判例検索β > 平成8年(行コ)第80号
相続税更正処分等取消請求控訴事件
事件番号平成8(行コ)80
事件名相続税更正処分等取消請求控訴事件
裁判年月日平成9年5月22日
法廷名東京高等裁判所
判示事項1 相続税の更正の後,更正の請求に基づき課税価格及び相続税額をいずれも零円とする減額更正がされた場合につき,当初の更正の取消しを求める訴えの利益は失われないとした事例 2 相続された宅地上の立体駐車場について,相続開始前に管理業務委託契約が締結されたが,仮処分の執行により占有が第三者に移転したため営業が開始されていなかった場合において,同宅地について租税特別措置法(平成4年法律第14号による改正前)69条の3第1項の適用がないとしてした相続税の更正が,適法とされた事例
裁判要旨1 相続税の更正の後,更正の請求に基づき課税価格及び相続税額をいずれも零円とする減額更正がされた場合につき,更正の請求に基づき当初の更正について減額更正がされた場合と,判決によりこれが取り消された場合とでは,減額あるいは取消しの範囲において,本税額,加算税額及び延滞税額が消滅し,それらが還付される点では相違はないが,国税通則法58条1項により,減額あるいは取消しに係る納付済みの国税(延滞税を含む。)についての還付加算金の算定期間の始期の点で相違があり,判決により取り消された場合の方が同還付加算金の額において納税者の利益となるから,前記減額更正により当初の更正の効力が失われたとしても,その取消しを求める訴えの利益は失われないとした事例 2 相続された宅地上の立体駐車場について,相続開始前に管理業務委託契約が締結されていたが,仮処分の執行により占有が第三者に移転したため営業が開始されていなかった場合において,同宅地について租税特別措置法(平成4年法律第14号による改正前)69条の3第1項の適用がないとしてした相続税の更正につき,事業の用に供されていた宅地等に該当するか否かは,相続開始の直前において,当該宅地等が現実に事業の用に供されていたか否かという観点から判断すべきものであるとした上,駐車場事業を開始したというためには,当該駐車場が利用客において現実に利用できる状態になったことが必要であるから,駐車場事業の用に供された時期については,利用客の現実の利用が可能になった最初の時点,すなわち営業開始時点がいつかという観点から判断すべきところ,前記管理業務委託契約の受託者が相続開始前に行った活動は営業開始のための準備活動であり,また,利用客との間で利用契約を締結していたとしても,仮処分の執行により現実には利用できなかったのであるから,駐車場として現実に営業が開始されたのは相続開始後であり,前記宅地が相続開始の直前において駐車場事業の用に供されていたということはできないなどとして,前記更正を適法とした事例
裁判日:西暦1997-05-22
情報公開日2017-10-19 23:07:21
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
○ 主文
本件控訴を棄却する
二 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
○ 事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が、控訴人らの平成三年四月三〇日相続開始に係る相続税について、いずれも平成五年七月三〇日付けでした、(1)控訴人Aに対する更正のうち課税価格一四億六六五三万七〇〇〇円、納付すべき税額三三四七万九二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定、(2)控訴人Bに対する更正のうち納付すべき税額二億六七八三万三九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定、(3)控訴人Cに対する更正のうち納付すべき税額五億三五六六万七八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二 被控訴人の本案前の申立て
一 原判決中、控訴人Aに関する部分を取り消す。
二 控訴人Aの訴えを却下する。
三 訴訟費用中、控訴人Aと被控訴人との間に生じた部分は、控訴人Aの負担とする。
第三 事案の概要
一 次のように付加するほかは、原判決の事実及び理由の第二 事案の概要欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決八頁一一行目の残代金の支払の次に

、Dに対する本件立体駐車場の引渡し

を加え、同一二頁九行目の次に次のように加える。4租税特別措置法改正と更正の請求及びこれらに対する更正の経緯平成八年三月二九日の租税特別措置法の改正によって、同法六九条の四の特例(相続開始前三年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例)が廃止された(租税特別措置法の一部を改正する法律・平成八年法律第一七号。以下「改正法という。)。そして、改正法による右特例の廃止に伴う経過措置により、平成三年一月一日から平成七年一二月三一日までの間に相続又は遺贈により取得した土地等で、取得価額課税の特例制度の適用がある土地等を有する場合に、同特例を適用して算出した相続税額が同特例の適用がないものとして算出した場合の相続税の課税価格の七〇パーセント相当額を超えている場合には、その超えている部分に相当する相続税額を減額することとされた(改正法附則一九条三項)。なお、右経過措置の適用を受けるためには、平成八年九月三〇日までに、所轄税務署長に対し、更正の請求を行うことが必要であることとされた(改正法附則一九条五項)。
控訴人Aは、平成八年九月三日、右経過措置の適用を受けるため、改正法に基づき更正の請求を行った。これに対し、被控訴人は、同月三〇日、更正の請求をすべて認容し、同控訴人に係る課税価格及び相続税額をともに零円とする更正を行い、それに伴って同控訴人に係る過少申告加算税額を零円とする再賦課決定をした。」二 被控訴人の本案前の申立ての理由
控訴人Aについては、平成八年九月三〇日付け減額更正処分によって、同控訴人には、取消しを求めるべき対象たる本件各処分それ自体が存在しなくなったのであるから、本件取消訴訟によって回復されるべき権利利益が存在しないこととなったのである。したがって、同控訴人には、同控訴人に係る本件各処分の取消しを求める訴えの利益がないものというべきである。
