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業務上過失致死、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
事件番号昭和42(う)170
事件名業務上過失致死、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
裁判年月日昭和43年1月23日
法廷名仙台高等裁判所
判例集等巻・号・頁第21巻2号95頁
判示事項鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律第一条ノ四第三項にいわゆる「捕獲」の意義
裁判要旨鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律第一条ノ四第三項にいわゆる「捕獲」とは、狩猟鳥獣を現実に自己の実力支配内に入れうる状態を生じさせたことをいい、狩猟鳥獣に対し単に銃砲を発射するなどして狩猟行為をしたにすぎない場合を含まない。
裁判日:西暦1968-01-23
情報公開日2017-10-13 01:53:52
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主 文
原判決中、業務上過失致死罪に関する部分および銃砲刀剣類所持等取締法違反の点に関する部分を破棄する
被告人を原判示業務上過失致死罪および当審認定の銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪につき懲役八月に処する
押収にかかるライフル銃一挺(当庁昭和四二年押第六七号の一の一)を没収する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
原判決中、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律違反の点に関する本件控訴を棄却する。
理 由
本件控訴の趣意は、仙台地方検察庁大河原支部検察官事務取扱検事山室章名義の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、弁護人菅原弘毅名義の答弁書に記載されたとおりであるから、いずれもこれを引用する。 控訴趣意第一点(事実誤認の主張)について
原判決は、被告人の原判示業務上過失致死罪の所為を認定するにあたり、被告人が原判示ライフル銃を発射した動機ないし射撃目標に関し、被告人が原判示ライフル銃を発射したのはその着弾距離を試みるためであり、原判示A川堤防上の発射地点より約二〇六メートル離れた対岸の二本の樹木のほぼ中間で地上からの目測三、四メートル附近を目標(右附近の枝には数羽のからすがとまつていた)として発射したものである旨認定判示し、かつ、本件公訴事実中、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律違反の点および銃砲刀剣類所持等取締法違反の点については、前者につきからすをねらつてライフル銃を使用して捕獲したとの点、後者につきライフル銃を鳥類捕獲に使用したとの点につきこれを認めるに足りる証拠が十分でない旨説示して、いずれも無罪の言渡しをしているのであるが、原判決の挙示する各証拠および記録中の司法警察員作成にかかるライフル銃発射地点の確認についてと題する書面ならびに当審における証人Bの供述を総合すると、被告人は、かねて乙種狩猟免許と原判示ライフル銃の所持許可とを受けていたものであるところ、原判示日時頃原判示A川堤防上において、その頃被告人が新たに買い入れた装薬銃たる原判示ライフル銃の殺傷能力等の威力を確認すべく、狩猟の目的をもつて、A川下流約一一五メートルの川岸附近にいたからすをねらつて原判示ライフル銃を発射し、さらに、約二〇六メートル離れた対岸の二本の樹木のほぼ中間で地上からの目測三、四メートル附近の枝にとまつていた数羽のからすをねらつて同銃を発射したものであることが明らかであり(なお、後者の弾丸をして、発射地点より約四六二メートル離れた麦畑で農作業中の被害者Cに命中させるに至つたものであることは、原判示のとおりである。)被告人の原審公判廷における供述中、右認定に副わない部分は、関係各証拠と対比してにわかに措信することができないから原判決は、右の限度において、事実の認定を誤つたものといわなければならない。
ところで、論旨は、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律違反の公訴事実につき、同法に規定する鳥獣の捕獲とは、鳥獣を自己の実力支配内に入れようとする一切の行為を指し、実際に鳥獣を自己の実力支配内に入れえたか否かを問わないものと解すべきであるから、被告人が、右のように、二回にわたり、からすをねらつて装薬銃たるライフル銃を発射した行為は、同法律第一条ノ四第三項、同法律施行規則第三条第二項に違反し、同法律第二二条第二号に該当するものである旨主張する。鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律第一条ノ四第三項は、

