判例検索β > 昭和51年(行コ)第89号
保育所設置費国庫負担金請求控訴事件
事件番号昭和51(行コ)89
事件名保育所設置費国庫負担金請求控訴事件
裁判年月日昭和55年7月28日
法廷名東京高等裁判所
判示事項1 保育所の設置者である市が保育所の設備費用に対する国庫負担金の交付を国に申請するに際し,厚生大臣らがあらかじめ一定額の交付申請をさせるべく行った事前協議,内示及び交付申請についての行政指導が,右市の正当な権利の行使を妨げた行為ということはできないとされた事例 2 児童福祉法52条,51条2号,同法施行令(昭和48年政令第371号による改正前)15条1項,16条1号により,国庫が負担することとされている保育所の設備費用に対する負担金についての具体的な請求権は,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律6条による交付決定がなければ発生しないとした事例
裁判日:西暦1980-07-28
情報公開日2017-10-20 00:17:33
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○ 主文
一 本伶控訴を棄却する。
二 控訴人が当審において追加した予備的請求を棄却する。
三 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴人は、

原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金四、一二八六万四、九九五円とこれに対する昭和四八年八月三一日から右支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求めるとともに、当審において予備的請求を追加し、主位的請求と同旨の判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は次のとおり付加するほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
(付加)
(控訴人が当審において付加した主張)
一 本件保育所設置費国庫負担金支払請求の根拠となる児童福祉法(以下法という。)五二条、五一条二号、同法施行令(昭和四八年政令三七一号による改正前のもの。以下同じ。以下施行令という。)一五条一項、一六条一号の各規定の規範性は、(イ)その文言上から、(ロ)立法当時の立法者の意思から、(ハ)当時の右負担金交付の実績から明らかであつて、これらの規定による右負担金は裁量の余地のない義務的なものであり、右各規定から、直接具体的な国庫負担金請求権が発生すると解すべきことは当然である。
すなわち、国庫補助金、負担金交付の根拠となる数多くの法令を分析すると、法令の文言において、交付者たる国の裁量の余地を認めるいわゆる裁量型と、これを認めないいわゆる義務型に分れており、後者は更に負担金等の算出の根拠となる経費の額を実支出額に求めるか、基準額に求めるかにより、いわゆる義務型実額タイプと義務型基準額タイプに分れているが、前記法五二条等の各規定が、その文言上、右のいわゆる義務型実額タイプに属することは明らかである。
次に法制定当時、参議院厚生委員会において政府委員は児童福祉法案の説明として、児童福祉施設の設備等に関する国庫負担につき

これだけの率による法律上の義務を負担することは、政府の相当の決意を示すものであり、その必要さえあれば法定率により当然に支出されるべきものである。

という趣旨を述べており、この点からみても、当時の立法者らが右負担金は裁量の余地のない、清算実額に基づく義務的なものと観念していたことが明らかである。
また、法施行後相当の期間、国の右負担金は地方公共団体の実支出額を基礎として計算され、支出されていたのである。
二 被控訴人は、本件負担金の支払を求める具体的請求権が、右の法五二条等の各規定から直接発生するとすれば、国において右負担金支払債務の金額、決済時期を予測することが不能となり、予算制度や会計年度独立の原則の維持も不可能になる、と主張する。
しかしながら、市町村による保育所の設置については、法三五条三項により都道府県知事の認可を受けることが義務づけられており、しかもこの認可は国からの知事に対する機関委任事務であるから、国は右認可がなされる際に、あるいは保育所整備につき事前協議が行われる際に、右の保育所設置を十分に予知できる。また、市町村が保育所を設置するについては、その設備費用の一部を自ら負担するほか、国庫負担金の対象とされていない土地(保育所の敷地)の取得等及び保育所の運営につき莫大な費用を要し、地方財政法三条、四条一項等の規制のもとに、その限られた財源からこれを支出しなければならないのであつて、市町村の財政上の制約及び住民の民主的コントロールにより自ずから限度があるものである。また、保育所に入所させるべき要措置児童の数も統計上推定可能であり、さらに、国は後記の事前協議により市町村が企画する保育所の具体的規模、予算等を把握しうるのである。したがつて、市町村の保育所の設置が無制約に行われるはずはなく、また、その費用につき国が法定の負担をしても、国庫に予測不能な無限の負担を強いるものではなく、その事業企画や財政計画を乱すことにはならない。なお、国が右法律上の義務を果すにつき経費が不足する場合には、予備費からの支出、補正予算の編成等の措置を講ずるのが当然であり、予算及び会計上の障害を理由に本件の場合のような明白な国の義務を回避することは許されないというべきである。
国の直轄事業における地方公共団体の費用負担についてはその割合が法定され(道路法五〇条、河川法六〇条等)、国側は一方的に地方自治体に負担額(実額により
計算され、法定の割合に基づく)を請求し、地方自治体がその全額を支払つているのが実情である。しかるに、地方公共団体が行う事業の経費については、国は法定の負担割合に従わず、恣意的な裁量による金額しか支払わないため、地方自治体は常に超過負担に苦しめられるという不合理が生じており、本件はその典型というべきである。このような状態は地方自治体につきその財政的基盤を危うくし、国に対する従属的地位に立つことを強いるものであつて、不当なことは明らかである。国に会計上、財政上の原則があるように、地方公共団体にもその財政の運営の健全を求める厳しい原則(地方財政法四条の二)があり、一方的に国庫の便宜と都合を優先させ、地方公共団体に負担を転稼することは、地方公共団体の財政の独立と安定をそこない、地方自治体の自主性、自律性を弱化し、憲法九二条のいう地方自治の本旨に反するものというべきである。また、国の都合によつて地方自治体を財政上圧迫することを禁じた地方財政法二条二項の規定、国の支出する負担金の額は、地方自治体が当該国の支出金に係る事務を行うために必要かつ充分な金額を基礎として算出しなければならないとする同法一八条の規定の各趣旨に鑑みても、被控訴人国は控訴人に対し法の定めるところにより算定された本件保育所についての国庫負担金を当然に支払う義務があるというべきである。
