判例検索β > 昭和31年(う)第629号
名誉毀損被告事件
事件番号昭和31(う)629
事件名名誉毀損被告事件
裁判年月日昭和32年1月30日
法廷名仙台高等裁判所
結果破棄自判
判例集等巻・号・頁第10巻1号50頁
判示事項名誉毀段損罪の幇助犯が成立する一事例
裁判要旨被告人が他人の名誉を毀損する事実を主張しているのを探知した新聞記者が右事実に関する被告人の談話を取材しこれを新聞紙上に掲載、発行する意思で面接した際、その情を知りながら、記者に対し右事実に関する談話をした結果右談話が新聞紙上に掲載、発行せられるに至つた場合には、右記者の名誉毀損罪に対する幇助犯が成立する。
裁判日:西暦1957-01-30
情報公開日2017-10-13 01:57:24
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主 文
原判決中有罪部分を破棄する
被告人を罰金二千円に処する
但し本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。 右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
原審における訴訟費用中証人A、同Bに各支給した分を除きその余及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理 由
弁護人片岡政雄の陳述した控訴趣意は記録に編綴の同弁護人名義の控訴趣意書の記載と同じであるからこれを引用する。
同控訴趣意中第一点の(一)について。
新聞記者の取材した記事を新聞紙上に掲載するか否か、いかなる形態で掲載するかの取捨選択は専ら編集人の権限に属しその良識と責任においてすべきものであることはまことに所論のとおりであるけれども、積極的であれ、消極的であれ、新聞記者に対し、他人の名誉を毀損する談話をし、その結果、記者をして該談話を本社に送付させ、編集人、発行人をして、これを新聞紙上に掲載発行せしめ以て右記者の記事送付の行為と編集人発行人の該記事を新聞紙上に掲載発行する行為との共同行為により他人の名誉を毀損するに至らしめたときは、右談話とその新聞紙上への掲載発行との間には具体的に因果関係があることは明白であるから、記者に記事を提供した話者は、右名誉毀損の共同行為に対する幇助者又は教唆者としての責を免れ得ないことは勿論であつて、所論のように、編集人に記事選択の専権があるからといつて、記者に対する記事提供の行為とその新聞紙への掲載発行の行為との間に因果関係がないとはいいえない。
原判文に徴するにその措辞妥当を欠く嫌があるが、これを挙示の証拠と対照するとき、原判決の認定した事実は、要するに、被告人は新聞記事を取材する目的で被告人に面接した新聞記者Cから質問されるや、同人が新聞紙上に掲載する記事を取材することを知りながら、同人の質問に応じDの名誉を毀損する判示談話をし、因つて同記者をして右談話を新聞紙上に掲載する意思を決定せしめ、その結果、同人が右談話を本社に送付し、編集人、発行人等が該談話を新聞紙上に掲載、発行するに至つたというDの名誉を毀損するC等の共同行為に対する教唆の事実を判示した趣旨と解せられる(原判決が被告人の右所為を正犯として処断しているのは単に法律の適用を誤つたにすぎない。)のであるから、原判決には所論のような理由不備等の違法は存しかい。論旨は理由がない。
同第一点の(二)について。
新聞紙の如き公刊の文書により他人の名誉を毀損する罪は名誉を毀損する記事を新聞紙上に掲載発行し、これを購読者その他公衆の閲覧し得べき状態におくことにより成立するものと解すべきであるから原判決がDの名誉を毀損するに足る判示記事を掲載した新聞紙を発行しこれを福島県相馬市内その他多数の購読者に配布せしめた旨判示してある以上、所論のように購読者の氏名その人員等の事実を説示しなくとも右名誉毀損の事実摘示として欠くるところはなく、原判決には所論のような理由不備の違法はない。論旨は理由がない。
同第三点の(一)及び第二点の(一)について。
