判例検索β > 昭和35年(行)第48号
課税処分取消等訴訟事件
事件番号昭和35(行)48
事件名課税処分取消等訴訟事件
裁判年月日昭和46年7月15日
法廷名東京地方裁判所
判示事項1 相続税法(昭和40年法律第36号による改正前)第66条第4項の立法趣旨 2 医療法人は,相続税法(昭和40年法律第36号による改正前)第66条第4項の「公益を目的とする事業を行う法人」に当たるとした事例 3 「相続税法第66条により申告義務があるにもかかわらず申告がないから決定する」との記載が,相続税法(昭和37年法律第67号による改正前)第36条第1項の贈与税額決定処分の理由附記の要件を充足するとされた事例
裁判要旨1 相続税法(昭和40年法律第36号による改正前)第66条第4項の趣旨とするところは,公益法人等を設立するための財産の提供があり,または右法人等に財産の贈与もしくは遺贈があった場合に,財産の提供者,贈与者または遺贈者の親族その他これらの者と特別の関係のある者が,右法人等の施設の利用,余裕金の運用,解散した場合の残余財産の帰属等について一切の権限を有し,実質的にはこれらの者が右財産を有していると同様の事情にあるにもかかわらず,相続税または贈与税の賦課を免れる結果となるのを防止するため,立法技術として右法人等を個人とみなして,これに相続税または贈与税を賦課しようとするものである。
裁判日:西暦1971-07-15
情報公開日2017-10-20 01:07:42
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主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実
第一 当事者の申立て
(原告)

被告が昭和三四年二月二三日原告に対しなした贈与税額金六七〇万四、二五〇円の課税処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。
(被告)

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。第二 原告の請求原因および主張
(請求原因)
一 原告は医療法三九条一項の規定に基づき東京都知事の認可を受け昭和二八年九月三日設立した財団形態の医療法人であり、その資産の総額は一三一一万七七〇〇円である。
二 被告は昭和三四年二月二三日原告に対し相続税法(昭和二五年法律七三号)六六条四項の規定に基づき贈与税額六七〇万四、二五〇円の課税処分(以下本件処分という。)をし、あわせて贈与税利子税額四〇四万五、一九〇円、贈与税無申告加算税額一六七万六、〇〇〇円の賦課決定をなし、これを原告に通知した。三 原告は昭和三四年三月二〇日被告に対し本件処分を不服として再調査請求をしたところ、被告は同年六月一九日これを棄却する旨の決定をした。四 そこで、原告は昭和三四年七月一七日東京国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は昭和三五年五月九日これを棄却する旨の決定をした。五 しかし、被告のなした本件処分は、つぎの理由により違憲違法であるから、その取消しを求める。
(一) 憲法は、租税法律主義の原則をとつているから、いかなる個人または法人が納税の義務を負うかは、各租税法規に疑問の余地のない程に明白に規定されなければならないところ、相続税法六六条四項および同条一項、二項の規定は右憲法の定める租税法律主義の原則に反し無効である。すなわち、1 相続税法六六条四項にいう公益を目的とする事業を行う法人が公益法人をいうのでないことはもちろんであるが、公益を目的とする事業を行う法人という実定法上の熟語もないから、いかなる法人が公益を目的とする事業を行う法人であるかを確定するに由がない。したがつて、同条項を適用するには、まず、いかなる法人が公益を目的とする事業を行う法人であるかを税務当局の裁量によつて確定する以外に方法がなく、納税義務を有する主体が税務当局の裁量を介入させなければ確定しえないような租税法規は、租税法律主義に反するものであつて無効といわなければならない。
2 相続税法六六条四項には親族その他これらの者と第六四条第一項に規定する特別の関係ある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合の定めがあるが、右の不当に減少する結果となると認められる場合とは、事実を規定したものではなく、判断の経過をあらわしたものである。結局のところ、これは、税務当局が判断して不当に減少したことになつたと認めた場合をいうのであつて、その判断の基準については、なんら規定するところがない。すなわち、一たいだれに対する相続税または贈与税の負担が不当に減少したと認めるのか、不当とはいかなる意味であるか、減少とは相続または贈与税の全額の負担を免かれたというのか、あるいは一部の負担を免かれたというのであるか等の認定については、すべて税務当局に白紙委任されているのである。しかもその認定の内容は原告に対する相続税または贈与税の課税標準に関するものである。このような課税標準に関する事項が税務当局に白紙委任され、その裁量によらなければ実施しえないような租税法規の規定は租税法律主義に反するものであつて、無効といわなければならない。
3 また、相続税法六六条四項は同条一項の規定を準用しているが、同条一項にいう人格のない社団又は財団が社団法人または財団法人をいうのではないことはもちろんであるが、人格のない社団人格のない財団という実定法上の熟語もないから、いかなるものが人格のない社団又は財団であるか確定するに由がない。したがつて同条項を適用するには、まず、いかなるものが、人格のない社団又は財団であるかを税務当局の裁量によつて確定する以外に方法がな
い。納税の義務を有する主体を税務当局の裁量を介入させなければ確定しえないような租税法規の規定は租税法律主義に反するものであつて無効といわなければならない。けだし、
(1) 人格のない社団は、人格者ではないのであるから財産権の主体となることはできず、いわゆる人格のない社団の財産とは社団の構成者たる個人(相続税法一条および二条)または法人(法人税法一条)もしくはその両者全員の総有に属するものである。もし人格のない社団に財産の贈与または遺贈がなされたということおよび………社団を設立するために財産の提供があつたとみられる場合があるとするならば、それは社団の構成員全員の総有財産となり、あるいは総有財産の増加したことを意味するにすぎないものである。
(2) 人格のない財団も人格者ではないのであるから財産権の主体となることはできない。人格のない財団は人格のない社団と異り構成員は存在しないのであるから、いわゆる人格のない財団の財産というものを観念することはできない。したがつて、人格のない財団に財産の贈与もしくは遺贈がなされまたは財団を設立するために財産の提供があつたとしても、その財産を取得する人格者が存在しないのであるから、法律的に財産権が移転することはありえない。それゆえ、
(3) 人格のない社団または財団に対し、財産の贈与または遺贈がなされ、あるいはその設立のために財産の提供があつたとしても、人格のない社団または財団は財産権を取得したことにはならない。財産権を取得しないものに対して贈与税または相続税を賦課することは相続税法上の大原則に違反し、租税法律主義に反するものである。この意味において、相続税法六六条一項および二項の各規定は無効といわねばならず、右各規定を準用する同条四項の規定も無効である。4 さらに、相続税法六六条一項の規定は、同条四項で準用されているが、もし、同条四項の法人に対して設立後財産の贈与または遺贈がなされた場合、それが右財産の贈与または遺贈をなした者の親族その他同族関係者の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められ、同条一項、四項の規定により、右法人は個人とみなされて贈与税または相続税が課せられることになるとすれば、他方において各法人は法人として資産増加を理由として法人税が課せられるのであるから、相続税法上では、個人とみなされて贈与税または相続税が課せられ、法人税法上では法人として法人税が課せられることがありうることとなり、相続税法六六条四項の法人の場合にのみ二重課税となるので、法の前の平等という憲法上の原則からみても同条一項、四項は無効であるといわねばならない。
5 以上のとおり、相続税法六六条四項は租税法律主義に反し無効であるから、同条項を根拠としてなされた本件処分も無効である。
(二) 仮に相続税法六六条が租税法律主義に反しないとしても
1 医療法人は、相続税法六六条四項に規定する公益を目的とする事業を行う法人に該当しない。したがつて、これを適用してなした本件処分は違法である。すなわち、(1) 公益を目的とする事業を行う法人の公益を目的とするとは、法人にかかるのではなくて事業にかかるものである。したがつて、公益を目的とする事業を行う法人とは、法人の目的として行なう事業が事実上公益性を有する法人をいうのではなく、右の事業が法律上公益性を有する法人であると解せられる。ところで、同条項が引用する法人税法五条一項三号に掲げる法人たる労働組合および国家公務員法または地方公務員法に基づく法人たる国家公務員または地方公務員の団体は公益を目的とする事業を行う法人ではない。なぜなら労働組合は労働者が主体となつて自由的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体またはその連合体であり、国家公務員または地方公務員の団体も大体右と同様の事項を目的とする団体であつて、その目的とする事業は法律上公益性を有するものではないからである。したがつて、相続税法六六条四項が引用する法人税法五条一項一号または三号に掲げる法人は公益を目的とする事業を行う法人の例示であるということはできないから法人税法五条一項一号または三号に掲げる法人の法的性格を検討して、それに類似する法人を公益を目的とする事業を行う法人であると理論ずけることはできない。
(2) 医療法は医療法人については剰余金配当禁止(五四条)、設立または定款、寄附行為の変更に関する行政庁の認可(四四条、四五条、五〇条)、決算の届出(五一条)、業務会計の報告(六五条)、業務停止、設立認可の取消し(五五条、五六条)に関し規定しているが、医療法人が公益を目的とする事業を行う法人であるがために右のような監督規定が制定されたものであるということもできない。なぜなら、右と同様、あるいはそれ以上の監督規定は日本銀行法、信託業法、保険業法、公益事業法、地方鉄道法にも存在するが、これらの監督規定が存在するがゆえにこれらの事業を営む法人を公益法人または公益を目的とする事業を行う法人ということはできないからである。医療法に右のようないわゆる監督規定が存するのは、医療法を改正して医療法人の制度を設けた立法趣旨である医療事業の永続性を図ることを確保する目的に由来するのであつて、医療法人の事業が法律上公益性を有することに由来するものではない。
(3) また、医療法人は、財団または社団の形式をとつているけれども、それは民法上の公益法人またはそれに類似する公益的な法人ではないのであつて、ただ形式が公益法人と類似しているにすぎず、その実質は、営利を目的とする病院がそのまま法人格を取得したものにすぎない。
けだし、医療法人が財団または社団の形式をとつた理由は、医療法人制度制定の歴史に由来するのである。すなわち、(イ)戦後、民主主義の昂揚とともに国民生活の向上、人権の保障、政治的権利の拡張が重視せられ、それとともに国民の健康の保持、増進ということも決して無視せられたものではなかつたのであるが、旧陸海軍病院を引き継いだ国営の医療機関は、国家の社会保障予算の不足からひとえに民間医療機関を整備することに懸り、そのためには私人による病院の建設と、その保持育成を促進するためなんらかの方法によつて資金の蒐集および集積と事業の永続性を図る措置を講ずることが緊要とされた。それには、私人の病院に法人格を付与する途を開くことが必要であるが、すべての病院が民法上の公益法人としての資格を取得することはその経営のあり方からできないことがあるし、そうかといつて商法上の会社とすることも医療に対する伝統的な考え方からみて妥当でないので、医療法を改正して容易に法人格を取得しうることとしたのが医療法人制度である。そして昭和二五年第七臨時国会において医療法の一部が改正され、医療法人の制度が制定された。(ロ)由来、病院経営者は一般に所得は主としてこれを診療施設の整備改善に充当することを念願する生態を持つている結果、一たん経営者である病院長が死亡すると、その遺族は他に資産がないため相続税の納税に困惑し、とくにその後継者がない場合には莫大な相続税の納税のために病院を手ばなさざるをえないこととなる事例が多い。かくて数十年間営々として築き上げた診療施設が相続税の物納に充られ、または相続税のために公売されて全然目的を異にする施設となつてしまう運命にある。このような国民経済ならびに国民医療保障上における損失を防止するために設けられたのが財団たる医療法人の制度である。(ハ)財団たる医療法人は、事業目的遂行に必要な診療施設が寄附提供されることによつて成立する。寄附者は、寄附の目的物についてなんらの処分権もないし、たとえ寄附者が法人の理事者となつても、その寄附財産の多少によつて理事会における発言権に優劣の差はない。寄附者が死亡した場合に寄附者の親族等は当該財産に対して処分権ならびに管理権を有するものではなく、また必ずしも理事者となることを保証されているものでもない。また、寄附者が死亡した場合は診療施設について相続税が課税されないから医療事業の永続性が確保されるわけである。(ニ)医療法の要求する規格に相応する近代的病院の建設は、個人の力では困難であるため、当時数人共同して資金を持ち寄り、共同して病院を経営しようとの機運があり、医師の間にとくにこのような要求が強かつた。これらの人々のために設けられたのが共同出資に応ずる社団たる医療法人制度であり、法人であるから経理は分明となり、合理化され、出資者も安心できたわけである。社団は財団と異なり出資者は持分を有し、持分が議決権行使の基準となり、出資者が死亡した場合はその遺族が持分を相続し、診療施設について相続税が課税されることはない。かくて資金収集と事業の永続性が確保されるわけである。(ホ)医療法人が財団または社団の形式をとつているのは、右のような制定の歴史に由来するものであつて、医療事業の公益性によるものではない。医療法人はその目的たる事業が法律上公益性を有する如く規制されているものではないから、公益を目的とする事業を行う法人と解釈することはできない。
(4) そこで、医療法人が相続税法六六条四項に規定する公益を目的とする事業を行う法人に該当するか否か、いいかえれば医療法人が税法上いかなる性格の法人であるかについて検討するに、(イ)所得税法九条一項四号に

