判例検索β > 昭和41年(う)第105号
銃砲刀剣類等所持取締法違反被告事件
事件番号昭和41(う)105
事件名銃砲刀剣類等所持取締法違反被告事件
裁判年月日昭和43年1月29日
法廷名広島高等裁判所  松江支部
判例集等巻・号・頁第21巻1号45頁
判示事項銃砲刀剣類等所持取締法にいわゆる「銃砲」に該当するとされた事例
裁判要旨撃鉄バネ・撃鉄軸・撃針・安全子バネに故障があつても所要日数概ね三日半、費用約七、五〇〇円をかければ弾丸発射の機能を回復できる拳銃は、銃砲刀剣類等所持取締法にいう「銃砲」に該当すると解するを相当とする。
裁判日:西暦1968-01-29
情報公開日2017-10-13 01:53:52
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主 文
原判決を破棄する
被告人Aを罰金四万円に、被告人Bを罰金二万円に処する。 被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間、当該被告人を労役場に留置する。
被告人Bから、押収してある拳銃一挺(当庁昭和四二年押三号の一)を没収する。
原審および当審における訴訟費用は、被告人らの均分負担とする。 理 由
検察官の控訴の趣意は、記録編綴の鳥取地方検察庁検察官検事武並正也作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用する。 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
検察官の控訴趣意第一点について。
所論は、原判決は被告人両名に対する拳銃不法所持の公訴事実につき、本件拳銃は銃砲刀剣類等所持取締法にいう銃砲に該当しないとして無罪の言渡しをしたが、原判決の右無罪理由には法令の解釈適用を誤つた違法があり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
よつて記録を検討するに、原判決は、被告人両名の右拳銃不法所持につき無罪を言渡した理由として鑑定人Cの鑑定等によると本件拳銃は撃鉄バネおよび撃針部分等が故障しているため、現状において弾丸発射の機能を有しないことが明らかである。そこで、右故障部分がいわゆる通常の手入又は修理によつて回復できるかどうかを考察すると、鑑定人Cは、その鑑定尋問において本件拳銃は撃鉄バネの補充だけで十分に発射機能を回復できると供述していたのにもかかわらず、その後、右撃鉄バネの修理に代えて行つた輪ゴム使用による発射実験に際し、その発射実験が不成功に終るや、はじめて本件拳銃には撃針部分にも欠陥が存することを指摘するにいたつたものであつて、同鑑定人のような専門家であつても、撃針部分の欠陥の発見にはこのような経過(発射実験)を必要としたのであるから、本件拳銃の欠陥の発見、補修の程度およびその方法については、それらが一般通常人に容易に行われうるかどらかきわめて疑問であり、またその修理もかなり精密な作業を要するものと認められるから、本件拳銃が通常の手入れ又は修理によつて弾丸発射の機能を回復するものということができず、したがつて法にいう銃砲に該当しない旨説明しており、これを要約すると、原判決は故障銃がいわゆる通常の手入れ又は修理によつて弾丸発射機能を回復するというためには、一般通常人において当該銃砲の欠陥の発見、補修が容易に行われ得る場合に限るとの前提にたち、本件拳銃の欠陥のうち撃針部分の欠陥の発見は専門家でさえも一見しただけでは困難であつたこと、その修理もかなり精密な作業を要することが窺えるから、もはや本件拳銃は通常の手入れ又は修理によつて発射機能を回復できるといえないと説明しているものであることは所論のとおりである。
そこで按ずるに、銃砲刀剣類等所持取締法二条一項は銃砲の要件として金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲であることと定めているが、同法一条の規定する

この法律は、銃砲、刀剣類等の所持に関する危害予防上必要な規制について定めるものとする

という立法趣旨に鑑みると、右にいう銃砲とは、現に弾丸発射の機能を有するものに限らず、故障のため一時銃砲としての機能に障害があつても、通常の手入又は修理を施せばその機能を回復することができるものも、それに包含されるものと解すべきである(最高裁昭和二四年六月一一日第二小法廷判決、判例集三巻七号、九六九頁参照)。したがつて、現に弾丸発射の機能を有しない破損銃であつても、これをもつて直ちに法にいら銃砲でないと断ずべきではなく、当該銃砲の故障の原因を究明し、それが通常の手入れ又は修理によつて弾丸発射の機能を回復できるかどうかを検討しなければならないのであるが、もともと銃砲の手入れ、修理は、その事柄の性質上、ある程度それに関する知識なり、技術を有することを要求されるものであるから、右にいわゆる通常の手入れ、修理とは、一般通常人において、当該銃砲の故障の発見、補修等が容易に行われる場合だけをいらと解釈することは狭きに失して妥当でなく、たとえ、一般通常人では手入れ、修理等が困難な場合でも、銃砲等の修理設備を有する銃砲専門店あるいはある程度熟練した旋盤工において修理可能なものも、右にいら通常の手入れ、修理の範囲に含まれるというべきであり、そしてその手入れ、修理は、単に一、二発の弾丸が発射でき、人命殺傷の危険性を具有する程度にさえ補修されていれば足り、常に完全、精密に修理されることを必要とはしないし、また必ずしも安価になさなければならな
