判例検索β > 昭和48年(行ウ)第116号
保育所設置費国庫負担金請求事件
事件番号昭和48(行ウ)116
事件名保育所設置費国庫負担金請求事件
裁判年月日昭和51年12月13日
法廷名東京地方裁判所
判示事項児童福祉法52条,51条2号,同法施行令(昭和48年政令第371号による改正前)15条1項,16条1号により,国庫が負担することとされている保育所の設備費用に対する負担金についての具体的な請求権は,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律6条による交付決定がなければ発生しないとした事例
裁判日:西暦1976-12-13
情報公開日2017-10-20 00:38:28
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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は原告に対し金四三八六万四九九五円及びこれに対する昭和四八年八月三一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言
二 被告
主文と同旨の判決
第二 請求の原因
一 原告の保育所設置及び費用の支出
1 原告は大阪府にある普通地方公共団体たる市である。
2 原告は児童福祉法(以下法という。)第三五条第三項の規定に基づき、大阪府知事の認可を得て昭和四四年から同四六年までの間別表(一)記載のとおり摂津、別府、香露園、正雀の四つの保育所(以下本件各保育所という。)を設置した。3 原告は本件各保育所の設備に要する費用として、別表(二)及び(三)の1ないし4記載の金額(合計金九二七二万九九九〇円)を別表(四)の1ないし4記載の時期にそれぞれ支出した。
4 本件各保育所は、いずれも、法第五一条第一号所定の入所に要する費用及び入所後の保護につき法第四五条の最低基準を維持するために要する費用につき、法第五六条第二項の規定によりその全部又は一部を本人及び扶養義務者が負担することができないと認められた児童(以下措置児童という。)を入所させるための保育所である。
5 原告が本件各保育所を建設するにあたつては寄附金その他の収入は一切ない。二 被告の費用負担
1 地方財政法第一〇条の二第五号は地方公共団体が実施する児童福祉施設(保育所を含む。)の建設に要する経費の全部又は一部を国が負担すべきものとし、同法第一一条はその負担割合は法律又は政令で定めなければならないとしている。そして、法第五二条、第五一条第二号、児童福祉法施行令(昭和四八年政令第三七一号による改正前のもの。以下同じ。以下法施行令という。)第一五条第一項、第一六条第一号は、主として措置児童を入所させる保育所の設備に要する費用に関しては各年度において市町村が支弁した費用の額からその費用のための寄附金その他の収入の額を控除した額(以下精算額という。)の二分の一を国庫が負担すべきものとしている。
2 右各規定によれば、市町村が法に基づき保育所を設置し当該保育所の設備に要する費用を現実に支弁した場合には(なお支弁とは終局的な費用負担の責任の有無を問わず一応費用を支出する行為をいい、市町村が第三者に対して実際に一定の費用を支出したときに支弁があつたというべきである。)、市町村は各会計年度終了時において当該年度中に支弁した設備費用につき、何ら特別の手続を要せずに直接右法及び法施行令の各規定に基づいて国庫に対し精算額の二分の一に該当する金額の負担金支払請求権を取得するものと解すべきである。したがつて、被告は原告に対し、昭和四四年度ないし同四七年度の各年度において原告が本件各保育所の設備に要する費用として前記別表(四)の1ないし4記載のとおり支出した各金額の精算額の二分の一に該当する金額を支払うべき債務をそれぞれ右各年度末の到来によつて負担するに至つたもので、右金額の合計金四六三六万四九九五円を支払うべき債務を負担している。
三 被告の一部支払
被告は原告に対し、右負担金の内金として、昭和四四年度に別府保育所につき金一〇〇万円、同四五年度に香露園保育所につき金一五〇万円合計金二五〇万円を支払つた。
よつて、原告は被告に対し、保育所の設備に要する費用についての国の負担金として、二の2記載の金額から右内金の額を控除した残額である金四三八六万四九九五円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四八年八月三一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三 被告の認否及び主張
一 請求の原因に対する認否
請求の原因一の1及び2の事実に認める。同一の3の事実のうち、本件各保育所の本工事費及び設計費の各金額は認めるが、その余は知らない。同一の4及び5並びに同二の1の事実は認める。同二の2は争う。同三の事実のうち、被告が原告に対し法第五二条の規定による負担金として原告主張の年度においてその主張の金額を支払つたことは認めるが、その余は争う。
二 被告の主張
1 国の負担金についての具体的な請求権は、以下に述べるとおり、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下適正化法という。)第六条所定の交付の決定(以下交付決定という。)の効果として発生し、同法第一五条所定の補助金等の額の確定があつた場合の確定額が当該請求権の金額となる。すなわち、(一) 適正化法は、補助金等(負担金を含む。同法第二条第一項参照。以下同じ。)の交付の申請(同法第五条。以下交付申請という。)に対する交付決定に条件を附加できること(同法第七条。以下交付の条件という。)、補助金等の交付の対象となる事務又は事業(以下補助事業等という。)を行う者(以下補助事業者等という。)