三 被控訴人の本案前の主張に対する控訴人Aの反論
控訴人Aに関する本件各処分の取消判決が確定した場合には、同控訴人が納付した本税、過少申告加算税、延滞税の全額及びこれに納付した税額に対する年七・三パーセントの還付加算金が付加されて同控訴人に返還されるが、同控訴人の更正の請求に対する平成八年九月三〇日付け減額更正処分では、還付加算金が考慮されないから、なお本件各処分の取消しを求める訴えの利益が存在する。
第四 争点に対する判断
一 控訴人Aの本件各処分の取消しを求める訴えの利益について
1 被控訴人は、控訴人Aの本件各処分の取消しを求める訴えは利益を欠くとして右訴え却下の判決を求めている。しかし、被控訴人は、原審において、右訴えに係る請求を棄却する旨の全面勝訴の判決を得ているから、被控訴人としては、原審の
右判断により不利益な訴え却下の判決を求めることは許されない。もっとも、原判決につき全面敗訴の同控訴人が控訴しており、この控訴に基づき、原判決を取り消した上右訴えを却下する判決をすることができるので、以下右訴えの利益につき判断する。
2 ところで、納税者の更正の請求に基づき減額更正(それに伴う減額再賦課決定を含も。以下一において同じ。)がされた場合は、納付済みの国税について、減額に係る本税額及び加算税額並びにこれに対する延滞税額のほか、これらの金額に対して、更正の請求があった日の翌日から起算して三月を経過する日と当該更正があったーの翌日から起算して一月を経過する日のいずれか早い日の翌日から、税務署長が還付のためにする支払決定の日までの期間の日数に応じ、年七・三パーセントの割合を乗じて算出した還付加算金が還付されることとなっている(国税通則法五八条一項本文及び二号)。他方、既存の更正及び加算税賦課決定(以下本項において合わせて旧処分という。)が判決によって違法であるとして取り消され、その判決が確定した場合には、納付済みの国税について、取消しに係る本税額及び加算税額並びにこれに対する延滞税額のほか、これらの金額に対して、それぞれその納付の日の翌日から税務署長が還付のためにする支払決定の日までの期間の日数に応じ、年七・三パーセントの割合を乗じて算出した還付加算金を付加して還付されることとなっている(同法五八条一項本文及び一号イ)。
したがって、旧処分について、更正の請求に基づき減額更正がされた場合と判決により取り消された場合とは、減額あるいは取消しの範囲において、本税額及び加算税額及びこれに応ずる延滞税額が消滅し、それらが還付される点では相違はないが、減額あるいは取消しに係る納付済みの国税(延滞税を含む。)についての還付加算金の算定期間の始期において法律の規定により相違があり、還付加算金の額が、後者の場合の方が相当に有利である。これは、いずれの場合も旧処分をその範囲で消滅させるものである点においては同様であるが、前者の場合は旧処分が適法であることを前提として更正の請求のあった以後にこれを改めるものであるのに対し、後者は旧処分を違法であるとして旧処分の当時に遡ってこれを消滅させるものであるということによる相違であると解される。
3 そこで検討するに、控訴人Aに関して、右二4のとおり、被控訴人が同控訴人の更正の請求に基づき、平成八年九月三〇日更正の請求をすべて認容し、同控訴人に係る課税価格及び相続税額をともに零円とし、また、同控訴人に係る過少申告加算税額を零円とする減額更正を行っているから、本件各処分は消滅し、その効力を失ったものと解される。しかし、乙第三六号証によれば、同控訴人は、右の更正の請求に当たり、本件各処分が違法であるときはその取消しを求めることを留保していることが認められるところ、右に述べたところによれば、本件各処分につき、更正の請求に基づく減額更正の場合と判決により取り消された場合とを比較すると、後者の方が前者より、納付済みの国税に対する還付加算金の額において、同控訴人に利益となることは明らかである。
そうすると、更正の請求に基づく減額更正がされたことにより同控訴人に係る本件各処分の効力が失われたとしても、国税を納付した上本件各処分が違法であるとして争っている同控訴人には、なお本件各処分の取消しにより回復すべき利益が存在し、その回復には本件各処分の取消しを要するから、同控訴人は、本件各処分の取消しを求める法律上の利益を有する者であるということができる(行政事件訴訟法九条括弧書き参照)。
4 よって、同控訴人の本件各処分の取消しを求める訴えには利益がある。二 本案に対する判断
次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の第三 争点に対する判断欄に記載のとおりであるから、これを引用する。1 原判決二九頁三行目の利用したかを利用されたかに改め、同三三頁八行目の次に次のように加える。
これに対し、控訴人らは、当審において、東京地方裁判所が平成三年五月一日Eのした断行の仮処分申請を認容する決定をしたことは、その申請に係る被保全権利の存在と保全の必要性を認めたこと、すなわち、Eについて社会的基盤等が形成済みとなっており、これが侵害されていると判断したことを意味するものであるとし、その点を根拠として本件通達六九の三-八が適用ないし準用されるべきであると主張するもののようである。しかしながら、保全処分は、将来本案訴訟において確定するべき権利の実現可能性を確保しておく必要性がある場合などに、一時的に権利を保全し、又は仮の権利関係を形成するためにされるものであり、そこにおける裁判所の判断は、あくまで被保全権利及び保全の必要性についての一応の判断に過ぎない。したがって、控訴人ら主張の右仮処分決定における判断は、EのFに対する本件立体駐車場の引渡請求権及び保全の必要性についての一応の判断に止まり、本件立体駐車場が利用可能な状態にあったか否か等といった観点から、すなわち、右駐車場につき、本件特例が適用されるか否かという観点からの判断でないことはいうまでもないから、裁判所が右仮処分申請を認容したからといって、それにより、直ちに仮処分申請時に申請者であるEの下で、右駐車場につき社会的基盤等が形成済みとなっており、これが侵害されているとの判断が示されていると考えるのはいかにも飛躍であるといわなくてはならない。したがって、控訴人らの右主張は前提を欠く。のみならず、本件通達の趣旨からすれば、その適用を受けるためには、相続開始前において、既に事業の用に供されていたということが当然の前提となるものであるところ、本件においては、そもそも相続開始前において本件宅地が駐車場事業の用に供されていたといことができないことは、前記1のとおりであるから、この点からも、控訴人らの右主張は失当である。同四〇頁七行目の次に次のように加え、同八行目の5を6に改める。
