事件番号 | 昭和27(う)1896 |
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事件名 | 医師法違反被告事件 |
裁判年月日 | 昭和27年9月5日 |
法廷名 | 東京高等裁判所 |
結果 | 棄却 |
判例集等巻・号・頁 | 第5巻10号1643頁 |
判示事項 | 公職選挙法施行令第五二条第一項第三号の医師の証明書と医師法第二〇条にいわゆる診断書 |
裁判要旨 | 公職選挙法施行令第五二条第一項第三号の医師の証明書は、その名称ならびに証明する目的の如何にかかわらず、その内容が医師の診察の結果に関する判断をあらわして人の健康上の状態を証明する部分を含むものてあるかぎり、これを医師法第二〇条にいわゆる診断書に該当するものと認めるのが相当である。 |
裁判日:西暦 | 1952-09-05 |
情報公開日 | 2017-10-13 01:59:50 |
本件控訴はこれを棄却する。 理 由 本件控訴の趣意は、弁護人一瀬房之助作成名義の別紙控訴趣意書と題する書面記載の通りであるから、これを本判決書末尾に添附しその摘録に代え、これに対し次の通り判断する。 論旨第二点について。 医師法第二十条にいわゆる診断書とは、医師が診断の結果に関する判断を表示して人の健康上の状態を証明するため作成する文書を指称するものと解すべく、公職選挙法施行令第五十二条第一項第三号の医師の証明書が、所論のように公職選挙法第四十九条第三号すなわち選挙人が疾病、負傷、姙娠、不具若しくは産褥にあるため、歩行が著しく困難であるべきことを証明する書面であるとしても、その名称並に証明する目的の如何に<要旨>かかわらず、その内容が医師の診察の結果に関する判断を表示して人の健康上の状態を証明する部分を含むものであるにおいては、これを医師の診断書と認めるに妨げなく、従つて医師が自ら診断しないで、右のような内容を含む公職選挙法施行令第五十二条第三号の証明書を交付する所為は、医師法第二十条違反罪に該当するものといわねばならない。この理は所論のように医師のみならず、歯科医師若しくは助産婦も亦公職選挙法施行令第五十二条第一項第三号の証明書を交付することができことに依り、何等異同を来すべきものではない。しからば原判決が被告人の自ら診察しないで原判決添附別表記載の右証明書を交付したとの事実を認定し、これを医師法第二十条違反罪に問擬しているのは、その証明書にして前記のように医師の診察の結果に関する判断を表示して人の健康上の状態を証明する内容を含むものである限り、洵に相当であつてこれを目して所論のように法律の解釈を誤つたものということはできないのである。仍て原判決添附別表の証明書の内容を検討するに、該証明書中不在者投票事由として単に老令とあるもの以外の事由を記載した証明書は、叙上の通由に依りこれを医師の診断書と認めるべきものであるが、単に老令とのみ記載した証明書は、これを医師の診断書を認めるべきではなく、かかる証明書を被告人が交付した所為についても原判決が医師法第二十条違反罪に問擬しているのは、法令の適用を誤つたものとしなければならない。しかしながら、右の単に老令とのみ記載した証明書は、原判決添附別表掲記の証明書合計二百十七通のうち、僅に二名の選挙人分六通に過ぎないことが認められるのであるから、との六通の証明書を交付した所為についての原判決の法令適用の誤りは、被告人の刑責並に犯情に影響を来たすものとは認め難く、従つて判決に影響を及ぼすこと明らかな程度に至らないものと認めることができるから、原判決の法令適用の誤りを主張する論旨は結局理由がない。 (その他の判決理由は省略する。) (裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一) |