判例検索β > 昭和29年(ネ)第43号
抵当権不存在確認所有権移転登記手続等請求事件
事件番号昭和29(ネ)43
事件名抵当権不存在確認所有権移転登記手続等請求事件
裁判年月日昭和30年1月25日
法廷名高松高等裁判所
判例集等巻・号・頁第8巻1号35頁
判示事項旧農地調整法第四条の知事の許可に同法弟六条の知事の許可を包含するものと認むべき一事例
裁判要旨農地を耕作以外の目的(工場敷地)に供せんがため賃借権を取得するについて旧農地調整法第四条の知事の許可を得た以上、右許可の中には賃借農地を耕作以外の目的(工場敷地)に供せんとすることに対する同法第六条の知事の許可をも包含するものと認めるのを相当とする。
裁判日:西暦1955-01-25
情報公開日2017-10-18 03:42:47
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主 文
当庁昭和二十九年(ネ)第四三号事件につき本件控訴を棄却する。 当庁昭和二十九年(ネ)第四四号事件につき原判決主文第一項を次ぎの通り変更する。
被控訴人Aは控訴人に対し原判決添付目録記載の土地につき地目を宅地に変換の申告並びに登記手続をなしたる上売買を原因とする所有権移転登記手続をなすべし。
控訴人の被控訴人Aに対するその余の請求を棄却する。 訴訟費用中、前記第四三号事件について生じた控訴費用は控訴人の負担とし、前記第四四号事件について生じた分は第一、二審を通じ、これを二分し、その一を被控訴人Aの、その余を控訴人の各負担とする。
事 実
控訴代理人は原判決を取消す、債権者被控訴人B及びC、債務者被控訴人A間において原判決添付目録記載の土地につきなされた昭和二十五年四月一日付、債権額金三十万円、利息無利息、辨済期昭和二十六年十二月二十日なる抵当権設定契約の存在せざることを確認する。被控訴人B及びCは控訴人に対し松山地方法務局郡中出張所昭和二十六年三月二日受付第六五三号をもつてなされた前記内容の抵当権設定登記の抹消登記手続をなすべし、被控訴人Aは控訴人に対し前記土地の地目を宅地に変換する申告並びに登記手続をなしたる上売買による所有権移転登記手続をなすべし、被控訴人B及びCに対する抵当権設定契約の不存在確認及び抵当権設定登記の抹消登記手続の請求が理由なきときは、被控訴人Aは控訴人に対し金三十万円を支払うべし、訴訟費用は被控訴人等の負担とするとの判決を求め、被控訴人等は何れも控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、本件売買は原判決添付目録記載の土地の地目を宅地に変換することについて知事の許可を得ることを停止条件とするものであるところ、控訴人及び訴外Dが申請し、昭和二十六年一月三十日に与えられた賃借権譲渡に対する知事の許可には右地目変換についての許可をも包含するものであると陳述し、
被控訴人Aにおいて、控訴人主張の日時本件土地につき控訴人主張の如き抵当権設定登記のなされたことは認めるが、右登記に係る抵当権設定契約は真実存在するものであつて通謀虚偽の意思表示に基くものではない。
また被控訴人は控訴人に対し本件農地を売渡したことなく、仮に売買の事実が認められるとしても、右売買は知事の許可を受けずしてなされたものであるから無効である。被控訴人は本件土地の賃借権譲渡について承諾を与えたことは存するが、控訴人主張の如く右土地の地目を宅地に変換するにつき知事の許可を得ることを停止条件として売買契約をなしたことはない。従つて被控訴人は本件土地につき地目変換の申告並びに登記手続をなすべき義務も売買を原因とする所有権移転登記手続をなすべき義務も負はないものであると陳述し、被控訴人B及びCにおいて、被控訴人Aの右陳述を援用すると述べた外、原判決摘示事実と同一であるから茲にこれを引用する。
証拠として控訴代理人は甲第一号証、同第二号証の一乃至四、同第三号証乃至第六号を提出し、原審における証人E(第一、二回)、F、G、Hの証言及び控訴本人尋問の結果、当審証人I、J、Eの証言を各援用し、乙第五号証及び丙第一号証の一は成立を認める。爾余の乙号及び丙号各証は何れも不知と述べ、被控訴人B及びCは乙第一号証乃至第五号証を提出し、原審における証人K、L、Mの証言及び被控訴人A本人尋問の結果、当審証人Nの証言を各援用し、甲第一号証及び同第三号証は不知、甲第二号証の一は公署作成部分のみ成立を認めるがその余の部分は不知、爾余の甲号各証は成立を認め、甲第二号証の一乃至四を利益に援用すると述べ、被控訴人Aは丙第一号証の一、二を提出し、甲第一号証は被控訴人の署名捺印のみ成立を認め、その余の部分及び同第三号証は不知、甲第二号証の一は公署作成部分のみ成立を認めるがその余の部分は不知、爾余の甲号各証は成立を認めると述べた。
