判例検索β > 昭和44年(ネ)第3034号
損害賠償請求事件
事件番号昭和44(ネ)3034
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日昭和45年12月21日
法廷名東京高等裁判所
判例集等巻・号・頁第23巻4号562頁
判示事項都市公園法に基づく修景施設である池の設置管理に瑕疵がないとされた事例
裁判要旨都市公園法に基づく修景施設である本件池の設置管理については、その場所的環境及び利用状況にかんがみ、池を廻る遊歩道から池への転落事故を防止するために必要な設備をすれば足り、木柵を潜り抜けて入り池の氷の上で遊ぶというような例外的な場合に発生する危険に備えてこれを未然に防止しうる設備をまでする必要はない。
裁判日:西暦1970-12-21
情報公開日2017-10-18 03:14:25
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主 文
本件控訴を棄却する
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事 実
控訴人ら訴訟代理人は、原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人Aに対して金三八二万八、〇八一円、同Bに対して金三八二万八、〇八一円、同Cに対して金三八一万七、七九四円、同Dに対して金三八一万七、七九四円、同Eに対して金三八〇万五、一一六円、同Fに対して金三八〇万五、一一六円及び右各金員に対する昭和四三年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
控訴人ら代理人は次のとおり述べた。
子供達は本件池で池のまわりで枝に片手をぶらさげたり、水面におりて丸太や板片にまたがつたりして、エビガニ、雑魚を釣つたり、板片などで舟遊び、池が結氷したときは氷滑りなど危険な遊びをするので本件事故発生以前にも池に落ちたり、氷が削れて本件に酷似する危険が発生している。かように多くの子供の遊び場となり、現実に危険な事故が発生している以上公衆に危険を及ぼす営造物の管理者として被控訴人は、危険防止措置を施し、最少限効果的な危険防止のための巡視体制を実施すべきところ本件池についでの危険防止措置が完全でないのみならず、本件事故当時のように池に氷が張つたときには子供が入らないよう危険防止に不可欠な。パトロール等も行われず、要するに本件池は通常有すべき安全性を欠き、その管理に瑕疵があつたというべきである。
被控訴代理人は、次のとおり述べた。
一、 子供らが本件池でエビガニ、雑魚釣りをしていたことは認めるが、それは、柵の外側から釣つているのであつて、池の中に入つているのではない。板片で舟遊びなどは相当大型の板片でなければできないことからしても、かかる遊びがされていなかつたことは明らかであり、いまだかつて子供が氷上で遊ぶに耐える程の結氷をみなかつたから、冬期にスケート遊びに賑わうことは全くない。 本件池は、修景池として観賞すべきものであつて、遊ぶ施設ではない。その観賞のために生ずる危険を防止する必要があつても、予想しえない利用までも想定して、その利用により生ずる危険防止措置を講ずる義務はない。
二、 仮りに被控訴人に本件事故につき責任ありとすれば、被害者である訴外亡G、同H、同Iらは、本来遊戯施設でない本件池の中に侵入し、かつ、人体の重みに耐えうるか否かの判断をしないまま、結氷の上で遊んだことに重大な過失があり、また、同人らに事理弁識能力がないとしても、本件事故は、学令前の児童が自宅から一、二キロメートル離れ、しかも人通りの少ない公園内で危険な行動により発生したものであるところ、控訴人らは、監督者としてかかる行動に出ないよう注意する義務があるのに、これを怠つた過失があるから、損害額の算定にあたつては右過失は斟酌されて然るべきである。
証拠(省略)
理 由
一、 控訴人ら主張の日時に本件池において本件事故が発生したこと及び本件池が被控訴人が公の目的に供するため設置し、管理している市営J公園の施設の一部であることは、当事者間に争いがない。
二、 本件事故が公の営造物である本件池の設置、管理の瑕疵によつて発生したものか否かについて判断する。