が交付決定の内容及び交付の条件等に従つて補助事業等を行うべき義務を負うこと(同法第一一条第一項)、交付の条件等に従つて補助事業等を遂行すべき旨の命令、同命令違反に対する補助事業等の遂行の一時停止命令(同法第一三条)、一時停止命令違反に対する刑罰(同法第三一条第一号)、交付の条件等違反に対する交付決定の取消し(同法第一七条)、交付決定が取り消された場合の交付済み補助金等の返還命令(同法第一八条第一項)を規定する。以上はいずれも交付決定の効果にほかならず、交付決定は補助事業者等に補助金等をその交付の目的に従つて使用すべきことを義務づける性格を有する行政処分というべきであり、交付決定を経ることによつて補助金等の適正使用が法的に担保されることとなる。もし、原告主張のように交付決定な経ずに補助金等についての具体的な請求権が発生するものとすれば適正化法の前述の諸規定が適用される余地はなく、補助事業者等は、補助金等の交付を受けながら交付の条件を附されることがなく、また補助金等を適正に使用しなかつた場合にも制裁措置を受けることがないこととなり、不合理というべきである。
(二) 適正化法第一〇条は、交付決定後の事情変更により交付決定の取消し等ができる旨規定する。
これは、積極的に補助金等支出の資金効率を確保することを目的とし、不正不当の事実がなくとも交付決定の取消し等の措置を採り得る旨を定めているものであるが、右規定は交付決定の存在を前提としているから、交付決定がされていなければ、各省各庁の長は、右措置を採り得ないこととなり、したがつて、原告の主張は不合理というべきである。
(三) 適正化法第一八条第一項は前記のとおり交付決定が取り消された場合における交付済み補助金等の返還命令を、同法第二一条はこれを国税滞納処分の例により徴収できることをそれぞれ規定する。
これによれば、交付決定の取消しにより当該取消しに係る部分に関し、補助金等の交付の相手方の当該補助金等についての請求権が消滅するものと解される。すなわち、補助金等についての具体的な請求権は交付決定によつてはじめて発生し、その取消しによつて消滅すると解すべきものである。
(四) 補助金等に関する法律関係は毎年度大量に発生し、かつその内容は複雑であり、他方行政客体の平等取扱いが要請されており、また、財政の民主的統制と安定性の確保のための種々の財務会計制度の制約があることから、右法律関係については内容を明確にし、早期に安定させ、全体として統一を保つて処理していくことが要請されている。もし、補助金等に対する具体的な請求権が法の規定に基づき直接に発生し、その存続する期間中いつでも自由に行使できるとすれば、国は地方公共団体からの右請求権の行使に応ずるためにはんさな事務を大量にかかえることとなり、また大量の法律関係が長く不確定な状態で存続することとなり迅速、能率的かつ正確な行政という行政目的の達成が著しく困難となる。また、国の負担金支払債務の金額及び決済時期の予測が不可能となり国の予算編成に著しい支障を及ぼすことになるのみならず、あらかじめ当該目的でしか支出できないという拘束の下に作成することとなつている予算制度(財政法第三二条)そのものの意義が失われるし、会計年度独立の原則をとつている現行制度の目的達成が不可能となる。そこで、現行制度は上述のとおり補助金等についての具体的な請求権を行政処分たる交
付決定の効果として位置づけているものである。つまり、行政庁の判断たる交付決定の内容自身が補助金等についての具体的な請求権の内容を示すことにより法律関係の明確さ及び全体としての統一を確保し、当該請求権についての争いは行政処分についての争いとして各省各庁の長に対する不服の申出等(適正化法第二五条)という形で処理することにより法律関係の早期確定を可能にしている。しかして、社会福祉施設の整備について国の判断が交付決定という形で関与せざるを得ない実質的な必要性は、各年度の予算において他の施策との関連及び国家財政の諸事情を考慮し社会福祉施設整備に配分される財源を決定することにより国家財政を計画的に運用すること、社会経済情勢の変化、行政需要の変化等を考慮し優先的あるいは重点的な整備を要する施設の種類を決定することにより財源の有効な活用をはかること並びに社会福祉施設整備の地域的均衡をはかること等国家的見地からの補助金等の計画的かつ効率的活用が要請されていることによる。2 法第五二条の規定から直接具体的な負担金請求権が発生することはない。このことは行政処分を介して具体的請求権が発生するという手続構造を定めた適正化法の施行によるだけではなく、法第五二条の負担金の本質的な性格によるものである。すなわち、法第五二条は市町村が任意に設置する保育所のすべてを負担金交付対象とすべきことを要求しているものではなく、また、交付対象とした保育所の設備費用についても合理的な基準に基づいて算定した額をもつて負担金の額の算定の基礎とすべきものであるから、補助金等の交付申請があつた場合これらの点に関しては厚生大臣の広範かつ専門技術的な裁量を伴うものというべきである。したがつて、市町村の設置する特定の保育所について負担金が交付されるか否か、あるいはその交付額については行政庁の判断行為を介してはじめて確定可能であつて、法第五二条の規定から一義的に明らかになるというものではない。
3 本件各保育所に係る国の負担金の交付状況
(一) 摂津及び正雀各保育所については交付申請がされておらず、したがつて交付決定がされていない。
(二) 別府保育所については原告から昭和四四年七月二八日金一〇〇万円の交付申請があり、厚生大臣は同年一〇月三一日右申請額どおり交付する旨の交付決定をし、香露園保育所については原告から昭和四五年九月七日金一五〇万円の交付申請があり、厚生大臣は同四六年二月一七日右申請額のとおり交付する旨の交付決定をした。
4 したがつて、原告が本訴において請求する金員については交付決定がされていないから、その主張の請求権は発生しておらず、原告の本件請求は失当である。第四 被告の主張に対する認否及び反論並びに仮定主張
一 被告の主張3の事実のうち、摂津及び正雀各保育所について交付決定がされていないこと、別府保育所について昭和四四年一〇月三一日付で国の負担金額一〇〇万円とする交付決定がされたこと、香露園保育所について昭和四六年二月一七日付で国の負担金額一五〇万円とする交付決定がされたことはいずれも認めるが、その余は争う。
