鉄道事業許可と工事施行認可は,当該事業者の事業内容の確認及びそれに沿った設備建設という鉄道事業開設に向けた一連の行為について,専ら鉄道事業者の申請の便宜上又は立法技術上の都合から別の行政手続になっているだけである。事業法4条は,鉄道事業許可の申請事項として施設の概要を記載しなければならないとし,8条において,鉄道事業者は,・・・鉄道事業に要する施設について工事計画を定め,・・・工事の施行の認可を申請しなければならないと規定している。事業法は,鉄道事業許可において申請した施設について一定期間内に工事施行の認可を申請しなければならないと定めている。このように,鉄道事業が許可されれば当然に工事施行認可申請をしなければならないものであって,当該事業者の施設を含む事業内容の確認(鉄道事業許可)及びそれに沿った設備建設という鉄道事業開設(工事施行認可)が一連の行為であり,一体性がある。したがって,鉄道事業許可の違法は,一体である工事施行認可の違法となる。
さらに,工事施行認可(事業法8条)は鉄道事業者に対してさ
れるものであり,鉄道事業者とは鉄道事業の許可を受けた者
(同法7条)であるから,適法な鉄道事業許可を受けていることは適法な工事施行認可の前提条件となっている。鉄道事業許可が違法であれば,鉄道事業者足り得ない。そのような者の申請する工事施行
認可が違法となるのは当然である。


違法事由
次のとおり,本件各事業許可には違法があり,それは本件認可の違法事由でもある。
(a)経営上の適切性

事業法5条1項1号が,鉄道事業の計画が経営上適切な場合でな
ければ許可をしてはならないとしているのは,鉄道事業が乗客及び周辺住民の生命・身体・財産にかかわる事業であると共に,地域経済や地域住民の移動の自由にかかわる公共的性格を有することから,鉄道事業の経営が不適切に行われれば,運行の安全性が維持できなくなり万一事故が起こった場合には大きな被害をもたらすことになるし,仮に倒産等により事業廃止となった場合には多大の影響をもたらすため,これを回避するために,経営上適切である事業のみを許可することとしたものである。
本件各事業は,以下に述べるとおり,需要予測について十分な裏
付け資料がないまま,不適切な需要予測に基づく楽観的な収支予測がされており,採算性がなく事業の計画が経営上適切なものであるとはいえない。被告が行った本件各事業許可は,事業法5条に反する違法がある。

西大阪延伸線の必要性
西大阪延伸線は,阪神電鉄が昭和42年に中止したままである。
阪神電鉄が工事を中止した理由は,①

輸送量が昭和45年をピ

ークに減少ないし停滞しており,車両の大型化によって対応でき
るようになったこと,②
と,③

競合する地下鉄千日前線が開通したこ

建設コスト等が上昇したことであり,これらの事情は現

在でも同様である。西大阪延伸線は不採算路線となることが明ら
かであり,環境を破壊し,地域を分断するなど多くの問題を抱え
る西大阪延伸線を,巨額の費用をかけてまで建設する必要はない。第10号答申では,西大阪延伸線について平成17年までに整
備することが適当である区間と位置付けられている。しかし,第
10号答申は,平成元年5月というバブル経済の真っ直中に作成

されたものであり,大阪圏における大規模ナショナルプロジェク
トや再開発(関西国際空港,関西文化学術研究都市,テクノポー
ト大阪,梅田・中之島・湊町再開発等)が推進され,これらに関
連して大量・定型的流動が発生することが前提となっている。こ
れらのプロジェクトは計画どおり進捗しているとは言い難く,大
阪圏においても実質上見込みの立たないプロジェクトが多数存在
する。さらに,第10号答申は,昭和60年において1780万
人の大阪圏人口が,平成17年には1990万人になるという前
提で将来展望を述べているが,実際には大阪圏の人口はそれほど
増加しておらず,高齢者(65才以上)の占める割合は急激な増
加傾向にあり,就業人口は減少傾向にある。就業者が減少すれば
トリップは減少するから,第10号答申のような交通需要は見込
めない。第10号答申は,少なくとも現時点では妥当しない前提
に基づき鉄道網の整備の必要性を認めている。本件各事業許可申
請における近畿運輸局の調査書(甲47の2)は第10号答申を
根拠に西大阪延伸線の必要性を認めており,これを受けてされた
本件各事業許可は誤りである

需要予測
西大阪延伸線の整備計画書(甲47の5)においては,次のと
おり需要予測が誤っている。①

人口動態に関し,平成7年を基

準として将来人口を推計しているが,同年以後将来人口の推計が
修正され,少子高齢化が急速に進むことが判明しているから,同
年を基準とすることは需要を課題に見積もることになる。②

成12年のパーソントリップ調査を用いるべきところ,平成2年
の古いパーソントリップ調査を用いており,現実の変化を反映し
ない不正確なものとなっている。③

前記のとおり,開発が頓挫

や遅延した大規模プロジェクトを前提としており,大規模集客施
設についても来訪者数を過大に設定して需要を予測している。④現況路線に加えて中之島新線,大阪外環状線,地下鉄8号線,
北港テクノポート線,京阪奈新線,京都市交東西線等が予測対象
鉄道網に含められているが,開通するかどうかも不明であって,
未完成の鉄道ネットワークを前提とした需要予測は現実離れした
ものである。⑤

具体的予測方法が明らかにされておらず,パラ

メータ推定の方法,説明変数の取り方,地域等を分割するゾーニ
ングの適切性などが検証できない。⑥

連結・解放作業をするこ

とが適切に考慮されているか明らかでない。⑦

加算運賃により

料金が割高となるところ,近距離利用が過大に見積もられている。⑧

需要予測で可変性が一切考慮されていない。
収支予測
上記整備計画書の収支予測では,運賃改定を5年ごとに12%

行うことを前提としているが,デフレ経済の下で5年に12%の
値上げをすることはできない。また,車両の更新に係る費用が計
上されていない。車両の更新を予定しない収支予測はずさんであ
る。
西大阪鉄道は,騒音対策のため6メートルの防音壁の設置可能
性について言及しているが,そうなれば建設費用が大幅に増大す
るところ,上記収支予測では組み込まれていない。
(b)輸送の安全上の適切性
前記のとおり,技術基準省令が遵守されていないこと,西大阪鉄
道には経理要員しか配置が予定されていないことなどその事業の計画が輸送の安全上適切なもの(事業法5条1項2号)とはいえない。

(c)遂行上適切な計画
前記のとおり,激烈な騒音が予想されるなど環境対策が不十分で
あること,災害対策にも問題があることなど事業の遂行上適切な計画を有するもの(事業法5条1項3号)とはいえない。(被告)