商業………医業、…その他の事業………

と列記されており、同項九号に前各号以外の所得で営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時所得のうち………と規定されているところからみれば、所得税法は医業を営利事業としていることが明らか
である。この医療事業が単に法人形態に変ることによつてその目的とする事業が法律上公益性を附与されるということはありえない。法人税法五条一項に規定する公益法人等の営む収益事業より生じた所得に対しては法人税が課税されることになつているが、その収益事業は同法施行規則一条の三に列挙されていて、医療事業が含まれている。同法が医療事業を営利法人の事業と同様に収益事業としていることは明白である。また、同法は、法人を、非課税法人(同法四条に例記)公益法人等(同法五条一項に例記。その営む収益事業より生じた所得には課税される。)特殊法人(収益法人中の特殊な法人、同法九条六項に例記)および一般の法人(右の特殊法人以外の収益法人)の四個に分類している。そして、医療法人は、右の一般の法人に属するものとされていて、法人税、所得税、資産再評価税、固定資産税、住民税、登録税等すべての営利法人と同様に課税されているのである。医療法人を法人税法上では営利法人として取り扱い、相続税法上では公益法人類似の公益を目的とする事業を行う法人として取り扱うという考え方は、租税体系上の矛盾をおかすものであつて、誤りであるといわねばならない。(ロ)また、個人の開業医が医療施設を相続し、または贈与をされた場合は、取得した財産が医療事業の用に供されることが確実であつても、医療事業は公益を目的とする事業ではないとして相続税法一二条一項三号、同法二一条の三第一項三号の各規定は適用されず、相続税または贈与税が課せられることとなつている。医療法人の場合には相続税法六六条四項により、その医療事業は公益を目的とする事業であるとして個人とみなされて相続税または贈与税が課せられることとなれば、ひとしく相続税または贈与税が課せられる場合であるにかかわらず、その課税される理由は全く相反することとなる。すなわち、個人の開業医の場合には、医療事業は公益を目的とする事業でないということになり、他方医療法人の場合には医療事業は公益を目的とする事業であるということになるのであつて、完全な背理であるといわなければならない。
2 医療法人に対してなされた寄附行為による財産の提供は、当該贈与者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合に該当しない。したがつて、これを適用してなした本件処分は違法である。すなわち、
(1) 前述のように、医療法人は、医療事業の永続性等を図るために、特に立案制定された法人制度であつて、寄附者の死亡による相続税または贈与税が賦課されないことを建前とし、それが立法の目的であり、このことは当時の国会の審議において明らかにされているところである。したがつて、医療法人に対して相続税または贈与税が賦課されないのは当然であり、寄附者の親族その他これらの者と特別の関係のある者の相続税または贈与税を不当に減少する結果となると認められる場合があるとするのは、医療法人制度の立法趣旨を無視したものといわなければならない。
(2) ところで、相続税法六六条四項のその他公益を目的とする事業を行う法人に対する財産の贈与または遺贈により

当該贈与者、遺贈者又は包括遺贈者の親族その他これらの者と第六十四条第一項に規定する特別の関係ある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合

については親族とは民法上血族六親等、配偶者、姻族三親等であること、相続税法六四条一項に規定する特別の関係ある者とは同法施行令三一条の規定によつて(イ)贈与者、遺贈者とまた婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者およびその者の親族でその者と生計を一にしているもの、(ロ)贈与者、遺贈者たる個人の使用人および使用人以外の者で当該個人から受ける金銭その他の財産によつて生計を維持しているもの、ならびにこれらの者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの(以下右(イ)、(ロ)のものをあわせて同族関係者という。)であること、すなわち、医療法人についていえば財団たる医療法人は寄附行為により財産の提供を受けて設立されたものであるから、提供者の親族のだれが提供者の相続人とみなされているか、みなされている相続人が提供者の生存中死亡しないと予想しているのか、あるいは提供者の相続人たる親族が将来出生しないと断定しているのか、みなされている相続人は何人か、その相続分はいくらか、みなされている相続人の債務控除、基礎控除、配偶者控除、幼年者控除等はいくらか、税率はどうなるか、相続税額はいくらか、提供者がいつ死亡すると考えられるのか、その時の相続税法は現行法と変更がないと考えられるのか、また、提供者の親族および同族関係者のうちだれが提供者より財産の贈与を受けるであろうとみなされるのか、贈与を受けるであろうものはいく人かその贈与を受けるであろうとみなされる財産の価格はいくら
か、税率はどうなのか、贈与税額はいくら、親族および同族関係者は贈与を受けるであろうと思われる時までに死亡しないし、その時の相続税法は、現行法と変更がないと考えられるのかが検討されなければならない。右に述べた問題点は、寄附がなされた時期を医療法人に対する贈与時現在として確定しなければならない。そしてそれが確定立証できるのであれば、公益を目的とする事業を行う法人に財産を提供贈与することがその限りでは租税回避の手段となるということがいえるかも知れない。しかし、贈与者がいつ死亡するか、何人が相続人であり、その相続分、債務控除、基礎控除、配偶者控除、幼年者控除、税率、相続税額がいくらとなるかは、寄附がなされた現在において確定立証することは不可能である。また、贈与を受けるとみなされるものはだれでいく人であり、その贈与を受ける財産の価額、税率、税額がいくらであるかをも確定立証することはできない。なぜなら、何人も現実に贈与を受けたものではないからである。
(3) 右に述べたように、財産の提供者の相続人の相続税を寄附の時点現在において確定立証することおよび贈与者より贈与を受けたといわれる者の贈与税を確定立証することは不可能であるから、これらの相続人、受贈者の相続人または贈与税の負担が減少すると考えること自体が不可能であり無意味なのである。3 医療法人に対して相続税法六六条四項を適用する余地のないことはつぎのことからも明らかであるから、本件処分はこの点においても違法である。(1) その他公益を目的とする事業を行う法人(または者)という文言は、相続税法六六条四項のほかに、同法六五条一項、同法一二条一項三号、同法二一条の三第一項三号の規定にもみられるところ、同法一二条一項三号にはその他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが相続に因り取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なものはこれを非課税財産とする旨同法二一条の三第一項三号にはその他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが贈与又は遺贈に因り取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なものはこれを非課税財産とする旨がそれぞれ規定され、同法六六条四項には公益を目的とする事業を行う法人に対して財産の贈与または遺贈があつた場合には、特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少すると認められる場合には課税する旨を、同法六五条一項には、公益を目的とする事業を行う法人でその施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における財産の帰属等について設立者、社員、理事若しくは監事、当該法人に対し贈与、遺贈若しくは包括遺贈をした者又はこれらの者の親族その他これらの者を………特別の関係がある者に対し特別の利益を与えるものに対して財産の贈与、遺贈又は包括遺贈があつた場合においては、第六六条第四項の規定の適用がある場合を除く外、当該財産の贈与、遺贈又は包括遺贈があつた時において、当該法人から特別の利益を受ける者が、当該財産(第一二条第一項第三号又は第二一条の三第一項第三号に掲げる財産を除く。)の贈与、遺贈又は包括遺贈に因り受ける利益の価額に相当する金額を当該財産を贈与、遺贈又は包括遺贈した者から贈与、遺贈又は包括遺贈に因り取得したものとみなす旨をそれぞれ規定している(同条三項により、同条一項の規定は当該法人の設立の場合の寄附財産について準用されている)。そこで、同法一二条一項三号および同法二一条の三第一項三号の公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものについては、同法施行令二条で、一 宗教の普及、慈善または学術の研究もしくはその普及の事業を行なう者、二 学校の教育または学校教育に類する教育事業を行う者、三 育英事業を行う者、四 前三号に掲げる者のほかもつぱら公益の事業を行なう者を掲げている。したがつて、同法六五条一項にいうその他公益を目的とする事業を行う法人は、前記四種目の類型のいずれかの一つに当るものであるといわねばならない。それゆえ、当該法人に対してなされた贈与または遺贈にかかる財産が、公益の事業の用に供されるかぎりその贈与、遺贈に係る財産(すなわち財団医療法人を公益を目的とする事業を行う法人であるとするからには、当該事業の用に供される寄附財産)が非課税財産であることは明白であり、医療法人が寄附を受けた財産はすべて公益を目的とする事業すなわち医療事業の用に供されているもののみであるから、医療法人に贈与税を課するのは違法である。もつとも、前記施行令二条の規定によれば、その者に財産を贈与した者又はその者に財産を贈与若しくは遺贈した者の親族に対し同条各号に掲げる事業に関する施設の利用等について特別の利益を与えない場合に限るという留保条件が付されてはいるが、原告の場合は右にいう特別の利益を与えているものに該当しない。
(2) 公益を目的とする事業を行う法人に対して、あるいは当該法人の設立
に際して財産の贈与等があつた場合に、相続税法六五条、六六条のいずれの規定の適用があるかは、単に法律問題であるだけではなく、同法六五条の場合が納税義務者が特別の利益を受ける個人であるのに対し、同法六六条の場合は納税義務者が当該法人であるという点において重要な差異がある。同法六五条は、法人がその所有する施設の利用上、法人の余裕金の運用上、法人が解散した場合の法人所有財産の分配上の特別利益を、法人が与えるものではなく、法人に対する財産の寄附者が寄附の時に特別利益を受ける者に直接与えたものとみなして、特別の利益を受ける者に相続税または贈与税を課するのであり、同法六六条は、当該法人に対する財産の寄附により、寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合に当該法人に対し課税するものとされているのである。そして医療法人に対してなされた寄附行為による財産の提供が、相続税または贈与税の負担を不当に減少する結果となるものではないから、医療法人に対し同法六六条四項の規定を適用する余地はなく、また同法六五条の規定を適用する余地もないものといわねばならない。
4 医療法人に対して相続税法六六条四項を適用するのは信義則、または禁反言の原則に違反するから、本件処分はこの点からも違法である。
(1) すでに述べたとおり、財団医療法人制度が制定された理由は、財団医療法人に対する寄附者が死亡しても診療施設に相続税が課せられることはないから、医療事業の永続性が確保されるためであつた。すなわち、財団医療法人を設立する際の寄附による財産権の移転についても、また寄附者が死亡した場合も、これを原因として課税されることはないという建前であつたのであり、このことは、医療法が改正され、医療法人制度が制定される際の国会の審議においても政府委員から説明された。その後、政府は、東京都知事を通じて、原告のような医療法人への寄附者らに対し、財団医療法人を設立するよう強力な行政指導をした。寄附者らがもつとも関心をもつたのは税の問題であつたが、それに対しては前述した意味の課税をされることはないという説明であつた。寄附行為についても模範的な形式が示され、理事者については家族、親族でもよいからなるべく早く法人を設立するようにと指導された。
(2) 原告ら医療法人は、右のような当局の指導方針にすすめられて設立されたものであつて、右のような法制定の過程や法解釈を説く当局の指導とあつせんを受けて医療施設の財団化を行なつたのである。
ところで、当初の寄附行為中には、財団解散の場合の残余財産の処理について、寄附者またはその家族にこれを分配する旨の規定がなく国、公共団体等に帰属する旨が規定されていたが、右のような規定が置かれるにいたつたのも行政指導によるものであつて、寄附者等の関係者らにとつてみれば自分らの努力の成果として形成され発展してきた財産が、解散の場合には自分たちに帰属しないというような寄附行為の規定を設けることには必ずしも賛成ではなかつたのであるが、強い行政指導と個人的な利益よりもまず医療事業の永続性の確保を優先的にと考えたがゆえに、右の行政指導に従い右のような残余財産処理に関する規定を設けたものである。このことは、相続税法の規定が適用されないこと、医療事業の永続性という当局の指導方針を原告の関係者が信用して原告を設立したことを明瞭に示している。(3) その後、昭和二七年法律第五五号により、相続税法の一部が改正され、同法六六条に四項が加えられ、同法六五条一項中に第六六条第四項の規定の適用ある場合を除く外という文言が加入された。しかし、右の改正による同法六六条四項中のその他公益を目的とする事業を行う法人という文言は、現実には医療法によつて設立された財団医療法人のほかにはないのに、これを明らかにすることを避けた文言による同法の改正が行なわれつつ、右の文言がどのような意味内容をもつ法人を指称するものかについて、税務当局はなんら明らかにするところがなく、財団医療法人あるいはその関係団体に対しても解説を行なうこともせず、申告をしようよう指導することもなく、昭和二八年一二月二五日国税庁長官通達をもつてはじめてその内容を明らかにし、財団医療法人が右にいう公益を目的とする事業を行う法人にあたるものとしたのである。さらに右通達は、財団組織を社団組織にきりかえるか、または財団医療法人を解散して個人に戻るかいずれか一つを条件として、相続税法六六条四項の規定を適用しない旨を述べているが、それは、財団解散に伴つて生起する法人税法上の清算所得に対する課税および所得税法上における一時所得課税の免除、財団設立に伴つてすでに発生した資産再評価法上の租税等の免除、さらに民法、医療法、法人登記規則その他法人を拘束するあらゆる強行規定の働くことを停止してきりかえに便宜をはかる趣旨のもの
であつて、条理にもとること著しいものがあり、いわば通達による行政によつて医療法人の設立の趣旨を無に帰せしめ法人の解散やまたは組織の変更を強要するものといわねばならない。
(4) 以上の次第であつて、医療法人への寄附者らは、強力な行政指導により医療法人を設立することにより課税されることはないとの国の意思表示と、それを信頼し課税されることはないとの確信のもとに医療法人を発足させたのであつて、その後、相続税法を改正して医療法人に対し課税することをしたことはまさにだましうちに等しい。(三) 本件処分には、つぎのような違法がある。
1 (消滅時効)本件処分は消滅時効完成後に行われた違法がある。原告は前記のとおり昭和二八年九月三日に設立された財団形態の医療法人であつて、原告に寄附提供された財産の大部分は、故A(昭和二八年一月二一日死亡)の遺贈に係るものであり、現金三〇万円のみがBの寄附に係るものであるが、これらの財産が右設立の日に原告の所有であつたことは明らかである。ところで、随時税である贈与税または相続税等の租税債務の発生時期およびそれらについての国の租税債権の消滅時効の起算日は、いわゆる租税要件の充足時すなわち原因発生のときである。したがつて、原告に対する国の贈与税債権は、昭和三三年九月三日に五年の時効期間が満了しているから、原告は時効の利益を援用する。そして、本件処分は原告に対する贈与税債権が時効により消滅した後である昭和三四年二月二三日になされたものであり、違法無効であるから取り消されるべきである。なお、国税通則法(昭和三十一年法律第六六号)の規定によれば、国税の徴収権は、その国税の法定納期限から五年間行使しないことによつて時効により消滅することとされているが、同法は本件の贈与税債権については適用されない。
2 (理由附記の不備)本件処分はその通知書に理由の附記がなく、違法無効であるから取り消されるべきである。
(1) 本件処分当時の相続税法三六条の規定によれば、税務署長が相続税額または贈与税額を決定した場合においてはその理由を附記した書面によりこれを納税義務者に通知することになつており、本件の贈与税額の決定通知書には、原告に対する財産の寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の贈与税の負担が不当に減少する結果となる理由が客観的根拠に基づき附記されなければならなかつた。しかるに、本件処分の贈与税決定通知書には、理由として