後記三の1のとおり原告は本件各保育所についていずれも実質上は実額負担金交什申請を行つている。
二 原告の反論
1 地方財政法第一〇条以下に規定されたいわゆる国の負担金の制度は、同法第一六条所定のいわゆる国の補助金とはその性質を異にし、地方公共団体が行う事務のうち、国から委託を受けて行うものや、国の利害に密接な関係がある事務で国が経費を負担すべき性質をもつものにつき、国の政策を推進していくためにその経費の全部又は一部を国が負担すべきことを定めたもので、実質的には国が地方公共団体に対し委託料を支払い、あるいは不当利得金を支払うという性格を有するものであり、地方公共団体が右事務を遂行し、国が不当利得すれば当然に発生するものである。そして、同法第一一条が国の負担金についてその負担割合等を法律又は政令で定めなければならないとしているのは、負担金の内容等が国庫財政の都合や各省各庁の長の恣意によつて左右されないようにあらかじめ法令で明確にしておく趣旨のものであつて、金額計算の恣意性ないし自由裁量性を明確に排斥しているものである。また、同法第一一条の二は同法第一〇条ないし第一〇条の三に規定する経費のうち、地方公共団体の負担すべき部分のみが地方交付税額の算定に用いる財政需要額に算入されること、すなわち国の負担部分については国の負担金として支払を受けるべきものであるから財政需要額には算入できない旨を定めており、国の負担金が裁量の余地のない義務的なものであることはこれらの法の規定から明らかという
べきである。
ところで、本件各保育所の設備に要する費用の国庫の負担は右の国の負担金であり、しかも、前記のとおり、法第五二条、第五一条第二号、法施行令第一五条第一項、第一六条第一号の規定は地方財政法第一一条の規定を受けて、その負担割合及び計算方法を明確に定めているのであるから、その支払請求権は直接右各規定に基づき各年度末に確定的に発生したことは明らかであり、各省各庁の長の行政処分である交付決定によつて左右されることはあり得ない。
2 適正化法に関する被告の主張は以下に述べるとおり失当である。(一) 国の負担金、国の補助金等の国の支出金は地方財政法第一九条、同法施行令第一五条の各規定により前金払又は概算払(以下前金払等という。)により地方公共団体に対して交付するものとされているところ、適正化法は当該前払金又は概算払金(以下前払金等という。)がまちがいなく補助金等の経費として使用されることを確保し、当該前払金等と実費との清算をするための手続法として定められたものである。すなわち、同法第二章は補助金等について前払金等の交付を求める手続及び交付を決定する手続を定め、同法第三章は前払金等を確実に補助事業等の経費として使用することを命じるとともに事業完了時に実費を確定する手続を定め、同法第四章は前払金等と実費との清算手続を定めたものである。(二) 適正化法において、交付の条件の附加、交付決定の取消し、補助金等の返還、補助事業等の一時停止命令、同命令違反に対する刑罰等が定められているのは、前述のとおり、前払金等をまちがいなく補助事業等の経費として使用させることを確保するためにほかならない。なお、事情変更による交付決定の取消し(適正化法第一〇条)の場合の事情変更とは事業の遂行ができないときのことであり(同法施行令第五条)、この場合は事業が行われないために費用の支弁がされず負担金支払請求権が発生しないことに確定したのであるから交付決定を取り消すのは当然である。また、他の用途への補助金等の使用や交付の条件等違反の場合の交付決定の取消し(適正化法第一七条第一項)は、交付決定による前払金等を使用すべき対象とされた事業等に当該前払金等が支出されなかつた場合であるから、当初予想された負担金支払請求権は発生しなかつたことになり、したがつて、この場合にも交付決定を取り消し前払金等の返還を求めることは当然のことである。以上のとおり、交付決定に付随する諸手続は前払金等の交付ということに由来するものであり、負担金支払請求権自体は事業が遂行され費用が支弁された後に発生するものであるこれを前金払等でなく請求権発生後に支払う場合にはその支払について適正化法の諸手続を適用し、同法の諸効果を付す余地はない。したがつて、適正化法所定の諸効果を必要とするから交付決定を請求権発生の要件としなければならないとする被告の主張は失当である。
(三) 交付決定の段階では費用の支弁はされておらず、実体的には負担金支払請求権は発生していないから、交付決定をもつて負担金支払請求権が発生するとすることはできない。交付決定は単に負担金支払請求権発生前に将来発生すると見込まれる負担金の概算前払請求権を発生させるにすぎない。
(四) 被告の主張する予算編成に対する支障、会計年度独立の原則の達成不能等は技術的便宜論にすぎず、国が法律に基づいて義務的に負担する負担金については右の便宜論はあてはまらない。すなわち、内閣は保育所の設備に要する費用に関する国の負担金を支出するのに必要な予算を計上する義務を負つているのであり、仮に予測を誤り支出すべき負担金額が予算の範囲を越えたときは、内閣は補正予算の編成等の措置を講じてでもこれを支出しなければならないものである(財政法第二九条第一号)。
(五) 地方財政法の定める国の負担金の制度も、法第五二条、法施行令第一四条ないし第一六条も、適正化法施行以前から存在し、適正化法施行以前においては保育所の設備に要する費用についての国の負担金支払請求権は、法及び法施行令の定める要件の充足のみによつて発生していたものである。この法律関係が単なる手続法にすぎない適正化法の施行のみによつて基本的な変質をとげるということは考えられない。適正化法は補助金等の不正申請、不正使用の防止の目的で補助金等の交付について各種の規制や罰則を設けたもので、国の負担金支払請求権の発生要件に変更を加えたものではない。