5 控訴人らは、本件特例の立法趣旨は、昨今の駐車場不足という事態の解消に貢献するという社会的貢献者に対して、相続の際に、土地評価を安くすることによって、そのまま駐車場を廃止しないで継続させるという政策目的を達成することにあるとしたうえ、Eは、平成三年一月二九日に代金を支払って本件立体駐車場の引渡しを受け、同人はGと、GはDと各駐車場業務委託契約を締結し、右関係人らによって、右駐車場は、同年二月一日オーブンのための人的、物的諸設備が完備され、同日以降、駐車場として利用可能となっていたから、駐車場事業の用に供する旨の社会的基盤が形成され、社会に貢献することが確定していたものであり、したがって、本件特例を適用すべきであると主張する。しかしながら、前記1認定の本件特例の趣旨及び本件特例の文言、並びにその適用は課税の公平、迅速という観点からできる限り一義的かつ明確な客観的基準によるべきであることからすれば、本件宅地が駐車場事業の用に供されていたか否かは、前記のように、相続の開始直前において、『現実に』駐車場事業の用に供されていたか否か、少なくとも駐車場利用者において現実に利用できる状態になっていたか否かという観点から判断すべきであるから、右観点の考慮を必ずしも必要としないとの控訴人らの右主張は、採用することができない(本件特例の趣旨は、前記一1(一)の冒頭に述べたようなものであり、控訴人ら主張のような趣旨が含まれていないわけではないが、そこにいう社会的基盤の形或は瞬時にして完成するものではなく、これには一定の時間的経過が必要であるところ、本件特例は、当該宅地等が相続開始の直前において、現実に事業の用に供されていた場合に初めて、関係者の社会的基盤が形成されていたものとみて、これを保護しようとするものであるということができる。)。また、控訴人らは、Eが平成三年一月二九日には本件立体駐車場の引渡しを受けており、EとG及びGとDとの間の各業務委託契約により、Eの占有がGを介してDに移され、同年二月一日から右駐車場の営業を開始することを利用予定者に対して広く知らせているから、Eの駐車場事業は事実上撤回困難な法律的、社会的、経済的状態になっていたのであって、これをもって社会的基盤が形成済みであるといえるから、本件においては本件宅地が駐車場事業の用に供された、もしくは、これと同視すべきであると主張するもののようである。しかしながら、前記1のとおり、本件特例の適用の可否は、対象となる宅地の相続開始の直前における現実の利用形態をみて判断すべきであるところ、Eが実際に本件立体駐車場の営業を開始しようとしていたのは平成三年二月一日であったとしても、Eは、それに先立ち、Fからの仮処分の執行によって右駐車場の占有を失い、右営業開始予定時期から、右駐車場の営業を現実には開始できなかったのであるから、たとえEが右駐車場における営業準備行為を行い、Eの駐車場事業が事実上撤回困難な社会的、経済的状態になっていたとしても、これをもって本件宅地を現実に駐車場事業の用に供したものということができないことは明らかである。また、課税の公平、迅速という観点からすると、特例規定の適用の可否はできる限り一義的かつ明確な基準をもって判断されるべきであるところ、控訴人ら主張の諸事情を真摯に考慮しても、客観的にみて、利用者が現実に利用できる状態となっていない右駐車場について、営業を開始した状態と同視することが相当とは解されない。したがって、控訴人らの右主張も理由がない。次に、控訴人らは、Fが仮処分決定の執行によって本件立体駐車場の占有権を取得し、右駐車場を利用客に対して利用させることが可能であったのであるから、EがFを介して右駐車場の営業をすることができる状態にあったものということができ、利用者の立場から考えると、具体的な営業行為を行う者は誰でもよい筈であるから、右駐車場は、EがDかFのいずれかを介することによって、同年二月一日以降、利用できる状態になっていたものであり、このことを理由に本件特例の適用が可能であると主張する。しかしながら、Fの仮処分執行によって、右駐車場の占有は、排他的にFに帰したものといわざるを得ないが、Fが現実に右駐車場の営業を開始したこと、すなわち、右駐車場を利用者が利用できる状態に置いたことを認めるに足りる証拠はないのみならず、仮にFが右駐車場で営業を行ったとしても、それがEの駐車場事業と認められるものではないことはいうまでもない。したがって、控訴人らの右主張は採用できない。さらに、控訴人らは、本件特例における『事業の用に供した』の解釈に当たっては、当該事業の用に供した時期と当該事業からの収入の計上時期とが表裏の関係にあることから、後者の判断基準である権利確定主義の原則を前者にも及ぼすべきであるところ、Eが平成三年二月一日以降、本件立体駐車場についての収人すべき権利が確定しているとして、営業保証金に代わる補償金を駐車場の収入として申告納税し、税務当局もこれを是認している以上、本件宅地を駐車場事業の用に供していないと解することはできないと主張する。ところで、権利確定主義とは、一定の課税期間における所得計算に際しての収入等の計上時期についての判断基準であるところ(所得税法三六条一項参照)、相続税の課税対象は、所得そのものではなく、相続開始時点における被相続人の財産であり(相続税法一一条)、その価格の計算は、当該財産の取得時である相続開始時における価額(時価)によるべきものとされている(相続税法二二条)。そうすると、所得税と相続税とは、その課税客体において、前者が各種所得である一方、後者が遺産という点において異なるし、また、前者においては一定の期間を前提として収入等の計上時期をいつとすべきかが問題となるのに対し、後者においては相続開始時という一時点を捉えて課税価格を算定するもので、その計上時期が問題とならないという点において、明らかに異なるのであって、所得税においてその収入等の計上時期につき権利確定主義の基準によるからといって、相続税の解釈、とりわけ、本件特例の解釈・適用において、この基準によるべきことにはならない。したがって、事業の用に供した時期とその事業の収入計上時期とは表裏の関係にあることから、事業の用に供した時期の判断においても、事業の収入等の計上の時期の判断基準としての権利確定主義によるべきであり、その結果Eが平成三年二月一日以降本件立体駐車場を営業の用に供していることになるとする控訴人らの主張は、これを採用することができない。三 結論
