判例検索β > 昭和37年(う)第694号
児童福祉法違反被告事件
事件番号昭和37(う)694
事件名児童福祉法違反被告事件
裁判年月日昭和37年10月20日
法廷名大阪高等裁判所
判例集等巻・号・頁第15巻8号609頁
判示事項家庭裁判所に対し児童福祉法違反の起訴があつた後地方裁判所に対し、この罪と一所為数法の関係にある売春防止法違反の罪の起訴のあつた場合の措置
裁判要旨児童福祉法違反の罪が家庭裁判所に起訴された後、これと刑法第五四条第一項前段の関係にある売春防止法違反の罪が地方裁判所に起訴された場合において、後者の罪の刑をもつて処断すべきときは、起訴の先後を問わず家庭裁判所の公訴を二重起訴として棄却すべきものである。
裁判日:西暦1962-10-20
情報公開日2017-10-13 01:55:24
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主 文
原判決を破棄する
本件公訴を棄却する。
理 由
本件控訴の趣意は弁護人中西清一、同村岡素行及び被告人の提出に係る各控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。
職権をもつて調査するに、当審において取り調べた起訴状二通、判決書、控訴申立書によると被告人は昭和三六年六月七日及び同月二二日神戸地方裁判所尼崎支部(以下地裁支部と略称する)にいずれも売春防止法違反で起訴され、昭和三七年七月九日右の各訴因につき有罪の判決を受け控訴の申立をしていることを認めることができる。ところで昭和三六年六月七日付の起訴状の第一訴因は、別紙一覧表(一)記載のとおりであつて要約すれば被告人は昭和三四年九月一二日から昭和三六年五月一五日頃までの間A外七名を新B階下三畳並びに八畳の間に住み込ませた上右新Bの各座敷或いは外部の旅館において同女等に不特定の男客を相手方として売春をさせ、その対価中約五割を取得し、以て人を自己の占有する場所に居住させてこれを売春させることを業としたというのであり、同年六月二二日付起訴状の第一訴因は、別紙一覧表(一)記載のとおりであつて要約すれば被告人は昭和三四年四月五日頃から昭和三六年五月一五日頃までの間C外一三名を本店B外二ケ所(別館B、支店D)の階下又は階上に住み込ませた上同店の座敷或いは外部の旅館等において、同女等に不特定の男客を相手方として売春をさせ、その対償中約五割を取得し以て人を自己の占有する場所に居住させこれに売春させることを業としたというのである。しかるに、本件の児童福祉法違反については、これより先である昭和三六年六月六日神戸家庭裁判所尼崎支部(以下家裁支部と略称する)に公訴が提起され、その訴因は、被告人は料理店B支店Dの女給として雇い入れたE(昭和一九年一一月三日生)をして昭和三六年一月一〇日頃から同年三月一七日頃までの問B支店Dその他で一日平均二人位の不特定の男客を相手方として売春をさせ以て児童に淫行をさせたというのであり、記録によれば、右の期間被告人はEを支店Dに住み込ませていたことを認めることができる。そうしてみると、両者の犯罪事実は、婦女の年令を異にするだけであつて、その実質は、すべて被告人が婦女をして対価を得て不特定の男性と性交せしめる行為をなしたことを内容とし、その犯行の期間は重複しており、犯行の場所も同一であるから、児童福祉法第六〇条第一項の罪と売春防止法第一二条の罪の法益の差異から見て被告人の行為は一個の行為にして数個の罪名に触れるものと解するを相当とし(昭和三七年四月二六日第一小法廷、判決)両者は同一事件であるといわなければならない。
<要旨>ところで児童福祉法違反の罪は家庭裁判所の事物管轄に属するものとされているか(裁判所法第三一条の三)、少年法第三七条第二項によると児童福祉法違反の罪とその他の罪(本件においては売春防止法違反の罪)が刑法第五四条第一項に規定する関係にある事件については、児童福祉法違反の罪の刑をもつて処断すべきときに限り、売春防止法違反の罪をも合わせて、家庭裁判所において審判することができ、かつ審判しなければならないこととされており、その反面解釈として売春防止法違反の罪の刑をもつて処断すべきときは、両罪は合わせて地方裁判所において審判しなければならず、児童福祉法違反の罪といえども家庭裁判所において審判することは許されないのである。これを本件についてみるに、両罪の主刑はいずれも一〇年以下の懲役であつて同一であるから、何れの刑をもつて処断すべきかは、刑法第一〇条によりさらに犯情を比較する必要を生ずるけれども、それは事物管轄を定めるために行うものであるから、起訴状に記載された犯罪事実を比較することによつてこれを行うべきものと解する。よつて前示各起訴状に記載された犯罪事実を比較検討すると売春防止法違反の罪の犯情の重いことは疑をさしはさむ余地がないから、本件の両罪は地裁支部において合わせて審判すべきものである。従つて、家裁支部は本件を審判する権限(事物管轄)を有しないこと明白である。 しかるに一方、本件においては、同一事件が、地裁支部と家裁支部に二重に係属したのであるから、事物管轄の不存在の外にさらに別個の訴訟条件を欠いているのではないかという疑がある。よつてその点について考察を進めると、そもそも同一事件が、同一又は別個の裁判所に二重に係属したときは、訴訟経済や二重判決の防止の目的から、何れか一方の訴訟係属を消滅させる必要を生ずる。刑事訴訟法第一〇条、第一一条、第三三八条第三号、第三三九条第一項第五号等は、このような場合に裁判所のとるべき措置について規定を設けている。ところで前記の目的を達成するためには、ともかく一つの訴訟係属を残して他の訴訟係属を消滅させれば足り
