判例検索β > 昭和33年(ネ)第640号
家屋収去土地明渡請求事件
事件番号昭和33(ネ)640
事件名家屋収去土地明渡請求事件
裁判年月日昭和34年10月1日
法廷名福岡高等裁判所
判例集等巻・号・頁第12巻7号330頁
判示事項新民法附則第二五条第二項による相続人の応急措置法施行前の死亡とその相続の準拠法
裁判要旨新民法附則第二五条第二項による相続人の応急措置法施行前の死亡による相続については、旧民法を適用すべきである。
裁判日:西暦1959-10-01
情報公開日2017-10-18 03:35:51
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主 文
本件控訴を棄却する
控訴費用は控訴人等の平等負担とする。
事 実
控訴代理人は

原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする

という判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は次の事実を追加する外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
被控訴代理人の主張
(一) 訴外Aは大正六年三月六日死亡したのでその養子Bがその家督を相続し、Bは大正七年八月七日死亡したのでその子Cがその家督を相続した。Cは昭和六年二月五日死亡したが、法定又は指定の家督相続人がなかつたので家督相続人を選定しなければならなかつたがその選定もなされなかつたので、新民法附則第二五条第二項によつて新民法が適用されることになつたため、Cの祖母(母Bの養母)Dと祖父(母Bの実父)Eが共同でその遺産を相続した。次でDは昭和一二年八月二四日死亡したが、直系卑属、直系尊属及び配偶者がなかつたので、Dの亡兄Fの長男G、二女H並びに亡長女Iの長男J及び二女Kの四名がその遺産を代襲相続した。又Eは昭和一四年四月一五日死亡したので、その長男J及び二女Kがその遺産を共同相続した。そして前記Gも昭和二〇年七月五日死亡したので、その長男L、四男M及び五男Nがその遺産を共同相続した。そこで以上の各相続によつて、Aの所有であつた本件宅地は、Hが三六分の六、J及びKがそれぞれ三六分の一二、L、M及びNがそれぞれ三六分の二の相続分に応じてこれら六名の共有となつたので、被控訴人はMを除く他の五名から同人等の持分全部を買受けたものである。 (二) 控訴代理人主張の遺贈及び権利濫用の抗弁は否認する。 控訴代理人の主張
(一) 本件宅地上にある本件倉庫は控訴会社が建築したもので、同宅地上にある本件下屋、便所及び物干場は控訴人Oが建築したものであることは認める。控訴会社がPから本件宅地を賃借したのは昭和一八年頃のことであるが、昭和二三年頃同地上にバラツク建の建物を建築し、昭和二八年頃これを現在の倉庫に改築した。そしてその建築及び改築については、当時の本件宅地の所有者又は管理人であるPの許可を得ている。
(二) 控訴人等の従前主張した取得時効の起算点を昭和一三年八月頃と変更する。
(三) 本件宅地がもとAの所有であつたこと及びBが家督相続によつて該宅地の所有権を取得したことは認めるが、被控訴代理人主張のその他の相続関係はすべて否認する。Cが昭和六年二月五日死亡した当時、同人には旧民法第九八二条によつて家督相続人に選定さるべき家族がなく、又Dは新民法施行当時はすでに死亡していたのであるから、Dが新民法附則第二五条第二項の適用を受けて新民法によつて相続することはあり得ない。
(四) 仮に相続関係が被控訴代理人主張のとおりであるとしても、本件宅地はAがこれをQに遺贈し、Qの死亡によつてPが相続したものである。 (五) 仮に以上の抗弁が認められないとしても、控訴人等は本件宅地の所有者又は管理人であるPから昭和一八年頃該宅地を賃借し、Pの許可を得て本件建物を建築し、同宅地に営業及び生活の本拠を構えているものであつて、これを他に移転するあてはない。一方被控訴人は術策をつくして本件宅地の所有権を取得したと称し、控訴会社が建物の登記をしていないのを奇貨として何ら自らの必要がないのに、控訴人等に対し建物等の収去及び宅地の明渡を請求しているのであつて、右請求は権利の濫用として法律上の保護に値しないものである。