控訴人摂津市は、人口急増都市の代表的都市であり、共働き世帯が急増したため、児童福祉法に従つて保育に欠ける児童を収容する本件保育所の設置の必要に迫られたものである。しかるに、国は同法及び施行令の定める負担金の支払を怠り、控訴人に超過負担をかけて顧みないのであつて、右は国が国民の基本的人権たる社会福祉上の権利の享受を妨げるものであり、憲法の要請に反するところである。三 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下適正化法という。)に基づく交付決定の手続は補助金等の不正申請、不正使用を防止するための一般的手続であり、同法に基づく交付決定をまたずして本件国庫の負担金請求権が発生することは既に原審で述べたとおりであるが、同法の定める手続は主として補助金等が前金払、概算払によつて支出されることから規定されたものである。したがつて、本件の場合のように、控訴人の本件四保育所の設置費の支弁によつて、すでに保育所設置費国庫負担金請求権が実体法上具体的に発生、確定した段階において右請求権を行使する場合には、もはや適正化法によつて負担金等の不正申請、不正使用を規制する必要性は全くない。したがつて、控訴人は適正化法による交付決定を経ることなく本件国庫負担金請求権の行使ができる。
四 そうでなくとも、本件負担金請求権に関する適正化法による交付決定は何ら実質的な処分性を有するものではなく、公定力や不可争力を有しないいわゆる形式的行政処分であつて、すでに発生、確定している負担金請求権を厚生大臣が確認するものにすぎない。したがつて、請求者が一旦適正化法の手続によつて申請をし、これに対する厚生大臣の確認的行為があれば請求者は当事者訴訟によつて実体法上発生した国庫負担金請求権を行使できる。本件では、いずれの保育所についても控訴人は事前協議において、大阪府を通じて国に対して本件負担金請求を行つており、うち別府、香露園保育所については厚生大臣が一部交付決定をしている。そして、いずれも国と市町村との間で行われている事前協議及び内示制度は、実質上は交付申請、交付決定にあたるものとして機能しているのが現実であるから、このような実態に鑑みれば、別府、香露園保育所についてはもとより、事前協議又は内示の段階で交付申請を断念させられた摂津、正雀保育所についても、適正化法による手続を一応経ているものというべきである。
五 仮に、適正化法の定める手続を経なければ負担金請求権を行使することができないのが原則であると解するとしても、適正化法の手続を経なかつたことについて正当な理由がある場合には右手続を経ることなく直接国に対して負担金の給付を請求することができると解すべきである。本件において、厚生大臣は、長年の行政慣行として確立させた事前協議・内示制により本件負担金について控訴人が交付申請を行うことに介入し、これを妨害し、控訴人をして同申請を全く断念させ、あるいは内示額による交付申請しかさせなかつたものである。その当然の結果として厚生大臣が交付決定した金額についてしか交付申請が存在しないこととなり、控訴人にとつて不利益行政処分は存在せず、控訴人が適正化法の手続を通じ抗告訴訟によつて権利の実現を図ることは困難となつた。しかもこのような事態は被控訴人が自ら法律上の追及を免れようとして企てたことであり、被控訴人が一方でこのような事態を作出しながら、他方で抗告訴訟によるべきであると主張することは正義と公平に反する。したがつて、本訴においては、交付決定を経ないことについて正当な理由があるというべきであり、控訴人は抗告訴訟によらず、本訴請求により本件負担
金の給付を求めることができるというべきである。
(控訴人が当審において追加した予備的請求の請求原因)
仮に、適正化法による交付決定が本件負担金請求権の発生あるいは行使の要件であるとするならば、予備的に、控訴人は被控訴人に対し国家賠償法一条に基き次のとおり損害賠償請求をする。
一 前記(原判決事実欄第四の三)のとおり、控訴人が適正化法所定の交付申請を行わず(摂津、正雀両保育所の場合)、または極めて低い金額の交付申請しか行わなかつた(別府、香露園両保育所の場合)のは、厚生大臣がその指定した保育所についてのみ右金額を定額として負担金を交付するものとし、それ以上は申請がなされても支払わない旨を内示してきたためであり、又被控訴人国の窓口であり国の履行補助者たる大阪府が内示のあつたものについてのみ、しかも内示の額面どおりの申請書でなければ受理しないとの態度を示したからである。
二 厚生大臣は、国庫負担金等の交付申請に対して法令の定めるところに従い誠実に交付決定をなすべきものであり、市町村に対してその交付申請自体に介入し、その申請行為を行い難くするような方向で影響力を行使するようなことが違法であることは当然である。しかるに厚生大臣は地方自治体の犠牲において被控訴人の負担金支払義務を免れることを目的として、その指導のもとに事前協議及び内示制度という法に基かない手続を一般化し、拘束力あるものとして取扱い、なんら法令上の根拠もなく、実額に対する法定率はもとより、国の定めた基準額にも及ばない一定額(一〇〇万円あるいは一五〇万円)をもつて打切る内示額又は右定額すら与えない旨(零内示)を交付申請前にあらかじめ提示し、仮に実額申請をしてもそれは認められるものでないという意向を強く示すという方法により、前記のとおり、控訴人ら市町村をしてこれに従わざるをえないようにし、申請又は実額申請をすることを事実上不可能若しくは著しく困難ならしめてこれを妨害したものである。これが厚生大臣の故意又は過失による違法な公権力の行使であることは明らかである。三 国の窓口として、保育所設置費国庫負担金交付申請書の受理を担当している大阪府の係員は誠実に申請書を受理し、厚生大臣に進達するという義務を負うものであるところ、右係員は、これに反し、控訴人の本件負担金交付申請につき、控訴人に対し厚生大臣の内示どおりの申請書を作成提出するよう指示し、これに従わない申請書の受理を拒否するなどして控訴人の正当な権利行使を妨害したものである。これが右係員の故意又は過失による違法な公権力の行使であることも明らかである。右係員は厚生大臣の履行補助者であるから、右係員の違法行為により被控訴人が国家賠償責任を負うことは当然である。
四 若し厚生大臣等の右の妨害行為がなく、控訴人が本件保育所の国庫負担金につき実額に基いて交付申請を行つていたなら、法令の定めるところにより交付決定を行うことが義務づけられている厚生大臣としては法五二条等により、本件四保育所の設置につき主位的請求におけると同様合計金四、六三六万四、九九五円の金額をもつて交付決定を行つたはずである。
以上のとおり、控訴人は前記の厚生大臣等の違法行為により同金額から前同様すでに交付をうけた金二五〇万円を差引いた金四、三八六万四、九九五円相当の損害を蒙つたので、控訴人は被控訴人に対し右損害金四、三八六万四、九九五円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四八年八月三一日から右支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被控訴人が当審において付加した主張)