違法性の承継
前記のとおり工事施行認可においては,違法事由は事業基本計画あるいは技術基準省令に適合しないことに尽き,鉄道事業許可の違法は本件認可の違法事由とはなり得ない。
行政処分には公定力があるから,これに瑕疵があったとしても権限のある機関によって取り消されない限り有効とされ,先行行為の違法が当然に後行行為に承継されることはないのが原則である。先行行為と後行行為とが同一の目的を追求する手段と結果の関係をなし,これらが相結合して一つの効果を完成する一連の行為となっている場合には例外的に違法性の承継が認められると解する裁判例,学説も存在するが,先行行為に処分性を与えながら,これと矛盾する違法性の承継を認めるというのは,特殊な処分についての例外的な扱いというべきである。これが認められる場合があるとしても,極めて限定されているというべきである。
事業法3条の規定による鉄道事業の許可は,その許可基準(同法5条1項)からも明らかなとおり,事業の実現可能性,継続性,安定性,輸送の安全性等の観点からその事業の審査を行い,申請者に対して鉄道事業の経営を行うことを許可する処分であるところ,鉄道事業は,鉄道施設に関する工事を伴わないものもあり得るし,上記許可を受ければ直ちに経営が可能となるのではなく,実際に経営を始めるためには,鉄道施設に関する工事の施行の認可(事業法8条),工事の完成
検査(事業法10条),車両の確認(事業法13条),旅客の運賃及び料金の認可(事業法16条)等の手続を経る必要があるのであって,鉄道事業の許可と工事施行の認可とが鉄道事業の経営という同一の目的を追求する手段と結果の関係をなし,これらが相結合して一つの効果を完成する一連の行為となっているとまではいえない。そして,鉄道事業の許可に瑕疵があれば,その瑕疵を理由として抗告訴訟を提起し,その違法性を争うことができるのであるから,工事施行の認可の取消訴訟において鉄道事業の許可の違法の主張を認める必要もない。また,事業法5条3項の規定が存在し,第二種鉄道事業者と第三種鉄道事業者とが事実上密接な協力を行うからといって,直ちに第二種鉄道事業者に対する鉄道事業の許可の違法が第三種鉄道事業者に対する工事施行の認可に承継されるとするのは,論理の飛躍がある。
したがって,本件は,違法性の承継が認められる場合でない。

自己の法律上の利益に関係のない違法(行訴法10条1項)
取消訴訟は,原告らとの関わりを離れて広く違法な処分の是正を図ることを目的とするものではなく,違法な処分によって侵害された原告らの権利利益を救済するための訴訟であることから,行訴法10条1項は,原告らが自己の法律上の利益に関係のない違法を取消しの理由として主張することができないと規定している。そして,ここにいう自己の法律上の利益に関係のない違法とは,行政庁の処分に存
する違法のうち,原告らの権利利益を保護する趣旨で設けられたのではない法規に違反した違法を意味するものと解される。そして,ここでいう法律とは当該処分の根拠規定である行政実体法規を意味す
る。
事業法は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的としているが(1条),鉄道事業は,大量の旅客や貨物を安全に輸送するという国民の日常生活及び経済活動に必要不可欠の需要に応じるものであり,その性質上,輸送の安全を確保し,良質な輸送を安定的かつ継続的に提供することが極めて重要であることから,許可制とされ,適切な事業の計画及びその事業を適確に遂行する能力を有する者に対してのみその経営が認められている(事業法3条ないし5条)。同法5条1項1号は,このような観点から,申請された事業の計画が,鉄道事業の安定的かつ継続的な経営を行う上で適切なものであるかどうかについて審査を行うための基準を定めたものである。そのため,申請の際には,事業収支見積書及びその算出の根拠として輸送需要等を記載した書面等を添付させるとされている(事業法4条2項,同法施行令2条2項ないし4項)。その趣旨は,これにより鉄道事業を継続的かつ安定的に経営することができるかどうかについて判断するためである。
このように,事業法5条1項は,鉄道事業が国民の日常生活及び経済活動に与える影響の大きさ等にかんがみ,良質な輸送を安定的かつ継続的に供給することができる者を選定する趣旨で定められた規定であるということができ,個人の静穏利益を保護する目的を有するものではない。
したがって,原告らの主張は,自己の法律上の利益に関係のない違法を理由とするものであって,許されない。
(エ)道路敷設許可の違法性
(原告ら)

違法の関連性
本件工事の施行は,道路への敷設許可がなければできないものであ
り,本件敷設許可は,本件工事施行のために許可されたもので,本件敷設許可と本件認可とは一体性がある。事業法61条の道路敷設許可がされない限り,本件工事の施行を認可することは法律に違反する無許可の工事施行を認めることになる。本件敷設許可は本件認可の要件であり,先行行為である道路敷設許可は,後行行為である工事施行認可の内容である鉄道線路の道路敷設を可能とするためにされたもので,同一目的を達成するための手段と結果の関係にあるし,相結合して鉄道線路の道路敷設という一つの効果を完成する一連の行為となっている。したがって,本件敷設許可の違法は本件認可の違法に直結するか,少なくとも承継される。

違法事由
本件においては,事業法61条1項ただし書のやむを得ない理由はない。やむを得ない理由があるかどうかは,鉄道敷設の必要性の程度,当該道路以外への敷設の可能性,鉄道事業の実現性(用地買収の可能性など),当該道路への敷設による弊害や問題(周辺への悪影響,道路管理上の問題など),代替手段(例えば地下化)の有無などを総合して判断すべきである。
本件における敷設される道路に隣接して阪神電鉄が買収した用地が数メートルにわたって存在し,専用敷地等の確保は困難ではないからやむを得ない理由はない。被告は,道路敷設の地域にはオフィスビルやマンションなどが集積しているため,これを撤去することは極めて困難であることをやむを得ない理由に挙げている。しかし,被告は,本件現場の状況については調査していないのであるから,現場状況を理由に挙げること自体が矛盾している。
さらに,鉄道線路を道路敷設することなく地下化することも可能であり,やむを得ない理由はない。地下化は,環境面,災害対策面,地
域経済への影響など種々の点で優位性を有するものであり,地下化が可能である以上やむを得ない理由はない。
(被告)

違法性の承継
前記のとおり工事施行認可においては,違法事由は事業基本計画あるいは技術基準省令に適合しないことに尽き,道路敷設許可の違法は本件認可の違法事由とはなり得ない。
鉄道事業は,巨大な固定的施設を建設することにより初めて経営することが可能であり,いったん建設してしまうと大規模な変更は容易でない。そこで,国としては,鉄道事業者が設置しようとする鉄道施設が,当該鉄道事業者が鉄道事業の許可を受けた際の意思を的確に具体化する施設として計画,設計されているかどうかを確認し,当該鉄道事業者がその計画どおり当該鉄道施設の建設工事に着手することについて同意を与えるという行為を設定する必要がある。これが事業法8条1項の認可の趣旨である。他方において,事業法61条1項ただし書の許可は,鉄道線路を道路に敷設するについて,その必要性とこれを敷設することによる道路交通への影響等道路管理上の必要とを考量し調整する判断を被告にゆだねたものである。以上のとおり,事業法8条1項の認可は,事業法61条1項ただし書の許可と趣旨,目的を全く異にしている。
また,事業法8条1項の認可は,同条2項の規定からも明らかなとおり,事業法61条1項ただし書の許可の存在を要件としていない。鉄道施設の工事は,常に鉄道線路の道路への敷設を伴うわけではなく,また,鉄道線路を道路に敷設する場合であっても,時系列的に,常に事業法61条1項ただし書の許可が事業法8条1項の認可に先立つわけでもない。