相続税法第六六条により申告義務があるにもかかわらず申告がないから決定する。

と附記されてあるだけであるが、これでは当時の相続税法三五条二項の

税務署長は、期限内申告書を提出する義務があると認められる者が申告書を提出しない場合においては、その調査によりその課税価額及び相続税額若しくは贈与税額を決定する。

という規定を簡略に表現しているだけであつて、決定の理由を附記したものということはできない。すなわち、附記理由として、相続税法六六条を摘記するだけでは、本件が同条の一項・二項・四項のいずれに該当するというのか不明であり、また、それが同条四項に該当するとの趣旨であるとしても、原告がどうして同項にいうその他公益を目的とする事業を行う法人に該当するのかその説明が全くなく、さらに、右の原告に財産を提供したのはだれであるか、財産提供者の親族、特別関係者はだれとだれであるか、不当に減少する贈与税額は各人につきいくらであるか、親族、特別関係者の贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる事由は何であるか等に関する説明がないから、本件決定通知書の附記理由は法の期待に応えておらず附記理由がないに等しいというべく、違法無効である。
なお、他の税法が、青色申告を更正する場合以外には、課税処分の通知書に理由を附記すべきことを命じていないということは本件に関係がない。また昭和三七年法律第六七号により、相続税法三六条の規定が削除されたことは、それ以前になされた本件処分に関係がない。
(2) 本件処分の理由附記についての瑕疵は、原告の再調査請求に対する被告の決定に係る通知書に附記された理由によつて治癒されることはない。すなわち行政処分の違法性判断の基準時が処分時であることは当然であり、もし右のようにして瑕疵が治癒されるものとすれば、決定または更正には法の要求を充たさない簡単な理由を附記し、再調査または審査請求があつたもののみにつき法の要求を充たす程度の理由を示すような税務行政が行なわれても、これを否定できないことになり、理由を附記すべき法の趣旨に反することとなることが明らかであるからである。したがつて、原処分の理由附記が不十分であつても再調査決定の理由附記によつて治癒されると解するのは誤りであるといわねばならない。のみならず、更正または決
定が課税権の行使による処分であるのに対し、再調査決定、審査決定は納税義務者または納税義務があるとされているものの権利救済の手続であり両者はその機能を異にするものである。再調査請求が処分庁に対してなされ、処分庁が再調査決定をなす制度のもとでは、再調査決定は、処分庁の自己反省という面を持つが、しかし、それは課税処分とは別個の不服審査庁としての機能の表現である。このことは、再調査決定や審査決定により、不服申立人に対して原処分を不利益に変更することがゆるされないこと、さらに原処分に対する不服申立てがあるにかかわらず、その処分の効力、徴収のための財産の差押等の処分の執行または手続の続行は妨げないことからみても明白である。したがつて、原処分庁の原処分の理由不備等の瑕疵を不服審査の手続において(かりに再調査決定においてでも)治癒せしめることはできない。
3 (調査の欠如)本件処分は、調査を行なうことなくされたもので、違法無効である。
(1) 相続税法六六条四項の規定に基づく贈与税の決定をするについては、税務当局の一般的な調査としてまず、当該法人に対する財産の寄附者はだれか、またいくら寄附したか、寄附者の特別関係者がいく人いるか、それらの者がその寄附によつて金額にしていくらの相続税の負担を不当に減少する結果となつたかが調査され、さらにそのような調査の結果えられたものが単なる期待可能の数値ではなく、現実的な数値であると確定されるのかどうか等のことが基準となつて決せられなければならない。しかるに、本件処分においては、昭和二八年に国税庁長官の通達(直資一四一)が発せられるや、税務署長は財団医療法人が設立認可を受けるために都道府県知事に提出した認可申請書を唯一の課税根拠資料として課税処分をしているのであつて、本件処分に当つて右資料以外の具体的な調査が行われていない。(2) また、原告その他財団医療法人の監督官庁である厚生省は、当時、財団の寄附行為中に消極的財産、つまり負債を持ち込むことを拒否するような行政指導を行なつており、積極財産と消極財産とを一括して財団医療法人設立のため寄附する方式では認可されず、寄附は積極財産に限られたのである。そして相続税法によれば、積極財産から消極財産を引いてなお残額があつて初めて相続税が課せられる場合がありうるにすぎないのにかかわらず、原告は相続税法の適用はない旨の行政指導を信用し、しかも積極財産の寄附しか認められないという行政指導の方針に従い、医療事業の永続性の確保のために財団医療法人として設立したのであるが、被告は、原告に対する寄附者らの消極財産についてなんら調査をした事績がない。4 (事実の誤認)本件処分は相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となることについての事実認定に誤認の違法がある。(1) 被告は、B、同C、同D以外の八名の理事が理事会に親睦の意味で出席したもので理事会において事業の運営管理について審議することは皆無に近く、右理事等の事業に対する関心がほとんどない実情であり、理事Dは設立当時二二才の若年であつたというが、原告の理事会においては事業の運営管理について審議がなされ、右理事等は事業に対して関心を有していた。このことは、原告の一一名の理事中同族関係者はC、Dの二名にすぎないところから十分推測しうるところである。また、右Dが若年であるという被告の趣旨が発言力が少ないという意味であるならば実質的には同族関係者は一名ということになり、ますますもつていわゆる私的支配が不可能であるということにならざるをえない。
(2) 被告は、私的支配が行なわれることが寄附行為の内容からうかがい知られるというが、しかし、原告の寄附行為六条二項、二三条、二六条の各規定から私的支配は不可能である。
(3) 被告は、原告の開始貸借対照表の負債の部に、前経営者故Aの生前の富士銀行より個人債務七〇万円を計上したことをもつて原告に私的支配の事実があるというが、右計上が仮に寄附行為に違反するものであるとしても私的支配のあらわれということはできない。すなわち、Aは昭和二八年一月二一日死亡し、その長男であるBが医療事業を承継して同年九月三日原告が設立されたのであるが、右の七〇万円はAが医療の事業資金として借り入れたものであるから、その返済が医療事業からなされても不当ではない。なお、右の七〇万円の債務の計上のほか開始貸借対照表の資産の部には納税貯金二、八六七円、社会保険未収入金一九万七五四九円五〇銭、生活保護法未収入金五万八九六二円五〇銭、一般未収入金四万五八二七円等が、また負債の部には未払薬品費一万九九五〇円、未払医療資材費一四九〇円、未払給料七万四〇〇〇円、未払諸経費一万九二三五円が計上されているのであつて、原告がBの医療事業の承継として発足していることが明らかである。
(4) 被告は、原告が原告の理事に対し損金経理による賞与の支給につき法人税の更正処分を受け、これにつき異議の申立てをしなかつたこと、原告が設立以来欠損状態であるのに賞与を支給したこと等の事実があることをもつて、原告に私的支配の事実があるという。しかし、原告の理事長B、常務理事同C、理事同Dに対する賞与を原告の損金として経理したことにつき更正処分があり、これに対し異議の申立てをしなかつたことは被告の主張のとおりであるが異議の申立てをしなかつたのは更正を適法として承認したものではなく、異議の申立て等のはんさな手数を避けるためにあえてしなかつたにすぎない。また、一般に、企業体の従業員の賞与は、賃金の一部を構成するものであるが、その企業体が欠損状態にあつても支払われるのが普通である。原告においては、その理事長Bが医師であつて、他の従業員に比してより技術的な労働力を原告に提供しており、常務理事同C、理事同Dも、他の従業員に比し同等あるいはそれ以上の精神的労働力を提供している。それゆえ、これら三人に対する賞与の支払いは実質的には賃金の支払いであつて、原告が欠損状態であつても支払われるべきである。それゆえ右三人に対し賞与を支払つたことはなんら私的支配を意味するものではない。
(5) 被告は、原告の社会保険診療収入がB個人名義の富士銀行坂本支店普通預金に振り込まれ、同預金からB個人の乗用車の購入代金が支払われ、また、同預金からBおよびその同族関係者の仮空名義預金と認められる同支店E外の名義の預金に振りかえられたこと、原告の基本財産である宅地、家屋につき前所有者A名義のまま放置していたことをもつて原告に私的支配の事実があるというが、原告の社会保険等の診療収入はすべて原告の帳簿に記載されており、収支は明らかにされている。被告主張の名義の預金口座があり、預金の振替操作があつたとしても、それは診療収入の隠ぺいを図るものでもなければ、診療収入を理事長等の私的支配下に置いたものでもない。また、原告の基本財産である宅地建物の所有名義がAの名義のままになつていても、すでに原告の基本財産として記帳処理されているのであるから理事長らの私的支配をうむおそれはない。
(反論)
被告は原告が租税特別措置法四〇条および同条の承認基準を定めた国税庁長官通達の承認基準に該当しないゆえをもつて相続税法六六条四項の不当に減少する場合に該当すると主張するが租税特別措置法四〇条は譲渡所得課税の規定であり、相続税や贈与税に関するものではない。しかも同法に規定するその他公益を目的とする事業を営む法人は、相続税法六六条四項にいうその他公益を目的とする事業を営む法人とは異なるものと解されるばかりでなく、財団医療法人は租税特別措置法四〇条にいうその他公益を目的とする事業を営む法人ではないから同法の規定に基づく譲渡所得の非課税の承認基準とは全く関係がない。したがつて、同基準に原告が該当しないとしても、それが直ちに相続税法六六条四項により原告に対し相続税または贈与税を課することを正当ならしめ、本件処分を有効ならしめるものとは考えられない。相続税法六六条四項にいう不当に減少する結果となると認められる場合かどうかは、原告の実状に照らし、合理的客観的に判断されるべきことがらであつて、被告主張のような基準についての通達にかかわるところではないのである。
第三 被告の答弁および主張
(答弁)
請求原因事実中、相続税法六六条四項が違憲無効であることおよび本件処分が違法無効であるとの点を争い、その余の事実を認める。ただし、原告の資産総額は一四六四万四、一四四円であり、また、原告が東京都知事の認可を受けた日は昭和二八年八月二二日である。
(主張)
一 相続税法六六条四項の規定は、憲法の定める租税法律主義に違反しない。(一) 相続税法六六条四項の公益を目的とする事業を行う法人がいかなるものであるかは、その時における法人の社会的実体を究明して判断すべき事柄であつて、そのような判断が税務官庁の裁量にゆだねられているからといつて、憲法の租税法律主義に反するとはいえない。けだし、租税法といえども、法律である以上他の法令と同じくその運用にあたつては、これを解釈し、具体的事件に適用しなければならないのであつて、それはまさに法の執行者たる行政庁の職責であり、憲法はこのことを行政権の行使に対して禁じているものではない。また、原告主張のように、納税義務者とされるものは、実定法上の熟語を借りて来なければならないとされているわけでもない。そもそも、行政権の行使に対して一義的な法の規制を加
え、法治主義の原則を徹底させようとすることは、理想論としてはともかく、現実の問題としては立法技術の面からする制約と行政が複雑かつ広汎な範囲にわたる国家活動であるという規制の対象の面からする制約から容易ではないことであつて、行政法規において概括的表現を用いた規定が多くみられるのも右のような理由によるものである。
してみると、原告の右の点についての主張は、つまるところ法令の具体的適用について行政庁の解釈を許さないとの立場をとるものであるか、または行政庁の解釈が不当であるというに帰する。もし原告の主張が、右の前者であるとすればそれは右に述べたところより正当とはいえずもし右の後者であるとすれば不当とする解釈に基づいてなされた行政処分の適否についてのみ司法権の判断を求めれば足りるのであつて、前記条項自体はなんら違憲とはいえないのである。
(二) 相続税法六六条四項の不当に減少する結果となると認められる場合とはいかなる場合をいうかについては、具体的事実につき判断すべき事柄であつて、そのような判断が税務官庁の裁量にゆだねられているからといつて、憲法の租税法律主義に違反するとはいえない。
原告は、不当および減少の概念が判然とせず、かつだれに対する関係において不当減少すると認めるかにつき明確性を欠いており、その判断を税務当局に白紙委任することは租税法律主義を建前とする憲法に違反すると主張するが、しかし、租税法についても、他の法律と同様にこれを具体的事件に適用するにあたり、その解釈をしなければならないことは法の執行者たる行政権の当然の職責であつて、憲法がこのことを行政庁に対して禁じたものでないことはさきに述べたとおりである。しかも、同条項の不当に減少する結果となると認められる場合と同様の規定の仕方は、同族会社の行為計算の否認に関する法人税法三一条の三第一項にもみられるところである。そして同条項に関してはすでに幾多の判例があらわれているのであるが、同条項がいまだかつて、違憲と判断されたことがないことからしても、右のことは容易に首肯できるところである。
(三) 相続税法六六条四項および一項、二項の各規定について、まず、原告は、同法六六条一項、二項代表者又は管理者の定めのある人格のない社団又は財団を納税義務者としているが、これが確定のためには、税務当局の裁量を必要とするから租税法律主義に反するのみならず、これらの社団または財団は財産を取得することはできず、財産権の主体とはなりえないから違憲無効であると主張し、したがつて右各条項を引用する同条四項の規定も無効であると主張する。 しかし、この種の社団または財団が訴訟上当事者能力を有し、その名において判断をうけうるものであることは明文をもつて規定されている(民訴法四六条)のであつて、これは、これらの社団または財団の社会的存在状態を直視した結果にほかならない。すなわち、それは、人格なき社団または財団といえども自然人、法人と同様に、一つの社会的単一体として社会的経済的活動を営んでいる以上、その名において権利を取得し、義務を負担する法律上の地位を保有するものと認めるべきであるとの根拠によるものであつて、社団法人、財団法人に準じ、人格なき社団または財団の実体私法上の存在と活動を容認しているのである。
ところで、相続税法律関係は、公法上の法律関係ではあるけれども、一般私人の私法上の法律関係を基礎とし、これを是認したうえで形成されるものであるから、実体私法上これらの社団または財団の存在と活動が容認される以上、これらを相続税法律関係の主体として把握することはなんら異とするに足らないのである。もちろん、いかなる社団または財団がこの種の社団または財団とされるかは、他の納税義務に関する規定と同様に法律解釈の問題に帰着し、終局的には、司法権によつて確定されるべきものである。
また、相続税法六六条一項、二項が無効でないことは右に述べたとおりであるのみならず、かりに無効であるとしても、そのゆえに同条四項が無効となるいわれはない、同条四項は、同条一項、二項を準用しているが、いうまでもなく、準用とは、一つの事項に関する規定を、他のこれと本質を異にする事項について(必要あるときは修正をしつつ)あてはめることであつて本質の同じものについてあてはめる適用とは異なる。したがつて、準用の場合には、準用する規定と、準用される規定との間にはその実質的内容においてはなんらの相関するところがない。すなわち、ある規定を準用するのは、主として立法技術上既存の規定の形式を利用して同じ形式の規定の繰り返しを避けるためにとる方法であつて、準用される規定の内容自体が準用する規定にあてはめられるわけではないのである。それゆえ、準用される規定の内容が仮りに違憲その他の理由で無効だとしても、その形式を借りてきた
準用する規定が無効とされるいわれはないのである。準用する規定が有効か無効かは、準用される規定の効力とは全く無関係に判断されるべきものである。(四) 原告は、もし原告のような医療法人に対し設立後財産の贈与等がなされた場合に贈与税の不当減少の結果が認められる場合は、医療法人は個人とみなされて贈与税等が課せられる一方、法人であるから資産増加を理由として法人税が課せられることとなり、このような二重課税は法の下に平等である憲法の原則に違反すると主張し、そのいわんとするところは、結局、一般法人に比較して財団たる医療法人が憲法に違反する二重課税を受けるような結果を生ずる六六条四項の解釈はこれを避けるべきであるというにあると解されるのであるが、まずいわゆる二重課税とは、いかなる概念であるかを判然とさせるべきであり、仮に原告の主張されるような場合が二重課税にあたるとしても、これをもつて直ちに憲法一四条の法の下の平等の原則を侵すものとはいえないから、被告主張のような解釈が許されないとすることはできない。
二 相続税法六六条四項は原告のような医療法人にも適用される。(一) 原告のような医療法人は相続税法六六条四項にいう公益を目的とする事業を行う法人に該当する。1 商法およびその他の法律の規定に基づく法人の種類は少なくないが、これを目的によつて分類すれば、営利を目的とする法人と、そうでない法人とに大別することができる。前者は、もつぱら構成員の利益を目的とし、したがつて団体の利益を結局構成員に分配するものでこの種の法人としては商事会社、民事会社がその顕著な例である。営利法人は、このように、もつぱら構成員の利益の追及を目的とするものであるから、たまたま営利法人がその活動によつて得た利益をたとえば慈善事業に寄附したとしても、これをもつて公益を目的とするとはいえないことはもちろんである。後者すなわち営利を目的とする法人でない法人は、これをさらに公益に関する法人と中間法人(公益に関する法人と営利法人との中間という意味においてこの名称を用いる。)とに分けることができる。公益に関する法人は、さらにつぎの二つにわけて考えることができる。すなわち、一つはもつぱら社会公衆の利益を図ることを存立の目的とし、営利を目的としない法人で、民法三四条の法人、宗教法人等がその例である。その二は、存立の目的が主としては構成員の私益に関するか(社団の場合)、一定の目的に捧げられた財産の運用に関するか(財団の場合)ではあるが、これらの私の利益がそれのみにとどまらず、ひいては社会の利益ないし繁栄に影響するところが大きいためにこれをもつて公益の目的を有するとせられるべきものである。商工会議所等はその例といえる。つぎに中間法人とは、労働組合または相互保険会社のように、同業者ないし同一の社会的地位にある者の間の相互扶助または共通の利益の増進を目的とする団体ないし公益と私益の中間的な事業を目的とする団体のうち法人格のあるものと定義することができる。そして現行法のこれらの法人に対する態度は、一般的にいつて公益に関する法人、中間法人、営利法人の順にゆるやかになつている。また、財団は営利法人たりえないこととされている。
2 ところで、相続税法六六条四項は、法人設立のため財産を提供しまたは法人に対し財産の贈与、遺贈または包括遺贈(以下贈与等という。)がなされた場合、一定の者の相続税、贈与税が回避される結果となることによる不公平な現象を防止するために設けられた規定であるが、右の法人中には、営利法人が含まれる余地はない。けだし、営利法人に対して贈与等がなされれば、必ず当該法人の社員または株主は、当該財産に対する出資分または株式を取得することになり、相続税または贈与税回避の問題は生じえないからである。右の立法趣旨と相続税法六六条四項の法人税法第五条第一項第一号または第三号に掲げる法人その他公益を目的とする事業を行う法人との文言によれば、同条項にいわゆる法人は、前記の法人分類中少なくとも営利法人および中間法人中公益性の少ない法人を除く法人はすべてこれを含めて規定しているものと解される。けだし同条項で公益を目的とする事業を行う法人の例として法人税法五条一項一号または三号に掲げる法人を挙げているが、これはさきに分類した法人中公益に関する法人であるか、中間法人中公益性の多いと認められる法人であるからである。そして、これらの法人をまとめて呼称するのに公益を目的とする事業を行う法人なる名称をもつてするのは奇異なことではない。けだしこれらの法人は公益に関する事項を大なり小なり存立の要素としていることはさきに述べたとおりであるからである。
3 公益を目的とする事業を行う法人が右に述べたようなものである以上、医療法人はこの中に入ることは明らかであり、医療法人が公益に関する法人に属する
か、中間法人に属するかはしばらくおき、営利法人に属しないことについては異論はないであろう。そして医療法人は、医療事業の非営利性をそこなうことなしに医療事業の経営主体に対して資金集積の方途を与え、近代的医療施設の建設維持を容易ならしめる目的で創設された制度であつて、医療事業がその性質上、公衆の日常生活に欠くことのできない公益につながる事業であるところから、医療法人を財団および社団としたうえ、これについて種々の法的規制を加えている(たとえば、剰余金配当の禁止(医療法五四条)、設立または定款、寄附行為の変更に関する行政庁の認可(同法四四、四五、五〇条)、決算の届出(同法五一条)、業務会計の報告(同法六三条)、業務停止、設立認可の取消し(同法六四、六六条)、解散、合併、残余財産の処分に関する行政庁の認可(同法五五、五六条)等)のであつて、これをさきになした分類にあてはめれば、公益に関する法人のうち、第二の類型に属するか、少なくとも中間法人中の公益性の大きい法人に属するものといえよう。 原告の主張によれば、医療法人は資金の収集および集積と事業の永続性を図る目的で制定されたもので医療行為の公益性とは関係ないというのである。しかし、もし、右のような目的のためのみであり、医療行為の公益性を顧慮する必要がないものであるならば、商法上の会社制度を利用すれば足りるのであつて、社団および財団形式の医療法人制度を新設する必要は全くない。けだし、会社制度は、まさに右の原告主張の目的に奉仕するために存在するものだからである。医療法人が特に必要とされたのは、原告の文言をかりれば、