しかし原判決挙示の原審証人Cの供述記載並びに証第四号の存在及び記載によれば、被告人は新聞に掲載する記事を取材するため被告人を訪ねてきたE社通信記者Cの質問に応じ、Dに関し、判示新聞紙上に被告人の談話として掲載された談話をし、Cはその際これを書き留めていたものであり、(へなお談話の内容が右認定のとおりであることは被告人も検察官に対する供述調書において認めている。)被告人の原審供述記載によれば被告人はCがE社の記者であることは同人が乗つてきた自転車に同社の印があつたので判明したというのであり、以上の各事実に徴すれば、被告人はCが新聞紙上に掲載する記事を取材するものであることを容易く察知し、従つて自己の談話が新聞紙上に掲載されることを知つていたものと認めるのが相当であり、このことは被告人がCの取材後同人の要求を容れて写真をとらせていることしかもその後、Cから右談話を新聞紙に掲載するがよいかと念を押されよいですとこれが承諾を与えていることに徴するも明白といわなければならない。(Cの右供述記載)被告人のよいですとの右応答が所論のように単に一片の儀礼的なもので真意に出たものでないとは認め難いし、又、なるほど被告人が承諾の返事をしたのは、C記者の取材終了後であることは所論のとおりであるか、被告人
はCの取材に当り自己の談話が新聞紙上に掲載されることを了承していたればこそ右の如く取材終了後Cから掲載するといわれて明白に承諾の応答をしたものと認むべきで、所論のように、被告人は談話の際にはこれが新聞紙上に掲載されることを了承せず取材後にはじめてこれを承諾したというが如きものとは認め難い。(被告人も検察官に自己の談話が新聞紙上に掲載されることを知つていたと述べている。)それで原判決が被告人はC記者に対しDの名誉を毀損する前示談話をした際これが新聞紙上に掲載されることを知つていたと認めた点には何等誤認はなく、被告人にかかる認識がなかつたとの理由で被告人に故意のなかつたことを主張する論旨は理由がない。しかしながら、当審証人Cの供述並びに同証人及び被告人の原審における各供述記載、証第三、第四号の各存在と記載によれば、C記者は被告人に面接して被告人から前示談話を取材するに先ち、被告人がさきにF株式会社G営業所主任Dを相手として福島地方法務局相馬支局に提訴した、Dから被告人がバス運転者として料金を横領したとの嫌疑でその意に反し強制的に身体を検査されたという事実並びに被告人がDによつて印鑑を盗用され被告人名義の退職願書を偽造されたという事実を探知しており当日C記者は直接被告人に面接して右事実に関する被告人の談話を得てこれを新聞紙上に掲載するため、被告人を訪ね右事実の有無を質したところCの右意図を察知した被告人から右事実に関する前示談話を得たので、これを取材して本社に送付した結果被告人の<要旨>談話を掲載する判示新聞紙が発行されるに至つたことが充分認められるのである。右事実関係によればC記者には、すでに被告人から右談話を取材する際、自己の探知していた右Dの名誉を毀損する事実に応当する事実を新聞紙上に掲載発行する意思すなわち、名誉毀損の故意があり唯、その実行が被告人の右事実に関する談話を得ることにかかつていたにすぎず、Cは被告人の右談話により、はじめて右事実を新聞紙上に掲載発行する名誉毀損の故意を生じたものではないと認むべくかかる故意をもつCに対し情を知りながらDの名誉を毀損する談話をし、これを新聞紙上に掲載発行せしめた被告人の所為はC等の名誉毀損罪に対する教唆犯ではなく幇助犯を構成するものといわなければならない。それ故、被告人に対し右の罪の教唆犯を認め且つ正犯の法条を以て問擬した原判決には事実の認定並びに法令の適用を誤つた違法がありこれらの違法は判決に影響すること明らかであるから原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は結局理由がある。
同第三点の(二)(期待不可能の主張)について。
しかし、被告人がC記者の質問に対し、した判示新聞紙上に被告人の談話として掲載されたDの名誉を毀損する応答がその際の状況上、かかる応答に出ないことを被告人に期待することが通常人の立場から見て不可能と認められる事情は記録上毫もこれを窺うことができない。このことは、右応答の際の状況に関する前段の説明に徴しても明白である。論旨は理由がない。(なお談話内容がDの名誉を毀損することを知つていたことは明白である。)
同第三の(三)(摘示事実の真実性につき証明があつたとの主張)について。 被告人がC記者をして摘示せしめた判示新聞紙に掲載の事実が公共の利害に関し且つ摘示の目的が専ら公益を図るに在つたと認められることは所論のとおりであるところ、事実の真実性が証明されたといい得るには、摘示事実中重要なる部分の真実性が立証されるをもつて足りると解すべきであるから、判示摘示事実自体に徴しDが(一)被告人の意に反し強制的に身体検査をしたこと(二)被告人名義の退職願書を偽造したことが証明されれば足りる。
そこでまづ(一)の身体検査の点について検討する。