一 控訴人が当審において付加した主張一は争う。国庫負担金の具体的請求権は適正化法に基づく交付決定があつてはじめて発生するものであることは原審で述べたとおりであるから、法五二条等の規範性を論ずることは、本件においてさほど重要な意味を有しない。なお、適正化法上負担金と補助金とを区別する理由はないというべきである。また、保育所施設整備費国庫負担金の算出のいわゆる定額方式は昭和三〇年度から内規によつて行われたものである。右定額方式が採用された理由は、保育所整備につき、国、地方公共団体ともに、まずその設置箇所数の量的拡大を念願においていたことによるものであり、特に地方公共団体においては、個々の保育所に対する負担金の交付額が低下しても、できるかぎり負担金交付対象となる保育所の数を増加させることを要望した。その理由は、国庫負担金対象施設については都道府県の負担金が交付されるほかに、当該地方公共団体の負担分につき地方自治法による起債の許可が優先的に与えられることになつていたからである。右のように、定額方式は、地方公共団体の要望に沿つて採用されていたものであり、交付手続の実際の運用においても、事前協議により市町村の納得をえて行われてい
た。したがつて、負担金の交付申請においても市町村は、この方針に沿つて、全て定額方式によりこれを行つていたのである。
二 同二の主張も争う。法三五条三項の保育所の認可制度は、保育所の施設設備が児童の健全な育成のための最低基準に適合しているか否かの観点を中心として行われる制度であり、他方国庫負担金の交付制度は当該市町村の地域的事情、全国的視野からの均衡、長期的な展望、更に限られた財源の枠の中において他の公共の目的をも実現しなければならないこととの調和等多角的見地からの検討をへて一定の国庫負担が行われる制度であつて、このような両制度の趣旨を考えれば、前者の認可が行われたから、必然的に後者の国庫負担金の交付が行われなければならないという相互の関連はない。また認可申請手続と負担金交付申請手続との時間的関係についても、前者が後者に先立つて行われなければならないものではなく、むしろ、認可制度の趣旨、目的から考えれば負担金交付申請手続が終了し、施設が完成した後に認可申請手続が行われるのが妥当であり、現実にも、そのような方法がとられている。このようなことからしても、被控訴人は、負担金交付申請手続の以前に市町村が設置を予定している保育所の数、規模、設置年度等を諒知することはできない。また、市町村が保育所を設置しようとする場合に当該市町村の側においても財政上の制約はあるにしても、国には前記のとおり全国的、多角的見地から検討すべき責務が課せられているのであつて、負担金の交付につき国に課せられたこの制約が市町村における制約以上のものであることは多言を要しない。地方財政法一〇条の二は、保育所整備をはじめとする法律又は政令で定める建設事業が地方公共団体又はその機関により国民経済に適合するように総合的に樹立された計画に従つて実施されることを要件として国がその経費の全部又は一部を負担するものとしている。そして、この計画とは、具体的には、個々の具体的な事業に関する計画のみでなく、より全般的、長期的な経済計画をも含むものであり、例えば、厚生省において策定した社会福祉施設緊急整備五か年計画もその一つである。したがつて、市町村において保育所の設置を決定したからといつて、国が当然これに拘束されるべきものではない。右は地方財政法二条一項が、

地方公共団体は、その財政の健全化に努め、いやしくも国の政策に反し、又は国の財政若しくは他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策を行つてはならない。

と規定しているところからも明らかである。また、控訴人の主張する公営官費事業と官営公費事業との間における地方公共団体と国の費用負担の不均衡の問題も負担金交付に関する適正化法の解釈を左右するものではない。
三 同三の主張も争う。市町村が国に負担金等を請求するには適正化法の定める交付決定を経ることが必要であり、このことは前金払、概算払の場合に限らないことはすでに原審で述べたとおりである。
四 同四の主張も争う。本件摂津、正雀両保育所については事前協議も行われていないし、控訴人からの交付申請もなされていない。また、本件別府、香露園両保育所については厚生大臣において控訴人の交付申請どおりの交付決定をしている。五 同五の主張も争う。後記のとおり、事前協議、内示は拘束力をもつものではないし、後記のようになんら不当なものでも、違法なものでもない。なお、適正化法は、補助金等の交付決定等に関する各省各庁の長の処分に対し不服のある地方公共団体は、政令の定めるところにより、各省各庁の長に対し不服を申出ることができ、右不服申出があつたときは、各省各庁の長は必要な措置をとらなければならず、右措置に不服のある者は、さらに内閣に対して意見を申し出ることができる旨を規定している(同法二五条)。また、負担金交付申請の不受理に対しては抗告訴訟を提起することができるのである。したがつて、控訴人の主張するような場合には、右のような手段により救済を受けることが可能であるから、右の方法によらず、直ちに負担金を訴求することを肯認すべき必要性は全くない。(予備的請求の請求原因に対する被控訴人の主張)
一 予備的請求の請求原因一の事実は不知。別府、香露園両保育所についての負担金交付額は控訴人と被控訴人との合意に基づくもので、控訴人はこれの違法を主張しえないものである。
二 同二の事実は否認する。保育所の設置の国庫負担金交付についての事前協議、内示制(実務慣行)は国庫負担金交付関係事務手続の的確かつ円滑な遂行を図るため厚生省と都道府県知事との間で便宜的に行われているものであり、これに拘束力はなく、控訴人ら市町村の負担金交付申請に何ら制約を加えるものではない。事前協議と内示の仕組は次のとおりである。すなわち、厚生省は、毎会計年度の末に都道府県知事に対し次年度における保育所の施設整備に対する国庫負担について
の国の基本的な方針等をあらかじめ知らせておき、都道府県知事をして、市町村が新会計年度に実施しようとする保育所の施設整備事業について、それが具体的かつ確実なものかどうか等の基本的事項、及びそれが前記の国の方針に適合するかに関し一応の審査をさせ、その上で厚生省との間で国庫負担金の交付の見込み等につき事前協議を行わせ、右協議を受けた厚生省は、前記基本方針に則り審査をし、負担金交付の対象となりうる事業については当該事業につぎ負担金を交付する予定であること及びその予定金額をあらかじめ都道府県知事に内示し、都道府県知事はこの内示を市町村に通知するのである。
