判例検索β > 昭和49年(行ウ)第3号
公水面埋立免許取消請求事件
事件番号昭和49(行ウ)3
事件名公水面埋立免許取消請求事件
裁判年月日昭和53年6月19日
法廷名福島地方裁判所
判示事項原子力発電所及び火力発電所の建設を目的としてされた公有水面埋立免許処分につき,付近住民はその取消しを求める法律上の利益を有しないとした事例
裁判日:西暦1978-06-19
情報公開日2017-10-20 00:30:33
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○ 主文
原告らの各訴をいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
当事者双方の申立、主張および証拠関係は別紙(二)記載のとおりである。○ 理由
一 原告ら主張の本件各免許処分がなされたことは当事者間に争いがない。二 そこで以下原告適格について判断する。
1 行訴法九条は、当該行政処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、取消しの訴を提起できる旨規定している。
ところで、右の法律上の利益とは、当該行政処分の根拠法規がその者の利益を個別的具体的に保護するために行政権の行使を規制していると解される場合の利益であり、単なる事実上の利益や反射的利益は含まれない。
1 原告らは、本件各免許にかかる埋立地上にそれぞれ建設が予定されている原子力発電所および火力発電所の操業に伴う危険性、附近住民の健康被害等が本件各免許処分の取消しを求める利益を基礎づける旨主張する。
しかしながら、本件各免許処分の根拠法規である昭和四八年法律第八四号による改正前の公有水面埋立法(以下旧法という。)を仔細に検討しても、埋立地上に建設が予定されている原子力発電所および火力発電所の操業に伴う危険や健康被害等をうけないという附近住民の利益を個別的具体的に保護したものと解しうる規定は存しない。
もつとも、原告らは、昭和四八年法律第八四号による改正後の公有水面埋立法(以下新法という。)四条一項三号が附近住民の利益を保護した規定であり、旧法下でも同趣旨に解すべき旨主張する。
なるほど新法四条一項三号が埋立地の用途が土地の利用または環境保全に関する国または地方公共団体の法律に基づく計画に違背せざることを免許の要件の一つとしていることから、都道府県知事としては埋立地の用途が公害対策基本法九条あるいは一九条によつて定められる国または地方公共団体の環境基準計画等に触れるか否かを審査することになると一般的にはいうことができる。
しかしながら、これを本件についてみるに、原子炉に関する規制権限は内閣総理大臣に、放射性物質等の安全の規制権限は科学技術庁長官に、火力発電所に関する大気汚染・水質汚濁等に関する規制権限は通商産業大臣にそれぞれ属し、都道府県知事にはかかる権限がいずれも存しない(公害対策基本法八条、大気汚染防止法二七条一項二項、水質汚濁防止法二三条一項二項、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律二三条、二四条、二七ないし三〇条、三六条、三七条等、放射性同位原素等による放射線障害の防止に関する法律三条、四条、四条の二、六条、七条、七条の二等、電気事業法四条、五条、四一条三項二号、四八条等)。したがつて、都道府県知事は法律上埋立免許申請を審査するにあたり、原告ら主張の前示危険性等を審査しえないから、新法四条一項三号をもつて、埋立地上に建設が予定されている原子力発電所および火力発電所の操業に伴う危険や健康被害をうけないという附近住民の利益までも保護したものと解することはできない。よつて、原告ら主張の右危険性等は本件各免許処分な取消す法律上の利益を基礎づけるものではない。
3 つぎに、原告らは、埋立自体あるいは埋立工事に伴い、請求原因3の(二)記載の被害が生ずるおそれがある旨主張するが、これは、ひつきよう、環境権に対する侵害のおそれがあるというに帰するところ、その内容は一般的抽象的でありとうてい行訴法九条にいう法律上の利益にはあたらない。
他に原告らに本件各免許処分の取消しを求める法律上の利益を認めるに足る主張立証はない。
三 以上の次第により、本件各訴は、いずれも原告適格を欠く不適法なものであるから、すべてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤貞二 石井義明 平井治彦)
別紙(一)当事者目録(省略)
別紙(二)
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨

1 被告が東京電力株式会社に対して、昭和四八年一二月一日付をもつてなした、福島県双葉郡<地名略>地先、同郡<地名略>地先海面一九八、七九九・九一平方メートルの公有水面の埋立を免許する旨の処分、および昭和四八年一二月一日付をもつてなした、同郡<地名略>地先海面三七一、六二三・五六平方メートルの公有水面の埋立を免許する旨の処分をいずれも取消す。
4 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 1 本案前の申立
(一) 原告らの各訴を却下する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
2 本案に対する答弁
(一) 原告らの各請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告
原告らは、いずれも本件各免許にかかる公有水面に近接する海岸に接近して居住し、かつ本件各免許の目的である原子力および火力発電所が建設された際には、後述するような原子力および火力発電所の科学技術上の問題により、生命、健康、生活等に重大な影響を受けることを免れない者である。
2 本件免許の存在
東京電力株式会社は被告に対して、昭和四八年六月二一日本件各免許と同旨の公有水面埋立免許願をそれぞれ提出し、被告はこれについて同年一二月一日請求の趣旨記載のとおりの各免許処分をした。
3 本件免許の違法性
(一) 本件免許の目的である原子力および火力発電所の建設については、次のような違法が存する。
(1) 原子力発電所について
イ 原子力発電所の安全審査方法について
現在原子力発電所の安全審査には、原子力委員会の原子炉安全専門審査会によつておこなわれている。しかし、その審査自体が次のとおり原子力基本法に定める、民主、自主、公開の原則に違反する。
(イ) 原子力委員会の性格
原子力委員会は、単なる内閣の諮問機関にすぎず、アメリカのそれと異なつて行政権、命令権さえ与えられず、原子力開発の推進と規制の両方の役割を兼ねており、安全審査は、原子炉の設置を前提として行われているといつても過言ではない。(ロ) 自主性の欠如
a 安全審査に関して、独立して責任を負う機関が原子力委員会の中には存在しない。形式的に、総理大臣がなつているにすぎない。アメリカ原子力委員会(AEC)では、許認可権をもつている。
b 安全審査に関連するデータ、情報、諸基準が、アメリカ依存、設置者依存である。とくに緊急炉心冷却装置(ECCS)に関しては、A審査会長自ら認めている如く、そのデータ、情報の殆んどが電力会社(設置者)を通じてアメリカのメーカーから提供されたものである。
従つて、審査過程で情報の実証性を確認する基礎となる自前のデータが殆んど存在しない。
c 提出された計算結果を厳密に点検するスタツフや機関さえもつていない。すなわち、審査の不健全な形骸化といつても過言でない。
安全審査行政を総合的に展開できる財政的裏付もない。
d このような有様であるから、審査→許可→建設→運転後も、アメリカAECが出力削減命令を出せば、それに機械的に追随し、係官をアメリカへ派遣して調査させるという非自主性を露呈させることになる。かと思えば、逆に電力企業が電力事情を乗り切るには、安全性にシワ寄せして、フル操業をやるという自主性も発揮するのを、国は放置している。
(ハ) 総合性、科学性の欠如
a 原発設置に伴つて地域住民の生活全般に及ぶ影響は、現実的にはつねに総合的であるから、原発の安全問題は多面的検討を必要とする総合的な問題であり、かかる総合的審査を経て、はじめて科学的といえる。
従つて、原子炉事故の防止、放射線被曝の防護等に限局されず、温排水の影響はも
とより、淡水取水、調達、耐震性にかかわる地質調査、高圧送電の線下規制、予定地域の地帯整備計画、再処理工場の設置計画との関連等を審査すべきである。b しかるに、審査されるのはごく一部、すなわち人におよぼす放射線の影響とそれを少なくする安全対策に直接的あるいは間接的に係る問題に限られているにすぎない。
c その後、温排水に関する審査がなされるようになつたのみであり、到底総合的といえたものではない。
d 公聴会で陳述された意見について、審査会のほかに、関係行政機関等が検討し、その検討結果説明書を作成することとなつたが、(公聴会開催要領、同実施細則)事態は本質的には改善されていない。その理由として、第一に、検討事項について関係行政機関を拘束するものではない。第二に、各省庁バラバラの検討である。第三に、原子力委員会として独自に検討、総括しえないこと等があげられる。e さらに何よりも地域の総合的、民主的開発との関係は、何ら考慮に入れられていない。
ア メリカでは一九六九年国家環境政策法(NEPA)が制定され、当面の公害対策ではなく、環境が各世代の共通財産であるという基本理念から、科学的かつ長期的な政策を確定することを要求している。
この上に立ち、NEPAは、環境報告書の提出を義務づけて、その標準書式は