原審及び当審証人Dの各供述、原審証人H、同Iの各供述、被告人の原審及び当審における各供述によると、判示F株式会社のG営業所主任であるDは、同会社の乗務員は会社所定の手続を践まなければ勤務中、私有金を所持してはならないことになつているのに拘らず、同営業所所属の被告人が勤務中右会社の禁則に背き、度々金銭を所持している旨聞知していたので、被告人に不正行為ありとの嫌疑を抱き直接の監督者として従来もかかる場合行つてきた所持品の提示を求める方法による検査を行うため昭和二九年一一月一〇日頃の午後七時頃、用務を告げて右営業所の乗務員控室に被告人を呼び入れた上、同営業所の運転者であるJ、K、及びLの三名を立会させて被告人の所持品を検査した際、被告人のはいていた靴の敷皮の下から一〇円紙幣二枚を発見したことが認められる。その際の所持品検査の状況につき、被告人は警察の取調においてDから横領の嫌疑を受け着用の上衣、ズボン、靴下等を脱いで渡せと命ぜられたのでこれらを脱いで渡すとDはこれらを調べまた首長シャツを捲くつても調べた自分はズボン下を着していないのでシヤツとパンツ一
つにされた旨供述し検察官の取調及び原審においてもほぼ同様の供述をしているのである。もしかかる方法、程度の所持品検査が行われたとしたら、表面上は、被告人の承諾に基くものとはいえ、人事権を握る監督者がその地位を濫用し、犯罪の嫌疑を受けて窮境に立つ従業員の意思に反し検査を強制したものと認むべく、不法に人身の自由を侵したこととなるものというべきである。
しかし、他面Dは原審において証人として被告人に所持証明のない金をどうして所持しているかと尋ねたところ被告人は当初黙していたが次第に興奮しどんな金か判らない会社の金はとつていない金など身につけていないから何処でも見てもらいたいと言つて上衣を脱ぎズボンのバンドをはずして裸になろうとしたので自分は興奮するなと言い止めたがズボンを脱いだがシヤツは着ていた。ズボンを着していたかどうか記憶ない。脱いだ上衣のポケツトを調べた。旨供述しており右検査に立会した前記三名の者も原審証人として検査の状況につきほぼDの供述に符合する証言をしているのである。右供述によればDが右のような検査をしたのは被告人が身の潔白を証せんと自ら進んで脱衣し着衣につき検査を申出たためであつて、Dが監督権を濫用し被告人の意に反し検査を強制したということにはならない。 次に(二)退職願書の偽造の点につき考察する。
被告人は警察の取調において、Dに辞職を勧告され……書式をきくと勧告により退社する旨のものを示されたので一身上の都合により退職する旨の書式にしてほしいと願うも駄目と言われたので半紙半切に毛筆で書いて持参し会社においた印鑑を押捺して提出した、その後四、五日してDが来てくれと言つていると伝言があつたので……行くとDは一身上の都合による退職としてくれといつていたから半紙を買つて出しておいたということであつた旨述べており検察官に対しても原審においても同趣旨の供述をしているのである。しかし、他面、Dは原審証人として被告人が墨書の退職願書を作成してきたが半紙半切のもので不体裁なので書き直すように言い、Mに半紙を買い来させ被告人に与えると被告人は毛筆では書けぬから書いてくれと言うので代書してやつた、その際被告人に話して一身上の都合による退職願書とした、被告人は事務室の従業員が印鑑をおいておくところから印鑑をもつてきて押捺した旨供述しており、原審証人Mは被告人がDに退職願書を書直すよう言われ自分が半紙を買つてくると書けぬから書いてくれと言つていた旨供述し、原審証人N同Oの両名も右Dの供述に副う供述をしているのである。 なるほどDの供述を裏付ける証言をしている本件の証人中には現にDに使用されその支配下に在る者が存することは所論のとおりであるが、それだけの事由で同証人等が故らDに言を合わせ全々虚構を述べているものとは認め難く右の証人中にはすでに会社を辞めDの支配下に立たぬ者もあるのである。
所論原審証人P、同Q、同Lの各証言部分を以てしても、所論のようにDが部下従業員をして自己の証言に副う虚偽の供述をするよう勧誘した事実を認めることは到底不可能である。(なおRの検察官に対する供述調書は存しない。)その他Dの供述に符合する証人等が不実を述べていることを疑うべき事情は存しない。 以上の次第で前記被告人の供述と前示Dの証言及びこれを支持する各証言とを対比検討するときは被告人の供述のみが本件に関する重要な部分に関し、全面的に措信するに足るとし、D等の供述を虚偽として排斥し去るに足らず、結局摘示事実の真実性につき証明がなかつたことに帰し当審における事実取調の結果によるも結論に影響はない。
それ故原判決には所論のような採証法則違反並びに判決に影響する事実誤認はなく、論旨は理由がない。
なお、所論は本件に関する検察官の捜査の不公正を論難しているが、このことのために本件犯罪の成否に影響するところは毫も存しない。