証拠として、被控訴代理人は甲第一ないし第一四号証を提出し、原審証人R、当審証人Sの各証言並びに原審検証の結果を援用し、乙第一、二号証、第八ないし第一一号証及び第一二号証の一、二の各成立を認め、その他の乙号各証は不知と述べ、控訴代理人は乙第一ないし第一一号証、第一二号証の一、二を提出し、原審及び当審証人P、原審証人T、U、当審証人V、Nの各証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。
理 由
本件宅地はAの所有であつたがBが家督相続によりその所有権を取得したことは当事者間に争がない。そして成立に争のない甲第九ないし第一四号証、乙第一、二
号証並びに原審及び当審証人Pの証言によれば、右A及びBを中心とする身分関係及び各関係者の死亡日時等は別紙身分関係系図(一)ないし(三)に示すとおりであつて、かつそれらのものには指定家督相続人がなかつたことが認められる(同系図(二)のW及びQの死亡日時、X及びYの生死並びにXに直系卑属があるか否かは本件証拠上詳でない。しかし前記乙第一号証の戸主Zの除籍謄本には、大正四年六月一四日協議離婚によつて実家に復籍した長女Xの父母欄に母亡Wと登載されているので、Wは大正四年六月一四日以前に死亡したものと認められる。又当審証人Pの証言によれば、同人の父Qは終戦後、すなわち昭和二〇年八月一五日以後に死亡したことがうかがわれる)。そこで右認定の身分関係に基き相続関係を検討するにあたり、新民法(昭和二二年法律第二二二号による改正後の民法を指す。なお以下において、右改正前の民法を旧民法といい、昭和二二年法律第七四号を応急措置法という)附則第二五条第二項の解釈に関する問題点のうち、本件に関係のある点についてまづ判断を加える必要がある。
その一は、新民法附則第二五条第二項により新民法によつて相続人となるものは、新民法施行当時なお生存するものでなければならないかという問題であつて、控訴代理人の主張はこれを肯定する見解にたつものであるが、新民法施行当時生存するものであることを要しないと解するのが正当である。なぜならば、家督相続人を選定する場合は被選定者は選定当時なお生存するものでなければならぬことは当然であるが、新民法附則第二五条第二項は家督相続人を選定すべき場合に新民法施行前にその選定がなされなかつたときは、その選定をしないで、その相続に関してはあだかも相続開始当時新民法が施行されていたと同様に取扱い、新民法によつて相続人を定めようとする趣旨であるから、応急措量法施行前に開始した相続についてその相続開始当時生存していたものは、新民法施行前に死亡した場合でも新民法によつて相続人となり得るのであつて、そのものの死亡によつてさらに相続が開始することになるわけである。
<要旨>その二は、新民法附則第二五条第二項により新民法によつて相続人となつたものが、応急措置法施行前に死亡していた場合には、その相続については新旧いづれの民法を適用すべきかの問題であつて、被控訴代理人の主張は新民法説に依拠するものであり、これと同様の学説もないではない。しかし新民法附則第二五条第一項により旧民法を適用すべきものと解するのが相当である。新民法説は同条第二項が応急措置法施行前の相続に新民法を適用する趣旨を拡張して、その後の応急措置法施行前の相続にも、旧民法によれば家督相続人を選定すべき場合であると否とを問わず新民法を適用せんとするものであるが、それは同条の明文に反するのみならず、次の設例によつても知り得るように結果においても妥当ではない。例えば、丙は戸主甲の弟で戸主乙の養子であつて、丙に長男丁及び次男戌がある場合に、甲乙ともに応急措置法施行前に死亡し、次で丙も同法施行前に死亡したとする。