農林大臣又ハ都道府県知事ハ狩猟鳥獣ノ保護蕃殖ノ為必要ト認ムルトキハ狩猟鳥獣ノ種類、区域、期間又ハ猟法ヲ定メ其ノ捕獲ヲ禁止又ハ制限スルコトヲ得

と規定し、これを受けて、同法律施行規則第三条第二項は、

狩猟鳥類は、わな又は装薬銃たるライフル銃を使用する方法を用いて捕獲してはならない。

旨規定し、さらに、右の違反行為に対する罰則が同法律第二二条第二号に定められていることは所論の指摘するとおりであ<要旨>る。しかしながら、右法条の立法目的が、その規定上からも明らかなように狩猟鳥獣の保護繁殖をはかる点にあることから考えて、また、捕獲なる文言の一般通常の用法にも徴すると、右法条にいわゆる捕獲とは、狩猟鳥獣を現実に自己の実力支配内に入れうる状態を生じさせたことを意味するものと解するのが相当であつて、すでにこれに対し銃砲を発射するなどして狩猟行為に及んだとしても、右の状態を生じさせるに至らない場合には、右行為は捕獲のいわば未遂行為であるにすぎないものとして、いまだ右罰則の適用を受けないものと解すべきである。所論引用の判例は、同法律第一一条違反の行為にかかるもので同条が、所掲各場所の平穏静
謐をもつてその保護法益としているものと解せられるところより、同条にいわゆる捕獲が、その所掲各場所において捕獲のための方法を行なつたこと自体を意味するものであり、現実に鳥獣を捕獲したか否かを問わないものと解すべきであるとしているのであるから、本件とは事案を異にするもので、本件に適切であるとはいえない。そうすると、被告人が、からす(それが狩猟鳥類とされているからすの種類に属するものであることは、当審における事実取調の結果により明らかである。)をねらつて、二回にわたり装薬銃たる原判示ライフル銃を発射したものであることは前記のとおりであるけれども、弾丸をからすに命中させるなどして現実にこれを自己の実力支配内に入れうる状態を生じさせるに至つたものとは証拠上認められない本件においては、被告人の右所為は、未だ同法律第二二条第二号の罰則に触れるものとはいうことができない。なおまた、右の意味における捕獲の未遂行為を処罰する旨の規定は同法律中に存しない。したがつて、原判決が、同法律違反の公訴事実につき被告人を無罪としたのは結局正当であつて、この点に関する論旨は結局理由がない。
つぎに、論旨は、銃砲刀剣類所持等取締法違反の公訴事実につき被告人が狩猟鳥類たるからすをねらつて二回にわたりライフル銃を発射した行為は、同法第一〇条第二項に違反し、同法第三一条の四に該当するものである旨主張するところ、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律第一条ノ四第三項、同法施行規則第三条第二項の各法意に照らし、銃砲の不適法な発射行為自体を禁止する銃砲刀剣類所持等取締法第一〇条第二項の趣旨との関連において実質的に考察すれば、狩猟鳥類を捕獲する手段として装薬銃たるライフル銃を発射することは、たまたまその銃弾が標的をはずれ未遂の段階に止まつたため、その罰則の適用を免れるとしても、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の許容する行為の範囲内にあるものとは認めがたいというべきであるから、被告人が、前記のように、狩猟鳥類たるからすをねらつて二回にわたり装薬銃たる原判示ライフル銃を発射した行為は、銃砲刀剣類所持等取締法第一〇条第二項第一号所定の発射許容事由たる鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の規定により銃猟をする場合に該当するものということはできず、また、同条項第二号ないし第三号の各事由に該当するものとも認められないから、結局、同条項に違反し銃砲刀剣類所持等取締法第三一条の四の罰則に触れるものといわなければならない。そうすると、原判決が、同法違反の公訴事実につき、ライフル銃を鳥類捕獲に使用したとの点の証拠が不十分であるとして被告人を無罪としたのは、事実を誤認したものというべくこの誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中同法違反に関する部分は、この点において破棄を免れない。
(なお、被告人のライフル銃発射行為が、仮りに原判示のように着弾距離を試みるためだけのものであつたとしても、それは、論旨が控訴趣意第二点において主張しているとおり、銃砲刀剣類所持等取締法第一〇条第二項第一号ないし第三号所定の発射許容事由のいずれにも該当しない場合であることが明らかであるから、結局、同条項に違反し同法第三一条の四の罰則の適用を受けるものといわなければならない。)
そして、右銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪と原判示業務上過失致死罪とは刑法第四五条前段の併合罪の関係にあり、一個の刑をもつて処断すべきものであるから、原判決中、業務上過失致死罪に関する部分を併せて破棄すべきものである。 そこで、原判決中、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律違反の点に関する部分に対する本件控訴は理由がないから、刑事訴訟法第三九六条によりこれを棄却し、業務上過失致死罪に関する部分および銃砲刀剣類所持等取締法違反の点に関する部分は、同法第三九七条第一項第三八二条によりこれを破棄し、控訴趣意第三点(量刑不当の主張)に対する判断を省略し、同法第四〇〇条但書に則り、さらにつぎのとおり判決する。
(当裁判所が認定する犯罪事実)
被告人は、ライフル銃(口径五・五ミリメートル、銃身の長さ五二一ミリメートル、単発式)の所持許可を受けているものであるが昭和四一年一二月九日午前九時三〇分ころ、宮城県柴田郡a町b字c川原地内A川改修工事現場D組資材倉庫附近のA川堤防において、狩猟の目的をもつて、A川下流約一一五メートルの川岸附近と、約二〇六メートル離れた対岸の樹木にとまつていた各狩猟鳥類に属するからすをねらつて、装薬銃たる右ライフル銃を各一発ずつ発射し、もつて鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律の規定により銃猟する場合その他法定の除外事由にあたる場合でないのに銃砲を発射したものである。
(証拠の標目)