3 適正化法が対象とする補助金等の給付関係は基本的には対等当事者間の債権債務関係というべきであり、そのうち国の負担金については地方財政法及び各実体法において債権債務関係がすでに決定されており、交付決定は実体上の請求権との関連においては将来確定すべき請求金額をあらかじめ確認する事実行為にすぎず、同
法第一五条所定の確定手続は発生した実体上の金額を確認する事実行為にすぎない。つまり、適正化法は国の負担金についての債権債務関係が実体法の要件の充足によつて発生することを前提にしてその支払手続を民主的ならしめるために交付決定という形式を導入したもので、交付決定は公権力の行使の性格や処分性をもつものではなく、また行政処分であるとしても公権力の発動の実体を伴わないいわゆる形式的行政処分である。
したがつて、負担金支払請求権は交付決定によつて発生するものではなく、また交付決定には公定力がないから当事者は実体法によつて発生した請求権を直接行使することができるものである。
三 仮定主張
1 実体上の負担金支払請求権が適正化法によつて何らかの制約を受けるとしても同法の立法目的から導き出される最小限の合理的な制約でなければならず、同法所定の時期に交付申請がされることを請求権行使の要件とすることをもつて足るというべきである。
ところで、本訴請求に係る国の負担金の交付申請等の経緯は以下のとおりである。(一) 別府及び摂津各保育所
原告は昭和四四年四月一八日付で国の窓口である大阪府(以下府という。)に対し社会福祉施設整備計画協議書(以下事前協議書という。)を提出したところ、国は同年一〇月六日府に対し、別府保育所についてのみ一〇〇万円を国の負担金として支払う旨の内示をし、府はこれを原告に連絡した。原告は別府保育所について同年七月二四日国に対する国の負担金交付申請書(建物工事費及びその他の設備費の合計額一五四三万二〇〇〇円、寄附金その他の収入〇円、算定額及び国庫負担基本額それぞれ二〇〇万円、算定方式欄空白、国庫負担所要額一〇〇万円とするもの。)を提出し、国はこの申請に対し同年一〇月三一日付で事業に要する経費二〇〇万円(内訳工事費二〇〇万円、初度調弁費〇円)、国の負担金額一〇〇万円とする交付決定を行い、府は同年一二月二六日付でこれを原告に通知した。なお、摂津保育所については国は内示をせず、交付申請を受理しない姿勢が顕著であつたので原告は交付申請書の提出ができなかつた。
(二) 香露園保育所
原告は昭和四五年三月四日事前協議書を府に提出(同年七月二九日改めて作成提出)したところ、国は同年七月一八日付で府に対し、一五〇万円を国の負担金として支払う旨の内示をし、府は同年八月一四日付でこれを原告に連絡した。そこで、原告は同年九月七日算定基準による算定額の欄に当時国の決めた基準に基づき面積、単価、金額を記入した交付申請書を府に提出したところ、府の係官は同欄につき算定方式空白、算定基準額三〇〇万円と、総事業費欄の単価欄を空白、合計欄を二一三〇万三六〇〇円と各訂正するよう指示し、右申請書の受理を拒否したので、原告は右指示に従つた交付申請書を再提出するのやむなきに至つた。なお、同申請書の総事業費欄には工事費及び初度調弁費の金額が明記されており、同申請書には工事内訳明細書及び建物設計図を含む事業計画書が添付されていた。国は右申請に対し昭和四六年二月一七日付で事業に要する経費三〇〇万円(内訳工事費三〇〇万円、初度調弁費〇円)、国の負担余額一五〇万円とする交付決定を行い、府は同年三月二四日これを原告に通知した。
(三) 正雀保育所
原告は昭和四六年二月二三日府に対し事前協議書を提出し協議をしたが国は内示なせず、摂津保育所と同様原告は交付申請書の提出ができなかつた。以上のとおり、原告は本件各保育所について、事前協議書において、あるいは事前協議書及び交付申請書において、各保育所の設備に要する費用及びその実精算額等を明示し、国に対し実精算額の二分の一の支払を求めている。したがつて、形式上は実精算額の二分の一を交付申請額とする交付申請はされていないが、これは国が事前協議、内示制度により妨害、禁止したためであるから、実質的には保育所の設備に要する実額等を明示した前記事前協議書等の提出によつてその旨の交付申請が行われたもので、本件負担金支払請求権行使の要件は充足されているものというべきである。
2 また、被告主張のように適正化法の定める手続によらなければ国の負担金の交付を求めることができないとの立場をとつたとしても、前記1の交付申請等の経緯のとおり、国は適正化法所定の交付決定等の手続を行うことを放棄し原告が同手続に従つて実体上の負担金支払請求権を行使することを妨害したものであるから、同手続にのつとつていないとの理由で本訴請求に係る国の負担金の支払を拒絶するこ
とは許されない場合に該当し、また、その理由で右請求権の行使ができないと主張することは信義誠実の原則に反し許されないというべきである。
第五 原告の反論に対する被告の再反論並びに仮定主張に対する認否及び反論一 被告の再反論
1 地方財政法第一六条ないし第二〇条の二は国の地方公共団体に対する補助金、負担金等について規定しているが、これらの規定は地方財政の健全性を確保する観点から補助金を交付すべき場合、補助金等の算定の基礎及び支出時期のあり方等についての基本原則を定めるものであり、他方適正化法は補助金等を受ける地方公共団体等による補助金等の不正使用を防止する等の目的の下に補助金等の交付の具体的手続を定めるものであつて、両者は規制対象、分野を異にする。もつとも、地方財政法第二〇条の二と適正化法第二五条とは一見類似の手続を規定しているが、前者は国の補助金等に関する行政全般にわたる一般的事項について、後者は個々の事案についてそれぞれ不服がある場合の手続であり、趣旨が異なる。2 原告は適正化法第三章の規定は前払金等が補助事業等の経費として使用されることを確保するためのものであると主張するが、同章の規定のうち、第一一条は、補助金等が前払金等として支払われていない場合であつても、交付決定がされたときは、補助事業者等は交付決定の内容及び交付の条件等に従つて補助事業等を遂行すべき義務を負う旨を規定しており、第一三条の規定も文言上補助金等の交付が完了した後だけに適用があるとは解されない。さらに、第一八条は交付決定が取り消される場合について補助金等が交付済みである場合とそうでない場合とがあることを予定している。