甲には法定又は指定の家督相続人がなく、家督相続人の選定もなされなかつたとすれば、丙は新民法附則第二五条第二項により新民法によつて甲の遺産を相続したことになり、そして新民法説によると丙の死亡によりその長男丁及び二男戌が新民法によつて丙の遺産を共同相続したことになる。一方丙は養父乙の死亡によつてその家督を相続し、さらに丙の死亡によつてその長男丁がその家督を相続することはいうまでもない。そうすると、等しく丙の財産でありながら、丙が甲から相続した財産は丁と戌が共同で相続するに反して、丙が乙から相続した財産は丁のみ相続することになるが、このような結果は包括承継たる相続の性質にそわないものといわなければならない。
そこで以上の見解のもとに別紙身分関係に基き本件における相続関係を検討すると次のとおりになる。すなわち、Aは大正六年三月六日死亡したのでその養女Bがその家督を相続し、Bは大正七年八月七日死亡したのでその子Cがその家督を相続した。Cは昭和六年二月五日死亡したが、旧民法による法定又は指定の家督相続人がなく、かつ同法第九八二条によつて家督相続人に選定さるべきものもなかつたので、その家にある祖母(母Bの養母)Dが同法第九八四条によつてその家督を相続した。
Dはその後昭和一二年八月二四日死亡したが、旧民法による法定又は指定の家督相続人及び同法第九八二条によつて家督相続人に選定さるべきものがなく(Dの兄F及び姉WはDの死亡前に死亡し、右両名の直系卑属はいづれも他家にあるため同条の選定家督相続人となれない)、又同法第九八四条の法定相続人たるべき直系尊属もなかつたので、同法第九八五条によつて家督相続人を選定すべき場合であつたが新民法施行前にその選定がなされなかつたため、新民法附則第二五条第二項、新
民法第八八九条、第八八八条によつてDの亡兄Fの二女H、同長男G、同長女亡Iの二女K及び長男Jの四名と、Dの亡姉Wの長男Y及び二男Qの二名、合計六名がその遺産を代襲相続した。そして右Gは昭和二〇年七月五日死亡したのでその長男Lが旧民法によつてその家督を相続し、又Qは昭和二〇年八月一五日以後に死亡したのでその只一の子である長男Pが旧民法又は新民法によつてその家督又は遺産を相続したものである(以上の相続関係については別紙相続関係系図参照)。 そうすると、Dの代襲相続人のうち、亡兄Fの二女H及び長男Gの相続分はそれぞれ三六分の六で、Fの長女Iの二女K及び長男Jの相続分はそれぞれ三六分の三となり(以上の相続分の合計は三六分の一八)、右相続によつてGの相続した財産は同人の長男Lがさらに本続したことになる(Dのその他の代襲相続人のうち、亡姉Wの長男Yの生死は証拠上明らかでないが、同人には子があるので、もしYがDの死亡前に死亡したとすればYの子が代襲相続したことになり、YがDの死亡後に死亡し又は現に生存しているとすれば、Yが代襲相続したことになる。なおWの長女Xの生死及び同人に直系卑属があるか否かも証拠上明らかでない。しかしX又はその直系卑属がDの代襲相続人であると否とにかかわらず、Xの亡姉Wの直系卑属全部の相続分は合計三六分の一八であるから、Dの亡兄Fの直系卑属の前記各相続分に影響を及ぼさない)。
従つて、BがAから相続したことに争のない本件宅地はその後の前記各相続によつて、H及びLの持分が各三六分の六、K及びJの持分が各三六分の三、Y(又は同人の子)及びQ等の持分が合計して三六分の一八の各割合で、これらのものの共有となつたものといわなければならない。
次に成立に争のない甲第二号証、同第七及び第八号証によれば、被控訴人は昭和三二年七月五日本件宅地に対するK及びJの各三六分の一二の持分とNの三六分の二の持分を同人等から買受けて同日その登記をし、又同月一〇日右宅地に対するHの三六分の六の持分とLの三二六分の二の持分を同人等から買受けて同日その登記をしたことが認められる。しかしK及びJの有する持分は前示のとおりそれぞれ三六分の三であるから、同人等との右売買はこの限度で持分移転の効力を生ずるに過ぎない。