商法上の会社とすることが、医療に対する伝統的な考え方からかんばしくない

からである。いいかえれば、医療行為は、本来その性質上営利の目的をもつてなされるべきものではないのであつて、医師が診療につき公法上の義務を課され(医師法一九条)、医療行為等について国の指示権に服し(同法二四条の二)、所得税につき減税措置が認められている(租税特別措置法二六条)ごときはそのあらわれの一端である。医療法人制度は、まさに右のような医療行為の公益性を卒直に認めたうえ、医療事業の現況に対処するため制定されたものであり、医療法人は、公益を目的とする事業を行う法人であると解すべきは当然である。もし、原告の主張の趣旨が、医療法人は一般経済人のごとく自己の利益の追及のみを目的とするものであるというのであるとすれば、それは医師、病院、診療所等の本分(医師法一条、医療法一条)に背致するものというべく、医療行為の本質を誤解したものといわなければならない。4 原告は、医療事業は所得税法および法人税法上、一般の収益事業と同列に置かれている点をとらえて医療法人は公益を目的とする事業を行う法人ではないと主張するが、しかし、このことと医療行為が税法上いかに評価されているかということとは別個の問題である。いうまでもなく、税法は、国家財政収入の大宗たる租税をいかなる範囲で賦課徴収するかを定めるものであるけれども、その決定は、法制一般および財政、金融、社会政策等各般の事情を斟酌してなされるのであるから、単に医療法人が法人税法上収益事業をなす法人と類似の取扱いをされていることのゆえをもつては、いまだ医療法人が営利法人であると称しえないのである。医療行為が本来的に公益目的的要素を含んでいるものであるとしても、医療行為自体が一定の対価を得てなされる以上、収益の発生は当然の帰結であつて、これが所得税および法人税の課税対象とされるべきことについて、一般の収益事業に対する課税政策となんら異なるべき根拠を見出すことはできない。医師または医療法人は右のような医療行為を一定の社会的活動として継続して行なつているものであるから、これを医業として把握し(所得税法九条)、収益事業の一種として理解する(法人税法一条、五条、同法施行規則一条の三)ことは当然である。税法は、医療事業を右のような事情に基づいて収益事業としているけれども、医療事業を営利事業としているわけではないのである。結局、被告において、医療法人を公益を目的とする事業を行う法人であると解することは、相続税法であると法人税法その他の税法であるとにより異にするものではない。ただ相続税法一二条一項三号、二一条の三第一項三号においては、公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものと規定しており、同法施行令二条、四条の三において、具体的にこの事業を限定しているので、同法六六条の適用範囲より狭くなる結果を招来しているにすぎない。
(二) 原告のような医療法人の設立のための財産の提供、または財産の贈与等は相続税法六六条四項にいう相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合に該当する。1 相続税法六六条四項の規定は、昭和二七年一月一日から施行されたものであるが、その立法趣旨は、個人がその財産の所有権を一定の者に帰属させることにより
通常であれば課されるべき相続税または贈与税の負担を回避することを防止して租税負担の公平を図ろうとするにある。すなわち、財産の使用収益から生ずる利益が直接または間接に提供者または贈与者等の相続人その他の同族関係者などが受けることとなると認められ、または当該財産が最終的にはこれらの者に帰属することとなると認められるにかかわらず、提供をうけ、または贈与等を受けた相手方が同族関係者以外の者であつて、しかもその相手方が当該財産についてなんらの課税を受けないとすれば、同族関係者は結局相続税または贈与税を回避する結果となり不公平であるので、提供または贈与等の段階で、それらの行為の相手方を個人とみなして、これに課税しようとするものである。ところが、これらの提供または贈与等の相手方が自然人である場合には、その者に相続税または贈与税を課することになつている。また、法人のうち、営利法人等公益を目的とする事業を行う法人でない法人が提供または贈与の相手方である場合には、当該財産に対応する出資持分が増加するので、増加した者に相続税または贈与税を課することができるから相続税等の回避の問題は生じえない。そこで公益を目的とする事業を行う法人をその対象とすることによつてこの問題を解決しうることとなるところからこの規定が設けられたわけである。
医療法人は、さきに述べたように公益を目的とする事業を行なう法人の一つであるから、医療法人は相続税法六六条四項に該当する法人であるといえる。しかし、医療法人の全部が相続税または贈与税の回避の結果をもたらしうるとはいえない。なんとなれば、医療法人には社団と財団の別があるが、出資持分のある法人であれば、相続税または贈与税の回避の問題を生じえないこと営利法人の場合と同じであるからである。そして財団たる医療法人は、出資持分の定めがないから相続税または贈与税の回避の問題が生ずることとなる。それでは、いかなる場合にこの問題を生ずるかであるが、本条項は、右に述べたように、提供または贈与等の行為をした者の同族関係者のいわば私的支配が行なわれているのにかかわらず相続税または贈与税が課税されない不公平を除去するのが目的であるから、右の私的支配が行なわれていることが要件となる。この要件を充たす事実としては、たとえば、①定款または寄附行為に解散の場合の残余財産の帰属について国または地方公共団体に帰属する定めのないもの、②理事または社員もしくは評議員のそれぞれの総数の二分の一をこえる者が提供者もしくは贈与者等またはその同族関係者であるもの、③医療法人の運営の方式から見て、提供者もしくは贈与者等またはその同族関係者と完全に分離していないと認められ、かつこれらの者に特別の利益を与えていると認められるもの等を考えることができる。
2 原告は、寄附財産は同族関係者らに帰属する可能性がなく、仮にその可能性があるとしても未来の問題であつて現在の問題として取り扱うことは不当であると主張するが、しかし被告が寄附財産がいわゆる同族関係者らに帰属する可能性があるというのは、結局相続税法六六条四項所定の要件事実が法人に対する財産提供当時充足されていることの一つの根拠と認められるものであるということであつて、現在の事実と未来の事項とを混同しているわけではない。そして、財産提供の当時の事情その他法人運営の状況からすれば、右可能性が十分に認められるという趣旨である。
また、原告は、いわゆる同族関係者らの相続税、贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるという以上、いわゆる同族関係者らを確定し、その課税財産、税額を確定的に明らかにすべきであると主張するが、原告の右主張は相続税法六六条四項を曲解していることによるものである。けだし、もし同条項がないとすれば、寄附財産がいわゆる同族関係者らのうちのだれかに贈与され、またはこれらの者が相続した場合には当然これらの者は額の多少を問わず贈与税または相続税を負担することとなり、これに対し、財産が原告のような医療法人に提供された場合には医療法人は贈与税を負担せず、いわゆる同族関係者らも原則として(相続税法六五条参照。)贈与税または相続税を負担しないこととなる。しかし、財産の提供および原告運営の実態からすれば、いわゆる同族関係者らが寄附財産の使用収益から生ずる利益を享受し、または最終的に寄附財産がこれらの者に帰属するような事実関係が認められるときは、結局何人も相続税または贈与税を負担することなく、同族関係者らが寄附財産を相続または贈与により取得したと同じ結果となる。したがつて、この二つの場合、すなわち、同族関係者らが贈与をうけまたは相続した場合と原告のような医療法人が財産の提供を受けた場合とを比較すれば、前者については相続税、贈与税が課され、後者についてはこれらの税が課されないこととなるので、両者の間に租税負担が不公平になることが明らかである。これに対処するた
めの規定が同法六六条四項の規定なのであるから、不当減少の結果が発生するということのために同族関係者らの税額等を確定することは必要ではないのである。(三) 原告は相続税法六五条一項および同法一二条一項、二一条の三第一項からみて、原告のような医療法人に同法六六条四項を適用する余地はないと主張するが、つぎの理由により右主張は失当である。
1 相続税法一二条一項三号、二一条の三第一項三号は、公益を目的とする事業を行なう者がその公益を目的とする事業の用に供することが確実なすべての財産を非課税財産としているわけではなく、公益を目的とする事業を行なう者のうち政令で定める者がその公益を目的とする事業の用に供することの確実な財産だけを非課税財産としているのであり、同条の委任を受けた相続税法施行令二条、四条の三は、その委任の趣旨を受けて、慈善、学術、宗教等社会通念上収益性のない事業、すなわち、もつぱら公益の事業を行なう者がその公益を目的とする事業の用に供する財産だけを非課税財産とする旨を規定している。したがつて、社会通念としても、現実問題としても、収益性をもつている医療法人の事業の用に供する財産が右非課税財産に当たらないことは明らかである。
2 つぎに、相続税法六六条四項の規定は、昭和二五年から設けられていた同法第六五条の規定だけでは防止することのできない相続税または贈与税の回避を防止するために、昭和二七年法律第五五号によつて追加されたものであるが、これらの規定の適用の順序については、同法六五条一項の第六十六条第四項の規定の適用がある場合の外との明文に照らしても明らかなように、まず同法六六条四項の規定の適用の可否が問われるべきであり、同条の適用がない場合にだけ、同法六五条の規定の適用の可否が問題になるのである。すなわち、これらの規定は、いずれも法人税法第五条第一項第一号又は第三号に掲げる法人その他公益を目的とする事業を行う法人を介在させることによつて行なわれる相続税または贈与税の回避を防止するために設けられている規定であるが、同法六五条の規定は、それらの法人が同条に規定する特別の関係がある者とは一応別の実在者としての実体をそなえており、贈与または遺贈された財産は一応実質的にもその法人に帰属し、贈与または遺贈された財産全部が実質上特別の関係がある者によつて支配されているわけではないが、法人がその定款または内規等によつて特別の関係がある者に贈与または遺贈された財産から特別の利益を与えているような場合に贈与者または遺贈者から直接特別の関係がある者にその特別の利益が贈与または遺贈されたものとみなし、その特別の利益について受益者に課税をしようとするものであるのに対して、同法六六条四項の規定は、右法人が同条に規定する特別の関係がある者と別個の実在者としての実体を備えておらず、贈与または遺贈された財産が実質的には全然贈与者または遺贈者の相続人の支配を離脱していないとか、贈与者または遺贈者の相続人以外の特別の関係がある者が贈与または遺贈された財産を実際上包括的に支配しているような場合に、個々の受益関係についてではなく、贈与または遺贈された全財産についてその法人に課税をしようとするものである。それゆえ、同法六六条四項の規定が適用された場合に、なお個々の受益関係に課税することは二重課税となるので同法六五条では前記のように第六十六条第四項の規定の適用がある場合が除外されているのである。また、同法六六条四項の規定が適用されるのは相続税または贈与税を不当に減少する結果となる場合だけであるから、法人税法第五条第一項第一号又は第三号に掲げる法人その他公益を目的とする事業を行なう法人のなかでも持分の定めのない法人についてだけ適用があることになるが、同法六五条の規定にはそのような限定はないから、持分の定めの有無にかかわりなく適用の余地があるわけである。さらに、同法六六条四項には、