理 由
被控訴人Aの署名捺印の成立に争がないので、全部真正に成立したものと推定すべき甲第一号証、公署作成部分につき成立に争なくその他の部分も原審証人E(第一回)、Fの各証言によつて成立を認め得る甲第二号証の一、成立に争いのない甲第二号証の二乃至四、原審における証人E(第一、二回)、F、G、Mの各証言、控訴人本人尋問の結果、当審証人I、Eの各証言を綜合すれば、控訴人は昭和二十
五年九月頃自己の営む鉛鉄機械工場の敷地拡張のため被控訴人Aと同人所有の原判決添付目録記載の畑二筆(公簿上坪数は合計一反五畝二十歩となつているが、実際は合計九畝二歩二厘であつて、甲第一号証に

畑七七九の第一、七畝二八歩、畑七七九の第四、七畝二二歩の内九畝二歩二厘

と記載されているのは誤記である)を買取ることを約したが、右土地は訴外Dが被控訴人Aから賃借し小作中であつたので、知事の許可を得て、工場敷地とするため小作人Dより右農地の賃借権の譲渡を受け右許可ありたるときは所有者たる被控訴人Aは右土地の地目を宅地に変換の申告並びに登記手続をなし、これを宅地として控訴人に所有権の移転及びその登記手続を為すことを被控訴人Aと約定し、同月二十六日付をもつて、控訴人D連署の上、当時のa町農地委員会を経て愛媛県知事に耕作以外の目的(工場敷地)に供するため賃借権取得の許可申請をなし、次いで同月二十八日右土地の売買代金として控訴人より被控訴人Aに金八万七千円(但し内金四万七千円については控訴人より被控訴人Aに対する貸金債権四万七千円と相殺し現金四万円のみを交付)を支払い、一方小作人Dに対しては、当時他より代金十五万円をもつて農地を買求め、これを代替地として与え、且つ代替地が本件農地に比し遠隔の場所にあるため、その補償として現金六万円を支払つたこと、a町農地委員会は同年十月二十八日耕作以外の目的(工場敷地)に供するための控訴人の賃借権取得を承認し、愛媛県知事は昭和二十六年一月三十日これを許可したことが認められ、右認定に反する原審における被控訴人A本人尋問の結果、当審証人Nの証言は採用しない。 被控訴人等は仮に本件農地の売買の事実が認められるとしても、右売買は知事の許可なくしておされたものであるから無効であると主張するが、本件契約は、前記認定の如く、耕作以外の目的(工場敷地)に供するための賃借権取得について知事の許可を受くることを条件とし知事の許可ありたるときは、被控訴人Aにおいて本件農地の地目を宅地に変換の申告並びに登記手続をなしたる上、宅地として所有権移転及びその登記手続をなすことを内容とするものであつて、契約と同時に無条件に本件農地の所有権を移転することを内容とするものではなく、控訴人の賃借権取得及び農地の潰廃につき知事の許可あることを停止条件とする将来の宅地の売買と認むべきものであるから、本件土地の所有権移転に対しては廃止前の農地調整法第四条所定の知事の許可を受くることを要せず、これおきことを理由として本件契約を無効となすべきものではない。そして控訴人の耕作以外の目的(工場敷地)に供するための賃借権取得について既に知事の許可ありたることは前記認定の通りであり、また控訴人が既に本件土地を工場敷地として使用中であることは弁論の全趣旨に徴して明かであるから、被控訴人Aは本件土地の地目を宅地に変換の申告並びに登記手続をなしたる上、宅地として所有権を控訴人に移転し、且つ売買を原因とする所有権移転登記手続をなす義務あるものといわなければならない。 尤も被控訴人Aが本件農地の地目を宅地に変換の申告手続をなすに当つては同法第六条により更に知事の許可を受くべきものではないか、また被控訴人Aは土地台帳法第三十二条所定の期間経過後も地目変換の申告<要旨>手続をなし得るかについては、多少問題とする余地が残されていると考えられるけれども、控訴人が本件土地を耕作以外の目的(工場敷地)に供せんがため賃借権を取得するについて知事の許可を得た以上、右許可の中には控訴人が小作人Dより本件土地の賃借権の譲渡を受くることに対する廃止前の農地調整法第四条の許可の外に賃借権の譲渡を受けて本件土地の賃借人となりたる控訴人が賃借農地を耕作以外の目的(工場敷地)に供せんとすることに対する同法第六条の知事の許可をも包含するものと認定するを相当とすべく、かような場合には農