判例検索β > 昭和53年(う)第2619号
覚せい剤取締法違反、関税法違反、窃盗被告事件
事件番号昭和53(う)2619
事件名覚せい剤取締法違反、関税法違反、窃盗被告事件
裁判年月日昭和54年5月28日
法廷名東京高等裁判所
判例集等巻・号・頁第32巻2号138頁
判示事項覚せい剤を本邦内に持ち込む過程で犯された覚せい剤取締法の輸入罪と関税法の無許可輸入罪とが併合罪であるとされた事例
裁判要旨被告人が覚せい剤を隠匿携帯して空路本邦内に運び込むことにより覚せい剤取締法の輸入罪が既遂となつた後、引き続き関税法の無許可輸入罪の実行に着手し、右覚せい剤携帯の事実を申告しないで税関を通過してこれを遂げたと解される本件のような場合には、右各罪にあたる行為はそれぞれ別個の行為であり、右両罪は併合罪である。
裁判日:西暦1979-05-28
情報公開日2017-10-13 01:51:34
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主 文
被告人Aに対する原判決を破棄する
被告人を懲役三年六月に処する
同被告人の原審における未決勾留日数中七〇日を右刑に算入する。 被告人B及び被告人Cの本件各控訴を棄却する。
被告人Bの当審における未決勾留日数中一七〇日を、被告人Cの当審における未決勾留日数中一五〇日をそれぞれ各被告人の原判決の刑に算入する。 理 由
被告人Aの控訴の趣意は、同被告人の弁護人羽田忠義、同小池剛彦、同宮崎好廣連名作成名義の控訴趣意書及び弁護人川上三郎作成名義の控訴趣意書に、被告人Bの控訴の趣意は、同被告人の弁護人下島正作成名義の控訴趣意書に、被告人Cの控訴の趣意は、同被告人の弁護人畑中耕造作成名義の控訴趣意書に、これらに対する答弁は、検察官鈴木薫作成名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用し、これに対し、当裁判所は、記録及び当審における事実取調の結果に基づき、次のとおり判断する。
第一、 被告人Aの各控訴趣意について
所論は、要するに、本件覚せい剤事犯は偶発的、一回的犯行であつたうえ、現実に社会に流された覚せい剤の量もそれほど多くなかつたこと、覚せい剤の密輸入に対する被告人Aの関与の程度は比較的小さかつたこと、共犯者との刑の均衡、被告人Aの身上などに照らすと、原判決の量刑は重過ぎて不当であるというのである。 そこで、右所論について検討してみるのに、被告人Aは、昭和五三年三月下旬ころ、相被告人Bから、韓国から覚せい剤を密輸入し、国内で密売して利益をあげる計画があるが、これに資金を提供してくれる人を捜して欲しい旨依頼されて、与野市在住のDを相被告人Bに紹介し、自らも同年四月三日ころ、右D方に、同人、相被告人B、Eと共に集まり、その際覚せい剤密輸入の謀議に加わり、更に相被告人Bに依頼されて渡韓用のパスポートと航空券をDに届けるなど、右両者間の連絡係としての役割を果たし、その後、相被告人BとEが韓国から国内に持ち込んだ覚せい剤約五〇〇グラムのうちの約九〇グラムを相被告人Cに譲渡したものであつて、営利の目的で行つた約五〇〇グラムという大量の覚せい剤の密輸入に共謀者として関与したうえ、営利の目的でそのうちの約九〇グラムを他に譲渡した刑事責任は重大であり、被告人Aを懲役四年の実刑に処した原判決の量刑も首肯し得ないわけではない。しかし、被告人Aの関与した覚せい剤の密輸入は本件一回限りであること、国内に持ち込まれた覚せい剤の半分強にあたる約二六六グラム余りは押収されて社会に流されることなく終つたこと、相被告人Bが、主導的立場で本件覚せい剤の密輸入を計画し、Eと共に自ら渡韓し、覚せい剤を買い付けて国内に搬入し、その後も自らこれを所持して売りさばきに努めていたことや、Eが、本件覚せい剤の密輸入計画の立案、実行から、その後の覚せい剤の所持、換金の努力に至るまで、終始相被告人Bと共にこれを行つたことに較べると、被告人Aが本件覚せい剤密輸入事犯中において果たした役割は、これらの共犯者よりはかなり小さなものであつて、その後の覚せい剤約九〇グラムの譲渡の件を考慮に入れても、その刑責は相被告人BはもとよりEよりも一段軽いと考えられること、被告人Aには前科がないこと、そのほか、同被告人の家庭の状況、殊に二児の母親であるこどなとも合わせ考えると、被告人Aに対する原判決の量刑は刑期においてやや重きに過ぎると考えられる。論旨は理由がある。