同第二点の(二)(原判決は言論の自由を侵害した違憲の判決であるとの主張)について
言論の自由は憲法の保障するところであり、それが公共の福祉に対し明白且つ現在の危険を招来した場合を除き、みだりにこれを制限するが如きことは絶対に許されないことは所論のとおりであるが、その保障さるべき言論は真に社会公共の利益を増進するに足るものでなければならず、単に他人の名誉を毀損するにすぎぬ言論の如きは一般に、公共の福祉に有害でこそあれ何等の益のないもので、憲法上保障さるべき言論というに当らない。刑法第二三〇条が事実の有無を問わず他人の名誉を毀損する行為を処罰するはもとより適憲である。唯、人の社会的評価(名誉)には真にその人に価するものと、しからざるものとありその真にその人に価しない虚名を暴露する言論が、かえつて公共の福祉に合致する場合においてはその言
論は憲法上尊重されなければならない。これ刑法第二三〇条の二が一定の条件の下に摘示事実の証明があつた場合、名誉毀損罪の成立を否定する所以である。原判決がC記者に問われてDの名誉を毀損する談話をしこれを新聞紙上に掲載発行せしめた被告人に対し、摘示事実の真実性につき立証がない場合において、名誉毀損罪の教唆犯の成立を認め有罪を言渡したことに憲法第二一条の解釈を誤つた違憲のかどはなく被告人の右応答が明白且つ現在の危険を招来していないから名誉毀損罪として処罰するは違憲であるとの論旨は理由がない。
以上のとおりで、原判決には判決に影響を及ぼす事実誤認並びに法令の適用の誤が存するので原判決は破棄を免れない。
よつて刑訴法第三九七条一項第三八二条第三八〇条により原判決中有罪部分を破棄し同法第四〇〇条但書により当裁判所において改めて次のとおり判決する。 罪となるべき事実。
被告人は昭和二九年五月一〇日頃F株式会社に自動車運転者として雇われ、同会社G営業所所属の乗合自動車の運転をしており同年一一月下旬退職した者であるが、右会社に在職当時同営業所主任Dから、自動車運転中料金を横領したとの嫌疑で意に反して強制的に身体を検査され、又同会社を退職するに際し被告人名義の退職願書を偽造された旨主張している事実を探知していたE社S通信部の記者Cが昭和三〇年七月二九日頃被告人に直接面接し右事実に関する談話を得た上、新聞紙上に掲載発行する目的で、当時の被告人の勤務先である福島県相馬市a字bTの自動車車庫に被告人を訪ね被告人に右事実の真偽を尋ねたところ、被告人はC記者の意図を察知しながらCの問に答えてDに関し、〃まつたく寝耳に水でバス代横領とは心外だ。それにこの野郎ふざけるななどの暴言を吐き身体検査をされ、それに無実の罪を着せられ退職願も書かないのにこれを本社に提出したことは当然私文書偽造であり断固斗う〃旨Dの名誉を毀損するに足る談話をした結果Cをして右談話を本社に送付せしめ因つて同年七月三〇日発行のE紙上にG営業所人権問題等の表題で記載した記事の一部にDに関し解雇されたUさんの話として前記談話内容を掲載したものを発行しこれをその頃福島県相馬市内その他の多数の購読者に配布せしめ以てC等の新聞紙発行による名誉毀損の行為を容易ならしめて幇助したものである。
証拠の標目。
当裁判所が右事実を認定した証拠の標目は左記の証拠を附加する外、原判決挙示の証拠(但し証第四号の存在とあるのを存在及び記載と訂正する。)と同じであるからこれを引用する。
一、 証人Cの当公廷における供述
二、 原審公判調書中被告人の退職願書作成に関する供述記載部分 三、 昭和三〇年七月二七日附V新聞の切抜(証第三号)の存在及び記載 法令の適用。
被告人の行為は刑法第二三〇条一項第六二条一項に該当するので所定刑中罰金刑を選択し従犯であるから同法第六三条第六八条四号により法定の減軽をした金額の範囲内において被告人を罰金二、〇〇〇円に処し情状刑の執行を猶予するのを相当と認めるので同法第二五条一項により本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予し、罰金不完納の場合の労役場留置日数につき同法第一八条を訴訟費用の負担につき刑訴法第一八一条一項本文を各適用する。
弁護人の刑法第二三〇条の二に規定する摘示事実の真実性の主張及び期待不可能性の主張のいづれも理由がないことは前段説示のとおりであるからいづれもこれを排斥する。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 籠倉正治 裁判官 細野幸雄 裁判官 岡本二郎)
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