以上によると,事業法8条1項の認可は,事業法61条1項ただし書の許可の存在を前提としておらず,同許可の違法の影響を受ける余地はないというべきである。
仮に,事業法8条1項の認可が事業法61条1項ただし書の許可を前提としているとしても,これらの認可及び許可は,趣旨,目的を異にしており,同一の目的を追求する手段と結果の関係をなし,これらが相結合して一つの効果を完成する一連の行為となっているとはいい難く,違法性の承継を認めることは困難である。

やむを得ない理由
事業法61条1項ただし書にいうやむを得ない理由とは,鉄道
線路を敷設するための専用敷地等の確保が極めて困難である場合をいうものであるところ,本件工事計画における路線(区間)の沿線は,既成市街地でオフィスビル,マンション等の堅固な建造物が集積しているところ,これらの建造物を収去するなどしてその跡地に鉄道線路を敷設することは,沿線社会に及ぼす影響のほか,工程の長期化や,用地取得,防護工事等に要する費用などに照らし,極めて困難であるというほかなく,やむを得ない理由があるというべきである。
原告らが主張する阪神電鉄が買収した道路の隣接地は位置が特定されていないものの,仮に道路の拡幅のために確保されている土地を指すのであれば,鉄道線路を敷設するための専用敷地とはなり得ず,上記主張はその前提を誤っている。
また,原告らの主張する地下化がどのようなものを指すのか不明であるが,地下に鉄道線路を敷設する場合にも,用地買収,地下の使用に関する地権者の同意の取付け等が必要となるところ,本件区間の沿線は,高度に市街化されているから,本件区間の道路敷地以外の地下に鉄道線路を敷設することも,沿線社会に及ぼす影響のほか,工期の
長期化や,用地買収等に要する費用などの点を考慮すると困難である。特に,西九条駅は高さ約15メートルの高架式であるとともに安治川に近接していることから,西九条駅と安治川との間で地下式に移行することは困難である。
(オ)違法状態作出の違法性
(原告ら)

違法性
本件工事により種々の違法状態が作出されるところ,そのような違法状態を作出する工事施行を認可することは許されない。工事が施行されれば違法状態が作出され,若しくは助長されるということは,当該工事計画が違法な計画であることを意味する。そのような違法な工事計画は,適切な計画に該当せず,事業法5条1項3号の要件を
満たさない。
また,そのような違法な工事計画は,不法行為の実施を意味するものであって,鉄道事業を監督する立場にある被告が,不法行為を是認してはならないことは当然である。


違法状態の具体的内容
本件工事施行により新たに生み出される違法状態の具体的内容は次のとおりである。
(a)騒音
本件各事業地の近辺の環境騒音及び道路交通騒音は,環境庁が定
めた環境基準値にその一部が違反し,その大半が上限値に近い状態となっている。本件各事業区域のうち嵩上式及び地表式の区域は,現在の環境騒音,道路交通騒音に鉄道騒音が付加され,違法状態を悪化させる。
また,鉄軌道騒音それ自体についても,前記のとおり,騒音対策

の指針に違反する可能性が高い。嵩上式・地表式の一部は周辺住民が居住する住宅から1メートル未満の距離に建設されるため,それらの住居での騒音が前記環境基準値を大きく超過する可能性が極めて高い。
(b)振動
本件各事業区域のうち嵩上式及び地表式の区域は,鉄道(換気施
設を含む。)によって大きな振動が生じることが予想される。その振動は規制基準値に違反する可能性も高いし,少なくとも振動感覚閾値である55デシベルを超過すると考えられる。
(c)低周波音
低周波音は,①

建具や窓のがたつきなど物的な被害,②

圧迫

感や振動感など直接に知覚されることによって生じるいらいら感,不眠などの心理的被害,③

耳鳴り,頭痛,吐き気,血圧の上昇,

貧血などの生理的被害をもたらす。本件各事業の嵩上式・地表式の一部は周辺住民が居住する住宅から1メートル未満の距離に建設され,列車の走行に伴い特に高架部分や橋りょう部分などで上記被害を生じさせるレベル低周波音が生じる可能性が高く,それ以外にも換気施設の稼動により被害を生じさせるレベルの低周波音が生じる可能性がある。
(d)日照
本件各事業の嵩上式・地表式の一部は周辺住民が居住する住宅か
ら1メートル未満の距離に建設される部分があり,それらの住居の日照阻害は甚大である。また,騒音対策のために遮蔽などを設けた場合は,日照阻害は一層ひどくなる。
(e)電波障害
本件各事業地の周辺には既に看過できない電波障害があるが,嵩

上式・地表式部分を建設することによって,大きな障害物が生じるため一層の電波障害が生じる。
(f)災害対策上の問題
次のとおり,災害対策上多大な問題が生じ災害対策基本法に違反
する。

嵩上式・地表式の軌道の位置する地盤は軟弱地盤であって地震
が起きれば液状化する可能性がある。


地震(それにより生じる液状化を含む。)などによって,軌道
構造物や軌道上の架線が倒壊したり,沿線の建物等が倒壊したり
した場合,道路中央に位置する本件線路が障害になって,災害復
旧活動に必要な道路幅員を回復できない。


地下線への移行を予定している位置は,過去に氾濫を起こして
いる安治川に極めて近接している。したがって,大雨・洪水・高
潮時の津波などの場合の鉄道路線への浸水の危険が高く,地域排
水路の能力を超える浸水のために水害が拡大する恐れが大きい。


九条地区と九条南地区の一時避難所である九条北小学校校区は,
軌道が構築された場合,当該軌道により東西に分断される。その
ため,災害時の住民の移動が著しく阻害され,公共の緊急自動車
の通行に支障を生じて災害復旧や人命救助の障害になるほか,町
内会による自主防災活動にも著しい阻害要因となる。さらに,現
在は九条北小学校を直近避難場所とする世帯が,分断により収容
能力が低くて校区外にある九条東小学校へ向かわざるを得なくな
る。これは防災対策上想定外の事態である。


交通渋滞等
本件各事業は,次のとおり,社会的弱者に負担を強い,交通渋
滞による種々の問題を引き起こし,本件沿線地区の特質を無視す

るためその発展を阻害するだけでなく退廃を招くなど都市計画法
13条1項本文,13号等に違反する。①

交差点⑥は,現在,

九条地区と九条南地区とを結ぶ中心的役割を担っており,多くの
歩行者がこれを利用しているが,堀割構築物が設置されることに
より東西に分断され使えなくなり,徒歩通行者は迂回しなければ
ならなくなり,特に,高齢者や障害者などの社会的弱者には日常
生活に多大の負担を強いられることになる。②

別紙6地図⑦の

交差点(以下交差点⑦という。)に信号が設置されるが,周辺道路が一方通行又は狭隘なため,車両が交差点⑦に出ることは困難で,交差点⑦が地域分断を解消する代償措置とはならない。③

交差点④高さ2.2∼2.4メートルに制限され,2トン以上
のトラックなど車高の高い車両は通行することができなくなり,
南東(難波方面)に向かう車両は北側の交差点や別紙6地図⑧の交差点を右折するしかなく,大幅な迂回を強いられる上に九条北
小学校周辺の安全上大きな問題がある。④

