判例検索β > 昭和30年(う)第598号
覚せい剤取締法違反被告事件
事件番号昭和30(う)598
事件名覚せい剤取締法違反被告事件
裁判年月日昭和30年6月8日
法廷名東京高等裁判所
判例集等巻・号・頁第8巻4号623頁
判示事項一、 数個の覚せい剤取締法第四一条第四項違反の所為が「営利の目的」をもつてなされたときの罪数
二、 刑訴第三二一条第一項第二号後段「前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき」の意味
裁判要旨一、 覚せい剤取締法第四一条第四項にいわゆる「営利の目的で」とは利益を得る目的を指称し、継続または反覆して利益を得る目的のあることを要しないから、数多の違反行為がいずれも営利目的をもつてなされた場合でも常にこれを一罪として処断すべきものではない。
二、 刑訴第三二一条第一項第二号後段の「前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述ましたとき」とは、必ずしも主尋問に対する供述のみにかぎらず、反対尋問に対する供述をも含むものと解する。
裁判日:西暦1955-06-08
情報公開日2017-10-13 01:58:09
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主 文
被告人Aに対する原判決を破棄する
被告人Aを懲役十月及び罰金一万円に処する
被告人Aが右の罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
原審において証人Bに支給した費用は被告人Aの負担とする。 被告人Cの本件控訴を棄却する。
当審において被告人Cのために附した国選弁護人山崎清に支給した費用は被告人Cの負担とする。 ○理由
本件控訴の趣旨は末尾添附の被告人Aの弁護人柴田睦夫、被告人C本人並びにその弁護人山崎清の夫々差し出した各控訴趣意書記載のとおりである。 被告人Aの弁護人柴田睦夫の控訴趣意第一点について
覚せい剤取締法第四十一条第四項が営利の目的で又は常習として云々と規定していることは所論の如く<要旨第一>であるが、ここに謂うところの営利の目的とは利益を得る目的を指称するものであつて継続文は反覆して利益を得る目的のあることを必要とするものではないと解すべきであるから常習として敢行された場合にはその数個の行為を包括して一罪として処断すべきであるからといつて営利の目的でなされた場合もこれと等しく常に一罪として処断すべきであるとの所論は採用できない。むしろ営利の目的の存することを一の加重要件としたに過ぎないものと解するのが相当である。しかも本件訴訟記録全体を精査しても被告人が単一の犯意の下に原判示の各所為に及んだものとは認め難いから原審が被告人の原判示の所為に対し併合罪の規定を適用したことは相当であり、所論の如き法律の解釈適用を誤つた違法はないから論旨は理由がない。
同第三点について
原判決は原判示第一の事実認定の証拠の標目として一、証人Dの当公廷での昭和三十年一月十七日の供述(右は弁護人も認めているとおり昭和三十年一月二十一日の原審第五回公判廷における供述の誤記であると認める)一、Dの検察官に対する昭和二十九年十月十四日附及び同年十二月十一日附各供述調書その他を掲げていることは所論の如くであるが、論旨は先ず右D証人の前記公判廷における供述は同人の検察官に対する前記各供述調書に記載されているところとなんらくいちがうところはなく、くいちがいの生じたのは弁護人の反対尋問によるものであり、かくの如く反対尋問によつてはじめてあらわれた証言とくいちがうからといつて弁護人の異議申立を却下して検察官に対する供述調書の証拠調をなしこれを採証するが如きは刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号に違反し憲法の認めている審問権を全く有名無実に帰するものであると主張するからこの点について考えるのに、同証人の前記公判廷における供述を調べてみると右供述は前後矛盾する点が多々あり、前に検察官の面前においてなした供述と相反し、若しくは実質的に異つた供述をしておること明らかであり且つ前記各供述調書はその信用性の情況的保障に欠けるところは認められないから、原審が前<要旨第二>記各供述調書を採証していることは固より相当である。そして刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号後段の前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたときとは必ずしも主尋問に対する供述のみに限らず、反対尋問に対する供述をも含むものと解するのが相当であり所論は独自の見解というべく到底採用することはできない。次に論旨はD証人は前記原審公判廷においてEの息子からFの姉さんが持つて来たから買つて呉れといわれて三百本を受け取り同人に千五百円を渡した。その際被告人が持つて来たかどうかは知らないが、Eの息子から聞いたものであり、金千五百円も被告人に渡したのでなく、Gの息子に渡した旨を供述しておるのであるが、これによつて、Dが何人かからヒロポンを買つたことは明らかであるが、右の証言によつては被告人がDにヒロポンを譲渡したという事実は認めることはできない。同人の証言は法律の禁止する伝聞証拠であり原審がこの証拠をもつて原判示第一の事実を認定したのは明らかに刑事訴訟法第三百二十条に違反すると主張するのであるが原審は右D証人の供述中論旨摘録の部分の如きは採証しなかつたものと解するのが相当であるから、この点に関する論旨も採用できほい。
更にまた論旨は原審は証人Dの原審第五回公判廷における供述を排斥し同人の検察官に対する各供述調書を採証しているが同人は先に同第四回公判廷において偽証をなしたので検察官から十分注意を受け偽証をすれば処罰を受け且つ執行猶予も取り消されるべきことを肝に銘じた上での証言であるから十分措信するに価する供述であるのにこれを信用せず却つて宣誓もしなければ反対尋問にもさらされ
ていない検察官の面前における供述を採証しているのは採証の法則に違反すると主張するけれども前叙の如く右D証人の原審第五回公判廷における供述は前後矛盾するところが多く措信し難い点がすくなくないのに反し検察官に対する同人の各供述調書の記載はいずれも事理に叶い、いささかも不合理不自然のところは認められないから原審がこれら各供述調書を採証したことは相当であり所論の如き採証法則の違反はない。それゆえ各論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 中村光三 判事 脇田忠 判事 鈴木重光)
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