いものでもないと解するのが相当である。
これを本件についてみると、原審鑑定人C、同Dおよび当審鑑定人Eの鑑定によれば、本件拳銃は、口経八粍弾倉回転式拳銃(通称レボルバー)であるが、撃鉄バネ、撃鉄軸が不足し、撃針が衰損変形し、安全子バネが破損しているため、現状のままでは弾丸発射の機能を有しないことが明らかである。そこで、本件拳銃が果して通常の手入れ、修理によつて発射機能を回復することができるかどうかについて考察し<要旨>てみるに、原審鑑定人C、同D、当審鑑定人Eの各鑑定を総合すれば、本件拳銃は前記のように撃鉄バネ、撃鉄軸、撃針、安全子バネが故障しているが、これら故障の発見についてはある程度の知識がありさえすれば、拳銃の見分あるいは発射実験をなすことによつて容易に知り得るものであり、これら故障を修理するには銃砲等修理設備のある銃砲店ないしある程度熟練した旋盤工等において十分可能でありその修理、加工には、なんら特別の機械、器具、設備等を必要とはしないし、その資材には市販の鋼材でもこと足りること、そして、単に二、三発の弾丸を発射させる程度に修理するだけなら、前記修理のための所要日数は概ね三日半、費用は約、七、五〇〇円で済み、しかもそれに所要時間約一〇時間と費用約二、八〇〇円を追加すると、連続発射の機能まで回復するにいたるものであり、多少命中精度が悪くても、右の如き修理をし、弾丸をこめて発射させれば、優に人命を殺傷しうるものであることがそれぞれ認められる。これによると、本件拳銃の撃針等故障部分の発見については原判決のいうような困難なものではなく、その修理も一般通常人でできないにしても銃砲店等で可能であること、そして、本件拳銃については、その修理が完全精密になされなくても所要日数概ね三日半、費用約七、五〇〇円をかければ人命殺傷の危険性を具備する程度に修理できることが明らかであるから、本件拳銃はいわゆる通常の修理によつて弾丸発射の機能を回復できるものであると認めるを相当とする。
本件拳銃のいわば応急的な修理にも前記のとおり所要日数として三日間半、費用約七、五〇〇円かかるといらことは、必ずしも容易な修理とはいえないかも知れないが、しかし、右の修理についてはなんら特別の機械、器具、設備等を必要としないし、少くとも右の日数と費用をかければ、本件拳銃は応急的でも修理ができるものであり、いわゆる通常の手入れ、修理とは必ずしも安価になされなければならないものではないから、本件拳銃の修理につき右の日数、費用を要する場合でも、前記にいう通常の修理というべきである。因みに、本件拳銃は、昭和三九年三月頃被告人Aが他から金一、八〇〇円で買受けたものであるが、同被告人からこれを譲り受けた被告人Bは本件拳銃をFらに代金二万ないし一万五、〇〇〇円で売却しようとしていたものであることが被告人Bの司法警察員に対する各供述調書、原審証人Fの証言によつて窺えるところである。
なお、当審鑑定人E作成の鑑定書中には、本件拳銃の修理については、ほとんどの修理部分が市販品でなく、手仕上で作らなくてはならないので引受手があるかどうか疑問である旨の記載があるが、同鑑定書全文を通読すると、それは、本件拳銃を完全なものに回復するについての修理能力を記述しているものと解されるから、右記載部分は、本件拳銃を単に二、三発発射できる程度に修理することについての前記認定の参考資料に供することができない。
原判決は、拳銃は禁制品であつて、その修理は合法的に行われるものではなく、かりになんらかの特別の関係によつてそれが可能であるとしても、それはもはや通常の手入れ又は修理の範囲に属しないと説明しているけれども、しかし、拳銃が禁制品であるかどうかはともかくとして、たとえ合法的に拳銃の修理ができない場合でも(なお銃砲刀剣類等所持取締法三条一項五号は、武器等製造業者が武器修理のための所持を許容される場合につき、同法所定の他の業者等とは異なりなんらの規定をもしていないけれども、それは法令に基づき職務のため武器を所持することを許容されている者から修理を委託された場合に限ると解するのが通説であり、右にいう武器には拳銃が含まれる)、法令の除外事由がないのに拳銃を所持している者は、すでに法を犯しているものであり、かかる者に対しては合法的に拳銃修理を行うことを最初から期待し得ないし、かかる者は、知人縁故関係を利用したり、あるいは強要、懇願を繰り返して他の者に拳銃修理を委託し、修理者も右修理に応ずることが大いにあり得るところであるから、拳銃修理が合法的に行われなくても、それは前記のいわゆる通常の手入又は修理の範囲に属するものと解すべきである。すなわち、銃砲の修理につき特別な機械、器具、設備とか入手困難な特別の資材を要するという場合は格別、普通の設備と資材で技術的にその修理が可能なものは、その合法性の有無にかかわらず前記のいう通常の修理によつてなされ得るものという