設立者、社員、理事若しくは監事、当該法人に対し贈与若しくは遺贈をした者

が入つていないので、それらの者の受益については同法六五条だけが問題となる。
(四) 原告のような医療法人に対して相続税法六六条四項を適用しても信義則または禁反言の原則に違反しない。
1 原告主張のように昭和二七年に相続税法の一部改正が行なわれ、ついで昭和二八年には国税庁長官通達がなされて原告のような医療法人を設立するための財産の提供または財産の贈与等があつた場合には医療法人に対して贈与税または相続税が課税されることとなつたところ、このことをもつて原告は信義則または禁反言の原則に反すると主張するが、しかし、課税処分にいわゆる信義誠実の原則または禁反言の法理をどの程度適用しうるかは甚だ問題であるばかりでなく、昭和二七年の法律第五五号による相続税法の一部改正等は、つぎに述べるように、決して原告主
張のような意図や経過によつて行なわれたものではない。まず、医療法人という特殊な法人を認めることによつて私的な医療事業の経営主体に容易に法人格を取得する途を開いた昭和二五年の医療法の一部改正は、主として私人による病院建設等のための資金の集積を容易にするために行なわれたものであり、医療事業に対して特別な租税負担の軽減を与えることを目的として行なわれたものではない。また、この改正によつて、国民が期待していたのは、数人以上の開業医の共同出資等による名実ともに出資者個人とは截然と区別された強力な経営主体の出現であつて、医療事業の実態をそのままにしておいて相続税等の租税負担だけを免れさせることは同改正法の本旨とするところではなかつた。もつとも、同法立案の当局者らは病院の永続性を保たせることをもその目的の一つに挙げていたようであるが、病院が法人格を取得する結果、出資者ないしは経営者個人の財産とは別の存在となることを期待したもので、これをもつて開業医個人の財産保持に特別な便宜を与えようとした根拠とすることはできない。また、原告は、政府委員の説明を援用しているが右説明の趣旨とするところは、当時の相続税法の下では経営主体が法人格を取得しているかぎり、当然その法人の所有に属する財産については出資者、経営者の死亡によつては、相続税の問題は起こらないことになるという結果を説明したにすぎないものであつて、医療法人制度が相続税の負担を免がれるためにのみ利用されることを是認したり、あるいはそのために重大な課税の不公平が生ずるにいたつても相続税法の改正等は絶対に行なわないことなどを約束する趣旨では決してなかつたのである。
2 しかるに、この医療法によつてその後に設立された医療法人のなかには、当初の期待に反してその実体が個人の開業医時代のそれとなんら異なるところがなく、法人格は相続税を免れるための形骸として利用されているにすぎないものが多かつたので、すでに述べたような重大な課税上の不公平を生ずるにいたつた。そこで、このような新しい事態に対処し、医療法の本来の趣旨に沿わない医療法人等による租税の回避を防止し、課税の公平を回復するために、国民の総意(国会の議決)に基づいて相続税法の一部改正が行なわれたものであり、この改正は、まことにやむをえない合理的な立法措置というべきものであつて、もとより医療法の一部改正の趣旨に反するものではない。そして、右相続税法の一部改正規定は、昭和二七年一月一日以後に設立された医療法人等に適用されることになつた(附則一項)が、国税当局においては、数次にわたる通達や説明会を通じて、同規定の適用範囲等の周知徹底をはかるとともに、それまでの間に設立された医療法人等については相続税または贈与税の負担を不当に減少させることにならないように組織を変更すること等を条件として、同規定の立法趣旨に反しない限度で、若干の特別措置を認めて、不用意な医療法人の設立等によつて思わぬ課税を受けることのないように行政指導したのである。
三 本件処分は、つぎのように適法である。
(一) (消滅時効について)原告は、本件処分が消滅時効完成後に行われたもので違法であると主張するが、原告の主張は消滅時効の起算点を誤つている。 租税債権(いわゆる抽象的租税債権)の消滅時効は、特別の規定が存しない以上、国が権利を行使しうる時から進行するものと解すべきである。そして本件贈与税についての租税債権の消滅時効は、本件贈与の行なわれた昭和二八年九月三日(原告設立の日)の属する年の翌年二月末日である申告期限(相続税法二八条昭和二八年法律第一六五号改正参照)の翌三月一日から起算し、これから五年(会計法三〇条参照)以内である昭和三四年二月末日の経過によつて消滅するものである。けだし、贈与税の課税標準および税額の算定は一歴年の経過によつてなされることに定められているから(同法二一条の二等参照)、租税債権もこの時に発生すると解すべきであり、しかも申告納税制度を採用していることから権利の行使ができるのは申告期限の経過後であるからである。したがつて、本件贈与に係る贈与税の法定申告期限である昭和二九年二月末日の翌日から五年以内である昭和三四年二月二三日にした本件処分は適法である。
(二) (理由附記の点について)原告は本件処分の通知書に理由附記が不備である旨主張する。
なるほど、昭和三七年法律第六七号による改正前の相続税法三六条は、

税務署長は、第三五条の規定により課税価格又は………贈与税額を………決定した場合においては、その理由、………を附記した書面により、これを納税義務者に通知する

と規定していたが、しかし贈与税の決定は、一定の申立てに対して決断を行なう判決や審判的な行政処分とはその性質を異にするし、青色申告の更正とは違い、
贈与税の決定を行なうには、その手続や認定の方法に格別の制約は設けられていないから、その決定通知書に附記すべき理由は、判決書や青色申告者に対する更正通知書に記載すべき理由と同様に課税標準額等の認定根拠などを示すものではなく、また、相続税、贈与税が所得税や法人税のように一定期間内のすべての所得の総体が課税対象となるものではなく、相続等による財産の無償取得という特定の事実に基づいて発生するものであることから当該課税処分の対象となつた相続等を特定する程度で足りるものと解される。したがつて、本件の場合、本件決定通知書に記載されていたように、適用法条(相続税法六六条)を摘記するだけで原告の設立に際して原告が無償で財産を取得したことに対する課税であることを知りうるのであるから、法の要求を最少限度満たしているものということができる。仮に、右のように適用法条を摘記するだけでは相続税法の要求を充足しているとはいえないとしても、他の税法が、本件処分がなされた当時においてもまた現在においても青色申告を更正する場合以外には課税処分の通知書に理由を附記すべきことを命じてはいないこと、および相続税法の右法条が後(昭和三七年)に削除され、贈与税の決定通知書に理由を附記することは必要ではなくなつたことから考えて、贈与税の決定通知書の理由の不備は、それだけでは同決定を取り消す理由とはならないというべきである。また本件決定通知書自体に記載せられていた理由は不備であつたとしても、同決定についての再調査請求に対する決定の通知書には、詳細かつ具体的な理由が記載されていたのであるから、本件処分の右の瑕疵はこれによつて治癒せられたものと解するのが相当である。
(三) (調査の欠如について)原告は本件処分が何らの調査もなされずにされたもので違法であると主張するが、被告は本件処分をするに先たち、すでに述べたように相続税法六六条四項を追加して医療法人等に対し贈与税を課税することとした同法の一部改正法の施行およびその取扱を定めた国税庁長官通達が発せられるや、その対象となる医療法人等に対して数次にわたる説明会を行つて同項の規定により贈与税または相続税が課税されることとなる場合の具体的範囲等の周知徹底を図るとともに、右場合に該当する医療法人等についても組織の変更等を条件として同規定の立法趣旨に反しない限度で若干の特別措置を認めて不用意な医療法人の設立等によつて思わぬ課税を受けることのないよう行政指導をしたのであつて、すでに右行政指導の段階において原告に対する調査が行われたというべきである。したがつて原告の右主張は失当である。
(四) (原告に対する財産の提供が相続税等の不当減少となると認定した根拠)原告の設立のためにされた財産の提供が提供者およびこれと特別の関係ある者の相続税または贈与税の負担を不当に減少する結果となると認定した根拠はつぎのとおりである。
1 原告は医療法人財団として昭和二八年八月二二日東京都知事の認可を受けてたのであるが、この設立のために左記の財産の提供を受けた。
<略>
被告は、右のうち故A(昭和二八年一月二一日死亡)からの寄附については同人の昭和二八年一月一七日付遺言状を確認したうえ同人による遺贈として、またBからの現金三〇万円の寄附については医療法人の設立にあたり行なわれたものとして課税したのである。
2 ところで、原告の医療事業の実体は、亡A個人の開業医時代となんら異なるところがなく、同人が原告に遺贈した財産も、原告の代表者となつたB(右Aの長男)ほかの相続人に他の相続財産とともに事実上承継された。そして原告に本来寄附された財産は寄附行為および設立当初の財産目録によると病院の建物一〇一一万一、二〇〇円とその敷地二五二万八、七〇〇円および機械、什器、備品一七万七八〇〇円と現金三〇万円であるが、原告の開始貸借対照表に計上されている資産および負債は右寄附財産の内訳とは一致していない。また、設立時の原告の役員は、つぎのとおりである。理事長B(Aの長男)常務理事C(Aの妻)同F(法人設立前土田病院の看護婦長)理事D(Aの次男)同G(Bの友人)同H(Aの友人)同I(Aの恩師)同J(Aの友人)同K(Aの友人)同L(Bの知人)同M(Aの知人)なお、昭和三二年九月現在においては、設立時理事のうちIの死亡により同人の妻Nが就任したほかは設立時と同様である。
3 原告は財産提供者およびその同族関係者の私的支配を受けている。(1) まず、原告の理事一一名の構成および内容等についてみるに、①理事のうちに理事の一人とその同族関係者が三名を占めており、しかも②そのうちのDは設立時は未だ二二才の若年であり、また③他の各理事は定時理事会に親睦の意味にお
いて出席する程度にすぎず、理事会の内容も事業の運営管理について審議されることは皆無に近く、事業に対する関心もほとんどない実情にあつた。したがつて、原告の運営、管理は理事長および同族関係者の意のままになされる恐が容易に考えられる。また、同様のことは、原告の寄附行為の内容からもうかがい知られるのである。
(2) 原告の財産提供者およびその同族関係者による原告の財産管理状況をみるに、①原告の寄附財産は、本来、積極財産のみから構成されるべきものであるにかかわらず、これに違反して、開始貸借対照表の負債の部に前経営者Aの生前における富士銀行よりの個人債務七〇万円が計上されていたこと(この債務は理事および後記架空名義の預金から逐次返済されている)、また原告は、理事長B、常務理事同C、同Dに対する賞与を原告の損金として計理したため法人税法上これを利益金の処分として更正された事実があり、これに対し、原告よりなんら異議の申立ても行なわれなかつたこと、そして、この賞与は、原告が設立以来ほとんど欠損状態であるというのに支給されたこと等原告の計理内容が理事長等の私的支配を強く受けていたことが窺われ、②原告の基本的財産である東京都台東区<以下略>の宅地および同町<以下略>に所在する家屋は同所有者のA名義のまま放置されていることは理事長等による私的支配を生むおそれが十分にあり、③Bは、昭和二八年三月一七日に開設した自己の個人名義の普通預金口座(富士銀行坂本支店)にその社会保険診療報酬を預け入れていたものであるところ、原告が設立された後も右口座をそのまま利用して原告の社会保険等の多額の医療収入を預入していたこと、一方、それからB個人の乗用車購入の月賦代金を昭和三四年四月三〇日に一万九二五八円、昭和三五年三月三一日および同年六月三〇日にそれぞれ二万六一〇〇円を支出したこと、また同銀行にはE、E、O、P等の架空名義の普通預金口座が設けられていて、右の富士銀行坂本支店預金口座に入金された原告の診療酬報等は随時にこれら架空名義の預金口座に振り替えられて医療収入の隠ぺいが図られたこと、さらに別途に医療法人土田病院長B名義、土田病院B名義およびB名義の普通預金口座を富士銀行坂本支店に設けて原告の医療収入をこれらの名義預金口座に預入し、これらの預金口座からB個人の支出が公私混同してなされたこと、さらに前記架空名義の預金との振替操作が頻繁に行なつていたこと等により原告の収支が理事長等の私的支配を強く受けたことが窺える。
たとえば、医療法人土田病院長B名義、土田病院B名義、B名義の各預金口座には、社会保険および健康保険等による診療報酬が預入されているが、これらの口座からE名義、E名義、O名義の各架空名義預金口座に振替が行なわれ、これらの預金口座からつぎのような私用のための支出がなされたり、あるいはさらに別の仮名定期預金への振替がなされている。そして、それらの定期預金に用いられた架空名義は後記定期預金関係架空名義一覧表記載のとおりの多数にのぼつている。(イ)E名義の預金口座から昭和二九年八月一〇日計一〇〇〇、〇〇〇円がEほか九名の定期預金として支出され、昭和三〇年三月一一日計一〇〇〇、〇〇〇円がEほか二九名の定期預金として支出され、昭和三二年七月二日五〇〇、〇〇〇円がEほか四名の定期預金として支出され、昭和三三年一〇月一日五〇〇、〇〇〇円がEの定期預金として支出されている。(ロ)E名義の預金口座から昭和二九年一〇月三〇日六四〇〇円が昭和雷工株式払込のため支出されている。(ハ)O名義の預金口座から昭和三五年二月二九日に一九、二〇〇円、昭和三五年八月一日、同年八月三一日および同年一〇月三一日にそれぞれ二六、一〇〇円が自動車月賦代金として支出され、昭和三五年一月三〇日四四〇〇〇円がA名義の東北電力株式払込のために支出され、昭和三五年一二月一七日三五〇〇円が八王子ゴルフクラブに支出されている。(ニ)P名義の預金口座には、前掲E名義の預金口座から昭和三四年九月二二日に九五、七〇〇円が振替入金されているが、それから昭和三四年一月三一日にA名義で東北電力の株式払込金二四、七五〇円、および昭和三五年一一月二二日に北海道電力の株式払込金二二、〇〇〇円が支出されている。(ホ)原告の理事長Bは、昭和三一年に新宿区<以下略>所在の家屋(本造瓦葺二階建住居公簿上の床面積九〇・三一平方メートル=二七坪三二)を借地権(約一六五・二八平方メートル=五〇坪)とともに取得しているが、その取得資金として昭和三一年一二月一〇日に、前掲Eの預金口座から一、〇〇〇、〇〇〇円およびE名義の預金口座から一、二〇〇、〇〇〇円をそれぞれ引き出している。
定期預金関係架空名義一覧表
(一) E関係