都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として国と市町村との間の連絡等市町村に関する連絡調整事務を行うものとされており(地方自治法二条六項三号)、またその管内の保育所設置の認可、設置命令等の権限を有しており、その設置について責任を負うものであり、保育所の施設整備について費用の一部を負担すること(法五四条)などから、市町村が計画している保育所整備事業について前記のとおり一応の事前審査を行い、これを取りまとめたうえ、国と協議する役割を担うのであつて、その独自の立場からも都道府県知事は、厚生省との事前協議を行う前二、その準備のために市町村に対し新会計年度における整備計画を提出させ、右計画につき全県的立場から連絡、調整を行い、市町村と協議のうえその適否を決定し、市町村は都道府県知事の調整権限を尊重してこれに従うのが通例である。国と都道府県との前記事前協議は、右の調整の結果に基づいて行われるものである。また、都道府県知事は、市町村と国との間の連絡、調整上の役割から前記内示を便宜上市町村に通知するのである。市町村は内示のあつた保所につき負担金交付申請書を都道府県を経由して厚生大臣に提出し、その申請額及び申請額算出内訳表の国庫負担金基本額、国庫負担所要額には右内示額に基づく金額が記載されるが、右は事務手続円滑化のための指導によるものであり、内示額を絶対的なものとしてその記載を強制するものではない。
以上の事前協議・内示制は、昭和二三年の児童福祉法に基づく保育所の施設整備の制度の発足当初から行われてきたものであり、国庫負担金等の交付事務の一環として慣行化しているものである。
このような事前協議、内示制は、負担金交付関係事務にとつて必要な手続であるが、特に保育所の施設整備のように、毎年度、多数の整備計画が発生し、これについて国が一定の財源の枠内で全国的視野に立つて公正な調整を行い、しかも一定の限られた時期までにこれを処理しなければならない場合には必要不可欠というべきものであり、合理的かつ正当な手続であつて、違法なものではない。したがつて、厚生大臣がこの過程を経て国庫の負担金の交付行政を行つたとしても何ら違法の点はなく、まして厚生大臣らに故意、過失はない。
三 同三の事実のうち、交付申請書の受理、進達手続が大阪府知事を経由して行われていたこと、大阪府係員が厚生大臣の内示どおりの申請書を作成提出するよう控訴人を指導したことは認めるが、その余は否認する。大阪府知事は、負担金交付申請についてはその経由機関に過ぎず、右の指導は、行政指導として行つたものであつて、控訴人を拘束するものではない。大阪府係員が控訴人の交付申請書の受理を拒否したことはない。
四 同四は争う。
(当審における新たな証拠関係)(省略)
○ 理由
第一 保育所設置費国庫負担金の支払を求める主位的請求について一 控訴人が大阪府に所在する普通地方公共団体たる市であること、控訴人が児童福祉法(以下法という。)三五条三項の大阪府知事の認可をえてその主張(請求原因一の2)のとおり四保育所を設置したこと、右の本件各保育所がいずれも控訴人主張(同一の4)のとおり措置児童を入所させるための保育所であること、控訴人が本件、各保育所を設置するにつき徴収金、寄附金その他の収入のなかつたことはいずれも当事者間に争がなく、成立に争のない甲一号証、三〇号証の一ないし八、四〇号証の二、三、四三号証の四ないし八、七七号証ないし七九号証、本件弁論の全趣旨によると、控訴人が、本件各保育所の設置(正雀保育所については改築、その他の三保育所については創設)に関し、原判決添付別表(二)及び(三)の1ないし4記載の金員(合計額九、二七二万九、九九〇円)を同添付別表(四)の1ないし4記載の時期にそれぞれ支出したことが認められ、これに反する証拠はない。二 そこで、控訴人が、右各保育所の設置に要した費用につき、その支弁した金額の二分の一に相当する金額を国庫負担金として、補助金等に係る予算の執行の適正
化に関する法律(以下、適正化法という。)所定の交付決定を経由せずに被控訴人国に支払を求めうるか否かについて検討する。
1 本件負担金の関係法規をみるに、地方財政法一〇条の二の五号は地方公共団体が実施する保育所を含む児童福祉施設の建設に要する経費の全部又は一部を国が負担すべきものとし、同法一一条は右経費の種目、算定基準、負担割合は法律又は政令で定めなければならないとしている。そして、法五二条、五一条二号、控訴人が本件各保育所を設置した当時の児童福祉法施行令一五条一項、一六条一号(以下、法五二条等という。)は、主として措置児童を入所させる保育所の設備に要する費用については各年度において市町村が支弁した費用の額から、徴収金、寄附金等の収入の額を控除した精算額の二分一を国庫が負担すべきものと定めている。2 本件負担金を含め、地方財政法一〇条以下に現定されている地方公共団体に対する国の負担金と同法一六条所定の地方公共団体に対する国の補助金とを比較するとき、同法上これらの性質に異つた点のあることは右各規定からみて明らかであり、とくに、前者は義務的なものであり、後者は裁量的なものである点において大きな差異があるというべきである。また、負担金についての関係法令を検討すると、法令の文言において、負担金算出の基礎となる経費の額を実支出額に求めるもの(例えば、義務教育費国庫負担法二条等。尤も同条は、同時に特別の事情あるときは国庫負担額の最高限度を政令で定めうることを規定する。)と基準額に求めるもの(例えば、義務教育諸学校施設費国庫負担法三条、五条、七条等。尤も右三条は同時に、政令で定める限度において、との制限を規定する。)に大別できる。そして、本件負担金については、その関係法令たる法五二条等は、市町村等の支弁した費用の精算額に対する負担割合を定めるのみで、右負担金算出の基礎となる経費の額については基準額その他の限度を定めておらず(尤も、昭和四八年政令三七一号による施行令の改正により厚生大臣の承認を受けた保育所につき基準額方式により国庫負担がなされるものとなつた。)。したがつて、市町村等の支弁額を基礎とすることを予定していたものと解される。
3 成立に争いのない甲第五二号証によると、昭和二二年九月一八日の参議院厚生委員会において、政府委員が、児童福祉法案の説明として控訴人の主張(当審において付加した主張一)の趣旨のとおり述べていることが認められ、当時の立法関係者において、本件のような国庫負担金を地方公共団体の支弁する費用額に対する法定の割合により算出される法律上の義務費と考えていたことを推認することができる。また、成立に争のない甲五〇号証、五一号証によると、法施行(昭和三二年一月一日)の直後、一時、保育所設置費国庫負担金が地方公共団体の実支出額を基礎として算出、交付されたことのあることが窺われる。尤も、その期間、その内容の詳細については、これを確認するに足りる証拠はない。
4 以上の認定、説示からすると、本件負担金の交付についてその関係法令たる法五二条等の規定するところは、国の裁量にかからしめるものではなく、義務的なものであり、また、前記法施行令からみれば、その交付額は市町村の現実の支出額を基準とするものであつたということができる。