べきである。しかして本件拳銃が普通の設備等の資材で修理できるものであることは前述のとおりであるから、たとえその修理が合法的になされない場合でも、通常の修理によつて発射機能を回復できるものといわなければならない。 要するに、本件拳銃は撃鉄バネ等が故障しているため、現状のままでは弾丸発射の機能を有しないが、通常の修理を施すことによつて、その発射機能を回復できるものである。したがつて、本件拳銃は前説示の理由により銃砲刀剣類等所持取締法にいう銃砲であると解するを相当とする。
そうだとすれば本件拳銃が、同法にいう銃砲に当らないとして、被告人Aに対しその公訴事実中同法違反の点及び被告人Bに対しいずれも無罪を言渡した原判決は、まさしく法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは被告人両名に対する判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。
よつて検察官の被告人Aに対する量刑不当の主張に対する判断を省略し、同被告人についての有罪部分と銃砲刀剣類等所持取締法違反の罪とは併合罪の関係にあるから刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条に則り、原判決全部を破棄したらえ、同法四〇〇条但書に従い、当裁判所で自判することとする。
(罪となるべき事実)
第一、 被告人Aは
一、 法令の除外事由がないのに、昭和三九年二月初め頃から同年四月下句頃までの間、鳥取市e町f丁目g番地G方の当時の被告人居室などにおいて、廻転弾倉式拳銃一挺(当庁昭和四二年押三号の一)を隠匿所持したものである。 二、 傷害の事実は原判決認定のとおりであるからここにこれを引用する。 第二、 被告人Bは、法令の除外事由がないのに、同年四月下旬から昭和四〇年二月二日頃までの間、倉吉市a町b番地のc、dアパート内の当時の被告人居室において、前記回転弾倉式拳銃一挺を隠匿所持したものである。
(証拠の標目)
判示第一の一および第二の各事実につき
一、 被告人A、同Bの検察官に対する各供述調書
一、 原審第五回公判調書中鑑定人C、同第八回公判調書中同Dの各供述記載 一、 鑑定人Cに対する原審の検証及び鑑定人尋問調書
一、 鑑定人E作成の鑑定書
一、 押収してある拳銃一挺(当庁昭和四二年押三号の一)の存在 (弁護人の主張に対する判断)
被告人Aの弁護人君野駿平は、判示第一の一の事実につき、同被告人は本件拳銃が破損して使用不能であるため、法にいわゆる銃砲ではないと思つていたから、その故意がないと主張するけれども、かりに同被告人がそう思つていたとしても、それはその事実自体に対する錯誤ではなく、いわゆる法の不知であるから犯意を阻却しない。よつて右主張を採用しない。
(確定裁判)
被告人Aは昭和三九年五月四日鳥取簡易裁判所で道路交通法違反の罪により罰金八、〇〇〇円に処せられ、右裁判は同年六月一〇日確定したものであり、また被告人Bは同年一二月二五日倉吉簡易裁判所で銃砲刀剣類等所持取締法違反罪で罰金二万五、〇〇〇円に処せられ、右裁判は昭和四〇年二月九日確定したものであつて、これらの事実は当該被告人に対する各前科調書によつて認める。
(法令の適用)
被告人Aの判示第一の一の所為は、昭和四〇年法律四七号銃砲刀剣類等所持取締法の一部を改正する法律附則五項による改正前の銃砲刀剣類等所持取締法三一条一号、三条一項に、判示第一の二の所為は刑法二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号にそれぞれ該当するので、各所定刑中罰金刑を選択し、右の各罪と前記確定裁判のあつた道路交通法違反罪とは刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示各罪につきさらに処断することとし、なお右各罪もまた同法四五条前段の併合罪の関係にあるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告人Aを罰金四万円に処し、被告人Bの判示第二の所為は前記改正前の銃砲刀剣類等所持取締法三条一号、三条一項に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、右は前記確定裁判のあつた銃砲刀剣類等所持取締法違反罪と刑法四五条後段の併合罪であるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ない判示罪につきさらに処断することとし、その所定罰金額の範囲内で被告人Bを罰金二万円に処し、なお、被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、同法一八条によりいずれも金五〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置す
べく、押収した拳銃一挺(当庁昭和四二年押三号の一)は被告人Bの所有にかかるものであるから刑法第一九条第一項第一号第二項により同被告人からこれを没収し、原審および当審における訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人らに均分負担させることとする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福地寿三 裁判官 干場義秋 裁判官 広岡保)
トップに戻る

saiban.in