九条南地区の鉄工所

などの事業所では,10トン車など大型車両を市道九条中通線で
旋回させているが,本件各事業の施行によって市道九条中通線の
片側車線しか利用できなくなると,10トン車等の大型車両は使
用できなくなり,人件費,燃料費などの負担が大きくなるため零
細な町工場にとっては大きな打撃である。⑤

九条南地区で大型

車両が使用できなくなれば,車両台数が大幅に増加し交通渋滞を
引き起こし,環境悪化をもたらすほか,地域経済に大きな打撃を
与える。⑥

市道九条中通線沿いの駐車場が使用できなくなるた

め路上駐車が多くなり,交通渋滞を引き起こし,歩行者の通行す
ら困難になるおそれが大きく,ひいては九条地区の商店街が利便
性と活気を失って荒廃するおそれがある。⑦

本件工事は少なく

とも数年間は継続するところ,工事期間中は市道九条中通線の道
幅が制限され,かつ,東西を横切ることも困難となり,事業者は
大きな不便と大幅なコスト増を余儀なくされる。⑧
九条地区に

は地下鉄の駅が既に存在し,自転車でも遠くない距離にあるから
難波方面に行くのに不便はなく,高い料金の西大阪延伸線を利用
するメリットはないのであって,沿線地域の活性化はなく,かえ
って大きな打撃を受ける。
(被告)
前記のとおり工事施行認可においては,違法事由は事業基本計画あるいは技術基準省令に適合しないことに尽き,原告らが主張する違法状態作出の違法は本件認可の違法事由とはなり得ない。原告らの主張は,事業法8条2項の規定から遊離し,法律上の根拠を欠く独自の見解である。第3

争点に対する判断

1
原告適格について
(1)法律上の利益を有する者の意義について
行訴法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有
無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。
(2)周辺地域居住者について

事業法8条の工事施行認可を受けるためには,当該工事が営業法1条に基づく技術基準省令に適合しなければならず,技術基準省令6条では,鉄道事業者が,列車の走行に伴い発生する著しい騒音の防止に努めなければならないことが規定されている。技術基準省令の内容を具体化,数値化した標準的な解釈を定めた解釈基準(乙13)は,騒音問題を未然に防止する観点から,在来鉄道の新設又は大規模改良に際して,生活環境を保全し,騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針を定めた騒音対策の指針(乙14)を受けて策定されたものであり,その前文で,列車の運転等に伴って生ずるすべての人や物に及ぼしうる危険を,技術的実現性や経済性を踏まえ,できる限り小さくするものとすることを前提としてと,沿線住民の被害発生の防止を考慮することが記載されている。

また,環境基本法は,環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とし(1条),事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる騒音等によって,人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることを公害と定義した上で(2条3項),国及び地方公共団体が,環境の保全に関する施策を策定し,実施する責務
を有し(6条,7条),政府が,騒音等に係る環境上の条件について,人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定め,公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより,環境基準が確保されるように努めなければならないとし(16条1項,4項),国は,環境に影響を及ぼすと認められる施策を策定し,及び実施するに当たっては,環境の保全について配慮しなければならず(19条),騒音の発生その他の行為に関し,事業者等の遵守すべき基準を定めること等により行う公害を防止するために必要な規制の措置等を講じなければならない(21条)としている。これらの規定は,相当範囲にわたる騒音等により健康又は生活環境に係る被害が発生するおそれのある場合に,その発生を防止するために総合的な施策を講ずることをも趣旨及び目的とするものと解され,事業法8条,営業法1条,技術基準省令6条と目的を同じくするものということができる。
さらに,大阪市においては,環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価及び事後調査が適切かつ円滑に行われるための手続その他所要の事項を定めることにより,その事業に係る環境の保全及び創造について適正な配慮がなされることを確保し,もって現在及び将来の市民が安全で健康かつ快適な生活を営むことのできる良好な都市の環境の確保に資することを目的として,評価条例(甲2)が制定されている。評価条例は,大阪市が,環境影響評価,事後調査その他の手続が適切かつ円滑に行われるように必要な助言,指導,情報の提供その他の措置を講ずるものとした上で(3条),市長が,免許等がその実施に際し必要とされる対象事業に係る評価書について,当該免許等を行う者に対し,当該評価書の写しを送付するものとし(22条2項),当該免許等を行う者に対し,当該免許等を行うに当たり,当該対象事業に係る評価書の内容に配慮するよう要請することができるとしている(39条)。これらの規定
は,当該免許等に際し,環境影響評価等の手続を通じて騒音による公害の防止等に適正な配慮がされるようにすることも,その趣旨及び目的とするものということができる。

そして,工事施行認可に関する事業法,営業法及び技術基準省令の規定に加えて,環境基本法及び評価条例の規定の趣旨及び目的をも参酌し,併せて,評価条例が,環境影響評価の手続において,方法書,準備書,評価書,事後調査計画書及び事後調査報告書の公告及び縦覧(評価条例8条,15条,22条,25条,28条),関係地域内における説明会及び公聴会の開催(評価条例16条,18条,大阪市環境影響評価条例施行規則18条)並びに環境の保全及び創造の見地からの意見を有する者の意見書の提出及び意見の公述(評価条例17条,18条)等を規定していることも考慮すれば,工事施行認可に関する事業法等の規定は,鉄道事業に伴う騒音等によって,当該事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって安全で健康かつ快適な生活を営むことのできる良好な都市の環境を確保することも,その趣旨及び目的とするものと解される。


事業法,営業法及び技術基準省令又はその関係法令に違反した違法な工事施行認可がされた場合に,そのような鉄道事業に起因する騒音等による被害を直接的に受けるのは,当該事業地の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に限られ,その被害の程度は,居住地が事業地に接近するにつれて増大するものと考えられる。また,このような事業に係る事業地の周辺地域に居住する住民が,当該地域に居住し続けることにより上記の被害を反復,継続して受けた場合,その被害は,これらの住民の健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねないものである。そして,工事施行認可に関する事業法等の規定は,その趣旨及び目的にかんがみれば,当該事業地の周辺地域に居住する住民に対し,違法な鉄道事業に起因する騒音等によっ
てこのような健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるところ,前記のような被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものである。

以上のような工事施行認可に関する事業法等の規定の趣旨及び目的,これらの規定が工事施行認可の制度を通して保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,同法は,これらの規定を通じて,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより,鉄道等の利用者の利益を保護し,鉄道事業等の健全な発達を図るなどの公益的見地から鉄道事業の工事施行を規制するとともに,騒音等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。したがって,鉄道事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業に係る工事が施行されることにより騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,当該工事施行認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものといわなければならない。
さらに,当該事業地の周辺地域内の職場に勤務し,継続して相当の期間当該地域内で過ごす者についても,上記の被害を反復,継続して受けるおそれがあるという点で,同地域内の居住者と変わるところはないから,当該地域に勤務する者についても,居住者と同様の要件で工事施行認可の取消訴訟の原告適格を認めるべきである。