5 ところで、国が負担金を交付するに当つては、各市町村等の設置する保育所が国庫負担の対象となるべきものであるか、また、このために市町村等が実際に支弁した費用のうち国庫負担金算定の基礎となるべきものの範囲、その客観的に是認される金額等につき、これを具体的に確定する必要があるところ、この点については、前記法五二条等の規定自体によつては明らかでなく、これを判定するための何らかの手続を要することは当然である。また、一般に、国が負担金を支出する以上、右負担金が市町村によりその目的に従い適正に使用されるよう、国に監督権限を与え、負担金の使用が適正を欠く場合には、相当の措置をとることができるようにする必要があり、これらの点についても別途法律上明らかにしておくことが要請される。以上の点については、財政上厳しい制約があり、住民の監督の下にある地方公共団体が不必要な児童福祉施設を設置するはずはなく、保育所等につき必要以上の設備をし、無用に資金を投入するはずもないから、前記のような性質の保育所設置についての国庫負担金は市町村が現実にそのために支弁した費用の実額により明白であり、なんら国側の認定、判断を必要とするものではないという反論があろう。しかしながら、国庫負担金交付の適正と公平をはかり、国家予算の適正かつ効率的な執行を期するうえにおいて、各市町村が支弁したとする費用がなんらの査定を経ることなく、そのまま当然に国庫負担金算定の基礎となり、無条件にこれが交付されるものとするのは相当でなく、右負担金の交付についても、法的規制の必要性を無視することはできないというべきであり、右は法五二条等の趣旨に反するも
のではない。
6 一方、適正化法は、国庫負担金を含む補助金等の交付の不正な申請及びその不正な使用を防止し、補助金等に係る予算の執行が適正に行われることを目的として制定され、補助金等の交付に関する基本的事項を定めるとともに、各省各庁の長が所掌の補助金等に係る予算を執行するに当たり、補助金等が公正かつ効率的に使用されるように努めるべき責務等を明らかにし、補助金等に関しては他の法律等に特別の定めのあるものを除くほかすべて同法の定めるところによるべきものとしている。
同法及び同法施行令は、負担金を含む補助金等に関し大要次のとおり定めている。(一) 補助金等の交付申請をしようとする者は、所要事項を記載した申請書等を各省各庁の長に対しその定める時期までに提出しなければならず(同法五条)、各省各庁の長は、右申請があつたときは、所要事項を調査したうえ、当該補助金等を交付すべきものと認めたときは、交付決定をしなければならない(同法六条一項)。右の場合に、適正な交付を行うため必要があると認めたときは、交付申請に係る事項につき修正を加えて交付決定をすることができ(同条二項)、また、交付の目的を達成するため必要があるときは、交付決定に条件を付することもできる(同法七条)。
(二) 補助事業者等は、法令の定め並びに交付決定の内容及びこれに付された条件等に従い、善良な管理者の注意をもつて補助事業等を行わなければならず(同法一一条一項)、補助事業等の遂行状況に関し各省各庁の長に報告しなければならない(同法一二条)。各省各庁の長は、補助事業等が交付決定の内容又はこれに付された条件に従つて遂行されていないと認めるときは、これらに従つて遂行すべきことを命じ(同法一三条一項)、この命令違反に対しては当該補助事業等の一時停止を命ずることができる(同条二項)。
(三) 補助事業者等は、補助事業等が完了したときは、各省各庁の長にその成果を報告しなければならず(同法一四条)、各省各庁の長は右報告にかかる成果が補助金等の交付決定の内容及びこれに付した条件に適合するものであるか否かを調査し、適合すると認めたときは、交付すべき補助金等の額を確定して補助事業者等に通知し(同法一五条)適合しないと認めるときは是正措置をとるよう命ずることができる(同法一六条)。
(四) 各省各庁の長は、交付決定をした場合において、その後の事情変更により特別の必要が生じたときは、交付決定の全部又は一部を取消し、又はその決定の内容若しくはこれに付した条件を変更することができ(同法一〇条一項)、更に、補助事業者等が交付決定の内容又はこれに付された条件に違反したときは、交付決定の全部又は一部を取り消すことができ(同法一七条)、右取消しがなされた場合には、取消された部分につきすでに交付された補助金等については返還を命じなければならず(同法一八条一項)、これを国税滞納処分の例により徴収することができる(同法二一条)。
(五) 補助金等の交付決定、その取消等補助金等の交付に関する各省各庁の長の処分に対し不服のある地方公共団体は、処分の通知を受けた日から三〇日以内に右各省各庁の長に対して不服を申し出ることができ、この場合に、右長は、不服を申し出た者に意見を述べる機会を与えたうえ必要な措置をとり、その旨を不服を申し出た者に通知しなければならない(同法二五条二項、施行令一五条)。この措置に不服のある者はさらに内閣に対して意見を申し出ることができる(同法二五条一二項)。
7 右に掲げたとおり、適正化法五条ないし一〇条の規定及び同法全体の趣旨、構造からすると、一般に、国から補助事業者等に国庫負担金を含む補助等が交付されるについては、その適正を期するため、まず所管の各省各庁の長に対し交付申請がなされることが必要であり、各省各庁の長は、右申請に基づき、その権限と責任において、交付要件の存否のみならず、交付すべき補助金等の額及び交付するにつき付すべき条件等を審査、判断し交付すべきものと認めるときは、交付決定をすべきものとし、各省各庁の長の右交付決定を経由せしめることによつて、はじめて補助金等の具体的請求権を発生させるとともに、補助事業者についても交付された補助金等をその目的に添つて使用し、補助事業等を適正に遂行する義務を生ぜしめ、一定の場合には右交付決定の取消により、いつたん発生した補助金等の交付請求権を消滅させることができるものとしているのである。
以上の適正化法に定める制度は国の予算の執行である補助金、負担金、利子補給金等の交付につき統一的に採用されているものと解するのが相当であり、本件のよう
な保育所設置についての国庫負担金については、法五二条等は前記のように国庫の負担及びその割合を定めるのみであつて、その交付等に関し特別の定めを設けていないから、右適正化法の適用を当然受けるものというべきである。控訴人は、本件保育所設置費国庫負担金は、法五二条等の定めるとおりいわゆる義務型実額タイプに属するものであるから、適正化法の適用につき、裁量的な補助金やその他の形態の負担金と同列に論ずべきでなく、この種負担金については同法の適用は排除されるべきである旨主張する。しかしながら、この種の国庫負担金の交付についても適正化法のような法律の規制を不要とするものではないことは前記のとおりであり、同法の規定全体を通じてみると、この種の国庫負担金を同法の適用外として取扱うことを予定しているものとは認められない。また、適正化法は法施行後に制定されたものであり、本件負担金の性格、法立法当時の関係者の考え、法施行当初における右負担金交付の実状等については前記のとおりであるが、補助金等の交付に関する基本法というべき適正化法が制定され、同法施行前から法律により定められていた負担金についても一般にこれが適用されることとなつた以上、保育所等児童福祉施設の建設に要する費用についての負担金のみが同法の適用外にあるとする根拠を見出すことはできない。
