判例検索β > 昭和41年(う)第1319号
児童福祉法違反被告事件
事件番号昭和41(う)1319
事件名児童福祉法違反被告事件
裁判年月日昭和41年10月12日
法廷名東京高等裁判所
判例集等巻・号・頁第19巻6号719頁
判示事項児童福祉法第三四条第一項第九号違反の罪の成立する事例
裁判要旨ヌードモデルとして、連日夕刻から夜半過ぎまで稼動させ、店頭に立つて客引きをしたり、これによつて入つて来たお客を個室に案内して椅子にかけさせ、その面前でショートパンティ一枚の裸体になつてその希望する姿態を示させ、その対価として三〇分間八〇〇円を基本としその示した姿態、時間等に応じて割増料金を受け取り、その取得した金員を雇主六分児童四分の割合で配分する約定で、十八歳に満たない女児を、親権者の同意を得ないで雇傭しこれを自己の支配下に置く行為は児童福祉法第三四条第一項第九号に違反する行為にあたる。
裁判日:西暦1966-10-12
情報公開日2017-10-13 01:54:13
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主 文
本件控訴を棄却する
理 由
本件控訴の趣意は、弁護人細野良久作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し、当裁判所は、次のように判断する。 論旨第一点
所論の一、二は要するに児童福祉法三四条一項九号にいう

児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、これを自己の支配下に置く行為

とは、同条一号ないし六号に定めているような児童の心身に有害な影響を与える実質犯を未然に、これを実行させる目的をもつて自己の支配下に置く危険な状態を処罰することによつて児童を保護しようとする規定と解すべきであるから、この解釈を拡大し右一号ないし六号に属しない本件ヌードモデルをさせる行為にまで及ぼすことは間違つており、原判決の法令適用には誤りがあるというにある。
よつて児童福祉法一条に掲げる児童福祉の理念、本条項制定の趣旨等を参酌して右三四条一項九号の律意を考察するに、児童の心身に有害な影響を与える行為は、一般に必ずしも同条一号ないし六号に掲げる行為に限らないことは敢て論ずるまでもないところであつて、ここに掲げられている行為は、現在の社会において屡々発生する典型的な且つ有害な影響を与えることの度合が強大な場合であるに過ぎない。従つて、児童の心身に有害な影響を与える行為は多種多様であるので、取締の徹底を期しその発生を未然に防止する目的で九号においては抽象的に児童の心身に有害な影響を与える目的をもつて児童を自己の支配下に置く行為を禁止することとし、これに対して一号ないし六号等は前述した典型的な行為を捕えて児童が行為者の支配下にあると否とを問わず禁止する趣旨であると解するのが相当であつて、所論のように、右一号ないし六号の実質犯のいわば実行着手前の未遂型態のみに限つて禁止の対象とすると解することは余りにも狭きに過ぎる解釈であつて採用するに足りない、蓋し、文理的にみても若し所論のような趣旨であるとすれば、九号のような表現を採るまでもなく、七号冒頭のように前各号に掲げる行為をさせる目的をもつて……と表示すれば事足りる筈である。それ故この点に関し弁護入の主張を排斥し右に述べたところと同趣旨に出でた原判決の解釈は正当である。とこ<要旨>ろで本件において原判決の認定したヌードモデルの行為は、その挙示する証拠に徴せば被告人はいずれも一八歳未満のA子、B子をその年令を確認したりその親権者の同意を得る手続をしないで雇い入れ、原判示ヌードスタジオCでヌードモデルをさせたのであるが、ヌードモデルは、Cに午後四時ないし午後五時過ぎに出勤し、翌日午前一時ないし午前二時過ぎまで勤務し、交代で同店々頭に立つて客引きをして勧誘に応じて来たお客を個室に案内して椅子にかけさせ、自らはショートパンティ一枚の裸体になつて客の面前でその希望するポーズをとつて見せ、三〇分周に八〇〇円を最低とし、そのとつた姿態、時間等に応じて割増料金をとり、これをモデル四分、被告人六分の割合で取得する仕組みであること、右の個室には画用紙など用意してあるもこれを使つて写生するようなお客は殆んどなく、又、お客によつてはパンティをぬぐこと或はわいせつな姿態をとることを要求したり、自らモデルの恥部等に触れようとするものもある事実を認めることができる。 若しそうだとすると、ヌードモデルを使用する目的が芸術的な意図をもつてする写真の撮影ないし絵画の製作にあることの認められる証拠の皆無な本件においては所論のようなパンティ着用の有無に拘らず右に認定したような場所時間における被告人の営業ないし行為は、まさに児童福祉法三四条一項九号において禁止する児童の心身に有害な影響を与える行為といわざるを得ない。
所論の三は、原判決は右法条九号にいう児童に対する支配が正当な雇用関係に基くものの解釈を誤つており、若し原判決の如く解すれば児童の心身に有害な影響を与える目的で自己の支配下に置くことに正当な雇傭関係はあり得ないことになり、このような解釈は正しい解釈ではない。脅迫欺罔を児童の意思に反してなされたものでない場合は正当な雇傭関係ありと解するのが正当であると主張する。ここにいう正当な雇傭関係というのは、民法或は労働基準法等の関係法規に照らしこれに牴触しない雇傭契約ないし雇傭状態を意味するものと解するのを相当とする。従つて原判決がこの点に関し雇傭関係の正当性の判断には、その雇傭関係の存在の社会的価値、必要性、その雇傭関係に基いて児童にさせる行為の児童の心身に対する有害な影響の程度、その影響の軽減および防止についての措置、その行為が児童にもたらす利益その他もろもろの事情を綜合的に判断して、その雇傭関係が児童福祉法の精神(第一条参照)に照らし、正当として許容されるべきものでなければならない。としているのは、余分の限定であつて間違つているものと思料される。しかしながら、本件においては前に触れたように児童であるA子、B子と被告人との間の雇傭契約はその親権者の同意を得ていないこと原判決挙示の証拠によつて明白であるのでその契約の成立自体は瑕疵が存し結局正当な雇傭関係ありと認めることはできない訳である。
以上説明したように、原判決は証拠によつて原判示事実を認定し、これに対し児童福祉法三四条一項九号、六〇条二項三項を適用した法令の適用に過誤のないのは勿論証拠によらないで事実認定をした違法があるものと認められないから、論旨は理由がない。
(その余の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 江碕太郎 判事 石田一郎 判事 西村法)

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