判例検索β > 昭和27年(ネ)第142号
訴願裁決取消請求事件
事件番号昭和27(ネ)142
事件名訴願裁決取消請求事件
裁判年月日昭和29年6月29日
法廷名広島高等裁判所
判例集等巻・号・頁第7巻6号503頁
判示事項一、 訴願法第八条第三項にいわゆる宥恕すべき事由ある場合
二、 耕作の用に供されても農地に該当しない事例
裁判要旨一、 第一次買収計画樹立の際は土地所有者にその通知をして異議申立の機会を与えて買収を取止めながら同じ土地につき第二次買収計画を立てた際にはその通知をせず土地所有者においてこれを知らず異議申立の期間を経過した場合は訴願法第八条第三項にいわゆる宥恕すべき事由ある場合に該当する。
二、 元来地目も実状も宅地であつたものを、その所有者において家屋建築の準備中に他人が買収計画当時所有者の意思に反して既存のコンクリートの土台を堀壊して耕作の用に供しているような土地は自作農創設特別措置法第二条にいわゆる農地に該当しない。
裁判日:西暦1954-06-29
情報公開日2017-10-18 03:45:49
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主 文
原判決を取消す。
光市大字a字bc番地宅地二百三十二坪について定められた買収計画を容認して控訴人のなした訴願を棄却した被控訴人の昭和二十六年三月二日付の裁決を取消す。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
事 実
控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴指定代理人は本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求めた。
当事者双方の主張は控訴代理人において
一、 被控訴人の本案前の抗弁について
控訴人は昭和二十六年三月十五日被控訴委員会の訴願裁決書の送達を受け、同月二十日山口地方裁判所に訴を提起し、その請求の趣旨には農地買収計画はこれを取消すとの旨の記載があるがその内容は被控訴委員会のなした訴願裁決の取消を求める趣旨であることが被告を被控訴委員会としたことや、請求の原因によつて明かであり、只その表現に誤謬があつたからこれを訂正したもので訴の変更をなしたものではない。従つて自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第四十七条の二の提訴期間を徒過してはいない。
二、 異議、訴願が法定期間を徒過しているとの抗弁について
光市第二区農地委員会より控訴人に対し本件土地の買収計画の通知がなく昭和二十五年十月五日山口県知事から買収令書が送達されて始めて控訴人は買収計画のあつたことを知り翌十月六日直ちに光市第二区農地委員会に異議申立をなし、右申立は受理されたが同月十日理由なしとして却下された。同月二十五日被控訴委員会に訴願したところ昭和二十六年三月二日被控訴委員会は右訴願棄却の裁決をなし該裁決書は同月十五日控訴人に送達された。自創法には買収計画を立てた際これを所有者に通知することを要件としていないが、光市第二区農地委員会は本件土地につき昭和二十四年十一月一度買収計画を立てたときには所有者である控訴人に通知してきたので控訴人は早速該土地の監視人であり納税管理人であるAをして異議申立のため同委員会に出頭せしめたところ同人は同委員会と光市役所で本件土地は宅地であるから買収の対象とならないと云うことを聞かされその旨控訴人に通知してきた。その後右買収計画は取止めとなり、控訴人は右は宅地であるから買収にならないものと信じ安心していた。然るに同委員会は昭和二十五年六月第二次買収計画を立てたに拘らず控訴人に通知しなかつた為これを知るに由なく前述のように異議申立をしたときには法定期間を経過していたのであるが右の如き事情は訴願浅第八条第二項に所謂宥恕すべき事由に該当するから同委員会も異議申立を受理し実体的審議をしてこれを排斥し、これに対し控訴人は法定期間内に被控訴委員会に訴願し、被控訴委員会も亦実体的審査をなした裁決をなし、これに対し控訴人は本訴を提起したのであるから本訴はもとより適法である。又光市第二区農地委員会は第二次買収計画樹立に際しその公告、書類の縦覧には自創法第六条第五項により土地台帳上の地目を記載すべきであるのに該地目は宅地となつているのを殊更畑となして事実に反する記載をなした。かくの如き公告や縦覧期間の設定は無効であるから期間の徒過も実際上あり得ないし、かかる違法手続による買収計画も違法である。 三、 控訴人は本件土地についての納税管理を訴外Aに依頼したが偶々本件土地が海軍から返還された後控訴人不知の間に何者かが無断でその一部に耕作していることが分つたので伝手に同人にその監視方も依頼したが、土地の管理を委託してはいない。