本件池は、J公園の入口から約一五〇メートル入つた三方を台地に囲まれた日当りの悪い傾斜した凹地にあり、横約一三メートル、縦約一六メートルの楕円形の古い沼池で、周囲の台地の湧水及び雨水の流入水、池底からの湧水を貯水していること、本件事故当時池の周囲には急な崖の裾に連なつている東南部を除き一・五メートルないし二メートル間隔に丸木の杭を打つた木柵が設置されていたこと並びに木柵の間をくぐり抜ける等して柵内に侵入することが可能であつたことは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一号証原審証人K、同L、同M、当審証人N、同O、同Pの各証言並びに原審における検証の結果によれば、本件池は、その周囲に遊歩道を廻らし、その内側にある前記木柵は、各杭の頂点部分と中間部分を丸太又は角棒をとりつけ、横に連結したもので、地面との間隔はそれぞれ一・〇五メー
トルもしくは〇・六五メートルであつたこと、本件池は都市公園法第二条、同法施行令第二条にいわゆる修景施設として自然の景観を保つよう管理され、池の水量も右目的に副うよう排水施設により調節されていたのであるが、少数の児童が柵の外側からエビガニ、雑魚等を釣ることはあつても特に児童達の遊び場とまではなつていなかつたこと、本件事故は、亡Gらが池の北西側の中間部の横棒をくぐり抜けて入り、氷の上で遊んでいるうちに中央部の氷の薄い部分が割れて水中に落ち溺死したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。当審証人Oの証言中、池の中に板片を浮べ、舟遊びをしていた旨の供述は、当審証人Nの証言に対比すれば、容易にこれを措信することができず、本件事故以前においても本件池が結氷したときは氷滑りなどが行われ、また木柵の一部が腐つていた旨の控訴人らの主張を認めるに足る証拠もない。
本件池の如き公園施設として公共の目的に供しているものの設置及び管理について、通常有すべき安全性を保持するためには、一般的には、当該営造物の構造、用途、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を考慮して、具体的に通常予想されうる危険の発生を防止するに足ると認められる程度のものを必要とし、かつ、これをもつて足るものというべきであつて、およそ想像しうるあらゆる危険の発生を防止しうる設備を要す<要旨>るものではない。本件についてこれをみると本件池の設置の目的、場所的環境及び利用状況よりして通常に予想される唯一の危険は、池を廻る遊歩道から池への転落事故の危険であるから、被控訴人としては右危険を防止するために必要な設備をしなければならないことはいうまでもなく、またこれをもつて足るというべきである。本件池の周囲(東南側を除く)に設けられた木柵は、その構造、形状及び設置場所からしてわざわざ乗り越えるか又は横棒の間をくぐり抜けない限り柵内には入れず、遊歩道を歩行中又はそこで遊んでいるときに誤まつて池に転落することは完全に防止することができ、併せて池の中に侵入するのを制止する機能をも果しているものであつて、遊歩道からの転落による危険の発生を防止するためには本件木柵の設置をもつて足るというべきである。本件事故はわざわざ木柵を潜り抜けて入り池の氷の上で遊んだため発生したもので、本来の池の利用状況からしても例外というべく、かような場合の危険の発生を未然に防止しえない本件木柵の設置をもつて営造物の設置に瑕疵があるとする控訴人らの主張は、本件池が景観施設である点を考慮すれば到底採用することはできない。なお、控訴人らは、本件池に排水装置が完全でなく、本件事故当時機能を停止していたこと及び危険防止のための標識を設けなかつたことをもつて設置管理の瑕疵と主張するが、右は本件事故の発生と何ら因果関係はなく、又これをもつて設置管理に瑕疵があると認めることはできない。
さらに控訴人らは危険防止のための監視をしなかつたことに被控訴人の危険防止義務違背があると主張する。原審証人Mの証言によれば、J公園には常駐の労務員二名が配置されているにすぎないことが認められ、危険防止のための監視の行われていないことは推認できるけれども、前記の如く本件池について通常予想される危険の発生防止の施設としては木柵の設置で充分である以上、本件事故の如き通常予測しえない事故防止のための監視員を配置しなかつたことをもつて公園の設置、管理者である被控訴人に義務違背があるということはできない。
三、 よつて控訴人らの本訴請求は、その余の判断をするまでもなく、失当であり、棄却すべきである。
右と同旨の原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 石田哲一 裁判官 杉山孝 裁判官 小林定人)
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