発電所建設と運転の経済的、社会的影響

の項を設け地域開発問題が、科学的かつ長期的展望のもとに検討されることになつている。
f 最近、設置者(電力会社)は環境に関する調査資料を提出しているが、これは提出を義務づけられたものではなく、世論におされて自発的に出すようになつたものである。
g 緊急時の退避交通網の整備を含む地域の整備計画の将来像についての見通しが検討されず、審査の総合性が欠如している。
h その地域の地域開発のためになるのか否かの検討が不十分である。例えば、周辺の農業、商業にいかなる影響を及ぼすか、である。
(ニ) 公開性の原則の欠如
a 審査報告書は、二〇頁程度の簡単なもので、しかもパターン化していて、それをもとに科学者が検討することはできない。科学者の検討素材となりうる審査過程の公開要求を、原子力委員会はかたくなに拒否している。
b 日本の公聴会制度では公開の原則は妨げられている。
公聴会制度を導入しても、今のやり方では公開の問題は前進していない。すなわち、設置者提出の資料はパターン化されたものであり、本当に知りたい所はかくされており、住民、科学者、陳述人に資料提出請求権がない。提出された資料も縦覧のみで、コピーすら許されない。
又、一方的陳述のみで、質疑、討論の機会は全く認められていない。更に、ここでも検討結果のみがかえつてくるだけで、それすらどの程度のものかわからない。(ホ) 民主性の欠如
a 関係各省庁の非民主的な原子力行政
このことは次のことから明らかである。
浜岡原発一号機についての地方自治体の立入調査権を含む中部電力と静岡県との安全協定締結に対して通産省はまつさきに横ヤリを入れている。
また、佐世保原潜寄港に伴う港湾汚染事件に対して、原子力委員会、科学技術庁は、異常事実を認めないばかりか、めまぐるしく見解を変えたすえに、アメリカからの調査団のおざなりな調査でウヤムヤの中に事態を処理してしまつた。更に重大なことは、日本原子力研究所副主任研究員Bの学術論文原子力施設の事故例についてに関連して、同人を行政処分(配達証明付の厳重注意)に付した処置である。これは学問、研究の自由および表現の自由に関する憲法ならびに原子力基本法の民主的運営に抵触する暴挙といわねばならない。
他方、一九七三年九月一八日、同月一九日に行われた原子力委員会による原発公聴会の非民主的運営である。すなわち、何よりもこの公聴会には陳述によつて現実や現状を変え得るという保障が前提になつていないことである。さらには、多数、多方面の専門家による陳述の保障や討論の保障がないこと等も問題である。b 福島県当局の企業癒着行政とくにC前知事は、アメリカ原発見学(一九七三年四月)において、運転経験が浅くしかも小型炉発電所ばかりを選び、かつ、改善命令をうけている事故炉や、環境問題をめぐつてトラブルを起している発電所は一か所も見ないで、帰県後