これらの規定は、いまだ補助金等の現実の交付がない場合においても補助事業者等に交付決定の内容等に従うべき義務を負わせる等の法的効力を有することは明らかであり、前記原告の主張は失当である。
3 そもそも、前金払及び概算払はいずれも国が債務を負つていることを要件とするものであり(予算決算及び会計令第五七条、第五八条参照)、したがつて負担金支払請求権自体は事業が遂行され費用が支出された後に発生するとの前提をとりつつその発生前に前金払等ができるとする原告の主張は失当といわねばならない。4 原告は、適正化法は前払金等と実費との清算をするための手続法であるとし、他方保育所の設備に要する費用についての負担金支払請求権は直接法及び法施行令の規定に基づいて発生するとするが、この見解は以下の理由により失当である。(一) 原告の主張によつても前金払等による場合には適正化法の適用があり、同法第一五条の規定による確定額は各省各庁の長の判断により定められるものであるから、右確定額が実体上の請求兼の額より低い場合にはその差額を請求できることとたり、また、同法第一七条第三項の規定によれば、補助金等の額の確定後も交付決定の取消しができ、その場合前記のとおり交付済み補助金等の返還命令及び強制徴収ができるとされているが、原告主張によれば右処分に不服があれば再び国に対し負担金支払請求ができることとなる。
しかしながら、補助金等の諸手続に関し周到詳密に規定する適正化法に基づく交付決定、補助金等の額の確定等が右の程度の意義しか有しないとすれば制度的に極めて不合理といわねばならない。
(二) 適正化法には原告主張の実体上の請求権と同法第一五条の規定による確定額との清算調整に関し何らの規定も設けられていないが、このことは、同法が国の負担金についての具体的請求権につき同法とは別に発生するというようなことを前提としていないからである。
また、市町村の保育所の設備に要する費用の現実の支出が補助金等の額の確定より後にされる場合には、原告主張によれば、実体上の請求権の発生前に清算手続(右額の確定)が行われることとなり不合理である。
(三) 適正化法第二二条は補助事業等によつて取得した財産等の交付目的に反する使用等の禁止を規定し、同法施行令第四条は補助事業等完了後においても従うべき事項を交付の条件となし得る旨を規定するが、原告の主張によれば交付決定等適正化法による手続を経た者とそうでない者との法的地位に関し理由のない不均衡が生じる。
四 原告の主張によれば前金払等によらずに補助金等の交付を求める場合には適正化法の適用がなく、その交付に関する手続が何ら定められていないこととなるが、これは制度上全く不合理である。
(五) 法第五二条の負担金請求権は行政庁の行為を介して確定可能であることが、法第五二条の負担金の性格に基づくことは、前述のとおりであり、適正化法の
施行によつて変更が加えられたものではない。適正化法施行前においても交付手続の実務上の運用は、施行後の運用と実質的に異なるところはなく、その行為の法的性格は適正化法の下におけるほど明確ではないにしても、厚生大臣の交付決定という行為を介して交付されていた。
二 仮定主張に対する認否及び反論
1 仮定主張1の(一)の事実のうち、原告が事前協議書を提出したこと、国が原告主張の日にその主張の内示をしたこと、原告が別府保育所についてその主張の交付申請書を提出したこと及び原告主張の日にその主張の交付決定がされ、原告に通知されたことは認めるが、その余の事実は知らない。同1の(二)の事実のうち、原告主張の日に、その主張の事前協議書の提出、国の内示、府から原告への連絡がされたこと、原告主張の再提出後の交付申請書の記載内容及び原告主張の日にその主張の交付決定がされ、原告に通知されたことは認めるが、その余の事実は知らない。同1の(三)の事実は知らない。
2 原告は、負担金支払請求権行使の要件は適正化法の定める時期までに交付申請がされることで足り、本件の場合事前協議書の提出により右要件が充足されたと主張するが、同法第五条の規定は交付申請を要式行為として定めており、形式のいかんを問わず単に交付申請があれば足りるとの趣旨でないことは明らかであり、交付決定を要しないとの主張が誤りであることは既述のとおりである。また、事前協議によつて交付申請の要件を充足するものでもなく、このことは、原告が別府及び香露園各保育所について事前協議書を提出して協議を行つたのち、あらためて交付申請書を提出していることからも明らかである。
3 事前協議手続及び内示は毎年度に行われる保育所の施設整備に対し的確かつ円滑に国の負担金についての交付決定を行う必要上、事実上の手続として行われているものである。すなわち、毎会計年度の末に都道府県知事に対し次年度における保育所の施設整備に対する国庫負担についての基本的な国の方針をあらかじめ知らせておき、各知事をして、市町村が実施しようとする施設整備について右方針に適合するかどうか等に関し一応の審査を行つたうえ厚生省との間で国の負担金の交付の見込み等について事前協議を行わしめ、右協議を受けた厚生省は、保育所の施設整備に関し総合的に樹立された国の計画に適合するものについては、当該事業につき負担金を交付する予定であること及びその予定金額をあらかじめ内示する。この事前協議手続等はあくまで便宜上のものであり、適正化法に基づく市町村の交付申請権に対し何ら制約を加えるものではないから、右手続等によつて適正化法所定の手続に基づく負担金支払請求権の行使を妨害されたとし本訴請求に係る負担金支払請求権は適正化法所定の手続を経ずして行使できるとの原告の主張はその前提において失当である。
また、適正化法による手続、すなわち交付決定を経なければ負担金支払請求権を行使できないことを認めることは、要するに、交付決定前に行使すべき具体的請求権としての負担金支払請求権が存在しないことを認めるものにほかならず、したがつて、右請求権行使につき原告主張の例外を認める余地はない。