よって、原判決は相当であって、本件控訴は棄却を免れない。
(裁判官 鈴木康之 丸山昌一 小磯武男)
(原裁判等の表示)
○ 主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実及び理由
第一 原告らの請求
被告が、原告らの平成三年四月三〇日相続開始に係る相続税について、いずれも平成五年七月三〇日付けでした、(1)原告Aに対する更正のうち課税価格一四億六六五三万七〇〇〇円、納付すべき税額三三四七万九二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定、(2)原告Bに対する更正のうち納付すべき税額二億六七八三万三九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定、(3)原告Cに対する更正のうち納付すべき税額五億三五六六万七八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。(以下、右各更正を本件各更正と、右各賦課決定を本件各賦課決定とそれぞれいい、両者を併せて本件各処分という。)
第二 事案の概要
本件は、被相続人Eの死亡により、別表七土地の価額の明細の符号12記載の宅地(以下本件宅地という。)及びその土地上に存する別表八家屋及び構築物の価額の明細の符号7記載の駐車場(以下本件立体駐車場という。)などの財産等を相続した原告らが、課税価格に算入すべき本件宅地の価額の計算に当たり、Eは相続開始の直前において本件宅地を駐車場経営の事業の用に供していたことから小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を定める租税特別措置法六九条の三第一項(平成四年法律第一四号による改正前のもの、以下本件特例という。)が適用されるべきであるなどとして、相続税の申告及び修正申告をしたところ、被告から本件各処分をされたため、被告に対し、
本件各処分の取消しを求めている事案である。
一 本件相続に係る相続税の課税価格の内訳等
1 被相続人の相続の開始の直前において、被相続人等の事業の用に供されていた宅地については、本件特例が適用され、そのうちの二〇〇平方メートルまでの部分の課税価格に算入すべき価額は、当該二〇〇平方メートルまでの部分の全部が事業の用に供されていた宅地である場合には、その評価額に一〇〇分の四〇を乗じて計算した金額とされている。
2 被告は、本件相続により原告らが取得した財産の価額、債務等の金額及び取得者は別表四課税価格等の計算明細表、別表七土地の価額の明細及び別表八家屋及び構築物の価額の明細各記載のとおりであり、それを基にして計算した原告らの相続税の課税価格及び納付すべき相続税額は別表四課税価格等の計算明細表、別表五相続税額の計算明細表及び別表六配偶者の税額軽減額の計算明細書の各記載のとおりであると主張する。3 右の原告らが取得した財産の価額、債務等の金額及び取得者並びにそれを基にして計算した原告らの相続税の課税価格及び相続税額の計算方法については、本件特例の適用の有無(課税価格に算入すべき本件土地の価額)に関する部分を除き、いずれも当事者間に争いがない。
二 本件各処分の経緯等(証拠により認定した事実については適宜証拠を掲記する。その余の事実についてはいずれも当事者間に争いがない。)
1 Eが本件宅地及び本件立体駐車場を取得するまでの経緯等
(一) 本件宅地を所有していたH株式会社は、平成元年八月三〇日、完成予定日を平成三年一月末日として本件立体駐車場の建築を発注し、建築途中の平成二年二月二三日、株式会社F(以下Fという。)との間で、本件立体駐車場が完成したときに、HがFに対し、本件立体駐車場を月額一三一六万二五〇〇円で賃貸する旨の賃貸借仮契約を締結した。
(二) Hは、平成二年一〇月二六日、株式会社D(以下Dという。)との間で、本件宅地及び建築中の本件立体駐車場を、代金合計七五億四三九四万一〇〇〇円(三回の分割払い)、本件立体駐車場の所有権を完成予定日の平成三年一月末日に最終分割金の支払と引換えに移転するとの約定で売り渡す旨の売買契約を締結した。
(三) Eは、原告Cの夫で株式会社Gの代表者であるIを介して、相続税対策として本件特例が適用される事業用宅地の購入を検討し、駐車場の運営・管理をD側で行うことを条件に、同社との間で本件土地及び本件立体駐車場の売買契約を締結することにした。(乙三〇号証ないし三三号証)
(四) Eは、平成二年一二月二六日、本件宅地及び本件立体駐車場の購入資金として、J株式会社から、九三億円を借り受け、Dとの間で、本件宅地及び建築中の本件立体駐車場を代金合計八〇億円(二回の分割払い)、本件立体駐車場の所有権を完成予定日の平成三年一月末日に最終分割金の支払と引換えに移転するとの約定で買い受ける旨の売買契約を締結し、Dから、本件宅地の所有権移転登記手続を受けた。
(五) 前記(二)、(四)の各契約当事者であるE、H及びDは、本件立体駐車場の竣工が早まったことから、残代金の支払等を繰り上げることとし、平成三年一月二九日、関係者が集まって各残代金の支払等を行い、Eは、平成三年一月三一日、同月二七日新築を原因として本件立体駐車場の所有権保存登記をした。本件立体駐車場は、ターンテーブル内蔵型の立体駐車機械五基で、収容可能台数一九五台という規模であったが、登記簿上では、種類

駐車場、事務所

、構造鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺二階建、床面積

一階二一〇・〇二平方メートル、二階五七・八五平方メートル

とされた。(登記内容について乙一四号証)2 本件立体駐車場の営業が開始されるまでの経緯等
(一) Dは、前記1(三)、(四)の合意に基づき、本件立体駐車場の営業開始を平成三年二月一〇と予定して準備を進め、(1)本店の移転(甲六号証)、