幸人、保一、謙次、次男、貞次、初枝、正子、敏子、重子、幸次、重次、作次、貞義、政司、道明、和子、光子、八重子、秋子、孝一、良雄、幸子、吾郎、市太郎、六郎、新一郎、悌一、幸司、太郎、泉、純一、順、光男、房義、昇一、芳一、金作、真水、力、栄、亮、晴枝、美咲子、和泉、淑子、鉄太郎、昌幸、敏、又兵衛、剛、日出夫、朗、シズ子、竜之助、浩春、京子、正義、寛十、隆志、萬里子、隆光、虎之助、裕見子、緑朗、慶之進
(二) O関係
一郎、正春、幸雄
(三) Q関係
元治、和子、良一、孝雄、貞子、政子、敏子、和子、幹子、末吉、光雄、昭男、伝、高子、恵美子、重雄、安男、五郎
(四) P関係
富久実、宏、昇、寛、章、武、潔、茂、均、宣、功
(五) R関係
一郎、伸一、雅枝、政之、博文、慶子
(六) B関係
貴美子、康子、富久子、多美子、富美子、元春
(七) S
(八) T、幸雄
(九) U
4 原告は、租税特別措置法四〇条、昭和三八年一〇月一二日付直審(資)二五号、直資一五八号国税庁長官通達に基づいて検討しても右通達の承認基準に該当しないことが明らかであるから私的支配の可能性がある。すなわち(1)医療施設については基準一の2の(1)の(イ)は総合病院ではなく、また同基準の(ロ)は設立時八五九・〇八平方メートル(二六〇、三三坪)でいずれにも該当しない。(2)役員等の構成について、基準一の3の(2)は一名であつて該当せず、同基準(3)は評議員制度がなく該当せず、また同基準(4)は特別関係者が一名をこえ(三名である。)該当しない。(3)役員会の運営について、基準一の4の(1)は役員2/3以上出席し2/3以上の議決を全部についてなされることとなつていないので該当せず、同基準(1)の(イ)も右と同じで該当せず、また同基準(2)は評議員の制度がなく該当しない。(4)解散時の場合の残余財産の帰属について、基準一の6は国もしくは地方公共団体または基準に合致した法人に帰属することとされていないので該当しない。
第四 証拠関係(省略)
理 由
第一 相続税法六六条四項とその趣旨、目的
相続税法(昭和二五年法律七三号。昭和四〇年法律三六号による改正前のもの。)六六条四項は、前三項の規定は、法人税法五条第一項第一号又は第三号に掲げる法人その他公益を目的とする事業を行う法人(第一項に規定する社団又は財団を除く。以下この項において同じ。)に対する財産の贈与又は遺贈に因り当該贈与者又は遺贈者親族その他これらの者と第六十四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合について準用すると定め、同項において準用する同条一項は

代表者又は管理人の定のある人格のない社団又は財団に対し財産の贈与又は遺贈があつた場合においては、当該社団又は財団を個人とみなして、これに贈与税又は相続税を課する

と定め、また同条二項は

前項の規定は、同項に規定する社団又は財団を設立するために財産の提供があつた場合について準用する

と定めている。 右相続税法六六条四項の趣旨とするところは、公益法人等を設立するための財産の提供があり、または公益法人等に財産の贈与もしくは遺贈があつた場合において、その財産の提供者、贈与者または遺贈者の親族その他これらの者と特別の関係のある者が当該公益法人等の施設の利用、余裕金の運用、解散した場合の残余財産の帰属等についての一切の権限を有し、財産の提供、贈与、遺贈により法形式としては当該提供、贈与、遺贈に係る財産の権利は公益法人等に移転するにもかかわらず、これらの者が当該提供、贈与、遺贈の後においても実質的に当該財産を管理して、あたかも公益法人等が当該財産の名義上の権利者たるにすぎないようなときは、実質的にはこれらの者が当該財産を有していると同様の事情にあるにかかわらずこれらの者には相続税または贈与税が課されず、相続税または贈与税の負担に著しく不公平な結果を生じることとなるので、右のようなこれらの者の相続税、贈与
税の回避を防止しようとするにあつて、このような場合において、一般に相続税または贈与税は相続税法六六条四項の適用がある場合を除いては個人が個人からの財産の無償取得に対してのみ課税されることとなつている(相続税法一条、一条の二、二一条の三第一項一号参照)ので、立法の技術として右公益法人等を個人とみなし、公益法人等に対し財産の提供、贈与、遺贈があつた時に当該公益法人等に対して相続税または贈与税を課税することとしたものと解せられる。したがつて、もし公益法人等に対する財産の提供、贈与等があつても、定款または寄附行為の定め、当該法人と提供者と贈与者等またはその親族その他特別関係者との関係、公益法人等の施設、資金の運用等の重要事項の決定、解散した場合の残余財産の帰属等の事情からみて提供、贈与等に係る財産が実質的にもこれらの者らの支配を脱し、これらの者に利益を享受せしめることがないような場合においてまで公益法人等に課税する趣旨でないことはいうまでもない。
もつとも、右のような公益法人等に提供された財産等については、税法のいわゆる実質課税の原則を適用して法人格を否認した上、財産の提供者、贈与者が死亡し相続が開始した際にその相続人等に対し、または遺贈者の親族に対して提供、贈与または遺贈に係る財産の価額等を標準として相続税または贈与税を課すれば足り、相続税法六六条四項のような規定の必要性は認められないという見解もありえようが、右いずれによるかは立法政策に帰するというべきである。けだし、法人格を否認し、各提供または贈与に係る財産について提供者または贈与者が死亡して相続が開始した際に課税することは課税対象となる財産の帰属が明瞭でなくなつてしまつており課税対象の把握が困難であるばかりでなく、右のような場合についてまで法の規定をまたないで実質課税の原則を適用して法人格を否認するのは妥当でないので、結局課税するとすれば提供または贈与の時に公益法人等に対し課税する方法による以外にないであろう。
第二 相続税法六六条四項が憲法の租税法律主義に違反するとの主張について一 相続税法六六条四項が租税法律関係をあらたに設定する規定であることは同条項の前記(第一)趣旨に照らし明らかである。ところで憲法八四条は、