また、控訴人は、適正化法は主として補助金等の前金払、概算払が不正に申請又は使用されることを防止することを目的とする一般的手続であり、本件保育所設置に対する負担金のように現実に市町村が支弁した費用の額に対する法定の割合によつて負担金が定まるものとされている場合には、不正申請、不正使用の余地はなく、厚生大臣による裁量が介入する余地もないから、適正化法の定める交付決定を要することなく、国庫負担金請求権は法五二条等自体によつて生ずるものであると主張する。しかしながら、適正化法は国の前払金、概算払金の支払について定められたものであると解する根拠はなく、法五二条等が本件保育所設置当時負担金につき控訴人主張のような規定のし方をしており、右以外に前掲地方財政法一一条にいう国庫負担の対象となる経費の種目、算定基準等につき具体的な定がなかつたからといつて、市町村の現実に支弁した費用につき、国庫負担金の算定の基礎となるべき客観的、合理的費用は幾許と認めるべきか等の認定、判断は適正な予算執行の責任を有する厚生大臣としては行わざるを得ないものであることは前記のとおりであつて、特段の除外規定が設けられていない以上、右負担金についても適正化法五条、六条の適用があり、同条の定める交付決定を要せずして法五二条等から直ちに具体的な国庫負担金請求権が発生するものということはできない。
成立に争のない甲五三ないし五八号証、本件弁論の全趣旨によつて成立を認めうる甲六六、九一、九三号証には右判断と異る見解が述べられているが、これらの見解は採用し難い。
8 控訴人は、適正化法は法五二条等に対する手続法にすぎず、適正化法六条の交付決定は実体法上の請求権を確認する事実行為であつて、処分性がなく、公権力の発動を伴わないいわゆる形式的行政処分であるから、既に実体上発生した請求権に基づき負担金の支払を訴求できると主張する。
しかしながら、適正化法に手続法的な面があるとしても、同法の趣旨、全体の構成からみれば、同法上の交付決定をなすについては、行政的審査が不可欠であるとともに、具体的な補助金等の額の確定を第一次的に行政庁の決定にかからしめ、他方右決定に伴い補助事業者等につき一定の義務を生ぜしめることは前示のとおりであり、右交付決定は形成的、処分的性格を有するものであり、この種の行政庁の行為をいかに名付けるにせよ、これに処分性なしということはできない。而して、右の交付決定が法五二条等に基づく国庫負担金の交付にかぎり性質を異にするものとなると解することは、適正化法の解釈上、及び前記説示に照し採ることができない。したがつて、右交付決定の内容につき、あるいは交付決定がなされないことにつき不服がある場合には、抗告訴訟(不作為違法確認を含む。
)の方法により司法審査を求めて出訴することができるものと解されるのであつて、右交付決定を経ずに、本件負担金の支払を求めて直接裁判所に出訴できる具体的な請求権があるとする控訴人の右主張は採用し難い。
9 次に、保育所設置の認可がある以上交付決定を経ずに負担金請求権が発生するという趣旨の主張については、市町村のなす保育所の設置については法三五条三項により都道府県知事の認可を受けることが義務づけられており、この認可が国からの同知事に対する機関委任事務であること(地方自治法一四八条二項別表第三の五〇)は法令上明らかであり、本件四保育所につき控訴人が法三五条三項の大阪府知事の認可をえていることは前記のとおり当事者間に争いがない。しかしながら、成
立に争のない甲五九(原本の存在についても争がない)、六九、七〇号証、七一号証の一、二、乙一〇号証、当審証人Aの証言、本件弁論の全趣旨によると、法王五条三項の認可は、これによりはじめて当該保育所が児童福祉法上の保育所となるのではあるが、他方、この認可は主として児童の健全な育成を図るという観点から保育所の施設設備が児童福祉施設最低基準その他法令に定めるところに合致しているかどうか等について審査を行うためのものであつて、前記国庫負担金の交付決定についての予算執行上の行政審査とはその観点が異るものであること、両審査の時間的関係についても前者が後者に先立つて行われなければならないものではなく、むしろ負担金交付申請手続が終了し、施設が完成した後に認可申請手続が行われるのが通常であり、本件保育所についてもこれの例外でないこと、以上が認められるのであつて、これらの点からすると、保育所の設置につき法三五条三項の認可が必要であり、本件各保育所の設置につき大阪府知事の右認可があつたことも、厚生大臣の交付決定を経ずに裁判上本件負担金の支払を請求しうる権利があることを根拠づけるに足りるものではない。
10 なお、控訴人が本件に関し地方財政上の問題として強く主張するところは、本件各保育所が設置された当時の法五二条等、とくに改正前の児童福祉法施行令一五条、一六条のもとにおいて、控訴人に負担金が全く交付されないものがあり、あるいは交付された額が控訴人の支弁した実額に対する法定の割合に遠く及ばない微々たるものであつたことにあることが弁論の全趣旨により理解される。この点に関しては、本件各保育所設置に対する負担金交付状況が控訴人の主張のとおりであることは当事者間に争がなく、成立に争のない甲四、五、六、一一、一二、一四、六一、八四号証、当審証人Bの証言によれば、多くの地方自治体がいわゆる超過負担により財政上苦境にあり、また、いわゆる公営官費事業と官営公費事業との間において、国と地方自治体との費用負担につき均衡がとれていないとして、控訴人を含む地方自治体に大きな不満がある事実、控訴人は、人口急増都市であり、年令層の若い共働きの世帯が多く、保育所に収容すべき要措置児童の比率が他都市に比較して高いため、児童福祉のうえから保育所の増設の必要に迫られ、本件各保育所の設置を実施した事実がいずれも認められ、右事実によれば、本件負担金問題は右超過負担の顕著な事例であるとして、その是正を求める控訴人の意図は理解するに難くない。しかしながら、本件保育所が設置された当時の法五二条等のもとにおける右国庫負担金の交付又は不交付の実状については批判されるべき問題があるとしても、右国庫負担金の交付は、上記のとおり適正化法の定めるところに従つて行われる予算の執行である行政の分野に属する事項であり、前記のとおり行政処分である交付決定により負担金請求権は発生するものであるから、右行政処分を経ることなく、又は右行政処分に対する抗告訴訟によることなく、控訴人が裁判所において右行政処分に代り右負担金の額を確定することを前提として、直接国に対しその支払を訴求することは、司法裁判所の役割、権限に鑑み、許されないものと言わざるをえない。
