判例検索β > 昭和27年(う)第3798号
歯科医師法違反被告事件
事件番号昭和27(う)3798
事件名歯科医師法違反被告事件
裁判年月日昭和28年3月30日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
判例集等巻・号・頁第6巻2号300頁
判示事項一、 歯科医師法第一七条の歯科医業にあたる抜歯および入歯をした事例
二、 同条の歯科医業にあたる金冠篏装を施した事例
裁判要旨一、 患者から依頼を受けて、通常行われる医学的操作を用いないで単に患者の不良歯牙をピンセットで押してその人体から離脱させる抜歯の所為または抜歯した後、咀嚼機能を回復するために、患者の口中から形をとり上下の歯の咬み合おせ関係を調べその口腔に適合するかどうかを試みた上、でき上つた義歯を患者をしてその口腔に装着させる入歯の所為は、いずれも歯科医師法第一七条の歯科医業にあたる。
二、 患者の依頼によつて、うすくなつた金冠を補修してこれにセメントをつめ患者をしてその自然歯に合わせてこれを装着し金冠篏装を施す所為は、同法条の歯科医業にあたる。
裁判日:西暦1953-03-30
情報公開日2017-10-13 01:59:27
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主 文
本件控訴を棄却する
理 由
本件控訴の趣意は弁護人三木義久作成の控訴趣意書提出の件と題する書面記載の通りであるからこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。 論旨第一点及び第二点について。
原判決挙示の証拠の内容を検討し、これと原判示事実とを対照して見ると原判示の抜歯及び入歯はAに対してなしたものであることが明らかである。 而してこれを認めた証拠として原判決が挙示した証人Aの原審公判廷の供述によれば同人は被告人より上歯二本を抜いて顎つき入歯を造つて貰つたが、一本はぐらぐらしてほんの一寸ついていた程度で指で押したらすぐ抜けてしまい、他の一本は金冠をかけて貰いたいといつたら歯がしつかりしておらないから駄目だといわれたので自分で取ろうと思つて始終手で動かしていたら肉が痛くてうまく取れなかつたため被告人の処に行つたところ、被告人は一寸といつてピンセットで押したら難なく取れた。抜く時は痛み止めの注射はしないが血止めをしたので血は出なかつた。その後五、六回通つて額つきの入歯を造って貰い口に合うようにして貰つて出来上つた歯は被告人が口の中に入れてくれたが肉がはれて痛かつたので自分で入れた。代金は二千円宛<要旨第一>三回に計六千円支払つたというのである。惟うに抜歯とは慢性疾患によつて保存の見込のない歯牙を除去することをいい、その方法は歯牙の周辺に薬品を注射して局所を麻痺させ知覚を喪失させてからメス様の刃物でその歯牙を包む環状靱帯を剥離した上カンシと称する機具を用いて歯牙を抜きとりその後消毒するのを通例とするが、かかる医学的操作によつて歯牙を抜きとる場合のみに限らず苟しくも人体より歯牙を人工的に離脱せしめる行為はすべてこれを抜歯として歯科医師法第十七条にいわゆる歯科医業の範囲に属するものと解すべきであるから、被告人がAに対してなした二本の歯の処置のうち少くとも後の一本についてはこれを抜歯と認めるのが相当である。次に入歯とは咀嚼機能を回復するために義歯を入れることをいい、義歯を入れるとは不良歯を整理して直接患者の口中より形をとり、適宜の操作により上下の歯の咬み合せ関係を見、これによつてできたものを患者の口腔に適合するや否やを試み、かくして調整完成した義歯を患者の口腔に装着することをいうのであるが、右Aの証言は用語やや簡に過ぎその意を十分尽さざるうらみあるもその趣旨は同人は不良歯二本を抜歯した後咀嚼機能を回復するため被告人に顎つき義歯を造つて貰うことを頼み、被告人はAの口中より形をとり上下の歯の咬み合せ関係を見、同人の口腔に適合するや否やを試みかくしてでき上つた義歯を同人の口腔に入れたという趣旨なのでおるから、被告人の右所為を以つて入歯と認定しこれを以つて歯科医師法第十七条にいわゆる歯科医業と認定したのは正当である。(論旨は原判決はAの原審公判廷の供述の外同人に対する検察官の供述調書の記載を証拠に採用して事実の認定をしておるとなし該調書の記載を捉えて原判決を論難攻撃しておるが原判決はAに対する検察官の供述調書を証拠として引用しておらないことは判文自体明らかであるからこの点に関する論旨は理由がない)而して原判決挙示の証拠(但しBの原審公判廷の供述を除く)を綜合すると被告人が原判示の如くAに対し抜歯及び入歯の行為をなして歯科医業をなした事実は優にこれを認めることができ右証拠によつて右判示事実を認定することは何等経験則に反するものでなく固より虚無の証拠によつて認定した違法もない。記録を精査するも原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるとは認められないから論旨はいずれも理由がない。
論旨第三点について。
原判決挙示の証拠の内容を検討し、これと原判示事実とを対照して見ると原判示の金冠篏装はBに<要旨第二>対してなしたものであることが明らかである。而してこれを認めた証拠として原判決が挙示した証人Bの原審公判廷の供述によると同人は以前Cという歯科医に入れて貰つた下歯の金冠が飴を食べたら抜けてしまつたので被告人方に行つて診て貰つたらこれは金冠がうすくなつているから金を足して造つてやるというので、その翌日行つたら出来上つていて被告人は金冠にセメントをつめて自分の歯のところに持つてきて葉書のような紙を渡しこれをあてて上歯でぐつと押しなさいといつたのでその通り押したら入ったというのである。惟うに金冠簸装とは金冠を自然歯に合せて装着することをいうのであるから被告人がBに対してなした右行為を原審が金冠篏装と認定したのは正当であつて(論旨は原判決は証人Bの原審公判廷の供述の外同人に対する検察官の供述調書の記載を採用して事実の認定をしておるとなし該調書の記載を捉えて原判決を論難攻撃してお
るが原判決はBに対する検察官の供述調書を証拠としておらないことは判文自体明らかであるからこの点に関する論旨は理由がない)原判決挙示の証拠(但しAの原審公判廷の供述を除く)を綜合すると被告人が原判示の如くBに対し金冠篏装の行為をなして歯科医業をなした事実は優にこれを認めることができ、右証拠によつて右判示事実を認定するヒとは何等経験則に反するものでなく固より虚無の証拠によつて認定した違法もない。記録を精査するも原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるとは認められないから論旨は理由がない。 (その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 小中公毅 判事 渡辺辰吉 判事 河原徳治)

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