さらに、交付決定に関し適正化法の解釈等を主張することが信義誠実の原則に反することはあり得ないものというべきである。
第六 被告の再反論に対する原告の答弁
一 適正化法第一一条、第一三条及び第一八条の各規定は補助金等が未交付の場合においても適用されることがあるが、そうだとしても、負担金支払請求権が交付決定とは無関係に発生するとの原告の主張に対する反論たり得るものではなく、また、右適用される場合、すでに交付決定がされ、それに基づいて債権が発生しているのであり、右各規定は補助事業等の適正遂行を確保するために適用されるのであるから、適正化法が補助金等の前払金等の適正使用を確保するための手続法であることを示すのにもほかならない。
二 予算決算及び会計令第五七条及び第五八条の各規定にいう前金払等は実体上の請求権の発生を前提にしているとはいえず、このことは右各条列記の各項目に照らしても明らかである。
三 適正化法第一五条所定の補助金等の額の確定は事業完了後にされることになつているから、実体上の請求権の額を右確定額とすることが可能であり、またそうすべきものである。仮に実体上の請求権の額に満たない額が確定額とされた場合には差額の請求ができることは当然であり、また、同法第一七条第三項、第二一条の各規定により交付決定が取り消され、交付済み負担金が強制徴収された場合にも、実体上の請求権が発生しているのであれば別個にその権利を行使できることも当然で
ある。このように解しても交付決定及びこれに基づく諸効果は何ら損われることはなく、ただ右手続等が違法な場合にはこれがくつがえされる結果となるが、これはむしろ当然のことである。
四 適正化法第一五条の規定による確定額と実体上の請求権の額との清算調整に関しては、同条所定の確定手続時においては実体上の請求権の額は通常既に決つているから、その額に基づいて右確定がされることとなるし、年度末未到来等の事由で実体上の請求権が未発生の場合であつてもその金額は確定しているから実質的には清算調整がされるものといえる。
五 適正化法第二二条の規定は交付決定を経由することとは無関係に補助事業等を行う者すべてについて適用されるものであるから、この点に関する被告の主張もまた失当である。
第七 証拠関係(省略)
○ 理由
一 請求の原因一の1、2、4及び5、同二の1の各事実並びに被告が原告に対し法第五二条の規定による負担金として、昭和四四年度に別府保育所につき金一〇〇万円、同四五年度に香露園保育所につき金一五〇万円合計金二五〇万円支払つたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二 原告は、本件各保育所の設備に要する費用として別表(二)及び(三)の1ないし4記載の金額(そのうち、本工事費及び設備費の各金額については、当事者間に争いがない。)を別表(四)の1ないし4記載の時期において支出したとし、法第五二条、第五一条第二号、法施行令第一五条第一項、第一六条第一号の各規定に基づき、各支出年度末の到来によつて当該年度中に支出した金額の精算額の二分の一に該当する金額の負担金支払請求権を取得したと主張するのに対し、被告は、国の負担金についての具体的な請求権は交付決定がなければ発生しないと主張するので、この点について判断する。
1 適正化法及び同法施行令は補助金等の交付に関し次のとおり規定する。すなわち、
(一) 交付申請をしようとする者は所要事項を記載した申請書等を各省各庁の長に対しその定める時期までに提出しなければならず(同法第五条)、各省各庁の長は、交付申請があつたときは所要事項を調査したうえ、補助金等を交付すべきものと認めたときは交付決定をしなければならない(同法第六条第一項)。その場合適正な交付を行うため必要があるときは交付申請に係る事項につき修正を加えて交付決定をすることができ(同法第六条第二項)、また、補助金等の交付の目的を達するため必要があるときは交付の条件を附することができる(同法第七条)。そして、各省各庁の長は交付決定をしたときは決定の内容及び交付の条件を交付申請者に通知しなければならない(同法第八条)。
(二) 補助事業者等は法令の定め、交付決定の内容、交付の条件等に従い善良な管理者の注意をもつて補助事業等を行わねばならず(同法第一一条第一項)、また、その遂行の状況に関し各省各庁の長に報告しなければならない(同法第一二条)。各省各庁の長は補助事業等が交付決定の内容又は交付の条件に従つて遂行されていないと認めるときはこれらに従つて遂行すべきことを命じ(同法第一三条第一項)、この命令違反に対しては当該補助事業等の遂行の一時停止を命ずることができる(同法第一三条第二項)。
(三) 補助事業者等は補助事業等が完了したときは各省各庁の長にその実績を報告しなければならず(同法第一四条)、各省各庁の長は右実績が交付決定の内容等に適合するものであるかを調査し、適合すると認めたときは交付すべき補助金等の額を確定してこれを当該補助事業者等に通知し(同法第一五条)、適合しないと認めるときは適合させるための措置をとるべきことを当該補助事業者等に命ずることができる(同法第一六条)。
(四) 各省各庁の長は交付決定をした場合において、その後の事情変更により特別の必要が生じたとき(同法第一〇条)又は補助事業者等が補助金等を他の用途に使用しその他交付決定の内容、交付の条件等に違反したとき(同法第一七条)は、交付決定の全部又は一部の取消しができ、その場合当該取消しに係る部分に関しすでに補助金等が交付されているときはその返還を命じなければならず(同法第一八条)、また、返還を命じた補助金等は国税滞納処分の例により徴収することができる(同法第二一条)。
(五) 交付決定、その取消し、補助金等の返還命令等に対して不服のある地方公共団体は、各省各庁の長に対して不服を申し出ることができ(同法第二五条第一