現在日本で進められている原発で何らさしつかえないことがはつきりした。

と語り、それらのことを『県民だより』(一九七三年六月一日)の誌上で宣伝している。
しかし、その後八月二四日にアメリカ原子力委員会は、放射能もれのおそれありとして、十か所の発電所に対して出力制限を命令したが、C前知事見学の全発電所が、その対象となつているのは、皮肉というほかはない。
他方一九七二年九月一五日の『いばらき新聞』に明日を築く原子力開発と見出しで、県政経済研究会なるものの座談を一般記事のごとく見せかけ、各戸配付し、企業宣伝に全面的に手をかしている。
c 市町村当局の企業追随行政
浪江町当局は財団法人福島県開発公社とともに原発設置推進学者の講演録原子力の安全性について(一九七二年八月七日)を作成し、住民に配付している。他方、原発建設に批判的な学者Dの講演については『広報なみえ」八八号(一九七三年三月一日発行)で、同人の講演があつたことに三行(見出し)だけ触れ、本文全体(四頁)では、逆の意見を有する都甲らの意見のみを引用し、それを正しい理解だとみせつけるべく宣伝している。このような姑息な手段をつかつてまで、企業に追随しようと懸命になつている。
また、浪江町は科学者会議福島支部主催の原子力発電の安全性にかかわる講演会に対して、同町公民館使用を当日会場の使用予定が他にないのに拒否し、住民の学習に妨害を加えている。
さらに重大なことは、全国最大といわれる福島原子力発電所の放射性廃液漏洩事故に際し東京電力が町当局へ一昼夜おくれて通報したこと、県当局が県議会開会中にもかかわらずこれを県議会に報告しなかつたことなど、一連のずさんな処置、対応は許されない。
また、美浜二号炉事故も電気事業法四六条違反と、事故原因隠蔽事件として重視されねばならない。
以上は原発建設(予定)にみられる非民主的行政の一端にすぎないが、このような事例のひとつひとつが、原発の安全性確保に対する住民の信頼を日増しに失なわせてきたといわざるをえない。
ロ つぎに、福島県浜通り地方における巨大原子力発電所の集中的立地がもたらすおそれのある危険について科学、技術上の論拠を述べる。
(イ) まず、第一に原子力発電所設置にかかわる安全性の問題は、本来核燃料供給、発電所の建設、運転、放射性廃棄物の処理・処分、使用済核燃料の再処理、廃炉の処分等の一連の問題が、ひとつながりのものとして解明されなければならないにもかかわらず、現時点における安全審査は断片的であり、再処理問題や廃炉処分問題をも不可分のものとして解明し、対策を展望するという責任ある体制にないことが指摘されねばならない。ことに、本件地域において設置が計画されている原子力発電所は、世界に比類のない未踏の過密立地計画に基づき、これの設置を一環とする現在の原子力発電所設置計画を是認することは、近い将来必ずや放射能放出等の点で原子力発電所よりはるかに危険の大きい再処理施設の建設を促す結果とならざるを得ない。すでに原子力委員会は、一日の処理能力〇・七トンの動力炉核燃料開発事業団東海工場の限界を予測し、第二工場以下の建設について、原則として国内処理をすることおよび民間に期待することを方針として明らかにしているが、この政策の具体的見通しについては、何ら明らかにしていない。しかも、現在の開発規模を続ける限りわずか数年にして限界に達するという一日〇・七トンの処理能力の東海工場でさえ、放射性物質の放出量はクリプトン85一日八〇〇〇キユリー、トリチウム一日二〇〇キユリーに及ぶのであり、原子力発電所からの放出量と比較して著しく大きい(例昭和四六年度敦賀炉トリチウム〇・一七四キユリー)。原子力発電所と再処理施設とを一連の不可分の技術体系と見なす立場からは、原子力発電所で蓄積し、再処理過程で放出するという事態を、現在における原子力発電技術システムそのものの本質的欠陥であると考えざるを得ず、断じて看過し得ないものである。このように、再処理過程についての政策的、技術的見通しもないまま、当該地方に大容量原子力発電所の集中的立地を計画し、それを前提とした公有水面埋立てを許可することは、住民の生命と生活の安全を守るべき義務を放棄するものであり、憲法一三条、二五条に照して違法の疑いのつよいものと断ぜざるを得ない。原子力発電システムから排出される放射性廃棄物(廃炉問題を含む)の最終処分の見通しについても、まつたく同様であり、安全確保を前提とした処分方式の科学的展望もないまま、当該地域にこのような大容量原子力発電所の設置を計画し、これを前提どして公有水面の埋立を許可することは、違法の疑いが強い。
(ロ) つぎに、軽水型原子炉の危険性について
わが国の原子力委員会が、安全審査の段階で予想しなかつた異常事態が、近年国内の多くの原子力発電所において発生している。
関西電力株式会社の美浜一号炉における蒸気細管漏洩事故は運転開始後わずか一年半余において、八、八五二本の全細管中、二、〇〇九本が破損のおそれありとして盲栓を施されたが、このような重大な事態の早期発生は、安全審査段階では予想されなかつたことであつた。東京電力株式会社福島発電所一号炉における大量の放射性廃液漏洩事故(一九七三年六月二五日)は、その後の科学技術庁の一八項目に及ぶ改善命令(同年七月二四日)に見るとおり、安全審査段階では看過されていた欠陥であつた。
中国電力株式会社島根原子力発電所および東京電力株式会社福島原子力発電所における制禦棒の初歩的欠陥は、安全審査過程では検出されずに見過ごされていたものであつた。関西電力株式会社美浜二号炉における昭和四八年八月二八日の作業員感電によるスクラム事故は、電力会社側の電気事業法四六条違反の無理な作業強行が原因であり、事後処置をめぐる電力企業の証拠漂滅、労働者工作の事実とともに、安全審査段階では予想されない種類の異常事態であつた。
こうした一連の事故における異常事態は、軽水型発電技術における安全確保のための諸技術や電力企業の安全管理に対する姿勢、体制および監督官庁の監督能力が、現状においてまつたく不十分なものであることを、何よりも雄弁に事実をもつて語つている。
安全審査の総合的な能力がこうした異常事態を事前に予測できず、しかも発生した事態の全経過からすすんで教訓を学びとり、それを安全審査の充実に十分フイードバツクせず、むしろ住民感情対策的対応や弁明に努めているといつた実態は、現時点における大容量原子力発電所の集中的立地に伴う安全性が、十分に確保される保証は全くないことを如実に示すものである。したがつて、現在の安全確保のための技術上、企業倫理上および監督行政上の看過しがたい実態を放置して、本件地域に大容量原子力発電所の建設を計画し、これを前提として公有水面埋立の許可を与えることは違法である。
(ハ) 原子力発電所の安全性確保にかかわる原子炉工学的諸問題についてa 燃料の欠陥に関する問題点
一九 六七年末までに使用された一一万本のジルカロイ被覆燃料のうち、四四本が破損したといわれており、炉型別統計では、沸騰水型燃料の破損率は、約〇・〇五%とされている。破損率の数値は、破損の検出方法や燃料の設計、原子炉の運転条件等の多くの因子に依存するので、この破損率を固定化して考えることは意味がないが、本件地域への設置が予定されているものと同型の東京電力株式会社福島発電所一号炉における破損率は、これと比してもけつして小さい値ではない。ピンホール等の微小欠陥から燃料破損に至る期間の長さは、熱流束の増大とともに短期化する傾向にあることが知られており、そのため、近年燃料の健全性は、ますます厳しく求められている。燃料の健全性を確保するためには、製造・検査技術の確立、最適運転条件の確立、設計裕度の確保、微小欠陥検出技術の確立などが必要であるが、現状にあつては、それぞれに困難があるとされている。製造、検査技術についてはいまだ未確立であり、ペレツトの水分含有量や被覆管の微小探傷技術などの問題があるうえ、これまでなかば手工業的方法で維持されていた品質水準が、本件地域に予定されているような大容量原子力発電所の大量導入に伴う量産体制への移行のもとで、一層向上しうるか否か、展望は明らかではない。最適運転条件の確立については、高出力照射のもとでの被覆管の伸びの低下がペレツトのスウエリングによる局所的支塑性歪に耐えうるか否かなど、経験は十分とは言えない。設計裕度の確保については、たとえばゼネラル・エレクトリツク社の沸騰水型原子炉の新しい炉心設計では、燃料集合体配列を変更して、燃料線出力密度の低減をはかり、燃料への負担を低減しようとしているが、本件地域に設置が計画されている沸騰水型原子炉の場合には、依然としてこうした措置が講ぜられておらず、疑問を呼んでいる。しかし、出力分布の平担化を図れば、燃料の欠陥の広範囲多数発生の可能性をも考慮せねばならず、微小燃料破損の定量的評価と位置決定の技術の確立が必須となるが、現状において解決されているとは言えない。
右に述べたような技術的諸問題を解決することなしには、燃料破損時の炉水中への漏洩放射能の保安基準を低減し、公衆の被曝の潜在的危険性を低減することはできない。日本原子力発電株式会社敦賀炉では炉水中にヨウ素一三一が一七〇〇キユリー検出され(保安基準二〇〇〇キユリー)燃料交換を行なつたと伝えられている
が、近年米国原子力委員会が提起しているヨウ素一三一の大気中放出に関する新基準は、従来の数値を一〇万分の一に切り下げた設計基準となつており、これは10―15キユリー毎立方メートル(約10-17PPm)という極微量であることからしても、こうした事態は軽視できない。破損燃料をひんぱんに交換すれば、発電効率が低下するという経済的圧力を理由として、保安基準を実際に低減し、安全性を確保するという側面が抑制される懸念は、払拭できない。燃料の健全性の飛躍的改善とその周辺技術の確立を保たずして、本件地域に大容量原子発電所の設置を計画し、これを前提として公有水面の埋立ての許可を与えることは、重大な問題をはらむものと言わなければならない。
b 原子炉圧力容器の破損の問題
圧力容器関係の破損はきわめて重大な意味をもつが、実際、動力試験炉(日本)(JPDR)、オイスター・クリーク第一、タラプールなどの炉で、容器内部にクラツクを生じている。いずれの場合にも、溶接材料や溶接技術の不完全性に起因していると言われ、圧力容器の健全性のチエツクは、場所により検査に極端な困難をきたすことを考えると、とくに当該地域に予定されているような経験の浅い大容量炉の場合、発電所の全寿命にわたつてその健全性を保障しうるとは断じ得ない。なお、圧力容器以外の欠陥についても、一次系のパイプ関係のクラツクや破損も、これまで少なからず起つている。JPDRでは、炉心スプレーノズルのセーフエンドに多数のクランクを発生したが(一九七二年)、他にも多くの炉で主として原子炉冷却材圧カバウンダリーの配管系を中心に破損やクランクが生じている。一次糸の破断は、現段階では起こりうるものと考えなければならない。また、原子力発電所の付属機器類(ポンプ、モーター、各種弁類、計測機器類など)の故障も多数報告されており、その中には制禦棒駆動装置、ECCS関係、非常用デイーゼル発電機といつた安全確保上きわめて重要な、かつまた、確実に作動することが期待されている機器類の故障も数多く含まれている事実に注目せざるをえない。軽水型発電炉が真に実証炉の名に値するには、なおまだ幾多の技術的問題点が残されている。かかる現状のもとで、本件地域に大容量原子力発電所の集中立地を企図し、これを目的とする公有水面の埋め立てを許すことは憲法にてらして違法の疑いが強い。
c 非常用炉心冷却系(ECCS)の問題
確率論的な取扱いが可能ではないような稀有の重大な事態の発生の場合にも、なおECCSのごとき、その後の事故状況の展開にとつて決定的な意味を持ちながらも、その確実な作動が実験的に確立されていない安全装置に頼らざるを得ないということは、軽水炉発電原理の最大の本質的欠陥の一つである。冷却材喪失事故にともなう種々の現象の研究は、現在米国を中心に一定の規模で行なわれつつある。LOFT計画は一つであるが、熱出力五万五〇〇〇キロワツトの実際の原子炉を用いた配管破断実験は、一九七四年以降に予定されているのであり、現在までのところは、小規模な模擬実験装置を用いた予備的研究の段階である。模擬装置による実験は、少なからず積み上げられているにもかかわらず、各国ともECCSが果すべき緊急な冷却効果について、十分信頼のおける実証的データを手にしていない。したがつて、現状認識としては、実験科学的な意味での決着はついていない、ということである。冷却材喪失事故実験(LOFT)八〇〇シリーズにおける否定的結果に端を発した米国でのECCSの論争に関して、一九七三年五月AECがまとめた最終環境報告書も、安全性評価について四つの異なる見解の折衷的内容とならざるをえなかつた。安全性の本質にかかわる問題でありながら、軽水型商業用発電炉の経済主導下の急速な設置計画の進行に比して、研究の立ち遅れには憂慮すべきものがある。限られた実証的情報に依拠した事故解析は、計算コードに最大限の改訂を加えても、おのずからその信頼性に限界がある。
前述のとおり、現在の技術的力量のもとでは、一次系配管の破断の可能性が否定できないという状況のもとで、冷却材喪失事故を現実の問題として仮定することは当然のことであるが、その際かりにECCSが作動したとしても、炉内の過渡現象はきわめて複雑であり、被覆材最高温度の予測を含めて解析精度には問題が多い。したがつて、冷却材喪失事故の可能性が完全に否定されるか、さもなくば現在考えられているいくつかの原理のECCSの確実な作動の蓋然性が確認され、なおかつその作動によつてもたらされる諸現象の解析についての実証的データが蓄積され、事故解析のための計算コードの信頼性をふくめて、量・質両面にわたる変化予測の確実性が認められるまでは、本件地域に予定されているような大容量原子力発電所の集中的設置は大きな潜在的危険性をもつものであり、これが設置を目的とした公有
水面埋立許可は、取消されなければならない。
(ニ) つぎに、原子力発電所の運転に伴う安全上の諸問題についてa 発電所労働者の安全上の問題
第一には、定検作業等外部被曝と体内汚染の可能性の少なくない作業の下請化の問題がある。集中立地という形をとりながら、大容量発電所が多数稼動するようになれば、定検作業は年間を通じてあるようになり、下請企業の労働者は、複数の発電所の定検作業等に動員されるに至るであろう。こうした下請労働者の放射線安全管理は重大であるにもかかわらず、実質的で有効な管理方式が決められていない分野として放置されている。
第二の問題は、発電所労働者にしいての許容線量の問題である。国際放射線防護委員会はパブリケイシヨン一四において、全身の臓器がほぼ均等に被曝されるような場合には、複数の臓器が同時に危険を受けるため、年間の被曝限度(現行の値は五レム/年)を四分の一か、五分の一か、一〇分の一に切り下げなければならないかもしれないという提案を行なつている。ところで、原子力発電所労働者の被曝放射線において三メガ電子ボルト(MEW)以上の高エネルギーr線の占める割合はきわめて高く、したがつて全身均等被曝の範ちゆうに入ると考えられる。かりに最も厳しい提案値一〇分の一をとつて考えると、発電所労働者に対する年間線量限度は〇・五レムとなるが、敦賀発電所の昭和四七年度の被曝実績でみても、この水準を超えている労働者は三分の二程度にも及んでおり、今後の大容量化や美浜一号機のような異常事態の発生を考えると、被曝水準はいつそう増大する可能性があり、問題は重大である。
本件地域に予定されている原子力発電所の運転、定期検査作業等については、地元の労働力が一定程度期待されているが、右にのべたような発電所労働者の安全上の問題が解決されない状態で、本件地域における大規模原子力発電所設置を目的とする公有水面埋立の許可を与えることは、住民の生命および生活の安全を守るべき任務を放棄したものであり、憲法に照らして違法である。
b 住民への影響の問題
最初に、原子力発電所の運転に伴う周辺住民の放射線の被曝について述べる。第一の点は、しばしば持ち出される、自然放射線のレベルが相対的に高い地域(インドのケララ州など)でも、白血病等の発生が有意に高いという証拠はないということについてである。この問題の真相は、そのような地域で、白血病や遺伝的影響の発現率について、放射線被曝との関連を論じうるに必要な統計的解析に耐えるだけの全面的調査は行なわれていないということである。統計的議論に耐えない調査で有意差を検出できなかつたということから