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律に定める条件によることを必要とする

と規定し、租税法律主義の原則を宣明しているところ、租税法律主義は、課税要件を法定することにより行政庁の恣意的な徴税を排除し、国民の財産的利益が侵害されないようにするためのものであつて、租税法律主義の原則から課税要件はできるだけ詳細、かつ、明確に法律または法律に定める条件により定められることが要請されるのであるが、税法の対象とする社会経済上の事象は千差万別であり、その態様も日日に生成、発展、変化している事情のもとではそれらの一切を法律により一義的に規定しつくすことは困難であるから、税法においては既定の法概念にとらわれず社会経済の実態に即応する用語を使用することも避けられないといわなければならない。もつとも、税法において使用されている用語の概念が多義的であるとしても、右に述べた租税法律主義の精神に鑑みその用語の解釈適用にあたつては合理的、かつ、客観的にこれをしなければならず、類推適用など拡大解釈が許されないことはいうまでもない。ところで、二 原告は相続税法六六条四項の公益を目的とする事業を行う法人という規定は、はなはだ明確を欠き、その適用につき税務官吏の裁量を介入せしめることとなるので憲法八四条に定める租税法律主義の原則に違反すると主張するので、案ずるに、同条項は、その他公益を目的とする事業を行う法人という用語を使用しており、右用語は実定法上必ずしも一般化されているとはいえず、その内容を類型的に把握することは困難であり、また税法上の用語をできるだけ分かりやすくすることは国民的要望であるというべきであるが、同条項で右公益を目的とする事業を行う法人の例示として掲げる法人税法五条一項一号または三号(日本赤十字社、商工会議所等、民法三四条の法人、社会福祉法人、宗教法人、私立学校法六四条四項により設立した法人、労働組合等)のほか、右と類似する法人が特別法により設立されたものを包含させたのは同条項の前記(第一)の趣旨目的を達成するためであつて、右の趣旨目的を達成するためには既成の法概念にとらわれず、その他公益を目的とする事業を行う法人なる用語を使用するも、けだし止むをえないところであるといわなければならない。
三 また、原告は、相続税法六六条四項の親族その他これらの者の第六十四条第一項に規定する特別の関係のある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合かどうかの判断は課税標準に関する事項が税務官吏の裁量に委ねられるものであるから、かかる規定は租税法律主義に違反し無効たるを
免れないと主張するので、案ずるに、同条項が租税回避を防止するため、あらたな租税法律関係を設定する規定であることは前記のとおりであるところ、公益法人等の役員の構成、施設、資金の運用、管理およびこれらの重要事項の決定、解散した場合の残余財産の帰属(民法七二条、医療法五六条)等が多様であり、当該公益法人等に対する財産の提供、贈与等によるその提供者、贈与者またはその親族等の相続税、贈与税の回避行為の態様も多種多様であることから右のような用語を使用することも、けだし止むをえないというべきであり、右条項に該当する結果となるか否かは、税務官吏の裁量に委ねられるものではなく、当該公益法人等と右提供者、贈与者等またはその親族その他の特別関係者との関係、当該法人運営および財産の管理の実態等に照らして、合理的かつ客観的に決せられるべきである。すなわち、たとえば公益法人等に対し財産の提供・贈与等があつたにかかわらず、右法人の定款もしくは寄附行為の定めまたは右提供者、贈与者等およびその親族等が理事その他の役員として公益法人等の施設、資金の運用、管理およびこれらの重要事項を決定するなど実質的には提供者、贈与者等が提供、贈与等にかかる財産の使用収益上の利益を享受し、右提供者、贈与者等の死亡後はその親族等相続人が右の利益の享受を承継することとなるような場合には、公益法人等への財産移転の過程を経ることによつて、しからざる場合に比し相続税、贈与税の課税を回避するものと解せられる。
四 なお、原告は四項において準用する一項および二項は代表者または管理者の定めのある人格のない社団又は財団を納税義務者としているが、これが確定のためには、行政庁の裁量が必要となり、また人格のない社団又は財団は財産権の主体となりうるものではないから、これに対し贈与税または相続税を課することは租税法律主義に反し違憲たるを免れず、したがつて、これらの規定を準用する同条四項もまた違憲無効であると主張するが、法において準用する旨の定めは同一規定の繰返しをさけるための立法上の技術にほかならないものであるから、したがつて準用される相続税法六六条一項、二項が仮に違憲無効であるとしても、これがため当然にこれらの規定を準用する同条四項までが違憲無効となるものでないことはいうまでもない。
五 以上のとおりであるから、相続税法六六条四項の規定が憲法八四条に定める租税法律主義に反するとの原告の前記主張は理由がないといわなければならない。第三 医療法人には相続税法六六条四項が適用されないとの主張について一 原告は、医療法人は相続税法六六条四項の公益を目的とする事業を行う法人に該当しないと主張するので、この点について検討する。(一) 相続税法六六条四項に規定する公益を目的とする事業を行う法人とは、同条項が当該法人の例示として民法三四条の規定により設立された法人、日本赤十字社、商工会議所、社会福祉法人、宗教法人、私立学校法六四条四項の規定により設立された法人、労働組合、国家公務員または地方公務員の団体等を掲げており、民法にいわゆる公益法人と特別法により設立された公益的法人を含むことにかんがみると、それらの法人の行う事業がいずれも公益性をもつ点に看目して設けた法人の包括概念と解するのを相当とする。
この点について、原告は、労働組合または公務員の団体の行う事業は公益性を有するものではない旨を主張するが、労働組合等の行う事業は労働条件の維持改善その他労働者の経済的地位の向上という労働者共通の利益のために行われるものであるから、かかる事業も一種の公益を目的とする事業であると解するを妨げないというべきである。
(二) ところで、医療法人は病院または診療所を開設経営することを主たる目的とし、これによつて医療事業を行うものであるところ、そもそも医療事業は、国民の健康保持のために不可欠なもので、その業務は直接国民の生命の保全、身心の健康等公衆衛生に深いかかわりをもつものであり、事の性質上利益の追及を第一義とするものでないことは多言を要しないところであるから、その事業は公益性をもつ事業というべきである。そして、すべての国民に必要な医療を確保するには、公的医療機関のみならず、民間医療機関の整備、充実が図られなければならないが、私人による病院または診療所の建設、設備の改善等は資金の面で多くの困難をともない、また個人経営の病院等については開業医の死亡により医療事業の継続に支障を来たすなど病院等の経営の維持継続が困難である事例がみられることから、資金の集積を容易ならしめるとともに事業の永続性を確保するため私人の病院等に法人格を与える必要性が認められていたところ、医療事業に法人格を附与するにあたり、これを商法上の会社とすることは前記医療の非営利法という点から望ましいもので
はなく(医療法七条二項)、他方すべての病院が民法三四条による公益法人たる資格を取得することも期待しがたいので、かかる医療事業の特殊性にかんがみ医療事業について特別法(医療法)による特別の法人(医療法人)の制度が設けられたものと解せられ、医療法が、医療法人は社団または財団の形態をとるものとし(同法三九条)、剰余金配当の禁止(同法五四条)、設立、定款、寄附行為の変更に関する行政庁の認可(同法四四条、四五条、五〇条)、決算の届出(同法五一条)、業務会計の報告(同法六三条)、業務停止、設立認可の取消(同法六四条、六六条)、解散、合併、残余残産の処分に対する行政庁の認可(同法五五条ないし五七条)等に関し種々の法的規制を加えているのも、医療法人の公益法を確保し、これが営利企業化することを防止するためと法人形態の社会的信用を確保するため一定規模の設備の維持、充実、組織内容の公示、行政監督の徹底を図る趣旨と解するのが相当である。したがつて、医療法人はいわゆる営利法人ではなく、さりとていわゆる公益法人そのものでもなく、いわば両者の中間に位し、むしろ公益を目的とする事業を行う法人に該当するものというべきである。
(三) 原告は、医療法人は財団または社団の形式をとつているがそれは形式が公益法人またはこれに類似する法人であるためであるにすぎず、これらの形式をとつたのは資金の蒐集事業の永続性確保という医療法人制度制定の歴史に由来するものであつて、医療事業の公益性によるものではなく、医療事業は営利を目的とする病院がそのまま法人格を取得したものにすぎないと主張するが、医療法人が資金蒐集事業の永続性確保のため法人格を認められた制度であることは前記のとおりであり、これらのことの確保は法人格を取得することによつて達成されるのであつて、法人格を取得することと事業の営利法とは本来関係のないことである。すなわち、医療法人が、法律上非営利的な特殊法人として設立を認められたのは、医療に対する国民の伝統的な感情から医療事業を営利法人とすることが好ましくないのみでなく、前記のように医療事業が国民の保健衛生上欠くことのできない公共性をおびていて、その性質上非営利的であるベきことに基づくものにほかならない。もとより医療事業により収益をあげることは可能であり、医療事業も収益事業と認められることがありうるけれども(法人税法施行規則一条の三第一項三〇号。昭和二二年勅令一一一号。昭和四〇年政令九七号による改正前のもの。)、公益法人等(法人税法五条一項)も収益事業を営むことはなんらその本質に矛盾するものではないのであるから、医療法人が収益事業を営むからといつて、そのことから直ちに医療事業を営利事業ということはできない。
また、原告は、個人の医療事業については相続税法上公益を目的とする事業でないとして同法一二条一項三号、二一条の三第一項三号は適用されず、所得税法もこれを営利事業としているところ、これが法人形態に変ることにより法律上公益性を附与されることはありえないし、また法人税法は医療法人を営利法人と同様に扱つているから、これを相続税法上公益法人に類似した法人とすることは租税体系上の矛盾であつて許されないと主張する。
しかし、医療事業がひろく社会福祉への貢献を目的とし、公衆の日常生活にとつて欠くことのできない公益性をおびていて、本来非営利的性質を有する事業であることは前述のとおりであるから、医療事業を営む者は相続税法一二条一項三号、二一条の三第一項三号の関係においても公益を目的とする事業を行う者に該当するというべきであるが、非課税の取扱いを受けることができないのは、これら条項の定める政令の要件をみたすことができないためにほかならず、相続税法上医療事業が公益を目的とする事業にあたらないからではないというべきである。 また、所得税法九条は医療事業から生ずる所得を事業所得として規定しているが、同法の事業所得は商業、工業、農業、医業、著述業等の一定の事業から生ずる所得をいうのであつて、同法上事業所得として規定されているからといつてそのことから直ちに医療事業が営利事業であるというのは相当でない。
さらにまた、公益法人等および公益を目的とする事業を行う法人が、公益目的遂行のために要する財源獲得の手段、ないしは公益目的の実現として収益事業を行うことは、なんら右法人の性質と矛盾するものではないと解すべきこと前記のとおりであるところ、医療法人は法人税法上非課税法人公益法人等以外の一般の普通法人として課税上は営利法人と同様の取扱を受けているけれども、それは前記のとおり医療法人の行う事業がもつぱら収益事業であるからにほかならず、医療法人が営利法人たる性質を有するからではなく、医療法人が営利法人と課税上同様の取扱いを受けているにしても、このことから当然医療法人の性格を営利法人と同じにみなければならないということもできない。