項)、その場合不服を申し出た者は当該不服の申出に係る処分の通知を受けた日から三〇日以内に不服申出書等を当該処分をした各省各庁の長に対し提出しなければならない(同法施行令第一五条)。各省各庁の長は、不服の申出があつたときは不服を申し出た者に意見を述べる機会を与えたうえ必要な措置をとり、その旨を不服を申し出た者に対して通知しなければならず(同法第二五条第二項)、この措置に不服のある者はさらに内閣に対して意見を申し出ることができる(同法第二五条第三項)。
ところで、適正化法は補助金等の不正な交付申請及び使用の防止その他補助金等に係る予算の執行並びに交付決定の適正化を図ることを目的とし(同法第一条)、併せて補助金等の交付手続及びその法律関係の統一化、明確化を企図するものと解されるところ、以上の諸規定によれば、同法は右目的を達成するため、一定時期までにされる交付申請に対する各省各庁の長の行政処分たる交付決定によつてはじめて補助金等の具体的請求権を発生させることとし(なお、最終的な請求権の額は同法第一五条所定の確定手続によつて確定されることとなる。)、補助事業等の適正な遂行を担保するための種々の手段を交付決定の効果として規定し、一定の場合(同法第一〇条、第一七条)には交付決定の取消しにより交付決定によつて発生した具体的な請求権を消滅させることとし、また、地方公共団体の補助金等に関する不服について、交付決定、その取消し等各省各庁の長の処分に対する不服の申出という争訟手段を設けているものと解すべきである。
原告主張のように、負担金については交付決定を経由することなく各実体法の規定に直接基づいて具体的な請求権が発生するとの見解をとれば、国はいつ、いかなる内容の負担金支払請求権が発生し、それが行使されることになるのかを把握することが困難となり、その結果適正化法の前示目的の達成が不服又は著しく困難となるのみならず、予算編成にも支障が及び、ひいては財政上の基本原則として採用されている会計年度独立の原則を脅かすこととなり、また、国家財政の計画的運用、財源の効率的活用も不可能となることが明らかであり、同法の解釈として、右不合理な結果を招来することとなる原告の見解は採用に由ないものといわねばならない。のみならず、適正化法施行の前後を問わず、法第五二条等自体の解釈としても、右規定は単に抽象的な国の負担義務を定めた規定にとどまると解すべきであつて、右規定から直接具体的な負担金請求権が生ずると解することはできない。なるほど法第五二条、第五一条第二号、法施行令第一五条第一項、第一六条第一号の規定が、国庫の負担割合及び計算方法を明確に定めていることは、原告主張のとおりであるが、右各規定は市町村が任意に設置する保育所のすべてを負担金交付の対象とすべきことを規定したものではなく、また負担金交付対象とした保育所の設備費用についても、市町村が現実に支出した費用の全額をもつて負担金の額算定の基礎とすべき旨を規定したものではないと解すべきである。けだし、もし原告主張のように解するとするならば、国は市町村が任意に設置するすべての保育所の設備費用に対し無制限の負担を強いられることとなり、しかも、いつ、いかなる内容の負担金請求権が発生するやも知れぬから、各会計年度の収支均衡(財政法第一二条)及び会計年度独立の原則(同法第四二条)を維持することは不可能となるからである。したがつて、法第五二条等は、行政庁が当該保育所を負担金交付の対象とすべきものか否かを判断し、交付対象とすべきものと判断した場合に、合理的な基準に基づいて算定した設備費用額を基礎とする一定割合の額の負担を国に命じている規定であつて、具体的負担金請求権は行政庁の合理的な判断とそれに基づく行為によつて発生することを予定した規定と解すべきである。そして、行政庁のいかなる行為を介することとするか、その行為が行政処分の性質を有するか否かは、当時の手続法の規定によつて定まる事柄であつて、適正化法は、同法に基づく交付決定を介することと定めたものというべきである。
2 原告は、地方財政法第一〇条以下に規定されている国の負担金と同法第一六条に規定されている国の補助金とは性質が異り、国の負担金の支出は裁量の余地のない義務的なものであり、その請求権が交付決定によつて左右されることはないと主張する。
しかしながら、法第五二条等の解釈として、同条による負担金は行政庁の合理的な判断とそれに基づく行為により発生するもので、裁量の余地のない義務的なものと解することができないことは前示のとおりである。のみならず、適正化法第二条第一項の規定によれば負担金は補助金、利子補給金等とともに同法の適用上一括して補助金等と称することとされ、交付決定をはじめ同法所定の各手続に関し特に負担金について別異に扱うことなく補助金等として規定がされているのであるか
ら、同法の解釈適用としても負担金についてのみ他と異なつて解することはできない。これを交付決定についていえば、負担金についての交付決定と補助金、利子補給金等についてのそれとが同法第六条において特に区別することなく規定されているのであるから、その解釈上両者が別異の性質を有するものと解することはできない。ところで、補助金については各個別の根拠法令が存在しないいわゆる予算補助といわれるものや各法令には単に補助金を交付することができる旨の規定が存するにとどまり、交付の方法、時期、範囲等については特段の定めがされていないものがあり、これらについては交付決定によつてはじめて補助金に関する具体的請求権が発生するものと解さざるを得ないのであるが、負担金についても、たとえ各個別根拠法令において経費を負担するとの文言を使用した規定が存し、負担割合等についても明文の規定が存在するとしても、適正化法の解釈として、その具体的請求権は同法第六条所定の交付決定を経てはじめて発生すると解さざるを得ないものであり、したがつて、この点に関する原告の主張は失当といわねばならない。3 原告は、適正化法は前金払等で支払われる補助金等の適正使用を担保するとともに、当該前払金等と実費との清算をするための手続法として制定されたもので、交付決定は単に補助金等の概算前払請求権を発生させるにすぎず、実体上の負担金支払請求権自体は各実体法の規定に基づいて発生すると主張する。しかしながら、本件における実体法である法第五二条等自体から具体的な負担金請求権が発生するものでないことは前示のとおりであり、右主張はこの点で失当である。それのみならず、前金払とは国の支払うべき金額が契約等において確定している場合すなわち金額の確定した債務について、国が相手方の給付完了前にその金額の全部又は一部を支払うことをいい、概算払とは債務額が未確定の場合にその概算額の全部又は一部を支払うことをいうのであつて、いずれも国の債務負担を前提としているものと解されるが、実体上の請求権の未発生の段階において交付決定に基づいて前金払等ができるとの見解はにわかに首肯しがたい。