この程度の被曝は無害である。

という結論を導くことは誤りである。現在低線量被曝の影響については、ことに遺伝的影響等について知見が充分とはいえず、このような知識水準のもとで当該地域への大容量原子力発電所の立地を前提としている公有水面埋立てを許可することは憲法に違反している疑いがある。
第二の点は、第一の点とも関連するが、軽水炉からの住民の被曝は、高々年間五ミリレムであつて、自然放射線の変動の範囲内だという類の議論についてである。これには二つの問題がある。一つはクリプトン85等の放出にともなう線量評価法の問題であるが、いわゆるICRP(国際放射線防護委員会)方式からヘンドリクスン方式への計算方法の変更によつて、被曝線量の計算値が桁違いに小さくなつたという事実である。AECが軽水炉の設計基準を一〇〇〇分の一にしたという経緯もこの問題と不可分であり、単純に安全に対する積極姿勢の現われとは評価できない。わが国の安全審査における過去の線量評価値をみると、敦賀(沸騰水型原子炉(BWR)三六万キロワツト(KW))一一〇ミリレム/年、福島発電所一号炉(BWR四六万KW)三七ミリレム/年、女川(BWR五二・四万KW)二五ミリレム/年、浜岡(BWR五四万KW)一八ミリレム/年となつており、従来の評価法では五ミリレム/年を大幅に上回つていたが、福島第二原発一号炉(BWR一一〇万KW)では、出力が倍加しているにもかかわらず、東京電力の提出資料によると一・三ミリレム/年となつている。年間何万キユリーかの放射性気体廃棄物がスタツクから放出されるということが歴然としている場合、これの除去を第一義とするのではなしに、人間の制御の及ばない希釈、拡散にゆだねたうえで、上述のような一定の仮説のもとでの評価を行ない、自然放射線のレベルと比較してみせるという姿勢は誤りである。こうした安全評価法が一般にとられていることは、住民の被曝を真の意味で実際上可能な限り低減するという原則をないがしろにするものである。何万キユリーからの放出が予測される場合、これを発生源において除去する技
術的可能性を最大限追求するのではなしに、右のような方法でこれを処理する現状のもとで、本件地域に例のない巨大原子力発電所の集中的立地を目的とし、これがために海面を埋め立てることは、許可されるべきではない。
(ホ) つぎに、温排水の影響について
第一点は、温排水はその拡散予測さえも十分にできない科学水準にあり、生態系への影響についても未知な問題が山積していること、したがつて、科学的見通しも定かでない温排水養殖の宣伝は、問題の鉾先をそらす以外の何物でもないという点である。
第二の点は、取水された海水中のプランクトン、稚仔、卵などは復水系統の通過に際して温度シヨツクのみならず、力学的シヨツクや次亜塩素酸ソーダ、硫酸第一鉄、洗濯廃水中の洗剤などの化学的シヨツクを受けたうえ、混入された放射能の環境下におかれるということであり、生産性の低い海水となつて放出される可能性が強いことである。こういつた総合的効果については、本件地域に予定されている原子力発電所の安全解析においても、ほとんど触れられていない。温排水についてのこのような学問状況のもとで、大容量原発の設置を目的とした公有水面の埋立許可は取り消されなければならない。
(2) 火力発電所の科学技術上の問題点
イ 本件埋立地上に建設予定の火力発電所の構想
発電量は六〇万KW二基計一二〇万KW、使用燃料は第三石油類C重油、燃料使用料は一日約七、〇〇〇キロリツトルと予定されており、石油中の含有いおう分は一・七パーセントと発表されている。いおう酸化物(亜硫酸ガスと、それが空気中で酸化されてできる無水硫酸の総称。)の処理方法は、脱硫法にはよらず一〇〇メートル以上の高煙突による稀釈拡散方式である。
二 いおう酸化物の発生
本件火力発電所に用いる石油は、いおう含有率が一・七パーセントである。低いおう重油というのは〇・五パーセント以下のものをいうのであるから、間違つても、いおう含有率が低いとは云えない。
この石油を一日六、四〇〇キロリツトル使用するのであるから、いおう酸化物は一日二一七トン発生することが予想される。
しかも東京電力が福島職員立会の下で長崎造船所において実施した風洞実験の結果、本件火力発電所から発生するいおう酸化物は<地名略>、いわき市、<地名略>、<地名略>等において着地濃度が一番高くなる可能性を示す等、広域大気汚染をひきおこす危険がある。
ハ ちつ素酸化物(燃焼時に生成する一酸化ちつ素と空気中でそれが酸化されて生じる二酸化ちつ素の総称。)の発生、空気中の約五分の四はちつ素で占められているが、ちつ素は高温特に一、四〇〇度(摂氏)以上になると燃焼し、ちつ素酸化物が生成される。このちつ素酸化物は最終的には硝酸となり、いおう酸化物の最終形態が硫酸となることと比較すると、その影響は測り知れないものである。いおう酸化物の陰にかくれて、このちつ素酸化物の存在が忘られがちであるが、その除去対策の困難性を考えると、いおう酸化物よりもやつかいな存在である。このちつ素酸化物の発生は、火力発電所によるものが圧倒的であり、本件火力発電所においても、その発生が当然予想される。
二 大気汚染による健康破壊
いおう酸化物による汚染によつて、人とくに乳幼児や老人等抵抗力の弱い人々が慢性気管支炎や、その他いわゆる閉塞性呼吸器疾患と総称されている疾病におかされ、集団の中でのそれらの有症率が増大するという形で影響が現われてくる。更に、ちつ素酸化物の方はいおう酸化物よりも水に溶けにくいので、呼吸気道を通して吸入されると、途中で吸収されずに肺の深部に達し、肺水腫等の一層陰性の障害を与えることが知られている。本件火力発電所に近接する常盤共同火力発電所(発電量七二万KW、いおう酸化物排出量一日二〇〇トン、八〇メートル煙突から拡散)によつても、いわき市<地名略>地区住民に対して、呼吸器系統の疾病を発生させている。本件火力発電所によれば、なお一層の広範な健康被害を与えることが予想される。
ホ 大気汚染による農業破壊
大気汚染による被害は、人間よりもまず植物に現われる。汚染物質は、葉の気孔から吸収される。汚染物質が高濃度になると、気孔の閉塞、葉緑素の破壊が発生し、植物は枯死し、あるいはそこまでいかなくても、機能低下を生じ、農産物においては収量の低下へつながる。