(2)プリペイドカードの発注・納品(甲七号証の一)、(3)月極め駐車の予約申込み開始等の宣伝活動(甲八号証)、(4)社員・アルバイトの募集(甲九号証)、(5)同月二日に予定していた竣工式の手配(甲一一号証)等を行っていただけでなく、(6)Dを貸主として一般の利用客との間で同月一日又は同月三日を利用開始日とする自動車保管寄託契約をEが本件立体駐車場の所有権を取得する前の平成二年一二月一〇日に一件、平成三年一月二〇日に二件それぞれ締結していた(甲一〇号証のニないし四、ただし、乙二六号証及び二七号証によれば、右各契約で定める保証金の授受が現実に行われたとは認められない。)。そして、同年一月二九日、EとGとの間で、

EとGとは、Eが第三者に賃貸する本件立体駐車場の管理業務に関し、以下のとおり合意した

として、業務委託契約(以下本件業務委託契約1という。)を、GとDとの間で、

GとDとは、Gが第三者に賃貸する本件立体駐車場の管理業務に関し、以下のとおり合意した

として、業務委託契約(以下本件業務委託契約2といい、両契約を併せて本件各業務委託契約という。)がそれぞれ正式に締結された。(甲四号証、五号証)

(二) 前記1(一)の賃貸借仮契約の借主であったFは、平成三年一月二五日、東京地方裁判所に対し、Hを債務者として、本件立体駐車場の引渡しを求める仮処分の申請をし、同裁判所は、同月二九日、右申請を認容する仮処分決定をし、同月三〇日、その執行が行われた。これによって、本件立体駐車場の占有がFに移転したため、Dらは、同年二月一日に本件立体駐車場の営業を開始することができなくなった。
(三) Eは、Hが右仮処分決定に対して行った保全異議申立てに補助参加するとともに、本件立体駐車場の引渡しを求める仮処分を申請したが、係争中の平成三年四月三〇日、死亡した。
(四) 東京地方裁判所は、平成三年五月一日、Fの申請に係る仮処分決定を取り消すとともに、Eの申請を認容する仮処分決定をし、その執行により、同月二日、原告らが本件立体駐車場に対する占有を取得し、Dは、同月一五日以降、本件立体駐車場の営業を開始した。
3 原告らの相続税の申告・修正申告及び本件各処分等の経緯
原告らの本件相続に係る相続税の申告及び修正申告とこれに対する課税処分等の経緯は、別表一ないし三の本件課税処分等の経緯各記載のとおりである。三 争点
本件の争点は、本件宅地に本件特例が適用されるか否かであり、具体的には、(1)本件宅地が駐車場事業の用に供された時期はいつか、(2)Eの事業は本件特例にいう事業に該当するかどうかの二点が問題となるところ、それに関する当事者双方の主張の要旨は、次のとおりである。
1 本件宅地が駐車場事業の用に供された時期はいつか。
(一) 被告の主張(平成三年五月一六日)
本件特例は、相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地は、相続人等の生活基盤の維持のために不可欠のものであること、特に事業用宅地については、雇人、取引先等事業者以外の多くの者の社会的基盤にもなり、事業を継続させる必要性が高いことなどから、その処分について相当の制約を受けるであろうことにかんがみ、必要最低限度の部分について、相続税の課税価格の計算上減額を認めることが相当であるとされたため立法化されたものである。このような本件特例の趣旨からするならば、事業用宅地として本件特例の適用を受けるためには、相続の開始直前において、当該宅地が現実に被相続人等の事業の用に供されていなければならないというべきである。
しかるに、E、G及びDは、前記二2のとおり、本件立体駐車場の営業開始日を平成三年二月一日に予定してその準備を進めていたが、営業開始前である同年一月三〇日に執行された仮処分によって、その占有がFに移転されてしまい、予定どおりに営業を開始することができなくなり、その状態は本件相続開始後まで続いた。結局、本件立体駐車場の営業が開始されたのは、本件相続開始後である同年五月一六日であったから、本件宅地が駐車場事業の用に供された時期も、本件立体駐車場の営業を現実に開始した平成三年五月一六日であるというべきである。そうすると、本件特例が適用されるための要件を充たしていないというべきである。なお、Fの仮処分の執行前である平成三年一月二九日に本件業務委託契約1がEとGとの間で締結されているが、同契約は、Eが第三者に賃貸する本件立体駐車場の管理業務をGに委託するという内容になっており、本件立体駐車場を賃貸するのはEであり、Gは、一定の報酬を受けて、Eが立体駐車場の賃貸を行うに当たり、そ
の業務の管理を行うというにすぎないものである。このような、本件業務委託契約1の性質に照らすならば、Eが行うとした事業は駐車場事業と考えられるから、EがGとの間で同契約を締結したこと自体をもって、本件宅地を事業の用に世したとみることはできない。
(二) 原告らの主張(平成三年二月一日)
事業用宅地として本件特例の適用を受けるためには、必ずしも現実に事業の用に供することが必要になるわけではなく、対象となる宅地が事業の用に供し得る状態になり、事業主が当該宅地を事業の用に供するという意図を客観的に外部に明らかにすれば足りると解すべきである。
しかるに、前記ニ1(五)のとおり、本件立体駐車場は平成三年一月二九日に完成し、同月三一日Eが所有権保存登記をし、前記二2(一)のとおり、本件各業務委託契約が締結され、E、G及びDは、本件立体駐車場の営業開始を同年二月一日と予定して準備を進め、一般の利用客との間で同日又は同月三日を利用開始日とする自動車保険寄託契約を三件締結していたのであるから、Eの本件宅地を駐車場事業の用に供するという意図は、遅くとも営業開始予定日である平成三年二月一日には客観的に外部に明らかになっていたというべきである。そうすると、本件宅地は、同日をもって、駐車場事業の用に供されたと評価することができ、本件特例の適用を受けることができる状態になったというべきである。ちなみに、Eの右意図は、Fの違法な仮処分によって本件相続の開始時までには現実化しなかったが、原告らは、相続税の申告書の提出期限までには占有を回復して本件立体駐車場の営業を現実に開始していたのであるから、建替えの際における事業の継続性を認める平成元年五月八日付け直資二ー二〇八国税庁長官通達租税特別措置法(相続税法の特例のうち農地等に係る納税猶予の特例及び延納の特例関係以外)の取扱いについて(平成六年六月二七日付け課資二-一一五による改正藺のものをいい、以下本件通達という。)六九の三-八(事業用建物の建築中等に相続が開始した場合)の趣旨からしても、本件宅地に本件特例が適用されることは明らかである。