証拠(甲5,10から27まで,82から84まで,原告F,同G及び同Hの各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,自然人である原告らのうち原告番号100Iを除く原告らは,原告一覧表関係地の所在欄に
記載のある場合は当該住所地に,記載のない場合は同住所等欄記載の住所地に,同関係欄及び住宅地図記載のとおり,住所を有し,又は,勤務して生活していることが認められる。同原告らが生活する西九条地区,九条地区又は九条南地区(前記第2の2(3)イ参照)は,評価条例に基づく環境影響評価手続において,大阪市長が,対象事業に係る環境影響を受ける範囲であると認めた関係地域の中にあり,西大阪延伸線の地上走行部分の沿線に位置する地区であって,同地区で生活する同原告らについては,本件工事が施行されることにより騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たると認められるから,本件認可の取消しを求める原告適格を有するものと解するのが相当である。原告番号100Iについては,上記各地区に居住するものではなく,他に,同原告が本件工事が施行されることにより騒音等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たると認める証拠はない。他に,同原告に本件認可の取消しを求める原告適格を認める法律上の利益があることを認めることはできない。
原告らは,法人である原告らについて,代表者の職場等であることを理由に原告適格があると主張する。しかし,法人である原告らは,騒音等により健康又は生活環境に直接被害を受ける者ではなく,上記を理由に同原告らに原告適格を認めることはできない。
(3)不動産権利者について
事業法8条2項に基づく工事施行認可の法的効果により,鉄道事業地内,当該鉄道事業と密接な関連を有する道路事業地内及びこれらの隣接地の不動産について,権利等に制限を加える規定は存在せず,これらの不動産の権利者が,本件認可により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者に該当するということはできず,上記権利者に,本件認可の取消訴訟の原告適格を認めることはできない。
原告らは,鉄道用地及び道路用地内の不動産権利者は,本件認可により自己が権利を有する不動産の収用を甘受せざるを得ない法的地位に立たされると主張する。確かに,土地収用法3条7号には,事業者等が鉄道事業等で一般の需要に応ずるものの用に供する施設が規定されているが,同条は,土地を収用し,又は使用することができる公共の利益となる事業を掲げているにすぎず,都市計画事業の認可等(都市計画法69条以下)とは異なり,工事施行認可をもって土地収用法20条の規定による事業の認定に代え,当該工事を同法の事業に該当するものとみなして同法の手続により土地の収用,使用をすることができるなどとする規定はない。したがって,本件認可が上記権利者の実体法上の権利等に制限を加えるものであるとはいえない。また,原告らは,隣接地権利者は,工事施行認可がされれば,事業法22条により,自己の権利地への事業者の立ち入り及び一時使用を甘受せざるを得ない法的地位に立たされると主張する。しかし,事業法22条1項が

鉄道事業者は,鉄道施設に関する測量,実地調査又は工事のため必要があるときは,国土交通大臣の許可を受け,他人の土地に立ち入り,又はその土地を一時材料置場として使用することができる。

と規定しているとおり,当該土地への立入り等のためには国土交通大臣の許可を受けなければならず,事業者は,工事施行認可により直ちに当該土地の立入り等が許されるわけではない。したがって,原告らの上記主張は理由がない。
(4)まとめ
以上によれば,原告番号100のIを除く自然人である原告らには,本件認可の取消訴訟の原告適格を認めることができるが,原告番号100のI及び法人である原告らには,同取消訴訟の原告適格を認めることはできず,同原告らの訴えは不適法である。
2
本件認可の適法性について
(1)技術基準省令適合性について


6条(著しい騒音の防止)適合性について
(ア)解釈基準適合性について

工事施行認可における技術基準省令6条適合性の審査内容について被告は,①

列車の走行に伴う騒音の程度は,現実の列車の走行が

なければ明らかにならず,工事施行認可段階ではどれだけの騒音が発生するかは不確実な予測にすぎないこと,②

騒音防止装置について

は鉄道輸送施設完成後も充実・改善の余地があり得ること等を根拠として,工事施行認可の際には,解釈基準に定める騒音レベルを上回らないようにするための努力がされているか,具体的には実施基準において解釈基準に示された数値基準と合致する指針値が規定されていること,当該実施基準に適合させるために工事計画において騒音の発生を低減させるための配慮がされていること,線路外に漏れる騒音が少なくなるような措置が採られていること又は講ずることが可能であることを確認すれば十分であり,その後,事業者が実施基準遵守義務を果たしていない場合には,完成検査,鉄道施設の検査等の過程を通じて事業者に対して所要の措置を講ずることで,列車が現実に運行される際に,騒音対策の指針に定められた具体的な騒音レベルを超えないことが担保されるとする。
確かに,どれだけの騒音が発生するかは工事施行認可段階では予測であって不確実なものであり,騒音防止装置については鉄道輸送施設完成後も充実・改善の余地がある。しかし,前述したとおり,工事施行認可に関する事業法等の規定が,鉄道事業に伴う騒音等によって,当該事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止することも目的とするものであり,騒音問題を未然に防止する観点から,在来鉄道の新設又は大規模改良に際して,生活環境を保全し,騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標とな
る当面の指針を定めた騒音対策の指針(乙14)を受けて解釈基準(乙13)が策定されていることに照らせば,個々の具体的な施設を設計・計画する各段階において,解釈基準に適合するように計画することが求められているというべきである。そして,鉄道騒音の予測については,D式を用いて科学的,客観的に実施することが可能であること,環境影響評価書の写しが工事施行認可を行う者に送付されること(評価条例22条2項),環境影響評価法33条は,免許等を行う者に対し,環境影響評価書の記載事項等に基づいて環境の保全についての適正な配慮がされるものであるかどうかを審査する義務を課しており,同条の趣旨は,事業区間の距離が短いために同法が直接には適用されない本件認可に際しても活かされるべきであること,被告においても,本件認可の際本件評価書を参考にしていること(証人J9頁,19頁。なお,同人の証言の中には,技術基準省令6条への適合性の判断が終了した後に本件評価書を見たという部分もあるが,少なくとも適合性の最終判断をする前に本件評価書を見て,判断の参考にしたと認められる。)からすれば,本件評価書における環境影響評価の判断の過程に看過し難い過誤等があり,被告の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,被告の上記判断は不合理であり,裁量権の逸脱があるものとして違法と解すべきである。
被告は,評価条例には環境影響評価法33条のような規定がなく,対象事業に係る免許等を行う者に対し,環境影響評価書の内容に配慮するように要請することができると定めるにすぎない(評価条例39条2項)から,被告が本件認可に当たって本件評価書の正当性を判断する義務はなく,仮に本件評価書が不当なものであったとしても,本件認可の適法性に影響を与えないと主張する。しかし,上記主張は,騒音被害の防止をも目的とする事業法等の規定の趣旨に照らし,被告
の監督責任を不当に限定し,環境影響評価法の趣旨や評価条例による環境影響評価制度を軽視するものであって,採用することはできない。b
本件評価書について
証拠(甲9,33,証人E)によれば,Eは,本件評価書について次のとおり問題点を指摘していることが認められる。
(a)本件評価書は,10デシベルの読み間違いをした実測データ及びスローにすべきところをファスト設定にした実測データを用いている。
(b)D式は,転動音は構造物種別により影響を受けないという前提に立つものであるが,これを改変し,転動音,車両機器音について線路構造で区別している。
(c)本件評価書が設定したパワーレベル値は,D式の数値モデルの下限を採用し,その理由の説明がない。
(d)本件評価書における予測モデルの検証では,実測データのすべてが表にプロットされていない。
そして,Eにおいて本件評価書の実測資料を基礎に適用条件を同一にして再計算を行った結果に基づく現況再現結果(甲9,2頁)
によれば,予測モデルの検証において実測データのすべてをプロットした場合,特に調査地点No4(高架構造)において,Eの再計算の結果の方が本件評価書の結果に比べて実測データとの整合性を有していると認められる。これによれば,本件評価書の一部には,予測モデルの検証方法等において相当でない部分があることが認められる。
しかし,証拠(甲29,乙33,証人E)によれば,本件評価書を担当した中央復建の技術士において,転動音,車両機器音について線路構造で区別している理由を明らかにしている一方,Eが述べるD式が転動音は鉄道構造物種別の影響を受けないという前提に立っている
という根拠は,同人が根拠として示す甲第28号証を見ても明らかではない。また,本件評価においては専門委員会による審議や意見が予定され,本件工事完成後においても事業法10条による完成検査や評価条例28条による事後調査が予定されているのであり,パワーレベル値を恣意的に低く設定したり,恣意的なデータ操作等が行われたとは考えにくい上,本件評価では,専門委員会が住民意見を踏まえて騒音予測に必要な音源パワーレベルの設定の妥当性について都市計画決定権者に対して説明を求め,事業者が説明のための資料を提供しているところ,専門委員会においても予測が恣意的な数値を前提とし,あるいは特殊な予測方法を採用しているというような指摘はない(乙37)。本件評価に当たっては,環境の保全及び創造の見地からの意見が提出され(評価条例9条,17条),専門委員会の意見等を踏まえた大阪市長の意見が提出され(評価条例10条,20条),公聴会が開催されている(評価条例18条)。これらは,本件評価書の技術的専門的正確性について手続的に担保するものであり,本件評価書に部分的に相当でない点があるとしても,全体としては環境影響評価として合理的な内容のものとして評価できるものというべきである。
また,Eの再計算結果(甲9)によれば,騒音の予測値が解釈基準の数値を超える地点があるものの,その場所はNo④地点のみに限られ,その超過の程度も大きいものではない。しかも,本件工事計画や上記No④地点を含む橋りょう及び土留擁壁区間の構造物の断面図(乙1)並びに実施基準(乙30)によれば,騒音対策として,上記区間において,防音壁(高欄を含む。)の設置があるか又は設置が可能な構造であること,バラスト道床あるいはコンクリート道床を採用し,コンクリート道床は防振構造で消音バラストを散布することが可能であること,当該区間にはロングレールが敷設されることを認めることがで
きる。そして,前記のとおり,騒音防止措置については工事着手後又は鉄道輸送施設完成後においても充実・改善の余地があり得るところ,これらの実施可能な騒音対策に照らせば,仮に上記Eの再計算による予測に合致する騒音の発生があったとしても,適切な防音壁を設置するなどの対策により解釈基準を満たすことは十分可能であると認められる(証人J31頁,39頁,同E38頁以下,同K)。