最近火力発電所周辺の稲が慢性的に黒穂病のような症状を呈することは、全国的に知られている。本件火力発電所建設によつても、このような農産物に対する影響は当然予想される。
ヘ 温排水による漁業被害
原子力発電所の場合と同様に、火力発電所の場合も、量は少なくとも温排水を放出するものであり、その漁業に対する影響は同様である。従つて、詳論はさけるが、前述した常盤共同火力発電所の場合には、菊田浦の生態系が変化し、アワビに穴があいたりする事故が多く発生していることを指摘する。
(二) つぎに、埋立自体によつても原告の生命、健康、生活を侵害するおそれがある。
(1) 第一に、埋立によつて本県浜通り地方の海岸侵食が一層進行し、原告の生活に対して海岸直近の土地侵食はもとより、高潮、生活環境の変化等種々な形態によつて影響をもたらす。
イ 我国のような海岸線の長い国にとつて、海岸侵食の問題は多大な関心事であり、昭和四六年度においても国は一、一一一億円の支出をしている。口 浜通り海岸は古くから変化に富んだ男性的な急崖が迫つた美しい海岸として知られている。従来から侵食のすすんでいた海岸であつたが、E博士が大正一年から昭和三四年にかけて調査したところによると、年平均〇・三~〇・七メートルであつた。
ハ ところが最近になると、平均して年二~三メートル、ひどい所になると年一〇数メートル海岸線が後退している。
(イ) 海岸侵食のテンポが速まつている第一の原因としてあげられるのは、河川からの土砂供給量の減少である。昭和三〇年以降浜通り河川には多数のダムが建設され、土砂供給量がはなはだしく減少した。それまでは、海岸に運ばれた土砂が海岸を波から防禦し、海岸侵食を防いでいたが、それができなくなつてしまつた。(ロ) 第二に、港湾設備の設備拡充が挙げられる。昭和三六年から港湾設備計画が実施され、福島県内においても小名浜、相馬、江名、中之作、久之浜港等において、港湾敷地の拡張、防波堤の伸長がおこなわれてきた。このような外海への港湾の発展は、沿岸沿いの流れに影響を与え、海岸の形を大きく変える力となる。(ハ) 右と類似したものとして、昭和四六年三月二六日運転開始された東京電力福島第一原子力発電所(<地名略>)の防波堤がある。
この防波堤は、原子炉をとり囲むように南北二本太平洋につき出している。南の防波堤は、長さ九六五メートル、北は一、〇九〇メートルであり、海岸から先端までの直線距離は約七〇〇メートルである。昭和四一年着工して四五年秋に完成している。
この防波堤の建設に伴つて、沿岸の流れに影響を与え、防波堤の南側にあつては土砂の堆積が増え、水深が浅くなる一方、北側にあつては土砂が削りとられ、水深が深くなり、海岸侵食が一層激しくなつている。この侵食によつて海岸変化は著しく、海水浴場として親しまれてきた郡山海岸では、砂浜が削りとられ自然が破壊されている。詳細すると、昭和四四年八月から四七年一二月まで深浅測量結果によれば、防波堤の南側では、全体に水深が浅くなり、堆積傾向にある。南防波堤の突出方向とほぼ平行に土砂の堆積がみられる。
これに反して、北防波堤の北側では、全体に水深を増して、侵食傾向にある。、局所的に二メートルの水深低下にある。
このように防波堤を境にして海底に大きな変化が発生したのは、南から北へ向う波が、防波堤にさえぎられ、波の運搬する土砂の堆積状況に変調をきたしたことが原因である。
また、昭和四二年と同四六年の空中写真による測量結果から、四年間の海食崖の後退速度を求めると、防波堤北側では年に三メートル以上も後退する海岸があつて、後退する速度が激しく、年平均一メートル強である。
これに対して、防波堤南側では、後退速度が年平均〇・七メートルで比較的ゆるやかである。
しかし、E博士の大正一年から昭和三四年までの調査によると、後退速度は年平均〇・三メートルとなつており、防波堤北側は勿論、南側における後退速度も異常と言わなければならない。
本件の公有水面埋立も、右第一原子力発電所におけると同様に、防波堤を突出させるものであり、周辺特に北側の海岸侵食を発生させることは明らかである。二 以上のように、浜通りの海岸侵食が進行しているが、本件埋立を強行するなら
ば、更に一層の海岸侵食が進行することが予想される。そうなると、海岸沿いに住む住民は、土地その他の財産が危険にさらされ、また、高潮がおきた場合にその被害が広範囲に及び、更に海流の変化により附近漁民および川の漁民の生活がおびやかされる。
このような危険を科学的に解明せずに埋立を強行することは、住民の生活権を侵害するものであり、憲法に保障された幸福を追求する権利を侵害するものである。(2) 埋立のための土砂を、<地名略>から採取する予定とされている。しかし、右地内は以前より木の生育が悪く土砂が多い所であり、降雨の際には土砂の流出があり、附近住民への影響が心配されており、現実に土砂流出が発生したことがある。このような地域において、木を切り、土砂を約一三〇万立方メートル削りとることは、附近住民にとつて、その土地等の権利及び生命への危険を発生させることになる。
(3) 更に、右土砂を運搬する際に、<地名略>の中心街を大型トラツクが通行することになる。当然交通事故の急増、騒音、振動による公害、道路のいたみ等附近住民にとつては、いままでの生活環境を変化させる。
4 結論
以上述べた様に、本件各埋立の目的である原子力発電所、火力発電所の建設および埋立自体に、まだ科学的に未解決な問題が多数存在しており、その解決が十分につかない現時点でこれらの計画を強行することは、原告らの生活、土地、営業を破壊するものであり、原告らの