また、前記二2(二)ないし四のとおり、予定していた平成三年二月一日の営業開始はFの違法な仮処分によって実現することができなかったが、その後の本案訴訟における和解手続においで、原告A、G、D、才クト、F等の関係者は、平成三年一月三〇日当時、Eにおいて本件立体駐車場の営業を開始できる状態にあったことを確認し、Fの仮処分がなければ予定どおり同年二月一日から営業を開始していたことを前提に、本件業務委託契約2に基づいて、同日から同年五月一五日までの間、一か月当たり金六〇〇〇万円の売上保証金がDからGへ支払われ、GからEに対しても、本件業務委託契約1に基づいて、その間の売上保証金の支払が履行された。売上保証を履行したということは逆からいえば営業していたことであるし、現実の営業ができなかったのは、Fが違法な仮処分申請による妨害をしたためであって、違法な仮処分による不利益を原告らに負担させることはできないはずである。そうすると、平成三年二月一日から本件相続開始までの間、現実には駐車場の営業はしていなかったとしても、法的には事業の用に供されていたと評価すべきである。
なお、本件各業務委託契約は、単に本件立体駐車場の管理業務を委託したというだけにとどまらず、本件立体駐車場を一括して賃貸するとの性格も含んだ契約である。賃貸借契約という側面からいえば、営業開始予定日の平成三年二月一日から、E、GはDに対し固定管理料及び歩合管理料を、DはG、Eに対し固定賃料及び歩合賃料をそれぞれ支払う義務が発生しており、売上保証金の支払は右固定賃料の支払を意味することになるから、事業の用に供したかどうかは、現実に駐車場としての営業を開始したかどうかではなく、賃貸借契約における権利・義務が発生したかどうかで判断されるべきであり、右のとおり平成三年二月一日から賃貸借契約における権利・義務が発生していたのであるから、本件宅地はEの事業の用に供されていたということができる。
2 Eの事業は本件特例にいう事業に該当するか否か。
(一) 被告の主張
本件特例にいう事業とは、所得税法に定める事業と同一であって、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務をいうと解される。したがって、事業性が認められるためには、右営利性、有償性、反復継続性という要件が要求されることの当然の帰結として、当該事業における収支の合理性が肯定される場合でなければならない。

本件立体駐車場の事業計画においては、駐車料金について、周辺の駐車場の駐車料金と比較すると高額で市場性のない料金を設定しており、その料金設定を基礎に収入を見積もることは現実的ではなく、このことは、原告AとGとの間で、平成四年一二月二五日、本件業務委託契約1に関し、原告AがGに支払うべき管理料を月額五五〇万円に、Gが原告Aに支払うべき平成四年分及び平成五年分の売上保証金額を各三億円にそれぞれ減額するとともに、Eに預託した管理運営保証金のうち一億二〇〇〇万円をGが原告Aに返還する旨の変更契約が締結されたことからも明らかである。右変更後の契約を前提にして考えると、本件立体駐車場の収入は、いずれもGからの売上保証金相当額、平成三年分が六億円、平成四年分及び平成五年分がそれぞれ三億円である。他方、支出については、(1)Jからの九三億円の借入金に係る支払利息と管理保証料、(2)Gに対する管理料及び(3)Gに預託した管理運営保証金の償却額があり、その合計額は、平成三年分が九億二二一一万一〇九五円、平成四年分及び平成五年分がそれぞれ九億七二三〇万円となっているのである。そして、その収支は、平成三年分が三億二二一一万一〇九五円、平成四年分及び平成五年分がそれぞれ六億七二三〇万円の赤字となるのであり、しかも、右の支出金額には、本件宅地等に係る固定資産税、損害保険料及び水道光熱費等を一切考慮していないことからすれば、実際の赤字額は更に大きくなるのである。そうすると、Eの事業は、当初から大幅な赤字を伴っていたことが明らかであり、将来的にも利益を生じさせるような可能性に乏しかったのであるから、事業性の認定に関する他の要素を検討するまでもなく、本件特例にいう事業には該当しないのである。
(二) 原告らの主張
事業概念に、事業者が主観的に利益を求めていることは当然としても、客観的に利益が出ていることを要件とするような考え方はない。黒字であれ赤字であれ、相続開始時において、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われていれば、事業というべきである。
Eは、本件立体駐車場に関して本件各業務委託契約を締結してその収入を得ていたこと(営利性・有償性)、本件立体駐車場は収容能力一九五台の近代的で大規模な立体駐車場であり、本件各業務委託契約の契約期間が三年間となっていたことからもその事業を継続して行うことを予定していたこと(継続性・反復性)、Jからの借入資金により投資としての事業を営んでいたこと(自己の危険と計算における企業遂行性)等を総合判断すると、Eの行っていた駐車場事業は本件特例にいう事業以外の何ものでもないということができる。また、Eの事業は、本件通達六九の三-一にいう社会通念上事業と称するに至る程度の規模であるし、本件立体駐車場は、自己の責任において他人の物を保管する有料駐車場(本件通達六九の三-四)に該当するものである。
被告の主張している収支の合理性という考え方には、一定期間の損益という時間的経過の中で期間計算及び集計の結果が問題とされるのであるのに対し、本件特例の適否が問題とされる場合には、相続開始時というある瞬間の立場から事業に供したか否かの判断を要求されているのである。死亡時というその時点において判断されなければならない問題に対し、一定の期間経過を見なければ結論を見出せない問題を持ち込もことは誤りである。
なお、被告は駐車料金を市場性のない高額な料金に設定したと主張しているが、本件立体駐車場は既存の駐車場に比較しても規模が大きく、新築で設備も充実していたのであるから、既存の駐車場よりも駐車料金を高く設定することはむしろ当然であるし、Eらが事業計画を立てた時点においては、本件立体駐車場周辺の駐車場需要は益々高まると見込まれていたのであって、当時Eらが立てた収支予測はそれなりの合理性をもっていたのであり、借金してまでも収支が合うものとして本件立体駐車場による事業を始めたのである。その後のいわゆるバブル経済の破綻により、当初の収支計画どおりの損益にはならなかったとしても、事業概念に該当しないと考えることはできないはずである。