なお、原告は、医療法人に関する各種の法的規制は、日本銀行法、信託業法、保険業法、公益事業法、地方鉄道法にも存在し、これらの監督規定が存在するがゆえにその事業を営む法人を公益法人または公益を目的とする事業を行う法人ということはできない旨主張するが、これらの法律に定める監督規定はこれによつて規制を受ける法人の事業のそれぞれの性格、目的に応じて設けられているものであつて、その事業が営利性のあるものであるか非営利性のものであるかとは関係がないことはいうまでもない。
(四) 以上のとおりであるから、医療法人は相続税法六六条四項に規定する公益を目的とする事業を行う法人に該当しないとの原告の前記主張は採用できないといわざるをえない。
二 つぎに原告は、(一)医療法人に対する財産の提供、贈与等については相続税法六六条四項の財産の提供者、贈与者等およびその親族等の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるということはありえない、(二)仮に負担が不当に減少する場合がありうるとしても、財産の提供者、贈与者の親族のだれがそれらの者の相続人とみなされるのか、その課税財産、税額はいくらであるか等が確定的に明らかでない時点においては財産提供者等の親族その他特別関係者の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となるかどうかは判明しえないと主張するのでこの点について検討する。
(一) 相続税法六六条四項は前記のとおり、公益法人等に対し財産の提供・贈与等があつた場合において財産の提供者、贈与者またはその親族等が当該公益法人等の施設の利用、余裕金の運用、解散した場合の残余財産の帰属等につき一切の権限を有しているのと同様の事情にあるにかかわらずこれらの者に相続税または贈与税が課されず相続税または贈与税の負担が著しく不公平な結果となることを防止するものであるから、右の趣旨に照らし、まず、出資持分の定めのある法人については同条が適用される余地はないと解するのが相当である。けだし、財産の提供により出資持分の定めのある法人を設立した場合は、あたかも現物出資により株式会社の設立があつたと同様一の資本の払込であり、出資者の提供した財産は、出資持分に変形するのみで、自己の持分に対する支配権はその出資者にあるから、出資後その出資持分を他に贈与するかまたは相続がなされたときをとらえ贈与税または相続税を課税すれば足り、もし出資者が自己の出資に相応する持分を全部取得することなく、第三者をして取得せしめた場合にはその部分につき右第三者に財産の無償取得があつたものとして課税すれば足りるからである。また、すでに設立された出資持分の定めのある法人に対し第三者が財産を贈与または遺贈した場合において、それによつてあらたに持分を生じたときは右の場合と同様であり、あらたに持分を生ずることなく従前の出資持分の価額が増加したにとどまるときは、これをもつてその贈与等があつた時において、その出資持分を有する者が実質上その増加した部分に相当する金額の財産を法人に対し贈与または遺贈した者から無償取得したものと解され(昭和二八年一二月二五日直資一四一国税庁長官通達参照)贈与、遺贈のあつた時に右増加部分についても課税されることゝなるから、この場合も相続税、贈与税の回避の問題は生じない。しかして右の結果は財産の提供者もしくはこれと特別関係あるものと当該法人との関係の親疎、実質支配の有無等によつて左右されるものでないことは、事柄の性質上自明である。これに反し、出資持分の定めのない法人の場合は右と異なり、財産の提供または贈与等により該当提供、贈与等に係る財産は公益を目的とする事業を営む法人のものとなり、また、出資持分がないため持分の移転の際に相続税または贈与税を課するということはあり得ず、財産の提供者、贈与者等またはその親族等特別の関係のある者が右財産を実質的に支配している場合には、提供者、贈与者について相続が開始し、または親族等が当該財産を支配することとなつた際に、実質的に提供者、贈与者の相続人または親族等が右財産を取得したと同様の事情にあるにかかわらず、相続税または贈与税の課税権を行使しえないこととなり、提供者贈与者等またはこれらの者の親族その他特別関係者の相続税、贈与税の負担が不当に減少する場合を生じる場合もありうるというべきである。
(二) 相続税法六六条四項の財産の提供者、贈与者、その親族その他特別の関係がある者の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となるかどうかは、公益を目的とする事業を行う法人に対する財産の提供または贈与の時点においてその法人の社会的地位、評価、定款もしくは寄附行為の定め、役員の構成、収入支出の経理および財産の管理の状況等からみて財産の提供者、贈与者またはその親族等の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる事実が存すれ
ば足り、結果的にだれにどれだけの相続税の負担の減少をきたしたか確定的に明らかになる必要はないというべきである。なお、原告は相続税法六六条四項と同法六五条との関連において負担が不当に減少する場合はありえないと主張するが、同法六五条は、同条一項に該当する公益を目的とする事業を行う法人に対し財産の提供、贈与等があつた場合に、右の公益を目的とする事業を行う法人から同項にいう特別の利益を受ける者がその受ける利益を直接に右財産の提供、贈与等をした者から贈与を受けたものとみなして贈与税等を課する旨を定めたもので、同法六六条四項とはその適用を異にすることは明らかである。
(三) 以上のとおりであるから、医療法人に財産を提供し、または財産の贈与等をすることにより提供者、贈与者等およびその親族、これらの者の同族関係者の相続税または贈与税の負担が不当に減少することはあり得ないとの原告の前記主張は採用できないといわざるをえない。
三 原告は、医療法人に相続税法六六条四項の規定を適用するのは信義則または禁反言の原則に違反すると主張するので案ずるに、成立に争いのない乙第二一号証の三、原告代表者B本人尋問の結果によれば医療法人制度を新設するための医療法の一部改正案が審議された第七回国会厚生常任委員会において、厚生省医務局次長が政府委員として、右改正案提出の根本目的は、病院建設のための資金の集積を容易ならしめることと病院の永続性を保持することにあると述べ、後者の点については個人が開設をしておりまする病院につきましては、その開設運営をしております院長が年輩になりまして、その後継者に病院を譲ろうといたしました場合には、御承知の通り多額の相続税を賦課せられまして、そのために病院の経営の継続ができない、病院をやめてしまわなければならないというようなことが全国的にあちに起つておる実情でございます。こういう場合にも医療法人に組織替えをして置きますことによりまして、さような問題が解決するのではないかということも狙いました次第であります。とその提案理由を説明しており、亡Aが原告の設立を思いたつた理由の一つが、同人が死亡した場合に相続税の課税を免かれうるというにあつたことを認めることができるが、成立に争いのない甲第一、第二号証によれば、右厚生省医務局次長の医療法の一部改正案の提案理由の説明は、少なくとも相続税の課税に関する部分に限つては同省の一方的見解であつて、これにつき大蔵省から事前に了解を得ていたものではなく、大蔵省としてはすべての医療法人につき相続税もしくは贈与税が課税されないとする見解を採つていなかつたこと、東京都知事も医療法人の設立認可事務を処理したが、これにつき課税の点には全く考慮を払わず、まして医療法人の設立により課税を免かれうるというようなことを告げてその設立を勧奨もしくは指導したことが全くなかつたことを認めることができ、右認定に反する証拠はなく、他に厚生省をはじめとする国家機関が医療法人を設立することにより相続税もしくは贈与税を免かれ得るとしてその設立を勧奨もしくは指導したことを認めるに足りる証拠がないから、以上の事実によれば、医療法人に相続税法六六条四項を適用するも、これをもつて信義則または禁反言の原則に反するものではないと解するを相当とする。
右に関し、原告は医療法人に対し相続税または贈与税を課することは医療事業の永続性を図ることを目的とした医療法人制度の立法趣旨に反すると主張する。なるほど医療法人制度は、一方において医療事業の永続性を図る目的を有するものであり、従来個人の開業医による医療事業が相続税、贈与税の圧迫のため一代にして廃絶するにいたつた事例もあつたことは否定し得ないが、医療法人が事業の永続性を一目的とするといつても、それがためにいかなる場合においても相続税または贈与税を課さないこととしたものと解するのは相当でない。けだし、仮に医療法人に対して相続税、贈与税を課し得ないとするならば、個人の開業医は、その行う事業は医療法人と同じ医療事業であるにかかわらず相続税または贈与税を課されることとなつて租税負担の不公平を来たし、医療法人はたんなる租税回避のために利用せられるに過ぎないこととなるからである。
以上のとおりであるから、医療法人に相続税法六六条四項を適用するのは信義則または禁反言の原則に反するとの原告の前記主張は理由がないといわなければならない。
第四 本件処分には消滅時効、理由附記、調査の欠如、事実の誤認について違法があるとの主張について。
一 原告が医療法三九条一項の規定に基づき東京都知事の認可を受け昭和二八年九月三日設立された財団形態の医療法人でその資産総額は一三一一万七、七〇〇円であること、被告がこれに対し昭和三四年二月二三日相続税法(昭和二五年法律七三
号。昭和二七年法律五五号による改正後のもの。以下同じ。)六六条四項の規定により贈与税額六七〇万四、二五〇円の課税処分(本件処分)をし、あわせて利子税額四〇四万五、一九〇円、無申告加算税額一六七万六、〇〇〇円の賦課決定をしたこと、原告は昭和三四年三月二〇日被告に対し本件処分を不服として再調査請求をしたところ、被告が同年六月一九日これを棄却する旨の決定をしたこと、原告は昭和三四年七月一七日東京国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長が昭和三五年五月九日これを棄却する決定をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。二 (消滅時効について)原告は、本件処分は消滅時効完成後に行われた違法があると主張し、右主張は贈与税についての国の租税債権の消滅時効の起算日は財産取得の日である原告設立の日すなわち昭和二八年九月三日であることを前提として、本件処分は同日から五年の時効期間満了後の昭和三四年二月二三日になされたものであるから違法無効であるというのであるが、しかし、租税債権の消滅時効も権利ヲ行使スルコトヲ得ル時ヨリ進行スることはいうまでもないところ(民法一六六条一項、会計法三〇条参照)、相続税法は一歴年中に贈与により取得した財産の価額の合計額をもつて贈与税の課税価格とすることを定め(同法二一条の二第一項)、その申告納付についてはいわゆる申告納税制度を採用し、原則として納税義務者が贈与により財産を取得した年の翌年二月末日までに申告することとし(同法二八条一項参照)もし、申告期限までに納税義務者の申告がない場合には税務官庁がその調査により課税価格および贈与税額を決定(同法三五条二項参照)ことによつて納付すべき税額が確定することを建前としているのであるから、贈与税の租税債権は、右の申告期限を経過してはじめてこれを行使しうる状態になるものであつて、消滅時効の起算日も右法定申告期の翌日である贈与によつて財産を取得した年の翌年の三月一日であると解するのが相当である(昭和三九年(行ツ)第七五号最高裁判所昭和四二年二月二四日第二小法廷判決参照。)。しかるところ、原告が設立したのは前示のとおり昭和二八年九月三日であり、この際に原告が亡A、Bから寄附行為に基づく財産の提供を受けたものであることは当事者間に争いがないから右提供に係る贈与税の法定納期限は昭和二九年二月末日であるところ(相続税法二八条、三三条参照)、本件処分がなされたのは前示のとおり昭和三四年二月二三日であるから、右法定納期限から五年を経過していないことが明らかである。してみれば、本件処分は本件贈与税債権が時効により消滅した後になされたものではないので、前記原告の主張は失当である。
三 (理由附記について)本件処分の通知書に決定の理由として相続税法第六六条により申告義務があるにもかかわらず申告がないから決定すると附記されていたことは当事者間に争いがないところ、原告は、本件処分はその通知書に理由の附記がないから違法である旨主張するので、案ずるに、本件処分当時、相続税法三六条一項は、税務署長は贈与税額を決定した場合にはその理由を附記した書面によりこれを納税義務者に通知する旨規定していた(昭和三七年法律六七号により廃止)ので、理由の記載のない処分の通知は違法であることはいうまでもないがその附記すべき理由の程度については、当該処分の性質と理由附記を命じた法の趣旨目的に照らして決定されるべきところ、本件処分がなされた当時においては、課税処分をなすにあたりその決定通知書に処分理由を附記して告知しなければならないものとされていたのは、青色申告書について更正をなす場合(所得税法四五条二項、法人税法三二条)と相続税法三六条一項所定の場合だけであつたが、青色申告書について更正処分を行う場合に理由を附記するのは、青色申告書の提出は政府の承認を受けた法定の帳簿組織を具備し(所得税法二六条の三、法人税法二五条)、申告に係る所得の計算が右の帳簿組織による正当な記載に基づくものであることが担保されていることにより、その帳簿の記載を無視して更正されることがない旨を納税者に保障している(所得税法四五条、法人税法三一条の四)のであるから、その更正通知書に附記すべき理由も帳簿との関連においていかなる理由によつて更正するかを明らかにする程度のものでなければならないのであるが、これに対し相続税もしくは贈与税については、右のごとき申告に係る課税標準の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものであることを担保しうる制度がなく、しかも更正の場合に限らず、無申告の場合の課税決定の通知書にも理由の附記を要するとしているのであるから、青色申告書について更正をなす場合と同様の程度の理由の附記を要すると解するのは相当でなく、相続税または贈与税について更正または決定をする場合にその通知書に理由の附記を要することとした法の趣旨が一般の行政処分について処分の理由を被処分者に告知し、いかなる理由で当該処分がなされたかを了知させることが望ましいことであるということからのものと解されるので、その附記す
べき理由の程度は当該処分がいかなる理由でなされたかを了知しうる程度で足りるというべきである。これを本件についてみれば、前示本件処分に係る通知書に附記された理由は、原告が相続税法六六条四項に該当し、同項により納税義務が存すること、原告が申告義務を履行していないことおよび被告が右理由により本件処分を行なつたことを明らかにしているものというべきであるから、右記載をもつて同法三六条一項所定の理由附記の要件を充足していないものということはできず、同項所定の理由附記としては、右の程度の理由附記をもつて足りるものと解するを相当とする。したがつて、原告の前記主張は失当である。
四 (調査の欠如について)原告は、本件処分は調査を行うことなくなされたもので違法無効であると主張する。しかし、税務署長が更正または決定をなすにはその調査によつてなさなければならないことはいうまでもないところである(相続税法三五条二項)が、その趣旨とするところは、更正または決定がなんらの根拠となるべき資料もなくしてなされてはならないとするにあり、したがつて更正または決定をなすにつき、それに必要な資料が調査をなすまでもなくすでに収集されているような場合には、あらためて調査をなすことなく更正または決定をなしても、これをもつて違法事由とすることはできず、これに反し単に形式的な調査をなしなんらの資料も得られないままに根拠のない課税決定をなすことは許されないものというべきところ、本件において、成立に争いのない乙第一号証、乙第五号証の一ないし五、乙第一九、第二〇号証、原告代表者B本人尋問の結果によれば、本件処分のなされた昭和三四年二月二三日前の日である昭和二八年一二月二五日国税庁長官通達(直資一四一)が示達され、昭和二七年一月一日以後医療法三九条に規定する医療法人を設立するための財産の提供があつた場合または同日以後医療法人に対し財産の贈与もしくは遺贈があつた場合において、財産の提供者、贈与者または遺贈者の親族その他これらの者と相続税法六四条一項に規定する特別の関係がある者の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときは、同法六六条四項の規定により当該法人を個人とみなして贈与税または相続税を課税することとなつていることが明らかにされたこと、原告は昭和二九年六月三〇日相続税法六六条四項の規定による相続税または贈与税の課税を受けないため租税特別措置法(昭和二二年法律一五号。昭和三二年法律第二六号による改正前のもの。)一七条、同法施行規則(昭和二二年大蔵省令九九号。昭和三二年大蔵省令第一九号による改正前のもの。)二一条一項に規定する大蔵大臣の承認を申請したが、本件処分前の日である昭和三四年一月一二日に右申請が棄却されたこと、原告の被告に対する昭和二八年一〇月二〇日付法人設立申告書、東京都知事に対する同年六月二〇日付設立認可申請書には開始貸借対照表、財産目録、寄附行為等が添付されていて寄附財産の内容等が明らかになつていたことをそれぞれ認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠がないから、これらの事実によれば、被告は、少なくとも以上の事実を資料として本件処分をなすにいたつたものと認めるのを相当とし、したがつて、仮に被告が本件処分をなすにつきあらためて調査をなさなかつたとしても、すでに必要な資料を得ており、これに基づいて本件処分をなしたものというべきであるから、本件処分には原告主張のごとき調査の欠如による違法はないといわなければならない。
なお、原告は、被告が消極財産の調査をしなかつたことをもつて本件処分の調査の欠如を主張するが、原告に対する寄附が積極財産に限られ、消極財産はなかつたことは原告において自認するところであるから原告の右主張は失当である。五 (事実の誤認について)原告は、本件処分は相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となることについての事実認定に誤認の違法があると主張する。よつて案ずるに、
(一) 成立に争いのない甲第三号証の一、乙第一ないし第四号証、同第五号証の一ないし五、同第七ないし第一〇号証、同第一八、第一九号証、証人岩本親志の証言により真正に成立したものと認めることができる乙第六号証、同第一一ないし第一三号証、同第一四号証の一、二、同第一五ないし第一七号証、原告代表者B本人尋問の結果(ただし、後記の信用しない部分を除く。)によれば、つぎの事実を認めることができる。すなわち、
1 (役員の構成等)
設立当時における原告の役員は、理事長B(亡Aの長男)、常務理事C(通称C、以下Cという。亡Aの妻)、同F(原告の看護婦長)、理事D(亡Aの次男)同G(Bの恩師)、同H(亡Aの友人)、同I(亡Aの恩師)、同J(亡Aの友人)、同K(亡Aの友人)、同L(Bの友人)、同M(亡Aの友人)であつた(以
上の事実のうち、設立当時の原告の役員、B、同C、同Dの身分関係については当事者間に争いがない)。なお、その後Iが死亡し、これに代り同人の妻Nが理事に就任した。
ところで、右亡Aの同族関係者であるB、C、Dを除くその余の理事は、亡AもしくはBからの依頼を受けて理事に就任したものであつて、全く原告の管理運営等に関心もなく、これに関与することもなく、理事会に出席しても、それは単に親睦の程度であり、したがつて原告の管理運営等は、理事長であるBおよびその同族関係者のみによつて行なわれるおそれがある状態であつた。
2 (財産管理等の状況)
(1) 亡Aが原告に対して寄附行為により提供した財産は、積極財産に限られていたにもかかわらず、原告の開始貸借対照表の負債の部には亡A個人の株式会社富士銀行に対する債務七〇万円が計上されていた。(以上の事実のうち、亡Aが寄附行為によつて提供した財産が積極財産に限られていたことおよび原告の開始貸借対照表の記載は、当事者間に争いがない。)
(2) 原告は、理事長B、常務理事C、理事Dに対する賞与を損金に計上して法人税の確定申告をしたところ、右は利益処分であるとして更正を受けたがこれにつきなんらの不服申立てをしなかつた。また、当時原告は欠損状態であり、Bは医師として原告の医療業務に、DはBの命を受けて原告の経理業務にそれぞれ従事していたが、Cは原告の業務に関与していなかつた(以上の事実のうち、原告が法人税につき更正を受けたことは当事者間に争いがない)。
(3) 東京都台東区<以下略>宅地二〇一、五二坪(六六六・一八平方メートル)、同所および同所一九番所在家屋番号同町一六七番木造瓦葺三階建雑種家屋一階一一九・五三坪(三九五・一四平方メートル)二階一〇九・五三坪(三六二・〇八平方メートル)三階三一・二七坪(一〇三・三七平方メートル)は、亡Aが原告に寄附行為により提供したものであるが、現在に至るまでその旨の所有権移転登記が経由されていない(以上の事実のうち、亡Aが寄附行為により提供した土地、建物につきその旨の所有権移転登記が経由されていないことは当事者間に争いがない)。
(4) 原告の設立以前においてBが株式会社富士銀行坂本支店に開設していたB名義の普通預金口座に原告の設立後、原告の社会保険診療報酬等の多額の収入が預け入れられており、また、同支店に医療法人土田病院長B、土田病院B各名義の普通預金口座が開設されてこれにも原告の医療収入が預け入れられ、これらの預金口座から同支店にE、E、O、Pの各架空名義の普通預金口座に振り替えられ、これからさらにつぎのように他の仮空名義の定期預金への振替えおよび支出が行なわれている。すなわち、右のE名義の預金口座から①Eほか九名の定期預金へ、昭和二九年八月一〇日一〇〇万円、②Eほか二九名の定期預金へ、昭和三〇年三月一一日一〇〇万円、③Eほか四名の定期預金へ、昭和三二年七月二日五〇万円、④Eの定期預金へ、昭和三三年一〇月一日五〇万円、右のE名義の預金口座から①昭和電工株式払込み、昭和二九年一〇月三〇日六、四〇〇円、右のO名義の預金口座から①B個人の自動年月賦代金、昭和三五年二月二九日一万九、二〇〇円、同年八月三一日、一〇月三一日各二万六、一〇〇円、②亡A名義の東北電力株式払込み、昭和三五年一月三〇日四万四、〇〇〇円、③Bのため八王子ゴルフクラブへ、昭和三五年一二月一七日三、五〇〇円、右のP名義の預金口座から①亡A名義の東北電力株式払込み、昭和三四年一月三一日二万四、七五〇円、②亡A名義の北海道電力株式払込み、昭和三五年一一月二二日二万二、〇〇〇円
(5) Bは、昭和三一年一二月一〇日、Wから東京都新宿区<以下略>の三所在家屋番号同町一〇番二九木造瓦葺二階建居宅一階一七・一二坪(五六・五九平方メートル)二階一〇・二〇坪(三三・七一平方メートル)を二〇〇万円で買い受けているが、Bは右代金をみずから支払つておらず、これがどのようにして支払われたかを知らなかつた。
(6) 原告は昭和二九年六月三〇日大蔵大臣に対し租税特別措置法一七条、同法施行規則二一条一項に規定する承認申請を行なつたが、右承認は公益を目的とする事業を行う法人に対する財産の提供、贈与または遺贈があつた場合において提供者等またはその同族関係者の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果とならないと認められる場合にのみ与えられることとなつていたので、右申請はこれに該当しないとして昭和三四年一月一二日棄却された。
以上の事実を認めることができ、原告代表者Bの供述中右認定に反する趣旨の供述部分は前掲各証拠と対比してたやすく信用することができず、他に右認定を左右
するに足りる証拠はない。
(二) 右認定事実を総合して考えると、原告の経営の実態は、亡Aが個人として経営していた病院をその相続人であるBらが承継して従前同様に経営していたものであつて、原告が医療法人となつたことにより特に変化があつたとは認められず、原告はBおよびその同族関係者による私的支配を受けるおそれがあるばかりでなく、現にその事実があるというべく、右Bおよびその同族関係者の相続税または贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるので、かかる事実が存しないとする原告の前記主張は失当たるを免かれない。
第五 結論
以上の次第で、本件処分には原告主張のごとき違法はないから、原告の本訴請求は理由がないので、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。(裁判官 杉本良吉 中平健吉 仙田富士夫)

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