第二、 被告人Bの控訴趣意について
所論第一点は、要するに、原判決は判示第二の一の覚せい剤取締法の輸入罪と判示第二の二の関税法の無許可輸入罪とが併合罪の関係にあるとして処断したが、両罪は観念的競合の関係にあると解すべきであるから、原判決には法令の適用を誤つた違法があり、これか判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。 そこで、右所論について検討してみるに、本件は、被告人Bらが、営利の目的で、約五〇〇グラムの覚せい剤を隠匿携帯して韓国F空港から空路G空港に到着して右覚せい剤を本邦に運び込み、引き続き、東京税関羽田税関支署旅具検査場において、通関手続として旅具検査を受けるにあたり、右覚せい剤携帯の事実を申告しないで同所を通過した事案である。このように、本件における覚せい剤取締法の輸入罪と関税法の無許可輸入罪とは、ほぼ同一の日時・場所における同一の覚せい剤輸入の機会に犯されたものである。しかしながら、覚せい剤取締法一三条にいう輸入とは、その立法趣旨等からして、覚せい剤を陸揚して本邦に運び入れる行為をいうのであり、覚せい剤が本邦へ陸揚されれば、それがいわゆる関税線の内であると
外であるとを問わず、直ちに輸入は既遂に達するものと解されるのに対し、関税法にいう輸入とは、外国から本邦に到着した貨物を関税線を通過して本邦に引き取る行為をいうのであり(関税法二条一項一号参<要旨>照)、その時点で既遂に達するものと解される。そして、本件においては、覚せい剤取締法の輸入罪は、被告人Bらが空港に到着して覚せい剤を本邦に持ち込んだ時に既遂になつたと解されるのに対し、関税法の密輸入罪は、右覚せい剤取締法の輸入罪が既遂となり、覚せい剤が本邦に到着した以後に実行の着手があり、税関長に申告をしないで前記旅具検査場を通過した時に既遂となつたものと解される。従つて、被告人Bらの右各法違反罪にあたる行為は、同被告人らが覚せい剤を本邦内に持ち込む過程で為したそれぞれ別個の行為であるから、被告人Bらの犯した両罪を併合罪として処断した原判決に誤りはなく、論旨は理由がない。
所論第二点は、要するに、原判決は判示第二の一の覚せい剤輸入罪と判示第二の三の覚せい剤所持罪とを併合罪として処断したが、右覚せい剤の所持は、右輸入の結果としての所持であつて、輸入とは別個の新たな所持とはいえず、両者は一罪として評価されるべきであるから、両罪の成立を認め、これらを併合罪として処断した原判決には法令適用の誤りがあり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
そこで、右所論について検討してみるのに、被告人Bは、Eと共に、昭和五三年四月二日ころ覚せい剤約五〇〇グラムを国内に搬入した後、これを営利の目的で肩書住居の自己の居室内に隠匿所持する過程で、同月一三日ころDに約一〇〇グラム、同月一六日ころ、相被告人Aに約九〇グラムを渡し、同日ころHに約二〇グラムを譲渡するかたわら、一部を自己使用し、その余は、四月下旬ころから五月初めころまでは右Eが被告人Bの居宅外に保管した後、再び被告人Bが自宅に持ち帰つて所持しているところを同月四日捜索により発見されるに至つたものである。そして、被告人Bの原判示第二の三の所持は、右捜索時点ころの所持であつて、前記のような輸入後の所持の態様の変遷経過に照らすと、原判示第二の一の輸入に伴う必然的結果としての所持とは到底認められないから、原判決がこれらを併合罪として処断したことは正当である。論旨は理由がない。
所論第三点は、要するに、本件覚せい剤事犯は偶発的、一回的犯行であり、社会に流れた覚せい剤の量もそう多くはないこと、被告人Bは主導的立場で本件覚せい剤の密輸入を行つたものではないことなとを考慮すると、原判決の量刑は重過ぎて不当であるというのである。