良き環境を亭受し、かつこれを支配する権利

即ち、環境権を侵害する。
これは、憲法一三条、二五条に保障された権利を侵害するものであり、将来埋立および原子力発電所、火力発電所の建設がなされるに至つた段階において、原告らに対し、生活破壊がもたらされることは明白である。
よつて、本件免許の取消しを請求する次第である。
二 1 本案前の申立の理由
原告らは、本件公有水面埋立免許の取消しを求めるにつき、なんら法律上の利益を有しないから、行政事件訴訟法第九条の規定に照らし、本件訴えを提起する適格を欠くものである。
よつて、本件訴えは、いずれも不適法であり、却下されるべきである。原告らの主張が本件訴えの利益の存在を基礎づけるに足りないものである理由は、次のとおりである。
(一) 原告らは、被告が東京電力株式会社に対し本件埋立ての免許をしたのは違法であるとし、その理由として、要するに、第一に、請求の趣旨第一項掲記の埋立ての目的とされている原子力発電所の建設は、設置に当たつての安全審査においてずさんであるのみならず科学技術上安全性を保し難いものであること、第二に、請求の趣旨第二項掲記の埋立ての目的とされている火力発電所の建設は、大気汚染等による健康破壊・自然破壊をもたらすものであること、第三に、右いずれの埋立ても、海岸侵食を進行させ、これにより原告らの土地その他の財産が危険にさらされ、憲法に保障された幸福を追求する権利等を侵害されるにいたること、第四に、現実の埋立工事によつても、土砂の搬出に伴う自然環境・生活環境の破壊により生命・身体・財産が危険にさらされることの四点を挙げて、右免許の取消しを求めるものである。
(二) しかしながら、発電所の建設に関する第一、第二の点は、本件埋立免許に基づき埋立工事が完了した後埋立地に設置することが計画されている発電所についての問題点であつて、埋立免許と必然的関連を有するものではない。けだし、埋立免許は、公有水面を埋め立てて土地を造成することを認める行為であつて、埋立地上に特定の建築物等を設置する権能を付与するものではないからである。埋立地上に特定の建築物等を設置しようとするものは、当該目的物件の設置を規制する各別の法律によりその設置につき確認・許可等を受けなければならず、原子力発電所の設置については核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律二三条一項の規定による内閣総理大臣の許可を、火力発電所については電気事業法四一条一項の規定による通商産業大臣の認可を必要とするものである。したがつて、当該発電所の設置の当否については、右の許可又は認可の手続段階において調査検討されるべきものであつて、埋立免許申請手続において審査の主題となるものではない。もつとも、昭和四九年三月一八日政令第五六号による改正前の公有水面埋立法施行令(以下旧法施行令という。)二条一項三号によれば、本件埋立免許申請当時においては、申請書に埋立ての目的を記載すべきものとされていたが、右規定の趣旨
は、当該埋立てが公共の利益の実現に資するものであるか否かの判断資料を得て埋立免許行政の適正を期するにあるものと解されるので、埋立免許申請書に埋立ての目的を記載すべきものとされているからといつて、埋立免許申請に対する審査段階において、将来埋立地上に設置される予定の建築物等の具体的安全性等についてまで審査しなければならないものではない。
したがつて、仮に、発電所の建設に関する右第一、第二の点が原告らの具体的な権利又は利益の侵害を意味するものとしても、それらは本件埋立免許によつてもたらされるものではないのであつて、これをもつて右免許の取消しを求める法律上の利益の存在を基礎づけるものとすることはできない。
(三) 次に、原告らが本件埋立免許の違法理由として主張する第三の海岸侵食の点については、海岸侵食のおそれ自体が明確性を欠いているばかりでなく、それが原告らの財産等に及ぼす危険についての主張が具体性個別性を欠いており、法律上の利益主張というに足りないものである。
のみならず、本件埋立免許の根拠である昭和四八年法律第八四号による改正前の公有水面埋立法(以下旧法という。)三条及び四条の規定によれば、公有水面埋立てにつき免許を与えるか否かは行政庁の広範な裁量にゆだねられているのであつて、埋立てによる海岸侵食のおそれというような派生的効果のごときが直接的、具体的に免許行政における保護の対象とされているものではないことが明らかである。したがつて、本件埋立免許により海岸侵食がもたらされる旨の原告らの主張は、いわゆる反射的利益の主張であつて、取消訴訟の対象とし得る法律上の利益にかかわりのないものとして採用に値しないものである。
(四) 前記第四の現実の埋立工事による被害の点は、仮にそのような被害があるとしても、それらは、本件埋立免許から直接的に発生するものではなく、一連の埋立工事の手段・方法の不適切・不完全によるものであるから、本件埋立免許がその原因であることを前提とする原告らの主張は、理由がない。
(五) (1)なお、ある行政処分の取消しを求める原告適格があるというためには、その処分自体の直接の効果として、原告の法律上の利益に対し損害ないし不利益を生ずることを要する。公有水面埋立免許は当該水面についての埋立権を出願人に設定するに止まるものであるから、右免許それ自体が当該水面の周辺において生活する者に対して損害ないし不利益を与えることはあり得ない。したがつて、右に述べた処分自体の直接の効果を文字どおり解するならば、当該水面の周辺において生活する者は埋立免許の取消しを求める原告適格を有しないといわざるを得ないのである。仮に、埋立免許は埋立権の設定を受けた者の埋立工事を当然に予定するものであることに着目した上、埋立工事およびこれを根拠付ける埋立免許を一体とみて公法的規制に服せしめるべきであるとの認識を前提として、原告適格の有無の判断に関しては、埋立工事によつて事実上生ずる周辺環境への影響をも埋立免許自体の直接の効果としてとらえ、それによつて損害ないし不利益を受ける者に右免許の取消しを求める原告適格を認めるべきであるとする考えに立つても、埋立免許自体の直接の効果としてとらえ得るのは、あくまでも埋立工事自体によつて生ずるものに限られるのであつて、埋立完成後の埋立地の利用に伴う現象は、埋立免許の直接の効果の範囲に含めることのできないものである。
(2) ところで、原告らが本件免許によつて被ると主張する損害ないし不利益とは、前述のとおり、(1)埋立地に建設される原子力発電所の運転による危険、(2)埋立地に建設される火力発電所の運転による健康及び自然の破壊、(3)埋立施行による潮流異変に基因する海岸侵食からの被害、(4)埋立工事に伴う自然及び生活環境の破壊による生命、身体及び財産への危険、の四点に帰着するものと解されるが、しかし、右いずれの主張を根拠としても原告らの原告適格を基礎付けることはできない。
この点を以下において明らかにする。
(六) (1)まず、原告らの主張する右(1)及び(2)の損害ないし不利益なるものは、いずれも、埋立の完成した後における埋立地の利用に関する事柄であつて、本件免許自体の直接の効果としてこれをとらえることのできないものである。したがつて、仮にそのような損害ないし不利益の発生の可能性が想定できなくはないとしても、このような場合の司法的救済手段は、そのような事柄を直接規制する行政処分に対する抗告訴訟その他の行政訴訟又は問題の解消を求める民事訴訟手続として与えられるべきものである。右のような損害ないし不利益は、本件免許との関係においては、事実上のしかも極めて間接的な損害ないし不利益にすぎないのであるから、これを基礎として原告らに原告適格を認め、本件免許を争う道を開こう
とする考え方は、行政事件訴訟法九条にいう法律上の利益を有する者の範囲を明らかに逸脱するもので違法であり原告らの権利救済という観点から見ても、そのような争訟手段を許容すべき必然性はない点において採用の余地はない。原告らは、旧法施行令二条一項三号が願書に埋立ノ目的の記載を要求しており、昭和四八年法律第八四号による改正後の公有水面埋立法(以下、新法という)も埋立地の用途のいかんに着目した規定を置き、特に同法四条一項が環境保全についての配慮を免許基準の一つとして規定しているのは従前からの実質的な免許基準を確認的に記載したものであるとして、本件免許出願に対する判断に際しては、埋立地に建設される本件原子力発電所及び火力発電所の運転に関する安全性あるいは環境への影響を審査すべきであり、したがつて、原告らは右運転によつて生ずるとする前記(1)及び(2)の損害ないし不利益を基礎として本件免許の取消しを求める原告適格を有する旨を主張する。しかし、右の主張は、そもそも旧法施行令二条一項三号の埋立ノ目的と埋立工事の完成によつて生ずる埋立地の用途とを同義であると解する点において失当であるが、この点はしばらくおくとしても、本件免許自体によつて原告らがいかなる影響を受けるか、右の影響は、本件免許自体の直接の効果といえるか、また、それは法律上の利益に当たるかという問題と、本件免許に際し行政庁がいかなる事項につき審査し判断すべきかという問題とを混同するもの、端的に言えば、本案前の問題と本案の問題とを混同するものである。すなわち、埋立の目的のいかんが、次に述べる意味においては埋立免許を与えるべきか否かの判断について無関係とはいい得ないとしても、このことと、原告らが、本件免許によつて、その取消しを求めるについての原告適格を基礎付けるに足る、その直接の効果としての損害ないし不利益を受けるか否か、原告らが行政事件訴訟法九条の法律上の利益を有する者に当たるか否かとは、全く別個の問題である。
(2) 旧法施行令二条一項三号が願書に埋立ノ目的の記載を要求している趣旨は、埋立地自体の利用目的を明らかにさせることにより、それを当該埋立てが公共の利益の実現に資するものであるか否か等を見るための参考とし、埋立免許料の適正な徴収等埋立免許行政の適正に役立たせるにあるのであり、原告らが主張するように埋立免許を与えるか否かの判断に際して埋立完成後の埋立地の個々の利用行為(本件で言えば、原子力発電所及び火力発電所の建設、運転)に係る具体的な安全性あるいは環境への影響自体まで審査するためではない。したがつて、埋立ノ目的と埋立地の用途とが仮に同義のものであると解したとしても、それが社会通念上一般的に見て公共の利益に抵触しないといえるものであれば、いかなる用途のものに埋立免許を与えるかは、都道府県知事の裁量にゆだねられているのである。本件の場合、原子力基本法の制定に見られるように、我が国において既に原子力利用推進の方針が樹立されていること、国内外において原子力発電所及び火力発電所の建設が社会的に要求されており、これらの発電所の建設は公益に合致すると考えられること、本件各発電所の建設は電源開発促進法三条に基づいて内閣総理大臣が決定した電源開発基本計画に組み入れられていること等から、被告は、本件各発電所の施設の建設、築造を目的とする本件埋立ては公共の利益に合致すると判断したのである。
(3) 以上述べたところから極めて明らかなように、願書に埋立ノ目的の記載が要求されているとしても、そのことから直ちに原告らが本件免許の取消しを求める原告適格を有するということはできないのである。
(七) 次に、原告適格があるというためには、行政処分によつて何らかの損害ないし不利益を受けることをばく然と抽象的に主張するのみでは足りず、その行政処分によつて当該原告が損害なし不利益を受ける過程、損害ないし不利益の内容を具体的に示すべきものである。そして、いうまでもなく、これらの点についての主張はそれ自体において論理的、経験的に根拠のあるものでなければならないが、それとともに右主張を裏付けるに足る立証が伴わなければならないものである。ところで、先に述べたように、公有水面埋立免許自体の直接の効果としては当該水面の周辺において生活する者に何らの損害ないし不利益を与えるものではないが、仮に埋立工事による周辺環境への影響をもつて原告適格を基礎付け得るものとしても本件においては、原告らは、本件埋立工事によつて前記(3)及び(4)の被害、すなわち海岸侵食からの被害及び自然と生活環境の破壊の発生するおそれをばく然と抽象的に主張するのみで、本件の埋立工事によつてそのような現象を生ずるとする具体的かつ合理的な根拠を示していないばかりか、個々の原告らがいかなる損害ないし不利益を受けるかについては何ら具体的な主張をしていないのである。
したがつて、前記(3)及び(4)に主張されている被害の点をもつてしても、本件免許の取消しを求めるについて原告らにその適格を認めることはできないのである。
2 請求原因に対する認否
(一) 請求原因1前段事実は不知、同後段事実は否認。
(二) 同2の事実は認める。
(三) 同3は争う。
3 被告の主張
(一) 本件公有水面埋立免許に至る経過
(1) 埋立免許の出願
訴外東京電力株式会社は、被告に対し、旧法第二条の規定により、次のとおり公有水面埋立免許の出願をした。
イ 福島第二原子力発電所関係
(イ) 願書提出日
昭和四八年六月二一日(福二原準発第一一七号)
(ロ) 埋立場所
福島県双葉郡<地名略>先水面
同県同郡<地名略>先水面
(ハ) 埋立ての面積
埋立面積 一九万一、六六八・五一平方メートル
護岸敷 七、一三一・四〇平方メートル
合 計 一九万八、七九九・九一平方メートル
(二) 埋立ての目的
福島第二原子力発電所一号機(出力一一〇万KW、最終予定四基計四四〇万KW)を建設するため、前面海域に護岸を築造し、護岸内の埋立工事を実施する。(ホ) 埋立工事の着手及び竣工
着 手 昭和四八年一一月一日
竣 工 昭和五四年三月三一日
ロ 広野火力発電所関係
(イ) 願書提出日
昭和四八年六月二一日(広大準発事第九二号)
(ロ) 埋立場所
福島県双葉郡<地名略>地先水面
同県同郡<地名略>地先水面
(ハ) 埋立ての面積
埋立面積 三四万四、三八八・六二平方メートル
護岸敷 二万七、二三四・九四平方メートル
合 計 三七万一、六二三・五六平方メートル
(ニ) 埋立ての目的
広野火力発電所(出力六〇万KW、二基一二〇万KW)を建設するため前面海域に護岸及び防波堤を築造し、護岸
敷内の埋立工事を実施する。
(ホ) 埋立工事の着手及び竣工
着 手 昭和四九年四月一日
竣 工 昭和五五年三月三一日
(2) 被告は昭和四八年七月六日右各願書を受理した。
(3) 地元町議会の意見
被告は、昭和四八年八月一三日、楢葉町議会、富岡町議会及び広野町議会に対し、旧法第三条の規定により意見を求めた。
楢葉町議会は同年一〇月二日、富岡町議会は同年九月二八日それぞれ意見がない旨を、また、広野町議会は同年一〇月一日同意する旨の意見を被告に対し提出した。(4) 埋立ての免許
被告は、本件各埋立免許の出願について、調査検討の結果、法定要件に欠けることがないと認められたので、昭和四八年一二月一日、訴外東京電力株式会社に対し、旧法第二条の規定により本件埋立ての免許をした(ただし、原子力発電所関係につき、工事着手期日を昭和四八年一二月一日以降、工事竣工期日を昭和五四年四月三〇日、火力発電所関係につき、工事着手期日を昭和四九年四月一日、工事竣工期日を昭和五五年三月三一日とした。)。