まとめ
以上の点を総合考慮すれば,本件評価書における環境影響評価の判断の過程に看過し難い過誤等があるとはいえず,本件評価書を参考に技術基準省令6条及び解釈基準適合性を認めた被告の専門技術的判断には,著しい過誤欠落はなく,裁量の範囲を逸脱した違法はない。原告らは,環境影響評価の誤りにより,解釈基準の数値を上回る騒音が予測される地点が1か所でもあれば,技術基準省令6条に適合しないと主張する。しかし,技術基準省令6条の適合性については,解釈基準(乙13)においても,これらの解釈によらない事項を否定するものではないとの記載があるとおり,被告の専門技術的判断によるものであって,上記原告らの主張は,環境影響評価における騒音予測が専門技術的な予測でありその予測方法についても必ずしも一義的なものではないこと,予測は不確実なものであって現実に発生する騒音とは異なるものであること,現実に発生する騒音については工事着手あるいは工事完成後においても騒音防止対策を充実・改善することが可能であることを考慮しないものであって,採用することはできない。
(イ)近接住宅の著しい騒音について

被告は,技術基準省令6条適合性の判断は,実施基準に解釈基準と合致する指針値が規定されていることなど解釈基準に定められた測定地点(沿線屋外の地上1.2メートル,近接側軌道中心線からの水平
距離12.5メートルの地点)における指針値の適合性を判断すれば足り,上記以外の地点における騒音の発生を考慮することはないと主張する。
確かに,技術基準省令は,鉄道施設等の構造及び取扱いについて,必要な技術上の基準を定めるものであり(技術基準省令1条),解釈基準(乙13)は,鉄道施設等の構造及び維持管理並びに運転取扱いに関して,技術水準等を踏まえ,技術基準省令等の内容を具体化,数値化した標準的な解釈を定めたものであって,その内容は鉄道施設自体の一般的な構造等に関する基準が中心となっている。しかし,技術基準省令6条は,

鉄道事業者は,列車の走行に伴い発生する著しい騒音の防止に努めなければならない。

と規定するのみであり,解釈基準においても,住宅を建てることが認められていない地域及び通常住民の生活が考えられない地域には基準を適用しないとするなど,鉄道施設の立地状況による考慮がされないわけではない。解釈基準の基礎となる騒音対策の指針(乙14)では,3その他において,

線路に著しく近接した施設等があらかじめ存在していた場合など,特殊な事情により騒音問題が発生する場合には,必要に応じた対策を講じることを規定している。しかも,前述したように,工事施行認可に関する事業法等の規定が,鉄道事業に伴う騒音等によって,当該事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止することも,その趣旨及び目的とするものであり,騒音等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解されることに照らせば,解釈基準に定められた測定地点よりも鉄道施設に近接した住居等に著しい騒音被害が発生する蓋然性が認められる場合
には,技術基準省令6条に適合しないものとして工事施行を認可することはできないと解すべきである。被告の主張は,上記工事施行認可の制度趣旨等に反するもので,採用することはできない。

証拠(甲1,5,9,15,26,証人K,原告G本人,原告F本人)によれば,西大阪延伸線は,特に九条3丁目地区において既存の住居等に近接して高架構造の鉄道施設が新設される計画となっており,当該近接・中高層住宅では,本件評価書における騒音予測でも,解釈基準の指針値を上回る騒音が予測されていると認められる(甲1,140頁以下)。
しかし,本件評価においては,環境の保全及び創造の見地からの意見や公述意見で,上記高架隣接地の住民に対する騒音被害等についての懸念等が表明され(甲1),専門委員会でも,至近住宅及び中高層住宅について生活環境の保全のための適切な措置を講じる必要があるとの評価が示され(乙37),準備書に対し,評価条例20条に基づき専門委員会の意見を踏まえて大阪市長から,

本路線における生活環境の保全のため,住宅等の立地状況に十分配慮し,必要に応じて適切な騒音・振動対策を講じること。また,供用後,事後調査により予測結果の検証を行うこと。