そこで、右所論について検討してみるのに、被告人Bは、Eから、韓国から覚せい剤を密輸入して国内で密売すれば大儲けができる旨の話を聞いて乗り気となり、覚せい剤の買い付け資金の提供者を捜し始め、相被告人Aの紹介でDを知り、昭和五三年四月三日ころの謀議以降終始主導的立場で、自らEと共に韓国に渡つて覚せい剤約五〇〇グラムを買い付けて国内に搬入し、これを自ら所持し、その裁量で一部を共犯者に交付したり、約二〇グラムをHに譲渡し、一部を自己使用したほか、窃盗一件を働いたものであり、殊に、営利の目的でした覚せい剤輸入罪及び所持罪の罪質、密輸入した覚せい剤の量が多量であり、その犯行において果たした役割か重要であつたことに徴すると、被告人Bの刑事責任は重大であるといわなければならない。もつとも、本件覚せい剤の密輸入は一回限りの犯行であつて根深いものではないこと、密輸入した量の半分強にあたる約二六六グラム余りは社会に流されることなく終つたこと、被告人Bが覚せい剤の密輸入を決意するについては、子供の学資の捻出に苦慮しているEを助けてやりたいという気持も働いており、Hに二〇グラムを譲渡したのも、窮状にある同人を助けてやろうという気持からであつたこと、被告人Bには前科はないこと、その他所論指摘の同被告人のために酌むべき事情も認められる。しかし、前記のような刑責の重大であることに照らすと、これらの点を斟酌しても、原判決の量刑が不当に重いとは考えられない。論旨は理由がない。
第三、 被告人Cの控訴趣意について
所論は要するに、被告人Cの本件犯行は偶発的なもので、譲り受けた覚せい剤を他に譲渡する意思もなかつたこと、被告人Cには同種の前科はないこと、家庭には被告人Cを頼りにしている老母がいることなどを考慮すると、原判決の量刑は重過ぎて不当であるというのである。
そこで、右所論について検討してみるのに、被告人Cは、相被告人Aから覚せい剤約九〇グラムを譲り受けたものであるが、被告人Cが譲り受けた覚せい剤の量は少なくなく、同被告人は相被告人Aから売りさばき方を依頼されて右覚せい剤を譲
り受けたものであり、その後これの小分けを行うなどして他に譲渡する準備をしていたほか、被告人Cはこれまでに詐欺賭博、銃砲刀剣類所持等取締法違反などの前科数犯を有し、昭和五一年一二月に最後の詐欺罪による刑を終えてから一年半もたたないうちにまた本件を敢行したものであることをも考え合わせると、犯情は悪質であるといわざるをえない。してみれば、本件が相被告人Aから覚せい剤の換金方を依頼されたことから犯された偶発的犯行であること、被告人Cには同被告人を頼りにしている老母と一人娘があること、その他同被告人のために酌むべき事情を斟酌しても、原判決の量刑が不当に重いとは考えられない。論旨は理由がない。 よつて、被告人B及び同Cに対しては、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却し、刑法二一条を適用して、被告人Bに対し当審における未決勾留日数中一七〇日を、被告人Cに対し当審における未決勾留日数中一五〇日をそれぞれ各被告人の原判決の刑に算入し、刑訴法一八一条一項但書により被告人B及び同Cの当審における各訴訟費用はそれぞれ被告人らに負担させないこととし、被告人Aに対しては、同法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により更に次のとおり判決する。
原判決の認定した罪となるべき事実に原判決と同一の法令を適用し処断した刑期の範囲内で被告人Aを懲役三年六月に処し、刑法二一条を適用して原審における未決勾留日数中七〇日を右刑に算入することとする。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 堀江一夫 裁判官 森眞樹 裁判官 濱井一夫)
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