一、 被告人の検察官および司法警察員(三通)に対する各供述調書 二、 証人Bの当審公判廷における供述
三、 Bの検察官および司法警察員(二通)に対する各供述調書 四、 司法警察員作成のライフル銃発射地点の確認についてと題する書面 五、 Eのカラスについての照会に対する回答と題する電話用箋 六、 押収にかかるライフル銃一挺(当庁昭和四二年押第六七号の一の一) (法令の適用)
被告人の原判示業務上過失致死の所為(ただし、原判示罪となるべき事実中、

着弾距離を試みたのであるが、

とあるのを

殺傷能力等の威力を確認すべく、狩猟の目的をもつて、同銃を発射しようとしたのであるが、

と訂正し、

対岸の二本の樹木のほぼ中間で地上からの目測三、四メートル附近を目標(右附近の枝には数羽のからすがとまつていた)として発射した過失

とあるのを

対岸の二本の樹木のほぼ中間で地上からの目測三、四メートル附近の枝にとまつていた数羽のからすをねらつて発射した過失

と訂正する。)は刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第三条、第二条に、当審認定の被告人の所為は銃砲刀剣類所持等取締法第一〇条第二項、第三一条の四、罰金等臨時措置法第二条に各該当するところ、所定刑中前者につき禁錮刑を、後者につき懲役刑を各選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、重い後者の罪につき定めた刑に法定の加重をし、その刑期範囲内において処断すべきものであるところ、記録および証拠物ならびに当審における事実取調の結果によりその情状を検討するに、被告人の本件業務上過失致死の犯行における過失は、本件ライフル銃の飛行距離が一六〇〇メートルであるとされていて、強い殺傷力を有するものであり、したがつて、その弾着を確認しえない方向、角度にてこれを発射するときはその弾丸により人畜を殺傷するに至る危険性があるので、そのような発射はなすべきものでないのに、原判示A川堤防上において、対岸の樹木上のからすを射撃することに気を奪われ、漫然これを発射した点にあるのであり、その結果発射地点より近々四六二メートル先の麦畑で農作業中の被害者Cの頭部に弾丸を命中させて同人を即死するに至らせたものであつて、被害者が農作業をしていた附近には間近かに人家も迫り、その一帯は野菜畑等の畑地となつていて、折から日中のこととて、他にも数名の農夫が現に被害者の身近かでそれぞれ農作業に従事していた状況にあつたこと、被告人が発射した地点からその発射方向を望見すると、対岸の前記樹木より先きの方が、一段と高い切桑畑となつていて、それ以遠の具体的状況は見通しが困難となつているのではあるが、切桑畑の先に平坦地が続いており、かつ、附近に人家が迫つていること等の状況は一見して明瞭なのであるから、被告人としては、その時間的、場所的な諸状況に照らし、発射方向上の射程距離内に、右のごとく農夫等の存在することをむしろ容易に推察すべきものであつたと認められること、なお、被告人が発射した地点より若干後退し、被告人が通つてきたA川堤防の上段に至つて対岸の発射方向を望見すれば、切桑畑の先は一帯に野菜畑等の畑地となつているものであることがかなり明瞭に看取しうる状況にあること、被告人は、本件当時すでに一〇数年にわたる狩猟銃歴を有していたもので、ライフル銃に限つていえば、いわば未経験であつたものの、狩猟者講習会における講習等を通じて、本件ライフル銃が最大飛行距離一六〇〇メートル、有効殺傷距離五〇〇メートルの各性能を有するものとされていることおよび一般に発射弾丸の危険性は有効殺傷距離内はもとより、最大飛行距離にまでも及びうるものであることをそれぞれ十分に承知していたものであること、などの事情を考慮すれば、被告人の本件過失の程度はかなり大きいものといわなければならず、被害結果も、何ら過失の存しない純朴な農夫たる被害者をして、被告人のいわば射的遊戯の犠牲たらしめ、その農作業中に一瞬のらちにこれを死に至らしめたもので、もとより悲惨重大なものであるから、被告人の刑事責任はこれを軽視することが許されないものといわなければならない。なお、被告人は、被害者の遺族に対し、慰籍料として金五〇万円を支払つてこれとの間に示談を成立させたのであるが、本件犯行の動機および態様、被害者の境遇および家庭の状況、示談成立に至る経緯ならびに被告人の資産状態等に徴し、さらには示談成立以後における右遺族の被害感情等を勘案すると、被告人が、本件被害の弁償につきその誠意を尽したものとは直ちに認めがたいところである。しかし、他面、被告人には、ともかくも右のように被害者の遺族と示談を遂げて示談金を直ちに支払つたことのほか、その年令、経歴、家庭の状況等の点において被告人のため有利に斟酌すべき事情も存するので、これら諸般の情状を考量すると、被告人に対し刑の執行を猶予するのは相当とは認めがたいが、さりとて厳刑を科することも酷に失する
ものと認められるので、前記の刑期範囲内において被告人を懲役八月に処し、押収にかかるライフル銃一挺(当庁昭和四二年押第六七号の一の一)は、被告人が本件各犯行の用に供したもので、被告人の所有に属するものと認められるから、刑法第一九条第一項第二号、第二項本文によりこれを没収し、当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文によりこれを被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 有路不二男 判事 西村法 判事 桜井敏雄)

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