判例検索β > 昭和29年(う)第451号
道路交通取締法違反業務上過失致死被告事件
事件番号昭和29(う)451
事件名道路交通取締法違反業務上過失致死被告事件
裁判年月日昭和29年11月9日
法廷名札幌高等裁判所
結果破棄自判
判例集等巻・号・頁第7巻10号1565頁
判示事項道路交通取締法第七条違反の罪および過失傷害罪に対する刑法第五四条第一項前段の適用
裁判要旨自動車運転者が甲地点から乙地点に至るまでの間を酒に酔い正常な運転が出来ない虞があるにかかわらず自動車を運転しもつて道路交通取締法第七条に云う無謀な操縦をなし、しかして乙地点において右の無謀な操縦とその他の注意義務違反が原因となつて自動車を人に激突させ因つてその者を死に致した時は一個の行為が道路交通取締法違反罪と業務上過失致死罪との二個の罪名に触れる場合であつて刑法第五四条第一項前段を適用すべきものである。
裁判日:西暦1954-11-09
情報公開日2017-10-13 01:58:29
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主 文
原判決を破棄する
被告人を禁錮参月に処する
原審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。 理 由
本件控訴の趣意は弁護人山田清壱提出の控訴趣意書記載のとおりであるからここにこれを引用する。
右控訴趣意第一点(事実誤認)について。
所論は、被告人は本件事故発生当時酒に酔つては居らず従つて正常な運転ができない虞があるにかかわらず運転したものではなく、正常な運転をなしたものであり、又本件発生は被告人の業務上過失に基因するものではないから本件は無罪たるべきものである。しかるに、原判決が有罪と認定して被告人を道路交通取締法違反罪並びに業務上過失致死罪に問擬したりは事実を誤認したものであるというにある。
しかし、原判決挙示の各証拠を綜合すると、被告人は原判示の本件事故発生当時酒に酔い正常な運転ができない虞があるにかかわらず、貨物自動車を運転し無謀な操縦をしたこと、右無謀な操縦をしなお原判示のような注意義務を怠り、因つて業務上過失により、Aに原判示の傷害を負わせ死亡するに至らしめたことを充分に認めることができる。原審第二回公判調書中証人Bの右認定に反する供述記載は、原判決挙示の証拠に徴しこれを措信するに足らず、その他記録を精査するも、原判決には事実誤認が認められないから、論旨は理由がない。
<要旨>職権を以つて調査するに、原判決の(一)に、被告人が酒に酔つて正常な運転ができない虞があつたに拘らず札幌市ab丁目C店前から同市cd丁目D店前まで貨物自動車を運転し以つて無謀な操縦をしと判示された自動車運転の行為は原判決の(二)に前記D店前附近路上を時速三十粁にて東進中と判示されている運転行為に継続したもので右両者は前後一体をなした一個の自動車運転行為であることは、判文上明白である。而して原判決は、判示(二)において

被告人は当時酒に酔つていたせいもあつて、之等の義務を怠り

と判示しているとおり、被告人が無謀な操縦をしたことが事故発生の一原因と認定しているのである。然らば被告人は酒に酔い正常な運転ができない虞があるにもかかわらずこれを認識しながら、自動車を運転し以て無謀な操縦をすると共に、右のように無謀な操縦をするにおいては、事故を発生する虞があるにもかかわらず、不注意にも漫然これなきものと軽信して、自動車を運転した過失と、前認定の業務上過失とが、競合一体をなして、本件事故を発生したものである故、行為は一個であるが無謀な操縦と業務上過失致死とは法律的価値を異にし、前者は道路交通取締法違反罪に、後者は業務上過失致死罪にそれぞれ触るるものであり、すなわち一個の行為にして二個の罪名に触るる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段第十条により、重い後者の刑に従い処断すべきものであるところ、原判決が右二罪を同法第四十五条前段の併合罪として処断したのは、法令の適用を誤つたものというべく、その誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。 よつて刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条により原判決を破棄し同法第四百条但書に従い当審において更に判決する。
(罪となるべき事実)
被告人は、運転免許を受けた普通自動車の運転者であつたところ、昭和二十八年九月十九日夜十一時過頃、酒に酔い正常な運転ができない虞があるにもかかわらずこれを認識しながら、札―E号貸物自動車を運転し札幌市ab丁目C店前より空知郡e町字f方面に向け時速約三十粁にて東進中、同夜十一時二十五分頃同市cd丁目D店前附近路上において、約十米の間隔を距てて前進していたBの運転するジープを追越そうとしたが、該道路は、幅員約十四米(舗装部分は約七、七米)の直線道路で、その両側には人家が櫛比し当時は深夜に近く人車の交通が少かつたとはいえ、なお若干の通行人のあることは充分予測し得る市街道路であるから、自動車運転者としては、かかる箇所で前車を追越そうとする場合には、警音器を鳴らす等の方法により前事並びに通行人に合図をするのは勿論、前方、左右の交通状況を注視して交通の安全を確認した上、追越すよう細心の注意を払い最も安全な運転をなして、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにかかわらず、これを怠り、先行のジープのみに気を取られ殊に、前方を充分に注視せず、且つ警音器も鳴らさず、ジープの右側より追越すべくハンドルを右に切り道路の右端を進行し始めた際、A(当時十九年)が前方を歩行しているのを発見するを得ず、なお、前記
のように酒に酔い正常な運転がで昏ない虞があるにかかわらず、運転したため、自己の操縦する自動車を同人に激突して地上に顛倒させ、因つて同人に対しその頭部、前額部裂創及び脳膜出血の傷害を負わし、同所附近において、間もなく死亡するに至らしめ、以て無謀な操縦をすると共に業務上過失に因り人を死に致したもりである。
(証拠の標目)
原判決拳示のとおりであるからここにこれを引用する。
(法令の適用)
法律に照すと、被告人の判示所為中無謀な操縦をなした点は、道路交通取締法第二十八条第一号第七条第一項罰金等臨時措置法第二条に、業務上過失致死の点は刑法第二百十一条前段同措置法第二条第三条に、それぞれ該当するところ、右は一個の行為にして、二個の罪名に触るる場合であるから、刑法第五十四条第一項前段第十条により、重い後者の罪の刑に従い、所定刑中禁錮刑を選択し、その刑期範囲内において、被告人を禁錮三月に処し、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い、被告人の負担とすることとし、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 熊谷直之助 判事 水島龜松 判事 臼居直道)
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