また、交付決定は単に前払金等に関するものにすぎず、補助金等の額の確定がされた後に、さらには交付決定の取消しがされ交付済み補助金等が強制徴収された後においても、別途実体法の規定に基づいて発生している負担金支払請求権を行使して確定額を越える金員の支払を請求し、あるいはいつたん強制徴収された金員の支払を再び請求することができると解することは、適正化法所定の右各手続の意義ないし実効性を失わせ、ひいては同法の目的にもとることとなり、不合理というべきである。また、右の場合その請求に係る負担金の交付手続あるいは右確定額との清算手続を定めた規定はなく、このことは適正化法が右のような事態を予想していないことを示すものにほかならない。
さらに、適正化法第七条第二項の規定は、補助事業等の完了により当該補助事業者等に相当の収益が生ずると認められる場合において、各省各庁の長は補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すべき旨の交付の条件を附することができるとし、同法施行令第四条は補助事業完了後においても従うべき事項を交付の条件となし得る旨を規定するが、原告主張のように交付決定を経ずして負担金支払請求ができるとすれば、その場合については右規定を適用する余地はなく、同規定の趣旨が損われるとともに、交付決定を経て負担金の交付を受けた場合とそうでない場合との間に理由のない不均衡を生じることとなる。
以上のとおり、前示原告の主張もまた失当といわねばならない。
4 原告は、交付決定には処分性がなく、仮に行政処分であるとしてもいわゆる形式的行政処分であるから、交付決定に関係なく実体法に基づいて発生した負担金支払請求権を直接行使することができると主張する。
しかしながら、本件における実体法である法第五二条等自体から具体的な負担金請求権が発生するものでないことは前示のとおりであるので、右主張もこの点で失当である。それのみならず、前示のとおり交付決定は交付申請があつた場合にそれに対してするものとされ、交付決定によつて補助事業者等に補助事業等遂行義務その他の義務が発生し、さらに地方公共団体については交付決定に対する不服の申出という不服申立てを許容しているところからすれば、交付決定は補助金等に関する具体的な請求権を発生させるとともに、補助事業者等に対し補助金等をその交付の目的に従つて使用すべきことその他一定の義務を負わせる行政処分と解すべきである。また、交付決定を講学上いかなる性質の行政処分と理解するかはさておき、前示のとおり交付決定によつてはじめて具体的な負担金請求権が発生するものと解される以上交付決定とは無関係に実体上の負担金支払請求権を行使できるとの見解はとることができないというべきである。

したがつて原告の前示主張もまた失当といわねばならない。
三 ところで、本件各保育所のうち、摂津及び正雀各保育所については交付決定がされていないこと、別府保育所について昭和四四年一〇月三一日付で国の負担金額を一〇〇万円とする交付決定が、香露園保育所について同四六年二月一七日付で国の負担金額を一五〇万円とする交付決定がそれぞれされたことは当事者間に争いがなく、この事実によれば、原告が本訴において請求する本件各保育所の設備に要する費用に関する国の負担金については交付決定がされていないことは明らかであるから、以上判示したとおり右負担金についての請求権はいまだ発生していないものといわねばならない。
四 原告は、仮に実体上の負担金支払請求権が適正化法によつて制約されるとしても同法所定の時期までに交付申請のされることが右請求権行使の要件となるにすぎず、本件の場合には、国が事前協議、内示制度において実精算額による原告の交付申請を妨害したから、事前協議書の提出によつて右要件は充足されていると主張する。
しかしながら、負担金についての具体的な請求権が交付決定によつてはじめて発生するものと解すべきことは前示のとおりであり、また、交付申請によつて申請者が当然その申請に係る具体的な負担金請求権を取得しあるいは実体上の請求権を行使できるとの見解は、二の1の(一)に判示したとおり、適正化法において交付申請に係る事項を修正した交付決定が認められ、また交付決定をする場合に交付の条件を附加することができるとされていることに照らしても首肯しがたい。したがつて、原告の右主張は前提において失当である。
原告は、また、仮に適正化法所定の手続によらなければ国の負担金の交付を求めることができないとしても、本件の場合国が右手続を放棄し原告の右手続による請求権行使を妨害したから、国は右手続を経由していないとの理由で原告の本訴請求を拒絶できず、またその旨を主張することは信義誠実の原則に違反すると主張する。しかしながら、仮に原告主張のとおり交付申請の不受理その他適正化法に基づく所要手続の実施が妨げられたとしても、交付決定がない以上具体的な負担金請求権が発生していないのであるから、直ちに負担金請求権それ自体の行使ができると解することはできないし、本訴においてその旨の主張をすることが信義誠実の原則に違反するともいえず、原告の右主張も失当といわねばならない。
五 以上判示したとおり原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 三好 達 時岡 泰 山崎敏充)

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