然るに右Aは控訴人に無断で訴外Bに該土地の耕作をなさしめたが右Aの権限外の行為により右Bも無権限で耕作したのであるから宅地が変じて農地となつたわけではない。仮に控訴人が右Aに該土地の使用収益を許し同人が右Bに転貸したとしても控訴人に無断でしたものであるから効力はない。又右AがBに耕作さしたとしても控訴人が家屋を建築する迄一時的使用を許容したものであり、該土地は光市都市計画区域に入り隣接地の状況、道路の施設等附近の情勢は都市における宅地の外形を呈して居り唯一時的休閑時に耕作させたものであるから依然として宅地であり農地ではない。然るにこれを農地と認定した買収計画を認容した訴願裁決は違法である。仮に農地であるとしても右Bは農耕により主食を生産している者ではなく主食の消費者で供出は全然していない。かかる者が片手間に麦を耕作していたとしても小作を業とする者には当らない。従て本件土地は小作地でないからこれを不在地主の小作地と認定した訴願裁決は違法である。
と述べ、被控訴指定代理人において

一、 本案前の抗弁として
本訴請求は自創法第四十七条の二第一項の規定する出訴期間を遵守しない違法がある。即ち控訴人が訴願裁決書を受領し裁決処分があつたことを知つた日は昭和二十六年三月十五日であり、控訴人が原審において請求の趣旨訂正の申立書を提出したのは同年十一月二日であり同日訴の変更をなしたものであるから民事訴訟法第二百三十五条の趣旨に従い行政処分の取消を求める訴は右同日提起されたものとみなければならない。結局右は出訴期間を著しく徒過して不適法であるから本訴請求は却下さるべきである。
二、 本件訴願は法定期間を徒過した違法がある。元来訴願裁決は文書を以てなし理由を附すればよいので訴願を排斥するに足る一つの理由を附すれば十分である。従て本件裁決が実体的に審査して理由なしとしたからと云つて訴願申立期間の徒過に対する責問権を拡棄したなどと云う問題は起らない。尚本件土地は当時事実上農地となつていたから公告等に畑地となつていても本件買収計画樹立に対し何等影響がない。
と述べた外は何れも原判決の事実摘示と同一なのでここにこれを引用する。 立証として控訴代理人において甲第六号証の一、二、三、第七号証の一、二、第八乃至十号証を提出し、乙第一号証の二、当審証人A、C、Bの各証言、控訴本人訊問の結果並に当審検証の結果を援用し、被控訴指定代理人において当審証人D、Bの証言を援用し、甲第六号証の一、二、三、第八乃至十号証の成立は認めるが甲第七号証の一、二の成立は不知と述べた外は当事者双方の証拠の提出、認否、援用は何れも原判決の摘示と同一なのでここにこれを引用する。
理 由
一、 先づ被控訴人主張の本訴が出訴期間を遵守しない違法があると云う抗弁について考えてみると、被控訴委員会の本件訴願の裁決書が控訴人に送達されたのは昭和二十六年三月十五日であることは当事者間に争なく、本訴が原審に提起されたのは同年三月三十日であり同年十一月二日の準備手続期日に請求の趣旨訂正が申立てられたことは本件記録により明かである。然るに右は何れも本件訴願の裁決に不服であるからその取消を求める趣旨であるが表現方法を適切ならしめる為に請求の趣旨訂正をしたものと認められるので訴の変更があつたわけでなく結局本訴は自創法第四十七条の二所定の期間内に提起されているから右抗弁は採用できない。 二、 次に被控訴人は本件異議の申立、訴願は何れも法定期間を徒過している違法があると抗弁し、控訴人は右期間の徒過は宥恕すべき事由に該当しているから被控訴委員会等が訴願の実体につき判断していると主張しているので考えてみると、控訴人主張の土地は元来控訴人の所有であつたが光市第二区農地委員会が昭和二十五年七月二日右土地につき不在地主所有の小作地として買収計画を樹立し被控訴委員会が右計画を承認し、右承認に基いて山口県知事が買収令書を発行し、控訴人が昭和二十六年十月五日右令書を受領したこと、控訴人はそれまでに該買収計画に対し異議、訴願の申立をしたことなく右令書受領後始めて控訴人主張のように異議、訴願の申立をしたことは当事者間に争がない。従て右異議、訴願が適法の期間を徒過してなされたことになるが、光市第二区農地委員会の異議申立却下も、被控訴委員会の訴願棄却の裁決も何れも期間徒過を問題とせず該申<要旨第一>立の実体につき判断してこれを排斥していることも当事者間に争がない。而して原審並当審証人A、当審証人Dの各証言と当審控訴本人訊問の結果を綜合すると光市第二区農地委員会は昭和二十四年十一月他の土地と共に本件土地につき第一次の買収計画を立てた際に右各土地所有者に通知をなしたので控訴人もこれを知り本件土地の納税管理と監視を委託していたAを同委員会に出頭させて異議の申立をさせ結局その買収は取止めとなつたが、その後昭和二十五年七月二日同じ本件土地につき第二次買収計画を立てその際には同委員会は公告、書類の縦覧等の手続はしたが前回とは異り所有者である控訴人には何等通知せずそのため控訴人はもとより右Aも右買収計画を知らなかつた事実が認められる。