第三 争点に対する判断
一 争点1について(本件宅地が駐車場事業の用に供された時期はいつか。)1 (一)本件特例は、相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地は、相続人等の生活基盤の維持のために不可欠のものであること、特に事業用宅地については、雇人、取引先等事業者以外の多くの者の社会的基盤にもなり、事業を継続させる必要性が高いことなどから、その処分について相当の制約を受けるであろうことにかんがみ、必要最低限度の部分について、相続
税の課税価格の計算上減額を認めたものであると解される。
右のような本件特例の趣旨及び事業の用若しくは居住の用に供されていた宅地等と規定している本件特例の文言に照らすと、本件特例にいう事業用宅地等に該当するか否かは、相続の開始の直前において、当該宅地等が現実に事業の用に供されていたか否かという観点から判断されるべきであって、課税の公平、迅速の観点からも、一義的、明確な基準をもって判断されるべきであるから、当該宅地等が客観的、外形的に当該事業の用に供されていたことを要すると解すべきである。そして、被相続人の責に帰することのできない事由あるいは第三者の行為等の個別的事情によって右要件が欠けたとしても、本件特例の要件判断における更なる特例を予定する規定をみいだすことはできないのである。
(二) 有料駐車場は、規模(収容台数の多寡)、利用料金の定め方(利用時間の長短に応じて料金を収受する定め方や利用時間の長短にかかわらず定期的に一定額の料金を収受する定め方等)、管理方法(単に場所を提供するだけで利用者の自動車の出入りの管理をしない方法や施設の管理者を置き利用者の自動車の出入りを管理する方法等)などが各駐車場ごとに異なっており、その事業形態も千差万別であるが、どのような形態をとろうとも、駐車場設備を利用させる対価として利用客から料金を収受して収益をあげるのが駐車場事業であることからすると、駐車場事業を開始したというためには、当該駐車場が、現実に利用したかどうかは別にしても、少なくとも利用者において現実に利用できる状態になったことが必要であるというべきである。したがって、ある宅地が駐車場事業の用に供された時期がいつかの判断については、利用客の現実の利用が可能になった最初の時点、すなわち当該駐車場の営業開始時点がいつかという観点から判断すべきである。(三) そこで検討すると、前記第二の二2(一)に記載のDが本件相続開始前に行った活動は、いずれも営業開始のための準備活動であるから、それによって本件立体駐車場の営業を開始したとみることはできないし、利用客との間で利用契約を締結していたとしても、利用開始期間からの利用が現実にはできなかったのであるから、それによっても営業を開始したとみることもできない。そして、本件相続の開始前に本件立体駐車場は営業を開始しておらず、駐車場として現実に営業を開始したのは平成三年五月一五日以降であることは当事者間に争いがないから、本件宅地が駐車場事業の用に供された時期は右五月一五日以降であるといわざるを得ない。
そうすると、本件宅地は、本件相続開始の直前において、駐車場事業の用に供されていたということはできないというべきである。
2 原告らは、事業用宅地として本件特例の適用を受けるためには、必ずしも現実に事業の用に供することが必要になるわけではなく、対象となる宅地が事業の用に供し得る状態になり、事業主が当該宅地を事業の用に供するという意図を客観的に外部に明らかにすれば足りると解すべきであって、Eは、G及びDを介して、平成三年二月一日の営業開始を目指して準備活動を進めていたのであり、同日までには本件立体駐車場が完成し、同日を利用開始日とする自動車保管寄託契約を利用客との間で締結していたのであるから、本件宅地を駐車場事業の用に供しようとするEの意図は客観的に明らかになっており、同日をもって本件宅地が駐車場事業の用に供された日であるとし、また、Eの意図が本件相続の開始時までに現実化されていなかったとしても、原告らは、相続税の申告書の提出期限までには本件立体駐車場の営業を現実に開始していたのであるから、建替えの際における事業の継続性を認める本件通達六九の三-八を準用して、本件特例を適用すべきであると主張する。しかしながら、前記認定事実によれば、平成三年二月一日には、仮処分の執行によって駐車場事業の用に供することかできない状態にあったのであり、また、原告らの主張のような事業者の意図を基準にすると、その意図が客観的に外部に明らかになった時点という限定をつけたとしても、その適用範囲が不明確になることは避けられず、また、事業主がそのような意図を明らかにしたものの事業を開始しないまま相続が開始した場合には、相続人に承継されるべき生活基盤及び社会的基盤が未形成であるにもかかわらず、本件特例を適用せざるを得ないことになり、本件特例の趣旨に合致しないことは明らかであって、本件特例の要件を客観的、外形的に判断すべしとの要請にも反することとなるのである。したがって、原告らの右主張は採用できない。
また、本件通達六九の三-八は、事業場の移転又は建替えのため被相続人等の事業の用に供していた建物を取り壊すなどし、これに代わるべき建物の建築中等に相続が開始した場合に、すでに被相続人によって開始されていた事業の継続性に配慮し
た取扱いをしようとするものであり、すでに開始されていた事業がたまたま中断されたにすぎないものであって、相続人に承継されるべき生活基盤及び社会的基盤がすでに形成されていたことが前提となるから、本件のように駐車場の営業が現実には開始しておらず、それらが未形成であるといわざるを得ないような場合にまでその規定を準用することはできないというべきである。
3 原告らは、現実に事業の用に供していなかったとしても、事業の用に供されたと同一の法的評価ができる場合には、本件特例を適用すべきであって、本件立体駐車場の営業が平成三年二月一日から可能であったことを前提に、本件各業務委託契約に基づいて、DからGへ、GからEへそれぞれ売上保証金の支払がなされており、営業をしていたのと同一の法的評価をすべきであるから、本件宅地は平成三年二月一日に駐車場事業の用に供されたと主張する。
