判例検索β > 昭和38年(ツ)第75号
家屋明渡請求事件
事件番号昭和38(ツ)75
事件名家屋明渡請求事件
裁判年月日昭和39年4月18日
法廷名東京高等裁判所
結果破棄差戻
判例集等巻・号・頁第17巻2号177頁
判示事項立退料の提供と借家法第一条ノ二の解約申入効果の発生時期
裁判要旨賃貸人が相当の立退料を支払う旨の意思表示をなしたことによつてはじめて正当の事由が具備せられる場合には、右意思表示のなされたときに解約申入の効果を生ずる。
裁判日:西暦1964-04-18
情報公開日2017-10-18 03:29:56
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主 文
原判決を破棄する
本件を東京地方裁判所に差戻す。
理 由
上告理由について、
借家法第一条の二によれば、建物の賃貸人は正当の事由がある場合でなければ解約の申入をなすことができないと定められており、右規定の趣旨は、賃貸人の一方的意思によつて、賃貸借契約を解消させることのできるのを正当の事由がある場合にのみ限定しているものであるから、右正当の事由は、解約申入のときに存在し、かつ同法第三条所定の六ヶ月の告知期間終了のときまで存続することを要するものと解するを相当とする。
従つて、解約による賃貸借の終了を原因として、建物の明渡を求める訴訟においては、上記正当事由の有無については、解約申入のときから、六ヶ月の期間経過までの間に存在した事情(正当事由として主張された事実が将来具体的に発生することが確実なものをも含む)によつて判断すべきものであり、解約期間経過後に生じた事由は、正当事由の判断に加えてはならないのである。もつとも、解約申入当時には正当の事由がなくとも、家屋の明渡を求める訴訟提起の際、又はその訴訟の係属中に、正当の事由を具備するに至つた場合には、右訴訟の提起によつて賃貸借の存続を欲しない意思であることが明らかに推測し得るのであるから、これによつて新たな解約の申入がなされたものとみなし、右正当事由を具備したときから六ヶ月を経過することによつて、賃貸借終了の効果を生ずるものと解するを相当とする。 <要旨>当事者双方に存する諸事情に加えて、賃貸人が相当の立退料を支払うことによつて、はじめて正当の事由が具備せられる場合に、解約の申入の効果を生ずるのは、右立退料を支払うべき旨の意思表示がなされたときと解するか、又は現実にその履行がなされたときと解するかについては問題がある。しかしながら建物の賃貸借解約の申入れは、正当の事由を具備することによつて形成的効果を生ずるものであり、これに条件を附することは、解約の効力の発生を不確定にさせるもので、許されないのであるから、将来賃貸人が、賃借人が家屋を明渡すことを条件として立退料を支払うということは、これを考慮して、解約申入の効果の発生を認めることはできないものといわなければならない。上段判示のように、正当事由として主張された事実で、将来具体的に発生することが確実なものは、これを正当事由の判断に加えることができるものであり、賃貸人が相当の立退料を支払う旨の意思表示をなし、且つ、その支払と引換えに建物の明渡を求めているような場合には、賃貸人としては右のような立退料を支払つても、なおかつ建物の明渡を受けることを欲求しているのであり、現時のような建物の明渡を求めることが極めて困難な社会事情のもとでは、後日その意思を飜して立退料の支払をしないというようなことは、とうてい考えられないことである。従つて右立退料は将来確実に支払われるのであるから、このような場合には、立退料の支払をなすことが他の諸事情と相俟つて、客観的に相当と認められるときは、右申出立退料を支払う旨の意思表示をなしたときにおいて正当の事由を具備するに至るものと解するのが相当である。このように解すれば、賃貸人が立退料を支払う旨の意思表示をなしたときに正当の事由を具備し、解約申入の効果を生ずることになるから、このときから口頭弁論終結時までに六ヶ月の期間を経過しておれば、立退料の支払と引換えに家屋明渡の判決をなすこととなり、右六ヶ月の期間が弁論終結後に到来する場合には、右期限の経過後に、右と同趣旨の将来の給付を命ずる判決をなすこととなる。 原判決によれば、原審は、その判示するような当事者双方に存する諸事清のほかに、被上告人が昭和三十六年十一月三十日の第一審口頭弁論期日において、立退料として上告人に対し金八〇、〇〇〇円を贈与する旨の意思表示をなし、さらに昭和三十七年十一月十三日の原審口頭弁論期日において、被上告人は立退料を金一〇〇、〇〇〇円に増額し、明渡を判決言渡から六ヶ月猶予し、なお延滞賃料明渡までの賃料相当額の損害金の支払を免除する旨の意思表示をなしたとの事実を認定した上、これ等の事情を比較考量すれば、被上告人の本件解約の申入には正当の事由があり、本件賃貸借は、被上告人が昭和三十四年五月十七日到達の書面をもつて上告人に対してなした解約申入後六ヶ月を経過した同年十一月十六日をもつて終了したと判断している。そして右原判決の判示とその主文とを対照すれば、原審は、上記被上告人が昭和三十七年十一月十三日の原審口頭弁論期日においてなした立退料金一〇〇、〇〇〇円を支払い、かつ延滞賃料等を免除し、明渡を判決言渡後六ヶ月猶予する旨の申出に重点をおいて被上告人の解約申入を正当の事由に基づくものと判
断したものであることが明らかである。しかしながら、上記原審の認定した立退料支払等の申出は、いずれも、被上告人が解約の申入をなした昭和三十四年五月十七日から六ヶ月の期間経過後になされたものであることは、原判文上明らかであるから、上段判示の理由によりこれらの事由を右解約申入の正当事由の判断に加えることは許されないものといわなければならず、原審が右各事情を加えて被上告人が昭和三十四年五月十七日になした解約申入が正当の事由に基づくものと判断し、右解約申入期間後の同年十一月十六日をもつて、本件賃貸借契約は終了したとなしたのは、借家法第一条の二の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならない。
また原審は、上告人に対し、判決言渡後六ヶ月以内に被上告人から金一〇〇、〇〇〇円の支払を受けるのと引換えに本件建物を明渡すべき旨の判決をなしているが、右判決に対し上訴がなされ、その上訴中に右期間が経過した場合には右判決がどんな効力を生ずるかは、はつきりしないし、これを文字通り解すれば、判決言渡後六ケ月以内に建物を明渡さないときは金一〇〇、〇〇〇円の請求ができないようにも読めるが、右のような趣旨であれば右判決に対し上訴がなされた場合のことを考えれば、全くその意のあるところを解するに苦しむから、この点においても原判決が不当であることは言うを俟たない。それと同時に、原審は被上告人の申出た立退料の額が当事者双方に存する諸事情を補強して正当事由ありとするに足りる相当なものであるかどうかについても審理判断を尽くしていない。原判決には法令違背、審理不尽の違法があり、右違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は全部破棄を免れず、論旨は理由がある。
よつて、本件上告は理由があり、上記の諸点についてさらに審理する必要があるものと認め、民事訴訟法第四百七条により原判決を破棄し、本件を原審に差戻すこととして、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 村松俊夫 裁判官 杉山孝 裁判官 山本一郎)

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