従て以上のような事情の下において前示のように買収令書を受領して始めて買収計画を知り直ちに異議の申立(異議の申立も訴願の一種と認める)をなしたのは正に訴願法第八条第三項に所謂宥恕すべき事由ある場合と認められるから本件異議の申立は適法である。右農地委員会や被控訴委員会が申立の実体につき判断したことは右と同一見解に出たものと解されるからもとよりその措置は妥当である。結局本訴は適法な異議訴願を経由したもので此の点に関する被控訴人の抗弁も亦採用できない。
三、 次に本件土地が前示のように不在地主の所有する小作地として買収計画が樹立されたのであるが、果して控訴人主張のように該土地が宅地であるか否かの点
につき考えてみると、成立につき争のない甲第八、九、十号証に原審証人E、原審並当審証人A、B、当審証人Cの各証言、当審控訴本人訊問並当審検証の各結果を綜合すれば元来本件土地二百三十二坪は控訴人が家屋建築のつもりで昭和十四年九月二十日競落により取得したものであるが、今次戦争中海軍からこれを借り上げられ、海軍はここに工廠工員の寄宿舎を建てたが終戦後該建物を解体しコンクリートの土台はそのままとして昭和二十二年一月頃これを控訴人に返還するに至つた。そこで控訴人は早速右土地の地目を畑から宅地に変更することとして土地台帳、登記簿上その変更手続をすませたが戦災を受けた上資金難により早急に建築することができず僅かに軍から払下を受けた元倉庫の建物の材料と新しい建材三馬車分を獲得し更に屋根瓦を用意して自宅の屋敷内に保存したが建築に着手するに至らなかつた。当時光市役所から右土地の納税につき市内居住者で連絡のできるような管理人を置いてくれと頼まれ、昭和二十四年六月十四日遠縁に当るAにこれを依頼すると共に当時食糧不足から空地であれば他人の土地にも平気で農作物を作るような時代であり現に該土地の一部に隣地の所有者が侵入して勝手に大豆を作つていたので該土地の監視をも依頼した。その際右土地の大部分は寄宿舎の土台であるコンクリートが敷きつめられてあつてその上に砂がかぶつて居り元来耕作不適であるがそれでも一部に大豆を作つていた位なので家屋を建築する迄の間境界確保の為にも野菜でも作れるなら作つてもよいとは言つてあつた。然るに右Aは同年九月七日訴外Bに対し右土地に地主が家屋を建築する迄の間原状のままで耕作することを許容した。ところが右Bは右約に反し右コンクリートの土台の約三分の二を掘り返して麦、野菜類を作るに至つたが他のコンクリートの残部には砂をかぶせて野菜を作つている程度であつて全体が砂地ではあるし作柄は不良であつた。而して本件土地は光市都市計画区域内に入つて居り、その南側に接したところと、北側約二十間離れたところに東南方から北西方へ海岸線に平行して約六尺幅の道路が整然と通し、南側道路を隔ててやや西寄りに二階建市営アパート二棟が新築されて居り、その東寄りは砂地と松林になつている。東西北の直ぐ隣地は耕地となつているが少し離れては二棟の新築家屋があり、北側道路向側には住宅が並んでいるので附近の耕地と一体をなして住宅地として適当であり且つ宅地化の傾向が顕著であることが認められる。右認定に反する部分の前顕B、控訴本人の各供述部分は措信しないし他に右認定を左右するに足る証拠はない。
<要旨第二>以上認定のように本件土地は元来地目も実状も宅地であり且つその所有者において家屋の建築を準備中にその宅地の監視人が所有者に無断で他人に一時的にその使用を許容し同人は買収計画当時所有者の意思に反して既存のコンクリートの土台を掘り壊して耕作の用に供していたものであるからこのような土地は自創法第二条に所謂農地には該当しないものと解するのが相当である。 然らば右土地が農地であり小作地でありとした買収計画は違法であり、従てこれに対する控訴人の訴願を棄却して右買収計画を認容した被控訴委員会の本件裁決も亦違法であること明白である。
よつて爾余の争点について判断する迄もなくこれが取消を求める控訴人の本訴請求は正当であるからこれを認容すべきである。右と異る見解を以て控訴人の本訴請求を排斥した原判決は取消を免れないから民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して主文のように判決した。
(裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)
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