しかしながら、前述のとおり、本件特例は、課税の公平、迅速の観点から、一義的、明確な基準によってその適用要件を客観的、外形的に判断する必要があることからすれば、本件特例の適用の可否の判断は、対象となる宅地の相続開始の直前における現実の利用状態をみて判断すべきであって、本件通達六九の三-八が規定する場合のように事業の一時的な中断とみられる場合を除き、現実に事業用宅地として利用していなければ本件特例を適用することはできないというべきであるから、契約上の義務として又は損害賠償として営業利益に代わる金銭が後日授受されたとしても、本件特例を適用することはできないというべきである。したがって、原告らの右主張を採用することはできない。
4 (一)原告らは、本件各業務委託契約の性質が単なる事務の委任(準委任)に止まらず、受託者からも歩合賃料を支払うという賃貸借契約に類似した双務契約の性質を有することから、本件各業務委託契約に基づく権利・義務の発生をもって、事業の用に供した時期と解すべき旨の主張をする。
(二) たしかに、本件各業務委託契約が締結された経緯及び営業開始前の準備活動の状況は、前記第二のニ1(三)、(四)及び2(一)のとおりであり、また、本件各業務委託契約の契約条項が管理料、売上保証金額等の具体的な金額を除いては同一文言であること(甲四号証、五号証)などからすると、本件立体駐車場の運営・管理は当初からDが行うことを前提として、Eの事業が計画されたことが認められる。そして、本件各業務委託契約の契約条項によると(甲四号証、五号証)、(1)一か月当たりの管理業務の報酬として、EがGに一〇〇〇万円を、GがDに八二〇万円をそれぞれ支払うこと(各二条)、(2)売上保証金額を、Gについては初年度六億円、二年度以降各七億五〇〇〇万円と、Dについては初年度七億円、二年度以降八億五〇〇〇万円とそれぞれを定め、それを達成した場合には管理運営保証金の償却という方法で、一年当たりEがGに一億二〇〇〇万円を、Gがトリムシデイに一億円をそれぞれ支払うこと(各三条)、(3)売上額が売上保証金額を下回った場合には、DはGに、GはEにそれぞれの差額を支払うこと(各四条)、(4)目標売上金額をそれぞれ初年度一〇億円、二年度以降一二億円として、それを超えた場合には超過金額に応じて一定の金額を支払うこと(各五条)を定めており、右各条項によれば、Eは、右管理業務の報酬の支払及び管理運営保証金の償却によって、少なくとも右売上保証金額を取得することができるのであるから、右条項のみから判断すれば、Eの事業計画における自己の計算と危険は委託行為につきており、Dが受託した本件立体駐車場の運営・管理はD自身が自己の計算と危険において行っていた業務であると解する余地がある。しかしながら、(1)本件各業務委託契約の内容は、Eが第三者に賃貸する本件立体駐車場の管理業務をGが行い、Gが第三者に賃貸する本件立体駐車場の管理業務をDが行うというものであり、GからDへの契約を再委託と解しても、Eの事業は本件立体駐車場の第三者への賃貸、すなわち駐車場事業というべきであること、(2)売上保証金額を達成できなかった場合でも、やもを得ない理由があれば別途協議することになっており(各三条及び四条のただし書)、売上保証金額を達威できないことについての危険をEはなお負担していること、(3)売上保証金額に達するまではDがその危険を負担しているとしても、それを超える売上げについてはDにおいて危険を負担していないこと、(4)Jからの九三億円の借入金に係る支払利息及び管理保証料並びにGに対する管理業務の報酬の支払及び管理運営保証金の償却の合計額は、本件業務委託契約1の締結当時において、平成三年分が九億一二一一万一〇九五円、平成四年分及び平成五年分がそれぞれ一〇億八六三〇万円と見込まれており(甲四号証、乙二五号証)、前記の目標売上金額は右支払額の合計額を基準にして設足されたものと考えられることからすると、Eの事業計画におけ
る自己の計算と危険は、右支払額の合計額を超える売上げが達成できるかどうかの点にあり、その点についての危険を負担しているのはEであるから、Eの事業としてとらえるべきは、受託者であるDが行う本件立体駐車場の運営・管理行為であるというべきである。
(三) また、本件各業務委託契約をもって建物の一括賃貸借に類似する事業と解したとしても、本件宅地を本件立体駐車場における事業の用に供したというためには、委託者において当該契約の趣旨に従った業務の履行(委託の目的を達成するために本件立体駐車場を提供すること)が可能であったことが前提となるのであって、契約の締結のみをもって事業用建物の敷地である土地等を事業の用に供したことになるものではない。そして、本件においては、事後に売上保証金の授受がされたとしても、右契約の目的である駐車場事業の契約期間の始期である平成三年二月一日においてEが本件各業務委託契約の趣旨に従って本件立体駐車場を提供することができなかったことは前記認定事実のとおりであり、結局、Eが本件宅地を事業の用に供したと認めることはできない。
5 以上によれば、本件宅地がEの事業の用に供された時期を平成三年二月一日であるとする原告らの主張は失当であり、他に本件相続開始前に本件宅地がEの事業の用に供されたと認めることはできない。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件宅地に本件特例の適用はないことになる。
二 以上を前提として、本件相続に係る原告らの相続税を計算する。1 本件相続により原告らが取得した財産の価額、債務等の金額及び取得者並びにそれを基にして計算した原告らの相続税の課税価格及び相続税額の計算方法については、本件特例の適用の有無(課税価格に算入すべき本件宅地の価額)に関する部分を除き、いずれも当事者間に争いがなく、課税価格に算入すべき本件宅地の価額は、本件特例の適用がないのであるから、別表七土地の価額の明細符号12の価額欄記載の六三億七五七五万八六七五円となる。
2 以上によれば、原告らの相続税の課税価格等の明細は、別表四課税価格等の計算明細表記載のとおりとなり、課税価格は、同表(16)欄記載のとおりとなる。そして、原告らが納付すべき税額は、別表五相続税額の計算明細表及び別表六配偶者の税額軽減額の計算明細書の計算により、前記別表四〇欄記載のとおりとなる。
右金額は、いずれも本件各更正と同額であるから、本件各更正は適法であり、これに伴う本件各賦課決定も適法である。
三 結論
以上のとおりであるから、原告らの請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
別表一ないし八(省略)

トップに戻る

saiban.in