(二) 本件埋立免許に至る経過は以上のとおりであつて、被告の本件免許には、なんら違法の点がない。
三 本案前の申立に対する原告らの主張
1 被告が本件免許処分において、埋立の目的である原子力発電所、火力発電所の安全審査をしなかつたことは、地方自治体としてなすべき責務を果さず、開発と環境保護との総合的視野を欠き、地域住民の生命健康を危険に陥れる重大な違法がある。
(一) そもそも、行政過程は、ある目的に向けられた行政庁の行為の積み上げであつて、かかる行政過程の一断面をとりだし、他と切り離して論議することは、意味をもたない。ところが、被告の主張は、全体像をぬきにして審査すればよいとする主張であつて、結局のところ、何のためにその審査をするかという根本のところを忘却した主張に他ならない。もし埋立地上に作り上げられる原子力発電所、火力発電所が住民の生命、健康に危険を及ぼすおそれのあることが明らかにされた時、埋立に投ぜられた約二六〇億円の膨大な投資(東京電力提出の願書添付の見積書による。)は、環境破壊にのみかけられたことになる。美しい海を埋立ててつくられた約五七万平方メートルの埋立地は、廃虚に他ならなくなる。請求原因において述べた如く、その危険は確実に存在している。そうなつた場合、被告はその責任をどうとろうというのか。
近年失われた自然は戻らないことが認識され、開発が自然破壊を伴う場合、充分な慎重さが要求されてきている。まして、本件で問われているのは、住民の生命・健康、人間社会全体の将来である。大型開発によつて生み出される潜在的危険が大規模であることが予想される場合、着手の前になされるべき安全審査もまた全面的でなければならない。
このことが、被告の責務である