との意見が述べられ,これに対し,都市計画決定権者から,評価地点よりも線路に近接した住宅や中高層住宅では,騒音の指針値等を超える地点がある。そのような箇所では高欄の嵩上げ,消音バラストの散布等の騒音対策,防振低減効果のより大きい防振材を用いた軌道の採用等の振動対策が考えられるが,今後その適用方法,効果の検討を行い,必要に応じて適切な措置を講じることとする。さらに,供用後に事後調査を行い,予測結果の検証を行うこととする。との見解が示されている(甲1,289頁)。そして,西大阪鉄道は,上記都市計画決定権者の意見を踏まえ,また,国
土交通省からの情報提供を受けて,平成15年1月から現地調査等を行った上で,上記近接・中高層住宅の騒音防止対策として,透明板等を利用した高さ約6メートルの防音壁の設置等を決定している(乙35,証人K。ただし,材質等の詳細は現時点でも決まっていない。)。上記各事実によれば,本件認可当時,近接・中高層住宅についても著しい騒音被害が発生しないような対策を講じる必要性が認識されており,工事着手後において騒音防止対策の充実・改善を図る見込みもあったものと認められる。さらに,事業法10条による工事の完成検査や評価条例28条に基づく事後調査において,近接・中高層住宅における騒音についても検証が行われ,仮に著しい騒音被害の発生が認められれば,技術基準省令6条に適合しないものとして完成検査に合格させることができないと解すべきであることをも考慮すれば,本件認可当時,上記近接・中高層住宅において著しい騒音被害が発生する蓋然性があったとはいえない。前述したとおり,被告は近接・中高層住宅での騒音被害を審査対象とはしていなかったものの,上記被害発生の蓋然性が認められない以上,本件認可で技術基準省令6条適合性を認めた被告の判断に裁量の範囲を逸脱した違法はない。
原告らは,高さ6メートルの防音壁を設置するためには,高架構造物の構造計算において高さ1.5メートル程度の防音壁設置とは根本的に条件が異なり,本件認可にかかる設計を前提としてはそのような防音壁の設置は不可能であると主張する。しかし,本件工事に基づく高架構造で上記防音壁が設置可能であるかどうかは,防音壁の素材等とも関係するものであるところ,原告らが主張するように上記防音壁が構造上設置不可能であることを認めるに足りる証拠はない。その他,上記騒音防止対策により近接・中高層住宅での騒音被害の防止が可能である認定を覆すに足りる証拠はない。

(ウ)6条(著しい騒音の防止)適合性について
以上によれば,本件認可において技術基準省令6条適合性を認めた被告の判断に違法な点はない。

その他の規定適合性について
(ア)5条(危害の防止)適合性について
本件認可申請書における工事に伴う人に対する危害の防止方法には,危害防止方法として,ボーリング等による土質調査,土留工の方法,密閉型シールドマシンによるトンネル採掘等について記載があり(乙1,42頁),これらによれば安全確保の方法が講じられているというべきである。他に,施設の工事が人に危害を及ぼすおそれを認めるに足りる証拠はない。
(イ)8条(応急復旧の体制)適合性について
事業法8条2項は,工事計画が技術基準省令及び事業基本計画に適合することを認可の要件としているところ,応急復旧のための体制は,工事計画の記載事項とはなっておらず(事業法施行規則11条2項,別表第一,27条の2第1号イ,別表第五の三),工事施行認可の際に審査する事項に当たらないと解すべきである。したがって,この点が本件工事計画に定められていなくても,技術基準省令8条に違反することはない。
原告らは,事業法8条2項は技術基準省令に適合することを認可の要件としている以上,技術基準省令8条の応急復旧のための体制を定めることが必要であり,また,技術基準省令8条の運転事故・災害等には,工事施行中の災害等が含まれると主張する。
しかし,技術基準省令は,営業法1条の規定に基づき,鉄道施設及び車両の構造及び取扱いについて,必要な技術上の基準を定めることにより,安全な輸送及び安定的な輸送の確保を図り,もって公共の福祉の増
進に資することを目的として制定されたものであり(技術基準省令1条),工事施行の認可のみならず,工事の完成検査(事業法10条2項),鉄道施設の検査(事業法11条2項),車両の確認(事業法13条1項)等に当たり審査すべき事項についても規定している。そして,技術基準省令8条の応急復旧の体制の規定は,公共交通機関である鉄道施設における安全及び安定的な輸送の確保が公共の利害に大きく影響するものであることから,運転事故や災害等により鉄道施設の輸送機能が損なわれた場合に,応急復旧の体制を予め定めておくことでなるべく早く輸送機能を回復させ,もって公共の福祉を図る趣旨のものと認められる。この趣旨に照らせば,上記応急復旧の体制は,列車運行後における鉄道施設の応急復旧体制を意味するものであって,列車運行時までに定められれば足り,工事施行認可の要件とはならないものと解するのが合理的であり,原告らの上記主張を採用することはできない。
また,原告らは,鉄道新設工事中の事故の重大さを主張するが,上記は,工事の安全性,危害防止の問題であって,応急復旧の体制の問題ではない。
(ウ)第3章第2節(線路線形等)の技術基準適合性について
緩和曲線と縦曲線との競合は,軌道の左右レールの間隔や高低差,レール長さ方向の高低差等の変位量を管理することが困難となるためできる限り避けることとされているところ(乙24),原告らが指摘する安治川橋りょう(0K382M900),九条駅西側(1K116M650),岩崎橋駅西側(1K676M000),木津川下(2K116M791)の4か所は,コンクリート構造にするなど軌道が容易に変位しない構造を採用しており(乙1添付図面第9号図,第10号図,第11号図),車両の安全な走行に支障を及ぼすことはなく,技術基準省令19条(縦曲線)等に違反しないと認められる。他に,本件工事が,線路
線形に関して技術上の基準を満たさない違法な設計となっていることを認めるに足りる証拠はない。
(エ)20条6項(建築限界)及び27条1項(災害等防止設備)適合性について
原告らは,本件工事において建築限界内への崩落や線路への物件落下に対する措置が講じられておらず,不測の事態が発生したときには,工事関係者の生命身体財産に危害が及ぶほか,車両等の脱線・転落等により,沿線住民の生命身体財産に甚大な被害を生じる可能性が高いと主張する。
しかし,技術基準省令20条6項は,その文理からして,鉄道事業者に対し建築限界外に建築限界内に崩れるおそれのある物を置くことを禁じているにすぎず,それ以上に,既存建物から建築限界内への物の崩落等に対する措置を命じる規定ではない。
また,技術基準省令27条1項の趣旨は,斜面等からトンネル口等への落石に備え,必要な箇所に落石予防工や落石防護工を施し,又は落石検知装置を設置することを義務付けている規定と解される。仮に,既存建物等からの物件の落下等に対する措置も,災害等防止設備として同項の規定に含まれるとしても,本件工事に係る鉄道施設が,物件の落下による線路の支障を防止する設備を整えることができないことをうかがわせる証拠はなく,同項の適合性を認めた被告の判断に違法な点はない。(オ)28条1項(橋りょう下等の防護)適合性について
技術基準省令28条1項は,橋りょうから交通の頻繁な道路等に砕石(バラスト)が落下しないような設備(橋りょう下防護工)の設置を義務付けている規定で,その対象は開床式のものであり,そのような心配が少ない道床式の場合は対象とならない(乙26)。西大阪延伸線の橋りょう部分では,バラスト道床あるいはコンクリート道床が採用されて
おり(乙1,証人J),同項適合性が認められる。
(カ)39条(道路との交差)適合性について
技術基準省令39条本文は,交通事故の防止や交通の円滑化を目的として,踏切道による平面交差を原則として禁じているのであり,立体交差を禁じているものではない。原告らの主張する交差点④は,立体交差しているにすぎず,交差点⑥は,鉄道線路により分断され平面交差するものではなく,いずれも同条本文に抵触するものではない。