るのであるが、刑事訴訟法は同一事件が事物管轄を異にする数個の裁判所に係属する場合を除き、同一の裁判所に二重に公訴が提起されたとき、事物管轄を同じくする数個の裁判所に二重に係属するときは後の公訴を棄却すべきものと規定している。その理由は既に適法な公訴の提起があるのに同一内容の公訴を繰り返したという点で後の公訴の方が瑕疵を帯びているから瑕疵のある方の訴訟係属を消滅させようという配慮に基くものと思われる。そうしてみると、先に提起された公訴が他の形式的訴訟条件を欠ぎ不適法であることが明白である場合にも常に後の公訴を棄却すべきだと解することには疑がある。何となれば、先に述べたように後に提起された同一事件の公訴が不適法とされるのは、適法な公訴の提起があるのに公訴を繰り返すから後の公訴の提起が不適法とされるのである。そうすると先に提起された公訴が不適法であれば、後に提起された公訴をただ後になされたというだけで不適法とする理由はない、同一事件につき二重に公訴を提起した場合に瑕疵のある方の訴訟係属を消滅させようという前記訴訟法の精神に照らすときは、瑕疵のある先に提起された公訴をこそ棄却しなければならない。また若し後に提起された公訴を二重起訴であることを理由に棄却すれば、先に提起された公訴も不適法として訴訟係属を消滅せしめられることとなつて、かえつて不合理な結果を生ずることにも考慮を払わなければならない。このように考えると、先に提起された公訴の不適法であることが明白である場合には、二重起訴の瑕疵あるものとして、これを棄却することができるものと解する。本件についてこれをみるに、検察官は売春防止法違反と児童福祉法違反について各別に公訴を提起することによつて両罪とも審判を求める意思のあることを明らかにしているが家裁支部の訴訟係属は地裁支部の訴訟係属より先である。しかしながら家裁支部は本件について事物管轄を持たないこと前説示のとおりであるから、同支部の訴訟係属は不適法である。地裁支部の訴訟係属は事物管轄のあるところになされた適法なものであるから、前説示の理由により起訴の前後を問うことなく家裁支部の訴訟係属は二重起訴として不適法であるといわなければならない。
以上の考察により本件は二個の訴訟条件が競合的に欠けている場合であることを知ることができる。この場合いかなる裁判によつて手続を終結させるのが適切てあろうか。先ず、瑕疵の程度の高いものを先にすべきであるという見解に従えば、公訴棄却の裁判をすることとなるであろう。かかる場合実務の便宜に従つていずれでもよいという見解に従えばどうであろうか。
かりに当審において原審が管轄違を言い渡さなかつたことを理由として原判決を破棄すれば刑事訴訟法第三九九条により本件児童福祉法違反被告事件を管轄第一審裁判所に移送しなければならない。移送を受けた裁判所では、売春防止法違反被告事件の方は、既に審理を終つて判決を宣告しているのであるから、これと併合審理をすることはできず、同被告事件についての判決が確定しない以上移送を受けた本件被告事件の公訴を棄却してその訴訟係属を消滅させるより外ないこととなるであろう。そうであるとすれば、訴訟経済の上からいつても当審において公訴棄却の裁判をするのが一層適切であるといわなければならない。
以上の考察によつて本件児童福祉法違反被告事件については公訴棄却の裁判をすべきものであることが明らかとなつた。しかるに原審かその措置をとることなく、実体審理に入つて有罪の判決をしたのは違法であつて原判決は到底破棄を免れない。
よつて、被告人、弁護人等の主張に対する判断を待つまでもなく、刑事訴訟法第三九七条、第三七八条第二号に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従つて直ちに判決することとする。
さて本件はその公訴を棄却すべきものであること前説示のとおりである。ところで公訴棄却の裁判は決定ですべきか判決ですべきかにつき疑があるので検討を加えると、同法第三三九条が決定で公訴を棄却する場合を認めているのは、概ね訴訟条件不存在の瑕疵が口頭弁論を必要としない程度に明白であることを主な理由としているものと思われる。しかるに本件は同法第一一条、第三三九条第五号に該当することが明らかな場合であるとは認め難く、従つてその瑕疵は極めて明白であるとはいえないのみならず、公訴の提起のあつた事件について更に同一裁判所に公訴が提起されたときは判決をもつて公訴を棄却すべきものとしている点を考慮するときは、本件においては判決をもつて公訴を棄却するのが相当であるといわなければならない。
よつて主文のとおり判決をもつて公訴棄却の言渡をすることとする。 (裁判長裁判官 児島謙二 裁判官 畠山成伸 裁判官 松浦秀寿)
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