住民の安全、健康及び福祉を保持すること

(地方自治法二条三項一号)を貫く道である。
(二) 本件の場合、原告らを含む地元住民にとつて、埋立に対する関心は、埋立自体による環境破壊にとどまらず、埋立地上で行なわれる産業活動にある。そのため、本件においても旧施行令六条に基づき、地元市町村会の意見を徴しているが、その地元市町村の意見は埋立の目的に集中してよせられている。
(三) 以上の通りであるから、免許権限を有する被告は、埋立が完成し、最終目標が達せられたときの姿を想定し、それが地域環境にどのような影響を及ぼすかについて事前調査をつくしたうえで判断することが、法の規定からも、また、地域行政・環境行政のあり方からしても求められている。
このように、プロセスの初期の段階において判断をなすことが、回復不能な損害を防止し、将来の開発と環境保全との総合的視野にたつた判断ができる保障であり、それが行政経済にもなる。2 本件の場合、埋立権者である東京電力は、昭和四八年六月二一日、被告に対して本件埋立各免許を申請するに先立つて、昭和四七年八月二一日、内閣総理大臣に対し、「埋立の目的である原子力発電所の設置許可の申請をした。右原子力発電所設置の許可処分は、本件埋立免許処分がなされた昭和四八年一二月一日以降である昭和四九年四月三〇日になされている。埋立をしようとする者は、埋立免許申請に前後して、埋立地上に設置される物が、他の法規により規制される場合には、その法規にのつとり、行政庁の許可処分を求めて申請をなしているのが通常である。公有水面が埋立てられても、右埋立地上の建築物の許可がない場合には埋立は全く無駄な投資となる。本件のようにその建築物が原発である場合にはいずれその安全審査が要求されるのであるから、仮に被告には充分な安全審査をなすスタツフがないため、安全審査ができないとしても、被告は少なくとも埋立免許処分を原発の安全審査と平行し、その結果を待つてなすべきである。被告はかかる最低の努力すら怠つた。
3 以上の背景を前提として、公有水面埋立法は、免許処分にあたり埋立の目的を審査対象とすべきことを求めている。(一) (1)本来、公有水面の埋立は、一般的に禁止されており、法の求める審査を経たのち、都道府県知事の免許を受けてはじめて、公有水面を埋立てて土地を造成することが認められるのである(新法二条一項)。そこで埋立免許を受けようとする者は、都道府県知事に提出する願書に埋立地ノ用途を記載すべきことを求められている(同法二条二項三号)。願書記載事項が免許に係る審査対象に他ならないことは、右条項の位置、記述内容からみて明らかである。
(2) これについて、被告は、右規定の趣旨は、当該埋立てが公共の利益の実現に資するものであるか否かの判断資料を得て埋立免許行政の適正を期するにあると主張している。しかしながら、被告の全体的主張との関連において検討すると、原告らには右趣旨が全く理解できない。被告は、埋立の目的の何を行政の判断資料としようとするのか。被告主張をどのように解しようとしても埋立の目的が附近住民にとつて生命、健康をおびやかす危険物に他ならないとの強い疑念がある時でも、その安全審査をなすことは要件ではなく、埋立の目的 は単なる資料の一つにすぎないこととなり、そのまま免許を与えたとしても違法ではないこととなる。とすれば行政は公共の利益のために何をしているのか。住民の生命・健康を考慮しない公共の利益とは一体何か。結局のところは、被告のいう公共の利益とは、生活する多数の住民の生命・健康を踏みつけにした開発者の利益に他ならない。特定開発者の利益が公共の利益にすりかえられている。(二) 知事は、以下の点を審査し、それに適合すると認めた場合でなければ免許をなすことかできない(同法四条)。以下の事項の判断には、用途の安全性を含めて審査検討しなければ判断できないことは明白である。
(1) 国土利用上適正且合理的ナルコト(同法四条一項一号)
(2) 其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタモノナルコト(同法四条一項二号)
(3) 埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全二関スル国又ハ地方公共団体ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト(同法四条一項三号)(4) 埋立地ノ用途ニ照シ公共施設ノ配置及規模ガ適正ナルコト(同法四条一項四号)
以上の規定は、審査にあたり、国土利用目的の適正妥当であることとその利用が環境保全・災害防止上十分配慮されているかを総合的に検討し、もし、災害防止・環境保全に対して否定的な結論がでたら免許を与えることはできないと明記している。被告の主張は、埋立地上に設置される目的物件については、それぞれ原子炉等規制法、電気事業法による許可、認可手続があり、それに基づき、設置の当否を判断すべきであるというのであるが、法は、許可手続の段階において、右の通り環境保全、火災防止につき審査判断せよとしているのであるから、被告の反論は成り立ち得ない。
(三) 同法四条三項二号は、其ノ埋立ニ因リテ生ズル利益ノ程度カ損害ノ程度ヲ著シク超過スルトキでなければ埋立の免許を与える事はできないとしている。埋立によつて生ずる利益というのは、埋立によつてどの程度の面積の土地が生まれたかという点に限定されるわけではない。同様に、損害の程度を著しく超過するときというのも、奪われる水面利用権に限定されるものでもない。ここでも国土利用上の総合的判断が、環境保全・災害防止とのかかわりにおいて求められている。(四) 一たん免許があつた後でも、埋立地ノ用途の変更をなすには、都道府県知事の許可が必要である(同法一三条ノ二)。そのことは、用途が免許にあたつての重要な事実であることを示している。たんに行政の適正を期するための判断資料にすぎないとは言えない。
(五) 右埋立ノ用途が免許の前提としての重要な事実である以上、埋立工事終了後といえども、一〇年以内に用途の変更を求めるときにも、知事の許可を必要としている(同法二九条一項)。この場合にも、埋立地ノ利用上適正合理的ナルコト供セムトスル用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコトを判定しなければ許可を与えることはできない。
(六) 免許権者である都道府県知事には、右埋立によつて将来公害を発生することが予測され公害を除却シ又ハ軽減スル為必要な場合には、免許の取消を含む措置をとることができる。(同法二三条)。右規定は、免許の時期に公害発生が予測される場合には、免許をすることができないことをも同時に意味している。事後に監督できるとするなら、事前にもできなければおかしいからである。右において公害の発生とは同条一項四号に工事施行ノ方法ガ公害ヲ生ズル虞レアルトキも同様とあるから、埋立によつて直接もたらされる公害以外の公害をも意味しているのである。この規定によつても、都道府県知事の免許の権限は、埋立地上に設置される施設の操業について、それが公害を発生するなら免許の取消を含めて監督・規制に及びうることは明らかである。
以上、新法の各規定は、明確に

埋立ノ用途、目的

が免許にあたつての審査対象であり、右審査は当然に安全審査をも含むものであることを示している。(七) さらに、旧法施行令によれば、右趣旨はより明確にされている。
(1) 同施行令二条一項三号は、埋立免許の願書提出にあたり、免許を受けんとする者は埋立の目的を願書に記載することを求めている。このことから、埋立目的は審査対象であることが確認できる。
(2) 同施行令は、免許の優先順位につき、公益上及経済上ノ価値最モ大ナルモノヲ免許スベシとしている(同施行令第五条一項)。将来発生することが予想される公害をも含めて判断しなければ、公益上、経済上の比較はできず、従つて、優先順位は判断できないことはいうまでもない。
(八) 以上の各規定は、昭和四八年改正による公有水面埋立法四条一項二号、同三号を加えたことによつて、趣旨を根本的に変えたのであろうか。同号が環境配慮を目的として、埋立目的の総合審査をなすべきとする立場で解釈において争いの余地をなくした規定であることは当然としても、原告の主張は、他の各法条からも裏付けられるのであり、本号は、現代において当然の事項を規定したにすぎないのであるから、本号を加えた点は、確認的意味をもつにすぎないと言うべきである。以上のとおり、原告らには本件処分を取消しを求める利益がある。第三 証拠(省略)

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