技術基準省令適合性について
以上によれば,本件工事は技術基準省令に適合するとした被告の判断は相当であり,違法な点はない。

(2)その他の違法性について

都市計画決定の違法性について
事業法8条1項の鉄道施設に関する工事の施行の認可は,都市計画法上の都市計画決定の存在を要件としておらず,都市計画決定の違法が工事施行認可の適法性に影響を及ぼすことはない。
原告らは,処分を行う行政庁に対しては,行政庁の権限行使に制約を課する現行法令一般が,当該施設に起因する損害を受けるリスクから周辺住民を保護する義務を課しており,関連法規である都市計画法に違反する場合は本件認可が違法となると主張する。しかし,鉄道施設が都市計画法の都市高速鉄道として都市施設に該当することから都市計画事業の対象となることはあるにしても,鉄道事業は都市計画決定を前提とするものではなく,都市計画決定の違法が工事施行認可の違法事由になるということはできない。
また,原告らは,工事施行認可は,当該工事が適切な計画に基づくことが要件となっているところ,都市計画決定が違法であれば,事業基本計画も適切を欠き,本件認可をしてはならないと主張する。しかし,事業
法8条2項にいう事業基本計画は,事業法4条1項6号の鉄道事業許可上の事業基本計画をいうのであり,都市計画決定の違法が事業基本計画の違法事由となるということもできない。
したがって,本件認可の違法事由として都市計画決定の違法をいう原告らの主張は主張自体失当であって,採用することはできない。

鉄道事業許可の違法性について
(ア)違法性の承継について
工事施行認可は,鉄道事業者が定めた鉄道施設についての工事計画が,鉄道事業許可申請の際に提出された事業基本計画及び技術基準省令に適合するか否かを判断する手続であり(事業法8条2項),その申請期限は,鉄道事業許可の際に指定され(同条1項),その期限は,正当な理由がある場合に限って国土交通大臣によって延長される(同条3項)。そして鉄道事業は巨大な固定的施設を建設することによってはじめて可能となる事業であること(このため事業法の前身である地方鉄道法の前身である私設鉄道法では,鉄道事業許可に相当するものを仮免許(2条),工事施行認可に相当するものを本免許(10条)と称し,工事内容を具体化して免許が完結するという考え方を明確にしていた。),上記のとおり,工事施行認可に当たっては,工事計画が鉄道事業許可における事業基本計画に適合するか否かが審査され,また,鉄道事業許可に際して工事施行認可の申請期限が定められ(事業法8条1項),その期限までに工事施行認可の申請がされなかったり,その申請が却下されたりした場合は,鉄道事業許可の取消事由に当たること(事業法30条),鉄道事業許可も工事施行認可も国土交通大臣が行うことを併せて考えれば,鉄道事業許可と工事施行認可は,事業基本計画等の審査と事業基本計画に基づく鉄道施設の工事計画の審査という鉄道事業の経営に向けた一連の行為というべきであり,鉄道事業許可の違法は後行行為である工
事施行認可に承継されその違法事由となり,工事施行認可の取消訴訟において鉄道事業許可の違法性を主張することができると解するのが相当である。
さらに,第二種鉄道事業と第三種鉄道事業とは,本来の鉄道事業である第一種鉄道事業を分担する内容のものであり(事業法2条2項ないし4項),第三種鉄道事業許可は第二種鉄道事業許可と同時にするものとされ(事業法5条3項),第二種鉄道事業及び第三種鉄道事業を総合して事業基本計画の適切性が審査されるべきものである(同条1項)。したがって,その鉄道事業許可の違法判断も一体として判断すべきものであり,原告らは,本件認可の取消しを求める本訴において,本件各事業許可の違法性を主張できるというべきである。
(イ)違法事由について

経営上の適切性について
原告らは,本件各事業における事業基本計画には経営上の適切性
(事業法5条1項1号)がなく違法であると主張している。しかし,事業法5条1項1号は,事業基本計画が鉄道事業の安定的かつ継続的な経営を行う上で適切なものであるかどうかについて審査を行うための基準を定めたものであり,原告らの個別の権利利益を保護する趣旨を含むものではない。原告らの上記主張は,行訴法10条1項の自己の法律上の利益に関係のない違法を主張するものであって,主張自体失当である。


輸送の安全上の適切性及び遂行上適切な計画について
原告らは,事業基本計画が輸送の安全上適切でない(事業法5条1項2号),環境対策及び災害対策に問題があり事業の遂行上適切な計画でない(同項3号)と主張する。しかし,本件各事業計画及び本件工事計画に安全上及び環境対策上違法な点がないことは,前記(1)の
技術基準省令適合性についての判断で示したとおりであり,原告らの上記主張を採用することはできない。

道路敷設許可の違法性について
事業法8条の工事施行認可は,鉄道事業が巨大な固定的施設を建設して経営するものであることから,鉄道施設が事業基本計画及び技術基準に適合したものであるかどうかをあらかじめ審査する趣旨のものである。これに対し,事業法61条1項ただし書の道路敷設許可は,鉄道線路を道路に敷設する場合に,その必要性とこれを敷設することによる道路の維持管理面における問題,道路交通との整合性等道路管理上の問題を考慮して調整を図るものであって,その趣旨,目的は異なる。鉄道施設の工事が常に鉄道線路の道路への敷設を伴うわけではなく,鉄道線路を道路に敷設する場合であっても,必ずしも事業法61条1項ただし書の道路敷設許可が事業法8条1項の工事施行認可に先立つわけではない。工事施行認可は,道路敷設許可の存在を前提要件とするものではなく,道路敷設許可と工事施行認可が,同一の目的を追求する一連の行為ということもできない。したがって,道路敷設許可の違法は工事施行認可の違法事由にはならず,道路敷設許可の違法をいう原告らの主張は,主張自体失当である。


違法状態作出の違法性について
原告らは,本件工事は種々の違法状態を作出する不法行為に該当するものであり,鉄道事業を監督する立場にある被告がそのような工事施行を認可することは許されないと主張する。
しかし,前記(1)の技術基準省令適合性についての判断で示したとおり,本件工事の施行により,原告らに騒音等の重大な環境被害が生じることが予測されるものとはいえず,証拠(甲1)に照らしても,原告らが指摘する騒音,振動,低周波音,日照,電波障害及び災害対策上の問題において,重大な環境被害が発生することを認めることはできない。他に,本件工事
の施行により違法状態が生じることを認めるに足りる証拠なく,原告らの上記主張を採用することはできない。
(3)本件認可の適法性について
以上によれば,本件認可に違法な点は認められない。
3
結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告番号100I及び法人である原告らの訴えは不適法であるから却下し,その余の原告らの請求はいずれも理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。大阪地方裁判所第7民事部

裁判長裁判官

廣谷
裁判官

山田
裁判官



川章雄明朋子
(別紙省略)

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