三 控訴人が当審において付加した主張四及び五について適正化法による交付決定の性質についてはすでに説示したとおりであり、事前協議、内示の沿革等及び本件各保育所についての事前協議、内示、交付申請、交付決定の実情等は後記認定のとおりである。右事実によれば、事前協議は内示がなされる前段階の審査の一方法たる実質を有し、そのための協議書の提出は地方公共団体の翌年度における保育所の設置計画を明らかにするものであり、内示は、厚生大臣の負担金交付の予定の事実上の表示とみられ、控訴人が主観的にも客観的にも事前協議の段階において本件請求にかかる負担金につき適正化法上の交付申請をしたものと認めることは困難である。また、控訴人が右内示の内容に従つて適正化法の定める交付申請をして、申請どおりの交付決定を受け、又は内示のない保育所につき右交付申請をしなかつたことは後記のとおりであつて、その結果抗告訴訟を行う余地がなくなつたとしても、正当の事由ありとして、あるいは国が交付決定のないことを主張することが信義則に反するものとして、交付決定を要せず、又は交付決定があつたものと見做して、本件負担金交付請求権が発生するものと解することは、前記適正化法の解釈及び交付決定の性質に鑑み、かつ、後記の事前協議及び内示の段階を経て交付決定が行われる趣旨及びその運用の実情に照し相当でなく、右の交付決定に代り、裁判所が第一次的に国の負担金を裁定すべきものということはできない。もし、本件負担金の交付申請をするにつき右の事前協議、内示の過程を経るべき行政指導が違法又は著るしく不当なものであり、それにより控訴人が負担金請求権を失うに至つたというのであれば、国に対する法律閏係は損害賠償請求権の存否の問題となる場合があろ
うが、この点についての判断は後記のとおりである。
四 以上のとおりであつて、本件各保育所のうち、別府保育所については昭和四四年一〇月三一日付で控訴人の申請のとおり国の負担金を一〇〇万円とする交付決定が、香露園保育所については同四六年二月一七日付で同様に金一五〇万円とする交付決定がそれぞれなされて、既にその交付を了し、摂津保育所及び正雀保育所については交付決定が全くなされていないことは当事者間に争がない。右事実によれば、控訴人が本件において訴求する右各保育所の設置に要した費用の国庫負担金については、適正化法に基づく交付申請がなく、したがつて交付決定がなされていないことが明らかであるから、結局控訴人主張の右負担金請求権はいまだ発生していないものといわざるをえず、控訴人の主位的請求は理由がなく失当として排斥を免れない。
第二 控訴人が当審において追加した損害賠償を求める予備的請求について一 事前協議、内示の沿革等について検討する。
当審証人Cの証言によつて成立を認めうる甲一八号証の一ないし四、同号証の六ないし八、成立に争のない同号証の五、甲一九ないし二一号証、二二号証の一、二、二五号証、二六号証、二七号証の一、二、二八号証、二九号証の一、二、三一号証の一、二、三二号証、三三号証の一、二、三四、三五号証、三六号証の一、二、王七号証、三八号証の一、二、三九号証、四〇号証の一ないし三、四二号証の一、二、四四号証、四五号証の一、二、四八、四九号証、六八号証、弁論の全趣旨によつて成立を認めうる甲八八号証、成立に争のない乙一号証、七号証、九号証、原本の存在とその成立に争のない乙二、三号証、当審証人D、B、C、Aの各証言、弁論の全趣旨によると次のとおり認めることができる。
厚生省は、毎会計年度末に近い二月頃、全国的視点に基づく次年度における保育所を含む社会福祉施設整備計画の重点及びその国庫負担について国の基本的な方針を都道府県知事にあらかじめ知らせ、この知らせを受けた同知事は各市町村からその実施しようとしている新会計年度の保育所を含む社会福祉施設整備事業について協議書を提出させて、その説明をきき、それが具体的かつ確実なものかどうか、前記の国の方針に適合するかどうか等につき一応の審査をし、右協議書を取りまとめて総括表を作成し、同表に右審査に基づく右各事業の優先順位をつけたうえ、厚生省との間で協議を行う。この事前協議と呼ばれる協議において厚生省は、各都道府県知事(又はその補助機関)から情況説明をきくとともに、国庫負担金の交付の見込み等につき協議する。厚生省は右協議に基き前記基本方針に則り審査をし、負担金交付の対象とする事業については当該事業につき負担金を交付する予定であること及びその予定金額を毎年六、七月頃あらかじめ都道府県知事に内示し、同知事はこれを市町村に通知する。この通知をうけた各市町村は内示をうけた事業の工事に着手するとともに、七、八月頃この内示どおりの負担金交付申請書を適正化法五条に基づき同知事を通じて厚生大臣に提出し、厚生大臣は年度末までに右交付申請のとおりの交付決定をして、同知事を通じて市町村に通知する。
以上が、事前協議、内示の仕組みであつて、これは便宜的なものではあるが、昭和二三年児童福祉法に基づく地方公共団体による保育所の施設整備の制度発足当初より行われてきており、保育所等に関する国庫負担金の交付について慣行化しているものであつて、法的拘束力はないが、事実上必ずこの過程を経るものとされてきたものであつた。
都道府県知事はこの慣行に従うよう市町村に対し行政指導を行い、右のとおり、内示のあつたものについてのみ、かつ、内示された金額のとおりの金額につき交付申請をするように指導し、市町村も、あえて異議を唱えることなく、この指導に従つてきた。控訴人も昭和四八年度に設置を計画した鳥飼保育所(当初は第六保育所と称した)につき交付申請をするまでは、すなわち、本件四保育所の設置については結局右の行政慣行に従い、右の事前協議、内示の過程を経て国庫負担金の交付申請をしたのである。
右のような事前協議・内示の交付申請前手続は、毎年度、全国各市町村にわたり、各種かつ多数の社会福祉施設の整備計画が発生し、一定の期限までにこれに関する負担金交付事務を全国的に適正公平に、かつ計画的、能率的に処理する必要上生じた手続であり、しかも、各市町村における保育所施設整備の需要、要望を都道府県知事や厚生大臣が事前に了知し、同施設設置の地域的不均衡の是正、負担金交付の不公平の防止に役立つてきたものであつた。
かように認定することかでき、これを覆えすに足りる証拠はない。二 次に、保育所設置費国庫負担金の算定方式の経緯等について検討する。
前掲各証拠によると次のように認められる。
右の国庫負担金の算定は昭和二九年度以前はおおむね厚生大臣が定めた交付基準による基準方式により、昭和四八年度以後は児童福祉法施行令(昭和四八年政令三七一号による改正後のもの)による基準方式(いわゆる定率方式)によつて行われた。
昭和三〇年度から同四七年度まではいわゆる定額方式により、すなわち、厚生大臣が承認した保育所施設につき一箇所当り次の定額によつて右負担金が算定された。昭和三〇年度から伺三九年度までは金七〇万円。
昭和四〇年度から同四二年度までは定員九〇人未満のものにつき金七〇万円、同以上のものにつき金一〇〇万円。
昭和四三年度は金一〇〇万円。
昭和四四年度は定員九〇人未満のものにつき一〇〇万円、同以上のものにつき金一五〇万円。
昭和四五年度は定員一二〇人以下のものにつき金一五〇万円、同一二一人以上のものにつき金二〇〇万円。
昭和四六年度は定員一二〇人以下のものにつき金二五〇万円、同一二一人以上のものにつき金三〇〇万円。
昭和四七年度は四段階に分け、最高で金六七〇万円、最低で金一五〇万円程度。そして、本件における別府保育所(昭和四四年度、定員六〇名)、香露園保育所(同四五年度、定員六〇名)の各設置費国庫負担金についても右定額方式に従つて算定、算出されたのである。