地所有者は同一事項について重ねて同条の知事の許可を受くることを要せざること明かであるから、被控訴人Aはさらにあらためて同条の知事の許可を受けることを要せずして本件土地の地目を宅地に変換する申告並びに登記手続をなし得るものと解すべく、また土地台帳法第三十二条は、土地所有者は土地の地目変換後一箇月以内にこれを登記所に申告すべきことを規定し、同法第四十七条は土地所有者が右期間を徒過したるときは一万円以下の過料に処する旨規定するが、右規定は期間経過後になされた申告を無効ならしめる趣旨にあらず、土地所有者は一箇月の期間経過後と雖も有効に地目変換の申告手続をなし得るものと解するを相当とする。
次ぎに被控訴人B及びCは、仮に本件売買契約について知事の許可を要せざるものとするも、本件農地の売買代金八万七千円は廃止前の農地調整法第六条の二所定の農地統制価格合計金千五百十六円二十四銭を超過し本件売買契約は全部無効であると主張するが、前記法条は農地の価格の調整を目的として所有権移転そのものの統制を目的とするものではないから、仮に本件契約が農地の売買であるとしても右
規定による価格を超過する部分を無効とすれば足り契約全部を無効とすべき理由なきのみならず、本件契約はむしろ将来の宅地の売買と認むべき理由なきのみならず、本件契約はむしろ将来の宅地の売買と認むべきこと前記の通りであるから控訴人等の主張は採用しない。
次ぎに本件土地について控訴人主張の如き抵当権設定登記のなされあることは当事者間に争がないところであるけれども、控訴人と被控訴人Aとの間の契約においては、本件土地の所有権は被控訴人Aにおいて地目変換の申告並びに登記手続をなしたる際当然控訴人に移転すべき約定と解すべきこと前記認定の通りであつて、被控訴人Aにおいて右手続をなさざること明らかな本件においては、右土地の所有権は未だ控訴人に移転していないものといわなければならないのみならず、真正に成立したものと認める乙第一、二号証、原審証人Kの証言により成立を認め得る乙第三、四号証に原審証人K、Lの各証言、原審における被控訴人A本人尋問の結果を綜合すれば、控訴人主張の抵当権設定契約は被控訴人等が通謀して為した虚偽の意思表示にあらざることが認められるから、これに基き本件土地についてなされた抵当権設定登記も無効ではなく、控訴人の被控訴人B及びCに対する本訴情請求は失当である。
更に控訴人は仮に控訴人の被控訴人B及びCに対する請求が理由なきときは、被控訴人Aは本件土地の売買に際り、控訴人に対し前記抵当権の設定なき旨詐言し、本件契約を締結せしめ、控訴人は被控論人Aの右不法行為により抵当債権額金三十万円に相当する損害を蒙つ九ので、その賠償として金三十万円の支払を請求すると主張するが、被控訴人Aに控訴人主張の如き不法行為の事実ありとするも、これによつて控訴人が現に抵当債権額金三十万円に相当する損害を蒙つたものと速断することはできない。
即ち抵当債務者たる被控訴人Aにおいて債務の弁済をなせば、控訴人は損害を蒙らざる筋合であり、また被控訴人Aの債務については、本件土地のみならず、他に九筆の不動産に対しても一番抵当権の設定しあること原審証人Lの証言によつて明かであるから抵当権実行の暁控訴人の蒙るべき損害は必ずしも抵当債権額に一致するものとは認められず、結局被控訴人B及びCより抵当権実行の申立ありたることを認め得ざる現在、被控訴人Aの前示不法行為により控訴人の蒙る損害の数額は未だ確定し得ざる状態にあるものであるから、控訴人の被控訴人Aに対する損害賠償金三十万円の請求は失当である。然らば原判決が控訴人の被控訴人B及びCに対する請求を棄却したのは正当であるが、被控訴人Aに対する請求を全部排斥したのは失当であつて、前記認定の限度において変更すべきものである。
よつて当庁昭和二十九年(ネ)第四三号事件については民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用し、本件控訴を棄却し、控訴費用は控訴人の負担とし、同第四四号事件については同法第三百八十五条、第九十五条、第九十条本文を適用し、原判決を主文第三、四項の通り変更し、訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人、その余を被控訴人Aの負担すべきものとし主文の通り判決する。
(裁判長判事 前田寛 判事 太田元 判事 岩口守夫)

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