Nは前示認定の相続関係によつて明らかなように、Gの相続人ではなく、従つて本件宅地に対し相続により持分を取得したものとは認められないから、同人との売買によつて持分移転の効力を生じないことは明らかである。なおHの持分の売買は同人の有する持分全部の売買であるが、Lの持分の売買は同人の有する持分の一部の売買である。従つてこれらの売買によつて被控訴人は本件宅地に対する三六分の一四の持分を取得したことになる。被控訴代理人主張のその余の持分の取得は認めることができない。しかし被控訴人は右宅地の共有者であるから、該宅地上に無断で建物等を所有し宅地を不法に占有するものに対し、単独でその妨害の排除を求め得ることはいうまでもない。
ところで、控訴会社は本件宅地上に本件倉庫を建設所有し又控訴人Oは右宅地上に本件下屋、便所及び物干場を建設所有していることは控訴人等の自認するところであつて、原審検証の結果と本件口頭弁論の全趣旨によれば、控訴人等は右建物の敷地又は物干場として右宅地のうち被控訴代理人主張の地域をそれぞれ占有していることが認められる。
そこで控訴人等が右宅地を占有する正当の権原を有するや否やについて検討する。控訴代理人は、控訴人等は昭和一八年頃本件宅地の所有者又は管理人たるPから該宅地を賃借したものであると主張し、さらにPが右宅地を所有するにいたつた原因として、(一)Pの父QはAの事実上の養子であつて、Q及びPにおいてA及びその妻Dの死亡後の財産その他の世話をなし、公租公課も納め葬式その他の供養を行つてきたので、本件宅地はPの所有である。(二)又Pは昭和一八年八月頃から所有の意思を以て平穏公然に本件宅地を占有し、占有の始め善意で過失がなかつたから一〇年の取得時効によつて本件宅地の所有権を取得したものである。(三)仮にそうでなくても、本件宅地はQがAから遺贈を受け、さらにQからPが相続したものであると主張するのである。しかし(一)の主張はそれ自体所有権取得の原因となり得ないことは明らかであり、(二)の主張については、仮に取得時効が完成したとしても、その時効による所有権の取得について登記を経由したことの主張及び立証がないので、該所有権取得を以て第三者たる被控訴人に対抗することができない。又(三)の遺贈の事実は本件証拠によつてはこれを認めることができないのみならず、QがAから本件宅地の遺贈を受けたという主張は、Bが該宅地をAから相続した旨の控訴人等の前示自白に反するものである。なおPが本件宅地を管理する正当の権原を有することは控訴人の主張しないところであつて、その事実を認
めるに足る証拠もない。もつともすでに説明したところによつて明らかなように、QはDの共同相続人の一員であつてPはQの相続人であるから、Pも本件宅地の共有者であるが、同人の持分は過半数に満たないことも明らかであるから、たとえPが単独で右宅地を控訴人等に賃貸したとしても、その賃貸借は民法第二五二条本文の規定に違反するものであつて、控訴人等の賃借権は被控訴人その他の共有者に対抗することができない。従つて前記抗弁は採用し得ない。なお控訴代理人主張の権利濫用その他の抗弁は、特に説明を加えるまでもなくその主張自体(もつとも被控訴人に本件土地の明渡等を請求する何等の必要がないという主張は、全く証拠を欠ぐものである)理由のないことは明らかである。
そうすると、控訴会社は本件倉庫のうち本件宅地上にまたがる部分を収去し、控訴人Oは本件下屋、便所及び物干場を収去して、それぞれの占有部分の本件宅地を被控訴人に明渡すべき義務があることは明らかであつて、被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものである。
よつて右請求を認容した原判決は結局相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第八九条、第九三条第一項前段を適用し主文のとおり判決する。
(裁判長判事 竹下利之右衛門 判事 小西信三 判事 岩永金次郎)身分関係系図
<記載内容は末尾1添付>

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