なお、昭和三〇年度から、右のように定額方式が採用された理由は、保育所整備については、国、地方公共団体ともに保育所設置箇所の量的拡大を念頭においたことによるものであり、特に地方公共団体においては、個々の保育所に対する負担金交付額が低下しても、負担金交付の対象となる保育所の数を増加させることを要望したからであつた。それは、国庫負担金の対象となつた保育所については都道府県の負担金が交付されるほかに、当該地方公共団体の負担分につき地方自治法による起債の許可(同法二三〇条、二五〇条)が優先的に与えられることになつていたからである。
かように認定することができ、これを左右すべき証拠はない。
三 進んで、本件四保育所についての事前協議、内示、交付申請、交付決定の実情等について検討する。
前掲各証拠によると次のとおり認定することができる。
摂津保育所については、控訴人においてその負担金交付申請書はもとより、事前協議の書面を大阪府に提出していない。その間の事情としては、控訴人は昭和四四年度の当初同保育所の用地確保の見通しがたたなかつたのでこれの創設を一旦諦らめ、正雀保育所の改築の計画をたてたが、その後、前者の用地確保ができたので、後者の計画を前者の計画に切替えたのであるが、結局前者の事前協議の書面を提出するに至らなかつた。したがつて、同保育所につき内示はなされていない。別府保育所については、控訴人が昭和四四年二月二四日付で事前協議書(定員六〇名、同保育所設置工事費金一、〇四〇万円等とするもの)を大阪府(以下府という)に提出し、同年七月頃負担金一〇〇万円の内示がなされた(尤も書類上は同年一〇月六日付で府に対し内示があつたとされた。)ので、控訴人は同年七月二四日付で厚生大臣あての負担金一〇〇万円の交付申請書(定員六〇名、同保育所の設置工事費金一、四四六万三、〇〇〇円等とするもの)を府に提出し、同年一〇月三一日付で厚生大臣の交付決定がなされ、同年一二月二六日付でこれが府知事から控訴人に通知された(右のとおり、交付申請、交付決定、これの通知がなされたことは当事者間に争がない。)。
香露園保育所については、控訴人において昭和四五年三月四日付で事前協議書を府に提出したが、内容不備といわれて昭和四五年七月二九日改めて事前協議書(定員六〇名、同設置工事費金二、〇四〇万円、初年度調弁費金六〇万円等とするもの)を府に提出し、その頃負担金一五〇万円の内示がなされ、府知事は同年八月一四日付でこれを控訴人に通知したので、控訴人は同年九月七日付で同大臣あての負担金一五〇万円の交付申請書を府に提出したが、内容不備というので控訴人は同日付で改めて同大臣あて同額の交付申請書(定員六〇名、同設置工事費金二、〇三〇万円等とするもの)を府に提出し、昭和四六年二月一七日付で負担金一五〇万円の交付決定がなされ、同年三月二四日付でこれが府知事から控訴人に通知された(右のとおり、事前協議書が提出され、内示、交付申請、交付決定のなされたことは当事者
間に争がない。但し、内示のなされた日時及び交付申請が再度のものである点を除く。)。
かように認めることができ、これを左右すべき証拠はない。
前掲各証拠によると、正雀保育所については、昭和四六年二月二三日付でこれの事前協議書(同保育所改築工事費金二、一六〇万円、国庫負担金一五〇万円等とするもの)が府に提出されたことを認めることができるが、同協議書が府から厚生大臣に進達されたことについては当審証人Cの証言によつてもこれを認めるに十分でなく、当審証人Aの証言によると、これが府から同大臣に進達されていないことが認められ、この認定を左右すべき証拠はなく、前掲各証拠によると、同保育所につき内示のなされなかつたこと、したがつて前記慣行に従いこれにつき控訴人から交付申請のなされなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。四 ところで、厚生大臣は、地方公共団体による保育所を含む児童福祉施設その他社会福祉施設の建設が総合的に、全国的規模のもとに充実して、行われるべく政策を樹立する責務を負い、右の政策には自ずから国の財政の許す範囲において定められなければならない制約があることは明らかである。また地方公共団体も国庫負担をともなう事業については、地方財政法一〇条の二に規定するとおり国民経済に適合するように総合的に樹立された計画に従つて実施しなければならないものであるところ、右の一、二、三の認定説示からすると、市町村による保育所の建設、整備に関する設置費国庫負担金の交付行政について、右のような国の総合的社会福祉政策及び財政上の要請並びに負担金交付手続の能率化の必要上、適正化法に基づく交付申請の前段階の事実上の手続として、前記事前協議、定額による内示の仕組み及び右内示に基づく交付申請の行政慣行が生じ、市町村側もこれを止むをえないものとして承認していたことが認められる。
そして、本件四保育所の設置費国庫負担金の交付についても、右の一、二、三の認定説示によれば、控訴人が正雀保育所改築につき適正化法所定の交付申請を行わず、別府、香露園両保育所につき国庫負担金をそれぞれ金一〇〇万円、金一五〇万円とする交付申請を行つたのは、控訴人が多年にわたる前記事前協議・内示の慣行に従い、またこの慣行に沿う府知事ないし府職員の行政指導を受入れて、厚生大臣が内示したもののみについて、かつ内示された金額どおりの交付申請をしたためであることを肯認することができる。また、右内示にかかる金額が当時としても極めて低額であつたことは認められるが、前掲各証拠によつても、その間において、厚生大臣、府知事ないしその職員が右の慣行に従うよう控訴人をことさら強要したり、控訴人に対して差別的取扱いをした形跡は認められない。
以上のとおりであつて、前記の事前協議・内示の交付申請前の手続は、それ自体をもつて不当なものということはできず、本件四保育所設置費国庫負担金に関しては、右手続を経たうえ交付申請をする行政慣行につき、控訴人において積極的にこれを支持、是認していたものではないとしても、これを容認し、これについての前記行政指導を受け入れ、右内示に即応して、右国庫負担金の交付申請を行い、又はこれを行わなかつたものであり、前認定の経過及び状況に徴すると、右事前協議・内示及び交付申請についての行政指導をもつて、控訴人がその意思に基づいて正当な国庫負担金の交付を申請する権利の行使を妨げた違法又は著しく不当な行為ということはできない。したがつて、これが被控訴人の不法行為であることを前提とする本件損害賠償の予備的請求は、その余の判断をするまでもなく理由がなく、棄却を免れない。
第三 むすび
以上の次第で、控訴人の主位的請求を棄却した原判決は結論において相当であつて本件控訴は理由がなく、棄却すべきであり、控訴人が当審において追加した予備的請求も失当として棄却を免れないものである。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。
(裁判官 外山四郎 海老塚和衛 鬼頭季郎)

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